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今日の食糧は褐色をした液体の中にさまざまな根菜類が入っているというものだった。
人間の世界で言うカレーライスによく似ていたが、僕が知っているカレーライスはこのようなにおいはしない。
灰色の糸が浮いていることもない。
仕方なく手をつけようとした僕にシュウタがそっと声をかけてきた。
「待ってよ。」
「・・・なに?」
「それ、食べるの?」
「・・・お腹空くし。」
それは他の個体に悟られないように、最低限の声で、静かに。
シュウタは空いた皿に自分の分の食糧の半分を入れると、こっちに遣した。
どうしよう、これに手をつけてもいいんだろうか。
これに手をつけたとたん、シュウタに制裁が加わることはないだろうか。
銀色のさじを手にしたまま固まってしまった。
そして僕は決断を下すことにした。
その皿をシュウタに返す。
真鍮製のひら皿を手に取った。
同時だった。
シュウタはスプーンをがしっとつかんで、皿の中身を僕の口に押し込んだ。
香辛料の香りと暖かく甘いご飯の味が口の中に広がる。
「oi shuuta! naniwoyatterunda!」
相変わらず理解のできない言葉で同室の生物が泣き声をあげる。
意味は理解できなかったが、その態度からシュウタを批難しているんであろうことはわかった。

「anntatachi chotto yameteagenasaiyo~」
中には雌の声を混じっていた。
メスの言葉は昔は何とか理解できたのだが、言っていることと行動がまったく違うために、
その解釈が誤ったことを知ったため、結局解読不能な言語になってしまった。
ほら、今も顔には月夜にかかる雲のような笑顔を浮かべている。
シュウタは僕の肩に手を置くと、そのまま僕を外へと連れ出した。
「atodeoboetokeyo!」
後ろでまた鳴き声が聞こえた。
動物たちの声が打ち寄せる灘波のように唸りをあげて猛り狂っている。
その音がどんどんと遠ざかっていく。
僕たちは崖の頂上へ上り、青い空を見た。
しばらくは風の音ばかりが聞こえた。
南のほうから緑色の匂いのする風が吹いてくる。
そうか、もうすぐこの島にも春が来るんだ。
そんなことはどうでもよく、この後の研究室での嵐を思うと、気が重くなる。
「良彦、いつまでもそうやって自分の殻篭って、つらくないの?」
辛い、辛いに決まってる。だからなんだ。もうすぐ終わりじゃないか。
「そんなことじゃ、中学行っても一緒だよ。」
「じゃあ、どうしろって言うんだよ。」
シュウタはもたれたフェンスから身を起こして、僕のほうに近寄ってきた。
「立ち向かうんだ。」
それは突き放すような冷たい言葉ではなく、何か心の芯から力づけられるような響きを秘めていた。
「僕がついてる。」

握られた手を振り解く。
「どうしてそんなに・・・そんな風にしてくれるの?」
「どうしてって、そりゃ・・・」
シュウタは僕から目をそらして、遥か下の地面を見つめた。
「僕に関わると、シュウタまで・・・」
そう、シュウタまでひどい目にあう。
シュウタは相変わらずうつむいたまま、何も言おうとはしない。
そして僕は間違いを犯してしまった、してはいけないこと。
こっちを向かせようと、シュウタの肩に手を置いた。
ものすごい勢いでそれを振り払ったシュウタの声は、ひどく興奮していた。
「yamete! bokunisawaranaide!」
シュウタの言葉も理解できなくなってしまった。
またひとりの無人島生活に逆戻りだ。
いや、少しでも何かを期待した僕が間違いだったのだろうか。
「yoshihikonisawarareruto... boku...」
そんなにいやなんだろうか、顔を真っ赤にするほど、そんなに・・・