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知也(1)

著者不明

「あ……兄貴、何するんだよ……」



 それは冬の終わりのことだ。
 まだ俺が高校生で、大学受験を控えて腐っていた頃、俺は一つの罪を犯した……。
 まだ当時小学生だった弟は生意気盛りで、
 受験に神経質になっている俺は小馬鹿にされる、
 そんな日々がすぎていた。

「またD判定なんだって~? 兄貴そんなんじゃ大学落ちるんじゃねーの?」

 模試の結果を持って笑う弟は、俺をからかうことに喜びを感じているようだった。
 成績優秀なあいつにしてみれば、受験だ何だと苛立っている俺が可笑しくて仕方ないのだろう。
 けれど、俺にしてみれば、そんな弟の嘲り一つも今は酷い苛立ちに変わっていった。

「……うるせーよ」
「はーあ。俺の方が兄貴よりなーんでもできるのになー。
 兄貴は私立の大学行くんだろ?そのせいで俺は中学公立なんだぜ?」


「……」

 俺のことを害虫か何かとしか思っていない弟。
 そんな奴に一泡吹かせてやりたい。
 受験のストレスも積もっていた俺は、自然とそう考えるようになっていた。

「おい、お前、いい加減にしろよ」

 胸ぐらを掴みあげると、一瞬あいつの目が驚きに見張られた。
 けれどもそれはほんの一瞬の迷いであったかのように、
 すぐいつもの生意気な光がその目に戻る。

「な……なんだよ。兄貴の癖に、粋がってんじゃねーよ」

 この生意気な光を恐怖に染められたら、どんなに気持ちがいいのだろう。
 この強気な口に、許しを請われたら、どんなに気持ちがいいのだろう。
 そう思うと、もう、止める事なんてできなかった。


 俺は、胸ぐらを掴んでいた手を離し、弟をにらみつけた。
 弟は俺なんか怖くないとでも言うように、その目でにらみ返してくる。

 もう、どうとでもなれ。
 俺は弟の体を部屋に引きずり込んで、ドアに鍵を掛けた。

「何のつもりだよ」

 弟も、普段と違う俺の様子に気づいたのか、その声にいつもの力は無い。
 少し怯えるように俺から距離を取って、こちらを睨んでいる。
 殴られるとでも思っているのだろう、
 その小さな体が強ばっているのが分かった。

 殴るなんて、そんな簡単に済ませるもんか。
 暴力で屈させようとしたところで、ずる賢いこいつは、母親にでもいいつけるだろう。
 それならば、こいつが絶対誰にも言えないような方法で、懲らしめてやるだけだ。