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「ユキト、悪いけど終礼の後一緒に美術準備室に来てくれない?手伝って欲しいことがあるんだけど」
一緒にシュウ君とトイレ掃除をしていたら彼にそんな事を言われた。
なんだろう?皆目見当がつかない。
だけど彼の数多い友人の中でボクを選んでくれた事が何故だかとても嬉しかった。
シュウ君はボクの髪を触りながら「ダメかな?」と呟くように言った。
シュウ君は事あるごとにボクの髪にふれる。やわらかくってさわっていると落ち着くのだそうだ。
実はボクもシュウ君に髪を撫でられると心が落ち着くのでいつも特にいやがったりはしない。
「大事な用事なんだ・・・」
シュウ君は普段の強気な態度とは裏腹に不安気な目をして言った。
ボクは少し戸惑いながらいいよ、と頷いた。

シュウ君とは中学最後であるこの学年で初めて同じクラスになった。
ボクは対人恐怖症と言っていいくらいの極端な人見知りだった。
だから知っている人の誰もいなかった新しいクラスで
1学期のほとんどは話相手を作ることすらできず孤立していた。
新一年生に間違われるほど小柄なのとこの性格がわざわいしたのか・・・・いじめも少しだけだけどあった。

そんなボクがシュウ君と仲良くなったのは2学期の中頃、掃除場所の班を新しく変えたとき
くじで偶然ボクとシュウ君が男子トイレの担当になったからだ。
シュウ君がボクと同じ場所のくじを引いたとき、彼の友達はボクに聞こえるように
わざとらしく大きな声でアイツと一緒だなんてついてないななんて散々冷やかしていた。
ボクは憂鬱になって俯いた。

だからそのとき当然掃除の時間に彼が真面目にやってくるなんて思っていなかった。
どちらかと言えば不良っぽいグループに属していたし、もともと掃除なんてさぼって
友達と廊下をほっつき歩いているようなタイプだったはずだからだ。
ところがシュウ君はその日、きちんとトイレまでやってきた。
それだけじゃなくボクと一緒に掃除をしてくれた。
「あ・・・・ありがとう・・・」 
嬉しかった。実はいままでボクと同じ班になった人でさぼらず真面目にやってくれた人は1人としていなかった。
シュウ君はそれを聞くと一瞬不思議な顔をした後
「・・・馬鹿かお前!?ただ掃除してるだけだろうが そんなんだから馬鹿にされるんだよ」
そうボクに怒った。 
「ご・・・ごめんなさい・・・」
「だからあやまるなって・・・俺は別にアイツラみたいにからかったりしないからさ・・・」
不意に目があった。シュウ君はいつのまにかボクのすぐ近くに立っていた。ボクより頭1つ分背が高い。
その顔は凛々しくてボクよりもずっと大人っぽい。かっこいいと思った。
ボクを見ている目はとても優しくて・・・ボクの全部を包みこんでくれるような気がした。
「うん ありがとう・・・」
そっと目をそらして掃除を再開した。何故かそのときお腹の奥のほうに不思議な熱を感じた気がした。

その日以来ボクのシュウ君に対する見方が変わった。勝手なイメージで怖い人だと決め付けていた自分を恥ずかしく思った。
いや怖い人には変わりないけれど・・・今でもよくボクを怒るし・・・・
でもそれは他のクラスメートがボクに向けるような軽蔑に満ちたものじゃなくて、むしろもっと暖かくって・・・・
シュウ君に怒られると申し訳なさでいっぱいになるのと同時に何故だかいつも心がほっとした。

それからは毎日2人一緒に掃除をした。最初はぎこちなかったけどすぐに打ち解けた。ボクにとってそれは奇跡だった。
短い時間だけどその間シュウ君はボクの話相手になってくれた。
ボクは昨日見たテレビの事や好きなゲームの事、それに高校受験の事なんかを話した。
シュウ君は好きな歌手や、友達の事、部活動(美術部らしい)なんかについて話してくれた。
極度な話下手の自分がシュウ君とだけ自然に喋れる事が不思議だった。
ほんの10分や15分、誰もがしている当たり前の会話。だけどボクにとってなによりも大切な時間。