涼宮ハルヒの並列

涼宮ハルヒの並列

part47-391~397,414~416、part48-13~33


391 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/25(日) 20:20:01 ID:oUbgJI8E0
涼宮ハルヒを知らない人へ。

俺は夢見がちな子供だった。
心の底から、宇宙人や未来人や幽霊や妖怪や超能力や悪の組織が目の前にふらりと出てきてくれることを望んでいたのだ。
俺が朝目覚めて夜眠るまでのこのフツーな世界。それと比べて、アニメ的漫画的特撮的な物語の中に描かれる世界の、
なんと魅力的なことだろう。俺もこんな世界に生まれたかった!
いや待て冷静になれ、仮に宇宙人や(以下略)が襲撃してきたとしても俺自身には何の特殊能力もなく太刀打ちできるはずがない。
ってことで俺は考えたね。
ある日突然謎の転校生が俺のクラスにやってきて、そいつが得体の知れない力なんかを持ってたりして、
でもって悪いやつらなんかと戦っていたりして、俺もその戦いに巻き込まれたりすることになればいいじゃん。
おお素晴らしい、頭いーな俺。
しかし、現実にはそういったことはもちろん起こるはずもなく、中学を卒業する頃にはそんなガキな夢を見ることからも卒業した。
そんな俺は何の感慨もなく高校生になり――
涼宮ハルヒと出会った。


ここで登場人物の紹介をする。
俺はこの物語の語り手だ。みんなから「キョン」と呼ばれているがそれは叔母が俺の名前をもじってつけたあだ名であって、
本名は今のところ名乗るつもりはないから了承してくれ。
俺は後述の奴らと比べれば至って普通の高校生であると自負している。

涼宮ハルヒ(すずみや -)は皆さんご存知のとおり天上天下唯我独尊的なこの物語の主人公だ。
主人公が語り手の俺じゃないってのが、ちょっとややこしいな。
泣く子も黙るSOS団の団長様。いつもみんな(特に俺)を振り回す台風のようなヤツ。
容姿端麗学業優秀スポーツ万能。性格以外は完璧。気の強そうな顔に根拠の無い自信を漲らせている。
古泉が言うには、俺はハルヒに必要とされている特別な存在なんだと。そんならもう少し俺のことを労わってくれよ。

長門有希(ながと ゆき)は一年の文芸部員のはずだがいつの間にかSOS団に入団させられていた。
ハルヒは長門のことをSOS団に不可欠な無口キャラだと言っていたな。
長門の正体は情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。
簡単に言えば宇宙人に作られたアンドロイド。もっと簡単に言うと宇宙人だ。
長門が持っている数々の不思議な能力、そして無感情な話し方は確かにアンドロイドなんだと実感できる。
俺がおかしなことに巻き込まれたとき、いつも助けてくれるのは長門のような気がする。

朝比奈みくる(あさひな -)。その可愛らしい外見からは想像もつかないが二年生。
SOS団には萌えが必要だからとハルヒにマスコット的キャラとして強制的に連れてこられた。
ハルヒにオモチャ扱いされメイドやらバニーガールやらのコスプレをさせられてしまう気の毒なお方。
思わず守ってあげたくなるような愛らしいお姿。朝比奈さんとお近付きになれただけでもSOS団員でよかったと思える。
その正体は未来からやってきた未来人だが、自由に時間移動出来るわけではないらしいので
能力的には普通の人間と変わらない。

古泉一樹(こいずみ いつき)は5月という中途半端な時期に一年に転入してきた。
ハルヒは古泉を謎の転校生キャラだと言ってSOS団に強制加入させた。
成績が良く背も高い。いつも柔和な微笑を浮かべている胡散臭い奴だ。
こいつの正体は超能力者。「機関」という秘密結社に所属しているそうだ。
なんでも、ハルヒの精神状態が不安定になると閉鎖空間が発生してその中で神人(しんじん)という怪物が暴れるんだと。
古泉の能力はその閉鎖空間で神人を倒すことのみにしか使えないらしい。だから普段の古泉はただの高校生だ。

392 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/25(日) 20:22:03 ID:oUbgJI8E0
さて、話を元に戻そう。
高校の入学式を終えて自分のクラスに入り、一人一人自己紹介をする。
俺の後ろの席に座っている女子が、後々語り草となる言葉をのたまった。
「東中学出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。
この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」
それはギャグでも笑いどころでもなかった。
涼宮ハルヒは常に大マジで心の底から宇宙人や未来人や超能力者といった非日常との邂逅を望んでいたのだ。
のちに身をもってそのことを知った俺が言うんだから間違いはない。
こうして俺たちは出会っちまった。しみじみと思う。偶然だと信じたい、と。

ハルヒはクラスではかなり浮いた存在だった。ポツンと一人で席に座っていつも不満そうな顔をしている。
俺は何度かハルヒに話しかけてみたが、不満の原因は毎日が退屈でつまらないから、らしい。
そりゃそうだ。俺も昔夢見ていたような非日常なんて現実にあるわけがない。
ゴールデンウィークを過ぎたある日、ハルヒはいきなり俺の制服のネクタイをひっ掴んでこう言った。
「どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのかしら!ないんだったら自分で作ればいいのよ!」
かくして、ハルヒは持ち前の強引さで「世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団」略して「SOS団」を作ってしまった。
表向きは同好会という名目で、活動内容はハルヒが面白いと思ったことをなんでもやるというものだ。
団長はもちろんハルヒ。メンバーは俺と、強引に連れてこられた長門と朝比奈さんと古泉。
この三人の正体はそれぞれ宇宙人未来人超能力者だということをなぜか俺だけに知らされることとなった。
三人が口をそろえて言うには、ハルヒは特別な存在で、この世界はハルヒを中心に動いているんだと。
だから三人はそれぞれの目的のためにハルヒをこっそり監視するためにハルヒに近付いたのだという。
当然のことながらハルヒに正体をバラすわけにはいかないらしい。
ハルヒがこいつらの正体を知ったらさぞかし喜ぶだろうな、とは思う。

以上。小説「涼宮ハルヒの憂鬱」(全1巻)を相当端折って短くまとめてみた。
細かいことは原典を読む(見る)べし。俺が言うのもなんだが読んで(見て)おいて損は無いと思うぞ。
漫画でもアニメでもいいが小説を是非お勧めしたい。一冊だけですっきりと纏まっているし、
軽妙かつ小難しい俺の独特な語り口が存分に堪能できる。

重要なことはただ一つ。
ハルヒが「そうあって欲しい」と願ったものは本人が知らないうちに実現しちまうってことだ。それがハルヒの特殊能力と言ってもいい。
今回も非日常との邂逅を願ったハルヒの前に長門や朝比奈さんや古泉が現れたが本人は彼らの正体を知らない。
俺はこれ以降もハルヒに、そしてハルヒが願ったものに振り回されることになるのだが――それはまた別の物語。

何?異世界人は出てこないのかって?よくぞ聞いてくれました。
異世界人は実は俺のことだとか、読者諸兄のことだとかいろいろな説があるな。
特にあのプロローグ(上記の冒頭から「涼宮ハルヒと出会った」までの部分)が我ながらいろいろと思わせぶりだよな。
そうそう。大した事じゃないかも知れないが、覚えておいた方がいいことがある。
漫画もアニメも小説も、基本的に俺が知覚できないものは物語にならないって事だ。
考え方を変えれば、俺の身の回りにいろいろと不思議なことが起きるのは俺が存在するからだ。なんか哲学的だな。
この世界がハルヒ中心で回ってるのも実は俺の特殊能力のせいだという説もあるな。
ともあれ新刊が出なくなって数年。不明な点気になる点、伏線になりそうなあれやこれやは回収されないまま残っている。
もしかしたら永遠に答えは出ないのかもしれない。

さて、ゲーム本編の話に入る前に一つだけ。
「エンドレスエイト」という単語を知っていたり、またはその内容を知っている諸兄は
今だけはキレイさっぱり忘れた上で読んでくれることを切に願う。

393 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/25(日) 20:23:34 ID:oUbgJI8E0
プロローグ

俺は高校最初の夏休みを順調に消化していた。
ある日のこと、車のボンネットで目玉焼きが焼けるんじゃないかという熱い日差しの中、
俺と妹の二人は涼宮ハルヒに呼びつけられた。
そして我が暴君の招集に応じることを渋々と決意したわけだが――。
「よりによって、こんな場所に集合とはな」
そこは近郊の港だった。豪華客船といった雰囲気の船が係留されている。
「遅いわよ、キョン。団長を一人で待たせておいて、なんとも思わないわけ?」
集合場所には我らが団長、涼宮ハルヒだけが口をアヒルのように尖らせて待っていた。
ハルヒは俺と妹に一枚ずつ紙片を差し出した。そこに泊まっている豪華客船の写真とともに、
オーベロン号ご乗船券一日限り有効の文字がある。出港は今日の10時となっている。
「町内会の福引で当たったのよ。7名様ご招待よ。でももったいないわね。
1枚余っちゃうなんて」
SOS団のメンバーに俺の妹を含めて6人。他の知り合いにも声をかけたが皆都合が悪いとのことだそうだ。

「キョン君、先に行ってるね~」
妹はとっとと船に乗り込んでしまった。
ああ、紹介がまだだったな。我が妹は幼く見えるがこれでも小学5年生である。
何度か会っているうちに妹は団員たちにすっかり懐いてしまっていた。
こいつが面白がってキョンなどと俺のことを呼ぶからそれが広まり定着してしまったのだ。
悔しいので俺も妹の本名は明かしてやらないことにする。

俺たちも船に乗り込もうと思ったそのときである。
一人の少女が物憂げな表情で船を見上げているのに気付いた。
「何してるのかしら、あの子」
清楚な白の上下(ツーピースっていうのか?)に白い靴の彼女はいかにもお嬢様といった雰囲気だ。
「ねぇそこの人、船に乗らないの~?もうすぐ出航よ」
突然ハルヒは見知らぬ少女に声をかけた。
「乗れないんです。乗りたいんですけど、でも、チケットが無いんです」
物憂げな表情の中に静かな決意を感じる。何やら彼女には事情がありそうだな。
「この乗船券はあなたにあげる。どうせ一枚余ってたことだし」
「ほ、本当ですか」
ハルヒは少女に乗船券を渡した。ハルヒらしからぬ真っ当な常識人らしい対応に
俺は少なからず驚きを覚えた。まったく、普段からこうならいいんだがな。
「でも、その券で乗船するからにはSOS団の仲間。つまり、団員と同じ扱いってこと」
前言は撤回させてもらう。ハルヒはやっぱりハルヒだ。
「わたし、何でもします。この船に乗れるなら、何でも……」

「時間だわ。さっさと乗り込むわよ」
とまあ、相も変わらず傍若無人なハルヒの一挙一動に振り回されつつ、物語は始まる。
ハルヒの関わる事だ。平穏無事に終わるはずがない。俺だって学習くらいはするのさ。
かくして、涼宮ハルヒを筆頭に掲げ、我らがSOS団の航海は幕を開けたのである。

394 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/25(日) 20:25:58 ID:oUbgJI8E0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━1st loop━━━━━

第一章

俺たちが乗り込んですぐ、船は港を離れた。まずロビーにやってきて、その広さに圧倒される。
海に浮かぶホテルとはよく言ったものである。まさしくそこは、豪奢なホテルのようだった。
少なくとも俺のような、全身カジュアル男がおいそれと闊歩していい場所には思えない。
「涼宮さーん、キョンくーん!」
こちらにやってくる愛らしいお姿は言うまでも無い、朝比奈さんである。
俺たちが乗り込むのを待っていてくれたらしい。
「えっと、そこの方は……?」
朝比奈さんはハルヒに隠れるように立っている見知らぬ少女を見て首を傾げる。
「あ、申し遅れました。三栖丸(みすまる)ミコトといいます」
「ミコト、SOS団員としての活躍、期待してるわよ」
すまん、三栖丸さんとやら。今日一日だけハルヒの無茶に付き合ってやってください。
「あの、ところでSOS団って何なんですか?」
三栖丸さんは誰でも抱くであろう疑問を投げかけてきた。
「世界にある不思議や面白いことを探して楽しもうという、サークルのようなものです」
的確かつ簡潔に説明する。

「あとでラウンジに集合ね。そこで出航セレモニーがあるから」
ハルヒは三栖丸嬢を引っ張ってどこぞに連れて行った。
「そうだ朝比奈さん、妹を見ませんでした?」
「妹さんなら、甲板の方に行ったみたいですよ」
朝比奈さんの言葉に従い甲板に行くことにする。

いやしかし、外見も相当に巨大な客船だがその中身もよくもまあここまで、
と感心するほど広大に作ってある。俺ですら迷子になっても不思議じゃないね。
それはつまり、妹も迷子になっている可能性があるわけで――。
我が妹はいずこ、と甲板を見回していると、見慣れた二人組を見つけた。
長門は読書中で、古泉は……よく分からん。海でも眺めているんだろうか。
「長門、うちの妹を見なかったか?」
「見ていない」
いつもの無感情な声でそう言うと長門は本に視線を戻した。
「古泉は?」
「妹さんですか?さあ、僕は見ていませんが。ところで、気になりませんか?
このクルーズのこと。この船で今度は何が起きるのでしょう」
まるで預言者みたいな口ぶりだ。こいつの物言いはいつも芝居じみている。
「言いたいことはハッキリ言え」
「もちろん、涼宮さんのことです」
例の願ったことを現実にしてしまうハルヒの特殊能力のことか。
考えたくないね、そんなことは。
「これより、ラウンジにて出航セレモニーを執り行います」
アナウンスが流れて、その話は打ち切りになった。

395 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/25(日) 20:27:03 ID:oUbgJI8E0
ハルヒの言いつけに従ってラウンジに集合したわけだが、そこには既に大勢の人がひしめき合っていた。
なんだ、正月の餅投げでも始まるのか?
「これより、本クルーズの主催者であり、本船のオーナーでもある伊集院泰一郎さまに
ご挨拶いただきたいと思います」
船長らしき人に代わって気障ったらしいスーツを着込んだ男が壇上にのぼる。
「やあ皆さん。今日は僕のために集まってくれてありがとう。
最初に言っておくが、このクルーズは僕の婚約者を選ぶためのものだ。
今夜のパーティで花嫁コンテストを開催する。お集まりの淑女諸君は、皆花嫁候補だ。頑張ってくれたまえ」
壇上の伊集院とかいう男をまじまじと眺める。いかにも金持ちというような感じだ。年は俺と同じか少し上……か?
「金持ちのボンボンだか何だか知らないけど、何様のつもりなのよ」
傍らでハルヒが伊集院に悪態をついている。
「確かに、あいつの態度は気に食わないな。どこの誰なんだあのボンボンは」
「あの人は伊集院財閥の御曹司です」
どうやら三栖丸さんと伊集院は知り合いらしい。

「ルールを説明しよう。招待状をお持ちの皆さんはそのままパーティの参加資格がある。
だが、乗船券をお持ちの一般庶民がパーティに参加するためには、参加券が必要だ。
参加券はこの船内のどこかに隠してある。せいぜい頑張って探してくれたまえ。
コンテストで会えることを楽しみにしているよ。ではこれで失礼する」
伊集院は壇上から降り、ラウンジから出て行こうとする。
「待ってください、泰一郎さん!」
三栖丸さんが伊集院を呼び止めた。
「わたしです。三栖丸ミコトです」
「ああ、君か。没落した三栖丸家に招待状を出した覚えなど無いんだが……。
まあいい。せいぜい僕を楽しませてくれたまえ。僕は忙しいから、これで失礼するよ」
伊集院は悠々とラウンジから去っていった。

「やっぱり話も聞いてもらえなかった……」
うなだれる三栖丸さん。
「ミコト、あなた、あのボンボンと何かあったの?」
「はい」
「なるほどね。これは我がSOS団の活躍する、絶好の場面だわ」
ハルヒの目は100カラットのダイヤモンドもかくやという程に輝いている。
やばい。ハルヒがああいう顔をしているときは、ろくなことになった試しがない。

396 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/25(日) 20:28:09 ID:oUbgJI8E0
SOS団メンバーは客室の一つに集められた。
「これから洋上緊急SOS団会議を始めるわよ。さあ、ミコト、事情を話してちょうだい」
ハルヒに促され三栖丸さんは話し始める。
「わたしと泰一郎さんは許婚(いいなずけ)の間柄でした。
わたしが小さな頃は、三栖丸家は伊集院家と付き合いがあったんです。
でも、ある時期に三栖丸家は財産を失ってしまって、それを理由に許婚の約束も取り消されてしまったんです」
「ふぅん。でも、あんな無神経なボンボンと結婚しなくて済んだんだから、良かったじゃない」
「泰一郎さんは、昔はあんな独善的な人じゃなかったんです。もっと優しくて、思いやりがあって……。
わたしは今の彼が許せないんです。花嫁コンテストなんて、人を人とも思わないようなことをするなんて。
だから、泰一郎さんと話して、分かってもらおうと思って……」
「それじゃダメね。ああいう手合いはじっくりたっぷりお説教してやらなきゃ、何も変わらないわよ。
そうね、花嫁コンテストの会場がいいわ。ビシッと、人生の何たるかをあいつに説教してやるのよ!」
ハルヒはそう言い切った。
誰よりもまず、人生の何たるかを説教されるべき人物がいることに自覚がないのか?
ないだろうな。あるわけがない。
「いい?全員でパーティの参加券探しをするわよ!」
しかし、あろうことかハルヒの策略に少しだけ乗ってやってもいいなどという
不埒な考えを俺は抱き始めた。

「じゃあ、一休みしましょ。みくるちゃん、お茶入れてくれる?」
しばらくして、
「皆さん、お茶がはいりましたよー」
カップを載せたトレイを持って朝比奈さんがこちらに向かって歩き出そうとした。
そのとき船は揺れカップの一つが床に落ち、割れてしまった。
「あっ、すみません」
「謝る必要はないわ、みくるちゃん。このカップはあのボンボンに請求がいくんでしょうし」
お茶の時間を終えたあと、手分けして参加券を探すことになった。
ハルヒは三栖丸さんと一緒に行動するという。
三栖丸さんが無茶なことをさせられるんじゃないかと心配になった俺はハルヒたちに付いて行くことにした。
さて、今は午後1時。パーティの開始は午後8時。それまでに全員分の参加券が集まるだろうか。
参加券が足りない、なんていう事態になったら真っ先に俺が留守番させられるだろうからな。

俺とハルヒ、そして三栖丸さんは甲板にやってきた。
「あ、あれ、参加券じゃないでしょうか」
三栖丸さんが指差した先の電灯には参加券らしき紙切れがヒラヒラと揺れている。
「でかしたわ、ミコト」
でも、あれじゃ手が届きそうにもないぞ。
「だからあんたが登るのよ」
そうですか。俺は手近なテーブルの上にさらに椅子を乗せてその上に上り参加券を取った。
「はい、ミコト。これはミコトのぶんね。あんたが見つけたんだから」
ハルヒは俺の手から参加券をひったくると三栖丸さんに渡した。
それで、これからどうするんだ?
「とりあえず、部屋に戻ってみましょう」

397 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/25(日) 20:29:33 ID:oUbgJI8E0
客室前の廊下に来た。
「ん?今のは……」
角を曲がる怪しい人影がチラリと見えた。
追いかけようと思ったが、
「何やってんの。早く来なさい」
アヒル口のハルヒに急かされ追いかけることは出来なかった。

俺たちは客室に戻った。といってもここは先ほど会議を開いた部屋とは違う、みんなの荷物置き場と化している部屋だ。
床に雑誌が落ちているのを見てハルヒは声を上げた。
ハルヒは荷物が動かされたら雑誌が落ちるように細工をしておいたのだという。
「あたしたちが出て行った後で、この部屋のどこかに参加券を隠したのよ!」
三人で参加券を探すが見つからなかった。
「あの、わたし、どうすれば……」
三栖丸さんが不安げにハルヒを見る。
「ミコトはもう行ってもいいわ。キョン、あたしたちは絶対参加券を見つけるんだから」

三栖丸さんが出て行った後、さらに室内を探す。皮肉にも参加券は床に落ちた雑誌に挟まっていた。
やれやれだ。灯台下暗しというか、盲点というか。
ハルヒは気が済んだらしく部屋を出て行こうとする――が、
「変ね。扉が開かないわ」
「ちょっとどいてろ」
俺は扉のレバーを持って回そうとしたが回らない。どんなに力を入れようとも1ミリもレバーは動かなかった。
鍵を掛けられたとかつっかい棒をしたとかでも、1ミリも動かないというのはおかしい気がする。
「もしかして、あたしたち誰かに閉じ込められたんじゃない?
ライバルを少しでも減らそうっていう魂胆ね。見え透いてるわ。となると犯人はあのボンボンって線が濃厚ね」
ノッてるところすまんが、ここから出ないことにはどうしようもないぞ。
「その通りね。キョン、何とかしなさい」
そう言われてもこの扉はけっこう頑丈そうだ。
テレビドラマでよく見るように体当たりで開けるなどという行為に及べばものすごく痛い思いをすることになるだろう。
どうすればいい、と悩んでいると、ふいに扉のレバーが回り扉が開けられた。
「キョン君、ここにいたんだ~」
なんと我が妹だ。どんなトリックを使ってこの扉を開けたのかと問い詰めたが妹は普通に開けたのだと言った。
とにかく、助かった。

SOS団メンバーの6人は再び客室に集まった。
「さあ、みんなが集めた参加券を出しなさい」
古泉はラウンジで、長門はカジノで、朝比奈さんはプールでそれぞれ参加券を1枚ずつ見つけてきたらしい。
俺たちが見つけたのは2枚で合計5枚。
かくして案の定留守番になった俺は一人きりの客室でベッドに横になり、やがて睡魔に襲われた。

414 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/26(月) 23:46:41 ID:HThK54Ms0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2nd loop━━━━━

俺たちが乗り込むとすぐに、船は港を出た。
朝比奈さんはロビーで待っていてくれた。ハルヒのヤツは全くいつもの調子で、まあ元気なことだ。
いつの間にか三栖丸さんはSOS団の一日団員になっていた。
……何だ、今の感覚は?
まるで俺一人だけ取り残されたような、それでいて妙に冷めている自分が気にかかる。
俺が三栖丸さんに会うのは初めてか?自問するまでもない。初めてに決まっている。
なのに、なんなのだろう、この違和感は――。

甲板に行き長門と古泉に会い、ラウンジに行って出航セレモニーとやらに出席した後、客室に行く。
ハルヒの顔を見た瞬間、俺はなんとも説明しがたい、不思議な感覚を覚えた。
以前こんな場面を経験したことがあるような気がするが、思い過ごしだろうか?
――思い過ごしだろうな。似たような記憶はそれこそ山のようにある。
だが、何かを思い出せそうで思い出せないような、そんなもどかしさが俺の頭から離れない。

「じゃあ、一休みしましょ。みくるちゃん、お茶入れてくれる?」
しばらくして、
「皆さん、お茶がはいりましたよー」
カップを載せたトレイを持って朝比奈さんがこちらに向かって歩き出そうとした。
そのとき船が揺れたせいで床に落ちたカップの映像が鮮明に俺の脳裏にひらめいた。
一瞬の後、本当に船は揺れた。
考えるより早く俺の手は伸び、落ちていくカップが床に到達する前にそれを受け止めていた。
「やるじゃない、キョン」
珍しくハルヒに褒められているんだが違和感にとらわれている俺はうれしくもなんともなかった。
「知っていたから」
長門がふいに口を開いた。
「カップの落下を事前に予測したから。その結果、受け止めることが可能」
何だって?俺がカップが落ちることを知っていた?

結局カップのことはうやむやになってしまい、俺はそれを偶然だと自分に無理やり言い聞かせることにした。
手分けして参加券を探すことになり俺はハルヒと三栖丸さんについていくことになった。
甲板で一枚目の参加券をゲットする。
それで、これからどうするんだ?
「とりあえず、部屋に戻ってみましょう」
「ちょ、ちょっと待った」
思わず引き止めてしまったが、俺は何をしたいんだろう。
「キョン、あんたさっきから変よ?はっきり言って、不審人物ね」
んなことは俺だって解っている。しかしこの違和感というか、気持ち悪さというか――
そう、まるで心のどこかが警鐘を鳴らしているかのような感覚。
「あの、どこか、具合でも悪いんですか?」
三栖丸さんが俺のことを気遣ってくれる。待てよ、そうか。
「ちょっと船酔いしたみたいだ。医務室で酔い止めをもらって来ようと思うんだが……」

415 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/26(月) 23:47:30 ID:HThK54Ms0
医務室に行き、船医から酔い止めをもらって飲みはしたが、もちろん俺は船酔いなんかしていない。
何故か無性にこのまま戻れないと感じてしまった。さて、弱ったな。この後どうすればいいのやら。
不機嫌そうなハルヒと不安げな三栖丸嬢の視線を背中に受けながら俺は途方に暮れた。
そもそも自分が何故仮病を使ってまでこんなことをしなければならないのかすら理解不能なのだ。
「あ、キョン君みっけ~」
なんだ妹か。
「ねーねー、アイス買って~」
いきなりそれかよ。こうなると言い出したら聞かないからな。
俺はハルヒと三栖丸さんと別れ妹を連れてレストランへと向かった。
妹にアイスを買い与えた後、長門と会ったので二人で参加券を探すことにした。

長門と二人でカジノへ行く。
「いらっしゃいませ。こちらはご家族で楽しめる健全なカジノとなっております」
船員さんの説明を聞く。この船の乗客は一人につきチップ100枚がもらえるらしい。
それを使ってゲームを楽しむわけだが、稼いだチップは換金は出来ず景品と交換するらしい。
景品には何があるのかと見てみると、なんとパーティ参加券があった。
俺はさっそくチップをもらい、多少は自身があるポーカーをすることにした。
小一時間が過ぎた頃、俺のチップの山はほとんど無くなりかけていた。
俺の方に何がしかの役が出来たとしても、ディーラーの方がそれ以上の役で上がってしまう。
そうだ。長門がいるのをすっかり忘れていた。
「長門、教えてくれ。どうすれば勝てる?」
「今まで出されたカードを全て覚えれば、次に来るカードの予測が可能」
そりゃそうだろうよ。そんな芸当が出来るのは長門、おまえだけだ。
「代わってくれ、長門。俺には無理だ」
長門に交代してゲーム続行。長門は機械のような正確さで勝ち続けていって、
俺の負けを取り戻しさらに参加券と交換するのに必要なだけのチップを稼ぎ出した。
ディーラーに少々申し訳ない気がしたが、まあいいか。参加券が手に入ったんだし。

SOS団メンバーの6人は再び客室に集まった。
「さあ、みんなが集めた参加券を出しなさい」
古泉はラウンジで、朝比奈さんはプールでそれぞれ参加券を1枚ずつ見つけてきたらしい。
ハルヒと三栖丸さんは甲板で見つけたのが1枚と、もう一つの客室で見つけたのが1枚。
さっき長門と俺がカジノでゲットしたのが1枚で合計5枚。
かくして留守番が決まった俺は失意のうちに廊下へ出た。
「キョン君、どうしたの。元気ないよ」
ああ、妹よ、兄は不公平な世の中にちょっとばかり文句を言っていただけだ。
「んー、わかんない。ねえ、キョン君はパーティに行かないの?」
参加券がないんだよ。
「そっかー。じゃあ、これあげる。アイス買ってくれたお返しだよ」
妹が差し出したのは紛れもない、パーティ参加券である。
でもこれをもらったら、お前がパーティに参加出来ないだろ?
「だいじょーぶだよ、ほら!」
十数枚はあろうかというほどのパーティ参加券を俺に見せる妹。
いったい、俺たちの苦労はなんだったんだろうね?

416 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/26(月) 23:50:34 ID:HThK54Ms0
最後の一発大逆転により6人全員でパーティに出席できることになった。
勢いこんでパーティ会場であるラウンジに乗り込むが、
「優勝はエントリーナンバー14番の方です!!」
壇上の司会者らしき人がマイクに向かってそう言うのが聞こえた。花嫁コンテストは終わろうとしていたのだ。
「そこのボンボン!どういうことなのよ、これって!」
掴みかかりそうな勢いでハルヒが伊集院に言う。
「少々退屈だったのでね。パーティの時間を早めたんだ。君たちの所にも連絡が行ったはずだが、どうやら手違いだったようだね。いや、済まないね」
なあハルヒ、これってもしかして……。
「そうよ。あのボンボン、わざとあたしたちに知らせなかったのよ!」
これは予想の斜め上を行く展開だな。やれやれだ。もはやどうしようもない。

クルーズは終了し、俺たちは港に下ろされた。怒りがおさまらないらしいハルヒを朝比奈さんと古泉がなだめている。それを少し離れたところで眺めている俺と長門。
「なあ、長門。一つ聞いてもいいか?」
「なに」
「朝比奈さんがカップを落としたときのことなんだけどな。俺は今日一日、ずっと妙な感覚があったんだ。
あのとき俺は朝比奈さんがカップを落とすのを知っていたような……。今日という一日を前にも一度経験したようなことがあるような……」
「今回が769回目」
な、なんだって?今、何て言った?
「同一時間のループを確認」
じゃあ、俺が今日一日感じていた既視感は気のせいじゃなかったってことか?どうしてそんなことになっているんだ?
「涼宮ハルヒの能力の影響と推測される」
確かにそんなトンチキな現象を起こすのはあいつだと決まっている。しかし、どうしてハルヒがそんなことをする必要があるんだ?
「理由は現段階では推測しきれない。涼宮ハルヒの無意識下で発生している現象だと思われる」
ハルヒ自身も時間がループしてることに気付いてないってことか。考えてみれば、あいつは自分の特殊能力のことを知らないんだったな。
「待て、長門。お前はこのループに気付いていたのか?」
数ミリ単位で長門の頭が縦に動く。肯定の意味だ。
「最初の一回目から?」
また肯定。
「だったら何で言わなかったんだ」
「聞かれなかった」
そりゃそうだろうな。何しろ、俺は今初めてループに気付いたんだから。
「もしかして、ループ開始地点に戻ると、ループに気付いたってことも忘れちまうのか?」
「そう」
なんてこった。同じ毎日を延々と繰り返すだけの日々。永遠に明日は来ないのか?
「長門、聞いてくれ。俺たちがこのループを抜け出すのに協力してくれないか」
「涼宮ハルヒが同一時間をループさせている理由を突き止めることが必要。それを解消することにより、ループから脱出できる可能性が高い」
ハルヒが時間をループさせているとしたら、それはハルヒが望んだことということになる。おそらく、ハルヒはこのクルーズに満足していないんだ。
だから、今日という日が何度も繰り返される。ループから抜け出すにはハルヒを満足させてやればいい。でも――記憶がなくなっちまうってのは厳しいな。
「ループの開始地点でナノマシンを直接注入することにより、現在の記憶の持越しを行うことは可能」
どういう理屈かは解らんがそれに賭けるしかない。
「長門、それを頼めるか?」
「わかった」

「ちょっとキョン、聞いてるの?」
寺院にある金剛力士像のような凄まじい形相でハルヒが俺に近付いてきた。
「あのボンボン、今度会ったら絶対改心させてやるんだから!って言っても、もう会うこともないのかしら。そう思うとますます悔しいわ!」
果たしてそうだろうか。長門が言う通り時間がループしているならば、また伊集院や三栖丸さんと会うことになるんじゃないのか?

13 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/26(月) 23:52:58 ID:HThK54Ms0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━3rd loop━━━━━

俺たちが乗り込むとすぐに、船は港を出た。
ロビーで待っていたのは長門だった。
「確認事項がある」
長門は強引に俺を連れて行こうとする。なんだかただならぬ様子だ。
「すまんハルヒ、長門が俺になんか話があるみたいだ」
俺は長門にロビーの隅の、誰の目からも死角となる場所へと連れて行かれた。
「なんだ長門、話って……」
長門はいきなり俺の腕を取って噛みついた。といっても痛みは無く、
しかし痛みがない分、むず痒いというか、妙な感覚を覚える。
急に何を――と言いかけた瞬間だった。
まるで溶けた金属のような重い液体を頭の中に注がれる感覚と共に脳裏にパチパチと映像が瞬いた。
ああ、そうか。俺は全てを思い出した。
これは俺が前のループで頼んだナノマシン注入とかいうやつだ。まさか噛み付かれるとは思わなかった。
しかし、何てことだ。本当に時間がループしているとはね。長い一日はまだ当分終わりそうもないな。

第二章 孤軍奮闘編

甲板に行く。朝比奈さんと古泉がいた。未来人と超能力者。
こういうハルヒがらみの厄介ごとでは二人の協力が欲しい。
「古泉、朝比奈さん、大事な話があるんですが」
俺は時間がループしていることを説明し、長門からナノマシン注入をしてもらうように二人に頼んだ。
「それは困ります。長門さんの能力を無条件に行使させるなんて、僕の立場上、出来ません」
古泉は「機関」の一員だから敵対勢力である宇宙人の長門の能力を使わせるにはいかないらしい。
「ごめんなさい、キョン君。あたしも『禁則事項』が『禁則事項』だから……」
朝比奈さんからもお得意の「禁則事項」を出されて断られてしまった。
「失礼ですが、その時間のループが長門さんの情報操作だという可能性を完全に否定できますか。
時間のループが証明できなければ、僕たちは協力出来ません」
なるほど、そう来たか。しかし、未来人や超能力者相手に一般人の俺がどうやってループを証明できる?
ここは一旦あきらめて、一人でなんとかするしかなさそうだ。

ラウンジに行って出航セレモニーとやらに出席する。
挨拶を終えた伊集院に三栖丸さんが話しかけるが相手にされない。
よし、ここは俺がビシッと言ってやろう。
「僕は忙しいから、これで失礼するよ」
「おい、待てよ」
俺は伊集院を呼び止めた。
「君は誰だね?」
「別に誰もいいだろ。あえて言うなら、三栖丸ミコトさんの友人だ」
「その友人とやらが僕に何の用だい?」
この伊集院の尊大な話し方。腹が立つ。
「まあ用って程でもないんだがな。世の中には、自分の思い通りにならないことがあるってのを、
そのうち思い知ることになるぜ。それだけ言っておきたくてな」
「見てきたようなことを言うじゃないか」
そうかい?ただの率直な意見だ。

14 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/26(月) 23:54:45 ID:HThK54Ms0
客室に行って三栖丸さんの話を聞く。
朝比奈さんにカップを落とされては面倒なのでお茶は俺がいれることにした。
その後、パーティの参加券集めになったわけだが、俺は一人で船内を回ることにした。
まず甲板に行ってあっさり1枚ゲットする。次に行こうとしたときにハルヒと三栖丸さんにばったり会った。
「あら、キョンじゃない。参加券はもう見つかったの?」
俺はさっき入手した1枚をハルヒに見せてやった。

(そして誰もいなくなった、かも)

どうもやりにくくて仕方ない。というのも、ハルヒが俺と行動すると言って聞かないのだ。
俺と一緒にいれば参加券を入手できると踏んでいるらしい。
おまけに三栖丸さんまでいるから動きづらいことこの上ないぞ。
いくら参加券がある場所が解っていたとしても、いきなり直行したのは不自然すぎたか?
とりあえずロビーに行った俺たちは古泉に会った。
「先ほど船員さんに伺ったのですが、パーティ参加券の競争率は相当高いようですよ」
古泉はハルヒにそんな事を言った。
「うーん、競争率が低すぎてもつまらないけど、高すぎるのも考え物よね」
ハルヒはあごに指を当てて考え込んでいる。
「ライバルは少ない方がいいからな」
俺は賛同の意を表した。
「なあ古泉、お前はどう思う?」
ほんの少し目を離した隙に古泉の姿はもうロビーから消えていた。
あいつ、どこへ行ったんだ?

次は参加券がなさそうな場所にしよう、そう思って俺たちはレストランに向かうことになった。
途中の廊下で朝比奈さんに会ったので少し話をしたが、朝比奈さんは話の途中でいなくなってしまった。
レストランに着いたが誰もいない。客はおろか、いて当然の店員までもが。
さっきまで確かに側にいた三栖丸さんも消えた。
これはどう考えてもおかしい。ハルヒの特殊能力が暴走してるんじゃないか?
ロビーでハルヒは競争率が高いのは考え物だと言ったから、
ライバルになりそうな人はみんな消えてしまったんじゃないか?
それに賛同した俺もハルヒの背中を押してしまっていたのか――。

15 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/26(月) 23:55:26 ID:HThK54Ms0
「ねえ、キョンはあたしから離れちゃダメよ。
急にいなくなったりしないように、こうして掴んでてあげるわ」
ハルヒの奴、気丈にふるまっているが俺の服の裾をぎゅっと掴んできた。
数秒の静止と逡巡の後、俺はハルヒの手を握りつつ服から引き剥がした。
「ちょっと、何すんのよ」
「服を掴むより、この方がいいだろう」
さすがにハルヒの目を見ては言えない。
不安なのか、握ったその手は微かに震えていた。仕方ない、しばらくはこのままでいてやるか。
「みんな、どこに行ったのかしら」
「さあね。俺たちに内緒でかくれんぼでもしてるんじゃないか?
お前を楽しませようと何か企んでるのかも知れない」
ハルヒを不安から解放させるように答える。
「じゃあ他の乗客はどうなのよ」
「偶然で説明がつくだろう。俺たちの知らないところで集まっているのかも知れん」
「そうね、そうかもしれないわ!」
調子が戻ってきたようで何よりだ。これでみんなが戻ってきてくれれば大団円なんだが。
ハルヒが望めば、そうなるはずだ。

背後でガラスが割れるような音がした。俺とハルヒは驚いて振り返る。
そのとき手が離れてしまったのが、なんだか惜しいような気がした。
「どこかしら?この辺りが怪しいわね」
ハルヒの言うとおり、音は大きい柱の陰から聞こえてきたようだが――。
「うう~、プリンが落ちちゃったよー」
そこには床に落ちたプリンを悲しげに見つめている妹の姿があった。
何やってるんだ、おい。
「妹さんとかくれんぼしてたんです」
朝比奈さんと古泉が現れた。
「いきなりテーブルの下に引っ張り込まれちゃって……」
三栖丸さんもかくれんぼに巻き込まれてしまっていたらしい。
いつの間にかレストランは店員やら乗客やらでいっぱいになっていた。
本当に集まりでもあったらしい。しかもかくれんぼとは。俺の苦しい言い訳の通りにならなくても、なあ。
「うう、プリン……」
我が妹はまだプリンのことがあきらめ切れないらしい。
「いいさ、それくらい俺がおごってやる」
今はそういう気分だからな。俺は妹に笑ってみせる。世は全て事も無し、ってことだ。

16 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/27(火) 01:54:05 ID:57TFFJnG0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━4th loop━━━━━

俺たちが乗り込むとすぐに、船は港を出た。
長門にナノマシンの注入をしてもらい、俺は全てを思い出した。
やれやれ、本当に時間がループしているとはな。
「これはあなたが望んだこと」
ため息をつく俺に長門はそう言う。それはそうなんだが――。
そういえば、前回のループは俺が覚えている2回とはかなり違った展開になっていたぞ。
「ループが同じ時間軸上にあっても、些細な事象変化がキーとなって状況が変化する」
なるほど。前回の場合はハルヒが競争率が高すぎると思ったからあんな展開になったんだな。
ハルヒの気分次第で全く違う展開になることもあり得る、と。
「些細な事象変化を起こせば、それによりループから抜け出せる可能性が僅かでも発生する」
つまり、何でもやってみろ、ってことか。

時は過ぎ、参加券探しになった。
さすがに前回と同じ展開にするわけにはいかないので、俺は甲板に行くのをあきらめた。
ラウンジとプールに参加券が1枚ずつあったのでそれを回収する。

そして最後にカジノへ行った。そこにはなんと伊集院が待っていた。
「おや、君は……。どうだい?僕と勝負しないか」
望むところだ。受けて立とうじゃないか。

(マジックザギャンブル)

伊集院とポーカーで勝負することになった。しばらくした後、俺は勝負を受けたことを後悔し始めた。
伊集院はものすごく強かった。俺は1ゲームも勝てないままにチップの山はどんどん低くなっていった。
こんなとき長門がいてくれればいいんだが、今は一人だ。
「何やってるのよ、キョン。へなちょこ過ぎて見ていられないわ!」
いつの間にかハルヒが三栖丸さんと朝比奈さんを背後に従えてやって来ていた。
そうだ、ハルヒなら何とかしてくれそうな気がする。俺はハルヒと交代した。
だがハルヒも伊集院には歯が立たず負け続け、とうとうチップは無くなった。

「あーっ腹立つ!あのボンボン、絶対イカサマしてるんだわ!証拠を掴んでやる」
伊集院がイカサマしてるとは限らないのだがあの強さは異常だ。ハルヒが怒るのも無理はない。
みんなで手分けして調べて伊集院の不正の証拠を見つけることにした。
ところで参加券は探さなくていいんだろうかと思ったが――まあいいか。
船内を歩き回るが有力な情報は得られなかった。
廊下を慌しく駆け回る船員がいたので何があったのかと聞いてみたところ、倉庫の鍵を紛失したとのことだ。

17 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/27(火) 01:56:00 ID:57TFFJnG0
今度は伊集院を尾行してみることにした。階段の踊り場で伊集院はあからさまに怪しい動きをしていた。
俺たちが見ているとも知らないで。伊集院が立ち去った後踊り場を調べると、
額の裏から鍵が出てきた。これがたぶん、倉庫の鍵だろう。
船員に見つからないようにこっそりと倉庫の鍵を開けて中に入る。
そこにはトランプが一組置いてあった。
エース、キング、クイーン……このトランプ、強いカードばかり、しかも同じカードが複数枚入っている。
なるほど、伊集院はこれを使ってイカサマを――でも待てよ。
伊集院がこれを使ったという確証がまだない。
確か、以前のループでカジノへ行ったとき、
長門は今まで出されたカードを全て覚えれば、次に来るカードの予測が可能だと言っていた。
先ほどの伊集院とハルヒの対戦をみんなで思い出す。
伊集院がキングのスリーカードで上がったときの前後のゲームで、ハルヒはキングを合計3枚引いていた。
その間にシャッフルはしなかったはずだから、これではキングが6枚存在することになってしまう。
これで伊集院が不正をしていることが確定的になった。

ハルヒはもう花嫁コンテストのことなどどうでもいいらしい。
三栖丸さんも伊集院に説教する気は失せたようだ。
俺とハルヒでパーティ会場に乗り込み、伊集院に再戦を申し込んだ。
「あたしたちが負けたら、夏休みの間じゅう、この船でタダ働きするわ」
「いいだろう。ちょうど清掃員を雇おうとしていたところだ」

カジノに移動し、俺は伊集院と同じテーブルに着いた。
伊集院には不正の準備をする暇は無かったはずだ。
しかも俺のポケットには倉庫で手に入れたイカサマのカードが仕込まれていた。
あとはチェンジしたカードを引くフリをしてすり替えればいい。
カードが5枚配られる。
「チェンジは?」
「3枚」
3枚のカードが配られる。そのときハルヒが横から伊集院を罵倒する。
伊集院の注意はハルヒに向けられる。その隙にカードを入れ替えて――。
とまあ、こんな調子で俺の前のチップの山はどんどん高くなっていき、伊集院は負けを認めた。
伊集院はイカサマをしなくてもポーカーには自信があったらしい。
それを打ち砕いてやったんだから気分がいい。思い知ったか。

18 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/27(火) 01:56:43 ID:57TFFJnG0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━5th loop━━━━━

俺たちが乗り込むとすぐに、船は港を出た。
長門にナノマシンの注入をしてもらい、俺は全てを思い出した。
前回のあれは――。イカサマとはいえ伊集院に勝てたのは爽快な気分だった。。
しかし何でもやってみろとはいうが、あんまり横道に逸れてばかりではいけないだろう。
参加券を人数分集め、花嫁コンテストに出ること。それが当面の目標だ。

そうだ、倉庫の鍵を回収しておいたほうがいいだろう。前回と同じく、階段の踊り場に鍵はあった。
時は過ぎ、パーティの参加券探しになった。俺は一人で船内を回った。
ラウンジとプールに参加券が1枚ずつあったのでそれを回収する。
そして最後にカジノへ行った。そこには伊集院ではなく、元気がなさそうな見知らぬおじさんがいた。
おじさん声をかけてみると、伊集院に惨敗したとのことだった。
俺はおじさんに、伊集院のイカサマの手口を教えてやった。
「なるほどねぇ。これは君にあげるよ。なあに、これでオーナーの鼻を明かせるなら安いもんだ」
おじさんから参加券を2枚貰った。

参加券は6枚集まり、SOS団全員でパーティ会場に乗り込むことになった。
今回は1時間早く午後7時に向かったので、花嫁コンテストに間に合った。
コンテストは多数の競技に及んだんだが、その辺はまたの機会に話そう。
みんなの協力もあって、なんとか三栖丸さんを優勝させることが出来た。
コンテストが終わり祝勝会が始まった。優勝者には伊集院の手から花束が贈呈されるそうだ。
「いいわね、ミコト。胸を張って壇上に上がりなさい」
ハルヒが三栖丸さんを勇気付ける。
「いや、そのままで結構だよ」
壇上から高慢な伊集院の声が響く。
「君はがんばった。大いに認めよう。だが、一度破綻した縁は二度と戻らないと思わないか?」
三栖丸さんの顔は無実の罪で死刑宣告を受けたかのように青ざめた。
「君が僕の花嫁になるよりも、三栖丸家が必要としているものを用意しよう。
三栖丸家が再興できるよう、充分な額の融資をしようじゃないか」
「そんな……。わたしはそんなつもりでは……」
「では、失礼するよ」
伊集院はパーティ会場から去っていった。
俺は今回も失敗してしまったことを悟った。

19 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/27(火) 01:57:56 ID:57TFFJnG0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━6th loop━━━━━

第二章 説得編

俺たちが乗り込むとすぐに、船は港を出た。
長門にナノマシンの注入をしてもらい、俺は全てを思い出した。
前回は上手くいきそうだったのになー。やはり俺一人の力ではあれが限界ってことか。
なんとしても古泉と朝比奈さんの協力が欲しいところだ。
あの二人はたとえ普段は特殊能力が使えなくともいろいろと裏技的なものを持っているし、
そうでなくてもこのトンチキな状況を共有してくれるだけでも気が楽になるってもんだ。

倉庫の鍵を回収してから甲板に行って、古泉と朝比奈さんにループのことを説明する。
「やれやれ、あなたからそんな興味深い話を聞けるとは思っていませんでした」
二人は既視感みたいなものを感じていたらしい。一歩前進か?
だが古泉はやはり、時間がループしていることを証明して見せろと言う。
ここですぐに証明することはできない。俺は退散するしかなかった。

出航セレモニーとやらに出席した後、ラウンジを出てロビーに来ると、
カウンターでビデオカメラの貸し出しをやっていた。
何だ?前回までには無い事象だな。
止める間も無くハルヒはビデオカメラを借りる手続きを済ませてしまった。

(SOS団の活動 その栄光と軌跡)

プールサイドに集まったSOS団メンバーたち。
「これからSOS団のプロモーションビデオを撮影するわよ!」
ハルヒが高らかに宣言する。
断言しよう、これは横道だ。だが入ってしまったからにはハルヒを満足させなければならない。
かくして俺がカメラマンになり、メイド服姿の朝比奈さんをモデルに撮影が始まった。
監督はもちろんハルヒである。

20 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/27(火) 01:58:44 ID:57TFFJnG0
撮影は順調に進んだが、我らが団長様はご不満のようだ。
「うーん、何か足りないのよね~」
「それでは、大道具を使うというのはどうでしょう」
古泉がハルヒを無駄にたきつけるようなことを言う。
「古泉くん、いいこと言うわね。それでいきましょう」
俺と古泉とで撮影に使えそうなものを探してくることになった。
そうだな、三脚があればSOS団全員が出演出来ていいんじゃないだろうか。
船員に三脚がないかどうか聞いて回る。
「カメラの三脚ねぇ。確か、倉庫にあったよ。でも……」
もしかして、これはチャンスか?
「鍵を紛失して倉庫が開けられないんですよね?」
「そうだけど、どうして君がそれを知っているんだ?」
俺の言葉に船員は首を傾げるが、無視して倉庫を目指す。
持っていた倉庫の鍵を使い倉庫に入ってカメラの三脚を持ち出した。

夕暮れの甲板で最後の撮影が始まった。
三脚の上にビデオカメラを据える。
これならカメラマンの俺も映ることができるが――。
「ハルヒ、お前は映らないのか?」
「あたしは監督よ。映ったら監督としてのスタンスが崩れるわ」
本当は映りたいくせに。
俺はカメラのタイマーをセットした後、後ろからハルヒの肩を掴んで押した。
少々強引だがSOS団全員が同じフレームに入ることができた。
ちらりと盗み見たハルヒの顔はうれしそうだった。

三脚を返すという名目で古泉、朝比奈さんに長門を連れて倉庫に行く。
古泉は倉庫の鍵を紛失したという事実をあらかじめ俺が知っていたのと、
その倉庫の鍵も事前に入手していたことから、ループを信じる気になったらしい。
「長門さんの行為を受け入れましょう。ちょっとお耳を拝借します」
古泉の口から暗号のような言葉が俺の耳に囁かれる。
「今の言葉を、次のループが始まったら僕に伝えてください」
振り向くと、朝比奈さんはお祭りで親の手を離した迷子のような心細げな顔をしている。
次のループではちゃんと納得してもらって、こんな表情をさせないようにしようと心から誓う俺だった。

21 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/27(火) 02:00:56 ID:57TFFJnG0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━7th loop━━━━━

第二章 協力編

俺たちが乗り込むとすぐに、船は港を出た。
長門にナノマシンの注入をしてもらい、俺は全てを思い出した。
前回はついに古泉を説得することが出来たな。
一般人の俺でもループを証明できてよかった。本当に。

俺は長門を連れて、古泉と朝比奈さんがいる甲板へと向かった。
古泉の耳元で例の暗号を囁くと、古泉は全てを把握したようだった。
どうやらこの暗号は「機関」で使われているものらしい。
古泉は大人しく長門に腕を噛まれナノマシンの注入を受けた。
そして俺と長門と古泉の三人がかりで朝比奈さんに説明し、納得してもらった。
朝比奈さんもナノマシンの注入を受ける。これでようやく二人の協力を取り付けた。
今回は上手くいくかも知れないな。

いつもの流れでパーティの参加券探しになる。
みんなで協力してアッという間に参加券を集めてしまった。
そして夜になり、花嫁コンテストが始まった。
三栖丸さんを始め、ハルヒに長門に朝比奈さんもコンテストに出ることになった。
「お集まりの花嫁候補の皆さんは、非常に幸運な方々だ。
残りの知力と体力をこのコンテストで見極めさせてもらうよ」
伊集院の嫌味ったらしい挨拶に続いて、司会者からルールの説明があった。
コンテスト参加者一人につきサポート役としてパートナーを一人同伴させることが出来るらしい。
古泉はハルヒのパートナーは自分がやると言い出した。
「あなたが涼宮さんと組むと、張り切りすぎてしまうかも知れませんから」
またいつものアレか。俺とハルヒをそんなにくっつけたいのかね、古泉は。
おまえのその手の話はうんざりだよ。
結局俺は三栖丸さんのサポートをすることになった。

最初の競技は借り物競争だった。それから生け花にペーパーテスト、最後の競技は徒競走だ。
花嫁になるのにそんなものが必要だとは思えないが。
そして結果発表。
「優勝者は、三栖丸ミコトさんです!」
俺としてはホッと胸を撫で下ろした瞬間だ。人々は三栖丸さんに賞賛の拍手を贈る。
そんな中、隣にいるハルヒの様子がおかしいことに気付く。なんだか浮かない顔をしていた。
声をかけてみたが、何でもないとそっぽを向かれてしまった。

22 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/27(火) 02:03:35 ID:57TFFJnG0
コンテストが終わり祝賀会が始まった。だが俺には勝利に酔っている余裕は無かった。
まだ決着はついていない。
「それでは、三栖丸ミコトさんにお言葉を頂戴したいと思います」
壇上に上がった三栖丸さんは伊集院と向かい合ったが萎縮してしまったのか何も言えないようだった。
何とか三栖丸さんに勇気を出してもらわなくては――。
「ハルヒ、いいか。今から、俺を思いっきり殴れ」
「はあ?理由も無く殴れるわけないでしょう」
くそっ。ハルヒのヤツこんなときだけ常識人ぶりやがって。いつもの傍若無人っぷりはどうした?
「理由ならある。三栖丸さんに見本を見せてやるんだ。
ハルヒ、お前は団長だろ?だったら団員に手本を見せてやれ!」
「わかったわ。その代わり、手加減しないわよ」
「ああ。本気で来い」
ハルヒは壇上の三栖丸さんに向かって呼びかけた。
「ミコト!そのボンボンにガツンと言ってやりなさい!こういう風にね」
俺はハルヒに頬を力いっぱい張られた。その衝撃たるや瞼の裏にペルセウス座流星群が発生したかのようだ。
あの細い腕のどこにこんな馬鹿力があるんだろうといつも思う。
「どうして君たちは、見ず知らずの他人のためにここまで……」
伊集院は俺たちを見て驚嘆の声を上げた。
そんなこと、決まってるだろ?
「今日一日だけとはいえ、三栖丸さんはSOS団の仲間だからよ!」
「仲間だって?そんなものが何になる?一文にもならない、下らん幻想だ」
吐き捨てるように伊集院は言った。
「泰一郎さん、昔のあなたはこんな人じゃなかった。
花嫁コンテストだなんて、人を見世物にするような人じゃなかったはずです」
俺たちの思いが伝わったようで、三栖丸さんは話し始めた。
「僕は昔から何も変わっていない」
「泰一郎さん、あなたは今の自分の振る舞いをなんとも思わないの?
昔の優しかった自分を思い出して……」
三栖丸さんと伊集院はどうやら和解したようだった。

23 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/27(火) 02:07:24 ID:57TFFJnG0
突然、船が揺れ、サイレンが鳴り出す。
「緊急事態です。本船の航路上に氷山が現れました。
乗客の皆さんは、係員の指示に従って速やかに避難してください」
窓の外を見ると本当に氷山が出現していた。またハルヒが妙な気を起こしたのか?
ハルヒは操舵室に行って船の針路を変更させて氷山を避けると言い出した。
待て、俺も行く!

操舵室には船長が残っていた。船長が言うには、自動操舵システムを動かそうにも
操作パネルの上のボタン一つ、レバー1本すら動かせないらしい。
試しにハルヒがテキトーにボタンを押そうとしたがダメだった。
「とにかく全く操舵が出来んのだ」
「キョン、こんな機械なんか壊しちゃいなさい!」
俺は手近にあった椅子を振り上げてパネルに思いっきり振り下ろした。
痛ってー!手が痺れた。船長が慌てて止めようとした。
「どうせ操作できないんだもの、壊しちゃっても構わないでしょ。キョン、もう一回」
もう一度椅子を振り下ろしたがパネルには傷一つ付かず、逆に椅子の方が壊れてしまった。
このパネル、いったい何で出来てるんだ?

進路変更が出来ないとあっては避難するしかない。
救命ボートに乗り込んで海面を漂う俺たちに看取られながら、
豪華客船オーベロン号は氷山にぶつかり沈んでいった。
「いくら豪華客船に氷山は付き物だからって、本当に出なくてもいいのに。でも、みんな無事でよかったわ。
あのボンボンも素直に反省したみたいだし、ミコトともいい感じみたいだったしね。
これでSOS団の面目躍如ってとこかしら」
ハルヒは何だか満足げだ。
そうだな、お前はよくやったよ。
「何よそれ。ま、今回はあんたも意外にがんばったんじゃない?」
そうかい。ありがとよ。
これでこのループから抜け出せるのなら褒められたってバチは当たらないだろう。
だが、あの氷山――以前のループには無い全く新しい展開だ。
ループを抜け出せる予兆なのか、それとも……。
考えたくもないぜ。俺の悪い予感は必ず当たるんだぞ?
今は祈るしかない。神様仏様ハルヒ様という気分だ。
頼むぜ、ハルヒ……。

24 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/27(火) 03:24:39 ID:57TFFJnG0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━8th loop━━━━━

第三章 追跡編

俺たちが乗り込むとすぐに、船は港を出た。
長門にナノマシンの注入をしてもらい、俺は全てを思い出した。
倉庫の鍵を回収しつつ甲板に行って古泉と朝比奈さんにもナノマシンの注入をしてもらう。
人目につかないところで話そうということになり、俺と古泉と朝比奈さんと長門の4人は倉庫に集まった。
しかし、前回のループは何がいけなかったんだ。三栖丸さんと伊集院を和解させることが出来たし、
ハルヒもそれで満足したはずだ。なのに……。やっぱりあの氷山のせいか?ハルヒはまだ満足してないのか?
「涼宮さんが本当は何を望んでいるのかを探る必要がありますね」
たしかに古泉の言うとおりなんだが、俺たちはSOS団の会議に出席したり参加券を探したりしなけりゃならんし
結構忙しいのだ。かと言って別行動したりするとハルヒに怪しまれて動き辛くなってしまう。
あー体が二つあったらなー。
「我々の詳細なコピーを作成し、記憶に基づいた行動をさせることは可能」
長門が珍妙なことを言い出した。そんなことまで出来るのかよ長門。底が知れん……。
さっそく俺たち4人のコピーが現れた。
俺の前に立つ、俺そっくりのもう一人の俺。それは鏡を見るのとはまた違った感覚だった。
しかし、こうやって自分を客観視する日が来ようとはね。
こうして俺たちの存在は二重化された。
当たり前のことだが、二重化しているということはハルヒはもちろん、他の誰にも知られてはいけない。
俺たちのコピーは俺たちの代わりに出航セレモニーに出席すべく倉庫を出て行った。

本物の俺たち4人はというと、ハルヒの追跡をすることになった。
軽くでいい、想像してみてくれ。わがままなお姫様の機嫌を損なわないようにと、
その一挙一同を陰から見守る従者たち。今の俺たちはまさしくそんな感じだった。
いったい何が気に入らないんだよ、ハルヒ?

ハルヒを一日追跡して、不満点らしきものを一つ、見つけた。船首に続く廊下の途中にある立入禁止の看板だ。
ハルヒはその先に行きたそうにしていたが、あきらめて引き返してしまった。
いつもの強引さを発揮してそんな看板は無視しちまえばいいものを。
とにかく次のループではハルヒの願いを叶えてやろう。

25 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/27(火) 03:29:03 ID:57TFFJnG0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━9th loop━━━━━

第三章 究明編

俺たちが乗り込むとすぐに、船は港を出た。
長門にナノマシンの注入をしてもらい、俺は全てを思い出した。
倉庫の鍵を回収しつつ甲板に行って古泉と朝比奈さんにもナノマシンの注入をしてもらう。
俺と古泉と朝比奈さんと長門の4人は倉庫に集まり、作成されたコピーは倉庫を出て行った。

さて、もうすぐハルヒがこの廊下にやってくる時間だ。その前にあの立入禁止の看板を撤去しておこう。
看板を撤去した後、物陰から様子を見守る――と、船員がやってきて看板を元に戻してしまった。
もう一度看板を移動させようと思ったが船員に見つかってしまい、俺たちは逃げるしかなかった。
結局ハルヒの願いを叶えてやることは出来なかった。

なんとなく、なんとなくだが、俺たちを邪魔する見えざる手の存在を感じる。
長門、お前はどう思う?
「この船には私の機能を妨害するノイズが発生している」
どうしてそういう重要なことを早く言わないんだよ、聞かれなかったからって。
とにかく見えざる手は本当に存在するらしい。倉庫に戻った俺たちは考えた。
と言ってももう時間がない。もうすぐ氷山が発生する頃だ。
氷山といえば……そうだ、やっぱりあの傷一つ付かない操作パネルはおかしい。
長門に見せれば何か解るかも知れないな。

やがてサイレンが鳴り響き乗客の避難が始まった。
長門を連れて操舵室へ行ったが今回は運良く誰もいなかった。
「何か解ったか、長門?」
「この操作パネルの時空間は凍結されている」
つまり時間が止まっている、と。そりゃ動かないわけだ。
待てよ。いつだかハルヒと一緒に客室に閉じ込められたときも、
同じようにドアのレバーはピクリとも動かなかったっけ。あれも同じ奴の仕業だな。
時間を止めるなんて芸当は宇宙人とかそういった類の輩にしか出来ないだろう。
今回はハルヒの願いは叶えられなかったが、思わぬ収穫があったな。

26 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/27(火) 03:35:26 ID:57TFFJnG0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━10th loop━━━━━

第三章 決着編

俺たちが乗り込むとすぐに、船は港を出た。
長門にナノマシンの注入をしてもらい、俺は全てを思い出した。
倉庫の鍵を回収しつつ甲板に行って古泉と朝比奈さんにもナノマシンの注入をしてもらう。
俺と古泉と朝比奈さんと長門の4人は倉庫に集まり、作成されたコピーは倉庫を出て行った。

前回のループで解ったことがある。
ハルヒや俺たちをループに閉じ込め、そこから抜け出せないようにしているヤツがいるってことだ。
そいつはハルヒの特殊能力のことを知っていて、
ハルヒが満足しないようにと船員を操ったり操作パネルや客室のドアの時間を止めた。
船員を操れるといえば伊集院が怪しいな。
「そういえば伊集院さんって、船内のいろんなところで会いますよね」
朝比奈さんに言われて俺も気が付いた。
忙しいとか言ってるわりには、カジノで俺と遊ぼうと誘ってきたし。
「なあ、以前までのループで伊集院に会ったことのある時間と場所を書き出してみてくれないか?」
しばらくの後、伊集院の行動タイムテーブルが出来上がった。
これを見る限りだと、伊集院は時々同じ時間に別の場所に出現しているようだ。
まるで俺たちみたいに伊集院も二重化しているようだった。
もちろん違う周回では違う行動を取っているという可能性もあるが、でも完全に白とは言い切れない。

俺たちは二手に分かれて伊集院を探すことになった。
伊集院を発見したらとにかく同行し、目を離さないようにする。そして午後6時に、甲板へと伊集院を誘導する。
伊集院が二重化しているかどうかはそれでハッキリするだろう。
甲板には朝比奈さんと古泉と長門が伊集院を連れて待っていた。
そこへ俺がもう一人の伊集院を連れて行った。
「フフッ。君たちがここまでやれるとは思ってもみなかったよ」
二人の伊集院は融合し一人になった。

27 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/27(火) 03:38:11 ID:57TFFJnG0
「伊集院、お前が俺たちをループに閉じ込めていたんだな?何のために?」
「実験だよ。僕たちは涼宮ハルヒに興味があってね、観察させてもらっていたんだ。
ループさせていたのは、より多くの情報を得るためだよ」
実験だって?人をモルモットみたいに――。
突然辺りの風景は色を失った。そばにいたはずの古泉たちの姿は消え伊集院と俺だけになってしまった。
「安心したまえ。局地的に位相をずらしただけだ。この方が落ち着いて話が出来るだろう?」
異次元空間みたいなもんか。
「僕たちは涼宮ハルヒの十分なデータが得られれば実験を終了し、ループを開放する。
だから、君には協力してもらいたい」
少しばかりの譲歩でこのループから抜け出せるというなら協力するのも悪くないかも知れない。
――と考えるとでも思っているんだろう。まったく、頭にくるぜ。
三栖丸さんや伊集院に対するハルヒの気持ちはどうなるんだ?
こいつに協力してループを抜け出せたところで、俺はどのツラ下げてハルヒに会えるっていうんだ。
「もちろんお断りだ。この下らん実験をさっさと終わらせろ。それと二度と俺たちの前に現れるな!」
「妥協点は見出せない、か。
君はどうやら、涼宮ハルヒにとって非常に重要な位置付けにいる人物のようだね」
ああ、そうらしいな。正直、あんまり有難い話じゃないんだが。
「では、君が死んだら涼宮ハルヒはどうなるだろうね?興味深いよ。
君を殺すことにしよう。では、さようなら」
殺すと言えば何のためらいもなく本当に殺すんだろう。
こんな所で俺は死ぬのか?ハルヒ!

突如、空間に裂け目が発生し、そこから長門が滑り込んできた。
伊集院は俺を殺すのをあっさりとあきらめたらしい。
長門と戦っても勝てないという判断なのかも知れない。
長門は怒っているように見える。それはハルヒの観察というテリトリーを荒らされたからなのか。
それとも俺が殺されそうになっているのを見て――なんてのは、自惚れすぎかも知れないが。
「何をやっているんですか?本当に困った人ですね」
伊集院の側に歩み寄ったのはなんと三栖丸さんだった。どうしてこんな所に?
「ごきげんよう、キョン君。思ったより察しが悪いんですね。こういうことですよ」
伊集院と三栖丸さんの姿が一瞬にして変わった。
嫌味ったらしいスーツが、白いツーピースが、やけにぴっちりしたSFチックな物へと。
服だけでなく顔も変わっている。並んで立つ二人は身長も同じ、顔も同じでまるで双子のようだった。
「僕はアナザーワン」
「わたしはアナザーツー」
伊集院と三栖丸さんだったものは、それぞれそう名乗った。
二人はアナザーと自称する長門も知らないはぐれ宇宙人の一派なのだという。
「あなたの存在は不確定要素。結果を推定するための計算が複雑になりすぎます。
やはり、あなたには消えてもらいましょう」
アナザーツーは俺に狙いを定めた。長門はどうなったかと振り向くと、アナザーワンとやり合っている。

28 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/27(火) 03:39:41 ID:57TFFJnG0
さあ、どうする?この局面をどうやって切り抜ける?
さっきアナザーツーは計算が複雑になり過ぎると言ったな。
だったら、さらに不確定要素を提供してもっと計算を複雑にしてやろう。
「なあ!ハルヒの周りには、宇宙人に未来人ついでに超能力者まで揃ってる。
これをお前は偶然だと思うか?偶然じゃない。ハルヒがそう望んだからだ」
そう考えると、ごく普通の一般人だと自負する俺がSOS団にいる説明がつかないんだけどな。
古泉は俺の存在も他のメンバー同様にハルヒが望んだことなんじゃないかと推理していたが。
まあ今はそれは置いておこう。
「何が言いたいんです?」
アナザーツーは俺の言うことに興味を示したようだ。しめた。
「何故お前たちの存在がそうじゃないと言い切れるんだ?
ハルヒが望んだからこそ、おまえたちもここにいるんじゃないのか?」
「我々は、独自の判断でこの実験を――」
「だとしてもだ。宇宙人がハルヒにアプローチをかけているこの現状を、
ハルヒの妄想じゃないって誰が言い切れる?
俺もお前たちも、舞台の上のただの役者なんだぜ。そこでだ、この茶番劇の台本を書いたのは誰なんだ?
お前たちか?それともハルヒなのか?いったい、どっちなんだろうな?
もっと言ってやろうか。おまえたちの存在そのものが、
ハルヒの望みによって生み出された可能性だって――」
「やめなさい!どうやらあなたは予測以上にイレギュラーのようですね。
そろそろ終わりにしましょうか」
「いいのか?今、俺を消したら真実は永遠に闇の中だぞ」
どうやらヤツは俺の屁理屈に食いついたらしい。考え込んでいるようだ。
頭でっかちめ、考えろ。そして悩みやがれ!結論なんて出るわけがないんだ。

「観測結果の実効性について、実験の前提から再計算する必要が生じました。
それまでこの実験は残念ながら保留します」
俺が咄嗟に思いついた作戦は功を奏し、宇宙人の二人は去っていこうとした。
「待てよ!おまえらがハルヒにやらせている、あの時間のループを何とかしてから行けよ」
アナザーツーは俺に黒いプラスチックのケースを差し出した。
「涼宮ハルヒはこの映像に大変興味を持っていました」
これがハルヒにループを起こさせている原因なのか?こんなものが――。
「実験は一時中断しますが、時機を見て必ずや再開させます。それじゃあまたね、キョン君」
アナザーワンとアナザーツーは消え、風景に色が戻った。

……助かったのか。
「大丈夫ですか?突然あなたの姿が消えたので、驚きました」
古泉と朝比奈さんにさっき起きたことをかいつまんで話した。
長門はあの宇宙人たちが再計算とやらを終わらせるには何百年もかかると言った。
どうやら実験が再開されることはなさそうだな。
「これでループはなくなるんでしょうか?」
それなんだがな――。
三栖丸さん、いやアナザーツーから受け取ったもの。
それはちょっと古い、しかし誰でも知っている名作映画のDVDだった。
氷山にぶつかって沈む豪華客船の話と言えばお解りだろう。
船からの避難間際、船室のプレーヤーでそいつを再生してみたとき、
思わずこう呟いたね。まったく、やれやれだ。

29 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/27(火) 03:46:38 ID:57TFFJnG0
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第三章 解決編

俺たちが乗り込むとすぐに、船は港を出た。
長門にナノマシンの注入をしてもらい、俺は全てを思い出した。
「あーあ、もったいないわね。乗船券、1枚余っちゃったわ」
手にした乗船券を弄びながらハルヒが残念そうに言う。

甲板に行って古泉と朝比奈さんにもナノマシンの注入をしてもらう。
もう二重化することも倉庫で密談する必要もないだろう。
そういえばハルヒは船首に行って何がしたいんだろう?
あの映画、そして船首ですることといえば誰もが想像するであろう、あの有名な場面しかないが――
ハルヒは本当にアレがやりたいのか?
とにかく、立入禁止の看板は撤去しておくことにした。今回は妨害は入らなかった。

久しぶりに出航セレモニーに出席することになった。
伊集院が挨拶しに出てくるはずなのだが、今回は船長が挨拶をするらしい。
当然花嫁コンテストや参加券探しなどはなくなっていて、このクルーズはただのディナークルーズになっていた。
「6時に甲板に集合。それまでは自由行動ね」
セレモニーが終わった後、ハルヒは一人で立ち去ろうとした。
俺の後ろには長門、古泉、朝比奈さんの3人がいて俺を監視している。
「なあ、本当に俺がアレをやるのか?」
「こういうことはあなたにやってもらわなくては。僕は畏れ多くて涼宮さんにそんなことは出来ません」
いつもの爽やかな笑顔で古泉がそう言った。やっぱり、そうなるのか……。
半分ヤケになりながらハルヒに声をかけようとしたが、ハルヒはいつの間にか姿を消していた。
仕方ない。夕方に勝負をかけよう。

30 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/27(火) 03:48:00 ID:57TFFJnG0
そして6時の集合時間。アレをやらない限りループが果てしなく続く可能性が高い――とはいえ、
なかなか踏ん切りがつかない。例のごとくあの3人は俺を見守っている。
ええい!俺も男だ、やってやろうじゃないか。
頑張れ俺、負けるな俺。かくは一時の恥、かかぬは一生の恥って言うじゃないか。ちょっと違うか?
かくして俺は出せるだけの勇気を振り絞ってハルヒを誘った。
「なあハルヒ、船首へ行ってみないか?」
ハルヒは獲物を見つけた猫のようにニヤリと笑った。
「もしかしてキョン、あんたアレがやりたいの?」
「そうだ」
「へぇー、キョンがねぇ……。いいわ、行きましょ」

舳先に立って夕日を眺めるハルヒ。その背中は何故かとても儚げで今にも消えてしまいそうに見えた。
先ほどまでは確かにあった羞恥という感情は、いつの間にか不安へと変化していた。
消えないように捕まえておかなくては。俺はほどんど無意識のうちにハルヒに近付いて手を伸ばした――が、
「さ、早くアレをやりましょ」
ハルヒはサッと俺の手を避けてしまった。まさか、アレってアレのことじゃないのか?
「豪華客船、夕焼け、大海原!この最高のシチュエーションにふさわしい、決めポーズをするのよ!」
――バカだった。俺がバカだった。

ハルヒと朝比奈さんと長門はどこから持ってきたとも知れないコスプレ衣装に身を包んで船首にやってきた。
ハルヒは舳先に立って船の進行方向をビシッと指差すようなポーズを取った。
朝比奈さんと長門がその後ろでひざ立ちになる。
長門はいつものように無表情だが朝比奈さんは相当はずかしそうだ。
「さあキョン、あんたはこのポーズをちゃんと記録するのよ!」
記録するったって、カメラは?
「ここにありますよ」
古泉がデジカメを用意していた。こんなときだけ用意がいいな。
しかし、そうやって船首に向かってポーズを取られては、ここからでは後姿しか見えないぞ。
まったく、ハルヒは今どんな顔をしてるんだろうね?
「ちゃんと撮るのよ」
「へいへい」
困ったお姫様の言いつけに従うべく俺はシャッターを切った。
こうして、長い長い一日はようやく終わりを告げたのだった。

31 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/27(火) 03:54:42 ID:57TFFJnG0
エピローグ

さて、長い長い一日が終わった数日後のことである。
まだ夏休み真っ最中だというのに、SOS団の団員たちはハルヒによって部室に呼び集められることとなった。
「写真ができたのよ!」
そんなことで貴重な夏休みを潰されるとは。
1枚の写真に俺の目が留まった。豪華客船の舳先でポーズを取るハルヒの写真。
「いい写真ですね」
確かにいい写真だ。だがよく考えてみてほしい。
この写真はSOS団全員が、つまり俺も写っている。写真は俺が撮ったはずなのに。
しかも、ハルヒを正面から捉えている。こんな写真は空を飛ばない限り撮れないぞ。
いったいこいつは誰が撮ったんだ?
まあいいか。ハルヒはそれに気付いてないようだし。

「楽しかったから、またどこかに行きたいわね。もちろん、みんな一緒に!」
このハルヒの願いはきっと叶っちまうんだろう。そしてまた大騒ぎを繰り返すんだ。
ハルヒの側にいる限りな。
ただそんな毎日も悪くないと思うのは毒されすぎだろうか。
何せ、ハルヒと出会ってからというもの、退屈なんて感じたことがないからな。

以上。

32 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/27(火) 03:57:19 ID:57TFFJnG0
余計な説明が必要になるので約3名が登場しないことになったが了承してくれ。
また、出来る限り短くしようとしてるので、
それによりストーリーが少々変わっている所もあるが大局には変わりが無いのでそれも了承してくれ。

スタッフロールや版権表示を見る限り、このゲームの原作はアニメ版、しかも2006年放映分だけのようである。
アニメ版の演出や設定を踏襲しつつ、「エンドレスエイト」に着想を得、
「涼宮ハルヒの溜息」やその他のエッセンスを詰め込んでこのゲームのシナリオは出来上がっているらしい。
シナリオライター様も2009年になってエンドレスエイトがアニメになって放映されるとは思っていなかったようで……。
そんなの知らんという諸兄のために軽く解説するが、エンドレスエイトとは夏休みの終わりの2週間が
ハルヒの何らかの不満によって無限にループしてしまうという話だ。
ちなみにエンドレスエイトでは記憶の持ち越しなど一切行われず、従ってほとんど同じ2週間が繰り返されてしまう。
ゲーム内での俺の発言から推測すると、
このゲームのシナリオはエンドレスエイトにて無限ループが起こらなかったと想定して書かれているように思う。
だからこのゲームの存在はエンドレスエイトと矛盾するんだが――そんなことはどうでもいい。
興味があったら読んでみてくれ。短編だから立ち読みでいいだろ。
俺はもう疲れた。本当に疲れたよ、いろんな意味で。

33 :涼宮ハルヒの並列:2009/10/27(火) 04:02:00 ID:57TFFJnG0
ゲーム全体の構成。
括弧でくくってあるのは横道。なお横道は他にもいろいろあるんだが3つだけ抜き出した。

第一章 
↓  初回プレイでは必ず留守番になってしまう。
↓  2周目以降に朝比奈さんが落としたカップをキャッチするのに成功し、参加券を揃えることが次に進む条件。
↓  ループしていることに気付き長門にナノマシン注入を依頼する。
第二章 孤軍奮闘編 
↓  いくつかの横道を体験しなければ先へ行けない。
↓   └→(そして誰もいなくなった、かも)必須ではないが面白い話なので入れさせてもらった。
↓   └→(マジックザギャンブル)ここで倉庫の鍵の在り処を把握しておく。
↓  花嫁コンテストで三栖丸さんが優勝するが伊集院には一歩届かない。
第二章 説得編 
↓  ループしていることを証明することが次に進む条件。
↓   └→(SOS団の活動 その栄光と軌跡)倉庫の鍵の件を使って古泉にループしていることを証明した。
第二章 協力編
↓  古泉と朝比奈さんの協力をとりつける。
↓  花嫁コンテストで三栖丸さんを優勝させることが次に進む条件。
↓  上手くいきそうだったのに氷山が発生してしまう。                  
第三章 追跡編 
↓  存在を二重化してハルヒの本当の願いを探り、叶えてやろうとする。
第三章 究明編
↓  ハルヒの願いをかなえるべくハルヒを船首に行かせようとするが失敗する。
↓  黒幕が宇宙人らしいことがわかる。
第三章 決着編
↓  伊集院と三栖丸さんが黒幕の宇宙人だということがわかる。
↓  宇宙人を論破し介入を中止させる。
第三章 解決編
   ハルヒを船首に行かせて満足させ、無限ループから抜ける。
         
情報(フラグ)を得ることで次々と新しい展開が訪れる構成になっている。
次の章へ進む条件が整わないと同じ章で何度もループする羽目に陥ってしまう。
このようにいろいろな平行世界が並んでいる様が「並列」となった所以であろう。

最終更新:2009年10月29日 01:09