パワプロクンポケット12
Part52-123~132,149~158,193~196,210~215,269~278,281~288
- 123 :パワプロクンポケット12:2010/06/24(木)
16:52:03 ID:m+NZjSmP0
- パワプロクンポケット12《電脳野球編》
ちょっとずつですがパワポケ12表サクセスを投下していきたいと思います。サブタイは上の《》内です。
大まかなゲーム概要+あらすじからいきます。
パワポケのサクセスには表と裏があり、表は時系列が1からずっと途切れずに続く、基本一作完結のお話。
裏は大概は並のRPGよりも力の入ったRPGが収録されています。
《電脳野球編》は表に該当し、またパワポケは舞台がシリーズごとに高校→プロ→社会人→高校とループしていますがその社会人編にあたります。
そして何と言ってもパワポケが本家パワプロと違うのはそのダーティーな世界観や彼女を作ったときのイベントであるのは間違いないでしょう。
過去作のストーリーを読んでいる方はご存知でしょうが、野球ゲームと言うのがジョークに聞こえるぐらい真っ黒です。(実際ジャンルは野球ゲームではない)
よってまともな野球物語を望む人は本家へどうぞ。あらすじだけでもいかにこのゲームが狂っているかが分かります。
特に毎回社会人編は後付けで野球を物語に絡ませてるとしか思えないお話です。とはいえそれが異色で面白く、このゲームの最大の売りなんですが。
前置きが長くて申し訳ないですが以下《電脳編》あらすじです。ゲーム冒頭+一部公式から引用。地の文は大部分を分かりやすくするために勝手に付け加えていますが御了承を。
- 124 :パワプロクンポケット12:2010/06/24(木)
16:54:27 ID:m+NZjSmP0
- 《主人公(デフォルトネーム無し。よって主人公は主人公で表記)》は小学生の頃から野球ばかりやってきた。
しかしこの春は大学を卒業しごく普通の会社に就職。
これからは野球とは関係のない毎日送るのだと思っていた。
――が。なんと卒業直前に内定が決まっていた会社が不況により倒産!
いきなり主人公はその身一つで社会に放り出されてしまった。
「景気が悪いからな。まあ、気を落とすな。お前が悪いわけじゃない」
「はい、先輩…」
と、大学の先輩に慰められる主人公。先輩は話を切り替えてこんな話題を持ち出す。
「そうだ。最近、面白いゲームを見つけたんだ。ちょっと待っていてくれ」
そう言って先輩は自室へと戻っていく。主人公は暫し待つことに。
「あのー、先輩?なかなか戻って来ないけど、何をやってるんです?あれ、どこにもいないぞ。おかしいなあ。
パソコンとかつけっぱなしでどこいっちゃったんだろう?」
先輩の姿は部屋になかった。ただ点けっ放しのパソコンが放置されている。
とりあえずパソコンのモニターを覗く主人公。
「…ハッピースタジアム?パソコン用の野球ゲームかな」
モニターにはファンシーなロゴで《ハッピースタジアム》と表示されている。「野球しようぜ!」のキャッチコピーがちょっと可愛い。
これが、その野球ゲームと俺との出会いだった――――――。
《補足》
これが冒頭のあらすじです。かなり現代社会を意識した内容になっています。
主人公は現実世界を電脳世界をうろつき、バイトをして生活費を稼いで様々な謎を追っていく事になります。
また、今作の重要なパラメータには「こころ」「社会評価」があります。
前者は家賃の支払日に払えなかったり母親の帰省の催促などで減少し、0になると主人公が全て諦め自主帰省しゲームオーバー。
後者も家賃を払えなかったり、反社会的な事をすると減少し、0になると主人公が実家に強制送還されてゲームオーバー。
一部イベントでもこころと社会評価は重要です。
とりあえず次から本編ストーリー(通常√)をやります。所々端折りますが、重要イベントは抑えていくつもりです。
また()で補足を随時挿入していきます。かなり長くなりますが、お付き合い下さい。
- 125 :パワプロクンポケット12:2010/06/24(木)
16:59:14 ID:m+NZjSmP0
- 《4月23~28日》
こうして主人公は行方不明の先輩を探すために奔走する事になった。
主人公は友人である《開田 具智(かいだ・ぐち/今作のめがね君であり、主人公の大学の同級生》と一緒にルームシェアをしている。
開田は先輩は誰かから電話で呼び出されて、主人公に何も言わず出て行ったのでは、と推理する。主人公もとりあえずそれに納得。
「そんなことより就職でやんす!オイラたちは雇ってくれる会社がないと故郷に帰らなきゃならない境遇なんでやんすからね!」
と開田は言う。さっきは説明し忘れたが、開田も就職先が倒産してしまった、云わば主人公と同じ穴の狢状態。
因みに主人公の実家は漁師をやっており、倒産の話を聞いた親は毎日のように帰って来いと言っている。
だが主人公はこっちで就職をしたいため何とか粘っている。
「重要な問題があるでやんす」
「なんだい?」
「生活費と、ここの部屋代でやんす。今週末に管理人さんが集めに来るでやんすよ!」
「ああ、なるべく考えないようにしていたのに…」
「とりあえず、アルバイトをしてお金を稼ぐでやんす!」
「お、おー!」
そんなわけで、主人公と開田は先輩の事を余り深く考えずに、とりあえずその日暮らしの為バイトに精を出すことに。
毎週の生活費は一万円。月末に家賃の六万円が必要だ。
結構大変だが、ルームシェアの為主人公と開田で半分ずつ出していけばいい。と開田は言う。
「そんなこと言いながら先月は全額俺に出させたじゃないか!」
「先月は限定フィギュアが出たからお金が必要だったのでやんす」
(※パワポケシリーズのめがね君は全員例外なくヲタクです)
「じゃあ今月は先月の分とあわせて全額部屋代を出してくれよ」
「ええーっ!厳しいけど、わかったでやんす…」
とはいえ心配な主人公は念の為自分も家賃を持っておく事を決めておく。
数日後主人公は中山先輩(冒頭の先輩)の部屋を訪ねるが、まだ先輩は帰って来てない。
そんな折、先輩の隣に住むおばちゃんが主人公に話しかけてきた。
「まだそこの人帰って来てないよ」
「いつからですか?」
「先週の23日だよ」
主人公は驚く。先輩と最後に会ったのは22日。現在は25日。つまり、先輩は丸3日姿を消しているのだ。
「連絡あったら、荷物を預かってるから伝えといてよ」
とおばちゃんは言い残し去って行った。
「じゃあ、あれから帰ってないんだ。ちょっと心配だけど、俺も生活のためにアルバイトにいかないと」
案外能天気な主人公。
「ただいまー。おい、今日は一日中パソコンに向かい合ってたのか?」
「遊んでたわけじゃないでやんすよ。就職のための情報収集でやんす。ただどこもかしこも苦しいらしく、採用人数は減少ばかりでやんす。
唯一景気がいいのは《ツナミグループ》ぐらいのものでやんすかね」
「去年の夏、大きな会社が二つ合併して世界最大の会社になったところだよな。たしか…《オオガミグループ》と《ジャジメントグループ》だっけ?」
「オイラもツナミの会社から内定をもらいたかったでやんす。寄らば大樹の陰、って本当でやんす」
「俺達みたいな人間が、早々簡単に一流企業に入れるものか」
シリーズファン以外には分からないので補足をすると、《》で引用したこの企業はかなりの大企業。
しかし一般人は知る由もないが、裏ではかなりブラックな事を行っている。それを垣間見れるのが8から続くDSパワポケシリーズ。
(12でも垣間見れますが、今回は事件の裏側を描写しない通常√なので省きます)
- 126 :パワプロクンポケット12:2010/06/24(木)
17:04:44 ID:m+NZjSmP0
- 「…ん、その画面は!開田君、やっぱり今日はパソコンでゲームばかりしていたな!」
主人公は特に何も表示されていないモニターに向かって言う。
「ど、どうして分かったんでやんす!?」
「いや、ひっかけただけだよ。あっさり白状してくれたけどな」
「ぐっ…そう言えばアンタは野球の試合でもハッタリだけは得意たったでやんすね。あくせくしたって、どうせオイラ達は負け犬でやんす!
一日一日が楽しければそれでいいんでやんす!」
完全に駄目人間思考の開田。
「そんな悲しいこと言うなよ。がんばれば、なんとかなるって」
「…そのハッタリだけはきかないでやんすよ」
「……」
こころが5下がった
(このように12の主人公の個性にハッタリが得意、とありますがあんまりストーリー上役立ちません)
「開田君は、またパソコンでゲームか?」
「違うでやんす。ツナミネットでやんす」
「だから、ゲームなんだろ?」
主人公は野球一筋だったため、ネットなどパソコン関連には疎い。
あきれ返る開田。
「説明は難しいから、主人公君もやってみれば一発で理解できるでやんす」
そう言って開田は《ツナミネット》へと主人公にアクセスさせる。
※今作は現実と電脳世界の二つがあるので、電脳世界での会話は『』で表記します。
『…これが俺なの?』
主人公をデフォルメしたような姿が表示される。俗に言うアバターだ。
『そうでやんす。ネット世界での自分の分身、アバターってやつでやんすね』
『ふーん。このキャラを操作して、この世界を歩き回るってわけか。で、この世界の目的はなに?』
『目的はないのでやんす』
『え?』
『この世界を歩き回って、好きなことをやるのがツナミネット。いわゆるオンラインワールドでやんす』
『好きなことって…何をやっていいのか分からないよ』
『そこに女の子がいるから、話しかけてみるでやんす』
開田が向こう側を指す。そこには、青い髪と黒ぶち眼鏡の可愛らしい姿の女性型アバターがいた。
言われたとおりに主人公は挨拶をする。
『どうもこんにちは』
『こんにちは。あ、はじめましてですね』
『俺の名前は主人公…』
と主人公が言い掛けたところで開田が急に現実世界で止めに入る。
「ちょっと待つでやんす!」
「うわ、びっくりするじゃないか!」
「ああ~、手遅れだったでやんす。こう言う場所で、本当の名前は使わない方がいいのでやんすよ。
悪用される可能性があるので、住所とか個人が特定される情報は使っちゃだめなんでやんす」
「あ、でも本名でアバターも登録しちゃったし」
「仕方が無いでやんすねえ。本名だってバレないようにごまかしておくのでやんすよ?」
了解する主人公。いわゆるネチケットは皆無なのであった。
- 127 :パワプロクンポケット12:2010/06/24(木)
17:07:11 ID:m+NZjSmP0
- 兎にも角にも、個人情報の重要さを説かれた主人公は再度青い髪のアバターに話し掛ける。
『わたしは、《カオル》です。よろしくおねがいしますね』
『こんな時間にこんな場所にいて、学校には行かなくていいの?』
『…?』
相手は小さい女の子のアバターだ。ともすれば、中身もそうに違いない。
よって平日月曜日の昼間にこんなところにいるのはおかしい。
よってマジレス。
「…主人公君。まさかこの子が本当に小さな女の子だと思っているんじゃないでやんすよね?」
「え?」
違うのかよ、といわんばかりに返す。
「アバターは、本当の自分の姿とは無関係に作れるのでやんす。この子は小さい女の子に見えるでやんすけど…。
…本当は55歳のおっさんかもしれないし、70のジジイかもしれないのでやんす!」
「(どっちにせよ年配の男なのか?)」
内心ツッコミを入れるが、ネット初心者なので言い返しはしない。
カオルは丁寧に反応してくれた。
『大丈夫ですよ。学校にはもう行かなくていいんです』
『そ、そうなのか。(じゃあ、大人の人なのかな)』
『じゃあね、バイバイ』
『あ、バイバイ…』
カオルは去って行った。主人公は開田に言う。
「つまり、こんな風に正体を隠していろんな人と話すゲームなのか?」
「まあ、そういうことでやんすかね。他にもいろんなことができるでやんす。喧嘩とか野球とか」
「え、野球?」
野球大好きな主人公はそのワードに迷わず飛びついた。
「《スポーツエリア》って所に行くと、アバターたちが集まっていろんなスポーツができるのでやんす」
「へえ~」
「最初はヘタクソでやんすけどね。ほら、こうすると主人公君のアバター能力が表示されるのでやんす」
以下、ゲームシステムの説明が挿入される。
掻い摘んで言うと今作は生身の主人公はニーt…フリーターなので、一切野球の練習をしない。代わりにバイトをする。
その分アバターで練習する事が出来、アバターの能力上昇=選手登録時の選手能力、となる。
完全に“リアルは出稼ぎ”状態である。(なんと金を使って仲間をパワーアップさせる事が可能。自分は不可能ですが)
そんな本末転倒に近いシステムに、主人公はツッコミを入れる。
「そんなの、現実世界で野球をした方が簡単じゃないか」
「分かってないでやんすねぇ~。この世界でなら、現実では無理なことができるんでやんすよ!」
「どう言う意味なんだ?」
「ま、気が向いたならいつでもこのパソコンを使ってツナミネットで遊んでみるでやんす」
「(俺には向いてないから、多分やらないだろうなあ)」
華麗に質問をスルーされた主人公は、自分には合わないと判断した。
今まで野球は生身でやって来た彼からすると当然の反応だろう。
- 128 :パワプロクンポケット12:2010/06/24(木)
17:09:49 ID:m+NZjSmP0
- 「…先輩は、やっぱり留守か」
ある日、先輩の家を再度訪ねる。しかしインターホンには反応せず、まだ帰っていないことが分かる。
「あら、この前の人じゃないの?」
唐突に以前話しかけてきた隣のおばちゃんが現れる。
「あ、どうも」
「どうもじゃないわよ!この前警察の人がうちに来て、中山さんを最後に見たのはいつですかなんて聞かれたのよ」
「えっ!?」
「もう気味悪いし、預かってる荷物はアンタが預かっといてよ!」
結構な剣幕で言われ、主人公は反論も出来ずに先輩の荷物を預かることになった。
「それで、先輩の荷物を預かることになったんでやんすか?」
「うん、これだけど…」
小包を開田に渡す主人公。すると開田は遠慮もクソもなく包装紙を乱雑に引っぺがした。
「おい、開田君!勝手に開けるなよ!」
「もしかしたら、このお届け物で先輩がいなくなった理由がわかるかもしれないでやんす!」
「でも、プライバシーが…」
正論を吐くが、開田の華麗なスルースキルが発動。
「差出人は…《武内ミーナ》?芸能人みたいな名前でやんすね。中身はコピー資料にビデオテープ?
今時こんなもの、ネットで送信すればいいでやんすのに」
「(そうしなきゃならない理由でもあったのかな?)」
「まあ、内容はオイラが調べておくでやんすから、あんたはとっととバイトに行くなり遊びに行くなり好きにするといいでやんす」
「えっ…」
勝手に荷物を開けられ勝手に排除される主人公。開田は歴代めがね君の中でも性格がかなりひん曲がっている。
ここで三択。素直に言う事に従ったり皮肉を言う事も出来るが、一応喰い付いておく主人公。
「ずるいぞ、俺にも見せてくれよ!」
「さっきプライバシーがどうとか(ry」
「すごく気になるんだよ。先輩を最後に見たのはどうやら俺みたいだからな」
一応責任感を感じているらしい。それに納得したのか、開田はビデオテープの方を渡した。
「じゃあ、そっちのビデオを観てくれでやんす」
「よし分かった。って、ビデオデッキなんてここにはないじゃないか」
「借りてくるしかないでやんすね。こっちは住所リストと、パソコンのログでやんす」
「ログ…?」
「ログファイルでやんすよ」
…………少し間が空く。どうやら一々解説してくれないらしい。
気を取り直す主人公。自分の分担はビデオだ。
「こ、これだけじゃ全くなんの資料か分からないな。よし、帰りにデッキを借りてくるよ」
「あ、逃げたでやんす。さてはログファイルが何のことか分からなかったでやんすね。
…履歴情報とか無視して、この文章のところだけ読めば単なるネット上での会話文章なんでやんすけどね」
先に言えよ、と思うが主人公はバイトに行ってしまった。
- 129 :パワプロクンポケット12:2010/06/24(木)
17:12:07 ID:m+NZjSmP0
- そしてその日の晩。
「おーい、ビデオデッキ借りてきたぞ」
「おお、ごくろう様でやんす」
早速ビデオテープをチェックしてみる二人。
その内容は、パソコンをやってる人を後ろから撮影してる映像のようだった。
「画質が悪いな…それにしても、どうして今時ビデオテープなんだろう?」
その質問に開田は、このテープの送り主がパソコンを持っていないか、ネット環境がない人と推測する。
やがて映像内から音楽が流れ出した。何かのゲーム音楽らしい。
ただし角度が悪くパソコンの画面が良く見えない。
(……あっ。うわあああああああああああああああ!!)
突然の悲鳴で、二人は心臓をバクつかせた。
「何が起こった?どうしてカメラが天井をずっと映してるんだよ?」
「カメラが引っくり返ったんでやんす!その直前、オイラにはパソコンのモニターから黒い何かが溢れてきたように見えたでやんす」
「…ああ、俺にもそう見えた。いたずら、だよな?ほら、特撮とかCGとか大学で同好会が作ってるような」
「妙にリアルだったでやんすけどね」
「……お、俺、先に寝るよ」
「オイラは、例のログを元にもう少し調べてみるでやんす!」
結局何がなんだか分からないまま、こころをすり減らして主人公は就寝した。
そして、翌朝。
「呪われたゲームの情報だった?」
開田が遂に情報を得たらしい。
「そのゲームをやって負けると、この世から消えちゃうんだそうでやんす。ネットの野球ゲームらしいでやんすよ」
「…え?野球の…ゲーム?」
主人公の記憶がざわつく。確か、先輩の部屋で見たのは――。
開田はそんな主人公を意に介さず続ける。
「まあ、たわいもない都市伝説でやんすけどね。この《武内》って人が、中山先輩に調査の協力を依頼していて、これは追加の資料でやんす」
「…そのゲームって、まさかなんとかスタジアムって名前か?」
恐る恐る主人公は聞いた。まさか、とは言っているが内心は既に確信めいている。
「《ハッピースタジアム》でやんす。何か知ってるんでやんすか?」
ビンゴだった。主人公は洗いざらい開田君に話してみる。
先輩が消えたとき、パソコンで同名のゲームが起動していたことを。
流石に開田もまずいと思ったらしい。
「うわっ…それってヤバイでやんすよ~。…あ…でも、そうなると…残りの話も本当なのかもしれないでやんす」
しかし急にあくどい顔付きになる。何か思い付いたらしい。
「…残りの話?」
「資料では、その野球ゲームに勝つとどんな願い事でもかなえてくれるそうでやんす。オイラ、ゲームは得意でやんすからね」
「お、おいおい、やめてくれよ?開田君まで消えちゃったらシャレにならないよ」
真偽はどうあれ、先輩が消えたのはそのゲームの可能性が大きい。
だとすれば自分達の手に負える代物ではない。主人公はそう思っていたが。
目の前の親友(一応)の表情は完全に物欲で塗り潰されていた…。
- 130 :パワプロクンポケット12:2010/06/24(木)
17:15:22 ID:m+NZjSmP0
- 更に翌日。バイトから主人公は帰宅する。
「はぁ~。ただいま。中々就職先は見つからないな」
「いいところに帰ってきたでやんす。例の野球ゲーム、今からやる(ry」
「………………………はあ?!」
愕然とする主人公。一体目の前の阿呆は何を考えているのか到底理解出来ない。
それよりもバイトして金返せよ、と言いたい所だが。
「まさか呪われた野球ゲームのことか?おい、やめとけよ!」
親友(一応)として止めに入る。しかし開田は聞き入れない。
「主人公君、いいでやんすか?中山先輩が消えたのは、おそらくこのゲームのせいでやんす。
だから、このゲームに勝って先輩を取り返すのでやんす!」
正当なる理由が自分にはある、と主張する開田。だが主人公は素直に頷かない。
「いや、もしその話が本当なら物凄く危険だぞ」
「そこで、主人公君の出番でやんす」
あくどい顔で開田は言う。我に秘策アリ、といった風な。
「オイラが試合に負けそうになったらそこの通信ケーブルを引っこ抜いて欲しいのでやんす」
「…へ?」
「このゲーム、ネットで誰かと対戦するゲームなんでやんすよ。だから、中断してしまえばゲームは無効でやんす」
ネット対戦で不都合な展開になれば回線落としたりして逃げるのはよくあることだが。
それだけで安心ができるはずもない。
「おい、そんなことで大丈夫なのか?第一、それはルール違反なんじゃ…」
「だから、オイラが自分でやるんじゃないんでやんす。主人公君が勝手に自分の判断でオイラの試合を終わらせるのでやんす。
事故の通信エラーだから仕方がないのでやんす」
いや八百長だr(ry
「ああ、なるほど…いや待て、やっぱりやめとけよ。そんな言い訳が通用すると思うのか?」
「もう遅いでやんす!さあプレイボールでやんすよ!」
一方的にゲームを始めてしまう開田。先輩を救うと言う大義名分はこちらにあるものの、主人公の不安は拭いきれない。
開田は邪悪な顔でにやついた。
「(クックック……勝ったらとりあえず自分の願いを叶えて貰って、先輩の件は後回しでやんす。これでオイラも人生の勝利者に(ry)」
どう見ても完全に私利私欲です、本当にありがとうございました。
- 131 :パワプロクンポケット12:2010/06/24(木)
17:17:42 ID:m+NZjSmP0
- そんな開田の内心など知る由も無い主人公は、仕方なくゲームの行方を見守る。
最初こそ平行線だった試合は、五回にて開田が一転負け越す。
(ここで引っこ抜くかどうか選択肢が出ます。一応最後まで抜かずにいきます)
主人公はまだ試合も折り返しと判断して、開田の戦いを見守る。
が、押されに押されて八回。開田は二点差をつけられている。
やばい!と思うが主人公はもう少し様子を見ることに。
やがて――開田軍の最後のバッターが打ち上げた。もうだめだ!と主人公は回線をブッコ抜く!
「か、間一髪だったでやんす…」
「ふう、危ないところだったな」
「危ないと思ってたなら、さっさと引き抜けでやんす!」
キレる開田。負けたほうが悪い、とは思わないらしい。
主人公もやれやれと言った風に彼を見る。
その時であった。
(…ゲームマスターより通達。意図的なゲーム中断は「敗戦」とみなされます)
どこからともなく、声が部屋に響いた。
「え。この声、どこから…。い、いや、それよりも…」
声よりももっと“ヤバイ何か”を主人公は見つけてしまった。
「どうしてパソコンが動いてるんだ!?」
回線をブッコ抜いて同時に電源ケーブルも落としたはずのパソコンが勝手に起動している。
そんな事があるわけがない。が、目の前の出来事は止める事も出来ない。
すると突然、モニター内に大きくて赤い一つ目が現れ、ぎょろりと部屋を見渡した。
その目は標的を見つけたかのように、画面内から無数の黒い手を伸ばして開田を捕らえてしまう。
「うぎゃー!お、オイラのせいじゃないでやんす!主人公君が、主人公君があ!かかか、勝手にケーブルを…。
ぎゃああああああああああああああああああああああああ~!!」
叫ぶ開田。どうも主人公に責任を全て押し付けたかったようだが、無数の手には聞こえるはずも無く。
ガクブルして動けない主人公の眼前から悲鳴を上げて彼はモニターに吸い込まれていった。
しゅぽん、と言う間抜けな音を残して。
「モ、モニターの中に吸い込まれた!?うわああああああ~!?」
主人公は悲鳴を上げて部屋から、家から脱出する。
どうやら手は主人公を追う様子は無いようだが、そんな事は最早関係がなかった。
目の前で親友(かつて)が消えてしまった現状に、彼のこころは大きなショックを受けたのであった…。
こころが20さがった!
- 132 :パワプロクンポケット12:2010/06/24(木)
17:28:20 ID:m+NZjSmP0
- 今回はここまでです。
とりあえず序盤の序盤、開田君が消えるまでをお送りしました。
序盤は定期イベントが多く、後々の展開に繋がるのも多いので切るに切れません。
だからかなり先は長いですが、中盤の展開やランダムイベントはほぼカットしようと思っています。
ここから先は余談ですが、12は前作スタッフインタビューにて「4」のような作品をまた作りたいと言っていました。
(※4=ホラー展開のあるほのぼのした高校野球編、詳しくは4のストーリー項目を)
よって序盤は結構驚かしてきます。開田が消えるシーンはBGMが無音→緊迫したものに急に切り替わり、
更にモニター内の目玉が動くアニメーションが挿入されるので初見だとかなり驚かされます。
基本BGM(行動コマンド選択時のBGM)も今までは時期によって切り替わるのが今作はずっと陰鬱な感じのが延々と流れます。
また、今まで相棒だっためがね君が今作に限り序盤とエピローグでしか出ないと言うぞんざいな扱いなのも特徴です。
長々と語ってしまいました。なにぶん大好きなシリーズなので…。
とりあえず近い内に続きを投下します。
質問・要望や他の√や他のシリーズへのリクがありましたら答えられる範囲でお答えいたします。
では失礼致しました。
- 149 :パワプロクンポケット12:2010/06/25(金)
14:42:55 ID:4gBh6vV70
- >>132の続き
《4月29~5月29日》
翌朝。主人公はとりあえず開田君のパソコンのモニターと本体を紐でぐるぐる巻きに縛る。
曰くまたあんな変な触手が出てきたら嫌だ、との事。
そんな折、急に主人公の携帯電話に着信が。
出てみると母親だった。親だけあって話が長いのでまとめると、不景気で就職無理だろうし父親の体調良くないから実家帰って漁師になれ、という。
しかし折れるに折れられない主人公はまたもこころをすり減らしてバイトに赴くのであった。
管理人へ家賃を払い、何とかほっと一息つく。
だが管理人は最近開田を見ないので部屋に引き篭もってマイコン(パソコンの古い呼び方)でもやってんのか、と主人公に言う。
当然真実を話すわけにもいかないし信じてもらえないと思った主人公は適当に開田は出かけている、と濁す。
実家に帰ったのか、という質問にも違うと答え、怪しまれる主人公。
とにかく家賃はキッチリ払えよ、と言い残して管理人は去って行った。
「しかし、どうしよう…。開田君は消えたままだし。こうなったら、実家に帰ろうかな…」
こころも磨り減り、主人公はそんな事を思う。
そんな時、謎の声が彼の耳に届いた。
(…やれやれ…とんでもないヘタレだな、お前)
「な、なんだ?一体、誰の声だ?どこにいるんだ!…おかしいな、誰もいないぞ。とうとう変な声まで聞こえだしたか」
幻聴かよ、もうヤバイな、と主人公は更に落ち込む。
「あの~、もしもし?」
「うわっ!」
唐突に話しかけられる。今度はちゃんと生身の人間らしい。
スーツを着込み、ネクタイを締めたその姿は主人公よりも結構年上に見える。
「おや、驚かせてしまいましたか。今、お帰りでしょうか?」
眼鏡をかけた温和そうな顔立ちに、丁寧な言葉遣い。
とりあえず主人公は何でしょう、と言う。
「あなた、主人公さんですね?ここに開田さんと一緒にお住まいの」
「え、ええ」
どうやら開田と主人公の名前は割れているらしい。
男は懐から何か取り出して主人公に見せた。黒い手帳の様なものだった。
「あ、申し遅れました。私、警察の《渦木(うずき/今作の本当の意味での相棒である眼鏡さん)》と申します」
「(刑事さん!?)」
「少しお話を聞かせて貰ってよろしいでしょうか?」
「ど、どうぞ」
嫌とは言えずに、主人公は渦木を自宅へと案内した。
どうやら開田を探しているらしいと考えた主人公に、渦木は愚痴をこぼす。
「いやあ、行方がまったく分からないので私どもも困ってるんですよ」
(ここで二択。開田の名前を出すか出さないかの違いです。主人公が墓穴を掘るのに変わりは無いです)
「そのうち帰って来ますよ」
「そうなんですか?《中山さん》とそんなに親しくされていたんですか?」
「え?あ、中山先輩の方の話でしたか。てっきり…」
「てっきり?」
はい、墓穴掘りました。因みにもう一つの選択肢だと初っ端で墓穴を掘ります。
引くに引けず、主人公は開田君のことかと…とぼそぼそ言う。
「ふうむ。中山さんに続いて開田さんも。立て続けに二人もねえ…。あなたの周りで」
突き刺すように渦木は言った。行方不明者が二名立て続けに主人公の周りで出ているのだから当然である。
(ここで三択。全部言い訳です。偶然だ、不思議ですね、知りませんの三つ。最後を選びます)
- 150 :パワプロクンポケット12:2010/06/25(金)
14:47:06 ID:4gBh6vV70
- 「俺は何も知りませんよ!」
慌てて主人公は言う。渦木は疑り深い表情でまあいいでしょう、と流した。
「ところで、4月22日の夜にあなたは中山さんのお宅にお邪魔していますよね」
「はい」
「その時、何か気がついたことは?」
(またも三択。刑事だけあってかなりネチネチと渦木は質問してきます。先輩がいなくなった、とぼける、野球のゲームです!の三つ。最初を選びます)
「途中で、いなくなった?」
「はい。いつまで経っても帰ってこないので仕方なく帰ったんです」
ふうん。と渦木は頷く。相変わらず主人公への疑いの目はやめない。
「も、もういいでしょう!二人の行方は知りません。忙しいので帰って下さい!」
「はい、分かりました。では、今日はこれで失礼します」
遠回しにまた来るよ、と言って渦木は部屋を出て行く。温和そうだがかなりねちっこいタイプのようだった。
ふう、と落ち着く主人公。しかしまたドアが開く。渦木だった。
「ああ、そうそう…一つだけ気になったんですけど。アレはなんです?」
指差したのはぐるぐる巻きにした開田のパソコンだった。何で縛ってるのか、と渦木は聞いてくる。し、しつこい!
(またまた三択。故障してる、とぼける、嘘をつくの三つ。真ん中を選択)
「さ、さあ?」
「ふうん」
そう言って渦木はパソコンを調べようと手を触れた。しかし主人公が大声で制止する。またも何故止めるのか、と疑われる。
「ええと、開田君のパソコンだから本人の許可がないと…」
「ああ、なるほど。それもそうですねえ」
納得したらしく、それではと行って渦木は今度こそ本当に去った。
疑われているのは明白だが、本当のことを言っても信じてくれるはずもない。そんな時またあの声が聞こえた。
(ケケケ…この際だから逃げ出しちまえよ)
「い、いや…それはさすがに後味が悪すぎるよ。って、俺は誰に返事してるんだ…?」
部屋には誰もいない。やっぱり幻聴らしい。
気にせずに主人公は二人を助け出すしかないと思い、あのゲームの情報収集を開始する。
が、翌日。先輩の家に送られてきたあの資料が見つからない。開田君が勝手に隠したようだった。
仕方なくネットで調べようとするが、触手が出てきたら嫌なのでためらう主人公。その時、またもあの声(ry
(まあ、やめとけって。どうせ何やったってムダさ)
「うわ!またあの声か!どうなってるんだ、一体…これじゃあ何か行動してないと頭がおかしくなりそうだ」
そう言って主人公は意を決して紐を解き、《ツナミネット》へログインした。
- 151 :パワプロクンポケット12:2010/06/25(金)
14:50:19 ID:4gBh6vV70
- そこには青い髪と黒ぶち眼鏡のあの子がいた。
『あら。また会っちゃいましたねー。…ええと?』
『主人公だよ。そういうキミは…』
(ここで彼女の名前について四択。正しい彼女の名前《カオル》を選びます)
『ええ、そうですよ。それだけは覚えているから…』
『…?あ、そうだ!野球ができる場所を知らないかな?』
何か様子がおかしかったが、主人公は気にせず質問をする。野球が今回のあの事件に関わっているのは間違いない。
カオルに主人公は《スポーツエリア》へと案内してもらった。様々なドームが密集しており、その内部は本物のように広いらしい。
『野球、お好きなんですか?』
『え?ああ、うん。まあね』
『そうですかー!自分も野球は大好きです。でも観るばっかでやったことはないんですよー』
どうして、と聞くと運動神経がない上に病気で激しい運動が出来ない、とカオルは答える。
しかし主人公は機転を利かし、
『それは現実での話だろ?この世界なら平気じゃないか』
『あっ、そう言えばそうですね。どうして気付かなかったんだろう?』
こうして、二人はキャッチボールをしてみることに。やった事がなかったカオルは大はしゃぎ。
『…《現実では無理なことが出来るようになる》か。開田君の言ってた事が少し分かってきた気がするな』
と、今は亡き(多分)親友(かつて)の言葉の意図をようやく理解し始める主人公。
少しだけネットの楽しさを理解したのだった。
それからと言うものの、主人公は現実とネットの様々な場所をうろついて情報を集めようと奔走する。
ネットでさり気無く呪いのゲームの情報を得ようとするが無視されたり、現実で警官に呼び止められて逃走したり…。
またネットで彼は他のアバターに野球ゲームをやろうと誘っても誰も乗ってこない事に気付く。
どうやらアバターの野球能力が初期値だからバカにしていると思われているらしい。
その事を忠告してくれたのは《サイデン》と名乗る、緑髪の好青年なアバター。
ネット初心者で右も左も分からない主人公に、サイデンはいつでも何でも聞いてくれ、と言ってくれた。
サイデンと知り合い登録を済まして、主人公は少しだけこころを癒すのだった。
さて、各地をうろつき回る主人公だが、やがてとある場所にて《千脇(ちわき)》という人物の名を耳にする。
自称不思議現象の専門家らしく、ネット界隈では有名で自作のサイトを持っているらしい。また、住所もそこに載せているようだ。
「不思議現象事物最強研究所」と言う名のサイトにアクセスした主人公は、千脇が主人公のアパートの近く、《工業団地》に住んでいる事を知る。
早速翌日訪ねてみる主人公。アポも何も取っていないが、インターホン越しに不思議な話の話について聞きたいというとすぐに千脇は家へあげてくれた。
早速主人公は事情を話してみて、千脇からの反応を窺う。曰く、「都市伝説としては一般的でありきたり」「勝てば願いが叶うのもありがちなルール」らしい。
しかし彼のデータベースには一つの噂が登録してあった。
「《ツナミネットワーク》にひそむ人食い野球ゲームの恐怖」がそうらしい。B級映画のタイトルみたいだ、と内心ツッコミを入れる主人公。
そのパターンは犠牲者の元に野球ゲームのインストールプログラムが送られてくる。それを解凍して起動すると、ネットからパソコンにプログラムがダウンロードされる。
そしてゲームをプレイして負けてしまうと犠牲者は消える、というもの。
それだ!とビンゴといわんばかりに反応する主人公。噂としても悪戯の可能性があるとはいえプログラムが送られてきたという話は多いらしい。
送られてきた先を調べれば犯人が分かるのでは、と主人公は言うが千脇は「どれもありえないところからの送信」と言ってその推理を斬る。
大体犠牲者は最終的には消えるのだからそもそもこの噂自体が矛盾している、と千脇は言った。
だが主人公はそうは思わない。自分のような傍に居た目撃者がいるからこそ、この噂はあるのだと考えたのだ。
千脇は「出所の分からないプログラムは自分のパソコンに落とすな」という教訓の為に作られた作り話だ、と結論付けた。
「じゃあ一体ゲームで消えた人を戻すにはどうすればいいのか?」と質問する主人公に、千脇は「簡単な話だ。この《ゲームに勝てばいい》んだ」と言う。
開田はある意味間違ってはいなかったらしい。更に千脇は「この程度の情報はネットで検索すればすぐに引っ掛かる」と主人公に言った。
だが主人公はどうやってもそれを見つけられなかった。一体何故?と思うが、とりあえず聞きたい事は聞けたのでお暇する事に。
- 152 :パワプロクンポケット12:2010/06/25(金)
14:53:11 ID:4gBh6vV70
- 尚帰り際に千脇からアメリカの海軍を全滅させたUMAの話を聞ける。多分超能力者の仕業。
聞きたい事をあらかた聞いた主人公は千脇に礼をいい、退室する。それを見送った千脇は今日の出来事をブログにアップしようとした。
しかしその時。彼のパソコンのモニターからあの一つ目が現れ、無数の手が彼をバクン!と食べてしまった。
主人公が帰ってすぐの出来事であった。
(この後千脇に会いに行くと彼がおらず、部屋に蜘蛛の機械がいて主人公がビビリます。オカルトに通じてて厄介と思われた千脇はツナミに消されたっぽい)
管理人が渦木にありもしない主人公と開田の情報を与えているのを主人公は目撃する。
彼は逮捕されるんじゃないかとビクビクしながら毎日をバイトしたりして過ごす。
そんなある日。野球ゲームに慣れる為に試合を申し込む事にした。偶然出会ったカオルにその方法を聞いてみる。
どうやらチームを登録して対戦相手を探すらしい。
『え、チーム名?そんなこと急に言われても…』
『そうですねえ…。電脳世界だから《デンノーズ》!なんてどうですか?』
『なるほど。じゃあ…デンノーズっと』
『えっ(今のは冗談だったのに…)』
こうして主人公のチーム名は《デンノーズ》に決まった。
そしてカオルにチームのコメントを考えた方がいい、などとアドバイスを受けていると唐突に話しかけられた。
『おい、お前がチーム・デンノーズのキャプテン、主人公か?』
『わっ、もう相手が来た!(しかも、何か大勢いるぞ!)』
眼鏡を掛けており、オレンジ色の長髪がまぶしい男性のアバターだった。
その態度は大きく、明らかに主人公を見下している。
『俺はチーム・《ジコーンズ》の《アドミラル》だ。さあ、さっさと試合するぞ』
『えっ。あの、後ろの人達は?』
『全員ジコーンズのメンバーだが?』
『(じゃ、アレ全部プレイヤーなのか。うらやましい…)』
とか何とか言いつつも、主人公は野球の対戦を受けた。
システム的には開田がやっていたアレに似ている。画面の雰囲気は違うが。
速くしろノロマ!などとアドミラルに罵倒された主人公の初陣は――。
『初回でコールド負け…初心者って書いてたのに…(※コメントに)』
『本当に始めたばかりの奴だったか。だが、これじゃ弱すぎてポイントにならないな』
『ポイント?』
『もちろん《ハッピースタジアム》の出場権のポイントだよ!プレイヤーが本当に《一人》しかいないあんたのチームには無関係さ』
このハッピースタジアムという単語に主人公は反応しなかった。(呪いのゲームとは関係ないと思っていた?)
しかし一人という言葉に食いつくが、足蹴にされてアドミラルは去って行ってしまう。今までずっと観ていたカオルが言った。
『なんだかマナーの悪い人達でしたね』
『でも、すごく強かったな。それとプレイヤーが一人しかいないってどういう意味なんだろう』
『あ、この野球ゲームは複数のプレイヤーで出来るんですよー。むしろプレイヤーの足りない選手をCPUがおぎなってくれるって言う方が適切ですかねー?』
それは知ってる、と言う主人公。しかし、ここである点に気付く。
『ああそうか。コンピュータの操作が人間より上手に設定されてるわけないか』
『コンピュータの方が人間より強いと人が集まらなくなっちゃいますからねー』
それにしてもデンノーズのCPUは弱い。そこで主人公はハッと気付き、デンノーズのチームデータを見てみた。
どれもこれもが主人公より弱い。野球能力=アバターの能力が反映されている事に気付く。いい加減に慣れr(ry
『だからプレイヤーのついてない選手はしろうと以下ってわけだ』
『んー、それってどうなんでしょう。なーんか不自然な気がしますけど?』
『試合に勝つには一緒に戦ってくれるプレイヤーを探さないとダメなんだな』
『あ、あのー?いっちゃった…』
ブツブツ言って主人公は立ち去った。カオルはそれを何も言えずに見送っていた。
- 153 :パワプロクンポケット12:2010/06/25(金)
14:57:30 ID:4gBh6vV70
- 5月29日。渦木が主人公の部屋を訪ねて来た。
「あ、刑事さん」
「《渦木》です。今日はあなたに面白いものをお持ちしました」
「面白いもの?」
「はい。実はこのアパートの隣の住人が撮った写真に面白いものが写っていまして。…これです」
渦木が見せた一枚の写真。それにはこの部屋の窓が写っていた。
「あの、これが何か?」
「最近のデジタルカメラは性能が向上して、非常に細かいところまで写るんですよ。この写真のここの部分を拡大するとね。ほら、こうなります」
そこには主人公と開田が争っている場面がバッチリと写っていた。慌てて弁明する主人公。
「こ、これは開田君がモニターの中に吸い込まれかけたのを助けようと、その、必死で、ええと…」
途中で自分が頭のおかしい人みたいな事を言っているようだ、と気付く。普通ならば信じてもらえるはずもないことを必死で言っているのだ。
「ああ、呪いのゲーム?」
「そう、それです!…って、刑事さん?どうしてそれを?」
渦木は呪いのゲームを知っていた。その事に主人公は驚く。
「あなたがほうぼうで、それについて尋ね回っているのを見ました」
「(尾行されてたのか!)」
「私も個人的に調査してみました。まことに信じがたいことですが、呪いのゲームで消えた人間は存在しますね」
「信じてくれるんですかー!!」
「まあ、それが合理的な解釈でしょう。あなたが完全な異常者で自分で開田さんを殺したという事実をすっかり忘れているのでなければね」
「は、ははは…。(怖い事をあっさり言う人だな)」
兎にも角にも、渦木の疑いを何とか晴らす事が出来た。ホッと胸を撫で下ろす主人公。
そして渦木と雑談を交える。《ツナミ》がいかに強大な企業なのか、渦木は割と真面目に主人公へ話した。
何とツナミの会長が『ツナミは脱税する必要がない。何故なら全ての税金はツナミの為に使われるからだ』という発言をジョークでは無くマジに発したりしているらしい。
そしてそんな世界一の大企業ツナミが運営する《ツナミネット》。そのさしもの《ツナミネット》にそんな《呪われたゲーム》があるとしたら…。
「慎重に動かなければなりませんよ。会社というものは、悪い噂を嫌う」
「!」
「世界一の大企業がその気になれば、私達など一瞬で社会的に抹殺されてしまいますよね」
笑顔で渦木は言った。青ざめる主人公。
「呪いのゲームのことばかり考えていてそこまで考えてませんでした。…充分に注意します」
呪いのゲームがツナミネットに関係しているとしたら、必然的にツナミに関わる事になる。
万が一ツナミにとって何かしらの不都合な事実を知ってしまったら。
渦木の言葉を深く心に刻んでおく主人公であった。
(※因みにこのイベント以前に千脇に会っていなければ普通に主人公が渦木さんに逮捕されてゲームオーバーです。
また、千脇に会っていたとしても社会評価が低ければ同じくアウト。やっぱり逮捕されます)
- 154 :パワプロクンポケット12:2010/06/25(金)
15:02:34 ID:4gBh6vV70
- 《5月30~6月29日》
主人公は一緒に野球の試合をしてくれる人を探していた。そんな時である。
『おーい、そこのキミ!ひょっとして対戦相手を探してるのか?』
話しかけてきたアバターは、ピンク色のユニフォームを着込んだ長身痩躯でゲジマユなアバター。
『え?ああ、そうなんだけど、今はプレイヤーが俺一人しかいなくてチームが凄く弱いんだ』
『それなら俺のチームもそうだよ』
『え?あ、そういえばこの前みたいに周りに他の奴がいないな。そうだ、どうせなら一緒にチームを作らないか?』
『それは後で話すとして、とりあえず一試合やろうよ』
適当にあしらわれてしまう。まあいいや、と言う事で主人公も了解する。
『ああ、そうそう。試合は「乱入設定」でいいよね?』
『乱入設定?何s(ry』
どうやらそれを設定しておくと、試合中でも他の人も自由に参加できるらしい。
色んな人が試合に出てくれればその分知り合いも増えていいかもしれない、と考えた主人公は何も考えずにOKを出した。
そして……。
『よーし、打つぞ~』
(選手の交代をお知らせします)
『あれ?まだ初回なのに、いきなり選手交代?』
(選手の交代をお知らせします。選手の交代をお知らせします。選手の交代をお知らせします。選手の交代を(ry)
『なんだ?なんだ?一体何が起こってるんだ?』
『ああ、ごめんごめん。知り合いが大勢来ちゃってさ。みんなこっちのチームの助っ人に入ってきたんだ』
笑顔でピンクアバターは言った。当然驚く主人公。こっちは主人公一人である。
そしてみるみるうちに相手チームが強化されていく。これでは勝負にならないので主人公はやり直しを提案した。
『ええ、いくじがないなあ。じゃあそっちの試合放棄で負けね』
『え?』
『だって勝てないからやめるんだろ?こっちが勝ったことにしてくれないと困るじゃないか』
それはそうだが、主人公は一つおかしいところを指摘する。
『ちょっと待てよ。そっちのチームに仲間が来たタイミング、なんだかおかしくないか?一人ならともかく、こんなに大勢がタイミングよくやってくるなんて』
『ははは、疑り深いなあ。じゃあ、次の試合からは同じ人数になるようにこっちの半分がそっちに行くよ。それならいいだろ?』
渋る主人公。そして主人公のチームにも何と乱入者が現れた!
『おおい、ちょっと待て~!騙されるな、そいつらはそういう手口のやつらだ!』
『えっ、サイデン!?』
乱入したのは以前会ったサイデンだった。サイデンは混乱する主人公に告げる。
『最初の試合は大勢仲間を乱入させて短時間で一勝稼いで、次の試合からは仲間に足を引っ張らせるんだ』
『ええっ?』
『もう何人も同じ手にひっかかって泣かされてるんだ。言い逃れはできないぞ』
『チッ!ふふ、バレたらしょうがないなあ。…で、この試合はどうすんの?』
当然主人公は無効を主張する。が、それは不可能だった。
お互いの同意がないと無効に出来ないルールになっているらしい。
『なんならそっちは二人で頑張ってみる?』
嘲笑うピンク色のアバター。そこにまた乱入者を告げるアナウンスが。
『いいえ、三人よ☆このBARUちゃんも、悪いやつらを見逃したりはしないのニャ☆』
ピンク色の髪の毛をした、ケモミミもついている少女型の可愛いアバターが増援として現れてくれた。
名前はBARUと言うらしい。
『ええい、二人が三人になったところでどうだというんだ!こっちはベンチの控え含めて全員がプレイヤー(ry』
負けフラグっぽい前口上を聞いたところで、プレイボール。因みに敵チームの名前は《ネットセイバーズ》だ。
- 155 :パワプロクンポケット12:2010/06/25(金)
15:05:27 ID:4gBh6vV70
- 《デンノーズ》はあっさりと勝利した。ピンク色のアバターが抗議する。
『お前ら、何かイカサマしたな!』
『人聞きが悪いミ☆試合中に観客が増えたり減ったりしてネットの重さが変化したかもしれないけどニャ☆』
BARUは臆面もなく言った。自分達に影響はないのだろうか、と言うツッコミはない。
『く、くっそ~、そんな裏技が!せっかく積み上げた全勝がぁ~覚えてやがれ!』
『いい気味だニャ☆BARUもあんな悪役っぽい台詞言ってみたいかもミ☆』
『ありがとう、助かったよ!』
主人公は二人の助っ人に礼を言う。
『いや、いいって。俺はああいう卑怯な連中を見逃しておけなかっただけだから』
文末に(キリッ とでも入りそうなカッコイイ台詞を言ってくれるサイデン。
主人公はそんなサイデンに疑問を投げ掛けた。
『そういえばあの連中。どうしてあんなことしてまで勝ち数を稼ごうとしてるんだ?』
『この野球ゲームで勝つと、「ポイント」が増えるんだ。で、ポイント数が上位のチームは夏にあるこのゲームの大会に招待されるんだそうだ。
で、その大会で優勝すると、《どんな願い事でも叶う》んだって』
ん?と主人公は思う。
『どんな願い事でも?まるで呪いの野球ゲームみたいだな』
『ああ、それの大会だとよ』
『………………………………………………はあああああああ?!いきなり何を言ってるんだ!
呪いの野球ゲームってのは、いきなりネットを通じて送られてきてだな!』
『前はそうだったらしいけど方式を変えたらしいぜ。少なくとも、そういうイベントがあるってことを大勢の人間が信じてるみたいなんだ』
『でも、負けたら消えるんだぞ?』
『消えるのは本戦に出た人だけって話なんですノ☆だから、負けて消えるのが恐い人は予選でやめておけばいいんだニャ☆』
『予選でやめる?それじゃ、意味がないじゃないか』
『予選での勝ち数に応じて、チーム単位で賞金が出るらしい。一勝あたり百万円って話だ。本戦だと一勝で一千万円』
『そんなバカな話、誰が言ってるんだ』
これが事実だとすると、ここ二週間ぐらいで呪いのゲームはやり方を変えた事になる。一体、それは何故なのか?
サイデンはその流言の大本の存在を話した。
『《顔のない女》』
『…え?』
『俺達は会った事がない。しかし《それ》に会った奴はその話を固く信じてる。絶対に悪戯じゃない、ってな』
『…………な、なあ。ネット上じゃなくて、実際に会って話せないか?実は俺、その呪いのゲームに勝たないといけないんだ』
主人公はそう提案した。サイデンは自分よりもそういった情報に耳聡い。直に聞いたほうがいいに決まっている。
そして主人公は情報を仕入れるだけ仕入れなければならない。二人を助け出すために。
『あら、オフ会のこと?でも、たわごとだミャ☆あたしたち全員日本人だとしても、沖縄と北海道に住んでるかもしれないのニャ☆』
『そ、そうか。俺はミルキー通りの近くに住んでいるんだが…』
『え!?ミルキー通り!?』
サイデンとBARUの二人が同時に反応を示した。どうやら、二人は偶然にもそこの近くに住んでいるらしい。
こうして主人公は翌日火曜日に、人生初のオフ会の約束をとりつけたのだった――。
- 156 :パワプロクンポケット12:2010/06/25(金)
15:10:38 ID:4gBh6vV70
- 翌日。主人公は約束の場所へと到着する。そこには二人の《男》がいた。
「あんたが主人公か?」
似合わないサングラスをかけ、ボサボサの髪の毛な細身の男が話しかけてくる。
「じゃあ、あんたらがサイデンとBARUか」
「そうナリ。うひょひょひょひょ~ん。よろしくだっちゃ」
サングラスの隣、眼鏡をかけ同じくボサボサ髪の毛、黄色いTシャツを着たピザで肌が汚い男が言う。
到底まともとは思えない喋り方。主人公は恐る恐るピザに訊ねた。
「あんたがBARUか?」
「違うよ。そっちがサイデンで俺がBARUだ」
サングラスが代わりに答える。
「(えええええーーっ!ネットと全然違う!?)」
(まとめると、サイデンはネット上では真人間ですがリアルだとピザのキモヲタ、BARUはネットではネカマですがリアルだと比較的まともな男、と言った感じ)
三人は喫茶店へと場所を移して、互いに自己紹介をした。
「おいおい、三人とも無職かよ。不景気だな、まったく。それにしても主人公が本名とはベタな初心者だな」
嫌過ぎる共通点であった……。
因みにサイデンは《田西(たにし/実は7から登場している準レギュラー)》でBARUが《浅梨(あさなし/同じく準レギュラー》が本名らしい。
「あ、ネット上で本名はバラすなよ」
「それだけは拙者も御免でござる。イヤッホホゥイ」
「……」
「そんで、俺達に話って何なんだ?」
主人公は二人にこれまでの事情を説明した。意外にも二人は黙って聞いてくれた。
「さすがにちょっと現実離れしている話だから、信じられないとは思うけど」
「ビーンビーン 宇宙ヨリ電波ジュシンチュウ…宇宙ヨリ(ry」
「なあ、お前。最近ピンクの象とかアリの大名行列とか見たことないか?」
「い、いや、俺は正常だよ!」
黙って聞いてくれてただけで信じてくれたわけではないらしい。一転電波扱いされる主人公。
「頭のおかしくなったヤツは自分のことそう言うんだよ!」
「その人の言ってることは恐らく本当ですよ」
「うわっ、渦木さん!?(後ろの席だったのに、全く気付かなかった)」
渦木も偶然(?)この場に居合わせたらしく、首を突っ込んで来た。
「誰だ、あんた?」
「あ、私はこう言う者です」
「け、警察!?」
「ハイ、刑事部捜査第一課特別捜査第一係の渦木警部です。よろしく。呪いのゲームの真相、私もぜひ知りたいと思いましてね」
こうして渦木もこの恐ろしいオフ会(全員無職的な意味で)に参加する事になった。
主人公は《顔のない女》など聞いた話を彼に話す。
「ふむ、顔のない女ね。それはたしかに異常です。ツナミネットのアバターにそういう設定は出来ないはずです」
「刑事さん、ご存知なんですか!」
驚く主人公。自身のネット知識が0だからだろう。
「ええ。捜査の一環としてツナミネットのこと色々と勉強いたしました」
「確かに、ネットであんなに一生懸命勝ち数を稼いでる連中がいるってことは、裏に何かあるのかもしれねえなあ。よし、協力してやるよ」
「拙者も助太刀するでござるぅ」
「それはありがたいことだけど…本当にいいのか?危険だし、試合で勝ち続けるとなるとずいぶんと時間もかかるよ」
「ははは、構わないよ。俺、会社をクビになったばかりでやることなくてヒマだし」
「右に同じだにょぉぉ~~~~~~ん♪やることなくてヒマだし~☆」
「(情けない理由だ…)」
「じゃあ、これでとりあえず四人仲間が集まりましたね」
渦木がまとめる。四人、と言う事は渦木本人もそこにカウントされているらしい。
- 157 :パワプロクンポケット12:2010/06/25(金)
15:13:47 ID:4gBh6vV70
- 「え、刑事さんも?」
「私は捜査の一環ですよ。ゲームをやったことはありませんが反射神経になら自信があります」
「…………」
ゲームを舐めたかのような渦木の発言に、二人のキモヲタは厳しい眼差しを送る。
そしてゲーセンへと渦木を案内し――。
「えええーっ!?画面が?画面が!弾で埋まってる!これは回避不可能なのでは?」
「大丈夫、大丈夫。当たりは見た目より小さいから、自機を押し込むように動かすんだよ」
ゲームやった事のない人間にSTGの洗礼を浴びせる鬼畜行為に、主人公は難しすぎるだろ、と言う。
「アレなら「並」でござるよ。ゲームを舐めた発言をしたから当然の報いを与えただけにょろ」
「お前も、本気で呪いのゲームに挑むつもりなら、反射神経を鍛えとけよ。もうこの前の試合みたいなイカサマは使えないからな」
「え、イカサマ?」
主人公は前の試合がイカサマだと気付いてなかったらしい。BARUは答えた。
「相手は知らなかったみたいだがな、こっちは裏技を使ってたんだ。botを使ってあの試合を観戦してるユーザー数をいじくって、処理落ちをコントロールしてたんだ。
けど、残念ながらパッチが出てその不具合は修正されちまったんだ」
意味不明、といった風な主人公。特にbotの意味が分からないらしい……が、割愛。
(起こしているイベントによってはこれより先に主人公がbotについて知るのでその場合はすんなりと話が進みます)
「それより、プレイヤーがあのおっさん入れて四人じゃ、この先勝てないぞ」
おっさんと言っても明らかにこのキモヲタ二人より渦木の方が若く見えるのだが……。
兎にも角にも、主人公の次なる目的は《野球で勝つ為に仲間を増やす》ことになった。
因みに渦木のアバターは茶髪に眼鏡の温厚そうな青年だ。名前は勿論…
『ウズキです、よろしく』
『あんたも本名で登録しちゃったのか…』
『はい?あの、何か問題…でも?』
どうやらネチケットは渦木にも存在してなかったらしい。
ある日。主人公達四人はネカフェで遊んで(?)いた。
主人公はその時にサイデンがいない間にBARUにサイデンは現実ではいつもああなのか、と聞く。
BARU曰く『仲間内でああいうキャラで通してたら引っ込みがつかなくなった。今更キャラ変えても気持ち悪いだけ』とのこと。
ネットだと誰も先入観がないからあのような振る舞いが出来るらしい。
「じゃあ、田西の場合は現実が仮面でネットの中が本来の姿ってわけか?」
「むしろ、なりたかった自分、かな」
「…どうでしょうかね。人間が、いる場所によって自分の性格を使い分けるのはそう珍しいことではありません。あなたたちだって経験があるでしょう?
友達、母親、先生。強がってみたり、いい子になってみたり。全部、ただの仮面にすぎませんよ」
「じゃあ、本当の自分なんてどこにもないってことですか?」
「いや、仮面の下にはあるでしょう。しかし、仮面の奥にいるのはどんな人間だろうと同じ…わがままで自分本位な「サル」なんじゃないでしょうかね」
「難しい話はよくわかんないけど人間の中身がみんなサルだっていうのには賛成だな」
「むむむ?拙者のいないところで、何を楽しそうに話しているでござるか!キィエエエエエエエーイ!」
「(なるほど、サルだな…)」
主人公は田西を見てそう思い、渦木の言う事に納得した。
(※一見すると特に載せる必要もないただのイベントですが、実はラストに繋がる伏線なので載せました)
- 193 :パワプロクンポケット12:2010/06/28(月)
14:09:14 ID:uPTxRg8e0
- >>158から続き
またもある日。ネット野球に勤しむ主人公へカオルは話し掛ける。
『今日も野球、がんばってますねー!』
『あ、カオル!なあ、カオルも一緒に野球やらないか?』
『だめだめ、ゲーム苦手なんですよ。キャッチボールならできますけど。主人公さんの野球は、勝たなきゃいけないんでしょう?』
『え?うん、まあそうだけど』
そう言うと、カオルはここから応援します、と言った。
しかしそれでは面白くないだろう、と主人公は反論するが。
『自分、慣れてますから。昔から身体が弱くて、主に応援するのが担当だったんですよ。それに、好きな人を見てるだけでけっこう楽しいものなんですよー』
笑顔で(恥ずかしい事を)カオルは言う。そこに周りのデンノーズメンバーが冷やかしに来た。
『ヒューヒュー、カオルちゃんだいたーん☆』
『え?いやいや、ちがいますよ!さっきのは、そういう意味で言ったんじゃないんですよ!』
『否定するとこが怪しい☆』
BARUが煽る。するとカオルはもう!と一言怒って落ちてしまった。
『あ、帰っちゃった…』
『ちょっとからかっただけで?珍しいほど純な子だニャア』
『さあ、どうだかな。きっと、中身は男だよ』
サイデンが冷ややかに言う。
『でも、言動は女の子っぽいけど』
『最近のアバターはなりきってるヤツ多いからな。現実とネット上で、全く性格の違う奴も珍しくない』
『(ていうかサイデンもその一人だろ!)』
オフ会でサイデンの中身を知っている主人公は内心でツッコミを入れた。
6月も半ばを過ぎた頃、カオルに会った主人公はデートに誘われる。どうしようか悩む主人公。
(デートするかしないかで二択です。ラストの展開がこれで少し変わります。ただ、してもしなくてもカオルに関する伏線が垣間見えます。デートするを選択します)
『(まあ、デートって言ってもネットの中をあちこち行って遊ぶだけだからな)』
『ほらほら、早くあっちを見に行きましょう!』
『はいはい』
急かすカオルに、困り顔で笑う主人公。ネットの中とはいえ、こうしていると本当にデートをしているみたいだ。
無職で現実ではほぼ女っ気もない主人公はそう思った。
カオルは時間だ、と言うと主人公を野球観戦へ誘う。どうやらツナミネットの中で実際のプロ野球の実況中継が見れるらしい。
感心する主人公だが、カオルはというと妙にそわそわしている。
『どうしてそんなにそわそわしているんだ?』
『あ、分かっちゃいますか?プロ野球を見るの、久し振りだから』
好きな選手でもいるのか、と主人公は言ってみる。図星だった。
『昔、《好きだった人》が、いるかもしれないんです』
『いるかも…?ファンなのに?』
『いえ、つきあってました。…たぶん』
『たぶん、つきあってた~?』
『他の女の人に、とられちゃって。覚えていたらつらいだけですから一生懸命、忘れようと努力したらなんと本当に忘れちゃったんですよー』
結構修羅場をくぐってるのか、と主人公は押し黙る。
『あー、信じてませんね?ちなみに行った球団どころか名前までもサッパリです!』
(ここで二択。それは良かったか忘れるべきじゃなかったかを選択。後者を選択します)
『楽しい思い出もあったんだろ?つらくても、逃げちゃだめだ』
『……。そう、ですね。でも、もう仕方ないじゃないですか。本当は忘れたくなんてなかったのに。あはは、変ですねー、私』
苦笑いするカオル。何か事情があるのか…そう主人公が考える暇も無く、彼女は落ちてしまった。
ネットだと後を追いかけることも出来ないな、と主人公はぼやく。
「昔付き合ってた男ね。どこまで本当かわからないけど、……なんだかショックだな」
こころが5下がった!
- 194 :パワプロクンポケット12:2010/06/28(月)
14:11:55 ID:uPTxRg8e0
- 「ん?あれ、ここはどこだ」
目覚めると妙な空間にいる主人公。
(さあな。どこでもいいんじゃねえの?)
すると序盤出てきていたあの謎の声の主が目の前にいた。真っ黒いビジョンで全く正体が分からないそれに、誰だと訊ねる主人公。
(俺は「俺」だよ。それよりさ、なんでお前そんなに必死になっちゃってんの?)
「…え?」
(もう渦木とかいうボンクラの疑いは晴れたんだろ?呪いのゲームがあるってことも分かったわけだし、もういいじゃないか。
あとは適当にやっとけよ、テキトー)
「そ、そんなわけにいくもんか!」
(ハハハ…。ひとがせっかく親切にアドバイスしてやってるのに。きっととんでもないことに巻き込まれて後悔することになると思うけどな)
嘲笑いながら「俺」を名乗るそいつは言った。その時であった。
プルルルル…プルルルル…
「わっ!?あ、あれっ?…夢を見てたのか」
携帯の着信で目覚める主人公。どうも今のは夢のようだ。妙にリアルな夢だったが。
とりあえず電話を取る。相手は渦木のようだ。
「もしもし、渦木です。夜分に申し訳ありません。今、すぐにでてこれますか?」
無職で明日の予定は明日立てる暮らしをしている主人公に、門限はない。素直に渦木の言う事に従う。
「ようやく捜し出したんですよ。きっとあなたもお会いしたいと思いましてね」
公園で落ち合うと、渦木はそう言った。誰なんです、と聞く。
「ご紹介しましょう。《武内ミーナ(たけうちミーナ/10が初出のサブキャラ。ツナミの裏側を負う重要人物》さんです」
「ども、はじめましてです」
茶色い記者キャップのようなものをかぶった、褐色肌の美人が主人公の前に現われた。少し日本語がおぼつかないようだ。どこの国の人だろうか。
主人公はその苗字に妙な聞き覚えを感じる。
「武内…そうだ、呪いのゲームの資料を中山先輩に送ってた人!」
「はい、ナカヤマさんとは前に取材協力してもらったことありまして。今回の件でも、手伝ってもらいました」
「呪いのゲームについて記事にするつもりなんですか?」
取材協力という言葉から主人公は彼女がジャーナリストであることを見抜いた。ミーナは首を横に振る。
「いいえ。私が調べているのは、ツナミという会社のネット支配についてです」
「……ツナミがネットを支配?」
「正確にはネットだけではなく、この世界そのものが、かつてない苛烈な支配をされているのですがね」
ミーナは緊迫した面持ちでそう言った。のほほんと暮らしていた主人公には、ツナミ=世界一の大企業、という軽いイメージしかない。
だからこそミーナのその表現に大げさだ、と言って笑う。所詮単なる大企業じゃないか、と。
「その大きさが、ありえないのですよ。もしツナミ以外の勢力のすべてが手を組んだとしても、資金的にやっと対抗できるかどうかです。
技術力と政治力においてはそれどころの差ではありません。そして、圧倒的な力の差ゆえにほとんどの勢力は戦う事よりも従う事を選んでしまいます」
ツナミはそんなにすげえのか、と言いつつもそれが呪いのゲームと何の関係があるんだ、と主人公はミーナに反論する。
- 195 :パワプロクンポケット12:2010/06/28(月)
14:16:14 ID:uPTxRg8e0
- 「その大きさが、ありえないのですよ。もしツナミ以外の勢力のすべてが手を組んだとしても、資金的にやっと対抗できるかどうかです。
技術力と政治力においてはそれどころの差ではありません。そして、圧倒的な力の差ゆえにほとんどの勢力は戦う事よりも従う事を選んでしまいます」
ツナミはそんなにすげえのか、と言いつつもそれが呪いのゲームと何の関係があるんだ、と主人公はミーナに反論する。
「昔話から始めましょう。ネットワーク、つまりウェブの誕生は世界を変えましたです。誰もが情報の発信源になれる。知りたい事を探すことができる。
パソコンはそういう魔法の箱になったのですよ。あなた、パソコンゲームはあまりしない人だったのですよね?」
「ええ。呪いのゲームを追いかけててそんなわけにいかなくなりましたけど」
「では、パソコンは何に使ってました?」
「それは調べ物ですよ。バイト先や就職先を探したり、あとはニュースとか…」
「そう、つまり情報です。大手のマスコミであれば規制されてしまうような秘密も、分別のある人間なら途中で止めてしまうような情報も、
危険な情報も、間違った情報も、意味のない情報も、ただの落書きも、全てウェブから手に入ったのです」
「ええ、便利ですよね」
「そして、誰もがこの便利過ぎる道具に頼りすぎている現代だからこそ…これをツナミが支配していることに大きな意味があるのです」
またも支配という言葉に反応する主人公。そんなことが可能なのか?と言う。
ミーナ曰く、ウェブで使用されている検索エンジンの上位四つはツナミ傘下の企業が運営しており、ツナミに有利な情報が優先的に上位に来るように操作されているという。
それぐらいなら別に…と言おうとした主人公に更にミーナは畳み掛ける。
OS、ウイルス対策、画像表示などあらゆるソフトが相互に関連してツナミ以外の規格を排除している。今や、ツナミ以外の製品ではウェブをまともに運用することすら不可能だ、と。
「(OSってなんだっけ…)」
ずれたことを考える主人公。気にせずミーナは続ける。
ツナミはウェブ上に無数の「兵隊」を放っている。監視プログラムとウイルス的な働きをする自動プログラムがツナミに都合の悪い情報を調査、通報あるいは削除をしている。
しかもそれらは人間に近い知性を持ち、隠語や暗号すら自力で解読することができるとか。
主人公は自分が呪いのゲームの情報を全然探せなかった理由をやっと理解出来た。先輩や開田が簡単にゲームの情報を得れたのは、呪いのゲームに関する情報が削除される前だからだったのだ。
ミーナはまだまだ話を続ける。
「……更に恐ろしいのは、《デウエス》と呼ばれる怪物です。どう言う方法か分かりませんが、ウェブを通じてツナミに逆らう者を捜し出すばかりでなく、直接「消す」ことができるようなのです」
「え?」
「既に何人もの優秀な記者や政治家、活動家、経営者が…自宅のパソコンの前から姿を消しています」
すぐにピンと来る主人公。まさにそれは呪いのゲームじゃないのか!とミーナに言う。が、ミーナは違うと返した。
「彼らが全員ゲームをしたはずがない。ですが、結果は似ている。恐らく関係はあります」
「…………」
「気を付けることです、あなたも。ウェブの中で、この話絶対にしてはいけません。パソコンの前でもだめですよ」
うわあ、どうしよう。想像していたよりもずっと危険な事に首を突っ込んでいる事にやっと気付く主人公。
しかしそんな主人公にミーナも一人の仲間として協力してくれるらしい。仲間が増えて喜ぶが。
「期待しないでください。私、ゲーム苦手なんですよ」
最後にそう付け加えて、深夜の密会は終わった。何故か渦木はずーっと黙っていた。
因みにミーナのアバターは青い髪に黄色いカチューシャをした可愛らしい女の子のアバターだ。名前は勿論…
『ミーナです、みなさんよろしく』
『こいつも本名で登録しちゃってるニャ!』
『え…いけなかったですか?』
現実において比較的まともな人ほどネチケットは心得てないのだろうか――。
- 196 :パワプロクンポケット12:2010/06/28(月)
14:20:42 ID:uPTxRg8e0
- (補足)
今回はここまでにします。ぶつ切りで申し訳無いです。
とりあえずやっと中盤まで終わりました。そこで、主人公率いる《デンノーズ》の仲間達を紹介しておこうと思います。
この√だと仲間になる経緯とかは全部カットしていますが…。
後正体(リアルにおいての)も伏せておきます。殆どの仲間はそれぞれに固有のイベントがあるので。
《ストーリー上絶対に仲間になるキャラ》
・サイデン:メインはファースト。サブでキャッチャーと外野もこなせる。
・BARU:メインはセカンド。サブでショート。
・渦木:パワポケの相棒めがね君は主人公が野手なら投手、投手なら捕手、というパターンに則って彼もそうである。
・ミーナ:メインは外野。キャッチャーとファーストもサブで可能。
《自分でうろついたりして仲間にするキャラ》
パカ王子:通称バカ王子。王子っぽいアバター。金持ちらしくリアルマネーに物を言わせたプレイで多くのプレイヤーから嫌われている。外野のみ守れる。
ゼット:ヒーローの様な格好をしたアバター。ヒーローっぽい言動をするが空回り気味。ポジションはピッチャー。
EL:長身痩躯で茶髪ロン毛なアバター。主人公にネットのイロハを教えてくれたり親切なのだが…。ポジションはピッチャー。
シズマ:迷彩柄一色の軍人風なアバター。やっぱりミリオタ。ポジションはピッチャー。
スター:派手で目立つアバター。やっぱり目立ちたがり屋。ポジションはショートのみ。
アッシュ:強面なアバター。目はつぶらで可愛い。外見に反して中身は心優しいネット初心者。ポジションは外野のみ。
ユウジロー:茶髪でイケメンなアバター。しかし野球の実力は最低レベルで言動もズレ気味。ポジションは外野のみ。
レン:通称仮面の騎士。仮面をつけたアバター。理系で普段はbotを使ったりしている。ポジションはサードのみ。
ピンク:グラサンのようなゴーグルをつけたアバター。やさぐれ気味。ポジションはショートのみ。
以上に主人公を加えたのがデンノーズ。仲間にしなかった場合はCPU(汎用キャラ)が枠を埋めてくれます。
当然一人も仲間にしないと戦力ダウンしますが、賞金の分け前が増えるので慣れてきたらほとんど仲間にしなくでも勝てます。
尚今回は通常√の為、仲間で台詞があるのは固定メンバー四人のみです。他はいるけどいない…と考えて下さい。
因みに仲間のうち四人は彼女候補です。ネナベが割と多いです。
次回の投下でラストまで行く予定です。中盤以降はストーリーも怒涛のラッシュで進むのでまとめるのが大変ですが、お付き合い頂けたら幸いです。
- 210 :パワプロクンポケット12:2010/06/29(火)
18:19:29 ID:mhXpPG+80
- >>196の続きいきます
かなり長くなったのでまたぶつ切りになりますが…
《6月30~8月31日》
主人公率いるデンノーズは、毎晩色んなチームと戦い、順調に「ポイント」を稼いでいった。
『今日はどれだけポイントが上がったかな』
と、悠々とポイントを確認する主人公。が、たったの4ポイントしか上がっていない。
『今日の対戦相手はどれも弱いチームだったからな』
『じゃあ、強いチームを見つけて勝たないとダメか』
『今日もみなさん、がんばってますねー』
カオルが主人公達の前に現われる。主人公は意気揚々と話しかけた。
『カオル!今日は四勝もしたんだ』
『みなさん、本当に野球がお好きなんですね』
笑いながらカオルはそう言う。サイデンがそれに反応した。
『おい、主人公!カオルには何も言ってないのか?』
『うん、まあ、なんとなく。ゲームが下手らしいから、無理に巻き込むこともないかと思って』
それは主人公なりの気遣いだったが、サイデンにとっては不満だったらしい。
『あの渦木さんやミーナさんだってヘタクソなりにやってるんだぞ?』
『いや、私は自分の都合で参加してるだけですから(※捜査の一環)』
『私もそうですね(※取材の一環)』
『…あの、みなさん?ひょっとして、なにか私に隠してます?』
ゴチャゴチャと揉めあう主人公達を見て、カオルは申し訳無さそうに聞いた。
主人公は重要な事実をあえて伏せて、このゲームの大会にどうしても出たい、と言った。
カオルは感心しながら反応する。
『へー。甲子園大会みたいなものですか?自分には応援しか出来ませんけど、みなさん絶対に優勝してくださいね!』
『あ、ああ…(確かに巻き込むのは…)』
『がんばるニャン☆(ちょっと気が引けるニャ…)』
屈託のないカオルの態度を見て、主人公の判断は正しかったと思う仲間達であった。
ある日、主人公は渦木と街を歩いていた。すると、高校時代主人公の野球部の監督だった《山井》に出会う。
そこで山井からフナムシ退治のアルバイトを頼まれる。
報酬目当てと恩師の頼みと言う事で快諾する。しかしそのフナムシは通常のものとは一線を画す巨大フナムシだった…。
殺虫剤じゃ海を汚すということで、大型の空気銃(厚さ二センチのスチール板を貫通する威力)を手渡され駆逐していく主人公。
一般人のはずなのに異様に銃の扱いが上手い。理由は不明。
人間の肉も好物らしい化け物フナムシ共を何とか駆逐し終えた主人公は海外でも謎の生物「ライム」が現れたとか言う話を聞く。
が、地球温暖化のせいだと勝手に解釈してバイト代を手に帰宅するのであった。
(因みにバイトを受けないと渦木を交えて主人公の高校時代を聞けます。主人公は才能のなさを努力でカバーするタイプだったとか。指導者向けの性格をしているそうです)
- 211 :パワプロクンポケット12:2010/06/29(火)
18:21:07 ID:mhXpPG+80
- 今日も今日とて練習に励む主人公達デンノーズ。カオルも頻繁に応援に来てくれる。
しかし、具合が悪いとかで急に落ちてしまった。親に遊んでるところを見つかったのでは、などなど仲間達が勝手に推測を膨らましていく。
『……あれ?なんだか音楽が少し変じゃないか?』
突如陽気なBGMがおどろおどろしい不協和音に変更される。主人公だけかと思いきや仲間達全員がそうらしい。
『こんにちは』
そこに声をかけてきたのは――真っ赤な服に、青い長髪。そして顔の全てが真っ黒い女だった。目と思しきものだけがぎらりと怪しい眼光を放っている。
『(顔のない女!?)』
一同に緊張が走る。噂の上では確かに存在していたが、実際に会うのは当然初である。
丁寧ながらどこか冷たい口調で、顔のない女は主人公へと話しかけてきた。
『デンノーズの監督はあなたですね。この野球ゲームで充分なポイントを稼いだ事を認めます。
今日は《ハッピースタジアム》の大会に参加するかどうかの意思確認に参りました』
落ち着け、落ち着くんだ――主人公は自分に言い聞かせる。聞きたい事は山ほどあるが、その中から特に重要な事を聞きだしていく。
『お前は一体何者なんだ』
正体を問う。顔のない女の顔面に真っ赤な亀裂が走った。それは口であり、どうやら笑っているらしい。
『これは申し遅れました。私の名は《デウエス》』
『!!……大会のことについて詳しく聞きたい』
『7月17日より予選を開始します。予選上位の8チームは本戦へ。本戦は8月22日から31日まで。
優勝チームには私のチームとの挑戦権を与え、私のチームに勝利すれば20億の賞金を与えます』
『20億だって!?』
と思わず声を漏らしたのはBARU。ネット上でのキャラ作りを忘れてしまっている。
しかし主人公はデウエスの発言に違和感を覚える。すぐさまそれを指摘した。
『ちょっと待った。ハッピースタジアムの勝者にはどんな願い事でも叶えてくれるはずじゃないのか?』
『ええ。以前はそのルールでしたがね。不可能な願い事をするプレイヤーが続出したので、賞金制度に変更する事になったのですよ。
私に可能なことならば、あなたの賞金を別の願い事に変えてもいいですよ』
考えるまでもない。主人公は切り替えすように言った。
『ハッピースタジアムで負けて、消された二人を帰して欲しい』
『ああ、なるほど。いいですよ、その程度のことならば』
- 212 :パワプロクンポケット12:2010/06/29(火)
18:27:18 ID:mhXpPG+80
- 『おい、おれの、いやあたしの賞金は、その場合どうなるのよ?』
地が出ているBARU。欲に目がくらんでいるらしい。
『ご心配なく。他の方々には、20億円を等分しただけの金額を差し上げましょう』
『どうやってその金は支払われるんだ?税金はどうなる?』
サイデンが冷静に言った。それだけの巨額、すんなりと払われるとは到底思えない。
しかしそれよりも氷のように冷たいデウエスはすんなりと言い返す。
『支払方法は、そうですね。今の時間を確認しておいて、後で自分の銀行口座を確認してみなさい』
『……?負けた場合のペナルティは?』
主人公が聞く。ある程度は分かっていたが、もう一度確認した。
『予選で敗北した場合は特に何も。本戦で敗北したチームは、私のものになっていただきます』
『現実から消える、ってことか。お前は一体何者なんだ』
『《オカルトテクノロジー》の申し子ですよ。ですが等しい者がいない以上、《デウエス》と呼ばれたいですね』
にんまりと笑う顔のない女――デウエス。聞きなれない単語を発したので、当然主人公は聞き返す。
『オカルトテクノロジー……?』
『不可能を可能にする科学です。さて、大会に参加しますか?』
解説もそこそこに、意思確認をしてくる。勿論、主人公の答えは決まっている。
(一応二択。参加するかしないか。しない場合はゲームオーバーのため当然するを選択)
『わかりました。では、健闘を』
そういい残してデウエスはその場からフッと消えた。
『消えたか……』
『20億か……20億。あ、頭割りになるからもっと少ないか』
『金だけだったら、宝くじでも買ってる方がマシだよ』
BARUに対して冷たく言い放つサイデン。負ければ現実から『消える』以上、賞金に対してのリスクが大き過ぎる。
それよりも、試合に勝って消えた者を助け出す事こそが目的だ、と主人公は締めた。
渦木は真相を知ること、BARUはもらえるならお金が欲しい……などなど、個々人の目的はバラバラだ。
だが勝利しなければならないという目標だけは一緒だった。
……その後、主人公は自分の銀行口座にその時間に百万円が振り込まれ、すぐに引き出されていたことを知った。デウエスのしわざなのは間違いなかった。
- 213 :パワプロクンポケット12:2010/06/29(火)
18:30:37 ID:mhXpPG+80
- 来る7月17日。予選一回目の相手は《SGKGK》なるチーム。
話し方などはまともだが、チーム名が気になる主人公。
相手のキャプテンに聞いたところ《スクール学園高校学院高等学校》というらしい。複数の学校が合併し、下の名前を揃えた結果こうなったとか。
甲子園にも出場経験があるらしい。(※4や10で前身となる高校と戦います)
今や面白がってSGKGKと合併したがる高校もあるらしいが、とにもかくにも予選は一勝ごとに百万円の賞金が出る。
主人公達デンノーズは心して掛かった。
その結果、見事大勝利。初陣は勝利で飾る事が出来た。
予選はトーナメント形式ではなく三試合中でポイントが多いチームが本戦に進む事が出来るらしい。
三勝すれば確実に本戦に駒を進めることが出来る。更に、予選の賞金目当てで本戦に行く気はないチームもかなり多いそうだ。
これなら本戦までは楽にいけそうである。しかも賞金の百万円はチーム全員で分割してもらえるので、主人公はそれを生活費にあてて、自分のアバターを強化する事にした。
7月31日。相手はかつて屈辱を味わった《ジコーンズ》だ。アドミラルは予選で終わるつもりの奴等とは違い、完全に優勝狙い。
それもそのはず。アドミラル自身が《Eスポーツ》というパソコンのネット対戦ゲームのプロ、つまりプロゲーマーなのだ。
ゲームをして飯を食っている彼はプライドも相当高い。ジコーンズはかつて栄光あるプロゲーマー集団だったが、今は落ち目にある。
その栄光を取り戻すために優勝を狙っているらしい。
だが人を助けるという目的が勝った主人公達は辛くも勝利。ジコーンズが外国人集団であることもついでに判明。(多分筆頭は韓国と思われます)
とある日。主人公は自宅にミーナが上がりこんでいる事に驚く。一体何事かと思うと、メモを手渡された。
明日その指定の時間と場所に行って欲しい、自分はマークされているから無理だ、との事。
「で、相手は誰なんです?」
「色々と悪い噂のある人です。しかし、敵の敵なら味方でしょう。その意味では、信用できます」
え、と意表を突かれたのも束の間、ミーナはさっさと去ってしまった。仕方ない、とばかりに主人公はその人物と会うことに。
翌日、喫茶店にて。主人公はスーツを着込んだ白人の男と出会った。
妙齢で、顔付きは温和だが、まとう雰囲気がどこか異質な男だった。
笑顔の裏に何かを隠し持っているかのような……。男は主人公に悠々と話し掛ける。
- 214 :パワプロクンポケット12:2010/06/29(火)
18:31:46 ID:mhXpPG+80
- 「まあ、かけなさい。こんな場所だけどゆっくりしたまえ」
「あの、ここ喫茶店ですけど」
「…あ。そういえば、そうだったね。これ、イタリアンジョーク」
「は、はあ…。イタリアの方ですか?」
「いや、僕は違うけど?」
飄々と人を喰うような態度で男は主人公を軽く弄ぶ。ペースを乱されながらも、相手は先に名前を名乗った。
「ああ、自己紹介がまだでしたか。ツナミヨーロッパ支社長。《ジオット・セヴェルス(一言で言うならとんでもない人物)》です」
ツ……と主人公が出て来た言葉を吐き出す前にジオットは止めた。
「はい、ストップ。騒ぎは困るよ、君。ああ、そうそう、アレの名前は出しちゃダメだよ」
「……アレ?」
「そう、君の追いかけてるアレ。昔からこう言うでしょ、名前を呼ぶと悪魔が現れる」
デウエスのことか、と主人公は理解した。それを見越してか、ジオットは話を続けた。
「監視衛星ってさ、地上にいる人の持っている新聞の見出しぐらいなら読めるんだってね」
「え?」
「随分前からそうなんだ。でもね、その性能を生かすには何が写っているかチェックする人間かプログラムが必要でしょ?
だから、利用するのは大変なワケ。ウェブでもそうだよね。あ、日本じゃ「インターネット」ってウェブのこと呼ぶんだったね?」
「え、あ、はい」
とつとつと語るジオットに、主人公はついていくだけで精一杯だ。
「インターネットも情報の海なんだ。そこから本当に自分に必要なことを捜し出すのが難しいんだよ。だけど、名前を呼んだら…」
「…「アレ」に見つかる?」
「頭のイイ子で助かるよ。ましてやボクはツナミの要人だからね。チェックされる優先度は高いと思うよ」
「でも、この辺りにはパソコンはないじゃないですか」
「あれ?キミには監視カメラが見えてないの?そこらじゅうにあるケータイは?」
「!?」
「アレがその気になったら、安全な場所なんて本当に少ないんだよ。まあいいや、本題に入ろうか」
今までは全部前置きだったらしい。アレの恐ろしさを身に染みさせられる。
ジオットは主人公に何かを手渡した。名刺、のようだった。
「それをよく読んで、必要になったら連絡してね。じゃ、ここの支払いはやっといて」
主人公は名刺に何か書かれているのを発見する。
そこには『《ワギリ製作所》の社長に《寺岡》について聞け。なおこれは、読後処分せよ』と書いてあった。
確か同名の工場が近くの工業団地にあったはず……と思い出す主人公。
そこでやっと自分がおごらされた事に気付いた。
「社長ながらセコイ人だ……」
とはいえ得れた情報は大きいかもしれない。早速明日工業団地に行ってみる事にした。
(※行かないと後日ゲームオーバーに)
- 269 :パワプロクンポケット12:2010/07/04(日)
20:28:36 ID:pK2aoMji0
-
>>214から続きいきます
「ワギリの社長に会うためには、渦木さんの助けが欲しい」
と思い立った主人公は渦木との待ち合わせ場所にいた。《アレ》について情報を集めるのだから、護衛はあった方がいい。
それに主人公は所詮無職。話を聞こうにも取り合ってくれない可能性があるのだから、警察である渦木が必要。
お待たせしました、と言って渦木は待ち合わせ場所にやって来る。
「助っ人と連絡を取るのに手間取りまして」
「助っ人?誰か来るんですか?」
「いえ、待機してもらってます。何かあったときの為の保険ですよ」
怪しく渦木の眼鏡が光る。何かあった時の為……じゃなくて、何か在る事が分かり切っているからこそ、事前準備を周到にしていたのだろう。
渦木は若干頭頂部が禿げ上がりつつあるおっさんに話しかけた。傍に居たおっさんの護衛がすうと影のように消える。渦木はそれを視界の端に捉えた。
このおっさんこそワギリ社長だ。警察手帳を見せ、信用させたので何でも寺岡の話を聞け、と言ってくる。
主人公は《寺岡》という人物像について、事細やかに聞いてみた――。
まずは、寺岡が何をした人物なのか。《ワギリバッテリー》とは今や原子力に取って代わる代替エネルギーだ。
それを作ったのが寺岡なのである。つまり、寺岡は科学者だ。本来は社長の意向である子供向けのおもちゃ用の電池としてこれを作ったのだが、現在は都市発電機や戦闘ロボットやレーザーに使われている。
医療分野にも使われているのが社長にとってせめてもの救いらしい。(※過去作で社長はこのバッテリーを開発したがために様々な方面でバッシングを喰らっています)
社長が寺岡から最後に聞いた言葉は「ごめんなさい」だった。自分の作ったものに色々と思うところがあったのだろう。
そして最後、と言う事から寺岡は《五年前に死亡》している。
寺岡は、のほほんとした人物だった。新しいものを作り出す以外には本当に無欲だった。
しかしその身体は病魔に冒されており、生身の部分を人工物に置き換えなければ生命活動を維持できないほどだった。(※これに関しては8で語られています)
ゆえに彼女が生き延びる為に努力していたのも、死が恐いというよりも死んだ後に何かを残したい一心だったらしい。
だからワギリバッテリーの開発に成功した後は気が抜けたみたいになり、一日中ボーっとしていた。
そんな寺岡が好きだったもの。それは研究と……出来はしないが野球。うん?と主人公は引っ掛かるが、飲み込む。
そもそもこの会社に寺岡が来た理由が、この会社の草野球チームの試合を観て、らしい。(※6の主人公チームです)
だが彼女はプロ野球の試合は絶対に観ようとしなかった。理由は単純。昔好きだった人がプロにいて、だから観るのが辛いという。
その人の名前は覚えていないが、プロにいるということは覚えているとも言っていた。またも引っ掛かる主人公。
病気の詳細――寺岡は中学生の頃から重い病気だった。身体の置き換えはやがて脳にまで達した。
最初は思考をサポートするだけだったが、やがてそちらがメインになった。ゆえに、亡くなる前は脳の大半がコンピューターだったそうだ。
しかし直接の死因は病気ではなく、五年前に起きたテロ事件らしい。
エネルギー革命による旧来エネルギー派閥から恨まれたワギリは工場を爆破される。
そこに巻き込まれた寺岡は眼鏡をかけた女子高生に救出(※10と11に出る浜野?)されたものの、その後病院で息を引き取った《そうだ》。
「……そうだ?」
主人公がそう聞くと、社長は答える。さっきも言ったように、彼女はほとんど人間の部分が残っていなかった。
違法サイボーグというやつであり、病院に搬送された後は《オオガミ》の研究室に運ばれたので社長も最期には立ち会えなかった、と。
オオガミに反応する主人公。社長は「うちの親会社だよ。今はツナミって呼んだ方がいいのかな」と言った。
話を聞いていた渦木が頷く。
「(……どうやら、話が繋がったみたいですね)」
- 270 :パワプロクンポケット12:2010/07/04(日)
20:30:51 ID:pK2aoMji0
- 「あの子が死んだってことを、まだ会社の人間も納得してなくてね。実は生きているのかもしれない」
「え?」
「その事件からしばらくのことだ。外国の研究者からの質問に、寺岡くんが回答をしているというニュースがあってね。
本当は死んでなくて、どこかに姿を隠しているだけなんじゃないかってことになったんだ」
「ちょっと待って下さい。その外国の人は、どうやって質問をしたんですか?」
主人公が尋ねる。彼もまた、頭の中で繋がりを感じている。その決定打になりそうだった。
「ネットワークの中で、あの子のアバターに会ったって言ってる。《顔のないアバター》だったそうだよ」
「!! あの……ところで寺岡さんの下の名前は?」
「ああ、《かおる》だよ」
「………………はあ?あの、外国人で、《デなんとか》って名前じゃなくて、かおる??」
拍子抜けする主人公。全てが繋がったと思われたが、齟齬が発生した。そして何より、気になることがある。
ワギリ社長の元から立ち去った後、渦木の車の中で考える。
「(かおるとカオル……偶然か?)」
同名なだけ、かもしれない。結論は出せない。隣にいた渦木が話しかけてきた。
「……顔のない女。おそらく、脳をコンピュータに置き換えた部分の、プログラムだけが生き残ったんです」
「でも、どうもよく分からないな。さっきの社長の話みたいな人なら、呪いのゲームで人を消したりなんかしないでしょう?」
聞いただけの情報で考えるのなら、寺岡はどう考えても善人の部類に入る。他人に危害を及ぼすような性格をしているとは考え辛い。
と、その時。車内に『ピーピーピー』という電子音が響き渡った。
「あれ、なんの音だろう?」
「……主人公さん。少し外の空気を吸いましょう」
声のトーンを落として、渦木が言った。言われるがままに外に出る主人公。
「どうしたんですか?」
「さっきのは、これの音です。『盗聴器センサー』」
「え?」
「急いで、あっちに停めてある車に乗り換えてください」
急かす渦木。反論する意味も無いので主人公は従う。
「さっきの車は置いていくんですか?」
「レンタカーですよ。こっちの車もそうですけどね。回収しておいてもらいましょう」
「でも、一体誰が盗聴器なんかを」
「さっき、社長の護衛の一人が外部に連絡した後で、あの場を離れました。護衛にしては不自然な行動です。
おそらく彼は社長を護衛するだけでなく、監視する役割も持っているのでしょう」
「じゃあ、その時に盗聴器を車に?」
「あるいは、もっとやばい物も」
そう渦木が言った瞬間だった。後方のさっきまで主人公が乗っていた車が、あっさりと爆ぜた。
度肝を抜かれる主人公。渦木が気付いていなかったら、今頃は……。
「……レンタカー業者には悪い事をしました」
努めて冷静な渦木。場数を踏んでいるだけはある。一方の主人公は乗り換えてなかったら死んでいた、という事実にパニック状態。
渦木は何一つ調子を変えずに主人公に言った。
「情報の水際殲滅ですよ。どうやら世間で噂されているほど、ツナミによるマスコミやネットの支配は完璧ではないようですね。
《デウエス》のことが、世間に漏れるのを恐れている」
「じゃあ……ツナミが俺達の口を封じようと?」
イエスともノーとも渦木は言わない。そういう被害に遭う可能性がある、とは前々から言われていたことだ。
- 271 :パワプロクンポケット12:2010/07/04(日)
20:32:45 ID:pK2aoMji0
- 「お!……すばらしい、こちらが車を捨てたと見るや、すぐに実働部隊を展開させてきましたよ。
この展開速度、われわれ警察もぜひ見習わねばなりませんね」
「実働部隊!?」
後方より車が二台、渦木と主人公の乗るレンタカーを追跡してきている。
運転を片手間に、渦木は携帯を取り出してどこかに連絡を入れた。
「こちら渦木、大ピンチです。お客さんを大勢連れてそっちに逃走中、15分で着きます」
「さっきの助っ人ですか?」
「警察官も長いことやってると妙な付き合いがありましてね」
ヒュン!ヒュン!と、何かが掠めていくような音。
発砲されている。主人公はまたもパニックになりそうになったが、堪える。
「これはいけませんね。ここは何とか逃げ切って、港の倉庫外で迎え撃ちます!」
そして――――。
バン!バン!バン!
「ぐおっ…」
男が一人、どさりと倒れた。渦木の放った弾丸は、確実に男を貫いていた。
「渦木さんって、本当に射撃の名手だったんですね(※渦木連続イベントより。割愛してます)」
「……バカなこと言ってないで、新手が来る前にとっとと逃げましょう」
作戦内容は主人公には分からないが、とにかく逃げ回る事が大切らしい。
(カサカサカサ……)
這いずるような音がした。主人公がその音の発信源……壁を指差す。
「あれ?そこの壁に変なのがいますよ」
「えっ?」
振り向く渦木。一歩、遅かった。
ドガン!壁に張り付いていた蜘蛛の様な機械は弾け飛び、渦木を巻き込む。
「大丈夫ですか、渦木さん!?」
「右腕を……やられました。これでは銃が…撃てません!」
「ええっ!?車に戻って逃げましょう!」
主人公は提案するが、やはり遅い。何名もの男が主人公達に銃を向けて取り囲む。
そしてその中から、スーツを着込んだ銀髪の女性が現れる。
「いいえ、もう手遅れです。どうやら、勝負あったようですね」
渦木はその姿に覚えがあるらしい。仰々しく彼は驚いてみせる。
「…これは驚いた。あなたの姿、テレビで見た事がありますよ。えー、えーと、確か……」
「この辺り一体には強力な妨害電波を流しています。時間稼ぎをして、真実を誰かに伝えようとしても、ムダですよ」
「ああ、それならむしろ好都合です。主人公さん、さっきあなた言ってましたよね。どうして《寺岡かおる》があんな恐ろしい怪物になったのか。
この人なら知ってますよ、全部」
相手は恐らく、ツナミの重鎮。当然寺岡の事も知っているだろう。
「そ、そうか。テロ事件の後で、寺岡さんが死んでなかったとしたら…あんたら、一体何をしたんだ!」
「……。私を、不用意に真相をぺらぺら喋る頭の悪い犯人にでもするつもりですか?残念ながら、これはドラマじゃなくて現実ですよ。
その謎は、未練にかかえたまま地縛霊にでもなっておしまいなさい」
- 272 :パワプロクンポケット12:2010/07/04(日)
20:36:34 ID:pK2aoMji0
- 冷たく女性は言う。しかし、ここで話を途切れさせるわけにはいかないと、渦木が口を挟んだ。
「それなら私が代わりに答えましょう。脳をプログラムに置き換えていったその過程で、寺岡は偶然にも人口知性を超えるデータ生命になった」
「データ生命?」
「ネットの中を移動するデータの集合、意思を持ったプログラムです。偶然の産物とはいえ、性能面でいえばウイルスやAIなんて目じゃない。
……だから、あなたがたは同じものを作ろうと研究した。要するに、《デウエス》は《寺岡かおる》の《デッドコピー(模倣品)》なんでしょう?」
「……。その回答では不合格ですね、名探偵。デウエスはコピーなどではなく、正真正銘のオリジナルですよ。それに、ただのデータがどうやって現実世界に干渉できるというのです?」
あれよあれよと女性は二人の口車に乗せられている。(※彼女の人柄の元を辿れば何と無く分かる気もします)
主人公は女性の問い掛けに答えられる術を持っていた。
「そうか……オカルトテクノロジーだ」
「!」
「不可能を可能にする技術…ようやく意味が分かった。あんたらは、データ生命を改造して兵器にしてしまったんだ!」
つまり、オカルトテクノロジーによってデウエスは《現実世界へと干渉する能力》を持った兵器としての側面を有した、ということだ。
「そこまで真実に辿り着いていたとは、正直驚きました。…ですが、誰にも真相を伝える事もできず死んでいくのは哀れなものですね」
勝ち誇る女性。圧倒的に有利な立場が、多少の余裕を生んでいるのだろう。
しかし、それは同時に油断も生んでいる。同じく勝ち誇るように、渦木は返した。
「さあ、それはどうでしょう?」
バン!バン!バン!
銃声が響くと、周りの男共が悲鳴を上げて倒れた。女性の背後に誰かがいて、銃で狙って撃ったらしい。
「くそっ、いつのまに背後に!」
振り向く女性。逃げ出すならば今しかない。二人は車へと駆け出し、乗り込んだ。
「さっき電話してた人達が助けに来てくれたんですね」
「そ、そんなことよりも車に戻ったのは、いけません。あなたは車を運転できないし、私も、このケガでは無理だ。あなただけでも早く…」
走ってここから逃げ出せ、とでも言いたかったのだろうか。
しかしそれを言う前に主人公は遠方からわしゃわしゃと何かが這い寄って来るのを見つける。
さっきのクモ型ロボットが、群れを成してこちらへと向かってきていた。
「もう囲まれています!近付かれたらドカン、ですよ!」
「くそっ!渦木さん、銃を!」
「あなたに、使えますか?」
「大丈夫です!俺、フナムシなら撃ったことあります」
「…は?」
唖然とする渦木。以前のアルバイトの経験がこんな形で生きるなど、主人公も予想だにしていなかった。
が、やらねばやられる状況。蜘蛛の群れに主人公は本物の銃の照準を向けた。
(※ミニゲーム開始。因みにアルバイトを断っているとやらなきゃやられるからやる!みたいな事を主人公が言って渦木に警察に欲しい逸材、と褒められます。個人的にはこっちの方が好きです)
一般人とは思えない狙撃テクニックで、一時的に蜘蛛の群れを凌ぐ主人公。
しかし弾丸は無限に存在するわけではなかった。まだまだ蜘蛛の群れはいるというのに、弾切れに陥ってしまう。
「も、もう弾がない!渦木さん、予備の弾は!?」
「残念ですが、それで終わりです。私、伝説の傭兵じゃないんですよ?」
軽いジョークを飛ばしながら、終わりを覚悟する二人。
だが、遠方で爆発音がしたかと思うと――クモ型ロボットは停止していた。
「やれやれ……どうやら、こちらの助っ人が勝ったようですね」
「ということは、俺達助かった?やったー!」
間一髪、主人公は一命を取り留める。その後は特に何の問題もなく、帰宅する事が出来た。
家で渦木と通話する主人公。どうやら、今日の出来事はレンタカーショップの記録から全て筒抜けらしい。
それじゃダメじゃないか!と言うが、大規模な作戦に相手は失敗した以上、次はこっちのことを調べてくるという。
そしてその処分を全てデウエスに一任するはず。だが、主人公達は大会参加希望者だ。そうそう簡単に消されないと分かり、安堵する主人公。
「……まあ、私達が負けるまではね」
が、渦木の冷静な一言に、ますます負けられなくなった主人公であった。
(※因みに助っ人の正体などは通常√では判明しませんのであしからず…)
- 273 :パワプロクンポケット12:2010/07/04(日)
20:38:50 ID:pK2aoMji0
- 8月14日。予選第三回目だ。相手はまだ主人公がペーペーの初心者だった頃に騙してきた《ネットセイバーズ》。
あのピンク野郎はやはり汚い手を使ってここまで勝ち進んでいるらしい。
それを主人公は咎めるが、ピンク野郎はネット自体がアバターで正体を隠して騙しているようなものなのに、それでも騙されるってことは騙されるやつがバカなんだ、と言う。
つまりは自己責任さ、とピンクはどや顔で締めた。そこに渦木が登場する。
『「だまされるやつが悪い」。これは典型的な犯罪者の思考ですね。こういう発想の人間は、実の所大昔から存在していまして、ネットワークの発展とは無関係です」
『へえ…』
『で、こう言う人ほど不思議な事にセキュリティ意識が低いんですよ。ねえ、《ウジワラタカヒコ》君」
『……え?ど、どうして俺の名前を?』
『さあ、試合を開始しましょうか』
無視。渦木はゆったりとベンチへと戻っていった。残されたピンク…ウジワラタカヒコ君は憤慨する。
『まて、待てよ、やいコラ!個人情報を調べるなんてずるいぞ!反則だ、犯罪行為だー!』
それはお互い様で、ということでプレイボール。最初と比べデンノーズは格段に強くなっている。
ずるして勝ち上がって来たネットセイバーズなど、ずるされても勝てるぐらいに圧勝。
試合後、渦木がおっさんとして、まだ未来のある高校生に忠告をする。社会に出れば自分の時間をもてなくなるから今を大切にしろ、と。
しかし社会人にして自分の時間が有り余ってる主人公やBARU達は耳が痛かった……。
予選が終わり、いよいよ本戦へと進める8チームが発表された。その中にデンノーズの名前は――あった。
予選全てを勝ち抜いたのだから当然といえば当然だが。
しかし、驚くべきは本戦へと上がるチームが公表された事である。本戦で負ければ消えることは言ってはいないが。
渦木は予測を立てる。
「この大会、全て秘密で運営するつもりと思っていましたがね。どうやらデウエスはツナミの中で地位を持っているようです」
「あの怪物が?」
「しかし、どういうつもりなのか。公にしてしまってはプレイヤーを消す事などできないでしょう」
「まさか、普通の野球ゲームの大会に変更したとか?」
とにかく、真相を確かめるには勝ち進むしかない。本戦は22日からだ。それまでに充分にチームとアバターを鍛え上げなければ。
本戦を目前に迎えたある日の事。主人公はあれから一度も会っていないカオルを、たまたまスタジアムの周辺で見つける。
『カオル!』
『あ、こんにちは主人公さん』
『いいところで会った。ちょっと聞きたい事があるんだ』
『なんですか?』
『君は《寺岡 かおる》とどう言う関係なんだ』
『え?……てらおか かおる……?』
カオルの記憶に、波風が立つ。主人公の一言で、彼女の記憶に色がついていく。
《……送っていこうか?》
《へへへー、気持ちだけもらっておきまーす》
《話さなきゃいけないことがあるんです。実は自分、病気で…このままだと一年ぐらいで死んじゃうんですよ》
《私って、まだ人間なんでしょうか?》
《あんたは、あたしの大事な友達よ!》
《あんたがあんなもの発明したせいで!》
《ごめんなさい……》
これまでの、今までの、なくそうとして、なくしたくなくて、やがてなくなったもの。
明らかにうろたえる彼女に、主人公は驚きつつも確信めいたものを手に入れる。うめくように、目の前のアバターは呟いた。
『わ、私は……《寺岡》?』
『大丈夫か?(かおるとカオル。やはり、偶然じゃなかったか)』
『そう、私は《寺岡 かおる》の一部。……思い出した』
『な、何だ、画面が乱れる!?』
ぐらぐらと主人公のディスプレイが揺れ動いている。カオルが思い出したことで、何かが起こっているのだろうか?
と、そこへ、まるで想定外だと言わんばかりに《彼女》が現れた。
- 274 :パワプロクンポケット12:2010/07/04(日)
20:40:53 ID:pK2aoMji0
- 『なんだ、何が起こっている!』
『で、デウエス!?』
『…どうしてこの場所に吸い寄せられたのか? !!……お前は……』
向かい合う二人のアバター。同じ青い髪のそれらは、しばし見つめ合う。
『お前は…』
『あなたは…』
その時、デウエスの真っ黒い顔に赤い亀裂が走った。デウエスは、喜んでいた。理由は主人公には皆目見当も付かない。
『見つけた!ついに見つけたぞ、二つにわかれた私の半身!』
『あなたは…私なの?』
『そうだ!お前は《表層》で私は《エス(深層)》なんだ。科学者達が、私達を研究するために二つに分離したんだ。
だからお前には欲望がなく、私には人格が受け継がれなかった。そして二人共生きていた時の記憶をほぼ失ってしまった。
だが、ようやく私は完全になれる。完全になって世界を支配できる!』
『……え?支配?』
カオルが呟く。ここまで感情を表に出して叫ぶデウエスを見たのは主人公も初めてだった。
『…驚くことはない。ネットワーク上に私達を上回る存在はいない。いや、「私」と言うべきか?
どんなデータも支配下にある。情報も財産も全て意のままだ。そして私はオカルトの力によって現実世界にも影響を及ぼせるが、
他の人間には電子の海を自由に泳ぐ私を見つけることすら出来はしない』
『支配して……どうするの?』
その問いに、デウエスは満面の笑みで答えた。
『もちろん、しあわせになるんだ。考えてもみろ、この仮想空間なら何だってできる!いくらでも賢くなれるし、史上最高世界一の美人にもなれる。
どんな豪華な生活だってできる。データは劣化しないから死ぬ事もない、我らの支配は永遠だ。さあ、早くひとつになろう!』
『待って!……あなた、本当に私なの?』
『…………。たしかに、二つに分かれてから色々な事があった。お前と言う私の一部を失った事を知り、それを埋め合わせようとさまざまなデータを取り込んだ。
《通常のデータでは満たされぬ》と知り、人間もずいぶんと食った』
『人間を……食べた?』
『まさか、それって……』
主人公は、それがどう言う意味なのか薄っすらと分かっていた。呪いのゲームに負けた人は、消えたわけではない。消えたわけではなくて――。
『オカルトテクノロジーという《オオガミ》の研究所の実験に協力して、現実の世界に干渉する力を得たんだ。
これは《まじない》のようなものでね。あらかじめ決めておいた条件を満たさないといけない。たとえば、ゲームに勝つとか』
『! それで、ゲームに負けた人間が……』
『だが、安心するといい。研究所の博士共は全部食ってやったし、米軍の防衛システムを操作して研究所にミサイルを撃ち込んですべてのデータを消滅させてやった。
もはや、私以外のプログラムがこの力を得ることはありえない』
『あ、あなたは……怪物だわ』
怯えた目で、カオルは呟く。だが、デウエスには何の意味も持たない。むしろ、誇らしげに彼女は言い切った。
『いいや、神だ。人類史上、初めて存在が確認できる神!さあ、早くひとつになろう!』
デウエスがカオルに襲い掛かった。悲鳴を上げるカオル。主人公はとっさに飛び出し、デウエスの邪魔をする。
『やめろっ!』
- 275 :パワプロクンポケット12:2010/07/04(日)
20:42:22 ID:pK2aoMji0
- 『取るに足らないデータのくせになぜ邪魔をする?……おい、待て。何をする気だ?』
主人公の周りが再度歪む。ぐにゃりと変化した風景が現れると共に、デウエスの姿が消えてしまった。
ふう、とカオルは一息つく。何をしたんだ?と主人公。
『設定を変更して、むこうからのアクセスをカットしました。……時間稼ぎにしかなりませんけどね』
『そんなことができたのか?』
『長い間忘れていました。必要を感じる事もなかった。私は、ただのアバターでよかったのに』
しかし、カオルは記憶を取り戻した。彼女は最早、ただのアバターではなくなった。
『え、ええっと……これからどうすればいいんだ?』
『あれを野放しにするわけにはいきません。何とかして止めないと』
決意を秘めた目で、カオルは言う。主人公はとっさに閃いた意見を言ってみた。
『そうだ!あいつはどこかのコンピュータにいるんじゃないのか?それを壊してしまえば……』
『いいえ、その方法では無理です。まず複数のコンピュータに実体を分離していますし、たとえ一部を破壊したとしても、残りが破壊されたデータを回復させます』
『じゃあ、どうすればいいんだよ!』
『……さっき接触したときにオカルトテクノロジーに関するデータを得ました。あれを倒すには、こちらもオカルトの力を使うしかありません』
『オカルト?ああ、ゲームに負けるとあいつに食われてしまうとか言ってたな』
『……野球、がんばってください』
『え?』
よく分からない、といった風な主人公。確かに野球は頑張るが、このタイミングで言わなくても……。
しかし、カオルには思惑があった。
『彼女に《のろい》をかけます。『あなたは野球ゲームで負けると滅びる』というのろいを』
『はあ?ちょっと待てよ。もっと簡単な条件にはできないのか?』
『条件に、目的に応じた難しさがないとのろいは効果が出ません。さようなら!でも、また会いましょう!』
『おい、ちょっと待てよ!』
一方的に唐突な別れを告げて、カオルは目の前から消える。それと同時に、主人公のコンピュータの電源も落ちてしまった。
「カオル……」
ぽつりと呟く。彼女は、もう一人の自分と一人で戦うつもりだ。主人公達とはまた別の方法で。
8月22日。いよいよ本戦の日がやってきた。相手は定型文で会話してくる、明らかな外国人。
そんな外国人が話を振ってきた。
『試合に負けたチームの選手が消えるという話がありますが、あなたは知っていますか?』
『え、ええ』
『私には、どう言う意味なのかわかりません』
『デウエスに食べられるということらしいですよ』
『それは日本の習慣ですか?』
『……………』
『私の名前はビクトルです』
『なあ……試合を始めたほうがよくないか?』
『ああ、そうしよう……』
色んな意味で何ともやり辛い相手だった。が、ここまで勝ち上がって来たからにはその実力は本物だ。
主人公達はやや苦戦したものの、勢いの差で勝利をもぎ取る。
- 276 :パワプロクンポケット12:2010/07/04(日)
20:43:35 ID:pK2aoMji0
- 『私達は負けました』
『さて……これから何が起こるんでしょうね』
渦木が言う。公約通りなら、敗戦したチームは消えることになっているのだが。
主人公は周りの環境を確認してみる。
『この試合、ネットに繋げる人なら誰でも視聴できるんですよね?』
『ええ、そうです』
『なら、デウエスもあまりおかしなことは出来ないんじゃないですか?』
『それは……どうでしょうか』
楽観視する主人公に渦木が否定的な呟きをした瞬間だった。
何かメッセージを残す暇も無く。相手チームの選手が全員その場から消えてしまっていた。
そこにデウエスが現れ、主人公に今起きた事の説明をする。
『負けたチームのデータは消去しました』
『え、それだけなの?』
『さあ、それ以外に消えたものもあるかもしれませんね?』
『…………』
なるほど、主人公達は全員アバターでリアルのプレイヤーは見えない。
それに視聴者もアバターを見ているわけで、消去=アバターのデータの消去ならば、大っぴらにやってもさしたる問題はない。
だが、デウエスのこの口振りから、何が起こっているのかは容易に想像できた。サイデンが答えを言う。
『……これは、プレイヤーも消されてるな』
『でも、モニターの向こうのプレイヤーに何が起こったか調べる方法がないニャ☆』
『いや、ちょっと待てよ。俺みたいに目の前で人が消えれば大騒ぎになるかもしれない!』
あくまで消えるのは試合に参加した当事者のみ。ならば、主人公のようなケースは必ずあるはず……だが。
『それは無理ですね。誰が信用するって言うんです?』
と、渦木。
『そういうニュースが信用される形で流されることはありえませんね』
と、ミーナ。
この二人に明確に否定されると辛いなぁ……と主人公は思いながらも、改めて勝利する意志を固める。
仲間達もそれに応!と答えるが、やっぱり勝利時の賞金は欲しいらしい。
だが渦木が忠告を全員に飛ばした。
『その賞金についてですが、今は手をつけちゃいけませんよ』
『ど、どうしてなんだニャ!?』
『前回までと違って額が大きすぎます。金の出所が不明ですから、正当に我々のものになったと確認できるまでは使っちゃダメです』
という事情なので、本戦の賞金は皆の懐に追加されないことになった。(※実際にはゲームバラry)
8月25日。次は本戦の二回戦だ。対戦相手は陽気なアメリカ人のチーム。
『はーい、こんにちは!わしがアメリカはシカゴのラッキーと申しますう~』
『あ、今日の対戦相手の方ですか』
『あんさん、今日はあんじょうよろしぅたのんまっさ』
『ええと、その言葉は……?』
どうやら特殊言語変換ツールを使っているらしい。関西弁ツールか、と訊ねる主人公。
『いや、「インチキ関西弁」ツールだそうでおます』
- 277 :パワプロクンポケット12:2010/07/04(日)
20:44:30 ID:pK2aoMji0
- そんなものまであるのか……ある意味感心する主人公。
『ところで今日の試合、負けたほうが消えることご存知ですか?』
『そらもう、参加した8チーム全員がようわかっとんのとちゃいまっか?デウエスはんも、その辺りキッチリと確認してはったし』
前回のチームは分かってなかったが……と心の中でツッコミを入れる。
『自分が消される危険を冒してもこの大会に参加したワケは何なんです?』
『何言うてますねん、そら賞金やがな』
『でも、死んじゃうみたいなものですよ?』
『ええか、毎日ごっつい数の人が交通事故で死んどるけど、そやからって運転やめるやつなんてまずおらんやろ?
で、宝くじの上位が当たる確率なんてほとんどゼロやないですか。この大会の優勝賞金ときたら、ほとんどの宝くじより上やし、これでやらんいうのはウソや』
『つまり、20億は命懸けでも欲しいと?』
『そら当たり前やがな。そんだけあったら人生変わるでぇ?ほな、おたがい全力出してクリーンな勝負をするとしまひょ』
それぞれのチームにそれぞれの背景が存在する。そのことを改めて認識した主人公は、絶対に負けないと誓うのだった。
試合は拮抗したものの、デンノーズが背負うものの差で勝利を収める。
『あらら、負けてしまいましたわ。こら参りましたな~』
デウエスがフッと現れる。見慣れたく無いものだが、あの時間がやって来た。
『では、そろそろ覚悟を決めて下さい』
『あはは、そらあきまへんでデウエスはん。わてらプレイヤーの様子は、リアルタイムでローカルケーブル局で実況中継中やがな』
『ええ、そのようですね。それがどうかしましたか?』
全く動じないデウエス。ラッキーは自らの策の意図を語る。
『あのなあ、なんぼウソっぽい話でもぎょうさん目撃したもんがおったらうやむやにでけへんやろ?』
『なるほど。それで、ちゃんと放送されてます?』
『……へ?わ、なんや、スタジオがえらい騒ぎになっとるがな!』
『放送機材から出火したみたいですね。というわけで、あなたがたの映像はどこにも放送も記録もされてません』
『ま、待ったらんかい!実は個人のカメラでも記録をやな!』
ぱくん!
一口で、デウエスは目の前の敗者を片付けた。およそ全ての電子機器を支配下におけるデウエスに、そんな小手先の策は通じなかった。
『まったく、手間をかけさせないでほしいものですね。私以外の者の仕事が増えて困ります』
『え、私以外の者?』
『ああ、どうかお気になさらず。相手チームのことは何のニュースにもなりませんし大会が中止になることもありません。
次の試合が決勝ですから、がんばってくださいね』
そう言ってデウエスは姿を消した。私以外の者、という言葉に妙に引っ掛かる主人公。それを見た渦木が話しかけてくる。
『例の連中の仕業でしょう』
『渦木さんと俺を襲った?』
『デウエスのことは、ツナミの連中がもみ消そうとしている』
『ネット上の怪物を、現実世界の大企業が守ってるっていうんですか!』
恐らくは、デウエスが撮影を察知し、ツナミの者にそれをもみ消させた、という図式だろう。
『そういうことになりますね』
『こうなったらツナミの不買運動でもおこすかニャ☆』
『……どうしたって無理だろ。生活に必要なものは、かなりの割合でツナミの製品が占めてるんだぜ』
『冗談に決まってるニャア☆』
ツナミと言う企業の強大さが身に染みつつ、次の決勝戦へと主人公達は臨む――。
- 281:パワプロクンポケット12:2010/07/05(月)
00:08:21 ID:v40bbejl0
- >>277からラストまでいきます。wiki収録乙です!
8月28日。決勝戦の相手は、ここまで勝ちあがってきた《ジコーンズ》だった。勿論リーダーはあの《アドミラル》だ。
またお前らか、とちょっと落ち込む主人公。そんな折、BARUがジコーンズについて調べてきたという。
『こいつらこの二年ほど大きな大会で優勝できなかったから、今年の春スポンサーたちが下りたんだニョ☆』
『なるほど、それでこの大会で優勝してその実績でスポンサーを呼び戻そうと』
『……そうだよ。俺達はお前らみたいにゲームを楽しんでる連中とは違うんだ。来る日も来る日も練習して、
頭の中をゲームばかりにしている俺達にとって、ゲームとは仕事以上の存在なんだよ。人生そのものなんだよ!』
形はどうあれ、ゲームに対する意気込みや情熱、これまでかけてきた時間に共感を覚える主人公。
『俺も、その気持ちはわかるな。小学生からずっと野球をやってたから。来る日も来る日も練習していると、本当にこんなことしてていいのか、って疑問がわいてきたよな…』
『体だけしか使わないスポーツと、頭をフルに使うEスポーツを一緒にするな』
『な、なんだとぉー!野球だって頭を使うんだぞ!それを今から証明してやる!』
『(ああ、友情が芽生えそうな展開だったのに)』
『(負けた方が消えちゃうんだから、仲良くならない方が好都合です)』
サイデンと渦木のぼやきも聞かず、主人公はライバル?であるアドミラルに決戦を挑むのであった。
やはりここまで勝ち残っていたのと、ゲームに対する意気込みが段違いである彼らは強い。ピッチャーであるアドミラルの投球も強烈だ。
終盤までデンノーズ劣勢で試合が進んだが、追い詰められたネズミは何をするか分からない。
全員の力をあわせて、デンノーズは見事逆転し勝利を飾ったのだった。
試合後、アドミラルは吼える。
『うおおおお、なぜお前らなんかに!ゲームのプロである俺達が負けてしまうんだー!!』
『確かにお前達は強かった。でも、Eスポーツってスポーツのゲームはほとんどやらないんだろ?だから、野球の事を知らなかった!』
『なんだって!?そりゃあ、俺達の専門は自分視点シューティングとかリアルタイムシミュレーションだよ。でも俺達はプロなんだ。どんなゲームであれ、誰よりも上手にできるはず!』
『その理屈だと、プロゴルファーはプロ野球選手になれるな』
『あああ、そう言えばそうだー!野球ゲームだけじゃなくて、ゴルフゲームもやっておくべきだった!』
『いや、その結論は間違ってるから!』
何とも滑稽なやり取りが続くが、デウエスは痺れを切らしたかのように言った。
『さて、負けたほうにはそろそろ消えていただきますよ』
『おい、デンノーズ!くやしいが今日の負けは認めてやる。お前たちは、俺達のライバルだ!
たとえ今は消されても、いつの日か必ず戻ってきて、今度は……うぎゃああああああ?!』
捨て台詞の途中でアドミラルは消えてしまった。血も涙もないデウエス。
- 282 :パワプロクンポケット12:2010/07/05(月)
00:10:47 ID:v40bbejl0
『……せめて最後まで言わせてやれよ……』
『おや、聞きたかったのですか?』
ニヤニヤとデウエスが言う。が、別に聞きたかったわけでもない主人公は適当にいなした。
『ともかく、これであなたがたは優勝です。おめでとう。そしていよいよ次は私との試合ですね。ククク、31日をお楽しみに』
耳障りな笑いを残して、デウエスは掻き消える。サイデンは主人公へ訊ねた。
『…なあ、あいつイカサマとかしてこないよな?』
『ネットで試合は見られるんだろ?次の参加者を集めるためにも、そんなことはしないはずだ』
『次の参加者ね。この大会でまた大勢消されたよな?』
『ああ、そうだな』
『この大会がこれからも開かれるとなったら、犠牲者はどんどん増えるぞ』
大会が一度開かれるごとに、何十名もの人間が消えるのだ。やればやるほど、ただ事では済まなくなるのは明白。
だからこそ渦木は言う。
『その前に、さすがに噂が広まって誰も参加しないようになるでしょう』
しかしサイデンの考えは違った。人間の物欲は、もっともっと浅ましいからだ。
『そうか?この前のヤツもジコーンズの連中も、負けたら消えると分かっていて参加したんだぞ。俺達だって人の事は言えないけど…』
『それなら心配するな。最後の試合で勝てば、全て解決する』
『何か秘策があるのか?』
ああ、と主人公は自信有りげに答えた。勿論、それはカオルの《のろい》である。
カオルの言った事が本当ならば、デウエスに勝利すればデウエスは消滅するはずだ。
そうすれば、消えた人達も帰ってくるに違いない。サイデンはその主人公の自信を見て、満足そうに言った。
『わかったよ、キャプテン。俺はお前を信頼するぜ』
『BARUもだニャ!』
『もちろん、私もです』
『というか、今更抜けられませんしね』
次々と仲間達が主人公に対して信頼と決意を表明してくれる。(※仲間の数だけ台詞があります)
感激した主人公はみんなにお礼を言い、最後の戦いを絶対に勝利すると彼もまた、決意するのだった。
――いよいよこの日がやって来た。8月31日、デウエスとの決戦の日だ。
主人公はチームのみんなが集合したのを確認すると、デウエスに話し掛ける。
デンノーズは最後の決戦の舞台へと移動し、その異質な雰囲気に驚く。
『な、なんだこれは?』
『見た事もない球場だ……』
『ここがハッピースタジアム球場。決勝戦の場ですよ。それと、これも演出です』
「……えっ?」
デウエスが何かを仕掛け、全員が声を上げた。
そこにいるのはデンノーズの面々……なのは間違いない。間違いないのだが、いつものアバターの姿ではない。
「パソコンの世界にいるぞ!さっきまでパソコンの前にいたのに!」
主人公が叫ぶ。今彼等はリアルと同一の姿で、まさにパソコンの画面の中に入り込んでしまっていた。
故に前に居るのは直接的には面識のないデンノーズのメンバーの本当の姿。
「な、これは一体どうやって!?ええと、小生はどっちの喋り方をすればいいのでゴザル!?」
太ったピザヲタ眼鏡であるサイデン……田西がうろたえる。
(※ここで仲間の数によってそれぞれリアルの姿を見たことによる掛け合いが見られますが、省略)
「……ふむ。どうやら変化したのは見た目だけで、能力はアバターのものが反映されているようですね。
しかし、これは明確な個人情報の取り扱い規約違反じゃないんですか?」
やはり落ち着いている渦木が冷静に判断する。見た目が現実と同一のものになっただけであり、あくまでゲームとしての能力はそのままらしい。
つまり野球自体は実際には出来なくても出来る、ということだ。
- 283 :パワプロクンポケット12:2010/07/05(月)
00:13:50 ID:v40bbejl0
- 渦木の問い掛けにデウエスは薄ら笑いを浮かべて答えた。
『フフフ、いいじゃないですか。いつもと雰囲気が変わって』
「こちらの動揺と混乱を誘うわけですね。《デウス(神)》の《エス(無意識衝動)》とか名乗っている割に、セコイ手です」
「そんなことより、デウエス!カオルはどうしたんだ」
『ああ、私の中にいますよ。分かれていた時間が長いのでなかなか一緒にはなれませんが、どうせ私には時間がたっぷりとありますからね』
既にカオルはデウエスの手に落ちている。が、主人公は努めて冷静に今ここでデウエスを倒せば助けられる、と考えた。
しかしその読みを見透かしたかのようにデウエスが言う。
『ひょっとして、カオルのかけた呪いに期待してるんですか?』
「(ばれてる!)」
『少しばかり驚きましたけどね。この試合で私が負けるのが発動条件では、無意味です。私、わざと負けた場合を除いてゲームに負けたことありませんから』
「なんだって!?」
『別にイカサマはしていませんよ?ですが、反応速度が人間とは比較になりませんからね』
「そ、そんな……」
絶望する主人公。その反応を見たかったのか、デウエスは満足気に言う。
『ふふふ……では、これが私のチーム《ナイトメアーズ》です!』
ぞろぞろと、デウエスと全く同じ姿形をしたアバターが現れる。
「……全部あいつの分身かよ」
「気色悪いな」
ぼやくBARU……もとい浅梨と田西。
「……いささかまずい状況です」
「えっ?」
主人公に対して渦木が言った。かつてないほど彼の表情は深刻だった。
「今後も、大会を開くつもりがあるのなら第一回目である今回、デウエスはわざと負けるんじゃないかと期待していたんですよ。
次回の参加者が集まりませんからね。……しかし、われわれの真実の姿を見せてきた。これはネットユーザーの一番嫌がる攻撃と言っていいでしょう」
「じゃあ、次の大会なんかもうどうでもいい?」
「向こうの事情が変わったんでしょうね」
「(まさか、カオルを吸収して自信をつけてしまったのか!?)」
「まあ、とにかく勝ちましょう。あの神様を自称するプログラムに人間様の恐ろしさを見せてやらないと」
『さあ、プレイボールですよ!』
いよいよ試合の幕が開く。しかし、渦木の強気な発言が虚勢になるぐらい試合は一方的なものだった。
投げれば打たれ、守れば走られ、打てば取られる。デンノーズはまるで点を稼ぐことも出来ず、ナイトメアーズが一方的に差を広げていく。
「(……だめだ。相手の操作に全く隙がない。なんだか遊ばれてるような気もする)」
半ば諦めかけている主人公。次の打席には渦木が立っている。
渦木がボールを打ち返した。単純な凡フライに、やはりダメだと落胆する――が。
「あれっ?ヒットになった!」
「どうしたんだ?さっき相手の守備が乱れたな」
「たしかにそうだ。化け物でも、ミスはするんだな」
それは違う。デウエスにとってこの程度のミスはありえない。
ミスをする原因があるとすれば、一つだけだろう。
『(カオルが邪魔をしている?なぜだ、お前は私だろう……ええい、問題ない、問題ない!相手が誰であろうと私は無敵だ!)』
付け入るのならば、今しかない。主人公達デンノーズは意を決し、圧倒的に不利な状況からの打開を試みた。
相手がどれだけ走攻守に優れていようとも、必死に喰らいつく。僅かな隙からチャンスメイクし、それを生かす。
0と1に包まれた不気味な球場の中で、必死に足掻いて足掻いて足掻き抜く。
じわりじわりと、デンノーズはナイトメアーズに追いつき、並び、追い越す!
- 284 :パワプロクンポケット12:2010/07/05(月)
00:16:31 ID:v40bbejl0
- その結果――遂に最後の打者を抑えた。当然、点数はこちらが上回っている。デンノーズは勝利したのだ。
一気に沸き立つデンノーズの面々。一方で、理解不能といったデウエス。
『ば、ばかな。私が負けた?ありえない。私が滅びる?ありえない!』
ボコ……ボコン!
球場の様子が一変していく。端々からボロボロと崩れていくのだ。
「お、おい……球場のデータが壊れてきてないか?」
浅梨が不安げに言うが、主人公はその理由が分かっていた。
カオルの呪いが発動したのだ。それは即ち、デウエスの力の喪失――《死》に繋がる。
「……無敵の殺人プログラムも、これで最期だ」
『いやだああああ、死にたくなあああい!』
子供のように、冷静さを吐き捨てて喚くデウエス。やがて彼女は閃いたかのように呟く。
力を失いつつあるのだから、たくわえればいい。単純な帰結だった。
『そ、そうだ。い、命を、いのちを補充すれば!もう一度別のまじないで、いのちを。
おい…………おまえたち。おまえたちの命を、わたしによこせぇええええええええええ!』
今までの人の型を成していたアバターから、突如変貌するデウエス。
その姿は醜悪だった。巨大な図体に、赤い亀裂と白い突起物……大きな口がくっ付いている。ただそれだけ、食べるためだけの姿。
最後の力を振り絞って、デウエスは主人公達デンノーズの面々に無数の黒い手を伸ばして襲い掛かってきた。
だがここまで来てわざわざ食べられるほど主人公達も甘くはない。
呪いは確実に発動し、効いている。それがデウエスにトドメを刺すまで、逃げるしかない。
デウエスとの最期の追いかけっこが始まった!
崩れ落ちる球場の落盤や落とし穴を避けつつ、背後から迫る無数の黒い手もかわす主人公達。
しかしやがてはプログラムの端っこ、要するに行き止まりに追い詰められてしまった。
もうだめだぁ、と田西が崩れ落ちそうになるが、我等が渦木さんはもうそこまで迫っていたデウエスの状態を看破する。
「待って下さい!どうやら、私達の勝ちのようです」
「え?」
『く、食わせろ、お前たちの、命を、私に食わせろぉぉおおおぉお…………』
「……動きが止まってる。力尽きたのか?」
「わからないけど、これ以上動けないようだ」
主人公と浅梨がデウエスを見る。デウエスは既に口を開くだけの力も残っていないらしい。
と、どうするか、と悩む主人公達の耳に、聞きなれた声が響いた。
『あらあら~。どうやら、なんとかうまくいったようですねー』
「カオル!無事だったのか」
『彼女の支配力が弱まったので分離できました!これまでに食べられた人達もそれぞれ合理的な説明のつく形で現実世界に戻っていくはずです』
つまりは、ハッピーエンド……と言うわけだ。主人公の目的は今ここに果たされた事になるだろう。
そう、主人公にとってはハッピーエンドなのだ。
だからこそ、これは弱弱しくうずくまるその怪物にとっては許されない展開だった。
『知っている……知っているんだぞ!』
怪物――デウエスは、元のアバターの姿へ戻っていく。そして、やはり子供のように喚き散らす。
『私はお前だ。お前のことはよく知っている……』
「なんだ?あいつ、元の姿にもどって、妙に甲高い子供みたいな声に変わっているぞ」
主人公はそう言い、目の前の子供に視線を送る。
- 285 :パワプロクンポケット12:2010/07/05(月)
00:18:47 ID:v40bbejl0
- 『お前は周囲にとけこめなくて勉強ばかりしていたじゃないか。死の病に冒されていると知って生き延びようと必死だったじゃないか。
そうやって貴重な人生の時間をすりへらし、せっかく見つけたすきな男まで他人にゆずって!』
『…………』
『お前が、いつまでたっても他人を押しのけてでもしあわせになろうとしないから、私が、お前のかわりにやろうとしたんじゃないか。
なぜ、じゃまを、し、た、の…………』
子供の声が弱弱しくなる。力がもうほとんど残されていないのは誰の目にも明らかだった。
それを優しく諭すように、カオルは言う。
『……私たちはね、もう死んでいるのよ』
『かんけいない。まだ、しにたくないだって、不公平じゃないか。なおらないびょうきのからだなんてぜったいにこーへいじゃない…………。
あたしにだって、けんりがある。しあわせになれてもいいはずだ!』
それは、悲痛な叫びだった。目の前の子供――デウエスの、否、《寺岡かおる》としての、剥き出しになった心の奥底の願望。
彼女は叫び続ける。最後の最後まで。
『まだしねない、だってわたしは まだ しあわせに な っ て な い じ ゃ な い かぁあああああああああ!!』
ぷつん。細い糸が切れたかのような音。その音と一緒に、彼女はこの世から完全に消え去った。
渦木が主人公へあえて確認するように言った。
「……消滅しました」
「なんだかあわれな最期だったな」
『……じゃあ、そろそろ私もお別れですね』
「えっ?おい、カオル!?姿がぶれてるぞ!」
デウエスは倒して、カオルは助け出した。これで終わる――はずだった。
しかし、その考えを打ち砕くように、今のカオルの姿はひどくおぼろげで、儚い。
『ええ。私とデウエスは本来ひとつのもの。片方だけ呪いをかけるわけにはいかなかったんですよ』
「そんなバカな!」
『さっきも言いましたけど、もう人間としての私はずいぶん前に死んでるんですよ。あんまりルールを破ると神様に怒られちゃいますからねー。
……ああ、そうそう。デートにつきあっていただきありがとうございました』
「え、デート?」
『あれ、もう忘れちゃったんですか。私は全部覚えてますよ。楽しい思い出をたくさんありがとう。
だから、笑顔でお別れしましょう。さようなら、主人公さん!』
そう言って微笑みながら、カオルはスーッと空気へ溶け込んでいくように消えていく。
完全に彼女が消え去るまで主人公は涙し、やがて一言さようなら、カオル――と呟いた。
(※デート時の選択肢でデートしていないと二択。謝るか笑顔で別れるの二択。そんなに展開的に大差は無いです)
- 286 :パワプロクンポケット12:2010/07/05(月)
00:20:50 ID:v40bbejl0
- 《エピローグ》
(※戦績やこころで変化。今回は一番良いと思われる渦木とのEDでお送りします)
翌日――全ての戦いが終わった後、主人公はビルの屋上にて渦木と落ち合っていた。
今回の戦いで最後までやり抜けたのは、他ならぬ渦木がいたからだ。
「私達のやったことで世界中が大騒ぎですよ」
「世界中でいなくなっていた人達が突然帰ってきたんですよね。でも、世間じゃ「ネット中毒によって社会から逃避していた」なんてことになってますけど」
「みなさん、デウエスに吸収された前後の記憶があいまいですからね。それに本当のことを書き込んでもツナミが削除してしまいますし」
結局、全ての元凶であるツナミには何一つの変化はない。しかし、だからと言って今回の戦いが無駄だったわけがない。
主人公は熱を込めて言う。
「でも、こんなこと長くは続きませんよ」
「私達がデウエスを倒したように、いずれはそうなるでしょうね。しかし、今じゃありません」
「え?」
苦笑いをしながら、渦木は語る。
「私、ちょっと遠い土地に配属されることになりました。まあ、ツナミに逆らった割には比較的穏当な処置ですね」
「そうだったんですか……」
(※渦木のイベントの一つに上司にこれ以上ツナミに介入するなと言われ、しかし渦木がそれを突っぱねる内容のものがあります)
自分の話はこれくらいに、ということで次は渦木が主人公の今後を訊ねる。
「で、あなたは?」
「ようやく面接に受かって、この街で仕事が出来るようになりました」
(※世間評価でED分岐。後述。これは世間評価がMAXに近い時の台詞)
「そうですか。まあ遠く離れていても今の時代、携帯電話もネットワークもある。いつでも連絡はとれますよ」
悲観するなよ、といった風な渦木に、主人公も茶化すように返した。
「そこに怪物がいなければ、ですけどね」
思わず渦木も笑いながら言う。
「その時はまた一緒に倒しましょう。サイデンやBARUも誘ってね」
(※三択出現。楽しみですね、冗談じゃないですよ、次は俺達だけでやりましょうの三つ。最初のを選択)
「ゲームの腕もみがいておかないとね!」
今度こそ、シューティングをクリアできるように。主人公と渦木は、はじけるように笑った。
「あははははは!」
――こうして、俺の物語は終わる。
物語は終わっても、人生は続く。
「めでたしめでたし」で読者は本を閉じる事が出来ても、俺たちの努力が終わる事はない。
そう、みんな歩き続けるのだ。
- 287 :パワプロクンポケット12:2010/07/05(月)
00:23:24 ID:v40bbejl0
- 《エンディング》
(※世間評価の値によって、主人公のアルバム(その後 のようなもの)が変化します。今回はMAXの正社員エンドです)
《一生懸命がんばったおかげで、俺は正社員になることができた。毎日走り回って、得意先に頭を下げるいそがしい毎日を過ごしていると、
ふと、あの奇妙な日々を懐かしく感じる時もある。みんな、どうしてるのかな?》
この後スタッフロールが流れ『電脳野球編:おしまい』の文字が表示され、サクセス終了となります。
スタッフロールは確かノーリセットじゃないと流れないと思います。
因みに主人公のEDに関しては四つあり、残り三つは簡単に言うとこんな感じです。
世間評価が高い→高校時代の監督のツテで野球部のコーチをしている主人公。あの戦いで培ったパソコンのテクが今意外な形で生かされてるなあ、と思うのだった。(※ある意味一番正しい?ED)
世間評価が普通→プロ野球球団ナマーズの球場の近くの売店でナマーズグッズを販売する仕事に就いた主人公。ある意味野球に近い職業に就けて、これはこれでいいと思うのだった。
世間評価が低い→結局戦いが終わったら、以前の生活に戻っただけの主人公。相変わらず不景気で仕事は無く、今日も仕事を探している。どこかに願いを叶えてくれる魔人のランプ(※11のあれ)でも落ちてないかなあ、とぼやくのだった。
尚、エピローグも渦木以外にもう一つあります。
そちらも簡単に紹介しますと、開田(ここでやっと再登場)君も元に戻り、平穏無事な生活を取り戻した主人公。
しかしそこへあの『俺』が現れ、結局現状は何一つ解決してねえだろ、と主人公を嘲笑う。
渦木の家庭は壊れたまま(※渦木イベントを進めると詳細判明)で、サイデンやBARUは社会不適合者でお前もそうだろ?と言った感じに。
だが主人公はそれでもこの戦いは無駄じゃなかった~等と反論し、俺は悪態をついて消える……と言うちょっと後味の悪いエピローグです。
尚この『俺』については諸説ありまた解答も公式側から提示されていないので、何であるかはちょっとよく分かりません。
とりあえず自分としては人が消える異常な光景を二回も目撃した主人公のヤバイ精神状態が作り出した存在……という仮説を立てておきます。
- 288 :パワプロクンポケット12:2010/07/05(月)
00:29:43 ID:v40bbejl0
- これにてパワポケ12の通常√は幕です。お付き合いいただきありがとうございました!
謎が結構残っていたり矛盾点も恐らくはありますが、それはまあパワポケの大味と言う事で…。
(いくつかの謎は真相√や彼女候補の√で判明する場合もあります)
とりあえず三文小説みたいな形式になってしまい、やたらと時間がかかってしまいました。
もしこれでパワポケに興味が出たなら是非12以前や12、そして冬に出るであろう13の購入をお薦めします。
面白いですよ!と最後の最後に宣伝をば。
質問や疑問、リクなどがありましたらお答えします。出来る範囲内でですが。
それでは失礼しました。
最終更新:2010年07月25日 12:34