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<p><strong>奈落の城 一柳和、2度目の受難</strong></p>
<p>part42-13~38,42,45,46</p>
<hr /><dl><dt>13 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:28:01
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>奈落の城 一柳和、二度目の受難。<br /><br />
記号の見方<br />
N-○…主人公視点で書かれている部分。<br />
S-○…ゲーム内に出てくる各種資料。<br />
T-○…章タイトル。<br />
Y-○…ゲームについての解説。<br />
○-f…自由時間内で起こす行動。<br />
EX-○…失敗パターン。本来なら起こりえないが、可能性の一つとして書いておく。<br /><br />
S-000<br />
ああ、なんということに気付いてしまったのだろう。<br />
あれは恐らく、悪魔を――いや、全てを完全に封じる唯一の方法に違いない。<br />
だが、誰がそれを行えるというのだ?<br />
ルロイの血に列なる者たちの、一体誰が?<br />
私には出来ぬ!耐え切れず、鐘が鳴り響くに違いない!<br />
実行できぬ封印。それが初代伯爵の残した最期の呪いなのか。<br />
――呪いは死なず。(絶筆)<br /><br />
Y-01<br />
このゲームは本格推理アドベンチャーです。<br />
あなたは一柳和(いちやなぎ なごむ)になって、謎を解くんだよ。<br />
このゲーム、実はいくつかのルートに分かれてて、1回のプレイでは全てを把握することはできないんだ。<br />
でも、頑張って1本のルートで、ほとんどの要素が入るように書いてるんだって。<br />
だから、ゲーム内の実際の展開とは違うところがあるから、そこはご了承ください、だって。<br />
それでは、いってみよー♪<br /><br />
T-1<br />
Introitus <新しき歌、うたえ> (12月27日)<br /><br />
N-001<br />
窓をたくさんの木々が通り過ぎていく。車はいつしか山道に入っていた。<br />
僕の携帯電話は海外でも使える機種だけど、山に来たら圏外になってた。<br />
山と言えば、あの事件を思い出してしまう。今から数ヶ月前、<br />
降り続く雨に閉じ込められた館での事件。(「雨格子の館」参照)<br />
左の方を見ると、洋服を着た日織(ひおり)がハンドルを握っているのが見える。左ハンドルだから。<br />
「心配なんですかい?大丈夫、あんな酷いことはそうそう起こりませんって。<br />
あ、でも、そういう事件を呼びやすい体質ってのは、あるかも知れませんね」<br />
日織は僕をからかう。そんな、縁起でもない。<br />
あ、言い忘れてた。ここはヨーロッパ。ドイツ語圏のとある小国。<br />
なんでこんな所に来ているのかというと、日織の友達だという伯爵様が、<br />
別荘のお城で休暇を過ごすというので、招待されたからなのだ。伯爵様、と言っても、まだ19歳らしいけど。<br />
旅費やその他の経費も持ってくれるというし。<br />
その伯爵様は、年が近い友達があんまりいないというので、日織は僕を誘ってくれたらしい。<br /><br /><br /></dd>
<dt>14 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:28:34
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-002<br />
「見えてきましたぜ」<br />
木々の上に突き出た尖塔が見える。車はそれからしばらく走って、止まった。<br />
降りてみてびっくりする。<br />
目の前には崖があって、霧が漂っている谷が広がっていた。<br />
谷には一本の吊り橋が架けてあった。その先は尖塔に繋がっていた。<br />
その塔こそが、城に入る唯一の入り口だという。<br />
ということは、あの吊り橋を渡らなければいけないということで…。<br />
日織に手を引かれながら、おっかなびっくり吊り橋を渡って、塔の中へ入る。<br />
上を見ると大小様々な鐘が吊り下げられていた。<br />
「その鐘、今は鳴らし方が解らなくなっているらしいです」<br />
下へ下へと続く螺旋階段を降りて、やっと玄関に着いた。<br />
この城は、居住部分が全て地下にあって、地上にはあの塔しか出ていないそうだ。<br />
ここはもう地下、しかも谷底かと思うと不思議な気分だ。<br /><br />
N-003<br />
玄関ホールには執事さんがいた。あの時と違って、これは本物の執事さんだ。<br />
本物だけあって、やっぱり所作とかが、いちいちキマっている。<br />
緊張しながら待っていると、伯爵様がやってきた。<br />
「やあ、待たせたね」<br />
いきなり日本語で話し掛けられた。この人がアルノルト。<br />
明らかに住んでいる世界が違うと感じられる空気を身に纏っていた。<br />
一柳和です、とぎこちなく自己紹介する。<br />
「そんなに固くならないでくれよ。日織の友人なら僕の友人だ。呼び方もアルでいいよ」<br />
はぁ。なんだか気が抜けてしまった。<br />
「ディーター、この方たちを応接室に」<br />
「仰せの通りに、グラーフ」<br />
グラーフとはドイツ語で伯爵のことらしい。<br /><br />
N-004<br />
応接室でしばらく休んだあと、部屋に荷物を置きに行く。<br />
荷物を置いて部屋を出ると、大柄な黒人男性の姿が見えた。<br />
その横に、小柄なメイドさんがいる。<br />
男性はジョージという、アルのSPなのだそうだ。<br />
そしてメイドさんは千絵子さんという、日本人。<br />
ジョージさんは日本語が解るらしく、日本語で話し掛けると反応がある。<br />
でも口をまったく開かない。そこを千絵子さんが翻訳して教えてくれる。<br />
なんとも奇妙ではある。<br />
応接室に戻ると、日織はいつもの着流しに着替えていた。<br />
もう一人のメイドさん、ネリーさんがお茶を出してくれた。<br />
ネリーさんは日本語を勉強したてだそうで、片言しか話せないが、<br />
それでもなんとか意味は解る。<br /><br /><br /></dd>
<dt>15 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:29:32
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-005<br />
アルと少し話をする。<br />
執事さんとは少し年が離れているけど、子供の頃からいつも一緒にいて、兄弟のような仲なのだそうだ。<br />
メイドだったという執事さんのお母さんと、アルのお母さんもまた、仲がよかったとのこと。<br />
16年前のある日、アルと執事さん、そしてそれぞれのお母さんたちと4人で外出したところ、<br />
事故に遭ってしまった。アルと執事さんは助かったが、お母さんたち2人は、そのとき亡くなったとのこと。<br />
話題を変えるつもりで、アルの正式な名前を聞いてみた。やっぱり長ったらしい名前だった。<br />
とても覚えられない。<br />
「普段は縮めて、『アルノルト・フォン・ルロイ』と名乗っているよ」<br />
ルロイという名前には聞き覚えがあった。確か、あの忌まわしい館(雨格子の館)を建てた人だ。<br />
あの館は、どこかに建てられたのを日本に移設したのだというが、まさか…。<br />
「そうだよ、和。きみをこの夏、さんざんな目に合わせたルロイ伯爵は、僕の先祖だ」<br />
この城も、あの館も、初代ルロイ伯爵が建てたものらしい。<br />
アルは僕に謝った。あわてて僕は、アルのせいじゃないと言った。<br />
だって、いろいろあったけど、僕はこうして無事にいるわけだし。<br /><br />
N-006<br />
応接室に、招待客が次々とやってくる。<br />
まず、アルの血の繋がらない従兄弟だという、ザックさん。<br />
アルの主治医だという、白衣を着た女医のクレア先生。クレア先生の叔父のヴィンス教授。<br />
オカルト好きだという教授は、興奮した様子で僕に話す。<br />
「この城は、初代ルロイ伯爵が、とある少年を幽閉するために建てたと言われておるのだよ」<br />
初代ルロイ伯爵は黒魔術師だったが、悪魔を呼び出す儀式に失敗して、<br />
少年に悪魔が乗り移ってしまったという。その少年をこの城に幽閉したのだという。<br />
「つまりここは、生きたまま悪魔を埋葬した城、というわけだ」<br />
そして、その少年の母親が、夜な夜な幽霊となって歩き回るという。<br />
また僕の苦手な話を…。クレア先生が止めてくれなかったら、どうなっていたことか。<br /><br />
N-007<br />
トイレに行くために応接室から出て、そして応接室に帰ろうとしたけど、<br />
廊下には似たようなドアが並んでいて、どれが応接室だか解らなくなってしまった。<br />
何故か間違えて、玄関の方に来てしまっていた。困っていると、日織が探しに来てくれた。<br />
日織の後ろから誰かやってくる。<br />
腰が9度近く曲がっていて杖をついている、もじゃもじゃの髪と鬚のおじいさんだ。<br />
「あれは、アルが呼んだっていう、祈祷師のハユツクさんですね」<br />
日織がそう説明した。ハユツクさんは僕たちに気がついたようだけど、何も言わずに、<br />
ドアのひとつに入っていった。そこはサロンのドアだという。<br /><br />
N-008<br />
日織から、迷わないようにと、見取り図を渡された。<br />
この城は、地下1階に玄関と応接室や食堂、そして使用人の部屋があり、<br />
地下2階はアルの部屋や客間、そして地下3階には礼拝堂がある。<br />
それからしばらくたった後、最後の客が来た。気難しそうな男性だった。<br />
日本人の、三笠(みかさ)さん。日本人の、アルのおばあさんの親戚だ。<br />
三笠さんは、呼ばれたメンツがおかしいだろ、などとアルに文句を言っている。<br />
全員揃ったので夕食になった。皆は食堂に集まった。<br />
ちなみに、ジョージさんとハユツクさんは別室で食べるというので、食堂にはいなかった。<br /><br /><br /></dd>
<dt>16 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:31:31
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-009<br />
この城にいる人たちを纏めてみる。あとで手帳に書いておこう。<br />
アル…アルノルト・フォン・ルロイ。19歳。伯爵家26代当主。<br />
執事さん…ティーロ(ディートリヒ)。アルは「ディーター」と呼ぶ。27歳。アルの執事。<br />
ザックさん…イザーク・フォン・ルロイ。24歳。日本人とのハーフ。絹也(きぬや)という和名がある。<br />
三笠さん…三笠尉之(やすゆき)。36歳。<br />
教授…ヴィンス(ヴィンセント)。50歳。歴史学者でオカルト大好き。<br />
クレア先生…クラリッサ。27歳。アルの主治医で教授の姪。<br />
ジョージさん…33歳。アルの護衛。<br />
千絵子さん…中居千絵子。21歳。アルの家のメイド。所謂ドジっ子。<br />
ネリーさん…コルネーリア。18歳。アルの家のメイド。<br />
ハユツクさん…出身も年齢も不明。アルが呼んだという祈祷師。<br />
皆、日本人だったり、日本に縁があって何回も日本に行ったことがあったり、<br />
日本語を勉強していたりして、全員日本語が通じる。だから、日本語で話している。<br />
僕も英語だったら読めるし話せるけど、ドイツ語はさっぱりだもんな。そして、一応、僕たちも書いておこう。<br />
僕…一柳和。21歳。大学生。極度の怖がり。<br />
日織…高遠日織。26歳。売れない役者。<br /><br />
N-010<br />
食事が済んで、皆は応接間で食後のお茶を飲む。そのとき、突然、停電になった。<br />
「怨念が強くなってきておるのう。おお、何かが城を彷徨うておる…」<br />
唐突に声が響き渡った。<br />
しばらくして、電気がついた。見たところ、さっきと変わったところはなさそうだ。<br />
クレア先生は、さっきの怨念がどうのと言っていた声は、ハユツクさんの声に似ていると言うが、自信がないと言う。<br /><br />
N-011<br />
三々五々、皆は自室に引き上げていく。日織は、僕に話しておきたいことがあると言うので、<br />
日織の部屋へ行った。<br />
日織の部屋は、僕の部屋よりも広い。奥にはウォークイン・クロゼットがある。<br />
「これから話すことは、他言無用でお願いしますぜ」<br />
そう言って日織は話し始めた。<br />
最近、アルの所に脅迫状が届くという事件があったという。<br />
その脅迫状には、アルは伯爵に相応しくないとか、そんな内容が書いてあったそうだ。<br />
伯爵に相応しく無いと言えば、思い当たる節がある。<br />
先々代、つまりアルのおじいちゃんの正妻は、絹子(きぬこ)という日本人だそうだが、<br />
先々代と絹子さんの間には子供ができなかったという。<br />
そこで、日本人である、ザックさんのお父さんが養子になった。<br />
ザックさんの和名、絹也は絹子さんから一字貰ったそうだ。<br />
だがそんな矢先、先々代のお妾さんが息子を、つまりアルのお父さんを産んだので、<br />
ザックのお父さんは爵位を継ぐことはなかった。<br />
妾腹の子の息子が爵位を継ぐのは相応しくない、と。そういうことかもしれない、とのこと。<br />
この件は公表せずに、秘密裏に解決したいとのことだ。<br />
「何か、犯人を見つける、いい方法、思いつきません?」<br />
日織はにやにやしながら僕に言う。ちょっと待ってよ。<br />
「いや、思いついたらでいいんで」<br />
何を期待しているんだよ。期待されても無理だからね。<br /><br /><br /><br /></dd>
<dt>17 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:33:28
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>T-2<br />
Kyrie <主よ、憐れみたまえ> (12月28日)<br /><br />
N-012<br />
目を覚ましてすぐ、腕時計を確認する。もうこんな時間か。<br />
地下なんだから当たり前だけど、窓も無いし、時間の感覚がおかしくなってしまう。<br />
食堂に行って遅い朝食をとる。千絵子さんに遅いと叱られてしまった。<br />
その後、応接室でくつろいでいると、食堂の方から女性の悲鳴が聞こえてきた。<br />
行ってみると、ネリーさんが立ちすくんでいた。<br />
食堂の白いテーブルクロスに、赤いシミが広がっているのが見えた。<br />
側にワインの瓶が倒れているから、きっと赤ワインがこぼれたのだろう。<br />
ネリーさんに聞いてみると、食堂には誰もいなかったのに、ひとりでに瓶が倒れたということだ。<br />
食堂内を一通り見てみる。ワインの瓶は一本しかないのに、コルクは6本も落ちている。<br />
それに、食堂の四隅にそれぞれ置いてある彫像は、一体だけ、中身が空洞になっていた。<br />
洗濯が大変だ、と千絵子さんは文句を言いつつ、テーブルクロスを取り換えにかかった。<br /><br />
N-013<br />
連鎖するように、他の問題が発生した。ジョージさんが今日になって行方不明になったという。<br />
最後に会った人は、昨晩会って、それ以来見かけてないと言う。<br />
ジョージさんがいそうなところや、普段は入らない、サロンや礼拝堂も探してみるが、やっぱりいない。<br /><br />
N-014<br />
執事さんに呼ばれて、皆は制御室に集まった。<br />
あの吊り橋を映している、防犯カメラの映像がおかしいと言う。<br />
モニターに映っているのは、落された吊り橋の映像。<br />
ちょっと吊り橋を確認してきます、と日織が玄関から出て行った。<br />
僕と皆はモニターをじっと見守る。日織が塔の上まで登ったら、姿が映るはずだ。<br />
だが、どれだけ待っても日織の姿は見えなかった。<br />
慌てた僕は玄関に行って、外に出る扉を開けようとするが――鍵が閉まっている。<br />
執事さんが持っている鍵で開けようとしたが、細工がされているらしく、開かなかった。<br />
ちなみに、この城には電話はない。橋が落ちた以上、外へ行ける見込みも、助けを呼ぶ見込みもなくなった。<br />
アルは、一週間経って帰らなければ、異常を感じて助けが来るから心配は無い、と言うけど、でも…。<br /><br />
N-015<br />
ジョージさんに続いて、日織までいなくなるなんて…。<br />
応接室に集まった皆に不安が広がっていく。<br />
だけど、アルは毅然としている。<br />
「だって、和は名探偵なんでしょ?」<br />
アルはそんなことを言う。うわっ。日織から何を吹き込まれたんだ…。<br />
「犯人が誰だろうと、自室に引っ込んでりゃ大丈夫だろ?」<br />
ザックさんはそう言う。とりあえず、晩御飯のときに応接室に集まることにして、解散となった。<br />
僕も自室に戻る。<br />
…こんなとき、どうしたんだっけ?<br />
あのときは、日織と相談しながらいろいろやってたけど。<br />
あのとき、雨が降り続いた館にいたときは…。<br />
ああ、駄目だ。考えてるだけじゃ。とにかく、行こう。どこかに。<br /><br /><br /></dd>
<dt>18 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:34:07
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-016-f<br />
食堂で、ワインの瓶が倒れた件を皆に一通り聞いて、情報を整理してみる。<br />
こうしてみると、だいたい解るな。犯人は、食堂に誰もいない数分間を狙って、やっている。<br /><br />
N-017-f<br />
物置に、謎の紙切れを見つける。ずいぶん古いみたいだ。でも、ドイツ語で書いてあるので読めない。<br />
ドイツ語が解る人に見せて訳してもらったら、何かの詩みたいだった。<br /><br />
N-018<br />
調査を切り上げて、応接室に行く。皆が応接室に集まった頃、大音量で音楽が鳴り響いた。<br />
どうやらアトリエの方から聞こえてくる。教授が、この曲は「霧と月の宴」という名前だと教えてくれた。<br />
皆がアトリエに駆けつける頃には、音楽は止んでいた。皆が見ている視線の先、そこには、<br />
鍵盤ハーモニカが置かれていた。なんか懐かしい。どこかで聞いたような音色だと思ったけど、これか。<br />
ピアニカとかメロディオンとかとも呼ばれるけど、それは商標なので鍵盤ハーモニカと呼ぶことにするけど。<br />
とにかく、鍵盤ハーモニカなんて間抜けだ。<br /><br />
N-019<br />
今度は宝物庫で何か見つかったらしい。地下2階の隅の宝物庫は、高そうなものがたくさんあるところだ。<br />
床に、布に書かれた魔法陣が置いてあった。<br />
教授は、この魔法陣は悪魔を呼び出すものだとかなんとか喚いている。<br />
魔法陣はそのまま触らないようにして、宝物庫を出た。<br /><br />
N-020<br />
三笠さんに、話があるから来いと言われたので、三笠さんの部屋へ。<br />
いきなり、この城の見取り図を渡された。しかも、三笠さんが手書きしたものらしい。<br />
あれ?昨日、日織から貰ったのと違う…。廊下の長さも微妙に違うし、それに、なんだ、この隙間?<br />
三笠さんは、この城の実際の構造は見取り図と違うことに気付いたので、<br />
実際に調査してこれを書いたのだという。いつの間にこんなことを…。<br />
「続きはお前がやれ。俺は飽きた。…お前、おかしいとは思わなかったのか?<br />
召使も少なすぎる上に、招待客は仲良しで固めてやがる」<br />
鋭い。言われてみればそうだ。もしかして、と思って、聞いてみた。<br />
三笠さんは、日本では、お仕事、何されてるんですか?<br />
「…探偵」<br />
えっ?本職?<br />
「だからどうした。探偵の上に付くのは『私立』だぞ、『名』じゃない」<br />
それなら、なんで僕にやれなんて言うんですか。<br />
「仮にも他人から名探偵と呼ばれてるなら、泣き言を抜かすな、馬鹿者!」<br />
叱られてしまった…。<br /><br />
N-021<br />
三笠さんの部屋を出て廊下を歩いていると、<br />
ザックさんとネリーさんが親しげに、ドイツ語で何か話しているのに出くわした。<br />
ネリーさんには恋人がいるとか聞いてたけど、もしかして…?<br />
ふいにネリーさんは何かを思い出したらしく、ドイツ語で何か言った後、慌てて去っていった。<br />
「ハハッ。サロンに掃除用具を置きっぱなしにしてたってさ。かわいいだろ。オレの、だからな。<br />
手ぇ出したら容赦しないからな」<br />
解ってますって。<br /><br /><br /></dd>
<dt>19 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:34:55
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-022<br />
ネリーさんが掃除用具を片付けに行ったサロンから悲鳴が聞こえた。<br />
行ってみると、奥のほうに何か白いものが見える。やっぱり、あれなのかな。<br />
ネリーさんに、クレア先生を呼ぶように言ってから、サロンの奥へ。<br />
サロンはだだっ広い部屋だ。舞踏会をやったりするらしい。<br />
奥の方に簡易な舞台がある。その上に動かなくなったジョージさんがいた。<br />
全身を白い布で巻かれている。胸には刃物が突き立っていて、その周りには血が滲んでいる。<br />
足はひざまずくように折り曲げられ、手は胸の前で祈るように組み合わされている。<br />
余りにも異様な光景。あの夏のことを思い出してしまう。<br />
これは…やっぱり、見立て殺人、なのだろうか。<br />
クレア先生と三笠さんが来た。三笠さんが近付こうとしたけど、<br />
クレア先生は触らないで、と三笠さんを制して、ジョージさんの首筋に指を当てて脈をとった。<br />
そして、先生は首を横に振った。<br />
アルや執事さんたちも駆けつけてきた。現場はそのままにすることにして、執事さんがサロンに鍵をかけた。<br /><br />
N-023<br />
応接室に集められた皆に話を聞く。肩を震わせているネリーさんに、ザックさんが付き添っている。<br />
しばしの沈黙が訪れたあと、アルが口を開く。<br />
「古来、ルロイ家に仇なす者は、ことごとく、逆に災いが降りかかり、変死したそうだから、<br />
呪われた血も、城も、全てを受け継いだこの僕に仇をなしたからには、後悔してもらおう」<br />
アルの目には、恐ろしいほど壮絶な笑みが浮かんでいた。<br />
それを聞いたネリーさんはすっかり怖がってしまった。ザックさんも一緒に応接室を出て行った。<br />
少し経つと、アルはいつものアルに戻っていた。怖がらせすぎちゃったかな、と言って反省している。<br />
その日はそれで解散となった。<br /><br />
N-024<br />
寝る前に、日織の部屋に入ってみた。もしかして、帰ってきてるかも、と思ったけど、<br />
当然のことながら誰もいない。<br />
ふと見ると、書き物机の上にあるノートパソコンの電源が入っている。<br />
画面には次のような文章が表示されていた。<br /><br />
S-001 (日織からのメッセージ)<br />
なごさんへ。<br />
これを読んでるってことは、俺と話が出来ない状況になってるんじゃねぇかと思います。<br />
俺のことは後回しでいいですから、<br />
今、目の前にある問題をなんとかしてやって下さい。<br />
それはたぶん、なごさんにしか出来ないことなんじゃないかと思うんです。<br />
なごさんは名探偵なんですから。それでは、ご武運を。 日織<br />
追伸:昼でも暗くなることはあるんです。あんまり、焦りなさんな。<br /><br />
N-025<br />
何が、ご武運を、だ。馬鹿!<br />
…腹を立ててもしょうがない。しばらく、気持ちが落ち着くまで待ってから、<br />
パソコンの電源を落して、日織の部屋を出た。<br /><br /><br /></dd>
<dt>20 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:36:26
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-026<br />
廊下に出ると、ハユツクさんがいた。<br />
突き当たりに置いてある柱時計に鍵を差し込んで、蓋を開けて何かしている。<br />
僕に見つかったのに気付くと、ハユツクさんは作業をやめて、鍵束をひっこめた。<br />
そうだ、気になってた、あのことを聞いてみるか。<br />
ハユツクさんの出身地はどこなのかと聞いてみたら、意外にも日本だという。<br />
「ハユツクは、漢字では、『蝕み(はみ)』、『尽きる』と書く」<br />
はむ?蝕む(むしばむ)、とか、月蝕(げっしょく)とかの?<br />
「左様」<br />
ハユツクさんは、自室に引き上げていった。<br />
僕はハユツクさんの言ったことを考えてみた。月食、じゃなくて月蝕か。<br />
ん、これは、もしかして…。まぁいいや。<br />
とにかく、柱時計に何かあるらしいことは解った。鍵があれば開くのか。明日、聞いてみよう。<br /><br />
N-027<br />
部屋に帰って、ベッドに横になったが眠れない。<br />
突然、ドアをノックする音が聞こえた。飛び起きて、ドアを開けてみるが、誰もいない。<br />
見回すと、廊下の角を曲がる人影が見えた。長い髪をなびかせて、白いガウンを着ているようだった。<br />
クレア先生に似てるような気もするけど…。もしかして、子供を探してさまよう母親の幽霊…とか?<br />
きっと考えすぎだ。これ以上考えると怖くなるので、何も考えないようにして眠った。<br /><br />
Y-02<br />
ここまでで余りにもチキンな行動をとっていたり、三笠さんとの会話(N-020)で選択肢を間違えたりすると、<br />
和くんが日本に帰ることになってゲームオーバーです♪<br /><br /><br />
T-3<br />
Gloria <天には神に栄光> (12月29日)<br /><br />
N-028<br />
目を覚ます。食堂へ行くことへした。途中でネリーさんに会ったので、<br />
昨日ハユツクさんが持っていた鍵束のことを聞いてみた。<br />
すると、予備があるので貸してくれることになった。<br />
朝食の後、ネリーさんは鍵束を持ってきてくれた。鍵の一つ一つは微妙にデザインが異なっている。<br />
柱時計は城のあちこちに設置してあって、開くにはそれぞれ対応した鍵ではないとだめらしい。<br /><br /><br /></dd>
<dt>21 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:37:13
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-029<br />
地下2階に下りると、目の前の廊下を執事さんが通り過ぎるところだった。<br />
おはようございます、と声をかけたけど、執事さんはそのまま行ってしまった。<br />
僕に気が付かなかったのかな?でも、執事さんらしくない。<br />
執事さんは、日織の部屋に入っていった。掃除はメイドさんがするはずだし、何の用だろう。<br />
気になったので、日織の部屋の前へ。<br />
ドア越しに、ドイツ語で何か喋っているのが聞こえてくる。執事さんの他に、誰かいるらしい。<br />
両方とも男の声なのは確かだ。しばらくすると、話し声は止んだ。<br />
迷ったけど、ドアを開けて中へ入った。誰もいない。<br />
よく見ると、クロゼットのドアが開いていたので、恐る恐る中を覗いてみたが、<br />
やっぱりいない。そんな、執事さんが消えた?<br />
三笠さんや教授を呼んできて、事情を説明する。<br />
日織のパソコンが起動している。昨日、確かに電源を落としたのに。<br />
画面には…あの悪魔を召喚するという魔法陣が表示されている。<br />
「む、これは面妖な…」<br />
教授は、これは悪魔の仕業だとか言っている。<br />
これ以上は、今はどうしようもない。あとでもう一度調べよう。<br /><br />
N-030<br />
応接室でクレア先生に会った。執事さんが消えたことを話すと、自分も一緒に調査すると言い出した。<br />
先生と一緒に、執事さんの部屋を調べさせてもらうことにした。<br />
机の上に、変なものがあった。表紙しかなく、中身が破り取られた本。<br />
装丁からして、日記のようだけど…。<br />
「一応、あなたが持っていて」<br />
クレア先生がそう言うので、執事さんには悪いけど、持ち出させてもらうことにする。<br /><br />
N-031<br />
応接室に帰ってくると、ザックさんがあわてた様子でやってきた。<br />
玄関の扉が開いていたので、外に出て、橋が落ちている現場を見てきたとのこと。<br />
どうして開いたかは不明だけど。<br />
実際に見に行きたいと言うアルたちは、玄関を出て外へ行った。僕もついて行った。<br />
螺旋階段を上って塔の上へ。吊り橋のロープは手前側で切断されていた。<br />
鉈のようなもので切られたようだけど、でも、そんな刃物はこの城にはないらしい。<br />
僕はそーっと下を覗き込んだ。誰かが落ちたような様子はない。<br />
良かった。執事さんはたぶん、城の中のどこかにいる。そして、日織も。<br /><br />
N-032<br />
昨日もそうだったけど、今日もまた、夕食時に集合することにして、解散となった。<br /><br /><br /></dd>
<dt>22 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:37:54
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-033-f<br />
宝物庫で気になるものを発見した。ポツンと置かれた本。ドイツ語で書かれている。<br />
リ…ロイ?「Leroy」という記述がある。リロイ家にまつわる内容なのか。<br />
ハユツクさんに見せてみたら、この本は、13代リロイ伯爵の手記だという。<br />
「その日本語訳がこれじゃ」<br />
ハユツクさんは懐から本を取り出して僕にくれた。「13代伯爵の記録」。著者は成瀬公康となっている。<br />
これは自費出版本らしい。少年が森の中でたたずんでいる絵が表紙になっている。<br />
成瀬氏はオカルトマニアとして有名で、あの館(雨格子の館)の現持ち主の好事家だ。<br />
ぱらぱらとめくってみると、「呪は死なず」という言葉が目に飛び込んできた。<br />
それ(S-000参照)は、13代伯爵が書いた手記の最後の部分だという。<br />
その後、伯爵は自殺したとか。うう、不気味だ。<br />
13代が書いたという手記の部分抜き出してみる。<br /><br />
S-002 (舞台の影)<br />
…の夜のことだった。宴の後の誰もいないはずの舞台に、<br />
禍々しい悪魔の影が揺れているのを門番が目撃したのだ。<br />
それを封じるには、清めた白い布で覆い、聖なる灯火にひざまずかせなければならぬそうだ。<br /><br />
S-003 (宝に潜むもの)<br />
平穏な日は長くは続かなかった。<br />
城の薬師を問い詰めてみると、財宝の中に悪魔が潜んでいるのを見たと告白した。<br />
これを封じるには、逆さに吊るしてワインに浸すしかない。<br /><br />
S-004 (悪しき魂)<br />
祈祷師は、地下深くに悪しき魂の存在を感じると言った。<br />
砂に封じて、騎士に見張らせるべきだというので、召使らに探索を命じた。<br />
だが、その悪しき魂は見つからなかった。<br /><br />
S-005 (水に浮かぶ刻印)<br />
オスカーが水面に浮かぶ悪魔の印を見てしまった。<br />
オスカーは無事だったが、もし悪魔が憑いていた場合は、胸に封じの印を刻まねばならぬ。<br /><br />
S-006 (食卓の怪)<br />
相変わらず奇怪な現象は止まない。<br />
ゾフィーヌが食卓で気を失っていた。彼女を早く清めてやらねば。<br />
祈祷師の指示で、白い羽根に埋め、浄化の香を焚いた。<br /><br />
S-007 (絵の中の少年)<br />
絵の中から呼ぶ声が聞こえたという。森の中で、少年がたたずんでいる絵だった。<br />
祈祷師は、この絵からただならぬ怨念を感じるという。<br />
すぐさま処分してもらうことにする。<br />
もし悪魔が現れたら、汚れた血を抜き、檻の中に閉じ込めねばならない。<br /><br />
S-008 (迷宮の悪魔)<br />
夜毎、城の奥深くからうめき声のようなものが聞こえる。<br />
祈祷師は、迷宮に潜む悪魔を封じるには、その場に人がいてはならぬと言う。<br />
ひざまずいた悪魔が、自ら裁きを受けるようにせねばならない。<br /><br /><br /></dd>
<dt>23 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:39:57
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-034-f<br />
白い布で覆うって…この最初の部分、ジョージさんはこれに見立てられたのだろうか。<br />
不明な部分もあるけど、とにかく、警戒しておこう。<br /><br />
N-035-f<br />
日織の部屋へ行く。やっぱり、あのクロゼットが怪しいよな。<br />
クロゼットの奥にタンスがあって、その扉を開くと…奥には、隠し通路が続いていた。<br />
執事さんはこの奥に消えたのだ。隠し通路を進んでいくと、鍵のかかったドアが見つかった。<br />
これ以上進めないので引き返した。<br /><br />
N-036-f<br />
三笠さんが書いた見取り図を見る。クレア先生と三笠さんの部屋の間に、変な空間がある。<br />
その辺りをうろうろしてみたが、特に怪しいものは見つからない。ふと柱時計が目に入る。<br />
横には鳥のレリーフがある。鳥といえば、昨日物置で見つけたメモだ。<br />
この詩にある、「美しい声で歌うもの」のことだろう。鍵を差し込んで回して、時計のふたを開く。<br />
メモの暗号を解いて、その時間に針をセットすると、カチリという音がして、壁の一部が動いた。<br />
そこには小部屋のようになっている。はしごが上に伸びている。<br />
上ってみると、光が漏れている穴がある。覗くと、食堂が見えた。<br />
これはあの、空洞になっていた彫像の中だ。そして床には、空気銃が転がっていた。<br />
よく見ると口径がやけに大きい。きっと、コルクの栓を弾にして、ワインを狙って撃ったのだ。<br />
でも当たらなかったか何かしたので、コルクが6つも落ちていたのだ。<br /><br />
N-037<br />
調査はそれで切り上げて、応接室に行った。<br />
夕食になったけど、食欲が出ない。日織も執事さんも、どこかで生きていると信じたいけど、でも、<br />
ちゃんと食べてるのかな…。<br />
その日の夜はそれ以上何も起こらなかった。<br /><br /><br />
T-4<br />
Alleluia <主をほめ称えよ> (12月30日)<br /><br />
N-038<br />
応接室に行く。<br />
「礼拝堂にお祈りに行こうと思って。ちょっと付き合ってくれない?」<br />
クレア先生がそう言って、小脇に抱えた聖書を見せた。<br />
え、でもうちは仏教ですよ、と言ったけど、それでもかまわないと言う。<br />
確かに、一人きりじゃ危ないもんな。側にいた三笠さんも、心配だからついていくというので、<br />
3人で礼拝堂に下りていった。<br /><br /><br /></dd>
<dt>24 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:40:46
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-039<br />
礼拝堂に足を踏み入れた先生は悲鳴を上げた。宝物庫にもあった、魔法陣が、礼拝堂の床に置かれていた。<br />
昨日までは、何も異常はなかったらしい。三笠さんはクレア先生についているというので、<br />
僕は急いで階段を駆け上がって、地下2階へ。先生の悲鳴を聞いて部屋を出てきたアルに、事情を話す。<br />
ふとみると、ハユツクさんが角を曲がるところだった。<br />
そして…あれは執事さん?チラッとだけど、見えた。<br />
えっ、何?何で?僕はハユツクさんを追いかけようとした。<br />
「待ってよ、和!礼拝堂はいいのかい?」<br />
アルはそう言って止めようとしたけど、それでもハユツクさんの方が気になる。<br />
ハユツクさん追いついたとき、執事さんの姿はもうなかった。<br />
「こっちに来なされ」<br />
ハユツクさんに半ば強引に手を引かれて、ハユツクさんの自室に連れて行かれた。<br /><br />
N-040<br />
やっぱり怪しいよな。僕はハユツクさんに、思っていたことをはっきり言ってみることにした。<br />
お前、日織だろ?<br />
「どうしてそう思うね?」<br />
ハユツクさんは逆に聞き返してきた。まず、一昨日の夜のことだ。<br />
ハユツクさんは、僕に目撃させるために、時計を開けて操作していたのだ。<br />
時計に何かあることを知らせるために。そんなことをするのは日織だけだろう。<br />
時計の謎を解かせるんだったら、三笠さんとかの方が適任だ。でも敢えて僕に見せた。<br />
そして、メッセージの追伸。昼でも暗くなるとは、日食のこと。<br />
そして「蝕尽」とは、たぶん、日食のことだ。日織と対比させるように、そんな名前を名乗っていたのだ。<br />
ハユツクさんの腰がすっと伸びる。そしてもじゃもじゃの髭をつかんで、外した。日織の顔が現れた。<br />
「ただいま、なごさん」<br /><br />
N-041<br />
再び老人の姿に化けた日織に、アルの部屋に連れて行かれた。<br />
「騙して済まなかったね、和。そろそろ見抜かれるんじゃないかと思ってたんだ。…ディーター?」<br />
「お側に、グラーフ」<br />
執事さんが出てきた。さっきのは見間違いじゃなかったんだ。<br />
クレア先生もやってきた。日織は老人の変装を取った。<br />
全部アルが計画したの?と聞いてみた。<br />
「そうだよ。日織やディーターが失踪したのも、ジョージが殺された件も。<br />
僕が日織たちに頼んで協力してもらった狂言だったんだよ。<br />
和を呼ぼうと思ったのもさ、君が極度の怖がりだと聞いたからなんだ。<br />
教授はあの通りの人だし、一人くらい怖がってくれる人がいないと、お話にならないと思ってさ。<br />
でも、今は和が来てくれてよかったと思ってる。君は自力で狂言を見抜いてくれた。<br />
君は本当に名探偵なんだね」<br />
誰も失踪してないし、だれも死んでなかった。そう思うと、気が抜けて涙が出てきた。<br />
「…怒らないの?」<br />
「怒ってもいいのよ?何も泣くことないじゃない」<br />
そんなこと言われても、怒る気にはなれないよ。<br />
「ありがとう、和。日織が言った通りだね。こんなとき、怒らないで、泣く人だって」<br /><br /><br /></dd>
<dt>25 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:41:36
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-042<br />
ワインが倒れた事件は、クレア先生がやったことだった。<br />
あの変な空間にあったはしごを上って、推理通り、誰もいない時間を狙って、空気銃でワインを倒した。<br />
日織は、失踪したように見せかけた後、玄関の外でしばらく待ってから、<br />
中に入れてもらって、ハユツクさんに化けたという。<br />
最初に会ったとき、日織が一緒にいたけど、そのときは執事さんが変装していたという。<br />
停電のときは、日織がハユツクさんの声だけ出していた。<br />
執事さんは日織の部屋の奥の隠し通路から消えた。その後、ずっとアルの部屋に隠れていたらしい。<br />
宝物庫や礼拝堂の魔法陣もアルたちの仕業だ。そしてさっき、クレア先生も失踪しようとしたらしい。<br />
礼拝堂の奥に隠し扉があるので、そこから消える予定だったとか。<br />
鍵盤ハーモニカは日織が鳴らしたらしい。でも何で鍵盤ハーモニカなんだろう?<br />
「バイオリンが勝手に鳴った方がよかったですかい?」<br />
そんなのいやだ、怖すぎる。怖すぎてアトリエに近寄れなくなってしまう。<br />
「ほらね、こういう人なんです」<br />
…あっ、そうか。僕のためなのか。<br /><br />
N-043<br />
「そうだ。和に謝らなきゃならないことがあるの。<br />
一昨日の夜、あなたの部屋をノックして行ったのは、私よ」<br />
あれはやっぱりクレア先生だったのか。<br />
そして、ジョージさんの件。ジョージさんを死んだように見せかけて、サロンを閉鎖したあと、<br />
ジョージさんをこっそり助けた。その夜に、ジョージさんは吊り橋を渡って城を出て行った。<br />
それを聞いて驚く。そう、制御室のモニターで見たのは合成画像で、そのときはまだ橋は架かっていた。<br />
アルたちは、本当に橋を落とすつもりはなかったという。でも次の日、橋は落とされていた。<br />
「我々の計画にないことをしている、悪意を持った犯人が別にいるということですね」<br />
執事さんが怖いことを言う。<br /><br />
N-044<br />
どうしてこんな狂言殺人を思いついたかというと、あの脅迫状の件を解決したかったからだそうだ。<br />
「あの脅迫状には、僕たちしか知らないことが書いてあったんだ」<br />
絹子さん、つまりアルのおばあさんが亡くなったとき、日本の別荘でもお葬式をしたそうだ。<br />
夜、絹子さんが大切にしていた絵が、ひとりでに壁から落ちた。<br />
その場面に居合わせたのが、僕を除いたこの城にいるメンバーだった。<br />
絵が落ちたことが脅迫状にも書いてあったという。<br />
ジョージさんが殺されたように見せかけられた後、<br />
応接室でアルが「ルロイ家に仇なす」云々と凄みをきかせていたのは、<br />
その中にいるであろう脅迫犯に向けて言った言葉なのだという。<br /><br />
N-045<br />
ワインの件やジョージさんの件は、まだ未解決ということにしておくことに決まった。<br />
執事さんは、隠し部屋に捕まっていたとか適当に言い訳することにして、仕事に戻るという。<br />
日織は、まだしばらく失踪したままにしておくと言って、またハユツクさんに化けた。<br />
僕も、いつもの通り調査することにした。脅迫事件も、橋を落とされた件も、まだ解決していない。<br /><br /><br /></dd>
<dt>26 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:42:44
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-046-f<br />
客間の一つ、僕の部屋の隣は空き部屋になっている。<br />
空き部屋のテーブルの上には、何枚もの紙が散乱していた。拾い集めて、持っておく。<br />
大きさからして、執事さんの部屋にあった表紙の中身っぽいな。やっぱりドイツ語で書かれていて読めない。<br />
礼拝堂にいた教授に紙を渡して読んでもらう。教授の顔が見る見る青くなる。<br />
これは、先代、つまりアルのお父さんの日記だが、とんでもないことが書かれていた。<br />
以下が、教授が翻訳してくれた日記の内容だ。<br /><br />
S-009 (先代の日記1)<br />
目覚めたとき、”あの子たち”は何も覚えていなかった。すべては眠っている間の出来事だったから、<br />
それは幸いというべきだろう。<br />
自分たちが悪魔を呼び出すための”生贄”と”依代(よりしろ)”にされていたなどという記憶など<br />
無い方がいい。<br />
しかもそれを行おうとしたのは、彼らの”母たち”なのだ。<br /><br />
S-010 (先代の日記2)<br />
(欠落)…のときすでに、”彼女たち”は、悪魔崇拝にかぶれていた。<br /><br />
S-011 (先代の日記3)<br />
気付いたときには、忌まわしい儀式は始まっており、<br />
”彼女”は”わが子”を悪魔の”生贄”に捧げるために、短剣を振りかぶっていた。<br />
私は、”彼女”を射殺せざるをえなかった。<br />
私が”あの子”を抱き上げると、”彼女”は私にすがりついて、悲鳴を上げた。<br />
”依代”を動かしては悪魔が逃げてしまう、初代伯爵と同じ過ちを犯すつもりですか、と言った。<br /><br />
S-012 (先代の日記4)<br />
正気を失った”彼女”を、もう日常に連れ帰ることは出来なかった。<br />
亡くなったと告げて、密かにここに閉じ込めておくしかなかった。<br />
まさか、自らこの城をあの伝承と同じように使わねばならないとは…。<br />
やはり、ルロイの血は呪われているのかもしれない。<br /><br />
S-013 (先代の日記5)<br />
人知れず”彼女”が亡くなり、久しぶりにここを訪れた。<br />
なんということだろう。”彼女”は”愛するわが子”を手にかけて死なせたと思い込んでいるようだ。<br />
自らが閉じ込めてしまっていることに気づいていないのだ。<br /><br />
S-014 (先代の日記6)<br />
忌まわしい儀式や、悪魔の存在を思わせるものは全て、目に触れぬところに処分してしまわねばならない。<br />
あれらが”悪魔”を呼び寄せるのだ。<br />
ああ、まさか本当に”悪魔”が招かれてしまうとは…。<br /><br /><br /></dd>
<dt>27 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:45:20
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-047-f<br />
その日記は欠落部分や読めないところもかなりあった。<br />
しかも、”彼女”とか”わが子”などは、具体的に何を指すのかも不明だ。<br />
でも解ったことがある。”母たち”とは、アルと執事さんの母親だ。<br />
アルと執事さんは子供の頃、生贄と依代にされかけたことがあるんだ。<br />
お母さんたちは事故で死んだんじゃなくて、射殺されたり、この城に幽閉されて殺されたんだ。<br />
その証拠に、礼拝堂の壁には、そのとき出来たと思われる弾痕があった。<br />
教授は、この日記は他人には、特にアルには見せてはいけないと言う。<br />
アルにとって母親とは、聖母のような清らかな人物なのだ。<br /><br />
Y-03<br />
この日記をメイドさんたちや執事さんに見せると、アルに見せなければダメだ、<br />
ということになって、結果的にアルが日記を見てしまいます。<br />
アルが日記を見てしまうと、アルが精神崩壊してしまってゲームオーバーでーす♪<br /><br />
N-048-f<br />
ネリーさんに聞いたが、あの日記があった空き部屋を最後に掃除したのは、<br />
昨日の朝、執事さんが失踪する直前だという。<br /><br />
EX-1 (クレアを助けられなかった場合)<br />
ワインセラーから尋常じゃないほどのワインが無くなっていた。<br />
地下2階に行ってみると酒くさい。<br />
教授やザックさんが部屋にワインを持ち込んでいるのかと思ったけど、それも違う。<br />
臭いのもとは宝物庫だった。<br />
天井から逆さに吊るされたクレア先生は、ワインを満たした容器の中に顔を突っ込んで、<br />
溺死していた。長い髪がゆらゆらとワインの中で揺れていた。<br /><br />
EX-2 (クレアが死亡した場合などに発生)<br />
教授が行方不明になってしまった。<br />
隠し通路を通って階段を下りたところにある隠し部屋の真ん中に、西洋式の鎧が置いてあるのを見つけた。<br />
鎧には血がべっとりとついている。面頬は下りていた。<br />
恐る恐る、面頬を上げてみると、そこには何も無かった。もう限界なので逃げ出した。<br />
後から聞いた話だと、教授の体だけ鎧の中にあり、首は切断されて別のところに置いてあったという。<br /><br /><br />
T-5<br />
Credo <わたしは信じます> (12月31日)<br /><br />
N-049-f<br />
アトリエの作業台の上に、大き目の彫刻刀が置いてあった。<br />
よく見ると、繊維みたいなのが引っかかっている。証拠になりそうなので持って行く。<br />
アトリエの奥には小部屋があった。そこには何故か牢屋があった。今は使われてないみたいだけど。<br /><br />
N-050-f<br />
執事さんに彫刻刀を見せる。<br />
「ああ、これは、玄関ホールに落ちていたので、アトリエに戻しておいたのです」<br />
もとは玄関ホールにあったのか。たぶん、犯人はこれで吊り橋を落としたんだ。<br /><br /><br /></dd>
<dt>28 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:46:14
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-051<br />
夜、地下2階に下りていくと、クレア先生が角を曲がっていくのが見えた。<br />
クレア先生?<br />
「呼んだ?」<br />
後ろから声がしたのでびっくりして振り返ると、クレア先生がいた。<br />
すると、さっきの人影は、幽霊…とか?<br />
急いで探してみたけど、人影は忽然と姿を消していた。<br /><br />
N-052<br />
クレア先生と別れて、廊下を歩いていると、ザックさんが声をかけてきた。<br />
「なあ、和。先生となんの話ししてたんだ?あれか?事件の話か?誰か疑ってたりするのか?」<br />
探りを入れてくるような感じだった。そういえば、ここ最近、ザックさんの様子がおかしい。<br />
そんな話じゃないですよ、と答える。<br />
「あ、そう。ならいいんだけどよ」<br />
ザックさんは部屋に帰っていった。やっぱり怪しい。<br /><br />
N-053<br />
僕はザックさんの部屋へ行って問い詰めてみることにした。ザックさんの部屋をノックする。<br />
ちょっといいですか?お聞きしたいことがあるんです。<br />
「お前、一人か?…入れよ」<br />
ザックさんは何かにおびえているようだ。<br />
なんだか、様子が変ですよ。<br />
「変って、それは、気のせいだろ」<br />
気のせいなはずないじゃないですか。何か気になっていることがあるんですね。<br />
「そりゃ、だって、あいつ、ネリーのこと脅しやがったし。お前も見てただろ?」<br />
それはジョージさんが殺されたと見せかけられた後、応接室でのことらしい。<br />
アルが「ルロイ家に仇なす」云々と凄んで見せた、あれのことだ。<br />
ザックさんはアルを疑っているんですか?だってあれは、脅迫犯に言ったことですよ。<br />
「だから、脅迫じゃねーって!ネリーは脅迫するつもりなんか無かったんだ!」<br />
えっ、ネリーさんが脅迫した?<br /><br />
N-054<br />
ザックさんは白状した。<br />
ネリーさんは、こういう忌まわしい城とか、不気味な品々とかを処分すれば、<br />
アルももっと平和な生活が送れるのではないか、と考えたらしい。<br />
それで、匿名で手紙を出すことにした。<br />
伯爵様に出すというので、堅苦しい文章にしなければならない、と思い込んでしまったらしい。<br />
でも、ネリーさんは堅苦しい文章など書きなれていなかった。<br />
出来上がったのは、とても誤解を受けそうな文章だった。<br />
と、これが脅迫事件の真相だった。<br /><br /><br /></dd>
<dt>29 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:48:15
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-055<br />
僕はザックさんに、アルに事情を話して謝れば、きっと許してくれますよ、と言った。<br />
「でもなぁ。ジョージを殺したやつも、日織を消したやつも捕まっていないしなぁ」<br />
う、それは…。顔に出そうになるのをなんとか抑える。<br />
とにかく、犯人は僕が捕まえますから、ザックさんは早く誤解を解いてください。<br />
そう言うと、ザックさんはその気になったようだ。<br />
ザックさんはネリーさんと一緒に、アルの部屋へ行って事情を話した。<br />
アルは許してくれた。ただ、この城を手放す気はないと言っていたが。<br /><br />
N-056<br />
お風呂から上がって、脱衣所で服を着ているところで、ドアがノックされたので驚く。<br />
「俺だ、ビビるな、馬鹿者」<br />
三笠さんだった。腕時計を置き忘れたので取りに来たとのこと。<br />
ドアを開けて、三笠さんに腕時計を渡す。<br />
「邪魔して悪かったな。俺はトイレに寄ってから戻るから、お前も早く寝ろよ」<br />
ううっ、寒っ!三笠さんが言う通り、早く寝よう。<br /><br />
EX-3 (脅迫事件が解決できなかった場合)<br />
ネリーさんが不安そうな様子で、ザックさんの名前を呼んでいる。<br />
ザックさんの姿が見えないそうだ。しばらくの後、風呂場から悲鳴が聞こえた。<br />
ザックさんは目を見開いたまま、浴槽にぷかぷかと浮かんでいた。<br />
頭部を殴られたのが死因らしい。<br />
裸の上半身には、「Teufel」と刃物で刻まれていた。<br />
それは悪魔という意味だと、アルが教えてくれた。<br /><br /><br />
T-6<br />
Sanctus <聖なるかな> (1月1日)<br /><br />
N-057<br />
目を覚まして、腕時計を確認する。もう起きて食堂へ行かないと、心配されそうな時間だった。<br />
食堂へ行くと、千絵子さんが待っていた。僕が最後かと思ったけど、三笠さんもまだだという。<br />
あの人、寝過ごすときは盛大だからね、と千絵子さんは言うけど、なんだか気になる。<br />
食べ終わった後、三笠さんの部屋へ行ってみた。ノックをしてみたけど返事は無い。<br />
鍵がかかってなかったのでドアを開けてみたが、三笠さんはいなかった。<br /><br />
N-058-f<br />
三笠さんは確か、昨日の夜、トイレに寄っていくって言ってたけど…。<br />
風呂場のある地下1階の男子トイレに行ってみる。その奥には例の柱時計がある。<br />
横には狼のレリーフがある。これと同じものが、隠し通路にもあった。<br />
この時計の操作方法は解らないけど、操作したら、隠し通路に行けるんだ。<br />
もしかしたら、三笠さんは隠し通路にいるのかもしれない。<br /><br /><br /></dd>
<dt>30 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:50:31
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-059<br />
隠し通路を歩いていくと、ふいに、腕をつかまれた。後ろに誰かいる。<br />
誰ですか?呼びかけてみるけど、反応がない。振り向いてみた。<br />
ゆ、幽霊?顔は長い髪に隠れていてよく見えない。<br />
白いガウンみたいなのを着ている。見た目だけはクレア先生に似てないこともないけど、<br />
でも、僕の腕をつかむこの力は女性のものではない。<br />
僕は腕をつかむ手を強引に振り解いた。そいつは大きな音を立てて転んだ。<br />
それから、夢中で走って逃げた。そいつが追ってくる気配は、もう無かった。<br /><br />
N-060<br />
逃げられたのはいいけど…ここはどこだ?とりあえず、先に進むことにした。<br />
そこはうねうねと分かれ道や曲がり角が続く、迷宮だった。<br />
迷宮は確か、壁を手につけていれば出れるんだよな。左手を壁につけて、<br />
それに沿うように進んでいく。すると、前方からうめき声が聞こえてきた。<br /><br />
N-061<br />
前に進むほど、声は大きくなった。…この向こうだ。恐る恐る覗き込む。<br />
行き止まりになっていたそこには、縛られた三笠さんがいた。<br />
膝を折り曲げて、ひざまずくような格好だった。<br />
猿轡をされた三笠さんは僕に目で何かを訴えていた。<br />
天井から斧が吊り下げられている。そして、張り巡らされたロープと、酸が入った皿と巨大な燭台。<br />
これは、三笠さんが少しでも動くと、斧が落ちてくる仕掛けらしい。<br />
そーっと斧を取り外してから、三笠さんを縛っていたロープを解く。<br />
三笠さんは、長時間不自然な姿勢でいたためか、すぐには動けないらしい。<br />
「大丈夫だ。しばらく休めば動ける」<br />
しばらく休んでから、迷宮を逆に辿って戻った。<br /><br />
N-062<br />
僕と三笠さんは応接室に行った。クレア先生を呼んでくれるように頼んだ。<br />
クレア先生は、三笠さんを自室に強引に連れて行って休ませた。<br />
三笠さんには、大した怪我はなかったらしい。とりあえず、よかった。<br />
でも、三笠さんにこんなことをしたのは誰なんだろう?<br />
13代伯爵の手記に、迷宮に悪魔が出たとかいう記述があるけど、それに見立てたのか?<br />
でもジョージさんのは狂言だったのに。<br /><br />
N-063<br />
日織に、隠し通路で幽霊に会ったことを話す。<br />
見た目は女性のようだったけど、でも力が強すぎると言うと、日織は考え込んだ。<br />
「実は、気になるものを見つけたんです。ついてきてください」<br />
この時間なら誰にも見つからないでしょうと、日織は着流し姿で部屋を出た。<br />
玄関ホールから外へ出る。階段を上らずに、下りて行く。そこは誰も存在を知らない空間だった。<br />
失踪したように見せかけたとき、日織が隠れていた場所なのだという。<br />
ワイヤーに吊られた2匹のグリフィンの彫像があった。<br />
そのグリフィンの下に、石棺のようなものが置いてあった。日織が蓋を外す。<br />
「どうです、見覚えありますか」<br />
長い髪のかつらと、ガウンが入っていた。<br />
これを使えば、たとえ男でも、幽霊に化けることが出来る。<br /><br /><br /></dd>
<dt>31 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 04:14:55
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>EX-4 (三笠を助けなかった場合)<br />
三笠さんは迷宮の奥で死んでいた。胸の辺りを斧で切られていた。<br />
壁に取り付けられたフックと、緩んだロープ、それに大きな燭台。<br />
これは、三笠さんが少しでも動いたら作動して、斧が落ちてくる仕掛けらしい。<br /><br /><br />
T-7<br />
Agnus Dei <平和の賛歌> (1月2日)<br /><br />
N-064<br />
三笠さんの部屋に行って、失踪したときのことを聞いてみることにした。<br />
夜、地下1階のトイレに行ったら、隠し通路への扉が開いていたので、入っていったら、<br />
後ろから殴られて、気を失ったとのこと。気が付いたら、縛られてて、あの状態だったらしい。<br />
隠し通路と言えば、あの柱時計。男子トイレにはあるけど、女子トイレはどうなんだろう。<br />
「ああ、あの時計な、同じものが女子トイレにもあると、中居が言ってたぞ」<br /><br />
N-065-f<br />
アルの部屋に、大切そうに写真が飾ってある。<br />
古いスナップ写真だ。まだ子供だったアルと、執事さんと、絹子さんが外で遊んでいる。<br />
アルはウサギと戯れている。<br />
「それはクリスだよ。僕の大切な弟だ」<br />
ペットのウサギを、アルは弟として大切にしていたらしい。<br />
そのウサギが死んだとき、とても悲しかったと、アルは話す。<br /><br />
N-066-f<br />
執事さんに、アルの子供の頃のことを聞いてみた。<br />
クリスという名前のウサギのことを聞いてみたが、覚えていないと言う。<br /><br />
N-067-f<br />
ザックさんに、アルの子供の頃のことを聞いてみた。<br />
アルは、子供の頃、執事さんを「ティル」と呼んでいたらしい。<br />
でも、それは子供っぽいとアルのお父さんに注意されたので、<br />
今のように「ディーター」と呼ぶようになったらしい。<br /><br />
EX-5 (ザックが死亡していた場合)<br />
食堂のテーブルクロスは再び赤いシミがついていた。今度は本物の血だ。<br />
ネリーさんはテーブルの上に横たわっていた。胸から血が流れていた。<br />
周囲には白い羽根が撒き散らされ、香が焚かれていた。<br />
凄惨な場面のはずなのに、不思議と怖くはない。夢でも見ているような、幻想的な光景だった。<br /><br /><br /><br /></dd>
<dt>32 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 04:18:14
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>T-8<br />
Ite Missa Est <典礼の終り> (1月3日)<br /><br />
N-068-f<br />
ワインセラーに行くと、執事さんがいた。執事さんは、ふいに作業を止め、顔をしかめた。<br />
「失礼しました。どうも、どこかで肩をぶつけたようでして、昨日の朝から痛むのです。<br />
お恥ずかしい限りですが、昔から、気づくと覚えのない打ち身や擦り傷が出来ていることがあるのです」<br />
自分が知らないうちに、怪我をしていたという。<br />
執事さんが出て行った後に、ワインの瓶の間に紙片が挟まっているのを見つけた。<br />
変な詩が日本語で書いてあった。これは、物置で見つけたのと似ているな。<br />
どこかの時計の謎を解くものだろう。<br /><br />
N-069<br />
日織に、執事さんのことをを話してみる。<br />
執事さん、自分では、どこでぶつけたのか覚えてないんだって。<br />
日織は少し考えてから、言った。<br />
「幽霊の正体がティーロなら、あり得ますね」<br />
僕は最初、幽霊はクレア先生だと思ってた。実際、クレア先生がやっていたときもあった。<br />
だけど、それ以外の幽霊はすべて、変装した執事さんだ。あの、隠し通路で腕をつかまれたときも。<br />
執事さんは体格だけなら、クレア先生と見間違えるくらいには似ている。<br />
「なごさんに振りほどかれたとき、転んで、ぶつけたんでしょうね。<br />
けど、どこでぶつけたのか覚えてないってのは、言い訳にしちゃ、苦しいですね」<br />
うん、嘘をついているようには見えなかった。執事さんは、本当に覚えていないんだと思う。<br />
もし、本気で覚えていないんだったら、あれもそうかも知れない。玄関に落ちていたという、彫刻刀。<br />
僕が思った通り、吊り橋のロープを切ったのに使ったなら、わざわざ自分が拾ったことを言わないだろう。<br />
「単なる記憶障害ってわけじゃないでしょう。<br />
別の意志が働いて、おかしなことをやってるとしか見えねぇです。<br />
あの人の中には、もう一人、別の人格が住んでいるってことになりますね」<br />
つまり――多重人格。<br />
「あり得ねぇ話じゃねぇですぜ。あの日記の内容が事実なら――」<br />
多重人格になるのは、幼児期の耐え難い苦痛や恐怖が原因ってケースが多いらしい。<br />
そう考えれば、一応の辻褄は合う。<br />
なんでも、主人格、というのがあって、<br />
その主人格は、起こったことを全て把握しているらしい。<br />
つまり、記憶が欠落している執事さんは、主人格ではないということだ。<br /><br />
N-070-f<br />
思い切って、千絵子さんに女子トイレのことを頼んでみた。<br />
ちょっと調べたいだけだから、と説得して、女子トイレに入れてもらった。<br />
奥には例の柱時計がある。横のレリーフは蝶だ。<br />
さっきワインセラーで見つけた、紙片には「花にたゆたう者」とあるから、この時計のことだ。<br />
蓋を開けて、針をセットすると、時計の中から封書が飛び出てきた。<br />
女子トイレを出てから、改めて、手紙を読んでみる。その手紙は、日本語で書かれていた。<br /><br /><br /></dd>
<dt>33 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 04:20:44
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>S-015 (絹子の手紙)<br />
いつか、あなたの心が癒されてくれることを願って、この手紙をしたためておきます。<br />
この手紙を見つけたということは、あの詩の謎を解いたのでしょう。<br />
あの詩は、代々の当主しか手に出来ないものですが、<br />
アルノルトが若くして爵位を継ぐことになったので、一時的に私が預かることになったのです。<br />
あの詩を読んで本当に驚きましたよ。<br />
(中略)<br />
この城は初代が作ったそうですが、時計の仕掛けを作ったのはもっと後の当主でしょう。<br />
時計の仕掛けを作ったのが初代だとすると、おかしなことがあるのです。<br />
だから、初代は恐ろしい黒魔術師などではないのでしょう。<br />
幽閉された少年や、さまよう母も皆本当にあったことではないのです。<br />
だから、あなたのぼうやもいなくなってなんかいないのですよ。<br />
怖いことなんて何も起こらないのです。<br />
それをぼうやにに教えてあげることが、あなたに出来る一番大切なことですよ。<br />
それでは、お元気で。 絹子<br />
アルノルトといつまでも仲良くね。<br /><br />
N-071-f<br />
これは誰に宛てた手紙なんだろう。あなた、っていうのは、ぼうやっていう息子がいる人?<br />
誰かのお母さん?<br />
とにかく、この手紙を僕が見つけてしまったということは、その人の心はまだ癒されてないんだろうな。<br /><br />
N-072<br />
アルに話を聞くことにする。<br />
聞かせてくれないかな、昔のこと。覚えている範囲でいいから、事故のことを。<br />
「それが、事故があったときのことは覚えていないんだ。気が付いたら病院にいて、<br />
僕とディーターしか助からなかったって聞かされた」<br />
…それじゃあ、執事さんは覚えているのかな?<br />
「あ…ディーターも覚えてないよ。ディーターは、事故以前の記憶が全く無いんだよ」<br />
なんだか気まずくなってきた。<br />
話を変えるつもりで、あの13代伯爵の手記の話題を振ってみる。<br />
そういえば、あの中に出てきた呪われた絵って、どんなの?<br />
それは、なんとかという有名な画家の絵で、現物はここにはないが、画集があるという。<br />
アルは一冊の本を持ってきて、開いて見せてくれた。<br />
森の中で少年がたたずんでいる絵だった。<br />
「13代伯爵の記録」の表紙にも使われていた絵だ。<br />
その少年の髪の色は見事なプラチナブロンドだ。そう、執事さんの髪の色だ。<br /><br />
N-073<br />
執事さんが仕事を放り出していなくなったと、メイドさんたちが騒いでいる。<br />
この時間だと、まだ仕事をしているはずだ。<br />
執事さんがいそうなところを探してみたが、いない。執事さんの部屋にもいなかった。<br />
まさか、また悪魔封じ…?でも、どこだ?<br />
僕は、さっき見た、呪われた絵を思い出した。<br />
手記によると、絵の中の少年が悪魔ということになるのだろう。<br />
犯人が見立て通りに犯行を行うとしたら、血を抜いて、牢屋に閉じ込めるはずだ。<br />
こんなこと、全部終わらせなければ。僕はアトリエに向かった。<br /><br /><br /></dd>
<dt>34 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 04:23:48
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-074<br />
アトリエには誰もいない。奥の、牢屋に続くドアが開いていた。<br />
そのドアから、執事さんが現れた。<br />
「何か御用ですか、一柳様」<br />
執事さんは変わらぬ態度を見せた。ここで気後れしてはいけない。僕ははっきりと言った。<br />
あなたが、犯人ですね?<br />
執事さんはとぼけようとした。僕は、あなたにしか出来ないことがあります、と指摘した。<br />
一つは、空き部屋に日記を置いたこと。もう一つは、吊り橋を落としたこと。<br />
執事さんが失踪した朝、執事さんは空き部屋の方からやってきていた。<br />
あのとき、空き部屋に日記を置いて、出てきたところだったのだ。<br />
その直前、ネリーさんは空き部屋を掃除している。日記を置けるのは執事さんだけだ。<br />
吊り橋は、玄関の鍵は執事さんしか持っていなかったから。<br /><br />
N-075<br />
執事さんは、口の端を歪めて、ニヤリ、と笑った。<br />
「残念だ。折角、あの日記を見つけたのに、アルには見せなかったのか」<br />
信じたくはなかったけど、あの日記に書いてあることは全部本当のことらしい。<br />
そして、あの日記はアルが見つけるかもしれないと思って、あんなところに置いたらしい。<br />
どうしてそんなことをするんですか?アルは悪くないでしょう、と聞く。<br />
「決まっているだろう?楽しいからさ。想像してみろよ!アルは何も知らないんだぜ。<br />
聖母のようだったと信じていた母親が、どんな女か、アイツが知ったらどうなると思う?<br />
正気じゃいられないだろうなぁ」<br />
どうしてそんな…。ずっとアルに仕えてきたんじゃないんですか?<br />
「何言ってんだ。おれを誰だと思ってる?」<br />
この人は執事さんじゃない。やっぱり、彼は多重人格だった。今は、違う人格だ。<br />
僕は恐るべき結論に達していた。それをおずおずと口にする。<br />
悪魔…?<br />
「やっと理解したかい、人間?」<br />
アルと執事さんのお母さんがやっていた、悪魔を呼び出す儀式は失敗した。<br />
そしてその悪魔が執事さんに乗り移ったと思い込んで、こんな人格が生まれたのだ。<br />
「…今度こそ本当に埋葬してやる。<br />
ルロイ一族には出来ないらしいから、おれがやってやるよ。じゃあな」<br />
彼はアトリエを飛び出して行った。<br /><br />
EX-6 (推理に失敗してアトリエに来るのが遅れたときなど)<br />
アトリエの奥のドアが開いている。覗いてみると、牢屋の中で執事さんが倒れていた。<br />
胸から血が出ているけど、まだ息がある。<br />
助けようと思ったけど、牢屋には鍵が掛かっていた。鍵を探すが見つからない。<br />
執事さんの側に紙切れが落ちていた。ドイツ語で何か書かれていた。<br />
「『お前が犯人だ』って書いてある。ディーターの字だ」<br />
駆けつけてきたアルがそう言った。<br />
少し離れたところにレイピアが落ちていた。執事さんはこれで自分の胸を?<br />
やっぱり執事さんが犯人なのか?でも、どうして?<br /><br /><br /></dd>
<dt>35 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 04:26:25
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>EX-7<br />
「千絵子、これを」<br />
アルは大きなリュックサックみたいなものを千絵子さんに渡した。<br />
それは、アルの部屋に一つだけあったという、パラシュートだった。<br />
「助けを呼んできてほしいんだ」<br />
千絵子さんは無事にパラシュートで地上に降りて、偶然側を通りかかった登山家に助けを求めることができた。<br />
すぐにヘリコプターが来て、僕たちは救助された。でも、執事さんは助からなかった。<br />
あの吊り橋は、今もまだ落ちたままだという。<br />
Bad End<br /><br />
N-076<br />
僕は、執事さんの姿かたちをした悪魔を追いかけていった。<br />
彼は玄関から外に出たらしい。螺旋階段を上って、塔の上へ。<br />
端っこの方の、今にも落ちそうなところに、彼は立っていた。<br />
「最期に一つだけ教えてやろう。三笠を殺そうとしたのは、おれじゃないぜ」<br />
…解ってます。そう言うと、彼は少しだけ感心したような顔をした。<br />
「どうして解った?」<br />
執事さんの中にいるのは、あなただけじゃない。<br />
女の幽霊の格好だったとき、あのときは、あなたじゃなかった。<br />
「じゃあ、その女の幽霊は誰だ?」<br /><br />
N-077<br />
ここは慎重に答えないと…。僕は考えた。<br />
あの日記の中に出てくる女性は、アルと執事さんのお母さんたちだけに見えるけど、<br />
そうすると、矛盾するところが出てくる。<br />
それは、「”わが子”を死なせた”彼女”」の部分だ。その記述の前に、「人知れず”彼女”が亡くなり」と<br />
書いてあるから、「”わが子”を死なせた”彼女”」は、アルと執事さんのお母さんたちとは違うということが解る。<br />
「そうだ、あの女さ!あの女は本気で悪魔封じをしようとしていたからな。<br />
ディートリヒを生贄に捧げるために、自分の息子を手にかけて死なせたと思っている、哀れな”母”さ」<br />
生贄にされかけたのは執事さんで、射殺されたのは執事さんのお母さんなのか。<br />
自分の目の前で殺されてしまった母の死を受け入れられなかったから、”母”の人格が生まれた。<br />
そして、”母”は、悪魔封じとして殺されていたジョージさんが、サロンから消えてしまったのを見たので、<br />
悪魔はまだ、この城のどこかにいる、と思い込んでしまった。<br />
三笠さんを隠し通路で見かけて、悪魔が取り付いていると思って、<br />
見立て通りに、あんな仕掛けで殺そうとした。<br /><br />
N-078<br />
”母”は、自分の中に悪魔がいると知ったら、どう思うだろう、と、彼は笑っている。<br />
ここであれを出してみる。<br />
主人格、というのがあるそうです。全てを把握している人格。それを聞いて、彼は動揺した。<br />
「全てを知っているのは、おれだけだ」<br />
彼は強がっていたが、次第に動揺の色が濃くなってきた。<br />
嘘です!全てを知っているのは――ティルです。<br />
それを聞くと、彼はいきなり、僕に襲い掛かってきた。僕を端のほうにひきずっていって、塔から落とそうとした。<br />
そのとき、僕と彼の間に割って入った人がいた。<br />
「お生憎様ですがね、俺は何があってもこの人を守るって約束してんです」<br />
日織だった。あの約束、まだ有効だったんだ(雨格子の館 参照)。<br /><br /><br /></dd>
<dt>36 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 04:27:17
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-079<br />
どいてください、僕は”母”に用がある!<br />
彼に言うと、彼の表情が変わっていき、”母”が出てきた。<br />
「私は罪を償いに行かなければ…。解き放ってしまった悪魔を封じなければならないのです。<br />
全ては私の罪です。我が子に手をかけた罪を償わねばなりません」<br />
”母”は、ティルを想って涙を流した。<br />
ティルは死んでいません、悪魔なんかどこにもいません、と”母”を説得する。<br />
ジョージさんが死んだのも狂言で、本当は誰も死んでません、と。<br />
そして、絹子さんの手紙を渡した。手紙の中のあなたは”母”のことで、坊やはティルのことだ。<br />
その手紙を読んで、”母”は悪魔がいないことを理解したらしい。<br />
「それでは、ティルはどこにいるのですか?」<br />
あなたの中に、あなたと一緒にいます。儀式の経験が恐ろしくて、閉じこもって出てこられないだけなんです。<br />
本当のあなたは、もう死んでいます。あなたは、ティルが作り出してしまった幻なんです。<br />
「ありがとうございます。あなたと絹子様に、今すべきことを教えてもらいました。<br />
ティルに伝えてください。あなたが生きていてくれて、うれしい、と」<br />
”母”の表情はすうっと消えていった。<br /><br />
N-080<br />
ティル、聞こえるかい?悪魔なんていないんだよ。君に取り付いているわけでもない。<br />
お母さんの話、聞いてただろ?おいで、ティル!<br />
呼びかけると、主人格のティルが出てきた。11歳のまま、儀式のときの恐ろしい記憶を持って、<br />
今まで呼び出されることがなかった人格。<br />
だが、ティルは一瞬で引っ込んで、悪魔が出てきた。<br />
「この器はおれのもんだ!」<br />
などと言って暴れている。<br />
「返してくれないかな、それは僕の執事の体だ」<br />
アルがやってきた。悪魔はアルを挑発しようとしたが、アルはそれには乗らなかった。<br />
「失せろ、命令だ」<br />
アルがびしっと言うと、ティルが出てきた。<br />
「長い間、一人ぼっちにさせて悪かったね、ティル、戻っておいで。一緒に帰ろう」<br />
アルはやさしく呼びかけ、彼に手を差し伸べた。<br />
「仰せの通りに、グラーフ」<br />
彼はアルの手を取って、言った。<br />
これで悪魔も、”母”も、執事さんも、ティルの人格に統合されたのだろう。<br />
でも、ティルは11歳のまま、成長が止まっている。<br />
このままでは、アルの執事としてはちょっと厳しいかな。<br /><br />
EX-8 (犯人の説得に失敗した場合など)<br />
彼は醜悪な笑いを浮かべた。<br />
「おれはこの器じゃなくても生きていけるんだよ。<br />
おれを呼び出そうとする馬鹿がいる限り、おれはまた復活する。あばよ」<br />
彼は虚空に足を踏み出して、落ちていった。<br />
そんな…そんなことって…。<br />
Bad End<br /><br /><br /></dd>
<dt>37 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 04:29:11
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-081<br />
僕と日織と、そしてアルとティルは塔を下りて、玄関に戻った。<br />
そのとき、城が揺れた。そういえば、悪魔が埋葬してやるとかなんとか言っていた。<br />
埋葬、と聞いて、アルには思い当たることがあるらしい。<br />
このままでは、城は崩壊してしまうとか。<br />
そして、代々の当主しか手に出来ないという文書をもってきて僕に渡す。<br />
やっぱりドイツ語で書いてあったけど、日織が説明を書いてくれていたので、僕にも読める。<br />
これはやっぱり、時計かな?謎めいた詩だけど。<br />
僕は詩の謎を解いて、城のあちこちを回って、時計を操作していく。<br />
そして最後に、玄関から外に出て、二匹のグリフィンの仕掛けをといた。<br />
城の揺れは止まった。間に合った。僕はほっとして、床に寝転んだ。<br />
頭上の鐘が高らかに鳴り響く。美しいメロディーだった。<br />
この城も、呪われてるとか幽霊が出るとか、そんなひどいことばっかりじゃないんだな。<br />
この城に来て良かった、と、最後にそう思えた。<br /><br /><br />
N-082 (2月10日)<br />
あれから一ヶ月ほどたった。アルからエアメールが来ていた。<br />
ティルに、当主自らが執事としての教育を施しているけど、大変だと書いてあった。<br />
そして、日織からも手紙が来た。<br />
事件とか起こらないような場所に遊びに行って、今度こそのんびりしましょう、だって。<br />
本当に、今度こそのんびり出来たらいいなぁ。本当に。<br />
Fin<br /><br /><br />
Y-04<br />
ハユツクさんの名前について(N-026,N-040)。<br />
日本書紀に、「日蝕尽有之(日(ひ)蝕(は)え尽きたること有り)」という記述があるの。<br />
これは日食のことを言っているらしいよ。<br />
蝕ゆ(はゆ)は、月食や日食になるという意味だよ。<br />
和くんはさすがに日本書紀の事は知らなかっただろうけど、でも知らなくてもなんとなく解ったんだね♪<br /><br /><br /></dd>
<dt>38 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 04:32:46
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>Y-05<br />
実際のストーリーについてちょこっと解説するね。<br />
パートナー(ワトスン役)が誰になるかによって大きく6つのルートに分かれています。<br />
ザックさん・教授・執事さん ルート →1周目から(ストーリーA)<br />
クレア先生・三笠さん ルート →Aをクリアしてから(ストーリーB)<br />
アル ルート →Bをクリアしてから(ストーリーC)<br />
物語の展開としては大まかにABCの三種類あります。12月30日からそれぞれに分岐します。<br />
A…12月30日にクレア先生が失踪。1月2日に狂言殺人が解決。1月3日にEX-6~7の展開になる。<br />
B…12月30日に執事さんが失踪。12月31日に三笠さんが失踪。1月1日に狂言殺人が解決。<br />
1月2日にアトリエで犯人を問い詰めるもEX-8の展開になってしまう。<br />
C…12月30日にクレア先生or執事さんが失踪しそうになるのを阻止する。<br />
怪しいのでハユツクさんかアルを問い詰めて狂言殺人を解決する。<br />
それからなんと和くんが失踪役となり、偽装失踪を成功させる。<br />
それ以降は夜中に、みんなにみつからないようにこっそり調査する。<br />
12月31日に三笠さんが失踪するので助けに行く。そのときに偽装失踪がばれてしまう。<br />
1月1日に最後の調査をして、犯人の説得を成功させてエンディングへ。<br />
最低でも3周しないと真相にはたどり着けない構造になってるんだ。<br /><br />
Y-06<br />
前作よりボリュームは増えたし面白いんだけど、<br />
ストーリーが三分割されてるから、<br />
話の整合性が取れてないんじゃないかな~と思われる部分が結構あったり。<br />
ひどいバグ(死んでしまったクレア先生が何故か礼拝堂にいるとか)があったりするので<br />
叩かれたりしてますが、それ以前の問題もあるんだよ。<br />
次回作がもしあるなら、もうちょっと考えてほしいところではあるよね♪<br /><br />
Thank you for reading!!<br /><br /><br /></dd>
<dt>42 :<a href="mailto:sage"><b>ゲーム好き名無しさん</b></a>:2008/10/09(木) 15:50:08
ID:oZYfop5AO</dt>
<dd>奈落の城乙です<br />
オチが多重人格とは思わなかったけど読み応えあって面白かった<br />
先生や三笠さん死亡阻止の条件て何なんだろ、前作は隠し忘れたらアウトだったけど<br /><br /></dd>
<dt>45 :<a href="mailto:sage"><b>ゲーム好き名無しさん</b></a>:2008/10/10(金) 06:56:49
ID:xdRynDZBO</dt>
<dd><a href="http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gsaloon/test/read.cgi/gsaloon/1223322752/42" target="_blank">>>42</a><br />
先生は地下で早期発見<br />
教授は先生殺害を防ぐ&教授を和の神隠しの礼拝堂の仕掛けに使わない<br />
三笠は地下で早期発見<br />
ザックは脅迫事件を解決させる<br />
ネリーはザック殺害を防ぐ<br /><br /></dd>
<dt>46 :<a href="mailto:sage"><b>ゲーム好き名無しさん</b></a>:2008/10/10(金) 07:13:44
ID:xdRynDZBO</dt>
<dd>一応ネタバレとして<br /><br />
・先生は、身を隠しているところに隠し通路で母と出会い地下に閉じ込められさ迷った挙げ句ワイン漬けで殺される<br />
・教授は、先生を探している内に隠し通路に気付き母と出会い甲冑を着せられ首を切られ殺される<br />
また、先生生存時でも和の神隠しの際、礼拝堂→教授を選ぶと礼拝堂に教授一人となったとき<br />
神隠し通路から出てきた?母と対面して上記のように殺される<br />
・三笠は、悪魔に気絶させられ隠し通路に放置したところを母に発見され迷路にトラップを仕掛けられ<br />
足掻いている内にトラップの斧に刺され殺される<br />
・ザックは、犯人を風呂の前で待ち構えるが逆に返り討ちにあい殺される←顔見知りのため油断したと思われ<br />
・ネリーは、ザックがいないため守ってくれる相手イナス<br /><br />
基本的に神隠しにあった人はいなくなったその日にみつければOK<br /><br /></dd>
</dl>
<p><strong>奈落の城 一柳和、2度目の受難</strong></p>
<p>part42-13~38,42,45,46</p>
<hr />
<dl>
<dt>13 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:28:01
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>奈落の城 一柳和、二度目の受難。<br />
<br />
記号の見方<br />
N-○…主人公視点で書かれている部分。<br />
S-○…ゲーム内に出てくる各種資料。<br />
T-○…章タイトル。<br />
Y-○…ゲームについての解説。<br />
○-f…自由時間内で起こす行動。<br />
EX-○…失敗パターン。本来なら起こりえないが、可能性の一つとして書いておく。<br />
<br />
S-000<br />
ああ、なんということに気付いてしまったのだろう。<br />
あれは恐らく、悪魔を――いや、全てを完全に封じる唯一の方法に違いない。<br />
だが、誰がそれを行えるというのだ?<br />
ルロイの血に列なる者たちの、一体誰が?<br />
私には出来ぬ!耐え切れず、鐘が鳴り響くに違いない!<br />
実行できぬ封印。それが初代伯爵の残した最期の呪いなのか。<br />
――呪いは死なず。(絶筆)<br />
<br />
Y-01<br />
このゲームは本格推理アドベンチャーです。<br />
あなたは一柳和(いちやなぎ なごむ)になって、謎を解くんだよ。<br />
このゲーム、実はいくつかのルートに分かれてて、1回のプレイでは全てを把握することはできないんだ。<br />
でも、頑張って1本のルートで、ほとんどの要素が入るように書いてるんだって。<br />
だから、ゲーム内の実際の展開とは違うところがあるから、そこはご了承ください、だって。<br />
それでは、いってみよー♪<br />
<br />
T-1<br />
Introitus <新しき歌、うたえ> (12月27日)<br />
<br />
N-001<br />
窓をたくさんの木々が通り過ぎていく。車はいつしか山道に入っていた。<br />
僕の携帯電話は海外でも使える機種だけど、山に来たら圏外になってた。<br />
山と言えば、あの事件を思い出してしまう。今から数ヶ月前、<br />
降り続く雨に閉じ込められた館での事件。(「雨格子の館」参照)<br />
左の方を見ると、洋服を着た日織(ひおり)がハンドルを握っているのが見える。左ハンドルだから。<br />
「心配なんですかい?大丈夫、あんな酷いことはそうそう起こりませんって。<br />
あ、でも、そういう事件を呼びやすい体質ってのは、あるかも知れませんね」<br />
日織は僕をからかう。そんな、縁起でもない。<br />
あ、言い忘れてた。ここはヨーロッパ。ドイツ語圏のとある小国。<br />
なんでこんな所に来ているのかというと、日織の友達だという伯爵様が、<br />
別荘のお城で休暇を過ごすというので、招待されたからなのだ。伯爵様、と言っても、まだ19歳らしいけど。<br />
旅費やその他の経費も持ってくれるというし。<br />
その伯爵様は、年が近い友達があんまりいないというので、日織は僕を誘ってくれたらしい。<br />
<br />
</dd>
<dt>14 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:28:34
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-002<br />
「見えてきましたぜ」<br />
木々の上に突き出た尖塔が見える。車はそれからしばらく走って、止まった。<br />
降りてみてびっくりする。<br />
目の前には崖があって、霧が漂っている谷が広がっていた。<br />
谷には一本の吊り橋が架けてあった。その先は尖塔に繋がっていた。<br />
その塔こそが、城に入る唯一の入り口だという。<br />
ということは、あの吊り橋を渡らなければいけないということで…。<br />
日織に手を引かれながら、おっかなびっくり吊り橋を渡って、塔の中へ入る。<br />
上を見ると大小様々な鐘が吊り下げられていた。<br />
「その鐘、今は鳴らし方が解らなくなっているらしいです」<br />
下へ下へと続く螺旋階段を降りて、やっと玄関に着いた。<br />
この城は、居住部分が全て地下にあって、地上にはあの塔しか出ていないそうだ。<br />
ここはもう地下、しかも谷底かと思うと不思議な気分だ。<br />
<br />
N-003<br />
玄関ホールには執事さんがいた。あの時と違って、これは本物の執事さんだ。<br />
本物だけあって、やっぱり所作とかが、いちいちキマっている。<br />
緊張しながら待っていると、伯爵様がやってきた。<br />
「やあ、待たせたね」<br />
いきなり日本語で話し掛けられた。この人がアルノルト。<br />
明らかに住んでいる世界が違うと感じられる空気を身に纏っていた。<br />
一柳和です、とぎこちなく自己紹介する。<br />
「そんなに固くならないでくれよ。日織の友人なら僕の友人だ。呼び方もアルでいいよ」<br />
はぁ。なんだか気が抜けてしまった。<br />
「ディーター、この方たちを応接室に」<br />
「仰せの通りに、グラーフ」<br />
グラーフとはドイツ語で伯爵のことらしい。<br />
<br />
N-004<br />
応接室でしばらく休んだあと、部屋に荷物を置きに行く。<br />
荷物を置いて部屋を出ると、大柄な黒人男性の姿が見えた。<br />
その横に、小柄なメイドさんがいる。<br />
男性はジョージという、アルのSPなのだそうだ。<br />
そしてメイドさんは千絵子さんという、日本人。<br />
ジョージさんは日本語が解るらしく、日本語で話し掛けると反応がある。<br />
でも口をまったく開かない。そこを千絵子さんが翻訳して教えてくれる。<br />
なんとも奇妙ではある。<br />
応接室に戻ると、日織はいつもの着流しに着替えていた。<br />
もう一人のメイドさん、ネリーさんがお茶を出してくれた。<br />
ネリーさんは日本語を勉強したてだそうで、片言しか話せないが、<br />
それでもなんとか意味は解る。<br />
<br />
</dd>
<dt>15 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:29:32
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-005<br />
アルと少し話をする。<br />
執事さんとは少し年が離れているけど、子供の頃からいつも一緒にいて、兄弟のような仲なのだそうだ。<br />
メイドだったという執事さんのお母さんと、アルのお母さんもまた、仲がよかったとのこと。<br />
16年前のある日、アルと執事さん、そしてそれぞれのお母さんたちと4人で外出したところ、<br />
事故に遭ってしまった。アルと執事さんは助かったが、お母さんたち2人は、そのとき亡くなったとのこと。<br />
話題を変えるつもりで、アルの正式な名前を聞いてみた。やっぱり長ったらしい名前だった。<br />
とても覚えられない。<br />
「普段は縮めて、『アルノルト・フォン・ルロイ』と名乗っているよ」<br />
ルロイという名前には聞き覚えがあった。確か、あの忌まわしい館(雨格子の館)を建てた人だ。<br />
あの館は、どこかに建てられたのを日本に移設したのだというが、まさか…。<br />
「そうだよ、和。きみをこの夏、さんざんな目に合わせたルロイ伯爵は、僕の先祖だ」<br />
この城も、あの館も、初代ルロイ伯爵が建てたものらしい。<br />
アルは僕に謝った。あわてて僕は、アルのせいじゃないと言った。<br />
だって、いろいろあったけど、僕はこうして無事にいるわけだし。<br />
<br />
N-006<br />
応接室に、招待客が次々とやってくる。<br />
まず、アルの血の繋がらない従兄弟だという、ザックさん。<br />
アルの主治医だという、白衣を着た女医のクレア先生。クレア先生の叔父のヴィンス教授。<br />
オカルト好きだという教授は、興奮した様子で僕に話す。<br />
「この城は、初代ルロイ伯爵が、とある少年を幽閉するために建てたと言われておるのだよ」<br />
初代ルロイ伯爵は黒魔術師だったが、悪魔を呼び出す儀式に失敗して、<br />
少年に悪魔が乗り移ってしまったという。その少年をこの城に幽閉したのだという。<br />
「つまりここは、生きたまま悪魔を埋葬した城、というわけだ」<br />
そして、その少年の母親が、夜な夜な幽霊となって歩き回るという。<br />
また僕の苦手な話を…。クレア先生が止めてくれなかったら、どうなっていたことか。<br />
<br />
N-007<br />
トイレに行くために応接室から出て、そして応接室に帰ろうとしたけど、<br />
廊下には似たようなドアが並んでいて、どれが応接室だか解らなくなってしまった。<br />
何故か間違えて、玄関の方に来てしまっていた。困っていると、日織が探しに来てくれた。<br />
日織の後ろから誰かやってくる。<br />
腰が9度近く曲がっていて杖をついている、もじゃもじゃの髪と鬚のおじいさんだ。<br />
「あれは、アルが呼んだっていう、祈祷師のハユツクさんですね」<br />
日織がそう説明した。ハユツクさんは僕たちに気がついたようだけど、何も言わずに、<br />
ドアのひとつに入っていった。そこはサロンのドアだという。<br />
<br />
N-008<br />
日織から、迷わないようにと、見取り図を渡された。<br />
この城は、地下1階に玄関と応接室や食堂、そして使用人の部屋があり、<br />
地下2階はアルの部屋や客間、そして地下3階には礼拝堂がある。<br />
それからしばらくたった後、最後の客が来た。気難しそうな男性だった。<br />
日本人の、三笠(みかさ)さん。日本人の、アルのおばあさんの親戚だ。<br />
三笠さんは、呼ばれたメンツがおかしいだろ、などとアルに文句を言っている。<br />
全員揃ったので夕食になった。皆は食堂に集まった。<br />
ちなみに、ジョージさんとハユツクさんは別室で食べるというので、食堂にはいなかった。<br />
<br />
</dd>
<dt>16 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:31:31
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-009<br />
この城にいる人たちを纏めてみる。あとで手帳に書いておこう。<br />
アル…アルノルト・フォン・ルロイ。19歳。伯爵家26代当主。<br />
執事さん…ティーロ(ディートリヒ)。アルは「ディーター」と呼ぶ。27歳。アルの執事。<br />
ザックさん…イザーク・フォン・ルロイ。24歳。日本人とのハーフ。絹也(きぬや)という和名がある。<br />
三笠さん…三笠尉之(やすゆき)。36歳。<br />
教授…ヴィンス(ヴィンセント)。50歳。歴史学者でオカルト大好き。<br />
クレア先生…クラリッサ。27歳。アルの主治医で教授の姪。<br />
ジョージさん…33歳。アルの護衛。<br />
千絵子さん…中居千絵子。21歳。アルの家のメイド。所謂ドジっ子。<br />
ネリーさん…コルネーリア。18歳。アルの家のメイド。<br />
ハユツクさん…出身も年齢も不明。アルが呼んだという祈祷師。<br />
皆、日本人だったり、日本に縁があって何回も日本に行ったことがあったり、<br />
日本語を勉強していたりして、全員日本語が通じる。だから、日本語で話している。<br />
僕も英語だったら読めるし話せるけど、ドイツ語はさっぱりだもんな。そして、一応、僕たちも書いておこう。<br />
僕…一柳和。21歳。大学生。極度の怖がり。<br />
日織…高遠日織。26歳。売れない役者。<br />
<br />
N-010<br />
食事が済んで、皆は応接間で食後のお茶を飲む。そのとき、突然、停電になった。<br />
「怨念が強くなってきておるのう。おお、何かが城を彷徨うておる…」<br />
唐突に声が響き渡った。<br />
しばらくして、電気がついた。見たところ、さっきと変わったところはなさそうだ。<br />
クレア先生は、さっきの怨念がどうのと言っていた声は、ハユツクさんの声に似ていると言うが、自信がないと言う。<br />
<br />
N-011<br />
三々五々、皆は自室に引き上げていく。日織は、僕に話しておきたいことがあると言うので、<br />
日織の部屋へ行った。<br />
日織の部屋は、僕の部屋よりも広い。奥にはウォークイン・クロゼットがある。<br />
「これから話すことは、他言無用でお願いしますぜ」<br />
そう言って日織は話し始めた。<br />
最近、アルの所に脅迫状が届くという事件があったという。<br />
その脅迫状には、アルは伯爵に相応しくないとか、そんな内容が書いてあったそうだ。<br />
伯爵に相応しく無いと言えば、思い当たる節がある。<br />
先々代、つまりアルのおじいちゃんの正妻は、絹子(きぬこ)という日本人だそうだが、<br />
先々代と絹子さんの間には子供ができなかったという。<br />
そこで、日本人である、ザックさんのお父さんが養子になった。<br />
ザックさんの和名、絹也は絹子さんから一字貰ったそうだ。<br />
だがそんな矢先、先々代のお妾さんが息子を、つまりアルのお父さんを産んだので、<br />
ザックのお父さんは爵位を継ぐことはなかった。<br />
妾腹の子の息子が爵位を継ぐのは相応しくない、と。そういうことかもしれない、とのこと。<br />
この件は公表せずに、秘密裏に解決したいとのことだ。<br />
「何か、犯人を見つける、いい方法、思いつきません?」<br />
日織はにやにやしながら僕に言う。ちょっと待ってよ。<br />
「いや、思いついたらでいいんで」<br />
何を期待しているんだよ。期待されても無理だからね。<br />
<br />
<br />
</dd>
<dt>17 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:33:28
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>T-2<br />
Kyrie <主よ、憐れみたまえ> (12月28日)<br />
<br />
N-012<br />
目を覚ましてすぐ、腕時計を確認する。もうこんな時間か。<br />
地下なんだから当たり前だけど、窓も無いし、時間の感覚がおかしくなってしまう。<br />
食堂に行って遅い朝食をとる。千絵子さんに遅いと叱られてしまった。<br />
その後、応接室でくつろいでいると、食堂の方から女性の悲鳴が聞こえてきた。<br />
行ってみると、ネリーさんが立ちすくんでいた。<br />
食堂の白いテーブルクロスに、赤いシミが広がっているのが見えた。<br />
側にワインの瓶が倒れているから、きっと赤ワインがこぼれたのだろう。<br />
ネリーさんに聞いてみると、食堂には誰もいなかったのに、ひとりでに瓶が倒れたということだ。<br />
食堂内を一通り見てみる。ワインの瓶は一本しかないのに、コルクは6本も落ちている。<br />
それに、食堂の四隅にそれぞれ置いてある彫像は、一体だけ、中身が空洞になっていた。<br />
洗濯が大変だ、と千絵子さんは文句を言いつつ、テーブルクロスを取り換えにかかった。<br />
<br />
N-013<br />
連鎖するように、他の問題が発生した。ジョージさんが今日になって行方不明になったという。<br />
最後に会った人は、昨晩会って、それ以来見かけてないと言う。<br />
ジョージさんがいそうなところや、普段は入らない、サロンや礼拝堂も探してみるが、やっぱりいない。<br />
<br />
N-014<br />
執事さんに呼ばれて、皆は制御室に集まった。<br />
あの吊り橋を映している、防犯カメラの映像がおかしいと言う。<br />
モニターに映っているのは、落された吊り橋の映像。<br />
ちょっと吊り橋を確認してきます、と日織が玄関から出て行った。<br />
僕と皆はモニターをじっと見守る。日織が塔の上まで登ったら、姿が映るはずだ。<br />
だが、どれだけ待っても日織の姿は見えなかった。<br />
慌てた僕は玄関に行って、外に出る扉を開けようとするが――鍵が閉まっている。<br />
執事さんが持っている鍵で開けようとしたが、細工がされているらしく、開かなかった。<br />
ちなみに、この城には電話はない。橋が落ちた以上、外へ行ける見込みも、助けを呼ぶ見込みもなくなった。<br />
アルは、一週間経って帰らなければ、異常を感じて助けが来るから心配は無い、と言うけど、でも…。<br />
<br />
N-015<br />
ジョージさんに続いて、日織までいなくなるなんて…。<br />
応接室に集まった皆に不安が広がっていく。<br />
だけど、アルは毅然としている。<br />
「だって、和は名探偵なんでしょ?」<br />
アルはそんなことを言う。うわっ。日織から何を吹き込まれたんだ…。<br />
「犯人が誰だろうと、自室に引っ込んでりゃ大丈夫だろ?」<br />
ザックさんはそう言う。とりあえず、晩御飯のときに応接室に集まることにして、解散となった。<br />
僕も自室に戻る。<br />
…こんなとき、どうしたんだっけ?<br />
あのときは、日織と相談しながらいろいろやってたけど。<br />
あのとき、雨が降り続いた館にいたときは…。<br />
ああ、駄目だ。考えてるだけじゃ。とにかく、行こう。どこかに。<br />
<br />
</dd>
<dt>18 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:34:07
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-016-f<br />
食堂で、ワインの瓶が倒れた件を皆に一通り聞いて、情報を整理してみる。<br />
こうしてみると、だいたい解るな。犯人は、食堂に誰もいない数分間を狙って、やっている。<br />
<br />
N-017-f<br />
物置に、謎の紙切れを見つける。ずいぶん古いみたいだ。でも、ドイツ語で書いてあるので読めない。<br />
ドイツ語が解る人に見せて訳してもらったら、何かの詩みたいだった。<br />
<br />
N-018<br />
調査を切り上げて、応接室に行く。皆が応接室に集まった頃、大音量で音楽が鳴り響いた。<br />
どうやらアトリエの方から聞こえてくる。教授が、この曲は「霧と月の宴」という名前だと教えてくれた。<br />
皆がアトリエに駆けつける頃には、音楽は止んでいた。皆が見ている視線の先、そこには、<br />
鍵盤ハーモニカが置かれていた。なんか懐かしい。どこかで聞いたような音色だと思ったけど、これか。<br />
ピアニカとかメロディオンとかとも呼ばれるけど、それは商標なので鍵盤ハーモニカと呼ぶことにするけど。<br />
とにかく、鍵盤ハーモニカなんて間抜けだ。<br />
<br />
N-019<br />
今度は宝物庫で何か見つかったらしい。地下2階の隅の宝物庫は、高そうなものがたくさんあるところだ。<br />
床に、布に書かれた魔法陣が置いてあった。<br />
教授は、この魔法陣は悪魔を呼び出すものだとかなんとか喚いている。<br />
魔法陣はそのまま触らないようにして、宝物庫を出た。<br />
<br />
N-020<br />
三笠さんに、話があるから来いと言われたので、三笠さんの部屋へ。<br />
いきなり、この城の見取り図を渡された。しかも、三笠さんが手書きしたものらしい。<br />
あれ?昨日、日織から貰ったのと違う…。廊下の長さも微妙に違うし、それに、なんだ、この隙間?<br />
三笠さんは、この城の実際の構造は見取り図と違うことに気付いたので、<br />
実際に調査してこれを書いたのだという。いつの間にこんなことを…。<br />
「続きはお前がやれ。俺は飽きた。…お前、おかしいとは思わなかったのか?<br />
召使も少なすぎる上に、招待客は仲良しで固めてやがる」<br />
鋭い。言われてみればそうだ。もしかして、と思って、聞いてみた。<br />
三笠さんは、日本では、お仕事、何されてるんですか?<br />
「…探偵」<br />
えっ?本職?<br />
「だからどうした。探偵の上に付くのは『私立』だぞ、『名』じゃない」<br />
それなら、なんで僕にやれなんて言うんですか。<br />
「仮にも他人から名探偵と呼ばれてるなら、泣き言を抜かすな、馬鹿者!」<br />
叱られてしまった…。<br />
<br />
N-021<br />
三笠さんの部屋を出て廊下を歩いていると、<br />
ザックさんとネリーさんが親しげに、ドイツ語で何か話しているのに出くわした。<br />
ネリーさんには恋人がいるとか聞いてたけど、もしかして…?<br />
ふいにネリーさんは何かを思い出したらしく、ドイツ語で何か言った後、慌てて去っていった。<br />
「ハハッ。サロンに掃除用具を置きっぱなしにしてたってさ。かわいいだろ。オレの、だからな。<br />
手ぇ出したら容赦しないからな」<br />
解ってますって。<br />
<br />
</dd>
<dt>19 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:34:55
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-022<br />
ネリーさんが掃除用具を片付けに行ったサロンから悲鳴が聞こえた。<br />
行ってみると、奥のほうに何か白いものが見える。やっぱり、あれなのかな。<br />
ネリーさんに、クレア先生を呼ぶように言ってから、サロンの奥へ。<br />
サロンはだだっ広い部屋だ。舞踏会をやったりするらしい。<br />
奥の方に簡易な舞台がある。その上に動かなくなったジョージさんがいた。<br />
全身を白い布で巻かれている。胸には刃物が突き立っていて、その周りには血が滲んでいる。<br />
足はひざまずくように折り曲げられ、手は胸の前で祈るように組み合わされている。<br />
余りにも異様な光景。あの夏のことを思い出してしまう。<br />
これは…やっぱり、見立て殺人、なのだろうか。<br />
クレア先生と三笠さんが来た。三笠さんが近付こうとしたけど、<br />
クレア先生は触らないで、と三笠さんを制して、ジョージさんの首筋に指を当てて脈をとった。<br />
そして、先生は首を横に振った。<br />
アルや執事さんたちも駆けつけてきた。現場はそのままにすることにして、執事さんがサロンに鍵をかけた。<br />
<br />
N-023<br />
応接室に集められた皆に話を聞く。肩を震わせているネリーさんに、ザックさんが付き添っている。<br />
しばしの沈黙が訪れたあと、アルが口を開く。<br />
「古来、ルロイ家に仇なす者は、ことごとく、逆に災いが降りかかり、変死したそうだから、<br />
呪われた血も、城も、全てを受け継いだこの僕に仇をなしたからには、後悔してもらおう」<br />
アルの目には、恐ろしいほど壮絶な笑みが浮かんでいた。<br />
それを聞いたネリーさんはすっかり怖がってしまった。ザックさんも一緒に応接室を出て行った。<br />
少し経つと、アルはいつものアルに戻っていた。怖がらせすぎちゃったかな、と言って反省している。<br />
その日はそれで解散となった。<br />
<br />
N-024<br />
寝る前に、日織の部屋に入ってみた。もしかして、帰ってきてるかも、と思ったけど、<br />
当然のことながら誰もいない。<br />
ふと見ると、書き物机の上にあるノートパソコンの電源が入っている。<br />
画面には次のような文章が表示されていた。<br />
<br />
S-001 (日織からのメッセージ)<br />
なごさんへ。<br />
これを読んでるってことは、俺と話が出来ない状況になってるんじゃねぇかと思います。<br />
俺のことは後回しでいいですから、<br />
今、目の前にある問題をなんとかしてやって下さい。<br />
それはたぶん、なごさんにしか出来ないことなんじゃないかと思うんです。<br />
なごさんは名探偵なんですから。それでは、ご武運を。 日織<br />
追伸:昼でも暗くなることはあるんです。あんまり、焦りなさんな。<br />
<br />
N-025<br />
何が、ご武運を、だ。馬鹿!<br />
…腹を立ててもしょうがない。しばらく、気持ちが落ち着くまで待ってから、<br />
パソコンの電源を落して、日織の部屋を出た。<br />
<br />
</dd>
<dt>20 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:36:26
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-026<br />
廊下に出ると、ハユツクさんがいた。<br />
突き当たりに置いてある柱時計に鍵を差し込んで、蓋を開けて何かしている。<br />
僕に見つかったのに気付くと、ハユツクさんは作業をやめて、鍵束をひっこめた。<br />
そうだ、気になってた、あのことを聞いてみるか。<br />
ハユツクさんの出身地はどこなのかと聞いてみたら、意外にも日本だという。<br />
「ハユツクは、漢字では、『蝕み(はみ)』、『尽きる』と書く」<br />
はむ?蝕む(むしばむ)、とか、月蝕(げっしょく)とかの?<br />
「左様」<br />
ハユツクさんは、自室に引き上げていった。<br />
僕はハユツクさんの言ったことを考えてみた。月食、じゃなくて月蝕か。<br />
ん、これは、もしかして…。まぁいいや。<br />
とにかく、柱時計に何かあるらしいことは解った。鍵があれば開くのか。明日、聞いてみよう。<br />
<br />
N-027<br />
部屋に帰って、ベッドに横になったが眠れない。<br />
突然、ドアをノックする音が聞こえた。飛び起きて、ドアを開けてみるが、誰もいない。<br />
見回すと、廊下の角を曲がる人影が見えた。長い髪をなびかせて、白いガウンを着ているようだった。<br />
クレア先生に似てるような気もするけど…。もしかして、子供を探してさまよう母親の幽霊…とか?<br />
きっと考えすぎだ。これ以上考えると怖くなるので、何も考えないようにして眠った。<br />
<br />
Y-02<br />
ここまでで余りにもチキンな行動をとっていたり、三笠さんとの会話(N-020)で選択肢を間違えたりすると、<br />
和くんが日本に帰ることになってゲームオーバーです♪<br />
<br />
<br />
T-3<br />
Gloria <天には神に栄光> (12月29日)<br />
<br />
N-028<br />
目を覚ます。食堂へ行くことへした。途中でネリーさんに会ったので、<br />
昨日ハユツクさんが持っていた鍵束のことを聞いてみた。<br />
すると、予備があるので貸してくれることになった。<br />
朝食の後、ネリーさんは鍵束を持ってきてくれた。鍵の一つ一つは微妙にデザインが異なっている。<br />
柱時計は城のあちこちに設置してあって、開くにはそれぞれ対応した鍵ではないとだめらしい。<br />
<br />
</dd>
<dt>21 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:37:13
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-029<br />
地下2階に下りると、目の前の廊下を執事さんが通り過ぎるところだった。<br />
おはようございます、と声をかけたけど、執事さんはそのまま行ってしまった。<br />
僕に気が付かなかったのかな?でも、執事さんらしくない。<br />
執事さんは、日織の部屋に入っていった。掃除はメイドさんがするはずだし、何の用だろう。<br />
気になったので、日織の部屋の前へ。<br />
ドア越しに、ドイツ語で何か喋っているのが聞こえてくる。執事さんの他に、誰かいるらしい。<br />
両方とも男の声なのは確かだ。しばらくすると、話し声は止んだ。<br />
迷ったけど、ドアを開けて中へ入った。誰もいない。<br />
よく見ると、クロゼットのドアが開いていたので、恐る恐る中を覗いてみたが、<br />
やっぱりいない。そんな、執事さんが消えた?<br />
三笠さんや教授を呼んできて、事情を説明する。<br />
日織のパソコンが起動している。昨日、確かに電源を落としたのに。<br />
画面には…あの悪魔を召喚するという魔法陣が表示されている。<br />
「む、これは面妖な…」<br />
教授は、これは悪魔の仕業だとか言っている。<br />
これ以上は、今はどうしようもない。あとでもう一度調べよう。<br />
<br />
N-030<br />
応接室でクレア先生に会った。執事さんが消えたことを話すと、自分も一緒に調査すると言い出した。<br />
先生と一緒に、執事さんの部屋を調べさせてもらうことにした。<br />
机の上に、変なものがあった。表紙しかなく、中身が破り取られた本。<br />
装丁からして、日記のようだけど…。<br />
「一応、あなたが持っていて」<br />
クレア先生がそう言うので、執事さんには悪いけど、持ち出させてもらうことにする。<br />
<br />
N-031<br />
応接室に帰ってくると、ザックさんがあわてた様子でやってきた。<br />
玄関の扉が開いていたので、外に出て、橋が落ちている現場を見てきたとのこと。<br />
どうして開いたかは不明だけど。<br />
実際に見に行きたいと言うアルたちは、玄関を出て外へ行った。僕もついて行った。<br />
螺旋階段を上って塔の上へ。吊り橋のロープは手前側で切断されていた。<br />
鉈のようなもので切られたようだけど、でも、そんな刃物はこの城にはないらしい。<br />
僕はそーっと下を覗き込んだ。誰かが落ちたような様子はない。<br />
良かった。執事さんはたぶん、城の中のどこかにいる。そして、日織も。<br />
<br />
N-032<br />
昨日もそうだったけど、今日もまた、夕食時に集合することにして、解散となった。<br />
<br />
</dd>
<dt>22 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:37:54
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-033-f<br />
宝物庫で気になるものを発見した。ポツンと置かれた本。ドイツ語で書かれている。<br />
リ…ロイ?「Leroy」という記述がある。リロイ家にまつわる内容なのか。<br />
ハユツクさんに見せてみたら、この本は、13代リロイ伯爵の手記だという。<br />
「その日本語訳がこれじゃ」<br />
ハユツクさんは懐から本を取り出して僕にくれた。「13代伯爵の記録」。著者は成瀬公康となっている。<br />
これは自費出版本らしい。少年が森の中でたたずんでいる絵が表紙になっている。<br />
成瀬氏はオカルトマニアとして有名で、あの館(雨格子の館)の現持ち主の好事家だ。<br />
ぱらぱらとめくってみると、「呪は死なず」という言葉が目に飛び込んできた。<br />
それ(S-000参照)は、13代伯爵が書いた手記の最後の部分だという。<br />
その後、伯爵は自殺したとか。うう、不気味だ。<br />
13代が書いたという手記の部分抜き出してみる。<br />
<br />
S-002 (舞台の影)<br />
…の夜のことだった。宴の後の誰もいないはずの舞台に、<br />
禍々しい悪魔の影が揺れているのを門番が目撃したのだ。<br />
それを封じるには、清めた白い布で覆い、聖なる灯火にひざまずかせなければならぬそうだ。<br />
<br />
S-003 (宝に潜むもの)<br />
平穏な日は長くは続かなかった。<br />
城の薬師を問い詰めてみると、財宝の中に悪魔が潜んでいるのを見たと告白した。<br />
これを封じるには、逆さに吊るしてワインに浸すしかない。<br />
<br />
S-004 (悪しき魂)<br />
祈祷師は、地下深くに悪しき魂の存在を感じると言った。<br />
砂に封じて、騎士に見張らせるべきだというので、召使らに探索を命じた。<br />
だが、その悪しき魂は見つからなかった。<br />
<br />
S-005 (水に浮かぶ刻印)<br />
オスカーが水面に浮かぶ悪魔の印を見てしまった。<br />
オスカーは無事だったが、もし悪魔が憑いていた場合は、胸に封じの印を刻まねばならぬ。<br />
<br />
S-006 (食卓の怪)<br />
相変わらず奇怪な現象は止まない。<br />
ゾフィーヌが食卓で気を失っていた。彼女を早く清めてやらねば。<br />
祈祷師の指示で、白い羽根に埋め、浄化の香を焚いた。<br />
<br />
S-007 (絵の中の少年)<br />
絵の中から呼ぶ声が聞こえたという。森の中で、少年がたたずんでいる絵だった。<br />
祈祷師は、この絵からただならぬ怨念を感じるという。<br />
すぐさま処分してもらうことにする。<br />
もし悪魔が現れたら、汚れた血を抜き、檻の中に閉じ込めねばならない。<br />
<br />
S-008 (迷宮の悪魔)<br />
夜毎、城の奥深くからうめき声のようなものが聞こえる。<br />
祈祷師は、迷宮に潜む悪魔を封じるには、その場に人がいてはならぬと言う。<br />
ひざまずいた悪魔が、自ら裁きを受けるようにせねばならない。<br />
<br />
</dd>
<dt>23 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:39:57
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-034-f<br />
白い布で覆うって…この最初の部分、ジョージさんはこれに見立てられたのだろうか。<br />
不明な部分もあるけど、とにかく、警戒しておこう。<br />
<br />
N-035-f<br />
日織の部屋へ行く。やっぱり、あのクロゼットが怪しいよな。<br />
クロゼットの奥にタンスがあって、その扉を開くと…奥には、隠し通路が続いていた。<br />
執事さんはこの奥に消えたのだ。隠し通路を進んでいくと、鍵のかかったドアが見つかった。<br />
これ以上進めないので引き返した。<br />
<br />
N-036-f<br />
三笠さんが書いた見取り図を見る。クレア先生と三笠さんの部屋の間に、変な空間がある。<br />
その辺りをうろうろしてみたが、特に怪しいものは見つからない。ふと柱時計が目に入る。<br />
横には鳥のレリーフがある。鳥といえば、昨日物置で見つけたメモだ。<br />
この詩にある、「美しい声で歌うもの」のことだろう。鍵を差し込んで回して、時計のふたを開く。<br />
メモの暗号を解いて、その時間に針をセットすると、カチリという音がして、壁の一部が動いた。<br />
そこには小部屋のようになっている。はしごが上に伸びている。<br />
上ってみると、光が漏れている穴がある。覗くと、食堂が見えた。<br />
これはあの、空洞になっていた彫像の中だ。そして床には、空気銃が転がっていた。<br />
よく見ると口径がやけに大きい。きっと、コルクの栓を弾にして、ワインを狙って撃ったのだ。<br />
でも当たらなかったか何かしたので、コルクが6つも落ちていたのだ。<br />
<br />
N-037<br />
調査はそれで切り上げて、応接室に行った。<br />
夕食になったけど、食欲が出ない。日織も執事さんも、どこかで生きていると信じたいけど、でも、<br />
ちゃんと食べてるのかな…。<br />
その日の夜はそれ以上何も起こらなかった。<br />
<br />
<br />
T-4<br />
Alleluia <主をほめ称えよ> (12月30日)<br />
<br />
N-038<br />
応接室に行く。<br />
「礼拝堂にお祈りに行こうと思って。ちょっと付き合ってくれない?」<br />
クレア先生がそう言って、小脇に抱えた聖書を見せた。<br />
え、でもうちは仏教ですよ、と言ったけど、それでもかまわないと言う。<br />
確かに、一人きりじゃ危ないもんな。側にいた三笠さんも、心配だからついていくというので、<br />
3人で礼拝堂に下りていった。<br />
<br />
</dd>
<dt>24 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:40:46
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-039<br />
礼拝堂に足を踏み入れた先生は悲鳴を上げた。宝物庫にもあった、魔法陣が、礼拝堂の床に置かれていた。<br />
昨日までは、何も異常はなかったらしい。三笠さんはクレア先生についているというので、<br />
僕は急いで階段を駆け上がって、地下2階へ。先生の悲鳴を聞いて部屋を出てきたアルに、事情を話す。<br />
ふとみると、ハユツクさんが角を曲がるところだった。<br />
そして…あれは執事さん?チラッとだけど、見えた。<br />
えっ、何?何で?僕はハユツクさんを追いかけようとした。<br />
「待ってよ、和!礼拝堂はいいのかい?」<br />
アルはそう言って止めようとしたけど、それでもハユツクさんの方が気になる。<br />
ハユツクさん追いついたとき、執事さんの姿はもうなかった。<br />
「こっちに来なされ」<br />
ハユツクさんに半ば強引に手を引かれて、ハユツクさんの自室に連れて行かれた。<br />
<br />
N-040<br />
やっぱり怪しいよな。僕はハユツクさんに、思っていたことをはっきり言ってみることにした。<br />
お前、日織だろ?<br />
「どうしてそう思うね?」<br />
ハユツクさんは逆に聞き返してきた。まず、一昨日の夜のことだ。<br />
ハユツクさんは、僕に目撃させるために、時計を開けて操作していたのだ。<br />
時計に何かあることを知らせるために。そんなことをするのは日織だけだろう。<br />
時計の謎を解かせるんだったら、三笠さんとかの方が適任だ。でも敢えて僕に見せた。<br />
そして、メッセージの追伸。昼でも暗くなるとは、日食のこと。<br />
そして「蝕尽」とは、たぶん、日食のことだ。日織と対比させるように、そんな名前を名乗っていたのだ。<br />
ハユツクさんの腰がすっと伸びる。そしてもじゃもじゃの髭をつかんで、外した。日織の顔が現れた。<br />
「ただいま、なごさん」<br />
<br />
N-041<br />
再び老人の姿に化けた日織に、アルの部屋に連れて行かれた。<br />
「騙して済まなかったね、和。そろそろ見抜かれるんじゃないかと思ってたんだ。…ディーター?」<br />
「お側に、グラーフ」<br />
執事さんが出てきた。さっきのは見間違いじゃなかったんだ。<br />
クレア先生もやってきた。日織は老人の変装を取った。<br />
全部アルが計画したの?と聞いてみた。<br />
「そうだよ。日織やディーターが失踪したのも、ジョージが殺された件も。<br />
僕が日織たちに頼んで協力してもらった狂言だったんだよ。<br />
和を呼ぼうと思ったのもさ、君が極度の怖がりだと聞いたからなんだ。<br />
教授はあの通りの人だし、一人くらい怖がってくれる人がいないと、お話にならないと思ってさ。<br />
でも、今は和が来てくれてよかったと思ってる。君は自力で狂言を見抜いてくれた。<br />
君は本当に名探偵なんだね」<br />
誰も失踪してないし、だれも死んでなかった。そう思うと、気が抜けて涙が出てきた。<br />
「…怒らないの?」<br />
「怒ってもいいのよ?何も泣くことないじゃない」<br />
そんなこと言われても、怒る気にはなれないよ。<br />
「ありがとう、和。日織が言った通りだね。こんなとき、怒らないで、泣く人だって」<br />
<br />
</dd>
<dt>25 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:41:36
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-042<br />
ワインが倒れた事件は、クレア先生がやったことだった。<br />
あの変な空間にあったはしごを上って、推理通り、誰もいない時間を狙って、空気銃でワインを倒した。<br />
日織は、失踪したように見せかけた後、玄関の外でしばらく待ってから、<br />
中に入れてもらって、ハユツクさんに化けたという。<br />
最初に会ったとき、日織が一緒にいたけど、そのときは執事さんが変装していたという。<br />
停電のときは、日織がハユツクさんの声だけ出していた。<br />
執事さんは日織の部屋の奥の隠し通路から消えた。その後、ずっとアルの部屋に隠れていたらしい。<br />
宝物庫や礼拝堂の魔法陣もアルたちの仕業だ。そしてさっき、クレア先生も失踪しようとしたらしい。<br />
礼拝堂の奥に隠し扉があるので、そこから消える予定だったとか。<br />
鍵盤ハーモニカは日織が鳴らしたらしい。でも何で鍵盤ハーモニカなんだろう?<br />
「バイオリンが勝手に鳴った方がよかったですかい?」<br />
そんなのいやだ、怖すぎる。怖すぎてアトリエに近寄れなくなってしまう。<br />
「ほらね、こういう人なんです」<br />
…あっ、そうか。僕のためなのか。<br />
<br />
N-043<br />
「そうだ。和に謝らなきゃならないことがあるの。<br />
一昨日の夜、あなたの部屋をノックして行ったのは、私よ」<br />
あれはやっぱりクレア先生だったのか。<br />
そして、ジョージさんの件。ジョージさんを死んだように見せかけて、サロンを閉鎖したあと、<br />
ジョージさんをこっそり助けた。その夜に、ジョージさんは吊り橋を渡って城を出て行った。<br />
それを聞いて驚く。そう、制御室のモニターで見たのは合成画像で、そのときはまだ橋は架かっていた。<br />
アルたちは、本当に橋を落とすつもりはなかったという。でも次の日、橋は落とされていた。<br />
「我々の計画にないことをしている、悪意を持った犯人が別にいるということですね」<br />
執事さんが怖いことを言う。<br />
<br />
N-044<br />
どうしてこんな狂言殺人を思いついたかというと、あの脅迫状の件を解決したかったからだそうだ。<br />
「あの脅迫状には、僕たちしか知らないことが書いてあったんだ」<br />
絹子さん、つまりアルのおばあさんが亡くなったとき、日本の別荘でもお葬式をしたそうだ。<br />
夜、絹子さんが大切にしていた絵が、ひとりでに壁から落ちた。<br />
その場面に居合わせたのが、僕を除いたこの城にいるメンバーだった。<br />
絵が落ちたことが脅迫状にも書いてあったという。<br />
ジョージさんが殺されたように見せかけられた後、<br />
応接室でアルが「ルロイ家に仇なす」云々と凄みをきかせていたのは、<br />
その中にいるであろう脅迫犯に向けて言った言葉なのだという。<br />
<br />
N-045<br />
ワインの件やジョージさんの件は、まだ未解決ということにしておくことに決まった。<br />
執事さんは、隠し部屋に捕まっていたとか適当に言い訳することにして、仕事に戻るという。<br />
日織は、まだしばらく失踪したままにしておくと言って、またハユツクさんに化けた。<br />
僕も、いつもの通り調査することにした。脅迫事件も、橋を落とされた件も、まだ解決していない。<br />
<br />
</dd>
<dt>26 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:42:44
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-046-f<br />
客間の一つ、僕の部屋の隣は空き部屋になっている。<br />
空き部屋のテーブルの上には、何枚もの紙が散乱していた。拾い集めて、持っておく。<br />
大きさからして、執事さんの部屋にあった表紙の中身っぽいな。やっぱりドイツ語で書かれていて読めない。<br />
礼拝堂にいた教授に紙を渡して読んでもらう。教授の顔が見る見る青くなる。<br />
これは、先代、つまりアルのお父さんの日記だが、とんでもないことが書かれていた。<br />
以下が、教授が翻訳してくれた日記の内容だ。<br />
<br />
S-009 (先代の日記1)<br />
目覚めたとき、”あの子たち”は何も覚えていなかった。すべては眠っている間の出来事だったから、<br />
それは幸いというべきだろう。<br />
自分たちが悪魔を呼び出すための”生贄”と”依代(よりしろ)”にされていたなどという記憶など<br />
無い方がいい。<br />
しかもそれを行おうとしたのは、彼らの”母たち”なのだ。<br />
<br />
S-010 (先代の日記2)<br />
(欠落)…のときすでに、”彼女たち”は、悪魔崇拝にかぶれていた。<br />
<br />
S-011 (先代の日記3)<br />
気付いたときには、忌まわしい儀式は始まっており、<br />
”彼女”は”わが子”を悪魔の”生贄”に捧げるために、短剣を振りかぶっていた。<br />
私は、”彼女”を射殺せざるをえなかった。<br />
私が”あの子”を抱き上げると、”彼女”は私にすがりついて、悲鳴を上げた。<br />
”依代”を動かしては悪魔が逃げてしまう、初代伯爵と同じ過ちを犯すつもりですか、と言った。<br />
<br />
S-012 (先代の日記4)<br />
正気を失った”彼女”を、もう日常に連れ帰ることは出来なかった。<br />
亡くなったと告げて、密かにここに閉じ込めておくしかなかった。<br />
まさか、自らこの城をあの伝承と同じように使わねばならないとは…。<br />
やはり、ルロイの血は呪われているのかもしれない。<br />
<br />
S-013 (先代の日記5)<br />
人知れず”彼女”が亡くなり、久しぶりにここを訪れた。<br />
なんということだろう。”彼女”は”愛するわが子”を手にかけて死なせたと思い込んでいるようだ。<br />
自らが閉じ込めてしまっていることに気づいていないのだ。<br />
<br />
S-014 (先代の日記6)<br />
忌まわしい儀式や、悪魔の存在を思わせるものは全て、目に触れぬところに処分してしまわねばならない。<br />
あれらが”悪魔”を呼び寄せるのだ。<br />
ああ、まさか本当に”悪魔”が招かれてしまうとは…。<br />
<br />
</dd>
<dt>27 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:45:20
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-047-f<br />
その日記は欠落部分や読めないところもかなりあった。<br />
しかも、”彼女”とか”わが子”などは、具体的に何を指すのかも不明だ。<br />
でも解ったことがある。”母たち”とは、アルと執事さんの母親だ。<br />
アルと執事さんは子供の頃、生贄と依代にされかけたことがあるんだ。<br />
お母さんたちは事故で死んだんじゃなくて、射殺されたり、この城に幽閉されて殺されたんだ。<br />
その証拠に、礼拝堂の壁には、そのとき出来たと思われる弾痕があった。<br />
教授は、この日記は他人には、特にアルには見せてはいけないと言う。<br />
アルにとって母親とは、聖母のような清らかな人物なのだ。<br />
<br />
Y-03<br />
この日記をメイドさんたちや執事さんに見せると、アルに見せなければダメだ、<br />
ということになって、結果的にアルが日記を見てしまいます。<br />
アルが日記を見てしまうと、アルが精神崩壊してしまってゲームオーバーでーす♪<br />
<br />
N-048-f<br />
ネリーさんに聞いたが、あの日記があった空き部屋を最後に掃除したのは、<br />
昨日の朝、執事さんが失踪する直前だという。<br />
<br />
EX-1 (クレアを助けられなかった場合)<br />
ワインセラーから尋常じゃないほどのワインが無くなっていた。<br />
地下2階に行ってみると酒くさい。<br />
教授やザックさんが部屋にワインを持ち込んでいるのかと思ったけど、それも違う。<br />
臭いのもとは宝物庫だった。<br />
天井から逆さに吊るされたクレア先生は、ワインを満たした容器の中に顔を突っ込んで、<br />
溺死していた。長い髪がゆらゆらとワインの中で揺れていた。<br />
<br />
EX-2 (クレアが死亡した場合などに発生)<br />
教授が行方不明になってしまった。<br />
隠し通路を通って階段を下りたところにある隠し部屋の真ん中に、西洋式の鎧が置いてあるのを見つけた。<br />
鎧には血がべっとりとついている。面頬は下りていた。<br />
恐る恐る、面頬を上げてみると、そこには何も無かった。もう限界なので逃げ出した。<br />
後から聞いた話だと、教授の体だけ鎧の中にあり、首は切断されて別のところに置いてあったという。<br />
<br />
<br />
T-5<br />
Credo <わたしは信じます> (12月31日)<br />
<br />
N-049-f<br />
アトリエの作業台の上に、大き目の彫刻刀が置いてあった。<br />
よく見ると、繊維みたいなのが引っかかっている。証拠になりそうなので持って行く。<br />
アトリエの奥には小部屋があった。そこには何故か牢屋があった。今は使われてないみたいだけど。<br />
<br />
N-050-f<br />
執事さんに彫刻刀を見せる。<br />
「ああ、これは、玄関ホールに落ちていたので、アトリエに戻しておいたのです」<br />
もとは玄関ホールにあったのか。たぶん、犯人はこれで吊り橋を落としたんだ。<br />
<br />
</dd>
<dt>28 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:46:14
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-051<br />
夜、地下2階に下りていくと、クレア先生が角を曲がっていくのが見えた。<br />
クレア先生?<br />
「呼んだ?」<br />
後ろから声がしたのでびっくりして振り返ると、クレア先生がいた。<br />
すると、さっきの人影は、幽霊…とか?<br />
急いで探してみたけど、人影は忽然と姿を消していた。<br />
<br />
N-052<br />
クレア先生と別れて、廊下を歩いていると、ザックさんが声をかけてきた。<br />
「なあ、和。先生となんの話ししてたんだ?あれか?事件の話か?誰か疑ってたりするのか?」<br />
探りを入れてくるような感じだった。そういえば、ここ最近、ザックさんの様子がおかしい。<br />
そんな話じゃないですよ、と答える。<br />
「あ、そう。ならいいんだけどよ」<br />
ザックさんは部屋に帰っていった。やっぱり怪しい。<br />
<br />
N-053<br />
僕はザックさんの部屋へ行って問い詰めてみることにした。ザックさんの部屋をノックする。<br />
ちょっといいですか?お聞きしたいことがあるんです。<br />
「お前、一人か?…入れよ」<br />
ザックさんは何かにおびえているようだ。<br />
なんだか、様子が変ですよ。<br />
「変って、それは、気のせいだろ」<br />
気のせいなはずないじゃないですか。何か気になっていることがあるんですね。<br />
「そりゃ、だって、あいつ、ネリーのこと脅しやがったし。お前も見てただろ?」<br />
それはジョージさんが殺されたと見せかけられた後、応接室でのことらしい。<br />
アルが「ルロイ家に仇なす」云々と凄んで見せた、あれのことだ。<br />
ザックさんはアルを疑っているんですか?だってあれは、脅迫犯に言ったことですよ。<br />
「だから、脅迫じゃねーって!ネリーは脅迫するつもりなんか無かったんだ!」<br />
えっ、ネリーさんが脅迫した?<br />
<br />
N-054<br />
ザックさんは白状した。<br />
ネリーさんは、こういう忌まわしい城とか、不気味な品々とかを処分すれば、<br />
アルももっと平和な生活が送れるのではないか、と考えたらしい。<br />
それで、匿名で手紙を出すことにした。<br />
伯爵様に出すというので、堅苦しい文章にしなければならない、と思い込んでしまったらしい。<br />
でも、ネリーさんは堅苦しい文章など書きなれていなかった。<br />
出来上がったのは、とても誤解を受けそうな文章だった。<br />
と、これが脅迫事件の真相だった。<br />
<br />
</dd>
<dt>29 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:48:15
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-055<br />
僕はザックさんに、アルに事情を話して謝れば、きっと許してくれますよ、と言った。<br />
「でもなぁ。ジョージを殺したやつも、日織を消したやつも捕まっていないしなぁ」<br />
う、それは…。顔に出そうになるのをなんとか抑える。<br />
とにかく、犯人は僕が捕まえますから、ザックさんは早く誤解を解いてください。<br />
そう言うと、ザックさんはその気になったようだ。<br />
ザックさんはネリーさんと一緒に、アルの部屋へ行って事情を話した。<br />
アルは許してくれた。ただ、この城を手放す気はないと言っていたが。<br />
<br />
N-056<br />
お風呂から上がって、脱衣所で服を着ているところで、ドアがノックされたので驚く。<br />
「俺だ、ビビるな、馬鹿者」<br />
三笠さんだった。腕時計を置き忘れたので取りに来たとのこと。<br />
ドアを開けて、三笠さんに腕時計を渡す。<br />
「邪魔して悪かったな。俺はトイレに寄ってから戻るから、お前も早く寝ろよ」<br />
ううっ、寒っ!三笠さんが言う通り、早く寝よう。<br />
<br />
EX-3 (脅迫事件が解決できなかった場合)<br />
ネリーさんが不安そうな様子で、ザックさんの名前を呼んでいる。<br />
ザックさんの姿が見えないそうだ。しばらくの後、風呂場から悲鳴が聞こえた。<br />
ザックさんは目を見開いたまま、浴槽にぷかぷかと浮かんでいた。<br />
頭部を殴られたのが死因らしい。<br />
裸の上半身には、「Teufel」と刃物で刻まれていた。<br />
それは悪魔という意味だと、アルが教えてくれた。<br />
<br />
<br />
T-6<br />
Sanctus <聖なるかな> (1月1日)<br />
<br />
N-057<br />
目を覚まして、腕時計を確認する。もう起きて食堂へ行かないと、心配されそうな時間だった。<br />
食堂へ行くと、千絵子さんが待っていた。僕が最後かと思ったけど、三笠さんもまだだという。<br />
あの人、寝過ごすときは盛大だからね、と千絵子さんは言うけど、なんだか気になる。<br />
食べ終わった後、三笠さんの部屋へ行ってみた。ノックをしてみたけど返事は無い。<br />
鍵がかかってなかったのでドアを開けてみたが、三笠さんはいなかった。<br />
<br />
N-058-f<br />
三笠さんは確か、昨日の夜、トイレに寄っていくって言ってたけど…。<br />
風呂場のある地下1階の男子トイレに行ってみる。その奥には例の柱時計がある。<br />
横には狼のレリーフがある。これと同じものが、隠し通路にもあった。<br />
この時計の操作方法は解らないけど、操作したら、隠し通路に行けるんだ。<br />
もしかしたら、三笠さんは隠し通路にいるのかもしれない。<br />
<br />
</dd>
<dt>30 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 03:50:31
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-059<br />
隠し通路を歩いていくと、ふいに、腕をつかまれた。後ろに誰かいる。<br />
誰ですか?呼びかけてみるけど、反応がない。振り向いてみた。<br />
ゆ、幽霊?顔は長い髪に隠れていてよく見えない。<br />
白いガウンみたいなのを着ている。見た目だけはクレア先生に似てないこともないけど、<br />
でも、僕の腕をつかむこの力は女性のものではない。<br />
僕は腕をつかむ手を強引に振り解いた。そいつは大きな音を立てて転んだ。<br />
それから、夢中で走って逃げた。そいつが追ってくる気配は、もう無かった。<br />
<br />
N-060<br />
逃げられたのはいいけど…ここはどこだ?とりあえず、先に進むことにした。<br />
そこはうねうねと分かれ道や曲がり角が続く、迷宮だった。<br />
迷宮は確か、壁を手につけていれば出れるんだよな。左手を壁につけて、<br />
それに沿うように進んでいく。すると、前方からうめき声が聞こえてきた。<br />
<br />
N-061<br />
前に進むほど、声は大きくなった。…この向こうだ。恐る恐る覗き込む。<br />
行き止まりになっていたそこには、縛られた三笠さんがいた。<br />
膝を折り曲げて、ひざまずくような格好だった。<br />
猿轡をされた三笠さんは僕に目で何かを訴えていた。<br />
天井から斧が吊り下げられている。そして、張り巡らされたロープと、酸が入った皿と巨大な燭台。<br />
これは、三笠さんが少しでも動くと、斧が落ちてくる仕掛けらしい。<br />
そーっと斧を取り外してから、三笠さんを縛っていたロープを解く。<br />
三笠さんは、長時間不自然な姿勢でいたためか、すぐには動けないらしい。<br />
「大丈夫だ。しばらく休めば動ける」<br />
しばらく休んでから、迷宮を逆に辿って戻った。<br />
<br />
N-062<br />
僕と三笠さんは応接室に行った。クレア先生を呼んでくれるように頼んだ。<br />
クレア先生は、三笠さんを自室に強引に連れて行って休ませた。<br />
三笠さんには、大した怪我はなかったらしい。とりあえず、よかった。<br />
でも、三笠さんにこんなことをしたのは誰なんだろう?<br />
13代伯爵の手記に、迷宮に悪魔が出たとかいう記述があるけど、それに見立てたのか?<br />
でもジョージさんのは狂言だったのに。<br />
<br />
N-063<br />
日織に、隠し通路で幽霊に会ったことを話す。<br />
見た目は女性のようだったけど、でも力が強すぎると言うと、日織は考え込んだ。<br />
「実は、気になるものを見つけたんです。ついてきてください」<br />
この時間なら誰にも見つからないでしょうと、日織は着流し姿で部屋を出た。<br />
玄関ホールから外へ出る。階段を上らずに、下りて行く。そこは誰も存在を知らない空間だった。<br />
失踪したように見せかけたとき、日織が隠れていた場所なのだという。<br />
ワイヤーに吊られた2匹のグリフィンの彫像があった。<br />
そのグリフィンの下に、石棺のようなものが置いてあった。日織が蓋を外す。<br />
「どうです、見覚えありますか」<br />
長い髪のかつらと、ガウンが入っていた。<br />
これを使えば、たとえ男でも、幽霊に化けることが出来る。<br />
<br />
</dd>
<dt>31 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 04:14:55
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>EX-4 (三笠を助けなかった場合)<br />
三笠さんは迷宮の奥で死んでいた。胸の辺りを斧で切られていた。<br />
壁に取り付けられたフックと、緩んだロープ、それに大きな燭台。<br />
これは、三笠さんが少しでも動いたら作動して、斧が落ちてくる仕掛けらしい。<br />
<br />
<br />
T-7<br />
Agnus Dei <平和の賛歌> (1月2日)<br />
<br />
N-064<br />
三笠さんの部屋に行って、失踪したときのことを聞いてみることにした。<br />
夜、地下1階のトイレに行ったら、隠し通路への扉が開いていたので、入っていったら、<br />
後ろから殴られて、気を失ったとのこと。気が付いたら、縛られてて、あの状態だったらしい。<br />
隠し通路と言えば、あの柱時計。男子トイレにはあるけど、女子トイレはどうなんだろう。<br />
「ああ、あの時計な、同じものが女子トイレにもあると、中居が言ってたぞ」<br />
<br />
N-065-f<br />
アルの部屋に、大切そうに写真が飾ってある。<br />
古いスナップ写真だ。まだ子供だったアルと、執事さんと、絹子さんが外で遊んでいる。<br />
アルはウサギと戯れている。<br />
「それはクリスだよ。僕の大切な弟だ」<br />
ペットのウサギを、アルは弟として大切にしていたらしい。<br />
そのウサギが死んだとき、とても悲しかったと、アルは話す。<br />
<br />
N-066-f<br />
執事さんに、アルの子供の頃のことを聞いてみた。<br />
クリスという名前のウサギのことを聞いてみたが、覚えていないと言う。<br />
<br />
N-067-f<br />
ザックさんに、アルの子供の頃のことを聞いてみた。<br />
アルは、子供の頃、執事さんを「ティル」と呼んでいたらしい。<br />
でも、それは子供っぽいとアルのお父さんに注意されたので、<br />
今のように「ディーター」と呼ぶようになったらしい。<br />
<br />
EX-5 (ザックが死亡していた場合)<br />
食堂のテーブルクロスは再び赤いシミがついていた。今度は本物の血だ。<br />
ネリーさんはテーブルの上に横たわっていた。胸から血が流れていた。<br />
周囲には白い羽根が撒き散らされ、香が焚かれていた。<br />
凄惨な場面のはずなのに、不思議と怖くはない。夢でも見ているような、幻想的な光景だった。<br />
<br />
<br />
</dd>
<dt>32 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 04:18:14
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>T-8<br />
Ite Missa Est <典礼の終り> (1月3日)<br />
<br />
N-068-f<br />
ワインセラーに行くと、執事さんがいた。執事さんは、ふいに作業を止め、顔をしかめた。<br />
「失礼しました。どうも、どこかで肩をぶつけたようでして、昨日の朝から痛むのです。<br />
お恥ずかしい限りですが、昔から、気づくと覚えのない打ち身や擦り傷が出来ていることがあるのです」<br />
自分が知らないうちに、怪我をしていたという。<br />
執事さんが出て行った後に、ワインの瓶の間に紙片が挟まっているのを見つけた。<br />
変な詩が日本語で書いてあった。これは、物置で見つけたのと似ているな。<br />
どこかの時計の謎を解くものだろう。<br />
<br />
N-069<br />
日織に、執事さんのことをを話してみる。<br />
執事さん、自分では、どこでぶつけたのか覚えてないんだって。<br />
日織は少し考えてから、言った。<br />
「幽霊の正体がティーロなら、あり得ますね」<br />
僕は最初、幽霊はクレア先生だと思ってた。実際、クレア先生がやっていたときもあった。<br />
だけど、それ以外の幽霊はすべて、変装した執事さんだ。あの、隠し通路で腕をつかまれたときも。<br />
執事さんは体格だけなら、クレア先生と見間違えるくらいには似ている。<br />
「なごさんに振りほどかれたとき、転んで、ぶつけたんでしょうね。<br />
けど、どこでぶつけたのか覚えてないってのは、言い訳にしちゃ、苦しいですね」<br />
うん、嘘をついているようには見えなかった。執事さんは、本当に覚えていないんだと思う。<br />
もし、本気で覚えていないんだったら、あれもそうかも知れない。玄関に落ちていたという、彫刻刀。<br />
僕が思った通り、吊り橋のロープを切ったのに使ったなら、わざわざ自分が拾ったことを言わないだろう。<br />
「単なる記憶障害ってわけじゃないでしょう。<br />
別の意志が働いて、おかしなことをやってるとしか見えねぇです。<br />
あの人の中には、もう一人、別の人格が住んでいるってことになりますね」<br />
つまり――多重人格。<br />
「あり得ねぇ話じゃねぇですぜ。あの日記の内容が事実なら――」<br />
多重人格になるのは、幼児期の耐え難い苦痛や恐怖が原因ってケースが多いらしい。<br />
そう考えれば、一応の辻褄は合う。<br />
なんでも、主人格、というのがあって、<br />
その主人格は、起こったことを全て把握しているらしい。<br />
つまり、記憶が欠落している執事さんは、主人格ではないということだ。<br />
<br />
N-070-f<br />
思い切って、千絵子さんに女子トイレのことを頼んでみた。<br />
ちょっと調べたいだけだから、と説得して、女子トイレに入れてもらった。<br />
奥には例の柱時計がある。横のレリーフは蝶だ。<br />
さっきワインセラーで見つけた、紙片には「花にたゆたう者」とあるから、この時計のことだ。<br />
蓋を開けて、針をセットすると、時計の中から封書が飛び出てきた。<br />
女子トイレを出てから、改めて、手紙を読んでみる。その手紙は、日本語で書かれていた。<br />
<br />
</dd>
<dt>33 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 04:20:44
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>S-015 (絹子の手紙)<br />
いつか、あなたの心が癒されてくれることを願って、この手紙をしたためておきます。<br />
この手紙を見つけたということは、あの詩の謎を解いたのでしょう。<br />
あの詩は、代々の当主しか手に出来ないものですが、<br />
アルノルトが若くして爵位を継ぐことになったので、一時的に私が預かることになったのです。<br />
あの詩を読んで本当に驚きましたよ。<br />
(中略)<br />
この城は初代が作ったそうですが、時計の仕掛けを作ったのはもっと後の当主でしょう。<br />
時計の仕掛けを作ったのが初代だとすると、おかしなことがあるのです。<br />
だから、初代は恐ろしい黒魔術師などではないのでしょう。<br />
幽閉された少年や、さまよう母も皆本当にあったことではないのです。<br />
だから、あなたのぼうやもいなくなってなんかいないのですよ。<br />
怖いことなんて何も起こらないのです。<br />
それをぼうやにに教えてあげることが、あなたに出来る一番大切なことですよ。<br />
それでは、お元気で。 絹子<br />
アルノルトといつまでも仲良くね。<br />
<br />
N-071-f<br />
これは誰に宛てた手紙なんだろう。あなた、っていうのは、ぼうやっていう息子がいる人?<br />
誰かのお母さん?<br />
とにかく、この手紙を僕が見つけてしまったということは、その人の心はまだ癒されてないんだろうな。<br />
<br />
N-072<br />
アルに話を聞くことにする。<br />
聞かせてくれないかな、昔のこと。覚えている範囲でいいから、事故のことを。<br />
「それが、事故があったときのことは覚えていないんだ。気が付いたら病院にいて、<br />
僕とディーターしか助からなかったって聞かされた」<br />
…それじゃあ、執事さんは覚えているのかな?<br />
「あ…ディーターも覚えてないよ。ディーターは、事故以前の記憶が全く無いんだよ」<br />
なんだか気まずくなってきた。<br />
話を変えるつもりで、あの13代伯爵の手記の話題を振ってみる。<br />
そういえば、あの中に出てきた呪われた絵って、どんなの?<br />
それは、なんとかという有名な画家の絵で、現物はここにはないが、画集があるという。<br />
アルは一冊の本を持ってきて、開いて見せてくれた。<br />
森の中で少年がたたずんでいる絵だった。<br />
「13代伯爵の記録」の表紙にも使われていた絵だ。<br />
その少年の髪の色は見事なプラチナブロンドだ。そう、執事さんの髪の色だ。<br />
<br />
N-073<br />
執事さんが仕事を放り出していなくなったと、メイドさんたちが騒いでいる。<br />
この時間だと、まだ仕事をしているはずだ。<br />
執事さんがいそうなところを探してみたが、いない。執事さんの部屋にもいなかった。<br />
まさか、また悪魔封じ…?でも、どこだ?<br />
僕は、さっき見た、呪われた絵を思い出した。<br />
手記によると、絵の中の少年が悪魔ということになるのだろう。<br />
犯人が見立て通りに犯行を行うとしたら、血を抜いて、牢屋に閉じ込めるはずだ。<br />
こんなこと、全部終わらせなければ。僕はアトリエに向かった。<br />
<br />
</dd>
<dt>34 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 04:23:48
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-074<br />
アトリエには誰もいない。奥の、牢屋に続くドアが開いていた。<br />
そのドアから、執事さんが現れた。<br />
「何か御用ですか、一柳様」<br />
執事さんは変わらぬ態度を見せた。ここで気後れしてはいけない。僕ははっきりと言った。<br />
あなたが、犯人ですね?<br />
執事さんはとぼけようとした。僕は、あなたにしか出来ないことがあります、と指摘した。<br />
一つは、空き部屋に日記を置いたこと。もう一つは、吊り橋を落としたこと。<br />
執事さんが失踪した朝、執事さんは空き部屋の方からやってきていた。<br />
あのとき、空き部屋に日記を置いて、出てきたところだったのだ。<br />
その直前、ネリーさんは空き部屋を掃除している。日記を置けるのは執事さんだけだ。<br />
吊り橋は、玄関の鍵は執事さんしか持っていなかったから。<br />
<br />
N-075<br />
執事さんは、口の端を歪めて、ニヤリ、と笑った。<br />
「残念だ。折角、あの日記を見つけたのに、アルには見せなかったのか」<br />
信じたくはなかったけど、あの日記に書いてあることは全部本当のことらしい。<br />
そして、あの日記はアルが見つけるかもしれないと思って、あんなところに置いたらしい。<br />
どうしてそんなことをするんですか?アルは悪くないでしょう、と聞く。<br />
「決まっているだろう?楽しいからさ。想像してみろよ!アルは何も知らないんだぜ。<br />
聖母のようだったと信じていた母親が、どんな女か、アイツが知ったらどうなると思う?<br />
正気じゃいられないだろうなぁ」<br />
どうしてそんな…。ずっとアルに仕えてきたんじゃないんですか?<br />
「何言ってんだ。おれを誰だと思ってる?」<br />
この人は執事さんじゃない。やっぱり、彼は多重人格だった。今は、違う人格だ。<br />
僕は恐るべき結論に達していた。それをおずおずと口にする。<br />
悪魔…?<br />
「やっと理解したかい、人間?」<br />
アルと執事さんのお母さんがやっていた、悪魔を呼び出す儀式は失敗した。<br />
そしてその悪魔が執事さんに乗り移ったと思い込んで、こんな人格が生まれたのだ。<br />
「…今度こそ本当に埋葬してやる。<br />
ルロイ一族には出来ないらしいから、おれがやってやるよ。じゃあな」<br />
彼はアトリエを飛び出して行った。<br />
<br />
EX-6 (推理に失敗してアトリエに来るのが遅れたときなど)<br />
アトリエの奥のドアが開いている。覗いてみると、牢屋の中で執事さんが倒れていた。<br />
胸から血が出ているけど、まだ息がある。<br />
助けようと思ったけど、牢屋には鍵が掛かっていた。鍵を探すが見つからない。<br />
執事さんの側に紙切れが落ちていた。ドイツ語で何か書かれていた。<br />
「『お前が犯人だ』って書いてある。ディーターの字だ」<br />
駆けつけてきたアルがそう言った。<br />
少し離れたところにレイピアが落ちていた。執事さんはこれで自分の胸を?<br />
やっぱり執事さんが犯人なのか?でも、どうして?<br />
<br />
</dd>
<dt>35 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 04:26:25
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>EX-7<br />
「千絵子、これを」<br />
アルは大きなリュックサックみたいなものを千絵子さんに渡した。<br />
それは、アルの部屋に一つだけあったという、パラシュートだった。<br />
「助けを呼んできてほしいんだ」<br />
千絵子さんは無事にパラシュートで地上に降りて、偶然側を通りかかった登山家に助けを求めることができた。<br />
すぐにヘリコプターが来て、僕たちは救助された。でも、執事さんは助からなかった。<br />
あの吊り橋は、今もまだ落ちたままだという。<br />
Bad End<br />
<br />
N-076<br />
僕は、執事さんの姿かたちをした悪魔を追いかけていった。<br />
彼は玄関から外に出たらしい。螺旋階段を上って、塔の上へ。<br />
端っこの方の、今にも落ちそうなところに、彼は立っていた。<br />
「最期に一つだけ教えてやろう。三笠を殺そうとしたのは、おれじゃないぜ」<br />
…解ってます。そう言うと、彼は少しだけ感心したような顔をした。<br />
「どうして解った?」<br />
執事さんの中にいるのは、あなただけじゃない。<br />
女の幽霊の格好だったとき、あのときは、あなたじゃなかった。<br />
「じゃあ、その女の幽霊は誰だ?」<br />
<br />
N-077<br />
ここは慎重に答えないと…。僕は考えた。<br />
あの日記の中に出てくる女性は、アルと執事さんのお母さんたちだけに見えるけど、<br />
そうすると、矛盾するところが出てくる。<br />
それは、「”わが子”を死なせた”彼女”」の部分だ。その記述の前に、「人知れず”彼女”が亡くなり」と<br />
書いてあるから、「”わが子”を死なせた”彼女”」は、アルと執事さんのお母さんたちとは違うということが解る。<br />
「そうだ、あの女さ!あの女は本気で悪魔封じをしようとしていたからな。<br />
ディートリヒを生贄に捧げるために、自分の息子を手にかけて死なせたと思っている、哀れな”母”さ」<br />
生贄にされかけたのは執事さんで、射殺されたのは執事さんのお母さんなのか。<br />
自分の目の前で殺されてしまった母の死を受け入れられなかったから、”母”の人格が生まれた。<br />
そして、”母”は、悪魔封じとして殺されていたジョージさんが、サロンから消えてしまったのを見たので、<br />
悪魔はまだ、この城のどこかにいる、と思い込んでしまった。<br />
三笠さんを隠し通路で見かけて、悪魔が取り付いていると思って、<br />
見立て通りに、あんな仕掛けで殺そうとした。<br />
<br />
N-078<br />
”母”は、自分の中に悪魔がいると知ったら、どう思うだろう、と、彼は笑っている。<br />
ここであれを出してみる。<br />
主人格、というのがあるそうです。全てを把握している人格。それを聞いて、彼は動揺した。<br />
「全てを知っているのは、おれだけだ」<br />
彼は強がっていたが、次第に動揺の色が濃くなってきた。<br />
嘘です!全てを知っているのは――ティルです。<br />
それを聞くと、彼はいきなり、僕に襲い掛かってきた。僕を端のほうにひきずっていって、塔から落とそうとした。<br />
そのとき、僕と彼の間に割って入った人がいた。<br />
「お生憎様ですがね、俺は何があってもこの人を守るって約束してんです」<br />
日織だった。あの約束、まだ有効だったんだ(雨格子の館 参照)。<br />
<br />
</dd>
<dt>36 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 04:27:17
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-079<br />
どいてください、僕は”母”に用がある!<br />
彼に言うと、彼の表情が変わっていき、”母”が出てきた。<br />
「私は罪を償いに行かなければ…。解き放ってしまった悪魔を封じなければならないのです。<br />
全ては私の罪です。我が子に手をかけた罪を償わねばなりません」<br />
”母”は、ティルを想って涙を流した。<br />
ティルは死んでいません、悪魔なんかどこにもいません、と”母”を説得する。<br />
ジョージさんが死んだのも狂言で、本当は誰も死んでません、と。<br />
そして、絹子さんの手紙を渡した。手紙の中のあなたは”母”のことで、坊やはティルのことだ。<br />
その手紙を読んで、”母”は悪魔がいないことを理解したらしい。<br />
「それでは、ティルはどこにいるのですか?」<br />
あなたの中に、あなたと一緒にいます。儀式の経験が恐ろしくて、閉じこもって出てこられないだけなんです。<br />
本当のあなたは、もう死んでいます。あなたは、ティルが作り出してしまった幻なんです。<br />
「ありがとうございます。あなたと絹子様に、今すべきことを教えてもらいました。<br />
ティルに伝えてください。あなたが生きていてくれて、うれしい、と」<br />
”母”の表情はすうっと消えていった。<br />
<br />
N-080<br />
ティル、聞こえるかい?悪魔なんていないんだよ。君に取り付いているわけでもない。<br />
お母さんの話、聞いてただろ?おいで、ティル!<br />
呼びかけると、主人格のティルが出てきた。11歳のまま、儀式のときの恐ろしい記憶を持って、<br />
今まで呼び出されることがなかった人格。<br />
だが、ティルは一瞬で引っ込んで、悪魔が出てきた。<br />
「この器はおれのもんだ!」<br />
などと言って暴れている。<br />
「返してくれないかな、それは僕の執事の体だ」<br />
アルがやってきた。悪魔はアルを挑発しようとしたが、アルはそれには乗らなかった。<br />
「失せろ、命令だ」<br />
アルがびしっと言うと、ティルが出てきた。<br />
「長い間、一人ぼっちにさせて悪かったね、ティル、戻っておいで。一緒に帰ろう」<br />
アルはやさしく呼びかけ、彼に手を差し伸べた。<br />
「仰せの通りに、グラーフ」<br />
彼はアルの手を取って、言った。<br />
これで悪魔も、”母”も、執事さんも、ティルの人格に統合されたのだろう。<br />
でも、ティルは11歳のまま、成長が止まっている。<br />
このままでは、アルの執事としてはちょっと厳しいかな。<br />
<br />
EX-8 (犯人の説得に失敗した場合など)<br />
彼は醜悪な笑いを浮かべた。<br />
「おれはこの器じゃなくても生きていけるんだよ。<br />
おれを呼び出そうとする馬鹿がいる限り、おれはまた復活する。あばよ」<br />
彼は虚空に足を踏み出して、落ちていった。<br />
そんな…そんなことって…。<br />
Bad End<br />
<br />
</dd>
<dt>37 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 04:29:11
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>N-081<br />
僕と日織と、そしてアルとティルは塔を下りて、玄関に戻った。<br />
そのとき、城が揺れた。そういえば、悪魔が埋葬してやるとかなんとか言っていた。<br />
埋葬、と聞いて、アルには思い当たることがあるらしい。<br />
このままでは、城は崩壊してしまうとか。<br />
そして、代々の当主しか手に出来ないという文書をもってきて僕に渡す。<br />
やっぱりドイツ語で書いてあったけど、日織が説明を書いてくれていたので、僕にも読める。<br />
これはやっぱり、時計かな?謎めいた詩だけど。<br />
僕は詩の謎を解いて、城のあちこちを回って、時計を操作していく。<br />
そして最後に、玄関から外に出て、二匹のグリフィンの仕掛けをといた。<br />
城の揺れは止まった。間に合った。僕はほっとして、床に寝転んだ。<br />
頭上の鐘が高らかに鳴り響く。美しいメロディーだった。<br />
この城も、呪われてるとか幽霊が出るとか、そんなひどいことばっかりじゃないんだな。<br />
この城に来て良かった、と、最後にそう思えた。<br />
<br />
<br />
N-082 (2月10日)<br />
あれから一ヶ月ほどたった。アルからエアメールが来ていた。<br />
ティルに、当主自らが執事としての教育を施しているけど、大変だと書いてあった。<br />
そして、日織からも手紙が来た。<br />
事件とか起こらないような場所に遊びに行って、今度こそのんびりしましょう、だって。<br />
本当に、今度こそのんびり出来たらいいなぁ。本当に。<br />
Fin<br />
<br />
<br />
Y-04<br />
ハユツクさんの名前について(N-026,N-040)。<br />
日本書紀に、「日蝕尽有之(日(ひ)蝕(は)え尽きたること有り)」という記述があるの。<br />
これは日食のことを言っているらしいよ。<br />
蝕ゆ(はゆ)は、月食や日食になるという意味だよ。<br />
和くんはさすがに日本書紀の事は知らなかっただろうけど、でも知らなくてもなんとなく解ったんだね♪<br />
<br />
</dd>
<dt>38 :<a href="mailto:sage"><b>奈落の城</b></a>:2008/10/09(木) 04:32:46
ID:hNXRmkiq0</dt>
<dd>Y-05<br />
実際のストーリーについてちょこっと解説するね。<br />
パートナー(ワトスン役)が誰になるかによって大きく6つのルートに分かれています。<br />
ザックさん・教授・執事さん ルート →1周目から(ストーリーA)<br />
クレア先生・三笠さん ルート →Aをクリアしてから(ストーリーB)<br />
アル ルート →Bをクリアしてから(ストーリーC)<br />
物語の展開としては大まかにABCの三種類あります。12月30日からそれぞれに分岐します。<br />
A…12月30日にクレア先生が失踪。1月2日に狂言殺人が解決。1月3日にEX-6~7の展開になる。<br />
B…12月30日に執事さんが失踪。12月31日に三笠さんが失踪。1月1日に狂言殺人が解決。<br />
1月2日にアトリエで犯人を問い詰めるもEX-8の展開になってしまう。<br />
C…12月30日にクレア先生or執事さんが失踪しそうになるのを阻止する。<br />
怪しいのでハユツクさんかアルを問い詰めて狂言殺人を解決する。<br />
それからなんと和くんが失踪役となり、偽装失踪を成功させる。<br />
それ以降は夜中に、みんなにみつからないようにこっそり調査する。<br />
12月31日に三笠さんが失踪するので助けに行く。そのときに偽装失踪がばれてしまう。<br />
1月1日に最後の調査をして、犯人の説得を成功させてエンディングへ。<br />
最低でも3周しないと真相にはたどり着けない構造になってるんだ。<br />
<br />
Y-06<br />
前作よりボリュームは増えたし面白いんだけど、<br />
ストーリーが三分割されてるから、<br />
話の整合性が取れてないんじゃないかな~と思われる部分が結構あったり。<br />
ひどいバグ(死んでしまったクレア先生が何故か礼拝堂にいるとか)があったりするので<br />
叩かれたりしてますが、それ以前の問題もあるんだよ。<br />
次回作がもしあるなら、もうちょっと考えてほしいところではあるよね♪<br />
<br />
Thank you for reading!!<br />
<br />
</dd>
<dt>42 :<a href="mailto:sage"><b>ゲーム好き名無しさん</b></a>:2008/10/09(木) 15:50:08
ID:oZYfop5AO</dt>
<dd>奈落の城乙です<br />
オチが多重人格とは思わなかったけど読み応えあって面白かった<br />
先生や三笠さん死亡阻止の条件て何なんだろ、前作は隠し忘れたらアウトだったけど<br />
</dd>
<dt>45 :<a href="mailto:sage"><b>ゲーム好き名無しさん</b></a>:2008/10/10(金) 06:56:49
ID:xdRynDZBO</dt>
<dd><a href="http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gsaloon/test/read.cgi/gsaloon/1223322752/42" target="_blank" rel="noreferrer noopener">>>42</a><br />
先生は地下で早期発見<br />
教授は先生殺害を防ぐ&教授を和の神隠しの礼拝堂の仕掛けに使わない<br />
三笠は地下で早期発見<br />
ザックは脅迫事件を解決させる<br />
ネリーはザック殺害を防ぐ<br />
</dd>
<dt>46 :<a href="mailto:sage"><b>ゲーム好き名無しさん</b></a>:2008/10/10(金) 07:13:44
ID:xdRynDZBO</dt>
<dd>一応ネタバレとして<br />
<br />
・先生は、身を隠しているところに隠し通路で母と出会い地下に閉じ込められさ迷った挙げ句ワイン漬けで殺される<br />
・教授は、先生を探している内に隠し通路に気付き母と出会い甲冑を着せられ首を切られ殺される<br />
また、先生生存時でも和の神隠しの際、礼拝堂→教授を選ぶと礼拝堂に教授一人となったとき<br />
神隠し通路から出てきた?母と対面して上記のように殺される<br />
・三笠は、悪魔に気絶させられ隠し通路に放置したところを母に発見され迷路にトラップを仕掛けられ<br />
足掻いている内にトラップの斧に刺され殺される<br />
・ザックは、犯人を風呂の前で待ち構えるが逆に返り討ちにあい殺される←顔見知りのため油断したと思われ<br />
・ネリーは、ザックがいないため守ってくれる相手イナス<br />
<br />
基本的に神隠しにあった人はいなくなったその日にみつければOK<br />
</dd>
</dl>