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覚悟や――決意、のようなものを込めてその部屋の前に立った。
いつものように一度だけ深呼吸。管理された清潔さや、新緑の萌える香りと相反する薬品の臭いを体に浸透させる。
これは俺なりの儀式だ。この扉の向こう、閉ざされた世界で毎日俺を待ち続けるアイツに会う為の、礼儀でもある。
「うし、行くか」
克己の言葉を呟いて、重く分厚い引き戸の取っ手を掴んだ。
…ひんやりした感触と、蛍光灯を受けて鋭く輝くそれが、俺が今日初めての来訪者であることを無言で告げた。
(いつも、ひとりぼっちだから、ね。本当に嬉しいんだよ)
静かな廊下にアイツの声が聞こえたような気がして、俺は扉を開け放った。

顔には微笑を。哀しみはこの胸に。
これは、たった二人きりで常識や道徳に立ち向かった兄弟の思い出、その最後のページ。