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雅人は恐る恐る顔を上げた。
孝彦の表情は、恥ずかしがっているようにも、困っているようにも見えた。
ただ、侮蔑の色は見られなかった。
それだけで雅人は安堵した。
「い、いいの…?」
「うん」
全く嫌じゃないのか、それとも本当は嫌なのに我慢しているのか、淡々としたその返事からは判断がつかない。
でも、いいと言われたのだ。
やるしか、ない。
逸る気持ちを抑えて、孝彦の頬にそろりと手を伸ばす。
孝彦はそれに合わせ、ゆっくりと瞼を伏せる。
睫毛がかすかに震え、その微動に誘われるように、一気に唇を合わせた。

想像していたような甘さはなかった。
カサカサと乾いた感触。
これが、孝彦の心なのだろうか。でも、それなら、なぜ許したのだろう。
「ねぇ、もう1回いい…?」
確かめたい。
もう1度すれば、もっと柔らかくて甘い味がするかもしれない。
しかし、孝彦は雅人と目を合わせようとしない。
床をみつめたまま、足で軽く土をこする。その動作が、はっきりと拒絶を示していた。
「なんで…?」
だって、いいよと言った。雅人のことを嫌ってはいないのだと思った。
「なんで……!」
呼吸が苦しい。
緊張、安堵、失望。めまぐるしい変化に心が悲鳴をあげる。
孝彦は雅人を見ようとしない。
なぜ、今になって拒むのだ。こんなに、こんなに雅人は苦しいのに。
孝彦の腕を掴み、強引に引っ張る。
目が合う。
驚愕と恐怖に見開かれたその目を見た瞬間、頭が真っ白になった。
わかっていた。
本当はずっとわかっていた。
孝彦とキスがしたかったんじゃない。
孝彦を手に入れたかったのだ。
手に入れて、雅人だけのものにしたかった。