「くくく…いい月だな。狩りにふさわしい夜だ」
満月に照らされたビルの屋上に、マントを翻して何者かが降り立つ。
「さて、今宵の獲物はどいつにするかな……」
夜の闇より黒い髪、肌の色はスズランのような怪しい白さ。
何より印象的なのは、頭上の月よりも輝く金色の瞳。
にやりと笑う口からは、鋭い犬歯が伸びていた。
そこに一匹のコウモリが飛んでくる。
「マスター、ちょうどいい標的を見つけました」
「分かった。案内しろ」
マスターと呼ばれたその人物は、大空へ舞い上がろうとして……マントを何かに引っ掛けた。
「うひゃああああああああっ!?」
「ま、マスター!?」
コウモリが落ちていくマスターを大慌てで追いかける。
マスターを追い越す速さで下降し、その姿を15歳くらいの少年に変化させた。
「よっ……と!」
マスターの小さな身体を空中で受け止める。そのまま、背中の翼をはためかせてゆっくり地面に降りた。
満月に照らされたビルの屋上に、マントを翻して何者かが降り立つ。
「さて、今宵の獲物はどいつにするかな……」
夜の闇より黒い髪、肌の色はスズランのような怪しい白さ。
何より印象的なのは、頭上の月よりも輝く金色の瞳。
にやりと笑う口からは、鋭い犬歯が伸びていた。
そこに一匹のコウモリが飛んでくる。
「マスター、ちょうどいい標的を見つけました」
「分かった。案内しろ」
マスターと呼ばれたその人物は、大空へ舞い上がろうとして……マントを何かに引っ掛けた。
「うひゃああああああああっ!?」
「ま、マスター!?」
コウモリが落ちていくマスターを大慌てで追いかける。
マスターを追い越す速さで下降し、その姿を15歳くらいの少年に変化させた。
「よっ……と!」
マスターの小さな身体を空中で受け止める。そのまま、背中の翼をはためかせてゆっくり地面に降りた。
「間に合ってよかった、マスター・アルフレド」
「うううう、びっくりしたよう。ヴェスありがと」
アルフレドがヴェスを涙目で見上げた。その顔はヴェスより2,3歳年下に見える。
「びっくりしたのは俺ですよ。いくら吸血鬼でもグチャグチャのバラバラになったら蘇れない。
マスターはいつも注意力散漫だ。これじゃいつまで経っても親方様に顔向けできませんよ」
アルフレドをお姫様抱っこしたまま、ヴェスはくどくどと説教を始めた。
「わ、わかったから、そろそろ降ろして欲しいんだけど」
恥ずかしそうに身をよじらせてアルフレドが言う。
「立派な吸血鬼たるもの、気高く、すべてにそつのない振舞いを……」
しかしヴェスは抗議を無視して話し続ける。
──ショートパンツからはみ出した、ヴェスの太ももをなでさすりながら。
「常に夜の貴族にふさわしい行動を心がけて……」
なでなでなでなで。
「い、いい加減にしろっエロコウモリ!」
「んごっ!ああ、これはすまん。触り心地が良かったもので」
ヴェスはあごにアッパーをくらわされて、ようやくアルフレドを地面に降ろした。
「うううう、びっくりしたよう。ヴェスありがと」
アルフレドがヴェスを涙目で見上げた。その顔はヴェスより2,3歳年下に見える。
「びっくりしたのは俺ですよ。いくら吸血鬼でもグチャグチャのバラバラになったら蘇れない。
マスターはいつも注意力散漫だ。これじゃいつまで経っても親方様に顔向けできませんよ」
アルフレドをお姫様抱っこしたまま、ヴェスはくどくどと説教を始めた。
「わ、わかったから、そろそろ降ろして欲しいんだけど」
恥ずかしそうに身をよじらせてアルフレドが言う。
「立派な吸血鬼たるもの、気高く、すべてにそつのない振舞いを……」
しかしヴェスは抗議を無視して話し続ける。
──ショートパンツからはみ出した、ヴェスの太ももをなでさすりながら。
「常に夜の貴族にふさわしい行動を心がけて……」
なでなでなでなで。
「い、いい加減にしろっエロコウモリ!」
「んごっ!ああ、これはすまん。触り心地が良かったもので」
ヴェスはあごにアッパーをくらわされて、ようやくアルフレドを地面に降ろした。
「で、獲物は?」
「向こうの公園のほうに」
アルフレドがついていくと、人気のない公園を一人のOLが歩いていた。
「無用心だなぁ。でもま、おかげで助かるんだけど」
アルフレドはそう言ってOLの前へと飛び出した。
「だ、誰!?」
「ふふふ、汝の血を頂きに参上した。我の牙にかかることを光栄に思うがいい」
と、ポーズを決めて高らかに宣言する。
「……なあに、ボク?学芸会の練習?」
OLはまったく動じずに首をかしげた。
「は?が、学芸会?」
後ろのほうでプーッと音がする。ヴェスが吹き出したのだ。
「じゃあね、ボク。早くおうちに帰りなさいよ」
そう言ってOLは、固まったアルフレドを残して、すたすたと立ち去ってしまった。
「もーっ!学芸会じゃないーっ!」
OLの姿が見えなくなってから、アルフレドが地団太を踏んだ。
「ぷっ、くくっ……マスター、気を落とさないでください」
ヴェスが笑いをこらえながら慰める。
「そりゃこれだけ可愛かったら、コスプレにしか見えませんね。くくくっ」
「わ、笑うな、抱きつくなー!」
「あー、かわいいかわいいかわいい」
「向こうの公園のほうに」
アルフレドがついていくと、人気のない公園を一人のOLが歩いていた。
「無用心だなぁ。でもま、おかげで助かるんだけど」
アルフレドはそう言ってOLの前へと飛び出した。
「だ、誰!?」
「ふふふ、汝の血を頂きに参上した。我の牙にかかることを光栄に思うがいい」
と、ポーズを決めて高らかに宣言する。
「……なあに、ボク?学芸会の練習?」
OLはまったく動じずに首をかしげた。
「は?が、学芸会?」
後ろのほうでプーッと音がする。ヴェスが吹き出したのだ。
「じゃあね、ボク。早くおうちに帰りなさいよ」
そう言ってOLは、固まったアルフレドを残して、すたすたと立ち去ってしまった。
「もーっ!学芸会じゃないーっ!」
OLの姿が見えなくなってから、アルフレドが地団太を踏んだ。
「ぷっ、くくっ……マスター、気を落とさないでください」
ヴェスが笑いをこらえながら慰める。
「そりゃこれだけ可愛かったら、コスプレにしか見えませんね。くくくっ」
「わ、笑うな、抱きつくなー!」
「あー、かわいいかわいいかわいい」
結局、この夜、アルフレッドは一滴も血を吸えなかったのであった。