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名前を聞いて初めて、男の人が貴族だとわかった。でもそれが何だというのだろう。
貴族だろうが平民だろうが、きっと僕の苦しみなんてわかってくれないだろうし——あいつらと同じように、僕を虐めるかもしれない。
だから名前は言いたくない。言えばきっと笑われる。あいつらみたいに青い目で見下ろして、僕を笑うに決まってる。
「……少年。私は名乗ったぞ。出来れば君の名前を教えてほしいのだが?」
男の人は困ったように笑った。……それはあいつらの笑いとは違う、なんだか大きくて優しい笑顔だった。
熱に浮かされるように、僕の咽喉が言葉を紡ぎだす。
「……僕は、ルーク……ルーク=ウェルマー、です……」
こんなに名乗るのが怖いなんて思ったのは、初めてだ。
あいつらに嫌われるのは構わない。僕だってあいつらが嫌いだし、立場が違えば僕もあいつらを虐めていたかもしれないから。
でも、なぜだか、この人には、嫌われたくない。
「そうか、ルーク……いい名だ。誇り高き騎士の名だ」
耳を疑う。
「今、何て……?」
男の人は困ったように溜息を吐くと、僕の傍までやってきて、その大きな手を僕の頭に乗せた。
「いい名だ、と言ったのだ、ルーク。君は聡明な紳士になるだろう、私が保証する」
その手がゆっくりと動く。今更になって、ああ、僕は頭を撫でられているのか、なんて事に思い当たる。

それは、何て心地の良い。

ぽたり、と雫が落ちた。……あれ?夕立かな……?
「……済まぬ、気に障ったか?」
違います、そんな短い言葉が、上手く紡げない。
その雫が自分の涙だと気付いた頃には、僕はとうとう、大声で泣きだしてしまっていた。