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最後の思い出に2人だけでなにかしたい。
そう思って、人気のない場所を探していたら、体育用具室に辿りついた。
体育用具室というのは、なぜこうもジメジメとして薄暗くて、人の不安を煽るのだろう。
しかし孝彦は落ち着いたもので、床に転がっているロープを足でクルクルと弄んでいる。
「それで、」
囁き声とともに、孝彦の顔がゆっくり雅人のほうを向く。
闇色の瞳が雅人をみつめる。
暗がりに溶け込むような髪、対象に白く浮かび上がる顔と肢体。
暗闇に孝彦はとても似合っている、と雅人は思った。
「ここでどうするの?」
「え、えと…」
何も考えていなかった。
「その…」
いや、本当はやりたいことがある。
ずっと、願っていたことがある。
いつか、今ではなく『いつか』叶えたいと切望していたこと。

――孝彦とキスがしたい。

それを言えば嫌われえるかもしれない。
気持ち悪いと蔑まれるかもしれない。
誰に嫌われても構わない。だけど、孝彦にだけは拒まれたくない。
それだけは、雅人には耐えられない。
しかし。
チャンスはもう、今日だけなのだ。
今を逃せば、孝彦に2度と会えないかもしれない。
それにもし、いや、ほぼ確実だが、例え白い目で見られたとしても、それで孝彦の記憶に残るのなら本望かもしれない。
それが忌まわしい記憶だとしても、孝彦の思い出に永遠に刻まれるのなら。
例え雅人にとっても忌まわしい記憶になったとしても。
今しか、ない。
唇が震える。
「あ、あのね」
顔を見れない。うつむいて、孝彦の靴をみつめる。
「き、」
心臓が痛い。
走り回って泥だらけになった、孝彦の靴。
「き、キス…したい…たか君と…」
頭の中で、血の流れる音がゴウゴウと響く。
泥だらけの、靴。
孝彦の靴。靴下。足。
「いいよ」
――声。