大正もののけ異聞録

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&bold(){大正もののけ異聞録} Part13-492・494~498・518~523・557~570・573 ---- 492 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 05/03/20 01:28:23 ID:Z+uFW1n5 人物紹介(今回出てくる人のみ) 鴨居俊祐(かもいしゅんすけ) ・古書店を営む青年。性格が悪いわけではないのだが、   人との関わりを避ける傾向にあるため、偏屈な人間と捉えられやすい。   眼は少々釣り眼気味で、ことあるごとに愛用のめがねをクイと押し上げるクセがある。   早くに両親を亡くしているが、彼は父親を良く思ってはいなかった。   山に篭って朝から晩まで剣の稽古をさせられ、失敗すると殴られていたからである。   しかし皮肉かな、百鬼夜行の戦いに身を投じることになる俊祐に取って、   頼りになるのはその剣術と、父の形見の日本刀「細雪」なのである。 榊義彦(さかきよしひこ) ・俊祐の養父   謎の多い男らしいが、殺される。 加是(かぜ) ・義彦と共に暮らしていたコマ(狛犬種のモノノケ)   俊祐が義彦の元に引き取られて以降、何かと俊祐の面倒を見ることになる。 鈴音(すずね) ・信州猫又一族の頭であり、永乃平のモノノケを束ねる長。   見た目は10歳くらいの小さな女の子の様だが、   人間と違い長寿な上不老なため、実際は65歳。   頭を任されるだけあって、考え方や物事の捉え方、知恵知識はかなりのもの。   ちなみに彼女も血の契約者となる者の一人である。 494 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 05/03/20 01:29:14 ID:Z+uFW1n5 用語説明(今回出てくる用語のみ) 百鬼夜行の戦い(ひゃっきやぎょうのたたかい) ・これに参加出来るのは血の契約を交わした者、及びそれに従うモノノケのみ。  戦いの勝者には天降勾玉が天から与えられる。  契約者はすべての種類の勾玉を入手するまで、必ずこの戦いに参加しなければならない。 天降勾玉(あまふりのまがたま) ・モノノケの力の源とも言われる勾玉 神卸(かみおろし) ・幽異界にいる多々良の神霊を一時的に体内に宿し、予言、啓示を受けること。  これは触媒となる依童と、神意を審判する審神者が必要である。 多々良(たたら) ・遥か昔、霊止=人間を保護するために別世界である幽異界から降臨したとされる。  霊止の守護者としてモノノケを創造したと伝えられており、モノノケ達の間で神と言えば、ほぼこの多々良神である。 幽異界(ゆういかい) ・天上界、神仙の住む不老不死の世界。  理想郷としてモノノケの中で伝わる。 霊止(ひと) ・人間のこと。  変生や魂宿りなどの「霊魂の移しかえ」が行えるモノノケと、  一つの肉体に霊魂が留まる人間との差異を示し、その様に呼ぶ。  遥か昔の呼び方。 495 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 05/03/20 01:30:06 ID:Z+uFW1n5 何処かの地にて、謎の声が響く ???「約束の地に、モノノケ達が集まりつつある」 ???「時が至ったということ、そう判断して良いだろう」 ???「本能が告げておるのだ。遥か過去からの我々の本能が、彼の地に帰る時、と」 ???「神卸の通りだな」 ???「…」 ???「して、義彦はどうしておるのだ?まだ、てこずっておるのか?」 ???「悲しい運命を背負ったものだ。なまじ観えてしまうというのはな」 丘の上で二人の猫又が佇んでいる。その片方は一族の長・鈴音だ 鈴音「原初の時より、人にとって不可侵の領域であった闇。我々モノノケの領域。     人間は闇を恐れ、モノノケを恐れてきた」 猫又「……」 鈴音「しかし文明開化以後、人間は我々モノノケの領域であった闇を開拓しつつある。     これまでの、どの時代とも比べものにならない速さで信仰する闇払い。     それにより住む場所を失うモノノケたち」 猫又「この信濃以外に闇の残る地は、もう、ほとんど――」 鈴音「……。不満と不安がモノノケ達の中で渦を巻いておる…。     このままでは、必ず大きな争いが起こるじゃろう」 猫又「鈴音さま…」 496 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 05/03/20 01:31:00 ID:Z+uFW1n5 雨の降る安積平原の中、一人の青年と狛犬種のモノノケが駆ける。 その先には、雨に濡れながら倒れている一人の男。 若者・鴨居俊祐が男に駆け寄る。 俊祐「榊の親父っ!」 松元。俊祐の営む古書店にて 俊祐「榊の親父は?」 問われたコマ・加是は、俊祐の質問に沈黙で応える。 俊祐「俺は、助けられなかったのか…」 加是「義彦は、自分の意思で戦った。お前に責任はない」 俊祐「……」 加是「あの場に、ヤツはいなかった。義彦、仕留め損なったな…」 俊祐「俺が、アイツを倒す」 加是「馬鹿なことを。相手は百鬼夜行の達成者だぞ。     天降の力を得ている相手に挑んでも、返り討ちにあうだけだ」 俊祐「ならば、力を手に入れるまでだ」 加是「俊祐…」 497 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 05/03/20 01:31:54 ID:Z+uFW1n5 安積平原にて、血の契約を行おうとする俊祐と加是 加是「本当に、やるのか?」 俊祐「天降勾玉で力を得ている者に対抗できる力は、天降勾玉によるものだけだ。     対抗する道が、これしかないのであるなら…     俺は選ぶ」 加是「お前、それがどういうことか、わかって言っているんだろうな?     血の契約者たちによる、天降勾玉を巡る戦い、百鬼夜行の戦い。     始めたら最後、全ての種類の天降が集まるまで戦い続けなければならない。     戦いに長けた俺たちモノノケでも、おいそれとはしない。     それが血の契約…百鬼夜行の戦いだ」 俊祐「しかし、ヤツはやり遂げた。     やり遂げてあの力を手に入れた。     俺は、強くなる必要がある」 俊祐、左手を天に掲げる 俊祐「我が名は鴨居俊祐。我が望みは力。     天降を持ちてヤツを倒す力を。     百鬼夜行の戦いへの参加を、血を持ちて契約す」 俊祐の左手に、天から光が降りる 加是「これでお前の人生は、戦いの連続だ」 俊祐「ああ」 加是「…百鬼夜行の戦いには、契約者と一緒に戦うモノノケが必要だ。     俺の仲間に声をかけておいてやるから、そいつらを使え。     それなりの戦力になるだろう」 俊祐「恩にきる…」 加是「ふん。百鬼夜行の戦いはもう始まっている。     次の戦いまでに、十分な準備をしておけ」 498 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 05/03/20 01:42:05 ID:Z+uFW1n5 こうして俊祐は百鬼夜行の戦いに参戦することになる。 同じ血の契約者である真奈井四季、篠森狗津葉、橘八雲、鈴音らと出会い、戦い続け、 俊祐は確実に天降の力を手にして行く。 そして―― ???「んふっふっふっふっふ。      血の契約者、鴨居俊祐ですね。      力は手に入れましたか?」 俊祐「何者だ?」 ???「比羅坂と申します。      あなたの力、確認にきました」 俊祐、刀を降り「虚空刃」と言う衝撃波の技を比羅坂に放つ。 が、比羅坂は平然と受け止め、 比羅坂「ほう…。これはこれは」 俊祐「比羅坂とか言ったな。俺の力を確認してなんとする」 比羅坂「んふっふっふっふっふ」 質問には応えず、消えて行く比羅坂 俊祐「逃げられたか。いったい、なにものだ?」 数歩歩いて呟く 俊祐「この天降の力も、まだまだか…」 518 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 08:21:46 ID:GZEilJxr ゆうべ書き出そうとしたら寝ちまったよオレの馬鹿…… ○時間が無いのでいい加減な血の契約者説明(俊祐、鈴音については前回参照)  ・真奈井四季:大人しい巫女。俊祐に好意あり?  ・篠森狗津葉:見た目は姉御肌キャラに見えないこともないが、言動はコギャルもどき  ・橘八雲:ショタ 519 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 08:22:43 ID:GZEilJxr 「多々良塚」 八雲「綺麗だと思いませんか?」 何かの光が舞う塚にて俊祐が立っていると、血の契約者・八雲がやってくる 八雲「この塚は、多々良塚って言うんです。モノノケたちのお墓みたいなものです」 俊祐「モノノケの墓…」 八雲「この舞っている光の球。これは全てモノノケの魂なんだそうです。     寿命を終え、その責務から解放されたモノノケの魂は全て、ここに集まります」 俊祐「俺には関係ないな」 立ち去ろうとする俊祐に、八雲は再び口を開く 八雲「そうでもないですよ。鴨井さんも、僕と同じ血の契約者ですから」 俊祐「どういうことだ?」 八雲「あの百鬼夜行の戦いで倒れたモノノケの魂も、最後には、ここに集まります。     魂をすり減らし戦う百鬼夜行だから、血の契約者にとって、ここは神聖な地とされているんです。     鴨居さんも一緒にお参りしていきませんか?」 俊祐「……」 だが俊祐は再び八雲に背を向け、その場から立ち去る 八雲「苦しみ舞うモノノケの魂、か」 残された八雲は一人俯き、そう呟く 520 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 08:23:16 ID:GZEilJxr 「闇払い」 何処かの地の洞窟にて モノノケ1「あんた、どっから来たんだい?」 モノノケ2「んー、東の唐沢の方からー、きたー」 モノノケ3「あっちは、もう闇がほとんどないって聞いたぞ」 モノノケ2「んー、そうだねー」 モノノケ1「しっ、隠れろ」 洞窟の入り口から人間の声がする おじさん「おっ。こんなところに洞窟があったなんて、知らなかったなあ」 鍬持ったおっさん登場 おじさん「この辺りは銀鉱が多いから掘ってみればなにか出るかもしれないな…       どれ…、また今度、みんなを連れて来てみよう」 そう言っておっさん帰る 隠れていたモノノケ達は毒づく モノノケ1「ちくしょう。こんな場所にまできやがって」 モノノケ3「こんなところまでこられたら、もう俺たちの場所はない」 モノノケ2「くそー」 モノノケ1「今に全ての闇は払われる。俺たちの住む場所がなくなるぞ」 モノノケ2「結局、約束の地に来ても、おんなじかあー」 521 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 08:23:51 ID:GZEilJxr 「父の剣術」 松元 河原 河原で剣を振っていた俊祐の所に、血の契約者・狗津葉と、イタチタイプのモノノケ・茂平がやってくる 狗津葉「あ、こんにちは~」 俊祐「ああ、お前か」 俊祐、刀を一振りした後、背中の鞘に収める 狗津葉「ずっと気になってたんだけど…鴨居さんの剣術って独特だよね」 俊祐「ああ。ずっと昔に父に仕込まれたものだ。この細雪も父のものだ」 茂平「流派は、なんだ?」 俊祐「知らん。俺はマジメに習おうともしなかったからな」 狗津葉「ふーん」 俊祐「今では、これが俺の頼りか…。皮肉なもんだな」 狗津葉「?」 茂平「……」 522 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 08:24:48 ID:GZEilJxr 「捜索」 雪が積もる村にて、スザクタイプのモノノケが何かを捜しながら飛んでいる。 ???「やはり見つからないか…。      鈴音が悲しむな…」 523 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 08:25:45 ID:GZEilJxr 「モノノケのはじまり」 死んだモノノケの魂の光舞う多々良塚にて、俊祐の前に鈴音がやってくる 鈴音「この塚のいわれ…知っておるか?」 俊祐「いや」 鈴音「昔、昔のこと、それこそ我々が生まれる何百年も何千年も前のことじゃ。     世界には混沌しかなかった。     その生きることさえ難しい、過酷な環境の中で人間、霊止は生まれた。     天上の幽異界から、その霊止の様を見て憂う神がいた。その名を多々良という。     多々良神は、人間の守護を目的に、幽異界から、この世界に降臨する。     そして、か弱い霊止の守護を使命として生きることとなったのじゃ。     そう、母親のようにな。     そして時は流れ、永きに渡り霊止を守ってきた多々良にも寿命が訪れ、幽異界に還る時がくる。     その際に、己の精神の一部を事物に宿らせ、人間の守護を目的とする力の施行者を創造した。     それがモノノケじゃ。     この多々良塚はその神が石化した姿だと伝えられておる。     モノノケの中に伝わる、古い古い昔話じゃ…」 俊祐「なぜ、そんなことを俺に?」 鈴音「ふふ、なぜかの。無知な、おヌシを見ておれなかったからかの…」 557 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:19:06 ID:GZEilJxr 別スレで名前そのまんまで書き込んじまったよ…… それはそれとして、今夜の分投下 登場人物説明 鬼眼(きがん) ・俊祐の養父である義彦を殺した男。実はその義彦の息子である。   鬼である義彦と人間である母親の間に生まれ、己の中の人の血を憎むことで絶大な力を発揮している。 比羅坂(ひらさか) ・何かの企みを抱いているモノノケ。   俊祐や鬼眼の前に姿を見せ、どこか人を嘲るような口調で接する。 558 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:19:44 ID:GZEilJxr 「嘲笑」 雨宮の渡(どこかの河原?)にて歩いている俊祐の前に、が姿を現す 俊祐「貴様は…比羅坂とかいったな」 比羅坂「お覚えいただき光栄です、鴨居さん」 俊祐「何のようだ。鬼眼の元に一緒に行ってくれ―とでもいうのか?」 比羅坂「んふっふっふ。面白いことをおっしゃる。      そのとおり。私は、鬼眼さんの居場所を知っております」 俊祐「やはり、アイツは生きているのだな」 比羅坂「んふっふっふっふっふ」 不気味に笑い、比羅坂はその姿を消す。 俊祐「待てっ!」 だが時既に遅し、それに応える声もない 俊祐「アイツは生きている…」 559 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:20:59 ID:GZEilJxr 「鴨居の過去」 安積平原にて、俊祐の元に加是が走ってくる 俊祐「……」 加是「俊祐…。お前、本当にアイツを倒せるのか?」 俊祐「なにが言いたい?」 加是「相手は、鬼眼なんだぞ」 俊祐「だからこそだ。     俺がアイツを解放してやる。これは、他の誰にも譲れない。     俺とアイツは戦う宿命にあったのだ。そう思う」 加是「……」 560 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:21:47 ID:GZEilJxr 「加是と鈴音」 永乃にある鈴音の家にて、加是と鈴音が向き合っている 加是「珍しい方に呼び出されたもんだ。     永乃のモノノケの長が、俺に何のようだ?」 鈴音「おヌシ、義彦の守護獣、名前は加是だったな」 加是「そんなたいそうなもんじゃない。     一緒に戦って、一緒に生活していただけだ」 鈴音「相変わらずの調子だな」 加是「なに?」 そう言って微笑む鈴音に、加是は怪訝な顔をする 鈴音「まだ思い出さぬか?」 ほんの少しの間の後、加是はハッとする。 加是「! あんた、どこかで見たことがあると思ったら、鈴音さんか」 鈴音「ふん。こんな可愛い顔を忘れるとは、失礼にもほどがあるぞ」 口調とは裏腹に、鈴音の口元は緩んでいる 加是「いや、悪い。そうか、元々は永乃の生まれだと言っていたよな。     そうか…。義彦の元に遊びに来ていた、あの鈴音さんが永乃の長か」 鈴音「今では長であり、血の契約者でもある」 加是「契約者?ということは俊祐とも…」 その言葉に軽く俯き、そのまま応える 鈴音「ああ、色々世話になっておる。数奇な運命じゃな」 加是「そうだな…」 そして再び顔を上げ、永乃の長は口を開く 鈴音「さて、おヌシを呼んだのは、昔話に花を咲かせるためではない」 加是「なんだ?」 鈴音「確かめたいことがある。義彦は、本当に解放されたのか?」 加是「ああ。俺が確認した。見事な最期だった」 鈴音「そうか…」 加是「本当に確認したいのは、義彦の方じゃないんだろ?」 鈴音「……」 加是「鬼眼は、わからん。俺が駆けつけた時には、もう姿はなかった。     まあ、モノノケの中でも、亜種で最強の鬼人同士の戦い。     無傷ではすまなかっただろうがな」 鈴音「そうか」 加是「本当に、おかしな運命だな。     義彦、鬼眼、俊祐、鈴音さん」 鈴音「そして、おヌシもな」 561 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:22:33 ID:GZEilJxr 「子供と男と1」 とある山奥の滝の前にて、大男がその景色を眺めている そこへ、まだ幼い男の子がやってくる 男「……」 こども「……」 男「……」 こども「なあ、おっちゃん。滝なんか見てて面白いか?」 男「ああ」 こども「ふーん。なあ、おっちゃんは、なんでこんなところにいるん?」 男「俺は、帰る場所がわからないんだ」 こども「ふーん。ヘンなの。帰る場所なんてアリンコでもしってるよ」 男「ふふ…そうだな。ヘンな話だ」 こども「そうだ。ヘンな話だ」 男「ははははっ」 そんなやり取りを少し離れた場所から黙ったまま見つめる影が一つ…… それは俊祐の前に何度か姿を現していたモノノケ・比羅坂だった 562 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:23:08 ID:GZEilJxr 「子供と母と」 こども「だから、そのおっちゃん、すっごく大きくてなあ。      手なんか、こう岩みたいで―」 子供の母親「……」 こども「おかあちゃん?どうかしたん?」 子供の母親「いいか、お前。もう、そこには近づいちゃいけないよ」 こども「えーっ!なんでぇ!」 子供の母親「そんな男、危ないヤツにきまってる」 こども「そんなことない!あのおっちゃんは、そんな人と違うよ!」 子供の母親「ダメなものはダメだ。         今度そこに近寄ったら、ウチからしばらく出さないからね! こども「……」 子供の母親「わかったら、もう行きな」 母親の言葉に従ったのかそれとももうその場にいたくないのか、 子どもは黙ったまま走り去る 子供の母親「山ン中に一人で暮らす大男なんて…人さらいかモノノケの類にきまっとうわ」 563 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:23:50 ID:GZEilJxr 「父親」 小諸 湖岸公園にて、突っ立っている俊祐の後ろから、血の契約者の一人、真奈井四季がやってくる 立ち止まり、俊祐の姿を確認した四季は、そのまま俊祐の隣へとやってくる 俊祐「…」 それでも黙ったままの俊祐に苦笑し、四季が話しかける 四季「ふふ、なんか前もこんなことありましたね。     鴨居さんが、なにも言わなくて…     そう、最初に会ったときです。戦い始めたばかりの頃」 俊祐「……」 やはり俊祐は黙ったまま。しかし四季は笑みを崩さずに、新しい話題を口にする 四季「あの、鴨井さんのお父さんってどんな方だったんですか?」 俊祐「なんだ、突然?」 いつも無愛想に見える表情をしている俊祐にしては珍しく、きょとんと眼を開いて四季を見やる 四季「私、子供のころの記憶がないんです」 俊祐「…」 四季「だから、聞かせてくれませんか?」 俊祐は再びいつもの顔つきに戻り、腕を組む 俊祐「正直言って、楽しくない話だぞ」 四季「聞きたいんです」 なおも笑顔を向けてくる四季に、いつも通りの――しかし気を害した様子はない――口調で俊祐は語り出す 俊祐「俺の父は…剣のことしか考えていないような人間だった。     俺を山に連れ出しては朝から晩まで稽古続き。     巧くできないと、しこたま殴られた」 四季「そんな…」 俊祐「こんな近代化の中で時代錯誤の剣術だ。     俺は恨んだよ。何で、こんな意味のないことを…とな。     しかも俺が8つのとき、流行病で勝手に逝っちまった。お袋も一緒にだ」 四季「……」 話の暗さからか、それともしつこく聞きたがった自分への罪悪感か、あるいは両方か…… 四季の表情が曇る。しかし俊祐は口調をそのままに、続ける 俊祐「独りになった俺を、行き場のなくなった俺を、保護してくれたのが榊の親父だ。     俺は今、その人に恩を返すために生きている」 四季「ごめんなさい。私…」 俊祐「つまらない話だと言っただろ。気にしなくていい」 四季「……」 俊祐「人生のなかで、いい思い出なんて一握りだ。     それでも、お前は知りたいのか?」 問われた四季の顔にはそれまでの曇りは無く、決意の表情が見て取れた 四季「はい。そう決めましたから」 俊祐「そうか」 564 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:24:30 ID:GZEilJxr 「子供と男と2」 大男がいる山奥の滝へ、今日もまた男の子はやってきた こども「おっちゃん!」 男「ああ。また来たのか…」 こども「うん。おいら、おっちゃんのこと、気に入ったから」 男「俺が?お前、俺のことが怖くないのか?」 こども「うーん。おかあちゃんよりはこわくない」 男「ふははははっ。そうか。お前の母親は、そんなに怖いか」 こども「そうだよ~。この前も、おいらが家に帰ったらさあ―」 楽しげに話す二人の姿を、やはり離れたところから見やる影があった 影はそこから姿を消し、どこかの建物の中へと転移する 比羅坂「これは、利用できますね。      んふっふっふっふ。      我が理想のために、榊の血、利用させていただきます」 565 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:25:03 ID:GZEilJxr 「親心」 警官「しかしですなあ…。何も起こっておらんのでしょう?     我々は、そのような曖昧な情報では動けんのです。理解してください」 子供の母親「そんな…。なにかあってからでは遅いでしょ!」 警官「しかしですなあ。何も起こっておらんのでしょう」 例の子供の母親に頼み込まれ、警官の男は困った様子で同じ言葉を繰り返す。 子供の母親「せめて、一緒に確認に行ってもらえんでしょうか?」 警官「……。     わかりました。そこまで言われるのでしたら見に行ってみましょう」 566 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:25:52 ID:GZEilJxr 「多々良の光」 狗津葉「何とかなりそうだからさ。一応、お礼を言っとこうと思ってさ」 鈴音「殊勝な心がけじゃが、一応というところが気に入らんな」 狗津葉「はいはい。ありがとうございました。これで、いいでしょ」 軽い調子で言う狗津葉に対し、軽く笑って返す鈴音 いつもと変わらず光舞う多々良塚にて、二人は一緒に歩いてきた 俊祐「珍しい組み合わせだな」 鈴音「ちょっとな。暇つぶしに、こヤツの馬鹿な相談に付き合ってやった」 狗津葉「馬鹿って言うなっ!相変わらず、やなヤツ!」 『ポーッ!』と機関車のような音と湯気をあげ、ついでとばかりに青筋を浮かべて狗津葉が怒る 俊祐「いいコンビだな」 鈴音「冗談はよせ。おヌシこそ、なんでこんなところに?」 狗津葉「わかった。      鴨居さん、このロマンチックに光る魂を狗津葉ちゃんと観たいって、ここで待ってたんでしょ」 俊祐「お、おい…」 狗津葉のノリに圧倒される俊祐を尻目に、鈴音は一人神妙な顔をして、舞い続ける光を見やる 鈴音「ロマンチック、か。     ワシには、もがき苦しみ、その光を散らしているようにしか見えんがな」 狗津葉「捕え方がゆがんでるよ。鈴音は」 鈴音「これが事実なのじゃがな…」 狗津葉「え?どういうこと?」 鈴音「我らモノノケは人の成長を見守るために創造された。     その責務がある限り、もとの世界、幽異界に戻ることはできん。     たとえ魂が離れても、多々良の近くに寄ることで慰めるしかないのじゃ。     ここに居る魂の望みは元いた世界、幽異界に戻ること、それのみ」 俊祐「悲しい存在だな」 鈴音「ああ。しかし、そうかロマンチックか。     そう見えないこともない。ワシは今までそのように見ることはできんかった」 狗津葉「知らなかったんだからしょうがないじゃない。そんな嫌味、言わないでよ」 鈴音「馬鹿め。褒めておるのじゃ。     こやつらも、そう思われたほうが幸せじゃろうて」 俊祐「……」 567 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:26:52 ID:GZEilJxr 「子供と男と3」 今日も子どもは大男の元へ遊びに来ていた そしてそれを見つめる影……しかし今日は比羅坂ではなく、あの母親と警官だった 子供の母親「あの子、来ちゃいけないって何度も言ったのに…」 警官「確かに怪しい男ですなあ。しかし――」 ???「んふっふっふっふっふ」 さして害はなさそうだと警官が判断した直後、不気味な笑い声が響き、比羅坂が姿を現す 子供の母親「ひゃあっ!」 比羅坂「あの子は我々の生贄として使わせていただきます。      邪魔をしますと、あなた方も喰ろうてしまいますぞ」 警官「うわー!も、モノノケだあ~!」 子供の母親「た、たすけてぇ~!」 比羅坂が飛びかかる姿勢を見せた途端、二人は一目散に逃げ去ってしまった 比羅坂「んふっふっふっふっふ。この程度で。      なんとも張り合いがないですね。      さてさて、次の準備に入るとしましょう」 568 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:27:44 ID:GZEilJxr 「鬼」 大男がいつもの様に滝を眺めている しかしいつもと違うのは、やってきた人間が男の子ではなく、その母親と警官だったということだ 警官「おい、お前っ!     あの子供をどうしたんだっ!」 子供の母親「あの子をどこに隠したのっ!         あの子を返してっ!」 叫ぶ二人の声に、男は静かに振り向く 男「ん?いつも来ている子のことか?今日は、来ていないが…」 警官「し、しらばっくれるな!     おまえがモノノケの類で、あの子を狙っていたことは、わ、わかっているんだよっ!」 子供の母親「昨日から、いないのよっ!         あんたがさらったんでしょっ!」 男「俺は知らない…」 警官「し、しらばっくれるなといっているっ!     撃つぞっ!」 声と同様に震える手で拳銃を取り出し、男に向ける 男「俺は―」 誤解を解こうとしたのか、男が一歩踏み出す しかし緊張した警官には逆効果だった 警官「うわぁぁっ!!」 こども「やめてぇっ!」 男の子が警官と男の間へと走りこみ、男の記憶が弾けた。 男「親父…」 中年の男「お前の力は危険だ。将来、人間に仇なすことになる」 男「それが観えたというのか?」 中年の男「そうだ」 男「それで俺を殺す、というのかっ」 中年の男「…そうだ」 569 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:30:09 ID:GZEilJxr そこまで思い出し、男の意識は現実へと戻る 男の両腕は青白く輝き、警官の銃弾を防いでいた 警官「うわぁぁぁっ~!」 明らかな力の圧力に警官は絶叫し、さらに銃を撃つ しかし、男の前に出現した光の壁がそれらをすべて遮る 男「子がいるというのに…    キサマらは―    それでも同じ人の子かぁっ!」 さらに銃口から弾が爆ぜ、再び男の意識は記憶へと移る 男「俺には理解できん。    ヤツらのような力がないものを…なぜ?    俺たちは、何千年という間、陰からヤツらの生活を支えてきた    その結果が今のこれだ。    俺たちは追いやられ、約束の地なぞというコケの生えた伝承の地にしがみつくしかない。    お袋のことを忘れたかっ!    あの人が、どんな思いで死んでいったと― 中年の男「鬼眼!」 鬼眼と呼ばれた男はしかし、なおも激昂し続ける 鬼眼「同じ人間なのに、あいつらは親父がモノノケだということだけで…     なんで親父はそこまで過去の伝承にこだわるのだっ!俺にはわからん!」 中年の男「鬼眼よ。その思想が、すでに危険なのだ」 鬼眼「……」 中年の男「俺の手で殺してやる」 鬼眼「!     それがっ…父親の台詞かっ!」 鬼眼「ぐう…     このような愚かな者どものために、俺も親父もっ、お袋もっ―」 警官「わわわ…」 青白い力を腕に纏わせたまま、鬼眼はそれを警官に叩きつける 避けようとする暇も、悲鳴を上げる余裕すらもなく、警官は息絶えた 子供の母親「た、助けて~!」 こども「お、おかあちゃーんっ!」 子どもの母親は真っ先に、自分の子どもを見捨てて逃げ出した こども「あ、あ」 こどもはその場から立ち上がることすら出来ず、ただ目の前の鬼眼を見て呆然としている こども「お、おかあちゃーんっ!置いてかないでよっ!!」 我先にと逃げ出した母親が、その声に応えるはずもなく―― みたび鬼眼の意識は記憶の中へ 570 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:32:17 ID:GZEilJxr 中年の男「ぐ…」 鬼眼「……」 鬼眼も、そしてその父親も。激しい戦いの末膝をついていた 中年の男「ぐっ…。ふはははは…」 鬼眼「?」 中年の男「鬼眼よ!俺はいま初めて、この呪われた右目があって良かったと思ったぞ!」        俺が倒れても賀茂の血がお前を倒す。        俊祐っ!後は任せたぞ…」 そう言って、男は力尽き倒れた だが鬼眼に勝利の愉悦などありはしない…… 鬼眼「そこまでして…っ、俺を殺したいかっ!」 立ち尽くす鬼眼の背後に、比羅坂が姿を現す 比羅坂「ようやくの覚醒、おめでとうございます」 鬼眼「きさま、なにものだア!」 突然背後に現れたことや賛辞の言葉を意に介さず、問答無用で鬼眼は比羅坂に腕を振るう 鬼眼「なにっ!?」 覚醒した鬼眼の力に加え、不意打ちとも言える一撃だったと言うのに、比羅坂は落ち着いた態度でそれを避けて見せた 比羅坂「いきなりですな。挨拶ぐらいさせていただきたい」 鬼眼「……」 比羅坂「私は比羅坂と申します。      あなたの理想のお手伝いをしたく、参上いたしました」 鬼眼「理想だと?」 比羅坂「はい。人を駆逐し、モノノケの理想郷をこの移世に築くという理想です」 鬼眼「……」 比羅坂「人に母を殺され、人のために父に殺されかけ、いままた人に裏切られ―      あなたには、それの理想にいたる理由と義があります」 鬼眼「俺に、できると思うか?     今までのどんなモノノケもできなかった、そんなことを」 比羅坂「覚悟は、いるでしょうな」 鬼眼「覚悟?」 比羅坂「あなたの理想を実現するために見せていただきたい。      そこの愚かな人間一人、贄に」 比羅坂の示す方にいるのは逃げることの叶わぬ人の子一人 鬼眼「……」 そして鬼眼はそちらへと進み………… 573 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:34:29 ID:GZEilJxr 今回はここまで 自分で書いておいて何だが、流れが掴みにくいと思う このゲームは 自由行動 ↓ 百鬼夜行の戦い ↓ 自由行動 ↓ 百鬼夜行の…… を繰り返して天降勾玉を全種類集めるまで戦う形式で、今まで書いたシナリオのほとんどは 自由行動 ↓ 百鬼夜行の戦い ↓      ←ここに挿入されてる 自由行動 ・ ・ ・ そんな形式なため、一つの話が一気に繋がってるわけじゃない というわけでかなり途切れ途切れになってるのだがご了承いただきたい
&bold(){大正もののけ異聞録 Part1} Part13-492・494~498・518~523・557~570・573 ---- 492 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 05/03/20 01:28:23 ID:Z+uFW1n5 人物紹介(今回出てくる人のみ) 鴨居俊祐(かもいしゅんすけ) ・古書店を営む青年。性格が悪いわけではないのだが、   人との関わりを避ける傾向にあるため、偏屈な人間と捉えられやすい。   眼は少々釣り眼気味で、ことあるごとに愛用のめがねをクイと押し上げるクセがある。   早くに両親を亡くしているが、彼は父親を良く思ってはいなかった。   山に篭って朝から晩まで剣の稽古をさせられ、失敗すると殴られていたからである。   しかし皮肉かな、百鬼夜行の戦いに身を投じることになる俊祐に取って、   頼りになるのはその剣術と、父の形見の日本刀「細雪」なのである。 榊義彦(さかきよしひこ) ・俊祐の養父   謎の多い男らしいが、殺される。 加是(かぜ) ・義彦と共に暮らしていたコマ(狛犬種のモノノケ)   俊祐が義彦の元に引き取られて以降、何かと俊祐の面倒を見ることになる。 鈴音(すずね) ・信州猫又一族の頭であり、永乃平のモノノケを束ねる長。   見た目は10歳くらいの小さな女の子の様だが、   人間と違い長寿な上不老なため、実際は65歳。   頭を任されるだけあって、考え方や物事の捉え方、知恵知識はかなりのもの。   ちなみに彼女も血の契約者となる者の一人である。 494 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 05/03/20 01:29:14 ID:Z+uFW1n5 用語説明(今回出てくる用語のみ) 百鬼夜行の戦い(ひゃっきやぎょうのたたかい) ・これに参加出来るのは血の契約を交わした者、及びそれに従うモノノケのみ。  戦いの勝者には天降勾玉が天から与えられる。  契約者はすべての種類の勾玉を入手するまで、必ずこの戦いに参加しなければならない。 天降勾玉(あまふりのまがたま) ・モノノケの力の源とも言われる勾玉 神卸(かみおろし) ・幽異界にいる多々良の神霊を一時的に体内に宿し、予言、啓示を受けること。  これは触媒となる依童と、神意を審判する審神者が必要である。 多々良(たたら) ・遥か昔、霊止=人間を保護するために別世界である幽異界から降臨したとされる。  霊止の守護者としてモノノケを創造したと伝えられており、モノノケ達の間で神と言えば、ほぼこの多々良神である。 幽異界(ゆういかい) ・天上界、神仙の住む不老不死の世界。  理想郷としてモノノケの中で伝わる。 霊止(ひと) ・人間のこと。  変生や魂宿りなどの「霊魂の移しかえ」が行えるモノノケと、  一つの肉体に霊魂が留まる人間との差異を示し、その様に呼ぶ。  遥か昔の呼び方。 495 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 05/03/20 01:30:06 ID:Z+uFW1n5 何処かの地にて、謎の声が響く ???「約束の地に、モノノケ達が集まりつつある」 ???「時が至ったということ、そう判断して良いだろう」 ???「本能が告げておるのだ。遥か過去からの我々の本能が、彼の地に帰る時、と」 ???「神卸の通りだな」 ???「…」 ???「して、義彦はどうしておるのだ?まだ、てこずっておるのか?」 ???「悲しい運命を背負ったものだ。なまじ観えてしまうというのはな」 丘の上で二人の猫又が佇んでいる。その片方は一族の長・鈴音だ 鈴音「原初の時より、人にとって不可侵の領域であった闇。我々モノノケの領域。     人間は闇を恐れ、モノノケを恐れてきた」 猫又「……」 鈴音「しかし文明開化以後、人間は我々モノノケの領域であった闇を開拓しつつある。     これまでの、どの時代とも比べものにならない速さで信仰する闇払い。     それにより住む場所を失うモノノケたち」 猫又「この信濃以外に闇の残る地は、もう、ほとんど――」 鈴音「……。不満と不安がモノノケ達の中で渦を巻いておる…。     このままでは、必ず大きな争いが起こるじゃろう」 猫又「鈴音さま…」 496 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 05/03/20 01:31:00 ID:Z+uFW1n5 雨の降る安積平原の中、一人の青年と狛犬種のモノノケが駆ける。 その先には、雨に濡れながら倒れている一人の男。 若者・鴨居俊祐が男に駆け寄る。 俊祐「榊の親父っ!」 松元。俊祐の営む古書店にて 俊祐「榊の親父は?」 問われたコマ・加是は、俊祐の質問に沈黙で応える。 俊祐「俺は、助けられなかったのか…」 加是「義彦は、自分の意思で戦った。お前に責任はない」 俊祐「……」 加是「あの場に、ヤツはいなかった。義彦、仕留め損なったな…」 俊祐「俺が、アイツを倒す」 加是「馬鹿なことを。相手は百鬼夜行の達成者だぞ。     天降の力を得ている相手に挑んでも、返り討ちにあうだけだ」 俊祐「ならば、力を手に入れるまでだ」 加是「俊祐…」 497 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 05/03/20 01:31:54 ID:Z+uFW1n5 安積平原にて、血の契約を行おうとする俊祐と加是 加是「本当に、やるのか?」 俊祐「天降勾玉で力を得ている者に対抗できる力は、天降勾玉によるものだけだ。     対抗する道が、これしかないのであるなら…     俺は選ぶ」 加是「お前、それがどういうことか、わかって言っているんだろうな?     血の契約者たちによる、天降勾玉を巡る戦い、百鬼夜行の戦い。     始めたら最後、全ての種類の天降が集まるまで戦い続けなければならない。     戦いに長けた俺たちモノノケでも、おいそれとはしない。     それが血の契約…百鬼夜行の戦いだ」 俊祐「しかし、ヤツはやり遂げた。     やり遂げてあの力を手に入れた。     俺は、強くなる必要がある」 俊祐、左手を天に掲げる 俊祐「我が名は鴨居俊祐。我が望みは力。     天降を持ちてヤツを倒す力を。     百鬼夜行の戦いへの参加を、血を持ちて契約す」 俊祐の左手に、天から光が降りる 加是「これでお前の人生は、戦いの連続だ」 俊祐「ああ」 加是「…百鬼夜行の戦いには、契約者と一緒に戦うモノノケが必要だ。     俺の仲間に声をかけておいてやるから、そいつらを使え。     それなりの戦力になるだろう」 俊祐「恩にきる…」 加是「ふん。百鬼夜行の戦いはもう始まっている。     次の戦いまでに、十分な準備をしておけ」 498 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 05/03/20 01:42:05 ID:Z+uFW1n5 こうして俊祐は百鬼夜行の戦いに参戦することになる。 同じ血の契約者である真奈井四季、篠森狗津葉、橘八雲、鈴音らと出会い、戦い続け、 俊祐は確実に天降の力を手にして行く。 そして―― ???「んふっふっふっふっふ。      血の契約者、鴨居俊祐ですね。      力は手に入れましたか?」 俊祐「何者だ?」 ???「比羅坂と申します。      あなたの力、確認にきました」 俊祐、刀を降り「虚空刃」と言う衝撃波の技を比羅坂に放つ。 が、比羅坂は平然と受け止め、 比羅坂「ほう…。これはこれは」 俊祐「比羅坂とか言ったな。俺の力を確認してなんとする」 比羅坂「んふっふっふっふっふ」 質問には応えず、消えて行く比羅坂 俊祐「逃げられたか。いったい、なにものだ?」 数歩歩いて呟く 俊祐「この天降の力も、まだまだか…」 518 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 08:21:46 ID:GZEilJxr ゆうべ書き出そうとしたら寝ちまったよオレの馬鹿…… ○時間が無いのでいい加減な血の契約者説明(俊祐、鈴音については前回参照)  ・真奈井四季:大人しい巫女。俊祐に好意あり?  ・篠森狗津葉:見た目は姉御肌キャラに見えないこともないが、言動はコギャルもどき  ・橘八雲:ショタ 519 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 08:22:43 ID:GZEilJxr 「多々良塚」 八雲「綺麗だと思いませんか?」 何かの光が舞う塚にて俊祐が立っていると、血の契約者・八雲がやってくる 八雲「この塚は、多々良塚って言うんです。モノノケたちのお墓みたいなものです」 俊祐「モノノケの墓…」 八雲「この舞っている光の球。これは全てモノノケの魂なんだそうです。     寿命を終え、その責務から解放されたモノノケの魂は全て、ここに集まります」 俊祐「俺には関係ないな」 立ち去ろうとする俊祐に、八雲は再び口を開く 八雲「そうでもないですよ。鴨井さんも、僕と同じ血の契約者ですから」 俊祐「どういうことだ?」 八雲「あの百鬼夜行の戦いで倒れたモノノケの魂も、最後には、ここに集まります。     魂をすり減らし戦う百鬼夜行だから、血の契約者にとって、ここは神聖な地とされているんです。     鴨居さんも一緒にお参りしていきませんか?」 俊祐「……」 だが俊祐は再び八雲に背を向け、その場から立ち去る 八雲「苦しみ舞うモノノケの魂、か」 残された八雲は一人俯き、そう呟く 520 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 08:23:16 ID:GZEilJxr 「闇払い」 何処かの地の洞窟にて モノノケ1「あんた、どっから来たんだい?」 モノノケ2「んー、東の唐沢の方からー、きたー」 モノノケ3「あっちは、もう闇がほとんどないって聞いたぞ」 モノノケ2「んー、そうだねー」 モノノケ1「しっ、隠れろ」 洞窟の入り口から人間の声がする おじさん「おっ。こんなところに洞窟があったなんて、知らなかったなあ」 鍬持ったおっさん登場 おじさん「この辺りは銀鉱が多いから掘ってみればなにか出るかもしれないな…       どれ…、また今度、みんなを連れて来てみよう」 そう言っておっさん帰る 隠れていたモノノケ達は毒づく モノノケ1「ちくしょう。こんな場所にまできやがって」 モノノケ3「こんなところまでこられたら、もう俺たちの場所はない」 モノノケ2「くそー」 モノノケ1「今に全ての闇は払われる。俺たちの住む場所がなくなるぞ」 モノノケ2「結局、約束の地に来ても、おんなじかあー」 521 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 08:23:51 ID:GZEilJxr 「父の剣術」 松元 河原 河原で剣を振っていた俊祐の所に、血の契約者・狗津葉と、イタチタイプのモノノケ・茂平がやってくる 狗津葉「あ、こんにちは~」 俊祐「ああ、お前か」 俊祐、刀を一振りした後、背中の鞘に収める 狗津葉「ずっと気になってたんだけど…鴨居さんの剣術って独特だよね」 俊祐「ああ。ずっと昔に父に仕込まれたものだ。この細雪も父のものだ」 茂平「流派は、なんだ?」 俊祐「知らん。俺はマジメに習おうともしなかったからな」 狗津葉「ふーん」 俊祐「今では、これが俺の頼りか…。皮肉なもんだな」 狗津葉「?」 茂平「……」 522 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 08:24:48 ID:GZEilJxr 「捜索」 雪が積もる村にて、スザクタイプのモノノケが何かを捜しながら飛んでいる。 ???「やはり見つからないか…。      鈴音が悲しむな…」 523 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 08:25:45 ID:GZEilJxr 「モノノケのはじまり」 死んだモノノケの魂の光舞う多々良塚にて、俊祐の前に鈴音がやってくる 鈴音「この塚のいわれ…知っておるか?」 俊祐「いや」 鈴音「昔、昔のこと、それこそ我々が生まれる何百年も何千年も前のことじゃ。     世界には混沌しかなかった。     その生きることさえ難しい、過酷な環境の中で人間、霊止は生まれた。     天上の幽異界から、その霊止の様を見て憂う神がいた。その名を多々良という。     多々良神は、人間の守護を目的に、幽異界から、この世界に降臨する。     そして、か弱い霊止の守護を使命として生きることとなったのじゃ。     そう、母親のようにな。     そして時は流れ、永きに渡り霊止を守ってきた多々良にも寿命が訪れ、幽異界に還る時がくる。     その際に、己の精神の一部を事物に宿らせ、人間の守護を目的とする力の施行者を創造した。     それがモノノケじゃ。     この多々良塚はその神が石化した姿だと伝えられておる。     モノノケの中に伝わる、古い古い昔話じゃ…」 俊祐「なぜ、そんなことを俺に?」 鈴音「ふふ、なぜかの。無知な、おヌシを見ておれなかったからかの…」 557 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:19:06 ID:GZEilJxr 別スレで名前そのまんまで書き込んじまったよ…… それはそれとして、今夜の分投下 登場人物説明 鬼眼(きがん) ・俊祐の養父である義彦を殺した男。実はその義彦の息子である。   鬼である義彦と人間である母親の間に生まれ、己の中の人の血を憎むことで絶大な力を発揮している。 比羅坂(ひらさか) ・何かの企みを抱いているモノノケ。   俊祐や鬼眼の前に姿を見せ、どこか人を嘲るような口調で接する。 558 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:19:44 ID:GZEilJxr 「嘲笑」 雨宮の渡(どこかの河原?)にて歩いている俊祐の前に、が姿を現す 俊祐「貴様は…比羅坂とかいったな」 比羅坂「お覚えいただき光栄です、鴨居さん」 俊祐「何のようだ。鬼眼の元に一緒に行ってくれ―とでもいうのか?」 比羅坂「んふっふっふ。面白いことをおっしゃる。      そのとおり。私は、鬼眼さんの居場所を知っております」 俊祐「やはり、アイツは生きているのだな」 比羅坂「んふっふっふっふっふ」 不気味に笑い、比羅坂はその姿を消す。 俊祐「待てっ!」 だが時既に遅し、それに応える声もない 俊祐「アイツは生きている…」 559 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:20:59 ID:GZEilJxr 「鴨居の過去」 安積平原にて、俊祐の元に加是が走ってくる 俊祐「……」 加是「俊祐…。お前、本当にアイツを倒せるのか?」 俊祐「なにが言いたい?」 加是「相手は、鬼眼なんだぞ」 俊祐「だからこそだ。     俺がアイツを解放してやる。これは、他の誰にも譲れない。     俺とアイツは戦う宿命にあったのだ。そう思う」 加是「……」 560 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:21:47 ID:GZEilJxr 「加是と鈴音」 永乃にある鈴音の家にて、加是と鈴音が向き合っている 加是「珍しい方に呼び出されたもんだ。     永乃のモノノケの長が、俺に何のようだ?」 鈴音「おヌシ、義彦の守護獣、名前は加是だったな」 加是「そんなたいそうなもんじゃない。     一緒に戦って、一緒に生活していただけだ」 鈴音「相変わらずの調子だな」 加是「なに?」 そう言って微笑む鈴音に、加是は怪訝な顔をする 鈴音「まだ思い出さぬか?」 ほんの少しの間の後、加是はハッとする。 加是「! あんた、どこかで見たことがあると思ったら、鈴音さんか」 鈴音「ふん。こんな可愛い顔を忘れるとは、失礼にもほどがあるぞ」 口調とは裏腹に、鈴音の口元は緩んでいる 加是「いや、悪い。そうか、元々は永乃の生まれだと言っていたよな。     そうか…。義彦の元に遊びに来ていた、あの鈴音さんが永乃の長か」 鈴音「今では長であり、血の契約者でもある」 加是「契約者?ということは俊祐とも…」 その言葉に軽く俯き、そのまま応える 鈴音「ああ、色々世話になっておる。数奇な運命じゃな」 加是「そうだな…」 そして再び顔を上げ、永乃の長は口を開く 鈴音「さて、おヌシを呼んだのは、昔話に花を咲かせるためではない」 加是「なんだ?」 鈴音「確かめたいことがある。義彦は、本当に解放されたのか?」 加是「ああ。俺が確認した。見事な最期だった」 鈴音「そうか…」 加是「本当に確認したいのは、義彦の方じゃないんだろ?」 鈴音「……」 加是「鬼眼は、わからん。俺が駆けつけた時には、もう姿はなかった。     まあ、モノノケの中でも、亜種で最強の鬼人同士の戦い。     無傷ではすまなかっただろうがな」 鈴音「そうか」 加是「本当に、おかしな運命だな。     義彦、鬼眼、俊祐、鈴音さん」 鈴音「そして、おヌシもな」 561 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:22:33 ID:GZEilJxr 「子供と男と1」 とある山奥の滝の前にて、大男がその景色を眺めている そこへ、まだ幼い男の子がやってくる 男「……」 こども「……」 男「……」 こども「なあ、おっちゃん。滝なんか見てて面白いか?」 男「ああ」 こども「ふーん。なあ、おっちゃんは、なんでこんなところにいるん?」 男「俺は、帰る場所がわからないんだ」 こども「ふーん。ヘンなの。帰る場所なんてアリンコでもしってるよ」 男「ふふ…そうだな。ヘンな話だ」 こども「そうだ。ヘンな話だ」 男「ははははっ」 そんなやり取りを少し離れた場所から黙ったまま見つめる影が一つ…… それは俊祐の前に何度か姿を現していたモノノケ・比羅坂だった 562 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:23:08 ID:GZEilJxr 「子供と母と」 こども「だから、そのおっちゃん、すっごく大きくてなあ。      手なんか、こう岩みたいで―」 子供の母親「……」 こども「おかあちゃん?どうかしたん?」 子供の母親「いいか、お前。もう、そこには近づいちゃいけないよ」 こども「えーっ!なんでぇ!」 子供の母親「そんな男、危ないヤツにきまってる」 こども「そんなことない!あのおっちゃんは、そんな人と違うよ!」 子供の母親「ダメなものはダメだ。         今度そこに近寄ったら、ウチからしばらく出さないからね! こども「……」 子供の母親「わかったら、もう行きな」 母親の言葉に従ったのかそれとももうその場にいたくないのか、 子どもは黙ったまま走り去る 子供の母親「山ン中に一人で暮らす大男なんて…人さらいかモノノケの類にきまっとうわ」 563 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:23:50 ID:GZEilJxr 「父親」 小諸 湖岸公園にて、突っ立っている俊祐の後ろから、血の契約者の一人、真奈井四季がやってくる 立ち止まり、俊祐の姿を確認した四季は、そのまま俊祐の隣へとやってくる 俊祐「…」 それでも黙ったままの俊祐に苦笑し、四季が話しかける 四季「ふふ、なんか前もこんなことありましたね。     鴨居さんが、なにも言わなくて…     そう、最初に会ったときです。戦い始めたばかりの頃」 俊祐「……」 やはり俊祐は黙ったまま。しかし四季は笑みを崩さずに、新しい話題を口にする 四季「あの、鴨井さんのお父さんってどんな方だったんですか?」 俊祐「なんだ、突然?」 いつも無愛想に見える表情をしている俊祐にしては珍しく、きょとんと眼を開いて四季を見やる 四季「私、子供のころの記憶がないんです」 俊祐「…」 四季「だから、聞かせてくれませんか?」 俊祐は再びいつもの顔つきに戻り、腕を組む 俊祐「正直言って、楽しくない話だぞ」 四季「聞きたいんです」 なおも笑顔を向けてくる四季に、いつも通りの――しかし気を害した様子はない――口調で俊祐は語り出す 俊祐「俺の父は…剣のことしか考えていないような人間だった。     俺を山に連れ出しては朝から晩まで稽古続き。     巧くできないと、しこたま殴られた」 四季「そんな…」 俊祐「こんな近代化の中で時代錯誤の剣術だ。     俺は恨んだよ。何で、こんな意味のないことを…とな。     しかも俺が8つのとき、流行病で勝手に逝っちまった。お袋も一緒にだ」 四季「……」 話の暗さからか、それともしつこく聞きたがった自分への罪悪感か、あるいは両方か…… 四季の表情が曇る。しかし俊祐は口調をそのままに、続ける 俊祐「独りになった俺を、行き場のなくなった俺を、保護してくれたのが榊の親父だ。     俺は今、その人に恩を返すために生きている」 四季「ごめんなさい。私…」 俊祐「つまらない話だと言っただろ。気にしなくていい」 四季「……」 俊祐「人生のなかで、いい思い出なんて一握りだ。     それでも、お前は知りたいのか?」 問われた四季の顔にはそれまでの曇りは無く、決意の表情が見て取れた 四季「はい。そう決めましたから」 俊祐「そうか」 564 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:24:30 ID:GZEilJxr 「子供と男と2」 大男がいる山奥の滝へ、今日もまた男の子はやってきた こども「おっちゃん!」 男「ああ。また来たのか…」 こども「うん。おいら、おっちゃんのこと、気に入ったから」 男「俺が?お前、俺のことが怖くないのか?」 こども「うーん。おかあちゃんよりはこわくない」 男「ふははははっ。そうか。お前の母親は、そんなに怖いか」 こども「そうだよ~。この前も、おいらが家に帰ったらさあ―」 楽しげに話す二人の姿を、やはり離れたところから見やる影があった 影はそこから姿を消し、どこかの建物の中へと転移する 比羅坂「これは、利用できますね。      んふっふっふっふ。      我が理想のために、榊の血、利用させていただきます」 565 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:25:03 ID:GZEilJxr 「親心」 警官「しかしですなあ…。何も起こっておらんのでしょう?     我々は、そのような曖昧な情報では動けんのです。理解してください」 子供の母親「そんな…。なにかあってからでは遅いでしょ!」 警官「しかしですなあ。何も起こっておらんのでしょう」 例の子供の母親に頼み込まれ、警官の男は困った様子で同じ言葉を繰り返す。 子供の母親「せめて、一緒に確認に行ってもらえんでしょうか?」 警官「……。     わかりました。そこまで言われるのでしたら見に行ってみましょう」 566 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:25:52 ID:GZEilJxr 「多々良の光」 狗津葉「何とかなりそうだからさ。一応、お礼を言っとこうと思ってさ」 鈴音「殊勝な心がけじゃが、一応というところが気に入らんな」 狗津葉「はいはい。ありがとうございました。これで、いいでしょ」 軽い調子で言う狗津葉に対し、軽く笑って返す鈴音 いつもと変わらず光舞う多々良塚にて、二人は一緒に歩いてきた 俊祐「珍しい組み合わせだな」 鈴音「ちょっとな。暇つぶしに、こヤツの馬鹿な相談に付き合ってやった」 狗津葉「馬鹿って言うなっ!相変わらず、やなヤツ!」 『ポーッ!』と機関車のような音と湯気をあげ、ついでとばかりに青筋を浮かべて狗津葉が怒る 俊祐「いいコンビだな」 鈴音「冗談はよせ。おヌシこそ、なんでこんなところに?」 狗津葉「わかった。      鴨居さん、このロマンチックに光る魂を狗津葉ちゃんと観たいって、ここで待ってたんでしょ」 俊祐「お、おい…」 狗津葉のノリに圧倒される俊祐を尻目に、鈴音は一人神妙な顔をして、舞い続ける光を見やる 鈴音「ロマンチック、か。     ワシには、もがき苦しみ、その光を散らしているようにしか見えんがな」 狗津葉「捕え方がゆがんでるよ。鈴音は」 鈴音「これが事実なのじゃがな…」 狗津葉「え?どういうこと?」 鈴音「我らモノノケは人の成長を見守るために創造された。     その責務がある限り、もとの世界、幽異界に戻ることはできん。     たとえ魂が離れても、多々良の近くに寄ることで慰めるしかないのじゃ。     ここに居る魂の望みは元いた世界、幽異界に戻ること、それのみ」 俊祐「悲しい存在だな」 鈴音「ああ。しかし、そうかロマンチックか。     そう見えないこともない。ワシは今までそのように見ることはできんかった」 狗津葉「知らなかったんだからしょうがないじゃない。そんな嫌味、言わないでよ」 鈴音「馬鹿め。褒めておるのじゃ。     こやつらも、そう思われたほうが幸せじゃろうて」 俊祐「……」 567 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:26:52 ID:GZEilJxr 「子供と男と3」 今日も子どもは大男の元へ遊びに来ていた そしてそれを見つめる影……しかし今日は比羅坂ではなく、あの母親と警官だった 子供の母親「あの子、来ちゃいけないって何度も言ったのに…」 警官「確かに怪しい男ですなあ。しかし――」 ???「んふっふっふっふっふ」 さして害はなさそうだと警官が判断した直後、不気味な笑い声が響き、比羅坂が姿を現す 子供の母親「ひゃあっ!」 比羅坂「あの子は我々の生贄として使わせていただきます。      邪魔をしますと、あなた方も喰ろうてしまいますぞ」 警官「うわー!も、モノノケだあ~!」 子供の母親「た、たすけてぇ~!」 比羅坂が飛びかかる姿勢を見せた途端、二人は一目散に逃げ去ってしまった 比羅坂「んふっふっふっふっふ。この程度で。      なんとも張り合いがないですね。      さてさて、次の準備に入るとしましょう」 568 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:27:44 ID:GZEilJxr 「鬼」 大男がいつもの様に滝を眺めている しかしいつもと違うのは、やってきた人間が男の子ではなく、その母親と警官だったということだ 警官「おい、お前っ!     あの子供をどうしたんだっ!」 子供の母親「あの子をどこに隠したのっ!         あの子を返してっ!」 叫ぶ二人の声に、男は静かに振り向く 男「ん?いつも来ている子のことか?今日は、来ていないが…」 警官「し、しらばっくれるな!     おまえがモノノケの類で、あの子を狙っていたことは、わ、わかっているんだよっ!」 子供の母親「昨日から、いないのよっ!         あんたがさらったんでしょっ!」 男「俺は知らない…」 警官「し、しらばっくれるなといっているっ!     撃つぞっ!」 声と同様に震える手で拳銃を取り出し、男に向ける 男「俺は―」 誤解を解こうとしたのか、男が一歩踏み出す しかし緊張した警官には逆効果だった 警官「うわぁぁっ!!」 こども「やめてぇっ!」 男の子が警官と男の間へと走りこみ、男の記憶が弾けた。 男「親父…」 中年の男「お前の力は危険だ。将来、人間に仇なすことになる」 男「それが観えたというのか?」 中年の男「そうだ」 男「それで俺を殺す、というのかっ」 中年の男「…そうだ」 569 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:30:09 ID:GZEilJxr そこまで思い出し、男の意識は現実へと戻る 男の両腕は青白く輝き、警官の銃弾を防いでいた 警官「うわぁぁぁっ~!」 明らかな力の圧力に警官は絶叫し、さらに銃を撃つ しかし、男の前に出現した光の壁がそれらをすべて遮る 男「子がいるというのに…    キサマらは―    それでも同じ人の子かぁっ!」 さらに銃口から弾が爆ぜ、再び男の意識は記憶へと移る 男「俺には理解できん。    ヤツらのような力がないものを…なぜ?    俺たちは、何千年という間、陰からヤツらの生活を支えてきた    その結果が今のこれだ。    俺たちは追いやられ、約束の地なぞというコケの生えた伝承の地にしがみつくしかない。    お袋のことを忘れたかっ!    あの人が、どんな思いで死んでいったと― 中年の男「鬼眼!」 鬼眼と呼ばれた男はしかし、なおも激昂し続ける 鬼眼「同じ人間なのに、あいつらは親父がモノノケだということだけで…     なんで親父はそこまで過去の伝承にこだわるのだっ!俺にはわからん!」 中年の男「鬼眼よ。その思想が、すでに危険なのだ」 鬼眼「……」 中年の男「俺の手で殺してやる」 鬼眼「!     それがっ…父親の台詞かっ!」 鬼眼「ぐう…     このような愚かな者どものために、俺も親父もっ、お袋もっ―」 警官「わわわ…」 青白い力を腕に纏わせたまま、鬼眼はそれを警官に叩きつける 避けようとする暇も、悲鳴を上げる余裕すらもなく、警官は息絶えた 子供の母親「た、助けて~!」 こども「お、おかあちゃーんっ!」 子どもの母親は真っ先に、自分の子どもを見捨てて逃げ出した こども「あ、あ」 こどもはその場から立ち上がることすら出来ず、ただ目の前の鬼眼を見て呆然としている こども「お、おかあちゃーんっ!置いてかないでよっ!!」 我先にと逃げ出した母親が、その声に応えるはずもなく―― みたび鬼眼の意識は記憶の中へ 570 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:32:17 ID:GZEilJxr 中年の男「ぐ…」 鬼眼「……」 鬼眼も、そしてその父親も。激しい戦いの末膝をついていた 中年の男「ぐっ…。ふはははは…」 鬼眼「?」 中年の男「鬼眼よ!俺はいま初めて、この呪われた右目があって良かったと思ったぞ!」        俺が倒れても賀茂の血がお前を倒す。        俊祐っ!後は任せたぞ…」 そう言って、男は力尽き倒れた だが鬼眼に勝利の愉悦などありはしない…… 鬼眼「そこまでして…っ、俺を殺したいかっ!」 立ち尽くす鬼眼の背後に、比羅坂が姿を現す 比羅坂「ようやくの覚醒、おめでとうございます」 鬼眼「きさま、なにものだア!」 突然背後に現れたことや賛辞の言葉を意に介さず、問答無用で鬼眼は比羅坂に腕を振るう 鬼眼「なにっ!?」 覚醒した鬼眼の力に加え、不意打ちとも言える一撃だったと言うのに、比羅坂は落ち着いた態度でそれを避けて見せた 比羅坂「いきなりですな。挨拶ぐらいさせていただきたい」 鬼眼「……」 比羅坂「私は比羅坂と申します。      あなたの理想のお手伝いをしたく、参上いたしました」 鬼眼「理想だと?」 比羅坂「はい。人を駆逐し、モノノケの理想郷をこの移世に築くという理想です」 鬼眼「……」 比羅坂「人に母を殺され、人のために父に殺されかけ、いままた人に裏切られ―      あなたには、それの理想にいたる理由と義があります」 鬼眼「俺に、できると思うか?     今までのどんなモノノケもできなかった、そんなことを」 比羅坂「覚悟は、いるでしょうな」 鬼眼「覚悟?」 比羅坂「あなたの理想を実現するために見せていただきたい。      そこの愚かな人間一人、贄に」 比羅坂の示す方にいるのは逃げることの叶わぬ人の子一人 鬼眼「……」 そして鬼眼はそちらへと進み………… 573 大正もののけ異聞録・鴨居俊祐編 sage 2005/03/21(月) 23:34:29 ID:GZEilJxr 今回はここまで 自分で書いておいて何だが、流れが掴みにくいと思う このゲームは 自由行動 ↓ 百鬼夜行の戦い ↓ 自由行動 ↓ 百鬼夜行の…… を繰り返して天降勾玉を全種類集めるまで戦う形式で、今まで書いたシナリオのほとんどは 自由行動 ↓ 百鬼夜行の戦い ↓      ←ここに挿入されてる 自由行動 ・ ・ ・ そんな形式なため、一つの話が一気に繋がってるわけじゃない というわけでかなり途切れ途切れになってるのだがご了承いただきたい ---- [[Part2>http://www8.atwiki.jp/storyteller/pages/1334.html]]

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