大神 (Part1? > 2)

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<p><strong>大神</strong>(Part1/2) ページ容量上限の都合で2分割されています。</p> <p>・1レス要約版:要約スレpart2-116</p> <p>・簡潔版:part46-308~312</p> <p>・詳細版:</p> <p>part22-372~384,405~418,496~501、part23-178~183</p> <p>途中、長く間が空いた際に他の人が書いた分:part24-14~18、part26-16~18</p> <p>part27-491~493、part29-495~496・499、part32-97~99、part34-439~445</p> <hr /><dl><dt>116 :<font color="#008000"><b><a href="mailto:sage">大神</a></b></font>:2006/06/10(土) 22:19:59 ID:jzeYrK08</dt> <dd>昔々ナカツクニにある小さな村、神木村には毎年一人を怪物ヤマタノオロチに生贄を捧げる悲しい風習があった。<br /> 剣士イザナギは想い人イザナミが生贄に選ばれるとオロチに戦いを挑む。しかしオロチには敵わずあわやという時<br /> 突如白い狼、白野威(しらぬい)が現れ二人は力を合わせオロチを倒す。しかし白野威はオロチ戦の傷が元で亡くなる。<br /> 人々は白野威を大神(おおかみ)を称える<br /><br /> それから百年後イザナギの子孫スサノオは英雄の子孫という重圧に耐え切れずその心の隙をオロチに操られオロチの封印を解いてしまう。<br /> そしてナカツクニには妖怪が溢れ自然が汚されていく。これに神木村の神木の精霊サクヤは白野威を復活させる。<br /> いや白野威の真の名は太陽神アマテラス。アマテラスはその神秘の力筆しらべを盗もうとする旅絵師イッスンを<br /> お供に各地を浄化していく。そんな中オロチが復活し生贄にスサノオの想い人クシナダが選ばれる<br /> スサノオは勇気を振り絞りオロチの誘惑を撥ね退けアマテラスと力を合わせオロチを退治する。<br /><br /> アマテラスは各地を旅し西安京では女王ヒミコ、カムイでは戦士オキクルミと力を合わせ各地の妖怪を退治していく<br /> そして全ての妖怪の元凶、常闇の皇が眠る古代船ヤマトに辿り着く。いざ最終決戦の時イッスンがもう筆しらべの技は<br /> 盗んだからと言い急に別れてしまう。アマテラスは一人、常闇の皇に立ち向かうがその圧倒的な力に力尽きかける。<br /> だがアマテラスの耳に人々の祈りが聞こえる。それはイッスンだイッスンがその筆と絵でナカツクニの人々に<br /> アマテラスの事を伝えまわっているのだ。<br /> 「苦しい時の神頼みだけじゃ不公平だ神様が苦労している時ぐらい労わってやろうぜ」<br /> そしてアマテラスとイッスンが旅で出会った人々がアマテラスの勝利を祈るその祈りはアマテラスの力になり<br /> 白野威だった頃の全盛期の力を取り戻し常闇の皇を打ち倒す。<br /> そしてアマテラスは妖怪に滅ぼされた神々の国タカマガハラを復興するためヤマトで旅立つ。<br /> 旅立つヤマトを見るイッスンはナカツクニ中にアマテラスのことを伝えきったらその間抜け面を見に行くと宣言するのだった。<br /><br /><br /><br /></dd> <dd> <hr /></dd> <dt>308 :<a href="mailto:sage"><b>大神 簡潔 1/5</b></a>:2009/07/02(木) 18:47:42 ID:J84Muk9N0</dt> <dd>大神まとめたので投下します<br /> 簡潔なのであちこち端折ってます<br /><br /> ---------<br /> 【200年前に起きたこと】(序盤は伏せられている)<br /> ある日、天神族の住む神の国「タカマガハラ」を怪物「ヤマタノオロチ」が襲う。<br /> 太陽神である慈母「アマテラス」はこれと戦うが、地上へと墜落してしまった。<br /> 天神族は月から持ち込まれた救いの舟「方舟ヤマト」に逃げ込み、地上への脱出を図るが<br /> 方舟ヤマトの底には怪物「常闇ノ皇」の生み出した妖怪たちが溢れており<br /> 天神族はことごとく殺されてしまう。生き延びたのは月の民「ウシワカ」のみ。<br /> ------<br /><br /> さて、それから100年。<br /> 白いオオカミの姿をしたアマテラスは人々に「白野威」と呼ばれ<br /> 力を持ったもの「イザナギ」と共にヤマタノオロチを封じ込める。<br /> 人々は戦いで命を落とした白野威を「大神」と呼び、石像を作って祀った。<br /><br /> そしてさらに100年。<br /> 人々の信仰心が薄れた頃、イザナギの子孫「スサノオ」が<br /> ヤマタノオロチの封印を解いてしまう。<br /> ヤマタノオロチなどしょせん「神話」であり現実ではない、と。<br /><br /> 世界「ナカツクニ」は呪い祟られ、妖怪が跋扈しはじめる。<br /> しかし白きオオカミ白野威=慈母アマテラスも同時に蘇り<br /> ナカツクニを、人々を救うべく立ち上がった。<br /> でも基本的に天然ボケな白い犬にしか見えない…。<br /><br /> ポチとかシロとか呼ばれてる「アマ公」ことアマテラスは<br /> かつて持っていた、自然を操る十三の「筆業」の力を再び集めながら<br /> 自分も筆業を手に入れて遊んで暮らしたいというコロポックルの「イッスン」と共に<br /> 妖怪を祓い、呪いを解き、人々を救う旅に出る。<br /> そしてその前にちょろちょろ現れる胡散臭い陰陽師「ウシワカ」…<br /><br /></dd> <dt>309 :<a href="mailto:sage"><b>大神 簡潔 2/5</b></a>:2009/07/02(木) 18:48:44 ID:J84Muk9N0</dt> <dd>◆1章 ヤマタノオロチの章<br /> スサノオを誘惑し、より強大な力を得ようとするヤマタノオロチ。<br /> しかしスサノオはこれを拒み、アマ公と共にヤマタノオロチを退治する。<br /> さながら、神話の白野威とイザナギのように…<br /> 勝利を喜んだのもつかの間、ヤマタノオロチの身体から瘴気が立ち昇り空へと飛んでいった。<br /><br /> ◆2章 キュウビの章<br /> 様子がおかしいと聞いて訪れた西安京。<br /> 京を守る女王「ヒミコ」が祭壇の奥に引きこもって出てこないため<br /> 尼僧「ツヅラオ」がヒミコの代わりに人々の人望を集めていた。<br /> しかしそのツヅラオは偽物。本物のツヅラオは怪物「キュウビ」に殺されていた。<br /> ヒミコはキュウビの本拠地「鬼ヶ島」の位置を探るため、祈り続けていたのだった。<br /> ヒミコは自らの命を投げ打って「千里水晶」にキュウビの本拠地を映し出し<br /> アマ公たちはヒミコ姐の想いを胸にキュウビに挑み、葬り去った。<br /> そしてまた立ち昇った瘴気は、北の空へ…。<br /><br /></dd> <dt>310 :<a href="mailto:sage"><b>大神 簡潔 3/5</b></a>:2009/07/02(木) 18:50:17 ID:J84Muk9N0</dt> <dd>◆3章 常闇の帝の章<br /> 瘴気が向かった先、北の大地「カムイ」へ足を進める。<br /> カムイには妖怪を生み出すといわれる、鉄の箱舟ヤマトの沈んだ湖があった。<br /> カムイは双子の魔神モシレチク・コタネチクに神山エゾフジを乗っ取られていた。<br /> オイナ族の剣士「オキクルミ」は、宝剣「クトネシリカ」を持ち出して<br /> 妖怪を倒そうとしていたが、村人達とは協力体制にない様子。<br /> 村人が言うには魔神を倒すには「ピリカ」による祈祷が必要だという。<br /> しかしピリカは行方不明になっていた。<br /> 100年に1度の日食、「玄冬の蝕」が数日後に迫っていた。<br /> 神の力が弱るその日を狙い、妖怪たちは総攻撃をするつもりらしい。<br /><br /> ・イッスンの素性<br /> カムイにはイッスンの故郷、コロポックルの里「ポンコタン」があった。<br /> その長であるイッシャクこそが、イッスンの祖父だった。<br /> イッスンは村に入らずに入口でアマテラスの帰りを待つという。<br /> 実はイッスンは絵の修行の厳しさに耐え切れず、家出していたのだった。<br /><br /> ・天道太子<br /> イッシャクは100年前のアマテラス…白野威と共に戦った戦友だった。<br /> イッシャクは、今のアマテラスは力を失っており、このままでは勝てないという。<br /> 神が力を得るには、神の威光を天下に伝える絵師・天道太子の協力が不可欠だと。<br /> 村の誰もが実力を持っているから選んで連れて行けというイッシャクの申し出を断り<br /> イッスンの待つ村の外へと戻るのだった。<br /><br /> ・100年前の真実<br /> 他の場所や時間へ旅することができ、災いを呼ぶという「幽門扉」。<br /> ピリカがそこへ吸い込まれるのを見たものがいるという。<br /> イッスンの力で門を開き、飛び込むアマテラスとイッスン。そしてオキクルミ。<br /> 辿り着いたのは、「100年前の神木村」。<br /> イザナギと白野威がヤマタノオロチと戦ったという、まさにその夜だった。<br /> 英雄は我だとばかりにヤマタノオロチに斬りかかるオキクルミ。<br /> しかし宝剣クトネシリカは応えない。<br /> アマテラスとイザナギはヤマタノオロチを倒し、ピリカと生贄の娘を救う。<br /> その時、勝利に浸るイザナギの頭上に岩石が…<br /> それを身を挺して救ったのは、この時代のアマテラス…白野威だった。<br /> 血まみれの白野威を抱え、崩れ落ちる祠から脱出するイザナギ。<br /> アマテラス達はピリカを背に乗せて幽門扉の外へ出る。<br /><br /></dd> <dt>311 :<a href="mailto:sage"><b>大神 簡潔 4/5</b></a>:2009/07/02(木) 18:51:01 ID:J84Muk9N0</dt> <dd>・双魔神モシレチク・コタネチク<br /> カムイへ戻ると、玄冬の蝕が始まろうとしていた。<br /> モシレチク・コタネチクを倒すべく神山エゾフジへ乗り込むアマテラス。<br /> コタネチクを見つけ出し戦いを挑む最中、白野威が現れる。<br /> その圧倒的な力でコタネチクを追い詰める白野威。<br /> さらに瀕死のモシレチクと、それを追うオキクルミが現れる。<br /> 勝利を確信するオキクルミ。<br /> しかしその隙をついて双魔神は強大な攻撃をオキクルミへと放つ。<br /> オキクルミをかばって跳ね飛ばされ、崖から落ちそうになる白野威。<br /> 助けようとするアマテラスとイッスン。<br /> 「瀕死の双魔神に止めを差して英雄になる」という道を捨て<br /> 白野威を助ける道を選ぶオキクルミ。<br /> 宝剣クトネシリカは初めて彼に応え、青い光を放った。<br /> 双魔神には逃げられてしまうが、真の英雄の道を知ったオキクルミ。<br /> そして、瀕死の白野威は再び幽門扉をくぐり、100年前に帰っていく。<br /> そこでまたイザナギを救い、そして命を落とすのだろう。<br /><br /> ・別れ<br /> 双魔神を追い詰め、止めをさしたアマテラス達。<br /> 妖怪たちが最後に逃げ込んだのは方舟ヤマトだった。<br /> “クトネシリカが青鈍色に輝く時、氷壁は砕かれ、天への道は拓かれん”<br /> 言い伝えどおり、凍り付いていた方舟ヤマトが浮かび上がり、入口が開く。<br /> いざ乗り込もうとしたとき、急にイッスンがアマ公へ別れを告げる。<br /> 曰く、自分の目的は筆業を手に入れて面白楽しく暮らすことだと。<br /> 「お前は神サマ・・・オイラは妖精 -住む世界が違い過ぎらァ・・・」<br /> そこに現れたのは胡散臭い男、陰陽師ウシワカ。<br /> ウシワカは元々イッスンは方舟に乗る資格はないのだと告げる。<br /> 天への道を歩む資格のある者…覚悟のあるものしか乗れないのだと。<br /> ウシワカとアマテラスは方舟の中へ。イッスンを残し、扉は閉められた。<br /><br /> ・方舟ヤマトとウシワカ<br /> ウシワカとはぐれたアマテラス。<br /> 舟の中には天神族の思念が残っていた。<br /> 【200年前に起きたこと】を思い出として語り、<br /> しかし月の民ウシワカを責めてはいない、彼を救ってくれと語る天神族たち。<br /> 舟に逃げ込んだ妖怪たちを倒した後、辿り着いた中心部では<br /> 既に傷ついてボロボロのウシワカと、常闇ノ皇が戦っているところだった。<br /><br /> 「こんな物が船の底に潜んでいることを知らなかったとは言え<br /> ミーがこのヤマトをタカマガハラに持ち込んだのは事実<br /> ミーの罪はどんな事をしてもリセット出来ないんだ」<br /><br /> 日食が進み力を失ってゆくアマテラスを庇って攻撃を受け、<br /> 宇宙空間へ落ちていくウシワカ。<br /> 「ユーは絶対にタカマガハラへ帰らなきゃならない!」<br /><br /></dd> <dt>312 :<a href="mailto:sage"><b>大神 簡潔 5/5</b></a>:2009/07/02(木) 18:52:01 ID:J84Muk9N0</dt> <dd>・祈り<br /> 常闇ノ皇に奪われた力を取り戻しつつ一度は優勢に立ったものの<br /> 油断した隙をつかれ、再び力を奪われて追い詰められるアマテラス。<br /><br /> 「まったくあいつはいつもボアっとしてやがるからなァ<br /> オイラがイチイチ世話してやらねェと何にも出来ねェンだ!」<br /> そんなイッスンの声が聞こえた気がした。<br /><br /> 力付きそうになったそのとき、どこからか聞こえてきたのは<br /> 旅の途中で出会った幼い女の子の声。<br /> 「おねえちゃん、ワン子どこかで泣いてるの?<br /> ワンコが泣いてるからお天道さまが隠れちゃったの? ビェーン! ...」<br /><br /> 次々と聞こえてくる人々の声。<br /><br /> 「あ…あのいたずらものめー<br /> まさか本物の白野威(シラヌイ)さまの生まれ変わりじゃったとは!!」<br /> 「おやまぁ…随分、桜餅の好きな神様だったよ<br /> こんなに真っ暗になっちまったのは、お腹でも空かせているからかねぇ?」<br /><br /> 皆の手にあるのは、イッスンの描いたアマテラスの絵だった。<br /> イッスン「…年から年中 神頼みってのも情けねェ<br /> たまには神サマを労って、少しは苦労を肩代わりしてやろうじゃねェか」<br /><br /> 天道太子としての覚悟を決めたイッスンの活躍によって<br /> 人々の信仰心を取り戻したアマテラスは<br /> 全盛期の力を取り戻し、常闇ノ皇を討ったのだった。<br /><br /> ◆悲しみをResetして<br /> 戦いが終わって勝ち名乗りを上げるアマテラス。<br /> 死んだと思ったウシワカ、操縦席に乗って再登場。<br /> アマテラス、尻尾ぶんぶん振り振り。<br /> そして2人(1人+1匹?)はタカマガハラへ帰っていったのでした。<br /><br /><br /> ◆誰も知らない秘密のお話<br /> ―今日はこの辺でおしまいにしておこうかの<br /> これはたくさんの人々の想いがこもった大切なお話じゃ<br /> …お主の胸にだけそっとしまっておくのじゃぞ<br /><br /> またいつか続きを聞かせてやるわい<br /> じゃが今は彼らが歩んだ道程に思いを馳せ―<br /> ひとまずこの絵巻物の紐を結うとするぞい<br /> 大神アマテラスの冒険絵巻―<br /> お後は次のお楽しみじゃ…!<br /><br /> ~おしまい~<br /><br /></dd> <dd> <hr /></dd> <dt><a>372</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)21:49:15ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>オーカミいきますよ<br /><br /><br /> むかしむかしあるところに、「神木村」(かみきむら)というちいさな村がありました。<br /><br /> 村人は村のまわりを囲む美しい桜の木一本一本を神様の木としてまつり、<br /> 静かに暮らしておりましたが、その穏やかな暮らしはある悲しい風習ととなり合わせのものでした。<br /> 毎年祭りの夜に、古いほこらにすむ強大な怪物「ヤマタノオロチ」を鎮めるために、<br /> 若い娘をいけにえとしてささげなければならなかったのです。<br /><br /> そのいけにえの祭りが近づくと、きまって村はずれにあらわれる白いオオカミがおりました。<br /> このオオカミは村人が山や森へ向かうとその後をそっとつけて歩いたり、<br /> みんなが寝静まった深夜にひたひたと村中を歩き回ったりするので、人々はオロチが使いをやって<br /> いけにえの品定めをしているのだと考え、これを「白野威」(シラヌイ)と名づけて気味悪がっておりました。<br /> なかでもイザナギという剣士などはこのシラヌイを追い払おうと、自慢の剣術で何度も挑みましたが、<br /> シラヌイは風のように素早く、いつも傷一つ付けられずに逃げられてしまうのでした。<br /><br /> そうこうしているうちに、とうとう今年もいけにえの祭りの夜がやってきました。<br /> 今年いけにえを召し取る合図である白羽の矢がつき立ったのは<br /> ―――イザナミという、村一番美しい娘の家の屋根でした。<br /> イザナミに密かな思いを寄せていたイザナギはこれに怒り、今年こそオロチを退治せんと決意を固めて<br /> イザナギの代わりにオロチのほこらへと向かいました。<br /><br /> オロチの根城、十六夜の祠へやってきたイザナギの前に現れたのは、<br /> 八つの首にらんらんと真っ赤な目を光らせた巨大な化物、ヤマタノオロチ。<br /> 闇夜の中、イザナギは必死で剣を繰り出し戦いましたが、オロチのうろこは鋼のように硬く、<br /> まったく歯が立ちません。手も足も出せぬまま、それでもイザナギは勇敢に剣をふるい続けましたが、<br /> やがて疲れきり、がっくりと膝をついてしまいました。<br /> あわやイザナギの命も風前のともしびかと思われたそのとき、突然オロチとイザナギの間に<br /> 一匹の獣が躍り出て、猛々しい唸り声を上げながらオロチに挑みかかりました。<br /><br /> 夜目にも明るく白光を帯びたようなその姿、<br /> なんとそれはあの村外れに棲みついていたあの白い狼、シラヌイだったのです。<br /><br /></dd> <dt><a>373</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)21:51:04ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>そして猛然とシラヌイがオロチに飛びかかり、二匹の人ならぬものの壮絶な戦いが始まると、<br /> 不思議な事がおこりました。<br /><br /> オロチがシラヌイへ向かって吐いた炎の吐息はどこからともなく吹いた<br /> 突風によって押し返され、シラヌイを一飲みにしようと迫ったオロチの牙は、<br /> 突然シラヌイの足元から生えた大木によって阻まれてしまうのです。<br /> こうしてシラヌイは不思議な力に守られて、巨大なオロチと互角に戦い続けましたが、<br /> やはりオロチの力は凄まじく、シラヌイの真っ白な毛皮に赤い物が点々と混じり始め、<br /> それは次第に広がっていきました。<br /> 全身を赤く血に染めて、ふらふらとしながらもシラヌイは戦い続けます。<br /><br /> ついにオロチの牙が息も絶え絶えのシラヌイを追い詰めたとき、<br /> シラヌイは最後の力を振り絞り、天に向かって吠えました。<br /><br /> 長い長い遠吠えが天高くに吸い込まれると、またもう一つ不思議な事が起こりました。<br /> それまで空を覆っていた叢雲が、あれよあれよと言う間に消えうせて、やがて射した一筋の月明かり、<br /> それを浴びたイザナギの剣がきらきらと金色に輝き出したのです。<br /> それまでじっと岩陰で機会を窺っていたイザナギは、この剣の光に導かれるように飛び出して、<br /> 残ったありったけの力を振り絞り、オロチに飛びかかっていきました。<br /><br /> すると何ということでしょう。イザナギがきらきら輝く剣を振るうたび、<br /> オロチの首は次々と切り飛ばされて宙を舞い、とうとうイザナギは長い間人々を苦しめてきた<br /> この化物を倒す事が出来たのです。<br /> 長く続いた戦いが終わり、オロチの最後の首が血だまりの中に落ちる頃、<br /> 辺りは白々と日が差して、明るくなっておりました。<br /> 戦いで傷つき、オロチの毒で弱ったシラヌイを抱えてイザナギは神木村へと帰りました。<br /> 村で待っていた人々のもとにたどり着く頃には、シラヌイはもう自力で動く事も出来ない有様でした。<br /> そして村人達の見守る中、村の長老がシラヌイの頭を撫でてやると、<br /> シラヌイは小さく一つ啼き、眠るように息を引き取ったのです。<br /><br /> こうしてようやく、神木村に平和な日々が訪れました。<br /> 村人たちはこのシラヌイの働きをたたえて、村の静かな一角に社を建てて、<br /> そこにシラヌイの像を祀りました。<br /> そしてイザナギの振るった剣を「月呼(ツクヨミ)」と名づけ、あのオロチの居た十六夜の祠に供えたのです。<br /><br /></dd> <dt><a>374</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)21:54:06ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>それから百年が過ぎたある日の事。<br /> とある人物が十六夜の祠にやってきました。<br /> 「これがあのヤマタノオロチを封じ込めた伝説の宝剣、ツクヨミか」<br /> 岩に突き立ったツクヨミを見つめてそう呟いた人影は<br /> 「……バカバカしい。どうせそんなものは作り話に決まっておる!」<br /> なんとツクヨミに手を掛けるや、それを一気に引き抜いてしまったのです。<br /><br /> すると突然、暗闇の中に八対の赤い目が浮かび上がりました。<br /> 同時にツクヨミが抜けた穴から真っ黒な風が吹き付けます。<br /> 人影は剣を放り出し、慌てて逃げ出しますが、足をもつれさせて転んでしまいました。<br /> 社を吹き飛ばして現れた黒い巨大な影が、その上に覆いかぶさって笑います。<br /> 「力ヲ求メル者ヨ、ヨクゾ忌々シキ戒メヲ解イテクレタ!<br /> 『闇ノ世界ヲ欲ス』、ソノ誓イノ言葉ヲ、今コソ我ニ奉ズルノダ」<br /> しかし人影は怯えるあまり何も言えません。<br /> じれたのか巨大な影が咆哮すると、その声に弾かれた人影は飛びあがり、転がるように駆け出しました。<br /> その身を包む炎で山の木々を焼きながら、大きな影がその後を追います。<br /> 八つの首が吠え声を上げると、炎は嵐になり、大木が軽々と空へ舞い上がりました。<br /><br /> 空は黒く濁り、太陽の姿も見えません。<br /> こうして平和なナカツクニは災厄の中に巻き込まれてしまいました。<br /><br /></dd> <dt><a>375</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)21:54:54ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>けれどもたった一つだけ、魔物の呪いからまぬがれた村があったのです。<br /> それは御神木に守られたちいさな村。あの神木村でありました。<br /><br /> 遠い昔に立てられたシラヌイの石像。<br /> その前に村の守り神、村の奥に立つ巨大な桜木の精「サクヤヒメ」が降り立ちました。<br /> 「あな恐ろしや……!まるでいにしえの伝承の如き、怪しきありさま。どうしてこのような事に!?」<br /> 辺りを見回すと、サクヤヒメは傍らの石像を見下ろしました。<br /><br /> 「……ともかく事は一刻を争います。百余年、我が身を尽くして魔より守りし<br /> この神の器―――ついに主の元へと帰す時が来ました」<br /> 言って身を翻したサクヤヒメがふわりと袖で宙に円を描けば、<br /> 袖から走った光の軌跡が大きな銅鏡に変わります。<br /><br /> 「いざ、天照る神よ。今こそその力で濁世をあまねく照らし、我らに神明のお導きを授け給え!」<br /> サクヤヒメがそう叫んで銅鏡を放り投げると、それはひとりでに空を駆け、石像の背中に取り付きました。<br /> すると銅鏡から炎が噴出し、みるみるうちに石像が真っ白く、所々に<br /> 赤い隈取を帯びた本物の狼に変わるではありませんか。<br /><br /> 「おお、その汚れなき純白の御包容は正しく、我らが慈母にましますアマテラス大神(おおみかみ)!」<br /> 一声吠えて身震いをすると、台座から降り立った狼にサクヤヒメは懐かしげに語りかけました。<br /> 「百年の昔、その身命をなげうって強大な魔の物を退治し、この国を救い給うたその威風、<br /> いささかも変わりはありませぬ」<br /> そう、百年前に神木村を救ったシラヌイの正体は、狼の姿をした神様、アマテラスだったのです。<br /><br /> 「石像に身をやつして時を経ながら、よくぞお戻りになりました……グスッ」<br /> 感極まってサクヤヒメは涙ぐみますが、アマテラスは別にそれに応えるでもなく、<br /> 一通りあちこちを見回すと、大あくびをして寝そべってしまいました。<br /><br /> 「……と……ともかくアマテラス大神。この猛り狂う雲のさまをごらん遊ばされよ」<br /> ちょっとボーゼンとはしたものの、すぐに気を取り直したサクヤヒメは空を指さしました。<br /> アマテラスが死んだ後も世の中には妖怪がはびこっていましたが、<br /> これほどの大異変は今までに例がなかったのです。<br /> 「どうか、貴方の通力で闇を祓い、悪しき物どもを成敗し給い、そして―――」<br /><br /> と、そこでいままで一生懸命に訴えていたサクヤヒメがふいに身ぶるいをしました。<br /> 「おや、これは何ぞ?急に懐がこそばゆく……」<br /> そう言った所でついにサクヤヒメは我慢できなくなり、身を折って笑い出しました。<br /> すると彼女の景気よく開いた着物の袂がぷるぷると揺れ出して、<br /> 胸の谷間からちいさな何かが飛び出したのです。<br /><br /></dd> <dt><a>376</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)21:55:37ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>きらきら光るそれは、どうやら虫の類のようで、地面に転がるや、<br /> ぴょんぴょん勢いよく跳ねながら怒り出しました。<br /><br /> 「痛テテテ、ひでェ事しやがんなァ!大したカラダでもねぇのにギャーギャー騒ぎやがってェ、<br /> クソ難しい話してるから面白くしてやったんだろォ!?」<br /> 「これ、玉虫や。お前また、私の懐で昼寝を……?」<br /> サクヤヒメは無礼な玉虫を叱りますが、<br /> 「オイラをムシケラ扱いすんなっていつも言ってんだろォ!<br /> オイラは全国行脚の旅絵師、イッスンさまだィ!」虫は逆に怒鳴り返して<br /> 「ホレ……その眼を開いて、オイラの名筆をとくと拝みなァ!」<br /> 唸るアマテラスの顔面に絵巻物を叩きつけました。<br /><br /> でも密着しすぎて、それじゃド近眼でも見えません。<br /> 離して見てみるとなんと言うのか、「何でも鑑定団」に出てきそうな古風な絵柄で<br /> ナイスバディのお姉さんが描かれています。<br /> 「どうだい、本物よりカワイく描けてるだろォ!?」<br /> 得意げに叫んだイッスンはぴょんぴょんと跳ねとんで、アマテラスの鼻の上に飛び乗りました。<br /> 「……おやァ?このトボケ顔、どこかで見覚えがあるような……<br /> そうだ!お前、あのシラヌイの像にソックリじゃ……」<br /> 言いかけた所でアマテラスがひょいと顔を傾け、イッスンは犬業界用語で言うところの「鼻パク」で<br /> あっという間もなく食べられてしまいました。<br /><br /> しかし噛み砕けなかったのか、まずかったのか、アマテラスはすぐにべっとイッスンを吐き出します。<br /> 「ブェ―――ッ!ななな、何しやがんだィ!この野郎、大和男子(やまとおのこ)を<br /> ヨダレでベトベトにしやがったなァ!?」<br /> 怒り狂ったイッスンが腰の「名刀・電光丸(つまようじ大)」を抜き放とうとした時、<br /> 急に不気味な唸り声があたりに響きました。<br /> 驚くイッスンとアマテラスをよそに、力尽きたのか、淡い光に包まれたサクヤヒメは<br /> 神木の姿に戻ってしまいます。<br /><br /> 「私のはかなき力では、この神木村を救うのが精一杯でした。村の生きとし生ける魂は、<br /> 我が果実の内に守りたれば―――これを切り落とし、村を蘇らせたまえ!」<br /> 彼女の残した言葉どおり、葉さえない枯れ木のような神木の中ほどには、<br /> 桃のような果実がぽつんと一つだけ下がっています。しかしその高さではアマテラスには届きません。<br /> 辺りを見回してみると、神木の根元に光を放つ穴が開いています。<br /> とりあえずアマテラスはイッスンと共に、その穴に入ってみる事にしたのでした。<br /><br /></dd> <dt><a>377</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)21:57:24ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>穴の中はいくつもの浮き島の間に川が流れ、静かに月が輝く不思議な空間でした。<br /> イッスンのアドバイスを受けながらアマテラスが道を進むと、壊れた橋が架かった場所に出ました。<br /> 「丁度いいや、お前……ええと、確かアマテラスって言ったなァ。<br /> アマ公、お前、筆魂って言葉を知ってるか?"活きのいい筆書きには魂が宿る"ってお話さァ」<br /> 百聞は一見に如かずだィ、とイッスンが壊れた橋の先に筆を走らせると、なんと橋が元通りに新しくなりました。<br /><br /> 「どんなもんだィ!これがオイラの筆業、その名も『画龍(がりょう)』だァ!」<br /> 大威張りで叫んだイッスンは、続いて画龍とは失われた物の復活を司る「筆神」の力を使う<br /> 筆業(ふでわざ)の一つで、この業一つを身に付けるために大変な修行をした事、<br /> この世には全部で十三の筆神がいて、それは元々一つの神様に連なるものだったが、<br /> その神様が死んだ時に世界中に散らばってしまった事なんかをつらつら講釈してくれますが、<br /> アマテラスは犬っぽい動作できょろきょろとあちこちを見回すばかりで、余り聞いている風ではありません。<br /><br /> そうしてまた進んでいくと、今度は橋さえかかっていない流れが行く手をさえぎりました。<br /> 川の手前には「神流 天の川」と書いた石の道しるべが置いてありますが、イッスンは<br /> 「そんなモンがどこにあるんだよォ……まさかあの水たまりがそうだって言うんじゃないよなァ?」<br /> と首をひねるばかりです。ともかくも先に進めないので川脇の高台へ登る事にしました。<br /> 見上げると満天に星が輝いています。<br /> 「見ろよォ、あそこに並んだ星なんか、何かの形に見えてこねェか?」<br /> 確かにそこには龍の形に似た星座がありましたが、星が一つ足りません。<br /><br /> 「よォし……それじゃ一丁、オイラが星を描き足してやるかァ!」<br /> 大胆なことを言って筆を振るったイッスンでしたが、当然そんな事は出来ません。<br /> 書き足した星はひらひらと落ちてしまいました。<br /> 「さすがに星を書き足すなんて、オイラにゃまだ無理かァ。<br /> R1ボタン押しっぱなしで筆を持って、□ボタンで描く……と、地獄のような修行の日々を送ったんだけどなァ……」<br /> どんな地獄ですかそれは。ていうかなんだその前振り。<br /><br /> ……などとツッコむ事もなくアマテラスがちょんと天に星を描くと、<br /> みごと正しい形を取り戻した龍の星座は実体化して、アマテラスの元へ舞い降りました。<br /><br /> 「おお……我らが慈母、アマテラス大神。<br /> 御許(おもと)がこの世を去られて幾星霜、時世経て久しくなりにけるも、<br /> この蘇神(よみがみ)ひと時も欠くことなく今日の日を待ち申しけり」<br /> えー、要するに「アイミスユー、アイワズウェイテングフォーユー」って事です。<br /><br /></dd> <dt><a>378</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)21:58:43ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>やはり十三の筆神の大元になった神とはアマテラスでした。<br /> そしてイッスンが言うとおり十三の星座は人界に惑い、散り散りになった後、<br /> それぞれがアマテラスの体に帰る時を待っているらしいのです。<br /> 「今一度御許に仕わせ、失せ物の蘇るを見継がせ給え!<br /> この力あらば、涸れた天の川など、たちまち星くずで溢れさせ給いぬ」<br /> 頼もしい言葉と共に蘇神はアマテラスの中に帰りました。<br /><br /> 画龍の神がアマテラスの体に宿った事をイッスンは驚きますが、<br /> アマテラスはいつもどおりのノホホン顔です。<br /> 幻と呼ばれた神業である筆業、しかも天の川に星屑を描いて蘇らせるなんて大それた事、<br /> 自分だって出来ないのに出来るはずがない、といぶかしむイッスンの前で<br /> アマテラスが川に筆を走らせると、あっという間に川は星屑で一杯になりました。<br /> またまた驚くイッスンですが、やはりアマテラスが偉い神様で<br /> 筆業を使いこなせるという事実は信じがたいらしく「今の筆業は一体誰の仕業だァ?」などと言っています。<br /><br /> 川を渡ると光を放つ大きな門があり、通り過ぎると鳥居の並んだ山の参道に出ました。<br /> 滝の手前に立てられた「イザナギ泉水」の文字にイッスンが首をひねるも、<br /> そのまま山を登っていくと、鳥居の奥に洞窟がありました。<br /> 洞窟は短く、天井が空に開いた大広間に繋がっています。<br /> 広間の中央に立った巨大な像を見て、イッスンが叫びました。<br /> 「こ……ここは、もしかして……神話に出てくる幻の祠、イザナギ窟じゃねェか!?」<br /><br /> 巨大な像は百年前に白狼シラヌイを従えて妖怪退治をしたというイザナギの像。ここは彼を祀る祠でした。<br /> イッスンはさっきの「天の川」といい、自分たちはいったいどこに迷い込んでしまったのかと焦りますが、<br /> すぐに祠のひどい荒れように気がつきます。<br /> 「見ろよ、剣なんかボロボロに崩れて、ひでェありさまだァ。<br /> あれじゃ神様の加護も、あったもんじゃねェや……」<br /><br /> そこでアマテラスはさっそく蘇神の力を使い、剣を元に戻してあげました。<br /> 「や……やっぱり、今までの筆業はお前の仕業だったのかァ!?」<br /> ここでようやく理解したイッスン。<br /> 「そんな鋭い筆遣いが出来るたァ、お前、一体……」<br /> しかしそれ以外はまったく分かっていないらしい彼の頭上で、また星が輝き始めました。<br /><br /> 今度星を書き加えると現れたのは、巨大な剣を持ったネズミの筆神です。<br /> 「万象の神たる御許を助くる事こそ我が務めなれば―――退魔の剣舞をもって悪を払う大役、<br /> この断神(たちがみ)に預けられよ!」<br /> 一声叫ぶと断神は、光の球になってアマテラスの中に溶け込みました。<br /> アマテラスの頭の上でぴょんぴょん跳ねながら、イッスンがわめきます。<br /> 「断神って言や、何でも切り裂く筆業、一閃の神様だァ、この野郎、それじゃお前まるで……<br /> 英雄イザナギと共に怪物を退治した後おっ死んで十三の筆業をこの世にバラ撒いたっていう、<br /> あの―――大神「白野威」みてぇじゃねェか!」<br /><br /></dd> <dt><a>379</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)22:00:33ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>神話の中の場所や人物(というか神様)を次々にまの当たりにしたイッスンは<br /> やはり急には全てを信じられず、とりあえず一閃で目の前の岩を斬ってみろとアマテラスに要求しました。<br /> お安い御用とアマテラスが岩を真っ二つにすると、「す……すげェ!!」とたまげたイッスンは<br /> 「御見それしたぜェ、毛むくじゃらァ。その鋭ェ筆運び、オイラの遠く及ぶ所じゃねェや。<br /> 思い上がりもはなはだしいたァこの事だったぜェ」<br /> と今までの態度を反省したまではよかったものの、続いてとんでもない事を言いだしました。<br /><br /> 「……なぁ、毛むくじゃらァ……いや、アマ公。オイラぁ決めたぜェ!<br /> お前は十三の筆業を使いこなしたあのシラヌイの生まれ変わりだろォ?<br /> ……オイラぁ、その筆技を全部盗んで、一人前の絵師になるまで、お前に付いて、離れねェ!」<br /> 慌てたアマテラスは、ぶるぶると胴震いをしてイッスンを振り放そうとしましたが、<br /> 「へッへ、無駄無駄ァ!」とイッスンはしがみ付いて離れません。<br /> 「それよりアマ公!その一閃がありゃ、サクヤの姉ちゃんが言ってたアレを<br /> 切り落とせるんじゃねェか?さあ、戻ろうぜェ」<br /> もうすっかりついて来る気のイッスンに言われ、<br /> 仕方なくアマテラスはサクヤヒメの木の根元へと戻る事にしたのでした。<br /><br /> 桜の木の根元に戻ったアマテラスは、一閃の力を使い、さっきイッスンが言っていた「アレ」……<br /> サクヤヒメが唯一救う事が出来たという神木村の封じ込められた桃の実を切り落とします。<br /> するとどうでしょう。桃の実から様々な花びらとともに緑の光が湧き出して、<br /> それは黒一色だった周囲の風景をあっという間に色彩豊かなものへと変えたのでした。<br /> 緑溢れる山道を駆け下り、村の様子を見に行ったアマテラスとイッスンでしたが、<br /> すぐにどうもおかしい事に気が付きます。<br /> 辺りは妙に静かだし、あちこちには石像が立っているだけで、人影や動物の姿がまったく見えないのです。<br /> とにかくもっと詳しく様子を探ろうと彼らは高台へ向かいました。<br /><br /> 「やっぱり、ダメだァ……」<br /> アマテラスに乗って村を見晴らす高台にやってきたイッスンは、がっかりして言いました。<br /> 村を歩くうちに石像は石に変えられた村人だという事が分かり、おまけに空は太陽が消えてしまい、<br /> 真っ暗なままなのです。<br /> 「やっぱり得体の知れない怪物の呪いかよォ?ま……まさか永遠にこのままってんじゃないよなァ?」<br /> せめて太陽が照らしてくれれば。<br /> 「空にクルリと丸を描いて、お天道様の出来上がりィ!なんて……<br /> やっぱり、如何な大神サマでも、無理な相談だよなァ」<br /> しかしその通りにアマテラスが天に丸を描くと、あっという間に太陽が現れて、辺りを眩しく照らし始めました。<br /><br /></dd> <dt><a>380</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)22:01:57ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>「ななな……何だとォ!?」またしても驚かされるイッスンですが、<br /> それもそのはず、アマテラスといえば太陽神の名。<br /> 太陽の筆業「光明」だけは、最初から持っているし、失うはずがないのです。<br /> イッスンはこれらのアマテラスの筆業に感心し、優れた絵師の筆技は、<br /> まるで楽器のしらべのように雅やかだというイッスンのお爺さんの言葉にちなみ、<br /> アマテラスの筆業を「筆しらべ」と呼ぶ事にしました。<br /><br /> ともあれ彼らがもう一度村の様子を見に行こうとしたその時、「何じゃ、お主は!?」<br /> 背後から腰の曲がった老人が現れました。<br /> いつもミカンを頭の上でリフティングしているこの老人の名前は「ミカン爺」。村の長老です。<br /> 振り返ったアマテラスをあらためてまじまじと見たミカン爺は顔色を変えました。<br /> 「こ……これは、白いオオカミ!?まさかあのイザナギ様と共に戦い、恐ろしい怪物を退治したという<br /> 伝説の白いオオカミ、シラヌイさま!」<br /> けれどすぐにミカン爺はやれやれと首を振ります。<br /> 「そんなハズはないわい。あの伝説は百年も昔の話じゃ」<br /><br /> どうもミカン爺にはアマテラスはただのオオカミにしか見えていないようでした。<br /> 「……しかしそれにしても良く似ておる……シラヌイさまの像にソックリじゃ」<br /> あくびをし、首を傾げるアマテラス。<br /> 「……と思ったが、シラヌイさまにしてはちょっとトボけておるかのう」<br /> と、その時、それまでミカン爺の言葉を黙って聞いていたアマテラスが唸りながら低く身構えました。<br /> 「ワシの悪口が分かったのか?じゃが、トボけた顔をトボけていると言って何が悪い!」<br /> アマテラスの豹変に焦ったミカン爺は、ファイティングポーズを取って威嚇します。<br /> しかしアマテラスが唸ったのはミカン爺にではありませんでした。<br /> ミカン爺の背後の山の上に、いつの間にか三匹の妖怪が現れて、こちらの様子を窺っていたのです。<br /><br /> 妖怪たちが飛び下りて来てもまだミカン爺は気付きません。<br /> 頭をかきつつ「……ハテ、急に背筋が寒くなって来たぞい!?」などと言っています。<br /> アマテラスの鼻の上でそれを見たイッスンが言いました。<br /> 「良く見なァ、アマ公。あれが今この国中に溢れている妖怪どもだァ。<br /> ああやって人間から姿を隠し、村に入り込んで悪さをするのさァ。<br /> ……まぁ見てなィ!ここはオイラが名刀電光丸で―――」<br /><br /> 勇ましくイッスンは刀を抜き放ちましたが、アマテラスは皆まで言わさず、<br /> 飛び掛ってきた妖怪たちとミカン爺の間に走りこむとその背中をくわえ、<br /> ミカン爺「で」妖怪を三匹まとめてブッ飛ばし、衝撃で吹っ飛んだ頭のミカンを返すミカン爺で見事にキャッチ。<br /> その後バット代わりにされたミカン爺をアマテラスはぽいと放り出し、妖怪たちにトドメを刺すべく<br /> 彼らの作った結界へと飛びこんでいきました。<br /><br /></dd> <dt><a>381</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)22:03:18ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>その場にいた妖怪たちを全て倒すと、奇妙な事に近くの涸れていた泉が蘇り、<br /> 泉の中から現れた光の球がアマテラスの体の中に吸い込まれました。<br /><br /> 「お……お前、キレると結構アグレッシブになるなァ」<br /> 呆れながらイッスンが説明するには、この光の球は「幸玉(さちだま)」という神様の力の源で、<br /> さっきのように妖怪に押さえ込まれていた土地の神様の力を妖怪を倒す事で復活させる<br /> 「神降ろし」をしたり、他にも人や動物を助けることでみんなが幸せ一杯になれば、<br /> アマテラスもそれだけ幸玉をいっぱい手に入れられて、<br /> いつかは全盛期の力を取り戻せるだろう、とのことでした。<br /> さっきミカン爺がアマテラスがただのオオカミにしか見えなかったのも、<br /> それだけ神様の力が弱っているからだったのです。<br /><br /> ともあれアマテラスとイッスンは村へと下りて行きました。<br /> 村の人々が何事もなかったかのように、平和に暮らしているのを見て回りつつ村外れまでやってくると、<br /> 大きな岩が村の出口を塞いでいて、「これじゃ都に帰る事が出来やしないよ」と行商人が困っています。<br /> 行商人はアマテラスがこの村で飼われている犬だと勘違いして、<br /> この村に住む「スサノオ」という男を連れてきてくれるよう頼んできました。<br /> なんでもスサノオはあのイザナギの子孫で、彼ならばどうにかして岩をどかしてくれるかもしれない<br /> と思ったらしいのです。<br /><br /> こうしてスサノオの家に向かったアマテラスとイッスンですが、<br /> 当のスサノオは昼間から高いびきをかいていて、何度話しかけても寝言を言うばかり。<br /> しびれを切らしたイッスンにせかされて、アマテラスはズバッと一斬り、一閃をぶちかましました。<br /> これにはさすがに堪らず、スサノオは「ガフッ!」とうめくや、ようやく目を覚まします。<br /><br /> 「瞑想にふけろうと地下にこもったら、そのまま眠ってしまったようだわ!」<br /> などと言ってスサノオは起き上がりましたが、そこに居たアマテラスの姿を見るなり、<br /> 「まさか畜生までもが我の噂を聞きつけて、やって来るとは……だがな、我は弟子など取らんぞ」<br /> 頼んでもいないことを勝手に誤解して断ると、<br /> 「さあ、ポチ。サッサと山へ帰って猿と戯れておれ」<br /> しっしと手を振って二人に背を向け、またごろりと寝転んでしまいました。<br /><br /> 「まったく……無礼な犬っコロめ、我の瞑想を邪魔しおって……」<br /> なんて事をぶつぶつ言って寝ようとするので、<br /> 「やいトウヘンボク!グズグズしねェで一緒に来なァ!」<br /> ぴょんぴょん跳ねたイッスンが叫びました。すると起き上がったスサノオは、<br /> 「ムウッ?……お前は金玉虫!また我の家に入り込んだのか!?」<br /> と不機嫌そうに唸り、その呼び名が大キライなイッスンは激怒して、<br /> アマテラスに強硬手段をとることを命じます。<br /> よしきたとばかりにスサノオの服の裾を捕まえたアマテラスは彼をぐるぐると宙で回すと放り投げ、<br /> 背中に担いでしまいました。<br /><br /></dd> <dt><a>382</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)22:04:31ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>「や……やめんか、こんなこっ恥ずかしい真似を!」<br /> 汗をかきつつスサノオは怒鳴りますが、よく見ると奇妙にへっぴり腰で、しかもかすかに震えています。<br /> でもそんな事にはまったく構わずアマテラスは走り出し、行商人が待つ村の出口へと取って返しました。<br /><br /> アマテラスに決闘を申し込まれたと、またまたあさってな勘違いをして怒るスサノオに、<br /> 割って入った行商人がこの岩を何とかしてくれるよう頼みます。<br /> 「あんたあのイザナギの子孫だっていうじゃないか。何かすごい技でドカーンと……できるだろう?」<br /> しかしそう言われてもスサノオはさっきまでの勢いはどこへやら、ただただ口ごもるだけで、<br /> 懇願する商人にとうとう押し切られて岩を壊す事を約束したものの、<br /> 「これほどの大岩、さすがの我でも骨が折れるわ。剣に宿す闘気を高めるため、精神統一が必要だな」<br /> 鍛錬場で気を練るから暫く待っていろ、と言い残すなり、一目散にかけ去ってしまいました。<br /><br /> あのオッサンがまともに鍛錬してるのなんて見たことがない、とイッスンは鼻で笑い、<br /> 行商人も怪しむ様子でしたが、とにかく待つしかないと溜息をつきます。<br /> 様子を見に行ったアマテラスが見たのは、案の定鍛錬場に寝転がり、酒を煽るスサノオの姿でした。<br /> 「何とかするとは言ったものの……いくら伝説の血筋でも、あんな岩などとても無理だ」<br /> とボヤいていたスサノオでしたが、酒が切れると<br /> 「やめだやめだ。今日はもうおしまい。鍛錬は明日からだ!」<br /> と酒瓶を放り出し、フテ寝を始めてしまいました。<br /> 「酒がないから気分が乗らん」というスサノオ。<br /> そこでアマテラスは村人の女酒職人、クシナダのもとへ向かいます。<br /><br /> しかし田んぼで稲刈りをしていたクシナダは何故かしょんぼりとしていました。<br /> 精米に使う水車を、妖怪たちに壊されてしまい、新酒の仕込が出来ないというのです。<br /> 妖怪たちが暴れた原因がクシナダが試飲させてあげた新酒で酔っ払ってしまったせい、<br /> というなんともスゴイものでしたが、ともかくアマテラスは筆調べの力で水車を直してあげました。<br /> いつの間にか元通りになっている水車を見たクシナダは大喜び。<br /> 気分良く新酒の仕込を始めた彼女はそこに居たアマテラスに気付くと、<br /> ご機嫌ついでに売れ残ったお酒をくれました。<br /><br /> 酒瓶をくわえたアマテラスはスサノオのもとに引き返します。<br /> じつはクシナダに恋心を抱いていたスサノオは、匂いだけで<br /> それが彼女の手による酒だと気が付いて跳ね起きました。<br /> オマケに匂いだけで銘柄まで当てています。げに恐ろしきは恋心。<br /> 「な……何という巡り合わせ!クシナダちゃんとの愛が成す奇跡か?」<br /> またしても一方的に決め付けたスサノオでしたが<br /> 「そう言えば、我が祖先イザナギも、怪物退治の時には酒の力を借りたと聞く……<br /> 我、天啓を得たり!いざ鍛錬を始めようぞ」<br /> なんとかやってくれる気になったようです。<br /><br /></dd> <dt><a>383</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)22:06:00ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>ですが「鍛錬」を始めたスサノオがいくらカカシに剣を打ち込んでも、<br /> カカシは倒れるどころかその気配すらもありません。<br /> 「……カカシよ。次は相打ちでは済まぬぞ」と格好を付けるスサノオにあきれ果て、<br /> 「おいアマ公……チョイと手伝ってやっちゃどうだァ?」<br /> こっそりとイッスンがアマテラスに囁きました。<br /><br /> 「では、気を取り直して……いざ参らん!」<br /> 今度スサノオが打ち込むと、かかしは面白いように真っ二つになり、次々と地面に転がりました。<br /> もちろんそれはアマテラスの一閃の力です。<br /> 「いざ、刮目して見よ!スサノオ流、真空割破斬!」<br /> 打ち込みの仕上げにスサノオは意味不明な必殺技を叫んで鍛錬場の隅にあった岩に向かって剣を振ります。<br /> するとあの道を塞いでいたものほどではないものの、大人三人分ほどの背丈のある岩が<br /> きれいに切り裂かれて地響きを立てました。<br /> しつこいようですがもちろんこれもアマテラスの筆調べの力です。<br /><br /> ですが「ななななな……何ぃ!?」予想外の「自分の力」に暫し呆然としていたのも束の間、スサノオは<br /> 「う……うおおおおお―――!!」と雄叫びを上げつつ猛然と走り去ってしまいました。<br /> 行く先は当然あの大岩の前。<br /> 「ス……スサノオ流―――真空割破斬!」<br /> 叫んだスサノオが剣を真一文字に振りぬけば、見事なくらいあっさりと大岩は割られ、<br /> 道は元通り通れるようになりました。しつこ(ry<br /><br /> 「あ……あんた、ホントにスゴいお人だったんだなぁ」<br /> 行商人は驚き喜んでスサノオに語りかけます。<br /> 「オ……オイラもたまげたァ……!」<br /> イッスンのこれは、スサノオに対する言葉ではありませんが。<br /> さすがにおかしいと思ったのか、スサノオは剣をひっくり返してためつすがめつ眺めていましたが、<br /> これらの賞賛の言葉にぎくりと振り向くと慌てて咳払いをし、<br /> 「あ……ああ、そうだとも、我は古今無双の大剣士、スサノオにあるぞ!!」<br /> 高々と剣を天に向かって掲げました。ところが続いて<br /> 「いやぁ、イザナギの子孫ってのはダテじゃないねぇ!あんたなら、妖怪たちを倒すのも造作もないだろうなぁ」<br /> 行商人が更に誉めると、スサノオはたちまちだらだらと脂汗をかき始めました。<br /><br /> 「よ……妖怪か」<br /> ちらりと傍らのイッスンとアマテラスをかえりみて、スサノオは前へと進み出ます。<br /> 「む……無論、言われるまでもない事だ。ナカツクニ随一の剣士たる我が起たねばならぬと思っていたところよ。<br /> 者ども、大船から飛び降りた気持ちで待っておれ!」<br /> 剣を彼方に突きつけて、ビミョーに間違った見得を切るなり、高笑いを上げながら走り去ってしまいました。<br /><br /></dd> <dt><a>384</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)22:07:22ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>「オイラたちが見てるからって無理しなくてもよォ……」<br /> イッスンがちょっとだけ心配そうに呟きました。何せ村の外は、妖怪の強さも段違いなのです。<br /> スサノオの後ろ姿を見送っていた二人の背中に、その時はらはらと桜の花びらが吹きつけました。<br /> 「おお……我らが慈母、アマテラス大神」<br /> 聞きなれた声に振り返ってみれば、宙に浮いたサクヤヒメが二人を見下ろしています。<br /><br /> もちろんスサノオの事も含めたこれまでのアマテラスの活躍を影ながら見守っていたと言い、<br /> アマテラスの筆さばきをたたえるサクヤヒメにイッスンは<br /> 「だったら何かご褒美でもくれよォ」<br /> とあさましいことを言いますが、<br /> 「お礼をしたいのは山々ですが……」<br /> サクヤヒメはすまなそうに背後の山の上を指さしました。<br /> そこにあるのは枯れ木同然になりはてた、サクヤヒメの依り代であるあの大きな桜の木です。<br /> 「このサクヤ、既に通力を失い、あの通り今や花を付ける事もままならぬありさまなのです」<br /> 実は彼女は村の外にも木の根を張り巡らせ、これまで各地を見守り、緑をはぐくんでいたのですが、<br /> 「塞の芽(さいのめ)」と呼ばれる彼女の分身たちが、今や妖怪たちにむしばまれ、<br /> ついには本体であるサクヤヒメの木までが枯れてしまったというのです。<br /><br /> そうやって一生懸命窮状を訴えているうちにまたしても話す力も尽きてしまったサクヤヒメは、<br /> 各地の封じられた塞の目を解き放ってくれるようアマテラスに頼むと、<br /> 「……アマテラス大神よ、貴方に花の香の守りがあらんことを!」<br /> 最後の言葉を残すや、よろめくようにして消えてしまいました。<br /> 「……ふゥん」<br /> サクヤヒメが消え去った後、イッスンがぼそっとつぶやきます。<br /> 「オイラぁ、ケンカっ早いけどよォ……厄介事に首突っ込むのはゴメンだぜェ!」<br /> 言うなり、イッスンはぴょんぴょん跳ねていってしまいました。<br /><br /> けれどもすぐに彼は跳ぶのをやめて、立ち止まります。<br /> 「……と言いたいけど、筆業の修得前に、こいつから離れる事も出来ないしなァ」<br /> 面白くなさそうにつぶやくと、イッスンはまたぴょんぴょん跳ねだしてサクヤヒメの必死な話も右から左、<br /> 地面に寝そべって気持ち良さそうに眠っていたアマテラスの所にUターンしてきました。<br /> 「まぁ、こいつも神サマなんだから、妖怪相手に下手打つ事もねェか」<br /> のんきなのか計算高いのかイマイチ良くわからない事をいって、<br /> イッスンはようやく起き上がってお座りしたアマテラスの鼻先に飛び乗ります。<br /> 「……お前、人の話、ちゃんと聞いてたんだろうなァ?」<br /> 疑りながら言ったあと、<br /> 「お前は旅がてら残りの筆業を見つけ出して世を直し、オイラはその筆業を盗んで修得とくりゃ、<br /> バン万歳ってワケだァ!」<br /> イッスンはなんとも都合のいい計画をぶち上げ、二人はこうして村の外へ続く<br /> 長い長い旅路の第一歩を踏み出したのでした。<br /><br /> 続きはまた。<br /><br /></dd> <dt><a>405</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)09:48:22ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>大神続き~<br /> の前に前回の訂正。イッスンが初登場時に飛び出したのはサクヤヒメの「袂」ではなく「袷」ですね <br /> 袂じゃ別にくすぐったくも何ともなかろうよ orz<br /> では続き<br /><br /> こうして村の外へ出た二人でしたが、すぐに驚きの目を見張る事になります。<br /> そこは神州平原、ナカツクニで最も美しいと言われる大野原のはずなのに、<br /> 空は真っ暗であたりに立ち並ぶ木立ちは枯れ木ばかり。<br /> アマテラスが天に描いた光明の力も、効き目があったのは神木村だけだったのです。<br /><br /> その原因は道をほんの少し進んだだけでわかりました。<br /> 平原の中央に立つ一際大きな枯れ木。<br /> それは旅人が立ち寄り疲れを癒す憩いの場であり、彼らが浄化しなければならない<br /> 塞の芽のうちの一つなのですが、辺りはとてもイヤな雰囲気に包まれていて、<br /> 今にも倒れそうなその大木が立った辺りは特にそれがひどく、近づけそうもないのです。<br /><br /> こういう風に妖気が漂い、それにつられた妖怪が集まる場所はタタリ場といって、<br /> 足を踏み入れるだけで呪われてしまいます。<br /> 近づく事さえ出来ないのに、一体どうやればあの塞の芽を浄化できるのでしょう。<br /> とにかくかろうじて呪われていない道を下って行った二人は、そこに1軒の小屋と、<br /> 小屋の前でまき割りをしている男を見つけました。<br /><br /> 「そこの小川を渡った所にある仕事場がタタリ場のせいで消えちまった。これじゃ生活出来やしないよ」<br /> と有り得ない程マターリと嘆いている男ですが、湖の方から押し寄せた物凄い地響きと突風と共に<br /> このタタリ場ができた時、湖から神木村へ逃げていく人影を見た、と気になる話を聞かせてくれます。<br /> 更に男からこの道の先にある「花咲谷(はなさきだに)」には、<br /> 植物をたちまち成長させる不思議な水晶玉が祀ってあるという耳寄りな情報を聞いて、<br /> 二人は早速花咲谷に向かう事にしました。<br /> 「そう言えば」と男が話の最後に付け加えます。<br /> 「少し前にスサノオの奴が意気揚々と谷の中へ入って行ったけど、いつも口ばかりで<br /> 妖怪から逃げ回っているあいつがどうしたんだ?」<br /><br /> ……どうやらついさっき別れたばかりなのに、ずいぶんと早い再会になりそうです。<br /> というか、スサノオのヘタレっぷりは近隣の人にも有名だったのですね……。<br /><br /></dd> <dt><a>406</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)09:49:37ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>谷の中は灰茶けた色にくすみ、流れる川も泥の色をしています。<br /> 進路に陣取っている妖怪たちを倒しても、さっき神木村でやったように土地がうまく浄化されてくれません。<br /> どうもこの土地に住む神様を抑えている呪いの源を何とかしなければ、根本的な解決にならないようです。<br /> 山道を登っていくと妖気に当てられた樹木までもが木の実を飛ばして攻撃してきます。<br /> それを筆しらべの力でやり過ごしつつ更に登っていくと、奇妙な壁画が描かれた一隅にたどり着きました。<br /> 道の先は大岩に塞がれていて……その大岩を、どこかで見たことがある背中が<br /> 一生懸命押し開けようとしています。<br /><br /> 「お……お前は、ポチ!どうしてこんな所まで……!?」<br /> 背後でふりふり尻尾を振っているアマテラスに気付いたスサノオは、信じられないと言う風にゴシゴシ目をこすり、<br /> 勝手に命名してしまったニックネームでアマテラスに呼びかけました。<br /> かと思えばすぐに彼は両手をぶんぶん振り回して怒り始めます。<br /> 「帰れ、帰れ!我は弟子は取らんと言ったはずだ!」<br /><br /> ……誰がいつそんな事を貴様に頼みましたか?<br /> とにかく相変わらず勝手に誤解したまま話を進めたスサノオは<br /> 「……大体、この花咲谷はお前のような畜生が来る所ではないわ」<br /> アマテラスに向かって忌々しげに指を突きつけました。<br /> 「この先には我の秘密の鍛錬場があって……」<br /> おお、やっと彼にも勇者の子孫という自覚が出来たのでしょうか?<br /> アマテラスの手助けも無駄ではなかった……とか思ったのも束の間。<br /><br /> 「隠れるのには最高……」<br /> 思わず尻尾を振るのをやめて「ガウ?」と聞き返してしまうアマテラス。<br /> やっぱり彼の性根は相変わらずだったようです。<br /> ですがぽろっともらしかけた本音を<br /> 「い……いや、鍛錬をするには最高の場所なのだ!」<br /> とすぐに咳払いでごまかして、スサノオはアマテラスを手にした木刀で追い払ってしまいます。<br /><br /> 「しかし、おかしいな……確かここに通路があったはずなのだが……」<br /> 背中越しに漏らすスサノオの言葉を聞いて傍らの壁画を仰ぎ見てみれば、<br /> 空に輝く光が水晶に降り注ぎ、それが反射して植物を生育させているという、<br /> この谷に祭られている水晶玉を使ったいにしえの儀式を表したもの。<br /> 「この壁画、何か足りなくねェか?」というイッスンの言葉に従って「太陽」を書き込むと、<br /> それを鍵として、壁をふさいでいた大岩が崩れ去りました。<br /><br /></dd> <dt><a>407</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)09:51:03ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>何もしてないのに突然砕け散った大岩に、「な、何だとお!?」と驚愕したスサノオでしたが、<br /> あまり物事を深く考えない性格なのか彼はすぐに気を取り直し、<br /> 「とにかくこれで奥に隠れる事が……い、いや、奥にこもって存分に鍛錬する事が出来るわ!」<br /> と、いかにもらしいセリフと共に高笑いを上げながら現れた道の向こうに駆け去ってしまいました。<br /> その後を追いかけていった二人は、左右を切り立った崖に挟まれた、広間のような場所にたどり着きます。<br /> 向かい側は滝壺で他に行けそうな所はないのに、先に来ているはずのスサノオの姿がありません。<br /> 首を傾げつつも辺りを調べてみますと、部屋の中央にいかにも怪しいちいさな木の芽が<br /> ぴょこりぴょこりとうごめいています。<br /><br /> 「ん?……こいつ、かすかにサクヤの姉ちゃんと同じ香りがすらァ」<br /> とイッスン。そして木の芽と滝壺を繋ぐ直線上、坂の上にはこれまた怪しげな水たまりが。<br /> 滝の上を仰ぎ見たイッスンが<br /> 「なるほど、ここにこんな祭壇を作ったのは、あの谷間に昇る太陽を神として崇める為だろうなァ」<br /> 納得の声を漏らします。<br /> しかしそこに太陽を描いてみても何も起こりません。<br /> 打つ手をなくして来た道を振り返ってみたアマテラスは、そこで片側の壁が怪しすぎる木の柵で<br /> 封印されているのを発見、さっそくズバッと一閃をぶちかまし、その奥に隠された通路を発見します。<br /><br /> 奥へと進んでみれば「チェストォーッ」案の定その先の行き止まりにいたスサノオが、<br /> 何故か奇声を上げて木刀を構えていました。<br /> 「な……何だァ?」と面食らうイッスンに構わずスサノオは更に叫びます。<br /> 「おのれ……面妖な妖怪め、どこから入り込みおったぁ!?」<br /><br /> 「妖怪……?」とイッスンが思わずボーゼンとするのも無理はありません。<br /> なぜなら、彼らの視線の先にいたのは妖怪などではなく、変な緑色の球の上で器用にバランスを取りつつ<br /> 居眠りしている、普通の熊(玉乗り熊が普通かどうかはこの際置いておくとして)だったからです。<br /><br /></dd> <dt><a>408</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)09:52:14ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>しかし熊に向かって刀を振りかざすスサノオはあくまで本気です。<br /> 「うぬぬぬ……鍛錬場に乗り込みとはいい度胸だ。我が新奥義の餌食にしてくれよう!」<br /> ぽかんと口を開けたままのアマテラスの鼻の上で、ぴょんぴょん跳ねながらイッスンが<br /> 「ちょ……ちょっとおっさん、ありゃ、ただの寝ぼけてる熊じゃ……」<br /> 呆れ気味に制止しますが、スサノオは<br /> 「問答無用!我が剣は既にたぎっておるわ!」<br /> 当然そんなものには耳を貸しません。<br /><br /> 「では参る!スサノオ流……四字の印契(いんげい)!」<br /> 名前だけはそれっぽい必殺技を叫んで熊の周囲を囲むかがり火に向かって突進します。<br /> そしてやはり例によって例のごとく、かがり火は消えるどころかそよとも揺らぐことはなく、<br /> 「こ……これは、その……!」<br /> うろたえるスサノオを尻目に、イッスンがやれやれとアマテラスにささやきました。<br /> 「アマ公……もしかして、またお前の出番じゃねぇのかァ?」<br /><br /> このままスサノオの慌てる姿を見続けていても仕方がないので、アマテラスはイッスンの言葉に従って<br /> またまた一閃でこっそり手助けを開始。<br /><br /> 「ももも……もう一度、参る!滅、真空割破……四字の印契!」<br /> おいおい、いつの間にか技名が長くなっていますよ?<br /> それはともかく「素(す)!」と叫び、駆け抜けたスサノオの背後で「素」の文字が浮かび上がると同時に<br /> かがり火の台が砕け散り、「狭(さ)!」と叫んで斬り付けた二つ目のかがり火が<br /> 浮かんだ文字ごと切り裂かれて宙を舞い、続いて「悩(の)!」、「汚(お)!」という気合の声と共に振るわれた<br /> スサノオの剣……というかアマテラスの一閃が残り二つのかがり火を断ち割って、<br /> 最後にいよいよ仕上げの一撃、スサノオは熊に向かって剣を振りかぶると<br /> 「陰派、スサノオ流……滅、真空割破斬!」<br /> 裂帛の雄たけびが響くや、哀れ居眠り熊は真っ二つ!<br /> ……なんてことはもちろん無く、その鼻先に大きくふくらんだ鼻ちょうちんがぱちんと弾け、<br /> 熊は驚いて目を覚ましました。<br /><br /></dd> <dt><a>409</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)09:53:18ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>けれどそれもほんのわずかな間。<br /> 当たり前と言や当たり前の話ですが、鼻ちょうちんを割られた位じゃ何の痛手もありません。<br /> 熊はすぐにゴシゴシ目をこすると球からばたんと転げ落ち、地面でぐうすかと昼寝を再開します。<br /> 「フ……フハハハハハハ!」<br /> しかしそれを見たスサノオは、大得意で高笑いを始めました。<br /> 「愚かな妖怪め、思い知ったか!我が新奥義の前にもろくも崩れ去りおったわ!」<br /> 「……」<br /> 得意満面の勝利宣言に、思わず無言になってしまうイッスン。<br /> と、それを見ていたアマテラスがすたしすたしとスサノオの脇に歩み寄りました。<br /><br /> 「ワグウ?」<br /> 気がすんだ?とでもいう風なアマテラスの声を受けて鼻じろんだスサノオは剣をしまい、<br /> 焦って咳払いをすると、もっともらしくこう言います。<br /> 「うむ……まぁ、妖怪よ、ここで安らかに眠るがいい。<br /> 剣士スサノオ、罪を憎んで妖怪憎まず……次なる妖怪退治が、我を待っておるわ!」<br /> 確かに熊は眠ってるんだけど、それで合ってるような間違ってるような。<br /> 笑いながら走り去ってしまったスサノオに、アマテラスは「しょうがないな」と言わんばかり、<br /> 首をかしげて耳をぴこぴこ動かしました。<br /><br /></dd> <dt><a>410</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)09:54:14ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>さて、スサノオが去った後、ちっとも起きる気配がない熊の事はほっといて、<br /> とりあえずアマテラスは熊が乗っていた球を調べてみました。<br /> 「……この玉コロ、中に葉っぱが詰まってるぜェ。豊作祈願か何か……祭礼用の宝玉かァ?」<br /> イッスンの言葉にアマテラスは、通り道にあったあの壁画を思い出しました。<br /> 太陽の光を受けた玉が光を木まで運ぶ……そう言えばさっきの広間の水たまりは、<br /> この球を受けるのにちょうどいいサイズです。<br /><br /> 気付いたアマテラスは球を鼻先で押してころころ転がし、広間まで持っていきました。<br /> 坂道の上の水たまりに球を転がし入れるとあら不思議、どんどん水が噴き出して球が宙へと浮かびます。<br /> さっそく筆業「光明」を使い、天に太陽を描いてみると、今度射した太陽の光は水晶玉を通して緑の光となり、<br /> 光は水晶玉によってその道筋を屈折させ、見事あの木の芽へと降りそそぎました。<br /> 緑の光を浴びたちいさな木の芽はむくむくと動き出し、みるみるうちに巨大な大木へと成長します。<br /> そう、さっきイッスンが嗅ぎつけたとおり、このちいさな木の芽はサクヤヒメの分身、塞の芽でありました。<br /> しかし。<br /><br /> 「……でも、やっぱり枯れちまってらァ」<br /> 気落ちしてイッスンが言うように、せっかく大きく成長した塞の芽ですが、葉の一枚もありません。<br /> 途方に暮れた二人の頭上で、その時ふいに空が暗くなり、さやかな光が瞬きました。<br /> 見上げるアマテラスの鼻先でイッスンが叫びます。<br /> 「あ……アマ公、また星座だぜェ!」<br /> もちろんこれを逃す手はありません。ちょんちょん星を描き入れれば、星座はたちまち猿の姿になって、<br /> くるくると回りながらアマテラスの元へ降りてきました。<br /><br /> 「物の怪に憑かれ封ぜられたる我が身を、御許の通力にて救い給わり、真に畏れ多く候。<br /> いざ、この花神、全霊を尽くして御許の旅路に花香を捧げ奉らん!」<br /> きちんと正座した花神が手にした笙を吹き鳴らすや、その姿は光の球になってアマテラスのもとに帰ります。<br /> 「い……今のは草花を操る花神の一人、咲ノ花神(さきのはながみ)だァ!」<br /> イッスンが興奮して話すには、その筆業「桜花(おうか)」は枯れ木であろうとも花を咲かせることが出来るというのです。<br /> と、いうことは、もしかして。<br /> ものは試しとばかりに塞の芽に丸を描けば、やはり思ったとおり。<br /> 描いた丸は一瞬で鮮やかな桃色の花びらへと砕け、蘇った塞の芽から溢れ出た花と緑の洪水は<br /> 爆発的な勢いで山を水路を駆け抜けて、花咲谷はその名の通りの自然に満ちた美しい姿を取り戻したのです。<br /><br /></dd> <dt><a>411</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)09:57:26ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>「フェーッ、アッと言う間に草木が生え揃ったァ。<br /> サクヤの姉ちゃんの言うとおり、塞の芽の力で見事、元通りだぜェ!」<br /> イッスンは感動の溜息をついていましたが、すぐに不安そうな様子になりました。<br /> 「でも……幾ら今じゃ神サマの力が弱ってると言ったって、<br /> こんなに立派な塞の芽さえ押さえ込むなんて、よっぽどの妖力だぜェ。<br /> たとえお前があのシラヌイの生まれ変わりでも、<br /> ひょっとしたら敵わないようなすげェ奴が相手かも知れねェなァ……」<br /><br /> しかしすぐにイッスンは気を取り直して言いました。<br /> 「……そうだ、アマ公!例の野っ原で枯れてた塞の芽―――<br /> 今のお前なら蘇らせる事が出来るんじゃねェか?」<br /> 塞の芽の力が戻れば、その力でタタリ場も祓えるかも知れない。<br /> 敵の正体が何であれ、とにかく今は先に進むしかないのです。<br /> 「クヨクヨ考えるより、まずは出来る事からコツコツと、ってなァ!」<br /> いつもの調子を取り戻し、元気良く叫ぶイッスンを乗せてアマテラスは途中の木々や、<br /> まだ谷に残されていた小さなタタリ場を祓いつつ、神州平原へと降りていきました。<br /><br /> すると谷を浄化した影響か、平原のタタリ場がまばらになっています。<br /> おかげでアマテラスたちは平原の中央に立つ塞の芽の根元まで来る事が出来ました。<br /> 枯れた大木を見上げ、イッスンがわくわくとした声でアマテラスにせっつきます。<br /> 「わかってンだろォ!アマ公!このボロボロになった塞の芽―――<br /> お前の力で元の綺麗な姿に戻してやろうぜェ!」<br /> イッスンに言われるまでもありません。<br /> さっそくアマテラスは枝々の隅々まで届くよう、「桜花」の力を使って塞の芽に大きな丸を描きました。<br /><br /> すると一息の内に枯れ木は全ての枝に爛漫の花を取り戻し、眩いほどの光がその内から放たれます。<br /> 塞の芽から噴き出した春の息吹をとどめるものはもはやなく、<br /> それは緑の野原の果てまでも広がっていきます。<br /> とくに黒い闇を払い、湖畔へ達した命の光が波を蹴立てて湖を彼方に至るまで真っ青に染め上げるのは、<br /> 例えようのない喜ばしい壮観でした。<br /><br /> 「あ……あれだけのタタリ場をスッカリ消し去っちまったぜェ!?<br /> 草木や動物たち……野に吹く風の香りも元通り!まさに神降ろし中の神降ろし、大神降ろしの品格だァ!」<br /> そう、アマテラスは大自然を味方につけた神様なのです。<br /> こうやって呪いを祓っていけば、みんなの喜びがアマテラスの力を運び、<br /> きっと元の神通力を取り戻せるに違いありません。<br /><br /></dd> <dt><a>412</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)09:58:53ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>イッスンの驚き混じりの賞賛を受けながら、嬉しげに辺りの景色を見回すアマテラスの背後で、<br /> その時むくむくと動き出すものがありました。<br /> あの神木村の、サクヤヒメの神木です。<br /> 見守るうちにもかつて小さく枯れて縮こまっていた神木は伸びをするように一回り、二回りほども成長して、<br /> 新しい葉が湧き出すようにその枝を飾りました。<br /> 「姉ちゃん……塞の芽が蘇ったから、少しは元気になったかよォ?」<br /> ちょっとだけ感傷に浸る風でしみじみ呟いたイッスンでしたが、<br /> 「まぁ、姉ちゃんの所へは、また後で顔を出してみるかァ」<br /> と、わりとあっさり切り替えて、元の姿を取り戻した神州平原の観光を提案します。<br /><br /> 「お前も大昔に死んじまって、随分長い間眠りこけてたんだろォ?<br /> ちったぁ野山を駆け巡らねぇと、体がナマるってもんだぜェ!」<br /> それもそうだと思ったかはさだかではありませんが、アマテラスはその提案に乗り、<br /> そこらを見て回ってみる事にしました。<br /><br /> 取りあえず谷の反対側、湖の方を目指して進んでいくと、道が三つに分かれています。<br /> まずは左端の道をいく事にしたアマテラスたち。<br /> 浜へと続く、斜めにかしいだつり橋を下りきった頃には夜になっていました。<br /><br /> 岸壁の前には一軒の家があって、中では「炎の花火師 タマヤ」が難しい顔をしてうなっています。<br /> タマヤに「ヘンテコな火の玉」扱いされて怒るイッスン。<br /> 「おおっ?おめぇ、中々燃えてやがんな?」<br /> と妙な感心をするタマヤですが、またすぐに難しい顔に戻ってしまいました。<br /> なんでも彼の花火師人生を懸けて考え出した怒(ど)エライ打ち上げ花火、その名も「真夜中の爆裂ボォイ」<br /> それがうまく完成しないらしいのです。<br /><br /> アマテラスの、彼いわく燃えてる目を見ている内になんか閃いたらしいタマヤは、<br /> アマテラスたちの目の前で新作花火の試し打ちをしようとするのですが、結果はやっぱり大失敗。<br /> 部屋中が爆発してしまいます。<br /> 「何だ……何が足りねぇんだ!?チクショウ、何度だって挑戦してやらぁ!」<br /> 地団太を踏むタマヤですが、壁にかかっているそのViewtifulな花火の設計図を見たイッスンは<br /> 「……こいつ、全然設計図と同じに作ってねぇじゃねェか!」と呆れます。<br /> 何やら意味ありげな設計図のしるしにピンと来たアマテラス。<br /> タマヤに頼み、もう一度花火を打ち上げてもらいました。<br /><br /></dd> <dt><a>413</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)10:03:12ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>「おっ、何だおめぇら。また俺に付き合うってのか?いい度胸してるじゃねぇか!」<br /> 喜んだタマヤは座り込んでいた床からすっくと立ち上がりました。<br /> 「花火師タマヤ、行きます!大輪一番星、真夜中の爆裂ボォイの舞!」<br /> ビシィ、とポーズをとった後、むぅぅぅん!と両の拳を突き出しつつキセルに炎をともし、<br /> 更に何故かオーライベイビー、カマンと聞こえる異様な呟きを発しながら<br /> (このゲームの人は普通日本語音声を喋りません)クネクネ怪しい踊りを踊って、<br /> 無数の花火玉を発射装置に投げ込んだタマヤがキセルを装置の縁に叩き付けて着火するのと同時に、<br /> アマテラスは筆しらべを発動。壁の設計図に描かれていた「丸にちょんと導火線」の花火マークを描きました。<br /><br /> するとアマテラスの力を借りた再打ち上げは大成功。<br /> 夜の空には次々と、大輪の光の花が咲きました。<br /> 外に飛び出し、空を見上げて大喜びでジャンプするアマテラスに負けじとその鼻先で跳ねながら<br /> イッスンが感嘆の声を上げます。<br /> 「おおおおーこりゃすげェや!あのタマヤとかいう兄サン、ちょっと抜けてるけど腕は一流だなァ。<br /> ……んん?あの光は……」<br /> 言いかけてイッスンは気付き、アマテラスにうながしました。<br /> 「来たぜェ、アマ公。また星座だァ!」<br /><br /> ちょちょいと夜空に星を描けば、大きな花火玉に乗った大イノシシが、<br /> 口に花火をくわえたウリ坊たちを従えて、騒々しく天から降りてきます。<br /> 「世の中の人の心は目離(めか)るれば忘れぬべきものにこそあめれど、<br /> 我が君雲隠れ給いて目こそ隔つとも、何でう心隔つや。<br /> (世の中の人は会わないと忘れてしまうものかも知れませんが、私は我が君がお亡くなりになって<br /> そのお姿を目にすることが事が出来なくなっても、どうして心までが離れたりするでしょうか)<br /> いざこの爆神、唯今御許のもとへ帰り仕りて、輝玉(てかだま)の筆業、謹みて捧げ奉らん!」<br /> と口上を述べたまでは良かったのですが、そこでウリ坊たちの花火に火がついて、<br /> 大慌てで爆神は花火玉を転がし去って行きました。遅れて届く爆発音。<br /><br /> ば……爆神ィィィィ―――ッ!<br /><br /> こうしてアマテラスは爆神の力を手に入れました。<br /><br /></dd> <dt><a>414</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)10:04:13ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>「きっとタマヤの兄サンの情熱が筆神サマの力を蘇らせたんだぜェ!」<br /> と感動しきりのイッスン。<br /> 燃え尽きたタマヤは家の中でぶっ倒れたまま当分起きない様子なので、<br /> アマテラスは吊り橋を戻り、今度は真ん中の道へと進んでみます。<br /><br /> 真ん中の道にあったのは「十六夜神社」<br /> 十六夜の祠を訪れる旅人たちをお祓いする為の神社です。<br /> ここの神主「ミカヅキ」もまた何か困りごとがある様子。<br /> 外に広がるナカツクニ最大の湖「ハラミ湖」<br /> その真ん中に立っていたはずの十六夜の祠。それがいつの間にか消えてしまったと言うのです。<br /> 「……いつもは陰陽師のウシワカ殿が祠の警備をしているのですが、<br /> 都へ帰って留守の時に限ってこんな騒動が起こるなんて!」<br /> ミカヅキは身も世もなく嘆いています。<br /><br /> 外に出た二人が改めて湖の真ん中に伸びる道を見渡してみますと、<br /> なるほど確かに道の先には何もありません。<br /> けれども何もない道を進んで鳥居をくぐってみれば、たちまちかつての神木村と同じ、<br /> あのイヤな雰囲気に辺りが包まれて空は真っ黒、道の両端は枯れ木だらけ。<br /> しかも気がつけば確かにさっきまで無かったはずの妙な岩山の姿が目に映るではありませんか。<br /> 十六夜の祠は小さな祠だし、あんな大きな岩山今まで無かったはず、とイッスンはいぶかしみますが、<br /> とにかく正体を確かめようと岩山のふもとまで行ってみても、異様な妖気の壁が邪魔して<br /> その向こうへ進む事が出来ません。<br /> 仕方がないので岩山の調査はあきらめて、最後に残った右側の道へ行ってみます。<br /><br /> しかしそこは水路で行き止まり。<br /> イッスンが言うにはその奥には「アガタの森」というそれは美しい水源地があるそうなのですが、<br /> もとが石像だからなのか、アマテラスは神様の癖に泳ぎが下手で、水に入ったが最後、<br /> 一分もしない内におぼれてしまうのです。<br /> 結局その道も通行止めも同じで、けれどある程度散策もした事だし、<br /> アマテラスたちはここで一旦神木村に戻る事にしました。<br /><br /></dd> <dt><a>415</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)10:07:33ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>村の入り口まで戻ってきたイッスンとアマテラス。<br /> そこで彼らはなんだか村の様子が前と違っている事に気がつきます。<br /> けれどそれは悪い変化ではありません。<br /> 辺りはきらきらとした空気に満ち、みんなどことなく浮き立っているようなのです。<br /><br /> いつものように田んぼの手入れをしながらクシナダが<br /> 「こんなふうに青葉吹雪が舞うのも何年ぶりかしら。ご神木のコノハナさまが元気になっていた証拠ね」<br /> と舞い散る桜の葉に目を細めています。<br /> どこからか響いてくる、このうきうきするような祭囃子はミカン爺の花踊り。<br /> どんな枯れ木でも鼻をつけるこの踊りを昔はいつも踊っていたのに、大分前からミカン爺は<br /> 「神様の力が弱くなったから」<br /> と言って踊らなくなってしまったそうなのです。<br /><br /> クシナダにミカン爺の居場所を教えてもらったアマテラスたちは、<br /> 最初にミカン爺と会ったあの高台の「神の見やぐら」にやって来ました。<br /> ですがミカン爺は踊りに夢中で、話しかけたアマテラスたちにも気付かない様子です。<br /> ちょwww爺ちゃんそれカポエラwww更にブレイクダンスでサタデーナイトフィーバーwww<br /> さんざん踊りまくった挙句、<br /> 「ムッ……お前は暴れ者の白オオカミ!」<br /> ようやく二人の見物客に気付くと<br /> 「よくもワシを放り投げてくれたな!」<br /> ミカン爺は頭から湯気を出して怒りだしました。<br /><br /> けれどひとしきり怒り、<br /> 「よいか、白いの。ワシは動物の流儀は尊重するが、この神木村で悪さをする奴には<br /> キッチリとバツを与えるぞい!」と説教をした後で<br /> 「そんな事よりのう……」<br /> 何やら言いかけて口ごもるので、アマテラスは詳しい話を聞こうとするのですが、<br /> ミカン爺はまたも踊りに夢中でちっとも気がつきません。<br /> ようやっと一段落着いた所で、「ワシの花踊りが通じて」青葉吹雪を舞わせるほどに回復したコノハナさまが、<br /> なのに問いかけてもまったく答えてくれない、というミカン爺の悩みを聞きだすことが出来ました。<br /> まさか病魔に冒され続けて魂が昇天してしまったのでは。<br /> 「……いや、そんなはずはないわい!たとえそうだとしても、我が秘伝の舞『真神楽』で呼び戻してみせるぞい!」<br /> と何だかすごい事を言い、「せめて……せめて大地の力を借りる事が出来れば……!」<br /> という思わせぶりな呟きの先を更に詳しく聞こうとしましたが、<br /> またしてもミカン爺は踊りにm(スキップ)<br /><br /></dd> <dt><a>416</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)10:09:08ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>結局、やっとの事で今のミカン爺が真神楽とやらを待っても効果はない、<br /> 何故ならば大地の力を借りてこそご神木の魂を救う力を発揮できる出来るから。<br /> あるいは村中の桜の木に花がつくほど大地に力が戻ればなんとかなるやもという話のキモを聞き出しました。<br /> 最後にミカン爺が発した「あの禁断の神楽をもう一度舞ったらワシは……ワシはもう二度と……」<br /> という独白と、どよんとした表情が気にかからないではないではないですが、<br /> それでも呼びかけに答えないサクヤヒメのことが心配な二人は<br /> 村中の桜の木に「桜花」で容赦なく花を咲かせてまわります。<br /><br /> 「ついに……ついにこの時が来たわい」<br /> 最後の桜の木が花を咲かせたのを感じ取ったミカン爺はぽつりとひとりごちました。<br /> 「ワシの願いが通じ、村の枯れ木が全て蘇ったぞい!今こそ大地にみなぎる<br /> この生命の力を借り―――ご神木コノハナさまの魂を呼び戻す禁断の舞、真神楽を捧げるぞい!」<br /> そこでミカン爺は幻の酒「益荒男(ますらお)」を懐から取り出し、高々と天に向かって掲げます。<br /> 「我、ここに禁酒の誓いを破り……末期の花見酒をとくと味わうぞい!」<br /> ああ、やはり舞を舞ったらミカン爺は……。<br /> しかし、悲壮な言葉とは裏腹に豪快に酒を煽ったミカン爺は、酒臭い息をぷはーっと吐くや<br /> 酒瓶を放り出して「来た来た来た来た―――ッ!!」力いっぱいガッツポーズを取りました。<br /><br /> すると突如として頭のミカンが怪しく光りだし、ミカン色の風が吹き出したかと思うと<br /> 一瞬にしてミカン爺の頭と同じ位の大きさに巨大化します。<br /> 「じ……じいさん、目がヤバくなってねェか?」<br /> 驚愕の余り、巨大ミカンからもはや目が離せないアマテラスの頭上で、<br /> 跳ねるのも忘れてたじたじとしながらイッスンが囁きました。<br /> 「シロ、そしてイッスン……お前たち二人が伝説の生き証人になるんじゃ」<br /> ボディビルダーのポーズを取ったままぐりんと振り向いたミカン爺に、思わずビビッたアマテラスでしたが、<br /> アルコール臭に当てられたのかすぐに目をそらして溜息を吐いてしまいました。<br /><br /> 「では奥義真神楽、行くぞい!」<br /> くるりと回ってポーズするミカン爺。<br /> 続いて彼が神楽を舞い始めると、ジャッキーが酒飲んでやってたアレっぽいステップを踏むたびに、<br /> なんと本当にサクヤヒメの神木、コノハナさまにズバッ!ズバッ!と花が咲き始めます。<br /> けれども調子がよかったのは最初だけで、ここぞとばかりに力を込めて両手を突き出したのに<br /> 桜の木は突如うんともすんとも言わなくなってしまいました。<br /> 途端にうにゅう、と気合が抜けたようになってミカン爺はひっくり返ってしまいます。<br /><br /></dd> <dt><a>417</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)10:10:33ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>「ダメじゃ……まるっきりダメじゃ!あそこでパッと花が咲くはずなのじゃが……<br /> ワシの……ワシの真神楽はまがい物じゃったのか!?」<br /> けれどもミカン爺はすぐに跳ね起き、<br /> 「いや……今更そんな事はどうでもよい。コノハナさまに花が咲き誇るまで……ワシは舞うのをやめぬ!」<br /> 強い声で言うなり、再び舞の構えを取りました。<br /> 「では秘奥義真神楽、またまた行くぞい!」<br /> 二度目の神楽がさっき失敗した所にさしかかると……今度は見事、満開の桜がひとむら、<br /> 勢いよくコノハナさまの枝に宿ります。<br /> ミカン爺の踊りは本当にご神木復活の力になるかもしれない。<br /> イッスンにうながされたアマテラスが手伝ってあげる事にしたのです。<br /><br /> そうしてミカン爺が踊るごと、葉桜だったコノハナさまはどんどん桜色に染まって行き……<br /> パンチやキックを繰り出して思うさまパワーをためたミカン爺が最後にひらりと軽やかに飛び、<br /> 地面に降り立ってポーズを決めると同時に桃色の風が桜から吹き出して、<br /> コノハナさまは満開の姿を取り戻しました。<br /><br /> 青葉吹雪が桜吹雪へと取って代わり、春景色の村を彩ります。<br /> アマテラスは踊り終わった直後、床で大の字になってしまったミカン爺に近づき、<br /> ふんふんと匂いをかぎました。<br /> アマテラスが手伝ったおかげなのか、さいわいミカン爺はただ疲れて眠っているだけのようです。<br /> 安心してコノハナさまを見上げたアマテラスの目に、桃色の光の玉が映ります。<br /> 「おお、アマテラス大神」光がはじけると、その中からようやく復活したサクヤヒメが現れました。<br /><br /> 「何だい何だい、顔色良さそうじゃねェか!」<br /> イッスンの呼びかけに<br /> 「フフフ、玉虫や。お前も変わらず元気そうですね」<br /> サクヤヒメは微笑んで、倒れているミカン爺を見下ろしました。<br /> 「そして、私のために全てを奉じた勇気ある老人よ……<br /> あなた方の並々ならぬお心入れ、まことかたじけのう存じます。<br /> おかげでこのサクヤ、かくの如く立ち直りました」<br /><br /> 以前の着物もあちこちが大胆に開いたチャイナ風のセクシーな物でしたが、<br /> 心地よさげに伸びをするサクヤヒメが今新しく身にまとっているのは、<br /> 申し訳程度に布のついたピンクのビキニにロングパレオ。<br /> エッチ度がかなりグレードアップしたその艶姿に、イッスンが「ゴクリ……」と思わず生唾を飲み込みました。<br /> アマテラスも鼻息を荒くしています……って、え?アマテラスって確か女神じゃなかったですか?<br /> それはともかく<br /> 「その有り難き恩恵に報い、胸に抱きし敬愛の念を我らが慈母、アマテラス大御神に捧げ奉らん!」<br /> 声高らかに叫んだサクヤヒメが「うっふぅーん」と昔懐かしいながらも強烈な「だっちゅーの」ポーズを取って<br /> パレオの隙間から眩しい太ももをチラ見せすると、彼女の敬愛の念(?)<br /> ……というか幸玉がアマテラスの体に吸い込まれます。<br /><br /></dd> <dt><a>418</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)10:11:46ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>「このナカツクニを乱したる元凶未だ知れませんが、各地に散らばる塞の芽を蘇らせ、<br /> 大地の生気を取り戻し給えば、必ずや大神たる貴方への合力になる事でしょう。<br /> 私はあの神木の袂にて旅の無事をお祈りしておりますれば―――」<br /> そう言うとサクヤヒメは、再び光に姿を変えてコノハナさまの中に消えました。<br /> と思う間もなく空が暗くなり、星の光が降り注ぎます。<br /><br /> 「お……おい、今度は……!?」<br /> 星を描き入れるとそれは笛を手にした猿神になり、アマテラスの下に飛び降りてきましたが、<br /> 勢いがよすぎて画面に激突してしまいました。<br /> 呆れる咲ノ花神の横で首を振り、立ち上がった二人目の桜花の神様は笛を吹き、飛び跳ねながら言いました。<br /> 「我、神木に身を寄せ、禍々しき浮世から逃れたるを、<br /> 戦とあらばこの蓮ノ花神、御許の懐に帰り奉りて、随神(かむながら)万里の波濤にいざ向かわん!」<br /> こうして蓮ノ花神がアマテラスの元へと帰りました。<br /><br /> さっそくアマテラスたちは村の水辺へ向かい、新しい力を試します。<br /> 桜が舞い散る水面に丸を描くと、それは大きな蓮の葉になりました。<br /> 葉っぱの上に飛び乗って、得意げな鼻嵐を吹くアマテラス。<br /> この筆しらべを使えば、溺れることなくどんな大河だって渡る事が出来るでしょう。<br /> 「せっかくこんな力を手に入れたんだから、このハスを使ってもっと遠くへ行ってみねェか?」<br /> というイッスンの提案に乗ってアマテラスはさっき通れなかった、神州平原のあの水路に向かいます。<br /> そしてアマテラスたちは水路を渡り、その先のふさがれた通路を爆神の輝玉で通り抜け、<br /> アガタの森へ足を踏み入れるのでした。<br /><br /><br /> ではまた次回!<br /><br /></dd> <dt><a>496</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/05/11(木)08:15:14ID:uNHNbje0</font></dt> <dd>オーカミいきます。<br /> サボってる間にクリアしてみたら、イランと思って省いてた一見どうでもいいイベントや記述が<br /> エンディングにしっかり関わっておりましたとさ。チクショウorz<br /> まーもーそこら辺もあって訂正は最後wikiにあげてからまとめてします。キリないし。<br /> ではどうぞ。<br /><br /> 水路を抜けて、アガタの森へとやってきたアマテラスたち。<br /> しかしそこはかつての神州平原と同じ、禍々しい空気を放つタタリ場と化しておりました。<br /> ナカツクニを覆った災厄の大きさを今更ながらにまざまざと感じつつ、<br /> タタリ場のふちに細々と残されていた道を行きますと、<br /> 幸いにもそこに残されていた塞の芽を発見、アマテラスはアガタの森を元の姿に戻します。<br /><br /> 胸のすくような心地よい風と共に美しい湿地帯へと生まれ変わったアガタの森。<br /> その景色をもっとよく見ようと足を踏み出した二人の耳に、けれどもその時不思議な笛の音が届きました。<br /> 雅やかな調べの源を探して首をめぐらすと、遥か頭上、大木の梢で蕭蕭と横笛を吹き鳴らす人影があります。<br /> その人影、薄桃色の稚児装束をまとい、マントのような長い薄絹の上に<br /> カラス天狗の面をあみだにかぶった若者は、見上げる二人の前で一節ばかり奏じたのちに<br /> 横笛を唇から放し、涼やかな声で言いました。<br /><br /> 「天呼ぶ地呼ぶ、海が呼ぶ……物の怪倒せと我を呼ぶ!<br /> 人倫の伝道師、ウシワカ、イズ、ヒア!」<br /><br /> ザン!ザン!チャキィィィン!(決めポーズ&効果音)<br /><br /><br /><br /> ……ポカ―――ン……<br /><br /><br /><br /> これまでの世界観から余りにもブッ飛んだキャラ立ちのウシワカに、<br /> アマテラスたちはついついボーゼンジシツとなってしまいます。<br /><br /> 「な……何だィ、ありゃ」<br /> しばしののちに、やっと我に帰ったイッスンが呟くのを見下ろして、<br /> 「その真紅の隈取、そして、その身に粧(めか)し込んだ神の器……<br /> なるほど、傾(かぶ)いたルックスだけど、その実力は本物かな……ベイビィ?」<br /> ウシワカは意味深なセリフを言いました。<br /><br /></dd> <dt><a>497</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/05/11(木)08:18:29ID:uNHNbje0</font></dt> <dd>「ヤイヤイ、そんな高い所から何をエラそうにしてんだィ!ちゃんと降りて来て話を―――」<br /> いつもの調子を取り戻し、怒鳴りかけてイッスンは気付きます。<br /> 「待てよ?あいつ、アマ公の本当の姿が見えてるのかァ?」<br /> イッスンの言う事を素直に聞いたわけではないのでしょうが、<br /> そこでウシワカが梢の上から飛び降りてきました。<br /><br /> 身軽をもはや通り越して重力とは無縁の身のこなし、あまつさえ水面に波紋を描き、<br /> ふわりと降り立ったウシワカを見て、いまだアパーンと口を開けたまま首を片側に傾けるアマテラス。<br /> その眼前で、ウシワカはきゅるきゅる笛を回すと額の位置に掲げ、その根元に左手を添えました。<br /> すると一瞬にして笛が縮み、すいと両腕を開くに従って、横笛を柄にした光の剣<br /> ……っていうかまんまなレーザーブレードが現れます。<br /> これにはさしものアマテラスもぎょっとしてぶるぶる首を振り、ようやく現実に帰りました。<br /> 「ああっ、この野郎、刀を抜きやがったァ!」<br /> その鼻先で焦るイッスンに平然とウシワカは応えます。<br /> 「抜いたとも……ミーはこれでなくては語れない男だからね」<br /><br /> 続いて彼は妙な事を尋ねてきます。<br /> ナカツクニにタタリ場が広がった時、宝剣『ツクヨミ』を抜いた人影が神木村へ逃げ込んだ上、<br /> 大岩で入り口を塞ぐのを見たが、それについてユーたち何か知らないか、と。<br /><br /> 刀をこちらへ向けたウシワカからほとばしる殺気に<br /> 「おい、何かヤバいぜェ!ここはひとまず様子を見た方が……」<br /> とイッスンは慎重に呼びかけますが<br /> 「……ってアマ公、お前またコーフンしてるのかよォ!」<br /> 低く身構え鼻息荒く唸り声を上げるアマテラスの耳には全然届いていないようです。<br /><br /> 「グッド!そう来なくっちゃ……」<br /> その様子を見たウシワカは満足そうにこう言うと、<br /> 「では我が愛刀、ピロウトークの調べを―――思う存分、聴かせてあげようか!」<br /> 水飛沫を散らしつつ無駄にカッコイイ剣舞とともに腰のもう一刀(こっちは普通の刀)を抜き放ち、声高らかに叫びました。<br /> 「レッツロック、ベイビィ!」<br /><br /></dd> <dt><a>498</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/05/11(木)08:23:02ID:uNHNbje0</font></dt> <dd>しかし続いて始まった激しい戦いのさなか、<br /> 「よそう、アマテラス君……」<br /> ウシワカは自ら剣を引いてしまいます。<br /> 「久しぶりに、ユーの力を味わったけど……もう充分だよ」<br /> キラァン……!と汗だか跳ねた水沫だかを払い、涼しげに言うウシワカに<br /> 「何だい今更、お前の方から仕掛けて来たんだろォ!」と怒るイッスンですが、<br /> 「……あれェ?アマ公、あいつと知り合いなのかァ……?」<br /> 再び途中で気付いてアマテラスを振り返りました。<br /><br /> ですがアマテラスはいつもどおりのオトボケ調。<br /> 「ん?そーだったっけ?」みたいな、言われて初めて気付いた感じでキョトンとしています。<br /> 「こんな不器用な真似しか出来なくて悪かったね……ベイビィ」<br /> そんな二人に愉快そうな笑みを漏らすと、ウシワカは彼のこれまでの行動を話し始めます。<br /><br /> 彼が行っていたのは辺り一帯を襲った怪現象の調査。<br /> ナカツクニをタタリ場で覆いつくし、太陽まで消した、呪いの原因。<br /> それは伝説の怪物ヤマタノオロチ。<br /><br /> 「ヤ……ヤマタノオロチ……?」<br /> ようやく判明した敵の名に慄然とするイッスンを<br /> 「不用意にその名前を口にしない方がいいよ。心の弱い者はそれだけで呪われてしまう」<br /> とたしなめて、更にウシワカは語ります。<br /> 百年前にシラヌイとイザナギによって封印され、ウシワカが警護する十六夜の祠に封じられていた筈の<br /> その怪物が、彼の留守中、何者かによって解放されてしまった事を。<br /><br /> 「まさか、誰にも抜けないはずのツクヨミがいとも簡単に引き抜かれるとはね……」<br /> 重々しい話を終えて、ウシワカは<br /> 「どうやら、ミーの予知を越える運命の動きがありそうだよ」<br /> とシリアスにアマテラスを振り向きますが、当のアマテラスは<br /><br /><br /> ま、またしても寝てやがるッ……!<br /><br /><br /> 思わずずっこけるウシワカに、<br /> 「そんな運命が何だってんだィ!オイラたちはその呪いを解いて回ってるんだぜェ」<br /> 得意げに笑ってイッスンは<br /> 「この調子でヤマタノオロチだって、コツーンと小突いてやらァ!」<br /> と眠っているアマテラスに頭突きをかまします。<br /><br /></dd> <dt><a>499</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/05/11(木)08:24:45ID:uNHNbje0</font></dt> <dd>「へぇ……この辺を蘇らせたのはユーたちだったんだ」<br /> 少し感心した風のウシワカでしたが<br /> 「でもオロチが復活してから、それなりに時間が経っていると言うのに、随分スローなペースだねぇ」<br /> 小憎らしい事を言って、イッスンに指を突きつけました。<br /><br /> 「な……何ィ!?」と怒声を上げるイッスンに、ウシワカは<br /> 今の戦いでのアマテラスの力にはガッカリだ、<br /> 過去のヤマタノオロチとの戦いで慢心して衰えちゃったんじゃないの?<br /> とアメリカンなお手上げポーズで更に追い討ちをかけてきます。<br /> 「この野郎、言わせておけばァ……」<br /> 怒り心頭に発して刀を抜き放ったイッスン、<br /> さっき神木村に逃げる人影を見たとか言ったウシワカこそ怪しいもんだと言い返しますが、<br /> ウシワカは「何を興奮してるんだい、このゴムマリ君は……?」と柳に風。その上<br /> 「……そうそう!ミーには未来を予知する力があるんだけど、ユーたちに一つ、予言の言葉をプレゼントするよ」<br /> 何だかおかしなことを言い出しました。<br /> そうして腕組みをして沈思することしばし。<br /><br /><br /> 『スリル満点、丸太でゴー!』<br /><br /><br /> ピキィィィン!と再度決めポーズを取って謎ワードを発するや、<br /> 「さてと……ミーは忙しいので、そろそろ失礼するよ。それじゃあ……グッバイ、ベイビィ!」<br /> ウシワカは人間離れしたジャンプ力を見せて、現れたときと同じく唐突に、木立の向こうに消え去ってしまいました。<br /><br /> 「ケェーッ!!何だい何だい、あの野郎はァ!」<br /> 言いたいことだけ言われて去られたイッスンはまったく面白くありません。<br /> 「起きろ起きろォ、アマ公!さっさと先を急ごうぜェ!」<br /> 頭突かれた一瞬だけ迷惑そうに目を覚ましたものの、またさっさと寝入ってしまっていた<br /> アマテラスを叩き起こし、早々に冒険を再開しました。<br /><br /></dd> <dt><a>500</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/05/11(木)08:30:02ID:uNHNbje0</font></dt> <dd>歩き始めて間もなく、二人は森の住人、カリウドに出会います。<br /> 話を聞くに、カリウドには息子がいるらしいのですが、<br /> カリウドが森で拾ってきた犬をこの息子が看病しているうちに猫可愛がりするようになってしまい、<br /> 犬の梅太郎にかまけてカリウドが言いつけた橋の修繕に取りかかろうとしないので困っているというのです。<br /><br /> 息子は優しすぎる余り冒険しようとしない。<br /> 隣のクサナギ村へ通じる橋を「男になる為」に息子に新しく架け直して欲しい。<br /> 息子を信じてカリウドは待ち続けていました。<br /> けれど二人が森の奥の奈落井川へ行ってみても凄まじい流れがどうどうと逆巻いているだけで、<br /> あるのは橋の残骸ばかり。彼の息子の姿などどこにも見えません。<br /><br /> 道を戻って森の中を行くと、湖の岸辺にウサギの帽子をかぶった男の子がぽつんと、<br /> 塞いだ風で釣竿を手にたたずんでいます。<br /> これがカリウドの子、コカリでした。<br /> 「梅太郎……あいつ、無事でいるかなぁ……何だいワン子。キミも一人ぼっちなの?」<br /> そう呟くコカリの手元をよくみれば、奇妙な事に釣竿には糸がなく、当然その先にあるはずの釣り針もありません。<br /><br /> 問わず語りにコカリが言うには、森の奥にあるツタ巻遺跡の鍵を偶然見つけて<br /> 梅太郎と共に探険に出かけたまではよかったものの、遺跡の奥から聞こえてきた不気味な唸り声に<br /> 驚いて逃げる途中梅太郎とはぐれてしまい、その上それに気付かず遺跡に鍵をかけてなおも逃げているうちに、<br /> 転んで遺跡の鍵を水の中に落としてしまったそうなのです。<br /><br /> 「梅太郎はきっと、遺跡の中に取り残されたままだよ……ずっと一人ぼっちで泣いているんだよ!<br /> ボク……カギを釣り上げようと頑張ったんだけど、針も糸も全部魚に取られてサオだけになっちゃったんだ!」<br /> そこまで話し終えると、コカリはわんわんと泣き出してしまいました。<br /> 「ウムムムムム……この野郎、メソメソしやがってェ」<br /> 金玉虫と泣き虫が大キライなイッスンはコカリの根性を入れ直すようアマテラスに命じ、<br /> それに従ったアマテラスの頭突きで「ギャフン!」と吹っ飛んで目を白黒させるコカリにこう言い放ちます。<br /> 「お前……大切な犬を、危険な遺跡に置き去りにしちまったんだろォ?<br /> だったら、何があってもそのカギを釣り上げて、助けに行けよォ!」<br /><br /> ムチャな注文に、<br /> 「で……でも……」とコカリが口ごもると、イッスンは<br /> 「あのなァ、釣りなんてモンはノリだィ、ノリ!ノリが良けりゃ、魚でも女でも、釣れるモンなんだよォ!<br /> さぁ、オイラたちが見ててやるから、楽しいノリでやってみなァ!」<br /> 更にムチャな事を言って、アマテラスに向き直りました。<br /> 「さァて、アマ公……こいつの釣り、筆調べで手伝ってやろうぜェ」<br /><br /></dd> <dt><a>501</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/05/11(木)08:34:41ID:uNHNbje0</font></dt> <dd>なるほど、『あるはずの糸が無い』……それなら、サオと魚を線で繋いで糸を描いてやればいい。<br /> イッスンの無茶なセリフはそういう事だったのです。<br /> 心得たアマテラスが「画龍」で筆を走らせると、水中の魚がたちまち棹の先に繋がれて、<br /> じたばたと水を跳ね散らして暴れ出しました。<br /> 「わわっ、魚がかかったよ!?」<br /> と驚いたコカリでしたが、すぐに夢中になって魚との力比べをはじめます。<br /><br /> 最初の方こそ小物ばかりでしたがしばらく釣り続けていますと、<br /> 他の魚を追い払って悠々と泳ぐ、巨大な魚影が現れました。<br /> これに目をつけたアマテラスが釣針ならぬ画龍の糸を引っ掛けて、<br /> コカリが懸命にサオを引く事しばし、奮闘の末に何とか釣り上げる事が出来ました。<br /><br /> 「す……すごい大物が釣れたねぇ」<br /> 陸に打ち上げられてのたうつ、シャチほどもある巨大な鮭にコカリはしばらく目を丸くしていましたが、<br /> 苦しげにぱくぱくと開閉する巨大魚の口から水と一緒に奇妙な木の実が飛び出すと、<br /> 驚きに喜びの色を加えてぴょんと飛び上がりました。<br /> 「あれれれーっ!!こ……これは、遺跡のカギだぁ!」<br /> 木の実のようなその物体は、なんと大シャケが飲み込んでいた、遺跡のカギだったのです。<br /><br /> 大喜びのコカリはさっそく遺跡に向かう為、勇んでカギに手を伸ばしましたが、<br /> それをアマテラスが脇からひょいと奪ってしまいます。<br /> 「ああっ、ワン子、何するんだよ!」<br /> コカリは腹を立てますが、<br /> 「へっへ、粋な事するじゃねェか、アマ公」<br /> イッスンはニヤリと笑って言いました。<br /> いくら友達を助ける為とはいえ、子供に危ない真似をさせるわけには行きません。<br /><br /> 「さァて、そのツタ巻遺跡とやらに、迷子の犬探しと洒落込もうぜェ!」<br /> こうしてアマテラスは地団太を踏むコカリからカギをくわえてすたこら逃げ出し、ツタ巻遺跡へ向かうのでした。<br /><br /> また次回!<br /><br /><br /></dd> <dt><a>178</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/06/16(金)08:20:24ID:SwdmSHy8</font></dt> <dd>大神行きます。<br /><br /> 遺跡の前までやって来ると、どこからか聞きなれた寝息が聞こえました。<br /> 地面に大の字になって、相も変わらずの大いびきをたてていたスサノオは、<br /> 近づいてきたアマテラスたちに気付くと飛び起きて、おもむろに素振りを始めます。<br /><br /> 言い訳がましくスサノオが言うには、この先の高宮平で人々を苦しめている怪物を退治するため、<br /> 橋の再建を待ちがてら絶対奥義の会得とやらに励んでいるらしいのですが、<br /> その割には怪物の名前もうろ覚えです。<br /> 「奥義を会得した暁には、濁流を泳いででも退治に出向いてくれるわ!」<br /> などと言ってますが本当でしょうか?<br /> まぁそれはほっといて、アマテラスたちはコカリから奪ってきた鍵を使い、遺跡の中へ進入します。<br /><br /> 欲深にもお宝を期待して不気味な含み笑いを漏らしながらイッスンがいうには、<br /> この遺跡には大昔から誰も入った事がないそうなのですが、しかし一面に苔むしたその内部には<br /> 禍々しい色の池が広がっておりました。<br /> 池の中央にはいかにも怪しい巨大な土偶がそびえ立っているのですが、蓮の葉を水の上に描こうとしても、<br /> 描き出した葉は水の毒ですぐに枯れてしまい、土偶に近づく事が出来ません。<br /> 巨大土偶に至る方法を求め、アマテラスは魔物に充たされた遺跡の中を進みます。<br /><br /> 何者かに施された仕掛けを解いたり、筆調べの力を借りたりして道を切り開き、<br /> どんどん奥へ行きますと、池の水源と見られる滝にたどり着きました。<br /> 滝の下には毒水を吐き出す奇妙な壺が並んでいます。<br /> これが遺跡の汚染源と悟ったアマテラスは一つ残らず壺を打ち壊しました。<br /> すると流れはたちまち清さを取り戻し、澄み渡った池には飛び石が浮かび上がります。<br /><br /> 土偶の中で桜花三神の最後の一柱、「蔦ノ花神(つたのはながみ)」を得たアマテラスは<br /> 空中に咲いた不思議な神様の花、桃コノハナの蔦を使って土偶の中を上へ上へと登って行きました。<br /> 途中の穴から土偶の外へ、更に登って土偶の頭に至ったアマテラス、イッスンの<br /> 「……おやァ?この、思わず何かを結び付けたくなっちまう取っ手は何だィ?」<br /> というなんとも脱力なアドバイスに従って、土偶の頭についたフック状の物体に蔦を結びつけ、<br /> 持ち上げて開いた土偶の頭部に飛び込みました。<br /><br /></dd> <dt><a>179</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/06/16(金)08:21:42ID:SwdmSHy8</font></dt> <dd>そうしてなおもずんすん快調に進んで行ったアマテラスですが、<br /> 足元に大穴が開いていたのにも気付かずに空中を数歩歩いた所で<br /> アメリカンギャグ的に我に帰ってまっさかさま、無様に穴の底に転げ落ちてしまいます。<br /> ころころとでんぐり返ったアマテラスを<br /> 「痛ってェな、この毛むくじゃらァ!」<br /> 頭を振ったイッスンがぴょんぴょん跳ねながら怒鳴りつけ、<br /> アマテラスはおなかを見せた姿勢のままでぴょこんと飛び上がりました。しかし<br /> 「いつもボアッとするなって言ってるだろォ!?」<br /> と重ねて怒鳴ったイッスンの背後で、ふいに巨大な影が身じろぎします。<br /><br /> 「……今、何か動いたかァ?」<br /> と首を振り向けるイッスン。<br /> アマテラスも広げた股の間からきょとんとそちらを覗きます。<br /> そこにあったのはくすんだ桃色の花びらと、<br /> いくつかの白いおしべの玉に囲まれためしべを備えた一輪の巨大な花。<br /><br /> 「……こりゃ、とんでもないお宝を探し当てたかも知れないぜェ!」<br /> と叫んだイッスンは奇怪な花に恐れ気もなく近寄ると、<br /> 「大抵こういう物の中には、お宝が眠ってるモンなんだィ!」<br /> 勢い込んでめしべに飛びつき、わくわくして花の内部を見渡しましたが、<br /> 眼下で丸まっている物を見て、拍子抜けしたように声を落とします。<br /> 「何だァ、こりゃ……犬コロ?」<br /> そう、それはお宝などではなく、目玉に似た気味の悪いおしべの根元でのん気に寝息を立てている、<br /> 小さな柴犬でありました。<br /><br /> その時突然アマテラスが跳ね起き、首をひねるイッスンに向かって猛然と駆け出します。<br /> イッスンの背後に異様な影がゆらりと立ち上がり、今にも襲い掛かろうとしていたからです。<br /> ワンジャンプでめしべの上のイッスンをくわえるや、間髪入れずに更に高々と再跳躍したアマテラス。<br /> その背に向けて、鞭のように影が身をしならせ、紫色の光球を打ち出します。<br /> アマテラスは宙でひらりととんぼを打ってわずかに尻尾をかすらせたのみで光球をかわし、<br /> 地面に降り立つと、ヨダレまみれにされて怒り狂うイッスンをくわえたまま猛々しい唸り声を上げました。<br /> そんな二人の目前で花はするすると丸いツボミに戻り、<br /> その後ろには八つの影が不気味にのたうっています。<br /><br /> 「お……おい、あの八本のアレはもしかして……」<br /> ウシワカの話を思い出したのか、アマテラスの口の中でイッスンがいっとき怒るのも忘れて呟きましたが、<br /> 次の瞬間、八つの影は次々にその先端を地面に突き刺し、八本の巨大な脚へと変じます。<br /> 「我ラガ主君ノ黄泉帰リシ、メデタキ折ニ―――トヤカクヤト嗅ギ回ル、ウットウシイ犬トハオ前カエ?」<br /> つぼみかと思えたのはその胴体。<br /> 巨大な花の正体は、人に良く似た青白い顔に長い髪を垂らした巨大な女郎蜘蛛だったのです。<br /><br /></dd> <dt><a>180</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/06/16(金)08:23:03ID:SwdmSHy8</font></dt> <dd>ですがバケモノが正体を現してもアマテラスは慌てず騒がず。<br /> イッスンを放して地面に腰を下ろすと、くわくわと気の抜けた大あくびをかましました。<br /> 「……フザケタ真似ヲスル犬ダヨ。遺言クライハ聞イテヤロウト言ウノニ、生意気ナ態度ダネェ」<br /> 女郎蜘蛛は地面をぐらぐら揺らしながらアマテラスに近づいて、<br /> 脅かすようにのっぺらぼうの顔でこの「生意気な犬」を覗きこみましたが、<br /> アマテラスはまったくの知らん顔でそっぽを向いて、<br /> 何やらもぐもぐと口を動かしています。<br /><br /> ところがどうやら驚いた事にこの蜘蛛にはそれが何を言っているのかわかるのらしく、女郎蜘蛛は<br /> 「何ダッテ?……コノ期ニ及ンデ、ソンナ悪タレ口ヲ!<br /> 犬ヲ喰ラウ趣味ハナイケド、アタシノ腹ノ中デ、溶カシテヤロウカイ?」<br /> 大きく裂けた口を開いてその両端に備えた長い牙を見せ付けました。<br /> この脅し文句にイッスンが<br /> 「何言ってやがんだィ、腹ん中に犬コロを咥え込んでよォ!?<br /> それにこちとら犬じゃねぇやィ、これでも立派な大神サマだィ!」<br /> と言い返すと、<br /> 「アレ!人間ノ言葉モ話セルトハ驚イタヨ」<br /> アマテラスの上のイッスンが見えるほど視力が良くないのか、それとも単にボケなのか、<br /> 女郎蜘蛛は感心したようにそう言って身を引きましたが<br /> 「……デハ大神トヤラ、死出ノ山路ヘノイソギハ良イカエ?<br /> 楽ニ逝カセテヤルカラ、ソコヲ動クンジャナイヨ!」<br /> すぐに気を取り直し、顔が隠れるほどの大量の糸を吹き出すと、それをアマテラスに叩きつけました。<br /> ですが勿論そんな物に絡めとられるアマテラスではありません。<br /> ひらりと脇に身を避けると、どこかのアクションスターよろしく前足の先で鼻をこすり、巨大な敵に対峙します。<br /><br /> 女郎蜘蛛は毒の卵を吐き、天高く跳ねて押しつぶそうとしてきますがアマテラスも負けてはいません。<br /> 新たに手にした蔦ノ花神の力で敵の弱点、腹の中の目玉を露出させて攻撃を加えます。<br /> 激闘のすえに女郎蜘蛛は地に伏して、そのまま巨大な花に変わりました。<br /> かつての敵をおびき寄せる擬態の妖花ではありません。<br /> アマテラスの力によって浄化され、遺跡の奥でひっそりと咲く、本物の美しい花になったのです。<br /><br /> 花の中でいまだ眠っていた、ある意味図太い小犬が起きるのを待って<br /> アマテラスたちは遺跡の入り口へ―――<br /> 「と、その前に……目覚めのイッパツ、大神サマの勝ち名乗りと行こうじゃねェか!」<br /> 電光丸を威勢良く抜いたイッスンに応えてアマテラスは見得を切り、高々と勝利の雄叫びを上げたのでした。<br /><br /></dd> <dt><a>181</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/06/16(金)08:24:52ID:SwdmSHy8</font></dt> <dd>アマテラスたちが遺跡を出てくると、そこにやっと追いついてきたコカリがあらわれて、<br /> 「ボクのカギ、返せよーっ!早く梅太郎を助けなきゃ……」<br /> 腕を振り回しながらわめき出しましたが<br /> 「あれれれれーっ!?」<br /> アマテラスがくわえている、梅模様のまだらがある小犬を見てゴシゴシと目をこすります。<br /> 「梅太郎?……梅太郎じゃないか!お前……無事だったんだね!」<br /><br /> が、アマテラスにぞんざいに放り出された小犬はすたっと立ち上がると、<br /> 怪我はないかとか寂しくなかったかとか、さっそく過保護な心配を始めたコカリに低く構えて、<br /> 鼻息荒く唸り出しました。<br /> 戸惑うコカリにイッスンがこの犬コロは、遺跡の奥から中々帰ろうとしなかったと説明します。<br /> 一人で逃げたコカリのことを怒っている訳ではありません。<br /> 何故なら梅太郎は自ら遺跡に残っていたからです。<br /><br /> 「何か伝えたい事でもあったンじゃねェか?<br /> 例えば―――一人で冒険して、お前に一人前の姿を見せたいとかよォ」<br /> その言葉に無言でうつむいてしまったコカリに向けて、更にイッスンは諭すように言いました。<br /> 「まァ……男ってのは、他人が思うほど子供じゃないってこったァ。<br /> いつのまにか成長して、アッと驚く事をやり遂げるもんなのさァ」<br /><br /> 言われてコカリは梅太郎の意図に気付きます。<br /> 失敗が怖くて父に言いつけられた橋の修理から逃げていたコカリに「逃げない勇気」を見せるため、<br /> 梅太郎はあえて危険な冒険に挑戦していたのだと。<br /> ようやく気持ちを分かってもらえた梅太郎が、嬉しそうに尻尾を振りながら<br /> 細長い棒をどこからか取り出しました。<br /> 「それは……ずっと前に森で失くした父ちゃんのサオ!」<br /> 遺跡でこのサオの匂いを嗅ぎ当て、たった一人で探し出してきた<br /> 梅太郎の勇気を目の当たりにしたコカリは、一人で橋作りをやり遂げる決心をします。<br /> 釣竿を手に、コカリと梅太郎は勢いこんで駆け出し、<br /> アマテラスたちもその後に続いて奈落井川へ向かいました。<br /><br /> 壊れた橋のたもとへやってきたコカリは、まず手始めに縄をつけたサオを力いっぱい振って、<br /> 向こう岸の橋の欄干へ結わえ付けます。<br /> けれど、「ホラ、縄が掛かったよ!」と得意げにアマテラスを振り返ったのも束の間、<br /> 「お……お前たち、その縄をどけろぉ!!」<br /> せっかくの少年の自立への第一歩に水を差すようなドラ声が響き、<br /> コカリはぎょっとして辺りをきょろきょろ見回しました。<br /><br /> 「あれは、スサノオのおっさん……?一体何の真似だァ?」<br /> 流れの彼方に目を止めたイッスンがアマテラスの鼻先から飛び降りて、訝しげに呟きます。<br /> 巨大な丸太の尻尾に必死の形相でしがみ付き、どんぶらこなんてのどかなもんではない<br /> 猛スピードで流されて来るスサノオが言うには<br /> 「我が新奥義、真空樽魔落としを仕損じて……この大木ごと流されてしまったのだぁ~!!」<br /> だそうで……どうもあれから二度寝はせずに、本当に修行を開始していたようです……余計な修行ですが。<br /><br /></dd> <dt><a>182</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/06/16(金)08:26:42ID:SwdmSHy8</font></dt> <dd>「こ……こっちへ来るぞ、坊主、その釣竿を握って踏ん張れェ!」<br /> と、咄嗟に叫んだイッスンですが、コカリの背中をアマテラスがくわえて踏ん張った所で<br /> すぐに間違いに気付いて言い直します。<br /> 「ち……違った、釣竿から手を離せばいいんだァ!」<br /> スサノオにはムゴい台詞ですがそもそも考えるまでもなく<br /> 犬(狼だけど)一匹と子供一人で濁流に流される大木(プラスおっさん)をガチで止めるなんていう<br /> オロナミンCのCMみたいな芸当、到底できる訳がありません。<br /> 第一本人もどけろって言ってるし。<br /><br /> ですがコカリとアマテラスはもはや引っ張る事しか頭にないらしく、<br /> 「お前ら違うってェ!!」とイッスンが二人を止めようとすがりついてわめいている間にも、<br /> 丸太はどんどん近づいてきてついには縄に引っ掛かり、<br /> 当然の帰結として三人はあっという間に宙に投げ出されてしまいました。<br /> 「ニャヒーッ!!」とコカリがスサノオの木刀をキャッチ、アマテラスがコカリのお尻に噛み付いて、<br /> イッスンがアマテラスの尻尾にしがみ付き、大木は乗客が四人になったのもものかは、<br /> 更にぐんぐんスピードを上げて流れて行きます……<br /><br /> こ……これがッ!!「スリル満点、丸太でゴー!」……!!<br /><br /> などとぼんやり感動していると滝壺に落下してしまいますので、<br /> (もっとも何度落ちてもイッスンが「た……滝だァ!!もうダメだァ~!!」<br /> (ホワイトアウト)<br /> 「……なァんて事にならないよう、丸太にブレーキをかけるんだよォ!」<br /> と、無かった事にしてくれるのですが)<br /> 「アマ公、お前の筆しらべで何とかしろォ!!」<br /> とイッスンに言われたとおり、いかにも「結び付けてください!」と言わんばかりの<br /> 怪しいフックが付いた丸太に、凄い速さで遠ざかっていく川岸の桃コノハナのツタを結びます。<br /><br /></dd> <dt><a>183</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/06/16(金)08:29:37ID:SwdmSHy8</font></dt> <dd>大木が滝壺に到達する前に見事六つのフックにツタを結ぶと大木は滝の寸前で急ブレーキ、<br /> ばいーんと跳ね返って壊れた橋の隣に落っこち、新たな橋になりました。<br /><br /> 「ハァ……お前らまったく……一時はどうなるかと思ったぜェ……」<br /> 丸太と一緒にぶッ飛んでさっき居た橋のたもとにリバースされるなり、疲れきって地面にひっくり返ったまま<br /> ぴくりともできないアマテラスの鼻先でイッスンは溜息をつきましたが、<br /> 「でも見ろよ、立派な橋が架かったじゃねェか!」<br /> すぐににやりとして言いました。<br /> アマテラスと同じく、ぐったりと地面にへばりついていたコカリがその声にぴょこんと起き上がります。<br /> 「あの橋を……ボクが?」<br /><br /> え……そうなの?<br /> 驚きに目を見張るコカリにまた笑い、イッスンは褒めそやすように言いました。<br /> 「へッへ、そうさァ。この橋は紛れもなくお前の手柄だぜェ!」<br /> なるほど、アマテラスが橋を架けたり偶然橋が掛かったのでは<br /> せっかくのコカリの決心が水の泡になってしまいます。<br /> そこでイッスンはコカリに花を持たせ、自信を付けさせる事にしたのでしょう。<br /><br /> 「坊主、何を悩んでいたのか知らねェけど―――<br /> 男が冒険から逃げてちゃ話は始まらないンだ。それを教えてくれたその犬コロに感謝しろよォ」<br /> そうイッスンに諭されて、コカリは<br /> 「梅太郎、ボク……ボクやったよ!」<br /> 千切れんばかりに尻尾を振っている梅太郎としっかと抱き合い、喜びを分かち合います。<br /><br /> 嬉しげな二人を前にイッスンは、今更のようにスサノオが居ない事に気が付くのですが<br /> 「……まぁ、どうせその内、ひょっこり出てくるかァ!」<br /> と、気にしない事にしたのでした。ひ、ひでえw<br /><br /><br /><br /> ではまた次回!<br /><br /> でもコカリがブン流され確実なのに、後ろで踏ん張るでも止めるでもなく傍観してる梅太郎も結構冷たいよネ!<br /><br /></dd> <dd> <hr /></dd> <dt>14 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2006/07/30(日)15:49:31ID:TBsAqv4G</dt> <dd>長い間ないようなので、別人だけど大神の続きを投下するよ<br /><br /> 高宮平編<br /><br /> アガタの森をぬけて新たしくできた橋を渡り、高宮平という土地にやってきたアマテラスとイッスン。<br /> ここは山の上にある風神宮という風車のような建物から神風が吹き降ろす、<br /> 清清しい景勝地だったのだが、風が止まり、例によってタタリ場で真っ黒け。<br /> サクヤの芽を探して進んでいくと、またまたウシワカイズヒア!再びバトルとなる。<br /> 戦闘後、息を切らしながら「まあまあやるね」と嘯くウシワカ。<br /> そんなことより復活したヤマタノオロチを何とかしないといけないのだが、オロチのいる<br /> 十六夜の祠(神州平原にある)には強力な結界がはってあり、入れない。<br /> そしてその結果を解くためには「水晶のヘビイチゴ」なるアイテムが必要らしい。<br /> ウシワカと別れてすぐサクヤの芽を見つけたアマテラス、大神降ろしで高宮平をとりあえず蘇らせる。<br /> 自由に移動できるようになった高宮平を駆け回り、山の上、風神宮のあるクサナギ村にたどり着いた。<br /> しかし村は神風が吹かなくなってタタリ場でどんより。筆の力も吸い取られる有様。<br /> 我慢しつつ進むと、村の奥にある社で天邪鬼に取り殺されそうになっている綺麗なお姉ちゃんが。<br /> とりあえず天邪鬼をぶっ倒し、お姉ちゃんに話を聞くことに。<br /> (続く)<br /><br /></dd> <dt>15 :<a href="mailto:sage"><strong>名無しさん@お腹いっぱい。</strong></a>:2006/07/30(日)15:53:45ID:TBsAqv4G</dt> <dd>彼女の名はフセ姫。代々風神宮の神主をやっていた。風神宮には百年前からオロチの瘴気によって生まれ<br /><br /> た<br /> 赤カブトという妖怪がおり、ずっと戦ってきたのだが、先の中つ国全土にタタリ場が広がった件で風神宮<br /><br /> の神風が止まり、<br /> 隙をつかれて先代の神主も殺され、今またフセ姫も殺されそうになっていたのだった。<br /> 赤カブトを倒すためには代々伝わる里見八宝玉を持つ、里見八犬士達の力が必要で、<br /> フセ姫は各地に散っていた八犬士達に招集をかけていたが、道草好きな彼らは一匹も帰ってこない。<br /> 頼まれたアマテラスはクサナギ村を走り回って、既に村に到着していた5匹の犬士(その名の通り、犬です<br /><br /> )を見つけ、<br /> 餌をやったり、腕試しの勝負をしたりして社に集合させる。<br /> そうしたら、さらにあと三匹も探してきてほしいと頼まれるので、村を出て探しにいくことに。<br /> 高宮平の真ん中には、妖しい家があり、入ってみると、気味の悪いじいさんとばあさんがいる。<br /> 恐怖!舌きりジジと戦慄!舌きりババである。<br /> 月の光によってジジババの正体が妖怪であることを明かし、ぶち倒す。<br /> すると、ジジババに捕まって喰われそうになっていたスズメの少女を助ける。<br /> 彼女は高宮平にあるスズメの温泉宿、笹部郷の親分の一人娘であり、これで休業状態だった笹部郷に入れ<br /><br /> るようになる。<br /> さらに、そこにいた竹取翁と協力して枯れていた温泉を蘇らせ、水を操る筆神、濡神を手に入れる。<br /> さらにさらに、泣き虫スズメタイジャンのペット、竹の介が里見八犬士の一員であることを知る。<br /> タイジャンに恩のある竹の介はクサナギ村に戻ることはできないという。<br /> しかし、腕試しの勝負をしてアマテラスの力を確認し、竹の介の持つ里見八宝玉がアマテラスのもとへ移<br /><br /> ったのを見て、アマテラスに赤カブト退治を託すのであった。<br /> (続く)<br /><br /></dd> <dt>16 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2006/07/30(日)15:58:47ID:TBsAqv4G</dt> <dd>次なる八犬士はアガタの森にいるらしい。行ってみると、この前釣りをした曇ヶ淵でコカリが泣きじゃくっているではないか。<br /> 話を聞くと、愛犬梅太郎が淵の主、大なまずの畳頭(じょうず)に喰われてしまったというのだ。<br /> なだめ励まし、再び釣りをしてついに畳頭を釣り上げることに成功。そしたら腹の中から喰われた梅太郎<br /><br /> が出てくる。なんと、梅太郎も八犬士の一人であった。彼もコカリと離れられないといい、アマテラスと<br /><br /> 勝負、また宝玉がアマテラスのもとに移ったのを見て赤カブト退治を託す。また、淵に眠っていた月夜を<br /><br /> 司る筆神、弓神を手に入れる。<br /> 残る八犬士がいる神木村に行く途中、アガタの森の高台の泉で水を汲みに来ていたクシナダと出会う。<br /> もうすぐ始まる神木村の神木祭りのため、お神酒にこの泉の水を使うのだという。<br /> しかし、自分よりも大きな樽を持ってきているのに、どうやって水を汲むのか、さらにそれをどうやって<br /><br /> 持って帰るのかとイッスンに突っ込まれ、うなだれるクシナダ。<br /> 毎年スサノオにやってもらっていたから、すっかり忘れていたのだ。<br /> しょうがないのでアマテラスは水を操る濡神を使って樽に水を汲んでやるのであった。<br /> 汲み終わると、あとは根性でどうにか持って帰るというクシナダ。しかしそこで天邪鬼が現れ、クシナダ<br /><br /> がピンチというそのとき、<br /> スサノオがクシナダを助けに現れる。初めは威勢のいいスサノオだったが、天邪鬼が一匹、また一匹と数<br /><br /> を増やすたびに腰が引け、震えだす。<br /> それでも破れかぶれで戦うスサノオに、例によって力を貸すアマテラス。<br /> 妖怪を倒したスサノオに、お礼を言うクシナダ。しかしスサノオは渋い顔。<br /> 「やはりこれは我の力ではない…」<br /> どうやら自分の力で妖怪を倒しているわけではないことに気づいている様子。<br /> 「我は貴様の思うとおりにはならんぞ!」<br /> と叫んで走り出していってしまう。<br /> その後、クシナダはどうやら本当に自分ひとりで水を持って帰った様子である。<br /><br /></dd> <dt>17 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2006/07/30(日)16:01:42ID:TBsAqv4G</dt> <dd>神木村にいる八犬士とは、村の子供ムシカイの愛犬ハヤブサであった。アマテラスが大根堀りレースでハ<br /><br /> ヤブサの記録を塗り替えると、例によって腕試しの勝負をして、八宝玉をアマテラスに託す。話によると、<br /><br /> 本当のハヤブサは死んでしまってもうおらず、自分は身代わりであること、いつかムシカイに危険が迫るときが<br /> 来るからそのときは守ってやって欲しいというハヤブサの遺言を守るため、<br /> クサナギ村に戻ることはできないとのことであった。<br /> クサナギ村に戻り、宝玉は預かってきたが3匹は戻れないとフセ姫に報告するイッスンとアマテラス。<br /> フセ姫は、我ら離れていても心は一つ、情に厚い彼らのことだから仕方がない、と5匹で立ち向かう決意を固める。<br /> しかしそのとき、全て揃った里見八宝玉がアマテラスのもとへ飛んでいき、周りをグルグル回り始める。<br /> これはアマテラスに赤カブト退治を託せということだからよろしくお願いしますとフセ姫にいわれ、アマテラスとイッスンは風神宮に乗り込むのであった。<br /> 風神宮の入り口で眠ってうなされている、もとい瞑想しているスサノオを尻目に中に入ろうとすると、ヤツフサと名のる地縛霊に出会う。<br /> 目は見えないが心の目でモノを見るという彼はアマテラスのことを美しい女性だという。んなバカなァと<br /><br /> 一笑に付すイッスンのことはハナクソ妖怪呼ばわりする。ともかく激励を受けて風神宮に入っていく。<br /> 風神宮のてっぺんに上り、呪いの風を解くと、大きな風車が再び回りだし神風が復活。同時に風を操る筆<br /><br /> 神、風神を手に入れる。<br /> 風神の力で風神宮の奥に進んだアマテラス。ついに赤カブトと対峙。決戦が始まる。<br /> 里見八宝玉に守られながら、赤カブトの体に燃えさかる炎を風神で吹き消すことで、ついに赤カブトを追<br /><br /> い詰めた。<br /> (続く)<br /><br /></dd> <dt>18 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2006/07/30(日)16:04:20ID:TBsAqv4G</dt> <dd>そのとき、我らのヒーロー、スサノオの登場である。いつものように必殺剣を決め、赤カブトに止めを刺す。<br /> もちろんアマテラスの一閃のおかげである。<br /> またもや自分の力ではなく妖怪を退治したスサノオ。やはりそのことを自覚している様子。<br /> 剣を投げつけて怒りとも嘆きともつかぬ叫びを上げる。<br /> 「そんなに我をもてあそんで楽しいか!神よ!」<br /> そのとき真っ黒な妖気が出現、大きなオロチの形になって、スサノオとアマテラスを威嚇する。<br /> 途端にうなされるスサノオ。<br /> 「やめろ。うるさい。その話はあとにしろ」<br /> と頭を抱えながら走り去ってしまう。<br /> 風神宮の奥には、十六夜の祠の結界を解くというあの水晶のヘビイチゴが祭られていた。<br /> 赤カブトはこれを守っていたようだ。取ろうとすると、ウシワカが現れ、持っていってしまう。<br /> オロチの復活は近い。勝ち名乗りなど上げていられない。すぐに神木村へ戻ることにした。<br /> 風神宮を出ると、フセ姫からお礼を言われる。<br /> そして、これからは自分が村と風神宮を守っていかなければならないと決意を固め、今まで甘やかしていた5犬士をビシバシ鍛えていくと宣言する。<br /> それを聞いたフセ姫の夫、先代神主の地縛霊ヤツフサも、安心して成仏していったのであった。<br /> 高宮平編終わり<br /><br /> (ちなみにゲーム終盤にフセ姫に会いにいくと、ビシバシ鍛え上げられ、クサナギ伍(ファイブ)となった5犬士と手合わせすることができる。<br /> 5匹の犬が同時に襲ってきておそらくラスボスよりも強敵。しかも5匹を倒すと8犬士の残りの3匹が加勢に現れるわ、<br /> さらに一番根性のある一匹がもう一回立ち向かってくるわで、本当に成長したのね、と感動もひとしおである)<br /><br /> 一応ここまでです</dd> </dl><dl><dt>16 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2006/10/01(日) 21:34:39ID:P1nncT/B0</dt> <dd>先走って大神を7月に書いたものです。<br /> 詳細に書いた前の人のやる気をそいじゃったようで恐縮ですが、<br /> 前の人が最後に書いてから3ヶ月経ったので続きを引き継ごうかと思います。<br /><br /> ヤマタノオロチ編<br /> オロチが倒されてからちょうど100年目の今年も、神木祭が行われる満月の日が近づいてきた。<br /> そこで神木村に戻ることにしたアマテラスとイッスン。<br /> しかし、神州平原に入るとくすんだ色の空にうずまく真っ黒い雲。風雲急を告げる雰囲気。いかにも凶事の前触れといった感じである。<br /> 神木村につく頃には立派な満月が輝く夜になっていた。しかし、村はお祭どころではない騒ぎが起きていた。<br /> 村人達がスサノオの家の前に集まって、家の中に閉じこもったスサノオに呼びかけているのだ。<br /> 事情を聞けば、クシナダが祭のためにアガタの森の泉の水を使って作った八塩折(やしおり)の酒を、スサノオが全部飲み干してしまったのだという。<br /> どうしてそんなことをしたのかと聞くミカン爺たち村の衆。スサノオがオンオン泣きながら告白するのが家の外に聞こえてくる。<br /> ヘタレなスサノオは自分が伝説の剣士イザナギの子孫であるという重圧に耐えられなかった。イザナギの伝説なんておとぎ話に決まっている、と<br /> 十六夜の祠に行ってヤマタノオロチを封印した剣を抜いたところ、本当にオロチが復活してタタリ場がナカツクニ全土に広がってしまった。<br /> 全部自分のせいなので、怖くなったスサノオは村の入り口に大岩を置いて家に隠れていた。すると神がいたずらをして自分に<br /> 無理やり力を与え、岩を一刀両断させたり妖怪を退治させたり夢に出てきたりする。自分の運命をもてあそんでいるというのだ。<br /> スサノオはオンオン泣いて一向に出てくる様子がない。しかしだからといってあの大樽一杯の酒を飲み干してしまうとは、と呆れる一同。<br /> そのとき、村の夜空に妖しい黒い光が出現する。不気味な八つの光が蛇の頭のようにうごめく。<br /> ヤマタノオロチが復活した。そして今日は満月の夜。ということは、今日はオロチが生贄を選ぶ日ではないか!<br /> オロチが放った白羽の矢が川に沿って飛ぶ。橋の上にいる村人達をアマテラスがくわえて放り投げる。ハヤブサはムシカイをかばう。<br /> そして、その矢はクシナダの家に刺さったのであった。<br /> 100年より前の悲劇がまた繰り返されようとしている。悲嘆にくれる村人達。しかしクシナダは決意を固めた表情で家に入ると、酒瓶を持って出てくる。<br /> 八塩折の酒がなくても、自分の作った自慢の雷撃酒がある。これでオロチでやっつける、というクシナダ。スサノオの家の前で、<br /> スサノオは自分を妖怪から助けてくれた。今度もまた助けに来てくれると信じているから、といい、単身十六夜の祠へ出かけていく。<br /> 後を追うアマテラスとイッスン。村の外でクシナダと合流。怖いけど本当にスサノオを信じているというクシナダを励まして、<br /> 背に乗せ十六夜の祠へ向かう。<br /> 続く<br /><br /></dd> <dt>17 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2006/10/01(日) 21:38:15ID:P1nncT/B0</dt> <dd>十六夜の祠の入り口では、ウシワカが待っていた。よくも祠の結界を破る水晶のヘビイチゴを横取りしたなと怒るイッスンであったが、<br /> 実はこれはウシワカにしか使えないので、結局ウシワカに結界を解いてもらったのであった。<br /> 結界が解かれた瞬間、中からものすごい勢いでオロチの首が現れ、クシナダをくわえて引っ込んでしまった。<br /> ウシワカが止めるのも聞かず、あわてて祠の中に入るアマテラスとイッスン。そうしたら今度は外に出れなくなってしまった。<br /> この野郎だましたなァと再び怒るイッスンであったが、水晶のヘビイチゴの力では一人しか入れない(イッスンは数にも入らないらしい)<br /> のに、説明を聞かないユーたちが悪い、というウシワカ。仕方ないし、クシナダも心配なので祠に乗り込むアマテラスとイッスン。<br /> そしてその岩陰には、一連のやりとりをガタガタ震えながら覗き見ていた大男の姿があった。<br /> 天邪鬼に化けて(とはいえ好きな絵を描いた紙を顔に貼り付けただけ)祠内部に潜入、料理長の天邪鬼に前菜の材料集めをやらされたり、<br /> 封印されていた炎を操る筆神、燃神を手に入れたりしてついにヤマタノオロチと対峙するアマテラス。<br /> 放射状に広がる八つの首を持つヤマタノオロチ、その中心にあるお堂(オロチの体の一部?)にクシナダがいた。<br /> オロチは強力な結界を張っておりアマテラスの攻撃が全く通じない。オロチがクシナダに食いつこうとしたそのとき。<br /> 「待てぇぇぇい」と啖呵を切る大男の姿が。スサノオが来ていたのだ。しかし様子がおかしい。<br /> 「約束どおりきたぞ」とスサノオ。「待っていたぞ、イザナギの血族よ、さあ血の盟約を結ぼうではないか」とオロチ。<br /> なんとオロチは天敵イザナギの血を引くスサノオと闇の力を引き換えに血の盟約を結ぶことで、さらなる力を得ようとしていた。<br /> そのためずっとスサノオの夢に現れ、誘惑していたのである。<br /> 「さあ、闇の力を欲すると叫べ」とオロチ。スサノオは剣を振りあげ、「ああ、叫ぶとも」<br /> 続く<br /><br /></dd> <dt>18 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2006/10/01(日) 21:41:15ID:P1nncT/B0</dt> <dd>「我は伝説の英雄イザナギが子孫、スサノオ!そんな誘惑に乗ると思ったか。不届きな妖怪め。我が退治してくれる!」<br /> スサノオがオロチに向かって剣を突き出すと、結界が破れオロチの鼻っ柱を突き刺した。<br /> アマテラスがふと足元を見ると、持ってきた雷撃酒がオロチの周辺にゲームの都合上掘ってあるかのような溝に流れ込んでいる。<br /> スサノオとクシナダの奇跡に賭けるしかない。アマテラスとヤマタノオロチの戦いが始まった。<br /> 八つの首に火、水、毒などの八つの属性を持っているオロチ。それぞれが吐いてくる炎や毒を風神で吹き飛ばしたり、<br /> 花神で大木を生やして攻撃を防いだりと100年前の伝説どおりに戦うことができる。そして水を操る濡神の力でオロチに酒を飲ませて酔わせ、<br /> 八つの首を次々倒していく。全て倒すと例によってスサノオの登場。アマテラスが伝説にしたがって弓神で夜空に月を描くと<br /> 月の光を受けた剣に力が宿る。スサノオが必殺技を繰り出し、毎度の事ながらそれに合わせてアマテラスが一閃を放つ。<br /> 次々と首を落とし、残り一本となったとき、スサノオがアマテラスを止める。「手出しは無用だ、ポチ」<br /> スサノオ自らの必殺剣「陽派 スサノオ流 衝天七生!」が見事に決まり、最後の首は真っ二つ。<br /> ついにヤマタノオロチは倒されたのであった。<br /><br /> 神木村に戻ると、お祝いに神木祭が盛大に行われていた。タマヤが花火を打ち上げ、カリウドやコカリ、竹取の翁も村に来ている。<br /> サクヤからもお礼を言われる。ちなみにスサノオとクシナダはイザナギ窟の奥で二人っきりのひと時を楽しんでいた。<br /> 一通り祭を楽しんだ後、再び旅立つことにしたアマテラスとイッスン。サクヤによると、<br /> 高宮平の向こう、都の西安京がある両島原はまだタタリ場に覆われているし、さらに強力な災厄が訪れる予感がするという。<br /> というわけで、次なる目的地、両島原と西安京を目指して新たな旅が始まるのであった。<br /><br /> オロチ編 終わり<br /> とりあえずここまでです<br /><br /></dd> </dl><hr /><dl><dt>418 :<a href="mailto:sage"><strong>大神 </strong>◆l1l6Ur354A</a>:2006/10/03(火) 07:43:13 ID:iWp0Pm3R0</dt> <dd>じゃー埋め代わりにひさびさ大神を。埋まったらそこで終わりな。<br /> んじゃ行きます。<br /><br /> さて、無事に怪物赤カブトを倒し、フセ姫たちに見送られて風神宮を後にしたアマテラスですが……<br /> 意気揚々と社の外へと飛び出したその時、イッスンが不安げに問いかけます。<br /> 「アマ公、ちょっと待てよォ?先を急ぐったって……これからどうすりゃいいんだィ?」<br /> 先刻現れたあの黒い妖気……おそらく怪物ヤマタノオロチを何とかしなければ、<br /> イッスンがこの旅を始めたそもそもの目的、<br /> 全ての筆業をゲットして面白おかしく暮らす計画は永遠に実現不可能なのです。<br /><br /> ついさっきスサノオの前に現れたオロチに飛びかかろうとしたアマテラスが<br /> あっさり弾かれた事を思い出し、イッスンは本当にアマテラスが昔オロチを退治したのかと怪しみます。<br /> 「よっぽど相棒のイザナギが強かったか―――<br /> それとも怪物を酔わせたって言う伝説の酒が相当強列だったんじゃ……」<br /> そこでイッスンははたとある事を思いつきました。<br /> もうすぐ年に一度の神木村の村祭りがやってきます。<br /> 村祭りに供えられるのは伝説の酒。<br /> ヤマタノオロチを酔わせ、怪物退治の一助となったそれを手に入れれば、<br /> もしかしたら何かご利益があるかもしれません。<br /><br /> 「それにせっかくの祭り……楽しまなきゃ損だしなァ?<br /> サクヤの姉ちゃんを酔わせたりしたら……ブフフフフ!」<br /> 不気味な笑みを漏らすイッスンを乗せて、アマテラスは神木村へ向かいました。<br /><br /></dd> <dt>419 :<a href="mailto:sage"><strong>大神 </strong>◆l1l6Ur354A</a>:2006/10/03(火) 07:44:31 ID:iWp0Pm3R0</dt> <dd>そうして神州平原まで戻ってきた二人ですが、黒雲に覆われた空は真っ暗、<br /> 辺りにはびょうびょうと風が吹き荒れて、せっかくの祭りを前に、嵐でも来そうなイヤな天気です。<br /> ですが風が吹こうが嵐になろうが神木祭りはその位で中止になるようなヤワな祭りではないらしく、<br /> イッスンはお神酒を飲み干されては大変とアマテラスをせかします。<br /> けれど村の入り口まで戻ってきたその時、二人は更なる異常に気が付きました。<br /> 村はずれ、スサノオの家の前に村中の人が集まって、何やら騒いでいるのです。<br /><br /> 事情を聞こうと駆け寄ると、赤カブト戦ののち村に帰ったスサノオが<br /> コノハナさまのご神木に供えてあった伝説の酒、八塩折之酒(やしおりのさけ)を、<br /> あろうことか一滴残らず飲み干してしまったという衝撃の事実が判明。<br /> 家の中に閉じこもったスサノオはカンペキべろんべろんになっていて、<br /> 今年はオロチ退治から丁度百年目の特別なお祭りなのにと怒り狂うミカン爺に、<br /> 「イザナギが何らぁ!!……ヒック!」<br /> と、ろれつの回らぬ口調で怒鳴り返す始末です。<br /><br /> 「な……何てこったァ……よりにもよって、あの酒を飲む事はねェのによォ!」<br /> 当てが外れて跳ねるのも忘れ、呆然としながらイッスンが呟きました。<br /> 「怪物退治の伝説に語られた八塩折之酒がなくなっちまうなんて……<br /> ヤマタノオロチの影がチラついてる今……嫌な予感がするぜェ」<br /> ところがそこでイッスンの言葉にスサノオが奇妙な反応を返しました。<br /> びくりと身じろぎをしたらしく、ごとりと扉が音を立てます。<br /> きょとんとそちらに目をやった一同の前で、いまだ閉じ篭ったままのスサノオはぼそぼそと語り始めました。<br /> 「ヤマタノオロチ……全部……全部我のせいなろらぁ……我が全部悪いろらぁ!」<br /><br /></dd> <dt>420 :<a href="mailto:sage"><strong>大神 </strong>◆l1l6Ur354A</a>:2006/10/03(火) 07:45:50 ID:iWp0Pm3R0</dt> <dd>やっと自分のしでかした事に気づいたかと怒りの拳を振り上げるミカン爺でしたが、そうではありませんでした。<br /> 酒の力を借りて、そして泥酔したがゆえに始まったスサノオの告白。<br /> それはなにかにつけ引き合いに出されるイザナギの血筋に嫌気が差し、<br /> ある夜十六夜の祠に出かけて「インチキ神話」の月呼の剣を抜いてしまった、<br /> そうしたら神話は本当で封じ込められていた怪物が蘇り、ナカツクニ中に呪いが広がってしまったというのです。<br /><br /> 余りの事に顎が外れんばかりに驚くミカン爺をはじめとした村一同。<br /> 更にスサノオの話は続きます。<br /> 恐ろしくなって村に逃げ帰り、村の入り口を大岩で塞いで家の地下にこもったこと。<br /> その後もあちこち逃げ回った事。それなのに。<br /> 「神さまが……お天道さまが我をずっと見ているろら!お前を絶対許さらいって―――<br /> オロチと戦って、退治するまで許さらいって、追って来るろらぁーっ!ウオォォォーン、オンオンオン!」<br /><br /> そう、お天道さま……アマテラスのこれまでの「手助け」は、<br /> スサノオにとっては「神罰」以外の何物でもない仕打ちだったのです。<br /> たまりかねてついに泣き出してしまったスサノオをよそに、ミカン爺は恐ろしげな面持ちで夜空を仰ぎました。<br /> 「宝剣が引き抜かれ、十六夜の祠が消えうせた事は聞いておったが……<br /> もしもスサノオの話が本当ならば、あの怪物は……ヤマタノオロチは十五夜の満月が昇る頃―――」<br /><br /> いつの間にやら空を覆った嵐の気配はすっかり消えうせ、<br /> そこに皓々と輝くは、息も止まるほどに美しい真円の月。<br /> しかし嬉しい祭りの象徴であるはずのその月は、たった今皆が知るよりずっと前、<br /> ツクヨミが引き抜かれたその瞬間、既に不吉な怪物の先触れに変わり果てていたのです。<br /><br /> 皆の視線が満月に集まるのと時を同じくして、凄まじい憎悪の叫びが村中を揺さぶりました。<br /> 騒ぎをよそにただ一人、ムシカイの家の前、畑の隅で静かにうずくまっていた八犬士忠狗……<br /> ハヤブサが、ハッとして首を天に向けます。<br /> いち早く飛び出して小岩の上に四つ足を踏ん張り、威嚇の唸りを上げるアマテラス。<br /> その後ろの橋の上に、狼狽しつつも集まった村人達。<br /> いくつもの視線の先で、暗闇のはるか向こう、ちょうど十六夜の祠の方角に八つの光が次々とともります。<br /> 邪悪な光はぐるぐると渦を巻き、渦は一本の矢を生み出しました。<br /> とみるや、弦も無いのに矢はひとりでに、まるで一杯に引き絞られた弓からぱっと放たれたような<br /> 凄まじい速度で空を走り、一直線にこちらへ向かって殺到します。<br /> 橋の上の村人たちはわっと慌てて左右に分かれ、逃げ遅れたムシカイを、すんでの所で<br /> まっしぐらに駆けてきたハヤブサの牙がひっさらい、救いました。<br /><br /> 身を起こしたクシナダは、無言で「それ」を見つめていました。<br /> 彼女の家の屋根の上、突き出た柱に深々と刺さったオロチの矢を。<br /> 「ヤマタノオロチは十五夜の満月が昇る頃……い……忌まわしき骨鏃(こつぞく)の破魔矢で<br /> 契りの贄(にえ)を選り出でむ……神話の通りじゃ……!」<br /> 震え声でミカン爺が呟きます。<br /><br /></dd> <dt>421 :<a href="mailto:sage"><strong>大神 </strong>◆l1l6Ur354A</a>:2006/10/03(火) 07:46:37 ID:iWp0Pm3R0</dt> <dd>あの矢で家を射抜かれた者は、オロチにその身を捧げねばならない。<br /> 「もしもそれに従わずば……む……村中の人間の命が……」<br /> 言って、がっくりとうなだれてしまうミカン爺の前で、なおもクシナダは無言のままでしたが、<br /> やがてきりりと唇を引き結ぶと村外れのスサノオの家を振り返りました。<br /> 「スサノオ、あなたはそんな弱虫じゃない。神様が戦えって言うなら……それはあなたしか頼りがないからよ!<br /> あなたなら出来る……だって私の事助けてくれたじゃない」<br /> 両の拳を振り上げ、長い袖を翻してクシナダは叫びます。<br /> 「私信じてるから。あなたが来てくれるって信じてるからね!」<br /><br /> 「ク……クシナダ、お前!?」<br /> 日ごろのおっとりぶりからは思いも付かない大声に驚くミカン爺にも構わず、<br /> クシナダはそう叫ぶや否や、だっとばかりに彼女の家へと駆け込みました。<br /> しばらくして現れた白装束姿のクシナダは、手にした酒瓶、彼女自慢の銘酒、「雷撃酒」を高々と天に掲げます。<br /> 「イザナギさまは、オロチを酔わせて退治したって言うじゃない。<br /> 私が丹精込めて造ったお酒だって、オロチを酔わせる事くらい出来るわ!」<br /> そう鼻息荒く言うなり、クシナダはすごい勢いで駆け出し、村を出て行ってしまいました。<br /><br /> ここの所ムシカイと遊んでくれずにずっとハヤブサが座り続けていたのは<br /> あの矢からムシカイを守る為……やっとその事を悟ったムシカイが<br /> 千切れそうなほど尻尾を振るハヤブサを泣きながら抱きしめています。<br /> そんな心温まる光景はさて置き、アマテラスとイッスンはこんな大騒ぎにもかかわらず<br /> うんともすんとも言わないスサノオの家の側を通り過ぎ、大慌てでクシナダの後を追いかけました。<br /><br /> 神州平原の入り口までやってくると、やはりあんな大瓶を細腕で担いでダッシュするのは<br /> ここが限界だったのか、肩を揺らしながら座り込んでいるクシナダの姿が見えました。<br /> 心配するイッスンとアマテラスに、けれどもクシナダは止めないで、と息を切らしつつ気丈に言います。<br /> オロチの生贄が逃げれば村の人間全員に災厄が降りかかる。<br /> しかしそれだけがクシナダがオロチの元へ向かう理由ではありませんでした。<br /><br /> 「皆が苦しみながら生きていく世の中は、もうたくさん。<br /> 私の生涯をかけたお酒で、悪い怪物をやっつけてやるんだから!」<br /> 純粋だけれどもそれ以上に無謀なこの発言に、イッスンが激怒します。<br /> 「バカ野郎ォ!!……相手がどんなに恐ろしい奴かも知らないで、ナマイキな事言ってんじゃねェ!<br /> そんなチッポケな酒ぶら下げて勝てると思ってるのかよォ!」<br /> 叱咤されて、「……そうね、私バカよね」とクシナダはうな垂れましたが、<br /> けれどそれでも彼女の決意は変わりません。<br /> 「でも、私にはこれしかないの……人に胸を張れるのはお酒だけなの!」<br /> クシナダが決意を込めてすっくと立ち上がったその時、アマテラスが動きました。<br /><br /> 白装束の裾を捕まえて、彼女をひょいと空中に放り上げ、くるくるまわすと<br /> 「ア……アマ公、お前……!?」驚くイッスンを尻目に、背中に背負ってしまいます。<br /> 「……チクショウ、お前ら勝てる見込みもねェのに気張りやがってェ!もう、どうなったって知らねェぞォ!」<br /> ヤケクソ気味にイッスンは叫び、そして一行は十六夜の祠へ向かうのでした。<br /><br /></dd> <dt>422 :<a href="mailto:sage"><strong>大神 </strong>◆l1l6Ur354A</a>:2006/10/03(火) 07:47:34 ID:iWp0Pm3R0</dt> <dd>「やっぱり来たね、アマテラス君……生贄のお嬢さんとのランデヴー、楽しんだかな?」<br /> やってきたアマテラスたちに背を向け祠の入り口に立ったウシワカは、こちらを振り返りもせずに言いました。<br /> 「このインチキ野郎、そんなのオイラたちの勝手だィ!」<br /> 言い返すイッスンは相変わらずシカトして、ウシワカはぱっと両腕を広げます。<br /> とたんにぴんと辺りの空気が張り詰めました。<br /><br /> 笛を眼前に立て、次いでくるりくるりと回しながら舞うように身を翻すと、<br /> ウシワカは懐からアマテラスたちから奪ったあの「水晶のヘビイチゴ」を取り出します。<br /> 彼が腕を中空に差し伸べると、水晶細工は貼り付けられたかのようにぴたりとそこに静止しました。<br /> 更にウシワカは腰から抜き放った刀をうねらせながら水晶に突きつけ、その前の地面に刀を突き立てます。<br /> 仕上げとばかりにウシワカが竹笛を唇に当て、涼やかな調べが辺りを充たすと、<br /> それまで祠に漂っていた妖気の壁がみるみるうちに水晶細工に吸い込まれ、<br /> ちらりと小さな光が瞬いた後にはもう、妖気はおろか水晶細工までもが消え去っていました。<br /><br /> 「さて、扉は開いたよ。アマテラス君……ユーの出番はもうおしまいだ」<br /> 刀を納めたウシワカが意味深に言い、その言葉に呼応するように地響きが起こります。<br /> 不安げに周りを見回すクシナダの前に立ちはだかって、低く唸るアマテラス。<br /> 再び濃くなった妖気の奥から猛烈な勢いで黒い何かが迫ってきて―――<br /> ハッと背後を振り向いたウシワカが大きく跳躍して身をかわします。<br /> 飛び出してきた「何か」はアマテラスを難なく付きのけるとクシナダをくわえ、<br /> 現れたときと同じく凄まじい速さで祠の奥に姿を消してしまいました。<br /><br /> 追いかけようと数歩進んだアマテラスの後ろで、なんとその時、突如妖気の壁が復活します。<br /> ぴょんぴょん壁に体当たりして<br /> 「この野郎!これは一体どういうつもりだァ!」<br /> イッスンが食って掛かるとウシワカは、<br /> 「ど……どういうって……ええと、そうだなぁ。"飛んで火に入る金玉虫"……?」<br /> 顎に手を当て、笛でのんきにぱしぱし肘を叩きつつ答えました。<br /><br /> 「ユーたち勝手に入っちゃうんだもん。結界を解いて中に入れるのは、生贄を除いて一人だけなのになぁ。<br /> あれ?……て事は、ゴムマリ君は勘定にも入ってないんだね、アハハハハ!」<br /> あっけらんと笑うウシワカに<br /> 「ふざけるなァ、オイラたちをまたハメやがってェ!」<br /> 例の如く怒り狂うイッスンですが、ウシワカは<br /> 「……でも最初から、この祠に乗り込むつもりで来たんだろう?<br /> それならユーの実力を見せてよ、アマテラス君……」<br /> やっぱり例の如くあっさり受け流し、<br /> 「という訳で今回の予言の言葉は―――"月が出た出た月が出た"」<br /> あヨイヨイ、と変な踊りを踊りました。<br /><br /> 「フフフ、今回はあんまり面白くなかったかな?それじゃ……チャオ!」<br /> まったく世界観とマッチしない別れの言葉を残してヒョーイと飛んでいってしまったウシワカに<br /> 「ケェッ、これくらい、どうって事ねェや。最初からオロチの野郎なんか、コツーンとやってやるつもりよォ!」<br /> と聞こえるべくもない憎まれ口を叩いたイッスンは、<br /> 「アマ公、いつまでやってんだィ。さァ、行くぜェ!」<br /> イヌっぽい仕草でカリカリと未練たらしく壁を引っかくアマテラスをどやしつけ、二人は祠の内部へ潜入します。<br /><br /> 二人の影が祠の奥へと消えた後、物陰からそうっと立ち上がる影がひとつ。<br /> その影は、木刀を背負って腕毛がモジャモジャ、逞しそうな外見をしています。<br /> しかしはた目にもありありと分かるほど、ぶるぶる震えているのでありました。<br /> ではまた次回!<br /><br /></dd> <dt>491 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2007/01/09(火) 20:58:23 ID:n03vPJF20</dt> <dd>んで三ヶ月前書いた人が書かないみたいなんで続いて大神行きます。<br /> つか今回の分は補足みたいなもんなんですが。<br /> (前書いた人気悪くしたらすいませんどうしても「そこは入れてorz」と思ったとこなんで)<br /> では行きます。<br /><br /> アマテラスの助けを借りて(って言うかほとんどがアマテラスの手柄なのですが)<br /> とうとう因縁の宿敵ヤマタノオロチを倒したスサノオ。<br /> 真っ二つになったオロチの最後の首が火の粉を撒きつつ横倒しになると、彼は両手をひょいと広げます。<br /> するとそこにオロチの背中から放り出されたクシナダがタイミングよく降ってきて、<br /> 毛むくじゃらな腕の中にすっぽりと納まりました。<br /><br /> 「ク……クシナダ殿」<br /> ぼそぼそと口ごもりながらもスサノオは、クシナダの目をまっすぐ見つめ、いつになく真剣に語ります。<br /> 「貴殿にとっての酒造りのように、我には剣の道しかござらん。<br /> されど心弱き故にあのような魔物を蘇らせるという過ちを犯し……魔の囁きを一時、心に焼き付けさえした……<br /> もはや……もはや我に剣を握る資格などありませぬ……なれば、この世に生きる意味など―――」<br /> 顔を曇らせ、言葉を切ったスサノオに、クシナダが優しく微笑みかけました。<br /> 「フフフ、スサノオったら……またそんな難しい顔して。いつもみたいに笑ってよ!<br /> そんな顔してるから、妖怪さんが寄ってくるんじゃない」<br /><br /> とんでもない失敗をしでかして世界中を暗闇に陥れ、その上事態を打開する事もせず、<br /> あまつさえ言い訳を掲げて逃げ惑い、ただ恐怖で震えていただけの自分。<br /> そんな自分に向けられる、思いもかけない暖かな表情。<br /> 戸惑い、目をそらしたスサノオに、クシナダは更に明るく笑いかけ、励ますように言いました。<br /> 「さあ、笑って!毎年稲刈りを手伝ってくれる時のように、笑ってよ!」<br /><br /> 暫く無言だったスサノオの口元から、ふとかすかな息が漏れます。<br /> 「……フ……フハハ……」<br /> 笑い声は次第に大きくなり、ついにいつもの調子を取り戻したスサノオは、楽しげなクシナダを抱えたまま、<br /> ふんぞり返って高笑いを上げました。<br /> 「ワハハハハハ、ワッハハハハハハハハハハハ!!」<br /><br /> 二人の様子をお座りして喜ばしく見守っていたアマテラスの背中に、<br /> 切り裂かれたオロチの体から飛び出した、聖剣都牟刈太刀(つむがりのたち)が取り付きます。<br /> これはかつてオロチを封じ込めていた宝剣月呼の生まれ変わった姿だったのですが、<br /> この神器が現れるや、それと入れ替わりにオロチの残骸から奇妙な妖気が噴き出して、<br /> 逃げるように空の彼方へと飛び去っていきました。<br /> これが一体何を意味しているのか、その時は誰にも伺いようがありませんでしたが、<br /> とまれ神木村にひと時の平穏が訪れた事は間違いなく、<br /> 「これでお仕舞いじゃイマイチ締まらねェ。一丁、大神サマの勝ち名乗りを上げようじゃねェか!」<br /> イッスンに催促されたアマテラスは、合点とばかりに高々と、勝利の雄叫びを上げるのでした。<br /><br /></dd> <dt>492 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2007/01/09(火) 20:59:54 ID:n03vPJF20</dt> <dd>「ついに……ついに来るべき時が来たようじゃな」<br /> そんな十六夜の祠の様子を不思議な水晶玉を通して覗き見る、何者かの影があります。<br /> 「天と地の迫間に横たわる、切っても切れぬ、宿世の縁……」<br /> 感慨深げにひとりごちた影は、しかしすぐに物思いを打ち切って水晶玉の中の人影に呼びかけました。<br /> 「ともかくウシワカよ。風雲が急を告げている。すぐに都へ戻るのじゃ」「ラジャ!」<br /> 水晶玉に映し出された燃神の像の前からクールな返事を返したのは、なんと祠の内部には入れない筈のウシワカです。<br /> 「アマテラス君……今回はオロチをユーに倒されちゃったけど―――次は果たしてそう簡単に行くかな……?」<br /> 横笛で肩をとんとん叩きつつ、ウシワカはまたしても何やら意味深な事を呟きました。<br /><br /> 十六夜の祠からの帰り道。<br /> 空に輝く満天の星たちを見上げながら、イッスンがまだ見ぬアマテラスの分神たちに思いを馳せていると <br /> 神木村の方角からひゅるひゅると天に昇っていくひとすじの光が。<br /> 続いて小気味いい音と共に夜空に開く大輪の光の花。<br /> 月に負けじと咲き誇るタマヤの花火を見て、オロチ退治成就のお祝いかと首をひねるイッスンですが、<br /> やがて神木祭りが始まったのだと気付きます。<br /><br /> 大急ぎで村に帰ってきたアマテラスたちを、早くも一杯引っ掛けて、イイ感じに出来上がった村人たちが出迎えます。<br /> ちゃっかり駆けつけて湯水のように酒を飲みまくってるカリウドや神州平原の陶芸家のおっさんの輪に混じって<br /> いまだにカグヤの行方が気になる竹取の翁が暗―くヤケ酒をあおっています。<br /> その隣で追いかけっこをしている子供たちはそれぞれ何らかの目標を見つけ、<br /> 犬たちはそれぞれ主人である子供らについていく事を決めたようです。<br /> (コカリの目標はスサノオみたいな大きな男になる為に広い世界を見て回る事なのですが、<br /> ムシカイが目指すのは大根掘り王(って言うか大根掘り王目指すのはハヤブサだし)……いいのかそれで)<br /><br /> 大鳥居の前ではタマヤが新作花火「大輪一番星、天駆ける伝説ブラザァズの舞!」を打ち上げまくり、<br /> 神の見やぐらではミカン爺が八塩折之酒のかわりにと、コノハナさまに花踊りを捧げています。<br /> 怠け者のスサノオがクシナダを救う為、武闘装束に身を包んで飛び出して行った時の事を思い出し、<br /> 「正に……正にあのイザナギさま生き写しじゃった!」<br /> とイザナギさまなど見たことも無い癖に感極まって泣き出してしまったミカン爺ですが、<br /> そのスサノオがどこへやら雲隠れしてしまっている事にぶつくさ文句を言いだします。<br /><br /> 「……そう言えば、クシナダの姿も見えんのう。ん?……イヤ、ワシは別に酒が飲みたいわけじゃないぞい。<br /> あんな事があったばかりじゃから、クシナダにヘンな悪霊が憑いてないか心配なだけじゃぞい!」<br /> 慌てて言い訳をするミカン爺に、イッスンが「今頃悪霊よりタチの悪いモンが憑いてるかも知れないぜェ……」<br /> じっとりと呟きました。<br /><br /> コノハナさまの根元で「今宵は私もこの趣に酔わせて頂きます!」<br /> と再びのだっちゅーのポーズで祝福する(もういーっちゅーねん)サクヤヒメと再会、<br /> 通りすがりの旅の姉妹、サザンカとツバキが花火に大喜びしている様を嬉しく眺めて、<br /> これでひととおり村中の様子は見てまわりましたが、何だか誰かを忘れているような……<br /><br /></dd> <dt>493 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2007/01/09(火) 21:02:32 ID:n03vPJF20</dt> <dd>村の出口へやって来つつも、アマテラスは後ろをしきりに気にしています。<br /> そう、ミカン爺も気にしていたように、先に帰っているはずのスサノオとクシナダが、村のどこにもいないのです。イッスンは<br /> 「男と女が祭りの最中にどこかへシケこむって事は、その二人が只ならぬ仲だって証だィ。放っとけ、放っとけェ!」<br /> と鼻でも鳴らしたそうに言いますが、やっぱり気になる物は気になります。<br /> という事でUターンして村のあちこちをしらみつぶしに探し回ったアマテラスは、<br /> ついにイザナギ窟の最深部までやってきてしまいました。<br /> 流石にこんな所にはいないだろうと思われたのですが、予想に反してイザナギ像の前には<br /> なんだかいい雰囲気の人影が二つ。<br /><br /> イッスンとアマテラスに気付いたクシナダはいつもどおりに天然ボケな感じでお礼を言ったものの、<br /> 「ええと……もうお祭りは楽しんだ?」<br /> と言ったきり顔を赤くしてモジモジ。<br /> スサノオはと言えば<br /> 「お……お前はポチ?また我の居場所を目ざとく嗅ぎ付けおったか!」<br /> 一旦はアマテラスを邪険にする風でしたが、やがてもごもごと<br /> 「しかし……まあ、主には……その、色々世話になったな」<br /> と礼を言ってきます。<br /><br /> 「如何に我がイザナギの血を引く古今無双の大剣士とはいえ、<br /> 主という家来がおらねばこの偉業は成し得なんだところだ」<br /> 多少殊勝になったかと思いきや、ちっとも変わってないスサノオの物言いに<br /> 「け……家来ィ?」<br /> 思わずすっとんきょうな声を上げるイッスン。<br /> 続いてスサノオはアマテラスの働きをたたえて兄弟の契りを交わそうなどと言い出します。<br /> 何というか、なんだかなー、な申し出に<br /> 「きょ……兄弟ィ!?」と更に声を裏返らせるイッスン。<br /><br /> そんな外野の声は完全に無視してさっさとイザナギ像に兄弟の契りを誓ってしまったスサノオは<br /> 「大剣士スサノオと霊犬ポチは、今より兄弟となったのだ!いやぁめでたい!なぁ兄弟?」<br /> とご満悦で高笑いを上げました。<br /> 「おっさん……こいつは犬じゃなくてオオカミだってェ!それに、ちゃァんとアマテラスって名前が―――」<br /> 呆れて言いかけたイッスンの言葉を遮って<br /> 「金玉虫……お前も我の兄弟を宜しく頼むぞ!」<br /> なおもスサノオはご機嫌な様子で笑いながら、とんでもないことを言いました。<br /> 「妙ちきりんな隈取りなんぞしておるが、これでもれっきとした大神さまなんだからな!ワッハッハッハッハ!!」<br /><br /> 「な……何だってェ……?」<br /> 思わず我が耳を疑ったイッスンがボーゼンと聞き返しましたが、スサノオはそんな事には一切構わず、<br /> 「それから……この神木村の平和はこの我が守るから心配は要らんぞ」<br /> と背中の木刀、「闘片撲(とうへんぼく)改め霊剣凄乃桜(すさのお)」を誇らしげに示します。<br /> 「幾多の戦を潜り抜け、霊力を宿したこの剣で、妖怪どもなど一刀両断だ!<br /> ……どうだ?うらやましいか?お前のその神器より強そうだろう!」<br /> 何とスサノオには、普通の人にはただの犬にしか見えないアマテラスの正体が、最初から見えていたのでした。<br /> さすがは腐っても英雄の子孫と言うべきでしょうか。<br /><br /> しかし、衝撃の事実にポカーンとアマテラスたちがその場に突っ立っていると、<br /> スサノオは急にうろたえた様子で<br /> 「な……何だ、まだ我に用事か?まったく……我がおらねば何も出来ない奴らよ!コホン……いいか、お前たち―――」<br /> 咳払いをすると、声を潜めて言いました。<br /> 「い……今、クシナダちゃんと大事なところなのだ!さっさとあっちへ行かんか!(すげえちっちゃい字で)」<br /> ……腐っても英雄の子孫というより、腐っちゃった英雄の子孫と言ったほうが正しいようです。<br /> まぁ、何にしろ、人の恋路を邪魔するやつは、馬に蹴られて何とやら、です。<br /> 「なァ、アマ公……お前スッポ抜けてるから気付いてないみたいだけど、こういう時は二人だけにしといてやるモンだぜェ?」<br /> イッスンのもっともな言葉に従って、アマテラスはその場を後にしたのでした。<br /><br /> ではまた次回!<br /><br /></dd> <dt>495 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2007/04/01(日) 00:08:03 ID:AhBChDtU0</dt> <dd>スサノオとクシナダ、二人の恋の行方を見届けて、そろそろ分神探しの旅路を再開する事にしたイッスンとアマテラス。<br /> そんな二人の前にサクヤヒメが心配そうに現れます。<br /><br /> ヤマタノオロチが息絶えた刹那現れた、おぞましい妖気の渦……彼女もまたそれを感じ取っていました。<br /> 今回の騒ぎで自分が感じていた強大な妖気はオロチのものではなく、<br /> もっと別の、得体の知れない何物かの物だったのかもしれない。<br /> そんな懸念を語った後、更に彼女はアマテラスの活躍にも関わらず未だにやむ事のない生けるもの達の苦しむ声、<br /> それが高宮平の大跳ね橋の向こうに位置する「両島原の都」では殊にひどく、地獄さえ思わせるものだと訴えます。<br /> そしてオロチから現れた妖気の渦のいくつかが、そこを目指して飛び去ったと言うのです。<br /><br /> ナカツクニの田舎はあらかた探しつくしたし、人が多ければ分神たちも集まってくるかもしれないと<br /> 都へ行く事を考えていたのに、自分たちが今正に向かわんとしている場所について、<br /> これでもかと言わんばかりのネガティブガイダンスをかましてくるサクヤに鼻じろんだイッスンが<br /> 「もっとマシな話はないのかよォ!?」<br /> と泣き言を言いますが、サクヤは<br /> 「幾多の困難が行く末に待ち受けようとも大神たる貴方ならば、必ずや、大儀を全うされ給うに違いありません。<br /> アマテラス大神、そしてイッスン……幾久しくお健やかに!」<br /> 全然返答になってない励ましを残して姿を消してしまいました。<br /><br /> 「幾久しくお健やかにィ……じゃねぇよォ、あんな話なんかしやがってェ!」<br /> と、一旦はぷりぷり腹を立てたイッスンでしたが、<br /> そもそも最初からそう簡単に筆業が集まる訳もない事はとっくの昔に覚悟完了済みです。<br /> という訳で、あっさり気を取り直した二人は高宮平へ向かう事にしたのでした。<br /><br /></dd> <dt>496 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2007/04/01(日) 00:12:57 ID:AhBChDtU0</dt> <dd>さて、こうして両島原へと続く高宮平の大跳ね橋までやって来たイッスンとアマテラスですが、<br /> 巨大な跳ね橋は天を突かんばかりに高々と上を向いたままで、<br /> 都へ続く道なら当然あるはずの賑やかな人の往来もありません。<br /> 橋が通れずに足止めを喰らっている茶屋の客によると、橋が上がったきりになったのと丁度時を同じくして、<br /> 都では原因不明の病が流行っているらしいという噂が囁かれだしたとのこと。<br /> サクヤの話といい、やはり一筋縄ではいかないようです。<br /><br /> 橋のたもとには二人の兵士が退屈そうに突っ立っています。<br /> 「今は誰一人通すわけにはいかないんだな。女王ヒミコ様のお触れは絶対なんだな!」<br /> などと言いながら兵士の一人、ふとっちょの男は居眠りばかり。<br /> その脇には赤々と燃える火を宿した不思議な不死鳥の像が立っています。<br /> 手持ち無沙汰に弓の練習をしているもう一人の兵士、自称都の警備隊随一の弓の名手ヨイチによれば、<br /> その火は聖なる退魔の炎で、永遠に消える事がないはずだったのに、<br /> つい先日までそれがバッタリ消えてしまっていたらしいのです。<br /><br /> 幸いにもつい先日の十六夜の月の晩、神州平原から聞こえてきた唸り声と共に何故か突然炎が蘇り、<br /> 安心して警備に励めるようになったと言うのですが、<br /> (恐らくこれは十六夜の祠でのアマテラスの活躍による物でしょう)ヨイチは<br /> 「聖なる炎がついたり消えたり……何か不吉な事でも起こる前触れかい?」<br /> と気味悪がっています。<br /><br /> ともあれヒミコからの突然の命令によって向こう岸に戻る間もなく跳ね橋が上げられてしまい、<br /> 結果こちら側に取り残されてしまった彼らも、これで合図の火矢を放って橋を下ろしてもらい、<br /> 都へ帰ることが出来るようになりました。<br /> しかしそう言いながらも何故かヨイチは浮かない顔。<br /> 都の警備隊髄一の自称はハッタリではなく、会話の間にも向こう岸の大砲の筒の中に<br /> 正確に矢を打ち込み続けているのですが、これはただの弓の練習、放っているのはただの矢で、<br /> 従っていまだ跳ね橋は天を指したままピクリともしません。<br /> まぁ、大砲の中に火矢を打ち込んだらとんでもない事になってしまいますが。<br /><br /></dd> <dt>499 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2007/04/01(日) 00:15:10 ID:AhBChDtU0</dt> <dd>「今更都に戻るのもつまらねぇしなぁ……元々都の警備隊なんてのは、俺の性に合わねぇんだ。<br /> 本当は旅にでも出てドカンと一発、デカい事をしてみてぇなぁ!」<br /> なんてダメなサラリーマンそのもののセリフを口にしながら弓の稽古に熱を上げているヨイチを背にしつつ、<br /> イッスンがさらっととんでもないことを言いました。<br /> 「火矢って要するに……矢に火をつければいいんだよなァ?アマ公……<br /> 取ったばっかりの筆業を、一丁ここで披露しちゃどうだィ?」<br /><br /> しかしその相棒、我らがアマテラスもただ者ではありません。<br /> 「ガッテン承知!」と言ったかどうかはさだかではありませんが、イッスンの提案を受けるや否や、<br /> 宙に弧を描いて駆ける矢に、新たに手に入れた燃神の筆業、「紅蓮」で石像の炎を移してしまったからさあ大変。<br /> 当然の結果として大砲が暴発したのみならず、<br /> そのあおりを受けて、向こう岸では物見櫓が吹っ飛ぶわ鳥居が倒れるわの大惨事に。<br /><br /> ただの矢を撃ったはずなのにそれが火矢に化け、<br /> 「ドカンと一発……とんでもねえ事になっちまったぁ!」<br /> とパニックを起こしたヨイチは、唐突に<br /> 「……おっといけねぇ!俺……都に用事があるのを思い出しちまったい!それじゃお前ら、達者でなぁ!」<br /> と叫ぶなり、衝撃で止め具が外れた事によりタナボタ的に下りた橋を渡って走り去ってしまいました。<br /> 「べ……別に都へ帰るフリしてここのまま旅に出て姿を消す、とか<br /> この当たり屋ヨイチ……そんな邪な事は考えちゃいねぇからな!」<br /> などと言い訳していましたが、いや、それヨコシマじゃなくてただの無責n……などとツッコむ事もなく、<br /> 動揺の余りヨイチがバラ撒いていったリンゴをちゃっかり拾いつつ、<br /> イッスンとアマテラスも橋を渡って一路都を目指します。<br /><br /> が、両島原へ入った彼らを待ち受けていたのは驚くべき光景でした。<br /> ヤマタノオロチは退治され、オロチが撒き散らしていた呪いは払われたはずなのに、<br /> どこまでも続く海岸は、一面のタタリ場と化してしまっていたのです。<br /> これはオロチが死してなお残る強力な呪力を備えていたということか、それとも……<br /> 取りあえず賽の芽を見つけ出して花を咲かせ、タタリ場を払ったアマテラスは海沿いの道を進んだのですが<br /> その途中で、海辺に佇む古寺を見つけます。<br /><br /> 途方に暮れた様子で石段の前に立っていた旅の僧に困り顔の訳を訊くと、<br /> なんでも退魔が得意なこの古寺、『餡刻寺』の庵主に妖怪退治を頼みに来たらしいのですが、<br /> 庵主はこの所物騒な事件続きの都に呼び出されっぱなしで、当分帰って来そうにないというのです。<br /><br /> サクヤヒメの不吉な予感、原因不明の病の噂、そして妖怪退治の専門家がカンヅメにされるほどの異常事態……。<br /> また一つ不安の種を得て、アマテラスとイッスンはついに西安京の都の大門をくぐるのでした。<br /><br /></dd> <dt>97 :<a href="mailto:sage"><b>大神</b></a>:2007/08/01(水) 09:41:39 ID:jeJ2v3ou0</dt> <dd>大神いっときます<br /><br /> いくつもの不安の噂を耳にして、たどり着いた西安京の都。<br /> そこはやはり、賑やかに行きかう人の姿もなく、代わりにアマテラスたちは辺り一面を覆う<br /> 毒々しい霧に驚かされる事となりました。<br /> 「何だか体に悪そうだけど、こんな霧の中でみんな普通に暮らしてるのかァ?」<br /> と訝るイッスンの懸念どおり、都大路のあちこちでは人々が倒れ伏し、苦しそうにうめいています。<br /><br /> 強力な法力で妖怪たちから都を守っていてくれた女王ヒミコが<br /> 何故か突然神殿にこもりきりになってしまい、以来この霧が一体を覆い始めて<br /> 今では都人の大半が立つ事すらおぼつかなくなってしまったという話を聞いたアマテラスたちは、<br /> まずはヒミコとやらに会うべく神殿へと向かいました。<br /><br /> 途中門番をしていた兵士から得た情報によると、姿を見せなくなってしまったヒミコに代わり、<br /> 今この都を治めている摂政は、なんとあの古寺餡刻寺の住職ツヅラオだとのこと。<br /> どうりであの旅の坊さんが待てど暮らせど帰ってこない訳です。<br /> 納得しつつも二人は貴族街へと抜ける都の大橋へと歩を進めましたが、あにはからんや、<br /> 枯れた湖の上にかかったカラクリ橋は一段低く折り曲げられていて、向こう岸に渡ることが出来ません。<br /><br /> 橋のたもとで難しい顔をして唸っている大男、ベンケイがこの五条大橋の橋番らしいのですが、<br /> 訳あって今は橋を繋ぐことが出来ない、と取り付く島もなく断られてしまいました。しょうがないので二人は<br /> 「この湖に水が蘇り、幻のアレを手に入れるまで……ブツブツ」<br /> となにやら意味ありげな呟きを漏らしているベンケイに背を向けて、庶民街へときびすを返します。<br /><br /></dd> <dt>98 :<a href="mailto:sage"><b>大神</b></a>:2007/08/01(水) 09:44:07 ID:jeJ2v3ou0</dt> <dd>枯れた湖に水を満たす方法を求めて庶民街のお堀の中を進んでいくと、途中でねじり鉢巻きをした男が<br /> orzの格好で青息吐息になっていました。<br /> 「早く親方の所へ水路の工事を手伝いに行かないと―――」<br /> とかいかにもな呟きを聞いたアマテラスは、男の事はほっといて、更にお堀の奥へと向かいます。<br /> 「水源発掘工事中につき立ち入り禁止」と書かれた看板を無視してなおも奥に進むと、<br /> 掘削の為に足場が組まれた穴の淵で、頑固そうな老人がぷんすか一人で怒り狂っていました。<br /><br /> 「まったく水龍の野郎……好き勝手暴れやがって。海の神が海の太平を乱すなんて、一体どういう了見だい!」<br /> ひとりごとの割にはでかいリアクションで謎の水竜に怒りをぶつけるこの老人、大工のナグリによると、<br /> この西安京は両島原の土手っ腹、美輪湖(びわこ)の真ん中に浮いていて、<br /> 人々は美輪湖から染み出す水を糧に生活しているのですが、海神である水竜が大暴れしたせいで<br /> 美輪湖のヘソが閉じてしまい、水がかれてしまったというのです。<br /> 西安京の建物のほとんどを建てたナグリの勘で見立てた所、美輪湖のヘソはこの辺りにあるらしいのですが、<br /> 深い穴を掘って水源をほじくり出したくてもみんな病で寝込んでしまい、工事ができなくなっていたのでした。<br /><br /> ナグリの仕事を手伝ってあげることにしたアマテラス。<br /> 深い穴の底をさらに深く掘っていくと、深い深い穴の底にてナグリが美輪湖のヘソを発見。<br /> さっそく二人がかりで掘り返し、噴き出した水流に乗って地上に帰ると、空気はいまだ澱んでいるものの、<br /> お堀は澄んだ水で満たされていました。<br /><br /> 満足げなナグリと別れ、アマテラスは急いで五条大橋へと取って返しましたが、<br /> そこで見たのは豊かに流れる河を見ながら<br /> 「フフフ……来た……ついに来たぞ、この太公望ベンケイが千本目の刀を手にする時が!」<br /> などと妙な笑いを漏らすベンケイの姿。<br /><br /></dd> <dt>99 :<a href="mailto:sage"><b>大神</b></a>:2007/08/01(水) 09:46:07 ID:jeJ2v3ou0</dt> <dd>おかしな言葉のその訳を問わず語りに彼が言うには、元々は放浪の身の上であった彼は、<br /> 名だたる剣豪と腕比べして勝利の証に刀を奪っていたのですが、名のあるものは粗方倒しつくしてしまった為、<br /> 記録が999本で止まってしまっていたとのこと。<br /> そんな折、彼はある噂を耳にします。<br /> なんとこの美輪湖には生きた刀がいて、水の中を自由に泳ぎまわっているというのです。<br /><br /> そう、いかなる手段を使ってか、その後ちゃっかり橋番に収まったベンケイが<br /> 都の人たちのメイワクも省みず橋を今まで降ろさずにいたのは、噂の生きた刀と「真剣勝負」の末、<br /> 釣り上げようと目論んでいたからなのでした。<br /> しかもずうずうしいことに彼は釣竿を持っておらず、それを買うためのお金もないというのです。<br /><br /> なんともあきれた職権濫用ですが、もちろんアマテラスはそんな人の世の些末事にはこだわりません。<br /> なんたってケダモンだから。<br /> ということで大門へ駆け戻ったアマテラスは、あつかましくも銘柄指定までするベンケイの為に<br /> 「名竿 雪宗」を買ってやり、釣りビギナーの彼を筆業でこっそり手助けしてやります。<br /> しばしの奮闘の後に湖面を叩いて跳ねたのは、何とも見事な……<br /><br /> 太刀魚だ―――!!<br /><br /> 「……え?太刀魚って海の魚じゃないの?」とか、そういうヤボな突っ込みはしてはいけませんよ?<br /> 釣り上げたベンケイ自身、「生きた刀って……そういう事?」と何だか釈然としないご様子。<br /> (釣り上げた直後は「我が大願、ついにここに成就せり!!」とか雄叫んでいたんですが)<br /> ですが「ま……まぁ、いいじゃねェか、さっきの太刀魚だって中々デカい獲物だったぜェ?<br /> それに普通いねェや、こんな湖に海の魚がよォ!」<br /> 何ていうか制作側の言い訳っぽくも聞こえなくもないイッスンのフォローに<br /> 「慰めはいらぬ!」と怒りながらも結局ベンケイは「僧に二言はない」と、尻ジャンプによって橋を架けてくれ、<br /> やっと二人の前進がかないました。<br /><br /> 渡橋中、てっきり山か湖かから漂ってきたとばっかり思っていた周囲の霞が、<br /> これから向かう貴族街の屋敷の上に禍々しい竜巻のように渦を巻いているのを二人は目にします。<br /> 驚きながらも橋を渡りきり、謁見殿へ足を踏み入れようとした彼らの行く手はしかし、<br /> 「おやおや……?これは随分ゆっくりとしたお着きだねえ!」<br /> 最早おなじみとなった、アメリカンな仕草で肩をすくめた少年によって遮られてしまうのでした。<br /><br /></dd> <dt>439 :<a href="mailto:sage"><b>大神</b></a>:2007/12/01(土) 14:51:01 ID:/rTW9Hdz0</dt> <dd>「お……お前はインチキ予言野郎!おっとォ……そんな何気なく現れても誤魔化されないぜェ」<br /> さらりと声をかけてきたウシワカに、オロチ退治の時にハメられた(?)恨みを忘れていないイッスンが<br /> 「またコソコソとオイラたちに付きまとって、今度は何を企んでやがんだィ!」<br /> と怒りの声を上げましたが、ウシワカは<br /> 「ん……?ミーはわざわざユーたちに付きまとうほどヒマじゃないよ。<br /> ミーにはミーの……ちょっとした探し物があってねぇ」<br /> 例の涼しげな態度でひらひらと手を振って、いつものように受け流します。<br /> 「探し物だァ!?ケェーッ!毎度毎度探し物たァ、予言師が聞いてあきれらァ!」<br /> なかなかに鋭いイッスンの突っ込み、しかし<br /> 「まぁ……探すと言ってもどこにあるかはもう分かってるんだ。ただ―――そこに辿り着くまでが少々厄介そうでねぇ。<br /> どうすれば手っ取り早く手に入るのか……それを探してるんだよ」<br /> ウシワカにはやっぱり柳に風でした。しかしその言葉尻を捕らえたイッスン、<br /> 「手っ取り早くって……まさか……どうもおかしいと思ったら、この霧、お前の仕業なのかァ!?<br /> いつもいつも良からぬ事を企みやがって……今度は都を落として、手っ取り早く天下を取ろうとでも言うのかよォ!!」<br /> 早とちりに問い詰めると奇妙な言葉が返ってきます。<br /> 「天か……するどいじゃないか、ゴムマリ君。ミーが探しているのは、まさにその、天への道なんだよ」<br /><br /></dd> <dt>440 :<a href="mailto:sage"><b>大神</b></a>:2007/12/01(土) 14:52:14 ID:/rTW9Hdz0</dt> <dd>「天への道ィ……?回りっくどい言い方で煙に巻くんじゃねェや!」<br /> からかわれたのかといっそう声を荒げるイッスンに、ウシワカは<br /> 「ゴムマリ君……ユーにも少なからず関係のある話なんだけどねぇ」<br /> 更に意味深な笑みを見せました。<br /> 「な……何ィ?」<br /> 思わず聞き返したイッスンですが、ウシワカはそれ以上は語らず、何故か唐突に都を覆う霧の話題を振ってきます。<br /><br /> 白々しい話題転換にイッスンが女王ヒミコとの結託を疑うと<br /> 「まぁまぁ、話を急がない!千里の道も一歩からって言うだろう?<br /> ……でもこの霧だけは早く何とかしないと、ゆっくりジックリ……だけど確実に人々を死に追いやろうとしているよ。<br /> 早いとこ手を打たないと取り返しの付かない事になりそうだねぇ」<br /> 人事のような言い草に激怒したイッスンが<br /> 「全部お前の仕業だって白状したらどうだィ!」<br /> と詰め寄りますが<br /> 「仮にそうだったとして……ここで言い争っていれば何か解決するのかい?<br /> それより早く何か行動した方がいいと思うけどなぁ」<br /> もっともながらも腹の立つ指摘とともにウシワカは<br /> 「ミーも予言……じゃなくて助言くらいはしてあげようかな?」<br /> ばさぁっと肩を覆う薄絹を払って見得を切りました。<br /><br /> "イッスン先は、壁の穴から!"<br /><br /> 最早いちいち声もかける事もなく見守る二人の視線が痛かったのか、ウシワカは<br /> 「……コホン!何が言いたかったかと言うと、どんなに厳重な守りにも、針の穴ほどの隙間は必ずある!<br /> ……って事なんだけど、ちゃんと伝わったかな?」<br /> 咳払いをして珍しく予言の解説をしてくれましたが、それは単にイッスンの怒りを余計に煽っただけのようです。<br /> 「アマ公!……こんな奴、もう放っとけェ!」<br /> ごもっともなお言葉に従って、アマテラスはウシワカの脇をすり抜け謁見殿へ向かうのでした。<br /><br /></dd> <dt>441 :<a href="mailto:sage"><b>大神</b></a>:2007/12/01(土) 14:54:23 ID:/rTW9Hdz0</dt> <dd>謁見殿の前はたいそうな人だかり、どうもみんなツヅラオとやらを慕って集まっているようです。<br /> 「ツヅラオさまのありがたい説法が聞きたくば、この門前に並ぶが良い」<br /> とかムチャなことを犬に対して言われますが、犬って言うかオオカミなので人のルールなんか知りません。<br /> 行列を無視してとっとと謁見殿へ突入すると、奥の壇上に鎮座していたのは何と妙齢の美しい尼僧。<br /> しかしその服装は聖職らしくいちおう頭巾を被って数珠を首に巻いてはいるものの、激タイトなミニスカです。胸元超開いてます。<br /> まあゲームだからむしろこれで正しいっちゃ正しいんですが。<br /><br /> 「何と……オオカミまでもがこんな所に迷い込むとは……いよいよ世は混迷して来たと見える」<br /> 入ってきたアマテラスを目にした尼僧はやや憮然とした風でしたが、気を取り直して<br /> 「オオカミよ……そなたも我が謁見の間へ説法を聞きに来られたのかな?<br /> 我が名はツヅラオ―――ヒミコさまの命でこの西安京の摂政を務める尼僧だ」<br /> 凛とした名乗りを上げると「とうっ」てなカンジで台座を蹴って天高く舞い上がり、宙でくるくる回転、<br /> すたっと二人の眼前へ着地を決めました。<br /> (着地の衝撃で豊かなおっぱいが「ぱんよよよん(はぁと)」と揺れました)<br /><br /> 「……してそなたはどのような迷いを持っておられるのかな?」<br /> 「ツヅラオさまは畜生とて差別はせん」という門番の言葉を証明するかのように彼女は優しく問いかけましたが、<br /> 推定Fカップに目を奪われているイッスンには聞こえません。<br /> 「ボ……ボイン……」<br /> 思わず漏らした呟きに<br /> 「んん?これはこれは……可愛らしい妖精も一緒だったのかね」<br /> 驚くツヅラオ、しばしののちに我に返ったイッスンが<br /> 「言っておくが……そのボインに目が眩んだワケじゃないからなァ!」タンカを切ると<br /> 「……ボイン?」<br /> 謎の言葉に天然ボケ風に傾げる首のその下で、たわわな胸がまたしても魅惑的にぽよんよんと揺れています。<br /> 「それよりアンタ……今この都でアタマを張ってるってェ?<br /> 都は得体の知れない霧に覆われて海じゃ水龍がどうのって物騒な話も聞くのによォ……<br /> 当の女王サマは神殿に雲隠れしてるって言うじゃねェか。<br /> 街中でも人がバタバタ倒れてるってェのに、それでも女王サマは布団の中で安閑としてるのかィ?」<br /> 「そなたたちも両島原に迫る闇の気配を感じて参ったか……」<br /> 問い詰めるイッスンにツヅラオは表情を曇らせ、平和だったナカツクニを変えてしまったオロチをはじめとする災厄、<br /> それがここ数日で更にその度合いを増しつつあることを嘆きました。<br /><br /></dd> <dt>442 :<a href="mailto:sage"><b>大神</b></a>:2007/12/01(土) 14:56:00 ID:/rTW9Hdz0</dt> <dd><br /> それを聞いて退治したオロチから逃げ去った、あの不気味な影を思い出したイッスン、<br /> その影がこの両島原に憑りついたのでは、と案じます。その様子を<br /> 「何を独りでブツブツ言っておる?」と訝るツヅラオに、<br /> 「ヘッヘ、聞いて驚くなよォ?<br /> 神州平原でヤマタノオロチを退治したのは―――何を隠そう、ここに御座(おわ)す大神、アマテラスさまよォ!」<br /> イッスンはさっきまでの懸念もすっかり忘れてふんぞり返りましたが、<br /> オロチを退治したのはスサノオという剣士だと聞いたツヅラオは信じようとしません。<br /> 確かに止めを刺したのはスサノオですが、それを彼一人の手柄の様にされて合点がいかないイッスンは<br /> 「どうしても信じられねェって言うなら今ここで、このアマ公の通力を見せてやるぜェ!」<br /> と息巻き、アマテラスはとりあえず適当に筆技を一撃、これに驚き、納得したツヅラオ、<br /> 「この者ならば我らの願い、叶えてくれるかも知れぬ!」<br /> 思わず興奮気味になにやら口走ったのですが、<br /> 「願いィ?そんなにオッパイがデカいのに、悩み事があるのかァ?」<br /> イッスンがセクハラ全開に問い返すと<br /> 「イヤ……いまの言葉は忘れてくれ」<br /> それがいけなかったのでしょうか、眉を曇らせ黙り込んでしまいました。<br /> 「あの魔除け札を失った今―――我には如何なる手の打ちようもないのだ……」<br /><br /> いかにも詳しく聞いて下さいと言わんばかりの口ぶりですが、それ以上のことは何も話してはくれません。<br /> アマテラスは新たな道を探して貴族街に向かいます。<br /><br /></dd> <dt>443 :<a href="mailto:sage"><b>大神</b></a>:2007/12/01(土) 14:57:13 ID:/rTW9Hdz0</dt> <dd>都の最奥、そこに横たわったヒミコの神殿に足を踏み入れようとしましたが、ヒミコの親衛隊に阻まれてしまいます。<br /> 蹴散らして押し通るわけにもいかず、踵を返した所でアマテラスは奇妙な光景を目にしました。<br /> 居並ぶ巨大な屋敷の一角、その門の中からもうもうと霧が湧き出しているのです……<br /> って、あ、あ、怪しィィィ―――!!!<br /> さっそく犬らしく正面から堂々と入り込むと、戸口の両脇に立った衛兵が立ち話をしていました。<br /> 内容を聞くに、何でもこの屋敷の主、『宝帝(たからのみかど)』が原因不明の病に倒れて以来、<br /> 謎の霧が帝の部屋から立ち昇り始め、それと時を同じくして都人がばたばた倒れだしたのだとか。<br /> もっとよく事情を聞こうとして話しかけると、いかにも人の良さそうな衛兵さんに<br /> 「あ……あれは何でもないよ!宝帝さまにそう言えって言われたからとにかく何でもないよ!」<br /> とか言われますが、どう考えても間違いなくお前らのご主人が元凶です。<br /> 更に衛兵の私語によると、宝帝がカグヤというどっかで聞いたような名前の娘さんを屋敷の牢に拉致っているとのこと。<br /><br /> 今すぐにでも怒鳴り込みたいところですが、もう片方のいかにも固そうな衛兵が<br /> 「お前のようなオオカミはもちろん、蚊一匹通すだけの、針の穴ほどの隙間さえないわ!」<br /> と言うように、門は硬く閉ざされていてどうにも出来ません。<br /> 何とかできないものかと辺りを探すと、門の脇に開いた穴ぼこからもくもくと霧が吹き出ているのが目に入ります……<br /> あるじゃねーか、針の穴ほどの隙間。<br /> しかしアマテラスはオオカミで、蚊ではないのでこんな小さな穴が開いていたところでなんの助けにもなりません。<br /> どうしたものかと振り向いて、そこにアマテラスはおかしなものを見つけます。<br /> 一見して札束のような……いや、それは束ねた呪符でした。<br /> イッスンが言うには、これは念を込めた術者本人しか操れない類のもので、<br /> それ以外の誰が持っていても無用の長物にしかならないらしいのですが……<br /> ふと閃くものがあったアマテラス、それをくわえて身を翻しました。<br /><br /> 目指した先は謁見殿。いまだしょんぼりと肩を落としていたツヅラオは、<br /> アマテラスが差し出した紙束に驚きもあらわにぴょこんと愛らしく飛び上がりました。<br /> 案の定、それは彼女が敵との戦いに使っていた魔除け札。<br /> 妖魔たちに奪われたものと諦めていたものを見つけ出してくれたこの不思議なオオカミに喜び、<br /> ツヅラオはその力を見込んでアマテラスに共闘して欲しいと願い出てきました。<br /><br /></dd> <dt>444 :<a href="mailto:sage"><b>大神</b></a>:2007/12/01(土) 15:00:38 ID:/rTW9Hdz0</dt> <dd>ツヅラオとの共闘……それはつまり女王ヒミコに力を貸すということ。<br /> ヒミコを疑っているイッスンはイマイチ気乗りしない様子ですが、<br /> 「仕方ねェな……そのボインに免じて聞いてやるかァ!」<br /> と、一応聞くだけ聞いてみることに。<br /> 「ボイン……?」と再び出てきた謎の単語に首を傾げながらも勢い込んでツヅラオが説明するには、<br /> 両島原の岬の沖、そこに港を目前にして無惨にも水龍により沈められてしまった交易船があるそうなのですが、<br /> それにはヒミコが必死に捜し求め、他国から取り寄せた絶世の宝物……<br /> 如何なる妖魔も屠る力を与えてくれる神器、「キツネ管」が積まれていたというのです。<br /> 彼女の頼みとは、沈没船に乗り込んで、ナカツクニの国宝にさえなるはずだったその宝を探すのを<br /> 手伝って欲しいという事でした。<br /><br /> イッスンが依然<br /> 「そりゃカワイイ姉ちゃんのお願いならオイラにゃ断れねぇけど、<br /> このアマテラス大先生が首を縦に振らないんじゃどうにも……」<br /> とか渋ってる間にあっさり頷くアマテラス。<br /> 「いやァ残念!アマテラス大先生がそういうんじゃ……な、何ィ!?」と焦るイッスン。<br /> 「地獄に仏とはこの事なり!」ぴょんぴょん跳ねて大喜びのツヅラオから待ち合わせの場所と時間を聞いて、<br /> 苦い顔のイッスンといつもどおりのアマテラスは早速両島原に向うのでした。<br /><br /> 「アマ公!……お前、あのボイン見て安請け合いしたんだろォ!」<br /> と湯気をたてて怒っていたイッスンでしたが、ツヅラオがヒミコに操られているのだとしても、<br /> いざとなれば彼女らより先にキツネ管とやらを手に入れてしまえばいい事だし、<br /> 「……まァ、オイラもやっぱりボインにゃ逆らえねェや」という訳で諦める事にしたようです。<br /><br /> さて、こうして二人は両島原の北端、月見櫓へとやって来ました。<br /> 何故直接難破船の元へ向かわないのかというと、船が座礁している三日月潟は<br /> 月見櫓から三日月が見える夜にしか水が引かない場所、<br /> カナヅチのアマテラス及び水中で呼吸が出来ない普通の人間は水底の船に手も足も出ないからなのです。<br /> とりあえず夜になるまで待ってみましたが、何度夜が更け朝になろうとも<br /> ゲームの演出上夜空に昇ってくるのは満月なので、手っ取り早く夜空に三日月を描く「月光」の筆技を一閃、<br /> 見る見るうちに水の引いた干潟の中央、壊れかけた交易船に足を踏み入れます。<br /> 船内にはびこる妖怪達の邪気を集めてしまったのか、禍々しい気を放つ封印に足止めされているところに<br /> 一足遅れたツヅラオがダッシュで追いついてきました。<br /> ここまで怪異を払いながらやって来たため遅れてしまったと息を乱して語る彼女の、<br /> 前屈みになった襟元からこぼれ落ちそうにぽいんぽいんしている魅惑の巨乳についつい目を奪われるアマテラス……<br /> 確かお前メスじゃなかったか?<br /> ともかく、イッスンから封印に足止めされた今の状況を聞くと、その胸元からツヅラオは<br /> アマテラスが見つけ出してきたあの呪符の束を取り出します。<br /> 「我が魔除け札で禁印を滅してくれよう」<br /> とツヅラオは胸を張り、札を操る彼女を背に乗せたアマテラスはキツネ管の捜索を開始しました。<br /><br /></dd> <dt>445 :<a href="mailto:sage"><b>大神</b></a>:2007/12/01(土) 15:04:53 ID:/rTW9Hdz0</dt> <dd>その後謎のワカメ巨人(寝てる癖に寝相で攻撃してくる)をはじめとする妖怪たちを退治したり、<br /> 亡霊にビックリさせられたり、昼夜を逆転させて潮汐を操る事で道を開いたりしつつ、<br /> 何とか船の最奥部まで辿り着いたアマテラスたちは、そこでついに幻の宝「打ち出の小槌」を発見したのでした……<br /><br /> って違うよコレ!探してるのはキツネ管だよ!<br /><br /> ですがその他の周りを色々探ってみても、交易船らしく高価な宝はあるものの、どれも目的のものとは違うようです。<br /> がっくりと肩を落とすツヅラオを、イッスンが<br /> 「そんなにショボくれるなィ、この広い海のどこかにきっと眠ってらァ!」<br /> とぜんぜん気休めにもならない事実を言って慰めます。<br /> 仮に海の中を探すとしてもそこにあの水龍がいる限り、それは自殺行為以外の何でもありません。<br /> とりあえずは都に戻ってから今後の策を考えようと船を後にしたアマテラスたち。<br /><br /> ですがしゃぼしゃぼイヌカキで進むアマテラスの背で、急にツヅラオがそわそわと慌てだします。<br /> もっと早く泳げぬか?とせかす彼女に一旦は所詮オオカミに無茶言うなィ、とにべもなかったイッスンですが、しばしの後に<br /> 「……ははァん、分かったぜェ、ボイン姉」<br /> 怪しげな笑みを見せました。<br /> 「もしかして……催したんじゃねェのかァ?<br /> プッフフフ、構やしないってェ!周り一面大海原だィ、気にせずやっちまいなよォ」<br /> 自分たちだっていつもそうしてる、とセクハラ&マナー的に多少アレなことをそそのかすイッスンにツヅラオは<br /> 「そ……そうではない!この波立ちは奴が現れる兆し―――」<br /> 憤慨して訴え、更に辺りには恐怖映画めいたBGMが流れ始めてますが、それを照れ隠しと見たイッスンは本気にしようとしません。<br /> 「だったらバァーッと引っ掛けてやったらいいやァ、丁度そいつがアーンって、口開けた時にでもよォ!」<br /> 言い終わるが早いか。背後の海原が津波のように膨れ上がり、海面を割って巨大な龍<br /> ……まさにリュウグウノツカイの親玉のような……が現れます。<br /><br /> 「な……な……な……?」<br /> まともに声も上げられないイッスンと、イヌカキを続行しつつも思わずポカーンと見上げるアマテラスに<br /> 大きな口をがばぁっと広げた水龍が襲い掛かってきたその瞬間。<br /> ツヅラオが空中に大ジャンプをかましました。直後、<br /> 「何だありゃあ!?」<br /> 驚愕するイッスン(と、アマテラス)を置き去りに、ツヅラオは凄い速さで水面をぴょいんぴょいん跳ねて、<br /> あっという間に逃げ去ってしまいました……か、神様でさえそんなこと出来ないのに!(今は)<br /> どうかすると泳ぎ疲れておぼれちゃうのに!あの女マジで怪しいよ!<br /> 等と疑念を抱く間も無く、岸壁に激突するほどの勢いでツヅラオを追っていった水龍がぐるりとこちらを振り返り、<br /> 雄叫びを上げるや波を蹴立てて猛スタートを切りました。<br /><br /> 命からがら逃走を開始したアマテラス、やっとのことで岸に辿り着き、<br /> 「あんなモンが海で大暴れしてるなんて聞いてねェぞォ!!」<br /> と今更な事を言って怒り狂うイッスンの言うとおり、「ボイン姉」をとっちめてやろうか、と都へ向かおうとした<br /> (あの人間離れした水上ダッシュのことについては二人とも何も疑問がない様子……さすが神。アンド妖精)<br /> その時、懐からあの宝物船で見つけた「打ち出の小槌」が飛び出しました。<br /> と言っても別に偶然転げ落ちたのではなく、なんとこの小槌には確たる意思があるようです。<br /><br /> 「オ……オイオイ!せっかくのお宝が逃げるんじゃねェや、アマ公、捕まえろォ!」<br /> という訳で、アマテラスは跳ねる不思議な小槌を追いかけて両島原の海岸を一路都へ走り出したのでした。<br /><br /></dd> </dl><p> </p>
<p><strong>大神</strong>(Part1/2) ページ容量上限の都合で2分割されています。</p> <p>・1レス要約版:要約スレpart2-116,200,202,203</p> <p>・簡潔版:part46-308~312</p> <p>・詳細版:</p> <p>part22-372~384,405~418,496~501、part23-178~183</p> <p>途中、長く間が空いた際に他の人が書いた分:part24-14~18、part26-16~18</p> <p>part27-491~493、part29-495~496・499、part32-97~99、part34-439~445</p> <hr /><dl><dt>116 :<font color="#008000"><b><a href="mailto:sage">大神</a></b></font>:2006/06/10(土) 22:19:59 ID:jzeYrK08</dt> <dd>昔々ナカツクニにある小さな村、神木村には毎年一人を怪物ヤマタノオロチに生贄を捧げる悲しい風習があった。<br /> 剣士イザナギは想い人イザナミが生贄に選ばれるとオロチに戦いを挑む。しかしオロチには敵わずあわやという時<br /> 突如白い狼、白野威(しらぬい)が現れ二人は力を合わせオロチを倒す。しかし白野威はオロチ戦の傷が元で亡くなる。<br /> 人々は白野威を大神(おおかみ)を称える<br /><br /> それから百年後イザナギの子孫スサノオは英雄の子孫という重圧に耐え切れずその心の隙をオロチに操られオロチの封印を解いてしまう。<br /> そしてナカツクニには妖怪が溢れ自然が汚されていく。これに神木村の神木の精霊サクヤは白野威を復活させる。<br /> いや白野威の真の名は太陽神アマテラス。アマテラスはその神秘の力筆しらべを盗もうとする旅絵師イッスンを<br /> お供に各地を浄化していく。そんな中オロチが復活し生贄にスサノオの想い人クシナダが選ばれる<br /> スサノオは勇気を振り絞りオロチの誘惑を撥ね退けアマテラスと力を合わせオロチを退治する。<br /><br /> アマテラスは各地を旅し西安京では女王ヒミコ、カムイでは戦士オキクルミと力を合わせ各地の妖怪を退治していく<br /> そして全ての妖怪の元凶、常闇の皇が眠る古代船ヤマトに辿り着く。いざ最終決戦の時イッスンがもう筆しらべの技は<br /> 盗んだからと言い急に別れてしまう。アマテラスは一人、常闇の皇に立ち向かうがその圧倒的な力に力尽きかける。<br /> だがアマテラスの耳に人々の祈りが聞こえる。それはイッスンだイッスンがその筆と絵でナカツクニの人々に<br /> アマテラスの事を伝えまわっているのだ。<br /> 「苦しい時の神頼みだけじゃ不公平だ神様が苦労している時ぐらい労わってやろうぜ」<br /> そしてアマテラスとイッスンが旅で出会った人々がアマテラスの勝利を祈るその祈りはアマテラスの力になり<br /> 白野威だった頃の全盛期の力を取り戻し常闇の皇を打ち倒す。<br /> そしてアマテラスは妖怪に滅ぼされた神々の国タカマガハラを復興するためヤマトで旅立つ。<br /> 旅立つヤマトを見るイッスンはナカツクニ中にアマテラスのことを伝えきったらその間抜け面を見に行くと宣言するのだった。<br /><br /><br /></dd> <dt>200 :<font color="#008000"><b><a href="mailto:sage">名無しさん@お腹いっぱい。</a></b></font>:2006/07/16(日) 21:34:44 ID:4JNsTe2N</dt> <dd><a href="http://mimizun.com/log/2ch/gamerpg/1145367885/116" target="_blank">&gt;&gt;116</a>の大神<br /> ありがたいのだけど、触れられてない天神とウシワカについて誰か頼む<br /><br /><br /><br /></dd> <dt>202 :<font color="#008000"><b><a href="mailto:sage">大神補足</a></b></font>:2006/07/17(月) 05:04:58 ID:UEsX3vn8</dt> <dd>じゃあ大神補足。<br /><br /> アマテラスの行く先々に現れ、なにやら因縁がありそうな台詞を吐くキザ男ウシワカ。<br /> 彼の正体ははるか昔、箱舟ヤマトとともに、アマテラスの治める神の国タカマガハラを訪れた月の民だった。<br /> あるとき突然タカマガハラが妖怪に襲われた。生き残った天人たちを乗せてヤマトで地上に逃れようとするも、<br /> 実は、妖怪の元凶・常闇の皇は箱舟ヤマトの底に潜んでいたのだ。湧き出す妖怪たちに対して<br /> ウシワカとアマテラスは懸命に戦ったが、天人達を助けることは出来なかった。<br /> 知らなかったとはいえ、自分がタカマガハラを滅ぼし、地上に妖怪を連れてきた張本人だと悔やみながら<br /> ウシワカは常闇の皇の攻撃からアマテラスを庇って落下していく。<br /><br /> でも最後には「ファンタスティック!」とか言いながら出てきて、タカマガハラを復興するため<br /> アマテラスとウシワカを乗せた箱舟は飛び立っていきます。めでたしめでたし。<br /><br /></dd> <dt>203 :<font color="#008000"><b><a href="mailto:sage">名無しさん@お腹いっぱい。</a></b></font>:2006/07/17(月) 07:19:14 ID:Yi9Ncs9F</dt> <dd>ちなみに、船に乗って逃げるの進言したのが牛若だったとゆー話>責任<br /> 元々月の民の流民だった自分を受け入れてくれたのになんちゃらかんちゃら。<br /> 民は全滅し、アマテラスと牛若しか助からなかった上、地上には妖怪が溢れだすハメに。<br />  <br /> その後、未来を見る力によって、<br /> オロチ(当時襲ってきてた存在のボス)倒すのにイザナギの力が必要だとゆーのを知り、<br /> ソレを聞いたアマテラス(不知火)はずっと村の外れに住む様になってOPへと続く。<br /><br /></dd> <dd><br /></dd> <dd> <hr /></dd> <dt>308 :<a href="mailto:sage"><b>大神 簡潔 1/5</b></a>:2009/07/02(木) 18:47:42 ID:J84Muk9N0</dt> <dd>大神まとめたので投下します<br /> 簡潔なのであちこち端折ってます<br /><br /> ---------<br /> 【200年前に起きたこと】(序盤は伏せられている)<br /> ある日、天神族の住む神の国「タカマガハラ」を怪物「ヤマタノオロチ」が襲う。<br /> 太陽神である慈母「アマテラス」はこれと戦うが、地上へと墜落してしまった。<br /> 天神族は月から持ち込まれた救いの舟「方舟ヤマト」に逃げ込み、地上への脱出を図るが<br /> 方舟ヤマトの底には怪物「常闇ノ皇」の生み出した妖怪たちが溢れており<br /> 天神族はことごとく殺されてしまう。生き延びたのは月の民「ウシワカ」のみ。<br /> ------<br /><br /> さて、それから100年。<br /> 白いオオカミの姿をしたアマテラスは人々に「白野威」と呼ばれ<br /> 力を持ったもの「イザナギ」と共にヤマタノオロチを封じ込める。<br /> 人々は戦いで命を落とした白野威を「大神」と呼び、石像を作って祀った。<br /><br /> そしてさらに100年。<br /> 人々の信仰心が薄れた頃、イザナギの子孫「スサノオ」が<br /> ヤマタノオロチの封印を解いてしまう。<br /> ヤマタノオロチなどしょせん「神話」であり現実ではない、と。<br /><br /> 世界「ナカツクニ」は呪い祟られ、妖怪が跋扈しはじめる。<br /> しかし白きオオカミ白野威=慈母アマテラスも同時に蘇り<br /> ナカツクニを、人々を救うべく立ち上がった。<br /> でも基本的に天然ボケな白い犬にしか見えない…。<br /><br /> ポチとかシロとか呼ばれてる「アマ公」ことアマテラスは<br /> かつて持っていた、自然を操る十三の「筆業」の力を再び集めながら<br /> 自分も筆業を手に入れて遊んで暮らしたいというコロポックルの「イッスン」と共に<br /> 妖怪を祓い、呪いを解き、人々を救う旅に出る。<br /> そしてその前にちょろちょろ現れる胡散臭い陰陽師「ウシワカ」…<br /><br /></dd> <dt>309 :<a href="mailto:sage"><b>大神 簡潔 2/5</b></a>:2009/07/02(木) 18:48:44 ID:J84Muk9N0</dt> <dd>◆1章 ヤマタノオロチの章<br /> スサノオを誘惑し、より強大な力を得ようとするヤマタノオロチ。<br /> しかしスサノオはこれを拒み、アマ公と共にヤマタノオロチを退治する。<br /> さながら、神話の白野威とイザナギのように…<br /> 勝利を喜んだのもつかの間、ヤマタノオロチの身体から瘴気が立ち昇り空へと飛んでいった。<br /><br /> ◆2章 キュウビの章<br /> 様子がおかしいと聞いて訪れた西安京。<br /> 京を守る女王「ヒミコ」が祭壇の奥に引きこもって出てこないため<br /> 尼僧「ツヅラオ」がヒミコの代わりに人々の人望を集めていた。<br /> しかしそのツヅラオは偽物。本物のツヅラオは怪物「キュウビ」に殺されていた。<br /> ヒミコはキュウビの本拠地「鬼ヶ島」の位置を探るため、祈り続けていたのだった。<br /> ヒミコは自らの命を投げ打って「千里水晶」にキュウビの本拠地を映し出し<br /> アマ公たちはヒミコ姐の想いを胸にキュウビに挑み、葬り去った。<br /> そしてまた立ち昇った瘴気は、北の空へ…。<br /><br /></dd> <dt>310 :<a href="mailto:sage"><b>大神 簡潔 3/5</b></a>:2009/07/02(木) 18:50:17 ID:J84Muk9N0</dt> <dd>◆3章 常闇の帝の章<br /> 瘴気が向かった先、北の大地「カムイ」へ足を進める。<br /> カムイには妖怪を生み出すといわれる、鉄の箱舟ヤマトの沈んだ湖があった。<br /> カムイは双子の魔神モシレチク・コタネチクに神山エゾフジを乗っ取られていた。<br /> オイナ族の剣士「オキクルミ」は、宝剣「クトネシリカ」を持ち出して<br /> 妖怪を倒そうとしていたが、村人達とは協力体制にない様子。<br /> 村人が言うには魔神を倒すには「ピリカ」による祈祷が必要だという。<br /> しかしピリカは行方不明になっていた。<br /> 100年に1度の日食、「玄冬の蝕」が数日後に迫っていた。<br /> 神の力が弱るその日を狙い、妖怪たちは総攻撃をするつもりらしい。<br /><br /> ・イッスンの素性<br /> カムイにはイッスンの故郷、コロポックルの里「ポンコタン」があった。<br /> その長であるイッシャクこそが、イッスンの祖父だった。<br /> イッスンは村に入らずに入口でアマテラスの帰りを待つという。<br /> 実はイッスンは絵の修行の厳しさに耐え切れず、家出していたのだった。<br /><br /> ・天道太子<br /> イッシャクは100年前のアマテラス…白野威と共に戦った戦友だった。<br /> イッシャクは、今のアマテラスは力を失っており、このままでは勝てないという。<br /> 神が力を得るには、神の威光を天下に伝える絵師・天道太子の協力が不可欠だと。<br /> 村の誰もが実力を持っているから選んで連れて行けというイッシャクの申し出を断り<br /> イッスンの待つ村の外へと戻るのだった。<br /><br /> ・100年前の真実<br /> 他の場所や時間へ旅することができ、災いを呼ぶという「幽門扉」。<br /> ピリカがそこへ吸い込まれるのを見たものがいるという。<br /> イッスンの力で門を開き、飛び込むアマテラスとイッスン。そしてオキクルミ。<br /> 辿り着いたのは、「100年前の神木村」。<br /> イザナギと白野威がヤマタノオロチと戦ったという、まさにその夜だった。<br /> 英雄は我だとばかりにヤマタノオロチに斬りかかるオキクルミ。<br /> しかし宝剣クトネシリカは応えない。<br /> アマテラスとイザナギはヤマタノオロチを倒し、ピリカと生贄の娘を救う。<br /> その時、勝利に浸るイザナギの頭上に岩石が…<br /> それを身を挺して救ったのは、この時代のアマテラス…白野威だった。<br /> 血まみれの白野威を抱え、崩れ落ちる祠から脱出するイザナギ。<br /> アマテラス達はピリカを背に乗せて幽門扉の外へ出る。<br /><br /></dd> <dt>311 :<a href="mailto:sage"><b>大神 簡潔 4/5</b></a>:2009/07/02(木) 18:51:01 ID:J84Muk9N0</dt> <dd>・双魔神モシレチク・コタネチク<br /> カムイへ戻ると、玄冬の蝕が始まろうとしていた。<br /> モシレチク・コタネチクを倒すべく神山エゾフジへ乗り込むアマテラス。<br /> コタネチクを見つけ出し戦いを挑む最中、白野威が現れる。<br /> その圧倒的な力でコタネチクを追い詰める白野威。<br /> さらに瀕死のモシレチクと、それを追うオキクルミが現れる。<br /> 勝利を確信するオキクルミ。<br /> しかしその隙をついて双魔神は強大な攻撃をオキクルミへと放つ。<br /> オキクルミをかばって跳ね飛ばされ、崖から落ちそうになる白野威。<br /> 助けようとするアマテラスとイッスン。<br /> 「瀕死の双魔神に止めを差して英雄になる」という道を捨て<br /> 白野威を助ける道を選ぶオキクルミ。<br /> 宝剣クトネシリカは初めて彼に応え、青い光を放った。<br /> 双魔神には逃げられてしまうが、真の英雄の道を知ったオキクルミ。<br /> そして、瀕死の白野威は再び幽門扉をくぐり、100年前に帰っていく。<br /> そこでまたイザナギを救い、そして命を落とすのだろう。<br /><br /> ・別れ<br /> 双魔神を追い詰め、止めをさしたアマテラス達。<br /> 妖怪たちが最後に逃げ込んだのは方舟ヤマトだった。<br /> “クトネシリカが青鈍色に輝く時、氷壁は砕かれ、天への道は拓かれん”<br /> 言い伝えどおり、凍り付いていた方舟ヤマトが浮かび上がり、入口が開く。<br /> いざ乗り込もうとしたとき、急にイッスンがアマ公へ別れを告げる。<br /> 曰く、自分の目的は筆業を手に入れて面白楽しく暮らすことだと。<br /> 「お前は神サマ・・・オイラは妖精 -住む世界が違い過ぎらァ・・・」<br /> そこに現れたのは胡散臭い男、陰陽師ウシワカ。<br /> ウシワカは元々イッスンは方舟に乗る資格はないのだと告げる。<br /> 天への道を歩む資格のある者…覚悟のあるものしか乗れないのだと。<br /> ウシワカとアマテラスは方舟の中へ。イッスンを残し、扉は閉められた。<br /><br /> ・方舟ヤマトとウシワカ<br /> ウシワカとはぐれたアマテラス。<br /> 舟の中には天神族の思念が残っていた。<br /> 【200年前に起きたこと】を思い出として語り、<br /> しかし月の民ウシワカを責めてはいない、彼を救ってくれと語る天神族たち。<br /> 舟に逃げ込んだ妖怪たちを倒した後、辿り着いた中心部では<br /> 既に傷ついてボロボロのウシワカと、常闇ノ皇が戦っているところだった。<br /><br /> 「こんな物が船の底に潜んでいることを知らなかったとは言え<br /> ミーがこのヤマトをタカマガハラに持ち込んだのは事実<br /> ミーの罪はどんな事をしてもリセット出来ないんだ」<br /><br /> 日食が進み力を失ってゆくアマテラスを庇って攻撃を受け、<br /> 宇宙空間へ落ちていくウシワカ。<br /> 「ユーは絶対にタカマガハラへ帰らなきゃならない!」<br /><br /></dd> <dt>312 :<a href="mailto:sage"><b>大神 簡潔 5/5</b></a>:2009/07/02(木) 18:52:01 ID:J84Muk9N0</dt> <dd>・祈り<br /> 常闇ノ皇に奪われた力を取り戻しつつ一度は優勢に立ったものの<br /> 油断した隙をつかれ、再び力を奪われて追い詰められるアマテラス。<br /><br /> 「まったくあいつはいつもボアっとしてやがるからなァ<br /> オイラがイチイチ世話してやらねェと何にも出来ねェンだ!」<br /> そんなイッスンの声が聞こえた気がした。<br /><br /> 力付きそうになったそのとき、どこからか聞こえてきたのは<br /> 旅の途中で出会った幼い女の子の声。<br /> 「おねえちゃん、ワン子どこかで泣いてるの?<br /> ワンコが泣いてるからお天道さまが隠れちゃったの? ビェーン! ...」<br /><br /> 次々と聞こえてくる人々の声。<br /><br /> 「あ…あのいたずらものめー<br /> まさか本物の白野威(シラヌイ)さまの生まれ変わりじゃったとは!!」<br /> 「おやまぁ…随分、桜餅の好きな神様だったよ<br /> こんなに真っ暗になっちまったのは、お腹でも空かせているからかねぇ?」<br /><br /> 皆の手にあるのは、イッスンの描いたアマテラスの絵だった。<br /> イッスン「…年から年中 神頼みってのも情けねェ<br /> たまには神サマを労って、少しは苦労を肩代わりしてやろうじゃねェか」<br /><br /> 天道太子としての覚悟を決めたイッスンの活躍によって<br /> 人々の信仰心を取り戻したアマテラスは<br /> 全盛期の力を取り戻し、常闇ノ皇を討ったのだった。<br /><br /> ◆悲しみをResetして<br /> 戦いが終わって勝ち名乗りを上げるアマテラス。<br /> 死んだと思ったウシワカ、操縦席に乗って再登場。<br /> アマテラス、尻尾ぶんぶん振り振り。<br /> そして2人(1人+1匹?)はタカマガハラへ帰っていったのでした。<br /><br /><br /> ◆誰も知らない秘密のお話<br /> ―今日はこの辺でおしまいにしておこうかの<br /> これはたくさんの人々の想いがこもった大切なお話じゃ<br /> …お主の胸にだけそっとしまっておくのじゃぞ<br /><br /> またいつか続きを聞かせてやるわい<br /> じゃが今は彼らが歩んだ道程に思いを馳せ―<br /> ひとまずこの絵巻物の紐を結うとするぞい<br /> 大神アマテラスの冒険絵巻―<br /> お後は次のお楽しみじゃ…!<br /><br /> ~おしまい~<br /><br /></dd> <dd> <hr /></dd> <dt><a>372</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)21:49:15ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>オーカミいきますよ<br /><br /><br /> むかしむかしあるところに、「神木村」(かみきむら)というちいさな村がありました。<br /><br /> 村人は村のまわりを囲む美しい桜の木一本一本を神様の木としてまつり、<br /> 静かに暮らしておりましたが、その穏やかな暮らしはある悲しい風習ととなり合わせのものでした。<br /> 毎年祭りの夜に、古いほこらにすむ強大な怪物「ヤマタノオロチ」を鎮めるために、<br /> 若い娘をいけにえとしてささげなければならなかったのです。<br /><br /> そのいけにえの祭りが近づくと、きまって村はずれにあらわれる白いオオカミがおりました。<br /> このオオカミは村人が山や森へ向かうとその後をそっとつけて歩いたり、<br /> みんなが寝静まった深夜にひたひたと村中を歩き回ったりするので、人々はオロチが使いをやって<br /> いけにえの品定めをしているのだと考え、これを「白野威」(シラヌイ)と名づけて気味悪がっておりました。<br /> なかでもイザナギという剣士などはこのシラヌイを追い払おうと、自慢の剣術で何度も挑みましたが、<br /> シラヌイは風のように素早く、いつも傷一つ付けられずに逃げられてしまうのでした。<br /><br /> そうこうしているうちに、とうとう今年もいけにえの祭りの夜がやってきました。<br /> 今年いけにえを召し取る合図である白羽の矢がつき立ったのは<br /> ―――イザナミという、村一番美しい娘の家の屋根でした。<br /> イザナミに密かな思いを寄せていたイザナギはこれに怒り、今年こそオロチを退治せんと決意を固めて<br /> イザナギの代わりにオロチのほこらへと向かいました。<br /><br /> オロチの根城、十六夜の祠へやってきたイザナギの前に現れたのは、<br /> 八つの首にらんらんと真っ赤な目を光らせた巨大な化物、ヤマタノオロチ。<br /> 闇夜の中、イザナギは必死で剣を繰り出し戦いましたが、オロチのうろこは鋼のように硬く、<br /> まったく歯が立ちません。手も足も出せぬまま、それでもイザナギは勇敢に剣をふるい続けましたが、<br /> やがて疲れきり、がっくりと膝をついてしまいました。<br /> あわやイザナギの命も風前のともしびかと思われたそのとき、突然オロチとイザナギの間に<br /> 一匹の獣が躍り出て、猛々しい唸り声を上げながらオロチに挑みかかりました。<br /><br /> 夜目にも明るく白光を帯びたようなその姿、<br /> なんとそれはあの村外れに棲みついていたあの白い狼、シラヌイだったのです。<br /><br /></dd> <dt><a>373</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)21:51:04ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>そして猛然とシラヌイがオロチに飛びかかり、二匹の人ならぬものの壮絶な戦いが始まると、<br /> 不思議な事がおこりました。<br /><br /> オロチがシラヌイへ向かって吐いた炎の吐息はどこからともなく吹いた<br /> 突風によって押し返され、シラヌイを一飲みにしようと迫ったオロチの牙は、<br /> 突然シラヌイの足元から生えた大木によって阻まれてしまうのです。<br /> こうしてシラヌイは不思議な力に守られて、巨大なオロチと互角に戦い続けましたが、<br /> やはりオロチの力は凄まじく、シラヌイの真っ白な毛皮に赤い物が点々と混じり始め、<br /> それは次第に広がっていきました。<br /> 全身を赤く血に染めて、ふらふらとしながらもシラヌイは戦い続けます。<br /><br /> ついにオロチの牙が息も絶え絶えのシラヌイを追い詰めたとき、<br /> シラヌイは最後の力を振り絞り、天に向かって吠えました。<br /><br /> 長い長い遠吠えが天高くに吸い込まれると、またもう一つ不思議な事が起こりました。<br /> それまで空を覆っていた叢雲が、あれよあれよと言う間に消えうせて、やがて射した一筋の月明かり、<br /> それを浴びたイザナギの剣がきらきらと金色に輝き出したのです。<br /> それまでじっと岩陰で機会を窺っていたイザナギは、この剣の光に導かれるように飛び出して、<br /> 残ったありったけの力を振り絞り、オロチに飛びかかっていきました。<br /><br /> すると何ということでしょう。イザナギがきらきら輝く剣を振るうたび、<br /> オロチの首は次々と切り飛ばされて宙を舞い、とうとうイザナギは長い間人々を苦しめてきた<br /> この化物を倒す事が出来たのです。<br /> 長く続いた戦いが終わり、オロチの最後の首が血だまりの中に落ちる頃、<br /> 辺りは白々と日が差して、明るくなっておりました。<br /> 戦いで傷つき、オロチの毒で弱ったシラヌイを抱えてイザナギは神木村へと帰りました。<br /> 村で待っていた人々のもとにたどり着く頃には、シラヌイはもう自力で動く事も出来ない有様でした。<br /> そして村人達の見守る中、村の長老がシラヌイの頭を撫でてやると、<br /> シラヌイは小さく一つ啼き、眠るように息を引き取ったのです。<br /><br /> こうしてようやく、神木村に平和な日々が訪れました。<br /> 村人たちはこのシラヌイの働きをたたえて、村の静かな一角に社を建てて、<br /> そこにシラヌイの像を祀りました。<br /> そしてイザナギの振るった剣を「月呼(ツクヨミ)」と名づけ、あのオロチの居た十六夜の祠に供えたのです。<br /><br /></dd> <dt><a>374</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)21:54:06ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>それから百年が過ぎたある日の事。<br /> とある人物が十六夜の祠にやってきました。<br /> 「これがあのヤマタノオロチを封じ込めた伝説の宝剣、ツクヨミか」<br /> 岩に突き立ったツクヨミを見つめてそう呟いた人影は<br /> 「……バカバカしい。どうせそんなものは作り話に決まっておる!」<br /> なんとツクヨミに手を掛けるや、それを一気に引き抜いてしまったのです。<br /><br /> すると突然、暗闇の中に八対の赤い目が浮かび上がりました。<br /> 同時にツクヨミが抜けた穴から真っ黒な風が吹き付けます。<br /> 人影は剣を放り出し、慌てて逃げ出しますが、足をもつれさせて転んでしまいました。<br /> 社を吹き飛ばして現れた黒い巨大な影が、その上に覆いかぶさって笑います。<br /> 「力ヲ求メル者ヨ、ヨクゾ忌々シキ戒メヲ解イテクレタ!<br /> 『闇ノ世界ヲ欲ス』、ソノ誓イノ言葉ヲ、今コソ我ニ奉ズルノダ」<br /> しかし人影は怯えるあまり何も言えません。<br /> じれたのか巨大な影が咆哮すると、その声に弾かれた人影は飛びあがり、転がるように駆け出しました。<br /> その身を包む炎で山の木々を焼きながら、大きな影がその後を追います。<br /> 八つの首が吠え声を上げると、炎は嵐になり、大木が軽々と空へ舞い上がりました。<br /><br /> 空は黒く濁り、太陽の姿も見えません。<br /> こうして平和なナカツクニは災厄の中に巻き込まれてしまいました。<br /><br /></dd> <dt><a>375</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)21:54:54ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>けれどもたった一つだけ、魔物の呪いからまぬがれた村があったのです。<br /> それは御神木に守られたちいさな村。あの神木村でありました。<br /><br /> 遠い昔に立てられたシラヌイの石像。<br /> その前に村の守り神、村の奥に立つ巨大な桜木の精「サクヤヒメ」が降り立ちました。<br /> 「あな恐ろしや……!まるでいにしえの伝承の如き、怪しきありさま。どうしてこのような事に!?」<br /> 辺りを見回すと、サクヤヒメは傍らの石像を見下ろしました。<br /><br /> 「……ともかく事は一刻を争います。百余年、我が身を尽くして魔より守りし<br /> この神の器―――ついに主の元へと帰す時が来ました」<br /> 言って身を翻したサクヤヒメがふわりと袖で宙に円を描けば、<br /> 袖から走った光の軌跡が大きな銅鏡に変わります。<br /><br /> 「いざ、天照る神よ。今こそその力で濁世をあまねく照らし、我らに神明のお導きを授け給え!」<br /> サクヤヒメがそう叫んで銅鏡を放り投げると、それはひとりでに空を駆け、石像の背中に取り付きました。<br /> すると銅鏡から炎が噴出し、みるみるうちに石像が真っ白く、所々に<br /> 赤い隈取を帯びた本物の狼に変わるではありませんか。<br /><br /> 「おお、その汚れなき純白の御包容は正しく、我らが慈母にましますアマテラス大神(おおみかみ)!」<br /> 一声吠えて身震いをすると、台座から降り立った狼にサクヤヒメは懐かしげに語りかけました。<br /> 「百年の昔、その身命をなげうって強大な魔の物を退治し、この国を救い給うたその威風、<br /> いささかも変わりはありませぬ」<br /> そう、百年前に神木村を救ったシラヌイの正体は、狼の姿をした神様、アマテラスだったのです。<br /><br /> 「石像に身をやつして時を経ながら、よくぞお戻りになりました……グスッ」<br /> 感極まってサクヤヒメは涙ぐみますが、アマテラスは別にそれに応えるでもなく、<br /> 一通りあちこちを見回すと、大あくびをして寝そべってしまいました。<br /><br /> 「……と……ともかくアマテラス大神。この猛り狂う雲のさまをごらん遊ばされよ」<br /> ちょっとボーゼンとはしたものの、すぐに気を取り直したサクヤヒメは空を指さしました。<br /> アマテラスが死んだ後も世の中には妖怪がはびこっていましたが、<br /> これほどの大異変は今までに例がなかったのです。<br /> 「どうか、貴方の通力で闇を祓い、悪しき物どもを成敗し給い、そして―――」<br /><br /> と、そこでいままで一生懸命に訴えていたサクヤヒメがふいに身ぶるいをしました。<br /> 「おや、これは何ぞ?急に懐がこそばゆく……」<br /> そう言った所でついにサクヤヒメは我慢できなくなり、身を折って笑い出しました。<br /> すると彼女の景気よく開いた着物の袂がぷるぷると揺れ出して、<br /> 胸の谷間からちいさな何かが飛び出したのです。<br /><br /></dd> <dt><a>376</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)21:55:37ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>きらきら光るそれは、どうやら虫の類のようで、地面に転がるや、<br /> ぴょんぴょん勢いよく跳ねながら怒り出しました。<br /><br /> 「痛テテテ、ひでェ事しやがんなァ!大したカラダでもねぇのにギャーギャー騒ぎやがってェ、<br /> クソ難しい話してるから面白くしてやったんだろォ!?」<br /> 「これ、玉虫や。お前また、私の懐で昼寝を……?」<br /> サクヤヒメは無礼な玉虫を叱りますが、<br /> 「オイラをムシケラ扱いすんなっていつも言ってんだろォ!<br /> オイラは全国行脚の旅絵師、イッスンさまだィ!」虫は逆に怒鳴り返して<br /> 「ホレ……その眼を開いて、オイラの名筆をとくと拝みなァ!」<br /> 唸るアマテラスの顔面に絵巻物を叩きつけました。<br /><br /> でも密着しすぎて、それじゃド近眼でも見えません。<br /> 離して見てみるとなんと言うのか、「何でも鑑定団」に出てきそうな古風な絵柄で<br /> ナイスバディのお姉さんが描かれています。<br /> 「どうだい、本物よりカワイく描けてるだろォ!?」<br /> 得意げに叫んだイッスンはぴょんぴょんと跳ねとんで、アマテラスの鼻の上に飛び乗りました。<br /> 「……おやァ?このトボケ顔、どこかで見覚えがあるような……<br /> そうだ!お前、あのシラヌイの像にソックリじゃ……」<br /> 言いかけた所でアマテラスがひょいと顔を傾け、イッスンは犬業界用語で言うところの「鼻パク」で<br /> あっという間もなく食べられてしまいました。<br /><br /> しかし噛み砕けなかったのか、まずかったのか、アマテラスはすぐにべっとイッスンを吐き出します。<br /> 「ブェ―――ッ!ななな、何しやがんだィ!この野郎、大和男子(やまとおのこ)を<br /> ヨダレでベトベトにしやがったなァ!?」<br /> 怒り狂ったイッスンが腰の「名刀・電光丸(つまようじ大)」を抜き放とうとした時、<br /> 急に不気味な唸り声があたりに響きました。<br /> 驚くイッスンとアマテラスをよそに、力尽きたのか、淡い光に包まれたサクヤヒメは<br /> 神木の姿に戻ってしまいます。<br /><br /> 「私のはかなき力では、この神木村を救うのが精一杯でした。村の生きとし生ける魂は、<br /> 我が果実の内に守りたれば―――これを切り落とし、村を蘇らせたまえ!」<br /> 彼女の残した言葉どおり、葉さえない枯れ木のような神木の中ほどには、<br /> 桃のような果実がぽつんと一つだけ下がっています。しかしその高さではアマテラスには届きません。<br /> 辺りを見回してみると、神木の根元に光を放つ穴が開いています。<br /> とりあえずアマテラスはイッスンと共に、その穴に入ってみる事にしたのでした。<br /><br /></dd> <dt><a>377</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)21:57:24ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>穴の中はいくつもの浮き島の間に川が流れ、静かに月が輝く不思議な空間でした。<br /> イッスンのアドバイスを受けながらアマテラスが道を進むと、壊れた橋が架かった場所に出ました。<br /> 「丁度いいや、お前……ええと、確かアマテラスって言ったなァ。<br /> アマ公、お前、筆魂って言葉を知ってるか?"活きのいい筆書きには魂が宿る"ってお話さァ」<br /> 百聞は一見に如かずだィ、とイッスンが壊れた橋の先に筆を走らせると、なんと橋が元通りに新しくなりました。<br /><br /> 「どんなもんだィ!これがオイラの筆業、その名も『画龍(がりょう)』だァ!」<br /> 大威張りで叫んだイッスンは、続いて画龍とは失われた物の復活を司る「筆神」の力を使う<br /> 筆業(ふでわざ)の一つで、この業一つを身に付けるために大変な修行をした事、<br /> この世には全部で十三の筆神がいて、それは元々一つの神様に連なるものだったが、<br /> その神様が死んだ時に世界中に散らばってしまった事なんかをつらつら講釈してくれますが、<br /> アマテラスは犬っぽい動作できょろきょろとあちこちを見回すばかりで、余り聞いている風ではありません。<br /><br /> そうしてまた進んでいくと、今度は橋さえかかっていない流れが行く手をさえぎりました。<br /> 川の手前には「神流 天の川」と書いた石の道しるべが置いてありますが、イッスンは<br /> 「そんなモンがどこにあるんだよォ……まさかあの水たまりがそうだって言うんじゃないよなァ?」<br /> と首をひねるばかりです。ともかくも先に進めないので川脇の高台へ登る事にしました。<br /> 見上げると満天に星が輝いています。<br /> 「見ろよォ、あそこに並んだ星なんか、何かの形に見えてこねェか?」<br /> 確かにそこには龍の形に似た星座がありましたが、星が一つ足りません。<br /><br /> 「よォし……それじゃ一丁、オイラが星を描き足してやるかァ!」<br /> 大胆なことを言って筆を振るったイッスンでしたが、当然そんな事は出来ません。<br /> 書き足した星はひらひらと落ちてしまいました。<br /> 「さすがに星を書き足すなんて、オイラにゃまだ無理かァ。<br /> R1ボタン押しっぱなしで筆を持って、□ボタンで描く……と、地獄のような修行の日々を送ったんだけどなァ……」<br /> どんな地獄ですかそれは。ていうかなんだその前振り。<br /><br /> ……などとツッコむ事もなくアマテラスがちょんと天に星を描くと、<br /> みごと正しい形を取り戻した龍の星座は実体化して、アマテラスの元へ舞い降りました。<br /><br /> 「おお……我らが慈母、アマテラス大神。<br /> 御許(おもと)がこの世を去られて幾星霜、時世経て久しくなりにけるも、<br /> この蘇神(よみがみ)ひと時も欠くことなく今日の日を待ち申しけり」<br /> えー、要するに「アイミスユー、アイワズウェイテングフォーユー」って事です。<br /><br /></dd> <dt><a>378</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)21:58:43ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>やはり十三の筆神の大元になった神とはアマテラスでした。<br /> そしてイッスンが言うとおり十三の星座は人界に惑い、散り散りになった後、<br /> それぞれがアマテラスの体に帰る時を待っているらしいのです。<br /> 「今一度御許に仕わせ、失せ物の蘇るを見継がせ給え!<br /> この力あらば、涸れた天の川など、たちまち星くずで溢れさせ給いぬ」<br /> 頼もしい言葉と共に蘇神はアマテラスの中に帰りました。<br /><br /> 画龍の神がアマテラスの体に宿った事をイッスンは驚きますが、<br /> アマテラスはいつもどおりのノホホン顔です。<br /> 幻と呼ばれた神業である筆業、しかも天の川に星屑を描いて蘇らせるなんて大それた事、<br /> 自分だって出来ないのに出来るはずがない、といぶかしむイッスンの前で<br /> アマテラスが川に筆を走らせると、あっという間に川は星屑で一杯になりました。<br /> またまた驚くイッスンですが、やはりアマテラスが偉い神様で<br /> 筆業を使いこなせるという事実は信じがたいらしく「今の筆業は一体誰の仕業だァ?」などと言っています。<br /><br /> 川を渡ると光を放つ大きな門があり、通り過ぎると鳥居の並んだ山の参道に出ました。<br /> 滝の手前に立てられた「イザナギ泉水」の文字にイッスンが首をひねるも、<br /> そのまま山を登っていくと、鳥居の奥に洞窟がありました。<br /> 洞窟は短く、天井が空に開いた大広間に繋がっています。<br /> 広間の中央に立った巨大な像を見て、イッスンが叫びました。<br /> 「こ……ここは、もしかして……神話に出てくる幻の祠、イザナギ窟じゃねェか!?」<br /><br /> 巨大な像は百年前に白狼シラヌイを従えて妖怪退治をしたというイザナギの像。ここは彼を祀る祠でした。<br /> イッスンはさっきの「天の川」といい、自分たちはいったいどこに迷い込んでしまったのかと焦りますが、<br /> すぐに祠のひどい荒れように気がつきます。<br /> 「見ろよ、剣なんかボロボロに崩れて、ひでェありさまだァ。<br /> あれじゃ神様の加護も、あったもんじゃねェや……」<br /><br /> そこでアマテラスはさっそく蘇神の力を使い、剣を元に戻してあげました。<br /> 「や……やっぱり、今までの筆業はお前の仕業だったのかァ!?」<br /> ここでようやく理解したイッスン。<br /> 「そんな鋭い筆遣いが出来るたァ、お前、一体……」<br /> しかしそれ以外はまったく分かっていないらしい彼の頭上で、また星が輝き始めました。<br /><br /> 今度星を書き加えると現れたのは、巨大な剣を持ったネズミの筆神です。<br /> 「万象の神たる御許を助くる事こそ我が務めなれば―――退魔の剣舞をもって悪を払う大役、<br /> この断神(たちがみ)に預けられよ!」<br /> 一声叫ぶと断神は、光の球になってアマテラスの中に溶け込みました。<br /> アマテラスの頭の上でぴょんぴょん跳ねながら、イッスンがわめきます。<br /> 「断神って言や、何でも切り裂く筆業、一閃の神様だァ、この野郎、それじゃお前まるで……<br /> 英雄イザナギと共に怪物を退治した後おっ死んで十三の筆業をこの世にバラ撒いたっていう、<br /> あの―――大神「白野威」みてぇじゃねェか!」<br /><br /></dd> <dt><a>379</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)22:00:33ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>神話の中の場所や人物(というか神様)を次々にまの当たりにしたイッスンは<br /> やはり急には全てを信じられず、とりあえず一閃で目の前の岩を斬ってみろとアマテラスに要求しました。<br /> お安い御用とアマテラスが岩を真っ二つにすると、「す……すげェ!!」とたまげたイッスンは<br /> 「御見それしたぜェ、毛むくじゃらァ。その鋭ェ筆運び、オイラの遠く及ぶ所じゃねェや。<br /> 思い上がりもはなはだしいたァこの事だったぜェ」<br /> と今までの態度を反省したまではよかったものの、続いてとんでもない事を言いだしました。<br /><br /> 「……なぁ、毛むくじゃらァ……いや、アマ公。オイラぁ決めたぜェ!<br /> お前は十三の筆業を使いこなしたあのシラヌイの生まれ変わりだろォ?<br /> ……オイラぁ、その筆技を全部盗んで、一人前の絵師になるまで、お前に付いて、離れねェ!」<br /> 慌てたアマテラスは、ぶるぶると胴震いをしてイッスンを振り放そうとしましたが、<br /> 「へッへ、無駄無駄ァ!」とイッスンはしがみ付いて離れません。<br /> 「それよりアマ公!その一閃がありゃ、サクヤの姉ちゃんが言ってたアレを<br /> 切り落とせるんじゃねェか?さあ、戻ろうぜェ」<br /> もうすっかりついて来る気のイッスンに言われ、<br /> 仕方なくアマテラスはサクヤヒメの木の根元へと戻る事にしたのでした。<br /><br /> 桜の木の根元に戻ったアマテラスは、一閃の力を使い、さっきイッスンが言っていた「アレ」……<br /> サクヤヒメが唯一救う事が出来たという神木村の封じ込められた桃の実を切り落とします。<br /> するとどうでしょう。桃の実から様々な花びらとともに緑の光が湧き出して、<br /> それは黒一色だった周囲の風景をあっという間に色彩豊かなものへと変えたのでした。<br /> 緑溢れる山道を駆け下り、村の様子を見に行ったアマテラスとイッスンでしたが、<br /> すぐにどうもおかしい事に気が付きます。<br /> 辺りは妙に静かだし、あちこちには石像が立っているだけで、人影や動物の姿がまったく見えないのです。<br /> とにかくもっと詳しく様子を探ろうと彼らは高台へ向かいました。<br /><br /> 「やっぱり、ダメだァ……」<br /> アマテラスに乗って村を見晴らす高台にやってきたイッスンは、がっかりして言いました。<br /> 村を歩くうちに石像は石に変えられた村人だという事が分かり、おまけに空は太陽が消えてしまい、<br /> 真っ暗なままなのです。<br /> 「やっぱり得体の知れない怪物の呪いかよォ?ま……まさか永遠にこのままってんじゃないよなァ?」<br /> せめて太陽が照らしてくれれば。<br /> 「空にクルリと丸を描いて、お天道様の出来上がりィ!なんて……<br /> やっぱり、如何な大神サマでも、無理な相談だよなァ」<br /> しかしその通りにアマテラスが天に丸を描くと、あっという間に太陽が現れて、辺りを眩しく照らし始めました。<br /><br /></dd> <dt><a>380</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)22:01:57ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>「ななな……何だとォ!?」またしても驚かされるイッスンですが、<br /> それもそのはず、アマテラスといえば太陽神の名。<br /> 太陽の筆業「光明」だけは、最初から持っているし、失うはずがないのです。<br /> イッスンはこれらのアマテラスの筆業に感心し、優れた絵師の筆技は、<br /> まるで楽器のしらべのように雅やかだというイッスンのお爺さんの言葉にちなみ、<br /> アマテラスの筆業を「筆しらべ」と呼ぶ事にしました。<br /><br /> ともあれ彼らがもう一度村の様子を見に行こうとしたその時、「何じゃ、お主は!?」<br /> 背後から腰の曲がった老人が現れました。<br /> いつもミカンを頭の上でリフティングしているこの老人の名前は「ミカン爺」。村の長老です。<br /> 振り返ったアマテラスをあらためてまじまじと見たミカン爺は顔色を変えました。<br /> 「こ……これは、白いオオカミ!?まさかあのイザナギ様と共に戦い、恐ろしい怪物を退治したという<br /> 伝説の白いオオカミ、シラヌイさま!」<br /> けれどすぐにミカン爺はやれやれと首を振ります。<br /> 「そんなハズはないわい。あの伝説は百年も昔の話じゃ」<br /><br /> どうもミカン爺にはアマテラスはただのオオカミにしか見えていないようでした。<br /> 「……しかしそれにしても良く似ておる……シラヌイさまの像にソックリじゃ」<br /> あくびをし、首を傾げるアマテラス。<br /> 「……と思ったが、シラヌイさまにしてはちょっとトボけておるかのう」<br /> と、その時、それまでミカン爺の言葉を黙って聞いていたアマテラスが唸りながら低く身構えました。<br /> 「ワシの悪口が分かったのか?じゃが、トボけた顔をトボけていると言って何が悪い!」<br /> アマテラスの豹変に焦ったミカン爺は、ファイティングポーズを取って威嚇します。<br /> しかしアマテラスが唸ったのはミカン爺にではありませんでした。<br /> ミカン爺の背後の山の上に、いつの間にか三匹の妖怪が現れて、こちらの様子を窺っていたのです。<br /><br /> 妖怪たちが飛び下りて来てもまだミカン爺は気付きません。<br /> 頭をかきつつ「……ハテ、急に背筋が寒くなって来たぞい!?」などと言っています。<br /> アマテラスの鼻の上でそれを見たイッスンが言いました。<br /> 「良く見なァ、アマ公。あれが今この国中に溢れている妖怪どもだァ。<br /> ああやって人間から姿を隠し、村に入り込んで悪さをするのさァ。<br /> ……まぁ見てなィ!ここはオイラが名刀電光丸で―――」<br /><br /> 勇ましくイッスンは刀を抜き放ちましたが、アマテラスは皆まで言わさず、<br /> 飛び掛ってきた妖怪たちとミカン爺の間に走りこむとその背中をくわえ、<br /> ミカン爺「で」妖怪を三匹まとめてブッ飛ばし、衝撃で吹っ飛んだ頭のミカンを返すミカン爺で見事にキャッチ。<br /> その後バット代わりにされたミカン爺をアマテラスはぽいと放り出し、妖怪たちにトドメを刺すべく<br /> 彼らの作った結界へと飛びこんでいきました。<br /><br /></dd> <dt><a>381</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)22:03:18ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>その場にいた妖怪たちを全て倒すと、奇妙な事に近くの涸れていた泉が蘇り、<br /> 泉の中から現れた光の球がアマテラスの体の中に吸い込まれました。<br /><br /> 「お……お前、キレると結構アグレッシブになるなァ」<br /> 呆れながらイッスンが説明するには、この光の球は「幸玉(さちだま)」という神様の力の源で、<br /> さっきのように妖怪に押さえ込まれていた土地の神様の力を妖怪を倒す事で復活させる<br /> 「神降ろし」をしたり、他にも人や動物を助けることでみんなが幸せ一杯になれば、<br /> アマテラスもそれだけ幸玉をいっぱい手に入れられて、<br /> いつかは全盛期の力を取り戻せるだろう、とのことでした。<br /> さっきミカン爺がアマテラスがただのオオカミにしか見えなかったのも、<br /> それだけ神様の力が弱っているからだったのです。<br /><br /> ともあれアマテラスとイッスンは村へと下りて行きました。<br /> 村の人々が何事もなかったかのように、平和に暮らしているのを見て回りつつ村外れまでやってくると、<br /> 大きな岩が村の出口を塞いでいて、「これじゃ都に帰る事が出来やしないよ」と行商人が困っています。<br /> 行商人はアマテラスがこの村で飼われている犬だと勘違いして、<br /> この村に住む「スサノオ」という男を連れてきてくれるよう頼んできました。<br /> なんでもスサノオはあのイザナギの子孫で、彼ならばどうにかして岩をどかしてくれるかもしれない<br /> と思ったらしいのです。<br /><br /> こうしてスサノオの家に向かったアマテラスとイッスンですが、<br /> 当のスサノオは昼間から高いびきをかいていて、何度話しかけても寝言を言うばかり。<br /> しびれを切らしたイッスンにせかされて、アマテラスはズバッと一斬り、一閃をぶちかましました。<br /> これにはさすがに堪らず、スサノオは「ガフッ!」とうめくや、ようやく目を覚まします。<br /><br /> 「瞑想にふけろうと地下にこもったら、そのまま眠ってしまったようだわ!」<br /> などと言ってスサノオは起き上がりましたが、そこに居たアマテラスの姿を見るなり、<br /> 「まさか畜生までもが我の噂を聞きつけて、やって来るとは……だがな、我は弟子など取らんぞ」<br /> 頼んでもいないことを勝手に誤解して断ると、<br /> 「さあ、ポチ。サッサと山へ帰って猿と戯れておれ」<br /> しっしと手を振って二人に背を向け、またごろりと寝転んでしまいました。<br /><br /> 「まったく……無礼な犬っコロめ、我の瞑想を邪魔しおって……」<br /> なんて事をぶつぶつ言って寝ようとするので、<br /> 「やいトウヘンボク!グズグズしねェで一緒に来なァ!」<br /> ぴょんぴょん跳ねたイッスンが叫びました。すると起き上がったスサノオは、<br /> 「ムウッ?……お前は金玉虫!また我の家に入り込んだのか!?」<br /> と不機嫌そうに唸り、その呼び名が大キライなイッスンは激怒して、<br /> アマテラスに強硬手段をとることを命じます。<br /> よしきたとばかりにスサノオの服の裾を捕まえたアマテラスは彼をぐるぐると宙で回すと放り投げ、<br /> 背中に担いでしまいました。<br /><br /></dd> <dt><a>382</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)22:04:31ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>「や……やめんか、こんなこっ恥ずかしい真似を!」<br /> 汗をかきつつスサノオは怒鳴りますが、よく見ると奇妙にへっぴり腰で、しかもかすかに震えています。<br /> でもそんな事にはまったく構わずアマテラスは走り出し、行商人が待つ村の出口へと取って返しました。<br /><br /> アマテラスに決闘を申し込まれたと、またまたあさってな勘違いをして怒るスサノオに、<br /> 割って入った行商人がこの岩を何とかしてくれるよう頼みます。<br /> 「あんたあのイザナギの子孫だっていうじゃないか。何かすごい技でドカーンと……できるだろう?」<br /> しかしそう言われてもスサノオはさっきまでの勢いはどこへやら、ただただ口ごもるだけで、<br /> 懇願する商人にとうとう押し切られて岩を壊す事を約束したものの、<br /> 「これほどの大岩、さすがの我でも骨が折れるわ。剣に宿す闘気を高めるため、精神統一が必要だな」<br /> 鍛錬場で気を練るから暫く待っていろ、と言い残すなり、一目散にかけ去ってしまいました。<br /><br /> あのオッサンがまともに鍛錬してるのなんて見たことがない、とイッスンは鼻で笑い、<br /> 行商人も怪しむ様子でしたが、とにかく待つしかないと溜息をつきます。<br /> 様子を見に行ったアマテラスが見たのは、案の定鍛錬場に寝転がり、酒を煽るスサノオの姿でした。<br /> 「何とかするとは言ったものの……いくら伝説の血筋でも、あんな岩などとても無理だ」<br /> とボヤいていたスサノオでしたが、酒が切れると<br /> 「やめだやめだ。今日はもうおしまい。鍛錬は明日からだ!」<br /> と酒瓶を放り出し、フテ寝を始めてしまいました。<br /> 「酒がないから気分が乗らん」というスサノオ。<br /> そこでアマテラスは村人の女酒職人、クシナダのもとへ向かいます。<br /><br /> しかし田んぼで稲刈りをしていたクシナダは何故かしょんぼりとしていました。<br /> 精米に使う水車を、妖怪たちに壊されてしまい、新酒の仕込が出来ないというのです。<br /> 妖怪たちが暴れた原因がクシナダが試飲させてあげた新酒で酔っ払ってしまったせい、<br /> というなんともスゴイものでしたが、ともかくアマテラスは筆調べの力で水車を直してあげました。<br /> いつの間にか元通りになっている水車を見たクシナダは大喜び。<br /> 気分良く新酒の仕込を始めた彼女はそこに居たアマテラスに気付くと、<br /> ご機嫌ついでに売れ残ったお酒をくれました。<br /><br /> 酒瓶をくわえたアマテラスはスサノオのもとに引き返します。<br /> じつはクシナダに恋心を抱いていたスサノオは、匂いだけで<br /> それが彼女の手による酒だと気が付いて跳ね起きました。<br /> オマケに匂いだけで銘柄まで当てています。げに恐ろしきは恋心。<br /> 「な……何という巡り合わせ!クシナダちゃんとの愛が成す奇跡か?」<br /> またしても一方的に決め付けたスサノオでしたが<br /> 「そう言えば、我が祖先イザナギも、怪物退治の時には酒の力を借りたと聞く……<br /> 我、天啓を得たり!いざ鍛錬を始めようぞ」<br /> なんとかやってくれる気になったようです。<br /><br /></dd> <dt><a>383</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)22:06:00ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>ですが「鍛錬」を始めたスサノオがいくらカカシに剣を打ち込んでも、<br /> カカシは倒れるどころかその気配すらもありません。<br /> 「……カカシよ。次は相打ちでは済まぬぞ」と格好を付けるスサノオにあきれ果て、<br /> 「おいアマ公……チョイと手伝ってやっちゃどうだァ?」<br /> こっそりとイッスンがアマテラスに囁きました。<br /><br /> 「では、気を取り直して……いざ参らん!」<br /> 今度スサノオが打ち込むと、かかしは面白いように真っ二つになり、次々と地面に転がりました。<br /> もちろんそれはアマテラスの一閃の力です。<br /> 「いざ、刮目して見よ!スサノオ流、真空割破斬!」<br /> 打ち込みの仕上げにスサノオは意味不明な必殺技を叫んで鍛錬場の隅にあった岩に向かって剣を振ります。<br /> するとあの道を塞いでいたものほどではないものの、大人三人分ほどの背丈のある岩が<br /> きれいに切り裂かれて地響きを立てました。<br /> しつこいようですがもちろんこれもアマテラスの筆調べの力です。<br /><br /> ですが「ななななな……何ぃ!?」予想外の「自分の力」に暫し呆然としていたのも束の間、スサノオは<br /> 「う……うおおおおお―――!!」と雄叫びを上げつつ猛然と走り去ってしまいました。<br /> 行く先は当然あの大岩の前。<br /> 「ス……スサノオ流―――真空割破斬!」<br /> 叫んだスサノオが剣を真一文字に振りぬけば、見事なくらいあっさりと大岩は割られ、<br /> 道は元通り通れるようになりました。しつこ(ry<br /><br /> 「あ……あんた、ホントにスゴいお人だったんだなぁ」<br /> 行商人は驚き喜んでスサノオに語りかけます。<br /> 「オ……オイラもたまげたァ……!」<br /> イッスンのこれは、スサノオに対する言葉ではありませんが。<br /> さすがにおかしいと思ったのか、スサノオは剣をひっくり返してためつすがめつ眺めていましたが、<br /> これらの賞賛の言葉にぎくりと振り向くと慌てて咳払いをし、<br /> 「あ……ああ、そうだとも、我は古今無双の大剣士、スサノオにあるぞ!!」<br /> 高々と剣を天に向かって掲げました。ところが続いて<br /> 「いやぁ、イザナギの子孫ってのはダテじゃないねぇ!あんたなら、妖怪たちを倒すのも造作もないだろうなぁ」<br /> 行商人が更に誉めると、スサノオはたちまちだらだらと脂汗をかき始めました。<br /><br /> 「よ……妖怪か」<br /> ちらりと傍らのイッスンとアマテラスをかえりみて、スサノオは前へと進み出ます。<br /> 「む……無論、言われるまでもない事だ。ナカツクニ随一の剣士たる我が起たねばならぬと思っていたところよ。<br /> 者ども、大船から飛び降りた気持ちで待っておれ!」<br /> 剣を彼方に突きつけて、ビミョーに間違った見得を切るなり、高笑いを上げながら走り去ってしまいました。<br /><br /></dd> <dt><a>384</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/24(月)22:07:22ID:Nwg+jkDD</font></dt> <dd>「オイラたちが見てるからって無理しなくてもよォ……」<br /> イッスンがちょっとだけ心配そうに呟きました。何せ村の外は、妖怪の強さも段違いなのです。<br /> スサノオの後ろ姿を見送っていた二人の背中に、その時はらはらと桜の花びらが吹きつけました。<br /> 「おお……我らが慈母、アマテラス大神」<br /> 聞きなれた声に振り返ってみれば、宙に浮いたサクヤヒメが二人を見下ろしています。<br /><br /> もちろんスサノオの事も含めたこれまでのアマテラスの活躍を影ながら見守っていたと言い、<br /> アマテラスの筆さばきをたたえるサクヤヒメにイッスンは<br /> 「だったら何かご褒美でもくれよォ」<br /> とあさましいことを言いますが、<br /> 「お礼をしたいのは山々ですが……」<br /> サクヤヒメはすまなそうに背後の山の上を指さしました。<br /> そこにあるのは枯れ木同然になりはてた、サクヤヒメの依り代であるあの大きな桜の木です。<br /> 「このサクヤ、既に通力を失い、あの通り今や花を付ける事もままならぬありさまなのです」<br /> 実は彼女は村の外にも木の根を張り巡らせ、これまで各地を見守り、緑をはぐくんでいたのですが、<br /> 「塞の芽(さいのめ)」と呼ばれる彼女の分身たちが、今や妖怪たちにむしばまれ、<br /> ついには本体であるサクヤヒメの木までが枯れてしまったというのです。<br /><br /> そうやって一生懸命窮状を訴えているうちにまたしても話す力も尽きてしまったサクヤヒメは、<br /> 各地の封じられた塞の目を解き放ってくれるようアマテラスに頼むと、<br /> 「……アマテラス大神よ、貴方に花の香の守りがあらんことを!」<br /> 最後の言葉を残すや、よろめくようにして消えてしまいました。<br /> 「……ふゥん」<br /> サクヤヒメが消え去った後、イッスンがぼそっとつぶやきます。<br /> 「オイラぁ、ケンカっ早いけどよォ……厄介事に首突っ込むのはゴメンだぜェ!」<br /> 言うなり、イッスンはぴょんぴょん跳ねていってしまいました。<br /><br /> けれどもすぐに彼は跳ぶのをやめて、立ち止まります。<br /> 「……と言いたいけど、筆業の修得前に、こいつから離れる事も出来ないしなァ」<br /> 面白くなさそうにつぶやくと、イッスンはまたぴょんぴょん跳ねだしてサクヤヒメの必死な話も右から左、<br /> 地面に寝そべって気持ち良さそうに眠っていたアマテラスの所にUターンしてきました。<br /> 「まぁ、こいつも神サマなんだから、妖怪相手に下手打つ事もねェか」<br /> のんきなのか計算高いのかイマイチ良くわからない事をいって、<br /> イッスンはようやく起き上がってお座りしたアマテラスの鼻先に飛び乗ります。<br /> 「……お前、人の話、ちゃんと聞いてたんだろうなァ?」<br /> 疑りながら言ったあと、<br /> 「お前は旅がてら残りの筆業を見つけ出して世を直し、オイラはその筆業を盗んで修得とくりゃ、<br /> バン万歳ってワケだァ!」<br /> イッスンはなんとも都合のいい計画をぶち上げ、二人はこうして村の外へ続く<br /> 長い長い旅路の第一歩を踏み出したのでした。<br /><br /> 続きはまた。<br /><br /></dd> <dt><a>405</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)09:48:22ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>大神続き~<br /> の前に前回の訂正。イッスンが初登場時に飛び出したのはサクヤヒメの「袂」ではなく「袷」ですね <br /> 袂じゃ別にくすぐったくも何ともなかろうよ orz<br /> では続き<br /><br /> こうして村の外へ出た二人でしたが、すぐに驚きの目を見張る事になります。<br /> そこは神州平原、ナカツクニで最も美しいと言われる大野原のはずなのに、<br /> 空は真っ暗であたりに立ち並ぶ木立ちは枯れ木ばかり。<br /> アマテラスが天に描いた光明の力も、効き目があったのは神木村だけだったのです。<br /><br /> その原因は道をほんの少し進んだだけでわかりました。<br /> 平原の中央に立つ一際大きな枯れ木。<br /> それは旅人が立ち寄り疲れを癒す憩いの場であり、彼らが浄化しなければならない<br /> 塞の芽のうちの一つなのですが、辺りはとてもイヤな雰囲気に包まれていて、<br /> 今にも倒れそうなその大木が立った辺りは特にそれがひどく、近づけそうもないのです。<br /><br /> こういう風に妖気が漂い、それにつられた妖怪が集まる場所はタタリ場といって、<br /> 足を踏み入れるだけで呪われてしまいます。<br /> 近づく事さえ出来ないのに、一体どうやればあの塞の芽を浄化できるのでしょう。<br /> とにかくかろうじて呪われていない道を下って行った二人は、そこに1軒の小屋と、<br /> 小屋の前でまき割りをしている男を見つけました。<br /><br /> 「そこの小川を渡った所にある仕事場がタタリ場のせいで消えちまった。これじゃ生活出来やしないよ」<br /> と有り得ない程マターリと嘆いている男ですが、湖の方から押し寄せた物凄い地響きと突風と共に<br /> このタタリ場ができた時、湖から神木村へ逃げていく人影を見た、と気になる話を聞かせてくれます。<br /> 更に男からこの道の先にある「花咲谷(はなさきだに)」には、<br /> 植物をたちまち成長させる不思議な水晶玉が祀ってあるという耳寄りな情報を聞いて、<br /> 二人は早速花咲谷に向かう事にしました。<br /> 「そう言えば」と男が話の最後に付け加えます。<br /> 「少し前にスサノオの奴が意気揚々と谷の中へ入って行ったけど、いつも口ばかりで<br /> 妖怪から逃げ回っているあいつがどうしたんだ?」<br /><br /> ……どうやらついさっき別れたばかりなのに、ずいぶんと早い再会になりそうです。<br /> というか、スサノオのヘタレっぷりは近隣の人にも有名だったのですね……。<br /><br /></dd> <dt><a>406</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)09:49:37ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>谷の中は灰茶けた色にくすみ、流れる川も泥の色をしています。<br /> 進路に陣取っている妖怪たちを倒しても、さっき神木村でやったように土地がうまく浄化されてくれません。<br /> どうもこの土地に住む神様を抑えている呪いの源を何とかしなければ、根本的な解決にならないようです。<br /> 山道を登っていくと妖気に当てられた樹木までもが木の実を飛ばして攻撃してきます。<br /> それを筆しらべの力でやり過ごしつつ更に登っていくと、奇妙な壁画が描かれた一隅にたどり着きました。<br /> 道の先は大岩に塞がれていて……その大岩を、どこかで見たことがある背中が<br /> 一生懸命押し開けようとしています。<br /><br /> 「お……お前は、ポチ!どうしてこんな所まで……!?」<br /> 背後でふりふり尻尾を振っているアマテラスに気付いたスサノオは、信じられないと言う風にゴシゴシ目をこすり、<br /> 勝手に命名してしまったニックネームでアマテラスに呼びかけました。<br /> かと思えばすぐに彼は両手をぶんぶん振り回して怒り始めます。<br /> 「帰れ、帰れ!我は弟子は取らんと言ったはずだ!」<br /><br /> ……誰がいつそんな事を貴様に頼みましたか?<br /> とにかく相変わらず勝手に誤解したまま話を進めたスサノオは<br /> 「……大体、この花咲谷はお前のような畜生が来る所ではないわ」<br /> アマテラスに向かって忌々しげに指を突きつけました。<br /> 「この先には我の秘密の鍛錬場があって……」<br /> おお、やっと彼にも勇者の子孫という自覚が出来たのでしょうか?<br /> アマテラスの手助けも無駄ではなかった……とか思ったのも束の間。<br /><br /> 「隠れるのには最高……」<br /> 思わず尻尾を振るのをやめて「ガウ?」と聞き返してしまうアマテラス。<br /> やっぱり彼の性根は相変わらずだったようです。<br /> ですがぽろっともらしかけた本音を<br /> 「い……いや、鍛錬をするには最高の場所なのだ!」<br /> とすぐに咳払いでごまかして、スサノオはアマテラスを手にした木刀で追い払ってしまいます。<br /><br /> 「しかし、おかしいな……確かここに通路があったはずなのだが……」<br /> 背中越しに漏らすスサノオの言葉を聞いて傍らの壁画を仰ぎ見てみれば、<br /> 空に輝く光が水晶に降り注ぎ、それが反射して植物を生育させているという、<br /> この谷に祭られている水晶玉を使ったいにしえの儀式を表したもの。<br /> 「この壁画、何か足りなくねェか?」というイッスンの言葉に従って「太陽」を書き込むと、<br /> それを鍵として、壁をふさいでいた大岩が崩れ去りました。<br /><br /></dd> <dt><a>407</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)09:51:03ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>何もしてないのに突然砕け散った大岩に、「な、何だとお!?」と驚愕したスサノオでしたが、<br /> あまり物事を深く考えない性格なのか彼はすぐに気を取り直し、<br /> 「とにかくこれで奥に隠れる事が……い、いや、奥にこもって存分に鍛錬する事が出来るわ!」<br /> と、いかにもらしいセリフと共に高笑いを上げながら現れた道の向こうに駆け去ってしまいました。<br /> その後を追いかけていった二人は、左右を切り立った崖に挟まれた、広間のような場所にたどり着きます。<br /> 向かい側は滝壺で他に行けそうな所はないのに、先に来ているはずのスサノオの姿がありません。<br /> 首を傾げつつも辺りを調べてみますと、部屋の中央にいかにも怪しいちいさな木の芽が<br /> ぴょこりぴょこりとうごめいています。<br /><br /> 「ん?……こいつ、かすかにサクヤの姉ちゃんと同じ香りがすらァ」<br /> とイッスン。そして木の芽と滝壺を繋ぐ直線上、坂の上にはこれまた怪しげな水たまりが。<br /> 滝の上を仰ぎ見たイッスンが<br /> 「なるほど、ここにこんな祭壇を作ったのは、あの谷間に昇る太陽を神として崇める為だろうなァ」<br /> 納得の声を漏らします。<br /> しかしそこに太陽を描いてみても何も起こりません。<br /> 打つ手をなくして来た道を振り返ってみたアマテラスは、そこで片側の壁が怪しすぎる木の柵で<br /> 封印されているのを発見、さっそくズバッと一閃をぶちかまし、その奥に隠された通路を発見します。<br /><br /> 奥へと進んでみれば「チェストォーッ」案の定その先の行き止まりにいたスサノオが、<br /> 何故か奇声を上げて木刀を構えていました。<br /> 「な……何だァ?」と面食らうイッスンに構わずスサノオは更に叫びます。<br /> 「おのれ……面妖な妖怪め、どこから入り込みおったぁ!?」<br /><br /> 「妖怪……?」とイッスンが思わずボーゼンとするのも無理はありません。<br /> なぜなら、彼らの視線の先にいたのは妖怪などではなく、変な緑色の球の上で器用にバランスを取りつつ<br /> 居眠りしている、普通の熊(玉乗り熊が普通かどうかはこの際置いておくとして)だったからです。<br /><br /></dd> <dt><a>408</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)09:52:14ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>しかし熊に向かって刀を振りかざすスサノオはあくまで本気です。<br /> 「うぬぬぬ……鍛錬場に乗り込みとはいい度胸だ。我が新奥義の餌食にしてくれよう!」<br /> ぽかんと口を開けたままのアマテラスの鼻の上で、ぴょんぴょん跳ねながらイッスンが<br /> 「ちょ……ちょっとおっさん、ありゃ、ただの寝ぼけてる熊じゃ……」<br /> 呆れ気味に制止しますが、スサノオは<br /> 「問答無用!我が剣は既にたぎっておるわ!」<br /> 当然そんなものには耳を貸しません。<br /><br /> 「では参る!スサノオ流……四字の印契(いんげい)!」<br /> 名前だけはそれっぽい必殺技を叫んで熊の周囲を囲むかがり火に向かって突進します。<br /> そしてやはり例によって例のごとく、かがり火は消えるどころかそよとも揺らぐことはなく、<br /> 「こ……これは、その……!」<br /> うろたえるスサノオを尻目に、イッスンがやれやれとアマテラスにささやきました。<br /> 「アマ公……もしかして、またお前の出番じゃねぇのかァ?」<br /><br /> このままスサノオの慌てる姿を見続けていても仕方がないので、アマテラスはイッスンの言葉に従って<br /> またまた一閃でこっそり手助けを開始。<br /><br /> 「ももも……もう一度、参る!滅、真空割破……四字の印契!」<br /> おいおい、いつの間にか技名が長くなっていますよ?<br /> それはともかく「素(す)!」と叫び、駆け抜けたスサノオの背後で「素」の文字が浮かび上がると同時に<br /> かがり火の台が砕け散り、「狭(さ)!」と叫んで斬り付けた二つ目のかがり火が<br /> 浮かんだ文字ごと切り裂かれて宙を舞い、続いて「悩(の)!」、「汚(お)!」という気合の声と共に振るわれた<br /> スサノオの剣……というかアマテラスの一閃が残り二つのかがり火を断ち割って、<br /> 最後にいよいよ仕上げの一撃、スサノオは熊に向かって剣を振りかぶると<br /> 「陰派、スサノオ流……滅、真空割破斬!」<br /> 裂帛の雄たけびが響くや、哀れ居眠り熊は真っ二つ!<br /> ……なんてことはもちろん無く、その鼻先に大きくふくらんだ鼻ちょうちんがぱちんと弾け、<br /> 熊は驚いて目を覚ましました。<br /><br /></dd> <dt><a>409</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)09:53:18ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>けれどそれもほんのわずかな間。<br /> 当たり前と言や当たり前の話ですが、鼻ちょうちんを割られた位じゃ何の痛手もありません。<br /> 熊はすぐにゴシゴシ目をこすると球からばたんと転げ落ち、地面でぐうすかと昼寝を再開します。<br /> 「フ……フハハハハハハ!」<br /> しかしそれを見たスサノオは、大得意で高笑いを始めました。<br /> 「愚かな妖怪め、思い知ったか!我が新奥義の前にもろくも崩れ去りおったわ!」<br /> 「……」<br /> 得意満面の勝利宣言に、思わず無言になってしまうイッスン。<br /> と、それを見ていたアマテラスがすたしすたしとスサノオの脇に歩み寄りました。<br /><br /> 「ワグウ?」<br /> 気がすんだ?とでもいう風なアマテラスの声を受けて鼻じろんだスサノオは剣をしまい、<br /> 焦って咳払いをすると、もっともらしくこう言います。<br /> 「うむ……まぁ、妖怪よ、ここで安らかに眠るがいい。<br /> 剣士スサノオ、罪を憎んで妖怪憎まず……次なる妖怪退治が、我を待っておるわ!」<br /> 確かに熊は眠ってるんだけど、それで合ってるような間違ってるような。<br /> 笑いながら走り去ってしまったスサノオに、アマテラスは「しょうがないな」と言わんばかり、<br /> 首をかしげて耳をぴこぴこ動かしました。<br /><br /></dd> <dt><a>410</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)09:54:14ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>さて、スサノオが去った後、ちっとも起きる気配がない熊の事はほっといて、<br /> とりあえずアマテラスは熊が乗っていた球を調べてみました。<br /> 「……この玉コロ、中に葉っぱが詰まってるぜェ。豊作祈願か何か……祭礼用の宝玉かァ?」<br /> イッスンの言葉にアマテラスは、通り道にあったあの壁画を思い出しました。<br /> 太陽の光を受けた玉が光を木まで運ぶ……そう言えばさっきの広間の水たまりは、<br /> この球を受けるのにちょうどいいサイズです。<br /><br /> 気付いたアマテラスは球を鼻先で押してころころ転がし、広間まで持っていきました。<br /> 坂道の上の水たまりに球を転がし入れるとあら不思議、どんどん水が噴き出して球が宙へと浮かびます。<br /> さっそく筆業「光明」を使い、天に太陽を描いてみると、今度射した太陽の光は水晶玉を通して緑の光となり、<br /> 光は水晶玉によってその道筋を屈折させ、見事あの木の芽へと降りそそぎました。<br /> 緑の光を浴びたちいさな木の芽はむくむくと動き出し、みるみるうちに巨大な大木へと成長します。<br /> そう、さっきイッスンが嗅ぎつけたとおり、このちいさな木の芽はサクヤヒメの分身、塞の芽でありました。<br /> しかし。<br /><br /> 「……でも、やっぱり枯れちまってらァ」<br /> 気落ちしてイッスンが言うように、せっかく大きく成長した塞の芽ですが、葉の一枚もありません。<br /> 途方に暮れた二人の頭上で、その時ふいに空が暗くなり、さやかな光が瞬きました。<br /> 見上げるアマテラスの鼻先でイッスンが叫びます。<br /> 「あ……アマ公、また星座だぜェ!」<br /> もちろんこれを逃す手はありません。ちょんちょん星を描き入れれば、星座はたちまち猿の姿になって、<br /> くるくると回りながらアマテラスの元へ降りてきました。<br /><br /> 「物の怪に憑かれ封ぜられたる我が身を、御許の通力にて救い給わり、真に畏れ多く候。<br /> いざ、この花神、全霊を尽くして御許の旅路に花香を捧げ奉らん!」<br /> きちんと正座した花神が手にした笙を吹き鳴らすや、その姿は光の球になってアマテラスのもとに帰ります。<br /> 「い……今のは草花を操る花神の一人、咲ノ花神(さきのはながみ)だァ!」<br /> イッスンが興奮して話すには、その筆業「桜花(おうか)」は枯れ木であろうとも花を咲かせることが出来るというのです。<br /> と、いうことは、もしかして。<br /> ものは試しとばかりに塞の芽に丸を描けば、やはり思ったとおり。<br /> 描いた丸は一瞬で鮮やかな桃色の花びらへと砕け、蘇った塞の芽から溢れ出た花と緑の洪水は<br /> 爆発的な勢いで山を水路を駆け抜けて、花咲谷はその名の通りの自然に満ちた美しい姿を取り戻したのです。<br /><br /></dd> <dt><a>411</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)09:57:26ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>「フェーッ、アッと言う間に草木が生え揃ったァ。<br /> サクヤの姉ちゃんの言うとおり、塞の芽の力で見事、元通りだぜェ!」<br /> イッスンは感動の溜息をついていましたが、すぐに不安そうな様子になりました。<br /> 「でも……幾ら今じゃ神サマの力が弱ってると言ったって、<br /> こんなに立派な塞の芽さえ押さえ込むなんて、よっぽどの妖力だぜェ。<br /> たとえお前があのシラヌイの生まれ変わりでも、<br /> ひょっとしたら敵わないようなすげェ奴が相手かも知れねェなァ……」<br /><br /> しかしすぐにイッスンは気を取り直して言いました。<br /> 「……そうだ、アマ公!例の野っ原で枯れてた塞の芽―――<br /> 今のお前なら蘇らせる事が出来るんじゃねェか?」<br /> 塞の芽の力が戻れば、その力でタタリ場も祓えるかも知れない。<br /> 敵の正体が何であれ、とにかく今は先に進むしかないのです。<br /> 「クヨクヨ考えるより、まずは出来る事からコツコツと、ってなァ!」<br /> いつもの調子を取り戻し、元気良く叫ぶイッスンを乗せてアマテラスは途中の木々や、<br /> まだ谷に残されていた小さなタタリ場を祓いつつ、神州平原へと降りていきました。<br /><br /> すると谷を浄化した影響か、平原のタタリ場がまばらになっています。<br /> おかげでアマテラスたちは平原の中央に立つ塞の芽の根元まで来る事が出来ました。<br /> 枯れた大木を見上げ、イッスンがわくわくとした声でアマテラスにせっつきます。<br /> 「わかってンだろォ!アマ公!このボロボロになった塞の芽―――<br /> お前の力で元の綺麗な姿に戻してやろうぜェ!」<br /> イッスンに言われるまでもありません。<br /> さっそくアマテラスは枝々の隅々まで届くよう、「桜花」の力を使って塞の芽に大きな丸を描きました。<br /><br /> すると一息の内に枯れ木は全ての枝に爛漫の花を取り戻し、眩いほどの光がその内から放たれます。<br /> 塞の芽から噴き出した春の息吹をとどめるものはもはやなく、<br /> それは緑の野原の果てまでも広がっていきます。<br /> とくに黒い闇を払い、湖畔へ達した命の光が波を蹴立てて湖を彼方に至るまで真っ青に染め上げるのは、<br /> 例えようのない喜ばしい壮観でした。<br /><br /> 「あ……あれだけのタタリ場をスッカリ消し去っちまったぜェ!?<br /> 草木や動物たち……野に吹く風の香りも元通り!まさに神降ろし中の神降ろし、大神降ろしの品格だァ!」<br /> そう、アマテラスは大自然を味方につけた神様なのです。<br /> こうやって呪いを祓っていけば、みんなの喜びがアマテラスの力を運び、<br /> きっと元の神通力を取り戻せるに違いありません。<br /><br /></dd> <dt><a>412</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)09:58:53ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>イッスンの驚き混じりの賞賛を受けながら、嬉しげに辺りの景色を見回すアマテラスの背後で、<br /> その時むくむくと動き出すものがありました。<br /> あの神木村の、サクヤヒメの神木です。<br /> 見守るうちにもかつて小さく枯れて縮こまっていた神木は伸びをするように一回り、二回りほども成長して、<br /> 新しい葉が湧き出すようにその枝を飾りました。<br /> 「姉ちゃん……塞の芽が蘇ったから、少しは元気になったかよォ?」<br /> ちょっとだけ感傷に浸る風でしみじみ呟いたイッスンでしたが、<br /> 「まぁ、姉ちゃんの所へは、また後で顔を出してみるかァ」<br /> と、わりとあっさり切り替えて、元の姿を取り戻した神州平原の観光を提案します。<br /><br /> 「お前も大昔に死んじまって、随分長い間眠りこけてたんだろォ?<br /> ちったぁ野山を駆け巡らねぇと、体がナマるってもんだぜェ!」<br /> それもそうだと思ったかはさだかではありませんが、アマテラスはその提案に乗り、<br /> そこらを見て回ってみる事にしました。<br /><br /> 取りあえず谷の反対側、湖の方を目指して進んでいくと、道が三つに分かれています。<br /> まずは左端の道をいく事にしたアマテラスたち。<br /> 浜へと続く、斜めにかしいだつり橋を下りきった頃には夜になっていました。<br /><br /> 岸壁の前には一軒の家があって、中では「炎の花火師 タマヤ」が難しい顔をしてうなっています。<br /> タマヤに「ヘンテコな火の玉」扱いされて怒るイッスン。<br /> 「おおっ?おめぇ、中々燃えてやがんな?」<br /> と妙な感心をするタマヤですが、またすぐに難しい顔に戻ってしまいました。<br /> なんでも彼の花火師人生を懸けて考え出した怒(ど)エライ打ち上げ花火、その名も「真夜中の爆裂ボォイ」<br /> それがうまく完成しないらしいのです。<br /><br /> アマテラスの、彼いわく燃えてる目を見ている内になんか閃いたらしいタマヤは、<br /> アマテラスたちの目の前で新作花火の試し打ちをしようとするのですが、結果はやっぱり大失敗。<br /> 部屋中が爆発してしまいます。<br /> 「何だ……何が足りねぇんだ!?チクショウ、何度だって挑戦してやらぁ!」<br /> 地団太を踏むタマヤですが、壁にかかっているそのViewtifulな花火の設計図を見たイッスンは<br /> 「……こいつ、全然設計図と同じに作ってねぇじゃねェか!」と呆れます。<br /> 何やら意味ありげな設計図のしるしにピンと来たアマテラス。<br /> タマヤに頼み、もう一度花火を打ち上げてもらいました。<br /><br /></dd> <dt><a>413</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)10:03:12ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>「おっ、何だおめぇら。また俺に付き合うってのか?いい度胸してるじゃねぇか!」<br /> 喜んだタマヤは座り込んでいた床からすっくと立ち上がりました。<br /> 「花火師タマヤ、行きます!大輪一番星、真夜中の爆裂ボォイの舞!」<br /> ビシィ、とポーズをとった後、むぅぅぅん!と両の拳を突き出しつつキセルに炎をともし、<br /> 更に何故かオーライベイビー、カマンと聞こえる異様な呟きを発しながら<br /> (このゲームの人は普通日本語音声を喋りません)クネクネ怪しい踊りを踊って、<br /> 無数の花火玉を発射装置に投げ込んだタマヤがキセルを装置の縁に叩き付けて着火するのと同時に、<br /> アマテラスは筆しらべを発動。壁の設計図に描かれていた「丸にちょんと導火線」の花火マークを描きました。<br /><br /> するとアマテラスの力を借りた再打ち上げは大成功。<br /> 夜の空には次々と、大輪の光の花が咲きました。<br /> 外に飛び出し、空を見上げて大喜びでジャンプするアマテラスに負けじとその鼻先で跳ねながら<br /> イッスンが感嘆の声を上げます。<br /> 「おおおおーこりゃすげェや!あのタマヤとかいう兄サン、ちょっと抜けてるけど腕は一流だなァ。<br /> ……んん?あの光は……」<br /> 言いかけてイッスンは気付き、アマテラスにうながしました。<br /> 「来たぜェ、アマ公。また星座だァ!」<br /><br /> ちょちょいと夜空に星を描けば、大きな花火玉に乗った大イノシシが、<br /> 口に花火をくわえたウリ坊たちを従えて、騒々しく天から降りてきます。<br /> 「世の中の人の心は目離(めか)るれば忘れぬべきものにこそあめれど、<br /> 我が君雲隠れ給いて目こそ隔つとも、何でう心隔つや。<br /> (世の中の人は会わないと忘れてしまうものかも知れませんが、私は我が君がお亡くなりになって<br /> そのお姿を目にすることが事が出来なくなっても、どうして心までが離れたりするでしょうか)<br /> いざこの爆神、唯今御許のもとへ帰り仕りて、輝玉(てかだま)の筆業、謹みて捧げ奉らん!」<br /> と口上を述べたまでは良かったのですが、そこでウリ坊たちの花火に火がついて、<br /> 大慌てで爆神は花火玉を転がし去って行きました。遅れて届く爆発音。<br /><br /> ば……爆神ィィィィ―――ッ!<br /><br /> こうしてアマテラスは爆神の力を手に入れました。<br /><br /></dd> <dt><a>414</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)10:04:13ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>「きっとタマヤの兄サンの情熱が筆神サマの力を蘇らせたんだぜェ!」<br /> と感動しきりのイッスン。<br /> 燃え尽きたタマヤは家の中でぶっ倒れたまま当分起きない様子なので、<br /> アマテラスは吊り橋を戻り、今度は真ん中の道へと進んでみます。<br /><br /> 真ん中の道にあったのは「十六夜神社」<br /> 十六夜の祠を訪れる旅人たちをお祓いする為の神社です。<br /> ここの神主「ミカヅキ」もまた何か困りごとがある様子。<br /> 外に広がるナカツクニ最大の湖「ハラミ湖」<br /> その真ん中に立っていたはずの十六夜の祠。それがいつの間にか消えてしまったと言うのです。<br /> 「……いつもは陰陽師のウシワカ殿が祠の警備をしているのですが、<br /> 都へ帰って留守の時に限ってこんな騒動が起こるなんて!」<br /> ミカヅキは身も世もなく嘆いています。<br /><br /> 外に出た二人が改めて湖の真ん中に伸びる道を見渡してみますと、<br /> なるほど確かに道の先には何もありません。<br /> けれども何もない道を進んで鳥居をくぐってみれば、たちまちかつての神木村と同じ、<br /> あのイヤな雰囲気に辺りが包まれて空は真っ黒、道の両端は枯れ木だらけ。<br /> しかも気がつけば確かにさっきまで無かったはずの妙な岩山の姿が目に映るではありませんか。<br /> 十六夜の祠は小さな祠だし、あんな大きな岩山今まで無かったはず、とイッスンはいぶかしみますが、<br /> とにかく正体を確かめようと岩山のふもとまで行ってみても、異様な妖気の壁が邪魔して<br /> その向こうへ進む事が出来ません。<br /> 仕方がないので岩山の調査はあきらめて、最後に残った右側の道へ行ってみます。<br /><br /> しかしそこは水路で行き止まり。<br /> イッスンが言うにはその奥には「アガタの森」というそれは美しい水源地があるそうなのですが、<br /> もとが石像だからなのか、アマテラスは神様の癖に泳ぎが下手で、水に入ったが最後、<br /> 一分もしない内におぼれてしまうのです。<br /> 結局その道も通行止めも同じで、けれどある程度散策もした事だし、<br /> アマテラスたちはここで一旦神木村に戻る事にしました。<br /><br /></dd> <dt><a>415</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)10:07:33ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>村の入り口まで戻ってきたイッスンとアマテラス。<br /> そこで彼らはなんだか村の様子が前と違っている事に気がつきます。<br /> けれどそれは悪い変化ではありません。<br /> 辺りはきらきらとした空気に満ち、みんなどことなく浮き立っているようなのです。<br /><br /> いつものように田んぼの手入れをしながらクシナダが<br /> 「こんなふうに青葉吹雪が舞うのも何年ぶりかしら。ご神木のコノハナさまが元気になっていた証拠ね」<br /> と舞い散る桜の葉に目を細めています。<br /> どこからか響いてくる、このうきうきするような祭囃子はミカン爺の花踊り。<br /> どんな枯れ木でも鼻をつけるこの踊りを昔はいつも踊っていたのに、大分前からミカン爺は<br /> 「神様の力が弱くなったから」<br /> と言って踊らなくなってしまったそうなのです。<br /><br /> クシナダにミカン爺の居場所を教えてもらったアマテラスたちは、<br /> 最初にミカン爺と会ったあの高台の「神の見やぐら」にやって来ました。<br /> ですがミカン爺は踊りに夢中で、話しかけたアマテラスたちにも気付かない様子です。<br /> ちょwww爺ちゃんそれカポエラwww更にブレイクダンスでサタデーナイトフィーバーwww<br /> さんざん踊りまくった挙句、<br /> 「ムッ……お前は暴れ者の白オオカミ!」<br /> ようやく二人の見物客に気付くと<br /> 「よくもワシを放り投げてくれたな!」<br /> ミカン爺は頭から湯気を出して怒りだしました。<br /><br /> けれどひとしきり怒り、<br /> 「よいか、白いの。ワシは動物の流儀は尊重するが、この神木村で悪さをする奴には<br /> キッチリとバツを与えるぞい!」と説教をした後で<br /> 「そんな事よりのう……」<br /> 何やら言いかけて口ごもるので、アマテラスは詳しい話を聞こうとするのですが、<br /> ミカン爺はまたも踊りに夢中でちっとも気がつきません。<br /> ようやっと一段落着いた所で、「ワシの花踊りが通じて」青葉吹雪を舞わせるほどに回復したコノハナさまが、<br /> なのに問いかけてもまったく答えてくれない、というミカン爺の悩みを聞きだすことが出来ました。<br /> まさか病魔に冒され続けて魂が昇天してしまったのでは。<br /> 「……いや、そんなはずはないわい!たとえそうだとしても、我が秘伝の舞『真神楽』で呼び戻してみせるぞい!」<br /> と何だかすごい事を言い、「せめて……せめて大地の力を借りる事が出来れば……!」<br /> という思わせぶりな呟きの先を更に詳しく聞こうとしましたが、<br /> またしてもミカン爺は踊りにm(スキップ)<br /><br /></dd> <dt><a>416</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)10:09:08ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>結局、やっとの事で今のミカン爺が真神楽とやらを待っても効果はない、<br /> 何故ならば大地の力を借りてこそご神木の魂を救う力を発揮できる出来るから。<br /> あるいは村中の桜の木に花がつくほど大地に力が戻ればなんとかなるやもという話のキモを聞き出しました。<br /> 最後にミカン爺が発した「あの禁断の神楽をもう一度舞ったらワシは……ワシはもう二度と……」<br /> という独白と、どよんとした表情が気にかからないではないではないですが、<br /> それでも呼びかけに答えないサクヤヒメのことが心配な二人は<br /> 村中の桜の木に「桜花」で容赦なく花を咲かせてまわります。<br /><br /> 「ついに……ついにこの時が来たわい」<br /> 最後の桜の木が花を咲かせたのを感じ取ったミカン爺はぽつりとひとりごちました。<br /> 「ワシの願いが通じ、村の枯れ木が全て蘇ったぞい!今こそ大地にみなぎる<br /> この生命の力を借り―――ご神木コノハナさまの魂を呼び戻す禁断の舞、真神楽を捧げるぞい!」<br /> そこでミカン爺は幻の酒「益荒男(ますらお)」を懐から取り出し、高々と天に向かって掲げます。<br /> 「我、ここに禁酒の誓いを破り……末期の花見酒をとくと味わうぞい!」<br /> ああ、やはり舞を舞ったらミカン爺は……。<br /> しかし、悲壮な言葉とは裏腹に豪快に酒を煽ったミカン爺は、酒臭い息をぷはーっと吐くや<br /> 酒瓶を放り出して「来た来た来た来た―――ッ!!」力いっぱいガッツポーズを取りました。<br /><br /> すると突如として頭のミカンが怪しく光りだし、ミカン色の風が吹き出したかと思うと<br /> 一瞬にしてミカン爺の頭と同じ位の大きさに巨大化します。<br /> 「じ……じいさん、目がヤバくなってねェか?」<br /> 驚愕の余り、巨大ミカンからもはや目が離せないアマテラスの頭上で、<br /> 跳ねるのも忘れてたじたじとしながらイッスンが囁きました。<br /> 「シロ、そしてイッスン……お前たち二人が伝説の生き証人になるんじゃ」<br /> ボディビルダーのポーズを取ったままぐりんと振り向いたミカン爺に、思わずビビッたアマテラスでしたが、<br /> アルコール臭に当てられたのかすぐに目をそらして溜息を吐いてしまいました。<br /><br /> 「では奥義真神楽、行くぞい!」<br /> くるりと回ってポーズするミカン爺。<br /> 続いて彼が神楽を舞い始めると、ジャッキーが酒飲んでやってたアレっぽいステップを踏むたびに、<br /> なんと本当にサクヤヒメの神木、コノハナさまにズバッ!ズバッ!と花が咲き始めます。<br /> けれども調子がよかったのは最初だけで、ここぞとばかりに力を込めて両手を突き出したのに<br /> 桜の木は突如うんともすんとも言わなくなってしまいました。<br /> 途端にうにゅう、と気合が抜けたようになってミカン爺はひっくり返ってしまいます。<br /><br /></dd> <dt><a>417</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)10:10:33ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>「ダメじゃ……まるっきりダメじゃ!あそこでパッと花が咲くはずなのじゃが……<br /> ワシの……ワシの真神楽はまがい物じゃったのか!?」<br /> けれどもミカン爺はすぐに跳ね起き、<br /> 「いや……今更そんな事はどうでもよい。コノハナさまに花が咲き誇るまで……ワシは舞うのをやめぬ!」<br /> 強い声で言うなり、再び舞の構えを取りました。<br /> 「では秘奥義真神楽、またまた行くぞい!」<br /> 二度目の神楽がさっき失敗した所にさしかかると……今度は見事、満開の桜がひとむら、<br /> 勢いよくコノハナさまの枝に宿ります。<br /> ミカン爺の踊りは本当にご神木復活の力になるかもしれない。<br /> イッスンにうながされたアマテラスが手伝ってあげる事にしたのです。<br /><br /> そうしてミカン爺が踊るごと、葉桜だったコノハナさまはどんどん桜色に染まって行き……<br /> パンチやキックを繰り出して思うさまパワーをためたミカン爺が最後にひらりと軽やかに飛び、<br /> 地面に降り立ってポーズを決めると同時に桃色の風が桜から吹き出して、<br /> コノハナさまは満開の姿を取り戻しました。<br /><br /> 青葉吹雪が桜吹雪へと取って代わり、春景色の村を彩ります。<br /> アマテラスは踊り終わった直後、床で大の字になってしまったミカン爺に近づき、<br /> ふんふんと匂いをかぎました。<br /> アマテラスが手伝ったおかげなのか、さいわいミカン爺はただ疲れて眠っているだけのようです。<br /> 安心してコノハナさまを見上げたアマテラスの目に、桃色の光の玉が映ります。<br /> 「おお、アマテラス大神」光がはじけると、その中からようやく復活したサクヤヒメが現れました。<br /><br /> 「何だい何だい、顔色良さそうじゃねェか!」<br /> イッスンの呼びかけに<br /> 「フフフ、玉虫や。お前も変わらず元気そうですね」<br /> サクヤヒメは微笑んで、倒れているミカン爺を見下ろしました。<br /> 「そして、私のために全てを奉じた勇気ある老人よ……<br /> あなた方の並々ならぬお心入れ、まことかたじけのう存じます。<br /> おかげでこのサクヤ、かくの如く立ち直りました」<br /><br /> 以前の着物もあちこちが大胆に開いたチャイナ風のセクシーな物でしたが、<br /> 心地よさげに伸びをするサクヤヒメが今新しく身にまとっているのは、<br /> 申し訳程度に布のついたピンクのビキニにロングパレオ。<br /> エッチ度がかなりグレードアップしたその艶姿に、イッスンが「ゴクリ……」と思わず生唾を飲み込みました。<br /> アマテラスも鼻息を荒くしています……って、え?アマテラスって確か女神じゃなかったですか?<br /> それはともかく<br /> 「その有り難き恩恵に報い、胸に抱きし敬愛の念を我らが慈母、アマテラス大御神に捧げ奉らん!」<br /> 声高らかに叫んだサクヤヒメが「うっふぅーん」と昔懐かしいながらも強烈な「だっちゅーの」ポーズを取って<br /> パレオの隙間から眩しい太ももをチラ見せすると、彼女の敬愛の念(?)<br /> ……というか幸玉がアマテラスの体に吸い込まれます。<br /><br /></dd> <dt><a>418</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/04/27(木)10:11:46ID:eh+nKcDz</font></dt> <dd>「このナカツクニを乱したる元凶未だ知れませんが、各地に散らばる塞の芽を蘇らせ、<br /> 大地の生気を取り戻し給えば、必ずや大神たる貴方への合力になる事でしょう。<br /> 私はあの神木の袂にて旅の無事をお祈りしておりますれば―――」<br /> そう言うとサクヤヒメは、再び光に姿を変えてコノハナさまの中に消えました。<br /> と思う間もなく空が暗くなり、星の光が降り注ぎます。<br /><br /> 「お……おい、今度は……!?」<br /> 星を描き入れるとそれは笛を手にした猿神になり、アマテラスの下に飛び降りてきましたが、<br /> 勢いがよすぎて画面に激突してしまいました。<br /> 呆れる咲ノ花神の横で首を振り、立ち上がった二人目の桜花の神様は笛を吹き、飛び跳ねながら言いました。<br /> 「我、神木に身を寄せ、禍々しき浮世から逃れたるを、<br /> 戦とあらばこの蓮ノ花神、御許の懐に帰り奉りて、随神(かむながら)万里の波濤にいざ向かわん!」<br /> こうして蓮ノ花神がアマテラスの元へと帰りました。<br /><br /> さっそくアマテラスたちは村の水辺へ向かい、新しい力を試します。<br /> 桜が舞い散る水面に丸を描くと、それは大きな蓮の葉になりました。<br /> 葉っぱの上に飛び乗って、得意げな鼻嵐を吹くアマテラス。<br /> この筆しらべを使えば、溺れることなくどんな大河だって渡る事が出来るでしょう。<br /> 「せっかくこんな力を手に入れたんだから、このハスを使ってもっと遠くへ行ってみねェか?」<br /> というイッスンの提案に乗ってアマテラスはさっき通れなかった、神州平原のあの水路に向かいます。<br /> そしてアマテラスたちは水路を渡り、その先のふさがれた通路を爆神の輝玉で通り抜け、<br /> アガタの森へ足を踏み入れるのでした。<br /><br /><br /> ではまた次回!<br /><br /></dd> <dt><a>496</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/05/11(木)08:15:14ID:uNHNbje0</font></dt> <dd>オーカミいきます。<br /> サボってる間にクリアしてみたら、イランと思って省いてた一見どうでもいいイベントや記述が<br /> エンディングにしっかり関わっておりましたとさ。チクショウorz<br /> まーもーそこら辺もあって訂正は最後wikiにあげてからまとめてします。キリないし。<br /> ではどうぞ。<br /><br /> 水路を抜けて、アガタの森へとやってきたアマテラスたち。<br /> しかしそこはかつての神州平原と同じ、禍々しい空気を放つタタリ場と化しておりました。<br /> ナカツクニを覆った災厄の大きさを今更ながらにまざまざと感じつつ、<br /> タタリ場のふちに細々と残されていた道を行きますと、<br /> 幸いにもそこに残されていた塞の芽を発見、アマテラスはアガタの森を元の姿に戻します。<br /><br /> 胸のすくような心地よい風と共に美しい湿地帯へと生まれ変わったアガタの森。<br /> その景色をもっとよく見ようと足を踏み出した二人の耳に、けれどもその時不思議な笛の音が届きました。<br /> 雅やかな調べの源を探して首をめぐらすと、遥か頭上、大木の梢で蕭蕭と横笛を吹き鳴らす人影があります。<br /> その人影、薄桃色の稚児装束をまとい、マントのような長い薄絹の上に<br /> カラス天狗の面をあみだにかぶった若者は、見上げる二人の前で一節ばかり奏じたのちに<br /> 横笛を唇から放し、涼やかな声で言いました。<br /><br /> 「天呼ぶ地呼ぶ、海が呼ぶ……物の怪倒せと我を呼ぶ!<br /> 人倫の伝道師、ウシワカ、イズ、ヒア!」<br /><br /> ザン!ザン!チャキィィィン!(決めポーズ&効果音)<br /><br /><br /><br /> ……ポカ―――ン……<br /><br /><br /><br /> これまでの世界観から余りにもブッ飛んだキャラ立ちのウシワカに、<br /> アマテラスたちはついついボーゼンジシツとなってしまいます。<br /><br /> 「な……何だィ、ありゃ」<br /> しばしののちに、やっと我に帰ったイッスンが呟くのを見下ろして、<br /> 「その真紅の隈取、そして、その身に粧(めか)し込んだ神の器……<br /> なるほど、傾(かぶ)いたルックスだけど、その実力は本物かな……ベイビィ?」<br /> ウシワカは意味深なセリフを言いました。<br /><br /></dd> <dt><a>497</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/05/11(木)08:18:29ID:uNHNbje0</font></dt> <dd>「ヤイヤイ、そんな高い所から何をエラそうにしてんだィ!ちゃんと降りて来て話を―――」<br /> いつもの調子を取り戻し、怒鳴りかけてイッスンは気付きます。<br /> 「待てよ?あいつ、アマ公の本当の姿が見えてるのかァ?」<br /> イッスンの言う事を素直に聞いたわけではないのでしょうが、<br /> そこでウシワカが梢の上から飛び降りてきました。<br /><br /> 身軽をもはや通り越して重力とは無縁の身のこなし、あまつさえ水面に波紋を描き、<br /> ふわりと降り立ったウシワカを見て、いまだアパーンと口を開けたまま首を片側に傾けるアマテラス。<br /> その眼前で、ウシワカはきゅるきゅる笛を回すと額の位置に掲げ、その根元に左手を添えました。<br /> すると一瞬にして笛が縮み、すいと両腕を開くに従って、横笛を柄にした光の剣<br /> ……っていうかまんまなレーザーブレードが現れます。<br /> これにはさしものアマテラスもぎょっとしてぶるぶる首を振り、ようやく現実に帰りました。<br /> 「ああっ、この野郎、刀を抜きやがったァ!」<br /> その鼻先で焦るイッスンに平然とウシワカは応えます。<br /> 「抜いたとも……ミーはこれでなくては語れない男だからね」<br /><br /> 続いて彼は妙な事を尋ねてきます。<br /> ナカツクニにタタリ場が広がった時、宝剣『ツクヨミ』を抜いた人影が神木村へ逃げ込んだ上、<br /> 大岩で入り口を塞ぐのを見たが、それについてユーたち何か知らないか、と。<br /><br /> 刀をこちらへ向けたウシワカからほとばしる殺気に<br /> 「おい、何かヤバいぜェ!ここはひとまず様子を見た方が……」<br /> とイッスンは慎重に呼びかけますが<br /> 「……ってアマ公、お前またコーフンしてるのかよォ!」<br /> 低く身構え鼻息荒く唸り声を上げるアマテラスの耳には全然届いていないようです。<br /><br /> 「グッド!そう来なくっちゃ……」<br /> その様子を見たウシワカは満足そうにこう言うと、<br /> 「では我が愛刀、ピロウトークの調べを―――思う存分、聴かせてあげようか!」<br /> 水飛沫を散らしつつ無駄にカッコイイ剣舞とともに腰のもう一刀(こっちは普通の刀)を抜き放ち、声高らかに叫びました。<br /> 「レッツロック、ベイビィ!」<br /><br /></dd> <dt><a>498</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/05/11(木)08:23:02ID:uNHNbje0</font></dt> <dd>しかし続いて始まった激しい戦いのさなか、<br /> 「よそう、アマテラス君……」<br /> ウシワカは自ら剣を引いてしまいます。<br /> 「久しぶりに、ユーの力を味わったけど……もう充分だよ」<br /> キラァン……!と汗だか跳ねた水沫だかを払い、涼しげに言うウシワカに<br /> 「何だい今更、お前の方から仕掛けて来たんだろォ!」と怒るイッスンですが、<br /> 「……あれェ?アマ公、あいつと知り合いなのかァ……?」<br /> 再び途中で気付いてアマテラスを振り返りました。<br /><br /> ですがアマテラスはいつもどおりのオトボケ調。<br /> 「ん?そーだったっけ?」みたいな、言われて初めて気付いた感じでキョトンとしています。<br /> 「こんな不器用な真似しか出来なくて悪かったね……ベイビィ」<br /> そんな二人に愉快そうな笑みを漏らすと、ウシワカは彼のこれまでの行動を話し始めます。<br /><br /> 彼が行っていたのは辺り一帯を襲った怪現象の調査。<br /> ナカツクニをタタリ場で覆いつくし、太陽まで消した、呪いの原因。<br /> それは伝説の怪物ヤマタノオロチ。<br /><br /> 「ヤ……ヤマタノオロチ……?」<br /> ようやく判明した敵の名に慄然とするイッスンを<br /> 「不用意にその名前を口にしない方がいいよ。心の弱い者はそれだけで呪われてしまう」<br /> とたしなめて、更にウシワカは語ります。<br /> 百年前にシラヌイとイザナギによって封印され、ウシワカが警護する十六夜の祠に封じられていた筈の<br /> その怪物が、彼の留守中、何者かによって解放されてしまった事を。<br /><br /> 「まさか、誰にも抜けないはずのツクヨミがいとも簡単に引き抜かれるとはね……」<br /> 重々しい話を終えて、ウシワカは<br /> 「どうやら、ミーの予知を越える運命の動きがありそうだよ」<br /> とシリアスにアマテラスを振り向きますが、当のアマテラスは<br /><br /><br /> ま、またしても寝てやがるッ……!<br /><br /><br /> 思わずずっこけるウシワカに、<br /> 「そんな運命が何だってんだィ!オイラたちはその呪いを解いて回ってるんだぜェ」<br /> 得意げに笑ってイッスンは<br /> 「この調子でヤマタノオロチだって、コツーンと小突いてやらァ!」<br /> と眠っているアマテラスに頭突きをかまします。<br /><br /></dd> <dt><a>499</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/05/11(木)08:24:45ID:uNHNbje0</font></dt> <dd>「へぇ……この辺を蘇らせたのはユーたちだったんだ」<br /> 少し感心した風のウシワカでしたが<br /> 「でもオロチが復活してから、それなりに時間が経っていると言うのに、随分スローなペースだねぇ」<br /> 小憎らしい事を言って、イッスンに指を突きつけました。<br /><br /> 「な……何ィ!?」と怒声を上げるイッスンに、ウシワカは<br /> 今の戦いでのアマテラスの力にはガッカリだ、<br /> 過去のヤマタノオロチとの戦いで慢心して衰えちゃったんじゃないの?<br /> とアメリカンなお手上げポーズで更に追い討ちをかけてきます。<br /> 「この野郎、言わせておけばァ……」<br /> 怒り心頭に発して刀を抜き放ったイッスン、<br /> さっき神木村に逃げる人影を見たとか言ったウシワカこそ怪しいもんだと言い返しますが、<br /> ウシワカは「何を興奮してるんだい、このゴムマリ君は……?」と柳に風。その上<br /> 「……そうそう!ミーには未来を予知する力があるんだけど、ユーたちに一つ、予言の言葉をプレゼントするよ」<br /> 何だかおかしなことを言い出しました。<br /> そうして腕組みをして沈思することしばし。<br /><br /><br /> 『スリル満点、丸太でゴー!』<br /><br /><br /> ピキィィィン!と再度決めポーズを取って謎ワードを発するや、<br /> 「さてと……ミーは忙しいので、そろそろ失礼するよ。それじゃあ……グッバイ、ベイビィ!」<br /> ウシワカは人間離れしたジャンプ力を見せて、現れたときと同じく唐突に、木立の向こうに消え去ってしまいました。<br /><br /> 「ケェーッ!!何だい何だい、あの野郎はァ!」<br /> 言いたいことだけ言われて去られたイッスンはまったく面白くありません。<br /> 「起きろ起きろォ、アマ公!さっさと先を急ごうぜェ!」<br /> 頭突かれた一瞬だけ迷惑そうに目を覚ましたものの、またさっさと寝入ってしまっていた<br /> アマテラスを叩き起こし、早々に冒険を再開しました。<br /><br /></dd> <dt><a>500</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/05/11(木)08:30:02ID:uNHNbje0</font></dt> <dd>歩き始めて間もなく、二人は森の住人、カリウドに出会います。<br /> 話を聞くに、カリウドには息子がいるらしいのですが、<br /> カリウドが森で拾ってきた犬をこの息子が看病しているうちに猫可愛がりするようになってしまい、<br /> 犬の梅太郎にかまけてカリウドが言いつけた橋の修繕に取りかかろうとしないので困っているというのです。<br /><br /> 息子は優しすぎる余り冒険しようとしない。<br /> 隣のクサナギ村へ通じる橋を「男になる為」に息子に新しく架け直して欲しい。<br /> 息子を信じてカリウドは待ち続けていました。<br /> けれど二人が森の奥の奈落井川へ行ってみても凄まじい流れがどうどうと逆巻いているだけで、<br /> あるのは橋の残骸ばかり。彼の息子の姿などどこにも見えません。<br /><br /> 道を戻って森の中を行くと、湖の岸辺にウサギの帽子をかぶった男の子がぽつんと、<br /> 塞いだ風で釣竿を手にたたずんでいます。<br /> これがカリウドの子、コカリでした。<br /> 「梅太郎……あいつ、無事でいるかなぁ……何だいワン子。キミも一人ぼっちなの?」<br /> そう呟くコカリの手元をよくみれば、奇妙な事に釣竿には糸がなく、当然その先にあるはずの釣り針もありません。<br /><br /> 問わず語りにコカリが言うには、森の奥にあるツタ巻遺跡の鍵を偶然見つけて<br /> 梅太郎と共に探険に出かけたまではよかったものの、遺跡の奥から聞こえてきた不気味な唸り声に<br /> 驚いて逃げる途中梅太郎とはぐれてしまい、その上それに気付かず遺跡に鍵をかけてなおも逃げているうちに、<br /> 転んで遺跡の鍵を水の中に落としてしまったそうなのです。<br /><br /> 「梅太郎はきっと、遺跡の中に取り残されたままだよ……ずっと一人ぼっちで泣いているんだよ!<br /> ボク……カギを釣り上げようと頑張ったんだけど、針も糸も全部魚に取られてサオだけになっちゃったんだ!」<br /> そこまで話し終えると、コカリはわんわんと泣き出してしまいました。<br /> 「ウムムムムム……この野郎、メソメソしやがってェ」<br /> 金玉虫と泣き虫が大キライなイッスンはコカリの根性を入れ直すようアマテラスに命じ、<br /> それに従ったアマテラスの頭突きで「ギャフン!」と吹っ飛んで目を白黒させるコカリにこう言い放ちます。<br /> 「お前……大切な犬を、危険な遺跡に置き去りにしちまったんだろォ?<br /> だったら、何があってもそのカギを釣り上げて、助けに行けよォ!」<br /><br /> ムチャな注文に、<br /> 「で……でも……」とコカリが口ごもると、イッスンは<br /> 「あのなァ、釣りなんてモンはノリだィ、ノリ!ノリが良けりゃ、魚でも女でも、釣れるモンなんだよォ!<br /> さぁ、オイラたちが見ててやるから、楽しいノリでやってみなァ!」<br /> 更にムチャな事を言って、アマテラスに向き直りました。<br /> 「さァて、アマ公……こいつの釣り、筆調べで手伝ってやろうぜェ」<br /><br /></dd> <dt><a>501</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/05/11(木)08:34:41ID:uNHNbje0</font></dt> <dd>なるほど、『あるはずの糸が無い』……それなら、サオと魚を線で繋いで糸を描いてやればいい。<br /> イッスンの無茶なセリフはそういう事だったのです。<br /> 心得たアマテラスが「画龍」で筆を走らせると、水中の魚がたちまち棹の先に繋がれて、<br /> じたばたと水を跳ね散らして暴れ出しました。<br /> 「わわっ、魚がかかったよ!?」<br /> と驚いたコカリでしたが、すぐに夢中になって魚との力比べをはじめます。<br /><br /> 最初の方こそ小物ばかりでしたがしばらく釣り続けていますと、<br /> 他の魚を追い払って悠々と泳ぐ、巨大な魚影が現れました。<br /> これに目をつけたアマテラスが釣針ならぬ画龍の糸を引っ掛けて、<br /> コカリが懸命にサオを引く事しばし、奮闘の末に何とか釣り上げる事が出来ました。<br /><br /> 「す……すごい大物が釣れたねぇ」<br /> 陸に打ち上げられてのたうつ、シャチほどもある巨大な鮭にコカリはしばらく目を丸くしていましたが、<br /> 苦しげにぱくぱくと開閉する巨大魚の口から水と一緒に奇妙な木の実が飛び出すと、<br /> 驚きに喜びの色を加えてぴょんと飛び上がりました。<br /> 「あれれれーっ!!こ……これは、遺跡のカギだぁ!」<br /> 木の実のようなその物体は、なんと大シャケが飲み込んでいた、遺跡のカギだったのです。<br /><br /> 大喜びのコカリはさっそく遺跡に向かう為、勇んでカギに手を伸ばしましたが、<br /> それをアマテラスが脇からひょいと奪ってしまいます。<br /> 「ああっ、ワン子、何するんだよ!」<br /> コカリは腹を立てますが、<br /> 「へっへ、粋な事するじゃねェか、アマ公」<br /> イッスンはニヤリと笑って言いました。<br /> いくら友達を助ける為とはいえ、子供に危ない真似をさせるわけには行きません。<br /><br /> 「さァて、そのツタ巻遺跡とやらに、迷子の犬探しと洒落込もうぜェ!」<br /> こうしてアマテラスは地団太を踏むコカリからカギをくわえてすたこら逃げ出し、ツタ巻遺跡へ向かうのでした。<br /><br /> また次回!<br /><br /><br /></dd> <dt><a>178</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/06/16(金)08:20:24ID:SwdmSHy8</font></dt> <dd>大神行きます。<br /><br /> 遺跡の前までやって来ると、どこからか聞きなれた寝息が聞こえました。<br /> 地面に大の字になって、相も変わらずの大いびきをたてていたスサノオは、<br /> 近づいてきたアマテラスたちに気付くと飛び起きて、おもむろに素振りを始めます。<br /><br /> 言い訳がましくスサノオが言うには、この先の高宮平で人々を苦しめている怪物を退治するため、<br /> 橋の再建を待ちがてら絶対奥義の会得とやらに励んでいるらしいのですが、<br /> その割には怪物の名前もうろ覚えです。<br /> 「奥義を会得した暁には、濁流を泳いででも退治に出向いてくれるわ!」<br /> などと言ってますが本当でしょうか?<br /> まぁそれはほっといて、アマテラスたちはコカリから奪ってきた鍵を使い、遺跡の中へ進入します。<br /><br /> 欲深にもお宝を期待して不気味な含み笑いを漏らしながらイッスンがいうには、<br /> この遺跡には大昔から誰も入った事がないそうなのですが、しかし一面に苔むしたその内部には<br /> 禍々しい色の池が広がっておりました。<br /> 池の中央にはいかにも怪しい巨大な土偶がそびえ立っているのですが、蓮の葉を水の上に描こうとしても、<br /> 描き出した葉は水の毒ですぐに枯れてしまい、土偶に近づく事が出来ません。<br /> 巨大土偶に至る方法を求め、アマテラスは魔物に充たされた遺跡の中を進みます。<br /><br /> 何者かに施された仕掛けを解いたり、筆調べの力を借りたりして道を切り開き、<br /> どんどん奥へ行きますと、池の水源と見られる滝にたどり着きました。<br /> 滝の下には毒水を吐き出す奇妙な壺が並んでいます。<br /> これが遺跡の汚染源と悟ったアマテラスは一つ残らず壺を打ち壊しました。<br /> すると流れはたちまち清さを取り戻し、澄み渡った池には飛び石が浮かび上がります。<br /><br /> 土偶の中で桜花三神の最後の一柱、「蔦ノ花神(つたのはながみ)」を得たアマテラスは<br /> 空中に咲いた不思議な神様の花、桃コノハナの蔦を使って土偶の中を上へ上へと登って行きました。<br /> 途中の穴から土偶の外へ、更に登って土偶の頭に至ったアマテラス、イッスンの<br /> 「……おやァ?この、思わず何かを結び付けたくなっちまう取っ手は何だィ?」<br /> というなんとも脱力なアドバイスに従って、土偶の頭についたフック状の物体に蔦を結びつけ、<br /> 持ち上げて開いた土偶の頭部に飛び込みました。<br /><br /></dd> <dt><a>179</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/06/16(金)08:21:42ID:SwdmSHy8</font></dt> <dd>そうしてなおもずんすん快調に進んで行ったアマテラスですが、<br /> 足元に大穴が開いていたのにも気付かずに空中を数歩歩いた所で<br /> アメリカンギャグ的に我に帰ってまっさかさま、無様に穴の底に転げ落ちてしまいます。<br /> ころころとでんぐり返ったアマテラスを<br /> 「痛ってェな、この毛むくじゃらァ!」<br /> 頭を振ったイッスンがぴょんぴょん跳ねながら怒鳴りつけ、<br /> アマテラスはおなかを見せた姿勢のままでぴょこんと飛び上がりました。しかし<br /> 「いつもボアッとするなって言ってるだろォ!?」<br /> と重ねて怒鳴ったイッスンの背後で、ふいに巨大な影が身じろぎします。<br /><br /> 「……今、何か動いたかァ?」<br /> と首を振り向けるイッスン。<br /> アマテラスも広げた股の間からきょとんとそちらを覗きます。<br /> そこにあったのはくすんだ桃色の花びらと、<br /> いくつかの白いおしべの玉に囲まれためしべを備えた一輪の巨大な花。<br /><br /> 「……こりゃ、とんでもないお宝を探し当てたかも知れないぜェ!」<br /> と叫んだイッスンは奇怪な花に恐れ気もなく近寄ると、<br /> 「大抵こういう物の中には、お宝が眠ってるモンなんだィ!」<br /> 勢い込んでめしべに飛びつき、わくわくして花の内部を見渡しましたが、<br /> 眼下で丸まっている物を見て、拍子抜けしたように声を落とします。<br /> 「何だァ、こりゃ……犬コロ?」<br /> そう、それはお宝などではなく、目玉に似た気味の悪いおしべの根元でのん気に寝息を立てている、<br /> 小さな柴犬でありました。<br /><br /> その時突然アマテラスが跳ね起き、首をひねるイッスンに向かって猛然と駆け出します。<br /> イッスンの背後に異様な影がゆらりと立ち上がり、今にも襲い掛かろうとしていたからです。<br /> ワンジャンプでめしべの上のイッスンをくわえるや、間髪入れずに更に高々と再跳躍したアマテラス。<br /> その背に向けて、鞭のように影が身をしならせ、紫色の光球を打ち出します。<br /> アマテラスは宙でひらりととんぼを打ってわずかに尻尾をかすらせたのみで光球をかわし、<br /> 地面に降り立つと、ヨダレまみれにされて怒り狂うイッスンをくわえたまま猛々しい唸り声を上げました。<br /> そんな二人の目前で花はするすると丸いツボミに戻り、<br /> その後ろには八つの影が不気味にのたうっています。<br /><br /> 「お……おい、あの八本のアレはもしかして……」<br /> ウシワカの話を思い出したのか、アマテラスの口の中でイッスンがいっとき怒るのも忘れて呟きましたが、<br /> 次の瞬間、八つの影は次々にその先端を地面に突き刺し、八本の巨大な脚へと変じます。<br /> 「我ラガ主君ノ黄泉帰リシ、メデタキ折ニ―――トヤカクヤト嗅ギ回ル、ウットウシイ犬トハオ前カエ?」<br /> つぼみかと思えたのはその胴体。<br /> 巨大な花の正体は、人に良く似た青白い顔に長い髪を垂らした巨大な女郎蜘蛛だったのです。<br /><br /></dd> <dt><a>180</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/06/16(金)08:23:03ID:SwdmSHy8</font></dt> <dd>ですがバケモノが正体を現してもアマテラスは慌てず騒がず。<br /> イッスンを放して地面に腰を下ろすと、くわくわと気の抜けた大あくびをかましました。<br /> 「……フザケタ真似ヲスル犬ダヨ。遺言クライハ聞イテヤロウト言ウノニ、生意気ナ態度ダネェ」<br /> 女郎蜘蛛は地面をぐらぐら揺らしながらアマテラスに近づいて、<br /> 脅かすようにのっぺらぼうの顔でこの「生意気な犬」を覗きこみましたが、<br /> アマテラスはまったくの知らん顔でそっぽを向いて、<br /> 何やらもぐもぐと口を動かしています。<br /><br /> ところがどうやら驚いた事にこの蜘蛛にはそれが何を言っているのかわかるのらしく、女郎蜘蛛は<br /> 「何ダッテ?……コノ期ニ及ンデ、ソンナ悪タレ口ヲ!<br /> 犬ヲ喰ラウ趣味ハナイケド、アタシノ腹ノ中デ、溶カシテヤロウカイ?」<br /> 大きく裂けた口を開いてその両端に備えた長い牙を見せ付けました。<br /> この脅し文句にイッスンが<br /> 「何言ってやがんだィ、腹ん中に犬コロを咥え込んでよォ!?<br /> それにこちとら犬じゃねぇやィ、これでも立派な大神サマだィ!」<br /> と言い返すと、<br /> 「アレ!人間ノ言葉モ話セルトハ驚イタヨ」<br /> アマテラスの上のイッスンが見えるほど視力が良くないのか、それとも単にボケなのか、<br /> 女郎蜘蛛は感心したようにそう言って身を引きましたが<br /> 「……デハ大神トヤラ、死出ノ山路ヘノイソギハ良イカエ?<br /> 楽ニ逝カセテヤルカラ、ソコヲ動クンジャナイヨ!」<br /> すぐに気を取り直し、顔が隠れるほどの大量の糸を吹き出すと、それをアマテラスに叩きつけました。<br /> ですが勿論そんな物に絡めとられるアマテラスではありません。<br /> ひらりと脇に身を避けると、どこかのアクションスターよろしく前足の先で鼻をこすり、巨大な敵に対峙します。<br /><br /> 女郎蜘蛛は毒の卵を吐き、天高く跳ねて押しつぶそうとしてきますがアマテラスも負けてはいません。<br /> 新たに手にした蔦ノ花神の力で敵の弱点、腹の中の目玉を露出させて攻撃を加えます。<br /> 激闘のすえに女郎蜘蛛は地に伏して、そのまま巨大な花に変わりました。<br /> かつての敵をおびき寄せる擬態の妖花ではありません。<br /> アマテラスの力によって浄化され、遺跡の奥でひっそりと咲く、本物の美しい花になったのです。<br /><br /> 花の中でいまだ眠っていた、ある意味図太い小犬が起きるのを待って<br /> アマテラスたちは遺跡の入り口へ―――<br /> 「と、その前に……目覚めのイッパツ、大神サマの勝ち名乗りと行こうじゃねェか!」<br /> 電光丸を威勢良く抜いたイッスンに応えてアマテラスは見得を切り、高々と勝利の雄叫びを上げたのでした。<br /><br /></dd> <dt><a>181</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/06/16(金)08:24:52ID:SwdmSHy8</font></dt> <dd>アマテラスたちが遺跡を出てくると、そこにやっと追いついてきたコカリがあらわれて、<br /> 「ボクのカギ、返せよーっ!早く梅太郎を助けなきゃ……」<br /> 腕を振り回しながらわめき出しましたが<br /> 「あれれれれーっ!?」<br /> アマテラスがくわえている、梅模様のまだらがある小犬を見てゴシゴシと目をこすります。<br /> 「梅太郎?……梅太郎じゃないか!お前……無事だったんだね!」<br /><br /> が、アマテラスにぞんざいに放り出された小犬はすたっと立ち上がると、<br /> 怪我はないかとか寂しくなかったかとか、さっそく過保護な心配を始めたコカリに低く構えて、<br /> 鼻息荒く唸り出しました。<br /> 戸惑うコカリにイッスンがこの犬コロは、遺跡の奥から中々帰ろうとしなかったと説明します。<br /> 一人で逃げたコカリのことを怒っている訳ではありません。<br /> 何故なら梅太郎は自ら遺跡に残っていたからです。<br /><br /> 「何か伝えたい事でもあったンじゃねェか?<br /> 例えば―――一人で冒険して、お前に一人前の姿を見せたいとかよォ」<br /> その言葉に無言でうつむいてしまったコカリに向けて、更にイッスンは諭すように言いました。<br /> 「まァ……男ってのは、他人が思うほど子供じゃないってこったァ。<br /> いつのまにか成長して、アッと驚く事をやり遂げるもんなのさァ」<br /><br /> 言われてコカリは梅太郎の意図に気付きます。<br /> 失敗が怖くて父に言いつけられた橋の修理から逃げていたコカリに「逃げない勇気」を見せるため、<br /> 梅太郎はあえて危険な冒険に挑戦していたのだと。<br /> ようやく気持ちを分かってもらえた梅太郎が、嬉しそうに尻尾を振りながら<br /> 細長い棒をどこからか取り出しました。<br /> 「それは……ずっと前に森で失くした父ちゃんのサオ!」<br /> 遺跡でこのサオの匂いを嗅ぎ当て、たった一人で探し出してきた<br /> 梅太郎の勇気を目の当たりにしたコカリは、一人で橋作りをやり遂げる決心をします。<br /> 釣竿を手に、コカリと梅太郎は勢いこんで駆け出し、<br /> アマテラスたちもその後に続いて奈落井川へ向かいました。<br /><br /> 壊れた橋のたもとへやってきたコカリは、まず手始めに縄をつけたサオを力いっぱい振って、<br /> 向こう岸の橋の欄干へ結わえ付けます。<br /> けれど、「ホラ、縄が掛かったよ!」と得意げにアマテラスを振り返ったのも束の間、<br /> 「お……お前たち、その縄をどけろぉ!!」<br /> せっかくの少年の自立への第一歩に水を差すようなドラ声が響き、<br /> コカリはぎょっとして辺りをきょろきょろ見回しました。<br /><br /> 「あれは、スサノオのおっさん……?一体何の真似だァ?」<br /> 流れの彼方に目を止めたイッスンがアマテラスの鼻先から飛び降りて、訝しげに呟きます。<br /> 巨大な丸太の尻尾に必死の形相でしがみ付き、どんぶらこなんてのどかなもんではない<br /> 猛スピードで流されて来るスサノオが言うには<br /> 「我が新奥義、真空樽魔落としを仕損じて……この大木ごと流されてしまったのだぁ~!!」<br /> だそうで……どうもあれから二度寝はせずに、本当に修行を開始していたようです……余計な修行ですが。<br /><br /></dd> <dt><a>182</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/06/16(金)08:26:42ID:SwdmSHy8</font></dt> <dd>「こ……こっちへ来るぞ、坊主、その釣竿を握って踏ん張れェ!」<br /> と、咄嗟に叫んだイッスンですが、コカリの背中をアマテラスがくわえて踏ん張った所で<br /> すぐに間違いに気付いて言い直します。<br /> 「ち……違った、釣竿から手を離せばいいんだァ!」<br /> スサノオにはムゴい台詞ですがそもそも考えるまでもなく<br /> 犬(狼だけど)一匹と子供一人で濁流に流される大木(プラスおっさん)をガチで止めるなんていう<br /> オロナミンCのCMみたいな芸当、到底できる訳がありません。<br /> 第一本人もどけろって言ってるし。<br /><br /> ですがコカリとアマテラスはもはや引っ張る事しか頭にないらしく、<br /> 「お前ら違うってェ!!」とイッスンが二人を止めようとすがりついてわめいている間にも、<br /> 丸太はどんどん近づいてきてついには縄に引っ掛かり、<br /> 当然の帰結として三人はあっという間に宙に投げ出されてしまいました。<br /> 「ニャヒーッ!!」とコカリがスサノオの木刀をキャッチ、アマテラスがコカリのお尻に噛み付いて、<br /> イッスンがアマテラスの尻尾にしがみ付き、大木は乗客が四人になったのもものかは、<br /> 更にぐんぐんスピードを上げて流れて行きます……<br /><br /> こ……これがッ!!「スリル満点、丸太でゴー!」……!!<br /><br /> などとぼんやり感動していると滝壺に落下してしまいますので、<br /> (もっとも何度落ちてもイッスンが「た……滝だァ!!もうダメだァ~!!」<br /> (ホワイトアウト)<br /> 「……なァんて事にならないよう、丸太にブレーキをかけるんだよォ!」<br /> と、無かった事にしてくれるのですが)<br /> 「アマ公、お前の筆しらべで何とかしろォ!!」<br /> とイッスンに言われたとおり、いかにも「結び付けてください!」と言わんばかりの<br /> 怪しいフックが付いた丸太に、凄い速さで遠ざかっていく川岸の桃コノハナのツタを結びます。<br /><br /></dd> <dt><a>183</a><font color="#228B22"><strong><a href="mailto:sage">大神  ◆l1l6Ur354A</a></strong></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">2006/06/16(金)08:29:37ID:SwdmSHy8</font></dt> <dd>大木が滝壺に到達する前に見事六つのフックにツタを結ぶと大木は滝の寸前で急ブレーキ、<br /> ばいーんと跳ね返って壊れた橋の隣に落っこち、新たな橋になりました。<br /><br /> 「ハァ……お前らまったく……一時はどうなるかと思ったぜェ……」<br /> 丸太と一緒にぶッ飛んでさっき居た橋のたもとにリバースされるなり、疲れきって地面にひっくり返ったまま<br /> ぴくりともできないアマテラスの鼻先でイッスンは溜息をつきましたが、<br /> 「でも見ろよ、立派な橋が架かったじゃねェか!」<br /> すぐににやりとして言いました。<br /> アマテラスと同じく、ぐったりと地面にへばりついていたコカリがその声にぴょこんと起き上がります。<br /> 「あの橋を……ボクが?」<br /><br /> え……そうなの?<br /> 驚きに目を見張るコカリにまた笑い、イッスンは褒めそやすように言いました。<br /> 「へッへ、そうさァ。この橋は紛れもなくお前の手柄だぜェ!」<br /> なるほど、アマテラスが橋を架けたり偶然橋が掛かったのでは<br /> せっかくのコカリの決心が水の泡になってしまいます。<br /> そこでイッスンはコカリに花を持たせ、自信を付けさせる事にしたのでしょう。<br /><br /> 「坊主、何を悩んでいたのか知らねェけど―――<br /> 男が冒険から逃げてちゃ話は始まらないンだ。それを教えてくれたその犬コロに感謝しろよォ」<br /> そうイッスンに諭されて、コカリは<br /> 「梅太郎、ボク……ボクやったよ!」<br /> 千切れんばかりに尻尾を振っている梅太郎としっかと抱き合い、喜びを分かち合います。<br /><br /> 嬉しげな二人を前にイッスンは、今更のようにスサノオが居ない事に気が付くのですが<br /> 「……まぁ、どうせその内、ひょっこり出てくるかァ!」<br /> と、気にしない事にしたのでした。ひ、ひでえw<br /><br /><br /><br /> ではまた次回!<br /><br /> でもコカリがブン流され確実なのに、後ろで踏ん張るでも止めるでもなく傍観してる梅太郎も結構冷たいよネ!<br /><br /></dd> <dd> <hr /></dd> <dt>14 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2006/07/30(日)15:49:31ID:TBsAqv4G</dt> <dd>長い間ないようなので、別人だけど大神の続きを投下するよ<br /><br /> 高宮平編<br /><br /> アガタの森をぬけて新たしくできた橋を渡り、高宮平という土地にやってきたアマテラスとイッスン。<br /> ここは山の上にある風神宮という風車のような建物から神風が吹き降ろす、<br /> 清清しい景勝地だったのだが、風が止まり、例によってタタリ場で真っ黒け。<br /> サクヤの芽を探して進んでいくと、またまたウシワカイズヒア!再びバトルとなる。<br /> 戦闘後、息を切らしながら「まあまあやるね」と嘯くウシワカ。<br /> そんなことより復活したヤマタノオロチを何とかしないといけないのだが、オロチのいる<br /> 十六夜の祠(神州平原にある)には強力な結界がはってあり、入れない。<br /> そしてその結果を解くためには「水晶のヘビイチゴ」なるアイテムが必要らしい。<br /> ウシワカと別れてすぐサクヤの芽を見つけたアマテラス、大神降ろしで高宮平をとりあえず蘇らせる。<br /> 自由に移動できるようになった高宮平を駆け回り、山の上、風神宮のあるクサナギ村にたどり着いた。<br /> しかし村は神風が吹かなくなってタタリ場でどんより。筆の力も吸い取られる有様。<br /> 我慢しつつ進むと、村の奥にある社で天邪鬼に取り殺されそうになっている綺麗なお姉ちゃんが。<br /> とりあえず天邪鬼をぶっ倒し、お姉ちゃんに話を聞くことに。<br /> (続く)<br /><br /></dd> <dt>15 :<a href="mailto:sage"><strong>名無しさん@お腹いっぱい。</strong></a>:2006/07/30(日)15:53:45ID:TBsAqv4G</dt> <dd>彼女の名はフセ姫。代々風神宮の神主をやっていた。風神宮には百年前からオロチの瘴気によって生まれ<br /><br /> た<br /> 赤カブトという妖怪がおり、ずっと戦ってきたのだが、先の中つ国全土にタタリ場が広がった件で風神宮<br /><br /> の神風が止まり、<br /> 隙をつかれて先代の神主も殺され、今またフセ姫も殺されそうになっていたのだった。<br /> 赤カブトを倒すためには代々伝わる里見八宝玉を持つ、里見八犬士達の力が必要で、<br /> フセ姫は各地に散っていた八犬士達に招集をかけていたが、道草好きな彼らは一匹も帰ってこない。<br /> 頼まれたアマテラスはクサナギ村を走り回って、既に村に到着していた5匹の犬士(その名の通り、犬です<br /><br /> )を見つけ、<br /> 餌をやったり、腕試しの勝負をしたりして社に集合させる。<br /> そうしたら、さらにあと三匹も探してきてほしいと頼まれるので、村を出て探しにいくことに。<br /> 高宮平の真ん中には、妖しい家があり、入ってみると、気味の悪いじいさんとばあさんがいる。<br /> 恐怖!舌きりジジと戦慄!舌きりババである。<br /> 月の光によってジジババの正体が妖怪であることを明かし、ぶち倒す。<br /> すると、ジジババに捕まって喰われそうになっていたスズメの少女を助ける。<br /> 彼女は高宮平にあるスズメの温泉宿、笹部郷の親分の一人娘であり、これで休業状態だった笹部郷に入れ<br /><br /> るようになる。<br /> さらに、そこにいた竹取翁と協力して枯れていた温泉を蘇らせ、水を操る筆神、濡神を手に入れる。<br /> さらにさらに、泣き虫スズメタイジャンのペット、竹の介が里見八犬士の一員であることを知る。<br /> タイジャンに恩のある竹の介はクサナギ村に戻ることはできないという。<br /> しかし、腕試しの勝負をしてアマテラスの力を確認し、竹の介の持つ里見八宝玉がアマテラスのもとへ移<br /><br /> ったのを見て、アマテラスに赤カブト退治を託すのであった。<br /> (続く)<br /><br /></dd> <dt>16 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2006/07/30(日)15:58:47ID:TBsAqv4G</dt> <dd>次なる八犬士はアガタの森にいるらしい。行ってみると、この前釣りをした曇ヶ淵でコカリが泣きじゃくっているではないか。<br /> 話を聞くと、愛犬梅太郎が淵の主、大なまずの畳頭(じょうず)に喰われてしまったというのだ。<br /> なだめ励まし、再び釣りをしてついに畳頭を釣り上げることに成功。そしたら腹の中から喰われた梅太郎<br /><br /> が出てくる。なんと、梅太郎も八犬士の一人であった。彼もコカリと離れられないといい、アマテラスと<br /><br /> 勝負、また宝玉がアマテラスのもとに移ったのを見て赤カブト退治を託す。また、淵に眠っていた月夜を<br /><br /> 司る筆神、弓神を手に入れる。<br /> 残る八犬士がいる神木村に行く途中、アガタの森の高台の泉で水を汲みに来ていたクシナダと出会う。<br /> もうすぐ始まる神木村の神木祭りのため、お神酒にこの泉の水を使うのだという。<br /> しかし、自分よりも大きな樽を持ってきているのに、どうやって水を汲むのか、さらにそれをどうやって<br /><br /> 持って帰るのかとイッスンに突っ込まれ、うなだれるクシナダ。<br /> 毎年スサノオにやってもらっていたから、すっかり忘れていたのだ。<br /> しょうがないのでアマテラスは水を操る濡神を使って樽に水を汲んでやるのであった。<br /> 汲み終わると、あとは根性でどうにか持って帰るというクシナダ。しかしそこで天邪鬼が現れ、クシナダ<br /><br /> がピンチというそのとき、<br /> スサノオがクシナダを助けに現れる。初めは威勢のいいスサノオだったが、天邪鬼が一匹、また一匹と数<br /><br /> を増やすたびに腰が引け、震えだす。<br /> それでも破れかぶれで戦うスサノオに、例によって力を貸すアマテラス。<br /> 妖怪を倒したスサノオに、お礼を言うクシナダ。しかしスサノオは渋い顔。<br /> 「やはりこれは我の力ではない…」<br /> どうやら自分の力で妖怪を倒しているわけではないことに気づいている様子。<br /> 「我は貴様の思うとおりにはならんぞ!」<br /> と叫んで走り出していってしまう。<br /> その後、クシナダはどうやら本当に自分ひとりで水を持って帰った様子である。<br /><br /></dd> <dt>17 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2006/07/30(日)16:01:42ID:TBsAqv4G</dt> <dd>神木村にいる八犬士とは、村の子供ムシカイの愛犬ハヤブサであった。アマテラスが大根堀りレースでハ<br /><br /> ヤブサの記録を塗り替えると、例によって腕試しの勝負をして、八宝玉をアマテラスに託す。話によると、<br /><br /> 本当のハヤブサは死んでしまってもうおらず、自分は身代わりであること、いつかムシカイに危険が迫るときが<br /> 来るからそのときは守ってやって欲しいというハヤブサの遺言を守るため、<br /> クサナギ村に戻ることはできないとのことであった。<br /> クサナギ村に戻り、宝玉は預かってきたが3匹は戻れないとフセ姫に報告するイッスンとアマテラス。<br /> フセ姫は、我ら離れていても心は一つ、情に厚い彼らのことだから仕方がない、と5匹で立ち向かう決意を固める。<br /> しかしそのとき、全て揃った里見八宝玉がアマテラスのもとへ飛んでいき、周りをグルグル回り始める。<br /> これはアマテラスに赤カブト退治を託せということだからよろしくお願いしますとフセ姫にいわれ、アマテラスとイッスンは風神宮に乗り込むのであった。<br /> 風神宮の入り口で眠ってうなされている、もとい瞑想しているスサノオを尻目に中に入ろうとすると、ヤツフサと名のる地縛霊に出会う。<br /> 目は見えないが心の目でモノを見るという彼はアマテラスのことを美しい女性だという。んなバカなァと<br /><br /> 一笑に付すイッスンのことはハナクソ妖怪呼ばわりする。ともかく激励を受けて風神宮に入っていく。<br /> 風神宮のてっぺんに上り、呪いの風を解くと、大きな風車が再び回りだし神風が復活。同時に風を操る筆<br /><br /> 神、風神を手に入れる。<br /> 風神の力で風神宮の奥に進んだアマテラス。ついに赤カブトと対峙。決戦が始まる。<br /> 里見八宝玉に守られながら、赤カブトの体に燃えさかる炎を風神で吹き消すことで、ついに赤カブトを追<br /><br /> い詰めた。<br /> (続く)<br /><br /></dd> <dt>18 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2006/07/30(日)16:04:20ID:TBsAqv4G</dt> <dd>そのとき、我らのヒーロー、スサノオの登場である。いつものように必殺剣を決め、赤カブトに止めを刺す。<br /> もちろんアマテラスの一閃のおかげである。<br /> またもや自分の力ではなく妖怪を退治したスサノオ。やはりそのことを自覚している様子。<br /> 剣を投げつけて怒りとも嘆きともつかぬ叫びを上げる。<br /> 「そんなに我をもてあそんで楽しいか!神よ!」<br /> そのとき真っ黒な妖気が出現、大きなオロチの形になって、スサノオとアマテラスを威嚇する。<br /> 途端にうなされるスサノオ。<br /> 「やめろ。うるさい。その話はあとにしろ」<br /> と頭を抱えながら走り去ってしまう。<br /> 風神宮の奥には、十六夜の祠の結界を解くというあの水晶のヘビイチゴが祭られていた。<br /> 赤カブトはこれを守っていたようだ。取ろうとすると、ウシワカが現れ、持っていってしまう。<br /> オロチの復活は近い。勝ち名乗りなど上げていられない。すぐに神木村へ戻ることにした。<br /> 風神宮を出ると、フセ姫からお礼を言われる。<br /> そして、これからは自分が村と風神宮を守っていかなければならないと決意を固め、今まで甘やかしていた5犬士をビシバシ鍛えていくと宣言する。<br /> それを聞いたフセ姫の夫、先代神主の地縛霊ヤツフサも、安心して成仏していったのであった。<br /> 高宮平編終わり<br /><br /> (ちなみにゲーム終盤にフセ姫に会いにいくと、ビシバシ鍛え上げられ、クサナギ伍(ファイブ)となった5犬士と手合わせすることができる。<br /> 5匹の犬が同時に襲ってきておそらくラスボスよりも強敵。しかも5匹を倒すと8犬士の残りの3匹が加勢に現れるわ、<br /> さらに一番根性のある一匹がもう一回立ち向かってくるわで、本当に成長したのね、と感動もひとしおである)<br /><br /> 一応ここまでです</dd> </dl><dl><dt>16 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2006/10/01(日) 21:34:39ID:P1nncT/B0</dt> <dd>先走って大神を7月に書いたものです。<br /> 詳細に書いた前の人のやる気をそいじゃったようで恐縮ですが、<br /> 前の人が最後に書いてから3ヶ月経ったので続きを引き継ごうかと思います。<br /><br /> ヤマタノオロチ編<br /> オロチが倒されてからちょうど100年目の今年も、神木祭が行われる満月の日が近づいてきた。<br /> そこで神木村に戻ることにしたアマテラスとイッスン。<br /> しかし、神州平原に入るとくすんだ色の空にうずまく真っ黒い雲。風雲急を告げる雰囲気。いかにも凶事の前触れといった感じである。<br /> 神木村につく頃には立派な満月が輝く夜になっていた。しかし、村はお祭どころではない騒ぎが起きていた。<br /> 村人達がスサノオの家の前に集まって、家の中に閉じこもったスサノオに呼びかけているのだ。<br /> 事情を聞けば、クシナダが祭のためにアガタの森の泉の水を使って作った八塩折(やしおり)の酒を、スサノオが全部飲み干してしまったのだという。<br /> どうしてそんなことをしたのかと聞くミカン爺たち村の衆。スサノオがオンオン泣きながら告白するのが家の外に聞こえてくる。<br /> ヘタレなスサノオは自分が伝説の剣士イザナギの子孫であるという重圧に耐えられなかった。イザナギの伝説なんておとぎ話に決まっている、と<br /> 十六夜の祠に行ってヤマタノオロチを封印した剣を抜いたところ、本当にオロチが復活してタタリ場がナカツクニ全土に広がってしまった。<br /> 全部自分のせいなので、怖くなったスサノオは村の入り口に大岩を置いて家に隠れていた。すると神がいたずらをして自分に<br /> 無理やり力を与え、岩を一刀両断させたり妖怪を退治させたり夢に出てきたりする。自分の運命をもてあそんでいるというのだ。<br /> スサノオはオンオン泣いて一向に出てくる様子がない。しかしだからといってあの大樽一杯の酒を飲み干してしまうとは、と呆れる一同。<br /> そのとき、村の夜空に妖しい黒い光が出現する。不気味な八つの光が蛇の頭のようにうごめく。<br /> ヤマタノオロチが復活した。そして今日は満月の夜。ということは、今日はオロチが生贄を選ぶ日ではないか!<br /> オロチが放った白羽の矢が川に沿って飛ぶ。橋の上にいる村人達をアマテラスがくわえて放り投げる。ハヤブサはムシカイをかばう。<br /> そして、その矢はクシナダの家に刺さったのであった。<br /> 100年より前の悲劇がまた繰り返されようとしている。悲嘆にくれる村人達。しかしクシナダは決意を固めた表情で家に入ると、酒瓶を持って出てくる。<br /> 八塩折の酒がなくても、自分の作った自慢の雷撃酒がある。これでオロチでやっつける、というクシナダ。スサノオの家の前で、<br /> スサノオは自分を妖怪から助けてくれた。今度もまた助けに来てくれると信じているから、といい、単身十六夜の祠へ出かけていく。<br /> 後を追うアマテラスとイッスン。村の外でクシナダと合流。怖いけど本当にスサノオを信じているというクシナダを励まして、<br /> 背に乗せ十六夜の祠へ向かう。<br /> 続く<br /><br /></dd> <dt>17 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2006/10/01(日) 21:38:15ID:P1nncT/B0</dt> <dd>十六夜の祠の入り口では、ウシワカが待っていた。よくも祠の結界を破る水晶のヘビイチゴを横取りしたなと怒るイッスンであったが、<br /> 実はこれはウシワカにしか使えないので、結局ウシワカに結界を解いてもらったのであった。<br /> 結界が解かれた瞬間、中からものすごい勢いでオロチの首が現れ、クシナダをくわえて引っ込んでしまった。<br /> ウシワカが止めるのも聞かず、あわてて祠の中に入るアマテラスとイッスン。そうしたら今度は外に出れなくなってしまった。<br /> この野郎だましたなァと再び怒るイッスンであったが、水晶のヘビイチゴの力では一人しか入れない(イッスンは数にも入らないらしい)<br /> のに、説明を聞かないユーたちが悪い、というウシワカ。仕方ないし、クシナダも心配なので祠に乗り込むアマテラスとイッスン。<br /> そしてその岩陰には、一連のやりとりをガタガタ震えながら覗き見ていた大男の姿があった。<br /> 天邪鬼に化けて(とはいえ好きな絵を描いた紙を顔に貼り付けただけ)祠内部に潜入、料理長の天邪鬼に前菜の材料集めをやらされたり、<br /> 封印されていた炎を操る筆神、燃神を手に入れたりしてついにヤマタノオロチと対峙するアマテラス。<br /> 放射状に広がる八つの首を持つヤマタノオロチ、その中心にあるお堂(オロチの体の一部?)にクシナダがいた。<br /> オロチは強力な結界を張っておりアマテラスの攻撃が全く通じない。オロチがクシナダに食いつこうとしたそのとき。<br /> 「待てぇぇぇい」と啖呵を切る大男の姿が。スサノオが来ていたのだ。しかし様子がおかしい。<br /> 「約束どおりきたぞ」とスサノオ。「待っていたぞ、イザナギの血族よ、さあ血の盟約を結ぼうではないか」とオロチ。<br /> なんとオロチは天敵イザナギの血を引くスサノオと闇の力を引き換えに血の盟約を結ぶことで、さらなる力を得ようとしていた。<br /> そのためずっとスサノオの夢に現れ、誘惑していたのである。<br /> 「さあ、闇の力を欲すると叫べ」とオロチ。スサノオは剣を振りあげ、「ああ、叫ぶとも」<br /> 続く<br /><br /></dd> <dt>18 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2006/10/01(日) 21:41:15ID:P1nncT/B0</dt> <dd>「我は伝説の英雄イザナギが子孫、スサノオ!そんな誘惑に乗ると思ったか。不届きな妖怪め。我が退治してくれる!」<br /> スサノオがオロチに向かって剣を突き出すと、結界が破れオロチの鼻っ柱を突き刺した。<br /> アマテラスがふと足元を見ると、持ってきた雷撃酒がオロチの周辺にゲームの都合上掘ってあるかのような溝に流れ込んでいる。<br /> スサノオとクシナダの奇跡に賭けるしかない。アマテラスとヤマタノオロチの戦いが始まった。<br /> 八つの首に火、水、毒などの八つの属性を持っているオロチ。それぞれが吐いてくる炎や毒を風神で吹き飛ばしたり、<br /> 花神で大木を生やして攻撃を防いだりと100年前の伝説どおりに戦うことができる。そして水を操る濡神の力でオロチに酒を飲ませて酔わせ、<br /> 八つの首を次々倒していく。全て倒すと例によってスサノオの登場。アマテラスが伝説にしたがって弓神で夜空に月を描くと<br /> 月の光を受けた剣に力が宿る。スサノオが必殺技を繰り出し、毎度の事ながらそれに合わせてアマテラスが一閃を放つ。<br /> 次々と首を落とし、残り一本となったとき、スサノオがアマテラスを止める。「手出しは無用だ、ポチ」<br /> スサノオ自らの必殺剣「陽派 スサノオ流 衝天七生!」が見事に決まり、最後の首は真っ二つ。<br /> ついにヤマタノオロチは倒されたのであった。<br /><br /> 神木村に戻ると、お祝いに神木祭が盛大に行われていた。タマヤが花火を打ち上げ、カリウドやコカリ、竹取の翁も村に来ている。<br /> サクヤからもお礼を言われる。ちなみにスサノオとクシナダはイザナギ窟の奥で二人っきりのひと時を楽しんでいた。<br /> 一通り祭を楽しんだ後、再び旅立つことにしたアマテラスとイッスン。サクヤによると、<br /> 高宮平の向こう、都の西安京がある両島原はまだタタリ場に覆われているし、さらに強力な災厄が訪れる予感がするという。<br /> というわけで、次なる目的地、両島原と西安京を目指して新たな旅が始まるのであった。<br /><br /> オロチ編 終わり<br /> とりあえずここまでです<br /><br /></dd> </dl><hr /><dl><dt>418 :<a href="mailto:sage"><strong>大神 </strong>◆l1l6Ur354A</a>:2006/10/03(火) 07:43:13 ID:iWp0Pm3R0</dt> <dd>じゃー埋め代わりにひさびさ大神を。埋まったらそこで終わりな。<br /> んじゃ行きます。<br /><br /> さて、無事に怪物赤カブトを倒し、フセ姫たちに見送られて風神宮を後にしたアマテラスですが……<br /> 意気揚々と社の外へと飛び出したその時、イッスンが不安げに問いかけます。<br /> 「アマ公、ちょっと待てよォ?先を急ぐったって……これからどうすりゃいいんだィ?」<br /> 先刻現れたあの黒い妖気……おそらく怪物ヤマタノオロチを何とかしなければ、<br /> イッスンがこの旅を始めたそもそもの目的、<br /> 全ての筆業をゲットして面白おかしく暮らす計画は永遠に実現不可能なのです。<br /><br /> ついさっきスサノオの前に現れたオロチに飛びかかろうとしたアマテラスが<br /> あっさり弾かれた事を思い出し、イッスンは本当にアマテラスが昔オロチを退治したのかと怪しみます。<br /> 「よっぽど相棒のイザナギが強かったか―――<br /> それとも怪物を酔わせたって言う伝説の酒が相当強列だったんじゃ……」<br /> そこでイッスンははたとある事を思いつきました。<br /> もうすぐ年に一度の神木村の村祭りがやってきます。<br /> 村祭りに供えられるのは伝説の酒。<br /> ヤマタノオロチを酔わせ、怪物退治の一助となったそれを手に入れれば、<br /> もしかしたら何かご利益があるかもしれません。<br /><br /> 「それにせっかくの祭り……楽しまなきゃ損だしなァ?<br /> サクヤの姉ちゃんを酔わせたりしたら……ブフフフフ!」<br /> 不気味な笑みを漏らすイッスンを乗せて、アマテラスは神木村へ向かいました。<br /><br /></dd> <dt>419 :<a href="mailto:sage"><strong>大神 </strong>◆l1l6Ur354A</a>:2006/10/03(火) 07:44:31 ID:iWp0Pm3R0</dt> <dd>そうして神州平原まで戻ってきた二人ですが、黒雲に覆われた空は真っ暗、<br /> 辺りにはびょうびょうと風が吹き荒れて、せっかくの祭りを前に、嵐でも来そうなイヤな天気です。<br /> ですが風が吹こうが嵐になろうが神木祭りはその位で中止になるようなヤワな祭りではないらしく、<br /> イッスンはお神酒を飲み干されては大変とアマテラスをせかします。<br /> けれど村の入り口まで戻ってきたその時、二人は更なる異常に気が付きました。<br /> 村はずれ、スサノオの家の前に村中の人が集まって、何やら騒いでいるのです。<br /><br /> 事情を聞こうと駆け寄ると、赤カブト戦ののち村に帰ったスサノオが<br /> コノハナさまのご神木に供えてあった伝説の酒、八塩折之酒(やしおりのさけ)を、<br /> あろうことか一滴残らず飲み干してしまったという衝撃の事実が判明。<br /> 家の中に閉じこもったスサノオはカンペキべろんべろんになっていて、<br /> 今年はオロチ退治から丁度百年目の特別なお祭りなのにと怒り狂うミカン爺に、<br /> 「イザナギが何らぁ!!……ヒック!」<br /> と、ろれつの回らぬ口調で怒鳴り返す始末です。<br /><br /> 「な……何てこったァ……よりにもよって、あの酒を飲む事はねェのによォ!」<br /> 当てが外れて跳ねるのも忘れ、呆然としながらイッスンが呟きました。<br /> 「怪物退治の伝説に語られた八塩折之酒がなくなっちまうなんて……<br /> ヤマタノオロチの影がチラついてる今……嫌な予感がするぜェ」<br /> ところがそこでイッスンの言葉にスサノオが奇妙な反応を返しました。<br /> びくりと身じろぎをしたらしく、ごとりと扉が音を立てます。<br /> きょとんとそちらに目をやった一同の前で、いまだ閉じ篭ったままのスサノオはぼそぼそと語り始めました。<br /> 「ヤマタノオロチ……全部……全部我のせいなろらぁ……我が全部悪いろらぁ!」<br /><br /></dd> <dt>420 :<a href="mailto:sage"><strong>大神 </strong>◆l1l6Ur354A</a>:2006/10/03(火) 07:45:50 ID:iWp0Pm3R0</dt> <dd>やっと自分のしでかした事に気づいたかと怒りの拳を振り上げるミカン爺でしたが、そうではありませんでした。<br /> 酒の力を借りて、そして泥酔したがゆえに始まったスサノオの告白。<br /> それはなにかにつけ引き合いに出されるイザナギの血筋に嫌気が差し、<br /> ある夜十六夜の祠に出かけて「インチキ神話」の月呼の剣を抜いてしまった、<br /> そうしたら神話は本当で封じ込められていた怪物が蘇り、ナカツクニ中に呪いが広がってしまったというのです。<br /><br /> 余りの事に顎が外れんばかりに驚くミカン爺をはじめとした村一同。<br /> 更にスサノオの話は続きます。<br /> 恐ろしくなって村に逃げ帰り、村の入り口を大岩で塞いで家の地下にこもったこと。<br /> その後もあちこち逃げ回った事。それなのに。<br /> 「神さまが……お天道さまが我をずっと見ているろら!お前を絶対許さらいって―――<br /> オロチと戦って、退治するまで許さらいって、追って来るろらぁーっ!ウオォォォーン、オンオンオン!」<br /><br /> そう、お天道さま……アマテラスのこれまでの「手助け」は、<br /> スサノオにとっては「神罰」以外の何物でもない仕打ちだったのです。<br /> たまりかねてついに泣き出してしまったスサノオをよそに、ミカン爺は恐ろしげな面持ちで夜空を仰ぎました。<br /> 「宝剣が引き抜かれ、十六夜の祠が消えうせた事は聞いておったが……<br /> もしもスサノオの話が本当ならば、あの怪物は……ヤマタノオロチは十五夜の満月が昇る頃―――」<br /><br /> いつの間にやら空を覆った嵐の気配はすっかり消えうせ、<br /> そこに皓々と輝くは、息も止まるほどに美しい真円の月。<br /> しかし嬉しい祭りの象徴であるはずのその月は、たった今皆が知るよりずっと前、<br /> ツクヨミが引き抜かれたその瞬間、既に不吉な怪物の先触れに変わり果てていたのです。<br /><br /> 皆の視線が満月に集まるのと時を同じくして、凄まじい憎悪の叫びが村中を揺さぶりました。<br /> 騒ぎをよそにただ一人、ムシカイの家の前、畑の隅で静かにうずくまっていた八犬士忠狗……<br /> ハヤブサが、ハッとして首を天に向けます。<br /> いち早く飛び出して小岩の上に四つ足を踏ん張り、威嚇の唸りを上げるアマテラス。<br /> その後ろの橋の上に、狼狽しつつも集まった村人達。<br /> いくつもの視線の先で、暗闇のはるか向こう、ちょうど十六夜の祠の方角に八つの光が次々とともります。<br /> 邪悪な光はぐるぐると渦を巻き、渦は一本の矢を生み出しました。<br /> とみるや、弦も無いのに矢はひとりでに、まるで一杯に引き絞られた弓からぱっと放たれたような<br /> 凄まじい速度で空を走り、一直線にこちらへ向かって殺到します。<br /> 橋の上の村人たちはわっと慌てて左右に分かれ、逃げ遅れたムシカイを、すんでの所で<br /> まっしぐらに駆けてきたハヤブサの牙がひっさらい、救いました。<br /><br /> 身を起こしたクシナダは、無言で「それ」を見つめていました。<br /> 彼女の家の屋根の上、突き出た柱に深々と刺さったオロチの矢を。<br /> 「ヤマタノオロチは十五夜の満月が昇る頃……い……忌まわしき骨鏃(こつぞく)の破魔矢で<br /> 契りの贄(にえ)を選り出でむ……神話の通りじゃ……!」<br /> 震え声でミカン爺が呟きます。<br /><br /></dd> <dt>421 :<a href="mailto:sage"><strong>大神 </strong>◆l1l6Ur354A</a>:2006/10/03(火) 07:46:37 ID:iWp0Pm3R0</dt> <dd>あの矢で家を射抜かれた者は、オロチにその身を捧げねばならない。<br /> 「もしもそれに従わずば……む……村中の人間の命が……」<br /> 言って、がっくりとうなだれてしまうミカン爺の前で、なおもクシナダは無言のままでしたが、<br /> やがてきりりと唇を引き結ぶと村外れのスサノオの家を振り返りました。<br /> 「スサノオ、あなたはそんな弱虫じゃない。神様が戦えって言うなら……それはあなたしか頼りがないからよ!<br /> あなたなら出来る……だって私の事助けてくれたじゃない」<br /> 両の拳を振り上げ、長い袖を翻してクシナダは叫びます。<br /> 「私信じてるから。あなたが来てくれるって信じてるからね!」<br /><br /> 「ク……クシナダ、お前!?」<br /> 日ごろのおっとりぶりからは思いも付かない大声に驚くミカン爺にも構わず、<br /> クシナダはそう叫ぶや否や、だっとばかりに彼女の家へと駆け込みました。<br /> しばらくして現れた白装束姿のクシナダは、手にした酒瓶、彼女自慢の銘酒、「雷撃酒」を高々と天に掲げます。<br /> 「イザナギさまは、オロチを酔わせて退治したって言うじゃない。<br /> 私が丹精込めて造ったお酒だって、オロチを酔わせる事くらい出来るわ!」<br /> そう鼻息荒く言うなり、クシナダはすごい勢いで駆け出し、村を出て行ってしまいました。<br /><br /> ここの所ムシカイと遊んでくれずにずっとハヤブサが座り続けていたのは<br /> あの矢からムシカイを守る為……やっとその事を悟ったムシカイが<br /> 千切れそうなほど尻尾を振るハヤブサを泣きながら抱きしめています。<br /> そんな心温まる光景はさて置き、アマテラスとイッスンはこんな大騒ぎにもかかわらず<br /> うんともすんとも言わないスサノオの家の側を通り過ぎ、大慌てでクシナダの後を追いかけました。<br /><br /> 神州平原の入り口までやってくると、やはりあんな大瓶を細腕で担いでダッシュするのは<br /> ここが限界だったのか、肩を揺らしながら座り込んでいるクシナダの姿が見えました。<br /> 心配するイッスンとアマテラスに、けれどもクシナダは止めないで、と息を切らしつつ気丈に言います。<br /> オロチの生贄が逃げれば村の人間全員に災厄が降りかかる。<br /> しかしそれだけがクシナダがオロチの元へ向かう理由ではありませんでした。<br /><br /> 「皆が苦しみながら生きていく世の中は、もうたくさん。<br /> 私の生涯をかけたお酒で、悪い怪物をやっつけてやるんだから!」<br /> 純粋だけれどもそれ以上に無謀なこの発言に、イッスンが激怒します。<br /> 「バカ野郎ォ!!……相手がどんなに恐ろしい奴かも知らないで、ナマイキな事言ってんじゃねェ!<br /> そんなチッポケな酒ぶら下げて勝てると思ってるのかよォ!」<br /> 叱咤されて、「……そうね、私バカよね」とクシナダはうな垂れましたが、<br /> けれどそれでも彼女の決意は変わりません。<br /> 「でも、私にはこれしかないの……人に胸を張れるのはお酒だけなの!」<br /> クシナダが決意を込めてすっくと立ち上がったその時、アマテラスが動きました。<br /><br /> 白装束の裾を捕まえて、彼女をひょいと空中に放り上げ、くるくるまわすと<br /> 「ア……アマ公、お前……!?」驚くイッスンを尻目に、背中に背負ってしまいます。<br /> 「……チクショウ、お前ら勝てる見込みもねェのに気張りやがってェ!もう、どうなったって知らねェぞォ!」<br /> ヤケクソ気味にイッスンは叫び、そして一行は十六夜の祠へ向かうのでした。<br /><br /></dd> <dt>422 :<a href="mailto:sage"><strong>大神 </strong>◆l1l6Ur354A</a>:2006/10/03(火) 07:47:34 ID:iWp0Pm3R0</dt> <dd>「やっぱり来たね、アマテラス君……生贄のお嬢さんとのランデヴー、楽しんだかな?」<br /> やってきたアマテラスたちに背を向け祠の入り口に立ったウシワカは、こちらを振り返りもせずに言いました。<br /> 「このインチキ野郎、そんなのオイラたちの勝手だィ!」<br /> 言い返すイッスンは相変わらずシカトして、ウシワカはぱっと両腕を広げます。<br /> とたんにぴんと辺りの空気が張り詰めました。<br /><br /> 笛を眼前に立て、次いでくるりくるりと回しながら舞うように身を翻すと、<br /> ウシワカは懐からアマテラスたちから奪ったあの「水晶のヘビイチゴ」を取り出します。<br /> 彼が腕を中空に差し伸べると、水晶細工は貼り付けられたかのようにぴたりとそこに静止しました。<br /> 更にウシワカは腰から抜き放った刀をうねらせながら水晶に突きつけ、その前の地面に刀を突き立てます。<br /> 仕上げとばかりにウシワカが竹笛を唇に当て、涼やかな調べが辺りを充たすと、<br /> それまで祠に漂っていた妖気の壁がみるみるうちに水晶細工に吸い込まれ、<br /> ちらりと小さな光が瞬いた後にはもう、妖気はおろか水晶細工までもが消え去っていました。<br /><br /> 「さて、扉は開いたよ。アマテラス君……ユーの出番はもうおしまいだ」<br /> 刀を納めたウシワカが意味深に言い、その言葉に呼応するように地響きが起こります。<br /> 不安げに周りを見回すクシナダの前に立ちはだかって、低く唸るアマテラス。<br /> 再び濃くなった妖気の奥から猛烈な勢いで黒い何かが迫ってきて―――<br /> ハッと背後を振り向いたウシワカが大きく跳躍して身をかわします。<br /> 飛び出してきた「何か」はアマテラスを難なく付きのけるとクシナダをくわえ、<br /> 現れたときと同じく凄まじい速さで祠の奥に姿を消してしまいました。<br /><br /> 追いかけようと数歩進んだアマテラスの後ろで、なんとその時、突如妖気の壁が復活します。<br /> ぴょんぴょん壁に体当たりして<br /> 「この野郎!これは一体どういうつもりだァ!」<br /> イッスンが食って掛かるとウシワカは、<br /> 「ど……どういうって……ええと、そうだなぁ。"飛んで火に入る金玉虫"……?」<br /> 顎に手を当て、笛でのんきにぱしぱし肘を叩きつつ答えました。<br /><br /> 「ユーたち勝手に入っちゃうんだもん。結界を解いて中に入れるのは、生贄を除いて一人だけなのになぁ。<br /> あれ?……て事は、ゴムマリ君は勘定にも入ってないんだね、アハハハハ!」<br /> あっけらんと笑うウシワカに<br /> 「ふざけるなァ、オイラたちをまたハメやがってェ!」<br /> 例の如く怒り狂うイッスンですが、ウシワカは<br /> 「……でも最初から、この祠に乗り込むつもりで来たんだろう?<br /> それならユーの実力を見せてよ、アマテラス君……」<br /> やっぱり例の如くあっさり受け流し、<br /> 「という訳で今回の予言の言葉は―――"月が出た出た月が出た"」<br /> あヨイヨイ、と変な踊りを踊りました。<br /><br /> 「フフフ、今回はあんまり面白くなかったかな?それじゃ……チャオ!」<br /> まったく世界観とマッチしない別れの言葉を残してヒョーイと飛んでいってしまったウシワカに<br /> 「ケェッ、これくらい、どうって事ねェや。最初からオロチの野郎なんか、コツーンとやってやるつもりよォ!」<br /> と聞こえるべくもない憎まれ口を叩いたイッスンは、<br /> 「アマ公、いつまでやってんだィ。さァ、行くぜェ!」<br /> イヌっぽい仕草でカリカリと未練たらしく壁を引っかくアマテラスをどやしつけ、二人は祠の内部へ潜入します。<br /><br /> 二人の影が祠の奥へと消えた後、物陰からそうっと立ち上がる影がひとつ。<br /> その影は、木刀を背負って腕毛がモジャモジャ、逞しそうな外見をしています。<br /> しかしはた目にもありありと分かるほど、ぶるぶる震えているのでありました。<br /> ではまた次回!<br /><br /></dd> <dt>491 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2007/01/09(火) 20:58:23 ID:n03vPJF20</dt> <dd>んで三ヶ月前書いた人が書かないみたいなんで続いて大神行きます。<br /> つか今回の分は補足みたいなもんなんですが。<br /> (前書いた人気悪くしたらすいませんどうしても「そこは入れてorz」と思ったとこなんで)<br /> では行きます。<br /><br /> アマテラスの助けを借りて(って言うかほとんどがアマテラスの手柄なのですが)<br /> とうとう因縁の宿敵ヤマタノオロチを倒したスサノオ。<br /> 真っ二つになったオロチの最後の首が火の粉を撒きつつ横倒しになると、彼は両手をひょいと広げます。<br /> するとそこにオロチの背中から放り出されたクシナダがタイミングよく降ってきて、<br /> 毛むくじゃらな腕の中にすっぽりと納まりました。<br /><br /> 「ク……クシナダ殿」<br /> ぼそぼそと口ごもりながらもスサノオは、クシナダの目をまっすぐ見つめ、いつになく真剣に語ります。<br /> 「貴殿にとっての酒造りのように、我には剣の道しかござらん。<br /> されど心弱き故にあのような魔物を蘇らせるという過ちを犯し……魔の囁きを一時、心に焼き付けさえした……<br /> もはや……もはや我に剣を握る資格などありませぬ……なれば、この世に生きる意味など―――」<br /> 顔を曇らせ、言葉を切ったスサノオに、クシナダが優しく微笑みかけました。<br /> 「フフフ、スサノオったら……またそんな難しい顔して。いつもみたいに笑ってよ!<br /> そんな顔してるから、妖怪さんが寄ってくるんじゃない」<br /><br /> とんでもない失敗をしでかして世界中を暗闇に陥れ、その上事態を打開する事もせず、<br /> あまつさえ言い訳を掲げて逃げ惑い、ただ恐怖で震えていただけの自分。<br /> そんな自分に向けられる、思いもかけない暖かな表情。<br /> 戸惑い、目をそらしたスサノオに、クシナダは更に明るく笑いかけ、励ますように言いました。<br /> 「さあ、笑って!毎年稲刈りを手伝ってくれる時のように、笑ってよ!」<br /><br /> 暫く無言だったスサノオの口元から、ふとかすかな息が漏れます。<br /> 「……フ……フハハ……」<br /> 笑い声は次第に大きくなり、ついにいつもの調子を取り戻したスサノオは、楽しげなクシナダを抱えたまま、<br /> ふんぞり返って高笑いを上げました。<br /> 「ワハハハハハ、ワッハハハハハハハハハハハ!!」<br /><br /> 二人の様子をお座りして喜ばしく見守っていたアマテラスの背中に、<br /> 切り裂かれたオロチの体から飛び出した、聖剣都牟刈太刀(つむがりのたち)が取り付きます。<br /> これはかつてオロチを封じ込めていた宝剣月呼の生まれ変わった姿だったのですが、<br /> この神器が現れるや、それと入れ替わりにオロチの残骸から奇妙な妖気が噴き出して、<br /> 逃げるように空の彼方へと飛び去っていきました。<br /> これが一体何を意味しているのか、その時は誰にも伺いようがありませんでしたが、<br /> とまれ神木村にひと時の平穏が訪れた事は間違いなく、<br /> 「これでお仕舞いじゃイマイチ締まらねェ。一丁、大神サマの勝ち名乗りを上げようじゃねェか!」<br /> イッスンに催促されたアマテラスは、合点とばかりに高々と、勝利の雄叫びを上げるのでした。<br /><br /></dd> <dt>492 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2007/01/09(火) 20:59:54 ID:n03vPJF20</dt> <dd>「ついに……ついに来るべき時が来たようじゃな」<br /> そんな十六夜の祠の様子を不思議な水晶玉を通して覗き見る、何者かの影があります。<br /> 「天と地の迫間に横たわる、切っても切れぬ、宿世の縁……」<br /> 感慨深げにひとりごちた影は、しかしすぐに物思いを打ち切って水晶玉の中の人影に呼びかけました。<br /> 「ともかくウシワカよ。風雲が急を告げている。すぐに都へ戻るのじゃ」「ラジャ!」<br /> 水晶玉に映し出された燃神の像の前からクールな返事を返したのは、なんと祠の内部には入れない筈のウシワカです。<br /> 「アマテラス君……今回はオロチをユーに倒されちゃったけど―――次は果たしてそう簡単に行くかな……?」<br /> 横笛で肩をとんとん叩きつつ、ウシワカはまたしても何やら意味深な事を呟きました。<br /><br /> 十六夜の祠からの帰り道。<br /> 空に輝く満天の星たちを見上げながら、イッスンがまだ見ぬアマテラスの分神たちに思いを馳せていると <br /> 神木村の方角からひゅるひゅると天に昇っていくひとすじの光が。<br /> 続いて小気味いい音と共に夜空に開く大輪の光の花。<br /> 月に負けじと咲き誇るタマヤの花火を見て、オロチ退治成就のお祝いかと首をひねるイッスンですが、<br /> やがて神木祭りが始まったのだと気付きます。<br /><br /> 大急ぎで村に帰ってきたアマテラスたちを、早くも一杯引っ掛けて、イイ感じに出来上がった村人たちが出迎えます。<br /> ちゃっかり駆けつけて湯水のように酒を飲みまくってるカリウドや神州平原の陶芸家のおっさんの輪に混じって<br /> いまだにカグヤの行方が気になる竹取の翁が暗―くヤケ酒をあおっています。<br /> その隣で追いかけっこをしている子供たちはそれぞれ何らかの目標を見つけ、<br /> 犬たちはそれぞれ主人である子供らについていく事を決めたようです。<br /> (コカリの目標はスサノオみたいな大きな男になる為に広い世界を見て回る事なのですが、<br /> ムシカイが目指すのは大根掘り王(って言うか大根掘り王目指すのはハヤブサだし)……いいのかそれで)<br /><br /> 大鳥居の前ではタマヤが新作花火「大輪一番星、天駆ける伝説ブラザァズの舞!」を打ち上げまくり、<br /> 神の見やぐらではミカン爺が八塩折之酒のかわりにと、コノハナさまに花踊りを捧げています。<br /> 怠け者のスサノオがクシナダを救う為、武闘装束に身を包んで飛び出して行った時の事を思い出し、<br /> 「正に……正にあのイザナギさま生き写しじゃった!」<br /> とイザナギさまなど見たことも無い癖に感極まって泣き出してしまったミカン爺ですが、<br /> そのスサノオがどこへやら雲隠れしてしまっている事にぶつくさ文句を言いだします。<br /><br /> 「……そう言えば、クシナダの姿も見えんのう。ん?……イヤ、ワシは別に酒が飲みたいわけじゃないぞい。<br /> あんな事があったばかりじゃから、クシナダにヘンな悪霊が憑いてないか心配なだけじゃぞい!」<br /> 慌てて言い訳をするミカン爺に、イッスンが「今頃悪霊よりタチの悪いモンが憑いてるかも知れないぜェ……」<br /> じっとりと呟きました。<br /><br /> コノハナさまの根元で「今宵は私もこの趣に酔わせて頂きます!」<br /> と再びのだっちゅーのポーズで祝福する(もういーっちゅーねん)サクヤヒメと再会、<br /> 通りすがりの旅の姉妹、サザンカとツバキが花火に大喜びしている様を嬉しく眺めて、<br /> これでひととおり村中の様子は見てまわりましたが、何だか誰かを忘れているような……<br /><br /></dd> <dt>493 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2007/01/09(火) 21:02:32 ID:n03vPJF20</dt> <dd>村の出口へやって来つつも、アマテラスは後ろをしきりに気にしています。<br /> そう、ミカン爺も気にしていたように、先に帰っているはずのスサノオとクシナダが、村のどこにもいないのです。イッスンは<br /> 「男と女が祭りの最中にどこかへシケこむって事は、その二人が只ならぬ仲だって証だィ。放っとけ、放っとけェ!」<br /> と鼻でも鳴らしたそうに言いますが、やっぱり気になる物は気になります。<br /> という事でUターンして村のあちこちをしらみつぶしに探し回ったアマテラスは、<br /> ついにイザナギ窟の最深部までやってきてしまいました。<br /> 流石にこんな所にはいないだろうと思われたのですが、予想に反してイザナギ像の前には<br /> なんだかいい雰囲気の人影が二つ。<br /><br /> イッスンとアマテラスに気付いたクシナダはいつもどおりに天然ボケな感じでお礼を言ったものの、<br /> 「ええと……もうお祭りは楽しんだ?」<br /> と言ったきり顔を赤くしてモジモジ。<br /> スサノオはと言えば<br /> 「お……お前はポチ?また我の居場所を目ざとく嗅ぎ付けおったか!」<br /> 一旦はアマテラスを邪険にする風でしたが、やがてもごもごと<br /> 「しかし……まあ、主には……その、色々世話になったな」<br /> と礼を言ってきます。<br /><br /> 「如何に我がイザナギの血を引く古今無双の大剣士とはいえ、<br /> 主という家来がおらねばこの偉業は成し得なんだところだ」<br /> 多少殊勝になったかと思いきや、ちっとも変わってないスサノオの物言いに<br /> 「け……家来ィ?」<br /> 思わずすっとんきょうな声を上げるイッスン。<br /> 続いてスサノオはアマテラスの働きをたたえて兄弟の契りを交わそうなどと言い出します。<br /> 何というか、なんだかなー、な申し出に<br /> 「きょ……兄弟ィ!?」と更に声を裏返らせるイッスン。<br /><br /> そんな外野の声は完全に無視してさっさとイザナギ像に兄弟の契りを誓ってしまったスサノオは<br /> 「大剣士スサノオと霊犬ポチは、今より兄弟となったのだ!いやぁめでたい!なぁ兄弟?」<br /> とご満悦で高笑いを上げました。<br /> 「おっさん……こいつは犬じゃなくてオオカミだってェ!それに、ちゃァんとアマテラスって名前が―――」<br /> 呆れて言いかけたイッスンの言葉を遮って<br /> 「金玉虫……お前も我の兄弟を宜しく頼むぞ!」<br /> なおもスサノオはご機嫌な様子で笑いながら、とんでもないことを言いました。<br /> 「妙ちきりんな隈取りなんぞしておるが、これでもれっきとした大神さまなんだからな!ワッハッハッハッハ!!」<br /><br /> 「な……何だってェ……?」<br /> 思わず我が耳を疑ったイッスンがボーゼンと聞き返しましたが、スサノオはそんな事には一切構わず、<br /> 「それから……この神木村の平和はこの我が守るから心配は要らんぞ」<br /> と背中の木刀、「闘片撲(とうへんぼく)改め霊剣凄乃桜(すさのお)」を誇らしげに示します。<br /> 「幾多の戦を潜り抜け、霊力を宿したこの剣で、妖怪どもなど一刀両断だ!<br /> ……どうだ?うらやましいか?お前のその神器より強そうだろう!」<br /> 何とスサノオには、普通の人にはただの犬にしか見えないアマテラスの正体が、最初から見えていたのでした。<br /> さすがは腐っても英雄の子孫と言うべきでしょうか。<br /><br /> しかし、衝撃の事実にポカーンとアマテラスたちがその場に突っ立っていると、<br /> スサノオは急にうろたえた様子で<br /> 「な……何だ、まだ我に用事か?まったく……我がおらねば何も出来ない奴らよ!コホン……いいか、お前たち―――」<br /> 咳払いをすると、声を潜めて言いました。<br /> 「い……今、クシナダちゃんと大事なところなのだ!さっさとあっちへ行かんか!(すげえちっちゃい字で)」<br /> ……腐っても英雄の子孫というより、腐っちゃった英雄の子孫と言ったほうが正しいようです。<br /> まぁ、何にしろ、人の恋路を邪魔するやつは、馬に蹴られて何とやら、です。<br /> 「なァ、アマ公……お前スッポ抜けてるから気付いてないみたいだけど、こういう時は二人だけにしといてやるモンだぜェ?」<br /> イッスンのもっともな言葉に従って、アマテラスはその場を後にしたのでした。<br /><br /> ではまた次回!<br /><br /></dd> <dt>495 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2007/04/01(日) 00:08:03 ID:AhBChDtU0</dt> <dd>スサノオとクシナダ、二人の恋の行方を見届けて、そろそろ分神探しの旅路を再開する事にしたイッスンとアマテラス。<br /> そんな二人の前にサクヤヒメが心配そうに現れます。<br /><br /> ヤマタノオロチが息絶えた刹那現れた、おぞましい妖気の渦……彼女もまたそれを感じ取っていました。<br /> 今回の騒ぎで自分が感じていた強大な妖気はオロチのものではなく、<br /> もっと別の、得体の知れない何物かの物だったのかもしれない。<br /> そんな懸念を語った後、更に彼女はアマテラスの活躍にも関わらず未だにやむ事のない生けるもの達の苦しむ声、<br /> それが高宮平の大跳ね橋の向こうに位置する「両島原の都」では殊にひどく、地獄さえ思わせるものだと訴えます。<br /> そしてオロチから現れた妖気の渦のいくつかが、そこを目指して飛び去ったと言うのです。<br /><br /> ナカツクニの田舎はあらかた探しつくしたし、人が多ければ分神たちも集まってくるかもしれないと<br /> 都へ行く事を考えていたのに、自分たちが今正に向かわんとしている場所について、<br /> これでもかと言わんばかりのネガティブガイダンスをかましてくるサクヤに鼻じろんだイッスンが<br /> 「もっとマシな話はないのかよォ!?」<br /> と泣き言を言いますが、サクヤは<br /> 「幾多の困難が行く末に待ち受けようとも大神たる貴方ならば、必ずや、大儀を全うされ給うに違いありません。<br /> アマテラス大神、そしてイッスン……幾久しくお健やかに!」<br /> 全然返答になってない励ましを残して姿を消してしまいました。<br /><br /> 「幾久しくお健やかにィ……じゃねぇよォ、あんな話なんかしやがってェ!」<br /> と、一旦はぷりぷり腹を立てたイッスンでしたが、<br /> そもそも最初からそう簡単に筆業が集まる訳もない事はとっくの昔に覚悟完了済みです。<br /> という訳で、あっさり気を取り直した二人は高宮平へ向かう事にしたのでした。<br /><br /></dd> <dt>496 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2007/04/01(日) 00:12:57 ID:AhBChDtU0</dt> <dd>さて、こうして両島原へと続く高宮平の大跳ね橋までやって来たイッスンとアマテラスですが、<br /> 巨大な跳ね橋は天を突かんばかりに高々と上を向いたままで、<br /> 都へ続く道なら当然あるはずの賑やかな人の往来もありません。<br /> 橋が通れずに足止めを喰らっている茶屋の客によると、橋が上がったきりになったのと丁度時を同じくして、<br /> 都では原因不明の病が流行っているらしいという噂が囁かれだしたとのこと。<br /> サクヤの話といい、やはり一筋縄ではいかないようです。<br /><br /> 橋のたもとには二人の兵士が退屈そうに突っ立っています。<br /> 「今は誰一人通すわけにはいかないんだな。女王ヒミコ様のお触れは絶対なんだな!」<br /> などと言いながら兵士の一人、ふとっちょの男は居眠りばかり。<br /> その脇には赤々と燃える火を宿した不思議な不死鳥の像が立っています。<br /> 手持ち無沙汰に弓の練習をしているもう一人の兵士、自称都の警備隊随一の弓の名手ヨイチによれば、<br /> その火は聖なる退魔の炎で、永遠に消える事がないはずだったのに、<br /> つい先日までそれがバッタリ消えてしまっていたらしいのです。<br /><br /> 幸いにもつい先日の十六夜の月の晩、神州平原から聞こえてきた唸り声と共に何故か突然炎が蘇り、<br /> 安心して警備に励めるようになったと言うのですが、<br /> (恐らくこれは十六夜の祠でのアマテラスの活躍による物でしょう)ヨイチは<br /> 「聖なる炎がついたり消えたり……何か不吉な事でも起こる前触れかい?」<br /> と気味悪がっています。<br /><br /> ともあれヒミコからの突然の命令によって向こう岸に戻る間もなく跳ね橋が上げられてしまい、<br /> 結果こちら側に取り残されてしまった彼らも、これで合図の火矢を放って橋を下ろしてもらい、<br /> 都へ帰ることが出来るようになりました。<br /> しかしそう言いながらも何故かヨイチは浮かない顔。<br /> 都の警備隊髄一の自称はハッタリではなく、会話の間にも向こう岸の大砲の筒の中に<br /> 正確に矢を打ち込み続けているのですが、これはただの弓の練習、放っているのはただの矢で、<br /> 従っていまだ跳ね橋は天を指したままピクリともしません。<br /> まぁ、大砲の中に火矢を打ち込んだらとんでもない事になってしまいますが。<br /><br /></dd> <dt>499 :<a href="mailto:sage"><strong>大神</strong></a>:2007/04/01(日) 00:15:10 ID:AhBChDtU0</dt> <dd>「今更都に戻るのもつまらねぇしなぁ……元々都の警備隊なんてのは、俺の性に合わねぇんだ。<br /> 本当は旅にでも出てドカンと一発、デカい事をしてみてぇなぁ!」<br /> なんてダメなサラリーマンそのもののセリフを口にしながら弓の稽古に熱を上げているヨイチを背にしつつ、<br /> イッスンがさらっととんでもないことを言いました。<br /> 「火矢って要するに……矢に火をつければいいんだよなァ?アマ公……<br /> 取ったばっかりの筆業を、一丁ここで披露しちゃどうだィ?」<br /><br /> しかしその相棒、我らがアマテラスもただ者ではありません。<br /> 「ガッテン承知!」と言ったかどうかはさだかではありませんが、イッスンの提案を受けるや否や、<br /> 宙に弧を描いて駆ける矢に、新たに手に入れた燃神の筆業、「紅蓮」で石像の炎を移してしまったからさあ大変。<br /> 当然の結果として大砲が暴発したのみならず、<br /> そのあおりを受けて、向こう岸では物見櫓が吹っ飛ぶわ鳥居が倒れるわの大惨事に。<br /><br /> ただの矢を撃ったはずなのにそれが火矢に化け、<br /> 「ドカンと一発……とんでもねえ事になっちまったぁ!」<br /> とパニックを起こしたヨイチは、唐突に<br /> 「……おっといけねぇ!俺……都に用事があるのを思い出しちまったい!それじゃお前ら、達者でなぁ!」<br /> と叫ぶなり、衝撃で止め具が外れた事によりタナボタ的に下りた橋を渡って走り去ってしまいました。<br /> 「べ……別に都へ帰るフリしてここのまま旅に出て姿を消す、とか<br /> この当たり屋ヨイチ……そんな邪な事は考えちゃいねぇからな!」<br /> などと言い訳していましたが、いや、それヨコシマじゃなくてただの無責n……などとツッコむ事もなく、<br /> 動揺の余りヨイチがバラ撒いていったリンゴをちゃっかり拾いつつ、<br /> イッスンとアマテラスも橋を渡って一路都を目指します。<br /><br /> が、両島原へ入った彼らを待ち受けていたのは驚くべき光景でした。<br /> ヤマタノオロチは退治され、オロチが撒き散らしていた呪いは払われたはずなのに、<br /> どこまでも続く海岸は、一面のタタリ場と化してしまっていたのです。<br /> これはオロチが死してなお残る強力な呪力を備えていたということか、それとも……<br /> 取りあえず賽の芽を見つけ出して花を咲かせ、タタリ場を払ったアマテラスは海沿いの道を進んだのですが<br /> その途中で、海辺に佇む古寺を見つけます。<br /><br /> 途方に暮れた様子で石段の前に立っていた旅の僧に困り顔の訳を訊くと、<br /> なんでも退魔が得意なこの古寺、『餡刻寺』の庵主に妖怪退治を頼みに来たらしいのですが、<br /> 庵主はこの所物騒な事件続きの都に呼び出されっぱなしで、当分帰って来そうにないというのです。<br /><br /> サクヤヒメの不吉な予感、原因不明の病の噂、そして妖怪退治の専門家がカンヅメにされるほどの異常事態……。<br /> また一つ不安の種を得て、アマテラスとイッスンはついに西安京の都の大門をくぐるのでした。<br /><br /></dd> <dt>97 :<a href="mailto:sage"><b>大神</b></a>:2007/08/01(水) 09:41:39 ID:jeJ2v3ou0</dt> <dd>大神いっときます<br /><br /> いくつもの不安の噂を耳にして、たどり着いた西安京の都。<br /> そこはやはり、賑やかに行きかう人の姿もなく、代わりにアマテラスたちは辺り一面を覆う<br /> 毒々しい霧に驚かされる事となりました。<br /> 「何だか体に悪そうだけど、こんな霧の中でみんな普通に暮らしてるのかァ?」<br /> と訝るイッスンの懸念どおり、都大路のあちこちでは人々が倒れ伏し、苦しそうにうめいています。<br /><br /> 強力な法力で妖怪たちから都を守っていてくれた女王ヒミコが<br /> 何故か突然神殿にこもりきりになってしまい、以来この霧が一体を覆い始めて<br /> 今では都人の大半が立つ事すらおぼつかなくなってしまったという話を聞いたアマテラスたちは、<br /> まずはヒミコとやらに会うべく神殿へと向かいました。<br /><br /> 途中門番をしていた兵士から得た情報によると、姿を見せなくなってしまったヒミコに代わり、<br /> 今この都を治めている摂政は、なんとあの古寺餡刻寺の住職ツヅラオだとのこと。<br /> どうりであの旅の坊さんが待てど暮らせど帰ってこない訳です。<br /> 納得しつつも二人は貴族街へと抜ける都の大橋へと歩を進めましたが、あにはからんや、<br /> 枯れた湖の上にかかったカラクリ橋は一段低く折り曲げられていて、向こう岸に渡ることが出来ません。<br /><br /> 橋のたもとで難しい顔をして唸っている大男、ベンケイがこの五条大橋の橋番らしいのですが、<br /> 訳あって今は橋を繋ぐことが出来ない、と取り付く島もなく断られてしまいました。しょうがないので二人は<br /> 「この湖に水が蘇り、幻のアレを手に入れるまで……ブツブツ」<br /> となにやら意味ありげな呟きを漏らしているベンケイに背を向けて、庶民街へときびすを返します。<br /><br /></dd> <dt>98 :<a href="mailto:sage"><b>大神</b></a>:2007/08/01(水) 09:44:07 ID:jeJ2v3ou0</dt> <dd>枯れた湖に水を満たす方法を求めて庶民街のお堀の中を進んでいくと、途中でねじり鉢巻きをした男が<br /> orzの格好で青息吐息になっていました。<br /> 「早く親方の所へ水路の工事を手伝いに行かないと―――」<br /> とかいかにもな呟きを聞いたアマテラスは、男の事はほっといて、更にお堀の奥へと向かいます。<br /> 「水源発掘工事中につき立ち入り禁止」と書かれた看板を無視してなおも奥に進むと、<br /> 掘削の為に足場が組まれた穴の淵で、頑固そうな老人がぷんすか一人で怒り狂っていました。<br /><br /> 「まったく水龍の野郎……好き勝手暴れやがって。海の神が海の太平を乱すなんて、一体どういう了見だい!」<br /> ひとりごとの割にはでかいリアクションで謎の水竜に怒りをぶつけるこの老人、大工のナグリによると、<br /> この西安京は両島原の土手っ腹、美輪湖(びわこ)の真ん中に浮いていて、<br /> 人々は美輪湖から染み出す水を糧に生活しているのですが、海神である水竜が大暴れしたせいで<br /> 美輪湖のヘソが閉じてしまい、水がかれてしまったというのです。<br /> 西安京の建物のほとんどを建てたナグリの勘で見立てた所、美輪湖のヘソはこの辺りにあるらしいのですが、<br /> 深い穴を掘って水源をほじくり出したくてもみんな病で寝込んでしまい、工事ができなくなっていたのでした。<br /><br /> ナグリの仕事を手伝ってあげることにしたアマテラス。<br /> 深い穴の底をさらに深く掘っていくと、深い深い穴の底にてナグリが美輪湖のヘソを発見。<br /> さっそく二人がかりで掘り返し、噴き出した水流に乗って地上に帰ると、空気はいまだ澱んでいるものの、<br /> お堀は澄んだ水で満たされていました。<br /><br /> 満足げなナグリと別れ、アマテラスは急いで五条大橋へと取って返しましたが、<br /> そこで見たのは豊かに流れる河を見ながら<br /> 「フフフ……来た……ついに来たぞ、この太公望ベンケイが千本目の刀を手にする時が!」<br /> などと妙な笑いを漏らすベンケイの姿。<br /><br /></dd> <dt>99 :<a href="mailto:sage"><b>大神</b></a>:2007/08/01(水) 09:46:07 ID:jeJ2v3ou0</dt> <dd>おかしな言葉のその訳を問わず語りに彼が言うには、元々は放浪の身の上であった彼は、<br /> 名だたる剣豪と腕比べして勝利の証に刀を奪っていたのですが、名のあるものは粗方倒しつくしてしまった為、<br /> 記録が999本で止まってしまっていたとのこと。<br /> そんな折、彼はある噂を耳にします。<br /> なんとこの美輪湖には生きた刀がいて、水の中を自由に泳ぎまわっているというのです。<br /><br /> そう、いかなる手段を使ってか、その後ちゃっかり橋番に収まったベンケイが<br /> 都の人たちのメイワクも省みず橋を今まで降ろさずにいたのは、噂の生きた刀と「真剣勝負」の末、<br /> 釣り上げようと目論んでいたからなのでした。<br /> しかもずうずうしいことに彼は釣竿を持っておらず、それを買うためのお金もないというのです。<br /><br /> なんともあきれた職権濫用ですが、もちろんアマテラスはそんな人の世の些末事にはこだわりません。<br /> なんたってケダモンだから。<br /> ということで大門へ駆け戻ったアマテラスは、あつかましくも銘柄指定までするベンケイの為に<br /> 「名竿 雪宗」を買ってやり、釣りビギナーの彼を筆業でこっそり手助けしてやります。<br /> しばしの奮闘の後に湖面を叩いて跳ねたのは、何とも見事な……<br /><br /> 太刀魚だ―――!!<br /><br /> 「……え?太刀魚って海の魚じゃないの?」とか、そういうヤボな突っ込みはしてはいけませんよ?<br /> 釣り上げたベンケイ自身、「生きた刀って……そういう事?」と何だか釈然としないご様子。<br /> (釣り上げた直後は「我が大願、ついにここに成就せり!!」とか雄叫んでいたんですが)<br /> ですが「ま……まぁ、いいじゃねェか、さっきの太刀魚だって中々デカい獲物だったぜェ?<br /> それに普通いねェや、こんな湖に海の魚がよォ!」<br /> 何ていうか制作側の言い訳っぽくも聞こえなくもないイッスンのフォローに<br /> 「慰めはいらぬ!」と怒りながらも結局ベンケイは「僧に二言はない」と、尻ジャンプによって橋を架けてくれ、<br /> やっと二人の前進がかないました。<br /><br /> 渡橋中、てっきり山か湖かから漂ってきたとばっかり思っていた周囲の霞が、<br /> これから向かう貴族街の屋敷の上に禍々しい竜巻のように渦を巻いているのを二人は目にします。<br /> 驚きながらも橋を渡りきり、謁見殿へ足を踏み入れようとした彼らの行く手はしかし、<br /> 「おやおや……?これは随分ゆっくりとしたお着きだねえ!」<br /> 最早おなじみとなった、アメリカンな仕草で肩をすくめた少年によって遮られてしまうのでした。<br /><br /></dd> <dt>439 :<a href="mailto:sage"><b>大神</b></a>:2007/12/01(土) 14:51:01 ID:/rTW9Hdz0</dt> <dd>「お……お前はインチキ予言野郎!おっとォ……そんな何気なく現れても誤魔化されないぜェ」<br /> さらりと声をかけてきたウシワカに、オロチ退治の時にハメられた(?)恨みを忘れていないイッスンが<br /> 「またコソコソとオイラたちに付きまとって、今度は何を企んでやがんだィ!」<br /> と怒りの声を上げましたが、ウシワカは<br /> 「ん……?ミーはわざわざユーたちに付きまとうほどヒマじゃないよ。<br /> ミーにはミーの……ちょっとした探し物があってねぇ」<br /> 例の涼しげな態度でひらひらと手を振って、いつものように受け流します。<br /> 「探し物だァ!?ケェーッ!毎度毎度探し物たァ、予言師が聞いてあきれらァ!」<br /> なかなかに鋭いイッスンの突っ込み、しかし<br /> 「まぁ……探すと言ってもどこにあるかはもう分かってるんだ。ただ―――そこに辿り着くまでが少々厄介そうでねぇ。<br /> どうすれば手っ取り早く手に入るのか……それを探してるんだよ」<br /> ウシワカにはやっぱり柳に風でした。しかしその言葉尻を捕らえたイッスン、<br /> 「手っ取り早くって……まさか……どうもおかしいと思ったら、この霧、お前の仕業なのかァ!?<br /> いつもいつも良からぬ事を企みやがって……今度は都を落として、手っ取り早く天下を取ろうとでも言うのかよォ!!」<br /> 早とちりに問い詰めると奇妙な言葉が返ってきます。<br /> 「天か……するどいじゃないか、ゴムマリ君。ミーが探しているのは、まさにその、天への道なんだよ」<br /><br /></dd> <dt>440 :<a href="mailto:sage"><b>大神</b></a>:2007/12/01(土) 14:52:14 ID:/rTW9Hdz0</dt> <dd>「天への道ィ……?回りっくどい言い方で煙に巻くんじゃねェや!」<br /> からかわれたのかといっそう声を荒げるイッスンに、ウシワカは<br /> 「ゴムマリ君……ユーにも少なからず関係のある話なんだけどねぇ」<br /> 更に意味深な笑みを見せました。<br /> 「な……何ィ?」<br /> 思わず聞き返したイッスンですが、ウシワカはそれ以上は語らず、何故か唐突に都を覆う霧の話題を振ってきます。<br /><br /> 白々しい話題転換にイッスンが女王ヒミコとの結託を疑うと<br /> 「まぁまぁ、話を急がない!千里の道も一歩からって言うだろう?<br /> ……でもこの霧だけは早く何とかしないと、ゆっくりジックリ……だけど確実に人々を死に追いやろうとしているよ。<br /> 早いとこ手を打たないと取り返しの付かない事になりそうだねぇ」<br /> 人事のような言い草に激怒したイッスンが<br /> 「全部お前の仕業だって白状したらどうだィ!」<br /> と詰め寄りますが<br /> 「仮にそうだったとして……ここで言い争っていれば何か解決するのかい?<br /> それより早く何か行動した方がいいと思うけどなぁ」<br /> もっともながらも腹の立つ指摘とともにウシワカは<br /> 「ミーも予言……じゃなくて助言くらいはしてあげようかな?」<br /> ばさぁっと肩を覆う薄絹を払って見得を切りました。<br /><br /> "イッスン先は、壁の穴から!"<br /><br /> 最早いちいち声もかける事もなく見守る二人の視線が痛かったのか、ウシワカは<br /> 「……コホン!何が言いたかったかと言うと、どんなに厳重な守りにも、針の穴ほどの隙間は必ずある!<br /> ……って事なんだけど、ちゃんと伝わったかな?」<br /> 咳払いをして珍しく予言の解説をしてくれましたが、それは単にイッスンの怒りを余計に煽っただけのようです。<br /> 「アマ公!……こんな奴、もう放っとけェ!」<br /> ごもっともなお言葉に従って、アマテラスはウシワカの脇をすり抜け謁見殿へ向かうのでした。<br /><br /></dd> <dt>441 :<a href="mailto:sage"><b>大神</b></a>:2007/12/01(土) 14:54:23 ID:/rTW9Hdz0</dt> <dd>謁見殿の前はたいそうな人だかり、どうもみんなツヅラオとやらを慕って集まっているようです。<br /> 「ツヅラオさまのありがたい説法が聞きたくば、この門前に並ぶが良い」<br /> とかムチャなことを犬に対して言われますが、犬って言うかオオカミなので人のルールなんか知りません。<br /> 行列を無視してとっとと謁見殿へ突入すると、奥の壇上に鎮座していたのは何と妙齢の美しい尼僧。<br /> しかしその服装は聖職らしくいちおう頭巾を被って数珠を首に巻いてはいるものの、激タイトなミニスカです。胸元超開いてます。<br /> まあゲームだからむしろこれで正しいっちゃ正しいんですが。<br /><br /> 「何と……オオカミまでもがこんな所に迷い込むとは……いよいよ世は混迷して来たと見える」<br /> 入ってきたアマテラスを目にした尼僧はやや憮然とした風でしたが、気を取り直して<br /> 「オオカミよ……そなたも我が謁見の間へ説法を聞きに来られたのかな?<br /> 我が名はツヅラオ―――ヒミコさまの命でこの西安京の摂政を務める尼僧だ」<br /> 凛とした名乗りを上げると「とうっ」てなカンジで台座を蹴って天高く舞い上がり、宙でくるくる回転、<br /> すたっと二人の眼前へ着地を決めました。<br /> (着地の衝撃で豊かなおっぱいが「ぱんよよよん(はぁと)」と揺れました)<br /><br /> 「……してそなたはどのような迷いを持っておられるのかな?」<br /> 「ツヅラオさまは畜生とて差別はせん」という門番の言葉を証明するかのように彼女は優しく問いかけましたが、<br /> 推定Fカップに目を奪われているイッスンには聞こえません。<br /> 「ボ……ボイン……」<br /> 思わず漏らした呟きに<br /> 「んん?これはこれは……可愛らしい妖精も一緒だったのかね」<br /> 驚くツヅラオ、しばしののちに我に返ったイッスンが<br /> 「言っておくが……そのボインに目が眩んだワケじゃないからなァ!」タンカを切ると<br /> 「……ボイン?」<br /> 謎の言葉に天然ボケ風に傾げる首のその下で、たわわな胸がまたしても魅惑的にぽよんよんと揺れています。<br /> 「それよりアンタ……今この都でアタマを張ってるってェ?<br /> 都は得体の知れない霧に覆われて海じゃ水龍がどうのって物騒な話も聞くのによォ……<br /> 当の女王サマは神殿に雲隠れしてるって言うじゃねェか。<br /> 街中でも人がバタバタ倒れてるってェのに、それでも女王サマは布団の中で安閑としてるのかィ?」<br /> 「そなたたちも両島原に迫る闇の気配を感じて参ったか……」<br /> 問い詰めるイッスンにツヅラオは表情を曇らせ、平和だったナカツクニを変えてしまったオロチをはじめとする災厄、<br /> それがここ数日で更にその度合いを増しつつあることを嘆きました。<br /><br /></dd> <dt>442 :<a href="mailto:sage"><b>大神</b></a>:2007/12/01(土) 14:56:00 ID:/rTW9Hdz0</dt> <dd><br /> それを聞いて退治したオロチから逃げ去った、あの不気味な影を思い出したイッスン、<br /> その影がこの両島原に憑りついたのでは、と案じます。その様子を<br /> 「何を独りでブツブツ言っておる?」と訝るツヅラオに、<br /> 「ヘッヘ、聞いて驚くなよォ?<br /> 神州平原でヤマタノオロチを退治したのは―――何を隠そう、ここに御座(おわ)す大神、アマテラスさまよォ!」<br /> イッスンはさっきまでの懸念もすっかり忘れてふんぞり返りましたが、<br /> オロチを退治したのはスサノオという剣士だと聞いたツヅラオは信じようとしません。<br /> 確かに止めを刺したのはスサノオですが、それを彼一人の手柄の様にされて合点がいかないイッスンは<br /> 「どうしても信じられねェって言うなら今ここで、このアマ公の通力を見せてやるぜェ!」<br /> と息巻き、アマテラスはとりあえず適当に筆技を一撃、これに驚き、納得したツヅラオ、<br /> 「この者ならば我らの願い、叶えてくれるかも知れぬ!」<br /> 思わず興奮気味になにやら口走ったのですが、<br /> 「願いィ?そんなにオッパイがデカいのに、悩み事があるのかァ?」<br /> イッスンがセクハラ全開に問い返すと<br /> 「イヤ……いまの言葉は忘れてくれ」<br /> それがいけなかったのでしょうか、眉を曇らせ黙り込んでしまいました。<br /> 「あの魔除け札を失った今―――我には如何なる手の打ちようもないのだ……」<br /><br /> いかにも詳しく聞いて下さいと言わんばかりの口ぶりですが、それ以上のことは何も話してはくれません。<br /> アマテラスは新たな道を探して貴族街に向かいます。<br /><br /></dd> <dt>443 :<a href="mailto:sage"><b>大神</b></a>:2007/12/01(土) 14:57:13 ID:/rTW9Hdz0</dt> <dd>都の最奥、そこに横たわったヒミコの神殿に足を踏み入れようとしましたが、ヒミコの親衛隊に阻まれてしまいます。<br /> 蹴散らして押し通るわけにもいかず、踵を返した所でアマテラスは奇妙な光景を目にしました。<br /> 居並ぶ巨大な屋敷の一角、その門の中からもうもうと霧が湧き出しているのです……<br /> って、あ、あ、怪しィィィ―――!!!<br /> さっそく犬らしく正面から堂々と入り込むと、戸口の両脇に立った衛兵が立ち話をしていました。<br /> 内容を聞くに、何でもこの屋敷の主、『宝帝(たからのみかど)』が原因不明の病に倒れて以来、<br /> 謎の霧が帝の部屋から立ち昇り始め、それと時を同じくして都人がばたばた倒れだしたのだとか。<br /> もっとよく事情を聞こうとして話しかけると、いかにも人の良さそうな衛兵さんに<br /> 「あ……あれは何でもないよ!宝帝さまにそう言えって言われたからとにかく何でもないよ!」<br /> とか言われますが、どう考えても間違いなくお前らのご主人が元凶です。<br /> 更に衛兵の私語によると、宝帝がカグヤというどっかで聞いたような名前の娘さんを屋敷の牢に拉致っているとのこと。<br /><br /> 今すぐにでも怒鳴り込みたいところですが、もう片方のいかにも固そうな衛兵が<br /> 「お前のようなオオカミはもちろん、蚊一匹通すだけの、針の穴ほどの隙間さえないわ!」<br /> と言うように、門は硬く閉ざされていてどうにも出来ません。<br /> 何とかできないものかと辺りを探すと、門の脇に開いた穴ぼこからもくもくと霧が吹き出ているのが目に入ります……<br /> あるじゃねーか、針の穴ほどの隙間。<br /> しかしアマテラスはオオカミで、蚊ではないのでこんな小さな穴が開いていたところでなんの助けにもなりません。<br /> どうしたものかと振り向いて、そこにアマテラスはおかしなものを見つけます。<br /> 一見して札束のような……いや、それは束ねた呪符でした。<br /> イッスンが言うには、これは念を込めた術者本人しか操れない類のもので、<br /> それ以外の誰が持っていても無用の長物にしかならないらしいのですが……<br /> ふと閃くものがあったアマテラス、それをくわえて身を翻しました。<br /><br /> 目指した先は謁見殿。いまだしょんぼりと肩を落としていたツヅラオは、<br /> アマテラスが差し出した紙束に驚きもあらわにぴょこんと愛らしく飛び上がりました。<br /> 案の定、それは彼女が敵との戦いに使っていた魔除け札。<br /> 妖魔たちに奪われたものと諦めていたものを見つけ出してくれたこの不思議なオオカミに喜び、<br /> ツヅラオはその力を見込んでアマテラスに共闘して欲しいと願い出てきました。<br /><br /></dd> <dt>444 :<a href="mailto:sage"><b>大神</b></a>:2007/12/01(土) 15:00:38 ID:/rTW9Hdz0</dt> <dd>ツヅラオとの共闘……それはつまり女王ヒミコに力を貸すということ。<br /> ヒミコを疑っているイッスンはイマイチ気乗りしない様子ですが、<br /> 「仕方ねェな……そのボインに免じて聞いてやるかァ!」<br /> と、一応聞くだけ聞いてみることに。<br /> 「ボイン……?」と再び出てきた謎の単語に首を傾げながらも勢い込んでツヅラオが説明するには、<br /> 両島原の岬の沖、そこに港を目前にして無惨にも水龍により沈められてしまった交易船があるそうなのですが、<br /> それにはヒミコが必死に捜し求め、他国から取り寄せた絶世の宝物……<br /> 如何なる妖魔も屠る力を与えてくれる神器、「キツネ管」が積まれていたというのです。<br /> 彼女の頼みとは、沈没船に乗り込んで、ナカツクニの国宝にさえなるはずだったその宝を探すのを<br /> 手伝って欲しいという事でした。<br /><br /> イッスンが依然<br /> 「そりゃカワイイ姉ちゃんのお願いならオイラにゃ断れねぇけど、<br /> このアマテラス大先生が首を縦に振らないんじゃどうにも……」<br /> とか渋ってる間にあっさり頷くアマテラス。<br /> 「いやァ残念!アマテラス大先生がそういうんじゃ……な、何ィ!?」と焦るイッスン。<br /> 「地獄に仏とはこの事なり!」ぴょんぴょん跳ねて大喜びのツヅラオから待ち合わせの場所と時間を聞いて、<br /> 苦い顔のイッスンといつもどおりのアマテラスは早速両島原に向うのでした。<br /><br /> 「アマ公!……お前、あのボイン見て安請け合いしたんだろォ!」<br /> と湯気をたてて怒っていたイッスンでしたが、ツヅラオがヒミコに操られているのだとしても、<br /> いざとなれば彼女らより先にキツネ管とやらを手に入れてしまえばいい事だし、<br /> 「……まァ、オイラもやっぱりボインにゃ逆らえねェや」という訳で諦める事にしたようです。<br /><br /> さて、こうして二人は両島原の北端、月見櫓へとやって来ました。<br /> 何故直接難破船の元へ向かわないのかというと、船が座礁している三日月潟は<br /> 月見櫓から三日月が見える夜にしか水が引かない場所、<br /> カナヅチのアマテラス及び水中で呼吸が出来ない普通の人間は水底の船に手も足も出ないからなのです。<br /> とりあえず夜になるまで待ってみましたが、何度夜が更け朝になろうとも<br /> ゲームの演出上夜空に昇ってくるのは満月なので、手っ取り早く夜空に三日月を描く「月光」の筆技を一閃、<br /> 見る見るうちに水の引いた干潟の中央、壊れかけた交易船に足を踏み入れます。<br /> 船内にはびこる妖怪達の邪気を集めてしまったのか、禍々しい気を放つ封印に足止めされているところに<br /> 一足遅れたツヅラオがダッシュで追いついてきました。<br /> ここまで怪異を払いながらやって来たため遅れてしまったと息を乱して語る彼女の、<br /> 前屈みになった襟元からこぼれ落ちそうにぽいんぽいんしている魅惑の巨乳についつい目を奪われるアマテラス……<br /> 確かお前メスじゃなかったか?<br /> ともかく、イッスンから封印に足止めされた今の状況を聞くと、その胸元からツヅラオは<br /> アマテラスが見つけ出してきたあの呪符の束を取り出します。<br /> 「我が魔除け札で禁印を滅してくれよう」<br /> とツヅラオは胸を張り、札を操る彼女を背に乗せたアマテラスはキツネ管の捜索を開始しました。<br /><br /></dd> <dt>445 :<a href="mailto:sage"><b>大神</b></a>:2007/12/01(土) 15:04:53 ID:/rTW9Hdz0</dt> <dd>その後謎のワカメ巨人(寝てる癖に寝相で攻撃してくる)をはじめとする妖怪たちを退治したり、<br /> 亡霊にビックリさせられたり、昼夜を逆転させて潮汐を操る事で道を開いたりしつつ、<br /> 何とか船の最奥部まで辿り着いたアマテラスたちは、そこでついに幻の宝「打ち出の小槌」を発見したのでした……<br /><br /> って違うよコレ!探してるのはキツネ管だよ!<br /><br /> ですがその他の周りを色々探ってみても、交易船らしく高価な宝はあるものの、どれも目的のものとは違うようです。<br /> がっくりと肩を落とすツヅラオを、イッスンが<br /> 「そんなにショボくれるなィ、この広い海のどこかにきっと眠ってらァ!」<br /> とぜんぜん気休めにもならない事実を言って慰めます。<br /> 仮に海の中を探すとしてもそこにあの水龍がいる限り、それは自殺行為以外の何でもありません。<br /> とりあえずは都に戻ってから今後の策を考えようと船を後にしたアマテラスたち。<br /><br /> ですがしゃぼしゃぼイヌカキで進むアマテラスの背で、急にツヅラオがそわそわと慌てだします。<br /> もっと早く泳げぬか?とせかす彼女に一旦は所詮オオカミに無茶言うなィ、とにべもなかったイッスンですが、しばしの後に<br /> 「……ははァん、分かったぜェ、ボイン姉」<br /> 怪しげな笑みを見せました。<br /> 「もしかして……催したんじゃねェのかァ?<br /> プッフフフ、構やしないってェ!周り一面大海原だィ、気にせずやっちまいなよォ」<br /> 自分たちだっていつもそうしてる、とセクハラ&マナー的に多少アレなことをそそのかすイッスンにツヅラオは<br /> 「そ……そうではない!この波立ちは奴が現れる兆し―――」<br /> 憤慨して訴え、更に辺りには恐怖映画めいたBGMが流れ始めてますが、それを照れ隠しと見たイッスンは本気にしようとしません。<br /> 「だったらバァーッと引っ掛けてやったらいいやァ、丁度そいつがアーンって、口開けた時にでもよォ!」<br /> 言い終わるが早いか。背後の海原が津波のように膨れ上がり、海面を割って巨大な龍<br /> ……まさにリュウグウノツカイの親玉のような……が現れます。<br /><br /> 「な……な……な……?」<br /> まともに声も上げられないイッスンと、イヌカキを続行しつつも思わずポカーンと見上げるアマテラスに<br /> 大きな口をがばぁっと広げた水龍が襲い掛かってきたその瞬間。<br /> ツヅラオが空中に大ジャンプをかましました。直後、<br /> 「何だありゃあ!?」<br /> 驚愕するイッスン(と、アマテラス)を置き去りに、ツヅラオは凄い速さで水面をぴょいんぴょいん跳ねて、<br /> あっという間に逃げ去ってしまいました……か、神様でさえそんなこと出来ないのに!(今は)<br /> どうかすると泳ぎ疲れておぼれちゃうのに!あの女マジで怪しいよ!<br /> 等と疑念を抱く間も無く、岸壁に激突するほどの勢いでツヅラオを追っていった水龍がぐるりとこちらを振り返り、<br /> 雄叫びを上げるや波を蹴立てて猛スタートを切りました。<br /><br /> 命からがら逃走を開始したアマテラス、やっとのことで岸に辿り着き、<br /> 「あんなモンが海で大暴れしてるなんて聞いてねェぞォ!!」<br /> と今更な事を言って怒り狂うイッスンの言うとおり、「ボイン姉」をとっちめてやろうか、と都へ向かおうとした<br /> (あの人間離れした水上ダッシュのことについては二人とも何も疑問がない様子……さすが神。アンド妖精)<br /> その時、懐からあの宝物船で見つけた「打ち出の小槌」が飛び出しました。<br /> と言っても別に偶然転げ落ちたのではなく、なんとこの小槌には確たる意思があるようです。<br /><br /> 「オ……オイオイ!せっかくのお宝が逃げるんじゃねェや、アマ公、捕まえろォ!」<br /> という訳で、アマテラスは跳ねる不思議な小槌を追いかけて両島原の海岸を一路都へ走り出したのでした。<br /><br /></dd> </dl><p> </p>

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