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つぅ、と頬を伝った涙が、ぽたぽた、ぽたぽた、足元を濡らす。
ひっくひっくと嗚咽が漏れる。
恥ずかしいかわりに、胸に溜まっていた真っ黒な靄みたいなものが晴れていく。
さらりと髪を撫でる手。
ごつごつと骨ばった、大きな男の人の手。
僕はきっとこの時、数え切れない程たくさん、測りきれない程おおきなものを貰ったのだと思う。
「……ルーク。だが、君の問題を解決するのは君自身だ。私が出張って止めろと言えば、表面上は収まるだろう。
だがそれは、根本的な解決にはなっていない。君の前に立ちはだかる壁は、君が乗り越えなければならない」
うんうん頷いてはいるけれど、その実僕は不安でいっぱいだった。
一日で、ほんの数刻の邂逅で何が変わるっていうんだろう。
それでも、この人が背中を押してくれるなら、僕はきっと、戦えそうな気がする。
「心配するな。乗り越えられぬ程高い壁ならば、叩き壊してしまえばいい。……足を肩幅に、しっかりと大地を踏み締め、分厚い石を穿て。
倒れそうになった時は、私が背中を護ろう。……ルーク、男同士の約束だ。私は神に誓おう」
この人は、どうしてこんなに僕に優しくしてくれるんだろう。
涙が、涙が、きっと止まらない。
「……どうして、僕に……?」
男の人は自分の胸をどん、と叩くと、真面目な顔で言った。
「私は偶然に感謝しよう。偶然君と知り合い、偶然君を助けたいと思い、偶然君がそれを赦してくれたのだ。
自分の力で変えられる事ならば、私は全力を尽くす。見て見ぬふりなど出来るものか」
ああ、この人は、なんて大きい——
「私はもう、自分が何も出来ぬまま、何も知らぬまま、友人が傷ついてゆく様を見るのは厭だ」
大きくて、何て脆い、笑顔。

今になって、思う。この時兄様は救われたかったのだ。
誰かを救う事を赦してほしかったのだ。
でも、そんな理由であっても、当時の僕としては——ううん、今でも構わない。
「ルーク。今日から君は私の弟だ。血縁や共有した時間は関係ない……私の我侭を許してくれ」
「…兄、様?」
そうだ、と胸を張り、「そうだ、我が弟よ。兄は不出来だが、全力で弟を護るぞ」と一言。
ああ、今度こそ僕は、とうとう声をあげて、しがみついて泣き出してしまった。