※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

龍神池の主【2】

written by 妖怪布団かぶり

洞にたどりついた時には、雨は本降りになっていた。二人で身を寄せ合って一息つく。
「そんなに濡れなくてよかった」
 と、正宗が言うと、
「濡れても構わないのだがな。むしろ中途半端なほうが気持ちが悪い」
 少年は不服そうに言って、顔にかかった髪を払った。
 その仕草が妙になまめかしく、正宗は思わず見つめてしまう。
 よくよく見ると、すっきりとした切れ長の目、形の良い鼻、百合のような白い肌、
 と垢抜けてはいないがなかなか美少年だ。
「どうかしたか?」
 正宗は慌てて池の方に目を逸らした。水面に無数の波紋が広がっている。
「あー、君さっき、変わったこと言ってたなって。木が喜ぶとかどうとか」
「ああ、比喩でなく事実だ。天の恵みに気付いて騒いでおった」
「まさか」
 正宗は、少年が冗談を言ってるのだろうと愛想笑いをした。
「人間には理解できんか」
 少年はむっとした顔をする。
「だがお前ならば……。これでどうだ」
 いきなり少年は正宗の右耳に息を吹きかけた。
「ひゃぁっ!?」
 くすぐったい感触。
 すると、急に辺りから騒々しい声が正宗の耳に飛び込んで来る。
「うめぇー、こいつはマジうめぇー!」「久しぶりだなぁ!梅雨のはしりか?」
「くぁー、たまらんね」「イヤッホゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
 あまりの喧騒に正宗は目が回りそうになった。

「うへえ、なにこの声っ!?」
 しばらくすると、やかましい声はすぅーっと消えていった。
「木々の発する喜びの気配を、お前の頭の中で訳したものだ。我の力で一時的に聞こえるようにした」
「我の力って、君は一体?」
「この池のヌシだ。今は人の姿をしているがな」
「ここのヌシって言ったら龍神……ま、まさか」
 このときになって、正宗は少年がまとう独特な空気の正体を悟った。
 神が放つ霊気。ただの人間ですら感じられる、格の違いだ。
「か、か、神様、本当にいたんだ!え、ええと、失礼なことしたり言ったり、ごめんなさいっ!
 謝りますから祟らないでくださいっ!」
「別に怒っておらぬ。祟らぬよ」
 龍神がクスリと笑う。それがまた魅力的で、正宗はポーッとなってしまった。
「正宗、お前のことは赤子の頃から知っておるよ」
「僕のことを?」
「祖父に連れられて神事に出ておったであろう?一度話してみたかった」
 それから、正宗と龍神は雨が止むまで語り合った。
「僕そろそろ帰るね。また来てもいい?」
「ああ、どうせ暇だ。ただし我のことを誰にも言うなよ。お主の祖父にもな」
「わかった。じゃあね、リュウくん」
 こうして、正宗の秘密の夏は幕を開けたのである。