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直輝(1)

著者不詳

俺はあいつの事が大嫌いだった。
明確な理由なんてない。見てるだけで無性に腹が立つのだ。
きっと他の奴の目には、明るくて元気があって、勉強ができてスポーツができて、
おまけに顔が良くて人懐っこくて、誰とでも仲良くなれる“良い奴”に見えるんだろうが、
そいつらは知らない。あの笑顔の正体を。
あの笑顔は、いつも権力者の下でへいへい命令を聞くだけの臆病者がするような媚びた笑顔とは違う。
ひとりでいる事の苦痛を知っていて、それをひどく恐れている者の目だ。
あいつはかなり無理して、苦しみながら、助けを求めながら、それでもなんとか明るいキャラを作ってる。
心の底から笑って、何かを忘れようとしている。
「気に入らねえ」俺は噛んでいたガムをぺっと吐き出し、ついでに毒も吐き捨てる。
俺の後ろ盾を得る事でしか身を守る事のできない取り巻きの一人が、びくっと肩をならした。
お前の事じゃねえよ。とからっぽになったジュースの缶を投げつけ、それを捨てに行かせる。
「どうしたんだよ、直輝。さっきから機嫌悪いじゃん」
そういや俺にタメで話せる奴が一人いたのを忘れてた。
自分じゃ何もできないからって入学式からずっと金魚の糞みたいにくっついてきて、
今じゃ俺の側近を名乗って、取り巻き達を好き放題使ってる、返事するのも面倒なくらい、どうでもいい奴だ。
どうせなら無視してやっても良かったのだが、軽いイジメの一環として、フェンス越しの校庭を適当に指差してやった。
案の定そいつは、校庭の方に頭を傾けただけで、何を指差したのかは悟る事ができなかったようだ。顔をしかめて必死に何かを探そうとしている。
最初はその間抜けな姿に笑いを覚えたが、しばらく見ていると非常に痛々しく思えてきて、
ほら、あれだよあれと、いつもこの時間帯にサッカーやってる連中を指差した。


ちょうどボールをドリブルしながら、華麗に敵チームの防衛線を突破しているあいつが見えた。
成長期でどんどん背が伸びてる他の生徒に比べると、やたら小さい。
もっとも、だからこそ、あんなすばしっこいプレイができるんだろうけど…。
「あー、あのチビか。確かに最近びみょーに調子ん乗ってるよな」
そういう意味じゃねえっつーの。なんてあからさまに毒づいてみたものの、俺もそんなに背が高い方ではない。
どちらかと言えばこいつの言う“チビ”に分類されるだろう。
けど、あいつよりかは幾分か大きいし、女にもモテる。
髪も黄色に染めて逆立てている所為か、強く見られてるだろう。
こうして常に取り巻き達が控えているのがその証拠と言える。
もちろん毛を逆立てて自分を大きく見せようとする猫に、実際の喧嘩で勝ち目があるのかどうかはわからないが、
決してハッタリだけでこんな髪にしたわけじゃないのは事実だ。
これは自分が孤高であることの証、世間に対する反逆の証であり、
人なんて絶対に信用したりしない、お前ら全員敵に回しても自分の意思だけは曲げない、という強い意志の下に存在している。
だから理由はどうであれ、あいつみたいに他人に深く関わろうする奴を見てると吐き気がするほどムカツク。
もっとも、幸いにも俺は、男に屈辱を味わわせる最強の術を知っているのだが。