がっくりと膝を突き、何度も拳を床に叩きつけるネロの獣のような叫びは、やがてかすかなすすり泣きへとかわっていった。教団本部内の一室、つい先刻教皇が「蘇った」部屋を横切ろうとしたネロは、はっと息を飲んで足を止める。「遅かったな」あの赤いコートの男が寄りかかっていた柱から身を起こし、床に突きたてていた大剣を背負うところだった。「今さら……何の用だ?」ネロは歯軋りせんばかりの剣幕で「こっちは急いでるんだ」と男を乱暴につきのけ先へ進もうとしたが、その肩を「そろそろ―――」と背後から男がつかんだ。 途端、ぎろりと相手を睨みつけ、つかんだ手を払いのけざまにネロは男に殴りかかったが、男はそれを難なくかわし、今度はネロの腕をつかんで「鬼ごっこはヤメだ」上から覗き込むようにしつつ言う。 と、戒められたネロの右腕がこめられた力で輝きだすのを見て取るや、男はぱっと手を放し、独り相撲を取らされたネロは、自分の力のあおりを食らって背中から壁に突っ込んでしまった。 「その刀を返せ」壁に開いた大穴に、のしのし歩み寄りながら男が言う。「何の話だ……」という言葉とは裏腹に、ネロの体から光の波動が湧き出して、次いで放たれた一陣の衝撃が崩壊で立ち込めた土埃を吹き払った。
「これほどの力とは―――無念なり……!」ぜいぜいと苦しげに肩を上下させるべリアルに、息一つ切らしていないダンテが指を突きつける。「汚いケツ見せておうちに帰りな。許してやる」しかしべリアルが勝者の情けを受け入れることはなかった。「一度退いた身、二度は退かぬ!」叫ぶなり、全身に炎を纏わせ、残された力を振り絞り突進してくる。が、それもダンテの放った銃弾の前に火の粉となってあえなく散った。べリアルの起こした最期の風に、朱の蛍が断末魔のように舞い、消えるのを眺めて「ショボイな……ハデな花火を期待したんだが」呟いたダンテは銃をしまい、巨大なモノリスの前へ歩を進めた。台座の上に浮かぶ光球に手を伸ばすとその輝きは一際増し……それが収束した時、ダンテの背には奇妙な物体が納まっていた。肩だけの鎧のような、金属で出来た外格だけの翼のような……「翼」にはそれぞれ幾本かの細剣が仕込まれているようだ。ちらりと背を振り返ったダンテはふふんと笑い、いきなり天高くジャンプした。「コイツを!」その両手には「翼」から抜き放った剣が赤く輝いている。「突き刺す!」叫ぶと同時に剣は幾本にも分裂し、投げ放たれてモノリスに幾つもの穴を穿つ。「力をこめて!角度を変え!刺す!」不思議なことに、叫びつつ次々と剣を投げていのに、その背の剣が尽きることはない。「さらに……もっと強く!ブチこんでやる!」何故かフラメンコ調になったBGMに乗り、気取ったポーズをキメながら放っている剣の軌跡は、どうやら何かの図形を描いているらしい。気合いと共に放った締めの一撃がその中心に突き立ち、長いジャンプを終えて地面に着地したダンテは、フラメンコダンサーよろしく赤いバラを咥えている。 「最後に……」パンパン、と両手を打ち鳴らすと、石板に刺さっていた全ての剣が破裂して、モノリスはハートの形になった。「絶頂を迎えた後―――」振り向きざまに投げたバラが、ハートの中央に残っていた剣の柄を叩いて「君は自由だ」ハートは見事に真っ二つになった。その間に遠く浮かぶ「神」の姿が覗く。「意外と小さく見えるな」相変わらず異様な後光を背負った巨体をそう評すと、右手を伸ばしてそれを握り潰す仕草をしてみせる。「残るはあんただ、Mr.カミサマ」宣言して、ダンテはぽんと手のひらの埃を払った。
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