夜光虫
part35-360~365
- 360 :夜光虫:2008/01/19(土) 04:16:10
ID:MZVE4Su80
- 夜光虫―
直径一ミリほどの原生動物。
昔は「海しらみ」とも呼ばれ、外部からの刺激で発光する。
夏の夜、船の波頭に刺激を受け、漆黒の海に光の帯を残す。
人はそれを幻影の航跡と呼ぶ・・・。
登場人物紹介
「私」・・・28歳。大型貨物船「ダイアナ」の船長。
友香(ゆか)・・・船長の婚約者。今回の航海から帰ったら結婚する予定である。
南条・・・機関長。船長とは商船大学の同期。船長の親友。
岩倉・・・甲板長。酒と博打が大好き。愛称は「岩(ガン)さん」
深月・・・船医。病的な潔癖症。
金井・・・コック長。神経過敏でノイローゼ気味。
野田・・・通信技師。メガネでデブのオタク。
末吉・・・二等航海士。船長に憧れている。
近藤・・・若いクルー。いわゆる下っ端。真面目だが無口で暗いところがある。
三谷・・・一等航海士。船長の補佐役。
プロローグ
港に停泊している、大型貨物船「ダイアナ」。私はこの貨物船の船長である。
今、約一ヶ月の休暇を終え、ふたたびこの船に乗り込むこととなった。
一度出航すると、六ヶ月は日本には帰れない。
新たな任務に向かうため、気持ちを引き締め、船に乗り込もうとする私を呼び止める声がした。
それは友香だった。見送りはいいと言ったのに、来てしまったらしい。
束の間、友香と別れを惜しんだ後、私はタラップを上った。
乗組員が全員乗り込んだのを確認し、私は出航の合図を出す。
友香が見守る中、船は徐々に埠頭を離れていく。
第一日目の夜になった。私は航海日誌をつけるため、船長室へ入った。
「本船が無事に日本に戻ってこれますように」と書いて、航海日誌を閉じた。
ふと窓の外を見る。夜光虫によって海面がぼんやりと光っているのが見えた。
※ここから大きく4つのストーリーに分岐します。
- 361 :夜光虫:2008/01/19(土) 04:17:10
ID:MZVE4Su80
- 命のともしび編
私は夜風に当たろうと、デッキへと出た。そこでは、近藤が一人で見回りをしていた。
確か、今夜は岩さんも見回り当番だったはずだが、麻雀でもやっているのか、サボっているようだ。
私は近藤に声をかけ、しばらく見回りに付き合うことにした。
海面を見ると、夜光虫が光っている。他人の受け売りだが、私は近藤に、夜光虫についての講釈をしてやった。
「へえ、蛍とは違うんですね。蛍は、命のともしびだから・・・」
近藤は気になることを言った。
そのとき、ピシャッと水がはねるような音が聞こえた気がして、私は振り向いた。
そこには、今は使われていない、小さいプールがあったが、今はビニールシートが掛けられている。
私は空耳かと思って気にしなかった。
それから数日が経ったある日のこと、突然非常ベルが鳴らされた。
急いでデッキに行くと、近藤が他の乗組員と喧嘩して揉み合い、誤って海に落ちたという。
近藤の捜索のため、私は海面に下ろされた救命ボートに乗り込んだ。
上着を脱いでから、海に飛び込む。辺りを見回すと、白いシャツが見えたので、夢中で掴んで海面へと出た。
意識を失っている近藤を引き上げ、深月先生に診てもらったが、近藤は既に死んでいた。
それからまた数日。近藤の死によって、乗組員達は動揺していた。
デッキで人魂を見たとかいう噂が広まっているようだった。
乗組員の不安材料は取り除いてやらないと、と思い、私と岩さんは夜の見回りに出た。
突然、夜の闇の中に、青白い光が浮かび上がる。岩さんはすっかり怖がっていた。
しかし、人魂にしては小さいなと思い、よく見ると、それは蛍だった。
傍にあるプールのビニールシートをめくってみると、案の定、無数の蛍が宙に舞った。
近藤がここで蛍を飼っていたらしい。ひとまず、人魂騒ぎは収まった。
船は座礁域に差し掛かる。さらに間の悪いことに、霧が深まっていき、視界がきかなくなっていった。
ある夜、大きな音と共に、船に衝撃が走る。座礁してしまった!
船底に穴があき、船はどんどん沈んでいく。急いで救援信号を送り、救命ボートを下ろそうとするが、間に合わない。
このままでは沈没の衝撃に巻き込まれてしまう。私は海に飛び込んだ。
海面に浮きながら周りを見回すが、霧のせいで何も見えない。と、辺りに蛍が飛び交っているのが見えた。
蛍は誘うように一方向を目指して飛んでいる。私は蛍と同じ方向に泳いでいった。
すると、南条が乗った救命ボートに出くわした。私は南条に引き上げられた。助かった・・・。
「ありがとうな、近藤」
私は蛍に向かい、そう呟いた。遠くからヘリコプターの音が近づいてきた。
完
- 362 :夜光虫:2008/01/19(土) 04:17:42
ID:MZVE4Su80
- キラー・ビー編
私は夜風に当たるためにデッキに出た。近藤が一人で見回りをしていた。
しばらく話した後、私は船長室に帰った。
翌朝、ストアと呼ばれる、工具や荷物をしまっておく場所の扉が開いているのに気付いた。
私はストアに入った。そこには見慣れない巨大な木箱が置かれていた。
そこへ岩さんがやってきた。なんでも、その木箱は深月先生が持ち込んだ、新開発の農薬で、
フィリピンにいる友達に渡すものなのだそうだ。
見回りをサボった岩さんを叱っているところに、悲鳴が聞こえてきた。
どうやら救命ボートの方らしい。私と岩さんは急いで駆けつけた。
救命ボートの中には、両腕を切断されて死んでいる近藤が・・・。
この暑さで近藤の遺体を腐らせるわけにはいかない。
ビニールシートに包んで、調理室の冷蔵庫に入れさせてもらうことにした。
神経過敏な金井は、しばらくは我慢していたようだが、そのうち悲鳴を上げて調理室を飛び出して行ってしまった。
それ以来、金井は行方不明になってしまった。
私は、近藤の死因を突き止めようと、救命ボートに上った。そこには蜂が一匹、うずくまっていた。
誰か詳しい人がいるかも知れない、と思い、私は蜂をハンカチに包んでポケットに入れた。
それから、金井の捜索をしたが、見つからなかった。
ある夜、三谷と私はデッキに出た。汗をかいたという三谷に私はハンカチを差し出した。
三谷はハンカチに包んであった蜂を見て、温室ツヤコ蜂ではないかと言った。
その蜂は、害虫を殺す益虫で、農薬として使われるという。
農薬と聞いて、私はピンときた。そうだ、ストアの木箱・・・深月先生だ。
深月先生に確かめようと、私達は医務室へと行ったが、先生はいなかった。
日記が置かれていたので読んでみる。
そこには、深月が殺人蜂を開発したこと、そして、蜂の餌を供給するため、乗組員の命を狙っていることが
克明に書かれていた。
私と岩さんとで、ストアに行き、木箱を開けてみると、そこには金井の死体と、それに群がる大量の殺人蜂があった。
そこへ、深月がやってきた。深月は、近藤が殺人蜂に腕を刺されて死んだこと、証拠隠滅のために腕を切り落としたこと、
そして、金井を殺したことを告白した。
深月は私達に拳銃を向けてきた。私達はストアから逃げようとして、木箱にぶつかった。
木箱の蓋が開いて蜂が飛び出し、深月に襲い掛かった。
ストアから逃げ出し扉を閉め、殺虫剤やら消火器やらを噴霧したあと扉を開けると、深月は死んでいた。
完
- 363 :夜光虫:2008/01/19(土) 04:18:26
ID:MZVE4Su80
- 鳩の血―ピジョン・ブラッド―編
私は翌日に備えるため、早めに寝ることにした。
翌朝、私は珍しく機関室まで見回りに行った。ふと、足元に気配を感じた。
そこはこの船に4つあるタンクルームの一つだった。
私はハッチを開け、タンクルームへ降りて行った。懐中電灯で辺りを照らす。
すると、そこには、年の頃二十五、六歳といった美しい女性が居た。
褐色の肌に堀の深い顔立ち。指にトカゲを模した指輪をはめ、サリーを身にまとっている。
彼女はカタコトの日本語で喋りだした。
「この船はインドを通ると聞きました。お願いです、インドまで連れて行ってください」
彼女は悪い人に騙されて日本に連れてこられたのだという。帰ろうにもパスポートがないらしい。
しかし、これは密航だ。密航者を見つけたら、航海を止めなくてはならない。何てことをしてくれたんだ!
私はダメだと答えたが、彼女は持っていた皮袋を差し出した。
その中には、ダイヤ、サファイア、エメラルド・・・色とりどりの宝石が入っていた。
そんな賄賂には応じられないと突っ返そうとしたとき、私の目を赤い光が射る。
彼女の胸に、10カラットもあろうかという大きなルビーが光っていた。
それは、「鳩の血」と言われる最高級の色のものだった。
友香の誕生石はルビーだったな、これはいいお土産になるな、と思いながら、
私はそのルビーをよこせば許してやると言った。
しかし彼女は、家宝なのでこれだけは譲れないと言い張った。私と彼女は揉み合いになり、
彼女は頭を打って倒れた。息をしていない!
私はストアからビニールシートを持ってきて、彼女の死体にかぶせ、タンクルームを後にした。
私がこの手で彼女を・・・そう思うと、仕事にならない。私は頭痛がすると言い訳し、船長室に閉じこもった。
いつの間にか眠ってしまったようだ。友香の夢を見ていた。
メッセンジャーボーイが扉を叩いていた。外は大時化になっていた。
操舵室に行くと、三谷と末吉が何やら相談している。
三谷は、船の揺れがひどくなってきたので、タンクルームに海水を入れて安定させようと提案した。
タンクルームに水・・・いけない、あそこには彼女の死体が。なんとかしないと。
私は急いでタンクルームに降りた。彼女の死体はまだそこにあった。が、動かされた形跡がある。
笑い声が聞こえたので振り向くと、南条がいた。南条はあの「鳩の血」を持っていた。
「友香も、お前が殺人犯だと知ったら、悲しむだろうな」
南条は友香も「鳩の血」も手に入れるため、チェーンソーを片手に襲い掛かってきた。
逃げ惑っていると、タンクルームに海水が入ってきた。このままでは溺れてしまう。私はハッチに繋がるはしごに飛びついた。
南条も追ってきたが、誤ってチェーンソーで自分の首を傷つけてしまった。南条の血が海水に広がる。
死期を察した南条は告白を始めた。
あの時は気が動転していて気付かなかったが、私がビニールシートをかぶせた時点では、彼女は生きていて、気絶していただけだった。
その後、南条が「鳩の血」に目がくらみ、殺したのだという。
時化がおさまった後、タンクルームから彼女と南条の死体を回収した。
彼女の死体は、「鳩の血」と一緒に、家族の元へ届けてやることになった。
友香へのお土産は、たとえ小さくとも、愛がいっぱい詰まったルビーにしようと、私は密かに心に決めた。
完
- 364 :夜光虫:2008/01/19(土) 04:19:52
ID:MZVE4Su80
- ローレライ編
その夜は早目に休み、翌朝、私はタンクルームで密航者を発見した。
密航は決して許されないことなのだが、彼女を可愛そうに思った私は、とりあえず船長室に連れて帰ることにした。
「何か食べるものを持ってくるよ。何か合図を決めておこう。そうだ、私のノックは三回だ。いいね」
私はそう言って、調理室へ行きサンドイッチを貰った。船長室の扉を三回ノックすると、扉は中から開かれた。
彼女にサンドイッチを差し入れてから、私は職務に戻った。
再び船長室の扉を三回ノックしたが、扉は開かれなかった。不思議に思って中を覗くと、彼女は何者かに絞殺されていた。
私はやっていないと弁明したが、聞き入れてもらえなかった。
私は次の港に着くまで監禁されることになった。末吉は悲しそうな顔で私をロープで縛った。
乗組員が交代で私を監視する。
そのうち、外は時化になり、船の揺れがひどくなった。非常事態なので、私は戒めを解かれた。
痛む手首を擦りながら、よろめく足で船長室を出ようとしたら、野田とすれ違った。
野田は灰皿を持って、私に殴りかかろうとしている!
「死んでもらいます、船長。・・・あの女がいけないんだ。ギャアギャア喚くから、大人しくさせようとして・・・」
野田は彼女を殺し、口封じのために私も殺そうとしているのだ。
「そこまでだ、野田!今の話は、お前が仕掛けたこの盗聴器で聞かせてもらったぞ!」
三谷が部屋へ飛び込んできた。片手に黒い箱を持っている。
なるほど。この船長室には盗聴器が仕掛けられていたのか。だから、彼女が居たことも、合図もバレていたというわけだ。
野田は私と三谷を振り切って逃げた。南条も加わり、三人で野田を探した。
野田は、何故かヘッドホンをしていて、デッキにぼんやり立っていた。
ヘッドホンから伸びたコードはどこにも繋がってはいないが、野田は、
「ヘッドホンから女の声が、ローレライの声が聞こえる・・・呼んでいる!」
などと叫んでいる。突然、船がはげしく揺れた。野田はバランスを崩し、海へと落ちた。
急いで駆け寄り、野田が落ちた辺りの海面を見た。夜光虫が光っている中に、彼女が纏っていたサリーが落ちていた。
その後、必死で野田を捜索した。あのヘッドホンだけは見つかったが、遺体は何故か見つからなかった。
完
- 365 :夜光虫:2008/01/19(土) 04:22:13
ID:MZVE4Su80
- ちなみにスーファミ版がベースです。GB版はシラネ
最終更新:2008年01月20日 09:18