涼宮ハルヒの約束

涼宮ハルヒの約束

part51-372~377、part52-40~50,54、part58-181,182


372 :涼宮ハルヒの約束:2010/06/16(水) 04:45:07 ID:IbCCbANj0
初めて会う人は「初めまして」、そうでない人は「またお会いしましたね」、
どうも、「俺」です。
俺が何者かであるか知らん奴には
「涼宮ハルヒの並列」のページの最初の方を読んでいただくとしよう。
いやー、新刊が出ないと枕を濡らす日々が続いていた(大げさ)んですが、
近々新刊が出そうな雰囲気になってきたんで何よりです。
まさか、「涼宮ハルヒの並列」に込めた俺の熱烈ラブコールが原作者様に届いたとか!?
(んな事ぁ無い)
そんなわけで、この物語は「涼宮ハルヒの並列」で味を占めた筆者が
原作者様にエールを込めて贈る一大スペクタクルである。


プロローグ

それは、初夏の日差し眩しい、ある日曜日のことだった。
市内の「不思議探索パトロール」、本日は記念すべき第二回目である。
例によってせっかくの休みを一日潰してあてどもなくそこらをウロウロするという企画なのだが、
どういう偶然だろう、朝比奈さんと長門と古泉が直前になって欠席すると言い出し、
俺は今、駅の改札口で一人、ハルヒを待っている。
俺は腕時計に目をやった。集合時間まではあと30分もある。
こんなに早く俺がやってきたのは、遅刻の有無に関わらず最後に来た者は
皆に奢るという定めがSOS団にあるからで、他意はない。
参加人数は二人なので、これでハルヒの奢りは確定である。
今日はハルヒに色々なことを話してやりたいと思う。
数々のネタが頭に浮かんだが、まあ、結局のところ、最初に話すことは決まっているのだ。
そう、まず、宇宙人と未来人と超能力者について話してやろうと俺は思っている。

程なく憮然とした様子でハルヒはやって来て、俺たちはいつもの喫茶店に入った。
「二回目にしてこれじゃ、SOS団の前途が危ぶまれるってものよ。
次からSOS団の会合は、何があっても絶対欠席禁止よ。
SOS団は必ず全員集合!いいわね、キョン」
て、唯一の出席者である俺に言っても意味無いだろ、と言ってやるかどうか迷っているうちに、
注文したものがテーブルに運ばれてきた。
ハルヒは無言でカフェラテのカップを口に運んでいる。
何も話さないときのこいつは、正直、この国の女子高生としてはかなりかわいい部類に入るだろう。
このまま止め絵にして見つめていられるならそうしたい。
だが、そんなゲームにおけるイベントスチルのような都合のいいことができるわけもなく、
このまま放っておくと再び喋り始めるだろうから、
先に俺が話を振ることにする。


373 :涼宮ハルヒの約束:2010/06/16(水) 04:46:14 ID:IbCCbANj0
「なあハルヒ、重要な話があるんだが、聞いてくれ。
聞いて喜べ、あの長門有希はなんと宇宙人なんだ」
「へぇ、あの有希が……」
「実はな、朝比奈さんは未来人なんだ」
「なるほどねぇ。みくるちゃんが……」
「驚いたことに、古泉は超能力者なんだ」
「ふぅん。古泉くんが……」
沈黙すること数秒。
「ふざけんなっ!」
ハルヒは叫んだ。まぁ、そう言いたい気持ちもよくわかる。
俺だって同じことを誰かに言われたら、同じ反応をするだろう。
「キョン、よーく聞きなさい。宇宙人、未来人、超能力者なんてのはね、
すぐそこら辺に転がってなんかいないのよ。選んできた団員が全員そんなのだなんて、
あるわけないじゃない!」
かくして、俺が思い切って言ってやった厳然たる真実は冗談と決め付けられ、
挙句の果てにハルヒは財布を忘れたとかで喫茶店の払いは俺がすることになってしまった。

後から考えると、あの一件は、
もしかしたらここでの会話がきっかけだったかも知れない、という気もする。
それが起こったのは、喫茶店での会話から五ヶ月を経て、文化祭を翌日に控えた、
暦の上ではとっくに秋だというのにまるで夏のようにじっとりと暑い、そんな日だった。



374 :涼宮ハルヒの約束:2010/06/16(水) 04:48:38 ID:IbCCbANj0
第一章

今日は文化祭の前日。俺はとある珍妙な映像作品を文化祭で公開すべく、
昨日から夜を徹して部室のパソコンに向かい、編集作業に取り組んでいた。
しかし、いつの間にか睡魔に撃沈されてしまったらしく、結果、こうして
むさくるしい部室で冴えない朝を迎えたわけだ。
部室の外へ出る。ん?今、小学生くらいの女の子が走っていったように見えたが、気のせいか?
たぶん気のせいだろう。俺は顔を洗って頭をすっきりさせた後、
購買部に行きメロンパンとコーヒー牛乳を調達し、広場に行ってそれを食った。
そこへ、ファンタジー小説から飛び出してきた吟遊詩人のような格好の古泉が通りかかった。
古泉がそんな格好をしているのは、彼のクラスの出し物である演劇で、
何とかという舌を噛みそうな役を演じるからであって、断じてコスプレなどではない。
少し話をしたあと、これから通し稽古があるなどと言って古泉は去っていった。

朝飯を食い終わった後部室に戻ると、そこでは長門がいつものように分厚い本を広げていた。
今、長門は映画の撮影で着ていた悪い魔女の衣装を身に着けている。
これもクラスの出し物である占いの館で、長門が占い師をやるからだった。
そろそろ編集作業を再開するかと思っていたところ、長門は
「まだ時間はある」
と俺に言った。確かに、映画は明日の朝までに完成させればいいし、そう考えるとまだ時間がある。
後から考えると、長門なりに精一杯俺にヒントを出していてくれていたのだが、
そのときの俺はその言葉を「もっとノンビリしろ」という風に解釈し、よって午前中は
校内を散策しつつノンビリすることにしたのだった。

「おかえりなさい。今、お茶を淹れますね」
部室に戻った俺を出迎えたのは、我らが天使、メイド服姿の朝比奈さんである。
程なくして、
「みくるちゃん、お待たせ!焼き上がったわよっ!」
俺と朝比奈さんとの心地良い空間に土足で踏み込んできたのは、ハルヒだった。
「ほら、キョン、受け取りなさい」
ハルヒが差し出したそれはCD-Rであった。
朝比奈さんが歌ったという、映画の主題歌「恋のミクル伝説」がその中に焼き込まれているらしい。
ハルヒと朝比奈さんが部室を出て行った後、こっそり聴いてみる。
聴いた事がないという読者諸兄は一度聞いてみてほしい。
ある意味ですごいモノなのである。
この歌をどうやって映画に組み込むのか、俺は大いに頭を悩ませることとなった。
編集作業もろくに進んでないというのに。


375 :涼宮ハルヒの約束:2010/06/16(水) 04:50:12 ID:IbCCbANj0
日も傾いてきた頃、いきなり部室のドアが開けられた。
「やあやあ、キョンくん!」
いつものハイテンションで俺の前に現れたのは鶴屋さんだった。
説明しよう。鶴屋さんは朝比奈さんのクラスメイトで、今回の映画制作でもお世話になった人である。
「実はさっき玄関で、キョンくんに会いに来たって言う人に会ったのさっ!さあ、入っといでっ!」
鶴屋さんの後ろからひょっこり顔を出したのは我が妹だった。
「キョンくん、やっと見ぃつけたぁっ!」
妹から俺の着替えと、母親からの差し入れだというおにぎりが入った容器を受け取った。
「ねえねえキョンくん、シャミはー?」
妹が言うシャミとは、シャミセンのことだ。
シャミセンは成り行きでうちで預かることになった猫である。
三毛猫なのにオスだという、それだけでも非常に珍しいのだが、
それよりももっと稀有なのは、彼が人語を解し、自らも話すことが出来るということだろう。
シャミセンがそんなスーパーキャットになってしまったのは、もちろんハルヒのせいなのだが。
登校するとき、俺はシャミセンを連れ出して、学校の近くで放しておいたが……
どこへ行ったんだ?
「シャミ、あたしが連れて帰るぅ!ねぇ、シャミ、どこ?」
妹はシャミセンに執拗にこだわっていたが、行方がわからんのでは致し方ない。
それより、そろそろ暗くなるから家に帰った方がいいんじゃないのか?
「あ、それなんだけど、妹ちゃん、あたしが家まで送って行こうか?」
鶴屋さんは、一度家に帰る用事があるというのでそんなことを言い出した。
そんな鶴屋さんのお言葉に甘えさせてもらうことにして、
校門を出て行く妹と鶴屋さんを見送る俺だった。
「行ったようだな。正直な話、ここに留まらせてくれたことを感謝している」
こいつがシャミセンだ。まったく、計ったようなタイミングで出てきやがる。
シャミセンは、普通の猫のフリをしなくちゃいけない我が家より、
自由に振舞えるここの方がいい、ってなことをのたまいつつ、グラウンドの方へと消えていった。

すっかり夜になった。俺は部室に戻って編集作業に勤しんでいたが、
いつしか睡魔に負けてしまっていた。



376 :涼宮ハルヒの約束:2010/06/16(水) 04:51:30 ID:IbCCbANj0
第二章

今日は文化祭の前日。俺は部室で目を覚ました。そうか、編集作業の途中で眠ってしまったんだな。
部室の外へ出る。ん?今、小学生くらいの女の子が走っていったように見えたが……。
気になったので追いかけてみたが、見失ってしまった。
俺は顔を洗って頭をすっきりさせた後、購買部に行き朝飯を調達し、広場に行った。
そこへ、劇の衣装を着た古泉が通りかかった。
「あなたの朝食のメニューを当てて見せましょうか?メロンパンとコーヒー牛乳。違いますか?」
え?当たってるが、それがどうかしたか?
「なるほど。これで僕の仮説がひとつ、証明されました」
古泉は気になることを言いながら去っていった。

部室に戻って長門に会い、昼ごろになって「恋のミクル伝説」のCD-Rを渡される。
ん?前にもこんなことあったような……って気のせいか。
午後になり、ハルヒに見つからないところで昼寝でもしようかと、
ひと気の無いところを求め校内をさまよい、非常階段にやってきたところで古泉に会った。
「おや、こんなところにいらっしゃるということは、もうお手隙になられたのですか?」
だったらどんなに良かったか。そうだ、この際だから……。
「お前に聞こうと思ってたことがあるんだ。ハルヒの暴走を止める特効薬ってのはないのか?」
「なるほど、そういうことですか」
俺の質問に古泉はしばし考え込んだ。
「待て、何がなるほどなんだ」
「いえ、今の一言で、少々ひらめいたことがありましてね。
特効薬の件は、また改めてお話いたします」
そろそろ稽古に戻るというので古泉は教室に戻っていった。何のこっちゃ。

日が傾いてきて、そろそろ編集作業に本腰を入れなければマズいなと思いつつ、
俺は部室のドアを見つめていた。
朝から何度か感じている既視感、それが気のせいじゃなければ、
もうすぐあのドアを開けて鶴屋さんがやってくるはずだ。
「やあやあ、キョンくん!」
俺の予想はものの見事に当たっていた。妹から差し入れを受け取った後、
妹と鶴屋さんは騒がしく部室を出て行った。


377 :涼宮ハルヒの約束:2010/06/16(水) 04:55:41 ID:IbCCbANj0
今度こそ本当に編集作業に勤しもうとした俺だったが、
何故か古泉、長門、朝比奈さんという非日常三人組に、屋上へと呼び出されることとなった。
もしかして、あの「特効薬」の件だろうか。
朝比奈さんや古泉は、今朝から何度も既視感みたいなものを感じているという。
こんなことが前にもあった、というあの感覚である。俺も今朝から感じている。もしかして……。
「わたしたちが同じ一日を繰り返しているから。今日で三回目」
長門にしてはわかりやすい説明だった。またそのパターンなのか。時間がループしているとかいう。
しかし三回目ってのはずいぶんと少ないな。
前回は八千回×二週間とか、実際の時間に換算すると気が遠くなるような回数だったが。
しかも、今回の状況は少々特殊だという。朝になると記憶のリセットが行われるわけだが、
それはごく弱いリセットなのだ。強く意識していれば記憶の維持が可能なほどに。
言い換えれば、文化祭前日が何度訪れようとも、誰もがそれを当然として受け止め、
少しもおかしいとは思わずに普通に過ごしている、ということだ。
さらに困ったことがある。俺たちは校内に閉じ込められたということだ。
皆で校門まで行く。そこから出ようとするのだが、見えない壁に阻まれてしまう。
閉鎖空間を自由に出入りできる古泉の能力をもってしても出ることはかなわない、
通常とは異なる性質の閉鎖空間。これを便宜上「閉鎖的閉鎖空間」と呼ぶことにする。
が、正直、この空間が何と呼ばれようが、どうでもいい。俺はただ、元の空間に戻りたい。それだけだ。
「とにかく、この閉鎖的閉鎖空間は涼宮さんが創造主であるわけですから、涼宮さんに働きかけることから始めましょう。
文化祭前日が繰り返してるということは、涼宮さんがこの日に何らかの未練を残していると考えるのが、最も自然です」
だから、ハルヒの未練を解消してやれって言うんだろ、古泉?
「そういうことです。今回もまた、あなたの力に期待することになりそうです」
ああ、わかった。出来る限りのことはやってみる。でないと、俺もあの映画を永遠に編集し続けることになってしまうからな。

部室に帰ろうとしたところで、妹を送っていくという鶴屋さんとバッタリ会った。
「キョンくんは編集、頑張るのだよっ!そんじゃっ!」
「じゃーねー、キョンくん。ばいばーい」
妹と鶴屋さんは校門を出て行った。二人を見送ってから気づいた。
学校から出られた、ってことは、鶴屋さんや妹は、閉鎖的閉鎖空間の影響下にはないらしい。
でも、あの二人にも文化祭前日は繰り返してるんだよな?よくわからん。
そんなことより、ハルヒの気持ちを文化祭当日に向けることが重要だ。

部室に戻った俺を待っていたのは、読書を決め込んでいる長門と、不機嫌そうなハルヒであった。
やがて古泉と朝比奈さんもやってきた。皆で差し入れのおにぎりを食べることになった。
食後、ハルヒはパソコンを立ち上げて、映画の編集済みの部分をチェックし始めた。
「ちょっとキョン!今朝見たときから、編集済みの部分、増えてないじゃない」
「すまん。今から徹夜でやる」
「そう。……ねぇキョン。今、編集済みの部分をざっと見て思ったんだけど、
なんていうか、こう、動きのあるシーンが意外に無いわね。
うーん、もっと突き抜けた感じが欲しいのよ。例えば、夏のギラギラした太陽の下で、
何かスポーツしてるとか。そうねぇ……野球ね!出来れば野球場を借りて撮りたいわね」
ちょっと待て。今さら、追加撮影なんて無理だぞ。明日はもう、文化祭なんだからな。
「そうよね」
ハルヒはその思いつきを渋々と断念し、その場は収まった。
しかし、ある予感、否、確信を覚えていたのは、俺だけではなかっただろう。
ハルヒの思いつきは、世界に何らかの影響を与えるに違いないと。



40 :涼宮ハルヒの約束:2010/06/16(水) 04:57:37 ID:IbCCbANj0
第三章

そして、翌朝。
「……さん、起きてください」
目を開けると視界いっぱいに広がる古泉の顔。これ以上無いってくらいに最悪な目覚めだ。
それから古泉に屋上に連れて行かれた。そこで見たものは、かつてグラウンドであったところに
違和感なく収まっている、ハルヒご所望の野球場だった。

ハルヒ超監督の指揮により、野球場にて追加撮影が行われた。
撮影が終わった後は、一応編集作業をする。
その合間に、気分転換として校内をブラついたのだが……
何だか、校内にいる生徒の人数が減っているような気がする。
夜、部室にやってきたハルヒは何だかご機嫌ななめである。
このままでは意味もなく怒られそうな気がするので、俺はハルヒに話しかけてみることにした。
「なぁハルヒ、追加撮影はもう必要ないよな?」
「そうねぇ。もう必要ないと思うわ」
「本当に、本当に、必要ないよな?」
「そこまで言うなら考えてみようかしら。そうだわ、『燃え』じゃなくて『萌え』が足りないのよ!
健康的な色気、それが必要なのよ!」
ハルヒは上機嫌で部室を出て行った。またハルヒの変な気を起こさせてしまった。
でも、健康的な色気ってどんなんだ?例えば、朝比奈さんの水着姿、
それこそは健康的な色気と呼べるのではないか?
そんなことを考えながら眠りに落ちた。


第四章

いや、個人的な意見では、この日起こったことが、
野球場が出現するよりも悪いことなのかと問われれば、
そう悪くもなかったんじゃないかと思ったりもするのだが、
朝目を覚ますと、学校のプールは白く輝く砂浜へと変わっていた。
皆は水着に着替え、早速ビーチで追加撮影が始まった。
それが終わったあとは棒倒しやらビーチバレーやらで楽しく遊ぶ。

ちなみにSOS団のメンバー以外の人物は、もうこの閉鎖的閉鎖空間の中にはいないらしい。
日が暮れてからやっと編集作業に取り掛かった俺だったが、
やはり途中で睡魔に撃沈されてしまった。



41 :涼宮ハルヒの約束:2010/06/16(水) 04:59:18 ID:IbCCbANj0
第五章

今日もやはり文化祭の前日であった。
窓を開けて確認してみたが、ビーチや野球場がいつの間にか元に戻っている、
なんてことは起きていなかった。
ハルヒは追加撮影するとは言い出さず、平穏に午前中が過ぎていった。

昼になって、古泉に非常階段へと呼び出された。
行ってみると、そこには朝比奈さんと長門もいた。
「さて、皆さんにお集まりいただいたのは他でもありません。
今回の、この事態の解決についてです。
僕はいっそ、涼宮さんに、明日が来てほしくてたまらないと考えていただくように
仕向けてみようと思うのですが」
古泉がそんなことを言い、皆は賛同した。俺も異議はない。
「では、その誘導役ですが」
そこでなんで俺を見る?
「全会一致のようですね。それでは、実行は、夕方辺りに部室でということにしましょうか」
やれやれ、世界の命運を握っちまった。
俺は重い気持ちのまま、フラフラと野球場に来た。
「そのように思いつめた顔をしていると、転んでしまうぞ」
シャミセンだった。俺はシャミセンとしばらく話をした。いい気分転換になったような気がする。

夕方。俺はパソコンを操作しつつ、出来るだけさりげなくハルヒに話しかける。
「なぁハルヒ、例えば遠足の前の日とかって、寝付けない方か?」
「そうねぇ、小さい頃はそうだったかしら」
「じゃあ、例えばショートケーキのイチゴって、最後までとっておいたりとか?」
「うーん、何とも言えないわ。それがどうかしたの?」
いや、その……。どう言ったらいいものか。
「言いたいことはハッキリ言いなさい」
「いや、なんつーか、もしかしてお前、明日が来なきゃいいとか思ってたりしないか?」
言ってからマズイと思った。少々核心を突き過ぎた。
「キョン、あんた、映画を仕上げる気、ないでしょう?
完成を間近にして『明日が来なきゃいい』なんて、怠惰な発想だわ」
こちらの真意を知られたわけではないようなので、まずは一安心。
だがハルヒを不機嫌にしてしまったわけで。
「チラシ貼りに行って来るわ。キョン、編集進めときなさいよ!」
結局のところ、作戦は失敗だ。


42 :涼宮ハルヒの約束:2010/06/16(水) 05:01:05 ID:IbCCbANj0
編集作業に没頭すること数時間。まったく、ハルヒはチラシ貼りにどこまで行ってるんだろうね?
「はかどってますか?」
やってきたのは朝比奈さんである。
朝比奈さんはこれから、体育館のシャワー室に行くのだという。
「キョンくんも一緒に行きませんか?」
なにっ?いつの間に俺はこんな素敵イベントのフラグ立てをしてしまったんだ?
もちろん喜んでご一緒させてもらうことにした。
だが、そんな浮かれた気分も長くは持たなかった。
「なんじゃこりゃー!」
体育館は無惨にも崩壊していた。


第六章

「少々お話をよろしいでしょうか。緊急事態です」
いつものごとく部室で目覚めた俺に古泉は、神人の気配を感じていると言った。
しばらく後、長門が部室にやってきて読書を始めた。
「始まった。古泉一樹は神人と戦闘状態にある」
ふと顔を上げて長門が言う。

俺は部室を飛び出して、崩壊した体育館の前に行った。
そこで、古泉は小学生くらいの女の子とにらみ合っていた。
長い髪をリボンで留めている、かわいらしい女の子。
見覚えがある。いつか見かけて、追いかけたこともある子だ。
おい古泉、まさか、これって……?
「ご推察のとおり、彼女が『神人』です」
冗談にしちゃタチが悪いぞ。前に見たことあるが神人ってのは
もっと巨大で不気味なモンじゃなかったのか?
「僕はいたって大真面目です。今回は少々特殊な事例のようですね。
ようやくここまで追い詰めました。彼女を倒します。よろしいですね?」
待て、古泉。俺は、やっぱり――。
「見た目に惑わされないで下さい。昨夜の体育館の崩壊も、
この神人が関わっているのは間違いないのです」
ああ、わかってるさ。その子は本当に神人なんだろう。だけどな。
「彼女が女の子の姿をしている限り、俺はその子が攻撃されるのを見たくないし、
お前がそんな小さな子を痛めつけるのなんか、見たくないんだよ!」
古泉に隙が出来ると、女の子は逃げてしまった。


43 :涼宮ハルヒの約束:2010/06/16(水) 05:02:50 ID:IbCCbANj0
部室に戻ると、そこにいたのは朝比奈さん一人だけだった。
朝比奈さんが淹れてくれたお茶をすすりながらくつろいでいると、ハルヒがやってきた。
「キョン!それにみくるちゃん!準備しなさい!」
何をだよ?
「決まってるでしょ、ピクニックよ!」
ピクニックって言ったって、この閉鎖的閉鎖空間から出られないんじゃ……
と考えながら窓の外を見て愕然とする。
中庭を隔てた中館(なかかん)の屋上は、緑豊かな草原と化していたのである。
「そうそう、今日は特別ゲストがいるのよ。いらっしゃい」
ハルヒの言葉に応えて、おずおずと入ってきたのは、あの「神人」の少女だった。
ハルヒと少女はバッタリ出会って、すっかり仲良くなったのだという。
「さあ、行こう、リボンちゃん」

かくして、SOS団は、神人の「リボンちゃん」とのピクニックを執り行う運びとなった。
長門が言うには、リボンちゃんは四年前のハルヒの姿なのだという。
だが、過去のハルヒがタイムスリップしてやってきた、というわけではなく、
彼女はハルヒの真相意識が具現化した存在なのだそうだ。
まぁ、今は難しいことを考えるのは止そう。
中館の屋上で弁当を食べた後は皆でバドミントンをして遊んだ。
リボンちゃんは皆に懐いて、普通に喋り、普通に笑っている。

夜は朝比奈さんのクラスに勝手に入り込んで焼きそばパーティーをした。
もちろんリボンちゃんも一緒だ。
しかし、文化祭のためにと買い揃えた食材を俺たちが勝手に使っていいものかね?
さて、パーティーが終わった後、朝比奈さんのクラスがある中館と、
部室がある旧館への渡り廊下を歩いていたときのことである。
リボンちゃんが朝比奈さんのクラスに忘れ物をしたと言い出した。
ハルヒは自分がとって来ようと申し出たのだがリボンちゃんはそれを断り、
長門と朝比奈さんと古泉を指定して取りに行かせようとした。
リボンちゃんは無邪気な顔して、完全にこの場を仕切ってやがる。
ハルヒと同じと言えば確かにそうなんだが。
三人は意外にもあっさりと了承し、中館へ向けて歩みを進める。
十数秒後、地震のような振動が感じられる。
振り向くと、渡り廊下は途切れ、中館はゆっくりと崩落を始めていた。
これはきっと、リボンちゃん、いや「神人」の仕業に違いない。
三人は崩れ行く中館に取り残された。あの三人なら、簡単にこの状況を抜け出せるはずだ。
だが、三人は俺たちを見つめるばかり。
そうか。ハルヒに能力を使うところを見せるわけにはいかないのだ。
呆然と立ち尽くすハルヒを説き伏せ、俺たちは旧館へと入った。
ハルヒの目の届かないところで三人は中館から脱出し、事無きを得た。

今晩は皆で部室に泊まることになった。寝る前に少し古泉と話をする。
古泉もやはり、中館の崩落は神人の仕業だと睨んでいるらしい。
だが、神人の目的は何だろう?古泉たちを殺すこととは考え難い。
それなら、あんなにゆっくりと崩落させる意味は無いからな。



44 :涼宮ハルヒの約束:2010/06/16(水) 05:04:27 ID:IbCCbANj0
第七章

目を覚ますと、部室には俺とハルヒだけが残されていた。
長門に朝比奈さんに古泉、そしてシャミセンも姿を消してしまっている。
「あんた、映画にあたしの声を入れたいとか言ってなかった?」
ハルヒが唐突にそんなことを言う。
ああ、あれは確か、前に録音したヤツがパソコンに入っているはず。
俺はパソコンの中を探してみたが、それらしいデータは見当たらなかった。
「じゃあ、キョン、行くわよ!」

俺とハルヒは放送室の設備を借りて録音することになった。えらく本格的だな。
「『この物語はフィクションであり実在する人物、団体、事件、その他固有名詞や
現象などとは何の関係もありません。嘘っぱちです。
どっか似ていたとしてもそれはたまたま偶然です。他人のそら似です。』
え? もう一度言うの?こんなの必要ないじゃない」
こいつに原稿を素直に読ませることはこんなにも難しいことなのか。
仕方ない、さっきのテイクで満足しよう。
「ちゃんと録音されてるかチェックするから、そこで待っててくれ」
チェック作業に入ってしばらく後。
「ねぇ、キョン」
「ん?」
「この映画が無事完成したら、遊園地とか行く気ある?あたしと」
いつもとは違うトーンで、ハルヒはそう言った。もしかして、デートへの誘いか?
「ああ、そうだな、いいかも知れないな」
俺は動揺を隠しつつもそう答えた。
「そう、じゃあ考えとくわ」
しかし、二人きりで遊園地って、払いは全部俺とかじゃないだろうな?

その後、編集作業に邁進するはずだったのだが、居眠りをしたりして気が付けば昼過ぎになっていた。
「あら、キョン、ここにいたの?」
部室の静寂はハルヒの声によって破られた。編集作業なら進んでないぞ。
「みくるちゃんや、有希や古泉くんは?お昼に集合するって約束だったのに」
そう言われてみると、今朝から三人の顔を見ていない。
まさか、リボンちゃんに消されてしまったのでは?
「あたし、あの三人を探しに行って来る!」
ハルヒは部室を飛び出して行った。


45 :涼宮ハルヒの約束:2010/06/16(水) 05:06:28 ID:IbCCbANj0
しばらく後。
まだ日が暮れる時間には早いはずなのに、窓の外はさっきよりずいぶん暗くなっている。
俺は何故か不安に駆られ、ハルヒを探して校内を走り回った。
そしてリボンちゃんの姿を見つけたのだが、彼女は俺の顔を見るなり逃げ出しやがった。
追いかけたが見失ってしまった。
「あらキョン、どうしたの」
そこにハルヒがいた。
「キョンっ!どう、誰か見つかった?」
えっ?そこへやって来たのは、もう一人のハルヒだった。
「なんなのあんた、あたしのそっくりさん?」
「あんたこそ、なんであたしにそっくりなの?」
二人のハルヒは取っ組み合いを始めてしまった。
おそらく最初に会った方のハルヒがニセモノだろう。リボンちゃんが化けているのだ。
それくらいは俺にもわかる。だが、今となってはどっちがどっちだか見分けが付かない。
よーし、こうなったら……。
「おい、涼宮ハルヒ!これからお前たちは俺と話してもらう」
そうすればたぶん、わかるだろう。

ここで本物が見分けられないようじゃグッドエンドなんて夢のまた夢だ。
会話例を以下に示す。
A:
「映画、評判良いといいな」
「ハリウッドからオファーが来たらどうしよう」
「それは絶対無いから安心しろ」
B:
「映画、評判良いといいな」
「ま、大丈夫じゃない。あたしが作った映画なんだから」
「……そうか」
言わずもがな、Bが偽のハルヒである。
偽のハルヒは妙に醒めているところがあるのだ。


46 :涼宮ハルヒの約束:2010/06/16(水) 05:08:22 ID:IbCCbANj0
さて、どちらが本物かはわかった。
俺は本物のハルヒを、お前が本物だ、という気持ちを込めて見つめた。
それが伝わったかどうかはわからんが、今はハルヒを信じるしかない。
その上で、
「お前が本物だ」
と偽のハルヒに向かって言った。本物のハルヒよ、大人しくそこで待っていてくれ。
俺は偽のハルヒを部室に連れて行った。
「ふふっ、『あたし』も、何であんたみたいなのとつるんでるのかしら」
「それは俺が宇宙人でも未来人でも超能力者でもないからか?
一応言っておくけどな、お前がニセモノだってことはわかってる。
すまんな、凡人の俺に無理やり付き合わせちまってさ。なぁ、リボンちゃん」
「あんた……」
「最初の質問だ。お前の目的は一体、何なんだ?」
「あたしは、あの三人が非日常的存在だということを、『あたし』に教えたかったの」
昨夜の中館の崩落、あれはやはり、リボンちゃんの仕業だった。
あの三人が能力を使うところをハルヒに見せたかったらしい。
このリボンちゃん、否、ハルヒの深層意識は、あの三人の正体を知っている。
というのも五ヶ月前に俺が三人の正体をバラしたからなのだが……。
ハルヒの表層意識はあのとき、俺の発言を冗談だと言って否定したが、
深層意識では肯定していたのだった。

「文化祭前日をループさせたのもお前なんだな?何でこの日じゃないといけないんだ?」
「それは……楽しかったからよ。文化祭の前の日が、すっごく楽しかったから!」
楽しかったから、何度も過ごしたいってことか?
「違うわ。だって変じゃない。楽しいはずがないのよ。
『あたし』が楽しくちゃいけないのよ!
だって『あたし』は、非日常と邂逅するっていう夢を叶えてないのよ?
なのにどうして、そんなに楽しくしていられるの?おかしいでしょう?」
ハルヒの深層意識が現れた理由がわかった気がした。
要するにハルヒは心の奥深くで矛盾を感じてたってわけか。
「ただの人間には興味ありません」なんて自己紹介で言っておきながら、
ただの人間に過ぎない(と表層意識では思っている)奴らを相手に楽しくてたまらない自分に。
それで深層意識がリボンちゃんとなって具現化し、妙な空間に俺たちを閉じ込め、
非日常がそこに存在していることを表層意識に教えようとした。そういうことだな。

47 :涼宮ハルヒの約束:2010/06/16(水) 05:10:10 ID:IbCCbANj0
「やれやれ」
「何よ」
「お前があまりにもアホだから呆れてるんだ。そんなこともわからんのか?
簡単なことだ。それはな、朝比奈さんや、長門や、古泉や、そして俺も、
ハルヒにとってもう『ただの人間』なんかじゃないからさ。
今、俺たちはSOS団の仲間なんだよ。仲間といるときは、楽しいもんだ。
それは全宇宙における普遍的真理ってヤツでな、深層意識がどんなにグダグダ言おうと、
絶対に、変わらないもんなんだよっ!!」
「……」
「わかったらこの空間を元に戻せ!ハルヒはな、いや、ハルヒだけじゃない、俺もそうだし、
あの三人もきっとそうだろうが、あの映画とも呼べないようなこっぱずかしいシロモノを、
文化祭で公開するのが楽しみで仕方ないんだよ!」
「……いいのね?あたし、楽しくても、いいのね?」
ああ。俺が保証する。お前はその楽しさを、たっぷり謳歌していいんだ。
だってハルヒ、お前は確かに普通とは言い難いが、それでも高校一年生なんだぜ。
高校生らしく、楽しく過ごせばいいじゃないか。
「そうね。あたし、楽しむことにする。キョンもたまにはいいこと言うわね」
リボンちゃんは光の粒子に包まれ、消えていった。

「いやあ、お見事ですね」
朝比奈さんに古泉、長門、そしてシャミセンが部室に入ってきた。
古泉、お前消えたんじゃなかったのか?
「いえ、我々はコンピ研の部室に隠れていただけですよ」
急に力が抜けてしまう。もちろんハルヒが探しに来たらしいが、
長門が手を回して見つからないようにしていたらしい。
古泉は、リボンちゃんの目的は三人の正体をハルヒに教えることではないか、と推理した。
そこで三人がいなくなれば、リボンちゃんは何も出来なくなって、
事態は解決に向かうと踏んだわけだ。やれやれ。
最後にわれらが団長様が部室にやってきた。
慌ててつまずき、俺にぶつかりそうになる、いつものハルヒだった。



48 :涼宮ハルヒの約束:2010/06/16(水) 05:15:24 ID:IbCCbANj0
エピローグ

いつものように俺は部室で目覚めた。
恐る恐るパソコンを確かめてみると、そこには文化祭当日の日付が表示されていた。
崩壊した体育館やら中館、その他メチャクチャになった諸々も見事に元に戻っている。
ん?パソコンのデスクトップには、既に編集済みの動画があった。
編集作業などちっともやっていないのに。誰がやったんだ?
しかもその動画には今の俺には到底無理なCG合成やらエフェクトやらが盛り込まれていて、
それなりに見られるレベルになっていた。
俺は朝の校内を歩き回って、編集作業をした奴を探した。
ハルヒは当然違う。古泉と長門に聞いてみたが否定された。
朝比奈さんや鶴屋さんでもない。じゃあ、誰が?
念のためにシャミセンにも聞いてみることにした。
「私は見た。いつだったか、キミたちが焼きそばパーティーとかいうものに興じていたときだ。
そのときパソコンの前に座っていたのは、キミだった」
は?俺?
「今私の前にいるキミとは違うキミだ。つまり……」
「キョンくぅん!」
そこへ闖入してきたのは我が妹だった。おい、どうしてここにいるんだ?
「今日はね、昨日のおにぎりの入れ物を取りに来たんだよ!それで、シャミを連れて帰るの!」
妹はシャミセンを連れて行ってしまった。
てかシャミセン、どういう意味だよ、俺とは違う俺が映画の編集をしてたって?
俺の頭には、一つの考えが浮かんでいた。まさか、未来から来た俺、なんて言うんじゃなかろうな?
その可能性はゼロとは言い切れない。
やれやれ、エフェクトのやり方とかCGとかの勉強しとくか。

部室に戻ってみると、ハルヒ御大がおいでなすった。
「今日はいつもより調子がいいのよ。夢見が良かったからかしら。
最近まれに見る、スカッとした夢だったわね」
なるほどな。あの突拍子も無い状況は夢だと思っているわけか。
しかし、よっぽどその夢が気に入ったようだな。何よりだよ、ハルヒ。
こうして俺たちの、長い長い文化祭前日は終わった。後はこの祭りを楽しむだけだ。
俺は今日という日を楽しむことにする。いや、今日だけじゃない。
この先何が起ころうと、俺はそうするつもりだ。
だからお前も、心おきなく楽しめばいい。どんなことでも、お前のやりたいようにさ。


49 :涼宮ハルヒの約束:2010/06/16(水) 05:18:29 ID:IbCCbANj0
そして無事、文化祭は終わった。
かくも長きに渡って俺の心の重荷であり続けたあの映画が、
他の生徒たちからどのような評価を得たかは……思い出させるな。
過ぎてしまったことは忘れよう。忘れるしかない。忘れないとやってらんねー。
ともあれ、そんな文化祭から数日が過ぎた、土曜日の午後のことだった。
「キョン、今日、例のアレを決行するわよ。約束したでしょ、忘れたの?
駅前に三十分以内に集合ね」
いきなりハルヒから電話がかかってきて、そう告げられた。
訳のわからないまま駅前に行った俺はハルヒと一緒に電車に乗った。
すっかり辺りが暗くなった頃、電車は目的地に着いた。
ここって、遊園地か?ということは、だ。放送室でのアレか?デートなのか?
と思ったが、長門に古泉に朝比奈さんも後からやって来た。
どうやら今日は、SOS団の文化祭打ち上げイベントらしい。やれやれだ。
「ね、約束通りでしょう?」
ハルヒが振り返って俺に微笑む。
「今後、SOS団の会合は絶対に全員集合だって。
いい、これからもSOS団は必ず全員集合よ。わかったわね」
ああ、そうだな。そうしよう。
「さあ、キョン、心おきなく楽しむのよっ!」



以上、ハルヒグッドエンドでした。



50 :ゲーム好き名無しさん:2010/06/17(木) 20:06:32 ID:xm6bjn+Q0
ハルヒ乙でした
あと前スレ埋めも乙

原作知らないからよくわからんのだけど、
書き出しにあった「俺」ってのは前作の「~の並列」と同じ語り手の「キョン」って人?

54 :ゲーム好き名無しさん:2010/06/17(木) 20:54:16 ID:MRBDh46D0
>>50
ハルヒの人ではないが、総じて俺=キョンでおk


181 :涼宮ハルヒの約束:2011/07/03(日) 02:11:22.76 ID:Ina/338x0
(ハルヒバッドエンド)
本物のハルヒを見抜けなかった俺は、偽のハルヒを選んでしまった。
そいつは「あたしが本物のハルヒよ」と言って不敵な笑みを浮かべる。
自分が間違っていたことに気付いたときにはもう遅かった。
偽ハルヒ――神人の手に墜ちた俺は見ていることしか出来ない。
そして、この閉鎖的閉鎖空間は闇に包まれた。



182 :涼宮ハルヒの約束:2011/07/03(日) 02:17:37.80 ID:Ina/338x0
(ハルヒアナザーエンド)

幼い少女の姿をした神人と古泉は睨み合っていた。
古泉は手のひらから眩く輝く光球を出現させた。その超能力を使って神人を倒そうとしている。
俺はこれから展開されるであろう凄惨な光景を想像しつつ、それに堪えかねて目を閉じた。
「終わりましたよ」
古泉の声に応えるように目を開けると、神人の姿はなくなっていた。

って、古泉!お前、消えかけてるぞ!
「落ち着いてください。こうなることは予測していました」
古泉が言うには、あの少女の姿の神人は、
宇宙人や未来人や超能力者たちと一緒にいたいというハルヒの願望を象徴する存在らしい。
そして、神人がいなくなった今、ハルヒの願望も消え、用済みの宇宙人(以下略)の古泉たちは、
この世界から、この閉鎖的閉鎖空間から消えてしまうのだという。
「涼宮さんのこと、頼みましたよ」
そう言い残すと古泉は光る粒子となり、後には何も残らなかった。

ハルヒのことが心配になった俺は、部室に戻り、気絶したハルヒを発見した。
ホッとしたのも束の間、辺りは闇に包まれた。数時間が経過した後、ハルヒは目を覚ました。
「ここは……どこ?」
「どこって、SOS団の部室に決まってるだろ?」
「SOS団?何それ?」
ハルヒは、俺のことは覚えていたが、それ以外、SOS団のことや、
長門、朝比奈さん、古泉のことは忘れていた。なるほどな。こうなるのか……。
とにかく、ここでボケッとしていても仕方ないので、外に出てみたが――。
部室の外には絶望を絵に描いたような光景が広がっていた。
無事なのは部室だけで、校舎の他の部分は残骸となっていた。
そしてその残骸の外側には見渡す限りの荒野が広がっている。
どうやら、この世界には本格的に俺とハルヒしか存在してないみたいだ。

だが、そんなものを見せられてもハルヒは希望を捨ててはいなかった。
俺たちは校舎の残骸を漁って食材やら調理道具やらを調達し、飯を食った。
「おなかがいっぱいになったら、なんだか眠くなってきちゃった。本当はお風呂に入って着替えたいところだけど……」
ハルヒは入ったら死刑などとのたまいつつ部室に入った。
俺は仕方なく外にいることにした。そのとき、近くの地面が陥没して……。
驚きを通り越して笑うしかないね。そこには源泉かけ流しの露天風呂と、ご丁寧に着替えまで用意されていた。
こんな状況になっても、ハルヒの願望を叶える能力は健在らしい。

もしかしたら、ハルヒに元の世界に戻りたいと願わせれば、それは叶うのかも知れない。
だが、どうやって?そうだ、あの映画だ。俺は3日間かけて編集作業に没頭し、映画を完成させ、ハルヒに見せてやった。
見終わった後、ハルヒはつぶやいた。
「そうよ、この映画の監督はあたしよ!有希は、みくるちゃんは、古泉くんはどこへ行ったのよ!?」
そして、世界は光に包まれる。

今日は文化祭の前日。俺はとある珍妙な映像作品を文化祭で公開すべく、
昨日から夜を徹して部室のパソコンに向かい、編集作業に取り組んでいた。
しかし、いつの間にか睡魔に撃沈されてしまったらしく、結果、こうして
むさくるしい部室で冴えない朝を迎えたわけだ――。
最終更新:2011年07月09日 16:26