忌火起草

忌火起草

 

・要約版(解明編を除く):要約スレpart2-848,849

 

・詳細版:part40-406,452,407~420,438~440,448~449、part41-11~39,41,80,81


 406 :忌火起草:2008/08/21(木) 10:45:27 ID:JkrGJEo80

至高の快楽を得(う)る代わり
  黒い女に骨まで焼かれるだろう
 大壺に火が焚かれる限り
   地獄の炎から逃れる術(すべ)はない
  残された刻(とき)を知りたくば
    自らの爪に聞け

◇登場人物
弘樹(ひろき)・・・主人公(僕)。大学三年生。野草研究サークルに所属。
    愛美が好きなのだが、その想いは胸にしまいこんだままである。20歳。
愛美(まなみ)・・・サークルのメンバー。優しく可愛い、非の打ち所が無いヒロイン。
       一年前、恋人の京介を交通事故で亡くす。
京介・・・大学の薬学科のOB。弘樹とは一回りも年が違う。愛美と一緒に歩いているときに、
     交通事故に遭い、愛美を庇って死んだ。
正人(まさと)・・・サークルのメンバー。貧乏学生。
香織・・・サークルのメンバー。ゴスロリファッションに身を包んでいる。見た目通りマイペースな性格。
     弘樹が好きだと公言して憚らず、執拗にアタックしてくるので、弘樹は少々迷惑している。
健吾・・・サークルのメンバー。オカルトに目がない。二年浪人している。
飛鳥(あすか)・・・サークルのメンバー。容姿端麗で成績も優秀な完璧な男。
和子・・・サークルのメンバー。美人でスタイルがいい。飛鳥と高校生の頃からつきあっている。

◇用語
野草研究サークル・・・単にサークルとも。京介が在学中に作ったものらしい。
           昔はまじめに野草の研究をしていたらしいが、今は遊びに行くついでに野草を摘む、
           といった程度のものになっている。所属メンバーは全員三年生。
ビジョン・・・最近、若者の間で流行っているドラッグ。錠剤。健吾がネットを通じて入手し、
       キャンプのときにみんなで飲んだという。また、心霊スポットで飲むとキクとかいう話もある。
キャンプ・・・先週末、野草研究サークルのみんなで行ったというキャンプ。弘樹と愛美は不参加。
       みんなでビジョンを飲んだというが、飛鳥だけは飲まなかったという。
忌火起草・・・イマビキソウ。夏に四弁の黄色い花を咲かせる野草。
       キャンプ場に群生していたという。花言葉は「悔恨」。

◇解説
期間は7月上旬(2007年7月9日~?)の月曜日~金曜日の5日間。
「赤の話」の冒頭から始まり、そこから各ルートに分岐していくといった感じです。
色毎に7つ(PS3版は6つ)のルートに分かれていて、各ルートに一つずつ「完」エンド(スタッフロールが流れる)があります。
 
407 :忌火起草:2008/08/21(木) 10:47:53 ID:JkrGJEo80
赤の話(メインルート)

月曜日

◇ドラッグの講義
講義室で、僕は退屈な講義を聞いていた。
ドラッグの依存性とかそういう内容だ。大して興味がない内容の上に、この教授の声は眠くなる。
いつしか僕は眠りに落ちていた。
「弘樹くん」
つんつんつん。愛美が僕をつついて起こした。講義はとっくに終わって昼休みの時間だった。
学食に行こうと席を立つと、愛美が驚きの声をあげた。
僕が座っていた机に、落書きがされていた。それは片目が隠れるくらい前髪の長い女性の顔だった。
あれ?こんな落書き、あったっけ?もちろん、僕が書いたものじゃない・・・。

◇学食にて
「一緒に、いい?」
愛美と一緒にお昼を食べていると、香織と正人がやってきた。
「なあ、弘樹、間違えて買っちゃったんだ、飲んでくれよ」
正人がペットボトルのお茶を差し出してきた。貧乏学生の正人から物をもらうのは気が引ける。
断ったが、それでも正人はしつこく言うので、もらうことにした。
キャップを開けて一口、口に含むと、苦い、焼け焦げたような味が口いっぱいに広がった。
とても飲み込むことは出来ない。吐き出してしまった。
「このお茶、苦すぎるぞ」
賞味期限切れかと思って確かめてみたが、擦れていて読めなかった。
”次のニュースです。関東芸術大学の学生8人が、焼死しました”
テレビがそんなニュースを垂れ流した。それを見ると正人の顔は急に青ざめて、
逃げるように学食を出て行った。

◇イマビキソウ
サークルの部室に顔を出すと、香織がいた。テーブルの上の花瓶に、黄色い花を挿している。
先日、皆が行ったキャンプ場に咲いていたという花を持ってきたらしい。
「イマビキ草」という野草なのだそうだ。
「イマビキ草の花言葉はね、『悔恨』なの」
香織はそう教えてくれた。だけど、花言葉に似合わないほど可憐な花だ。

◇自宅で夕飯
自宅のアパートの部屋の前。僕は鍵をなくしたことに気が付いた。これで二度目だ。
こんなこともあろうかと、郵便受けに隠していた鍵を取り出す。
そして夕飯。おかずは買ってきたハンバーグ。ご飯は朝炊いておいたやつだ。
「いただきまーす」
ご飯を口の中に入れると、苦くて焼け焦げた味がする。流しに駆け込んで吐き出して、口をゆすぐ。
残りのご飯に鼻を近づけると、かすかに焦げたような臭いがしたので全部捨てた。
僕の舌がおかしくなったのだろうか?でも、買ってきたハンバーグはなんともなかった。
あのペットボトルのお茶といい、ご飯といい、誰かのいたずらなのか?
だとしたら誰が?学食に一緒にいたのは愛美と香織と正人。でも、
ペットボトルのお茶は未開封だったし、ご飯だって、人の家に上がり込んで・・・?
人為的な可能性は低いんじゃないか。何せ、サークルの仲間を疑いたくはない。

 
408 :忌火起草:2008/08/21(木) 10:49:55 ID:JkrGJEo80
◇正人の不安
突然、正人が訪ねてきた。昼、学食から出て行ったときもおかしかったけど、
今も何かに怯えているように見える。とにかく、正人と部屋の中に入れて、話を聞く。
学食で見た、芸大生たちが焼死したというニュース。
それと同一人物と思われる学生たちは、同じキャンプ場に来ていたとのことだ。
そして、正人たちと同じく、ビジョンを飲んだ。
「俺、健吾にビジョンを飲まされたんだ。ビジョンを飲むと、黒い女に焼かれて死ぬんだ!」
正人はわけがわからないことを言う。一人では不安なので、泊めてくれと言った。
「わかった。落ち着けよ。とにかく、酔っ払って寝ちまおう」
僕がコンビニに酒を買いに行こうとすると、正人は止めようとする。ほんの5分くらいだからとなだめて、コンビニに行った。
帰ってきたら、正人はいなかった。書き置きが残されていた。黒い女が来た、と書かれていた。

火曜日

◇キャンプの写真
健吾に会った。
「よう。キャンプの写真あるんだ。見る?」
僕は健吾からデジカメを受け取り、写真を見ていく。
香織が取ってきた、イマビキ草という野草がたくさん生えているのを写した写真があった。
黄色い絨毯を敷き詰めたようなその奥に、奇妙な形の古い屋敷が建っている。
健吾が言うには、その屋敷は心霊スポットで、そこに入ってビジョンを飲んだのだそうだ。
なんでも、以前製薬会社が所有していた実験施設で、床下から白骨死体がたくさん出てきたとか。
「弘樹もどうよ?これ。キクよ。ネットで買ったんだけどさ」
小さいビニール袋に入った真っ黒な錠剤を、健吾が差し出してきた。これがビジョンか。
いらないよ、と言って断った。

◇ベンチの愛美
構内のベンチに座って、熱心に本を読んでいる愛美を見かけた。
思い切って、何の本を読んでいるのか聞いてみた。
「タイトルを言ったって、弘樹くんにはわからないと思うよ。これ、京介さんが好きだった本なの」
京介の名前を聞いて辟易する。あの事故から一年。あの事故のことをふと思い出す。僕も見ていた事故。
街中で愛美を見かけた。声をかけようとして近付くと、京介と一緒だったことに気付いた。
なんとなく二人の後をつけた。今思うとストーカーのようだったな、と思う。
突然、トラックが突っ込んできた。京介は愛美を突き飛ばし、トラックと衝突した・・・。
あの事故以来、愛美から、僕が好きだったはにかんだような笑顔が消えた。
僕は愛美の心の傷が一刻も早く癒えるように、あの笑顔を取り戻せるように祈っている。
まだ愛美は京介のことが忘れられないのだろうか。僕はいつまで待たなければならないのだろうか。

◇正人からの電話
部室に行ったが、誰もいなかった。携帯電話が鳴り出した。正人からだった。
「目が鍵なんだ。黒い女が現れても、目を見ちゃ駄目なんだ」
昨日と同じく、わけの解らないことを一方的に話して切れた。
そういえば小腹が空いた。テーブルの上のトレイにはチョコの包みが盛ってある。
ひとつもらって口に入れる。またあの苦い味がした。トイレに駆け込んで吐き出した。
なぜなんだろう。なぜこんな目に・・・。部室で頭を抱えていると、突然、ドアが開いた。
「あれ、ひとり?ね、これから映画行かない?」
愛美だった。

 
409 :忌火起草:2008/08/21(木) 10:52:33 ID:JkrGJEo80
◇愛美と映画
愛美とデートできるなんて、思いがけない幸運だ。
そういえば、何を観るんだろう。
「あれにしましょう」
愛美が指さしたのは、「TOWN2 怒りの交差点」という、
みるからにB級なアクション映画の看板だった。思わず笑ってしまう。
「笑うなんてひどい。元気なさそうだったから、弘樹くんが好きそうなのにしたのに」
これも愛美なりの気遣いなのだ。僕は他のが良かったんだけど、それを観ることになった。
B級でしかも続編だけあってかなり大味だ。開始早々、眠くなってしまう。
どれくらい経っただろうか。突然、映写機がトラブルを起こしたらしく、スクリーンには何も映らなくなった。
しばらくしてから再開された映画は、さっきとは全く違う場面になっていた。
暗い地下室と思しき場所に、大きな釜が設えてあり、その中には火が燃えている。
天井から延びた鎖に、何人かの人が吊るされている。吊るされた人は、一人ずつ釜の中に入れられて焼かれている。
焼かれた人の絶叫が聞こえる。
・・・おかしい。さっきの映画の続きはどうなったんだろう。それとも、僕は夢を見ているのか?
そう思った途端、場面は突然変わり、映画の続きが始まった。
映画館を出てから、愛美に変な場面が無かったかと確認したけど、愛美は見てないと言った。
どうやら、あれは夢だったらしい。

◇レストラン
ご飯を食べてから帰りましょうと言う愛美に連れられてきたのは、高そうなイタリアンレストランだった。
確かここ、香織の両親が経営しているレストランじゃなかったっけ?
愛美とデートしているところを香織に見つかるのは嫌だ。
「なあ、ここ、高そうじゃないか?」
「大丈夫よ、クーポン券があるから」
愛美に押し切られてしまった。店内を見回してみたが、とりあえず香織はいないみたいだ。
コースの一品目の、トマトスープが運ばれてきた。
口の中に入れると、また、あの焦げたような味がする。
だが、こんなお上品な場所で吐き出すわけにはいかない。
目の前の愛美は、何事もなさそうにスープを飲んでいる。
どうしよう?どうすればいい?僕は意を決して、口の中のスープを飲み込んだ。
喉から毒が体中に広がるように感じた。

◇いやな気配
味がおかしかったのはスープだけで、その後の料理はとてもおいしかった。
やっぱり、僕の味覚がおかしいのだろうか。
部屋に帰ってから、ふと指先を見ると、爪に黒い斑点がポツポツと浮かび上がっていた。なんだろう。
デート出来たのはうれしかったが、なんだか疲れた。布団を敷いて、早々に寝てしまうことにした。
横を向いて寝ている僕の背後に、誰かいる気配がする。誰かの息づかいが聞こえる。
【あなたは、誰?】
耳元で囁く女性の声がした。飛び起きて電気をつける。当然のことながら、誰もいない。
その夜は布団を頭から被って寝た。

 
410 :忌火起草:2008/08/21(木) 10:54:10 ID:JkrGJEo80
水曜日

◇キャンプ場のノート
僕は講義をサボって、部室にいた。またあの苦い味がするかと思うと、食欲が湧かない。
爪の黒い斑点は、洗っても擦っても取れなかった。何かの悪い病気かもしれない。
テーブルの上に「キャンプ場利用者ノート」と書かれたノートが置いてあるのを見つけた。
みんなが行ったキャンプ場のもののようだ。ぱらぱらとめくってみる。
「これからあの屋敷に行く」「ビジョンを飲んで盛り上がるぜ」
あの焼死した芸大生が書いたらしい文章があった。
「キクよ、これ」「黒い女が見えた」「『あなたは、誰?』って聞かれた」
黒い女って、正人も同じようなことを言っていた。そして、昨日の夜聞いたのと同じ声が聞こえただって?
僕はビジョンなんか飲んでないのに、どうして同じ声が?
その文章を書いたのは「三上亮平」というやつらしい。覚えておこう。
「どうした、顔色が悪いぞ。それ読んだのか。けっこう笑えるから持ってきちまった」
飛鳥が部室に入ってきた。飛鳥は和子から逃げてきたのだという。
和子は最近、飛鳥にお弁当を作ってきているらしいのだが、美味しくなさそうなので、
飛鳥は何かと理由をつけて断っているのだという。

◇バスケットを持つ和子
部室から出て、外をぶらぶらと歩いていると、バスケットを抱えてしょんぼりしている和子をみつけた。
あれが飛鳥に食べてもらえなかったお弁当か。
「ねぇ、飛鳥、浮気とかしてないよね?」
そう和子が聞いてきた。浮気していたとしても僕には解らないので、曖昧に答える。
和子は僕にバスケットを渡して、去り際にこんなことを言った。
「ねぇ、自殺するなら焼身自殺がいいと思うの。全身の皮膚が焼け爛れても、人は簡単に死なない。
死ぬまで苦しみを味わい続ける・・・」
こんなものもらっても困る。僕はバスケットをその場に置いて立ち去った。

◇三上亮平
思い切って関東芸術大学に行って、三上を探すことにする。小学生の頃の友達だと適当に嘘をついた。
三上の友達を見つけた。三上は先日、焼身自殺したとのことで、遺品の整理を頼まれているという。
日本画サークルに所属していたという三上。部室には、三上の作品が遺されていた。
その中の一点に目がとまる。片目が隠れるほど前髪の長い女の絵。どこかで見たと思ったら、
講義室で机に書かれていた、いたずら書きと同じ顔だった。

 
411 :忌火起草:2008/08/21(木) 10:55:55 ID:JkrGJEo80
◇訃報
部室にみんなが集まってきた。正人は今日も姿を見せない。
そこへいきなり、健吾が駆け込んできた。
「正人が、死んだ。ビルの屋上から、自分の体に火をつけて、飛び降りたらしい」
「飛び降りたって、自殺か?」
あまりにも現実感がなかった。
「そうだ、お前にも知らせようと思ったけど、電源がオフになってたからかからなかったって」
僕はあわてて携帯電話をチェックした。留守番電話が入っていたので聞く。
「助けてくれ、焦げが・・・。み、見るな、・・・俺は、正人だ!うわぁーっ!!」
正人が死に際に録音したらものらしい。焦げって?それに、自分の名前を言うって・・・?
僕はすぐに、ビジョンと正人の死を結びつけた。健吾に詰め寄った。
「お前がビジョンなんて飲ませるから、それで正人は幻覚を・・・・」
「俺だって、飲んだら死ぬもんなんか、飲ませるかよ」
「落ち着けって。ビジョンのせいとは言い切れないだろ?」
飛鳥が僕と健吾の間に割って入った。
「ねぇ、ビジョンを飲んじゃったんだけど、大丈夫だよね?」
香織が不安がっている。和子は、自分たちはなんともないから平気だろうと言った。
「・・・正人は、みんなよりも早く飲んでるんだよ。キャンプに行く前、下見のときに・・・」
みんなに動揺が走った。
「大学病院に知り合いの医者がいる。ビジョンの成分を調べてもらおう」
飛鳥は健吾からビジョンの入ったビニール袋を受け取ると、部室を出て行った。


木曜日

◇正人の自殺現場
正人の自殺現場に行ってみた。焼け焦げた跡がある。
正人は本当に自殺したのか?ビジョンを飲んだことと関係があるのか?
黒い女とはどういうものなのだろう?正人は、黒い女に殺されると言っていた。
そして、名前を言ったのはどういう意味なんだろうと、考えをめぐらせてみるが、もちろん解るはずもない。

◇死刑宣告
部室に行くと、椅子に座った健吾の周りを、みんなが囲んでいた。
健吾が皆に必死で訴えている。ビジョンを飲むと、黒い女の幻覚が見えて、やがて死ぬと。
「昨日から俺も見るんだよ。黒い女が出てきて、『あなたは、誰?』って迫ってくるんだよ」
現実的な飛鳥は、そんな話を信じようとはしない。
「嘘じゃないって!この爪を見てくれよ!」
健吾の爪は黒かった。これって、まさか・・・。
「あのさ、ビジョンって、どんな味がした?」
僕はなるべくさりげなく、そう聞いてみた。
「味って・・・何か、苦くて、焦げたような味だったけど?」
和子はそう言った。それは死刑宣告のようなものだった。
あのトマトスープに入っていたのはビジョンだったのだ。

 
412 :忌火起草:2008/08/21(木) 10:58:10 ID:JkrGJEo80
◇落ち込む健吾
構内のベンチでうなだれている健吾を見かける。僕と健吾に残された時間はもう少ないのかもしれない。
健吾と協力したほうがいいだろう。
「僕たちもビジョンについて調べてみないか。なあ、ビジョンはネットで買ったんだよな?
そこから調べれば・・・」
健吾の部屋にお邪魔することになった。健吾はパソコンを立ち上げて、
ビジョンを買ったというホームページにアクセスする。だが、表示されているのは「Not Found」の文字。
次に健吾は、怪しげなチャットルームに入室して、ビジョンに関しての話題を振った。
何人かが食いついてきた。誰かが謎のアドレスを貼って、退室していった。
そのアドレスにアクセスしてみる。
 至高の快楽を得る代わり
 黒い女に骨まで焼かれるだろう
 大壺に火が焚かれる限り
 地獄の炎から逃れる術はない
 残された刻を知りたくば
 自らの爪に聞け
謎の文章が表示された。これはビジョンに関する言葉らしい。それを見た健吾はいきなり奇声をあげた。
「そうか、そういうことか。黒い女と目を合わせることで、焼け死ぬってわけか。
精神は肉体を支配する。催眠術で、これは火箸ですって割り箸を押し付けられると、火傷するみたいなもんだ。
つまり黒い女の持っている火のイメージが伝わって・・・」
健吾は一人でエキサイトしている。僕は健吾をほっといて帰った。

◇部屋の中に・・・
夜、部屋に帰ってくると、微かに焦げたような臭いがする。
暗闇に目を凝らすと、壁に、人の形の黒い焦げ跡のようなものが見える。
焦げ跡から何者かが這い出してくる。黒く焼け焦げた体の、女のようだった。
「目を見ちゃ駄目なんだ」
正人が言った言葉が思い出されるが、僕はなぜかそいつから目を逸らすことができない。
【あなたは、誰?】
そうか、「俺は、正人だ」ってこういうことなのか。
突然携帯電話が鳴ったので我に返る。電話の向こうでは香織が能天気な声を出していた。
黒い女の気配は消えた。電気をつけてみると、壁には焦げ跡などなかった。


金曜日―The Last Day

◇飛鳥と大学病院へ
飛鳥から電話だ。ビジョンの成分がわかったということなので、一緒に話を聞きに行った。
ビジョンはイマビキ草が原料になっている。イマビキ草の正式名称はヘンルーダ。
ヘンルーダの有効成分のクロクマリンは、滋養強壮の薬効があるが、多量に摂取すると、
副作用の光増感作用によって皮膚炎を起こしたりするそうだ。
ビジョンの成分そのものには、有害な成分は含まれていない。
少なくとも、幻覚を見たりするようなことはないらしい。
昔、同じくイマビキ草を主原料にしたイマビキ湯と言う薬を作っていた製薬会社があるが、
その製薬会社はとっくに潰れているとのことだ。

 
413 :忌火起草:2008/08/21(木) 10:59:56 ID:JkrGJEo80
◇ビジョンを調べる
大学に戻った僕は、ビジョンについて調べることにした。
図書室に行って、ネットも使って調べる。
イマビキ湯の製法は、江戸時代頃からあるそうだ。それを、戦後すぐに、
守矢堂(もりやどう)という製薬会社の社長夫人、亜美が復刻させたらしい。
だが、亜美が焼け死ぬという事故が起こった。使用人の堀内という男も顔に火傷を負ったらしい。
それからしばらくして、守矢堂は潰れてしまったとのことだ。
古い新聞記事をみてみると、亜美の顔写真と、守矢堂の屋敷が写っている写真が載っていた。
亜美は片目が隠れるほど前髪の長い女だった。どこかで見たことがある。
そうだ、講義室の机の落書き、そして、三上が遺した絵の女だ。
そして、守矢堂の屋敷は、キャンプ場の近くの心霊スポットだった。
屋敷の中にあるという、奇妙な形の大釜が写っている写真もあった。
みんなを呼び出して、調べたことを伝える。
香織が突然、立ちくらみを起こして倒れた。
飛鳥が、自分の車で香織を送っていくという。
「弘樹、お願い」
香織に懇願され、僕も一緒に行くことになった。

◇駐車場で
駐車場で、飛鳥の車に先に乗って待つ。飛鳥と和子はなにやら言い争っている。
突然、飛鳥の体がフロントガラスに押し付けられた。その上に、和子が乗って、唇を重ねる。
こんなときに何をやってるんだと思った。あれ?飛鳥の様子がおかしい。
車から飛び出す。和子がようやく、唇を離す。飛鳥は口から黒い液体を吐き出した。
「やっと飲んでくれた!だって、飛鳥ったら、お弁当作っても、ぜんぜん食べてくれなかったんだもん」
和子の体から炎が噴き出す。和子は飛鳥を抱きしめる。二人は一緒に燃えて消し炭になった。
「俺も、俺ももうじき、死ぬんだ!!!」
健吾の声が聞こえた。恐怖にかられた健吾は、走って駐車場を出て行った。

◇健吾を追う
健吾の後を追いかける。健吾は止まらずに走り続けた。なかなか追いつけない。
道路を強引に渡ろうとして、トラックに轢かれた。
トラックの下敷きになった健吾は動かなかった。
呆然としている僕は、背中に何かが押し付けられる感触を感じた。意識があるのはそこまでだった。

◇香織の部屋で
目を覚ますと、そこは香織の部屋だった。
香織は僕をスタンガンで気絶させて、ここに連れてきたらしい。
「ビジョンの効果は、男と女では違うみたい。男は黒い女を見るけど、
女は好きな人にビジョンを飲ませたくなるのよね」
香織はそんなことを言う。駐車場での和子の行動は、そういうことだったのか。
ペットボトルのお茶もご飯も部室のチョコレートも、そしてレストランのトマトスープも。
全て香織がやったことだった。ペットボトルには注射器で注入したという。
ご飯は、鍵の隠し場所を知っていたので、無断で僕の部屋に入ってやったらしい。
レストランでは、厨房でこっそりと。僕をレストランに来させるために、愛美にクーポン券を渡した。
香織は、水の入ったコップを持ってきた。そこに、大量の黒い錠剤・・・ビジョンを入れて、かき混ぜる。
あんなに大量に飲まされたら・・・と思うと背筋が寒くなる。逃げようとするが体が動かない。
そのとき、香織の体から炎が噴き出した。香織は絶叫と共に燃えていった。

 
414 :忌火起草:2008/08/21(木) 11:02:19 ID:JkrGJEo80
◇愛美の家へ
僕は香織の部屋を出て、走った。さっき香織が言っていた中で、ひっかかることがある。
あのことを確かめなければ。愛美の家に着いた。インターホンを連打する。
頼む。お願いだ。僕の思い過ごしであってくれ。
愛美が出てきた。いやな予感は当たってしまった。愛美の爪は、僕のように黒かった。
「香織のレストランだろ?」
愛美はうなずいた。自分が情けなくて腹が立ってくる。何か愛美を助ける方法はないのか?
ひとつ、思い当たることがある。映画館で見たあの夢。
あの大釜と、昨日謎のアドレスで見たビジョンにまつわる言葉。
 大壺に火が焚かれる限り
 地獄の炎から逃れる術はない
この大壺は同じものではないのか。大釜は、キャンプ場の近くの屋敷にある。
きっと屋敷に行って釜の火を消せば、呪いから逃れられるのではないだろうか。
「あの屋敷に行ってみる」
そう愛美に告げる。
「待って、私も行く」
危険だからと止めようとしたけど、愛美はどうしても行くと言う。
「わかった。一緒に行こう」
愛美の運転で、屋敷に向かう。

◇屋敷に着いて
イマビキ草の絨毯の向こうに、奇妙な形の屋敷が見える。
屋敷は、執拗なまでに増改築を繰り返したので、こんな形になってしまったらしい。
僕と愛美は壊れた門の隙間から、屋敷の中に入った。

○守矢堂の歴史
大広間を抜けて、亜美の写真などが飾ってある、応接間に着いた。守矢堂の歴史が見て取れる。
亜美は召集され、戦争に行ってしまった夫が帰ってくるのを待った。
戦争で傷付いた夫を癒すべく、イマビキ湯を復刻させた。
だが、戦死の通知が届いた。亜美の精神は壊れてしまった。
もっと効果の高いイマビキ湯を作れば、夫が帰ってくる、そう思い込んで、
亜美は調合室に篭りっきりになった。そんなとき、事故が起こって亜美は焼死した。

○大きな釜
地下へと降りる通路を発見する。愛美をその場に残して降りていく。
地下室で、あのとき映画館で見た幻とそっくりの釜を発見する。
だが、火はついていなかった。
そんな・・・。釜の火を消せばどうにかなると思ったのに。
何気なく釜に手を触れると、いきなり映像が頭の中に流れ込んできた。
釜には火が焚かれている。鎖に吊るされた人が焼かれている。
釜の下から何かが滴っている。それは人の脂だった。
集められた人の脂は、黒い液体に混ぜられた。これは、イマビキ湯を作っているところなのか?
ハッとして手を離すと、映像は消えた。
・・・あきらめてはいけない。まだ他にも釜があるかも。
僕は元来た道を戻った。

 
415 :忌火起草:2008/08/21(木) 11:06:00 ID:JkrGJEo80
○京介の影を追う愛美
釜を見つけたけど火はついていなかったことを愛美に話す。
愛美は上の空で聞いている。
「この屋敷に、京介さんがいるの」
突然、愛美が変なことを言い出すので驚く。
「京介は死んだんだ!死んだ人のことを忘れないのと、
死んだ人のことをいつまでも引きずるのは、別だ」
僕は訴えたけど、効果はなかった。
「弘樹くん、ごめんなさい。私、京介さんを探しに行く!」
愛美は走り出した。後を追いかけたが、追いつけないばかりか、どんどん距離が開いて、見失ってしまった。

○屋根裏部屋
屋根裏部屋に来た。人の気配がする。顔に火傷のある老人が静かに座っていた。
「もしかして・・・堀内さんですか?」
老人はうなずいた。この人が亜美の使用人の堀内だった。堀内は僕に話す。
「イマビキ湯には、旦那様への想いがこめられているのです。
だから、イマビキ湯を飲んだ男は、亜美様に取り憑かれてしまいます。
女が飲むと、愛する男にイマビキ湯を飲ませようと思ってしまうのです。
お連れの女性は亜美様に選ばれたのですよ。イマビキ湯を作り続けるために」
帰らない京介を待ち続ける、そんな同じ境遇が亜美の目にとまったらしい。
今はもう、亜美の代わりに調合室に篭っているだろうとのこと。
堀内は、愛美をあきらめなさいと言うが、僕にはあきらめる気はなかった。
それなら一つだけ愛美を助ける方法がある、愛美を屋敷から連れ出せたらそれを教えると堀内は言った。
「ありがとうございます!」
僕は堀内に頭を下げてから、調合室へ向かった。

 
416 :忌火起草:2008/08/21(木) 11:14:36 ID:JkrGJEo80
○調合室で
調合室で、愛美は薬瓶や器具をカチャカチャやっていた。
僕が話しかけても無視している。愛美の手を取る。
すると、また映像が流れ込んできた。
調合室に亜美と、堀内がいた。
「亜美様、もうおやめ下さい。わたくしでは、旦那様の代わりにならないのですか」
すがる堀内を無視する亜美。
「あなたは黙って人を攫ってくればいいのよ」
突然、調合室の扉が開き、制服の男たちが亜美を取り囲んだ。男たちは亜美に灯油をかける。
「やめろ、そこまでするなんて聞いてないぞ」
堀内はそう言ったが、男たちは聞かずに、亜美に火をつけた。
亜美が燃え上がったのを確認すると、男たちは帰っていった。
堀内は火を消そうとした。顔に火傷を負った。だがもう遅い。亜美は全身真っ黒に焼けてしまった。
だが、亜美はまだ生きていた。ゆっくり目を開いて言う。
【あなたは、誰?】
その言葉に、堀内の顔が怒りに染まっていく。
「どうして、どうして私の気持ちに応えてくれないんだ!こんなに愛しているのに!」
そう言って堀内は、亜美の首に手をかけて、力いっぱい絞めた――。
手を離すと映像は消えた。
とにかくここから連れ出そう、そう思って、愛美を引っ張ったが、動かない。
愛美の心は一切を拒絶している。愛美の心を開かせるもの。それはあれだ。
「愛美、京介だって、生きたいと思うはずだよ」
京介の名前を聞いて、わずかながら反応があった。僕は愛美を後ろから抱きしめた。
胸に万感の想いがこみあげる。
「こんなところで終わるなんて、絶対にいやだ。・・・ずっと言えなかったことがあるんだ。
はじめて会ったときから、僕はずっと愛美のことが・・・」
急に愛美の体から力が抜けた。僕は愛美を抱えた。
ホッとしたのも束の間、暗がりから黒い女―亜美が現れて、愛美を捕まえようとしている。
危ない、そう思ったとき。
【ガチャン!!!】
なんの音だろう?金属質の大きな音がして、亜美の動きが止まった。
その隙に、逃げようとした。左の足首に激痛が走る。亜美の手が、僕の足を掴んでいる。
亜美は顔を上げようとしている。目を見てはいけないのだが、顔を見たい衝動に駆られた。
【あなたは、誰?】
その声に、ハッと我に返る。
「僕は、弘樹だ!お前の夫じゃない!!」
僕は足を強引に引き抜いて、愛美を抱えて調合室を出た。

○大広間まで逃げ延び
足の激痛に歯を食いしばりながら、大広間まで来た。
亜美はまだ僕たちを追いかけてきていた。
僕の腕の中の愛美がうわごとで、京介の名を呼ぶ。
「愛美、京介はもういないんだ。でも、僕が守る。君を絶対に守ってみせる!!」
なんとか進むが、ついに限界が来た。もう逃げられそうにない。亜美が迫ってきている。
「亜美様、そうやって、旦那様のために、ずっとイマビキ湯を作り続けるのですね」
階段の上に堀内がいた。堀内は、亜美目掛けて灯油缶を投げる。
「どうしてあなたは、私を呪ってくれないのですか!あなたを手にかけたこの私を」
堀内はマッチを擦って投げた。亜美は炎に包まれた。炎はたちまち屋敷に燃え広がった。
大広間に煙が充満する。煙の中に、大釜で焼かれた人たちの霊が見える。
霊たちは僕たちに襲いかかってきた。
僕はどうなってもいい。愛美だけでも逃がしたい。
意識が戻った愛美を、玄関ホールの方に突き飛ばす。これでもう、大丈夫だ。

 
417 :忌火起草:2008/08/21(木) 11:16:40 ID:JkrGJEo80
○愛美の手
煙はどんどん濃くなっていく。でも、もう一歩も動けない。
煙の中に、愛美の手が差し出されているのが見えた。僕はその手を掴んだ。僕は助かった。
屋敷から出て、愛美に手を引かれながらイマビキ草の中を走る。
屋敷から十分離れたところでやっと止まった。
夜が明ける。背後の屋敷は焼き尽くされようとしていた。
ふと見ると、爪が元通りの色になっていた。愛美の爪も戻っている。
「私、怒ってるんだよ。弘樹くん、私だけを逃がそうとしたでしょ。
あのとき、私がどんな気持ちだったと思うの」
愛美がそう言うと、僕はごめんと謝るよりほかなかった。
「死んだ人のことを忘れないのと、死んだ人のことをいつまでも引きずるのは、私も別だと思う」
えっ?
「調合室で、声、聞こえたよ。うれしかった。ありがとう。続き、聞かせてくれる?」
朝日をバックに、愛美が心からの笑顔を見せた。その笑顔は僕がずっと待ち焦がれていたものだった。
「もちろん」
僕は答えた。

○帰り道・・・
帰りは僕が運転することになった。足首の怪我は思ったより軽く、車の運転ぐらいは大丈夫だった。
助手席の愛美は無言だった。ちらりと見ると、そこには愛美ではなく、着物を着た知らない女が座っていた。
”ありがとう”
女は言った。僕は驚いてハンドル操作を誤った。車はガードレールにぶつかって止まった。
フロントガラスが割れている。僕は立とうと思ったが、胸の辺りが痛くて動けない。
助手席の女は消えていた。遠くに愛美の後姿が見える。そして、愛美の後ろにぴったり寄り添う影が見えた。
爪を見ると、また黒くなっていた。どうして?亜美の呪いは解けたんじゃなかったのか・・・?

完<幽霊が見える薬>
 
418 :忌火起草:2008/08/21(木) 11:19:34 ID:JkrGJEo80
今日はここまで。
 
419 :ゲーム好き名無しさん:2008/08/21(木) 12:12:22 ID:n5epQpy50
忌火起草乙
なんというバッドエンド
でもこれでスタッフロール見れるんだよね
 
420 :忌火起草:2008/08/21(木) 12:22:16 ID:JkrGJEo80
>>419
そうなんだよね
途中まではわりといい感じで
調合室なんかは、かなりぐっときて泣けるんですが
最後でひっくり返されてバッドエンドになってしまうんだよね
それはどうしてなのかは解明編で明かされるのでお楽しみに。
 
438 :忌火起草:2008/08/22(金) 08:47:00 ID:8jeAK7zx0
続きをいこうかと思ったが
次スレに一気に貼った方がいいと思うので
とりあえず番外編置いときますね
 
439 :忌火起草:2008/08/22(金) 08:49:26 ID:8jeAK7zx0
紫の話(番外編)

レストランのスープは苦い味がした。僕は意を決して吐き出した。
次の日、部室に駆け込んできた健吾から、正人の死が告げられる。
正人の首には噛まれた跡があって、体中の血を抜かれて死んだらしい。テレビでは、「連続猟奇殺人事件」と報道されていた。
正人の他にも、芸大生が血を抜かれて死んだらしい。また、焼死した芸大生もいる。正人と芸大生の接点は、ビジョンを飲んだという一点だけだ。
健吾も香織も和子もビジョンを飲んでいる。香織に電話をかけると、窓の外に正人が立っているのを見たと言った。和子も正人を見たと言う。
サークルメンバーは健吾のマンションに集まった。健吾は、この連続殺人事件は吸血鬼の仕業だと言う。
どうしてかはわからないが、ビジョンを飲んだ人を吸血鬼は襲っている。
健吾は自室に篭って、しばらくしてから出てきた。にんにくに十字架、白木の杭に銀のナイフ。吸血鬼退治グッズに身を固めている。
僕もできることをしなければ。健吾のパソコンを借りて、ネットでビジョンのことを調べる。
ビジョンは今惹湯という薬と同じ成分らしい。今惹湯は戦後すぐに守矢堂という製薬会社が発売した薬で、
飲みすぎると人体発火するという噂があったという。
今惹湯のせいで死んだ人の遺族が、開発者の亜美ををリンチ殺人したそうだ。
飛鳥は図書館で今惹湯のことを調べると言って、和子と一緒に出て行った。
その夜。突然停電になり、吸血鬼と化した正人たちが窓を破って襲い掛かってきた。
僕と健吾と香織で、なんとか吸血鬼たちと戦う。落ちていたブレーカーを上げる。
正人は正気に戻った。僕たちに、明かりを消してくれと頼むが、聞かなかった。
しばらくすると、正人と仲間の吸血鬼は燃えて灰になってしまった。
次の日。みんなは家に帰った。僕は大学に行ったが愛美の姿が見えない。香織も休んでいる。和子は吸血鬼に襲われて死んでしまった。
香織の部屋に行ってみた。昼間だというのに窓には厚いカーテンがかけられていて暗い。
香織は髪をかきあげる。首筋に噛み跡があった。いつ噛まれたのだろう。
香織は僕に襲いかかってきた。僕は香織に噛まれてしまった。このままでは、正人みたいに血を抜かれて・・・。
僕はカーテンを開けて、香織ともつれ合いながら、窓から外に飛び出した。
日の光に晒された香織の体から火が噴き出す。僕は愛美が心配になって、愛美の家へ走った。
愛美は無事だった。守矢堂が怪しいということになり、愛美と一緒に守矢堂があった屋敷へと向かう。
屋敷に着くと、吸血鬼が襲ってきた。それは健吾だった。愛美がいきなりボウガンを取り出して撃った。
わが目を疑う。愛美は吸血鬼退治の国際エージェントだったのだ。
愛美は、吸血鬼に噛まれてしまった僕は、やがて吸血鬼になってしまうが、吸血鬼のボスを倒せば元に戻れると言った。
応接間に来た。守矢堂の歴史が見て取れる。実は吸血鬼のボスは亜美だと愛美はいう。
今惹湯を飲んだ人は副作用の光増感作用により、光を嫌うようになり、
その血が吸血鬼好みの味になるらしい。ビジョンを飲んだ人が吸血鬼に襲われたのはそういうことだったのだ。
地底へと続くかと思われる、長い長い下りの螺旋階段に着いた。亜美はこの下にいるらしい。
そこへ、黒いマントを身に着けた飛鳥がやってきた。
飛鳥はデイウォーカー・・・昼間出歩いても平気な力の強い吸血鬼だったのだ。
僕は愛美を先に行かせることにした。飛鳥とにらみ合う。僕は内なる力を渇望した。
自分の中で高まっていく吸血鬼の力を感じる。僕は渾身の力を込めて飛鳥に殴りかかった。
僕の拳が飛鳥の頬をかすめた。その一瞬の隙を狙って、飛鳥の口に閃光弾を突っ込んだ。
まぶしさに目を閉じる。目を開くと、飛鳥はもういなかった。
螺旋階段を下りると洞窟があった。洞窟のには、亜美と愛美が立っていた。
愛美の様子がおかしいことに気づく。愛美は亜美に操られていた。愛美は僕の首に手をかけて、締めつける。
なにかないかと思い、僕は愛美の体をまさぐった。閃光弾が見つかった。
これを投げれば亜美は・・・。でも、僕も焼け死ぬかもしれない。
それでもいい。僕は愛美のためなら死ねる。閃光弾を投げた。亜美は業火に焼き尽くされた。
僕は元に戻れた。愛美は一人で去っていこうとしたけど、僕の心は決まっていた。
僕は愛美と一緒に吸血鬼と戦い続けることになった。

完<吸血鬼との死闘>
 
440 :忌火起草:2008/08/22(金) 08:51:34 ID:8jeAK7zx0
ピンクな話(恒例のピンクのしおり)

学食で、正人からもらったペットボトルのお茶は、ものすごく甘い味がした。
もちろんすぐに吐き出した。
その後に口に入れたご飯や部室にあったチョコレートも異常に甘い味がした。
健吾に見せられたビジョンの錠剤はピンク色をしていた。
正人が家にやって来て言う。ビジョンを飲むと、エロい女に取り憑かれて、
エロい気分になり、最終的には全裸になって走り出す、とのことだ。
そして、正人はビジョンを飲んでしまったらしい。
キャンプに行った芸大生も全裸になったと、テレビが報道している。
もしかして、愛美にこっそり飲ませれば、あんなことやこんなことが・・・?
愛美と映画の帰りに寄ったレストランのスープは、甘い味がした。
吐き出すわけにはいかないので飲み込んだ。
正人は心配したとおり、全裸になってしまった。
健吾もビジョンを飲んでしまったと言って頭を抱えている。
僕は、レストランのスープにビジョンが入っていたことを知った。
夜にエロい女の幻覚を見るようになった。
エロい女に全裸にされる前になんとか解決しなくては。
僕は、ビジョンが守矢堂という製薬会社が開発した惚れ薬と同じ成分だということを突き止めた。
エロい女は守矢堂の社長夫人の亜美らしいこともわかった。
亜美は、帰ってこない夫のことを想いながら惚れ薬を作っていた。
完成した惚れ薬を、亜美はお守り袋に入れて持ち歩いていたという。
僕は愛美と共に守矢堂の屋敷へと向かった。
愛美は僕に向き直って言う。
「弘樹くん、あなたが欲しかったの」
お茶とご飯にビジョンを入れたのは愛美だった。
屋敷にはなぜか香織も待っていた。チョコレートとスープにビジョンを入れたのは香織だった。
ビジョンの正しい使い方は、一錠を二つに割って、
自分が半分を飲み、残り半分を相手に飲ませる、というものらしい。
香織は、僕がどちらのスープを飲むかどうか解らないので、愛美の方にもビジョンを入れたらしい。
愛美はそのせいで、体が火照って火照って仕方ないと言う。
僕の前で愛美と香織が、どっちにするのか、とせがんでいる。
僕はとても幸せでもあり、同時に不幸せでもあった。
そして、二人の後ろに、エロい女・・・白衣姿の亜美の姿が見えた。
僕は愛美と香織を断り、亜美を選んだ。
愛美と香織は不服そうだ。二人はいきなり服を脱いで僕にあんなことやそんなことを――。
(ビジュアルではなくSEと台詞で見事に表現)
亜美がやってきて、僕に触れる。僕の首には、先ほど見つけたお守りがかかっている。
”忘れないでいてくれて、ありがとう”
亜美の姿が消えていく。呪いは解けた。
「キャー!弘樹のバカ!変態!」
正気に戻った愛美と香織が、僕を罵る。亜美の呪いのせいなのに、記憶がないらしい。
さて、これから僕たちがどうなるか。それは別の話だ。

完<飲むとモテる薬>

 
448 :ゲーム好き名無しさん:2008/08/22(金) 21:09:36 ID:4xVlISJz0
次スレ乙
忌火起草のピンクシナリオで、京介のヒッチハイクには吹いたww
 
449 :忌火起草:2008/08/22(金) 21:34:55 ID:8jeAK7zx0
>>448
記憶がないから今確認した

ピンクでは京介は交通事故に遭ってなくて、
愛美に別れ話を切り出した直後、決死のヒッチハイクをして、
飛び出してきたトラックに飛び乗って去っていったんだって。

こんな突拍子もないことを淡々と語る弘樹くんの声の人が最高です。
 
11 :忌火起草:2008/08/22(金) 21:05:00 ID:8jeAK7zx0
※色の名前は漏れの独断で決めさせていただきました。
浅葱色→青
琥珀色→茶色
若葉色→黄緑or緑
瑠璃色→濃青or紺
2chの本スレではこういう呼び方らしいです。
他の場所だと他の呼ばれ方かも知れません。
とにかく浅葱色(青緑っぽい色)を青と呼ぶのには抵抗があるので・・・すみません。

浅葱色の話(京介または愛美寄りの選択肢を選ぶ)

月曜日

学食で会った正人は、なんだか様子がおかしかった。なにか、思いつめたような感じだった。

◇愛美の来訪
夜、アパートに帰って夕飯を食べようとしたとき、ドアをたたく音がした。
ドアスコープをのぞくと、愛美が立っていた。
「今日はどうして?」
緊張して声が上ずってしまった。
「うん、ちょっと話がしたくて」
そんな理由で愛美がわざわざ一人で訪ねてくるなんて。
「それで話って?」
「弘樹くんは、好きな人のために命を投げ出すことができる?」
あまりに唐突な質問だった。それって、愛美をかばって死んだ京介のことだろうか。
命がけで愛美を守ってみせる、と口ではいくらでも言える。しかしもし同じような場面に遭遇したら・・・?
しばらく考えた後、僕は言った。
「僕なら、好きな人のためなら、命を懸けるだろうな」
口に出してみると確信がもてた。
「自分の命よりも大事な人がいること。それが愛するってことじゃないかな」
おお、決まった。我ながらかっこいい。
「やっぱりそうだよね。よかった。弘樹くんに相談して。ありがとう、じゃあまた明日」
愛美は晴れやかな顔で去っていった。


火曜日

部室で一人でぼーっとしていると、正人から電話がかかってきた。
 至高の快楽を得る代わり
 黒い女に骨まで焼かれるだろう
 大壺に火が焚かれる限り
 地獄の炎から逃れる術はない
 残された刻を知りたくば
 自らの爪に聞け
謎めいた言葉を正人は口にした。
「俺、ビジョンを飲んだんだ。ビジョンを飲むと、黒い女に焼き殺されるんだ!」
正人は言いたいことだけ言ってから電話を切った。

 
12 :忌火起草:2008/08/22(金) 21:06:55 ID:8jeAK7zx0
◇民俗学の教授
部室のドアがノックされて、中年女性が入ってきた。彼女は大柄でがっしりとした体つきだ。
「ええと、君が弘樹くん?私は田辺。民俗学を教えてる」
そういえば、どこかで見たことがある人だった。
「ビジョンのことで聞きたいことがあってね。なんでもいいから話してくれないかな」
なんでそんなことを聞くんだろう。そもそも僕はキャンプにも行ってないし、ビジョンを飲んでない。
僕はほかの人に聞いてくださいと答えた。
「もし面白い話があったら連絡して。それじゃ」
田辺は僕にメモを渡すと去っていった。携帯電話の番号が書かれていた。

◇いたずら電話
携帯電話が鳴る。ディスプレイには非通知の表示。誰だろう。出てみたが、ノイズ交じりでよく聞き取れない。
『愛美に近づくな。死の向こうにお前は行けない。お前は死に留まる』
押し殺したような声だった。どういう意味だろう。たちの悪いいたずらだ。

愛美と一緒に映画に行くことになった。
映画を見ていると、映写機トラブルでしばらく中断された。

◇脅迫
退屈な映画が再開されてしばらくたった頃。僕の耳元でささやく声がする。
『動くな。黙ってろ』
またもや押し殺したような声。僕のわき腹に、なにやら固いものが突きつけられている。
『死ぬぞ。苦しんで苦しんで死ぬぞ。愛美に寄るな、近づくな。わかったら頷け』
僕は従う気になれなかった。
『それなら死んで想いを遂げろ』
えっ?僕が片思いしているのを知っているのか。そのまま数分が過ぎた。
僕の背後から気配が消えた。恐る恐る振り向くと、誰もいなかった。
座席の間にボールペンが挟まっていて、それが僕のわき腹に当たっていた。

◇脅迫者の正体
その夜。布団に横になる。携帯電話が鳴ったので取る。
『いい子だ。もっとも、死ねばもっといい子になれるが』
映画館でささやいてきた、押し殺したような声だった。
「いいかげんにしてくれ!お前、誰なんだ!!」
『わからないのか。京介だよ』
電話は切れた。


水曜日

◇京介に似た人影
僕は大学の中庭を歩いていた。
あっ!?目の前のベンチに、スーツ姿の男がゆったりと腰を下ろしている。
そんな馬鹿な。信じられない。死んだはずの京介がなぜいるんだ。
そんなはずはない。あれは別人だ。ただの見間違いであってほしい。
「弘樹!」
背後から和子が話しかけてきた。京介に似た人影が気になっていた僕は早々に会話を打ち切った。
でも遅かった。あの男の姿はどこにもなかった。
 
13 :忌火起草:2008/08/22(金) 21:08:42 ID:8jeAK7zx0
◇発信者はK
部室でみんなは思い思いにくつろいでいた。愛美はなんだかニコニコしている。
「・・・機嫌がいいね」
「いいですよ~」
彼女が笑顔を見せてくれるのはうれしい。
「実はね、いいことがあって」
愛美は携帯電話を取り出した。受信メールが表示されている。
「もうちょっとしたら君に会えると思う。私を信じて待っていてほしい」
発信者はKとなっていた。
「京介さんからなの」
愛美は満面の笑みを浮かべている。京介は生きているのか?
それでも信じることができない。だいたい、なぜイニシャルでメールを送るのだ。なにかがおかしい。
「愛美、わかっていると思うけど、彼はもう・・・」
「ちょっと身を隠していたのね。でも、それももう終わりみたい」
愛美は京介が生きていると信じて疑わない。僕はもう、なにをどう言ったらいいのかわからなかった。

部室に駆け込んできた健吾の口から、正人の死が告げられる。
正人は、体に自ら火をつけて死んだという。
ビジョンを飲んでしまった仲間たちに不安が広がる。
飛鳥が、知り合いの医者にビジョンの成分を調べてもらうと言った。


木曜日

◇京介の家へ
目先の問題の、京介のについて調べてみよう。
そこは閑静な住宅街だった。実は、前に一度京介の後をつけたことがあって、
僕は京介の自宅の場所を知っていたのだ。愛美には絶対内緒だが。
京介の家は、もう誰も住んでないようだった。鍵のかかっていない窓から中に入る。
書斎で気になるものをみつけた。埃をかぶった薄いファイルだ。中には名簿のようなものと、一枚の写真が入っていた。
写真を見る。祭壇のようなものの前に男女が並んでいる。真ん中に京介が写っていた。仮面の女性の肩に手を回している。
二人の後ろに、五人の女性が立っていた。その中には、愛美がいた。
名簿を見ると、五箇所に印がついている。すべて女性の名前だ。その中の一つは愛美だった。
少し迷ったが、僕はそのファイルを持って、京介の家を出た。

◇京介の家族
僕はファイルとにらめっこしていた。やっぱり仮面の女性が気になる。思い切って愛美に遠まわしに聞いてみることにした。電話をかける。
「あれ、弘樹くん」
耳に弾んだ声が飛び込んできた。
「なんか、楽しそうだね」
「わかる?だって、もうすぐだから」
「もうすぐって、なにが」
「内緒。それより、なんの用でしょうか」
「う、うん。京介のことなんだけど。あの人の家族って、なにをやっているの」
愛美はすこし訝りながらも教えてくれた。京介の父は早くに亡くなっていた。
「お母さんは立派な方よ。『奇跡の娘たちの会』って知ってる?
京介さんのお母さんを中心とした集まりなの。私も一度だけ集会に呼ばれたの」
これ以上はボロが出そうなので電話を切った。
 
14 :忌火起草:2008/08/22(金) 21:10:01 ID:8jeAK7zx0
◇「奇跡の娘たちの会」
大学の図書館に行って、奇跡の娘たちの会についてネットで調べてみたが、
それらしいものはみつからなかった。
「奇跡の娘」について調べてみる。
肉体を替えながら永遠に生き続けるという娘の神話が、欧米にはあるらしい。
次に、名簿の印が付いている、愛美以外の四人に電話をかけてみる。
四人目でやっとつながった。どうやら、彼女はなにものかに殺され、
しかも犯人はまだ見つかっていないらしかった。

◇連続美女殺人事件
四人の中で特に珍しい名前「壬生崎宙子(みぶざきそらこ)」を
ネットで検索してみると、すぐにみつかった。
四人はすでに殺されていた。
今からだいたい一年前、壬生崎宙子は、大型犬のゲージに閉じ込められ、
生きたまま焼かれて殺されていた。遺体からは小指が切断され、なくなっていた。
二人目、三人目、四人目の女性も、ゲージに閉じ込められて焼かれて死んだ。
やはり指が一本ずつなくなっていた。
警察は、四人には共通点がないとして、通り魔的殺人事件として調べている――。
いや、ちがう。四人は、奇跡の娘たちの会という共通点があるではないか。
そして、きっとこの件には、京介も関わっている。


金曜日―The Last Day

◇噛み合わない会話
愛美と京介についてきちんと話しておきたい。僕は、誰もいない講義室に愛美を連れ出した。
「愛美は、最近京介と会った?」
「ううん。でも、電話では喋ってるし、何度もメールももらった」
僕は愛美の肩をつかんだ。
「愛美、京介は死んだんだ。君も葬儀に行ったじゃないか」
「弘樹くんは、遺体を見た?」
愛美は、遺体を見ていないから、京介が生きていると思っているのか。
誰かが彼のふりをしている。それしか考えられない。
僕は愛美に、京介の家で入手した写真を突き出した。
「なんでもいいんだ。この写真について教えてくれ」
「京介さんの別荘で撮ったの。みんながキャンプで心霊スポットだって騒いでいた屋敷があったでしょ?
そこが別荘なのよ。これは蘇りの儀式なの。この日、私たちは仮に死んで、仮に蘇ったの。
これがその証(あかし)」
愛美の左手首の内側に、小さい黒い印がある。刺青のようだ。
「ほかの四人もその証を?」
愛美は頷いた。
「その四人は焼き殺されだんだ!」
「だから?」
「わからないのかよ!愛美も襲われるかも知れないんだぞ」
「だって、その事件って一年も前でしょ?」
「・・・愛美のことが心配なんだ」
「ありがと。でも、大丈夫よ。だって、私には京介さんがついてるもの」
絶望と疲労感でいっぱいになる。僕は黙るしかなかった。
 
15 :忌火起草:2008/08/22(金) 21:12:03 ID:8jeAK7zx0
飛鳥から電話だ。ビジョンはイマビキ草を原料にしていて、
飲んでも幻覚を見るようなことはないとのことだ。

◇間宮恭子
気を取り直して、愛美に話しかける。
「この真ん中に写っている、仮面の女性は?」
それは京介の母親、間宮恭子だった。恭子は、幼い頃に雷に打たれ、
それ以来、死者の霊がみえるようになったそうだ。
京介が大学に入る頃、恭子は奇跡の娘たちの会を立ち上げた。
この会の目的は、不老長寿を追求することにあった。会員はけっこう集まっていたらしい。
愛美は恭子の素顔を見たことがないと言う。
用事があると言って、愛美は去っていった。

図書室でビジョンについて調べてみる。
ビジョンと同じイマビキ草を原料にした薬があった。
守矢堂という製薬会社が作っていた、イマビキ湯という薬だ。
だが、守矢堂はとっくに潰れていた。社長夫人の亜美は事故で焼死してしまったらしい。
そして、あの京介の別荘が、昔は守矢堂のものだったらしい。

◇非常ベル
愛美はどこへ行ったのだろう。愛美を探しながら構内を歩く。
廊下に来たとき、非常ベルが鳴り出した。駐車場で火事があったらしい。
健吾がとすれ違った。
「駐車場で、飛鳥と和子が・・・」
健吾はそう言って走って行ってしまった。健吾を追いかけたが見失ってしまった。
愛美から電話がかかってきた。
「今、どこにいるんだ」
「さて、どこでしょう。・・・やっと、呼ばれたの。これで、京介さんのために命を捧げられるの。
今から京介さんに会いに行ってくる。弘樹くん、今までありがとう」
それだけ言って切れた。かけ直してもつながらない。

◇京介の日記
京介の家に行くが、愛美はいなかった。
テーブルの上に京介が書いたと思われる日記があったので、読んでみる。
京介は、恭子に命令されて、女性たちをひそかに集めていた。
愛美を含む五人の女性は、蘇りの儀式に参加する。でもそれは贄の儀式だった。
刺青を施された女性は、日々生体エネルギーを恭子に送り続け、最後には死んでしまうらしい。
儀式からしばらくして、恭子は死んでしまった。京介は、刺青を施した女性から、
一気に生体エネルギーを奪って、恭子を生き返らせようとした。
四人の女性を、別荘にある焼き釜で焼き殺し、遺体をゲージに入れて廃棄する。
京介が事故に遭った日付以降も、日記は続いていた。
やはり、京介はあの事故では死んでいなかったということか。
でも、一年経った今になって、愛美に狙いを定めたのか。それがわからない。
だが、だいたいの辻褄は合う。
 
16 :忌火起草:2008/08/22(金) 21:14:23 ID:8jeAK7zx0
◇屋敷へ行く方法
愛美はきっと、焼き釜のある京介の別荘へ行ったに違いない。
だが、僕はキャンプに行ってないので、屋敷の場所がわからない。
そうだ、田辺教授・・・。僕は田辺に電話をかけた。
田辺はビジョンのことを調べる途中で、屋敷のことを知り、実際に行ってみたらしい。
「場所を教えてください」
「説明するのは難しいな。今から連れてってあげるよ」
その申し出は非常に有難い。

◇田辺と屋敷へ
田辺の車に乗り込む。数時間走って屋敷に着いた。
「ここまで来たんだ。私も一緒に行くよ」
田辺と一緒に屋敷に入り、暗い廊下を歩いていく。
「多くの神話、伝説には、奇跡が描かれているのを知っているかな。
望めば、人は死を排除できる。あの日、トラックさえいなければ――」
田辺は突然激昂し、壁を叩いた。
「あなたは、一体・・・?」
僕は思わずそう訊いてしまった。
『まだわからないのか。京介だよ』
田辺はスタンガンを持って襲ってきた。意識が混濁して、僕は――。

○田辺の正体
僕は床に転がされていた。足は床に固定され、手首には手錠がかけられている。
その部屋の中には大きな釜があった。床には五芒星が描かれている。五つの角の先端には、それぞれガラス瓶が置かれている。
暗闇に目を凝らすと、鎖で吊り下げられた愛美の姿が見えてきた。僕は愛美の名を、喉が裂けるばかりに叫んだ。
愛美は顔を上げて、こちらを見た。
「必ず僕が助けてやるから!」
「助けてやる、か」
闇の向こうから、白衣を着た田辺がやってきた。
「死ぬ寸前の彼女に、何もできなかったくせに」
一年前の事故のことか。どうして知っているんだ。
「お前は誰なんだ」
『言っただろう、京介だよ』
押し殺したような声で田辺は言った。
『馬鹿な男だね。ねぇ、お母様』
「あれだけヒントを見せてやったのにね」
田辺は押し殺したような声と、普段の声とを交互に出して話す。押し殺した声が京介だとすると、お母様、ってことはつまり・・・。
「間宮恭子なのか」
『・・・たしかに、この体はお母様のものだ』
彼女はいとおしそうに自らの体を抱きしめた。
『そして、お母様の意識もここにある。私はお母様の体を間借りしているんだ』
これは、人格乖離、いわゆる多重人格か?最愛の息子を亡くし、その死を信じることができず、
不滅である魂が自分に宿ったと信じた。それがこんな妄信を抱かせているのか。
「一年前、儀式の完結を待たずに、京介は死んだ。でも・・・」
『悲しみはなかった。私には死を乗り越える力があるからね。だが、復活には肉体がいるんだ』
「京介が愛する女を、同じように愛する男の肉体がね。お前を見つけるのに、一年かかったよ。
よく育ってくれたね、ありがとう」
そうか。恭子は僕を狙っていたから、脅迫したのか。
 
17 :忌火起草:2008/08/22(金) 21:15:58 ID:8jeAK7zx0
○僕は訴えた
『ただあいにく、愛美は私だけを愛しているがね。だから今、命を捧げようとしているんだよ』
そんな馬鹿な。愛美は恍惚の表情を浮かべて言った。
「弘樹くんが教えてくれたんだよ。愛する人のために命を捨てることの大切さをね」
「そうじゃない・・・」
そう言っても、愛美はわかってくれなかった。
『さあ、始めようか』
恭子は床の五芒星を指差した。五つのガラス瓶の一つは空になっている。
『あと薬指が足りないんだよ』
愛美を釜で焼いて薬指を・・・?
焼き釜に火が入れられる。吊り下げられた愛美は、ゆっくりと釜の上へと移動していく。
「京介はもう死んでいるんだ!!」
必死で叫んだが、この声は愛美には届いていないようだった。

○器の完成
『君は彼女の次に、釜で焼かれるんだ』
「大丈夫。君は五本の指に守られているからね。肉体は決して焼けないんだ。
魂だけが消滅するんだよ。そして、空っぽの器の完成だ」
確信に満ちた声が、僕の常識と激しくぶつかり合う。
・・・もう、あきらめるしかないのか。このまま愛美も僕も焼け死ぬしかないのか。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。みんながキャンプでビジョンを飲んでから、すべてが始まったんだ。
ビジョンを飲んで、黒い女に焼かれて死んだ正人。そして――。
 大壺に火が焚かれる限り
 地獄の炎から逃れる術はない
正人が残した謎の言葉をふと思い出した。もしかして、これを暗示していたんじゃないのか?
「大壺を焚いたら、あんたも黒い女に焼かれるんだ!!」
恭子に向かって叫んだ。だけど恭子は馬鹿にしたようにこちらを見ているだけだった。
『愛する者を失い、苦しめ。その救われぬ想いが私の魂を導くだろう』
愛美が大釜に入れられてしまう・・・!そのときだった。
天井から吊り下げられていたフックが、恭子の頭を直撃した。
恭子は倒れ、鍵束が床に転がった。そばにあったポリタンクが倒れ、灯油がこぼれた。
釜の火が灯油に引火し、恭子の体は燃え上がった。
燃え上がる火の中に一瞬、白衣を着た亜美の姿が見えた。
僕は手を伸ばして、鍵束をつかんだ。手錠と足かせを外し、愛美を助けた。

○炎が広がる
恭子を焼いた炎は、屋敷に燃え移った。
「京介さんは、ねえ、どうするの?」
逃げないと危ないのに、愛美は動こうとしない。
愛美の体を担ぎ上げて、夢中で走った。気が付くと、イマビキ草が茂る草原に来ていた。
ふと指先を見ると、爪が真っ黒になっていた。愛美の爪も真っ黒になっている。
たしか、爪が残りの時間を教えてくれるとか言ってたっけ。いや、そんなことはどうでもいい。きっと煤で汚れているだけだ。
今はただ、虚ろな顔をした愛美の方が心配だった。
「京介さん・・・」
愛美はこれからも、京介の影を追い続けるのだろうか。それでも構わない。
僕は君を守ると決めたのだ。命を懸けて、京介のように。

完<死んだはずの男>
 
18 :忌火起草:2008/08/22(金) 21:37:58 ID:8jeAK7zx0
琥珀色の話(香織寄りの選択肢を選ぶ)

月曜日

◇正人の様子
正人の様子がおかしい。ベンチに座って、なにか思いつめているようだった。
話を聞いてみることにした。
「俺、ビジョンを飲んだんだ。ビジョンを飲むと、焼け死ぬんだ」
さっき学食で見た、芸大生が焼死したニュースを自分に重ねているらしい。
正人は頭を抱えた。正人の爪は黒っぽくなっていた。

◇通院のススメ
正人と別れた後、携帯電話が鳴る。香織からだった。
「あ、弘樹ぃー?今なにしてる?」
「・・・香織と電話してる」
あきれて電話を切った。まただ。用もないのに電話をかけたり、メールを送ったり。
僕は香織のそういうところが苦手だった。
一度飛鳥に聞いてみたことがある。
「女っていうのは、そういうものだろ。必要があるから送るんじゃない。送りたいから送るんだ」
飛鳥はそう言っていた。そういうものかなと思って納得していたが、最近はさすがに度が過ぎている。
人に好かれるというのは、もっと気分のいいものだと思っていた。
なんだか頭が痛くなってきた。
「弘樹くん、どうしたの?大丈夫?顔色よくないけど」
愛美が心配そうに話しかけてきた。
「最近、悩みが、ね・・・」
「なんでも話してみて。一人で抱えこむのはよくないよ。・・・って、これ、
岡島先生の受け売りなんだけどね」
岡島先生というのは、愛美が通院していた心療内科の医師なのだという。
愛美が最近明るくなったのは、通院しているからなのだろうか。
「やっぱり、かっこいい人だったりするわけ?」
「うん、素敵な人よ」
いったいどんな男なのだろう。
「弘樹くんも、岡島先生と話をしてみるといいわ」
愛美から病院の場所を教えてもらった。心療内科って、ちょっと敷居が高いけど、行ってみるか。

◇岡島医院へ
長い坂道を登っていく。やっと病院が見えてきた。
病院の周りにはイマビキ草が生い茂っていた。

◇待合室の先客
受付で保険証を出して、待合室で待つ。
待合室には、痩せた男が座っていた。ふいに男に声をかけられた。
「俺ね、山本っていうんだけど。俺ね、女に困ってるんスよ。こう見えても、モテる方でね」
人のことを言えた義理ではないが、モテるタイプには見えない。山本は話を続ける。
「女ね、どこにでもついてきて邪魔なんだ。怒鳴っても、殴ってもダメ」
いつまでこんな話を聞いてなければならないのかと思ったとき、診察室へと呼ばれた。
 
19 :忌火起草:2008/08/22(金) 21:39:09 ID:8jeAK7zx0
◇岡島の診察
「どうぞ、そこにかけて」
ソファを薦められた。
「私が岡島です。どうぞよろしく」
驚いた。まさか女性だったとは。年は三十代後半くらいだろうか。
愛美が言うとおり、素敵な人だった。
「頭が痛くて眠れないそうだけど、いつごろからなのかな」
「ここ数日です。いろいろ悩みが多くて」
「なるほど。その悩みはどんなことなのかしら」
「好きな子がいるんです」
僕は、愛美の名前を出さずに話した。
「彼女がなにを考えているのか、わからないときがあります」
話していると、僕は愛美のことが好きなのか、それともただ心配なだけなのか、わからなくなってきた。
「考えすぎてしまうときには、ある程度受け流すことも大切よ。
そうでないと、相手にもストレスになってしまうの」
岡島の言葉が心に染み入るようだ。僕は、正人の様子がおかしいことや、
最近多すぎる香織の電話やメールのことまで話してしまった。
三十分ほどたつと、こころのもやもやが少し晴れてきた。
「あまり心配しすぎないようにね」
薬をもらった。パラフィン紙に包まれた、白い粉薬が二つ。ところどころ、黒いつぶつぶが混じっている。
「お守り代わりに、ね。どうしても辛いときに飲んで。きっと楽になれるから」


火曜日

◇部室で薬を
部室には僕ひとりだった。正人から電話がかかってきたが、わけのわからないことを言って切れてしまった。
頭が痛い。昨日もらった粉薬の包みが目に入る。薬があるんだから、我慢する必要なんかないだろう。
メールの着信音が鳴る。香織からだった。中身は読むまでもない。頭痛がひどくなってきた。
全部香織が悪いんだ。僕はパラフィンの包みをちぎって粉薬を口に含んだ。
・・・苦い。胆汁のような苦さに吐き出しそうになるのを、我慢して飲み込んだ。
あれ?とたんに頭痛がやわらいでいる。まるで魔法のような効果だ。お守りというだけのことはある。

愛美と一緒に映画に行くことになった。
映画を見ていると、映写機トラブルでしばらく中断された。

 
20 :忌火起草:2008/08/22(金) 21:40:40 ID:8jeAK7zx0
◇スクリーンに・・・
再開された映画は、さっきとはまったく違う場面になっていた。
ノスタルジックなモノクロの映像。洋装の男に、着物姿の女が縋っている。
”つんべいさま・・・”
女は男と別れたくないらしい。だが、男は女を振り払って去っていった。
ショックのあまり、女は泣き崩れる。うつむいていた女は顔を上げた。
それは知らない女優だった。ただ、どこかで見たことがあるような気がした。誰だっけ?
女はまたうつむく。顔を上げた女の顔は・・・香織だった。なんで香織が?
香織はスクリーンを飛び出して、僕のそばに来た。何か言おうとしている。
僕は耳をふさいだ。やめろ、やめてくれ、聞きたくないんだ。
だめだ、言わないで、いやだ、やめて。そんな願いもむなしく――。
”いっしょに・・・”
囁き声が聞こえた。
あれ・・・?気が付くと、スクリーンにはエンドクレジットが流れていた。
見間違いだとは思うけど、念のために確認しておこう。
「あのさ、途中でモノクロの時代劇みたいなシーンがあった?」
愛美はあきれた顔をした。
「もしかして、寝てた?」
しまった。自分で居眠りしていたことを白状してどうする。


水曜日

部室で、飛鳥がキャンプ場から持ってきたというノートを見る。
焼死したという芸大生が書いた言葉が並んでいた。
ビジョンを飲むとすげーとぶとか、心霊スポットで飲むとキクとか。

◇トイレで薬を
人目を避けて、トイレに来ていた。先ほど見た、ノートの内容を思い返す。
ビジョンを心霊スポットで飲むとキクだって?馬鹿馬鹿しい。
プラセボ効果というのを講義で教わったことがある。
ビジョンを飲んだら何かが起こるというのは、実はただの思い込みかもしれない。
そんな理屈がわかっていても、あの「お守り」に頼りたくなってしまう。
なんとなくあの薬の存在を確かめたくなって、僕はバッグの中に手を入れた。
指にパラフィンの包みが当たった。
”ずっといっしょ・・・”
声に驚いて、周りを見回すが、もちろん誰もいない。
気のせいだ。僕は疲れているに違いない。
”つんべいさま”
バッグに入れた手が引っ張られた。あわてて手を引っこ抜く。
ありえない。でも起きたのだ。引っこ抜いた手には、誰かにつかまれた指の跡があった。
「疲れているんだ、うん」
自分に言い聞かせるように言って、拳を開くと、最後の「お守り」があった。
もうこれしかない。薬を一気に飲み下す。
指の跡はすうっと消えていった。この薬はいい。本当によく効く。
 
21 :忌火起草:2008/08/22(金) 21:43:14 ID:8jeAK7zx0
◇置き忘れた携帯電話
携帯電話がないことに気が付いて、部室に戻った。部室には、香織が一人で座っていた。
夢中で携帯電話をいじっている。香織の手元を見ると・・・あれは、僕の携帯?
「なにしてんだよ!」
香織は悪びれる様子もない。
「携帯忘れちゃだめだって。私のラブメール、受け取れなくなっちゃうし」
なにがラブメールだ。僕は携帯を奪い返した。
「ちょっと見てただけだって」
ディスプレイを見ると、メールの受信件数が減っているような気がする。
確認してみると、愛美から来たメールがすべて削除されていた。
あまりの悲しみに、怒る気力もない。香織を残して部室を出た。
頭痛がする。全部香織のせいだ。薬が飲みたくなったが、全部飲んでしまって、もうない。

◇岡島の問診
僕は、「お守り」をもらうために、岡島医院へ向かった。
待合室で、また山本に話しかけられたが、適当に受け流す。診察室に呼ばれた。
「どうですか、調子は」
「あの薬を飲むと、すごくよくなります」
そう答えると、岡島は複雑そうな顔をした。
「そう、もうお守りを飲んでしまったのね。・・・あなたは、愛美さんの紹介だったわよね?
だったら、京介くんのことは知っている?」
岡島は、「お守り」の調合法を京介から教えられたと言う。
「この間の薬は、京介くんの調合に改良を加えたものなの」
そんなことはどうでもいい。僕は岡島に、薬をくれるよう懇願した。
岡島は、パラフィンの包みを一つだけ差し出した。
「これで様子を見ましょう」
なんだか割り切れない気持ちだった。

部室に駆け込んできた健吾の口から、正人の死が告げられる。
正人は、体に自ら火をつけて死んだという。
ビジョンを飲んでしまった仲間たちに不安が広がる。
飛鳥が、知り合いの医者にビジョンの成分を調べてもらうと言った。


木曜日

◇正人の死のショック
外に出る気力がなくて、部屋に閉じこもっていた。
今の僕は正気なのだろうか。正直なところ、あまり自信がなかった。
僕は自分の爪をまじまじと見た。間違いない。僕の爪も黒っぽくなっている。
これって、正人と同じ道を歩み始めているということなのか?
でも、僕はビジョンなんか飲んでない。

 
22 :忌火起草:2008/08/22(金) 21:44:38 ID:8jeAK7zx0
◇薬が違う
ノックの音が聞こえる。ドアを開けてみると愛美が立っていた。
「講義、休んでいたから。具合でも悪いの?」
「別に。ただ頭が痛いってだけ。大丈夫。もらった薬があるから」
僕はパラフィンの包みを取り出して見せた。
「そっか。岡島先生の薬はよく効くもんね。でもこれ、私がもらってたのと少し違う。
こんな黒いつぶつぶは入っていなかったけど」
「お守り」を見て、愛美は首をかしげる。
「ねえ、飛鳥くんに頼んで、この薬も調べてもらおうよ。じゃあ、また後でね」
愛美は「お守り」を持っていってしまった。なんてことだ。飲む前にお守りがなくなってしまった。
岡島医院に行かなくては。不安に耐えられそうにない。

◇待合室での告白
待合室には山本がいた。また女がどうとかいう話を僕に振ってきた。
「あんたも同じだ。女に振り向いてもらえなくてイライラしてる。
俺は、こんなに通いつめているのに・・・」
モテているという話は嘘だったのか。そして、通いつめているということは、
岡島医院の誰かが目当てだったのだ。岡島とは年が離れすぎているので、受付の女性かもしれない。
「な?本当のこと話せよ。ここには俺しかいないんだから」
「あまりうるさくしていると、受付の人に怒られますよ」
「受付の人?そんなのいないよ」
あわてて受付を見た。やっぱりいるじゃないか。
”つんべいさま・・・”
声がした。そうだ、あの受付の女、映画館で見た和装の女だ。
幻聴に幻覚。僕はどうなってしまったんだ。

◇薬をください
診察室へと入る。
「どうですか、調子は」
「よくありません。幻聴や幻覚がひどくなっているんです。へんな女の幻覚をよく見ます。
先生、薬をください」
岡島はうなずいた。
「もっとよく効く薬を出しましょう」

◇診察室の奥へ
診察室の奥には下り階段があった。僕は地下室へと案内された。
「薬はここで作っているの」
地下室ではイマビキ草がたくさん栽培されていた。
岡島はパラフィンの包みを手に取った。
「辛いでしょう?こうして待たされるのは辛いわよねぇ。
この薬は、待つための薬と言われていたの。何かに縋らないと生きていけない人のためのね」
「それをください!お願いです」
耐え切れずに僕は叫んだ。
「わかったわ」
僕は岡島に誘われるままに歩み寄る。
薬の包みを手にした岡島のブラウスの袖口から、ちらりと手首が見えた。
そこには無数の傷があった。岡島の心の闇に触れた気がした。

 
23 :忌火起草:2008/08/22(金) 21:46:31 ID:8jeAK7zx0
◇床に・・・
薬をもらってアパートに帰る。部屋の奥から焦げ臭いにおいがする。
よく見ると、床に黒い染みのようなものがあった。
どこかから手が伸びてきて、僕の胸ぐらをつかんで、ぐいぐいと引っ張っている。
これは幻覚だ。
”つんべいさま・・・”
耳元で声がする。泣き出したい気分だった。
”いっしょに・・・いられないのなら・・・”
電話が鳴り出して、我に返る。幻聴も幻覚も消えた。


金曜日―The Last Day

◇誰もいない学食
学食には誰もいなかった。ポケットからお守りを取り出す。そのとき、自分の爪が目に入った。
絶望的なまでに黒い。
”いっしょに・・・ずっといっしょに・・・”
またあの声だ。僕が座ったテーブルの向こうに、人がいる。
”いっしょにいたい。つんべいさまと、ずっといっしょにいたい”
「やめろ、黙れ。僕はつんべいじゃない!」
幻覚だ。幻覚だろ?幻覚なのに、なぜ消えない?
まさか幻覚じゃないのか。
”いっしょに・・・いられないなら、いっしょに、死にたい”
もう限界だ。僕は学食を飛び出した。

◇限界
自分の部屋に帰って、ドアを閉める。
薬だ、とにかく薬だ。僕はお守りを取り出して、飲んだ。
これまでよりさらに苦い。「もっとよく効く薬」だと岡島は言っていた。
でも、いくらなんでもこの苦さは異常だ。
愛美から電話がかかってきた。
「弘樹くん!ビジョンの成分がわかったの。あの薬と、ビジョンは同じものだったの」
あの薬とビジョンは同じイマビキ草を原料にしているのだという。
「それと、黒いツブツブの正体もわかったの。あれ、血だって。
炭化した人の血・・・。もう飲まないで、今すぐ捨てて!」
「大丈夫。あの薬はもうないから」
そう、全部飲んでしまった。
「本当にごめん。私が岡島先生を紹介しなければ・・・」
僕は何も言わずに電話を切った。どうして僕に人間の血なんて飲ませたんだろう。
先生に聞いてみよう。なにかの間違いかもしれない。

◇休診の札
岡島医院の表には、本日休診の札が揺れていた。
ドアを引いてみると、鍵がかかっていなかったので、中に入った。
 
24 :忌火起草:2008/08/22(金) 21:49:28 ID:8jeAK7zx0
◇書籍に記してあったこと
待合室には、岡島が書いた本が並んでいる。僕は「今惹湯処方縁起」という本を開いた。
「イマビキ草には、光過敏症を起こす成分がある。過剰摂取してから日光を浴びると、
皮膚が炎症を起こす」
イマビキ草を原料に作る今惹湯(いまびきとう)は、江戸時代からある薬なのだそうだ。
それを京介が発見し、岡島に教えた。
今惹湯は落ち込んだ気分を回復させてくれる薬に過ぎない。
爪が黒くなるとか、焼け死ぬなんて書かれてはいない。
今惹湯を最初に作ったのは、江戸時代の薬問屋、守矢堂の娘、奇(あや)とされている。
奇の肖像画が載っている。この女、会ったことあるぞ。
そうだ、映画のスクリーンに映っていた。そしてここ、岡島医院の受付にいた。学食にもいた。
奇は「つんべい」というじんぶつから、今惹湯の処方を教えられた。
奇とつんべいは恋愛関係にあったらしいが、身分違いだったらしく、二人の仲は引き裂かれた。
つんべいとの再開を夢見て、奇は今惹湯の改良を進めたが、事故が起こり、奇は不遇の死を遂げ、
つんべいと再開することはなかった。
巻末に、守矢堂の屋敷のスケッチが載っていた。
それは、みんながビジョンを飲んだという心霊スポットだった。

◇カルテ
診察室に入ってみたが、誰もいない。部屋は荒らされていた。
床に引き裂かれたカルテが落ちている。それは山本のカルテだった。
赤い字で「死ね!あんたじゃない」と書かれていた。
乾いてなかったらしく、手に赤いインクがついた。それはやけにねっとりした液体だった。

◇地下室にて
地下室に下りていく。部屋の奥に岡島がいた。
「どうしました?大丈夫ですか?」
「・・・山本さんがね、私のことが好きなんですって。あんな人いらないのに。
縋りつかれても迷惑なだけ」
それを聞いて僕は、香織のことを思い浮かべた。
「ねえ、今惹湯の作り方、見る?」
岡島はメスを手首に当てた。止める間もなかった。噴き出た血がイマビキ草にかかった。
これが岡島が今惹湯に施した改良なのだという。
「奇がどんな風に死んだか知ってる?焼死よ。こんな風にね」
岡島は、外から差し込んでくる日光の下に立った。皮膚の炎症を通り越して、岡島の体から炎がふきだす。
京介のことを想うあまり、岡島は今惹湯を飲むようになった。そして、奇に取り込まれた。
「お願い・・・一緒に死んで」
岡島は僕に近づいてくる。もはや、道連れは誰でもいいらしい。

◇火だるま
岡島の頭に椅子が投げつけられ、岡島は倒れた。
「弘樹くん、しっかり!」
なんで愛美が?それより、そうだ、逃げないと。
「愛美・・・またあなたなの・・・」
岡島の体が燃えていく。炎は周辺に燃え移った。
愛美を先に行かせて、地下室を出る前にちらりと振り向く。山本が岡島の体を抱きとめていた。
「俺と一緒に死のうよ」
山本は岡島と一緒に燃えていった。
 
25 :忌火起草:2008/08/22(金) 21:51:54 ID:8jeAK7zx0
◇屋敷へ向かう決意
僕らは走った。岡島医院が見えなくなったところで止まった。
「愛美、これを見て。今惹湯を飲みすぎたんだ」
黒くなった爪を見せた。
「あの屋敷に行ってみるよ。きっと、僕は奇に会わないといけないんだ」
「私も一緒に連れて行って」
愛美はこれだけは譲れないといった顔をしている。
「うん、一緒に行こう」

◇屋敷の前にて
愛美の運転で、僕たちは屋敷へとやってきた。一面のイマビキ草の中に屋敷はあった。
「この屋敷、京介さんの別荘だったの。ここに大事な資料が置いてあるって言ってた」
僕の知らないところで、すべては一本の線でつながっているようだ。

○押し寄せる禁断症状
屋敷の玄関から中に入り、奥に進む。ずきり、と頭の奥が痛んだ。
最後の今惹湯を飲んでから、だいぶ時間が経つ。気分が悪い。立っているのも辛くなってきた。
しっかりしろ。必死で前に進む。

○探索
書斎で京介が書いたノートをみつける。それを読むと、京介がビジョンを作ったらしいことがわかった。
「京介さん・・・どうして・・・」
愛美はショックを隠せない様子だ。

○歌
蔵と思われるところから、歌声が聞こえてきた。
誰かいるのだろうか。蔵の扉を開けると、何かに突き飛ばされ、床に仰向けにたおれた。
愛美もたおされて、気を失ったらしい。

○押さえつけられた
「遅い、遅いよ弘樹。ずーっと待ってたんだから」
香織の声だった。香織は、たおれた僕の上に馬乗りになった。
肩を異常な力で押さえつけられる。
「ねぇ愛美、岡島先生っていい人よね。恋愛相談したら、真剣に話を聞いてくれるし、
いい薬もくれるしさ」
香織も今惹湯を飲んだらしい。
「岡島先生、言ってた。待つのは女の宿命なんだって。
でも、弘樹はぜんぜん振り向いてくれないんだよね」
香織も僕を待っていたのか。
”つんべいさま・・・”
「待ってた。ずっと待ってた」
香織の姿に、奇の姿が重なって見える。
”ずっといっしょにいたかったの・・・”
「僕をどうする気だ」
”いっしょに、死んで”
死ねば、ずっと一緒ということか。しかし、奇が望んでいるのは、つんべいと死ぬことだ。
それは絶対に叶うことはない。つまり、この呪いは永久に終わることはないのだ。

 
26 :忌火起草:2008/08/22(金) 21:54:20 ID:8jeAK7zx0
○香織への答え
香織が僕を見つめている。そうだ、彼女はいつも僕を見つめていた。
そんな香織の気持ちに、最後までちゃんと応えないのは卑怯だと思った。
”いっしょに、死んで”
僕は香織の目を見て、言った。
「いや、違うだろ?自分の気持ちを満たせばそれで満足なのか?」
香織の姿から、奇の姿が消えた。
「ずっと一緒にいたいだけなのに、私とじゃ、いやなの?」
香織の目から血の涙が流れて、僕の顔に当たった。熱い。
「どうしても一緒にいたいのか」
香織は小さくうなずいた。
「僕だって同じなんだ。愛美が京介のことを忘れるのを待ってた。振り向いてくれるのを待ってた・・・」
口にすると、すっと体が軽くなるような気がした。
きっと人を好きになったら、誰でもそうなるのだろう。
誰かのことを強く想うのがきっかけだったはずなのに、気がついたら自分のことしか見えなくなっている。
岡島も、山本も、奇も、愛美も、僕も。
「でも、僕がどんなに好きでも、愛美は京介のことを忘れない」
僕の視界の隅で、愛美が目を覚まして起き上がった。よかった。
「愛美をひとり占めできない。でもいいんだ」
ふいに頬が緩んだ。こんなに自然な気持ちで笑うのは久しぶりだった。
「それでも僕は、愛美が好きなんだ。だからごめん。一緒には死ねないよ」
・・・言いたいことは言った。
「そっか。私じゃだめなんだね。愛美の方がいいんだね」
香織は立ち上がって、僕から離れた。香織の体は炎に包まれた。
「香織!!」
「あはは。そうやって名前を呼ばれるだけでもうれしいな。一人は寂しいよ。耐えきれなかった。
奇って人も同じだと思う。馬鹿だよねぇ、私たち。
いいよ、愛美と一緒にいてあげて。私はもういいや。邪魔してごめん。ほんとにごめんね」
炎は香織の体から屋敷に燃え広がる。
僕は、愛美の手を引いて屋敷を出た。

○黒煙を上げる屋敷
屋敷は黒煙を上げながら燃えていた。
香織には辛いことを言ってしまったと思う。しかし、彼女の気持ちにちゃんと向き合ったからこそ、
自分の気持ちに嘘をつくのをやめたのだ。
愛美への気持ちが実らないとしても、香織を身代わりにすることなんてできない。
僕にとって大切なのは、愛美のそばにいることなのだ。
僕は何気なく自分の爪を見た。爪から黒みが消えている。奇の呪いが解けたということなのか。
僕のそばで、愛美がぼんやりと立ちつくしている。ああ、そうか。
愛しい人が振り向くのを待ったりしない。願いが叶うのを待ったりしない。
それに気づくこと。それが呪いから逃れる術だったのだ。

 
27 :忌火起草:2008/08/22(金) 21:55:51 ID:8jeAK7zx0
○愛美の願い
「ねぇ、本当に私のこと、好き?本当に好きなら、お願いがあるの」
帰ろうとしたところで、愛美がいきなりそう言った。
愛美はパラフィンの包みを取り出した。それは黒いツブツブの入っていない今惹湯だった。
岡島が改良する前、京介が作った今惹湯か。
「この薬には京介さんが宿っているはず。だから、これを弘樹くんが飲めば、
私は救われる。だから、飲んで」
愛美は指を噛み切った。滲んだ血を今惹湯にふりかけた。今惹湯は瞬く間に黒くなった。
これを飲めば、僕が京介に取り憑かれて、愛美は京介とずっと一緒というわけか。
愛美は黒くなった今惹湯を口に含んだ。
愛美の唇が僕の唇に押し当てられて――。

完<壊れゆく自我>

 
28 :忌火起草:2008/08/22(金) 22:05:49 ID:8jeAK7zx0
若葉色の話(琥珀色を通りながら愛美に対して好意的な選択肢を選ぶ)

愛美から紹介された岡島医院に行ってみることになった。
岡島が処方してくれた漢方薬を飲むと、瞬く間に頭痛がひいていった。

◇小瓶の話
ベンチに座って本を読んでいる愛美と別れたあとのこと。
あ、そういえば、すっかり忘れていた。
僕はポケットからガラスの小瓶を取り出す。日の光の下で、薄緑色に輝いている。
先日、実家に帰ったとき、母からもらったもので、
なんでもスウェーデン製の年代物らしい。
この小瓶は父からプロポーズされたときのプレゼントだったそうだ。
母から息子に託し、息子は妻となる女性に贈る。
ちょっと変わったならわしが、僕の家では受け継がれてきたのだという。
この瓶を愛美に・・・。心構えは出来てるし、機会があればすぐにでも渡したい。
でも、今、こんなものをもらっても、困惑するだけだろう。僕は瓶をポケットに戻した。

薬がなくなったので、僕はまた岡島医院に行った。
その頃から、僕は着物を着た女の幻覚に悩まされるようになった。
ビジョンを飲んでいた正人は爪が黒くなり、焼死してしまった。僕の爪も黒くなった。
僕はビジョンを飲んでいないのに、なぜだ?
ビジョンを飲んでしまった仲間たちに不安が広がる。
飛鳥が、知り合いの医者にビジョンの成分を調べてもらうと言った。

◇岡島医院へ
僕は最後の薬を飲んでしまった。手元に薬がないと不安で仕方がない。
僕は岡島医院へ走った。休診の札がかかっていたが、鍵が開いていたので中に入った。

 
29 :忌火起草:2008/08/22(金) 22:07:06 ID:8jeAK7zx0
◇書籍に記してあったこと
待合室には、本が並んでいる。僕は「江戸参府旅行記」という本を手に取った。
破られているページがあったが、仕方なく残っているページを読む。
この本は、江戸時代、出島に来ていたスウェーデン出身の植物学者ツンベルクが、
特別に江戸参府を許されたときの記録だという。
ツンベルク・・・つんべいと似ている。
ツンベルクは八ヶ月間日本に滞在してから、スウェーデンに帰った。
帰国後に、日本向けに何度か荷物を送っていたらしい。
彼の遺した言葉によると、その荷物は代々伝わる大切なものだという。
父から母へ。母から息子へ。そして息子から愛する人へ。
後の調査で、その荷物はいくつかの小瓶が入っていたらしいことがわかった。
だが、その荷物はあて先には届かなかったらしい。
小瓶といえば・・・。僕はポケットの小瓶を取り出した。
ツンベルクの言葉とも一致するし、これはスウェーデン製だというし、
まさか、この小瓶が、ツンベルクが送ったものとか?そんなことあるわけないか。
いずれにしても、不思議な偶然だった。
巻末にツンベルクが描いたというスケッチが載っていた。この風景、見覚えがある。そうだ、
みんながビジョンを飲んだ心霊スポットだ。
そして、この女は、僕が度々見る幻覚の女だ。
奥付には京介の名前があった。この本は京介が書いたのか。
ここまで調べれば、あとは岡島に聞けばはっきりしそうだ。

地下室で岡島は火を噴き出して、燃えた。聞きたいことはたくさんあったのに。
助けに来てくれた愛美と一緒に、僕は逃げた。

◇薬がほしい
診察室に戻ってくると、足元に薬が落ちているのに気が付いた。
僕は薬を拾って、走った。
岡島医院が見えなくなるところまできたとき、足がもつれて転んでしまった。
さっき拾った薬が手から転がった。
「なに、それ・・・?」
薬を見た愛美の顔色が変わる。
「これで最後なんだ」
岡島が死んでしまった以上、もうこの薬は二度と手に入らない。
また頭痛や幻覚に襲われたら、これからどうしたらいいのだろう。
「そんなにほしいの?」
愛美は僕に哀れみの目を向けた。
「あれがないと・・・」
思わず本音が口からこぼれた。
「わかった。ついてきて」

◇屋敷にて
僕は愛美によって、京介の別荘だという屋敷につれてこられた。
なんでこんなことになったのかと思う。だけど、今は愛美を信じるしかない。
 
30 :忌火起草:2008/08/22(金) 22:08:31 ID:8jeAK7zx0
○書斎
書斎で、京介が書いたというノートを見つける。
今惹湯について書かれている。
あの薬のは今惹湯という名前だという。
今惹湯は忌火起草を原料に作られているらしい。
今惹湯を最初に作ったのは、江戸時代の薬問屋守矢堂の娘、奇だった。
そして、京介が今惹湯を作るようになった経緯が書かれていた。
京介は、今惹湯を作って飲んでいるうちに、女の幻覚を見るようになったという。
その女は、ツンベルクが描いたスケッチの女、奇だという。
その女が、愛美が見るという女と同じかどうか確かめなくては、と書いてあった。
また、”つんべいさま”とかいう幻聴もするという。
つんべいとは、ツンベルクのことだったのだ。

○今気になるのは
京介も僕と同じ幻覚に悩まされていたなんて。
そして、今惹湯のせいで僕は幻覚を見るようになった。
では、なぜ岡島はそんなものを僕に飲ませたんだろう。
「愛美?」
気がつくと、部屋から愛美の姿はなかった。
突然、メールの着信音が鳴った。香織からメールが来ている。
「ビジョンの分析結果、聞いた?弘樹が飲んでた薬と、ビジョンは同じ成分だって!
どっちも主成分はイマビキ草だって!弘樹の薬、マジヤバイ!どうしよう!」

○愛美への答え
呆然と立ちつくしている愛美を見つける。
「私の言うことを、弘樹くんは信じてくれる?」
唐突にそう聞かれた。なにを言われても、愛美のことを信じようと思った。
「一つ、聞いてもいい?京介のノートに、愛美には女が見えているって書いてあったんだけど・・・」
そう尋ねると、愛美は話し出した。
愛美は、小さい頃から幽霊が見える体質なのだそうだ。そのために、人知れず苦しんできた。
幽霊が見えると言っても信じてもらえず、化け物と罵られたりしたらしい。
今惹湯を飲んだ男たちには、同じ幽霊がとり憑いているのが見えたそうだ。
健吾も、正人も、僕も。それは奇の幽霊だった。健吾がキャンプに行ったときに連れて来てしまったらしい。
今惹湯は、幽霊が見えるようになる薬なのだ。

○奇の願い
突然、誰かに抱きすくめられたように動けなくなった。じわじわと体の芯が熱くなってきたように感じた。
どんどん体温が上がって、今にも燃え上がりそうな気がする。
「やめて!あなたがなにかを訴えたいのはわかる。でも、私にはどうにもできないの!」
愛美は僕の後ろの方を睨んで、言った。
「お願い!弘樹くんまで連れて行かないで!」
急に体に自由が戻った。
「ありがとう。返してくれて」
肩で大きく息をついた。奇はこうやって正人を殺したのか。
「その幽霊って、今もいるのか?」
愛美は、奇が僕の後ろにいると言う。僕は振り向いたが、見えなかった。
「きっと、なにか望みがあるんだな。だったら、僕たちでその望みを叶えてやろう」
奇はいつも”つんべいさま”と言っていた。きっと、ツンベルクに会いたいのに違いない。
 
31 :忌火起草:2008/08/22(金) 22:10:34 ID:8jeAK7zx0
○「悔恨」
さらに屋敷内を探索する。ページの破られていない「江戸参府旅行記」を見つけた。
奇とツンベルクについて書かれているページを読む。
奇は、父である守矢堂の店主に、ツンベルクから秘薬の製法を聞き出すように命令された。
奇はツンベルクを騙した。
ツンベルクは奇に忌火起草の種を渡して、これを育てて今惹湯を作るようにと教えた。
ツンベルクは国に帰ることになったが、必ず戻ると約束した。
今惹湯のおかげで、守矢堂は大繁盛した。奇はツンベルクを待ち続けた。待つのは辛いので、今惹湯を飲んだ。
きっとツンベルクは、騙されたことを悟ったので、帰ってこないのだと奇は思った。悔恨の念に囚われた。
忌火起草の花言葉の「悔恨」はこの辺りから来ているらしい。
奇は次第に精神に異常をきたすようになり、座敷牢に閉じ込められた。
ある日、奇は外でツンベルクの声を聞いたような気がして、外へ出てしまった。
だが、奇はすでに、今惹湯を浴びるほど飲んでいた。奇の皮膚は瞬く間に炎症を起こし、火を噴き出した。
奇は炎に包まれて死んだ。
そして、ツンベルクは、死ぬ間際まで、「日本にもう一度行きたい」と言っていたという。
きっと、ツンベルクも奇に会いたかったんだ。

○運命の小瓶
最後の今惹湯を取り出した。きっとこのために、最後の一包みがあったとしか思えない。
僕は目を閉じて、今惹湯を口に含んだ。目を開くと、奇が手招きしているのが見える。
奇が導く通りに付いて行くと、そこは奇が閉じ込められていたという座敷牢だった。
今こそ全てに決着をつけるときだ。愛美の方に向き直ると、奇の姿と愛美の姿が重なって見えた。
「つんべいは、奇に渡したいものがあったみたいだよ」
僕は、あのガラス瓶を取り出した。
これこそ、ツンベルクが日本宛に送ったもの、奇に渡したかったものだ。
「これ、うちに伝わるものなんだ。爺ちゃんが婆ちゃんに、父さんが母さんに贈ったものらしい。
必ず、男が女に渡してやらなくちゃいけないらしいよ」
僕が愛美に。ツンベルクが奇に。
僕らの願いは、今ひとつになった。
瓶を差し出す。愛美は、そして奇は瓶を受け取った。
人は運命に翻弄されるけど、運命によって救われることもある。
奇とツンベルクが離れ離れになったのが運命なら、僕の手元に小瓶があるのもまた運命だった。
”ありがとう”
奇の声が聞こえる。
僕の爪からは、禍々しい黒みが消えていた。

○夜明け
屋敷の外に出ると、もう夜明けだった。
僕は愛美に手をさしのべた。愛美は僕の手を握り締めた。
僕の中にはツンベルクがいる。そして、愛美の中には奇が。
(弘樹はツンベルクに、愛美は奇に取り憑かれているという意味です)
僕らは奇とツンベルクの願いを叶えてやらなければならない。
それは、二人がずっと一緒にいることだ。
すべてが終わり、すべてが始まる。

完<成就>
 
32 :忌火起草 解明編◆l1l6Ur354A:2008/08/22(金) 22:18:02 ID:8jeAK7zx0
瑠璃色の話 《解明編》 (琥珀色を通りながら愛美を疑うような選択肢を選ぶ)

愛美から紹介された岡島医院に行ってみることになった。
岡島が処方してくれた薬を飲むと、瞬く間に頭痛がひいていった。
薬がなくなったので、僕はまた岡島医院に行った。
岡島は、京介が死んだ事故のことを思い出してみなさいと僕に言う。
でも、事故の瞬間は確かに見ていたはずなのに、思い出せない。
その頃から、僕は着物を着た女の幻覚に悩まされるようになった。
女は奇という名前らしい。
ビジョンを飲んでいた正人は爪が黒くなり、焼死してしまった。僕の爪も黒くなった。
僕はビジョンを飲んでいないのに、なぜだ?

◇山本との接点
これで岡島医院に来るのは三度目だ。待合室で呼ばれるのを待つ。
今日もまた山本が話しかけてきた。
「この病院はいいよな。特に薬が」
山本は爪を噛んだ。その爪は黒かった。
「知ってるだろ?愛美っていう女。あんたも愛美にここを紹介されたんだろ?」
どうして山本の口から愛美の名前が出るのだろう。
「ここの薬はよく効くし、高く売れる。愛美の言っていた通りだ」
岡島から名前を呼ばれた。その話はそれで中断されてしまった。

◇岡島の忠告
僕は岡島に、最近幻聴や幻覚がひどくなっていることを訴えた。着物の女、奇の幻覚のことを。
奇は幽霊なのだろうか。首を傾げる僕に、岡島はこう言った。
「幽霊と妄想、どう違うか教えてあげましょうか。
幽霊は現れたり消えたりするけど、妄想は常に心から消えないものなの」
なんだかよく意味がわからない。まぁ、いい。
幻覚を見る理由がなんであっても、あの薬があれば治るのだから。
薬をくださいと言う僕に、岡島は顔をしかめる。
だが最後には薬を出すと言ってくれた。僕は地下室へ案内された。
そこではイマビキ草が栽培されていた。
岡島は僕に薬の包みを差し出す。その余りの妖しさに受け取るのをためらってしまう。
「いらないなら俺にくれ!」
山本がやってきて薬を掠め取ってしまった。岡島は肩をすくめた。
「愛美さんに変わった様子はない?」
岡島の言葉に思い当たることがある。そういえば、愛美は最近ぼーっとしているような気がする。
「解離性健忘・・・。あなたも知らない別の記憶が現れているみたい。このままでは危険だわ。
彼女の様子に注意して」
僕の分の薬をもらって帰った。

◇山本の消息
次の日。僕は学食にいた。頭痛がする。
テレビではニュースをやっていた。また焼死事件だ。最近多すぎる。
死んだのは山本と言っていた。山本って、あの山本なのか。
学食を出たところで愛美に会った。
「彼女の様子に注意して」昨日岡島が言っていたことが思い出される。
幻覚に襲われる。奇と愛美の姿が重なって見える。僕は逃げ出した。

 
33 :忌火起草 解明編◆l1l6Ur354A:2008/08/22(金) 22:21:55 ID:8jeAK7zx0
岡島医院に行く。「本日休診」の看板がかかっていたけど、鍵がかかってなかったので入った。
待合室に岡島が書いた本がある。
それを読むと、岡島が処方していた薬は今惹湯という名前で、
作り方は京介が岡島に教えたということがわかった。
岡島は地下室にいた。岡島の体に火がついて、燃えていく。
今惹湯も、それを作ってくれる岡島も、なくなってしまった。
僕の体が今惹湯を欲している。頭痛がひどくなってきた。
「困ったね。今惹湯、きっとたくさん必要だよね」
僕はうなずく。
「ついてきて」

◇屋敷にて
僕は愛美によって、京介の別荘だという屋敷につれてこられた。
はっきり言って、僕には愛美が何を考えているか解らなかった。
書斎で、京介が書いたというノートが見つかった。
そのノートを読んでいくうちに、今惹湯とビジョンの成分は同じだということがわかった。
そして、愛美がネットを使い、今惹湯の被験者を集めていたことも。
ネットって・・・。いやな予感がする。

○愛美の告白
僕は愛美を問いただした。
愛美は、小さい頃から幽霊が見える体質なのだそうだ。人に話しても信じてくれない。
そのために、人知れず苦しんできた。
京介が、今惹湯を作って飲むと、奇の幻覚を見て苦しむようになった。
そう、今惹湯は、飲ませた相手に自分と同じ苦しみを味わわせることができる薬なのだ。
愛美は、ひとりで苦しむのは嫌なので、ビジョンを作り、ばら撒いた。
山本の話は本当だったのだ。悪魔のような笑いを浮かべる愛美。
嘘だ、優しい愛美がそんなことするわけがない。
きっと、岡島が言っていた「解離性健忘」とかいうのにかかって――。
「アハハハ、それ、私のことじゃないよ。弘樹くん、あなたのことよ。
あなた、いない人間のことを、ずっといるように話していたでしょ。
今まで当たり前のようにいた人が、いなくなる。だからその人が恋しい。そうでしょう?
一人はいや、そんな気持ちから、今惹湯は生まれたの」
愛美はそんなことを言う。
今までずっと見守ってきたつもりなのに、まだ京介の死を乗り越えていないのか。
こんな所で言うつもりはなかったけど、僕は言った。
「ずっと片思いだった。だけど、愛美がいたから、僕は一人がいやだなんて思ったことはない。
なのに、どうして、あんなものを僕に飲ませたんだ?」

 
34 :忌火起草 解明編◆l1l6Ur354A:2008/08/22(金) 22:25:22 ID:8jeAK7zx0
○曖昧な記憶
「よく思い出してよ、記憶が曖昧なところがあるでしょ?」
愛美は質問で返してきた。思い出せ、今こそちゃんと思い出すんだ。
僕は記憶を辿った。記憶が曖昧だったあの事故のこと。
・・・あの事故のとき、京介が死んで・・・愛美も、死んだ。
どうして思い出せなかったんだ。僕は、とっくに死んでいた愛美を、生きていると思い込んでいた。
目の前の愛美は幽霊なのか。でも、ほら、幽霊だけど話も出来るし、触ることもできる。
堪え切れないというような感じの高笑いの後、愛美はこう言った。
「今惹湯を飲んで、見えるようになるのは奇だけよ。
だって、幽霊は現れたり消えたりするけど、妄想は常に心から消えないものなの・・・」

○朝を迎えて
夜が明けた。帰りは僕が運転することになった。
サークルのメンバーはみんな死んでしまった。でも、愛美が残っている。
これからは、愛美とはいつも一緒だ。たとえば、一枚のコインの表と裏のように。
たとえば、二度と醒めない夢のように。

完<ビジョンの真相>


※各話解説
赤・・・・・最後に出てくる着物の女はどう見ても奇です。本当にありがとうございました。
浅葱色・・・他と比べて弘樹の言動がやたらとカッコイイ。かっこよすぎる。
琥珀色・・・緻密な表現と技巧を凝らした文章が売り。
若葉色・・・救いがある話と思いきや、深読みすると怖い。構成がまどろっこしかったので少し変えました。
瑠璃色・・・実は選択肢によっては、愛美が死んだことが明かされずにスタッフロールが流れてしまう。コワイ。
紫・・・・・ギャグっぽい選択肢満載。でも設定はしっかり考えられている。読んでいて楽しい。
ピンク・・・文字がほとんど表示されない。映像にピンク色のフィルターがかかっている。声優ってすげーなと思った。

 
35 :忌火起草 解明編◆l1l6Ur354A:2008/08/22(金) 22:27:56 ID:8jeAK7zx0
《解明編 その2》
(全エンディングを見て(金のしおりにして)から、特定の条件を満たすと、
《解明編 その2》へ入れる入り口が出現。入り口は八箇所用意されているが、どこから入っても同じ話)

講義室で、退屈な講義を聞いていた。
僕はふと、妄想と現実の区別がつかない自分を想像した。
見えるはずのないものが見えたり、
当たり前のように思っていたことが妄想だったり・・・。
もし、自分が認識している現実が、本当の現実ではなかったとしたら。
本当の世界ってなんだろう。たとえば、本当はこの世界に僕しかいなかったとしたら・・・。
つまり、僕が見ているこの世界は、僕が想像した世界。
他人というものは存在しない。だとしたらすべてが幻なんだ。
痛みも悲しみも喜びもすべて。
窓から入り込む風の心地よさも、いつも午前の講義にやってくるこの眠気も、
学食の味も、好きな女の子のことも、所属しているサークルも、
僕が想像したとおりに喋っているんだ・・・。
僕は考えながら、なにかを思い出してきた。妄想ではない、本当の現実・・・。
覚えているのは確かだ。
いつだっただろう。そう、今から二年前。僕が一年生のとき。季節は今より少し涼しい。
午後。昨晩はほとんど寝ていなかった・・・。

 
37 :忌火起草 解明編◆l1l6Ur354A:2008/08/22(金) 22:29:35 ID:8jeAK7zx0
僕は何気なく空を見上げた。晴れ渡った五月の空があった。
キャンプの帰り道、ワゴン車を僕は運転していた。
「結局あれって、パーティグッズだったの?」
「違うよ。幽霊が見える薬だよ」
サークルのメンバーはビジョンの話で盛り上がっている。
「しかし残念だったな。愛美が来なくてさ。なんで参加しなかったか知ってるか?
・・・男だよ。俺たちといるより、彼といるほうがいいんだってよ」
健吾の言葉が僕の心を逆なでする。
「やめなよ、健吾!そんなこと言ってなかったでしょ。・・・ほら、摘んでおいたの。愛美にあげなよ」
「・・・うん」
和子が野草の花束を見せてくれた。黄色い可憐な花をつけた野草。愛美は喜んでくれるだろうか。
「あ、あれ見ろよ。やっぱ、男だろ?」
健吾が指さした先をちらりと見ると、京介と一緒に歩いている愛美の姿があった。
・・・見るんじゃなかった。
「おい、信号!」
「危ない!」
赤信号だったことに気が付いてブレーキを踏んだ。でももう遅い。
ワゴン車は交差点の真ん中に飛び出していた。横からトラックが突っ込んできた。
トラックはワゴン車をグイグイと押し、ワゴン車は横滑りしていった。
愛美と京介の方に向かって一直線に。ワゴン車はなにかにぶつかって止まった。
僕は頭を打ち付けて、気を失いそうになる。
目の前を見ると、愛美がフロントガラスの前で気絶していた。
外に出ようと思ったが、ワゴン車のドアは開かなかった。割れた窓からなんとか外に這い出た。
愛美は建物の壁とワゴン車の間に挟まれていた。
僕は愛美をなんとか助けようとして引っ張ってみたが、動かない。
愛美はゆっくりと目を開いて、言った。
【あなたは、誰?】
その瞬間、爆発が起きた。僕は吹っ飛ばされた。
愛美の体は瞬く間に燃えて消し飛んだ。そしてワゴン車が燃えていく。
香織、正人、健吾、飛鳥、和子・・・みんな生きたまま焼かれていく。
僕は見ていることしか出来なかった。全ての感情が死んだような気がした。
何時間くらい過ぎたんだろう。僕はずっとその場に立ち尽くしていた。
事故現場は片付けられていく。
野次馬の話によると、トラックはガソリンを積んでいて、
それがワゴン車に引火したのだろうということだ。
片付けはすっかり終わった。建物の壁に、人の形に黒い焦げ跡が残っていた。
愛美が燃えた場所だ。僕は、焦げ跡を指先で擦った。爪が黒く汚れた。

 
38 :忌火起草 解明編◆l1l6Ur354A:2008/08/22(金) 22:30:25 ID:8jeAK7zx0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

薄暗い病院の廊下を、二人の医師が話しながら歩いている。
「次は、牧村弘樹という患者だ」
「きっかけは、二年前の事故ですね」
「事故のショックで情緒が不安定になり、その後、奇妙な言動も現れるようになった。
地元の個人医院に通院するが、あまり改善しなくてね。一年前からうちに入院となった」
「現在は?」
「幻覚症状が出てる。壁から人が出てくるそうだ。
この患者の特徴は、妄想のバリエーションがいくつもあることでね。
友達が女に呪われる、好きだった女性の婚約者に命を狙われる、
通院をしていた岡島医院のドクターが出てくる話。それらを複雑に絡み合わせながら、
巧妙な心象世界を構築している」
「恐らく、事故のことを忘れたいから・・・?」
「ああ。彼の運転で七人が死んだ」
医師たちは、監獄にあるような鉄格子の前で止まった。
「今、ここに入っている」
「何か問題行動でも?」
「壁が焦げると言ってはそこらじゅうに水を撒いたり、
食事に薬が混じっていると言っては暴れたりするんでね」
医師たちは、鉄格子を抜け、その先の病室の扉を開ける。
牧村は鉛筆で一心不乱に絵を描いている。片目が隠れるくらい前髪の長い女性の絵。
「あの絵は?」
「事故で死んだ、好きだった女性らしい。もっとも、彼の中ではまだ生きているらしいがね」
傍らにはパレットが置かれていた。色とりどりの絵具がパレットの上に搾り出されている。
燃え盛る炎の赤。恋慕の若葉色。疑念の瑠璃色。恋慕と疑念が混じった浅葱色。
ノスタルジックな琥珀色。破天荒な紫。エロティックなピンク。彼の心の色たち。
それらの色が全て混ぜ合わされ、黒い絵具が出来上がっていた。
「あ、先生」
牧村はようやく医師に気がつき、顔を上げる。
「どうです、具合は」
「いいですよ。すごくいいです。だから、退院できませんか?」
「もう少し様子を見ましょう」
常套句を口にする医師。
「早く出たいんです。大事な用があるんです」
牧村は、黒い絵具で染めた爪を医師に見せた。
「ほら、これが真っ黒になったらおしまいなんだ!だから、行かせて下さい!」
懇願する牧村を無視して、医師は病室から出ていく。
「今日はこれで」
病室の扉が閉じられた。
【ガチャン!!!】
鉄格子の閉まる音が聞こえてきた。それは絶望の音だった。
「待ってください!愛美を助けないと!早く、早く行かないと、僕は、愛美を・・・」
開かない扉の前でがっくりと膝をつき、黒い指先で扉に触れる。
彼は悔恨の念に囚われた。でも、それも少しの間だけだった。
指先から炎が噴き出して、なにもかもを真っ赤に染め上げるようなイメージが、彼の心に広がっていく。
そして彼はまた、醒めない夢の中へ還っていく。
(→赤の話 ◇ドラッグの講義 へ)
 
39 :忌火起草 解明編◆l1l6Ur354A:2008/08/22(金) 23:10:05 ID:mrO7tcz10
《解明編 その2》解説&考察
・導入部分は入り口の場所によってさまざまなバリエーションがある。
誰かに会ったり、何かを見たり。いろんなきっかけで、弘樹は自分がキャンプに行っていたことを思い出す。
・弘樹が事故に遭ったのは大学一年生の時。現在はそれから二年経っている。
ゲーム本編は、もし事故が起こらなかったら今はどうなっているか?を妄想して作ってあるらしい。どうりで。三年生にしては暇そうなんだもん。
TIPSをよく読んでみると、最近の情報はなく、新しくても大学一年時の情報しかない。
新しい情報だと思っても、「一年前」とか曖昧な書き方で逃げている。こんなところにヒントがあるとは・・・。
・弘樹は黒い女の絵を描いている。
・【ガチャン!!!】【あなたは、誰?】は赤の話と同じ音。
※以下は判明した事実から導き出した、解釈の一つです※
・黒い女=愛美。目を見るとダメなのは、顔を見てしまうと黒い女が愛美だということが解ってしまうから。
愛美が死んだことを思い出してしまい、妄想から醒めてしまうためだと思われる。
・赤の話で堀内が言った「一つだけ方法がある」とは、黒い女の目を見て妄想から醒めることかも。
・医師が京介のことを「婚約者」と言っていることから、弘樹の勝ち目はなかったらしいことが伺える。かなり絶望的な状況。
・「完」エンドなのに救いがある話が少ないのは、
実は心の奥底では愛美やみんなが死んだことがちゃんと解っているからなんじゃないかと思う。
中途半端に悲惨な事実が混ざって、結局後味悪いエンディングに。
赤とか琥珀色とか、途中までうまく行ってるのに、最後にひっくり返すし。
妄想なんだから、もっと好き放題にすればいいのにね。

最後に。
全部妄想じゃん、みんな死んでるじゃん、夢オチじゃん、ただ現実から逃げてるだけだろ?と思う人もいるかも知らんが。
逃避するためだけじゃなく、なんとか自分の気持ちを整理するために、弘樹はこの世界を作ったんだと解釈してる。
だって、ただの逃避だったらもっと好き放題にやってもいいのに、それをしてないから。
すべての引き金となり、事故を起こす原因となった愛美を想う気持ち。
それを弘樹はときには憎悪し、ときには否定し、ときには真摯に受け止め、ときには持て余す。
愛美を想う気持ちは、ゲーム内でいろんな形に(亜美とか奇とか黒い女とか)こねくり回されているんだけど
それでもなかなか自分との折り合いがついてない。
そんなやるせなさ、せつなさ、「悔恨」の念が、言葉の端々に滲み出て、ゲーム全体を彩ってる。
でもそんな中にも一縷の希望が見えるような気がするんだよね。
きっといつか妄想から醒めて立ち直ってくれると信じているよ。(好意的に解釈しすぎかな・・・)

テキスト形式アドベンチャーゲームってのはいくつも選択肢があって、エンディングもたいてい複数ある。
選ばれなかった選択肢や通らなかったルートは無かったことにされるか、ただの可能性の一つとして片付けられる。
だけど忌火起草はゲーム全体が、弘樹の心象世界。どんなにふざけた選択肢や
理不尽なバッドエンドや何気ない一文、番外編の紫も、恒例のオマケのピンクも、
全て世界を構成する重要なパーツ。《解明編 その2》のたった数分で、ゲーム全体が鮮やかに生き返る。
このパーツは何を表しているのか、どこまでが現実と同じで、どこからが妄想なのか――
そんなことを考えながら読み返しているとせつなくて涙が止まらん。一粒で二度おいしい。お得。

つーか《解明編 その2》が入ってないPS3版は詐欺だろw せめて《解明編 その2》のヒントになる瑠璃色は入れるべきだったと思う。
《解明編 その2》や導入部分にはムービーや音声が入っていることから、Wii版のために追加で作ったんじゃなくて
元から入れるつもりで作っていたのに、わざと入れなかったっぽいよ。
(容量が足りないとか外的要因が原因だったらごめんなさい(そんなわけないと思うけどね・・・))

以上。
 
36 :ゲーム好き名無しさん:2008/08/22(金) 22:28:52 ID:4xVlISJz0
忌火起草乙
完璧なハッピーエンドってないのか/(^o^)\
 
41 :忌火起草 解明編◆l1l6Ur354A:2008/08/22(金) 23:21:34 ID:mrO7tcz10
>>36
逆だと思う。
《解明編 その2》で全てひっくり返されてしまった。
完璧なハッピーエンドがないっつーのは、弘樹に悔恨の気持ちがあるということ。
完全に妄想の世界に逃げこんでいるわけではないということじゃないかと。
それはやがて弘樹が救われることにつながるんじゃないかと。
まぁ忌火起草の中は妄想世界だから、その中にはハッピーエンドは無いよ
でも忌火起草の外側に行ける道筋が《解明編 その2》で出来たわけよ
きっとこのゲームの外側、漏れたちの心の中にこそ、本当のハッピーエンドがあるんじゃないだろうか
と解釈してる。
 
80 :ゲーム好き名無しさん:2008/08/23(土) 15:46:13 ID:S4W++wHv0
イマビキ草すげーね。
ただPS3版が結果的に詐欺っつーのがなんかなぁ。
 
81 :忌火起草:2008/08/23(土) 16:18:19 ID:WLiFYfrF0
>>80
後から聞いた話だと
瑠璃色(紺)は納期に間に合わなかったから入ってないらしい
とりあえず瑠璃色でヒントを出して、後で何らかの形でタネあかしをするつもりだったらしい。
ヒントが出されてたら答えにたどり着いた人がいたかもしれない。
そうなってたらガンパレみたいでちょっと面白いよね。
でもヒントすら出されないって・・・なんだかな。

ピンクも実は3つに分かれてて、
2つ目3つ目はオンラインで配信か、パスワードを入れる仕様だったらしい
次回予告が2回入ってたのはそういうことだったのかと今頃納得。

 
おまけ。※解釈の一つです※
愛美のフルネームをローマ字に直すと「Hayase Manami」。苗字に「あや」名前に「あみ」が入っている。
奇も亜美も愛美の化身であろうことがわかる。
堀内老人は弘樹の化身である。堀内がしたのと同じように、愛美の首を絞めてしまうバッドエンドがある
調合室の回想シーンで、若いときの堀内を演じているのは、
弘樹を演ってる役者さんである。また、《解明編 その2》で、爆発が起きて吹っ飛ばされたとき、
顔に火傷を負っていてもおかしくはない。実際の弘樹の顔には火傷の跡があるのかもしれない。

おまけ2。※ここまでくると無理がありますが、解釈の一つです※
《解明編 その2》で絵を描いている弘樹の姿と、
オープニングムービーで絵を描いていた三上亮平の姿は重なって見える。
「牧村弘樹」と「三上亮平」をローマ字に直して並べ替えると3文字違うだけ。似ている。
このことから、三上は弘樹が思い描くもう一人の自分、理想の自分ではないかと推測できる。
弘樹は実は絵を描くのが好きで、芸大に行きたかったのかもしれない。
「つんべい」の元ネタを考えてみる。つんべいのように無念の死を遂げた4人、
「まつしたかずこ」「なかもりけんご」「わたなべまさと」「いずみあすか」。
それぞれから一文字ずつ取ったのかな?(だいぶ無理があると思うが)
愛美は亜美や奇となり全編に登場し、京介については浅葱色、香織は琥珀色でそれぞれ決着をつけているが、
上の4人については、決着をつける場面が無いので、ツンベルクの存在を作ったのかも。
最終更新:2020年12月11日 17:54