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「おう、邪魔するぞ」
白で統一された殺風景な部屋。その中にあって一際白いベッドに座っているそいつは、俺の姿を確認すると、
一瞬だけその端正な顔に喜色を浮かべたが、すぐに頬を膨らませ、すねた声を出した。
「兄ちゃんの遅刻癖、いつになったら直るんだろうね。約束守ってよ。三十分も遅刻だよ?」
ぷんぷんと両腕を振って抗議している。俺は何だかそれがたまらなく可笑しく見えてしまって、
くっくっと肩を震わせながらそいつの頭に手を置いた。そのまま無言で、梳くように髪を撫でる。
「ちょ・・・こら!ごまかさないでよー!・・・あ・・・・・・」
威勢のいい声が艶やかな色を帯びるのを確認して、俺は声をかけた。

「調子はどうかね、我が弟よ」
「うん、元気。今日は昨日より元気だよ。だって僕は毎日、兄ちゃんに元気を貰ってるからね」
喜色を満面に浮かべて、心の底からの笑顔で俺を見上げる。何だか照れくさくて、ぶっきらぼうに返答した後、
照れ隠しのつもりで四角い窓から見える空を仰いだ。
「・・・それに、その・・・昨日は、兄ちゃん、たくさん、してくれたし・・・」
ああ、恥ずかしさと興奮で脳が沸騰しそうだ。こういう台詞を天然で吐き出すのだから、全くこいつは恐ろしい。
微妙な静寂が部屋を支配する。俺達はお互いに顔を赤らめたまま、そっぽを向いてしまっていた。

突然、弟の頭に乗せていた手に柔らかなものが触れる。・・・弟の手だ。
(――なんて、冷たい――)
鎌首を擡げる悲観を打ち払うように、俺はその手を強く握る。
ヴァイオリニストを目指していた弟の手は、細く、柔らかく、同性の俺が見ても(この言い方には何の説得力もないか)美しい。