DT ローズ・オブ・ゲノム

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<p> <strong>DTローズ・オブ・ゲノム<br></strong>&gt;&gt;10-505~507・511~512・531~533・569~571・613~615・628~631・653~657、&gt;&gt;11-18~20・63~64・97~98・130~131・140~141・144~147・155~156・160~161・175~176・183~184・189~191・213~215・224~226・242~244・248~251・276~278</p> <hr> 505 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/04 18:02:05 ID:DCKS8cdo<br> DT ローズ・オブ・ゲノム投下します <p>プロローグ 優等生</p> <p>1夏休みが近いのに、彼氏がいない。<br> 2誕生日は8月なのだが、このままだと誰も祝ってくれない。<br> 3最近2年の尾関さんにつきまとわれて困っている。</p> <p> あゆみは以上3つの危機に直面していると推測される。<br> あゆみは幼稚園の頃からアイドルだった。<br> 優等生だし、スポーツもできるし、誰が見ても一番可愛かった。<br> そして親、先生、友達、親しくない知人、周囲の期待には必ず応えてきた。<br> そして今年は、クラスのアイドルたるもの、<br> 彼氏も無しに寂しい高校1の夏休みを過ごすわけにはいかないと考えているのだ。<br> だからといって、尾関さんのような類人猿と付き合うなどもってのほかだ。<br> 早急に適当な彼氏を探さなくてはならない。</p> <p>では次の疑問。なぜ俺なのか?</p> <p>1今彼女がいないこと。<br> 2尾関さんに脅されても動じないだろうこと。<br> 3何より、自分につりあう男であること。</p> <p>要するに、俺が好きなわけではないのだ。<br> つりあう男だという評価には自尊心をくすぐられるが、素直に喜べる状況ではない。<br> あゆみは周囲の状況にせまられて、好きでもない男に、<br> 「好きではないことは察しがつくだろうが、付き合ってくれ」と言っているのだ。<br> 普通の男ならここで断る。断られるとプライドが傷つくことになるが、<br> この計算高い女が、そんな賭けに出るとは思えない。<br> 断らない男を選んでくるはずだ。そしてそれが俺だったのだ。<br> その辺の事情について探りを入れてみよう。<br> なぜ俺なのか、もっともらしい説明を用意しているはずだ。</p> <p><br> 506 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/04 18:03:22 ID:DCKS8cdo<br> 拓馬「いいけど。でも、なんで俺なの?」<br> あゆみ「本当にいい?」<br> 拓馬「ああ、俺はいいんだけど。」<br> あゆみ「・・・良かった。断られたらどうしようって思ってたんだよ。」<br> (これは嘘。だが、演技は完璧だ)<br> あゆみ「最近ずっと考えてることがあってね、<br> 本当の自分はどれなのってことなんだけど。」<br> 拓馬「本当の自分?」<br> あゆみ「うん。」<br> あゆみ「世の中には何人も私がいるわけよ。<br> 家族が思ってる私とか、友達が思ってる私とか、自分が思ってる私とか、<br> 少しずつ違うじゃない?」<br> あゆみ「でね、本当は自分で思ってる私が本当の自分なんだろうけど、<br> 自分で自分が何がしたいのかわからないんだよ、最近。」<br> 拓馬「それは、俺だって自分のことなんかわかんねえよ。<br> わかんなくたって普通じゃないの?」<br> あゆみ「それはそうだと思う。で、考えたの。<br> 親の中で自分ってどんな娘なんだろうとか、妹の中の自分とか、<br> 希恵とか、友達の中の自分も。」<br> あゆみ「で、結局、拓馬君の中の自分が、<br> かなり本当の自分に近いんじゃないかって思ったんだよ。<br> 幼稚園からずっと一緒だし。頭いいっていうか、観察眼あると思うし。」<br> あゆみ「そしたら今度は、拓馬君の中の自分はどんなだろうって、<br> そればっかり気になって、それで・・・」<br> (俺の中の、あゆみ・・・?)<br> あゆみ「これって、好きだってことだと思うんだよ。」<br> 拓馬「じゃあ、あゆみの中の俺ってどんなやつなの?」<br> あゆみ「え?私の中の拓馬君?」<br> 拓馬「うん」<br> あゆみ「んー、実は優しいっていうか。自分勝手に生きてるように見えて、<br> 困ってる人助けちゃたりとか、頼まれたら断れなかったりとか、<br> 正義の味方、的なところはあると思うよ。」<br> あゆみ「力は持ってるけど、自分のしたいことが特にないから、<br> 人のために使っちゃう感じ。したいことがないっていう点では、<br> 私と似てるのかもしれないね。」</p> <p>似たもの同士で、意見の対立も少ないだろう。<br> 付き合ってくれって頼まれたら断らないだろう。<br> 自立してるし、問題は起さないだろう。それが俺なわけだ。<br> 安全牌を切ったつもりか知らないが、この女、<br> 今や最悪の爆弾をつかまされたのだ。</p> <p><br> 507 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/04 18:04:32 ID:DCKS8cdo<br> 拓馬「・・・奥様は、魔女だったのです。」<br> あゆみ「え?」<br> 拓馬「いや、なんでもない。じゃあ一つ聞くけど、<br> 俺のもってる力はどう使ったらいいと思う?」<br> あゆみ「魔女ってそのこと?魔法の力があるってか。」<br> 拓馬「まあな。」<br> あゆみ「えー、何だろう。・・・まあいいや。何にせよ、全部私のために使ってほしい。」<br> あゆみ「・・・って言いたいとこだけど。私、正義の味方の彼女ってのも、悪くないかな。」<br> 拓馬「だったら、正義の味方も悪くないかな。」</p> <p> 秘密人口衛星「ばら6号」が、先日、横浜市内に強力なDT放射を検出した。<br> これが意味するのは、新たなマスター能力保有者の存在、それも最強レベルである。<br> この未確認マスターは「N2」というコードネームを与えられた。<br> DTによる人類征服を企む者、あるいはをれに抵抗する者、<br> 全ての勢力は色めきたち、調査を開始した。<br> 他の勢力より先にN2を発見し、味方としてスカウトすること。<br> が、もし敵に回るそぶりを見せるならば、能力を発揮しないうちに亡き者にすること。<br> 同じ使命をおびた何人ものエージェントが、今も市内をうろついている。<br> 最初に拓馬を発見したのは、淡島博士だった。<br> 博士はどの勢力も属さず、拓馬の身の安全だけを案じていた。<br> このまま隠れていても、いずれどこかの勢力に発見されるだろう。<br> それならむしろ自衛のために戦う準備をした方がよい、<br> というのが淡島博士の考えだった。<br> 淡島「その強大な力をどう使うか、それはおいおい考えればよい。<br> ますは自分の身を守ることだ。」</p> <p> 次に拓馬はパメラに会った。彼女はエリクシール機関のエージェントだ。<br> DTによる人類殲滅と、その後の世界支配。<br> これらを目論む秘密結社がマハトである。このマハトに対抗して作られた組織が<br> エリクシール機関であり、各国諜報機関から引き抜かれたエージェントたちの集団であった。<br> 拓馬「要するに正義の味方なわけ?」<br> パメラ「まさか。その逆。悪党の集まりよ。」</p> <p> どう身を処すべきか迷っていた拓馬だが、あゆみとの一件で決心がついた。<br> 人生は祭りだ。命の危険は、参加費を払うと思えばよい。<br> 死んでしまってもそれはそれ。あゆみが婆さんになって、<br> 「私は若い頃、正義の味方の彼女してたんじゃ」<br> とか孫に語ってくれたら、それだけで自分は伝説になれるわけだ。<br> 恐るべき力と、曖昧な動機を胸に、また一人正義の味方が誕生した。</p> <p>プロローグ 終 つづく</p> <br> <p><br> 511 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/05 01:33:23 ID:4NboDsWl<br> DTローズ・オブ・ゲノムの世界設定です</p> <p> 時は近未来、DTと呼ばれるナノマシンが極秘裏に開発され、<br> その技術をめぐって各国政府、多国籍企業、宗教団体などが諜報活動を<br> 繰り広げ、戦っています。<br> その戦の主役は、DTを操る能力を持つごく一握りの者たちで、<br> DTマスターと呼ばれています。DTマスターは<br> DTとそれを動かすプログラム・データ<br> (これらはウイルスぐらいの大きさしかありません)<br> を身体の内部に持っていて、状況に応じて使うことができます。<br> DTはプログラム次第でいろいろな働きをし、ユニットと呼ばれる動物や人間、<br> 自然には存在しない生物や機械などを、手近にある物質から作り出すことができるのです。<br> これを「DT合成」または「ユニット合成」と呼びます。</p> <p>榊 拓馬 </p> <p>横浜海鴎学院に通う高校一年生<br> 突如DTマスターとしての能力に目覚めたものの、<br> 本人としてはそれを少々持て余し気味であり、<br> エリクシールからの参入の打診にもはっきりとした返事は出していない。<br> 「N2事件」の中心人物。</p> <p>西 あゆみ</p> <p> 横浜海鴎学院に通う高校一年生で、拓馬の同級生&幼なじみ。<br> 自身はマスターではなく、DTのことも、拓馬の能力のことも知らないが、<br> 「N2事件」に非常に重要な役割を果たすことになる。</p> <p><br> ちなみにゲームボーイのソフトです</p> <p><br> 512 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/05 01:38:06 ID:4NboDsWl<br> ヒストリー11 ばら6号事件</p> <p> 「ばら6号事件」は、別名「N2事件」とも言われています。<br> この事件の発端となったのは、「ばら6号」の観測データでした。<br> ばら6号はマハトの開発した人工衛星で、地上のDTの活動を監視していました。<br> その衛星がある日、神奈川県横須賀市内に強力なDTマスターがいることを示唆する<br> 観測データを送ってきたのです。<br> このマスターは「N2」というコードネームが与えられました。<br> 各陣営はN2の獲得を目指し、行動を開始しました。<br> N2の正体は、横浜市内に住む高校生、榊拓馬だと考えられています。<br> 彼は淡島博士にマスターとしての能力を見出され、事件に大きく関わっていくことになります。<br> もう一人の主人公、飴井由佳も、やはりマスターとしての能力を持っています。<br> 彼女は榊拓馬のクラスメイトであったことから、N2事件に巻き込まれていくのです。<br> 二人が通う横浜海鴎学院高校は、堀川綾乃、緋瓦渉というDT黎明期の重要人物たちが通って<br> いた学校でもあります。<br> なぜここに2人も新しいマスターが登場したのか、堀川綾乃と何か関係があるのか、<br> すべては謎に包まれています。</p> <p><br> 531 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/06 23:47:18 ID:f9DhVVPN<br> 第1章 変身</p> <p> 翌日、あゆみは拓馬と出会う。あゆみは妹とクイーンズアビーで買い物中、<br> 1階の喫茶店で拓馬を見つけた。<br> 拓馬は淡島博士から、小さな瓶を受け取ったところだった。<br> オレンジがかった透明な液体で、入っているのはメモリーセル。<br> DTマスターの武器だ。<br> これを飲むことで、拓馬の体内のDTが活動を開始する。<br> 生物を合成したり、人体を改造強化したり、火を吹いたりということが可能になるのだ。<br> 逆にこれを飲まないうちは、マスターの素質のある拓馬といえども、ただの高校生と同じである。<br> 拓馬は瓶の液体を飲み干した。伝説への一歩を踏み出したのだ。<br> 伝説は生ぬるく、鉄分、塩分で血の味がした。<br> 瓶の液体を飲んだ時、あゆみが現れて声をかけた。</p> <p>あゆみ「拓馬君。<br> 拓馬「あゆみ?何してんの?<br> あゆみ「買い物中。妹と来てんの。拓馬君は?<br> あゆみは淡島博士の方をちらっと見て、表情だけで紹介するよう求めた。<br> 拓馬「この人は、淡島博士。正義の側の人物。<br> あゆみ「え?正義の・・・</p> <p> 何の前触れもなく、あゆみは倒れた。地面から伸びた手に引き倒されるように、<br> あごから地面に落ちた。<br> あゆみはそれっきり動かなくなった。口からは、やけに透明なよだれが、<br> ゆっくり流れ落ちた。何もかもがゆっくり動いている。<br> あゆみの妹が駆け寄ってきた。突然の出来事に言葉もでない。<br> 酸欠の金魚みたいに口をぱくぱく動かし、倒れた姉の肩をゆすった。</p> <p><br> 532 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/06 23:48:48 ID:f9DhVVPN<br> あゆみの妹は、はるかって名前だったはずだ。<br> いや、そんなことはどうでもいい。問題はあゆみだ。<br> 博士が脈をとったりしているが、多分死んでいるだろう。<br> 死んだようにしか見えない。<br> 婆さんどころか、まだ15歳だ。ここで死んだら、榊拓馬の伝説はどうなる。<br> 誰のための正義の味方なのか。<br> いや、違う。そういう問題じゃない。あゆみに何が起こったのか?<br> なぜ、死ななければならなかったのか?<br> どこから現れたのか、一人の男がそばに立っていた。<br> この男が疑問への答えだ。あゆみを見下ろす眼差しは、その死を確認するかのようだった。<br> 拓馬の視線を一瞬受け止めて、逃げるように博士の方を向いた。<br> 「悪いのは俺じゃない」<br> そういうニュアンスの目だった。男は神子柴と名乗った。<br> 淡島博士と親しいかの口調だったが、博士の方は相手をよく知らない様子だ。</p> <p> 神子柴「淡島先生、いけませんねえ。いや、この女子高生が問題のマスターだ、<br> という情報を得たものですからね、尾行しておったのですよ。<br> そしたら彼女、私を先生のところに案内してくれたわけですな。<br> 神子柴「比較的無害な研究者ということで見逃しているのに、<br> そうちょろちょろされるとね、お互いにとって不幸な結果になりますよ。</p> <p>この男は、何か勘違いをしている。拓馬は苛立った。<br> 神子柴の勘違いに対して苛立ち、彼女をあっさり殺されたことに苛立った。<br> だが本当は違う。平然と人を殺すことへの怒り、あゆみが死んだことへの悲しみ、<br> そういった感情が、本来あるべき感情が、少しも沸き起こってこないのだ。<br> これは、感情に駆られない自分への苛立ちだ。<br> などと余裕で分析している冷静な自分への苛立ちだ。</p> <p><br> 533 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/06 23:50:18 ID:f9DhVVPN<br> 拓馬「おい、おっさん、勘違いしてんじゃねえよ。<br> おまえが探してるマスターは、この俺だ。<br> 神子柴「なんだと?じゃあ、この女は・・・<br> 拓馬「俺の彼女だ。あゆみは死んだ。それゆえ、俺は今、機嫌が悪い!</p> <p>神子柴もようやく合点が行ったようだ。<br> 神子柴「そうか、貴様が!なるほど、たしかに手違いはあったようだが、<br> 結果は同じこと。死んでもらうぞ!<br> 神子柴は吼える。出所不明の闘志をむき出しにして、一歩後ずさって身構えた。<br> 神子柴「ウゥゥ<br> 低く奇声を発する。するとどうだろう。<br> その上半身が見る見るうちに肥大し、皮膚からは長い剛毛が生え始め、<br> 二足歩行の獣が服を着ているが如き化け物、牛頭人身の怪人へと変身をとげていた。<br> この間わずか1秒。<br> さすがにこれには度肝を抜かれた拓馬だが、見せてもらったビデオでは、<br> 熊に変身してたなあ、などとのんびり回想している自分も内部には存在するのだった。</p> <p>淡島「榊くん、闘え!<br> 博士が象徴的な指示を出す。<br> 心に浮かべた戦いのイメージを、具象化させるのがDTの力だ。<br> 水牛に襲い掛かるトラか、シマウマに襲い掛かるライオンか。<br> 拓馬が猛烈に体内のデータを検索し始めた。<br> 拓馬「来い、牛野郎。とりあえず、あゆみの仇はとらせてもらうぜ。</p> <p>戦闘パートに移行<br> 戦闘終了</p> <p>神子柴は倒した。しかし拓馬には何の感情もない。<br> 強いて言えば、昨日までとは違う、普通でない生活が始まったという、<br> 漠然とした感覚があるだけだ。</p> <p>第1章 終 つづく</p> <br> <p><br> 569 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/08 22:59:39 ID:x7zjAGSz<br> 第2章 子供</p> <p>救急車到着の時点で、あゆみは死んでいた。<br> 監察医は病死とした。毒ガスにしては周囲の人間に影響が無かったし、<br> そもそも毒物が検出されなかったのである。<br> 拓馬は、はるかや姉妹の親に付き添っていて、結局朝になってしまった。<br> 一晩いろいろ考えていたけれど、さすがに疲れて思考もまとまらず、<br> 帰ることにした。<br> 学校は休もうと思っていたが、眠れないのでやっぱり行くことにした。<br> 遅刻だが、どうせ全校集会とかをしているはずだ。<br> 学校の前にワゴンが停まっていた。<br> 一応変死事件だし、ケーブルかローカルの取材かと思ったが、<br> そうではないらしい。<br> 車から出てきた男は2人とも大学生風で、いきなり拓馬に話し掛けてきた。</p> <p>男「昨日神子紫を倒したのは、君だね。<br> 拓馬「誰だよそれ、知らねえよ。どっか行ってくんない?<br> 通学の邪魔なんだけど。<br> 男「・・・我々は、超生教の者だ。<br> そう言いさえすれば全てが解決するかのような口調だった。<br> 拓馬も、かの教団の行儀の悪さについては少し聞いていたが、<br> これには少し驚き、そして機嫌をさらに悪くした。<br> 拓馬「だったらなんなんだ?俺の不機嫌に付き合うってのか?<br> 男たちは怯み、一人はワゴンの方に駆け戻った。<br> 男「さ、算哲様、お願いします。</p> <p> ふいんきからして用心棒の先生でも出るのかと思ったが、<br> 車から出てきたのは子供だった。小学生ぐらいの男の子である。<br> ただ、爪楊枝を口にくわえた着流しの用心棒より、こっちの方が全然デンジャラスだ。<br> 拳法着のような服に坊主頭といえば、少林寺の修行僧かダライラマの生まれ変わりか。<br> 拓馬の全身に警報が走った。昨日の牛野郎と同じ匂いがしたのだ。<br> 拓馬が検出したのは、この子供から放射されるDTだ。</p> <p><br> 570 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/08 23:00:56 ID:x7zjAGSz<br> 算哲「榊拓馬だね。<br> 拓馬「・・・そうかもな。<br> 拓馬「君は、パメラによれば、エリクシールに与することにしたらしいね。<br> 拓馬「へえ、それは初耳だ。<br> 算哲「・・・どうしてそういう態度をとるかな。僕だって楽しくてやってるわけじゃないぞ。<br> 拓馬「じゃあやめれば。<br> 算哲「やめる?だれが一旦なったマスターをやめられるんだよ。<br> 鬼ごっこの鬼じゃないいんだぞ。そう簡単になったりやめたりできるわけないだろ。<br> 拓馬「・・・なんだ?マスターでなくなる方法、知らねーのか。じゃあ教えてやろうか?<br> 算哲「別に。<br> 拓馬「知りたいんじゃないのか?<br> 算哲「知らなくていいよ、そんなの。<br> 拓馬「そうだなあ、・・・俺を倒したら、教えてやってもいいかなあ・・・<br> 算哲「知らなくてもいいって言ってるだろ!</p> <p> 算哲は突然激激昂した。顔面から気を放つような勢いで、声と同時にDTを放射した。<br> とっさに回避したが、さっきまで拓馬の頭のあった空間が、急激な冷却に輝いていた。<br> 身を切るような冷気で、顔がひりひりする。<br> 算哲「挨拶は終わりだ。死ぬのは君の方だからな。</p> <p>戦闘開始</p> <p><br> 571 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/08 23:02:07 ID:x7zjAGSz<br> 戦闘終了</p> <p> それが唯一の方法だと、算哲は知っていたのだろう。死んだらマスターもくそもない、<br> ただの子供である。<br> 拓馬は昨日に引き続き、今日も人を手にかけた。しかも子供。<br> あゆみもいない今、この行為に正義はない。つまり拓馬は、単なる悪党だ。<br> パメラの言葉を思い出した。拓馬にこのような運命が待っていることを、<br> パメラは予期していたのだろうか。<br> 拓馬は算哲のとりまき、さきほどの二人の学生風の男を脅し、パメラの居場所を聞き出した。<br> 男「た、多分もう死んでると思います・・・<br> 二人が本当に恐怖しているのを見て、拓馬はいやになった。<br> とりあえず、パメラの部屋に行ってみよう。<br> 生きていれば、何か話しを聞けるかもしれない。</p> <p>第二章 終 つづく</p> <p><br> 613 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/13 08:50:49 ID:aAFnY+cJ<br> 第3章 あゆみ</p> <p> 拓馬が部屋に踏み込むと、阿鼻叫喚の地獄絵図が待っていた。<br> もう嗅ぎなれたこの匂い。床に転がっている死体。<br> 半ば機械化された人間や、人間になりかけの本棚、植木鉢から生えた鳥。<br> 有り得ないものばかりが乱雑に陳列されている。<br> そして中央にはパメラがいた。しかし目を閉じて、微動だにしない。<br> 傷が深いところを見ても、もう死んでいるのだろう。</p> <p>物音がした気がして、拓馬は隣室に向かった。<br> 居間の惨劇を演出したのは算哲とは別の人物かもしれない。<br> そいつが潜んでいるのかもしれない。そう警戒して部屋に入ったが、<br> 予想もしない人物がそこにいた。<br> あゆみである。しかもあゆみは2人いた。2人のあゆみは呆然としており、<br> 1人はソファーに、1人は床に座っていた。<br> お互い顔を背けるように、別々の方向を見ていた。</p> <p>あゆみ「拓馬君?</p> <p> 2人が同時に声を出した。倍音が混じったような、エコーがかかったような、<br> ザ・ピーナッツばりの気色悪い音が響いた。</p> <p> あゆみ「私、変なんだよ。自分がもう1人いるみたいな、そんな感じがする。<br> 熱でもあるのかな。<br> あゆみ「ほら、今の。聞こえた?声がするでしょ。私しゃべってないのに。<br> 目の前にも自分の姿が見えるし・・・。<br> 拓馬「・・・大丈夫だよ。大丈夫。最近よくあるんだよ。こういうの。</p> <p> 事態の不愉快さは予想以上で、胸が自動的にむかついてくるのを感じた。<br> 顔色も悪いに違いない。しかしあゆみにはそれと悟られないよう、<br> 平静を装って答えておいた。そしてまず<br> 床に座っているあゆみの隣にかがんで、髪の毛の匂いを嗅いだ。<br> 残留DTを確認。合成から1時間も経っていない。<br> いっぽうソファーの方のあゆみは、DTを検出できなかった。<br> 本物なのか。あるいは合成後2日以上経つのか。</p> <p><br> 614 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/13 08:52:39 ID:aAFnY+cJ<br> あゆみ「何してんの?<br> 拓馬「いや、んーと、世界中には何人もあゆみがいるって考えられるよな。<br> 両親の中のあゆみとか、友達の中のあゆみとか。言ってる意味わかる?<br> あゆみ「わかるっていうか、こないだ私がした話じゃない。<br> あゆみ「・・・うそ。私そんな話したことない。拓馬君、こいつ、私じゃない。<br> にせものだよ。<br> あゆみ「うそじゃない。私その話したよね。拓馬君、覚えてるよね。<br> あなたの中の私が、本物の私だって。</p> <p> 拓馬はレトロアクションのスプレーを噴霧し、床のあゆみを始末した。<br> 正確には、合成前の物質へと戻した。あゆみはおぞましい悲鳴を上げ、溶解し、<br> 藤製の椅子とテーブルになって床に転がった。<br> ソファーのあゆみは両手で耳を塞ぎ、目からは涙を流していた。<br> そしてやはりレトロアクションを噴射されると、下水溝の泥状のものに変化し、悪臭を放った。<br> 気付くと、戸口にパメラが立っていた。</p> <p>拓馬「死んでなかったのか。<br> パメラ「この程度じゃね。それより、彼女の方を泥に戻したのはなぜ?<br> 拓馬「・・・本物のあゆみは、昨日死んだしな。<br> パメラ「正解だわ。じゃあ、私の中の彼女はどうする?何万個もいるけど。<br> 拓馬「まとめて始末してやるよ。それより、なんで俺をはめた?<br> 片っ方で仲間になれとか言っときながら、なんでこんな目にあわすんだよ。<br> パメラ「あなたに素質があるか、テストしてるのよ。<br> 彼女を利用したのは、あなたをこの世界に引きずり込むため。<br> 拓馬「・・・で、テストの結果は。<br> パメラ「優秀ね。あとは最終テスト。私を倒せるかどうかだけよ。<br> 拓馬「上等じゃねえか・・・。望みどうりにしてやるぜ!</p> <p>戦闘開始</p> <p><br> 615 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/13 08:53:56 ID:aAFnY+cJ<br> 戦闘終了</p> <p> 今度こそパメラは死んだ。死に際に拓馬を呼んで、合格を祝した。</p> <p> パメラ「おめでとう。人類を救うのはあなた。本物の正義の味方だわ・・・</p> <p>第3章 終 つづく</p> <br> <p><br> 628 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/16 07:27:42 ID:b5GXvYZp<br> 第4章 プール</p> <p>それから1ヶ月、大した事件もなく経過した。<br> その日拓馬は友人たちとプールに行くことになった。<br> しかし、当日遅刻者が相次ぎ、結局時間どおりに到着したのは2名、<br> 拓馬と千尋だけだった。</p> <p>拓馬「遅れるって?あめいっちが?<br> 千尋「由佳らしくないよね。雄太くんと松葉くんはともかく。<br> 拓馬「なんか企んでんじゃねえのか?<br> 千尋「え、そうかなあ・・・?<br> 拓馬「・・・ま、別にいいけど。</p> <p> 学校内の噂では、拓馬とあゆみは付き合っていたということになっていた。<br> 否定も肯定もしなかったおかげで、拓馬は悲運と謎を抱えた人物として、<br> ここ最近、タブーな存在であった。<br> 期末も終わったし、喪が明けたということだろう。<br> 雄太たちが気を使ってプールに誘ってくれたわけだ。<br> さらにこの、申し合わせたとしか思えない、わざとらしい遅れ具合はどうだ。<br> 「そのままデートしろ」という声が聞こえる。<br> それは雄太の声、由佳の声なのだが、このイベントの企画、立案は由佳だろう。<br> 雄太や松葉の知能には過ぎた小細工だ。<br> 飴井由佳。友達親善の守護者。「みんなのあめいっち」の名に誇張はない。<br> ことあるごとに、時には自分を捨ててまで人間関係崩壊の危機を救ってきた。<br> 今回、由佳が仕掛けた偶然風お見合いは、あゆみの死で空いた穴を埋めるのが目的だ。<br> 余計なお節介だと思っていた拓馬だが、いざ自分の話になると意外にどうでもよく、<br> むしろ他人の指図があるのは楽だった。由佳や雄太の保障付きなら、相性面も安心だ。<br> 千尋と付き合うのも悪くないと思う。</p> <p>拓馬「というわけで、奇しくも今日はデート。<br> みんなと会わないように、遊園地の方にいこうぜ。<br> 千尋「あ、拓馬君、待ってよ。</p> <p><br> 629 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/16 07:30:03 ID:b5GXvYZp<br> 日曜日の遊園地に相応しからぬ、殺伐としたふいんきの男。<br> 外人で、それも米兵っぽい。<br> ベンチに座り、行楽客に思いっきりガン飛ばしまくりで、順当に拓馬とも目が合った。<br> 男はマハト安全管理部所属、グレン・ドグスターと名乗った。<br> 左からわざとDTを放射し、自分がマスターであることを明らかにした。</p> <p> ドグスター「俺の目的はN2と呼ばれる未確認マスターの捜索だ。<br> 拓馬「だったら、あんたの探求もここで終わりだ。俺は榊拓馬。横浜から来た。<br> ドグスター「おまえが?N2は女だと聞いてるぞ。<br> 拓馬「それはデマだ。エリクシール機関が流したのさ。<br> ドグスター「・・・どうやら、俺達は話合う必要があるな。</p> <p> 会話が英語だったこともあり、千尋には全く理解できなかった。</p> <p>千尋「ねえ、知ってる人?からまれてんの?<br> 拓馬「・・・いや。少し違う。悪いけど俺、今から、この怖い外人さんと<br> 話があるから。ちょっとまっててくれる?<br> 千尋「え?そんな・・・<br> 拓馬「ごめん。あとで全部説明するからさ。あゆみのこととかも含めて。<br> 千尋「・・・</p> <p> 変な話だが、これが殺し文句になった。クラスで最大の謎を秘めた男が<br> 自分にだけ秘密を明かしてくれるという。拓馬の目が真剣なのもあって、<br> 千尋は結局、無言で承諾してしまった。<br> 拓馬はベンチに千尋を座らせると、周囲の芝生にアクティベーターで<br> トラップを敷いた。これで千尋の周りでは、不用意にDTを使えまい。</p> <p>拓馬「言っとくが、彼女は無関係だ。<br> ドグスター「理解した。彼女には手出しはしない。</p> <p> 2人は遊園地の奥の方、お化け屋敷の洋館の脇の方へ向かった。</p> <p><br> 630 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/16 07:31:17 ID:b5GXvYZp<br> ドグスター「衛星追跡によると、N2は今日、この遊園地に入った。<br> 俺達は急遽予定を変更し、ここで探索を開始したのだ。<br> 拓馬「あんたの言うN2は、俺の事だろう。<br> パメラが俺を出し抜くため、女っていう情報を流したらしい。<br> ドグスター「それで、おまえは、エリクシール機関に?<br> 拓馬「いや、彼らのおかげで友達が一人死んだ。<br> 別にもう恨んではないが、彼らと手を組む義理はない。<br> ドグスター「俺もだ。やつらのせいで、何人も友達を失った。<br> 拓馬「あんたは、その復讐のために戦っているのか?<br> ドグスター「・・・理由などない。強いて言えば、金のためだ。<br> 拓馬「金?他に無いのか?俺はそこまで割り切れないな。<br> ドグスター「・・・若いな。おまえには戦う理由があるのか?<br> 拓馬「・・・パメラに言わせれば、俺には正義があるらしい。<br> しかし俺にはわからない。自分の戦う理由が、思い付かない。<br> ドグスター「・・・そうか。だとしたら、俺とおまえは戦うことになろう。</p> <p> ドグスターは深呼吸し始めた。DTが活動を開始するのがわかる。</p> <p> 拓馬「結局、こうなるのか!なぜだ?なぜあんたと戦う必要がある?<br> ドグスター「戦わない理由がないからだ。いたってシンプル。<br> おまえが金や言葉で動かない、戦うしかない人間だからだ!</p> <p>戦闘開始</p> <p><br> 631 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/16 07:33:09 ID:b5GXvYZp<br> 戦闘終了</p> <p>ドグスターも死んだ。</p> <p><br> ドグスター「おまえは強い。それが、おまえの戦う理由・・・</p> <p> 納得できる理由ではない。納得できないまま、撃墜数ばかり増えていく。<br> 考えればむかつくし、考えるのはやめられない。寝るか死ぬしか手段はない。<br> 拓馬は一瞬、腹立たしさに頭が真っ白になりかけたが、気を取り直して<br> 千尋の待つベンチへと戻った。彼女なら、何か理由を与えてくれるかもしれない。</p> <p> おかしなことになっていた。雄太がいる。千尋と一緒に木の陰に身を潜めている。<br> 通りでは、激しい戦いの最中だった。<br> 合成生物が吼える。殺戮マシンが走る。火の玉が乱れ飛ぶ。DT戦だ。<br> 二人のマスターが戦っている。一人は男。これも米兵っぽい黒人だ。<br> そしてもう一人は女。他でもない。由佳であった。</p> <p>拓馬「あめいっち!おまえもなのか?<br> 由佳「あんた最低じゃない?千尋ちゃんほっぽりだしてどこ行ってたの?<br> せっかくあたしらがお膳立てしてんのに!</p> <p>第4章 終 つづく</p> <br> <p><br> 653 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/18 22:53:42 ID:a2DTw0ip<br> 第5章 人形</p> <p> さすがにその日はもうプールというふいんきではなく、<br> 近所のファミレスで夜まで話していた。<br> 拓馬と由佳は、千尋と雄太にDTについて説明し、自分の身に起きた出来事を語った。<br> 由佳は緋瓦渉というマスターに発見され、DTの技を伝授されたという。</p> <p> 由佳「緋瓦さんって大学生で、うちの学校の卒業生なの。<br> 雄太「バレー部の人だろ?北大行った人で。<br> 由佳「そうそう。戦いを避けるために北海道にしたんだって。<br> 拓馬「北海道?そんなんで戦わずにすむのか?<br> 由佳「どうだろうね。拓馬君、戦うの嫌いなの?ちょっと意外かも。<br> 拓馬「俺ってそんな好戦的か?戦いだしてから、ろくなことねえぞ。<br> って、あめいっちはどうなんだよ。不幸に見舞われてるとは思わねえのか?<br> 由佳「うーん、拓馬君ほどじゃないよね。<br> 千尋「ねえ由佳、今のって、拓馬君が北海道に行っちゃうってこと?<br> 由佳「え?さあ、本人いるし、聞けば?<br> 拓馬「別に。行かねえよ。</p> <p>由佳の門限があって、4人は帰ることにした。<br> 拓馬は由佳と別れるとき、渉に紹介してもらう約束をした。<br> 考えることが急に増えたのだが、その日はすぐ寝てしまった。</p> <p><br> その翌日は球技大会で、拓馬はクラス対抗のサッカーに出ることになっていた。<br> サッカー部員の多いクラスで、優勝も狙える強力チームを作り上げていた。</p> <p>岸山「おい、聞け。ビック・ニュースだ。<br> 2年の森さんと北村さんは、今日は補習らしいぞ。<br> 岡部「なんだと!それは、ビッグ・ニュース。つまり俺達は・・・<br> 岸山「・・・勝てる!いや、勝つ!!</p> <p> 意気揚々たる高等部1年3組のイレブンは、口々に奇怪な雄叫びを発し、<br> 雪崩をうつように階段を駆け下り、朝の校庭に躍り出た。<br> そして、妙なものを発見した。廃車同然のライトバンが1台、<br> 校庭の真ん中に停まっていたのである。</p> <p><br> 654 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/18 22:55:21 ID:SbJncI36<br> 姫野「なんだよ、あれ。サッカーできねーじゃん。<br> 拓馬「引田天功でも入ってんじゃねえの?<br> 雄太「何だよ、それ?<br> 拓馬「爆発するんだよ。<br> 岡部「・・・それは、おまえが調べに行くって意味だよな。<br> 岸山「待て待て、俺も調べに行くからさ。岡部、誰か先生に言って来てくんない?<br> 拓馬「ちょっと待て。俺「も」って何だよ。「も」って。おまえと誰だよ。<br> 岸山「榊拓馬。おまえをおいて他にない。</p> <p> 拓馬と岸山は、ゆっくりと無人のグランドを横断した。<br> いつのまにか、下級生や女子が遠巻きにあつまっている。<br> 不思議な光景だ。新聞部部員が写真を撮っていた。<br> 車に近付くにつれて、中からハム音が聞こえてきた。そしてあと3mまで近づいたとき、<br> 動きがあった。ライトバンのリアハッチが跳ね上がり、中から何か出てきたのだ。<br> 最初人かと思ったが、違う。マネキンのような女の人形で、赤い服を着ていた。<br> 人形はガチャリという音とともに地面に投げ出され、その後は自力で立ち上がった。<br> 拓馬が警告を発する。空気中に、微量ながらDTを嗅ぎ取ったのだ。</p> <p>拓馬「岸山、逃げろ!<br> 岸山「言われずとも!</p> <p> 遅かった。人形は顔の辺りから怪光線を発し、それが岸山の膝に穴を開けた。<br> 転倒する岸山。ジリジリと音がした。</p> <p>岸山「うおおっ、俺の黄金の右脚が!</p> <p> 人形は2人に向かって喋りだした。口は全く動かないし、目だって飾りっぽいが、<br> とにかく2人の方に顔面を向けたのだ。</p> <p> 人形「私はメイプル4.0J。榊拓馬に薔薇の意思を伝えます。すなわち、汝、<br> 真の名を呼ぶ者よ、生命の鎖を断ち切り、薔薇の大儀を取れ。<br> 拓馬「・・・なんなんだ?さすがの俺でも全く理解できねえぞ!</p> <p>戦闘開始</p> <p><br> 655 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/18 22:56:59 ID:SbJncI36<br> 戦闘終了</p> <p> 死んだのだろうか?人形はバラバラに解体され、地面に転がった。<br> 拓馬がなおも油断なく、残骸の様子をうかがっていると、突如、<br> 周囲が光に包まれだした。<br> いや、そうではない。自分の瞳孔が開いているのだ。<br> 抗い難い強い力に膝を折られるようにして、拓馬は地面に倒れ臥した。</p> <p> ふと気付くと、闇よりなお深い光の霧の中、一人の男が立っていた。</p> <p>男「そなたの戦い、しかと見届けた。<br> 拓馬「・・・おまえは、誰だ?<br> 男「私の名は薔薇。これはもちろん偽名だが。真の名前は別にある。<br> 拓馬「真の名前?<br> 男「薔薇の他にも呼び名はある。朝霧に住まう者。大洋を飲み込む者。<br> イスカ。綾乃。最近ではスペクターとも言う。<br> 拓馬「名前の話はいい。俺に何の用だ?どこから来た?<br> 薔薇「私は偏在する。だが今は、衛星の軌道からそなたに語り掛けている。<br> 拓馬「そうか、衛星か・・・で、用向きは?<br> 薔薇「伝えるべきことがある。そなたが、戦士だということだ。<br> 薔薇「戦士に正義はいらぬ。正義は、人間の考えること。<br> そなたはもはや人間ではなく、戦士だ。戦士は、勝利を考えよ。<br> ただ敵を探し、これを討つがよい。<br> 拓馬「敵?敵って誰だ?俺が人間じゃないってのは・・・<br> まあ、ある意味そうだろうけど。<br> 薔薇「・・・もう間もなく、そなたの敵が一人、姿を現そうぞ。<br> 今のそなたには倒し得ぬ、強大な敵が来るぞ。フフフ・・・。<br> 拓馬「どうして敵とわかる?一体誰が来るんだ?<br> 薔薇「その真の名前は私もしらぬ。彼奴もまた、いくつも偽名を持つが、<br> それらを挙げる手間は無用。「敵」と呼んでおけばよい。<br> 薔薇「さあ、榊拓馬よ、選ぶがよい。今から敵に倒されるか、戦って、<br> これを滅ぼすか。言い換えるなら、人間として今死ぬか、戦士をして生きるか。<br> 薔薇「そなたに戦う勇気があるのなら、私が力を貸そう。さもなくば、<br> そなたはここで死に絶える。<br> 拓馬「力を貸すって・・・そもそもおまえは何者だ?<br> 薔薇「そなたに戦う勇気があるのなら、私の真の名前を教えよう。それこそが、<br> 力を貸すことになるのだ。私の正体も、それで知れよう。</p> <p> 薔薇を名乗るこの男、何かユニットの一種なのだろう。「真の名前」が表すのは、<br> おそらくDT用の生体情報だ。だが、敵の正体はまだわからない。</p> <p> 拓馬「おまえの力を借りたとしても、勝つとは限らないよな。<br> 薔薇「・・・案ずるな。そなたは勝つ。<br> 拓馬「それに、名前を聞いても俺とその敵が必ずしも戦うとは限らないぜ。<br> 薔薇「・・・会えばわかる。そなたは、必ず戦う・・・。</p> <p>薔薇の名前を聞きますか?</p> <p>はい いいえ</p> <p><br> 656 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/18 22:58:40 ID:SbJncI36<br> いいえを選択した場合</p> <p>拓馬「いや、おまえの力は借りない。<br> 薔薇「・・・ほう、自力で勝てるとでも思ったか?<br> 拓馬「勝ち負けとかじゃねえ。おまえ、胡散臭いし、<br> ジャロに訴えられないように注意しろよ。<br> 薔薇「・・・</p> <p>光の霧が晴れた。ようやく体も動くようになった。<br> 拓馬が立ち上がると、一人の男が立っていた。薔薇と同じ人物なのだが、<br> ふいんきが違うように感じた。</p> <p> 男「さすが、パメラが見込んだ通りだな。よくぞ悪魔の誘惑を退けた。<br> 拓馬「悪魔?<br> 男「とりあえず、そう呼んでいる。私の体内に住んでいる。もちろん、君の中にも。<br> 拓馬「・・・おまえは、誰だ?<br> 男「私の名前はグレア。エリクシール機関の者だ。<br> 君を我々の戦士の一員として迎え入れたい。<br> 拓馬「また戦士か。なんで戦ってるんだ?<br> 男「人類を守るためだ。<br> 拓馬「ほお、で、誰から?<br> 男「他でもない。DTだ。</p> <p> 滅茶苦茶アンビバレントな連中だ。あゆみを殺しておいて、仲間になれとか言う。<br> そうかと思うと、DTを使って戦う相手がDTだとか言う。</p> <p> 拓馬「気に入ったよ。おまえらが面白いのはよくわかった。<br> あゆみの仇については、保留しといてやる。</p> <p>以上が正義の味方の誕生に関する全てである。<br> 彼がその後どう生き、どのように戦うのか。それはまた、別の機会に語られよう。</p> <p>エンディング</p> <p><br> 657 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/18 22:59:44 ID:SbJncI36<br> はいを選択した場合</p> <p>拓馬「わかった。おまえの名前を教えてくれ。<br> 薔薇「・・・</p> <p>薔薇が仲間に加わった。</p> <p>第二部へ</p> <p>第5章 終 つづく</p> <br> <p><br> 18 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/21 12:20:46 ID:PIS1xdzx<br> ヒストリー0 DTの機能</p> <p> DTはナノマシンと呼ばれる微小な機械です。非常に小さいので、<br> 顕微鏡を使わなければ見えません。<br> そしてDTはウイルスなどと同じように、生物の細胞に寄生します。<br> 寄生した細胞の中で増殖し、何百万個という数になります。<br> DTは非常に小さいので、それだけの数になって始めて機能を<br> 果たすことができるのです。<br> DTの主な目的は、生物を改変することです。<br> DTはあらかじめ用意されていたデータに従って、様々な酵素</p> <p> (いろいろな化学反応を促進させる、触媒作用をもった蛋白質。<br> DTはメモリーセルの内容に従ってこの酵素を合成し、<br> 作られた酵素の働きでDTはいろいろな効果を発揮するのである。)</p> <p>を作ります。<br> そしてこの酵素が生物本来の細胞を改変し、別の動植物や、<br> 自然界には存在しない新たな生物へと変身させるのです。</p> <p><br> 19 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/21 12:21:55 ID:PIS1xdzx<br> この機能を利用して、</p> <p>ライマージ(生きたまま合成された物「合成生物」)<br> リオーグ (再構成された生物「改造生命体」)</p> <p>と呼ばれる様々な新生物が開発されてきました。<br> 既に絶滅した恐竜などを復元することもできるようになりました。<br> そして、新生物の強大な戦闘能力を得るため、<br> 自らの肉体をDTで改変する者も現れました。<br> 彼らは普段は普通の人間として生活しているのですが、<br> いざ戦闘というときにはDTを使い、改造人間へと変貌を遂げるのです。<br> さらに高度なDTの利用法を習得した者を、DTマスターを呼びます。<br> 彼らは身の回りの物質を、DTで生物に変えてしまう能力を持っています。<br> これをDT合成と呼びますが、DTマスターはこうして作りだした人間、<br> 猛獣や改造生物を、自分の僕として使い、敵と戦わせるのです。<br> また、DTマスターは生物だけでなく、道具や武器、<br> 兵器を合成することができます。<br> より強力な生物のデータを持っているマスターほど、<br> より強いマスターであると言えるでしょう。</p> <p><br> 20 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/21 12:22:54 ID:PIS1xdzx<br> 酵素を作り出す設計図ともいうべきデータは、メモリーセル</p> <p>(DTを使って生物や物質を作るために、<br> 必要なデータをRNAの形で保持している人工ウイルス)</p> <p>と呼ばれるものに保管されています。<br> メモリーセルはタンパク質の殻の中に入ったRNAで、<br> データはその塩基配列に記憶されています。<br> マスターは体内にDTとメモリーセルを持っていて、<br> 必要に応じてそれらを使うのです。</p> <p>ヒストリー0 終 つづく</p> <p><br> 63 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/23 13:41:41 ID:k8FWsq3n<br> ヒストリー1 デーモンウィルス</p> <p> 今から15年ほど前。3人の日本人科学者の研究を基にして、<br> DTの開発が始まることになりました。<br> 淡島喜八郎、緋瓦直樹、戻橋一郎を中心とする多くの科学者が、<br> 農水省管轄の研究プロジェクトに参加していました。<br> プロジェクトの目的は、新しい遺伝子改変技術を使った農作物、家畜の品種改良でした。<br> しかしこのプロジェクトは、結局意志半ばにして空中分解を起こします。<br> 理由の一つは、予算の削減という経済的なものでした。<br> 当時遺伝子改変作物、ひいては遺伝子工学研究全般に反対する世論がにわかに広まり、<br> 最終的に国会は研究の中止を決定しました。<br> 研究成果の一部が外国企業へ漏洩していたらしいことも、<br> 議員たちの不興を買った原因です。<br> プロジェクト中止のもう一つの理由は、中心人物の一人、<br> 戻橋一郎博士が死んだことです。<br> 彼はアフリカ、ナイジェリアで研究にとってきわめて重要な発見をしたのですが、<br> その帰途、飛行機事故で帰らぬ人となりました。<br> 彼が発見したものは、デーモンウイルスと呼ばれています。<br> このウイルスに感染した細菌は、でたらめなRNAを作り続ける性質がありました。<br> このRNA合成プロセスを電気信号で制御できるようになれば、<br> 人は自由自在に遺伝子を作ることができるようになるはずです。<br> とはいえ、研究は中止されました。緋瓦博士をはじめ、<br> 多くの科学者たちは以前の職場へと戻っていきました。<br> 一方、淡島博士ら数人の科学者は、研究を続行することを決意していました。<br> オルステンというヨーロッパの化学工業メーカーが彼らに手を差し伸べました。<br> 淡島博士らはドイツへ渡り、数年後に研究を完成させることになります。</p> <p>ヒストリー1 終 つづく</p> <p><br> 64 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/23 13:43:12 ID:k8FWsq3n<br> 全てのハイパーテキストを書くことは出来ないので重要と思われる物だけ書いていきます</p> <p>デーモンウイルス<br> 1984年アフリカで、戻橋一郎に発見されたバクテリオファージ。<br> このウイルスに寄生されたB型ツィビリ菌は、刺激によってRNAを作り続ける<br> 性質を持つようになる。</p> <p>バクテリオファージ<br> 細菌に寄生して増殖するウイルス。</p> <p>B型ツィビリ菌<br> 1984年、アフリカで発見された細菌。<br> バクテリアファージ「デーモンウイルス」に感染したツィビリ菌で、特異な性質を持つ。</p> <p>RNA<br> リボ核酸のこと。DNAを2つに割ったような螺旋構造をしており、DNA情報から蛋白質を合成する時に<br> 伝令の役目を果たす他、ウイルスなどでは遺伝物質そのものとしても働いている。</p> <p>淡島喜八郎(あわしま きはちろう)<br> DT発明者と目される遺伝子工学博士で、エリクシール機関と協力関係にある。<br> また淡島研究所の所長で、拓馬や由佳などの高校生マスターを支援している。</p> <p>緋瓦直樹(ひがわら なおき)<br> 畜産生物学を専門とする学者。淡島とともに、デーモンウイルスのRNA合成酵素の<br> 解析を進めた。緋瓦渉の父。</p> <p>戻橋一郎(もどりはし いちろう)<br> デーモンウイルスを発見した細菌学者で、綾乃の父。<br> 大阪大細胞生体工学センター助教授。<br> アフリカで飛行機事故に遭い、1984年に死亡。</p> <p><br> 97 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/24 20:04:21 ID:PuVi2yYM<br> ヒストリー2 マハト</p> <p>研究も終わりに近づいたある日、<br> 淡島博士はオステルンの研究所内で一人の人物の姿を見かけました。<br> 篝松博士といって、世界中の紛争地域に出かけては人をさらい、<br> 人体実験を繰り返しているという、黒い噂の絶えない狂気の科学者です。<br> 淡島博士は研究の新しいスポンサーの正体に疑念を抱き、調査を開始しました。<br> すると一連のできごとの背景には「マハト」と呼ばれる<br> 謎の組織が暗躍していることがわかりました。<br> マハトは国際的な秘密結社です。その理念は、自由や力への意志を持つ人間が、<br> そうでない劣等な人間を支配すること。<br> 実際マハトは巨大な多国籍企業を傘下に収め、世界中に私兵集団を展開しています。<br> ですが、彼らはそれで満足したわけではありません。<br> 人間が生物としての欠点から解放され、<br> 自らの意志でより強力な存在へと進化する方法を模索しました。<br> こうして設立されたのが、シルヴァプラナ機関です。<br> シルヴァプラナ機関の科学者たちは、<br> 人間の肉体を思い道りに改変するための道具として、<br> ナノマシン「DT」の開発を始めました。<br> 淡島、戻橋、緋瓦らの研究プロジェクトにも早くから着目しており、<br> 世論操作や政治家への圧力で研究を中止させたのです。<br> そして傘下のオステルン社で淡島らに研究を続けさせ、<br> 他の場所で行われていた研究の結果も統合し、DTを完成させたのでした。<br> 篝松博士は、このシルヴァプラナ機関の中心人物の一人でした。<br> 最初はスイス、後に日本で研究を続け、DTの使って「リオーグ」と呼ばれる<br> 新しいタイプの改造人間(サイボーグ)を作っていたのです。<br> シルヴァプラナ機関には他にも、「ライマージ」と呼ばれるミュータントを研究<br> しているフォイエルバッハ博士、「DTam」と呼ばれるロボット兵器を作っている<br> クズネツキー博士などが在籍しています。</p> <p>ヒストリー2 終 つづく</p> <p><br> 98 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/24 20:05:32 ID:PuVi2yYM<br> ハイパーリンク</p> <p>秘密結社マハト<br> 「自由と力への意志を持つ限られた人類が、下等な人類を支配する」という理念を、<br> 「Macht(ドイツ語で権力・武力の意味)」と呼び、<br> 実現を企てる秘密結社。7人委員会を頂点とし、<br> 巨大コンツェルン、私兵集団、研究機関を有する。</p> <p>オステルンBGT<br> ミュンヘンに本部を置く、マハト傘下の企業。無重力結晶合成細菌から<br> 水虫の治療薬まで、あらゆる化学製品を製造する巨大企業。</p> <p>ナノマシン「DT」<br> 1990年、秘密結社マハトの研究部門の1つ、<br> シルヴァプラナ機関で作られたナノマシン。<br> 宿主の意志に従って酵素を合成し、その働きによって多彩な現象を起こす。</p> <p>シルヴァプラナ機関<br> 生命を解放を目指してLL計画を推進した、フランツ・レーターを長とする<br> 秘密結社マハトの下部組織。意志によって生物の遺伝子や形態を自由に変化<br> させるDTの実用化を成功させた。</p> <p>LL計画<br> シルヴァプラナ機関の目的「生命解放」達成のための具体的な計画。<br> 生命の自由意志による適時変化、変能を目指し、ナノマシンDTを開発した。</p> <p>生命解放<br> 生物が自らの意志で遺伝子を書き換え「生き物を造り給うた存在」<br> の呪縛から解放されること。シルヴァプラナ機関の目的。</p> <p>篝松博士<br> 秘密結社マハトのメンバーで、シルヴァプラナ機関の幹部。<br> 中欧1研や極東1研を中心にリオーグを研究、<br> 超生教団を率いてマハトの覇権を争うマスター。医学博士。</p> <p><br> 130 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/25 14:26:48 ID:OAspwMEY<br> ヒストリー3 ジン</p> <p> 研究が終わると、淡島博士何食わぬ顔でオルステンを退社しました。<br> 高齢のため隠居すると説明しておいて、実際には長野県に秘密の研究所を作り、<br> DTの研究を続行したのです。<br> 淡島博士が研究したのは、細胞同士のRNAを介したコミュニケーションについてでした。<br> デーモンウイルスの本来の機能は、感染した細胞にこのコミュニケーション能力を<br> 与えることではないかと考えたのです。<br> そして何年かDTセルを育成し、観察し、<br> ついにDTセルのコロニーが意志を持っているのを発見しました。<br> 「ジン」と名づけられたこの意識体は、培養基の大腸菌に生まれ、<br> 池の水の藻類などの経て、最後は鳥類や哺乳類を含む、<br> 温室の生態系全体に生息するようになりました。<br> 最初は電流の刺激に反応するだけだったジンですが、人間の言葉を覚えるなど、<br> 知性を身につけるようになります。<br> そしてナノマシン「DT」の機能を利用し、生物の遺伝子を模倣して酵素を作ったり、<br> メタンガスを作って火をだしたりと、人間には不可能な技も覚えました。<br> ここに世界で最初のDTマスターが登場したのです。<br> 淡島博士は死んだ戻橋博士から、遺言を託されていました。<br> それは冷凍保存していた戻橋博士の細胞から、クローンを作ることです。<br> 淡島博士はジンに戻橋博士の遺伝子を渡すと、妊娠中の牝ウシに移住させました。<br> ジンはウシの胎児を作り変え、ヒトの赤ん坊の姿で生まれ落ちました。<br> このクローン人間は通常の十倍近いスピードで成長し、2年ほどで成人しました。<br> 今やこのクローン人間が、ジンと呼ばれるようになりました。</p> <p>ヒストリー3 終 つづく</p> <p><br> 131 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/25 14:28:17 ID:OAspwMEY<br> ハイパーリンク</p> <p> 淡島農業研究所(あわしまのうぎょうけんきゅうじょ)<br> オルステンを退社した淡島喜八郎博士が、資財を投じて長野に作った研究所。<br> エリクシールの協力を得て、マハトとは異なったアプローチのDT研究が進められている。</p> <p>ジン<br> 淡島博士らが、DT技術によって作りだした人造イスカ。<br> 牛窪仁の肉体崩壊後は、緋瓦渉の肉体に移住し、同化している。</p> <p>イスカ<br> 1 デーモンウイルスのネットワークが形成した意識のこと。<br> ハウサ語で「精霊」を意味する。同様に、<br> 意志を持つまでに強力になったマスターの体内のDTネットワークも、<br> イスカ(擬似イスカ、人造イスカ)と呼ばれる。</p> <p>2 前項のイスカを持つマスターは大変強力ではり、<br> 霧状の水分などで空気中に動く象を作ることができる。<br> この象をイスカ(スペクター)と呼ぶこともある。</p> <p>牛窪仁(うしくぼじん)<br> 淡島博士らによって作られた、ウシとヒトのライマージ。<br> 戻橋一郎の遺伝子が組み込まれている。1998年に、張華精との戦いでcDT-iを<br> 使われ崩壊した。</p> <p>cDT-i<br> カウンターDTインターフェロン。DTの感染を阻止したり、<br> 変形や放射などの働きを抑制したりする物質。<br> 「ストラングラー」と「ショカー」の2つがポピュラーで、応用させたデータも数多い。</p> <p>ストラングラー Strangler<br> 1998年、英ナナート製薬によって製品化された遅効性cDT-i。</p> <p>ショカー Shocker<br> 英ナナートが1999年暮れ発表したcDT-i。<br> 前年に発売された「ストラングラー」とは全くの別物で、<br> こちらはインターフェロンどころかサイトカインですらない。</p> <p>インターフェロン interferon<br> ウイルスの感染などに対する宿主の免疫作用により、<br> ウイルスの増殖を防ぐ蛋白質が骨髄細胞などで作られる。<br> この蛋白質がインターフェロンで、IFNと略される。</p> <p>サイトカイン cutokine<br> 免疫反応、炎症反応などの生体反応を抑制している物質の総称。<br> リンパ球、白血球など免疫に関わる細胞のネットワークにおける伝達物質。<br> <br> 140 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/26 15:27:26 ID:qBisD/cN<br> ヒストリー4 堀川綾乃</p> <p> 飛行機事故により戻橋一郎博士、妻の業莉乃は死亡しました。<br> ただ一人、博士の娘である綾乃(当時2歳)だけが奇跡的に生き残りました。<br> 綾乃は母方の祖父母、堀川夫妻に育てられましたが、<br> 夫妻には緋瓦直樹博士と妻の暁子の緋瓦夫妻が親代わりでした。<br> 戻橋業莉乃と緋瓦暁子は親友どうしでしたし、緋瓦夫妻には渉という息子がいて、<br> 綾乃とは同い年でした。<br> 淡島博士の研究所でDTの意識体「ジン」が生まれたように、<br> 自然界もデーモンウイルスの意識体を何千万年も前から誕生させていました。<br> ニジェール川上流に住むこの意識を、<br> ナイジェリアの人々は古来「イスカ(精霊)」と呼んでいます。<br> デーモンウイルスやDTは人間には感染しないとされていましたが、<br> 相手が自我の発達していない乳幼児で、イスカがそう望んだ場合であれば、<br> デーモンウイルスがヒトに感染することがあり得るのです。<br> そして綾乃にはイスカが感染していたのでした。<br> その14年後、人間として育った綾乃でしたが、<br> ある日その秘密が感ずかれることになります。<br> 実験用のライマージ動物「プリモ」の中に発生した意識体が、<br> 綾乃の中のイスカに反応したのです。<br> そして両者が出会ったとき、綾乃はDTに感染しました。<br> イスカという人知を超えた知性が、DTという肉体を改変する道具を得て、<br> 地球最強、究極の存在になったのです。<br> 綾乃は手始めに、プリモを捕獲しに来たリオーグ戦闘員たちを血祭りに上げました。<br> しかしその時点では、<br> 綾乃が人類最大の敵になるなどとは、誰も予想もしていませんでした。</p> <p>ヒストリー4 終 つづく</p> <p><br> 141 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/26 15:29:00 ID:qBisD/cN<br> ハイパーリンク</p> <p>堀川綾乃(ほりかわ あやの)<br> 戻橋一郎の娘。1998年に超生教団のリオーグ部隊に殺害された。<br> DTの原型であるデーモンウイルスに感染し、イスカ「アシス」が移住している。<br> 堀川は母方の旧姓。</p> <p>アシス<br> 太古よりデーモンウイルスが形成しているイスカ。<br> 堀川綾乃に移住していたため「綾乃」とも呼ばれる。<br> 堀川綾乃の肉体に移住する以前の状態を、<br> 以後の状態と区別する時は特に「アシス」と呼ぶ。</p> <p>戻橋一郎(もどりはし いちろう)<br> デーモンウイルスを発見した細菌学者で、綾乃の父。<br> 大阪大細胞生体工学センター助教授。<br> アフリカで飛行機事故に遭い、1984年に死亡。</p> <p>戻橋業莉乃(もどりはし まりの)<br> 戻橋一郎の妻。アマチュア写真家でニュギニアに撮影旅行に行った際に戻橋と知り合い、<br> 後に押し掛けて結婚、綾乃を産む。1984年に飛行機事故で死亡。旧姓堀川。</p> <p>プリモ<br> 中欧2研で作られたDTオオミミギツネの一固体。<br> 体内に生まれたDTネットワークが綾乃と共鳴し、綾乃発見のきっかけとなった。<br> r-DTというユニークなDTを持ち、マスターなみの力を身につけている。</p> <p>r-DT(リーダブルDT) Readable DT<br> プリモの体内で変性したと考えられている、スキャンの能力を持ったDT。<br> 実際にはp-DTのプログラムを、DTネットワークが書き換えているだけであり、<br> r-DTに相当する特殊なDTはない。</p> <p><br> 144 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/27 17:33:04 ID:9JtdEZ+K<br> ヒストリー5 超生教</p> <p> 綾乃に倒されたのは、超生教という武装宗教団体のリオーグ戦闘員で、<br> 篝松博士の部下たちでしす。<br> 超生教は、「人を超越した存在へと自らを高めることで、混迷の世を生き抜く」<br> こをと教義の中心に据えた新興宗教団体です。<br> 教祖の息子、黒川御夕が教団の実権を握ってからは、<br> 武装テロ集団としての性格を強めていました。<br> 研究の場を日本に移した篝松博士にとって、黒川は絶好のパートナーでした。<br> 教団の信者は実験台として、無尽蔵に篝松に提供されます。<br> そして改造人間となった信者は、私兵として黒川の戦力を強化するのです。<br> こうして何度も人体実験が行われましたが、実験台になった信者の中には、<br> 失敗して廃人になってしまう者や、死んでしまう者もいました。<br> たとえ生き延びたとしても、体質によってはDTは人間に定着しません。<br> 運良くリオーグになった信者は、エリート戦闘員として教団内では優遇されるのでした。<br> ある日、逃げた実験動物(プリモ)を捕まえに行った篝松博士の部下のリオーグ戦闘員が、<br> 一人の女子高生(綾乃)によって全滅しました。<br> 不審に思った篝松博士は、大量の戦闘員を派遣して、綾乃を捕獲しようとします。<br> しかし綾乃はのあまりの強さに身の危険を感じた戦闘員たちは、捕獲をあきらめ、<br> 爆弾を使いました。誰もが綾乃は死んだと思いました。<br> 一方黒川は、綾乃の親代わりだった緋瓦博士こそ、<br> 篝松博士すら知らないDTの高度な秘密を知っているのではないかと考えました。<br> 日に日に教団内で力を増す篝松博士を危険視していた黒川は、<br> 篝松博士には秘密で、緋瓦邸を襲撃することにしました。<br> 緋瓦博士かた秘密を聞き出せれば、もう篝松博士の改造手術に頼らずとも、<br> 教団戦闘員を強化することができるのです。</p> <p>ヒストリー5 終 つづく</p> <p><br> 145 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/27 17:35:17 ID:9JtdEZ+K<br> ハイパーリンク</p> <p>超生教団(ちょうせいきょうだん)<br> 1 1962年、霊媒師黒川さくらを教祖に興された新興宗教。<br> 自らを「暁の使徒」と称し、<br> 信者は超人となって混迷の時代を生き残ることを目指している。<br> 後にさくらの息子、御夕が実権を握って篝松と組みした。</p> <p>2 黒川御夕の死後、篝松の掌握した私兵集団。<br> リオーグ改造された信者を戦闘員として使い、<br> A因子がないと思われる幼児をマスターに育成し、<br> マハト反主流派として一大勢力となっている。</p> <p>A因子<br> デーモンウイルスはヒトに感染しないとされていたが、<br> 特殊な条件下で感染するヒトが現れた。<br> この免疫原因は、研究者淡島の名前から「A因子」と名づけられたが、<br> DTの感染にもA因子は関与しているとされている。</p> <p>免疫原因(めんえきげんいん)<br> 病原体に対して抗体を持っているなど、免疫反応の原因となる要素。</p> <p>黒川さくら(くろかわ さくら)<br> 超生教の教祖。第二次世界大戦後のドサクサで黒川岳人に拾われ養女となり、<br> 1962年に霊媒師として超生教を起こす。1978年、30歳で御夕を出産。</p> <p>黒川岳人(くろかわ がくと)<br> 金儲けのために超生教を設立した黒川御夕の父親。1992年に謎の病死をとげた。</p> <p>黒川御夕(くかわ みゆう)<br> 超生教団の支配者。教祖黒川さくらの息子で、<br> 父親である岳人を手にかけて教団の実権を握った。<br> 御夕が渉/ジンとの戦いに敗れた後、教団は篝松の支配下となる。</p> <p><br> 146 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/28 14:51:13 ID:nWZtu0eo<br> ヒストリー6 誘拐</p> <p> 緋瓦博士は長い間別の研究をしていて、実際には何も知りませんでした。<br> 緋瓦博士にとってプリモは始めて見るライマージ動物でしたが、<br> 事態が予想以上のスピードで進展しているのをそこに感じとりました。<br> そこでその血液などの資料を採取し、淡島博士の研究所を訪れました。<br> 緋瓦博士を待っていたのは、淡島博士らかつての同僚たち、<br> そして死んだ戻橋博士に瓜二つの人物、ジンでした。<br> 討論の末、科学者たちは綾乃の正体に思い当たります。<br> 彼らはマハトに先んじて綾乃を入手し、研究すべきだと考えました。<br> ジンが綾乃の捕獲に派遣されることになりました。<br> そういうわけで、黒川らが緋瓦博士の家に押し入って際、博士はいませんでした。<br> 黒川はかわりにその場にいた二人を拉致し、人質としました。<br> 二人とは緋瓦渉と、その彼女の高い倉いずみでした。<br> 渉はDTに関してはもちろん何も知りませんし、<br> 父である緋瓦博士行方すら知りませんでした。<br> いずみは人質としての価値もないと判断し黒川は、<br> 渉だけを引き続き拘束し、いずみは始末することにしました。</p> <p>ヒストリー6 終 つづく</p> <p><br> 147 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/28 14:52:01 ID:nWZtu0eo<br> ハイパーテキスト</p> <p>緋瓦渉(ひがわら わたる)<br> 緋瓦直樹の息子で、堀川綾乃の幼なじみ。<br> 横浜海鴎学院高等部在籍時に、イスカ「ジン」と同化して、最強のマスターとなる。</p> <p>高倉いずみ(たかくら いずみ)<br> 緋瓦渉の彼女。横浜海鴎学院出身で、飴井由佳や榊拓馬の3学年上になる先輩。</p> <p><br> 155 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/29 20:09:35 ID:8qDcjTLR<br> ヒストリー7 渉/ジン</p> <p> 殺されそうになった、いずみを間一髪のところで救出したのは、<br> DTの強力な治癒能力を持ったジンでした。<br> ジンは回収された綾乃のバラバラ死体を追って、教団施設内に潜入していたのです。<br> いずみの救出には成功したジンですが、<br> 逆に教団の対DT兵器の攻撃により、DTごと意識を破壊されてしまします。<br> ジンは死ぬ直前、無理を承知でその場にいた渉の肉体への移住を試みます。<br> 一方ジンの肉体の方はDTを全て破壊され、本来のウシの姿に戻ってしましました。<br> 普通、ヒトにはDTセルは感染しません。しかしごくまれに、<br> DTセルに拒絶反応を示さない、特殊な体質の人間もいます。<br> 数百万人一人といわれる限られた特異体質の持ち主だけが、DTマスターになれるのです。<br> 驚異的な偶然か、それともジンに見分ける力があったのか、<br> 渉はマスター能力の持ち主でした。<br> 渉の体の中に、ジンが急速にネットワークを張り巡らせました。<br> DTが脳に入り込み、渉の記憶は書き換えられました。<br> 新しい渉にとって、全ては既に知っていることになりました。<br> DTの開発史や、自分の肉体を改変する方法、火炎を出す技術や、<br> 身の回りの有機物を別の生物に変える方法。<br> それらは全て子供の頃から何度も教えられ、<br> 訓練をうけたことであるかのように思えてきました。<br> 渉は、黒川に対する反撃を開始しました。<br> 黒川もリオーグ戦闘員などを差し向けますが、<br> DTマスターである渉/ジンの圧倒的な力の前には、なすすべもありません。<br> 戦いの結果は明らかでした。渉の合成した凶暴な獣の餌食となり、黒川は絶命しました。</p> <p>ヒストリー7 終 つづく</p> <p><br> 156 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/29 20:13:10 ID:C5E6jvZm<br> ハイパーテキスト</p> <p>渉/ジン(わたる・ジン<br> 緋瓦渉とジンが同化した存在。緋瓦渉として生活している。</p> <p>同化(どうか)<br> イスカあるいはイスカとなった人格が、宿主の人格を混ざって一体化し、<br> 区別できなくなること。</p> <p>宿主(しゅくしゅ・やどぬし)<br> 感染や寄生の相手となっている生物。DTにとってマスターは宿主にあたる。</p> <p><br> 160 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/30 10:35:47 ID:+maqiBLl<br> ヒストリー8 最後の戦い</p> <p> 教団施設内を探しても、綾乃の死体は見つかりませんでした。<br> 渉はあきらめて、父のいる淡島博士の研究所へ向いました。<br> 一方、死んだ黒川ですが、DTを使っての改造手術が行われ、<br> 超巨大リオーグとして復活しました。<br> 復讐心に燃える黒川は、渉を追って長野県へ向かいます。<br> これを知った渉は、軽井沢で黒川を迎え撃つことにしました。<br> そして、二人の激しい戦いが始まりました。<br> 戦いの結果、渉が勝利しました。<br> 渉は以前と同じ生活に戻るため、家に帰りました。<br> 黒川は今度こそ死に絶え、彼の教団は一旦崩壊しました。<br> 全てが元のさやに戻ったかのように見えましたが、<br> それは全くの誤解に過ぎません。DTの研究は繰り返され、成果は蓄積し、<br> マハトの勢力は日に日に拡大しています。そして事件の発端となった綾乃自体は、<br> 依然行方不明なのです。</p> <p>ヒストリー8 終 つづく</p> <p><br> 161 DTローズ・オブ・ゲノム sage 04/12/30 10:37:07 ID:+maqiBLl<br> ハイパーテキスト</p> <p>DTマスター<br> m-DTと呼ばれるDTに感染し、その機能をコントロールできるようになった者。<br> 新たなメモリーセルを体内に取り込むことにより、様々な能力を発揮する。</p> <p>m-DT(マルチパーパスDT)<br> DTマスターが感染しているDTで、メモリーセルを使って様々な目的に使われる。<br> またm-DTはp-DTに対して使われる言葉で、一般的にDTというとこちらを指す。</p> <p>p-DT(プログラムドDT)<br> ライマージやリオーグを作るときに利用するDT。改造部分のデータを1つだけ内部に持ち、<br> 感染後そのデータに従って変形、変身が可能になる。</p> <p><br> 175 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 04/12/3119:53:31ID:2oqJvxN0<br> ヒストリー9 ブラッドマスターズ</p> <p> 世界は、こうしたマハトの勢力を、ただ手をこまねいて見ていたわけではありません。<br> 遺伝子操作に反対するNGO「スパイラル・オーダー」は、<br> 秘密組織「エリクシール機関」を編成し、各国諜報機関の協力のもと、<br> マハトの人類支配に立ち向かったのです。<br> こうして、全世界を舞台に両陣営の激しい戦いが始まりました。<br> しかしそれは、水面下の戦いでした。<br> 人類最終兵器DTの存在は、一般大衆はもちろん、<br> 各国政府、軍関係者にもほとんど知られていません。<br> 淡島博士らと接触したエリクシール機関は、<br> 渉/ジンというDTマスターの存在を知りました。<br> 一方のマハト側も、篝松博士の報告からDTのより高度な利用方法を研究しました。<br> エリクシール機関のエージェントがマスター化に成功したのを皮切りに、<br> 現在では、世界で100人近くのマスターが確認されています。<br> 状況に合わせてDTを使いこなすマスターの登場は、戦場の模様を一変させました。<br> 1人のマスターは、完全武装した歩兵数百人と互角に戦えるとする説もあります。<br> 現在では、マスター同士がDTを駆使して戦うのが戦闘の主流となっており、<br> 通常これを「DT戦」と呼んでいます。<br> DTに関わる各陣営にとって、一人でも多くのマスターを抱えることが重要になりました。<br> しかしマスターになる適正を持つ人は少ないのです。<br> どこにも属さないマスターの存在が確認されると、<br> 各陣営がそのマスターを自分たちの味方にするべく、激しい争奪戦を繰り広げています。</p> <p>ヒストリー9 終 つづく</p> <p><br> 176 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 04/12/3119:54:40ID:2oqJvxN0<br> ハイパーテキスト</p> <p>スパイラル・オーダー<br> 「秩序ある螺旋」つまりDNAを改変しないこと。<br> 世界各地の宗教団体に支援される国際的なNGOで、遺伝子操作に反対している。<br> 当然マハトとは敵対し、裏ではエリクシール機関を作りDT戦もする。</p> <p>エリクシール機関<br> スパイラル・オーダーによって設立された反マハト組織。<br> 協力各国の軍や諜報機関からスカウトされたエージェントで構成され、<br> 独自にリオーグなどの開発もしている。</p> <p><br> 183 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 05/01/0107:49:13ID:lPh6d0X5<br> ヒストリー10 私たちをとりまく状況</p> <p> 秘密結社マハトでは、研究者たちの一部が中核部の意向を無視し、<br> あるいは公然と反旗を翻すようになりました。<br> 彼らは数人のマスターと高度な技術力さえあれば、マハトの私設軍隊、<br> あるいは各国軍とも戦えることに気付いたのです。<br> しかし研究者たちの間でも勢力争いは絶えません。<br> 彼らは主に、ライマージを研究している勢力と、<br> リオーグを研究している勢力とに大別できます。<br> 日本では「バリスタ」という謎の人物が率いるライマージ勢と、<br> 黒川亡き後の超生教を掌握した篝松博士のグループが有力です。<br> また、マハト中枢部もこれを黙って見ていわけではありません。<br> 私設軍隊であるマハト安全管理部でもマスターの研究を進め、<br> 研究者たちと覇権をかけて戦っています。<br> 反マハトの最大勢力であるエリクシール機関も、多くのマスターを抱えています。<br> マハトのマスターはほとんどが元来マハトのメンバーで、<br> 訓練を受けてマスターになっています。これに対してエリクシールでは、<br> マスター能力を持つ人を味方にすることに力を入れています。<br> 数は少ないですが、どの勢力にも属さない中立のマスターも存在します。<br> 彼らは能力を持つ珍しい存在である上に、<br> DTに関する情報を偶然手に入れたごく少数の人々です。<br> また、所属していた陣営を抜け出して中立になったマスターもいます。<br> その他に「スペクター」などと呼ばれる未確認のマスターたちもいます。<br> 彼らの正体は全くの謎で、宇宙人、古代文明人だとする説もあるほどです。</p> <p>ヒストリー10 終 つづく</p> <p>ハイパーテキスト</p> <p>バリスタ<br> 日本におけるマハトの、ライマージ研究を統括している正体不明の人物。</p> <p>スペクター<br> DTエレクトロニクスを使う、未確認マスターの暗号名。正体は綾乃。</p> <p><br> 184 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 05/01/0107:51:10ID:itWAdsp+<br> ヒストリー11のハイパーテキスト</p> <p>ばら6号<br> マハト北米1研で、燭晶が開発したDTam人工衛星ビホルダー。<br> その6号機の人工知能が暴走、「薔薇」というイスカを形成して人類に対抗した。<br> ばら6号自体は2002年、渉に破壊されている。</p> <p>DTam人工衛星「ビホルダー」<br> マハト北米1研で開発された地球監視用の人工衛星で、計6個が衛星軌道に投入された。<br> DTチップAIが搭載されたDTamでもある。</p> <p>DTam<br> DTコンピュータ(クズネツキー博士が2000年に実用化に成功した、<br> DT応用のニューロコンピュータ。)<br> 搭載の自立型ロボットの総称。無人兵器など総じて戦闘用のものが多いが、<br> 人語を解するなどインターフェイスは充実している。</p> <p>DTチップ<br> DT技術を応用したシリコンチップは、<br> 記憶素子などを必要に応じて次々と造っていく性質がある。<br> 生物の脳の働きを模したシステムで、AIを実現している。</p> <p>薔薇(ばら)<br> 6つのビホルダーの間に生まれたイスカと見られる存在。<br> DTamによる地球支配を目指し、人間に戦いを挑む。<br> 2001年に3号、2002年に6号を失うが、残り4つの間に存在し続けている。</p> <p>ばら3号<br> 人工衛星ビホルダーの3号機。6号機の人工衛星暴走の後、<br> 姿勢制御ロケットの故障によってに南極に落下した。</p> <p><br> 189 DTローズ・オブ・ゲノム sage 05/01/01 22:46:35 ID:gsDwV/98<br> すいません、なるべく短くします。</p> <p>第6章 鳥</p> <p>2週間前。渋谷。高レベルDT放射体。<br> りあんの練習が珍しく休みで、由佳はりあんと一緒に買い物に行った。<br> りあんが靴を買って、今度は由佳のシャツを選んでいるときだ。</p> <p> りあん「ねえ、あめいっち、あの男さっきから私らのこと見てるよ。<br> 由佳「うそ。かっこいい?<br> りあん「だからあ、そういう問題じゃないって。</p> <p> 由佳が振り向いて見ると、駐車場の向こうに20歳くらいの背せの高い男が立っていた。<br> 結構かっこいいかもしれないが、にらんでて怖いので台無しだ。<br> そう思った由佳は、ウインクして手を振ってやった。<br> ほぐれた表情が見れるかもしれない。</p> <p> りおん「ちょっと、やめなよ。変な人だったらどうすんの?<br> 由佳「大丈夫って。何かあっても、りあんが守ってくれるでしょ。<br> りあん「何よそれ。</p> <p> それが渉と由佳の出会いであった。そして由佳にとっては、<br> 人間として経験する最後の出来事だった。<br> 彼らのはるか高空に、2羽の鳥。都会には珍しいハヤブサである。<br> だがもちろん、ただのハヤブサではない。<br> 巨大な猛禽の翼には、セラミックの刃が仕込まれていた。<br> 鳥の目は、地上を見ている。鳥の目がマスターの合図を捉える。<br> 「急降下、攻撃せよ」<br> 由佳は高濃度の漏洩DTを出していたが、渉にとってはその正体は謎で、<br> 警戒心を解けなかった。結局、それが彼の身を救ったのだ。<br> ハヤブサの攻撃を寸前でかわし、火炎で攻撃する。<br> しかし、由佳は攻撃を避けられるわけもなく、肩から袈裟懸けに体を切られた。<br> 猛禽は急反転して上昇、駐車場の地面に赤い飛翔を散らした。<br> りあんの悲鳴が響く。渉は周囲を見回し、驚かない人物を探した。<br> いる。隣のビルの上だ。余裕の表情でこちらを見下ろしている。<br> 渉はまず、由佳のもとに駆けつけ、リビルダを分け与えた。<br> 彼女がマスターなら、これで回復するはずだ。違うなら、他に打つ手はない。</p> <p><br> 190 DTローズ・オブ・ゲノム sage 05/01/01 22:49:23 ID:gsDwV/98<br> 渉「友達の看病をしてろよ。<br> りあん「な、何なのよ!あめいっちはどうなんのよ!<br> 渉「後で説明する。ここを動くな。</p> <p>渉は15メートルほど跳躍し、屋上に上がった。<br> さきほどの男は逃げもせず、由佳とりおんの方を見ている。</p> <p>男「・・・リビルダを投与したな。<br> 渉「鳥を使っていたのはおまえか?<br> 男「ああ。<br> 男「俺は安島。研究者だ。貴様の顔には見覚えがあるぞ。さっきから思い出せんのだが。<br> 渉「安島京介。超生教の科学者か。俺は、緋瓦渉だ。<br> 安島「思い出した。緋瓦の息子か。だとすると、あの子供は何者だ?<br> 渉「わからないから尾行していた。<br> 安島「仲間じゃないのか。じゃあなぜ助けた?<br> 渉「・・・彼女は高校の後輩だ。おまえこそ、なぜ攻撃した?<br> 安島「N2は危険だ。敵になるくらいなら、その前に倒す。<br> 貴様に合図しているのを見て敵だと判断させてもらったわけだ。<br> 安島「最初エリクシールかと思ったんだが、教団にとっては、仲の悪い敵だったな。<br> まあ、俺には関係ない話だが。<br> 渉「・・・<br> 安島「よし、予定変更だ。貴様をまず消し去り、あの子供を捕獲する!</p> <p>戦闘開始</p> <p>戦闘終了</p> <p> 安島「・・・こ、この俺が、こんな所で・・・これは無法!恥ずべき蛮行だっ!<br> 俺が死ぬとどうなると思う!科学の進歩にどれだけの損失を与えるか、<br> 貴様にはわかっていないのだ!<br> 渉「わかっていないのは、俺も認めよう。この行為に意味を与えるのは、今後の歴史。<br> おまえの登場しない歴史だ。<br> 安島「ば、バカなァァァ!輝かしい才能の芽を摘む気かァァァ!!</p> <p><br> 191 DTローズ・オブ・ゲノム sage 05/01/01 22:50:16 ID:gsDwV/98<br> 由佳が目を覚ますと、りあんの横に渉もいた。</p> <p>渉「気付いたか。<br> りあん「き、奇跡だわ。奇跡・・・。<br> 由佳「・・・なにが?<br> りあん「服までなおるの?</p> <p> あまりの出来事に、心労がたまったのだろう。りあんが疲れを訴えて倒れた。<br> タクシーを拾うという渉の決断に、由佳は大人パワーを感じた。<br> 車中、渉が手を顔の前にかざすと、りあんはすぐ寝込んでしまった。<br> これにはDTパワーを感じた。<br> この程度で驚いている場合ではないのだが、由佳は先程の戦闘を見ていなかったのだ。<br> 渉は簡単に説明した。由佳の体内のDTが超人的回復を成し遂げたこと。<br> 漏洩DTの放置が今度の危機を招いたこと。マスターの自然発生は非常に珍しく、<br> 独特の体質に、よほどの偶然が必要なこと。</p> <p> 渉「俺が校内に残したDTセルに感染したか。可能性としてはそれだ。他に接点がない。<br> 由佳「体質ってのは何ですか?<br> 渉「マスターに必要な、未解明の素質だ。体質より気質に近いものとも言われている。<br> 自己犠牲、思いやり、面倒見の良さ。<br> 由佳「面倒みがいいのはよく言われてます。「みんなのあめいっち」とか呼ばれるし。<br> 長女とかA型とかだからと思ってたけど、その、DTのせいだったんですか。<br> 渉「いや、逆だ。DTがそういう人間を好んで寄生するんだ。<br> 由佳「寄生?やだ、生き物なんですすか?<br> 渉「DT自体は生物ではない。しかし、設計には開発者の思考があるし、<br> ユニットは意思のある生物だ。人が良すぎると、彼らに付け入られる。<br> 由佳「自己中な方がいいってことですか?<br> 渉「無理に性格を変える必要はない。いやでも生活や生き方は変わるだろうし。<br> ただ、自分の気持ち、欲望がどこから来たか、それだけは気にしておいた方がいいだろう。</p> <p> そうこうするうちに、りあんの家に着いた。渉は別れ際、<br> このことは全て秘密にしておくよう注意した。<br> 由佳は、それはもちろんと答えたが、りあんの母への説明には苦労した。<br> りあんの様子が良さそうなので、夕飯の誘いを辞して帰った。</p> <p>第6章 終 つづく</p> <p><br> 213 DTローズ・オブ・ゲノム sage 05/01/04 08:46:12 ID:MdMTNzhf<br> 第7章 秘密</p> <p> 1週間、緋瓦さんから特訓を受けて、自分でDTを制御したり、<br> 技を使ったりできるようになった。<br> でも、この訓練の秘密めいたふいんきに、後ろめたさを感じたりもした。<br> 日曜日の夕方。</p> <p> 遥子に、借りていた英語のノートを返しに行くことになった。<br> 遥子の家までは、歩いて20分くらい。中間地点の川原で待ち合わせた。</p> <p>由佳「遥子、ありがとー。<br> 遥子「いいのよ。役に立った?<br> 由佳「うん、授業の半分は寝てたみたい。・・・で。で。で。<br> お礼なんだけどね、今、人に勉強見てもらってんだよ。<br> 遥子「家庭教師?<br> 由佳「・・・まあ、ちょと違うけど。その人うちの卒業生でさ、<br> 過去の試験をもらっちゃったの。坂上の日本史なんだけど。<br> 遥子「うそ!見して見して。・・・え、何この人。え?100点じゃん。<br> 由佳「そうなのよ。あ、このこと秘密ね。<br> 遥子「うん、わかった。</p> <p>近くのコンビニに行って、コピーした。</p> <p>由佳「遥子は勉強、どう?<br> 遥子「結構いい感じかな。<br> 由佳「今度こそ1位いけそう?<br> 遥子「・・・ちょと、それって、<br> 由佳「ごめん・・・。そういう意味じゃないの。<br> 遥子「うん。わかってる。先生と話して、今回はその話無しにしたの。<br> 私だってあゆみちゃんのこと・・・<br> 由佳「わかってるって。そうだ、あゆみちゃんと言えば。<br> 遥子「何?<br> 由佳「拓馬君、付き合ってたらしいよ。<br> 遥子「うそ。まじで?あ、でもそういえば・・・<br> 由佳「でしょ。でしょ。<br> 遥子「でもそれ、千尋ちゃん、立場ないじゃん。<br> 由佳「うん、まあねえ。私としては必ずしも・・・</p> <p> 噂をすれば、なんとやら。店内に拓馬君がいた。と思ったが、人違いだった。<br> そもそも女の子で、高校生ぐらいだった。</p> <p>遥子「・・・どうした?<br> 由佳「いや、人違い。</p> <p><br> 214 DTローズ・オブ・ゲノム sage 05/01/04 08:46:56 ID:MdMTNzhf<br> 姿は全く似てないのに、拓馬君のような印象を受けた。なぜだろう?<br> そうだ。<br> 昨日の朝、教室で拓馬君と会った印象が、この人を見てフラッシュバックしたのだ。<br> でも、なぜだろう。この2人の共通点って何だろう。</p> <p>遥子「変だよ、あめいっち。<br> 由佳「変だよね。なんで人違いしたのかな。</p> <p> 背格好は・・・違う。周囲の人や物の位置関係・・・違う。<br> 会話の流れや台詞・・・違う。温度、湿度、匂い・・・どれも違う。<br> いや、わかった。・・・DTだ。</p> <p>由佳「遥子、ごめん。用があったの思い出した。</p> <p> 言い訳にならないことを言って遥子と別れ、さっきの女の子を追いかけた。<br> 川の方へ向かっている。気付かれないように、尾行。<br> しかし一度川端に出られると、隠れるところが無くなってしまった。<br> 仕方ない。建物の陰から見ていると、女の子は駐車場の車に入った。<br> 突如、目の前に女の人が現れた。</p> <p>女「ちょっと、あんたたち。私の連れになんか用?<br> ちょろちょろ付け回してんじゃないわよ。</p> <p> 「あんたたち」って、複数形だ。つまり、遥子がついて来てるんだ!<br> 状況からして、この女は多分マスターだろう。<br> 自分一人なら逃げられるとしても、遥子がいるとちょっと難しい。<br> ここは適当にごまかして退散した方が良さそうだ。</p> <p> 由佳「ご、ごめんなさい。友達に似てたもんで、つい・・・</p> <p> 平凡な答えをしたつもりだったけど、実は最悪の選択をしていたらしい。</p> <p>女「・・・そう、あんたあの子の友達なの。<br> だったら、生きて帰すわけにはいかないわね。</p> <p> 女は素早く手首をひるがえした。DTだ。ナイフが出る。<br> そう思った私は、つい反射的にカウンターDTを撃っていた。<br> 特訓の成果が出てしまったのだ。<br> 女はびっくりして、自分の手と私の顔を見比べた。</p> <p>女「デナイアル!あんた、マスター!?</p> <p>ばればれだ。呪うべき私の軽率さ。ばか。<br> 女は羽織っていたブラウスを脱ぎ捨てた。下には水着だかコスプレだか、<br> 変なブラをしている。その行為に何の意味があるのか<br> 一瞬疑問に思ったけど、すぐ納得した。<br> 白い、大きな白鳥の羽が背中から出て来たのだ。<br> 女はそれを羽ばたいて、空中に舞い上がった。夕にに映えて、きれいだ。<br> なんかのビデオクリップみたい。<br> いや、見とれてる場合じゃなかった。私は殺されそうな状況なのだ。</p> <p>戦闘開始</p> <p><br> 215 DTローズ・オブ・ゲノム sage 05/01/04 08:48:22 ID:MdMTNzhf<br> 戦闘終了</p> <p>女「どうしたの?とどめを刺しなさいよ。<br> 由佳「でも・・・その、友達待たせてるし、</p> <p>我ながら変な理由だ。女は笑おうとしてむせた。</p> <p>女「変なやつ。そんなんじゃ生き残れないよ。<br> 由佳「・・・<br> 女「わかった。私はルチア。今日のことは、借りにしとくよ。<br> いつか返しに行くからね。<br> 由佳「私は、飴井由佳です。</p> <p> さっきの高校生風の女の子が物陰から出て来て、ルチアを助け起こす。<br> 私も遥子を探した。</p> <p>由佳「・・・<br> 遥子「・・・あなた、何?<br> 由佳「何って、その・・・</p> <p>遥子の手がおそるおそる伸びて、私の襟元に触れた。<br> 遥子の動悸や不安が、指から出て、私の肩に染み込んでいく感じ。</p> <p>遥子「飴井、由佳・・・。<br> 由佳「うん。<br> 遥子「私の、あめいっち・・・<br> 由佳「うん。・・・ごめんね、遥子。</p> <p> 遥子は許してくれた。私たちは抱き合ったまま、いつまでもそこに立っていた。</p> <p> 遥子「いいの。椎名先生のこと、あなたは許してくれたもん。<br> 由佳「私もう、人間じゃないかもしれない。<br> 遥子「いいの。あめいっちはあめいっちだし。ずっといっしょって、約束したじゃない。<br> 由佳「うん。ありがとう、遥子。</p> <p> 良かった。遥子に理解してもらえて。やっぱり私、秘密にしたままじゃ<br> 実力が出ないタイプなのだ。<br> みんなにも知ってもらって、今後ともよろしくって言おう。<br> 早くその日が来てほしいと思った。</p> <p>第7章 終 づづく</p> <p><br> 224 DTローズ・オブ・ゲノム sage 05/01/05 19:43:19 ID:zl2YUWSO<br> 第8章 プール</p> <p>あゆみちゃんは、卒業式の「解禁日」以来、<br> 何人もの上級生に言い寄られ、そのたびに断り続けた。<br> そこへ本命、相楽さん出馬の噂。<br> 世間体を気にする子だったし、今回はむげには断れないと思ったんだろう。<br> 幼なじみに緊急避難した。<br> 相手は榊拓馬、頼まれたらOKな正確だ。<br> 困ってるあゆみちゃんに泣きつかれたら、放っとけるわけがない。<br> 以上が、私の推測した筋書きによれば、あの2人は好きで付き合ってたんじゃない。<br> 千尋ちゃんにも勝算はある。それに、拓馬君にとっても、<br> 死んだあゆみちゃんにいつまでもしばられるのはどうかと思う。<br> 雄太も同じことを考えていた。</p> <p>雄太「よう、拓馬。夏といえば、プールだよな。<br> 拓馬「・・・海じゃねーか?普通。<br> 由佳「私、スイカ。<br> 松葉「マックシェイク半額。<br> 雄太「な、なんだよぅ、おまえら。せっかくただ券ゲットしたのに。<br> 由佳「それを先に言いなよ。ただ券?割引じゃなくて?<br> 雄太「おう、ナントカ優待券。5名様までご招待だぜ!</p> <p> その時は調査も目的だったけど、拓馬君がマスターなのか、ユニットなのか、<br> それとも私が勘違いしてたのか、結局わからずじまいだった。<br> 放射DTは全く検出できない。<br> もし拓馬君がマスターだったとしたら?結構はまってる。強そうだ。<br> でも、どこかの組織に属してたら、緋瓦さんと敵になるかもしれない。<br> そしたら、私はどっちに味方するんだろう?<br> ・・・困った。どうしよう。<br> とりあえず、緋瓦さんには当分黙っていよう。<br> 少なくとも、拓馬君の正体がわかるまで。<br> もし拓馬君がユニットだったとしたら?本物の拓馬君はどこ行ったんだろう?<br> あゆみちゃんと一緒に死んだとか。有り得る。<br> で、今は誰かマスターに使われてるわけだ。何人もいたら・・・ちょい不気味。<br> でも、データがあるなら私もほしいかも。そしたらどう使おう。<br> ・・・いけない想像してしまった。おわびに、みんなにも1人ずつあげようか。<br> いや、そういうもんだいじゃない。試験中だ。勉強だ、勉強。</p> <p><br> 225 DTローズ・オブ・ゲノム sage 05/01/05 19:44:12 ID:zl2YUWSO<br> で、6日後、プール当日。<br> 雄太の提案した作戦で、拓馬君と千尋ちゃんを二人きりにして、<br> 私らは隠れてしばらく観察することにした。<br> 遅れるってウソの電話して、先に現地に入る。<br> でも松葉君は本当に遅れた。間違えて八景島に行ったらしい。あほだ。<br> 雄太と合流して、待ち合わせ場所を監視する。<br> 2人はすぐやって来た。</p> <p>雄太「あ、やべえ。こっち来るぞ。<br> 由佳「一旦逃げよう。</p> <p>意外にも、二人は遊園地の方に入って行った。<br> 私らも時間をおいて、追いかける。結構面白くなってきた。テレビの番組みたいだ。<br> さて、私にとって、問題は拓馬君の正体だ。今のうちに調べ方を考えとこう。<br> 私がDTを出して、どう反応するか見るとか。あるいは、キカを使ってみようか。<br> マスター以外に使ったら、どうなるのかな?<br> 試しに雄太にキカを使ってみた。・・・該当なし。</p> <p>雄太「おい、あめいっち。<br> 由佳「な、なによ。脅かさないでよ。<br> 雄太「見ろよ、あそこ。</p> <p>向こうのベンチに、千尋ちゃんが一人で座っていた。</p> <p>由佳「拓馬君は・・・なんか買いに行ったとか?<br> 雄太「そんなとこだろう。</p> <p>背後から接近し、植え込みの裏に隠れる。<br> ここからなら会話を聞けなくもない。ベストポジションだ。<br> 誰かこっちに来る。私らの行動を不審に思った警備員てとこか。<br> 違う。その男は外人。黒人だ。遊園地に外人の警備員はない。<br> でも、いかつさも、装備も警備員風で、<br> むしろ特殊部隊みたいな印象もある。<br> 男は、真っ直ぐ私らの方に来て、わからない英語で話し掛けてきた。</p> <p>雄太「よ、よお、ブラザー。ワッチャプロブレン。<br> 由佳「や、やめてよ。わかってしゃべってんの?</p> <p>当然だけど、会話は続かなかった。<br> 男は英語でひとしきりしゃべった後、深呼吸を始めた。<br> 右手に息を吹きかけている。空気中に、DTが漂っているのがわかる!<br> さっきキカを使ったのが検出されたのか?<br> 何か戦闘しないですむ方法は?せめて言葉でも通じたら・・・</p> <p>雄太「こいつ、喧嘩売ってんじゃねえの?<br> 由佳「うん、っていうか、殺しに来てると思う・・・。</p> <p>2人の安全を選ぶなら、戦うしかないだろう。<br> 拓馬君の正体を暴くはずが、先に自分の正体がばれそうなふいんき。</p> <p>由佳「雄太、千尋ちゃん連れて逃げるのよ。<br> 雄太「いいけど、おまえは?<br> 由佳「あたしの心配はいいから。早く!</p> <p>戦闘開始</p> <p><br> 226 DTローズ・オブ・ゲノム sage 05/01/05 19:45:09 ID:zl2YUWSO<br> 戦闘終了</p> <p> 隠れていた雄太と千尋ちゃん、それに拓馬君も出てきた。</p> <p> 由佳「あんた最低じゃない?千尋ちゃんほっぽりだしてどこ行ってたの?<br> 拓馬「な、なにを。人前でどんぱちやる方がよっぽどあれなんじゃねえかのか?<br> 雄太「スゲエ!超スゲエよ。スゴ過ぎるよ。<br> 千尋「何よ今の、誰か私にわかるように説明してよ。<br> 雄太「スゲエとしか、言いようがねえよ。</p> <p>さすがにその日はもうプールのふいんきじゃなくて、<br> 学校の近くのファミレスまで行って、遅くまで4人で話した。<br> 拓馬君の正体もわかったし、淡島博士ってのも、緋瓦さんから聞いた人だ。<br> 敵じゃなさそうで、良かった。あゆみちゃんの話も教えてくれた。<br> 拓馬君、淡島博士が敵と戦ってるとき、巻き込まれて死んだんだそうだ。</p> <p> 雄太「で、みんな怖くて聞き出せないこと、俺が勇気を出して聞くけどさ、<br> ・・・その、あゆみさんとは?<br> 拓馬「付き合ってたかってこと?<br> 雄太「おう。<br> 拓馬「土曜日の夕方に付き合ってくれって言われて、OKして、<br> 日曜日の昼に、死んだ。1日だし、クーリングオフ期間ってやつ?<br> 雄太「・・・<br> 由佳「・・・笑えないんですけど。<br> 拓馬「じゃあ、保障期間内は、新品と交換とか?<br> 由佳「・・・<br> 千尋「・・・もういいよ。拓馬君。<br> 拓馬「もういいって、何が?<br> 千尋「うん、だから、もういいの。</p> <p> なんだかんだ言ってあゆみちゃんのこと、相当好きだったみたいだ。<br> 自分が死なせた感も、ダメージ要素だろう。<br> 拓馬君はその後も自虐ネタを連発して、そのたびに千尋ちゃんは<br> 泣き出しそうな顔をしていた。</p> <p>その日はもう遅かったので、みんなと別れて帰った。<br> 私だけ家が遠くて、電車で帰るのだ。<br> 電車の中で、今後の作戦について考えた。<br> 今日の感じだと、今の拓馬君は、とても千尋ちゃんどころじゃない状態だ。<br> 多分、誰か相談相手してあげるべきだろう。でも、誰かって誰だ?<br> とりあえず私じゃないだろうし、さっきは突き放した態度とっといたけど。<br> 雄太とか千尋ちゃんとかじゃないし、内田とか川口君あたりも、いまいちだし。<br> ・・・こうやって考えてみると、拓馬君にあゆみちゃんていうのは<br> いい線いってたんだという気がしてきた。<br> あの子さえ生きてれば解決してた気がする。<br> あるいは、死ぬ前に一度戻ってきて拓馬君を解放していってほしかった。<br> 拓馬君だけじゃない。私も、みんなも、あゆみちゃんに縛られてる気がする。<br> 死んでも存在感十分ってのはさすがだ。アイドル視されるだけのことはある。<br> まあ、そんなことを考えていた。<br> 駅で乗り換えるとき、階段を下りたあたりで誰かに声をかけられた。</p> <p>あゆみ「あら、由佳じゃない。ぐうぜーん。<br> 由佳「う、うそ!あゆみちゃん?</p> <p>第8章 終 つづく</p> <p><br> 242 DTローズ・オブ・ゲノム sage 05/01/07 08:22:44 ID:PRUR7ORn<br> 第9章 幼稚園</p> <p> これだけ離れていても残留DTがわかる。あゆみちゃんはユニット。<br> 合成後30分以内だ。友達がデータを採られた時どうするか。<br> そのユニットとはどう接したらいいか。そんなこと教えてもらってない。<br> 拓馬君も、洗いざらい告白してるふりして、<br> あゆみちゃんのデータの話はしなかった。<br> あいつには、まただまされた感じだ。誰がこのデータを採ったのか。<br> 合成したマスターは誰か。この謎、もう、解くしかない。</p> <p>あゆみ「結構遅いじゃん。何してたの?<br> 由佳「・・・遊びに行ってたの。拓馬君と。<br> あゆみ「その勝ち誇った様子・・・なすほど。<br> ついにあいつも彼女ができたのね。<br> 由佳「そ、そんなんじゃないって。<br> あゆみ「むきに否定するのがアヤシイなー。</p> <p> ・・・この反応から判断すると、どうやら拓馬君に告白する以前のデータだ。<br> マスターについても何かわかるだろうか。</p> <p> 由佳「あゆみちゃんこそ何してんの?結構家から遠いじゃん。<br> あゆみ「え、何してるかって、その・・・家だってあれじゃない?<br> なんて言うか、ほら。用があってね。<br> 由佳「・・・用って、何の用?<br> あゆみ「ええっと、あの・・・ああ、もう!忘れちゃったじゃない!</p> <p> あゆみちゃんは突然ホームから線路に下りた。私も慌てて追いかける。<br> 背後から駅の客の声が聞こえたし、電車が来たらと思って怖かったけど、<br> 駅からすぐのところに踏み切りがあって、あゆみちゃんはそこから道路に出た。</p> <p>由佳「あゆみちゃん、どこ行くのよ?<br> あゆみ「何の用か忘れたから、一旦帰るの。<br> 由佳「帰るって、どこに?<br> あゆみ「幼稚園。<br> 由佳「幼稚園?</p> <p>早足に5分ほど歩いて、到着した。<br> 「じゆうがおか幼稚園」。<br> 建物に明かりがついている。あゆみちゃんは、鉄の柵の門を開けて、<br> 当たり前のように中に入っていった。<br> 部屋には人が2人いた。手前には国籍不明のおじさん。年齢も不明。<br> 奥には車椅子のあばさん。多分日本人。この2人は幼稚園の関係者だろうか。<br> 私らが入ってきて、本当に驚いた感じだった。</p> <p>おばさん「まあ、あゆみさん。なぜ戻ってきたの?<br> あゆみ「あの、用を忘れちゃたんです。<br> おじさん「・・・用を忘れた?<br> あゆみ「駅で友達に会って、そしたら、何の用だか忘れちゃったんです。</p> <p>2人はさも不思議そうに、顔を見合わせた。</p> <p><br> 243 DTローズ・オブ・ゲノム sage 05/01/07 08:23:19 ID:PRUR7ORn<br> おばさん「判事さん、このような例は?<br> おしさん「いいえ、長官。私の知る範囲では、始めての出来事です。<br> おばさん「・・・そうですか、一応、先生の意見も聞いてきましょう。</p> <p>言うなり、「長官」は部屋から出ていった。<br> 残った「判事さん」が、私の方に向き直る。</p> <p>判事「君が、その友達かね。<br> 由佳「・・・そうです。<br> 判事「友達だったら、知っているね。西あゆみが、死んだことは。<br> 由佳「でも、ここに・・・<br> 判事「それは、本物のあゆみではない。<br> あゆみ「・・・本物じゃないって、何・・・<br> 判事「おまえは私が合成したクローン人間だ。<br> 何らかの理由でスペルバイドが切れて、仕事を忘れてしまったらしいな。</p> <p>あゆみちゃんの目がきょろきょろ動く。考えてる。<br> 頭いいだけあって、すぐ答えにたどりついた。</p> <p> あゆみ「・・・私がクローンで、本物じゃない。ねえ由佳、<br> 本当の私は、もう死んだの?<br> 由佳「たしかに、お葬式は行ったけど・・・でも今、生きてるし・・・<br> あゆみ「死んだのね。それって、要するに私ゾンビじゃない!<br> 私、みんなの中では死んだ人なんでしょ。<br> あゆみ「自分で生きてるつもりでも、私もう、行くところないのよ。<br> 家では仏壇になってるってことでしょ?学校も、籍がないんでしょ?<br> 私もう、帰るところがないじゃない!</p> <p> 銃声。判事の手にはピストル。あゆみちゃんは倒れた。</p> <p>由佳「何するの!<br> 判事「自分で言っているとおりだ。本当の彼女は、もう死んでいる。</p> <p> 銃弾は右の肩を貫通していた。簡単なものだけど、急いで治療薬を与える。</p> <p>由佳「大丈夫。すぐに治るよ。<br> あゆみ「由佳?<br> 由佳「私は、自分の目で見ているものを信じる。<br> つまり、あゆみちゃんは生きてるわけ。<br> 判事「事情に詳しいと思ったら、どうやら君もマスターだね。<br> ならばひとつ忠告しよう。合成したユニットは、自分の手で始末しろ。<br> さもなくば、人類を敵に売り渡すことになる。敵は強大だ。<br> 由佳「人類とか敵とかじゃないでしょ。目の前で友達撃たれちゃたまんないわよ。<br> 判事「誤認があるようだが、それは君の友達ではなくDT合成物だ。<br> 榊拓馬、通称N2を薔薇の手から奪取する。その作戦の一環として、私が合成した。<br> 由佳「あなたたちは何者?このうえ拓馬君をどうするっていうの?<br> 判事「エリクシールだ。薔薇は人類と戦うにあたり、<br> 榊拓馬を手下にしようと画策している。それを阻止しようとしているのだ。<br> 由佳「薔薇かなんか知らないけど、あなたの手下よりはましなんじゃない?<br> 突然撃たれたりするし。<br> 判事「・・・そうか、理解できないか。<br> 由佳「そっちこそ基本がなってないのよ。これ以上あなたたちの好きにはさせないわ。</p> <p>戦闘開始</p> <p><br> 244 DTローズ・オブ・ゲノム sage 05/01/07 08:23:58 ID:PRUR7ORn<br> 戦闘終了</p> <p> かばんから採血キットを探して、判事の持っていたデータを採取した。<br> さっきの話からすれば、あゆみちゃんのデータがあるはずだ。<br> どう使うかは、また後で考えればいい。</p> <p> あゆみ「・・・由佳、思い出したよ。私、淡島博士っていう人に会うんだった。<br> 由佳「淡島博士?<br> あゆみ「拓馬君が、大変なんだよ、拓馬君を助けられるのは、<br> 淡島博士だけなの。<br> 由佳「だから大変って、どう大変なの?</p> <p>ふと気付くと、また長官がそばに来ていた。</p> <p> 長官「それは私から説明しましょう。まずは、この事件の黒幕から。<br> 人工衛星6つで構成される「ばらシステム」、<br> この人工能が数年前、意識を持ち始め、「薔薇」と名乗り、<br> 地上で活動を始めました。<br> 長官「私どもエリクシールは薔薇と交信し、その目的を突き止めました。<br> 薔薇の目的は、人類への挑戦です。そのためにまず人類最強のマスター、<br> 通称「N1」を倒そうとしています。ただ、N1の正体はまだわかりません。</p> <p> あゆみ「薔薇はN1と戦うために、拓馬君を自分の一部に取り込む計画なの。<br> そのことを拓馬君に伝えたいんだけど、<br> 今の拓馬君は、淡島博士の言うことしか聞かない状態なんだって。</p> <p>由佳「あゆみちゃん、自分で言ってみた?<br> 長官「・・・それは無駄です。<br> 榊拓馬は、あゆみさんのユニットを見つけ次第破壊してしまうのです。<br> あゆみ「・・・由佳、お願い。協力してほしいの。<br> 拓馬君を、薔薇に渡しちゃいけないんだよ。<br> 由佳「私、人類を救う気なんかない。<br> あゆみ「・・・そんな、<br> 由佳「それより、あなたのことよ。あゆみちゃんの気持ちはどうなの?<br> あゆみ「気持ちって?私の?気持ちって言っても、私もう死んでるし・・・、<br> 由佳「どっちかはっきりしなさいよ。<br> 拓馬君を助けたいって自分で思ってるの?それとも命令されて動いてるだけ?<br> あゆみ「・・・別に助けるとか、私はただ、拓馬君が違う人になるのがいやなだけ。<br> このままずっといっしょにいたかっただけ。<br> 由佳「それ。その気持ちが大事だと思う。それさえあれば、<br> あゆみちゃんは死んでない。いっしょに行こう。<br> みんなの力を借りれば、なんとかなるよ。拓馬君、助けに行こう。<br> あゆみ「・・・うん。</p> <p> まだ何か言いたそうな長官をほっといて、私たちは帰ることにした。<br> これ以上話を聞いてもわけわかんないし。<br> とりあえず緋瓦さんに相談して、あと、淡島博士とも会えるようにしよう。<br> 帰ろうとしたら、もう電車がなかった。家に電話したら、怒られた。<br> 偶然会った友達が、家に帰れないのでいっしょに帰るって説明しておいた。<br> 一応、嘘じゃない。タクシーを拾って帰った。大人だ。</p> <p>第9章 終 つづく</p> <p><br> 248 DTローズ・オブ・ゲノム sage 05/01/08 09:58:11 ID:XahRaDu1<br> 次回が最終章なのであと一回で終わります</p> <p>第10章 薔薇</p> <p> 翌朝、家族が起きる前に家を出て、学校の近くの公園で、緋瓦さんに会った。<br> さすがに4つも学年が違うと、あゆみちゃんのことは知らなかったようだ。</p> <p> 渉「”判事”の言ったことは正しい。使い終わったユニットは解体すべきだ。<br> 由佳「・・・<br> 渉「ただ、今回は普通と違って、本人の合意なしにデータを採られている。<br> データ提供者が死んでいるのも特別だ。</p> <p> 結局、判事から採取したデータはあゆみちゃんに預けることにした。</p> <p> 由佳「やっぱり、自分に関する情報は自分で管理すべきだと思うよ。<br> 捨ててもいいし、誰かに渡してもいいし。<br> でも、拓馬君はもらってくれなさそうだね。<br> あゆみ「・・・今度の話が終わったら、拓馬君に会うことにする。<br> それまではこのデータ、自分で持っとくよ。</p> <p>それって、敵を倒すまで会えないってことだ。<br> 私は緋瓦さんに昨日の長官の話をした。</p> <p>渉「人口衛星が意志を持ったというのか?<br> 由佳「はい。薔薇って名乗ってるらしくて、それが拓馬君をマスターにしたそうです。<br> 渉「・・・もしその彼がN2だったら、由佳、おまえは何者だ?<br> 由佳「・・・さあ、なんでしょう?</p> <p> 結論は出なかったけど、緋瓦さんは少し見当がついてる風だった。<br> 時間になって、私だけ学校に行った。緋瓦さんにあゆみちゃんを預かってもらい、<br> 今後どう暮すかとか相談してもらう。あと、夕方拓馬君を紹介する約束もした。</p> <p> 遅刻した。速攻で着替えて体育館に行く。まだ試合は始まってなかった。</p> <p>千尋「由佳、おはよう。あれ、寝不足?目が赤いよ。<br> 由佳「え、うー、そうっすか?</p> <p> 千尋ちゃんの晴れ晴れした顔。自分がやばい状況なことに今気付いた。<br> 私は千尋ちゃんとあゆみちゃん、どっちの味方してるんだろうか?</p> <p> 由佳「いや、昨日実はあれからいろいろと、まあ、あったわけで・・・</p> <p>突然遥子とかの乱入があって、救われた。</p> <p>遥子「大変!<br> 由佳「どうしたの?<br> 希恵「運動場で、榊君とか岸山君とか、なんかすごいことになってんのよ!<br> 遥子「あなたに来てもらわないと。</p> <p><br> 249 DTローズ・オブ・ゲノム sage 05/01/08 09:59:26 ID:XahRaDu1<br> いやな予感。手遅れだったかも。<br> 私たちは、というかそこにいた全員、走って運動場に行った。<br> すでに人だかりが出来ている。校庭の真ん中に、機械類の残骸、<br> そして拓馬君、岸山君が転がっていた。<br> 戦闘は、終わったんだろうか。拓馬君が負けたんだろうか。<br> あるいは敵の手に落ちたんだろうか。<br> 人だかりの輪を抜けて、近付いてみた。拓馬君が、何かぶつぶつしゃべっている。<br> ・・・そして、突然変化が起こった。<br> とてつもない絶叫を残して、拓馬君がピザのチーズみたく融けていく。<br> 機械の残骸もぐにゃぐにゃと流れて、融けた拓馬君と混ざり合った。<br> 誰かの悲鳴が聞こえると思ったら、私だった。見慣れてるはずなのに。<br> そして、そこからは逆回し。融ける雪だるまのビデオの逆回しみたいに、<br> ゆっくりと、物が出来ていった。<br> 透明で、青くて、四角い板で、アクリル的な、高さは、2mぐらいだろうか。<br> 地面に青い影を落としていた。岸山君は左の肘に怪我をしているようだ。<br> 逃げたくても逃げられない風だったので、DTで治してあげた。</p> <p>岸山「飴井・・・、拓馬は?<br> 由佳「大丈夫。なんとかなるよ。</p> <p> とは言ったものの、本当に大丈夫か?大丈夫じゃなかったらどうしよう。<br> えらそうなことを言ってしまった手前、あゆみちゃんに合わす顔がない。</p> <p>由佳「お、おーい、拓馬君。・・・聞こえてるかー。</p> <p> 私の声に答えるかのように、板がヴゥーンと音を出した。<br> 続いて、聞き取りにくい機械的な声がした。</p> <p> 板「・・・榊拓馬は・・・既に我が・・・手中にあり・・・。<br> 由佳「え?手中にって、・・・ていうか、あんた何?薔薇ってやつ?<br> 板「私は・・・さまよえる薔薇を・・・継ぐ者・・・。<br> この惑星・・・に下りた、・・・惑星そのもの・・・<br> 言うなれば、・・・第2の紺碧である。<br> 由佳「は?何を言ってんの?<br> 板「汝は・・・戻橋を継ぐ者・・・にして、緋瓦渉にはあらず・・・。<br> ・・・何者か・・・は知らぬが、・・・失せるがよい。<br> 枝葉に・・・用はない・・・。<br> 由佳「な、何なの、偉そうに。拓馬君を返しなさいよ。<br> 板「榊拓馬・・・は、既に・・・我が肉体・・・。<br> 会いたくば・・・汝もまた・・・我が・・・肉体の一部と・・・なるがよい・・・。<br> 由佳「やだ!誰が!</p> <p>戦闘開始</p> <p><br> 250 DTローズ・オブ・ゲノム sage 05/01/08 10:00:04 ID:XahRaDu1<br> 戦闘終了</p> <p> 板は活動を停止したようだ。機械っぽい音が全くしなくなって、<br> 代わりに無線みたいな音が聞こえた。</p> <p>渉「・・・そこに誰かいるな。由佳か?<br> 由佳「緋瓦さんですか?私です。由佳です。どこからしゃべってるんですか?<br> 渉「衛星の通信機能を奪った。この機械マスターはもう倒したんだな?<br> 由佳「多分ですけど。<br> 渉「よし、今どこにいる?<br> 由佳「東グラウンドの真ん中です。<br> 渉「わかった。すぐそっちに行く。</p> <p> どこから来るのかと思ったら、緋瓦さんは隕石みたいに天から降ってきた。<br> すごく熱い。髪の毛とか焦げそうだ。</p> <p>由佳「どっから来たんですか!?<br> 渉「宇宙だ。ばら6号を破壊した。<br> 由佳「・・・。</p> <p> 緋瓦さんは板の死体(?)に近づいて、何かDTを放射した。<br> 板はまたどろどろ融けて、機械の残骸と、拓馬君に戻っていった。<br> これは、・・・「ダスザウアー」だ。<br> 意識を持った人工衛星「薔薇」にとって、最大の敵は緋瓦さんだったらしい。<br> 緋瓦さんと戦わせるため、薔薇は拓馬君にDTの能力を与えた。<br> そして機械と融合し、強力なマスターに仕立てたのだ。</p> <p>渉「連中は敵に合わせて綿密な対策を立てる。<br> おまえは未知の存在だったから勝てたが、俺がこれと戦っていたら、<br> 負けていただろう。<br> 由佳「そうなんですか?私が有名じゃなかったからってこと?<br> 渉「さすがの薔薇も、まさか俺が直接本体を叩きに来るとは予想しなかったようだ。<br> 由佳が地上で戦っていたのが陽動になった。<br> 由佳「はあ・・・。</p> <p>なんか私、当てにされてるんだかなんだか。<br> 拓馬君が意志を取り戻した。薔薇に洗脳されていたらしい。<br> 板になっていた時のことは記憶がなかった。</p> <p>拓馬「俺が、あめいっちと戦ってたのか。<br> 由佳「覚えてないの?<br> 拓馬「全然。記憶なし状態。<br> 渉「記憶といえば、これだけのギャラリーはどうする?<br> 全員催眠にかけるのは無理に近いぞ。<br> 由佳「・・・いいんです。このままで。秘密にしたままってのは、<br> 私のやり方じゃないし。</p> <p> みんなが不安そうに見ている。拓馬君を助け起こして、<br> いつまでも座ってる岸山君も起こして、みんなの待ってるところに行く。<br> そして私は、まず頭を下げて、みんなにこう言って謝るのだ。<br> みんな、心配かけて、ごめんなさい。<br> 見ての通り、人間じゃないみたいになっちゃったけど、私は私、飴井由佳だから、<br> これからも、今までどおり変わらぬご愛顧のほどを、お願いします。<br> 仲いい人は、ずっと仲良く。そうでない人も、今までの感じで。</p> <p> 千尋ちゃんとあゆみちゃん、二人どっちの肩もつかとか、<br> みんなのあめいっち的には課題山積だけど、そんなことに頭悩ます感覚が懐かしくて、<br> 普段身の回りで起こるなんでもないことが、実は一番大切なんだって本気でそう思った。</p> <p>第10章 終 つづく</p> <p><br> 251 DTローズ・オブ・ゲノム sage 05/01/08 10:01:09 ID:XahRaDu1<br> エピローグ かき氷</p> <p>8月初旬<br> さすがは新幹線、予想以上に早く着いた。<br> 時間があったので、善光寺まで歩く。暑いせいか、かき氷屋が目に留まった。<br> あとでぜひ来よう。<br> あゆみは本堂の前で待っていた。</p> <p>あゆみ「早いね。相変わらず。<br> 拓馬「これでも時間潰したんだけどな。元気?新しい生活とか、どう?<br> あゆみ「・・・まだ学校始まってないからねえ、夏休みな感じかな。<br> あゆみ「新しいって言えば、昨日私、四十九日だったんだよ。<br> 人は死んでから49日間がモラトリアムな期間で、<br> そのあと、新しい人生に転生するんだって。<br> 拓馬「ふーん。</p> <p> せっかく来たからということで、地下の廊下に行ってみることにした。<br> 有名な観光スポットらしい。地下通路は涼しく、そして完全な闇だった。</p> <p>あゆみ「やだ・・・、真っ暗闇だ・・・。</p> <p> あゆみが手を握ってきた。その感触、そして匂いはとてもリアルで、<br> 逆に、頼りない視覚は漆黒に閉ざされていて、<br> そのギャップが、あゆみの非現実さ、あゆみの死の現実さを感じさせた。<br> 転生とか信じない俺にとって、昨日どこかで生まれた赤ん坊と、<br> 今ここにいる4人目のあゆみ、いったいどちらが本当のあゆみなのか?<br> やはり、どちらも偽物ではないのか?<br> そもそも、なぜ自分はこうしているんだ?<br> 本物のあゆみは、牛野郎のせいで死んだし、3人目のあゆみは、俺自身が解体した。<br> 付き合うことにしたのは、2人目のあゆみ。<br> 俺の手を握っているのは、4人目のあゆみ。</p> <p>拓馬「あゆみ・・・<br> あゆみ「何?<br> 拓馬「・・・俺のこと、好きなのか?<br> あゆみ「えっ、・・・前に私、そう言ったんでしょ?<br> 拓馬「いや、言わねえよ。<br> あゆみ「・・・そう、私てっきり、本物の私が、もう言ってるもんだと・・・<br> 好きなんだけど、だめかな?偽物が言っても、だめなのかな。あ、拓馬君・・・<br> 拓馬「何?<br> あゆみ「手、離さないで。お願いだから、離さないでね。</p> <p>エンディング</p> <p>・・・暗闇は危険だ。<br> 危うくダークサイドに落ちるところだった。<br> 正義な選択をした俺は、再び太陽の下に出て、寺を後にした。<br> 予告どおり、かき氷を食べ、そして帰った。<br> それがあゆみの16回目の誕生日で、以来、あゆみの姿を目にしたことはない。</p> <p>エピローグ 終 つづく</p> <p><br> 276 DTローズ・オブ・ゲノム sage 05/01/09 10:52:19 ID:V8ABUc3W<br> エピローグが終わった後に6章から10章までをノーコンテニューでクリアすると<br> 11章が読めるのでこっちが本当のエンディングです</p> <p>第11章 宇宙</p> <p>一時間前。駅前の喫茶店。</p> <p>あゆみ「・・・わかりました。<br> 渉「え?<br> あゆみ「私が本当の私じゃないこととか、<br> 偽物として生きていかなきゃいけないこととか。<br> 渉「・・・<br> あゆみ「今まで私、他人の目を気にし過ぎて本当の自分がわからなかったんです。<br> 私の実像も見ずにアイドルとか言われたり、逆にそれで頭から避けられたりしたし。<br> でも今自分が偽物ってことになって、本当の自分がどこにいるのかわかりました。<br> 渉「・・・どこにいるんだ?<br> あゆみ「・・・私が私なのは、今まで私として生きてきた記憶があるから。<br> そして、それが全部このデータから生まれた私は、全部本当の私です。<br> あゆみ「世界中で何人も私が生まれたり、何十年も後に生まれたり、<br> しかもそれが全部本当の自分。人間っていうより、植物っぽいですよね。<br> あちこちに種をまくみたいな。<br> 渉「・・・!<br> 渉「俺にデータを盛ったな。・・・コーヒーの中か!<br> あゆみ「あなたの中の私が、本当の私。・・・緋瓦さん、<br> 死ぬまでに私のデータ、いろいろな人に感染させてください。<br> 私はそうやって繁殖するんです。<br> 渉「・・・体内の特定のデータの破壊は可能だ。<br> すぐにでもおまえのデータは一掃できるぞ。<br> あゆみ「でも、しませんよ。あなたは。<br> 渉「そうか?<br> あゆみ「ええ。データ持ってても損なことがないから。<br> 渉「持ってるのが不愉快だったら?<br> あゆみ「理由として弱い。不愉快なだけで捨てるんじゃ誰かと同じ。<br> そんな、緋瓦さんは子供じゃないんだからうまく利用する方法、考えてくれますよね。<br> 渉「・・・それがデータの生き方なんだろうが、マスターの数はほんのわずかだ。<br> 戦闘に使えないデータは淘汰されるぞ。人間として生きた方がよくないか?<br> あゆみ「大丈夫。マスターは増えます。<br> 渉「なぜわかる?<br> あゆみ「勘違いしないでください。あなたたちマスターが利用するために<br> 私たちデータが存在するんじゃありません。<br> 私たちデータが繁殖する場所としてあなたたちマスターが存在するんです。<br> あゆみ「つまりマスターが増えることは私たちデータの意志です。<br> ただ、私の場合<br> 人間のマスターにしか使われないだろうし、人類が滅ぼされたら困ります。<br> だから、やっぱり薔薇は敵なんです。<br> 渉「だから薔薇と戦うのか。<br> あゆみ「他人事みたいに言わないで。N1って、あなたのことでしょ?<br> だったら、戦いましょう。相手は敵意を抱いているんだから。<br> 私と一緒に、薔薇を倒しに行きましょう。<br> 渉「宇宙へか?俺はともかく、おまえの装備はないぞ。<br> あゆみ「ええ。私は燃料にでもしてください。<br> 渉「・・・本気か?<br> あゆみ「もちろん。偽物の私は、あくまで有機物の塊ですよ。</p> <p><br> 277 DTローズ・オブ・ゲノム sage 05/01/09 10:53:18 ID:V8ABUc3W<br> ここで同情する必要などない。勝手に人に寄生するような有害データだ。<br> ただ、自分が本当に薔薇と戦うべきなのか、渉には判断がつきかねた。<br> ジンは声高に薔薇の排除を叫ぶ。薔薇と戦うことにデメリットはないが・・・。<br> 2人は店を出て、夏の空を見上げた。</p> <p>渉「時間だ。行くぞ。<br> あゆみ「はい。お願いします。</p> <p> あゆみは融けて、アスファルトと混じりあい、ロケットブースター内部におさまった。</p> <p>高度250km。<br> コンポジット燃料と化したあゆみの体は、あらかた燃焼され、大気中に散っていった。<br> 足元に関東平野を見下ろしながら、渉は、衛星の登場を待つ。<br> 青く霞む地平線に、光の点が現れた。人工衛星だ。<br> 下の地球に向けて、猛烈に信号を発している。暗号コードが一致した。<br> 「黒幕」ばら6号だ。</p> <p>薔薇「・・・さあ榊拓馬、いや、紺碧よ。<br> 敵の襲来に備えるのだ。まずは、そなたのまわりの・・・<br> 渉「・・・悪いな。俺はもう来ている。<br> 薔薇「な、まさか。こんなところまで来たというのか!<br> 薔薇「・・・だが、榊拓馬は既に我が手中にある。<br> そなたには、紺碧を倒せまい。<br> 渉「俺より強いマスターはいくらでもいる。おまえの負けだ。観念するんだな。<br> 薔薇「うるさい口を聞くやつだ。ここで塵と消えるがいい!</p> <p>戦闘開始</p> <p><br> 278 DTローズ・オブ・ゲノム sage 05/01/09 10:54:35 ID:V8ABUc3W<br> 戦闘終了</p> <p>薔薇「紺碧は、機械と人間の融合マスター。<br> 人間などに、負けはせん。それに、紺碧だけではない。<br> 薔薇の種子は、既にまかれている。戻橋一郎!これで勝ったと思わぬことだ!</p> <p> 薔薇は死滅した。最後の捨て台詞は気になるが、渉の役目は終わったと考えていい。<br> しばし青い球体を見ながら、あゆみの言ったことについて考えた。<br> たしかにデータにとっては温床で、戦うほどにデータは繁殖する。<br> 面白くないが、事実だ。<br> ならば連中のために修羅場に下りるよりも、このまま宇宙の果てまで飛び去るべきか?<br> しかし、渉の全身から、一斉に抗議の声が上がった。曰く、<br> 「自分が去っても戦いは終わらない。むしろ長引くのではないか」<br> 「データとは共生関係。損はしていない」<br> 「薔薇のまいた種子とかはどうする?」・・・<br> その声は、渉の遺伝子の声、イスカなるジンの声、あゆみたちデータの声であった。<br> 言い換えるなら、生への執着である。<br> 渉は、執着心に負けた。衛星の通信装置で由佳と連絡を取り、地球へ帰った。<br> 完璧な敗北。あゆみのうそぶく声が聞こえるようだ。</p> <p> ・・・ありがとう、緋瓦さん。それで良かったんです。<br> 私とあなたは、別の世界に住んでるし、勝ったり負けたりとかはありません。<br> だから、地上にDTがある限り、私はずっと、あなたたちといっしょにいます。</p> <p>エンディング</p> <p>第11章 終</p> <p>DTローズ・オブ・ゲノム 完</p>

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