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<strong>街 Part2</strong>(馬部甚太郎編、牛尾政美編)<br>
>>6-397~433
<hr>
<dl>
<dt><a href="menu:397">397</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街の人</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:16ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>では今回は「街」馬部と牛尾編です。<br>
二人の話は、かなりストーリーが絡み合ってます。<br>
どっちも読まないと、どうしてそうなったのかわかんねと思う。<br>
ただ、絡み合う分だけ、詳細も長い。<br>
性格の比較もあるしな。マジすまん。_| ̄|○<br>
<br>
というわけで、今回は両方のストーリーを一気に投下。<br>
<br>
<a name="a398"></a></dd>
<dt><a href="menu:398">398</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街の人</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:17ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>馬部甚太郎「The Wrong Man 馬」グッドエンド<br>
<br>
― 一日目(10月11日水曜日) ―<br>
<br>
射つだけだ。<br>
刑事を一人殺るだけだ。<br>
<br>
張り詰めた空気を持つ男が一人、街角に立ち、ポケットの拳銃を握り締めた。<br>
頭上の時計を見上げたとき、女性が「もう時間ね」と声をかけた。<br>
恋人の「椎名みちる」が立っていた。<br>
あっちは全て整ったわ。後はあなたがヤルだけよ。モノは持ったね?<br>
それに対して男は胸のポケットを叩いた。<br>
のし上がるチャンスじゃないのと励まし、そして「ちゃんと殺してきてね」という。<br>
男は「おう」とだけ言い、大股で歩き出した・・・。<br>
<br>
現場へと向かうと、そこには刑事一人で来たことを確認し、拳銃を握り締めた。<br>
男は車の陰から飛び出した。「う、動くな!」<br>
刑事も振り向きざまに拳銃を抜いた。現場に緊張が走る。<br>
「ししし死んでもらうぜ!」男が言ったが早いか<br>
<br>
「バキューーーン・・・・・・」<br>
<br>
ピストルが双方から火を噴いた。<br>
刑事が弾かれたように吹っ飛んだ。そして男も倒れ、そして絶命した・・・。<br>
<br>
「カーーーーット!!」<br>
ガチンコがなり、カバ沢監督の罵声が飛ぶ。<br>
倒れた男が起き上がった。<br>
そう。これはドラマのワンシーンだったのだ。<br>
監督から罵声が飛ぶ。男は本当は倒れてはいけなかったのだが、普段やられ役の多い彼は、<br>
いつものクセで、撃たれると反射で倒れてしまったのだ。<br>
ロケ現場にイライラとした空気が漂う。<br>
役者の名前は「馬部甚太郎」馬部は17年も無名の役者を続けている。<br>
しかし、今回連続刑事モノのTVドラマ「独走最善戦」で、「主役刑事と対立するヤクザの組長役」<br>
というこれまでにない大役をもらい、演技次第では大スターにのしあがるチャンスをつかんだ。<br>
しかし、彼には自信が無い。<br>
女優の「椎名みちる」と馬部は恋人同士。<br>
自信が無い馬部を励ましてくれ、身も引き締まり、がんばろうという気にさせてくれる。<br>
<br>
シーンは公園で馬部(演じる親分)が殺されるところである。<br>
拳銃で撃たれ、階段を落ちるシーンを要求され、演じるが、迫力がないと却下される。<br>
替わりに池に飛び込むシーンを急遽挿入することにしようという。<br>
それを知って顔面蒼白の馬部。<br>
衣装は濡らせないので、今日が初日のADサギ山がテストアクションで池へ飛び込む。<br>
そのテスト中に、馬部はみちるに打ち明ける。「実は・・・泳げないんだ。」<br>
そんなことでせっかくのチャンスを逃すなと一喝され、本番に挑むことに。<br>
本番で、撃たれた後、悶絶する馬部。そしてついに飛び込むのだが、躊躇しながらも池へ。<br>
しかし、手足をばたつかせてしまい、恐怖は隠せず演技どころではない。やはり監督から喝が飛ぶ。<br>
出してはいけないNG。<br>
スタッフには白い目で見られ、スズメの涙ほどの自信はもう無くなってしまっていた。<br>
<br>
<a name="a399"></a></dd>
<dt><a href="menu:399">399</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街の人</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:19ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>衣装が乾くまで休憩!と指示が来る。<br>
彼はみちるの隣に来るが、彼女はタバコをくゆらし、無視をしている。<br>
自分は役者に向いていないのかな?といったことを話していると、<br>
彼女は情けない姿の馬部を見ていられないと言った様子で「バカ!」とビンタをし、<br>
どこかへ行ってしまった。すっかり見放されてしまった。<br>
<br>
情けない気持ちになり、現場から離れたベンチで服を乾かしながら休憩していると、<br>
小脇にバッグを抱えたチンピラ風の男が来る。<br>
これが馬部と牛尾、ふたりの悲劇の幕開けとなる。<br>
彼は馬部を「兄貴」と呼び、尊敬しているなどと言い出す。<br>
自分は「三次」と名乗り、完全に役に入りきっている様子だ。チャカ(拳銃)まで持ち出している。<br>
銃の使い方は俺に任せておけと言う馬部に、拳銃を渡した。<br>
会話のズレに気付かず、馬部は三次を以前一緒に仕事をした役者だと勘違いしてしまっていたのだ。<br>
兄貴、移動しましょう!と言われるので、もうロケ班は、自分を置いて移動してしまったと思たのだ。<br>
<br>
移動している途中、なぜか警察に追われた。<br>
これも馬部は撮影だと誤解し、三次から預かった拳銃で警官に向け発砲。弾は外れた。<br>
そとき、馬部は気づいた。<br>
「これは本物の拳銃だ」と。慌てる馬部。<br>
拳銃は三次が破門になった「白峰組」(牛尾が現役時代属していた組)から騙してくすねてきたものだった。<br>
しかもそれは組長白峰忠道の銃なのである。<br>
ここは逃げるしかない!<br>
<br>
なんとか逃げ切ったと思ったが、「キツネの三次」の異名をとるほどの逃げ足の速さには勝てなかった。<br>
逃げる仕込をすると、三次は立ち去る。<br>
一人になり、もう逃げようと考える馬部だが、すぐに三次は帰ってきてしまい、考えがまとまらなかった。<br>
ラジカセを持ってきたというが、木陰を見ると、一人の男が頭から血を流し、裸で倒れていた。<br>
服とラジカセを三次にかっぱらわれたのだ。<br>
ラジオを流す。<br>
臨時ニュースのようだった。<br>
「本日午前11時ごろ、渋谷の宝石店に強盗が入り、およそ3億円の宝石を奪って逃走しました。<br>
目撃者の証言によりますと、犯人は暴力団風の男二人組で、現在も渋谷周辺を逃走中です。<br>
二人組は拳銃を所持しており、警察は目下全力で犯人の行方を追っています。」<br>
<br>
奴は本物の強盗だったんだと、今更ながら気づく馬部。<br>
盗んできた宝石を見せられ三次が強盗であるという事実を知ってしまった以上、<br>
正体がバレたら口止めのために殺されかねない。<br>
馬部は、ロケ隊に合流できるまで、身を隠しながらヤクザを演じるしかないと決心。<br>
役者、馬部甚太郎の命を賭けた演技が始まった。<br>
ロケ班に合流しようと思い、本心は隠したまま、二手に分かれて逃げようと提案する。<br>
が、三次に「警察も白峰組も動いている。丸腰だと自殺行為だ」と却下された。<br>
仕方なく、手下と合流する予定だとごまかし、元居た公園へと移動。<br>
<br>
<a name="a400"></a></dd>
<dt><a href="menu:400">400</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街の人</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:20ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>
しかし、もうロケ班の姿はどこにも見当たらなかった・・・。<br>
ひとり、トランシーバを持ってADサギ山がひょっこり歩いているのを見つけ、すがる気持ちで話しかけると、<br>
「いつの間に現場から公園へ帰ってきたんです?早かったですね。」と言われ、「走ったからな」と言う。<br>
三次は、サギ山を馬部の舎弟と思い、「兄貴の服ぐらい持って来い」というと、<br>
さっき着替えたでしょなどともめる。サギ山は三次を新人のエキストラと思っているのだ。<br>
このまま揉め続け、サギ山が馬部の立場を知らずに余計なことを言ってしまい、正体がばれると殺されると感じ、<br>
取り繕ったりするが、サギ山が「もう戻ります」と言い出すと「僕も連れて行って・・・」と泣き言。<br>
安全なところへ兄貴を誘導しないと勘違いした三次はサギ山を蹴り飛ばし、「それが舎弟の態度か!」と言う。<br>
「もう辞めてやる!」と泣き言を言いながら、去っていくサギ山。<br>
公園は警察が多いので、ホテルへ向かおうと言われ、仕方なく従うことにした。<br>
<br>
ホテルのある地域は、白峰組のシマだが、灯台下暗しだと言い、予約を入れてくるとフロントへ向かう三次。<br>
その隙に逃げようとするが、ヤクザ風の男達がうろついているので、どうにも逃げられず、<br>
ホテルの部屋へとあがる事になってしまった。<br>
部屋で三次は、抱えていたバッグの中身をベッドの上にひっくり返す。<br>
3億円の輝きだと言われ、さらにビビってしまう。<br>
取り分は現金でいいだろうと言われ、素直に従う。<br>
現金に換えるルートは、つてのある関西の故買屋(盗品と知ってて買い上げる者のこと)に連絡がつき次第だという。<br>
バスタオルを取って来いと言われ、これも素直に従うと、三次は言った。<br>
「兄貴、丸くなりましたね。暴れ牛も角が折れたか。」と。<br>
怪しまれていると思った。<br>
タバコをくわえた三次。素直に火をつけようと見せかけたとき、彼は三次を押さえ込み、顔に火を近づける。<br>
「火をつけてやるが、タバコだとは限らない」と精一杯の演技をすると、三次は、図に乗りすぎましたと謝る。<br>
馬部は肩で息をしながら三次から離れた。一か八かの演技だったが、内心はチビりそうだった。<br>
盗んだ宝石を慣れた手つきでバスタオルにくるむと、バッグへとしまった。<br>
<br>
外の様子を見てきますと、出て行く三次。<br>
扉が閉まると、突っ伏してシクシク泣きながら弱音を吐く。<br>
「・・・どうしよう。逃げようかな。でもすぐ戻るって言ってたしな。」決心がつかない。<br>
だが、外には白峰組と警察が自分達を追っている・・・。<br>
あれこれ悩んでいるうちに、時間は過ぎ去り、三次は帰ってきてしまった。<br>
白峰組のチャカを使ったことがバレて、組のモノが増えてることと警察が多いことを報告される。<br>
そろそろ兄貴のガソリンが切れるころだと思いましてと一本のウィスキーを取り出した。<br>
グラスにストレートで注がれていく液体。今日は辞めておこうと言ってしまう馬部。<br>
馬部は下戸だった。一口飲んだだけで倒れるほど飲めないのだ。<br>
だが、命がかかっている。命がけの演技だ。<br>
怪しまれるわけにはいかない。<br>
「がはは、ヨーシ、じゃあ祝杯を上げるか!お前も飲め!」と乾杯をする。<br>
精一杯の虚勢を張り、一気にグラスを空ける。<br>
そして「疲れたから寝るってんだよ!文句あんのか!」と宣言するが早いか、眠り込んでしまった。<br>
<br>
その夜、馬部は悪夢を見た。<br>
しかし、悪夢より辛い現実がさらに続くことを、このときはまだ知らない・・・。<br>
<br>
<a name="a401"></a></dd>
<dt><a href="menu:401">401</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font> <font color="#8080FF"
size="2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:21ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>― 二日目(10月12日木曜日) ―<br>
<br>
馬部はうなされて目が覚めた。夢か・・・と思うが、窓際で外を見張っている三次の姿に<br>
悪夢の方がマシだと思った。<br>
三次は異常は無いという。昼間で休みたいと言い出すので、快く了承する馬部。<br>
完全に三次が寝入ったコトを確認すると、テーブルの上に置かれていた、あの宝石の入ったバッグを持ち、<br>
警察に届けようと逃げた。<br>
<br>
裏口から外へ出ると、まっしぐらに駆け出した。<br>
昨日あれほど居た警察が、全くいない。<br>
ゲーセン街でようやく見つけた、若いヨレヨレのコートを着た男は手帳に何か紙のようなものを挟もうとしている。<br>
もしやと思い、男の手帳を取り上げると、それは警察手帳だった。男は雨宮桂馬という刑事だった。<br>
事情を話そうとバスタオルに包まれたモノを出す。<br>
しかし、宝石ではなく灰皿だった。<br>
持って来ちゃったんなら自分で返しに行ってくださいといわれ、逃げるように去っていってしまう。<br>
突然物陰から、三次が現れた。自分だけ助かろうとしていると誤解される馬部。<br>
どうも様子がおかしいと思い、バッグの中身をすりかえられていたのだ。<br>
「裏切りは、死をもって償え。これは昔兄貴が言った言葉だ」と言い、懐から拳銃を出した。<br>
そのとき、突然サイレンが聞こえた。パトカーだった。二人を見つけ、追いかけてくる。<br>
「兄貴、このままじゃ済ますさねぇからな!」と捨て台詞を吐き、逃げ去った。<br>
馬部も三次とは別方向へと逃げ出した。<br>
警察に追われ、「違うんだぁぁぁ!」と泣きながら走った。<br>
通りに出たところで、突然オートバイに阻まれた。<br>
早く乗って!と言われるまま、後部座席に乗り、逃げ去った。<br>
<br>
ここまで来れば安心と、オートバイを止めた。<br>
ライダーはメットを取り、頭を振って長い髪をパサリと下ろした。<br>
パッチリとした目が印象的な、23歳ぐらいの美女だ。<br>
馬部には全く覚えが無い。ロケ隊のスタッフかと思っている程度。<br>
「君みたいな人が居てくれて嬉しいよ」だの「一緒に居て良いんですね」など、<br>
誤解を招く言葉を吐くが、ロケ隊から離され、死ぬ思いをしている以上、しかたないのだ。<br>
彼女は恋焦がれているような返答。るい子と呼んでください。という。<br>
そして、彼女の口から、「牛尾」という名前がでて、やはり誤解されていると理解する。<br>
馬部は「宝石泥棒なんてしてないんだから!信じてよ・・・」と泣き言をいう始末。<br>
父の元が安全だというので、三次や白峰組に捕まるよりマシと思い、<br>
どこだか分からないまま自宅へ向かうことになった。<br>
<br>
立派な門構えの家である。門が内側へと開き、バイクとともに中へと進む。<br>
建物は、純和風の豪邸といった感じだ。<br>
玄関の前まで来ると、大勢の男達がずらりと並んで出迎えた。<br>
「お帰りなさいやし!お嬢さん!」一斉に男達は叫ぶ。<br>
ここは白峰組事務所で、彼女の父は組長だったのだ。<br>
馬部は目眩がした。しかし、組員の男に強引に中へと上げられてしまった。<br>
長い廊下を進みながら馬部は考える。もしNGを出しても、テイク2はない。<br>
部屋に入ろうとしたとき、黒スーツに身を包んだ、有能な銀行マンといった感じの男「山吹」が襖を開けた。<br>
牛尾が組を抜け、若頭となったその男は、迫のある目で睨み付ける。<br>
馬部を匿うつもりで連れてきたんだろうが、よくも裏切り者をつかまえてくれてってとこだという。<br>
俺は知らないと弁解する馬部。組長に言うんだなと山吹。<br>
恐ろしい揉め事の中、「もう辞めて。父を呼んできてちょうだい」とるい子が割って入った。<br>
山吹は馬部に一瞥をくれ、奥へと消えていった。<br>
<br>
<a name="a402"></a></dd>
<dt><a href="menu:402">402</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font> <font color="#8080FF"
size="2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:22ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>
広間は20畳以上あった。恐怖と緊張で固まった馬部。二人は正座して組長を待った。<br>
静かに襖が開き、和服姿の白峰組組長、「白峰忠道」が現れた。その迫力に唾を呑む。<br>
隣を見ると、るい子が礼儀正しく頭を下げている。慌てて馬部も畳に額をつけた。<br>
どっかりと腰を下ろす。重苦しい沈黙が続く。<br>
殺されると分かっていて何故ここに来たのかと、白峰の付き人である「柏木」が言う。<br>
馬部は頭がクラクラした。<br>
「三次と一緒に逃げた男は貴様だと報告が入った。三次は見つけ次第始末する。<br>
奴と組んだお前も覚悟ができているだろうな。」柏木が言うが、馬部はやってないと弁解。<br>
恩を仇で返すとはといわれていると、山吹が襖の向こうから「大松」を連れてきたと言った。<br>
入れと命令され、入ってきたのは、大松を連れた山吹と若い男だった。<br>
さらしに巻かれた包丁と、足のついたまな板を持っている。<br>
「すぐに始めてよろしいですか」という山吹に、白峰は無言でうなずく。<br>
大松は、三次にチャカを盗まれ、その銃で強盗された。<br>
「本来なら小指ですまないところだが、白峰の温情だと思え」と言われ、左手をまな板の上に乗せられる。<br>
包丁をさらしから外し、大松の小指へと当てる。馬部は気が遠くなりかけており、見るどころではない。<br>
包丁に一気に体重をかけられる。<br>
馬部の額にコツンと何かが当たり、転がった。<br>
「!!」<br>
転がった小指を山吹は和紙で包み、白峰へ見せる。そして病院へ連れて行けといわれ、<br>
大松はよろよろと広間を後にした。<br>
馬部は膝に力をいれ、気絶しそうな体を支えた。<br>
<br>
事の次第じゃエンコ(小指)だけじゃすまないぞと凄まれ、三次とチャカと宝石のありかを聞かれるが、<br>
馬部は当然わかりませんと答える。証明する為に、服のポケット全てを裏返す。<br>
すると、そこからは指輪が3個出てきた。寝てる間に三次が入れたのだろう。<br>
それを見た付き人は、「それだけじゃないだろう。どこで三次と会う」と聞く。<br>
会いません!と断言すると、白峰は立ち上がり、言った。<br>
「こいつは・・・牛尾じゃない」<br>
心臓が破裂しそうになる。<br>
「昔の暴れ牛はもう死んだ。東京湾にでも沈めろ」といわれ、山吹が牛尾の肩に手をかけた。<br>
「違うんです!これは婚約指輪だ」と命惜しさに出まかせを言った。<br>
今日にも婚約を申し込むつもりだったという馬部に調子を合わせるように、るい子が言葉を足す。<br>
「その相手とは、私なんです!」<br>
白峰の目が大きく見開き、柏木と山吹も呆気にとられたが、一番たまげたのは馬部だった。<br>
るい子は続けた。<br>
牛尾さんが組を抜けてから何度も逢っていた事。自分は牛尾が好きだということを。<br>
馬部も調子を合わせる。ここで殺されるより嘘でも勘違いでも利用して生き延びる方が先だ。<br>
「結婚を申し込みに来た。どうしても信用できないならかまわないが、結婚を認めてからにしてくれ」と<br>
だが、白峰は「山吹から正式に結婚を申し込まれている。こいつ(牛尾を演じる馬部)よりましだ」と否定。<br>
もう二度と牛尾と会うなという。<br>
「私は命がけで牛尾さんを愛しているの。ずっと牛尾さんと一緒に居る」<br>
と言うるい子の言葉に、怒り、床の間にある日本刀を抜刀し、るい子の鼻先へ突きつける。<br>
山吹では死んでも嫌と言うなら、死ね。と言い、刀を振り上げた。<br>
気合を発し、刀が一閃した。<br>
るい子のジャケットが裂けたが、るい子自信は無事だった。<br>
「お前は男を見る目が無い。育て方を間違えた」<br>
るい子は尻もちをつく。馬部は既に腰を抜かしていた。<br>
白峰は馬部を見て言う。<br>
「明日までに三次の首とチャカを持って来い。お前の話はそれからだ。<br>
ただしできなかったときは・・・」刀を振り下ろす。殺されるということだ。<br>
今の約束を盃で約束してくれと言うるい子に、白峰は苦笑し、柏木に用意しろと命じる。<br>
(ヤクザ社会において、盃を酌み交わせば、”血よりも濃い”結びつきとされる。)<br>
<br>
<a name="a403"></a></dd>
<dt><a href="menu:403">403</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font> <font color="#8080FF"
size="2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:24ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>盃の用意が整い、向かい合わせに座る馬部と白峰。<br>
「命を賭けた約定の覚悟、今一度胸中お確かめの上、腹定まったならば、<br>
この盃、三口半で飲み干しまして懐中深くお納めをお願いします。どうぞ。」<br>
柏木が口上を述べた。<br>
白峰は三口半で飲み干した。<br>
しかし馬部は盃を見つめたまま動かない。<br>
呑めない。でも飲まないと殺される・・・。<br>
ようやく盃を口に運んだ。<br>
手が震え、三口半かどうか分からないが飲んだ。アルコールが回る。<br>
白峰が懐紙に盃を包み、懐に入れる。慌てて馬部も盃を包んでポケットにしまう。<br>
「つたなき盃ではございましたが、ここに約定の儀はつつがなく終了いたしました。それではお手を拝借。」<br>
一本締めでその場は収まった。・・・が馬部は目が回った。<br>
<br>
るい子の部屋へと通される。<br>
馬部は酒がまわり、ぐにゃりとるり子に倒れこむ。彼女をベッドへ倒してしまった。<br>
るり子は誤解し、自らの帯を解く。<br>
抱えた馬部の首にキスの雨を降らす。<br>
そのとき、突然扉が開き、山吹が入ってきた。起き上がるるり子。床へ転がり、倒れこむ馬部。<br>
彼は身辺警護だという。野暮なことはしないで!あなたに用は無いというるり子に、<br>
私にははあるんですという。<br>
用というのは、牛尾に若い者が挨拶したいと言ってるから、ツラを貸してくれということらしい。<br>
私も行くというと、野暮なことはしないでもらいたいと一蹴される。<br>
そして、「大切な客人だ。丁寧にな!」と言うと、<br>
床でつぶれていた馬部を若い衆が抱え上げ、引きずっていった。<br>
<br>
<a name="a404"></a></dd>
<dt><a href="menu:404">404</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font> <font color="#8080FF"
size="2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:25ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>
広い居間に連れて行かれ、ソファーに座らされた馬部。<br>
その周りを血の気の多そうな組員達に囲まれた。<br>
山吹は手下と耳打ちをする。馬部の目の前には数本のブランデーが並べられた。<br>
グラスに注がれ、乾杯をする。唇を濡らすだけだったが、山吹に凄まれ、仕方なく飲み干した。<br>
すぐに次が注がれる。呆然とする馬部。<br>
「牛尾さんは必ずかけつけ三杯でしょう」といわれ、気が遠くなりながら胃へ流し込んでいく。<br>
飲み干したとたんに、頭が前に倒れ動かなくなった。<br>
組員達は「これが本当に「暴れ牛」か?なんか違う」と口々に言っている。<br>
山吹は確かに何処かがおかしいと言いながらも、外へ運び出し、車に乗せろと命じた。<br>
手下達が馬部を抱え上げ、「だらしねぇ。この牛去勢されてるんじゃねぇか?」と笑った。<br>
「なんだと・・・」とゆっくりと顔を上げる馬部。そして続けざまに言う<br>
「誰に向かって言ってんだ、この野郎!」いきなりボトルで殴りつけた。<br>
殴られ、頭を押さえて転がりまわる組員。若い衆は一気に殺気立った。山吹は息を飲んだ。<br>
<br>
「イキがるんじゃねぇ、ヒヨッコどもが!」<br>
<br>
馬部は一喝した。完全に目がすわっている。<br>
過度のアルコールで切れたようだ。<br>
「いいかッ、こっちはてめぇらが鼻たらしてるときから刃重ねてきてるんだ。何百となく死んできてるんだよ!」<br>
牛尾の数々の武勇伝を聞かされている若い衆は、思わずたじろいだ。<br>
足を洗った人間が、何を今更言ってやがる!という山吹に、<br>
「誰が足を洗ったっただと。馬鹿いうな、俺はヤクザの顔役としてこれからドンドンとのし上がっていく男だ!」<br>
馬部は銀幕に賭ける意気込みを話した。<br>
狙いは白峰の跡目だなという山吹に、白峰なんざ今もうやってら!もっと主役になるんだよ!という馬部。<br>
理解に苦しむ山吹。<br>
そのとき、頭から血を流した男が起き上がる。手にはドスを持っていた。<br>
刺すぞと脅す男に構えがなってないと怒鳴りつけ、ちょっと貸してみろと言うと、刺すぞと脅される。<br>
だからそうじゃねぇって言ってんだろ!とグラスを投げつけ、ドスを奪い取る。<br>
刺し方教えてやると言うが、テーブルが邪魔で動きにくい。<br>
近くに居た山吹の手下に「テーブルをわらえ」と言うと、手下は力なく笑った。<br>
「笑ってんじゃねぇ!この野郎!邪魔だからどけろと言ったんだ!そんなこともわからねぇのか!このド素人が」<br>
と思いっきり蹴り飛ばした。(テーブルをわらう=テーブルをどける。業界用語です。)<br>
唖然と見つめている若い衆。わからねぇ・・・。<br>
そして、ドスの構え方を映画のタイトルで説明し、無造作に男の太ももへと刺した。<br>
ぎゃあああああ!と叫ぶ男に「(やられ方が)上手いじゃないか、その感じ忘れるな!」と褒める。<br>
他に刺し方教えて欲しい奴いるかという馬部に、<br>
若い衆はブルブルと首を横に振る。暴れ牛はむちゃくちゃだ・・・。<br>
「さてと、この街も住み辛くなった。そろそろ潮時だ。あてのねぇ旅だ」と言い、ポーズを決めると、<br>
若い衆が車で送ると言い、二人の若い衆が馬部の前に立った。<br>
キメで邪魔すんじゃねぇ!と若い衆を放り投げる。さらに踏みつけにする。(キメ=ポーズを決める事。業界用語?。)<br>
何年この世界で食ってやがるんだ!声にならない声で謝る若い衆。<br>
居間はむちゃくちゃになった。<br>
肩に背広を引っ掛け、「何か困ったことがあったら、いつでも呼びな。あばよ」とニヒルに笑って立ち去った。<br>
誰も後を追えなかった・・・。<br>
<br>
馬部はフラフラと、無人の児童公園に出た。<br>
ドスンと砂場に腰を下ろし、コト切れたようにバッタリと倒れた。<br>
<br>
「へっくしょん」<br>
馬部は自分のくしゃみで目が覚めた。<br>
どうやら雨が降ったらしい。地面が濡れている。<br>
山吹に飲まされてから覚えていない。自分の体を確かめたが怪我はない。助かったと思った。<br>
しかしそのとき、三次の首と拳銃を持っていかないと殺されることを思い出す。<br>
だから解放されたのかと思った馬部。<br>
三次を見つけるなんてとんでもない。逆に殺されると思い、どうしようどうしようと悩んでいる。<br>
そしてロケ隊を探して再び街を歩き回った。<br>
<br>
<a name="a405"></a></dd>
<dt><a href="menu:405">405</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font> <font color="#8080FF"
size="2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:27ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>レストランの前で足が止まった。<br>
そこにはみちるが立っていたのだ。<br>
馬部はゆっくりとみちるへ近づく。みちるも後ろを気にしながら馬部へと駆け寄る。<br>
「どうしたの?うまちゃん。気になって見に来ちゃったの?あの人とは話をあわせただけよ」と言い出す。<br>
馬部は突然みちるを抱きしめ、「怖かった。もう離れたくない!」と言い泣いている。<br>
大げさね。と言いながらも、ウマちゃんがそんな事言ってくれたの嬉しいとみちるは目に涙を浮かべていた。<br>
「でも今は待ってね。全部終わってからって言ったじゃない。あ、ほら来た!」とみちるが言うと、<br>
白いコルベットがレストランの駐車場から出てきた。<br>
おまたせと車からデュークが馬部に近づいてくる。身の程ってものをわきまえた方がいいかな。という。<br>
そしてみちるを強引に車へ乗せ、車を出そうとする。<br>
馬部は次の現場は何処かと聞くが、さっきと同じところだよとそっけなく言われ、車は出て行ってしまう。<br>
「どこッ、それどこォォォッ!」<br>
馬部の絶叫が街にこだました。<br>
<br>
馬部の足取りは重かった。みちるに置き去りにされたショックも去ることながら、気力体力共に限界だ。<br>
ふと思い出す。スケジュールでは昨日も今日もホテルは同じの予定だ。<br>
撮影も心配だが、ホテルへ先回りすれば必ずロケ班と合流できると考える。<br>
だが、ホテル名を忘れていたので、電話ボックスのタウンページで調べ、思い出し、向かった。<br>
フロントにはジイさんが一人居るだけだった。<br>
ロケ隊の取った部屋で待つのも気が引けたので、別室のツインを一室とる。<br>
ジいさんへ、ロケ隊が帰ってきたら、遅くなってもかまわないから教えてくれと言った。<br>
そして部屋へと入った。<br>
狭い部屋で、オートロックはないが、三次と白峰が居なければいいと、ベッドへ倒れこみ、<br>
そのまま深い眠りに落ちていった・・・。<br>
<br>
<a name="a406"></a></dd>
<dt><a href="menu:406">406</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font> <font color="#8080FF"
size="2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:28ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>― 三日目(10月13日金曜日) ―<br>
電話のベルが鳴っている。目を覚まし、電話に出ると、フロントからだった。<br>
「ロケ隊が帰ってきた」というのだ。<br>
これでやっと戻れる!喜んでいると、ノック音がした。<br>
みちるだと思い、扉を開けるとそこに立っていたのはるい子だった。<br>
「どうして黙ってウチを出たんですか!一人じゃ危険なの解ってるでしょ!ずっと一緒にいるって約束したのに!」<br>
すねたように馬部の胸を叩いた。<br>
馬部の後を、小指を切られ、帰る途中だった大松がつけてきていたのだ。<br>
大松から居場所を無理やり聞き出し、白峰には黙って出てきたのだと言う。<br>
これでまた牛尾を演じなければいけなくなった。<br>
るい子は「牛尾さん変ったわ。でも、今のナイーブな牛尾さんの方が好き。私の部屋の続き」といい、<br>
慣れた手つきで馬部のシャツのボタンを外していく。<br>
何とか逃げようと「悪いんだけど、先にトイレ行ってもいいかな?」と言って、部屋を出て行く。<br>
<br>
共同トイレの一つだけ開いていた、トイレの個室に駆け込んだ。<br>
「・・・どうしたらいいんだ」<br>
すると隣の個室から声がする。<br>
「そっちに紙ねぇかな。出した後で、ないのに気づいた。」<br>
トイレットペーパーを壁越しに手渡す。<br>
それから宝石強盗はつかまったのかという話になり、<br>
流れで互いに自分の置かれた状況を、簡略化して相談する。<br>
状況が状況だけに名乗りはしない。<br>
「ヤクザの女に迫られて困っている。手を出していいものか、後のことを考えて出さないべきか・・・。」<br>
すると隣の個室から<br>
「ヤクザの女には手をださないことだ。身包みはがされてケツの毛まで剥かれるぜ」と言われる。<br>
恐ろしくなり、絶対手を出さないと心に誓う。<br>
隣の男は「ひょんなことから芝居しないといけなくなったが、長いセリフを覚えるのはどうすればいいんだ?」<br>
それに馬部は「口に出せば覚えられる」とアドバイスした。<br>
お互い大変みたいだががんばろうなと語り、隣の男は先に出て行った。<br>
個室の扉を開け、誰も居ないことを確認すると、馬部は部屋へと戻った。<br>
部屋ではるい子が服をまとわないまま、深い眠りについていた。<br>
彼女に布団をかけなおし、自分は少し休み、逃げようと決めた。<br>
<br>
首元を誰かにごそごそとさわられていることで目が覚めた。<br>
それはるい子が自分に金のネックレスをかけていたのだ。<br>
これは母がしてたもので、自分も夫となる人にあげようと決めていたという。<br>
婚約指輪のお返しとキスをされる。またせまられると危険を感じる馬部。<br>
話題を替えようと「チェックアウトの時間は大丈夫かな?」と焦りながら言う。<br>
もう。とふくれるが、るい子は缶コーヒーを差し出した。<br>
外で買ってきたものらしい。ホテルの前でデューク浜地に会いサインもらったと言った。<br>
時計を見ると、既に午前10時を指していた。<br>
ロケ隊は出発してしまったんだと気づく。だが、ホテル代は持っていない。<br>
るい子は先に済ませたと言う。会計は妻の務めですからと、すっかり夫婦きどりだ。絶句する馬部。<br>
フロントで、鍵を返したとき、ジイさんが「あんたまだいたのか」とロケ隊について行ったと思ってたと言われ、<br>
るい子に正体がばれそうで焦るが、有名人のサインをもらおうと思っていただけと濁した。<br>
ホテルを出ると、るい子から帽子と黒ぶちめがねを変装用に受け取った。<br>
<br>
<a name="a407"></a></dd>
<dt><a href="menu:407">407</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font> <font color="#8080FF"
size="2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:29ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>
三次はどこにいるんだろうかとるい子に聞くが、そんなのどうでもいいわと返される。<br>
二人で白峰も手の届かないところへ愛の逃避行をしようと言っているのだ。<br>
それはまずい。なんとか逃げ出すんだと考える馬部。<br>
まだこの近くにロケ隊が居ると感じ、「ご飯を食べよう」と言い出す。<br>
食べ終わり店を出ると、服を買いに行こうと衣類店を数店回る。<br>
実は、服を探している間にロケ隊が発見できないかと見るためだったのだが、見つからない。<br>
るい子は「私にあてがあるの。来て」と言い、強引に引っ張って行かれた。<br>
そこはラブホテル街。<br>
彼女は強引にも店を決め、中へと引っ張り込んだ。<br>
「ああッ、でもォーッ!」<br>
馬部の悲鳴が秋の空に響いた。<br>
その入り口で、みちるが様子を見ていた・・・。<br>
<br>
20分ほどで、手を出すことなんてできないと服を整えながらホテルから飛び出し<br>
「許してくれェ!」一目散に逃げた。<br>
「イテ!」「アイタッ!」<br>
闇雲に走っていた馬部は、出会い頭に大柄な男とぶつかった。<br>
「スイマセン!」馬部は男の顔も見ずに叫ぶとそのまま走り抜けた。<br>
<br>
ハンズの前まで逃げて、ようやく立ち止まった。振り返るとるい子はいない。<br>
ほっと息をつく。だが、一人残してきてしまった。怒っているのではと悩む。<br>
そのとき、「牛尾さん」と女の声がした。反射で謝り、のけぞってあとずさる。<br>
どうかなさいました?と問う女。自分は見覚えがないが、やっぱり自分を牛尾政美と間違えている。<br>
「ごめんなさい。お待たせして。私の彼、まだ来てないんです」という。<br>
「そう」ととりあえず話をあわせておく。<br>
女は突然「警察に行ってありのままを話してみたらどうでしょう」というのだ。<br>
なぜ宝石強盗のことを知っているのかと混乱していると、中年男が割り込んだ。<br>
女の顔がこわばる。馬部も知らない男だ。<br>
男は「撮影中にいいんですか?こんなところまで来ちゃって。」<br>
中年男は馬部を知っているようだが、馬部はやはりこの男を知らない。<br>
撮影ってなに?と混乱する女に、似すぎてますよね。と言いながら、<br>
男は馬部に近づくと、すばやく目じりの傷跡を少しこすり、メイクの傷が少しめくれた。<br>
中年男の表情が和らぐ。と同時に女の目が大きく見開いた。<br>
知り合いですかと改めて問う男。<br>
女はあわてて「違います。今偶然会った。だから刑事さんに…」と話す。「刑事!?」<br>
刑事と聞き、どうすればいいのか分からず、ダッシュで逃げ出した。<br>
一刻も早く、ロケ隊に合流したい!<br>
<br>
<a name="a408"></a></dd>
<dt><a href="menu:408">408</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font> <font color="#8080FF"
size="2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:30ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>
あてもなく走り続けた馬部は、足がもつれて倒れてしまった。<br>
ごろんと仰向けになった。そのとき、どこかで聞き覚えのある音に、起き上がった。<br>
100メートル離れたあたりに、人だかりができている。レフ板が見えた。<br>
「ああッ、ロケ隊だ!」歓喜の表情で馬部は走り出した。<br>
シーン67!・・・と言っている。ADサギ山が「ウマさんどこ行ってたんですか!」というが、<br>
馬部は熱いものが込み上げてくる。僕の名前をもう一度呼んでと嬉しそうに言う。<br>
「ウマさん待ちなんですから急いでくださいよ」と愚痴る。<br>
自分はウマさん。ウシじゃない!<br>
「ウマさんのおかげでこっちはタコ呼ばわりですよ。」というサギ山。<br>
帰ってきた!強い喜び。それに役も降ろされていない。涙をこらえた。<br>
みちるが無言のまま馬部の肩を抱き、態勢を作る。感無量で見つめると、冷たくされた。<br>
今ではそんな態度も掛け声もカメラやマイクさえも懐かしい。<br>
そして本番が始まった。<br>
その演技はいきなり上手くなったと評価を得る。<br>
今の馬部の気持ちがそのまま出せるシーンだったからだが。<br>
カット後、みちるが後で話したいことがあるという。素直にうんと言った。<br>
やっぱり現場はいいなぁと、感無量だ。<br>
組長が刑事に追いかけられるシーンの撮影に入った。<br>
刑事役はデュークだ。<br>
電車の動きに合わせて走るため、サギ山に無線機を持たせ、スタンバイする。<br>
本番で走り、感情のある良いシーンが取れたとカットが出る。<br>
しかし、カメラの死角に入ったところで、デュークがギャっと悲鳴を上げた。<br>
振り返ると小指に包帯を巻いた大松と路上でノビているデュークがいた。<br>
大松は、三次を見かけたという報告が入ったから急ごう。乗ってくださいという。<br>
また命がけの芝居が始まり、泣きたくなった。<br>
<br>
「刑事に追われているところを見て、警察に垂れ込んだのは嘘だと分かった」と、<br>
ドラマを本物だと信じていた。<br>
馬部も「見つけたらただじゃおかねぇ」と精一杯の芝居をした。<br>
昨日からすぐに三次を探さないのは何故だ問われ、まずい状況になると感じた馬部は、<br>
一日目のホテルで、三次が宝石を売るという話をしていたと話す。<br>
エンコ落とされたカタはきっちり付けてやる。兄貴の協力はなんでもする。と言い出す。<br>
組の中には山吹が組を仕切る親になるのはたまらんと思ってる奴が多いから、兄貴が戻って<br>
くれるのを待ってるんだと言われ、妙な具合になりながらも、<br>
二人は見かけたという現場へと向かった。<br>
<br>
到着すると、大松に裏口へ行って、三次が出てきたところを挟みうちにしようと提案。<br>
大松は素直に従い、裏口へ。だが、その隙に逃げようと、車に乗り込む馬部。<br>
エンジンをかけたそのとき、一番会いたくない人物「三次」が目の前に立ちふさがった。<br>
やばい。殺される・・・。<br>
三次はすばやく車に乗り込み、付き合って欲しいところがあるという。<br>
仕方なく従い、車を出す。<br>
故買屋が、相棒と一緒に来いといっているのだという三次。<br>
関係ないだろうと答えると、脇腹に銃を突きつけられ、逃げられなくなった。<br>
<br>
<a name="a409"></a></dd>
<dt><a href="menu:409">409</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font> <font color="#8080FF"
size="2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:32ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>
そこは建設中のビル。奥から鼻に大きな絆創膏をつけたハゲの男が出てきた。<br>
「その節はどうも」とガムをくちゃくちゃさせながら言うが、何のことかわからない。<br>
三次は顔色を変え「何で知ってるんだ!」というと、脇からもう一人の男が出てきた。<br>
顔の左半分が腫れ上がり、左目はほとんどふさがっている。<br>
鼻の折れたハゲは、「もう一人は病院にいる」というが、馬部はさっぱりだ。<br>
つくづく牛尾が恨めしい。<br>
彼らは故買屋ではなかったのだ。<br>
銃口を向けられ、三次は「俺を殺したら宝石のありかは教えない」というが、<br>
そんなケチな話はどうでもいいと一蹴される。<br>
ハゲ男は白峰組のチャカで二人を殺し、揉め事の末の相打ちって事にすると言い出す。<br>
まずはお前からだと、銃口を馬部の鼻先に向けられた。<br>
そのとき、ハゲ男の後ろで影が動いた。<br>
「動くな」とハゲの喉元へドスを突きつけていた。ハゲ男は銃を落とした。<br>
「そっちの貴様もだ。チャカを牛尾の兄貴に渡せ」とすごみ、馬部は銃を受け取る。<br>
その隙に、三次は銃を拾い上げ、「やっぱり白峰組と組んでやがったな!」と言い残し、<br>
猛ダッシュで逃げた。<br>
「オイてめぇらどこのもんだ」と大松はハゲ男と顔を腫らした男に問うが返答はない。<br>
「じゃあ組に帰って口割らすか。おお?」とすごむが、「あんたらはもう狙われている」と答えた。<br>
馬部は牛尾になりきることが必要だと思い、<br>
「そうか。上等だ、今度は鼻折るぐらいじゃ済ませねぇぞ」とハゲの鼻の絆創膏を剥ぎ、鼻をつかんだ。<br>
「ぎゃぁぁぁ!」悲鳴をあげるハゲ男。<br>
馬部は続けた。「俺の怖さは十分知っているだろう。死にたくても死ねねぇ状態にしてやる」と、<br>
今度はドスを握り、「まずはこの鼻からだ」とドスを鼻に当てた。<br>
「平らな顔にしてやるぜ!」ドスを握る手に力を込める。<br>
焦ったハゲ男は「ま、待ってくれ!わかった、話す・・・全部カラクリを言う!」と自白を始めた。<br>
<br>
馬部は白峰邸へ行くという連絡を入れ、向かった。<br>
ずっと「牛尾」になりきったままだ。不思議な力が湧いてくる。<br>
これからやることは、三流役者「馬部甚太郎」の一世一代の大芝居であった。<br>
<br>
馬部は単身その門をくぐった。<br>
中庭には山吹の息のかかった者達が集まっていた。毅然とした態度のまま中へ進む。<br>
山吹も前へ進み出て、馬部と対峙した。<br>
わざわざ殺されに戻ってくるとはと言う山吹に<br>
馬部は「何を焦っている。俺が戻ってくるとは思わなかっただろう」という。<br>
山吹のシナリオでは、三次と牛尾(馬部だが)は死んでるはずだった。<br>
しくじったのは、山吹の方だった。「逃げなきゃいけないのはお前の方だ」という馬部。<br>
殺せ!と命じる山吹に従い、組員は一斉にドスを抜く。<br>
「ガタガタ騒ぐんじゃねぇ!」馬部は一喝した。<br>
何事だと言う声とともに、白峰が現れた。<br>
約束のものは持ってきたんだろうなと言う白峰。<br>
「そのことについてお話があります。全ては罠でした」という馬部。<br>
聞く必要はは無い。早く始末してくれという山吹に、言葉が終わるが早いか、<br>
「黙ってろ、タコ!」馬部は山吹を黙らせるに十分の演技をした。<br>
カラクリを話し出す馬部。<br>
故買屋は関西のヤクザで、そいつに指示を出したのが山吹だった。<br>
指示の内容は、関西のヤクザに三次を殺させ、チャカを取り返し、<br>
それを手柄に、お嬢さんと結婚を強く要求するつもりだった。<br>
拳銃の線で捜査が組に及べば、組長が捕まる。<br>
そうなったら、組を二つに割り、関東進出を目論むヤクザと手を組んで、<br>
組を牛耳るという手筈だったのだ。<br>
それを話し終えると、もういいぞと外へ声をかける。<br>
大松がハゲ男を連れて入ってきた。山吹の顔色が変った。<br>
「欲出したのは失敗だったな、山吹・・・覚悟しな、今度はおめぇが逃げ回る番だ!」<br>
今馬部甚太郎は、完全に「牛尾政美」だった。<br>
急に逃げ出す山吹に、白峰の目配せで何人かがその後を追った。<br>
馬部は言った。「組長。ただ今お聞かせした通りです」と。<br>
すると、白峰は「わかった。では急げよ。今日中だ」と三次を捕まえてくるよう言う。<br>
山吹の魂胆がばれたところで、状況は変わりないのだ。<br>
再び馬部はあてもなく彷徨った。<br>
<br>
<a name="a410"></a></dd>
<dt><a href="menu:410">410</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font> <font color="#8080FF"
size="2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:34ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>いつになったら身の危険がなくなるのか・・・。<br>
そう考えたとき、ふと思いつく。<br>
「ロケ隊へ帰ればいいんだよ!」と。<br>
そしてロケ隊を探すことにした。<br>
<br>
出会いは、意外とあっさりやってきた。<br>
「牛・・・!」<br>
「馬・・・!」<br>
馬部は来た方向を慌てて走り出し、逃げた。<br>
牛尾政美が後を追ってくる。<br>
馬部は牛尾にタックルされた。<br>
混乱する馬部に「知ってること全部教えてくれ!」と言う牛尾。<br>
馬部は牛尾に支えられ、起き上がった。<br>
話のできるところ行こうやと言われ、移動した。<br>
<br>
馬部は牛尾に全てを話し、その間、牛尾がどうしていたのかも聞いた。<br>
「そうか、山吹がなぁ・・・」と呟く牛尾。<br>
「あなたさえ警察に出頭してくれたら万事解決するんです」と馬部。<br>
だが、牛尾は「甘いな」と返し、理由を告げた。<br>
馬部は、組の内情とチャカを使ったことなど、知りすぎてしまった。<br>
牛尾が出頭しても、牛尾政美に成りすましていた男がいたということはいずれバレる。<br>
組は馬部の口を塞ぐだろうと話され、不安になる馬部。<br>
牛尾は言った。「助かりたかったら、三次を捕まえて全てを自白させたうえ、チャカのことは黙らせることだ」<br>
無理だ!と思った。<br>
そのとき牛尾の携帯電話が鳴った。<br>
二言三言言葉を交わすと、電話を切る。<br>
・・・やるしかねぇ。考えるんだ。牛と馬で。<br>
<br>
<a name="a411"></a></dd>
<dt><a href="menu:411">411</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font> <font color="#8080FF"
size="2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:35ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>ロケ隊を遠くから眺める二人。<br>
「・・・ヨシ。それしかねぇ。」何かの相談が固まったようだ。<br>
しかし、馬部はまだ心配している。<br>
どう考えても人手が足りないからだ。<br>
しかし、サギ山は仕事を辞めたがっていた事を思い出し、<br>
手伝わそうと決め、早速行こうと話したそのときだった。<br>
突然牛尾はタックルされた。<br>
「抵抗するな!」というタックルした男。<br>
「鯨井・・・!?」牛尾はタックルした男の名を呼んだ。<br>
男は昼間、ハンズの前で会った刑事だった。<br>
「よくも騙してくれたな!宝石はどこにある」と押さえ込みながら揉めていた。<br>
後からみちるも来る。刑事を連れてきたのはみちるだったのだ。<br>
大丈夫?ウマちゃん。と心配してくれるが、今は牛尾が気になる。<br>
鯨井は牛尾の腕をさらに絞り上げ、共犯者はどこだと問い詰める。<br>
だが、牛尾は俺は共犯者じゃねぇんだ!と抵抗。<br>
危うく強盗犯を匿って逃亡の手伝いをするところだったと言いながら、馬部を立たせる。<br>
あの・・・と間に割り込むみちる。鯨井は答えた。<br>
「いや、みちるさんのお手柄でしたよ。よく見破ってくれました」と。<br>
詳しい話は署で聞こうかと言ったとき、牛尾は叫んだ。<br>
「まだクランクアップしてねぇんだよ!何も終わっちゃいねぇ!こんなところで降ろされるわけにはいかねぇんだよ!」<br>
「!・・・」馬部もまた同じ気持ちでいたのだ。<br>
鯨井は「まだ役者気取りでいるのか。寝言は署で聞いてやる」と言う。<br>
しかしみちるは「お願いです。うまちゃんの好きにさせてあげてください」というが、<br>
鯨井は、顔の傷をこすり、背中の刺青を見せ、こいつは牛尾だと証明する。<br>
だが、彼は今までずっと演じてきた、立派な役者だから、最後までやらせてくださいと<br>
みちるは鯨井に頼んだ。<br>
そうだ。まだ終わってないんだ!と思った馬部は、鯨井にタックルし<br>
「逃げろ!牛尾さん!」<br>
抵抗する鯨井刑事。だが、馬部は必死にしがみついている。<br>
そうよ!早く逃げて!とみちるも鯨井にしがみついた。<br>
「すまねぇ・・・!」<br>
牛尾は馬のように駆けだした。<br>
放せ!と抵抗する鯨井に、コレにはわけがあるんです!と頼み込んだ。<br>
<br>
既に日は傾いていた。<br>
公園の階段にポツンと座るサギ山の前に馬部とみちるが立った。<br>
本当にもう、こんな仕事ヤメよう。そうつぶやくサギ山。<br>
「止めないけど、ちょっと力貸して欲しいんだけどな」と言う二人。<br>
は?と突飛なことに驚くサギ山。<br>
スタッフに内緒で、ある人に芝居を見せたいという。<br>
誰に見せるんですか?と疑問を持つサギ山に、馬部はいう。<br>
「実は兄に芝居を見せたいんだ。兄は今日ブラジルに移住する。<br>
あと3時間もすれば、日本を発つ。でも空き時間になって、撮影を見せられないだろ。」<br>
自分でも驚くほどスムーズにでまかせが出てくる。<br>
「だから特別に別のところで見せ場の芝居をやって、それを兄貴に見てもらおうってわけ」<br>
馬部のでまかせに納得したサギ山。小道具を担当して欲しいと言われどのシーンかと訊くが、<br>
説明は後と言い、みちるが一枚の紙を渡した。<br>
だが、コレだけのものを勝手に持ち出すと怒られるというサギ山に、<br>
「もう辞めるんでしょ。じゃあやめる前にパッと遊ぼうよ。それで鬼チーフからもバイバイだ」というと、<br>
サギ山は快く了承した。<br>
<br>
サギ山は何とか用意が終わり、注文どおりの品を用意して戻ってきた。<br>
「これからどうするんですか?」と訊くサギ山に、<br>
「君は最後に登場する予定だから、ここに入ってて欲しい」と車のトランクへサギ山を押し込んだ。<br>
<br>
<a name="a412"></a></dd>
<dt><a href="menu:412">412</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font> <font color="#8080FF"
size="2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:36ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>雨が降り出した。<br>
パトカーの運転席には、付け髭をした馬部。<br>
助手席に、メガネの制服警官が乗っていた。<br>
馬部の車は、その場を逃げ出そうとしていた三次の行く手をさえぎって止まった。<br>
馬部は制服警官と共に車を降り、拳銃を構えた。<br>
「動くな!抵抗すると射つ!」<br>
周りには、腕から血を流した牛尾と胸を射たれて倒れている鯨井が居た。<br>
「射つな!射つなよ!」と三次は両手を上げ、地面に膝をつく。<br>
制服警官は、雨に打たれている鯨井の元へ走り、脈を取る。<br>
「ウソだろ・・・」と三次も唾を飲んで見守った。そして警官は首を横に振った。<br>
雷があたりを白くする。<br>
「強盗容疑、及び殺人の現行犯で逮捕する」と馬部は手錠を三次の手首へかけた。<br>
牛尾も警官に取り押さえられている。<br>
「ちがう。おれは射たなかった。殺してないし、殺す気も無かった。」と主張する三次。<br>
「往生際が悪いぞ相棒・・・一緒に射ったんだ。命中したのはお前の弾だろ」<br>
と苦痛に顔を歪ませながら牛尾は言った。チャカなんかもってねぇ!と両手を広げる三次。<br>
「貴様らがグルになって強盗したのはわかってる。目撃者もいる。今から念仏でも唱えておけ。」<br>
馬部は冷たく言い放つ。<br>
すると三次は言ったのだ。<br>
「待ってくれ!あいつは俺の相棒なんかじゃねぇ!確かに宝石強盗をしたのは俺だ。<br>
だが俺一人でやったことで、あいつは何も関係ねぇんだ。仲間でもなんでもない!<br>
今だって本当にあいつが一人で殺したんだ!」<br>
馬部は「牛尾とグルだったんじゃないのか!」と言い放つと、<br>
「ちがう!あいつは客だったんだ、共犯なんかじゃねぇ。宝石強盗は俺一人でやったことだし、<br>
警官殺しはあいつ一人がやったことだ!嘘じゃねぇ!」三次は必死に訴えた。<br>
「・・・そうか。なるほどな。」<br>
死んでいたはずの鯨井刑事がむっくり起き上がった。<br>
「生きてる・・・?」混乱する三次に<br>
「銃持ってる奴を捕まえに来るのに防弾チョッキ着ない馬鹿がいるか」という。<br>
署まで楽しいドライブだと言い、三次の横に立つ。<br>
牛尾は捕まえねぇとかと問う三次に、鯨井はパトカーは狭いんでね。とごまかす。<br>
後は君達に頼むと馬部に告げた。馬部は「はい!」と答えると、来い!と三次を引っ張る。<br>
観念した三次はおとなしく連行されていく。<br>
覆面パトカーに三次を放り込んだ鯨井は、こちらを振り返って気持ちのいい笑顔を見せた。<br>
鯨井の運転する覆面パトカーは、うなりを上げて走り去った。<br>
<br>
「ハイ・・・カット!OK!」警官の帽子とメガネを外すと、みちるは叫んだ。<br>
「やりましたね。まんまと引っかかった」と馬部も帽子と付け髭をはずした。<br>
今まで腕を押さえて辛そうだった牛尾もようやく笑顔を取り戻し、<br>
「こうなると、紛れ込んだのがロケ隊でよかった。宝石も拳銃も火薬も血のりまであるしな」<br>
不安だった出演者も最高の演技だった。鯨井までよくやってくれたと談笑する。<br>
そして着替えを済ませると、みちるはサギ山をトランクから出した。<br>
終わったとサギ山に伝えると、僕何もしてませんけどと返してきたので、<br>
「お前がいてくれたから、助かった。」と牛尾はサギ山の手を握った。<br>
こいつを小道具に礼を言って返しておいてくれ。また叱られるかもしれねぇがと、<br>
アクセサリーの入ったケースと拳銃を渡した。<br>
「どうせ辞めるんでかまいませんけど、最後にウマさんたちのお役にたてたなら良かったです」<br>
サギ山の言葉に、「馬はこっちだよ」と馬部が言った。<br>
牛尾と馬部が並んで立っている。混乱するサギ山に、二人は笑った。<br>
「双子だったんですか!」と納得するサギ山。<br>
そこへロケバスが到着した。<br>
<br>
<a name="a413"></a></dd>
<dt><a href="menu:413">413</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font> <font color="#8080FF"
size="2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:37ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>
ドアが開き、ものすごい形相をしているくま野が降り立った。<br>
小道具に嘘ついて一体なにしてやがったんだ!と怒鳴ると、辞めてやるんだ!知ったことか!と返す。<br>
すると、くま野は「そうはいかねぇ。てめぇは俺の下でたっぷりかわいがってやる」と、<br>
サギ山の耳をつかんでバスへと乗せた。「イテテ・・・チキショウ!今に辞めてやる!」<br>
牛尾は馬部に、大事な品だからなと、るい子からもらった金のネックレスを返した。<br>
止めて下さいよ。それ考えるとまた憂鬱になる。という馬部。<br>
せいぜい頑張るんだなと、牛尾とみちるは明るく笑った。<br>
ロケバスの入り口で、くま野がこれからラストシーンだろう!と呼んだ。<br>
しっかりね!とみちるは馬部の背中をおした。<br>
そうだ、自分には帰る場所があったんだ!と、馬部は牛尾に小さく頷き、喜び勇んでバスへ駈けて行った。<br>
<br>
最後のシーンが始まった。<br>
馬部の演技が始まった・・・。<br>
カットがかかると、ホッとした様子で戻ってくる馬部。<br>
スタッフから拍手が起こり、「なんかウマちゃん急にうまくなったよなぁ!<br>
なんか役者としてひと皮むけたって感じだよ」などと褒められる。<br>
サギ山が「ありがとうございました。また機会があったらよろしくお願いします。」という。<br>
馬部も「お互い頑張ろうな」と励ましあった。<br>
<br>
ようやく傷跡メイクを落とし、ヤクザ風衣装も脱いだ。<br>
馬部は体が軽くなったような気分でロケバスの外に出て思いっきり伸びをした。<br>
「これで本物の役者になれる気がする!」と足取りも軽く歩き出した。<br>
が、そのとき・・・。<br>
「待ってたわ」<br>
と後ろから声をかけられてギクリと立ち止まった。<br>
馬部はゆっくりと振り向いた。<br>
そこにはるい子と白峰がいた。周りには若い衆もいる。<br>
違うんだという馬部に、<br>
分かってるわ馬部甚太郎さんというるい子の声はしっとりとしていた。<br>
助けを求めて周りを見るがもうロケ隊はどこかへ行ってしまっていた。<br>
「安心しろ。あの取り決めは牛尾政美がしたもので、あんたとじゃない。なにもしない。」<br>
と白峰。とりあえずホッとする馬部。が、何の用だろうと考えている。<br>
白峰は言った。「別の頼みがあるんだが」と。<br>
僕に?と言うと、白峰は「あんた、本当にるい子と結婚しないか?」というのだ。<br>
「ええええーーー?!?!」目を見張る馬部。<br>
どうやら牛尾よりあんたを気に入ってしまったらしくてねと言う白峰。<br>
るい子は頬を赤らめ、馬部に抱きつき「今度こそもう離れません!」と言い出すのだ。<br>
混乱する馬部に、白峰は言った。<br>
「ウチで見せたあの度胸なら、この世界でもやっていける。跡目を継いでくれ」<br>
<br>
馬部はめまいがして倒れそうになった。<br>
<br>
<br>
悪夢はまだまだ終わらない・・・。<br>
<br>
<br>
「The Wrong Man 馬」完<br>
<br>
<a name="a414"></a></dd>
<dt><a href="menu:414">414</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:38ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>牛尾政美「The Wrong Man 牛」グッドエンド<br>
<br>
― 一日目(10月11日水曜日) ―<br>
<br>
プロポーズだ。<br>
高峰綾にプロポーズする。<br>
それが今日の大問題だった。<br>
<br>
牛尾政美は半年前にヤクザを辞めた。もう幹部でも組長候補でもない。<br>
今、牛尾は単身殴りこみに行ったときと同じくらい緊張している。<br>
だが、ターゲットはヤクザではなく宝石店で働く高峰綾だ。<br>
ドスも拳銃もいらない。言葉を唯一の武器にするのだ。<br>
信号が変り、力強く歩き出す。<br>
作戦は、既に練ってある。<br>
彼女にお気に入りの宝石を選ばせて買い、結婚してくれと言う。<br>
無粋な自分でもなかなかいいぞと思っていた。<br>
手ぶらで行くと行きづらいので、花を買い、店へ向かった。<br>
<br>
ガチガチに固まりながら、店へ入る。<br>
奥のショーケースの前ではカップルがいちゃついている。綾はその相手をしていた。<br>
入ってきた牛尾にいらっしゃいませと挨拶するが、自分だとは気づいていない。<br>
牛尾は綾の顔に見とれた。落ち着いた服だが、綾の華やかさと清潔感を引き立てている。<br>
思わずにやけそうになり、あわてて花で顔をかくす。<br>
店長の柿沼がやってきたが、降ろした花で顔が露になると、柿沼は後ずさり、<br>
牛尾の相手をするように綾に言った。<br>
綾はカップルに会釈し、こちらへ向かってきた。<br>
ちょうど入ってきた岸という老婆を奥のテーブルへ案内する為、さがった。<br>
先日はありがとうございました。と会話が始まった。<br>
おいで頂けるのをお待ちしてましたと言う言葉に自信を深める牛尾。<br>
婚約しているのかとカップルを横目で見ながら話すと、まだだという。<br>
花を綾に渡すと、<br>
「私にですか?嬉しい。こんな立派なお花。ありがとうございます。」という。<br>
宝石を選ぶため、ショーケースへ近づいた。<br>
後ろでは老婆が指輪の修理の見積もりを見て文句を言い、さわいでいた。<br>
どんなものがよろしいですか?と牛尾に問う綾。<br>
あんたが選んでくれと頼む牛尾。<br>
綾が一番似合うものを選んでくれと言い、綾は選び出した。<br>
プラチナチェーンのダイヤモンドネックレスと、ルビーのファッションリングだった。<br>
<br>
そのとき、バラの花束を持った四十代後半といった感じの男が店に入って来た。<br>
すぐ戻りますからと、綾は男の方へと向かう。<br>
牛尾は夢中で宝石を見ている。<br>
後ろでは男と綾が、さっき牛尾に言った言葉を中年紳士に言っているが牛尾の耳には届かない。<br>
牛尾はふと振り向くと、中年紳士が綾に花束を渡している。<br>
ルビーのリングを持ったまま肩を怒らせて一歩出た。<br>
綾を呼び、もういっぺんあんたに似合うか見たいんだと、中年紳士を睨みながら言った。<br>
「聡明なあなたには、ルビーよりブルーサファイアが良く似合う」と口を挟む男性。<br>
何だぁ?と牛尾は気色ばむと、綾が中年紳士を待たせ、牛尾の所へ戻った。<br>
綾が指輪をつけ、見せているとき、中年紳士がわざと牛尾の視界に入ってきた。<br>
君に分かるのかねという表情だ。怒りをなんとか抑え、どっちもなかなかと綾に言った。<br>
牛尾の結婚の話になるが、「マエがあるから」と、前科の話を持ち出すと、<br>
綾は「マエ」を「前の結婚」と思い、話がすれ違う。<br>
牛尾はもう生まれ変わりましたと言うと、素敵な旦那様になると思いますと言われる。<br>
あんた結婚は?と訊くと、私だってしたいですが、縛られるのが嫌なんですと答える綾。<br>
興奮状態の牛尾は言葉のまま捕らえ、「いきなりでドキッとした。そんなにすごいのか・・・」<br>
と見当違いの答えを出してしまう。<br>
後ろでは、老婆は電話で口論している。<br>
指輪とネックレス、どちらになさいますかと綾に訊かれ、どれをもらうか答える。<br>
<br>
<a name="a415"></a></dd>
<dt><a href="menu:415">415</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:40ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>
カップルと入れ違いにサングラスをかけた男が入店してきた。<br>
男は茶色のバッグを持っている。<br>
真っ直ぐやってくると、いきなりバッグを綾に差し出し、ここへありったけの宝石を詰めろと言い出す。<br>
死にたくなけりゃ早くしろと言い、拳銃を懐から見せる。<br>
脅えて動けない綾。そのとき、銃を発砲する。<br>
そして、牛尾へ「動くな!」と銃口を向けた。<br>
とたんに男の顔色が変った。「兄貴!」<br>
牛尾の元舎弟の狐島三次だった。三次は懐かしげに牛尾の手を握った。<br>
それを見た柿沼が、こいつらグルだ!と叫ぶ。驚いて綾は振り返る。<br>
違うんだと言っても聞いてはくれない。<br>
早く詰めろと言われ、綾は震える手で宝石をバッグに詰めていく。<br>
老婆はまだ電話に夢中だった。<br>
三次は老婆の手に握られていた指輪まで盗ろうとしている。<br>
牛尾はよせ!と三次の腕をつかんだとき、銃は暴発した。<br>
綾は耳を塞ぎ、悲鳴を上げる。弾は中年紳士の横に当たった。<br>
老婆ともみ合いになる三次。<br>
その隙に、綾は警報ベルを鳴らした。<br>
貴様!と銃口を綾へ向ける。牛尾は咄嗟に三次の腕をつかみ、<br>
「止せッ!逃げるんだ!来いッ!」と外へ引っ張った。<br>
牛尾は店を出る間際、振り返った。<br>
綾が信じられないという表情で茫然と見ていた。<br>
柿沼は床にへたりこんでいる。中年紳士の足元には、水溜りができていた。<br>
警察を呼んどくれ!二人組の強盗だよ!老婆の叫び声がかすかに聞こえた。<br>
<br>
三次は逃げ道を示した。が、キツネの三次の異名を取るほどの逃げ足には付いていけず、<br>
見失ってしまった。<br>
しばらく右往左往していたが、ようやく前方に見えてきた公園へと向かった。<br>
そっと奥へと進み、池に突き出した休憩所のベンチで崩れるように腰掛た。<br>
プロポーズに行くはずが、強盗にされてしまった。だが、バッグは三次が持っていると、<br>
独り言を言ったが、その手には指輪とネックレスが握られていた。<br>
しまった。誤解じゃ済まない。そう思っていると、いきなり丸めた冊子で頭を叩かれた。<br>
見覚えのない男女二人だった。だが、警察官ではなさそうだ。威嚇するように睨み付ける。<br>
が、手に持っていた指輪とネックレスを、女が「勝手に持っていって」と取り上げられた。<br>
こら!返せ!というが、ヤクザは宝石なんていらないと返してくれない。<br>
しばらく女と揉めていると「クマ野さーん」と男に助けを求める。<br>
男は「マリ子を困らせるなよ。行くぞ」と言い、牛尾の腕をつかんで歩き出す。<br>
「放せ!この野郎。殺されてぇか」と牛尾は振り切るが、クマ野はひるまない。<br>
上等だ。半殺しにしてやると言う。<br>
男に連れられるまま、池の反対側へと向かった。<br>
<br>
<a name="a416"></a></dd>
<dt><a href="menu:416">416</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:41ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>
そこには制服警官が待ち構えていた。信じられないほど迅速な捜査体制だ。<br>
絶望的な気持ちになって立ちすくんでいると、強い光が当てられた。<br>
見ると、テレビカメラまである。マスコミまで来ている。<br>
クマ野は「今度こそちゃんと死んでもらうからな」と不敵に笑った。<br>
牛尾は完全に包囲された。<br>
牛尾の前に、拳銃を持った三人の男達が飛び出した。<br>
「死ね!」「とったぁ!」口々に言う男達。<br>
いきなり射殺か!と思い、もがくように柵を乗り越えた。<br>
そのとき、男達の銃口から火が噴いた。<br>
牛尾は池に倒れた。死を覚悟した牛尾は身を硬くして目を閉じている。<br>
クマ野は小さく「そのままそのまま・・・」とつぶやく。<br>
だが、牛尾は何の痛みもないことに気づき、まだ逃げられると、池の小島へ走り出した。<br>
カットがかかってないのに立つ奴があるか!と罵声が飛ぶ。<br>
サギ山、早くバスタオル持ってこい!という声に牛尾は振り返ると、<br>
自分を包囲した人間達がみな笑みを浮かべている。唖然となった。<br>
クマ野が近づき、「ウマちゃん最高。毎回ああいうリアルな芝居してくれりゃいいんだよ」<br>
という。芝居と聞いて、改めて周りを見ると、老若男女問わず、迫力ある顔は一人もいない。<br>
ようやく気づいた。「撮影か。ふざけやがって」途端に力が抜けた。<br>
何故自分が?と考えていると、ADサギ山に引っ張り上げられ、バスタオルをかけられる。<br>
クマ野が、「おウマさん、次のカット終わったらすぐ移動だから着替えて」と言う。<br>
馬だ馬だと言われ、腹が立ち言い返すが、クマ野は気にも止めない。<br>
殴りかかろうとしたとき、後ろからスーツを引っ張られた。<br>
振り向くと、30代後半だろうか。小柄な女性が呆れ顔で立っていた。<br>
どこかで見覚えがあるが思い出せない。<br>
女は、バスに着替えがあるから早く行ってきなさいよと促され、<br>
バスの場所をきくと、「やるときはやるじゃない」と嬉しそうに去っていった。<br>
牛尾は何のことかわからなかったが、服を着替えにバスへ向かった。<br>
<br>
女の言っていたバスには誰もいない。牛尾の着ているものと同じような服がかかっていた。<br>
服を脱ぎ、体を拭いていると、サギ山がバスに入ってきて動きが止まった。<br>
牛尾の背中には、牛頭天王の刺青があったのだ。<br>
見られたと思った牛尾はシャツを引っ掛ける。<br>
だが、サギ山は、役作りだと勘違いし、感動する。恥ずかしかったら誰にも言わないと言い、<br>
無線を箱から取り出すと、出て行った。<br>
着替え終わった牛尾は、マリ子と呼ばれていた女に宝石を取られていたことを思い出し、<br>
取り返すため撮影現場へと向かった。<br>
マリ子とさっき見覚えがあると思った女が居た。<br>
イヤリングを取り出しているマリ子。その箱だと思い、隙を見てアクセサリーの箱ごと持って離れた。<br>
<br>
公園の脇の道で、東北訛りのある警官が声をかけてきた。<br>
牛尾はぎょっとしたが、またエキストラだと思った。<br>
相手してる暇はないと思い、立ち去ろうとした。だが、待ちなさいと言われ、カチンと来た牛尾。<br>
「うるせぇぞ!素人が!」というと、警官の目が鋭くなった。<br>
これは本物だと気づいた牛尾。撮影許可書持ってるのかといわれ、わけが分からなかった。<br>
ここで撮影しているんだろうという警官に知らないと答えると、牛尾の持っていた箱に気づく警官。<br>
ロケ隊の人でないなら、その箱はなんだ。中を見せろと要求される。牛尾は観念した。<br>
そのとき、サギ山が来て「ウマさん、移動です。早くバス乗って下さい」と声をかけてきた。<br>
警官はサギ山に、コイツはロケの人かと問うと、そうだと答えた。<br>
箱はと問うと、牛尾が持っていってたんですね!マリ子さんが怒ってますと言った。<br>
撮影の人なら初めからそう言えと言い、警官は去った。牛尾も黙ってバスに乗るしかなかった。<br>
<br>
<a name="a417"></a></dd>
<dt><a href="menu:417">417</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:43ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>
バスに乗ると、見覚えのある女が、「ウマちゃん、私窓際にしてよ」と言って、隣に座った。<br>
全員乗ったことを確認され、ロケバスは動き出した。<br>
なんでさっき警官に捕まってたのかと問うサギ山。<br>
本物のヤクザに間違われるくらい貫禄がないといけない。とクマ野。<br>
口々に馬鹿にした言葉を言い出す。<br>
カチンと来た牛尾は「俺はウマじゃねぇ!ウシだ」と叫んだ。<br>
車内はシーンとなった。<br>
わけの分からないこと言ってないで、マリ子にアクセサリーのこと謝れといわれる。<br>
マリ子は椎名さんに謝って下さいというと、牛尾の隣に座った女が「私ならいいのよ」と言った。<br>
椎名?と悩む牛尾。そして気づいた。<br>
主役をすることはないが、脇を固める中堅の女優、椎名みちるであることを。<br>
まじまじとみちるを眺める。みんなに気づかれるじゃないというみちる。<br>
「あんたのこと、いつも見てるよ」という牛尾。誤解したみちるは「ヤダ・・」と照れる。<br>
みちるは台本に何か書き、それを牛尾に見せた。<br>
そこには「今夜話があるの」と赤ペンで書かれていたが、それよりも<br>
台本に印刷されていた名前の方が気になった。<br>
「岩松組組長・・・馬部甚太郎」<br>
わかったぞ畜生!とうなると、みちるはどうしたの?と言う。<br>
「だから、俺が組長で、ウマちゃんなんだな」と言うと、「当たり前でしょ!」と答えられた。<br>
バスは次のロケ現場へと到着した。<br>
次は角のコンビニで撮影である。<br>
だが、牛尾は出番がないので、休憩となる。<br>
撮影のため、無線機持って行けといわれるサギ山。<br>
だが、公園に忘れたと言うと、取って来いと言われ、バスから蹴り出される。<br>
「ちくしょう。辞めてやる」と呻き、サギ山は行ってしまった。<br>
再びバスは空になり、牛尾一人が残された。<br>
逃げようと決め、マリ子のアクセサリーボックスから、自分の物を探し、<br>
ポケットに入れ、バスを降りた。<br>
スタッフ達は、次の準備をしているが、牛尾を気に止めない。<br>
とりあえず渋谷駅の方へ向かった。<br>
<br>
警官の姿もなく、街の人たち牛尾を注目しない。<br>
牛尾は宝石店へ戻ったときの言い訳を呟いてみる。<br>
色々考えるが、脅えた高峰綾の顔が目に浮かぶ。<br>
代金を払い損なったことにしようと思い、歩き出すが、財布がないことに気づく。<br>
財布は濡れた上着の中だった。買えない。<br>
見上げたオーロラビジョンには、臨時ニュースが流れていた。<br>
「本日午前11時ごろ、渋谷の宝石店を二人組の男が襲撃。宝石を強奪して現在逃走中。」<br>
完全に仲間だと思われている。<br>
牛尾は決めた。「組長でもウマちゃんでも何でもなってやる」とロケ現場へ向かった。<br>
本物はどこにいるんだ?と疑問を持ちながら。<br>
<br>
<a name="a418"></a></dd>
<dt><a href="menu:418">418</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:44ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>戻ると、すぐに撮影が始まった。<br>
今度は刑事に追いかけられる役だ。角を曲がるまで駆け抜けろというのだ。<br>
牛尾は、俺がやるのか?とサギ山に聞くと、とっととスタンバイしてください!とそっけない。<br>
機嫌悪いなと言うと、無名の役者に蹴られたという。<br>
蹴ったのはクマ野とかいう助監督だと悩んでいる牛尾。<br>
どうしてこんなに早く戻ってこれたのかと聞くサギ山。<br>
駅まで行くところを見られていたと思った牛尾。適当にごまかす。<br>
ボーッとしているようで、意外と目端が利くのかもしれない。<br>
エキストラと共にスタンバイする。<br>
周りには見物人が集まりだしていた。<br>
テストで何度も走る。ふらふらになりながら本番がスタートしようというとき、<br>
牛尾の視界に一人の男が入った。<br>
男は手帳を見せて、何か訊いていた。デカだ!すぐにピンときた。<br>
いかにも叩き上げと言う感じの男だ。自分の目尻に人差し指をやり、傷跡の仕種をして聞き込んでいる。<br>
自分を探しているのだと緊張が走った。男も顔を上げた。牛尾と目が合う。<br>
そして、牛尾は逃げ出してしまった。男は後を追いかけてきた。<br>
ちょうどそのとき、本番がスタートした。<br>
必死で逃げる牛尾。<br>
カメラから二人が消え、カットがかかった。だが、どこまでも走っていく。<br>
<br>
人気のない路地で牛尾は男のタックルを受け、転倒した。<br>
ポケットから宝石が転がった。男は宝石強盗の容疑で逮捕するといった。<br>
牛尾は観念した。男は宝石をハンカチで拾い上げた。<br>
すると、女の声がした。なにしてるのと言う。みちるだった。<br>
その手を放しなさいとみちるは男に言う。エキストラだと思っていた。<br>
しかし、手帳を見せ、「渋谷中央署の鯨井だ」と名乗った。<br>
鯨井は「コイツは宝石強盗だ」というが、みちるは、<br>
「この人は役者です。朝から一緒にロケしてました」と答え、サングラスを外した。<br>
鯨井は大きく目を見開き、椎名みちると気づき、ファンでしたと言った。感激していた。<br>
おれはずっとこのままかと呟く牛尾。<br>
みちるは「この人は馬部甚太郎という役者なんです」と説明した。牛尾も頷いた。<br>
この宝石は?と訊くと、ドラマの道具だという。<br>
失礼しましたと、鯨井は、牛尾に宝石を返した。<br>
鯨井は頬に傷のある男とだけきいていたので、おいかけたのだという。<br>
メイクの腕がいいからとみちるは笑った。<br>
朝からロケですか?という鯨井の問いに、日曜日までやってるからよかったら見に来てと言い出す。<br>
鯨井は喜んで見学するという。牛尾は不安になった。<br>
宝石はみちるが借りていたことにしてあげると、宝石を取り上げられた。<br>
欲しいものはなぜか皆逃げて行くのだった。<br>
<br>
<a name="a419"></a></dd>
<dt><a href="menu:419">419</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:45ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>夜のシーンの撮影に入った。<br>
牛尾はなんとか「役者」を続けている。<br>
拳銃で撃たれるシーンのテストをしていた。人差し指を相手に指し、バキューンなどと言うのがはずかしい。<br>
なんとかならないかとサギ山に言うと、モデルガンに火薬つめてるからもう少し待ってくださいという。<br>
すると、監督のカバ沢が言った。<br>
「拳銃ナメて組長!」<br>
舐める?と疑問を持つ牛尾。<br>
サギ山にどういうことだと聞くと、そのままの意味じゃないかという。<br>
仕方なくいう通りにした。現場の空気が一瞬固まる。<br>
牛尾はペッと唾を吐き、こんなの旨いもんじゃねぇという。<br>
舐めてどうすんだ!とカバ沢が怒鳴った。<br>
ウマちゃんも疲れてんだから、つまんねぇ冗談やめてくれよなと言う。<br>
牛尾は黙り込んだ。<br>
<br>
ロケ現場に鯨井が来ていた。嬉々としてみちるの芝居を眺める。<br>
牛尾は気が気ではない。だが、捜査状況は聞けた。<br>
・犯人はまだ二人とも捕まっていないこと。<br>
・聞き込みでは、二人一緒に逃げてるというのと、ばらばらで逃げてるのとがあること。<br>
・犯人の目星は一人ついていて、それは宝石店の女店員で、証言が曖昧だということ。<br>
女店員は、高峰綾だ。それを気にしつつも、撮影へと戻った。<br>
そして、撮影はどんどんと進み、深夜にまで続いた。<br>
<br>
<a name="a420"></a></dd>
<dt><a href="menu:420">420</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:46ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>― 二日目(10月12日木曜日) ―<br>
牛尾が出るシーンは切れ間なく続き、撮影は深夜にまで及び、ようやく終了した。<br>
明日も早朝からロケのため、役者にはホテルが用意されていた。<br>
サギ山は、ウマさん荷物忘れてますと、バッグを渡した。<br>
俺のか?と聞くと、相当疲れてますね。ゆっくり休んでくださいと言われた。<br>
お前もなと言うと、サギ山は「今日で辞めるんです」といった。<br>
牛尾はシングルの小さな部屋に入った。バッグを放ってベッドに倒れこむ。<br>
・・・悪夢のような一日だった。<br>
だが、綾の顔が浮かび、警察に調べられていることを思い出す。<br>
ベッドから起き上がり、外へと出た。<br>
<br>
牛尾は宝石店が見えるところまで来ていた。<br>
シャッターが閉まっており、警察ももういない。<br>
店の前に立ったが、中は見えない。来てもどうにもならないのはわかっていた。<br>
だが、気になって足が向いてしまった。<br>
「何をしている」背後から声をかけられ、ギクリとする牛尾。<br>
振り返ると、そこにはもっと驚いた顔をした男が立っていた。<br>
「だ、代貸・・・?」男は牛尾の過去の役職を呼んだ。<br>
男は、元牛尾の下にいた、白峰組幹部の山吹だった。<br>
武闘派だった牛尾と対照的な、経済に強く外見もスマートな一流大学出のヤクザだ。<br>
「今日この店で強盗事件があったの知ってますか?」ときかれ、ぎょっとする牛尾。<br>
ニュースで見たからここを通ったとごまかす牛尾。<br>
山吹は、ここを叩いたのは三次で、チャカはうちの若い者から騙し取ったものだという。<br>
二人で逃げてるもう一人は誰なのか・・・と付け加える。<br>
外部者に喋りすぎた。気にしないでくださいというと、牛尾は黙り込んでにらみを効かせる。<br>
すると、山吹は自分は代貸で、お嬢さんと結婚し、跡目を継ぐと言い、山吹は消えた。<br>
白峰組組長には「るい子」という娘がいる。<br>
彼女は牛尾に惚れていて、足を洗った後何度か逢いに来ていた。<br>
牛尾は「奴が跡目とはな・・・俺には関係ない」と呟くとホテルへと戻った。<br>
<br>
<a name="a421"></a></dd>
<dt><a href="menu:421">421</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:47ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>
部屋のドアを開けようとしたとき、中で人の気配がした。<br>
ドアを開けると、そこにはみちるが立っていた。<br>
牛尾の顔の傷を見て、メイクをまだ落としていないのかと問う。<br>
役になりきろうと思ってとごまかす牛尾。<br>
「今夜話があるって言ってたでしょ」ときりかえるみちる。<br>
ロケバスの中で、台本に書き込んだメッセージだ。<br>
みちるはいつまでも待てない!と言う。結婚はいつしてくれるのかと言っているのだ。<br>
突然のことで驚く牛尾。<br>
いい女だが、男の気持ちも考えた方がいい。と言い出す牛尾。<br>
立場が違っても、逆玉の輿もあるというみちるに、<br>
男のメンツが大事だという牛尾。それを聞いて瞳を潤ませるみちる。<br>
そのとき、ノック音とドアの外から声がした。マリ子だ。<br>
みちるは涙を拭きながら、牛尾の背中に回った。<br>
よく見たら、これは私のじゃないと、あの宝石二つを持ってきたのだ。<br>
喜んだ牛尾は「コレがないとプロポーズできねぇんだ!」という。<br>
誰にですか?と聞くマリ子。誰でもいいじゃねぇかとマリ子を外に押し出した。<br>
ホッとドアを閉めると、いきなりみちるは抱きついてきた。<br>
自分にプロポーズするつもりだったんだと誤解したみちる。<br>
宝石を取り上げ、自分で付けてみる。<br>
ウマちゃん大好き!と牛尾をベッドへ倒した。<br>
思いっきりキスをする。さらにキスの雨を降らす。<br>
そしてみちるは牛尾の耳元で囁いた「私を組長の女にして」と。<br>
刺青を忘れていた牛尾は、ハッと飛び起き、ケジメがつかねぇと言った。<br>
みちるも了承し、「明日からはウマちゃんのセリフ、結構あるもんね」と言い、<br>
身なりを整え、宝石はちゃっかりと持って部屋を出て行った。<br>
疲れた・・・とバッタリと横になり目を閉じた。<br>
だが、そのとき、みちるの最後の言葉が気になった。<br>
「明日からはウマちゃんのセリフ、結構あるもんね」<br>
セリフ!?と飛び起き、台本を取り出し組長のセリフを見た。<br>
「こんなに喋るのか・・・」絶望的になった。<br>
<br>
その夜、牛尾の部屋から明りが消えることはなかった・・・。<br>
<br>
翌朝、集合場所であるロビーへと降りた。<br>
サギ山が朝食のおにぎりとウーロン茶を配っている。<br>
辞めなかったのかと訊くと、ずっと撮影で辞める暇がなかったのだという。<br>
こっちもずっとセリフを全部覚えていたというと、全部覚えたんですか?というサギ山。<br>
全部今日喋るわけじゃないといわれ、そうなのか?という牛尾。<br>
そんな事知らないはずはない。もう騙されませんよ。などと話していると、<br>
サングラスをかけたデューク浜地が現れた。<br>
サギ山はデュークに朝飯ですどうぞと渡すと、コーヒーもってこいとサギ山も見ずにカバ沢の所へ行った<br>
ねぎらいの言葉をカバ沢にかけるデューク。<br>
「上の人間にはいい顔なんだよな」と、渋々コーヒーを買いに出るサギ山。<br>
みちるも集合した。<br>
デュークは、車で一緒に行こうとみちるを誘い、コーヒーを買ってきたサギ山には、<br>
現場に着いたら、ミルクティーとクロワッサンを持って来い。二人分なと言い出す。<br>
立ち去るデュークとみちる。<br>
その背で、サギ山は「チキショウ。辞めてやる」と呟く。<br>
牛尾も「野郎、少し痛い目に合わせたほうがいいな」と呟いた。<br>
冗談ですよね・・・。とサギ山が作り笑いをした。聞こえたらしい。<br>
<br>
<a name="a422"></a></dd>
<dt><a href="menu:422">422</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:48ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>テストシーン。<br>
デュークと牛尾が互いにパンチを打ち合うシーン。<br>
カットがかかると、デュークは気に入らない様子で、自分の見せ場を派手にして欲しいと言い出す。<br>
サギ山は、「だいぶ痛い目に合わされてますね」と牛尾の衣装を整えに来た。<br>
このシーンの後は、しばらく出番がなかったので、ロケバスの中に居た。<br>
ここが今のところ一番安全だからだ。<br>
スポーツ新聞を読むと、まだ三次が捕まった記述はない。<br>
鯨井が高峰綾を疑っていたことが気になる。あの人は関係ない。自分も無関係なのだが。<br>
<br>
次のロケシーンへ来ていた。<br>
メイクさんに、口から血ィ流してもらってくれとクマ野が言う。<br>
メイクだな。と現場から少し離れたロケバスへと向かった。<br>
途中、鯨井が現れ、例の顔に傷のある男がこっちに来てるという情報があったという。<br>
一瞬たじろぐ牛尾。<br>
だが、鯨井は「撮影の馬部さん」と間違えないように言ってあるという。<br>
昨日言ってた怪しい女は?と牛尾は訊くと、午後から事情訊くつもりで呼んでるという。<br>
みちるの居場所を聞くと、嬉しそうに鯨井はみちるの演技を見に行った。<br>
鯨井がいなくなると、牛尾はいきなり両脇を二人の男に抱えられた。<br>
男達は牛尾を黙って路地へと引っ張って行く。<br>
そこにはもう一人背の低いハゲ頭の男がいた。<br>
まだアザのメイクしてねぇぞとハゲ頭はクチャクチャとガムを噛みながら<br>
牛尾を覗き込むように見る。牛尾は場面が違うんじゃねぇか?と思っている。<br>
「殺るかどうかはあんたの返事しだいや」とハゲ頭は関西訛りで話した。<br>
さっきの鯨井と一緒に居たことを言っているようだ。<br>
「知るか。あいつが離れないんだからしょうがねぇ」と答える。<br>
狙いはなんや?と訊いてくる。<br>
「わかってねぇ奴らだな。サギ山呼ぶから待ってろ」と牛尾は言った。<br>
だがハゲ男は続ける。<br>
「あんたに余計な動きされるとな、色々面倒なことになるんや。一応警告しとこ思うてな」<br>
警告ってなんだと思っていると、ハゲ男は鳩尾に強烈なパンチを見舞った。<br>
「オマエは手ェ引け、いうことじゃ!」と顔を蹴り上げ、牛尾は仰向けに転がった。<br>
撮影だと思っている牛尾は、本当に殴るのもありだと思い立ち上がった。<br>
その目つきは変っていた。「こっちもやってやる!勝手に撮れ!」<br>
完全にキレていた。牛尾はかつての暴れ牛に戻っていた。<br>
ハゲ男の鼻っ柱に顔面を頭突きし、残りの二人も膝蹴りと鉄拳であっという間に伸した。<br>
「ったく、どこの役者だコイツら」と荒い息を整え、あたりを見回す。<br>
先行くぞお前ら勝手に戻って来いよと言い残し、現場へ急いだ。<br>
クマ野に殴り合いのシーンを聞くと、午後からだという。おかしいと思っていると、<br>
口元をみて、メイクしてきたのか!リアルだなという。(殴り合いで切れた)<br>
<br>
<a name="a423"></a></dd>
<dt><a href="menu:423">423</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:49ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>
買い物袋を提げた椎名みちるが、マンションに入ろうとしたとき、悄然としたデュークが物陰から現れる。<br>
「どうして」驚いた表情のみちる。<br>
「来ちゃった」呟くデューク。<br>
全て捨てたという。信じないというみちる。どうしても会いたかったとデューク。<br>
デュークはみちるを抱きしめると、買い物袋が落ちる。<br>
デュークは強引に唇を重ねる・・・。<br>
<br>
「よぉし!カット!」<br>
途端に空気は緩和した。<br>
撮影のテストだ。テストからデュークは本気だ。<br>
メイクを直してくるとみちるはカメラから外れた。<br>
クマ野がサギ山に命じる。<br>
「内トラ作っとけ!あと次のカットトラックバックだからカメアシとスタンバイしとくんだぞ」<br>
だが、サギ山は理解できなかった。<br>
クマ野に聞くと怒られそうだと思ったサギ山は牛尾に相談する。牛尾の答えは<br>
「トラックをバックさせるから、亀の足を用意しとけってことだろう。内トラは家のトラじゃねぇか」<br>
やっぱりそうなんだ!と牛尾から離れた。<br>
途中デュークに呼び止められ、鏡を用意してくれと言われ、鏡を取りに走った。<br>
牛尾だけにはチラッと悔しそうな顔を見せた。<br>
みちるが何気なく牛尾に近づく。<br>
出番がないのにどうしていつまでも見てるの?という。<br>
だが、牛尾にはデュークが気に入らない。「野郎、調子に乗りやがって」と睨みながら唸った。<br>
少し痛い目にあわせたほうがいいなと言った牛尾に、驚くみちる。<br>
「ああいうのが一番嫌いだ」というと、どうして怒るの?と訊くみちる。<br>
マトモな男なら、怒るもんだという。芝居でしょと諭すみちる。<br>
だが、見たままのゲス野郎だと言うと、みちるは困ったように微笑んだ。<br>
みちるの本音も、デュークとは嫌なのだ。<br>
本テスト行きますとクマ野の声に、みちるはカメラの前へ入っていった。<br>
<br>
サギ山がおろおろと戻ってきた。<br>
トラックが動いてくれないと言う。牛尾に頼んできて欲しいというので、<br>
牛尾はトラックへ向かう。<br>
トラックのドアを叩き、少しバックしてもらえねぇかと頼んだが、無視される。<br>
頼むよと言うと、雑誌を牛尾の方へ投げ捨てた。<br>
「撮影と言えばなんでも通ると思ってやがる。てめぇらそもそも誰に断って撮影してやがんだ」<br>
牛尾はコンクリートのブロックをドアへ投げつけた。<br>
運転手は勢いよくドアを開けた。殺すぞと言いかけたが、牛尾の顔を見て固まった。<br>
「撮影にお前の許可が要るのか」と慣れた風に凄味を効かせ、助手席に乗り込んだ。<br>
運転手は慌てて目をそらした。<br>
「お前がやらねんなら俺がやるよ。昔はよくセメントの塊運んでたっけ。東京湾までな」<br>
さすがに運転手もビビリ、トラックを下げた。<br>
<br>
<a name="a424"></a></dd>
<dt><a href="menu:424">424</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
00:50ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>あのシーンの本番がはじまった。<br>
唇を重ねたとき、いきなりトラックが割り込んできた。<br>
スタッフ達が一斉に逃げた。当然NG。カットだ。<br>
サギ山はどこだ!とどなるクマ野。<br>
トラックの助手席から涼しい顔で牛尾が降りてきた。<br>
トラックこの辺でいいのかという。スタッフ全員が唖然とした。<br>
本番中だとヒステリックに叫ぶクマ野。<br>
バカ野郎頼まれたからわざわざバックさせたんじゃねぇかと牛尾。<br>
あまりにも堂々としていたので、クマ野も言葉を失った。<br>
「僕がウマさんにトラックをバックさせるようたのんだんです」<br>
と、駆け寄り、牛尾に礼を言うサギ山。亀の足もウチの虎も見つからなかったという。<br>
クマ野は歯軋りしながらサギ山を見て言った。<br>
「俺が言ったのは、次のカットはトラックバックっていう移動撮影をするから、<br>
カメアシ…カメラアシスタントとレールや台車を準備しとけって意味なんだよ!」<br>
サギ山の顔が引きつる。続けて恐る恐るウチトラは?と訊く。<br>
「人数足りないから、内輪のスタッフからエキストラ作っとけって言ってんだ!」<br>
クマ野は怒りを爆発させた。<br>
仕切りなおしで本番と叫ぶが、デュークは機嫌を悪くしていた。<br>
クマ野とサギ山が頭を下げるが機嫌は直らない。<br>
牛尾はデュークに食って掛かるが、クマ野に言葉でさえぎられる。<br>
そのとき、デュークをみて、黄色い声援が飛んだ。女子高校生の集団だ。<br>
デュークの機嫌は一気に直り、女子高校生たちは離れたところで<br>
サギ山にブロックされながら見ることになった。<br>
くれぐれも声を出したりフラッシュたいたりしないで下さい注意し、本番だ。<br>
<br>
テイク2。<br>
同じシーンだ。<br>
デュークがみちるにキスをしようとしたとき、女子高校生達がフラッシュをたき、声援が飛ぶ。<br>
NGだ。クマ野が「サギ山ーッ!」と叫ぶ。<br>
その後彼女達は4度同じことを繰り返した。クマ野が「サギ山ーッ!」と叫ぶ。<br>
これ以上どうしたらいいんですかとやけっぱちだ。<br>
イライラしているのはみちるも同じだった。<br>
デュークが女子高校生たちに注意すると、彼女らは途端に目を輝かせ素直に頷いた。<br>
恨めしそうにサギ山がぼやくが、静寂は取り戻せた。<br>
<br>
そして7回目の本番。<br>
デュークがみちるの唇を奪ったそのとき、突然サイレンが鳴り響いた。<br>
カバ沢は立ち上がって、椅子を蹴り飛ばした。<br>
スタッフはガックリと首をうなだれる。<br>
覆面パトカーだった。サギ山が交渉しに行くが、サイレンは止まらない。<br>
サギ山は諦めて戻り、牛尾にお願いしますと頼んだ。<br>
乗っていたのは鯨井だ。とりあえずサイレンを止めてもらった。<br>
演技でもデュークとのキスシーンは許せないという鯨井。彼もデュークが嫌いだった。<br>
みちるのためにも早く終わらせたいので、目をつぶってやってくれというと、納得する鯨井。<br>
そのとき、無線がはいった。綾の取調べが終わり、何かを隠しているようなので、<br>
追跡してくれという内容だ。無線は警察の隠語で語られたが、理解できた牛尾に、<br>
鯨井は良くわかったなと言う。昔出たドラマがリアルな警察を描いたものだったからとごまかした。<br>
覆面パトカーが去った後も、牛尾はその場を動けなかった。<br>
サギ山が牛尾に礼を言い、本番は再開した。<br>
<br>
<a name="a425"></a></dd>
<dt><a href="menu:425">425</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
01:31ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>デュークが激しく唇を重ねる。<br>
邪魔するものはいない。気持ちを最高に盛り上げたデュークとは対照的に、<br>
イライラの頂点に達したみちる。いきなりデュークへ平手を見舞った。<br>
直後、思いっきり抱きつき、「大好き!」と言い放ち、カット。<br>
女心が出ていて良いとOKが出た。<br>
デュークはギャラリーの女子高生の元へ行く。<br>
だが、彼女らは引いていた。笑っていた。<br>
デュークの鼻から血がでていたのだ。<br>
大笑いされるデューク。そこへ雨が降り始めた。<br>
女の子達はクモの子を散らすようにいなくなった。<br>
一人たたずむデュークの鼻血は、通り雨と一緒に流れて落ちた。<br>
<br>
すっかり日は暮れ、休憩になる。<br>
サギ山を呼び、金持ってるか?というと、サギ山は持っているというので、一緒に喰おうという。<br>
みちるも一緒に行くというが、デュークに誘われ、みちるはデュークと一緒にコルベットで移動した。<br>
おったまげラーメンと言う店でサギ山におごってもらい、店を出るとサギ山は用事があるという。<br>
大事な用だというが、牛尾は強引にロケバスまで帰った。サギ山は慌てて用事を済ませに走っていった。<br>
改めて見回しても、本物の馬部甚太郎が現れそうな気配はない。<br>
ロケ再開の時間となり、牛尾は外へ出た。<br>
サギ山のなんとか時間に間に合ったと帰ってくる。<br>
「ウマちゃん!」とデュークの車を降りてくるみちるが驚いた表情で近づく。<br>
どうしてこんなに早く戻ってこれたの?と訊くが、自分はラーメン食べてすぐ戻っただけだと答える。<br>
信じられない・・・と呟くみちる。<br>
<br>
次の本番となった。<br>
演技はできてもセリフに詰まる。<br>
「オイ、本当に役者か?」というカバ沢。<br>
その言葉に、疑われていると思った牛尾。こんな役者見たことねぇと、クマ野まで同調する。<br>
ばれたと思った牛尾は、一歩後ずさった。<br>
「物覚えが悪すぎるもの。3行以上言えてねぇじゃねぇか!」「へ・・・?」<br>
元の立ち位置に戻り、本番。OKが出る。<br>
サギ山が嬉しそうに近づき、凄みがありました!という。<br>
だがクマ野は呆れたように言った。<br>
「明日は長ゼリフがあるんだろ。大丈夫だろうな。頼むよ本当に」と。<br>
牛尾は「サギ山君よ」とグチを言った。馬部甚太郎という役者はすごいなと。<br>
サギ山はナルシシズムに縁遠い人かと思ってたと談笑した。<br>
<br>
<a name="a426"></a></dd>
<dt><a href="menu:426">426</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
01:32ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>― 三日目(10月13日金曜日) ―<br>
<br>
今日も撮影は深夜にまで及び、牛尾が解放された時間は既に1時半を回っていた。<br>
昨日と同じホテルの部屋で、牛尾は台本を開いてセリフを読み返していた。<br>
必死に頭に入れようとする姿勢は、役者そのものだった。<br>
何やってんだ俺は・・・。<br>
今まで自分のことだけを考えていたが、本物の馬部甚太郎はどうしているのかと気になった。<br>
もし自分と間違われていたら、最悪のことも考えられる。高峰綾のことも気になる。<br>
疑問で台本が頭に入らない。ええい!ヤメだ!と共同トイレへと向かった。<br>
<br>
・・・しまった。紙がない。牛尾は硬直した。<br>
そのとき、隣に誰かが入ってきた。「どうしたらいいんだ」という男のため息が聞こえる。<br>
「そっちに紙ねぇかな。出した後で、ないのに気づいた。」<br>
牛尾は隣の男に声をかけると、壁越しにトイレットペーパーを受け取った。<br>
隣の男のおかげで事なきを得た。<br>
それから宝石強盗はつかまったのかという話になり、<br>
流れで互いに自分の置かれた状況を、簡略化して相談する。<br>
状況が状況だけに名乗りはしない。隣の男は、<br>
「ヤクザの女に迫られて困っている。手を出していいものか、後のことを考えて出さないべきか・・・。」<br>
と相談してきた。<br>
「ヤクザの女には手をださないことだ。身包みはがされてケツの毛まで剥かれるぜ」と答えた。<br>
牛尾は訊いた「ひょんなことから芝居しないといけなくなったが、長いセリフを覚えるのはどうすればいいんだ?」<br>
隣の男は言った「口に出せば覚えられる」と。<br>
お互い大変みたいだががんばろうなと語り、牛尾は先にトイレから出た。<br>
<br>
今朝も朝早くから撮影は始まった。<br>
牛尾は自分の出番がないときでも、今日は撮影の様子を見ていた。<br>
やっぱりあんたら演技上手いなという牛尾に、みちるは嬉しそうに、<br>
「またそんな弱気なことを言う。ダメよ。私が絶対足洗わせないから」と言われる。足は洗ったはずだと思った。<br>
牛尾がずっと現場にいるのは、鯨井が来てもすぐ分かる為だ。<br>
昼を過ぎても今日は現れない。綾の尾行をしているのかとひどく気になる。<br>
空き時間あるかとサギ山に聞くと、次は1時からだから空いているという。<br>
10分前までには戻ると言い残し、現場を離れた。<br>
だが当てがあるわけではないので、とりあえず宝石店のほうへ足を向けた。<br>
<br>
ハンズの前まで来たとき、制服を着た警官が立っていた。まずいと思ったそのとき、<br>
誰かが牛尾の腕をつかんだ。見ると高峰綾だった。<br>
綾は人の少ない裏通りへと牛尾を連れて行った。<br>
<br>
<a name="a427"></a></dd>
<dt><a href="menu:427">427</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
01:33ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>警官の目を逃れ、綾はほっとため息をついた。<br>
鯨井は綾を尾行しているのかと気になり、注意深く辺りを見るが、いなかった。<br>
すると綾は「大丈夫です。牛尾さんの名前もなにも警察の人には話していません」という。<br>
色々訊かれたが、何度も店に通い、ご馳走までしてくれた人が強盗はしないと思い、知らないで通したという。<br>
だけど、店長やあのときの客は信じてくれそうになかったから、とりあえず黙っておいたのだ。<br>
プロポーズする為に石を選んでいたんだといって、財布を捜すが、またロケ班が持っている事を思い出す。<br>
後で良いですと言ってくれ、信じてくれる。悪い人と思われてなくて、牛尾も安心する。<br>
折角結婚にむかってたのにと言う綾に、無実を証明してきれいな身で予定通り結婚だというと、<br>
綾は私も勇気を出してプロポーズしますという。答えは決まってるんだ、いつでもいいと答える牛尾。<br>
綾は言った。「牛尾さんの婚約者の方が羨ましいわ」と。<br>
ショックを受ける牛尾。<br>
12時にハンズ前で待ち合わせだから、彼にあって欲しいと言う綾。<br>
俺、タバコ買ってくるわと言うと、綾は先に行ってますと歩いていってしまった。<br>
牛尾はショックで動けなかった。<br>
自動販売機の前にいるが、財布を忘れたことに気づく。そのとき、鯨井の姿が見えた。<br>
やばい!と陰に隠れるが、綾と一緒のところを見つかると、綾も疑われると思い、<br>
すばやく角を曲がった。<br>
<br>
「イテ!」「アイタッ!」<br>
出会い頭に走ってきた男とぶつかった。<br>
牛尾が倒れそうになるほどの大男だった。<br>
「スイマセン!」男は振り向きもせずそのまま走っていった。<br>
「クソォ、どいつもこいつも・・・」呟き、移動した。<br>
牛尾はさっきのロケ現場に戻ったが、誰もいなかった。<br>
どうやら移動してしまったらしい。ロケの場所確認し良かったと思いながら、あてもなく探しに出た。<br>
周囲を警戒しながら探したが、なかなか見つけることはできなかった。<br>
<br>
「ウマさーん早く!」サギ山の声が聞こえた。<br>
クマ野とサギ山がロケバスの前に立っているのを見つけた。<br>
予定時間を1時間以上過ぎていた。<br>
どこいってたの?ウマちゃん待ちだぞというクマ野。<br>
すぐやるからと言う牛尾に、「あれはOKだっつったろ」という。<br>
いい芝居だったことはみんな認めてる。普通あそこで泣けないよなと付け足した。<br>
全く覚えがなかった。追ッかけっこのシーンは?と訊く牛尾に、一発OK!ドンピシャだ!という。<br>
馬部甚太郎がやったのか?と訊く牛尾。頭でも打ったかと言われるが、<br>
牛尾は馬部が居るとロケバスを見た。だが、早く乗り込めとクマ野に押し込まれた。<br>
ロケバスの中には馬部は居ない。どうなってるんだ?と疑問を持つが、バスは走り出した。<br>
<br>
次の現場はバーだった。<br>
みちるがそっと牛尾の隣に立った。<br>
さっき話したいことがあるって言ったでしょというみちる。なんだと聞き返す牛尾。<br>
休憩のときにどこへ行ったんだと問い詰められる。静かなところと言うと、<br>
次はベッドシーンじゃないわよ!とハイヒールのかかとで足を踏まれた。<br>
何がなんだかさっぱりだったが、それより問題は次の長ゼリフだ。<br>
心配になり、店のトイレに入って呼ばれるまでの10分間、必死に暗唱を繰り返した。<br>
<br>
<a name="a428"></a></dd>
<dt><a href="menu:428">428</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
01:34ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>
テストいきます!と牛尾の隣にはホステス役のみちる等女性が座り、前にはデュークが座った。<br>
スタートといわれるが、セリフが出てこない。<br>
素人には難しい。頭は真っ白になる。<br>
私を裏切った罰よといいながら、牛尾のグラスに本物のウィスキーを注いだ。<br>
ウマちゃん落ち着いて、コレ飲んでと微笑み、グラスを牛尾に渡した。<br>
ああ。と返事し、一気にグラスを空けた。<br>
もう一杯くれと牛尾に言われ、みちるの目が丸くなる。<br>
馬部は下戸なのだ。一滴でも飲めば倒れるほどだ。<br>
自分でやる!とウィスキーのビンをみちるから奪った。<br>
グラスになみなみと注ぐと、一気に飲み干す。<br>
そんな・・・と唖然となるみちる。<br>
「落ち着いた。ぶっつけ本番いこうか」と言い出す牛尾。<br>
本当にできるのかと心配するクマ野とカバ沢。<br>
「二度とできるシーンじゃねぇと」ぶっつけ本番が決まった。<br>
<br>
本番が始まった。<br>
牛尾は言った。<br>
「いいか、よく効け・・・確かに話し合いで解決した方が利口だ。<br>
ドンパチやりゃいいってもんじゃねぇ。けどな、この世界メンツ潰されたままじゃ<br>
生きていけねぇんだよ。てめぇら、どうせ別件でも何でも見つけて<br>
パクるんだろうが。いいさ、おれはヤクザの人権なんて泣き言は言わねぇ。<br>
だがな、よーくこのツラ見て物言え」<br>
<br>
牛尾は、本物の組長になっていた。<br>
<br>
OK!カット。<br>
やるときゃやるねとスタッフ達はいうが、みちる一人が信じられないという表情で見ていた。<br>
コイツのおかげで助かったと、ウィスキーのビンを見せた。<br>
上機嫌で濡れナプキンで顔をこする。強くこすれば取れるはずの傷跡は取れない。みちるはさらに驚いた。<br>
みちるは青い顔で逃げるように表へ飛び出した。<br>
<br>
表へ出ると、酔っ払いの4人の男にみちるは絡まれていた。<br>
牛尾は四人相手に大暴れする。<br>
やっぱりウマちゃんじゃない。そう思ったみちるは、嬉しそうな顔をして戦う牛尾を見て、唖然とした。<br>
やはり暴れ牛は強かった。4人の男達はよろよろと逃げていった。<br>
オイ大丈夫か?とみちるに言うが、ありがとうと硬い笑顔で返されるだけだった。<br>
<br>
そのとき、小さな十字路を駈ける人影が牛尾の視界に入った。<br>
三次だった。右手に拳銃を握っていた。ちょっと外れるぜと牛尾は三次の消えた方向へ駆け出した。<br>
<br>
<a name="a429"></a></dd>
<dt><a href="menu:429">429</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
01:36ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>
人通りがないのを確かめ、牛尾は三次に近づき、背後から革ジャンをつかんだ。<br>
やっと捕まえたぜと言い、有無を言わさず三次を壁に押さえつけた。拳銃を下へ落とす。<br>
久しぶりだな三次というと、冗談はよしてくれと言う。<br>
お前のおかげで愉快な目を見てるぜ。折角足洗ったのに、このままじゃ逆戻りだと言った。<br>
白峰組と組んで、俺を始末し、跡目復帰を狙ってるんだろと三次に言われ、知らんと答える牛尾。<br>
宝石強盗は単独犯で、俺は無関係だって自首しろという。白峰はいいのかといわれ、もう縁は切れてると話す。<br>
だが三次は、自分が捕まるときは兄貴も一緒だと言う。<br>
そのときだった。<br>
ロケバスが狭い道を入ってきた。<br>
クマ野が顔をだし、ウマちゃん次のロケ現場知ってたの?じゃ、すぐ先だからと言って60M程先で停車した。<br>
なんですかありゃ?と言う三次。<br>
沈黙する牛尾。<br>
三次に、彼等は牛尾と言う名前を知らないとばれてしまったのだ。<br>
三次は落ちた拳銃を拾い上げ、「これから故売屋に宝石を売って、白峰組に見つかる前に高飛びをする」という。<br>
ここで三次に高飛びされてはいつまでも追われる身の牛尾。<br>
宝石は、お前の持っているだけでは3億円にはならないと言う。<br>
牛尾はお前の倍の宝石を持っていると続けて言うと、嘘だと言う三次。<br>
あのドサクサでお前は気づかなかっただけだという牛尾。<br>
そのとき、パトカーのサイレンが鳴った。<br>
この続きの話は後にしようと、三次はポケットから盗品の携帯電話を渡し、駈け去った。<br>
盗品の携帯電話ということは、自分も容疑者のままだ。<br>
最後は力だと思い、白峰組に向かって歩き出した。<br>
<br>
<br>
出会いは、突然やってきた。<br>
「馬・・・!」<br>
「牛・・・!」<br>
馬部は来た方向を慌てて走り出した。<br>
牛尾は後を追った。<br>
牛尾はタックルで馬部を捕まえた。<br>
混乱する馬部に「知ってること全部教えてくれ!」と言う牛尾。<br>
牛尾は馬部を立ち上がらせた。<br>
話のできるところ行こうやと言い、移動した。<br>
<br>
牛尾は馬部から全て聞き、自分もどんな目に遭って来たかを話した。<br>
「そうか、山吹がなぁ・・・」と呟く牛尾。<br>
「あなたさえ警察に出頭してくれたら万事解決するんです」と馬部。<br>
だが、牛尾は「甘いな」と返し、理由を告げた。<br>
馬部は、組の内情とチャカを使ったことなど、知りすぎてしまった。<br>
牛尾が出頭しても、牛尾政美に成りすましていた男がいたということはいずれバレる。<br>
組は馬部の口を塞ぐだろうと話され、不安になる馬部。<br>
牛尾は言った。「助かりたかったら、三次を捕まえて全てを自白させたうえ、チャカのことは黙らせることだ」<br>
無理だ!と思った。<br>
そのとき、三次から渡された携帯電話が鳴った。<br>
「さっきの話本当でしょうね。下手うつと、今度ばかりはチャカ使いますよ」という三次。<br>
ああ、わかってると返事した。<br>
「6時半、神宮橋」そう言われると、電話は切れた。<br>
・・・やるしかねぇ。考えるんだ。牛と馬で。<br>
<br>
<a name="a430"></a></dd>
<dt><a href="menu:430">430</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
01:37ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>ロケ隊を遠くから眺める二人。<br>
「・・・ヨシ。それしかねぇ。」何かの相談が固まったようだ。<br>
しかし、馬部は心配している。<br>
どう考えても人手が足りないからだ。<br>
しかし、サギ山は仕事を辞めたがっていた事を思い出し、<br>
手伝わそうと決め、早速行こうと話したそのときだった。<br>
突然牛尾はタックルされた。<br>
後からみちるも来て、本物の馬部に駆け寄るのが視界の隅に入った。<br>
「よくも騙してくれたな!宝石はどこにある」と押さえ込みながら揉めていた。<br>
大丈夫?ウマちゃん。訊くみちる。大丈夫だよと答える馬部。<br>
鯨井は牛尾の腕をさらに絞り上げ、共犯者はどこだと問い詰める。<br>
だが、牛尾は俺は共犯者じゃねぇんだ!と抵抗。<br>
危うく強盗犯を匿って逃亡の手伝いをするところだったと言いながら、強引に馬部を立たせる。<br>
手を固められ、顔を歪ませながらみちるを見たが、みちるは動けない。<br>
話はゆっくり署で聞こうか。と、牛尾の腕を固めながら歩き出す鯨井に、<br>
あの・・・と間に割り込むみちる。鯨井は答えた。<br>
「いや、みちるさんのお手柄でしたよ。よく見破ってくれました」と。<br>
待ってくれ!という牛尾。怪訝そうな鯨井。<br>
<br>
「まだクランクアップしてねぇんだよ!何も終わっちゃいねぇ!<br>
こんなところで降ろされるわけにはいかねぇんだよ!」<br>
<br>
「!・・・」みちると馬部はハッと牛尾を見る。<br>
鯨井は「まだ役者気取りでいるのか。寝言は署で聞いてやる」と言い、<br>
強引に牛尾の背中を押して歩き出す。<br>
しかしみちるは「ウマちゃんの言う通り、ラストシーンが残っています」という。<br>
思いがけない言葉に、牛尾はみちるの顔を見た。<br>
だが、鯨井はあなたが通報してくれたじゃないかという。<br>
そして、みちるは「お願いです。うまちゃんの好きにさせてあげてください」というが、<br>
鯨井は、顔の傷をこすり、背中の刺青を見せ、こいつは牛尾だと証明する。<br>
だが、彼は今までずっと演じてきた、立派な役者だから、最後までやらせてくださいと<br>
みちるは鯨井に頼んだ。牛尾はじっとみちるを見つめた。<br>
いきなり、馬部が鯨井に飛びついた。<br>
「逃げろ!牛尾さん!」<br>
抵抗する鯨井刑事。だが、馬部はしがみついて離れない。<br>
そうよ!早く逃げて!とみちるも鯨井にしがみついた。<br>
「すまねぇ・・・!」<br>
牛尾は馬のように駆けだした。<br>
<br>
<a name="a431"></a></dd>
<dt><a href="menu:431">431</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
01:39ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>
小さなケース一つ持って、牛尾は約束の場所に向かっている。<br>
稲妻と共に雷鳴が轟き、大粒の雨が容赦なく顔を叩く。<br>
「約束の物、持ってきてくれましたか」<br>
そこに着いた途端、声がした。無表情の三次が立っていた。<br>
ここにある。と、牛尾はケースを開けて見せた。<br>
本物かと疑うので、指輪とネックレスを三次に放った。<br>
それらを品定めし、三次は本物だと口をゆがめて笑った。<br>
「これでお前のと会わせて3億円だ」という牛尾に条件はなんだと問う三次。<br>
どこでも好きなところへ行け。但し、捕まっても単独犯と言えと牛尾は言った。<br>
自分に有利すぎる条件に、警察に牛尾のことを言ったらどうするかと訊く三次。<br>
そのときは白峰組がお前のタマを取ると答える。<br>
だが、既に白峰組に狙われている三次は、そんな脅しに乗らないという。<br>
余計なことを言わない限り、組は俺が止めるというと、三次は組を抜けた牛尾にそんな力ないという。<br>
牛尾はお嬢さんと結婚して跡目を継ぐと言い、証拠に金のネックレスを見せた。<br>
亡くなった姐さんがお嬢さんに渡したもので、組長がいつもしてるだろうと言うと、<br>
三次は納得し、ケースを引き取った。<br>
「捕まってもチャカの出所は喋るな」と念を押すと、約束は守ると言う。<br>
<br>
そのとき、二人の前に覆面パトカーが突っ込んできた。<br>
咄嗟に車の陰に身を隠す二人。<br>
「動くな!」鯨井がドアを開け、拳銃を構えた。<br>
「奴を殺って逃げる!」と拳銃を抜く。<br>
刑事はまずい!殺したら死刑だ!と止める三次。<br>
こっちも必死だ。お前も射て!お望みどおり共犯といこうじゃないかと言う牛尾。<br>
混乱する三次。<br>
鯨井!と牛尾は叫び、車の陰から飛び出した。<br>
鯨井と牛尾の銃が同時に火を噴く。<br>
刑事は胸を射たれ、地へ倒れこんだ。<br>
牛尾は拳銃を地面に落とた。左腕からは鮮血が流れ落ちている。<br>
その隙に逃げようとする三次。<br>
だが、突っ込んできたパトカーが三次の行く手をさえぎった。<br>
刑事と制服警官は車を降り、拳銃を構えた。<br>
「動くな!抵抗すると射つ!」ひげの刑事が叫ぶ。<br>
「射つな!射つなよ!」と三次は両手を上げ、地面に膝をつく。拳銃は持っていない。<br>
制服警官は、雨に打たれている鯨井の元へ走り、脈を取る。<br>
「ウソだろ・・・」と三次も唾を飲んで見守った。やがて警官は首を横に振った。<br>
雷があたりを白くする。<br>
「強盗容疑、及び殺人の現行犯で逮捕する」とひげの刑事は手錠を三次の手首へかけた。<br>
牛尾も警官に取り押さえられている。<br>
「ちがう。おれは射たなかった。殺してないし、殺す気も無かった。」と主張する三次。<br>
「往生際が悪いぞ相棒・・・一緒に射ったんだ。命中したのはお前の弾だろ」<br>
と苦痛に顔を歪ませながら牛尾は言った。チャカなんかもってねぇ!と両手を広げる三次。<br>
「貴様らがグルになって強盗したのはわかってる。目撃者もいる。今から念仏でも唱えておけ。」<br>
ひげの刑事は冷たく言い放つ。<br>
すると三次は言ったのだ。<br>
「待ってくれ!あいつは俺の相棒なんかじゃねぇ!確かに宝石強盗をしたのは俺だ。<br>
だが俺一人でやったことで、あいつは何も関係ねぇんだ。仲間でもなんでもない!<br>
今だって本当にあいつが一人で殺したんだ!」<br>
馬部は「牛尾とグルだったんじゃないのか!」と言い放つと、<br>
「ちがう!あいつは客だったんだ、共犯なんかじゃねぇ。宝石強盗は俺一人でやったことだし、<br>
警官殺しはあいつ一人がやったことだ!嘘じゃねぇ!」三次は必死に訴えた。<br>
<br>
<a name="a432"></a></dd>
<dt><a href="menu:432">432</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
01:40ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>「・・・そうか。なるほどな。」<br>
死んでいたはずの鯨井刑事がむっくり起き上がった。<br>
「生きてる・・・?」混乱する三次に<br>
「銃持ってる奴を捕まえに来るのに防弾チョッキ着ない馬鹿がいるか」という。<br>
署まで楽しいドライブだと言い、唖然とする三次の横に立つ。<br>
牛尾は捕まえねぇとかと問う三次に、鯨井はパトカーは狭いんでね。とごまかす。<br>
後は君達に頼むと馬部に告げた。ひげの刑事は「はい!」と答えると、来い!と三次を引っ張る。<br>
観念した三次はおとなしく連行されていく。<br>
覆面パトカーに三次を放り込んだ鯨井は、こちらを振り返って気持ちのいい笑顔を見せた。<br>
鯨井の運転する覆面パトカーは、うなりを上げて走り去った。<br>
牛尾は顔を上げて振り返り、ニヤリと笑った。<br>
<br>
「ハイ・・・カット!OK!」制服警官がいきなり叫んだ。女の声だ。<br>
警官の帽子とメガネを外すと、それはみちるだった。<br>
「やりましたね。まんまと引っかかった」ひげの刑事も帽子と付け髭をはずした。馬部だった。<br>
「こうなると、紛れ込んだのがロケ隊でよかった。宝石も拳銃も火薬も血のりまであるしな」<br>
不安だった出演者も最高の演技だった。鯨井までよくやってくれたと談笑する。<br>
そして着替えを済ませると、みちるはサギ山をトランクから出した。<br>
終わったとサギ山に伝えると、僕何もしてませんけどと返してきたので、<br>
「お前がいてくれたから、助かった。」と牛尾はサギ山の手を握った。<br>
こいつを小道具に礼を言って返しておいてくれ。また叱られるかもしれねぇがと、<br>
アクセサリーの入ったケースと拳銃を渡した。<br>
「どうせ辞めるんでかまいませんけど、最後にウマさんたちのお役にたてたなら良かったです」<br>
サギ山の言葉に、「馬はこっちだよ」と馬部が言った。<br>
牛尾と馬部が並んで立っている。混乱するサギ山に、二人は笑った。<br>
「双子だったんですか!」と納得するサギ山。<br>
そこへロケバスが到着した。<br>
ドアが開き、ものすごい形相をしているくま野が降り立った。<br>
小道具に嘘ついて一体なにしてやがったんだ!と怒鳴ると、辞めてやるんだ!知ったことか!と返す。<br>
すると、くま野は「そうはいかねぇ。てめぇは俺の下でたっぷりかわいがってやる」と、<br>
サギ山の耳をつかんでバスへと乗せた。「イテテ・・・チキショウ!今に辞めてやる!」<br>
牛尾は馬部に、大事な品だからなと、るい子からもらった金のネックレスを返した。<br>
止めて下さいよ。それ考えるとまた憂鬱になる。という馬部。<br>
せいぜい頑張るんだなと、牛尾とみちるは明るく笑った。<br>
ロケバスの入り口で、くま野がこれからラストシーンだろう!と呼んだ。<br>
しっかりね!とみちるは馬部の背中をおした。<br>
馬部は牛尾に小さく頷き、嬉しそうにバスへ駈けて行った。<br>
<br>
<a name="a433"></a></dd>
<dt><a href="menu:433">433</a> <font color="forestgreen"><b><a href=
"mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font> <font color="#8080FF" size=
"2">sage</font> <font color="#808080" size="2">04/04/17
01:40ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>
「あんたは行かなくていいのかい?」牛尾はみちるに訊いた。<br>
私は後で追いかけるからと答え、牛尾は警察へ行くのかと問う。<br>
「その前に寄るとこがある。こいつの代金を払わないとな」と、<br>
三次に品定めさせた指輪とネックレスを見せた。そうねと笑うみちるには少し陰があった。<br>
そして、牛尾は一緒に店まで来てもらえねぇかと頼んだ。そして言葉を続けた。<br>
<br>
「まさか盗品のままで、あんたにプロポーズするわけにはいかねぇからな」<br>
『え・・・・・・・・・・・・・・・』<br>
<br>
<br>
プロポーズだ。<br>
<br>
椎名みちるにプロポーズする。<br>
それが今日からの大問題だった。<br>
<br>
<br>
「The Wrong Man 牛」完<br>
<br></dd>
</dl>
<hr>
<div align="right"><a href=
"http://www8.atwiki.jp/storyteller/pages/646.html">>>Part3</a>(市川文靖編、細井美子編、篠田正志編)</div>
<p><strong>街</strong> (Part2/4:馬部甚太郎編、牛尾政美編) ページ容量上限の都合で4分割されています。</p>
<p>>>6-397~433</p>
<hr /><dl><dt><a>397</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街の人</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:16ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>では今回は「街」馬部と牛尾編です。<br />
二人の話は、かなりストーリーが絡み合ってます。<br />
どっちも読まないと、どうしてそうなったのかわかんねと思う。<br />
ただ、絡み合う分だけ、詳細も長い。<br />
性格の比較もあるしな。マジすまん。_| ̄|○<br /><br />
というわけで、今回は両方のストーリーを一気に投下。<br /><br /><a name="a398"></a></dd>
<dt><a>398</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街の人</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:17ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>馬部甚太郎「The Wrong Man 馬」グッドエンド<br /><br />
― 一日目(10月11日水曜日) ―<br /><br />
射つだけだ。<br />
刑事を一人殺るだけだ。<br /><br />
張り詰めた空気を持つ男が一人、街角に立ち、ポケットの拳銃を握り締めた。<br />
頭上の時計を見上げたとき、女性が「もう時間ね」と声をかけた。<br />
恋人の「椎名みちる」が立っていた。<br />
あっちは全て整ったわ。後はあなたがヤルだけよ。モノは持ったね?<br />
それに対して男は胸のポケットを叩いた。<br />
のし上がるチャンスじゃないのと励まし、そして「ちゃんと殺してきてね」という。<br />
男は「おう」とだけ言い、大股で歩き出した・・・。<br /><br />
現場へと向かうと、そこには刑事一人で来たことを確認し、拳銃を握り締めた。<br />
男は車の陰から飛び出した。「う、動くな!」<br />
刑事も振り向きざまに拳銃を抜いた。現場に緊張が走る。<br />
「ししし死んでもらうぜ!」男が言ったが早いか<br /><br />
「バキューーーン・・・・・・」<br /><br />
ピストルが双方から火を噴いた。<br />
刑事が弾かれたように吹っ飛んだ。そして男も倒れ、そして絶命した・・・。<br /><br />
「カーーーーット!!」<br />
ガチンコがなり、カバ沢監督の罵声が飛ぶ。<br />
倒れた男が起き上がった。<br />
そう。これはドラマのワンシーンだったのだ。<br />
監督から罵声が飛ぶ。男は本当は倒れてはいけなかったのだが、普段やられ役の多い彼は、<br />
いつものクセで、撃たれると反射で倒れてしまったのだ。<br />
ロケ現場にイライラとした空気が漂う。<br />
役者の名前は「馬部甚太郎」馬部は17年も無名の役者を続けている。<br />
しかし、今回連続刑事モノのTVドラマ「独走最善戦」で、「主役刑事と対立するヤクザの組長役」<br />
というこれまでにない大役をもらい、演技次第では大スターにのしあがるチャンスをつかんだ。<br />
しかし、彼には自信が無い。<br />
女優の「椎名みちる」と馬部は恋人同士。<br />
自信が無い馬部を励ましてくれ、身も引き締まり、がんばろうという気にさせてくれる。<br /><br />
シーンは公園で馬部(演じる親分)が殺されるところである。<br />
拳銃で撃たれ、階段を落ちるシーンを要求され、演じるが、迫力がないと却下される。<br />
替わりに池に飛び込むシーンを急遽挿入することにしようという。<br />
それを知って顔面蒼白の馬部。<br />
衣装は濡らせないので、今日が初日のADサギ山がテストアクションで池へ飛び込む。<br />
そのテスト中に、馬部はみちるに打ち明ける。「実は・・・泳げないんだ。」<br />
そんなことでせっかくのチャンスを逃すなと一喝され、本番に挑むことに。<br />
本番で、撃たれた後、悶絶する馬部。そしてついに飛び込むのだが、躊躇しながらも池へ。<br />
しかし、手足をばたつかせてしまい、恐怖は隠せず演技どころではない。やはり監督から喝が飛ぶ。<br />
出してはいけないNG。<br />
スタッフには白い目で見られ、スズメの涙ほどの自信はもう無くなってしまっていた。<br /><br /><a name="a399"></a></dd>
<dt><a>399</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街の人</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:19ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>衣装が乾くまで休憩!と指示が来る。<br />
彼はみちるの隣に来るが、彼女はタバコをくゆらし、無視をしている。<br />
自分は役者に向いていないのかな?といったことを話していると、<br />
彼女は情けない姿の馬部を見ていられないと言った様子で「バカ!」とビンタをし、<br />
どこかへ行ってしまった。すっかり見放されてしまった。<br /><br />
情けない気持ちになり、現場から離れたベンチで服を乾かしながら休憩していると、<br />
小脇にバッグを抱えたチンピラ風の男が来る。<br />
これが馬部と牛尾、ふたりの悲劇の幕開けとなる。<br />
彼は馬部を「兄貴」と呼び、尊敬しているなどと言い出す。<br />
自分は「三次」と名乗り、完全に役に入りきっている様子だ。チャカ(拳銃)まで持ち出している。<br />
銃の使い方は俺に任せておけと言う馬部に、拳銃を渡した。<br />
会話のズレに気付かず、馬部は三次を以前一緒に仕事をした役者だと勘違いしてしまっていたのだ。<br />
兄貴、移動しましょう!と言われるので、もうロケ班は、自分を置いて移動してしまったと思たのだ。<br /><br />
移動している途中、なぜか警察に追われた。<br />
これも馬部は撮影だと誤解し、三次から預かった拳銃で警官に向け発砲。弾は外れた。<br />
そとき、馬部は気づいた。<br />
「これは本物の拳銃だ」と。慌てる馬部。<br />
拳銃は三次が破門になった「白峰組」(牛尾が現役時代属していた組)から騙してくすねてきたものだった。<br />
しかもそれは組長白峰忠道の銃なのである。<br />
ここは逃げるしかない!<br /><br />
なんとか逃げ切ったと思ったが、「キツネの三次」の異名をとるほどの逃げ足の速さには勝てなかった。<br />
逃げる仕込をすると、三次は立ち去る。<br />
一人になり、もう逃げようと考える馬部だが、すぐに三次は帰ってきてしまい、考えがまとまらなかった。<br />
ラジカセを持ってきたというが、木陰を見ると、一人の男が頭から血を流し、裸で倒れていた。<br />
服とラジカセを三次にかっぱらわれたのだ。<br />
ラジオを流す。<br />
臨時ニュースのようだった。<br />
「本日午前11時ごろ、渋谷の宝石店に強盗が入り、およそ3億円の宝石を奪って逃走しました。<br />
目撃者の証言によりますと、犯人は暴力団風の男二人組で、現在も渋谷周辺を逃走中です。<br />
二人組は拳銃を所持しており、警察は目下全力で犯人の行方を追っています。」<br /><br />
奴は本物の強盗だったんだと、今更ながら気づく馬部。<br />
盗んできた宝石を見せられ三次が強盗であるという事実を知ってしまった以上、<br />
正体がバレたら口止めのために殺されかねない。<br />
馬部は、ロケ隊に合流できるまで、身を隠しながらヤクザを演じるしかないと決心。<br />
役者、馬部甚太郎の命を賭けた演技が始まった。<br />
ロケ班に合流しようと思い、本心は隠したまま、二手に分かれて逃げようと提案する。<br />
が、三次に「警察も白峰組も動いている。丸腰だと自殺行為だ」と却下された。<br />
仕方なく、手下と合流する予定だとごまかし、元居た公園へと移動。<br /><br /><a name="a400"></a></dd>
<dt><a>400</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街の人</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:20ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>しかし、もうロケ班の姿はどこにも見当たらなかった・・・。<br />
ひとり、トランシーバを持ってADサギ山がひょっこり歩いているのを見つけ、すがる気持ちで話しかけると、<br />
「いつの間に現場から公園へ帰ってきたんです?早かったですね。」と言われ、「走ったからな」と言う。<br />
三次は、サギ山を馬部の舎弟と思い、「兄貴の服ぐらい持って来い」というと、<br />
さっき着替えたでしょなどともめる。サギ山は三次を新人のエキストラと思っているのだ。<br />
このまま揉め続け、サギ山が馬部の立場を知らずに余計なことを言ってしまい、正体がばれると殺されると感じ、<br />
取り繕ったりするが、サギ山が「もう戻ります」と言い出すと「僕も連れて行って・・・」と泣き言。<br />
安全なところへ兄貴を誘導しないと勘違いした三次はサギ山を蹴り飛ばし、「それが舎弟の態度か!」と言う。<br />
「もう辞めてやる!」と泣き言を言いながら、去っていくサギ山。<br />
公園は警察が多いので、ホテルへ向かおうと言われ、仕方なく従うことにした。<br /><br />
ホテルのある地域は、白峰組のシマだが、灯台下暗しだと言い、予約を入れてくるとフロントへ向かう三次。<br />
その隙に逃げようとするが、ヤクザ風の男達がうろついているので、どうにも逃げられず、<br />
ホテルの部屋へとあがる事になってしまった。<br />
部屋で三次は、抱えていたバッグの中身をベッドの上にひっくり返す。<br />
3億円の輝きだと言われ、さらにビビってしまう。<br />
取り分は現金でいいだろうと言われ、素直に従う。<br />
現金に換えるルートは、つてのある関西の故買屋(盗品と知ってて買い上げる者のこと)に連絡がつき次第だという。<br />
バスタオルを取って来いと言われ、これも素直に従うと、三次は言った。<br />
「兄貴、丸くなりましたね。暴れ牛も角が折れたか。」と。<br />
怪しまれていると思った。<br />
タバコをくわえた三次。素直に火をつけようと見せかけたとき、彼は三次を押さえ込み、顔に火を近づける。<br />
「火をつけてやるが、タバコだとは限らない」と精一杯の演技をすると、三次は、図に乗りすぎましたと謝る。<br />
馬部は肩で息をしながら三次から離れた。一か八かの演技だったが、内心はチビりそうだった。<br />
盗んだ宝石を慣れた手つきでバスタオルにくるむと、バッグへとしまった。<br /><br />
外の様子を見てきますと、出て行く三次。<br />
扉が閉まると、突っ伏してシクシク泣きながら弱音を吐く。<br />
「・・・どうしよう。逃げようかな。でもすぐ戻るって言ってたしな。」決心がつかない。<br />
だが、外には白峰組と警察が自分達を追っている・・・。<br />
あれこれ悩んでいるうちに、時間は過ぎ去り、三次は帰ってきてしまった。<br />
白峰組のチャカを使ったことがバレて、組のモノが増えてることと警察が多いことを報告される。<br />
そろそろ兄貴のガソリンが切れるころだと思いましてと一本のウィスキーを取り出した。<br />
グラスにストレートで注がれていく液体。今日は辞めておこうと言ってしまう馬部。<br />
馬部は下戸だった。一口飲んだだけで倒れるほど飲めないのだ。<br />
だが、命がかかっている。命がけの演技だ。<br />
怪しまれるわけにはいかない。<br />
「がはは、ヨーシ、じゃあ祝杯を上げるか!お前も飲め!」と乾杯をする。<br />
精一杯の虚勢を張り、一気にグラスを空ける。<br />
そして「疲れたから寝るってんだよ!文句あんのか!」と宣言するが早いか、眠り込んでしまった。<br /><br />
その夜、馬部は悪夢を見た。<br />
しかし、悪夢より辛い現実がさらに続くことを、このときはまだ知らない・・・。<br /><br /><a name="a401"></a></dd>
<dt><a>401</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:21ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>― 二日目(10月12日木曜日) ―<br /><br />
馬部はうなされて目が覚めた。夢か・・・と思うが、窓際で外を見張っている三次の姿に<br />
悪夢の方がマシだと思った。<br />
三次は異常は無いという。昼間で休みたいと言い出すので、快く了承する馬部。<br />
完全に三次が寝入ったコトを確認すると、テーブルの上に置かれていた、あの宝石の入ったバッグを持ち、<br />
警察に届けようと逃げた。<br /><br />
裏口から外へ出ると、まっしぐらに駆け出した。<br />
昨日あれほど居た警察が、全くいない。<br />
ゲーセン街でようやく見つけた、若いヨレヨレのコートを着た男は手帳に何か紙のようなものを挟もうとしている。<br />
もしやと思い、男の手帳を取り上げると、それは警察手帳だった。男は雨宮桂馬という刑事だった。<br />
事情を話そうとバスタオルに包まれたモノを出す。<br />
しかし、宝石ではなく灰皿だった。<br />
持って来ちゃったんなら自分で返しに行ってくださいといわれ、逃げるように去っていってしまう。<br />
突然物陰から、三次が現れた。自分だけ助かろうとしていると誤解される馬部。<br />
どうも様子がおかしいと思い、バッグの中身をすりかえられていたのだ。<br />
「裏切りは、死をもって償え。これは昔兄貴が言った言葉だ」と言い、懐から拳銃を出した。<br />
そのとき、突然サイレンが聞こえた。パトカーだった。二人を見つけ、追いかけてくる。<br />
「兄貴、このままじゃ済ますさねぇからな!」と捨て台詞を吐き、逃げ去った。<br />
馬部も三次とは別方向へと逃げ出した。<br />
警察に追われ、「違うんだぁぁぁ!」と泣きながら走った。<br />
通りに出たところで、突然オートバイに阻まれた。<br />
早く乗って!と言われるまま、後部座席に乗り、逃げ去った。<br /><br />
ここまで来れば安心と、オートバイを止めた。<br />
ライダーはメットを取り、頭を振って長い髪をパサリと下ろした。<br />
パッチリとした目が印象的な、23歳ぐらいの美女だ。<br />
馬部には全く覚えが無い。ロケ隊のスタッフかと思っている程度。<br />
「君みたいな人が居てくれて嬉しいよ」だの「一緒に居て良いんですね」など、<br />
誤解を招く言葉を吐くが、ロケ隊から離され、死ぬ思いをしている以上、しかたないのだ。<br />
彼女は恋焦がれているような返答。るい子と呼んでください。という。<br />
そして、彼女の口から、「牛尾」という名前がでて、やはり誤解されていると理解する。<br />
馬部は「宝石泥棒なんてしてないんだから!信じてよ・・・」と泣き言をいう始末。<br />
父の元が安全だというので、三次や白峰組に捕まるよりマシと思い、<br />
どこだか分からないまま自宅へ向かうことになった。<br /><br />
立派な門構えの家である。門が内側へと開き、バイクとともに中へと進む。<br />
建物は、純和風の豪邸といった感じだ。<br />
玄関の前まで来ると、大勢の男達がずらりと並んで出迎えた。<br />
「お帰りなさいやし!お嬢さん!」一斉に男達は叫ぶ。<br />
ここは白峰組事務所で、彼女の父は組長だったのだ。<br />
馬部は目眩がした。しかし、組員の男に強引に中へと上げられてしまった。<br />
長い廊下を進みながら馬部は考える。もしNGを出しても、テイク2はない。<br />
部屋に入ろうとしたとき、黒スーツに身を包んだ、有能な銀行マンといった感じの男「山吹」が襖を開けた。<br />
牛尾が組を抜け、若頭となったその男は、迫のある目で睨み付ける。<br />
馬部を匿うつもりで連れてきたんだろうが、よくも裏切り者をつかまえてくれてってとこだという。<br />
俺は知らないと弁解する馬部。組長に言うんだなと山吹。<br />
恐ろしい揉め事の中、「もう辞めて。父を呼んできてちょうだい」とるい子が割って入った。<br />
山吹は馬部に一瞥をくれ、奥へと消えていった。<br /><br /><a name="a402"></a></dd>
<dt><a>402</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:22ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>広間は20畳以上あった。恐怖と緊張で固まった馬部。二人は正座して組長を待った。<br />
静かに襖が開き、和服姿の白峰組組長、「白峰忠道」が現れた。その迫力に唾を呑む。<br />
隣を見ると、るい子が礼儀正しく頭を下げている。慌てて馬部も畳に額をつけた。<br />
どっかりと腰を下ろす。重苦しい沈黙が続く。<br />
殺されると分かっていて何故ここに来たのかと、白峰の付き人である「柏木」が言う。<br />
馬部は頭がクラクラした。<br />
「三次と一緒に逃げた男は貴様だと報告が入った。三次は見つけ次第始末する。<br />
奴と組んだお前も覚悟ができているだろうな。」柏木が言うが、馬部はやってないと弁解。<br />
恩を仇で返すとはといわれていると、山吹が襖の向こうから「大松」を連れてきたと言った。<br />
入れと命令され、入ってきたのは、大松を連れた山吹と若い男だった。<br />
さらしに巻かれた包丁と、足のついたまな板を持っている。<br />
「すぐに始めてよろしいですか」という山吹に、白峰は無言でうなずく。<br />
大松は、三次にチャカを盗まれ、その銃で強盗された。<br />
「本来なら小指ですまないところだが、白峰の温情だと思え」と言われ、左手をまな板の上に乗せられる。<br />
包丁をさらしから外し、大松の小指へと当てる。馬部は気が遠くなりかけており、見るどころではない。<br />
包丁に一気に体重をかけられる。<br />
馬部の額にコツンと何かが当たり、転がった。<br />
「!!」<br />
転がった小指を山吹は和紙で包み、白峰へ見せる。そして病院へ連れて行けといわれ、<br />
大松はよろよろと広間を後にした。<br />
馬部は膝に力をいれ、気絶しそうな体を支えた。<br /><br />
事の次第じゃエンコ(小指)だけじゃすまないぞと凄まれ、三次とチャカと宝石のありかを聞かれるが、<br />
馬部は当然わかりませんと答える。証明する為に、服のポケット全てを裏返す。<br />
すると、そこからは指輪が3個出てきた。寝てる間に三次が入れたのだろう。<br />
それを見た付き人は、「それだけじゃないだろう。どこで三次と会う」と聞く。<br />
会いません!と断言すると、白峰は立ち上がり、言った。<br />
「こいつは・・・牛尾じゃない」<br />
心臓が破裂しそうになる。<br />
「昔の暴れ牛はもう死んだ。東京湾にでも沈めろ」といわれ、山吹が牛尾の肩に手をかけた。<br />
「違うんです!これは婚約指輪だ」と命惜しさに出まかせを言った。<br />
今日にも婚約を申し込むつもりだったという馬部に調子を合わせるように、るい子が言葉を足す。<br />
「その相手とは、私なんです!」<br />
白峰の目が大きく見開き、柏木と山吹も呆気にとられたが、一番たまげたのは馬部だった。<br />
るい子は続けた。<br />
牛尾さんが組を抜けてから何度も逢っていた事。自分は牛尾が好きだということを。<br />
馬部も調子を合わせる。ここで殺されるより嘘でも勘違いでも利用して生き延びる方が先だ。<br />
「結婚を申し込みに来た。どうしても信用できないならかまわないが、結婚を認めてからにしてくれ」と<br />
だが、白峰は「山吹から正式に結婚を申し込まれている。こいつ(牛尾を演じる馬部)よりましだ」と否定。<br />
もう二度と牛尾と会うなという。<br />
「私は命がけで牛尾さんを愛しているの。ずっと牛尾さんと一緒に居る」<br />
と言うるい子の言葉に、怒り、床の間にある日本刀を抜刀し、るい子の鼻先へ突きつける。<br />
山吹では死んでも嫌と言うなら、死ね。と言い、刀を振り上げた。<br />
気合を発し、刀が一閃した。<br />
るい子のジャケットが裂けたが、るい子自信は無事だった。<br />
「お前は男を見る目が無い。育て方を間違えた」<br />
るい子は尻もちをつく。馬部は既に腰を抜かしていた。<br />
白峰は馬部を見て言う。<br />
「明日までに三次の首とチャカを持って来い。お前の話はそれからだ。<br />
ただしできなかったときは・・・」刀を振り下ろす。殺されるということだ。<br />
今の約束を盃で約束してくれと言うるい子に、白峰は苦笑し、柏木に用意しろと命じる。<br />
(ヤクザ社会において、盃を酌み交わせば、”血よりも濃い”結びつきとされる。)<br /><br /><a name="a403"></a></dd>
<dt><a>403</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:24ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>盃の用意が整い、向かい合わせに座る馬部と白峰。<br />
「命を賭けた約定の覚悟、今一度胸中お確かめの上、腹定まったならば、<br />
この盃、三口半で飲み干しまして懐中深くお納めをお願いします。どうぞ。」<br />
柏木が口上を述べた。<br />
白峰は三口半で飲み干した。<br />
しかし馬部は盃を見つめたまま動かない。<br />
呑めない。でも飲まないと殺される・・・。<br />
ようやく盃を口に運んだ。<br />
手が震え、三口半かどうか分からないが飲んだ。アルコールが回る。<br />
白峰が懐紙に盃を包み、懐に入れる。慌てて馬部も盃を包んでポケットにしまう。<br />
「つたなき盃ではございましたが、ここに約定の儀はつつがなく終了いたしました。それではお手を拝借。」<br />
一本締めでその場は収まった。・・・が馬部は目が回った。<br /><br />
るい子の部屋へと通される。<br />
馬部は酒がまわり、ぐにゃりとるり子に倒れこむ。彼女をベッドへ倒してしまった。<br />
るり子は誤解し、自らの帯を解く。<br />
抱えた馬部の首にキスの雨を降らす。<br />
そのとき、突然扉が開き、山吹が入ってきた。起き上がるるり子。床へ転がり、倒れこむ馬部。<br />
彼は身辺警護だという。野暮なことはしないで!あなたに用は無いというるり子に、<br />
私にははあるんですという。<br />
用というのは、牛尾に若い者が挨拶したいと言ってるから、ツラを貸してくれということらしい。<br />
私も行くというと、野暮なことはしないでもらいたいと一蹴される。<br />
そして、「大切な客人だ。丁寧にな!」と言うと、<br />
床でつぶれていた馬部を若い衆が抱え上げ、引きずっていった。<br /><br /><a name="a404"></a></dd>
<dt><a>404</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:25ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>広い居間に連れて行かれ、ソファーに座らされた馬部。<br />
その周りを血の気の多そうな組員達に囲まれた。<br />
山吹は手下と耳打ちをする。馬部の目の前には数本のブランデーが並べられた。<br />
グラスに注がれ、乾杯をする。唇を濡らすだけだったが、山吹に凄まれ、仕方なく飲み干した。<br />
すぐに次が注がれる。呆然とする馬部。<br />
「牛尾さんは必ずかけつけ三杯でしょう」といわれ、気が遠くなりながら胃へ流し込んでいく。<br />
飲み干したとたんに、頭が前に倒れ動かなくなった。<br />
組員達は「これが本当に「暴れ牛」か?なんか違う」と口々に言っている。<br />
山吹は確かに何処かがおかしいと言いながらも、外へ運び出し、車に乗せろと命じた。<br />
手下達が馬部を抱え上げ、「だらしねぇ。この牛去勢されてるんじゃねぇか?」と笑った。<br />
「なんだと・・・」とゆっくりと顔を上げる馬部。そして続けざまに言う<br />
「誰に向かって言ってんだ、この野郎!」いきなりボトルで殴りつけた。<br />
殴られ、頭を押さえて転がりまわる組員。若い衆は一気に殺気立った。山吹は息を飲んだ。<br /><br />
「イキがるんじゃねぇ、ヒヨッコどもが!」<br /><br />
馬部は一喝した。完全に目がすわっている。<br />
過度のアルコールで切れたようだ。<br />
「いいかッ、こっちはてめぇらが鼻たらしてるときから刃重ねてきてるんだ。何百となく死んできてるんだよ!」<br />
牛尾の数々の武勇伝を聞かされている若い衆は、思わずたじろいだ。<br />
足を洗った人間が、何を今更言ってやがる!という山吹に、<br />
「誰が足を洗ったっただと。馬鹿いうな、俺はヤクザの顔役としてこれからドンドンとのし上がっていく男だ!」<br />
馬部は銀幕に賭ける意気込みを話した。<br />
狙いは白峰の跡目だなという山吹に、白峰なんざ今もうやってら!もっと主役になるんだよ!という馬部。<br />
理解に苦しむ山吹。<br />
そのとき、頭から血を流した男が起き上がる。手にはドスを持っていた。<br />
刺すぞと脅す男に構えがなってないと怒鳴りつけ、ちょっと貸してみろと言うと、刺すぞと脅される。<br />
だからそうじゃねぇって言ってんだろ!とグラスを投げつけ、ドスを奪い取る。<br />
刺し方教えてやると言うが、テーブルが邪魔で動きにくい。<br />
近くに居た山吹の手下に「テーブルをわらえ」と言うと、手下は力なく笑った。<br />
「笑ってんじゃねぇ!この野郎!邪魔だからどけろと言ったんだ!そんなこともわからねぇのか!このド素人が」<br />
と思いっきり蹴り飛ばした。(テーブルをわらう=テーブルをどける。業界用語です。)<br />
唖然と見つめている若い衆。わからねぇ・・・。<br />
そして、ドスの構え方を映画のタイトルで説明し、無造作に男の太ももへと刺した。<br />
ぎゃあああああ!と叫ぶ男に「(やられ方が)上手いじゃないか、その感じ忘れるな!」と褒める。<br />
他に刺し方教えて欲しい奴いるかという馬部に、<br />
若い衆はブルブルと首を横に振る。暴れ牛はむちゃくちゃだ・・・。<br />
「さてと、この街も住み辛くなった。そろそろ潮時だ。あてのねぇ旅だ」と言い、ポーズを決めると、<br />
若い衆が車で送ると言い、二人の若い衆が馬部の前に立った。<br />
キメで邪魔すんじゃねぇ!と若い衆を放り投げる。さらに踏みつけにする。(キメ=ポーズを決める事。業界用語?。)<br />
何年この世界で食ってやがるんだ!声にならない声で謝る若い衆。<br />
居間はむちゃくちゃになった。<br />
肩に背広を引っ掛け、「何か困ったことがあったら、いつでも呼びな。あばよ」とニヒルに笑って立ち去った。<br />
誰も後を追えなかった・・・。<br /><br />
馬部はフラフラと、無人の児童公園に出た。<br />
ドスンと砂場に腰を下ろし、コト切れたようにバッタリと倒れた。<br /><br />
「へっくしょん」<br />
馬部は自分のくしゃみで目が覚めた。<br />
どうやら雨が降ったらしい。地面が濡れている。<br />
山吹に飲まされてから覚えていない。自分の体を確かめたが怪我はない。助かったと思った。<br />
しかしそのとき、三次の首と拳銃を持っていかないと殺されることを思い出す。<br />
だから解放されたのかと思った馬部。<br />
三次を見つけるなんてとんでもない。逆に殺されると思い、どうしようどうしようと悩んでいる。<br />
そしてロケ隊を探して再び街を歩き回った。<br /><br /><a name="a405"></a></dd>
<dt><a>405</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:27ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>レストランの前で足が止まった。<br />
そこにはみちるが立っていたのだ。<br />
馬部はゆっくりとみちるへ近づく。みちるも後ろを気にしながら馬部へと駆け寄る。<br />
「どうしたの?うまちゃん。気になって見に来ちゃったの?あの人とは話をあわせただけよ」と言い出す。<br />
馬部は突然みちるを抱きしめ、「怖かった。もう離れたくない!」と言い泣いている。<br />
大げさね。と言いながらも、ウマちゃんがそんな事言ってくれたの嬉しいとみちるは目に涙を浮かべていた。<br />
「でも今は待ってね。全部終わってからって言ったじゃない。あ、ほら来た!」とみちるが言うと、<br />
白いコルベットがレストランの駐車場から出てきた。<br />
おまたせと車からデュークが馬部に近づいてくる。身の程ってものをわきまえた方がいいかな。という。<br />
そしてみちるを強引に車へ乗せ、車を出そうとする。<br />
馬部は次の現場は何処かと聞くが、さっきと同じところだよとそっけなく言われ、車は出て行ってしまう。<br />
「どこッ、それどこォォォッ!」<br />
馬部の絶叫が街にこだました。<br /><br />
馬部の足取りは重かった。みちるに置き去りにされたショックも去ることながら、気力体力共に限界だ。<br />
ふと思い出す。スケジュールでは昨日も今日もホテルは同じの予定だ。<br />
撮影も心配だが、ホテルへ先回りすれば必ずロケ班と合流できると考える。<br />
だが、ホテル名を忘れていたので、電話ボックスのタウンページで調べ、思い出し、向かった。<br />
フロントにはジイさんが一人居るだけだった。<br />
ロケ隊の取った部屋で待つのも気が引けたので、別室のツインを一室とる。<br />
ジいさんへ、ロケ隊が帰ってきたら、遅くなってもかまわないから教えてくれと言った。<br />
そして部屋へと入った。<br />
狭い部屋で、オートロックはないが、三次と白峰が居なければいいと、ベッドへ倒れこみ、<br />
そのまま深い眠りに落ちていった・・・。<br /><br /><a name="a406"></a></dd>
<dt><a>406</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:28ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>― 三日目(10月13日金曜日) ―<br />
電話のベルが鳴っている。目を覚まし、電話に出ると、フロントからだった。<br />
「ロケ隊が帰ってきた」というのだ。<br />
これでやっと戻れる!喜んでいると、ノック音がした。<br />
みちるだと思い、扉を開けるとそこに立っていたのはるい子だった。<br />
「どうして黙ってウチを出たんですか!一人じゃ危険なの解ってるでしょ!ずっと一緒にいるって約束したのに!」<br />
すねたように馬部の胸を叩いた。<br />
馬部の後を、小指を切られ、帰る途中だった大松がつけてきていたのだ。<br />
大松から居場所を無理やり聞き出し、白峰には黙って出てきたのだと言う。<br />
これでまた牛尾を演じなければいけなくなった。<br />
るい子は「牛尾さん変ったわ。でも、今のナイーブな牛尾さんの方が好き。私の部屋の続き」といい、<br />
慣れた手つきで馬部のシャツのボタンを外していく。<br />
何とか逃げようと「悪いんだけど、先にトイレ行ってもいいかな?」と言って、部屋を出て行く。<br /><br />
共同トイレの一つだけ開いていた、トイレの個室に駆け込んだ。<br />
「・・・どうしたらいいんだ」<br />
すると隣の個室から声がする。<br />
「そっちに紙ねぇかな。出した後で、ないのに気づいた。」<br />
トイレットペーパーを壁越しに手渡す。<br />
それから宝石強盗はつかまったのかという話になり、<br />
流れで互いに自分の置かれた状況を、簡略化して相談する。<br />
状況が状況だけに名乗りはしない。<br />
「ヤクザの女に迫られて困っている。手を出していいものか、後のことを考えて出さないべきか・・・。」<br />
すると隣の個室から<br />
「ヤクザの女には手をださないことだ。身包みはがされてケツの毛まで剥かれるぜ」と言われる。<br />
恐ろしくなり、絶対手を出さないと心に誓う。<br />
隣の男は「ひょんなことから芝居しないといけなくなったが、長いセリフを覚えるのはどうすればいいんだ?」<br />
それに馬部は「口に出せば覚えられる」とアドバイスした。<br />
お互い大変みたいだががんばろうなと語り、隣の男は先に出て行った。<br />
個室の扉を開け、誰も居ないことを確認すると、馬部は部屋へと戻った。<br />
部屋ではるい子が服をまとわないまま、深い眠りについていた。<br />
彼女に布団をかけなおし、自分は少し休み、逃げようと決めた。<br /><br />
首元を誰かにごそごそとさわられていることで目が覚めた。<br />
それはるい子が自分に金のネックレスをかけていたのだ。<br />
これは母がしてたもので、自分も夫となる人にあげようと決めていたという。<br />
婚約指輪のお返しとキスをされる。またせまられると危険を感じる馬部。<br />
話題を替えようと「チェックアウトの時間は大丈夫かな?」と焦りながら言う。<br />
もう。とふくれるが、るい子は缶コーヒーを差し出した。<br />
外で買ってきたものらしい。ホテルの前でデューク浜地に会いサインもらったと言った。<br />
時計を見ると、既に午前10時を指していた。<br />
ロケ隊は出発してしまったんだと気づく。だが、ホテル代は持っていない。<br />
るい子は先に済ませたと言う。会計は妻の務めですからと、すっかり夫婦きどりだ。絶句する馬部。<br />
フロントで、鍵を返したとき、ジイさんが「あんたまだいたのか」とロケ隊について行ったと思ってたと言われ、<br />
るい子に正体がばれそうで焦るが、有名人のサインをもらおうと思っていただけと濁した。<br />
ホテルを出ると、るい子から帽子と黒ぶちめがねを変装用に受け取った。<br /><br /><a name="a407"></a></dd>
<dt><a>407</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:29ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>三次はどこにいるんだろうかとるい子に聞くが、そんなのどうでもいいわと返される。<br />
二人で白峰も手の届かないところへ愛の逃避行をしようと言っているのだ。<br />
それはまずい。なんとか逃げ出すんだと考える馬部。<br />
まだこの近くにロケ隊が居ると感じ、「ご飯を食べよう」と言い出す。<br />
食べ終わり店を出ると、服を買いに行こうと衣類店を数店回る。<br />
実は、服を探している間にロケ隊が発見できないかと見るためだったのだが、見つからない。<br />
るい子は「私にあてがあるの。来て」と言い、強引に引っ張って行かれた。<br />
そこはラブホテル街。<br />
彼女は強引にも店を決め、中へと引っ張り込んだ。<br />
「ああッ、でもォーッ!」<br />
馬部の悲鳴が秋の空に響いた。<br />
その入り口で、みちるが様子を見ていた・・・。<br /><br />
20分ほどで、手を出すことなんてできないと服を整えながらホテルから飛び出し<br />
「許してくれェ!」一目散に逃げた。<br />
「イテ!」「アイタッ!」<br />
闇雲に走っていた馬部は、出会い頭に大柄な男とぶつかった。<br />
「スイマセン!」馬部は男の顔も見ずに叫ぶとそのまま走り抜けた。<br /><br />
ハンズの前まで逃げて、ようやく立ち止まった。振り返るとるい子はいない。<br />
ほっと息をつく。だが、一人残してきてしまった。怒っているのではと悩む。<br />
そのとき、「牛尾さん」と女の声がした。反射で謝り、のけぞってあとずさる。<br />
どうかなさいました?と問う女。自分は見覚えがないが、やっぱり自分を牛尾政美と間違えている。<br />
「ごめんなさい。お待たせして。私の彼、まだ来てないんです」という。<br />
「そう」ととりあえず話をあわせておく。<br />
女は突然「警察に行ってありのままを話してみたらどうでしょう」というのだ。<br />
なぜ宝石強盗のことを知っているのかと混乱していると、中年男が割り込んだ。<br />
女の顔がこわばる。馬部も知らない男だ。<br />
男は「撮影中にいいんですか?こんなところまで来ちゃって。」<br />
中年男は馬部を知っているようだが、馬部はやはりこの男を知らない。<br />
撮影ってなに?と混乱する女に、似すぎてますよね。と言いながら、<br />
男は馬部に近づくと、すばやく目じりの傷跡を少しこすり、メイクの傷が少しめくれた。<br />
中年男の表情が和らぐ。と同時に女の目が大きく見開いた。<br />
知り合いですかと改めて問う男。<br />
女はあわてて「違います。今偶然会った。だから刑事さんに…」と話す。「刑事!?」<br />
刑事と聞き、どうすればいいのか分からず、ダッシュで逃げ出した。<br />
一刻も早く、ロケ隊に合流したい!<br /><br /><a name="a408"></a></dd>
<dt><a>408</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:30ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>あてもなく走り続けた馬部は、足がもつれて倒れてしまった。<br />
ごろんと仰向けになった。そのとき、どこかで聞き覚えのある音に、起き上がった。<br />
100メートル離れたあたりに、人だかりができている。レフ板が見えた。<br />
「ああッ、ロケ隊だ!」歓喜の表情で馬部は走り出した。<br />
シーン67!・・・と言っている。ADサギ山が「ウマさんどこ行ってたんですか!」というが、<br />
馬部は熱いものが込み上げてくる。僕の名前をもう一度呼んでと嬉しそうに言う。<br />
「ウマさん待ちなんですから急いでくださいよ」と愚痴る。<br />
自分はウマさん。ウシじゃない!<br />
「ウマさんのおかげでこっちはタコ呼ばわりですよ。」というサギ山。<br />
帰ってきた!強い喜び。それに役も降ろされていない。涙をこらえた。<br />
みちるが無言のまま馬部の肩を抱き、態勢を作る。感無量で見つめると、冷たくされた。<br />
今ではそんな態度も掛け声もカメラやマイクさえも懐かしい。<br />
そして本番が始まった。<br />
その演技はいきなり上手くなったと評価を得る。<br />
今の馬部の気持ちがそのまま出せるシーンだったからだが。<br />
カット後、みちるが後で話したいことがあるという。素直にうんと言った。<br />
やっぱり現場はいいなぁと、感無量だ。<br />
組長が刑事に追いかけられるシーンの撮影に入った。<br />
刑事役はデュークだ。<br />
電車の動きに合わせて走るため、サギ山に無線機を持たせ、スタンバイする。<br />
本番で走り、感情のある良いシーンが取れたとカットが出る。<br />
しかし、カメラの死角に入ったところで、デュークがギャっと悲鳴を上げた。<br />
振り返ると小指に包帯を巻いた大松と路上でノビているデュークがいた。<br />
大松は、三次を見かけたという報告が入ったから急ごう。乗ってくださいという。<br />
また命がけの芝居が始まり、泣きたくなった。<br /><br />
「刑事に追われているところを見て、警察に垂れ込んだのは嘘だと分かった」と、<br />
ドラマを本物だと信じていた。<br />
馬部も「見つけたらただじゃおかねぇ」と精一杯の芝居をした。<br />
昨日からすぐに三次を探さないのは何故だ問われ、まずい状況になると感じた馬部は、<br />
一日目のホテルで、三次が宝石を売るという話をしていたと話す。<br />
エンコ落とされたカタはきっちり付けてやる。兄貴の協力はなんでもする。と言い出す。<br />
組の中には山吹が組を仕切る親になるのはたまらんと思ってる奴が多いから、兄貴が戻って<br />
くれるのを待ってるんだと言われ、妙な具合になりながらも、<br />
二人は見かけたという現場へと向かった。<br /><br />
到着すると、大松に裏口へ行って、三次が出てきたところを挟みうちにしようと提案。<br />
大松は素直に従い、裏口へ。だが、その隙に逃げようと、車に乗り込む馬部。<br />
エンジンをかけたそのとき、一番会いたくない人物「三次」が目の前に立ちふさがった。<br />
やばい。殺される・・・。<br />
三次はすばやく車に乗り込み、付き合って欲しいところがあるという。<br />
仕方なく従い、車を出す。<br />
故買屋が、相棒と一緒に来いといっているのだという三次。<br />
関係ないだろうと答えると、脇腹に銃を突きつけられ、逃げられなくなった。<br /><br /><a name="a409"></a></dd>
<dt><a>409</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:32ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>そこは建設中のビル。奥から鼻に大きな絆創膏をつけたハゲの男が出てきた。<br />
「その節はどうも」とガムをくちゃくちゃさせながら言うが、何のことかわからない。<br />
三次は顔色を変え「何で知ってるんだ!」というと、脇からもう一人の男が出てきた。<br />
顔の左半分が腫れ上がり、左目はほとんどふさがっている。<br />
鼻の折れたハゲは、「もう一人は病院にいる」というが、馬部はさっぱりだ。<br />
つくづく牛尾が恨めしい。<br />
彼らは故買屋ではなかったのだ。<br />
銃口を向けられ、三次は「俺を殺したら宝石のありかは教えない」というが、<br />
そんなケチな話はどうでもいいと一蹴される。<br />
ハゲ男は白峰組のチャカで二人を殺し、揉め事の末の相打ちって事にすると言い出す。<br />
まずはお前からだと、銃口を馬部の鼻先に向けられた。<br />
そのとき、ハゲ男の後ろで影が動いた。<br />
「動くな」とハゲの喉元へドスを突きつけていた。ハゲ男は銃を落とした。<br />
「そっちの貴様もだ。チャカを牛尾の兄貴に渡せ」とすごみ、馬部は銃を受け取る。<br />
その隙に、三次は銃を拾い上げ、「やっぱり白峰組と組んでやがったな!」と言い残し、<br />
猛ダッシュで逃げた。<br />
「オイてめぇらどこのもんだ」と大松はハゲ男と顔を腫らした男に問うが返答はない。<br />
「じゃあ組に帰って口割らすか。おお?」とすごむが、「あんたらはもう狙われている」と答えた。<br />
馬部は牛尾になりきることが必要だと思い、<br />
「そうか。上等だ、今度は鼻折るぐらいじゃ済ませねぇぞ」とハゲの鼻の絆創膏を剥ぎ、鼻をつかんだ。<br />
「ぎゃぁぁぁ!」悲鳴をあげるハゲ男。<br />
馬部は続けた。「俺の怖さは十分知っているだろう。死にたくても死ねねぇ状態にしてやる」と、<br />
今度はドスを握り、「まずはこの鼻からだ」とドスを鼻に当てた。<br />
「平らな顔にしてやるぜ!」ドスを握る手に力を込める。<br />
焦ったハゲ男は「ま、待ってくれ!わかった、話す・・・全部カラクリを言う!」と自白を始めた。<br /><br />
馬部は白峰邸へ行くという連絡を入れ、向かった。<br />
ずっと「牛尾」になりきったままだ。不思議な力が湧いてくる。<br />
これからやることは、三流役者「馬部甚太郎」の一世一代の大芝居であった。<br /><br />
馬部は単身その門をくぐった。<br />
中庭には山吹の息のかかった者達が集まっていた。毅然とした態度のまま中へ進む。<br />
山吹も前へ進み出て、馬部と対峙した。<br />
わざわざ殺されに戻ってくるとはと言う山吹に<br />
馬部は「何を焦っている。俺が戻ってくるとは思わなかっただろう」という。<br />
山吹のシナリオでは、三次と牛尾(馬部だが)は死んでるはずだった。<br />
しくじったのは、山吹の方だった。「逃げなきゃいけないのはお前の方だ」という馬部。<br />
殺せ!と命じる山吹に従い、組員は一斉にドスを抜く。<br />
「ガタガタ騒ぐんじゃねぇ!」馬部は一喝した。<br />
何事だと言う声とともに、白峰が現れた。<br />
約束のものは持ってきたんだろうなと言う白峰。<br />
「そのことについてお話があります。全ては罠でした」という馬部。<br />
聞く必要はは無い。早く始末してくれという山吹に、言葉が終わるが早いか、<br />
「黙ってろ、タコ!」馬部は山吹を黙らせるに十分の演技をした。<br />
カラクリを話し出す馬部。<br />
故買屋は関西のヤクザで、そいつに指示を出したのが山吹だった。<br />
指示の内容は、関西のヤクザに三次を殺させ、チャカを取り返し、<br />
それを手柄に、お嬢さんと結婚を強く要求するつもりだった。<br />
拳銃の線で捜査が組に及べば、組長が捕まる。<br />
そうなったら、組を二つに割り、関東進出を目論むヤクザと手を組んで、<br />
組を牛耳るという手筈だったのだ。<br />
それを話し終えると、もういいぞと外へ声をかける。<br />
大松がハゲ男を連れて入ってきた。山吹の顔色が変った。<br />
「欲出したのは失敗だったな、山吹・・・覚悟しな、今度はおめぇが逃げ回る番だ!」<br />
今馬部甚太郎は、完全に「牛尾政美」だった。<br />
急に逃げ出す山吹に、白峰の目配せで何人かがその後を追った。<br />
馬部は言った。「組長。ただ今お聞かせした通りです」と。<br />
すると、白峰は「わかった。では急げよ。今日中だ」と三次を捕まえてくるよう言う。<br />
山吹の魂胆がばれたところで、状況は変わりないのだ。<br />
再び馬部はあてもなく彷徨った。<br /><br /><a name="a410"></a></dd>
<dt><a>410</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:34ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>いつになったら身の危険がなくなるのか・・・。<br />
そう考えたとき、ふと思いつく。<br />
「ロケ隊へ帰ればいいんだよ!」と。<br />
そしてロケ隊を探すことにした。<br /><br />
出会いは、意外とあっさりやってきた。<br />
「牛・・・!」<br />
「馬・・・!」<br />
馬部は来た方向を慌てて走り出し、逃げた。<br />
牛尾政美が後を追ってくる。<br />
馬部は牛尾にタックルされた。<br />
混乱する馬部に「知ってること全部教えてくれ!」と言う牛尾。<br />
馬部は牛尾に支えられ、起き上がった。<br />
話のできるところ行こうやと言われ、移動した。<br /><br />
馬部は牛尾に全てを話し、その間、牛尾がどうしていたのかも聞いた。<br />
「そうか、山吹がなぁ・・・」と呟く牛尾。<br />
「あなたさえ警察に出頭してくれたら万事解決するんです」と馬部。<br />
だが、牛尾は「甘いな」と返し、理由を告げた。<br />
馬部は、組の内情とチャカを使ったことなど、知りすぎてしまった。<br />
牛尾が出頭しても、牛尾政美に成りすましていた男がいたということはいずれバレる。<br />
組は馬部の口を塞ぐだろうと話され、不安になる馬部。<br />
牛尾は言った。「助かりたかったら、三次を捕まえて全てを自白させたうえ、チャカのことは黙らせることだ」<br />
無理だ!と思った。<br />
そのとき牛尾の携帯電話が鳴った。<br />
二言三言言葉を交わすと、電話を切る。<br />
・・・やるしかねぇ。考えるんだ。牛と馬で。<br /><br /><a name="a411"></a></dd>
<dt><a>411</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:35ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>ロケ隊を遠くから眺める二人。<br />
「・・・ヨシ。それしかねぇ。」何かの相談が固まったようだ。<br />
しかし、馬部はまだ心配している。<br />
どう考えても人手が足りないからだ。<br />
しかし、サギ山は仕事を辞めたがっていた事を思い出し、<br />
手伝わそうと決め、早速行こうと話したそのときだった。<br />
突然牛尾はタックルされた。<br />
「抵抗するな!」というタックルした男。<br />
「鯨井・・・!?」牛尾はタックルした男の名を呼んだ。<br />
男は昼間、ハンズの前で会った刑事だった。<br />
「よくも騙してくれたな!宝石はどこにある」と押さえ込みながら揉めていた。<br />
後からみちるも来る。刑事を連れてきたのはみちるだったのだ。<br />
大丈夫?ウマちゃん。と心配してくれるが、今は牛尾が気になる。<br />
鯨井は牛尾の腕をさらに絞り上げ、共犯者はどこだと問い詰める。<br />
だが、牛尾は俺は共犯者じゃねぇんだ!と抵抗。<br />
危うく強盗犯を匿って逃亡の手伝いをするところだったと言いながら、馬部を立たせる。<br />
あの・・・と間に割り込むみちる。鯨井は答えた。<br />
「いや、みちるさんのお手柄でしたよ。よく見破ってくれました」と。<br />
詳しい話は署で聞こうかと言ったとき、牛尾は叫んだ。<br />
「まだクランクアップしてねぇんだよ!何も終わっちゃいねぇ!こんなところで降ろされるわけにはいかねぇんだよ!」<br />
「!・・・」馬部もまた同じ気持ちでいたのだ。<br />
鯨井は「まだ役者気取りでいるのか。寝言は署で聞いてやる」と言う。<br />
しかしみちるは「お願いです。うまちゃんの好きにさせてあげてください」というが、<br />
鯨井は、顔の傷をこすり、背中の刺青を見せ、こいつは牛尾だと証明する。<br />
だが、彼は今までずっと演じてきた、立派な役者だから、最後までやらせてくださいと<br />
みちるは鯨井に頼んだ。<br />
そうだ。まだ終わってないんだ!と思った馬部は、鯨井にタックルし<br />
「逃げろ!牛尾さん!」<br />
抵抗する鯨井刑事。だが、馬部は必死にしがみついている。<br />
そうよ!早く逃げて!とみちるも鯨井にしがみついた。<br />
「すまねぇ・・・!」<br />
牛尾は馬のように駆けだした。<br />
放せ!と抵抗する鯨井に、コレにはわけがあるんです!と頼み込んだ。<br /><br />
既に日は傾いていた。<br />
公園の階段にポツンと座るサギ山の前に馬部とみちるが立った。<br />
本当にもう、こんな仕事ヤメよう。そうつぶやくサギ山。<br />
「止めないけど、ちょっと力貸して欲しいんだけどな」と言う二人。<br />
は?と突飛なことに驚くサギ山。<br />
スタッフに内緒で、ある人に芝居を見せたいという。<br />
誰に見せるんですか?と疑問を持つサギ山に、馬部はいう。<br />
「実は兄に芝居を見せたいんだ。兄は今日ブラジルに移住する。<br />
あと3時間もすれば、日本を発つ。でも空き時間になって、撮影を見せられないだろ。」<br />
自分でも驚くほどスムーズにでまかせが出てくる。<br />
「だから特別に別のところで見せ場の芝居をやって、それを兄貴に見てもらおうってわけ」<br />
馬部のでまかせに納得したサギ山。小道具を担当して欲しいと言われどのシーンかと訊くが、<br />
説明は後と言い、みちるが一枚の紙を渡した。<br />
だが、コレだけのものを勝手に持ち出すと怒られるというサギ山に、<br />
「もう辞めるんでしょ。じゃあやめる前にパッと遊ぼうよ。それで鬼チーフからもバイバイだ」というと、<br />
サギ山は快く了承した。<br /><br />
サギ山は何とか用意が終わり、注文どおりの品を用意して戻ってきた。<br />
「これからどうするんですか?」と訊くサギ山に、<br />
「君は最後に登場する予定だから、ここに入ってて欲しい」と車のトランクへサギ山を押し込んだ。<br /><br /><a name="a412"></a></dd>
<dt><a>412</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:36ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>雨が降り出した。<br />
パトカーの運転席には、付け髭をした馬部。<br />
助手席に、メガネの制服警官が乗っていた。<br />
馬部の車は、その場を逃げ出そうとしていた三次の行く手をさえぎって止まった。<br />
馬部は制服警官と共に車を降り、拳銃を構えた。<br />
「動くな!抵抗すると射つ!」<br />
周りには、腕から血を流した牛尾と胸を射たれて倒れている鯨井が居た。<br />
「射つな!射つなよ!」と三次は両手を上げ、地面に膝をつく。<br />
制服警官は、雨に打たれている鯨井の元へ走り、脈を取る。<br />
「ウソだろ・・・」と三次も唾を飲んで見守った。そして警官は首を横に振った。<br />
雷があたりを白くする。<br />
「強盗容疑、及び殺人の現行犯で逮捕する」と馬部は手錠を三次の手首へかけた。<br />
牛尾も警官に取り押さえられている。<br />
「ちがう。おれは射たなかった。殺してないし、殺す気も無かった。」と主張する三次。<br />
「往生際が悪いぞ相棒・・・一緒に射ったんだ。命中したのはお前の弾だろ」<br />
と苦痛に顔を歪ませながら牛尾は言った。チャカなんかもってねぇ!と両手を広げる三次。<br />
「貴様らがグルになって強盗したのはわかってる。目撃者もいる。今から念仏でも唱えておけ。」<br />
馬部は冷たく言い放つ。<br />
すると三次は言ったのだ。<br />
「待ってくれ!あいつは俺の相棒なんかじゃねぇ!確かに宝石強盗をしたのは俺だ。<br />
だが俺一人でやったことで、あいつは何も関係ねぇんだ。仲間でもなんでもない!<br />
今だって本当にあいつが一人で殺したんだ!」<br />
馬部は「牛尾とグルだったんじゃないのか!」と言い放つと、<br />
「ちがう!あいつは客だったんだ、共犯なんかじゃねぇ。宝石強盗は俺一人でやったことだし、<br />
警官殺しはあいつ一人がやったことだ!嘘じゃねぇ!」三次は必死に訴えた。<br />
「・・・そうか。なるほどな。」<br />
死んでいたはずの鯨井刑事がむっくり起き上がった。<br />
「生きてる・・・?」混乱する三次に<br />
「銃持ってる奴を捕まえに来るのに防弾チョッキ着ない馬鹿がいるか」という。<br />
署まで楽しいドライブだと言い、三次の横に立つ。<br />
牛尾は捕まえねぇとかと問う三次に、鯨井はパトカーは狭いんでね。とごまかす。<br />
後は君達に頼むと馬部に告げた。馬部は「はい!」と答えると、来い!と三次を引っ張る。<br />
観念した三次はおとなしく連行されていく。<br />
覆面パトカーに三次を放り込んだ鯨井は、こちらを振り返って気持ちのいい笑顔を見せた。<br />
鯨井の運転する覆面パトカーは、うなりを上げて走り去った。<br /><br />
「ハイ・・・カット!OK!」警官の帽子とメガネを外すと、みちるは叫んだ。<br />
「やりましたね。まんまと引っかかった」と馬部も帽子と付け髭をはずした。<br />
今まで腕を押さえて辛そうだった牛尾もようやく笑顔を取り戻し、<br />
「こうなると、紛れ込んだのがロケ隊でよかった。宝石も拳銃も火薬も血のりまであるしな」<br />
不安だった出演者も最高の演技だった。鯨井までよくやってくれたと談笑する。<br />
そして着替えを済ませると、みちるはサギ山をトランクから出した。<br />
終わったとサギ山に伝えると、僕何もしてませんけどと返してきたので、<br />
「お前がいてくれたから、助かった。」と牛尾はサギ山の手を握った。<br />
こいつを小道具に礼を言って返しておいてくれ。また叱られるかもしれねぇがと、<br />
アクセサリーの入ったケースと拳銃を渡した。<br />
「どうせ辞めるんでかまいませんけど、最後にウマさんたちのお役にたてたなら良かったです」<br />
サギ山の言葉に、「馬はこっちだよ」と馬部が言った。<br />
牛尾と馬部が並んで立っている。混乱するサギ山に、二人は笑った。<br />
「双子だったんですか!」と納得するサギ山。<br />
そこへロケバスが到着した。<br /><br /><a name="a413"></a></dd>
<dt><a>413</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 馬部甚太郎編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:37ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>ドアが開き、ものすごい形相をしているくま野が降り立った。<br />
小道具に嘘ついて一体なにしてやがったんだ!と怒鳴ると、辞めてやるんだ!知ったことか!と返す。<br />
すると、くま野は「そうはいかねぇ。てめぇは俺の下でたっぷりかわいがってやる」と、<br />
サギ山の耳をつかんでバスへと乗せた。「イテテ・・・チキショウ!今に辞めてやる!」<br />
牛尾は馬部に、大事な品だからなと、るい子からもらった金のネックレスを返した。<br />
止めて下さいよ。それ考えるとまた憂鬱になる。という馬部。<br />
せいぜい頑張るんだなと、牛尾とみちるは明るく笑った。<br />
ロケバスの入り口で、くま野がこれからラストシーンだろう!と呼んだ。<br />
しっかりね!とみちるは馬部の背中をおした。<br />
そうだ、自分には帰る場所があったんだ!と、馬部は牛尾に小さく頷き、喜び勇んでバスへ駈けて行った。<br /><br />
最後のシーンが始まった。<br />
馬部の演技が始まった・・・。<br />
カットがかかると、ホッとした様子で戻ってくる馬部。<br />
スタッフから拍手が起こり、「なんかウマちゃん急にうまくなったよなぁ!<br />
なんか役者としてひと皮むけたって感じだよ」などと褒められる。<br />
サギ山が「ありがとうございました。また機会があったらよろしくお願いします。」という。<br />
馬部も「お互い頑張ろうな」と励ましあった。<br /><br />
ようやく傷跡メイクを落とし、ヤクザ風衣装も脱いだ。<br />
馬部は体が軽くなったような気分でロケバスの外に出て思いっきり伸びをした。<br />
「これで本物の役者になれる気がする!」と足取りも軽く歩き出した。<br />
が、そのとき・・・。<br />
「待ってたわ」<br />
と後ろから声をかけられてギクリと立ち止まった。<br />
馬部はゆっくりと振り向いた。<br />
そこにはるい子と白峰がいた。周りには若い衆もいる。<br />
違うんだという馬部に、<br />
分かってるわ馬部甚太郎さんというるい子の声はしっとりとしていた。<br />
助けを求めて周りを見るがもうロケ隊はどこかへ行ってしまっていた。<br />
「安心しろ。あの取り決めは牛尾政美がしたもので、あんたとじゃない。なにもしない。」<br />
と白峰。とりあえずホッとする馬部。が、何の用だろうと考えている。<br />
白峰は言った。「別の頼みがあるんだが」と。<br />
僕に?と言うと、白峰は「あんた、本当にるい子と結婚しないか?」というのだ。<br />
「ええええーーー?!?!」目を見張る馬部。<br />
どうやら牛尾よりあんたを気に入ってしまったらしくてねと言う白峰。<br />
るい子は頬を赤らめ、馬部に抱きつき「今度こそもう離れません!」と言い出すのだ。<br />
混乱する馬部に、白峰は言った。<br />
「ウチで見せたあの度胸なら、この世界でもやっていける。跡目を継いでくれ」<br /><br />
馬部はめまいがして倒れそうになった。<br /><br /><br />
悪夢はまだまだ終わらない・・・。<br /><br /><br />
「The Wrong Man 馬」完<br /><br /><a name="a414"></a></dd>
<dt><a>414</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:38ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>牛尾政美「The Wrong Man 牛」グッドエンド<br /><br />
― 一日目(10月11日水曜日) ―<br /><br />
プロポーズだ。<br />
高峰綾にプロポーズする。<br />
それが今日の大問題だった。<br /><br />
牛尾政美は半年前にヤクザを辞めた。もう幹部でも組長候補でもない。<br />
今、牛尾は単身殴りこみに行ったときと同じくらい緊張している。<br />
だが、ターゲットはヤクザではなく宝石店で働く高峰綾だ。<br />
ドスも拳銃もいらない。言葉を唯一の武器にするのだ。<br />
信号が変り、力強く歩き出す。<br />
作戦は、既に練ってある。<br />
彼女にお気に入りの宝石を選ばせて買い、結婚してくれと言う。<br />
無粋な自分でもなかなかいいぞと思っていた。<br />
手ぶらで行くと行きづらいので、花を買い、店へ向かった。<br /><br />
ガチガチに固まりながら、店へ入る。<br />
奥のショーケースの前ではカップルがいちゃついている。綾はその相手をしていた。<br />
入ってきた牛尾にいらっしゃいませと挨拶するが、自分だとは気づいていない。<br />
牛尾は綾の顔に見とれた。落ち着いた服だが、綾の華やかさと清潔感を引き立てている。<br />
思わずにやけそうになり、あわてて花で顔をかくす。<br />
店長の柿沼がやってきたが、降ろした花で顔が露になると、柿沼は後ずさり、<br />
牛尾の相手をするように綾に言った。<br />
綾はカップルに会釈し、こちらへ向かってきた。<br />
ちょうど入ってきた岸という老婆を奥のテーブルへ案内する為、さがった。<br />
先日はありがとうございました。と会話が始まった。<br />
おいで頂けるのをお待ちしてましたと言う言葉に自信を深める牛尾。<br />
婚約しているのかとカップルを横目で見ながら話すと、まだだという。<br />
花を綾に渡すと、<br />
「私にですか?嬉しい。こんな立派なお花。ありがとうございます。」という。<br />
宝石を選ぶため、ショーケースへ近づいた。<br />
後ろでは老婆が指輪の修理の見積もりを見て文句を言い、さわいでいた。<br />
どんなものがよろしいですか?と牛尾に問う綾。<br />
あんたが選んでくれと頼む牛尾。<br />
綾が一番似合うものを選んでくれと言い、綾は選び出した。<br />
プラチナチェーンのダイヤモンドネックレスと、ルビーのファッションリングだった。<br /><br />
そのとき、バラの花束を持った四十代後半といった感じの男が店に入って来た。<br />
すぐ戻りますからと、綾は男の方へと向かう。<br />
牛尾は夢中で宝石を見ている。<br />
後ろでは男と綾が、さっき牛尾に言った言葉を中年紳士に言っているが牛尾の耳には届かない。<br />
牛尾はふと振り向くと、中年紳士が綾に花束を渡している。<br />
ルビーのリングを持ったまま肩を怒らせて一歩出た。<br />
綾を呼び、もういっぺんあんたに似合うか見たいんだと、中年紳士を睨みながら言った。<br />
「聡明なあなたには、ルビーよりブルーサファイアが良く似合う」と口を挟む男性。<br />
何だぁ?と牛尾は気色ばむと、綾が中年紳士を待たせ、牛尾の所へ戻った。<br />
綾が指輪をつけ、見せているとき、中年紳士がわざと牛尾の視界に入ってきた。<br />
君に分かるのかねという表情だ。怒りをなんとか抑え、どっちもなかなかと綾に言った。<br />
牛尾の結婚の話になるが、「マエがあるから」と、前科の話を持ち出すと、<br />
綾は「マエ」を「前の結婚」と思い、話がすれ違う。<br />
牛尾はもう生まれ変わりましたと言うと、素敵な旦那様になると思いますと言われる。<br />
あんた結婚は?と訊くと、私だってしたいですが、縛られるのが嫌なんですと答える綾。<br />
興奮状態の牛尾は言葉のまま捕らえ、「いきなりでドキッとした。そんなにすごいのか・・・」<br />
と見当違いの答えを出してしまう。<br />
後ろでは、老婆は電話で口論している。<br />
指輪とネックレス、どちらになさいますかと綾に訊かれ、どれをもらうか答える。<br /><br /><a name="a415"></a></dd>
<dt><a>415</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:40ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>カップルと入れ違いにサングラスをかけた男が入店してきた。<br />
男は茶色のバッグを持っている。<br />
真っ直ぐやってくると、いきなりバッグを綾に差し出し、ここへありったけの宝石を詰めろと言い出す。<br />
死にたくなけりゃ早くしろと言い、拳銃を懐から見せる。<br />
脅えて動けない綾。そのとき、銃を発砲する。<br />
そして、牛尾へ「動くな!」と銃口を向けた。<br />
とたんに男の顔色が変った。「兄貴!」<br />
牛尾の元舎弟の狐島三次だった。三次は懐かしげに牛尾の手を握った。<br />
それを見た柿沼が、こいつらグルだ!と叫ぶ。驚いて綾は振り返る。<br />
違うんだと言っても聞いてはくれない。<br />
早く詰めろと言われ、綾は震える手で宝石をバッグに詰めていく。<br />
老婆はまだ電話に夢中だった。<br />
三次は老婆の手に握られていた指輪まで盗ろうとしている。<br />
牛尾はよせ!と三次の腕をつかんだとき、銃は暴発した。<br />
綾は耳を塞ぎ、悲鳴を上げる。弾は中年紳士の横に当たった。<br />
老婆ともみ合いになる三次。<br />
その隙に、綾は警報ベルを鳴らした。<br />
貴様!と銃口を綾へ向ける。牛尾は咄嗟に三次の腕をつかみ、<br />
「止せッ!逃げるんだ!来いッ!」と外へ引っ張った。<br />
牛尾は店を出る間際、振り返った。<br />
綾が信じられないという表情で茫然と見ていた。<br />
柿沼は床にへたりこんでいる。中年紳士の足元には、水溜りができていた。<br />
警察を呼んどくれ!二人組の強盗だよ!老婆の叫び声がかすかに聞こえた。<br /><br />
三次は逃げ道を示した。が、キツネの三次の異名を取るほどの逃げ足には付いていけず、<br />
見失ってしまった。<br />
しばらく右往左往していたが、ようやく前方に見えてきた公園へと向かった。<br />
そっと奥へと進み、池に突き出した休憩所のベンチで崩れるように腰掛た。<br />
プロポーズに行くはずが、強盗にされてしまった。だが、バッグは三次が持っていると、<br />
独り言を言ったが、その手には指輪とネックレスが握られていた。<br />
しまった。誤解じゃ済まない。そう思っていると、いきなり丸めた冊子で頭を叩かれた。<br />
見覚えのない男女二人だった。だが、警察官ではなさそうだ。威嚇するように睨み付ける。<br />
が、手に持っていた指輪とネックレスを、女が「勝手に持っていって」と取り上げられた。<br />
こら!返せ!というが、ヤクザは宝石なんていらないと返してくれない。<br />
しばらく女と揉めていると「クマ野さーん」と男に助けを求める。<br />
男は「マリ子を困らせるなよ。行くぞ」と言い、牛尾の腕をつかんで歩き出す。<br />
「放せ!この野郎。殺されてぇか」と牛尾は振り切るが、クマ野はひるまない。<br />
上等だ。半殺しにしてやると言う。<br />
男に連れられるまま、池の反対側へと向かった。<br /><br /><a name="a416"></a></dd>
<dt><a>416</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:41ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>そこには制服警官が待ち構えていた。信じられないほど迅速な捜査体制だ。<br />
絶望的な気持ちになって立ちすくんでいると、強い光が当てられた。<br />
見ると、テレビカメラまである。マスコミまで来ている。<br />
クマ野は「今度こそちゃんと死んでもらうからな」と不敵に笑った。<br />
牛尾は完全に包囲された。<br />
牛尾の前に、拳銃を持った三人の男達が飛び出した。<br />
「死ね!」「とったぁ!」口々に言う男達。<br />
いきなり射殺か!と思い、もがくように柵を乗り越えた。<br />
そのとき、男達の銃口から火が噴いた。<br />
牛尾は池に倒れた。死を覚悟した牛尾は身を硬くして目を閉じている。<br />
クマ野は小さく「そのままそのまま・・・」とつぶやく。<br />
だが、牛尾は何の痛みもないことに気づき、まだ逃げられると、池の小島へ走り出した。<br />
カットがかかってないのに立つ奴があるか!と罵声が飛ぶ。<br />
サギ山、早くバスタオル持ってこい!という声に牛尾は振り返ると、<br />
自分を包囲した人間達がみな笑みを浮かべている。唖然となった。<br />
クマ野が近づき、「ウマちゃん最高。毎回ああいうリアルな芝居してくれりゃいいんだよ」<br />
という。芝居と聞いて、改めて周りを見ると、老若男女問わず、迫力ある顔は一人もいない。<br />
ようやく気づいた。「撮影か。ふざけやがって」途端に力が抜けた。<br />
何故自分が?と考えていると、ADサギ山に引っ張り上げられ、バスタオルをかけられる。<br />
クマ野が、「おウマさん、次のカット終わったらすぐ移動だから着替えて」と言う。<br />
馬だ馬だと言われ、腹が立ち言い返すが、クマ野は気にも止めない。<br />
殴りかかろうとしたとき、後ろからスーツを引っ張られた。<br />
振り向くと、30代後半だろうか。小柄な女性が呆れ顔で立っていた。<br />
どこかで見覚えがあるが思い出せない。<br />
女は、バスに着替えがあるから早く行ってきなさいよと促され、<br />
バスの場所をきくと、「やるときはやるじゃない」と嬉しそうに去っていった。<br />
牛尾は何のことかわからなかったが、服を着替えにバスへ向かった。<br /><br />
女の言っていたバスには誰もいない。牛尾の着ているものと同じような服がかかっていた。<br />
服を脱ぎ、体を拭いていると、サギ山がバスに入ってきて動きが止まった。<br />
牛尾の背中には、牛頭天王の刺青があったのだ。<br />
見られたと思った牛尾はシャツを引っ掛ける。<br />
だが、サギ山は、役作りだと勘違いし、感動する。恥ずかしかったら誰にも言わないと言い、<br />
無線を箱から取り出すと、出て行った。<br />
着替え終わった牛尾は、マリ子と呼ばれていた女に宝石を取られていたことを思い出し、<br />
取り返すため撮影現場へと向かった。<br />
マリ子とさっき見覚えがあると思った女が居た。<br />
イヤリングを取り出しているマリ子。その箱だと思い、隙を見てアクセサリーの箱ごと持って離れた。<br /><br />
公園の脇の道で、東北訛りのある警官が声をかけてきた。<br />
牛尾はぎょっとしたが、またエキストラだと思った。<br />
相手してる暇はないと思い、立ち去ろうとした。だが、待ちなさいと言われ、カチンと来た牛尾。<br />
「うるせぇぞ!素人が!」というと、警官の目が鋭くなった。<br />
これは本物だと気づいた牛尾。撮影許可書持ってるのかといわれ、わけが分からなかった。<br />
ここで撮影しているんだろうという警官に知らないと答えると、牛尾の持っていた箱に気づく警官。<br />
ロケ隊の人でないなら、その箱はなんだ。中を見せろと要求される。牛尾は観念した。<br />
そのとき、サギ山が来て「ウマさん、移動です。早くバス乗って下さい」と声をかけてきた。<br />
警官はサギ山に、コイツはロケの人かと問うと、そうだと答えた。<br />
箱はと問うと、牛尾が持っていってたんですね!マリ子さんが怒ってますと言った。<br />
撮影の人なら初めからそう言えと言い、警官は去った。牛尾も黙ってバスに乗るしかなかった。<br /><br /><a name="a417"></a></dd>
<dt><a>417</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:43ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>バスに乗ると、見覚えのある女が、「ウマちゃん、私窓際にしてよ」と言って、隣に座った。<br />
全員乗ったことを確認され、ロケバスは動き出した。<br />
なんでさっき警官に捕まってたのかと問うサギ山。<br />
本物のヤクザに間違われるくらい貫禄がないといけない。とクマ野。<br />
口々に馬鹿にした言葉を言い出す。<br />
カチンと来た牛尾は「俺はウマじゃねぇ!ウシだ」と叫んだ。<br />
車内はシーンとなった。<br />
わけの分からないこと言ってないで、マリ子にアクセサリーのこと謝れといわれる。<br />
マリ子は椎名さんに謝って下さいというと、牛尾の隣に座った女が「私ならいいのよ」と言った。<br />
椎名?と悩む牛尾。そして気づいた。<br />
主役をすることはないが、脇を固める中堅の女優、椎名みちるであることを。<br />
まじまじとみちるを眺める。みんなに気づかれるじゃないというみちる。<br />
「あんたのこと、いつも見てるよ」という牛尾。誤解したみちるは「ヤダ・・」と照れる。<br />
みちるは台本に何か書き、それを牛尾に見せた。<br />
そこには「今夜話があるの」と赤ペンで書かれていたが、それよりも<br />
台本に印刷されていた名前の方が気になった。<br />
「岩松組組長・・・馬部甚太郎」<br />
わかったぞ畜生!とうなると、みちるはどうしたの?と言う。<br />
「だから、俺が組長で、ウマちゃんなんだな」と言うと、「当たり前でしょ!」と答えられた。<br />
バスは次のロケ現場へと到着した。<br />
次は角のコンビニで撮影である。<br />
だが、牛尾は出番がないので、休憩となる。<br />
撮影のため、無線機持って行けといわれるサギ山。<br />
だが、公園に忘れたと言うと、取って来いと言われ、バスから蹴り出される。<br />
「ちくしょう。辞めてやる」と呻き、サギ山は行ってしまった。<br />
再びバスは空になり、牛尾一人が残された。<br />
逃げようと決め、マリ子のアクセサリーボックスから、自分の物を探し、<br />
ポケットに入れ、バスを降りた。<br />
スタッフ達は、次の準備をしているが、牛尾を気に止めない。<br />
とりあえず渋谷駅の方へ向かった。<br /><br />
警官の姿もなく、街の人たち牛尾を注目しない。<br />
牛尾は宝石店へ戻ったときの言い訳を呟いてみる。<br />
色々考えるが、脅えた高峰綾の顔が目に浮かぶ。<br />
代金を払い損なったことにしようと思い、歩き出すが、財布がないことに気づく。<br />
財布は濡れた上着の中だった。買えない。<br />
見上げたオーロラビジョンには、臨時ニュースが流れていた。<br />
「本日午前11時ごろ、渋谷の宝石店を二人組の男が襲撃。宝石を強奪して現在逃走中。」<br />
完全に仲間だと思われている。<br />
牛尾は決めた。「組長でもウマちゃんでも何でもなってやる」とロケ現場へ向かった。<br />
本物はどこにいるんだ?と疑問を持ちながら。<br /><br /><a name="a418"></a></dd>
<dt><a>418</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:44ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>戻ると、すぐに撮影が始まった。<br />
今度は刑事に追いかけられる役だ。角を曲がるまで駆け抜けろというのだ。<br />
牛尾は、俺がやるのか?とサギ山に聞くと、とっととスタンバイしてください!とそっけない。<br />
機嫌悪いなと言うと、無名の役者に蹴られたという。<br />
蹴ったのはクマ野とかいう助監督だと悩んでいる牛尾。<br />
どうしてこんなに早く戻ってこれたのかと聞くサギ山。<br />
駅まで行くところを見られていたと思った牛尾。適当にごまかす。<br />
ボーッとしているようで、意外と目端が利くのかもしれない。<br />
エキストラと共にスタンバイする。<br />
周りには見物人が集まりだしていた。<br />
テストで何度も走る。ふらふらになりながら本番がスタートしようというとき、<br />
牛尾の視界に一人の男が入った。<br />
男は手帳を見せて、何か訊いていた。デカだ!すぐにピンときた。<br />
いかにも叩き上げと言う感じの男だ。自分の目尻に人差し指をやり、傷跡の仕種をして聞き込んでいる。<br />
自分を探しているのだと緊張が走った。男も顔を上げた。牛尾と目が合う。<br />
そして、牛尾は逃げ出してしまった。男は後を追いかけてきた。<br />
ちょうどそのとき、本番がスタートした。<br />
必死で逃げる牛尾。<br />
カメラから二人が消え、カットがかかった。だが、どこまでも走っていく。<br /><br />
人気のない路地で牛尾は男のタックルを受け、転倒した。<br />
ポケットから宝石が転がった。男は宝石強盗の容疑で逮捕するといった。<br />
牛尾は観念した。男は宝石をハンカチで拾い上げた。<br />
すると、女の声がした。なにしてるのと言う。みちるだった。<br />
その手を放しなさいとみちるは男に言う。エキストラだと思っていた。<br />
しかし、手帳を見せ、「渋谷中央署の鯨井だ」と名乗った。<br />
鯨井は「コイツは宝石強盗だ」というが、みちるは、<br />
「この人は役者です。朝から一緒にロケしてました」と答え、サングラスを外した。<br />
鯨井は大きく目を見開き、椎名みちると気づき、ファンでしたと言った。感激していた。<br />
おれはずっとこのままかと呟く牛尾。<br />
みちるは「この人は馬部甚太郎という役者なんです」と説明した。牛尾も頷いた。<br />
この宝石は?と訊くと、ドラマの道具だという。<br />
失礼しましたと、鯨井は、牛尾に宝石を返した。<br />
鯨井は頬に傷のある男とだけきいていたので、おいかけたのだという。<br />
メイクの腕がいいからとみちるは笑った。<br />
朝からロケですか?という鯨井の問いに、日曜日までやってるからよかったら見に来てと言い出す。<br />
鯨井は喜んで見学するという。牛尾は不安になった。<br />
宝石はみちるが借りていたことにしてあげると、宝石を取り上げられた。<br />
欲しいものはなぜか皆逃げて行くのだった。<br /><br /><a name="a419"></a></dd>
<dt><a>419</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:45ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>夜のシーンの撮影に入った。<br />
牛尾はなんとか「役者」を続けている。<br />
拳銃で撃たれるシーンのテストをしていた。人差し指を相手に指し、バキューンなどと言うのがはずかしい。<br />
なんとかならないかとサギ山に言うと、モデルガンに火薬つめてるからもう少し待ってくださいという。<br />
すると、監督のカバ沢が言った。<br />
「拳銃ナメて組長!」<br />
舐める?と疑問を持つ牛尾。<br />
サギ山にどういうことだと聞くと、そのままの意味じゃないかという。<br />
仕方なくいう通りにした。現場の空気が一瞬固まる。<br />
牛尾はペッと唾を吐き、こんなの旨いもんじゃねぇという。<br />
舐めてどうすんだ!とカバ沢が怒鳴った。<br />
ウマちゃんも疲れてんだから、つまんねぇ冗談やめてくれよなと言う。<br />
牛尾は黙り込んだ。<br /><br />
ロケ現場に鯨井が来ていた。嬉々としてみちるの芝居を眺める。<br />
牛尾は気が気ではない。だが、捜査状況は聞けた。<br />
・犯人はまだ二人とも捕まっていないこと。<br />
・聞き込みでは、二人一緒に逃げてるというのと、ばらばらで逃げてるのとがあること。<br />
・犯人の目星は一人ついていて、それは宝石店の女店員で、証言が曖昧だということ。<br />
女店員は、高峰綾だ。それを気にしつつも、撮影へと戻った。<br />
そして、撮影はどんどんと進み、深夜にまで続いた。<br /><br /><a name="a420"></a></dd>
<dt><a>420</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:46ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>― 二日目(10月12日木曜日) ―<br />
牛尾が出るシーンは切れ間なく続き、撮影は深夜にまで及び、ようやく終了した。<br />
明日も早朝からロケのため、役者にはホテルが用意されていた。<br />
サギ山は、ウマさん荷物忘れてますと、バッグを渡した。<br />
俺のか?と聞くと、相当疲れてますね。ゆっくり休んでくださいと言われた。<br />
お前もなと言うと、サギ山は「今日で辞めるんです」といった。<br />
牛尾はシングルの小さな部屋に入った。バッグを放ってベッドに倒れこむ。<br />
・・・悪夢のような一日だった。<br />
だが、綾の顔が浮かび、警察に調べられていることを思い出す。<br />
ベッドから起き上がり、外へと出た。<br /><br />
牛尾は宝石店が見えるところまで来ていた。<br />
シャッターが閉まっており、警察ももういない。<br />
店の前に立ったが、中は見えない。来てもどうにもならないのはわかっていた。<br />
だが、気になって足が向いてしまった。<br />
「何をしている」背後から声をかけられ、ギクリとする牛尾。<br />
振り返ると、そこにはもっと驚いた顔をした男が立っていた。<br />
「だ、代貸・・・?」男は牛尾の過去の役職を呼んだ。<br />
男は、元牛尾の下にいた、白峰組幹部の山吹だった。<br />
武闘派だった牛尾と対照的な、経済に強く外見もスマートな一流大学出のヤクザだ。<br />
「今日この店で強盗事件があったの知ってますか?」ときかれ、ぎょっとする牛尾。<br />
ニュースで見たからここを通ったとごまかす牛尾。<br />
山吹は、ここを叩いたのは三次で、チャカはうちの若い者から騙し取ったものだという。<br />
二人で逃げてるもう一人は誰なのか・・・と付け加える。<br />
外部者に喋りすぎた。気にしないでくださいというと、牛尾は黙り込んでにらみを効かせる。<br />
すると、山吹は自分は代貸で、お嬢さんと結婚し、跡目を継ぐと言い、山吹は消えた。<br />
白峰組組長には「るい子」という娘がいる。<br />
彼女は牛尾に惚れていて、足を洗った後何度か逢いに来ていた。<br />
牛尾は「奴が跡目とはな・・・俺には関係ない」と呟くとホテルへと戻った。<br /><br /><a name="a421"></a></dd>
<dt><a>421</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:47ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>部屋のドアを開けようとしたとき、中で人の気配がした。<br />
ドアを開けると、そこにはみちるが立っていた。<br />
牛尾の顔の傷を見て、メイクをまだ落としていないのかと問う。<br />
役になりきろうと思ってとごまかす牛尾。<br />
「今夜話があるって言ってたでしょ」ときりかえるみちる。<br />
ロケバスの中で、台本に書き込んだメッセージだ。<br />
みちるはいつまでも待てない!と言う。結婚はいつしてくれるのかと言っているのだ。<br />
突然のことで驚く牛尾。<br />
いい女だが、男の気持ちも考えた方がいい。と言い出す牛尾。<br />
立場が違っても、逆玉の輿もあるというみちるに、<br />
男のメンツが大事だという牛尾。それを聞いて瞳を潤ませるみちる。<br />
そのとき、ノック音とドアの外から声がした。マリ子だ。<br />
みちるは涙を拭きながら、牛尾の背中に回った。<br />
よく見たら、これは私のじゃないと、あの宝石二つを持ってきたのだ。<br />
喜んだ牛尾は「コレがないとプロポーズできねぇんだ!」という。<br />
誰にですか?と聞くマリ子。誰でもいいじゃねぇかとマリ子を外に押し出した。<br />
ホッとドアを閉めると、いきなりみちるは抱きついてきた。<br />
自分にプロポーズするつもりだったんだと誤解したみちる。<br />
宝石を取り上げ、自分で付けてみる。<br />
ウマちゃん大好き!と牛尾をベッドへ倒した。<br />
思いっきりキスをする。さらにキスの雨を降らす。<br />
そしてみちるは牛尾の耳元で囁いた「私を組長の女にして」と。<br />
刺青を忘れていた牛尾は、ハッと飛び起き、ケジメがつかねぇと言った。<br />
みちるも了承し、「明日からはウマちゃんのセリフ、結構あるもんね」と言い、<br />
身なりを整え、宝石はちゃっかりと持って部屋を出て行った。<br />
疲れた・・・とバッタリと横になり目を閉じた。<br />
だが、そのとき、みちるの最後の言葉が気になった。<br />
「明日からはウマちゃんのセリフ、結構あるもんね」<br />
セリフ!?と飛び起き、台本を取り出し組長のセリフを見た。<br />
「こんなに喋るのか・・・」絶望的になった。<br /><br />
その夜、牛尾の部屋から明りが消えることはなかった・・・。<br /><br />
翌朝、集合場所であるロビーへと降りた。<br />
サギ山が朝食のおにぎりとウーロン茶を配っている。<br />
辞めなかったのかと訊くと、ずっと撮影で辞める暇がなかったのだという。<br />
こっちもずっとセリフを全部覚えていたというと、全部覚えたんですか?というサギ山。<br />
全部今日喋るわけじゃないといわれ、そうなのか?という牛尾。<br />
そんな事知らないはずはない。もう騙されませんよ。などと話していると、<br />
サングラスをかけたデューク浜地が現れた。<br />
サギ山はデュークに朝飯ですどうぞと渡すと、コーヒーもってこいとサギ山も見ずにカバ沢の所へ行った<br />
ねぎらいの言葉をカバ沢にかけるデューク。<br />
「上の人間にはいい顔なんだよな」と、渋々コーヒーを買いに出るサギ山。<br />
みちるも集合した。<br />
デュークは、車で一緒に行こうとみちるを誘い、コーヒーを買ってきたサギ山には、<br />
現場に着いたら、ミルクティーとクロワッサンを持って来い。二人分なと言い出す。<br />
立ち去るデュークとみちる。<br />
その背で、サギ山は「チキショウ。辞めてやる」と呟く。<br />
牛尾も「野郎、少し痛い目に合わせたほうがいいな」と呟いた。<br />
冗談ですよね・・・。とサギ山が作り笑いをした。聞こえたらしい。<br /><br /><a name="a422"></a></dd>
<dt><a>422</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:48ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>テストシーン。<br />
デュークと牛尾が互いにパンチを打ち合うシーン。<br />
カットがかかると、デュークは気に入らない様子で、自分の見せ場を派手にして欲しいと言い出す。<br />
サギ山は、「だいぶ痛い目に合わされてますね」と牛尾の衣装を整えに来た。<br />
このシーンの後は、しばらく出番がなかったので、ロケバスの中に居た。<br />
ここが今のところ一番安全だからだ。<br />
スポーツ新聞を読むと、まだ三次が捕まった記述はない。<br />
鯨井が高峰綾を疑っていたことが気になる。あの人は関係ない。自分も無関係なのだが。<br /><br />
次のロケシーンへ来ていた。<br />
メイクさんに、口から血ィ流してもらってくれとクマ野が言う。<br />
メイクだな。と現場から少し離れたロケバスへと向かった。<br />
途中、鯨井が現れ、例の顔に傷のある男がこっちに来てるという情報があったという。<br />
一瞬たじろぐ牛尾。<br />
だが、鯨井は「撮影の馬部さん」と間違えないように言ってあるという。<br />
昨日言ってた怪しい女は?と牛尾は訊くと、午後から事情訊くつもりで呼んでるという。<br />
みちるの居場所を聞くと、嬉しそうに鯨井はみちるの演技を見に行った。<br />
鯨井がいなくなると、牛尾はいきなり両脇を二人の男に抱えられた。<br />
男達は牛尾を黙って路地へと引っ張って行く。<br />
そこにはもう一人背の低いハゲ頭の男がいた。<br />
まだアザのメイクしてねぇぞとハゲ頭はクチャクチャとガムを噛みながら<br />
牛尾を覗き込むように見る。牛尾は場面が違うんじゃねぇか?と思っている。<br />
「殺るかどうかはあんたの返事しだいや」とハゲ頭は関西訛りで話した。<br />
さっきの鯨井と一緒に居たことを言っているようだ。<br />
「知るか。あいつが離れないんだからしょうがねぇ」と答える。<br />
狙いはなんや?と訊いてくる。<br />
「わかってねぇ奴らだな。サギ山呼ぶから待ってろ」と牛尾は言った。<br />
だがハゲ男は続ける。<br />
「あんたに余計な動きされるとな、色々面倒なことになるんや。一応警告しとこ思うてな」<br />
警告ってなんだと思っていると、ハゲ男は鳩尾に強烈なパンチを見舞った。<br />
「オマエは手ェ引け、いうことじゃ!」と顔を蹴り上げ、牛尾は仰向けに転がった。<br />
撮影だと思っている牛尾は、本当に殴るのもありだと思い立ち上がった。<br />
その目つきは変っていた。「こっちもやってやる!勝手に撮れ!」<br />
完全にキレていた。牛尾はかつての暴れ牛に戻っていた。<br />
ハゲ男の鼻っ柱に顔面を頭突きし、残りの二人も膝蹴りと鉄拳であっという間に伸した。<br />
「ったく、どこの役者だコイツら」と荒い息を整え、あたりを見回す。<br />
先行くぞお前ら勝手に戻って来いよと言い残し、現場へ急いだ。<br />
クマ野に殴り合いのシーンを聞くと、午後からだという。おかしいと思っていると、<br />
口元をみて、メイクしてきたのか!リアルだなという。(殴り合いで切れた)<br /><br /><a name="a423"></a></dd>
<dt><a>423</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:49ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>買い物袋を提げた椎名みちるが、マンションに入ろうとしたとき、悄然としたデュークが物陰から現れる。<br />
「どうして」驚いた表情のみちる。<br />
「来ちゃった」呟くデューク。<br />
全て捨てたという。信じないというみちる。どうしても会いたかったとデューク。<br />
デュークはみちるを抱きしめると、買い物袋が落ちる。<br />
デュークは強引に唇を重ねる・・・。<br /><br />
「よぉし!カット!」<br />
途端に空気は緩和した。<br />
撮影のテストだ。テストからデュークは本気だ。<br />
メイクを直してくるとみちるはカメラから外れた。<br />
クマ野がサギ山に命じる。<br />
「内トラ作っとけ!あと次のカットトラックバックだからカメアシとスタンバイしとくんだぞ」<br />
だが、サギ山は理解できなかった。<br />
クマ野に聞くと怒られそうだと思ったサギ山は牛尾に相談する。牛尾の答えは<br />
「トラックをバックさせるから、亀の足を用意しとけってことだろう。内トラは家のトラじゃねぇか」<br />
やっぱりそうなんだ!と牛尾から離れた。<br />
途中デュークに呼び止められ、鏡を用意してくれと言われ、鏡を取りに走った。<br />
牛尾だけにはチラッと悔しそうな顔を見せた。<br />
みちるが何気なく牛尾に近づく。<br />
出番がないのにどうしていつまでも見てるの?という。<br />
だが、牛尾にはデュークが気に入らない。「野郎、調子に乗りやがって」と睨みながら唸った。<br />
少し痛い目にあわせたほうがいいなと言った牛尾に、驚くみちる。<br />
「ああいうのが一番嫌いだ」というと、どうして怒るの?と訊くみちる。<br />
マトモな男なら、怒るもんだという。芝居でしょと諭すみちる。<br />
だが、見たままのゲス野郎だと言うと、みちるは困ったように微笑んだ。<br />
みちるの本音も、デュークとは嫌なのだ。<br />
本テスト行きますとクマ野の声に、みちるはカメラの前へ入っていった。<br /><br />
サギ山がおろおろと戻ってきた。<br />
トラックが動いてくれないと言う。牛尾に頼んできて欲しいというので、<br />
牛尾はトラックへ向かう。<br />
トラックのドアを叩き、少しバックしてもらえねぇかと頼んだが、無視される。<br />
頼むよと言うと、雑誌を牛尾の方へ投げ捨てた。<br />
「撮影と言えばなんでも通ると思ってやがる。てめぇらそもそも誰に断って撮影してやがんだ」<br />
牛尾はコンクリートのブロックをドアへ投げつけた。<br />
運転手は勢いよくドアを開けた。殺すぞと言いかけたが、牛尾の顔を見て固まった。<br />
「撮影にお前の許可が要るのか」と慣れた風に凄味を効かせ、助手席に乗り込んだ。<br />
運転手は慌てて目をそらした。<br />
「お前がやらねんなら俺がやるよ。昔はよくセメントの塊運んでたっけ。東京湾までな」<br />
さすがに運転手もビビリ、トラックを下げた。<br /><br /><a name="a424"></a></dd>
<dt><a>424</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
00:50ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>あのシーンの本番がはじまった。<br />
唇を重ねたとき、いきなりトラックが割り込んできた。<br />
スタッフ達が一斉に逃げた。当然NG。カットだ。<br />
サギ山はどこだ!とどなるクマ野。<br />
トラックの助手席から涼しい顔で牛尾が降りてきた。<br />
トラックこの辺でいいのかという。スタッフ全員が唖然とした。<br />
本番中だとヒステリックに叫ぶクマ野。<br />
バカ野郎頼まれたからわざわざバックさせたんじゃねぇかと牛尾。<br />
あまりにも堂々としていたので、クマ野も言葉を失った。<br />
「僕がウマさんにトラックをバックさせるようたのんだんです」<br />
と、駆け寄り、牛尾に礼を言うサギ山。亀の足もウチの虎も見つからなかったという。<br />
クマ野は歯軋りしながらサギ山を見て言った。<br />
「俺が言ったのは、次のカットはトラックバックっていう移動撮影をするから、<br />
カメアシ…カメラアシスタントとレールや台車を準備しとけって意味なんだよ!」<br />
サギ山の顔が引きつる。続けて恐る恐るウチトラは?と訊く。<br />
「人数足りないから、内輪のスタッフからエキストラ作っとけって言ってんだ!」<br />
クマ野は怒りを爆発させた。<br />
仕切りなおしで本番と叫ぶが、デュークは機嫌を悪くしていた。<br />
クマ野とサギ山が頭を下げるが機嫌は直らない。<br />
牛尾はデュークに食って掛かるが、クマ野に言葉でさえぎられる。<br />
そのとき、デュークをみて、黄色い声援が飛んだ。女子高校生の集団だ。<br />
デュークの機嫌は一気に直り、女子高校生たちは離れたところで<br />
サギ山にブロックされながら見ることになった。<br />
くれぐれも声を出したりフラッシュたいたりしないで下さい注意し、本番だ。<br /><br />
テイク2。<br />
同じシーンだ。<br />
デュークがみちるにキスをしようとしたとき、女子高校生達がフラッシュをたき、声援が飛ぶ。<br />
NGだ。クマ野が「サギ山ーッ!」と叫ぶ。<br />
その後彼女達は4度同じことを繰り返した。クマ野が「サギ山ーッ!」と叫ぶ。<br />
これ以上どうしたらいいんですかとやけっぱちだ。<br />
イライラしているのはみちるも同じだった。<br />
デュークが女子高校生たちに注意すると、彼女らは途端に目を輝かせ素直に頷いた。<br />
恨めしそうにサギ山がぼやくが、静寂は取り戻せた。<br /><br />
そして7回目の本番。<br />
デュークがみちるの唇を奪ったそのとき、突然サイレンが鳴り響いた。<br />
カバ沢は立ち上がって、椅子を蹴り飛ばした。<br />
スタッフはガックリと首をうなだれる。<br />
覆面パトカーだった。サギ山が交渉しに行くが、サイレンは止まらない。<br />
サギ山は諦めて戻り、牛尾にお願いしますと頼んだ。<br />
乗っていたのは鯨井だ。とりあえずサイレンを止めてもらった。<br />
演技でもデュークとのキスシーンは許せないという鯨井。彼もデュークが嫌いだった。<br />
みちるのためにも早く終わらせたいので、目をつぶってやってくれというと、納得する鯨井。<br />
そのとき、無線がはいった。綾の取調べが終わり、何かを隠しているようなので、<br />
追跡してくれという内容だ。無線は警察の隠語で語られたが、理解できた牛尾に、<br />
鯨井は良くわかったなと言う。昔出たドラマがリアルな警察を描いたものだったからとごまかした。<br />
覆面パトカーが去った後も、牛尾はその場を動けなかった。<br />
サギ山が牛尾に礼を言い、本番は再開した。<br /><br /><a name="a425"></a></dd>
<dt><a>425</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
01:31ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>デュークが激しく唇を重ねる。<br />
邪魔するものはいない。気持ちを最高に盛り上げたデュークとは対照的に、<br />
イライラの頂点に達したみちる。いきなりデュークへ平手を見舞った。<br />
直後、思いっきり抱きつき、「大好き!」と言い放ち、カット。<br />
女心が出ていて良いとOKが出た。<br />
デュークはギャラリーの女子高生の元へ行く。<br />
だが、彼女らは引いていた。笑っていた。<br />
デュークの鼻から血がでていたのだ。<br />
大笑いされるデューク。そこへ雨が降り始めた。<br />
女の子達はクモの子を散らすようにいなくなった。<br />
一人たたずむデュークの鼻血は、通り雨と一緒に流れて落ちた。<br /><br />
すっかり日は暮れ、休憩になる。<br />
サギ山を呼び、金持ってるか?というと、サギ山は持っているというので、一緒に喰おうという。<br />
みちるも一緒に行くというが、デュークに誘われ、みちるはデュークと一緒にコルベットで移動した。<br />
おったまげラーメンと言う店でサギ山におごってもらい、店を出るとサギ山は用事があるという。<br />
大事な用だというが、牛尾は強引にロケバスまで帰った。サギ山は慌てて用事を済ませに走っていった。<br />
改めて見回しても、本物の馬部甚太郎が現れそうな気配はない。<br />
ロケ再開の時間となり、牛尾は外へ出た。<br />
サギ山のなんとか時間に間に合ったと帰ってくる。<br />
「ウマちゃん!」とデュークの車を降りてくるみちるが驚いた表情で近づく。<br />
どうしてこんなに早く戻ってこれたの?と訊くが、自分はラーメン食べてすぐ戻っただけだと答える。<br />
信じられない・・・と呟くみちる。<br /><br />
次の本番となった。<br />
演技はできてもセリフに詰まる。<br />
「オイ、本当に役者か?」というカバ沢。<br />
その言葉に、疑われていると思った牛尾。こんな役者見たことねぇと、クマ野まで同調する。<br />
ばれたと思った牛尾は、一歩後ずさった。<br />
「物覚えが悪すぎるもの。3行以上言えてねぇじゃねぇか!」「へ・・・?」<br />
元の立ち位置に戻り、本番。OKが出る。<br />
サギ山が嬉しそうに近づき、凄みがありました!という。<br />
だがクマ野は呆れたように言った。<br />
「明日は長ゼリフがあるんだろ。大丈夫だろうな。頼むよ本当に」と。<br />
牛尾は「サギ山君よ」とグチを言った。馬部甚太郎という役者はすごいなと。<br />
サギ山はナルシシズムに縁遠い人かと思ってたと談笑した。<br /><br /><a name="a426"></a></dd>
<dt><a>426</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
01:32ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>― 三日目(10月13日金曜日) ―<br /><br />
今日も撮影は深夜にまで及び、牛尾が解放された時間は既に1時半を回っていた。<br />
昨日と同じホテルの部屋で、牛尾は台本を開いてセリフを読み返していた。<br />
必死に頭に入れようとする姿勢は、役者そのものだった。<br />
何やってんだ俺は・・・。<br />
今まで自分のことだけを考えていたが、本物の馬部甚太郎はどうしているのかと気になった。<br />
もし自分と間違われていたら、最悪のことも考えられる。高峰綾のことも気になる。<br />
疑問で台本が頭に入らない。ええい!ヤメだ!と共同トイレへと向かった。<br /><br />
・・・しまった。紙がない。牛尾は硬直した。<br />
そのとき、隣に誰かが入ってきた。「どうしたらいいんだ」という男のため息が聞こえる。<br />
「そっちに紙ねぇかな。出した後で、ないのに気づいた。」<br />
牛尾は隣の男に声をかけると、壁越しにトイレットペーパーを受け取った。<br />
隣の男のおかげで事なきを得た。<br />
それから宝石強盗はつかまったのかという話になり、<br />
流れで互いに自分の置かれた状況を、簡略化して相談する。<br />
状況が状況だけに名乗りはしない。隣の男は、<br />
「ヤクザの女に迫られて困っている。手を出していいものか、後のことを考えて出さないべきか・・・。」<br />
と相談してきた。<br />
「ヤクザの女には手をださないことだ。身包みはがされてケツの毛まで剥かれるぜ」と答えた。<br />
牛尾は訊いた「ひょんなことから芝居しないといけなくなったが、長いセリフを覚えるのはどうすればいいんだ?」<br />
隣の男は言った「口に出せば覚えられる」と。<br />
お互い大変みたいだががんばろうなと語り、牛尾は先にトイレから出た。<br /><br />
今朝も朝早くから撮影は始まった。<br />
牛尾は自分の出番がないときでも、今日は撮影の様子を見ていた。<br />
やっぱりあんたら演技上手いなという牛尾に、みちるは嬉しそうに、<br />
「またそんな弱気なことを言う。ダメよ。私が絶対足洗わせないから」と言われる。足は洗ったはずだと思った。<br />
牛尾がずっと現場にいるのは、鯨井が来てもすぐ分かる為だ。<br />
昼を過ぎても今日は現れない。綾の尾行をしているのかとひどく気になる。<br />
空き時間あるかとサギ山に聞くと、次は1時からだから空いているという。<br />
10分前までには戻ると言い残し、現場を離れた。<br />
だが当てがあるわけではないので、とりあえず宝石店のほうへ足を向けた。<br /><br />
ハンズの前まで来たとき、制服を着た警官が立っていた。まずいと思ったそのとき、<br />
誰かが牛尾の腕をつかんだ。見ると高峰綾だった。<br />
綾は人の少ない裏通りへと牛尾を連れて行った。<br /><br /><a name="a427"></a></dd>
<dt><a>427</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
01:33ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>警官の目を逃れ、綾はほっとため息をついた。<br />
鯨井は綾を尾行しているのかと気になり、注意深く辺りを見るが、いなかった。<br />
すると綾は「大丈夫です。牛尾さんの名前もなにも警察の人には話していません」という。<br />
色々訊かれたが、何度も店に通い、ご馳走までしてくれた人が強盗はしないと思い、知らないで通したという。<br />
だけど、店長やあのときの客は信じてくれそうになかったから、とりあえず黙っておいたのだ。<br />
プロポーズする為に石を選んでいたんだといって、財布を捜すが、またロケ班が持っている事を思い出す。<br />
後で良いですと言ってくれ、信じてくれる。悪い人と思われてなくて、牛尾も安心する。<br />
折角結婚にむかってたのにと言う綾に、無実を証明してきれいな身で予定通り結婚だというと、<br />
綾は私も勇気を出してプロポーズしますという。答えは決まってるんだ、いつでもいいと答える牛尾。<br />
綾は言った。「牛尾さんの婚約者の方が羨ましいわ」と。<br />
ショックを受ける牛尾。<br />
12時にハンズ前で待ち合わせだから、彼にあって欲しいと言う綾。<br />
俺、タバコ買ってくるわと言うと、綾は先に行ってますと歩いていってしまった。<br />
牛尾はショックで動けなかった。<br />
自動販売機の前にいるが、財布を忘れたことに気づく。そのとき、鯨井の姿が見えた。<br />
やばい!と陰に隠れるが、綾と一緒のところを見つかると、綾も疑われると思い、<br />
すばやく角を曲がった。<br /><br />
「イテ!」「アイタッ!」<br />
出会い頭に走ってきた男とぶつかった。<br />
牛尾が倒れそうになるほどの大男だった。<br />
「スイマセン!」男は振り向きもせずそのまま走っていった。<br />
「クソォ、どいつもこいつも・・・」呟き、移動した。<br />
牛尾はさっきのロケ現場に戻ったが、誰もいなかった。<br />
どうやら移動してしまったらしい。ロケの場所確認し良かったと思いながら、あてもなく探しに出た。<br />
周囲を警戒しながら探したが、なかなか見つけることはできなかった。<br /><br />
「ウマさーん早く!」サギ山の声が聞こえた。<br />
クマ野とサギ山がロケバスの前に立っているのを見つけた。<br />
予定時間を1時間以上過ぎていた。<br />
どこいってたの?ウマちゃん待ちだぞというクマ野。<br />
すぐやるからと言う牛尾に、「あれはOKだっつったろ」という。<br />
いい芝居だったことはみんな認めてる。普通あそこで泣けないよなと付け足した。<br />
全く覚えがなかった。追ッかけっこのシーンは?と訊く牛尾に、一発OK!ドンピシャだ!という。<br />
馬部甚太郎がやったのか?と訊く牛尾。頭でも打ったかと言われるが、<br />
牛尾は馬部が居るとロケバスを見た。だが、早く乗り込めとクマ野に押し込まれた。<br />
ロケバスの中には馬部は居ない。どうなってるんだ?と疑問を持つが、バスは走り出した。<br /><br />
次の現場はバーだった。<br />
みちるがそっと牛尾の隣に立った。<br />
さっき話したいことがあるって言ったでしょというみちる。なんだと聞き返す牛尾。<br />
休憩のときにどこへ行ったんだと問い詰められる。静かなところと言うと、<br />
次はベッドシーンじゃないわよ!とハイヒールのかかとで足を踏まれた。<br />
何がなんだかさっぱりだったが、それより問題は次の長ゼリフだ。<br />
心配になり、店のトイレに入って呼ばれるまでの10分間、必死に暗唱を繰り返した。<br /><br /><a name="a428"></a></dd>
<dt><a>428</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
01:34ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>テストいきます!と牛尾の隣にはホステス役のみちる等女性が座り、前にはデュークが座った。<br />
スタートといわれるが、セリフが出てこない。<br />
素人には難しい。頭は真っ白になる。<br />
私を裏切った罰よといいながら、牛尾のグラスに本物のウィスキーを注いだ。<br />
ウマちゃん落ち着いて、コレ飲んでと微笑み、グラスを牛尾に渡した。<br />
ああ。と返事し、一気にグラスを空けた。<br />
もう一杯くれと牛尾に言われ、みちるの目が丸くなる。<br />
馬部は下戸なのだ。一滴でも飲めば倒れるほどだ。<br />
自分でやる!とウィスキーのビンをみちるから奪った。<br />
グラスになみなみと注ぐと、一気に飲み干す。<br />
そんな・・・と唖然となるみちる。<br />
「落ち着いた。ぶっつけ本番いこうか」と言い出す牛尾。<br />
本当にできるのかと心配するクマ野とカバ沢。<br />
「二度とできるシーンじゃねぇと」ぶっつけ本番が決まった。<br /><br />
本番が始まった。<br />
牛尾は言った。<br />
「いいか、よく効け・・・確かに話し合いで解決した方が利口だ。<br />
ドンパチやりゃいいってもんじゃねぇ。けどな、この世界メンツ潰されたままじゃ<br />
生きていけねぇんだよ。てめぇら、どうせ別件でも何でも見つけて<br />
パクるんだろうが。いいさ、おれはヤクザの人権なんて泣き言は言わねぇ。<br />
だがな、よーくこのツラ見て物言え」<br /><br />
牛尾は、本物の組長になっていた。<br /><br />
OK!カット。<br />
やるときゃやるねとスタッフ達はいうが、みちる一人が信じられないという表情で見ていた。<br />
コイツのおかげで助かったと、ウィスキーのビンを見せた。<br />
上機嫌で濡れナプキンで顔をこする。強くこすれば取れるはずの傷跡は取れない。みちるはさらに驚いた。<br />
みちるは青い顔で逃げるように表へ飛び出した。<br /><br />
表へ出ると、酔っ払いの4人の男にみちるは絡まれていた。<br />
牛尾は四人相手に大暴れする。<br />
やっぱりウマちゃんじゃない。そう思ったみちるは、嬉しそうな顔をして戦う牛尾を見て、唖然とした。<br />
やはり暴れ牛は強かった。4人の男達はよろよろと逃げていった。<br />
オイ大丈夫か?とみちるに言うが、ありがとうと硬い笑顔で返されるだけだった。<br /><br />
そのとき、小さな十字路を駈ける人影が牛尾の視界に入った。<br />
三次だった。右手に拳銃を握っていた。ちょっと外れるぜと牛尾は三次の消えた方向へ駆け出した。<br /><br /><a name="a429"></a></dd>
<dt><a>429</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
01:36ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>人通りがないのを確かめ、牛尾は三次に近づき、背後から革ジャンをつかんだ。<br />
やっと捕まえたぜと言い、有無を言わさず三次を壁に押さえつけた。拳銃を下へ落とす。<br />
久しぶりだな三次というと、冗談はよしてくれと言う。<br />
お前のおかげで愉快な目を見てるぜ。折角足洗ったのに、このままじゃ逆戻りだと言った。<br />
白峰組と組んで、俺を始末し、跡目復帰を狙ってるんだろと三次に言われ、知らんと答える牛尾。<br />
宝石強盗は単独犯で、俺は無関係だって自首しろという。白峰はいいのかといわれ、もう縁は切れてると話す。<br />
だが三次は、自分が捕まるときは兄貴も一緒だと言う。<br />
そのときだった。<br />
ロケバスが狭い道を入ってきた。<br />
クマ野が顔をだし、ウマちゃん次のロケ現場知ってたの?じゃ、すぐ先だからと言って60M程先で停車した。<br />
なんですかありゃ?と言う三次。<br />
沈黙する牛尾。<br />
三次に、彼等は牛尾と言う名前を知らないとばれてしまったのだ。<br />
三次は落ちた拳銃を拾い上げ、「これから故売屋に宝石を売って、白峰組に見つかる前に高飛びをする」という。<br />
ここで三次に高飛びされてはいつまでも追われる身の牛尾。<br />
宝石は、お前の持っているだけでは3億円にはならないと言う。<br />
牛尾はお前の倍の宝石を持っていると続けて言うと、嘘だと言う三次。<br />
あのドサクサでお前は気づかなかっただけだという牛尾。<br />
そのとき、パトカーのサイレンが鳴った。<br />
この続きの話は後にしようと、三次はポケットから盗品の携帯電話を渡し、駈け去った。<br />
盗品の携帯電話ということは、自分も容疑者のままだ。<br />
最後は力だと思い、白峰組に向かって歩き出した。<br /><br /><br />
出会いは、突然やってきた。<br />
「馬・・・!」<br />
「牛・・・!」<br />
馬部は来た方向を慌てて走り出した。<br />
牛尾は後を追った。<br />
牛尾はタックルで馬部を捕まえた。<br />
混乱する馬部に「知ってること全部教えてくれ!」と言う牛尾。<br />
牛尾は馬部を立ち上がらせた。<br />
話のできるところ行こうやと言い、移動した。<br /><br />
牛尾は馬部から全て聞き、自分もどんな目に遭って来たかを話した。<br />
「そうか、山吹がなぁ・・・」と呟く牛尾。<br />
「あなたさえ警察に出頭してくれたら万事解決するんです」と馬部。<br />
だが、牛尾は「甘いな」と返し、理由を告げた。<br />
馬部は、組の内情とチャカを使ったことなど、知りすぎてしまった。<br />
牛尾が出頭しても、牛尾政美に成りすましていた男がいたということはいずれバレる。<br />
組は馬部の口を塞ぐだろうと話され、不安になる馬部。<br />
牛尾は言った。「助かりたかったら、三次を捕まえて全てを自白させたうえ、チャカのことは黙らせることだ」<br />
無理だ!と思った。<br />
そのとき、三次から渡された携帯電話が鳴った。<br />
「さっきの話本当でしょうね。下手うつと、今度ばかりはチャカ使いますよ」という三次。<br />
ああ、わかってると返事した。<br />
「6時半、神宮橋」そう言われると、電話は切れた。<br />
・・・やるしかねぇ。考えるんだ。牛と馬で。<br /><br /><a name="a430"></a></dd>
<dt><a>430</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
01:37ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>ロケ隊を遠くから眺める二人。<br />
「・・・ヨシ。それしかねぇ。」何かの相談が固まったようだ。<br />
しかし、馬部は心配している。<br />
どう考えても人手が足りないからだ。<br />
しかし、サギ山は仕事を辞めたがっていた事を思い出し、<br />
手伝わそうと決め、早速行こうと話したそのときだった。<br />
突然牛尾はタックルされた。<br />
後からみちるも来て、本物の馬部に駆け寄るのが視界の隅に入った。<br />
「よくも騙してくれたな!宝石はどこにある」と押さえ込みながら揉めていた。<br />
大丈夫?ウマちゃん。訊くみちる。大丈夫だよと答える馬部。<br />
鯨井は牛尾の腕をさらに絞り上げ、共犯者はどこだと問い詰める。<br />
だが、牛尾は俺は共犯者じゃねぇんだ!と抵抗。<br />
危うく強盗犯を匿って逃亡の手伝いをするところだったと言いながら、強引に馬部を立たせる。<br />
手を固められ、顔を歪ませながらみちるを見たが、みちるは動けない。<br />
話はゆっくり署で聞こうか。と、牛尾の腕を固めながら歩き出す鯨井に、<br />
あの・・・と間に割り込むみちる。鯨井は答えた。<br />
「いや、みちるさんのお手柄でしたよ。よく見破ってくれました」と。<br />
待ってくれ!という牛尾。怪訝そうな鯨井。<br /><br />
「まだクランクアップしてねぇんだよ!何も終わっちゃいねぇ!<br />
こんなところで降ろされるわけにはいかねぇんだよ!」<br /><br />
「!・・・」みちると馬部はハッと牛尾を見る。<br />
鯨井は「まだ役者気取りでいるのか。寝言は署で聞いてやる」と言い、<br />
強引に牛尾の背中を押して歩き出す。<br />
しかしみちるは「ウマちゃんの言う通り、ラストシーンが残っています」という。<br />
思いがけない言葉に、牛尾はみちるの顔を見た。<br />
だが、鯨井はあなたが通報してくれたじゃないかという。<br />
そして、みちるは「お願いです。うまちゃんの好きにさせてあげてください」というが、<br />
鯨井は、顔の傷をこすり、背中の刺青を見せ、こいつは牛尾だと証明する。<br />
だが、彼は今までずっと演じてきた、立派な役者だから、最後までやらせてくださいと<br />
みちるは鯨井に頼んだ。牛尾はじっとみちるを見つめた。<br />
いきなり、馬部が鯨井に飛びついた。<br />
「逃げろ!牛尾さん!」<br />
抵抗する鯨井刑事。だが、馬部はしがみついて離れない。<br />
そうよ!早く逃げて!とみちるも鯨井にしがみついた。<br />
「すまねぇ・・・!」<br />
牛尾は馬のように駆けだした。<br /><br /><a name="a431"></a></dd>
<dt><a>431</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
01:39ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>小さなケース一つ持って、牛尾は約束の場所に向かっている。<br />
稲妻と共に雷鳴が轟き、大粒の雨が容赦なく顔を叩く。<br />
「約束の物、持ってきてくれましたか」<br />
そこに着いた途端、声がした。無表情の三次が立っていた。<br />
ここにある。と、牛尾はケースを開けて見せた。<br />
本物かと疑うので、指輪とネックレスを三次に放った。<br />
それらを品定めし、三次は本物だと口をゆがめて笑った。<br />
「これでお前のと会わせて3億円だ」という牛尾に条件はなんだと問う三次。<br />
どこでも好きなところへ行け。但し、捕まっても単独犯と言えと牛尾は言った。<br />
自分に有利すぎる条件に、警察に牛尾のことを言ったらどうするかと訊く三次。<br />
そのときは白峰組がお前のタマを取ると答える。<br />
だが、既に白峰組に狙われている三次は、そんな脅しに乗らないという。<br />
余計なことを言わない限り、組は俺が止めるというと、三次は組を抜けた牛尾にそんな力ないという。<br />
牛尾はお嬢さんと結婚して跡目を継ぐと言い、証拠に金のネックレスを見せた。<br />
亡くなった姐さんがお嬢さんに渡したもので、組長がいつもしてるだろうと言うと、<br />
三次は納得し、ケースを引き取った。<br />
「捕まってもチャカの出所は喋るな」と念を押すと、約束は守ると言う。<br /><br />
そのとき、二人の前に覆面パトカーが突っ込んできた。<br />
咄嗟に車の陰に身を隠す二人。<br />
「動くな!」鯨井がドアを開け、拳銃を構えた。<br />
「奴を殺って逃げる!」と拳銃を抜く。<br />
刑事はまずい!殺したら死刑だ!と止める三次。<br />
こっちも必死だ。お前も射て!お望みどおり共犯といこうじゃないかと言う牛尾。<br />
混乱する三次。<br />
鯨井!と牛尾は叫び、車の陰から飛び出した。<br />
鯨井と牛尾の銃が同時に火を噴く。<br />
刑事は胸を射たれ、地へ倒れこんだ。<br />
牛尾は拳銃を地面に落とた。左腕からは鮮血が流れ落ちている。<br />
その隙に逃げようとする三次。<br />
だが、突っ込んできたパトカーが三次の行く手をさえぎった。<br />
刑事と制服警官は車を降り、拳銃を構えた。<br />
「動くな!抵抗すると射つ!」ひげの刑事が叫ぶ。<br />
「射つな!射つなよ!」と三次は両手を上げ、地面に膝をつく。拳銃は持っていない。<br />
制服警官は、雨に打たれている鯨井の元へ走り、脈を取る。<br />
「ウソだろ・・・」と三次も唾を飲んで見守った。やがて警官は首を横に振った。<br />
雷があたりを白くする。<br />
「強盗容疑、及び殺人の現行犯で逮捕する」とひげの刑事は手錠を三次の手首へかけた。<br />
牛尾も警官に取り押さえられている。<br />
「ちがう。おれは射たなかった。殺してないし、殺す気も無かった。」と主張する三次。<br />
「往生際が悪いぞ相棒・・・一緒に射ったんだ。命中したのはお前の弾だろ」<br />
と苦痛に顔を歪ませながら牛尾は言った。チャカなんかもってねぇ!と両手を広げる三次。<br />
「貴様らがグルになって強盗したのはわかってる。目撃者もいる。今から念仏でも唱えておけ。」<br />
ひげの刑事は冷たく言い放つ。<br />
すると三次は言ったのだ。<br />
「待ってくれ!あいつは俺の相棒なんかじゃねぇ!確かに宝石強盗をしたのは俺だ。<br />
だが俺一人でやったことで、あいつは何も関係ねぇんだ。仲間でもなんでもない!<br />
今だって本当にあいつが一人で殺したんだ!」<br />
馬部は「牛尾とグルだったんじゃないのか!」と言い放つと、<br />
「ちがう!あいつは客だったんだ、共犯なんかじゃねぇ。宝石強盗は俺一人でやったことだし、<br />
警官殺しはあいつ一人がやったことだ!嘘じゃねぇ!」三次は必死に訴えた。<br /><br /><a name="a432"></a></dd>
<dt><a>432</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
01:40ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>「・・・そうか。なるほどな。」<br />
死んでいたはずの鯨井刑事がむっくり起き上がった。<br />
「生きてる・・・?」混乱する三次に<br />
「銃持ってる奴を捕まえに来るのに防弾チョッキ着ない馬鹿がいるか」という。<br />
署まで楽しいドライブだと言い、唖然とする三次の横に立つ。<br />
牛尾は捕まえねぇとかと問う三次に、鯨井はパトカーは狭いんでね。とごまかす。<br />
後は君達に頼むと馬部に告げた。ひげの刑事は「はい!」と答えると、来い!と三次を引っ張る。<br />
観念した三次はおとなしく連行されていく。<br />
覆面パトカーに三次を放り込んだ鯨井は、こちらを振り返って気持ちのいい笑顔を見せた。<br />
鯨井の運転する覆面パトカーは、うなりを上げて走り去った。<br />
牛尾は顔を上げて振り返り、ニヤリと笑った。<br /><br />
「ハイ・・・カット!OK!」制服警官がいきなり叫んだ。女の声だ。<br />
警官の帽子とメガネを外すと、それはみちるだった。<br />
「やりましたね。まんまと引っかかった」ひげの刑事も帽子と付け髭をはずした。馬部だった。<br />
「こうなると、紛れ込んだのがロケ隊でよかった。宝石も拳銃も火薬も血のりまであるしな」<br />
不安だった出演者も最高の演技だった。鯨井までよくやってくれたと談笑する。<br />
そして着替えを済ませると、みちるはサギ山をトランクから出した。<br />
終わったとサギ山に伝えると、僕何もしてませんけどと返してきたので、<br />
「お前がいてくれたから、助かった。」と牛尾はサギ山の手を握った。<br />
こいつを小道具に礼を言って返しておいてくれ。また叱られるかもしれねぇがと、<br />
アクセサリーの入ったケースと拳銃を渡した。<br />
「どうせ辞めるんでかまいませんけど、最後にウマさんたちのお役にたてたなら良かったです」<br />
サギ山の言葉に、「馬はこっちだよ」と馬部が言った。<br />
牛尾と馬部が並んで立っている。混乱するサギ山に、二人は笑った。<br />
「双子だったんですか!」と納得するサギ山。<br />
そこへロケバスが到着した。<br />
ドアが開き、ものすごい形相をしているくま野が降り立った。<br />
小道具に嘘ついて一体なにしてやがったんだ!と怒鳴ると、辞めてやるんだ!知ったことか!と返す。<br />
すると、くま野は「そうはいかねぇ。てめぇは俺の下でたっぷりかわいがってやる」と、<br />
サギ山の耳をつかんでバスへと乗せた。「イテテ・・・チキショウ!今に辞めてやる!」<br />
牛尾は馬部に、大事な品だからなと、るい子からもらった金のネックレスを返した。<br />
止めて下さいよ。それ考えるとまた憂鬱になる。という馬部。<br />
せいぜい頑張るんだなと、牛尾とみちるは明るく笑った。<br />
ロケバスの入り口で、くま野がこれからラストシーンだろう!と呼んだ。<br />
しっかりね!とみちるは馬部の背中をおした。<br />
馬部は牛尾に小さく頷き、嬉しそうにバスへ駈けて行った。<br /><br /><a name="a433"></a></dd>
<dt><a>433</a><font size="+0"><b><a href="mailto:sage">街 牛尾政美編</a></b></font><font color="#8080FF" size="2">sage</font><font color="#808080" size="2">04/04/17
01:40ID:whe+wSXo</font></dt>
<dd>「あんたは行かなくていいのかい?」牛尾はみちるに訊いた。<br />
私は後で追いかけるからと答え、牛尾は警察へ行くのかと問う。<br />
「その前に寄るとこがある。こいつの代金を払わないとな」と、<br />
三次に品定めさせた指輪とネックレスを見せた。そうねと笑うみちるには少し陰があった。<br />
そして、牛尾は一緒に店まで来てもらえねぇかと頼んだ。そして言葉を続けた。<br /><br />
「まさか盗品のままで、あんたにプロポーズするわけにはいかねぇからな」<br />
『え・・・・・・・・・・・・・・・』<br /><br /><br />
プロポーズだ。<br /><br />
椎名みちるにプロポーズする。<br />
それが今日からの大問題だった。<br /><br /><br />
「The Wrong Man 牛」完<br /><br /></dd>
</dl><hr /><div align="right"><a href="http://www8.atwiki.jp/storyteller/pages/646.html">>>Part3</a>(市川文靖編、細井美子編、篠田正志編)</div>