ラストウィンドウ 真夜中の約束

ラストウィンドウ 真夜中の約束

part55-470~477,480~481、part56-280~287,407、part57-210~221


470 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/03/13(日) 08:29:14.55 ID:SCqlKTdX0
※実際のゲームと異なる部分がありますが
 短くまとめるという性質上仕方ないのでご了承ください。


登場人物紹介

カイル・ハイド
 34歳独身のプレイヤーキャラクター。
 ロサンゼルスにある「ケイプウェスト・アパートメント」の202号室の住人。
 元刑事だがいろいろあって今はレッドクラウン商会でセールスマンをやっている。
スティーブ・ウルフ
 売れないミュージシャンで常に貧乏している。201号室の住人。
パトリス夫人(マーガレット・パトリス)
 アパートの管理人の五十代くらいのおばさん。何かを隠していて怪しい。
マリー・リベット
 206号室に住んでいる謎の未亡人。
ディラン・フィッチャー
 水道工事を生業としているという小太りの男。304号室の住人。怪しい。
フランク・レイバー
 302号室の住人。気難しそうな老人。けっこう怪しい。
シドニィ・レーガン
 アパートの一階にある「ラッキーズ・カフェ」のマスター。
レックス・フォスター
 ラッキーズ・カフェに出没する謎の男。メチャクチャ怪しい。
ウィル・ホワイト
 306号室に住んでいる四十代くらいの男。
 顔絵があるのに説明書に載ってない隠れキャラ。怪しい。

エド
 レッドクラウン商会のボス。元刑事で、クリス・ハイドの知り合い。
レイチェル
 エドの秘書。
ヒュー・スペック
 エドが刑事だったときの上司だった男。今は政界に転身し、ロス市長に立候補している。
クリス・ハイド
 カイルの父親。名うての金庫破りだったが25年前に謎の死を遂げる。
ジニー・ハイド
 カイルの母親。ニュージャージーに住んで看護師をしている。

ジョージ・パトリス
 パトリス夫人の夫。13年前に死亡。ジャズのサックス奏者だった。
マイケル・マクベイン
 ホテル・ケイプウェストの支配人だった男。
キャシー・マクベイン
 マイケルの妻。
ピーター・リベット
 マリーの夫。半年前車の事故で死亡。


471 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/03/13(日) 08:30:45.22 ID:SCqlKTdX0
チャプター1 1980年12月18日

「まいった…」
俺は思わず呟いた。

俺はカイル・ハイド。いい名前だろ?
いろいろあって(前作「ウィッシュルーム」参照)今はレッドクラウン商会で
慣れないセールスマンをやっているんだが…。
それももう終わりだ。
呼び出しのポケベルを無視し続けたのがまずかった。
それで堪忍袋の緒が切れた、ということで、
「お前はクビだ!」と、エドに言われてしまった。
今回ばかりはエドも許してくれそうにない。
ああ、駄目だな、俺って…。

落ち込みながらアパートへ帰った。
今、俺が住んでいるこの古びたアパート「ケイプウェスト・アパートメント」は、昔はホテルだったらしい。
レンガ造りの4階建てで、屋上には何故か灯台のモニュメントがある。
アパートの入り口を入るなり、スティーブが金を貸してくれと言ってきた。
またそれか、とあきれた。俺の部屋の向かいに住んでいるスティーブは、常に金に困っているらしい。
「来年になったって、お前に貸せる金なんか無い」
「何言ってるんだ、ハイドさん。今すぐに郵便受けを確認したほうがいいぜ」
確かに長いこと郵便受けを開けてないが…。スティーブの勧めに従って郵便受けから手紙を取り出す。
何通かのダイレクトメールの中に、「退去通知書」が入っていた。
アパートを取り壊すことになったので、今年中に出て行かなければならないらしい。

まったく、何てことだ。
俺は退去通知書の差出人である、101号室に住むアパートの管理人のパトリス夫人に理由を問いただした。
「女一人でアパートの経営を続けるのも気苦労が多くて大変なのよ。
分かっていただける?」
パトリス夫人は、どうあっても退去の期限を延ばすつもりはないらしい。


472 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/03/13(日) 08:31:32.14 ID:SCqlKTdX0
階段を上って2階へ行くと、ディランが俺の部屋の前で何かやっている。
ディランはパトリス夫人にアパートのメンテナンスを任されてるらしいが…。
俺を見てディランは言い訳をする。
「ハイドさんの部屋のドアを調べていたんです。問題ありませんでした」
ディランは逃げるように去っていった。
鍵を開けて部屋の中に入ろうとすると、何かが床に落ちた。
どうやらドアに封筒が挟まっていたようだ。
差出人の名前は無い。中の便箋には、
『探し物は、25年前にホテル・ケイプウェストでなくなったレッドスター』
と、タイプされた字で書かれていた。

レッドクラウン商会は、表向きはいろいろなアイディア商品を売る会社だ。
だが裏では、訳ありの探し物のオーダーを受けていて、
俺はその探し物を探すこともやっていたのだ。
しかし、探し物のオーダーが直接俺の元に届くなんて、タチの悪いいたずらか?
首を傾げながらふと顔を上げると、留守番電話のランプが点いているのに気づく。
『あんたに探し物の依頼がある。オーダーは直接あんたの部屋に届けた』
留守電のテープに録音されていたのは、全く聞き覚えのない男の声だった。


473 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/03/13(日) 08:33:15.74 ID:SCqlKTdX0
チャプター2 1980年12月19日

電話のベルの音で目を覚ます。おふくろからだった。
『エドとはうまく行っているの?』
おふくろの言葉に心臓が跳ね上がる。
さすがに昨日クビになったとは言えない。
「もういいだろう。34歳にもなった息子の心配はするな」
「そうね。死んだ父さんと同じ年になったあなたには、そんな心配は無用ね」
電話を切った後、俺は親父のことに思いを巡らせた。
親父――クリス・ハイドは、逮捕暦の無い、名うての金庫破りだった。
親父と、おふくろと、俺と三人、ここロサンゼルスで、つましく幸せに暮らしていた。
不幸は突然やってきた。
25年前、俺が9歳のとき、親父は死体となって発見された。今もその事件は未解決のままだ。
ロサンゼルスに住めなくなった俺とおふくろは、マンハッタンに移り住むことになった。
そのときの悲しげなおふくろの姿を、俺は忘れることが出来ない。

廊下に出てみると、スティーブと三十代くらいの女が言い争いをしている。
あの女は、206に住んでいるマリーとかいう未亡人だ。
「ハイドさん、助けてくれよ。この女が俺に言いがかりを……」
「言いがかりじゃないわ。早く指輪を返してよ!」
大切な指輪をスティーブが盗んだと、マリーは言う。
マリーに詳しく話を聞いてみると、指輪はどうやら部屋の中でなくなったようだ。
許可をもらって、マリーの部屋に入る。指輪は家具の隙間に落ちていた。
その指輪は、3カラットほどもある大きなダイヤの周りに、
小さなルビーが添えてある、珍しいデザインのものだった。
マリーは、この指輪は亡き夫のピーターが残した大切な形見だと言う。
とにかく、これでスティーブの疑いは晴れた。
「さすが、元刑事は違うな」
スティーブはそう言った。
「ちょっと待て。何でお前が俺の過去を知っている?」
スティーブは、ディランから聞いたのだと言った。

3階に行きディランから話を聞くことにする。
この男は昨日俺の部屋の前で何かしていたし、明らかに怪しい。
ディランは、偶然見た古新聞に俺の名前が載っていたのだと言う。
4年前、刑事をしていた俺は、裏切った同僚の刑事を銃で撃った。
俺が刑事を辞めるきっかけになった、あの事件の記事らしい。
「廊下で立ち話をされると通行の邪魔だ」
気難しそうな爺さんに注意され、会話が打ち切られた。
爺さんは302号室に住むフランク・レイバーだ。


474 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/03/13(日) 08:34:07.05 ID:SCqlKTdX0
部屋に帰ってぼんやりとテレビを見る。
もうすぐロサンゼルス市長選が行われるので、候補者の演説が中継されている。
元ロス市警だという、ヒュー・スペックといういけ好かない男が喋っている。

腹が減ったので、アパートの1階にあるラッキーズ・カフェに行く。
ランチタイムを過ぎているので店内はすいていた。
俺の他は客は怪しい男一人だけ。
カフェのマスターのシドニィは、その男は最近毎日来ていると言う。
俺はその男に探りを入れてみることにした。
男はレックス・フォスターと名乗った。
「何を嗅ぎ回っている?」
レックスはそれには答えず、はぐらかした。
「あんたの話し方、まるで取調べ中の刑事だぜ」
そう言い残して、レックスはカフェを出て行った。

「そういえば、市長選は誰に入れるんだい?」
シドニィが俺に話しかけてきた。俺は選挙には興味が無いと答えた。
シドニィは、ヒュー・スペックにだけは入れたくないと言う。
なんでも、スペックはここいら一帯の地上げに関与していたという噂があるらしい。
「これ、見てくれよ」
シドニィが差し出した今日の新聞を見てみる。
昨日、アパートの近くで、宝石強盗事件が起こったらしい。
「昔、あったんだよ、この辺りでよく似た事件が」
シドニィが言うには、13年前に暗躍した宝石強盗団<コンドル>による手口と、
昨日の事件はよく似ているらしい。


475 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/03/13(日) 08:34:50.45 ID:SCqlKTdX0
今日はここまで

476 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/13(日) 09:14:39.36 ID:7nvk1iBXO
短く纏めるのはともかく、何故「異なる」部位が出来てしまうのかが真面目に分からない
このスレに上げるものでそれはちょっとまずいのでは

477 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/13(日) 21:42:55.78 ID:jo/6LR3K0
乙。

あれ、カイルって前作の「ウィッシュルーム」のエンディングで、
ヒロインのティーン美少女(記憶喪失で精神年齢は幼女)を
手なづけて連れ帰ったロリコンだよね

あのヒロインは出てこないのか

>>476
ちょっと省略してますって意味なんじゃね?

480 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/13(日) 23:04:17.21 ID:KPrLOtDo0
>477
ちょっとだけ出てくる

481 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/03/14(月) 00:16:37.15 ID:hRqUJX+b0
>>476
これに限らず私はよくやってることですが
登場人物を減らすとその周辺の話がなくなって話が短く解りやすくなる
んでそれによって話がつながらない部分が出てくるので
そこをちょこっと変える
イベントの順番を変えたりもしています
なのでゲームをやったことある人が読むと記憶と違うところがあるかも知れない
でも基本的な話の流れとかオチとかは変わらないので突っ込まないで下さい
別に何かを捏造したりはしてませんから

端的に言うと
多少のアレンジは書き手の裁量に任せてくださいよ、ってことです
細かい違いを気にするようなら買ってプレイしろ、ってことで

280 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/04/30(土) 23:12:32.87 ID:IERFURHL0
チャプター3 1980年12月20日

ベルが鳴る。
『おはよう、カイル。まだレッドクラウン商会で働く気はあるの?』
受話器から、エドの秘書、レイチェルのさわやかな声が聞こえてくる。
正直なところ、セールスマンなんて、俺には向いていない。
いわゆるセールス・トークというものが苦手だし、人に愛想よくなんて出来ない。
だが、仕事に未練がないと言えば、それは嘘になる。
レイチェルは、俺が復職できるよう協力すると約束してくれた。
そうだ、レイチェルには伝えておこう。
昨日、レックス・フォスターという怪しい男に会ったことを伝えた。
そして、レックスについて調べてもらうよう依頼する。
レイチェルの情報収集能力には、元刑事の俺も感心するほどだ。

突然、パトリス夫人が部屋を訪ねてきて、たまっていた家賃の催促をされてしまった。
銀行に金はあるんだが、週末なので引き出せない。
何とか手持ちの現金をかき集めて、管理人室のドアをノックする。
「あら、ハイドさん。お茶をいれるから、上がってくださらない?」
お言葉に甘えて、お茶をご馳走になる。
パトリス夫人は、アパートを手放す今になって、
昔のことが思い出されてならないと、話し始めた。
パトリス夫人の旦那は、ジャズのサックス奏者だった。
彼は13年前に死んだらしい。
「もし、あの人が、生きていたら…。
ああ、13年前に戻れたら、すべてやり直すのに」
待てよ。昨日シドニィが、13年前に事件があったと言っていた。
「13年前に何かあったんですか?」
思い切って聞いてみたが、パトリス夫人は、それはただの噂話だと答えただけだった。

やっぱり、昔の話はシドニィに聞くしかないらしい。
俺はパトリス夫人の部屋を出た後、ラッキーズ・カフェに向かった。
「マスター、昨日話してくれた13年前の事件って、どんな事件だったんだ?」
シドニィは言いにくそうにしていたが、ついに口を開いた。
13年前、ここがホテルだったころ、<コンドル>による宝石強盗が多発していた。
そんなある日、ホテル・ケイプウェストで殺人事件が起こった。
その事件は、今でも未解決なのだという。
「殺人事件のあった建物だと知って、住みたがる奴はそういないからな」
確かに、パトリス夫人が隠しておきたがる気持ちもわかる。

カフェを後にして、部屋に帰ろうとロビーに出たところで、マリーと会った。
「昨日は、ご迷惑をおかけしました」
マリーは、あんな騒ぎを起こした自分を軽蔑したでしょう、と問う。
俺は軽蔑などしていないと答えた。
「ハイドさん…やさしいのね…」
その表情から、亭主を亡くしてから今まで苦労してきたことがうかがえる。
そこへ、レックスがやってきた。
マリーは、レックスの顔を見るなり、逃げるように階段を上って行ってしまった。


281 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/04/30(土) 23:14:15.13 ID:IERFURHL0
レックスのことも気になるが、今はマリーの態度の方が気にかかる。
マリーを追いかけて2階へ上がると、廊下に封筒が落ちていた。
保険会社から、マリー宛の手紙だった。
俺は206号室を訪ね、マリーに手紙を渡す。
その手紙は、マリーの亭主の死亡保険金に関する通知らしい。
マリーは亭主のピーター・リベットのことを話し出した。
ピーターは半年前、交通事故で死んだ。そして、その保険金がもうすぐもらえるらしい。
「ここが思い出の場所だから、引っ越してきたの。
あの人と私は、ここがホテルだったころに出会ったのよ」

マリーは、相談したいことがあると言って、
部屋の奥から手の平サイズの機械を持ってきて、俺に手渡す。
これは、盗聴器だ…。どうしてこんなものがマリーの部屋に?
「最近、どこに出かけても、誰かの視線を感じていたの。
それがあの男の視線だと気付いたのは、3日前よ」
マリーは、盗聴器を仕掛けたのはレックスだと思っているらしい。
そこまでして、レックスは何をしようとしているんだ?
奴が何者なのか、知らなくてはならない。

部屋に戻って考え事をしていると、レイチェルから電話がかかってきた。
『レックス・フォスターのこと、わかったわよ。
年齢38才。フリーの保険の調査員よ…』
しかし、保険の調査のために、盗聴器まで…?

考えても始まらない。俺は急いでカフェに行き、レックスをつかまえる。
「お前の素性はわかっている。何故マリーにつきまとう?」
レックスは保険会社に雇われた調査員だと白状した。
保険金詐欺の疑いがあるから、マリーを調べているのだと言う。
マリーには兄がいたが、13年前に交通事故で死亡し、マリーは保険金を受け取っていた。
ピーターも似たような死に方だったので、保険金詐欺だと疑われているらしい。
また、13年前だ。
「お前、13年前のことを、何か知っているのか?」
念のために聞いてみる。
「知っているよ、もちろん」
レックスは、俺をバカにしたような顔で答えた。
「じゃあ、もしかして、レッドスターのことも?」
「レッドスターのことを一番知っているのは、お前の死んだ親父だろう。
知りたければ墓の下に眠ってる親父にでも聞け」
親父が?どうして…?
呆然として動けない俺を尻目に、レックスは夜の街に消えた。



282 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/04/30(土) 23:15:39.29 ID:IERFURHL0
チャプター4 1980年12月21日

今朝の寝覚めは悪かった。
昨夜、おふくろに電話して、レッドスターのことを聞いてみたんだが…。
『レッドスター?いいえ、父さんからそんな言葉なんて聞いた覚えはないわ』
おふくろはそう答えた。
だが、昨日レックスは確信を持ってあんなことを言ったはずだ。
そんなことを考えて、なかなか眠りにつけなかった。

このケイプウェスト・アパートメントは4階建てだが、
アパートとして使われてるのは3階までで、4階はホテル時代のまま手付かずになっている。
もしかしたら4階には、25年前に、レッドスターにつながる手掛かりがあるかも知れない。
どうにかして4階を調べてみたいんだが、警報装置に阻まれて中に入ることはできない。
パトリス夫人に、4階を調べたいと頼んでみたが、
「だめよ!4階には10年以上使われていない、ホコリだらけの部屋があるだけよ。
そんな所見たって仕方ないでしょう」
と断られてしまった。

パトリス夫人と別れた後、ディランが俺に話しかけてきた。
「もしよかったら、4階の部屋を見せてあげてもいいですよ。パトリス夫人に内緒で」
ディランはこの建物のメンテナンスを任されているので、警報装置を切る方法も知っているらしい。
「ただ、ひとつだけ交換条件があるんです」
「何だ?」
「レックス・フォスターについて知ってることを教えて下さいよ」
俺はヤツのことなんて話したくなかったが、
ディランの口車に乗せられて、レックスがマリーを調査していることを話してしまった。
「ハイドさん、お礼に4階の部屋を見せてあげますよ。後で4階に来てください」
そう言ってディランは去って行った。

ポケベルが鳴る。レイチェルからだ。さっそく部屋に戻って電話をかけた。
『ホテル・ケイプウェストに関する情報よ』
ホテル・ケイプウェストの支配人はマイケル・マクベイン。
13年前、ホテルの最終営業日に、マイケルの妻のキャシーが毒殺された。
――シドニィが言っていた未解決の殺人事件のことだ。
死体の第一発見者は、ホテルの従業員のピーター・リベット。
リベット…マリーと同じ苗字だ。

電話を切って、すぐにマリーの部屋を訪ねる。
「あんたの亭主だったピーター・リベットは、13年前の殺人事件の
第一発見者だったんじゃないのか?」
「…ええ、そうよ。ハイドさん、驚いたでしょう?私にこんな過去があって…。
もう私には関わらないで」
マリーはきっぱりと言ったが、言葉の裏には不安が見え隠れしている。
「マリー、このアパートに住めるのも後少しだ。
その間、俺に出来ることがあったら言ってくれ」
マリーはうなずいた。


283 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/04/30(土) 23:16:07.21 ID:IERFURHL0
約束の時間になったので、4階に行くと、ディランが待っていた。
ディランは警報装置の切り方を一通り説明した。
「じゃ、僕は下で誰も来ないように見張ってますよ。30分たったら降りてきてください」」
説明された通りに警報装置を切って、ドアを開けて4階の廊下へ足を踏み入れる。
パトリス夫人が言うとおり、ホコリだらけだった。
404号室の棚の上に、古いカードが置かれていた。
パーティの招待状だった。日付は13年前の、ホテルの最終営業日。
キャシー・マクベインが殺された日だった。
俺はそのカードをポケットに入れた。
そろそろ30分になるので4階を後にした。

夜になって、もう一度調べてみようと4階に行って404号室に入る。
そこにはフランクの爺さんが立っていた。
「レイバーさん、あんた、こんなところで何をしているんだ?」
「何をしていようが私の勝手だろう」
フランクは部屋を出て行った。
元々、フランクのじいさんの行動は、アパートの中で噂になっていた。
昼夜関係なく、アパートの中をウロウロしては、ブツブツと独り言を言っているらしい。
きっと、爺さんはこのアパートに隠された秘密を探ろうとしているのだ。
あのキャシー・マクベイン殺人事件のことを。俺の刑事のカンがそう告げていた。



284 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/04/30(土) 23:17:14.33 ID:IERFURHL0
チャプター5 1980年12月22日

寝ぼけたまま受話器を取る。
『ハイド、俺だ』
その野太い声を聞いて、目が覚めた。エドだった。
『いいか、お前にまだレッドクラウン商会で働く気があるのなら、チャンスをやろう』
エドは、俺のセールス能力をテストすると言い出した。
『お前が抱えている在庫の商品を、アパートの住人二人に売れ。
そうしたら、お前のクビは取り消してやる』
電話を切った後、トランクに残っていた在庫品の確認をする。
洗剤、ワックス、接着剤――いろいろある。
俺は住人に一人ひとり声をかけて、会話の中から欲しがっている物を探り出し、
商品を売り込む。
そして、エドの提示してきたノルマを達成できた。胸を張ってエドに電話をかける。
『よくやった、ハイド。約束通り、お前のクビは取り消しだ』
俺はエドに、あの探し物のオーダーについて詳しく説明した。
「探し物を、レッドスターを見つけることは、
もしかしたら親父の事件の真相に迫ることになるんじゃないかと思っている…」
『わかった。今日からそのアパートがお前の仕事場だ』
エドは、何か必要な情報はあるかと聞いてきたので、フランクの爺さんのことを尋ねた。
『フランク・レイバー?聞いたことがある名前だが…。
その男のことはこちらでも調べてみよう』
「ありがとう、エド」

外出して、帰ってくると、階段で見慣れない男とすれ違った。
スーツをきっちり着込んだビジネスマン風の男だった。
「あんた、誰だ?」
「私は306号室のウィル・ホワイトです。あなたに名前も覚えてもらっていなかったとは…」
ウィルと名乗ったこの男は、セールスの仕事で出張ばかりしていて、
アパートの住人に会うことはほとんど無いと言った。

ウィルと別れた後、ポケベルが鳴った。
電話をしようと部屋に帰ると、留守電が入っているのに気付いた。
『レッドスターの届け先は、キャシー・マクベイン殺害の犯人。
探し物の報酬の内容は、午後7時にカフェのBテーブルの下を見ろ』
俺に探し物のオーダーをしてきた謎の男からだった。
キャシー・マクベイン――13年前に殺されたという女性。
レッドスターを探すことは、あの殺人事件を解決することにつながるらしい。


285 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/04/30(土) 23:18:48.37 ID:IERFURHL0
レイチェルに電話をかけると、すぐエドに代わった。
『ハイド、フランク・レイバーという男は元ロス市警の刑事だ』
昔、エドはロス市警の刑事で、当時の上司がヒュー・スペックだった。
フランクの爺さんは、エドとは面識がないが同じくヒュー・スペックの部下だった。
25年前、俺の親父が何者かによって殺されていた。
エドはその事件の捜査をしていたが、スペックが圧力をかけたので、捜査は打ち切られた。
そして、その事件にはあの<ナイル>が絡んでいたらしいと、エドは言う。
<ナイル>――その名前をここで聞くとは思っても見なかった。
<ナイル>とは、恐るべき犯罪組織だ。
刑事時代の俺の同僚が<ナイル>に潜入し、そして裏切って行方不明になった。
(このへんの詳しい話は前作「ウィッシュルーム」参照)
『フランクについては、また新しい情報が入ったら知らせる』
俺の動揺を知ってか知らずか、エドはさっさと電話を切った。

フランクの爺さんを見かけたので声をかける。
「レイバーさん、あんた、元刑事らしいな。実は俺もそうなんだ」
フランクは少し驚いた表情だ。
アパートをウロウロして、何を調べているのかと、探りを入れてみる。
「刑事屋根性ってのはなかなか抜けないもんだな。
事件の臭いがする話を聞いたとたん、目の色を変えてしまう。悲しい性(さが)だ」
フランクは、自分が調べている事件にはこれ以上興味を持つな、と
俺に釘を刺して去って行った。

7時になった。カフェに行って指定されたテーブルの下を見る。
そこには封筒が貼り付けてあり、
中にはタイプされた便箋と新聞の切り抜きが入っていた。
『探し物の報酬は25年前の真実。その真実の一部を手付け代わりに届ける』
新聞の切り抜きの日付は、1955年(つまり25年前)になっていた。
これは…親父の死亡記事だ。
25年前に消えたレッドスターを探せば、
親父の事件の真相がわかるとでも言いたいのか…?



286 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/04/30(土) 23:19:45.46 ID:IERFURHL0
チャプター6 1980年12月23日

のどが渇いた…。酒が体の中にまだ残っていた。
昨夜は、スティーブのなじみの店で、しこたま飲んだのだった。
「おはよっ!」
朝から元気なスティーブと会った。昨日の酒は残っていないのだろうか?
そうだ、昨日は店でスティーブの歌を聴かせてもらったんだ。
「スティーブ、いい歌だったよ」
俺は素直な感想を述べた。
「あんたに受けちゃったってことは、あの曲、メジャー受けしないかな」
スティーブは照れたのか、頭をかきながら答えた。
「ねぇ、ハイドさん。ラジオ、持ってたよな?11時からやっている
《ロックン・ソウル》のオンエアをチェックしてみてくれよ」
そこでスティーブの歌が流れるらしい。
11時になったのでラジオをつける。
しばらく、スティーブの歌声に聞き入った。

エドから、13年前の事件について続報が入った。
ホテルケイプウェストの支配人の妻キャシーは、
青酸カリ入りのワインを飲んで、404号室で息絶えていた。
服毒自殺かとも思われたが、
キャシーがしていた指輪がなくなっていたことから、他殺の線が浮かび上がってきた。
その指輪は3カラットもあるダイヤの指輪だったらしい。
ダイヤの指輪――まさか、マリーが持っている、あれか?
『それから、フランク・レイバーはこの殺人事件の担当じゃなかった。
奴は若いころに告発されて、捜査の第一線からは外されていた』
フランク爺さんの若い頃と言えば20年前かそこらだろう。
しかし、退職した刑事が、どうして何の関係もない事件を調べているんだ?
『レイバーと13年前の事件については、続けて調べておく。
おまえの例の探し物の、レッドスターについてもな』



407 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/05/15(日) 20:31:20.47 ID:b2z6KcOy0
チャプター7 1980年12月24日

アパートの玄関でスティーブと会った。
「ちょっとそこでさ、配達員からこいつを預かったんだよ。
で、ハイドさん、これをパトリス夫人に渡してくれよ」
スティーブは俺に小包を差し出す。
自分で届けろ、と突っぱねると、スティーブは、
まだたまっている家賃を払ってないからパトリス夫人に会いたくないと言う。
俺は結局、その荷物を預かることにした。

パトリス夫人の部屋を訪ねる。彼女は小包を受け取ると、顔色を曇らせた。
「差出人が無いわ…。ハイドさん、お願い。この小包を調べてみて」
パトリス夫人の頼みで、俺は小包を開けた。中から金の時計が出てきた。
「何が入っていると思ったんですか?」
「コチコチと音がしたから、爆弾かと思って。それに、思い当たることがあったの…」
前に、脅迫状めいた手紙が届いたことがあると、パトリス夫人は話す。
その手紙には『アパートを売らないと、爆弾を仕掛ける』と書いてあったらしい。
勘違いを詫びるパトリス夫人に、何か不穏な空気を感じながら、
俺は自分の部屋へ帰った。

残念ながらクリスマス・イブに予定の無い俺とスティーブは、ラッキーズ・カフェに行った。
スティーブはいつになく上機嫌だった。シドニィも交えて、ビリヤードルームで遊ぶ。
一人で席に戻ると、カウンターに珍しい客が座っていた。
306号室のウィル・ホワイトだった。
「ハイドさん、こんばんは。一緒に飲みませんか?」
ウィルは俺に声をかけてきた。
「悪いがあんたと飲む気は無い。今まで付き合わなかったのに、
今さら無理に付き合うことも無いだろう」
俺はきっぱりと断ったが、ウィルはクスクスと笑い出した。
「何がおかしいんだ!」
「やっぱり、あなたは想像通りの人でした。頑固で思い込みが強くて、
人に指図されるのはまっぴら御免。かなり面倒な性格ですね」
…当たっているだけ余計に腹が立つ。
「ホワイトさんだったな。あんたみたいな男とは、絡まないほうがいいらしいな」
俺が再度拒絶の意思を示すと、ウィルはカフェを出て行った。

210 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/06/04(土) 00:59:37.58 ID:42ZSJl+n0
チャプター8 1980年12月25日

おふくろからクリスマスプレゼントが届いた。
早速開けてみると、中には野球のボールと鍵が入っていた。
ボールには見覚えがあった。親父とキャッチボールしたときのものだ。
だが、鍵は記憶に無い。見たところ、車のキーのようだが――。
プレゼントに添えられたカードには、こう書かれている。
『メリー・クリスマス。あなたに25年前の思い出の品を贈ります。
この箱に入っていたものは、父さんが最期に持っていた、あのトランクの中に入っていたものです。
あのときの父さんと同じ歳になった、最愛の息子カイルへ、母より』
プレゼントを眺めながら、俺は昔のことに思いを馳せた。
親父が死んで、おふくろに手を引かれてロサンゼルスを後にし、マンハッタンへ行った…。

そのとき、突然電話が鳴り出した。
『いたのね』
おふくろからだった。何てタイミングだ。
「プレゼント、見たよ。あのボールは、親父から買ってもらったやつだ」
俺は鍵のことを聞いてみたが、おふくろにも何の鍵だか分からないらしい。
「どうして親父みたいな男と一緒になったんだ?
金庫破りだと知って、どうして止めなかった?」
それは、聞きたいと思いながらも、どうしても口に出せなかったことだった。
『好きになったから、あの人を愛していたからよ』
おふくろが、親父が金庫破りだと知ったのは、俺が生まれて2年ほどたった頃らしい。
親父は何度も足を洗おうとしたが、仲間がそれを許してくれなかったという。
「それでも、金庫破りを続けていたなんて、許されることじゃない!」
思わず声を荒げてしまった。
『カイル、いつか、あなたが父さんのことを、
そして私のことを許してくれる日が来たら、この話の続きをさせて』
そう言って、おふくろは電話を切った。

昨日のパトリス夫人の態度が気になったので、話を聞いてみることにする。
夫人は訪ねて来た俺に怪訝な目を向ける。
「俺の唯一の趣味は、ジャズを聴くことなんです」
誓って言うが、これは本当のことだ。
「ですから、ご主人がサックス奏者と聞いて興味を持ったんです…」
これはちょっと強引なこじつけだな。
パトリス夫人は嬉しそうに旦那のジョージのことを話し始めた。
ジョージはここがホテルだった頃の常連客だったらしい。
俺は、ジョージの最期はどんなだったかと質問すると、
パトリス夫人は驚いたように目を見開き、そして笑い出した。
「私には人に知られたくない過去があった。だから今まで隠してきたの。
それなのに、私に何の興味も持ってなかったあなたが、
別れの日が近くなった今になって、私の過去を覗こうとしてるなんて…。
笑うしかないでしょう?私は夫殺しで被告になった女よ」


211 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/06/04(土) 01:00:26.15 ID:42ZSJl+n0
13年前、パトリス夫妻の家に強盗が入った。
夫人は強盗に殴られて気を失った。
目を覚ました夫人は、自分が拳銃を握っていることに気付いた。
そして隣には、撃たれて死んでいるジョージが横たわっていた。
パトリス夫人は夫殺しの容疑で起訴されたが、証拠不十分で無罪になった。
そして、その事件は今も未解決のままだと言う。
「あの人が愛した場所で、あの人を思って生きるためにホテルを買ったの。
ハイドさん、悲しい未亡人の話はこれで全てよ」
その言葉に嘘は無いと、俺は思った。
「ハイドさん、もう帰って。そして、ここで聞いたことは誰にも話さないでね」

廊下で慌てた様子のディランと会った。
「ホワイトさんの部屋の水道を止めるようにと、夫人に頼まれて…」
だがウィルはまだ引っ越していないはずだ。
その水道を止めるのは不自然だ。この男の言動は怪しすぎる。
問い詰めようと思ったが、ディランは逃げるように去って行った。

306号室のドアが少し開いていた。ディランが鍵を閉め忘れたらしい。
どうやらウィルは外出中のようだ。
俺は誰にも見られていないことを確認しつつ、素早く中に入った。
家捜しさせてもらうことにしよう…。
そこは生活感の無い部屋だった。
トランクの中に入っていたパスポートには、「ウィル・マクベイン」とサインがある。
さらに、破かれて半分だけのポストカードを発見した。
その裏には「マイケル・マクベイン」の名前がある。
マクベイン、か。
『レッドスターの届け先は、キャシー・マクベイン殺害の犯人』
あのオーダーは、やはり――。


212 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/06/04(土) 01:00:51.73 ID:42ZSJl+n0
「ここで何をしている?」
いつの間にか、ウィルが俺の後ろに立っていた。
物音を立てず、気配を殺して俺に近付けるなんて。こいつは、只者じゃない。
「オーダーの手紙を出したのは、あんたか?」
俺はズバリ、聞いてみた。ウィルはあっけなく認めた。
彼はレッドクラウン商会の、裏の仕事を知っていた。
そして彼の本名はウィル・マクベイン。
彼はホテル・ケイプウェストの支配人の、マイケル・マクベインの息子だった。
3年前マイケルは、キャシーのことを想いながら病死したのだという。
死に際に、キャシー殺害の唯一の手掛りだという、半分のポストカードをウィルに託した。
ウィルは両親の死の真相を探ろうと、このアパートににやってきたのだった。

俺もウィルも、親を殺され、さらにその事件は未解決。
同じ宿命を背負っても、過去に対する思いは違いすぎていた。
「刑事になっても父親の事件を追うことなく、
手がかりがあるかもしれないアパートに偶然住んでも、それに気づこうともしない、
まったくいらつく男だ。だから、気付かせてやったんです」
「あのオーダーにそんな意味が…」
「そうだ、私はあの女に復習するために、このアパートに住み始めた。
あんただってレッドスターを見つければ、自分の父親がどうして殺されたのか、
その真実に近づけるって事に気づいたんだろう?」
ウィルは、パトリス夫人がキャシーを殺したと睨んでいるらしい。

「レッドスターって、何なんだ?」
「希代のダイヤモンドですよ。元はとある宝石商のものだったらしいんですけどね。
それを<コンドル>という窃盗団が盗んで、ホテルに隠していたらしいです」
すべては25年前、ホテル・ケイプウェストの金庫から
レッドスターがなくなったことから始まった。
親父がホテルの金庫にあったレッドスターを盗みに入って、何者かによって殺された。
その事件がキャシー殺害事件と繋がっているらしい。
そこまで知っているウィルからは、なにやら犯罪の匂いがする。
「さて、そろそろ<ナイル>からシメられそうだ。
明日には、もう私はこのアパートにはいないでしょう」
ウィルは組織に属さない泥棒なのだという。
「このアパートには<ナイル>の手先がいる。
<ナイル>に睨まれたら、私のような一匹狼は終わりですから…」
部屋を出る直前、俺は言った。
「ウィル、俺はオーダーを受ける。そして必ず、真実を見つけてやる」
ウィルは心からの笑顔を見せた。



213 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/06/04(土) 01:01:56.62 ID:42ZSJl+n0
チャプター9 1980年12月26日 その1

昨日のウィルとの会話を思い出すと、いたたまれない気持ちになってくる。
テレビをつけると、最近世間を騒がせている<コンドル>の特集番組をやっていた。
なんでも、<コンドル>は犯行の前日に、女を使って宝石店の下見をさせているらしい。
その女は、小さなルビーをちりばめた、高そうなダイヤの指輪をつけていたという。
まさか、彼女が…?でも、どうして?

俺は部屋を飛び出して、206号室をノックした。マリーはすぐに出てきた。
「何かしら?」
「保険のことが、どうなったか気になってたんだ。それと、レックスのことも」
口実としては少々苦しいと、我ながら思う。
「ハイドさん、私のこと気にしてくれていたのね」
結局保険金は支払われることになったと、マリーは嬉しそうに話した。
「マリー、あんた、俺に何か隠していることはないか?」
もう会話が続かないので、直接的に聞いてみた。
「…ハイドさん、あなたに隠していることがあるわ。でも、そのことは絶対に話せない」
マリーは部屋を飛び出していった。マリーの口を割らせるためには、何か証拠が必要だ。
後ろめたさを感じつつ、部屋の中を捜索する。すると、差出人不明の手紙が出てきた。
宝石店に行くように指示が書いてあった。どうやら、マリーは誰かから脅されているらしい。

マリーは屋上の灯台のモニュメントの傍に立っていた。
「マリー、もう隠すな。全部、話せ」
「あなたに、もっと早く出会っていたら、こんなことにはならなかったかも知れない。
さよなら、ハイドさん」
下に飛び降りようとするマリーの体に、俺は必死で飛びついて、助けた。
「馬鹿なことをするな!助けて欲しいなら欲しいと言え!」
「そんなこと言えない。私はあの人たちの怖さを知っているから…」
マリーの夫、ピーターは、あの人たちに加担していた。
ホテル・ケイプウェストで働きながら、宝石の密売の手伝いをしていた。
それ以外にもピーターは、いろいろな犯罪行為に手を染めていたらしい。
足を洗おうとも、あの人たちからは逃れることはできない。
13年前にマリーの兄が、そして半年前にピーターが、
事故で死んだのも、あの人たちの仕組んだことだと言う。
マリーをここまで追い込んだあの人たちとは、誰なんだ?
「ナイルよ。あの人たちは、自分のことをそう呼んでいるわ」


214 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/06/04(土) 01:03:00.51 ID:42ZSJl+n0
「なるほどな。そういう訳か」
屋上にレックスがやって来ていた。
レックスは、死んだ友人のジャック・グリーンのために、マリーに付きまとっていたのだ。
雑誌の記者だったジャック・グリーンは、
<コンドル>と<ナイル>の関係を記事にしようとして、<ナイル>に殺されてしまった。
だからレックスがジャックの遺志を継いで、<コンドル>のことを調べていたらしい。
レックスは、<コンドル>について掴んでいる情報を話し始めた。
<コンドル>が活動を始めたのは25、6年前のこと。
手口から盗品の密売方法まで、実に周到で綿密だった。
そして13年前に活動を止めるまで、一度も捕まることが無かった。
たぶん、警察内部のリークだろう。

「ハイドさん、ジャックはあんたの父親のことも調べていた。
25年前に殺された金庫破りは、<コンドル>の一味で、
<ナイル>の秘密を知って消された男だと…」
「何だと!親父が<コンドル>の一味だったって言うのか?」
そんなはずはない。確かに親父は犯罪者だった。
しかし、極悪な犯罪組織に属していたなんて、信じたくない。
真実は、やはり俺自身の手で掴むしかないな。

「マリー、最後に言っておく。この街からすぐに消えろ」
レックスはマリーに声をかけた。
「無理よ。<ナイル>からは逃げられない」
「俺が逃がしてやる。俺を信じるなら、明日の朝6時にユニオン駅に来い」
レックスはそう言うと、エレベーターに乗って消えて行った。
「ハイドさん、私の話を聞いてくれてありがとう。全てを話せる人に会えて良かった」
マリーは軽く手を振って、去って行った。

屋上から降りてきた俺を、フランクの爺さんが呼び止めた。
「ハイド君、屋上であの男と何を話していたんだ?
あの男には近づかない方が身のためだぞ」
「レイバーさん、あんたはなぜレックスのことを気にするんだ?
あんたが調べてる、13年前ここで起きた、
キャシー・マクベイン殺害事件と関係があるのか?」
図星を突かれたのか、爺さんは狼狽したようだった。
「ハイド君、君も13年前のことを調べているのか?」
「俺が調べているのは、25年前のことだ。
25年前にホテル・ケイプウェストで消えたレッドスターを」
レッドスターと聞いて、爺さんは驚きの表情を浮かべた。
「どうして君がレッドスターのことを知っているんだ?
25年前、ホテルにレッドスターが保管されていたことは、
支配人のマイケル・マクベインしか知らなかったことなのに…」
「マイケル・マクベインの息子から聞いた。
そして、彼からレッドスターを探してくれと頼まれたんだ」
俺は事情を一通り爺さんに説明してやった。
「ハイド君、君とは腹を割って話をする必要があるな」
5時に爺さんとラッキーズ・カフェで会う約束をして、別れた。


215 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/06/04(土) 01:04:26.92 ID:42ZSJl+n0
2階のマリーの部屋の前にディランがいた。
「何をしているんだ?」
逃げ出そうとするディランを捕まえる。
こいつは以前、レックスのことを聞いてきたし、
それに昨日、ウィルはこのアパートに<ナイル>の手先がいると――。
「ディラン、あんた、マリーに何をしようとした?
誰に命令されてこんなことを?」
「それは言えないな」
「<ナイル>だろう?お前の仕事はアパートの住人を監視することか?」
「俺の仕事は、マリーとパトリス夫人を監視することだ」
ディランはとうとう<ナイル>の手先であることを白状した。
正体を見破られた彼は逃げ出す準備を始めた。
俺はアパートを出るまでこのことは他言しないつもりだ。
そうすれば二日は稼げるから、その間に逃げられるはずだ。

時間になったのでラッキーズ・カフェに行く。
フランクの爺さんから25年前のことを聞く。
ロス市警の刑事だったフランクは、<コンドル>の捜査を担当していたが、
突然捜査から外されてしまっていた。
爺さんを捜査から外したのは、当時の上司であるヒュー・スペックだった。
スペックは<コンドル>と繋がっていると、爺さんは睨んでいる。
<コンドル>が一度も捕まらなかったのも、スペックのリークがあったからだ。
「レイバーさん、つまり、あんたは<ナイル>とロス市警の癒着の証拠を探しているんだな?」
「そうだ。それはそうと、さっき、ディランと話していたようだが…」
「ディランには<ナイル>の息がかかっていた。
奴はマリーとパトリス夫人を監視していたらしい」
しかし、マリーは分かるが、何故パトリス夫人を監視していたのかが疑問だ。
そのことを話すと、フランクの爺さんは話し始めた。
パトリス夫人の死んだ亭主のジョージは、
ホテル・ケイプウェストの支配人だったマイケル・マクベインの友人で、
キャシー・マクベイン殺害の第一容疑者だった。
「そしてジョージ・パトリスは、25年前に消えたレッドスターの行方を知る人物だと
私は踏んでいる」
13年前のキャシー・マクベイン殺害事件、そして25年前親父が盗もうとしたレッドスター、
<コンドル>に<ナイル>――。
これらは全て繋がった事象だった。
「このアパートにはきっとレッドスターが隠されている。
そして、レッドスターを見つける手掛りも、
私が探している癒着の証拠も、アパートのどこかにある」
爺さんは、自分が探し切れていない4階か、あるいはパトリス夫人の部屋が怪しいと言う。
「ハイド君、私と協力して、パトリス夫人の部屋を調べてみないか?」
「…なんだと?」
俺は迷ったが、爺さんの熱意に負けて、その提案に乗ることにした。


216 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/06/04(土) 01:05:09.48 ID:42ZSJl+n0
爺さんはパトリス夫人をカフェに呼び出して、話をする。
その隙に俺は夫人の部屋に入った。
奥の寝室で、<ナイル>から送られてきた脅迫状を見つけた。
クロゼットの中には、大事そうにしまってあるオルゴールがあった。
そのオルゴールのドラムの軸に鍵が差してある。オルゴールを壊さないよう、慎重に鍵を取り出す。
その鍵は、頭の部分にコンドルの文様がついている。
部屋の中をさらに探したが、レッドスターに繋がりそうなものは発見できなかった。

俺はカフェに行った。パトリス夫人は話を切り上げて、部屋に戻った。
フランクの爺さんに、コンドルの文様の鍵を見つけたことを話す。
「ハイド君、その鍵を私に渡してくれ。そして、君はもう何もするな」
「そうはいかない。俺には、どうしても見つけたいものがある。
この鍵があれば、それを見つけることが出来るかもしれない」
「わかった。好きにしろ」
フランクがカフェを出て行くのと入れ替わるように、スティーブがやってきた。
「ハイドさん、いい話があるんだ。前にラジオでかけてもらったあの曲、
評判が良くってレコードになりそうなんだ」
スティーブは嬉しそうだった。
「なあ、スティーブ、一緒に探してもらいたいものがあるんだ」
俺はスティーブに、レッドスターというダイヤを探していることを話した。
「そんな面白い話なら、乗るぜ」

俺とスティーブは、4階へ行って、部屋を一つ一つ丁寧に調べていった。
406号室で、ダイヤル式の金庫を見つけた。
「ひょっとして、ここにあるんじゃねえか?例のなんとかスターってやつ」
スティーブは興奮した様子で言った。
そのとき、背後に気配を感じて振り返った。顔にスプレーを吹き付けられた。
そして、頭に衝撃を感じ、意識が遠のいていった。



217 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/06/04(土) 01:06:35.51 ID:42ZSJl+n0
チャプター10 1980年12月26日 その2

気がつくと、縛られて動けなくなっていた。
そうか、催涙スプレーを使ったのか。そしてひるんだ隙に頭を殴って気絶させる、と。
テーブルに陶製の花瓶が載っている。テーブルに体当たりして花瓶を床に落として割り、
破片を使ってロープを切った。
これでやっと動ける。それにしても一体、こんなことをしたのは誰なんだ?
廊下で倒れていたスティーブを見つけ、助け起こした。
「ハイドさん、誰が俺たちを襲ったんだ?」
「それはきっと、レッドスターを見つけさせたくない奴だ」

「そうだ、邪魔が入らないうちに金庫を調べちまおうぜ」
スティーブは持ってきたバールで金庫の扉をこじ開けた。
金庫の中には、中に何も入っていない宝石ケースだけがあった。
ん?この金庫の扉、やけに分厚いな…。
金庫の扉をよく調べると隙間があり、そこにノートが隠してあった。
それは、ホテルの支配人マイケル・マクベインの日記だった。
13年前の日付の所に、妻のキャシーを悼む気持ちが綴られている。
キャシーが殺された原因は、12年前(つまり今から25年前)に、
マクベインが、ホテルに侵入してきた金庫破りを射殺し、
レッドスターを手に入れたからだ、と書かれている。
さらに日記を読み進める。
マイケルはホテルの閉館とともに<コンドル>と手を切ろうとした。
だがその報復として、キャシーが殺された。
25年前、レッドスターを盗もうと、この部屋に忍び込んだ親父は、
マイケル・マクベインによってこの場所で、殺された…。

これ以上は危険だからと、スティーブと別れて、一人で行動することにした。
俺を襲った犯人はたぶん、パトリス夫人だ。あの手口なら女でもやれる。
それに、隠し事が多いしアパートの過去を探られるのを嫌がっている。
1階へ降りてパトリス夫人の部屋をノックする。
「パトリス夫人、あなたがやったことは全部分かっているんだ。ドアを開けてくれ」
「あなたは私の部屋に忍び込んで、あの鍵を持ち出したのでしょう。なんて恐ろしい」
夫人は俺のことを<ナイル>の関係者だと誤解している。
だから俺を襲ってあんな真似をしたのだ。

フランクの爺さんがパトリス夫人に、俺が<ナイル>の関係者だと話したのだろう。
爺さんを問いただすが、彼は話していないときっぱりと言った。
「勝手に4階を調べてレッドスターを手に入れればいいだろう?」
「レイバーさん、俺の目的は、過去を調べて25年前の真実を明らかにすることだ。
レッドスターそのものが目的じゃない」
「ハイド君、25年前のことを聞きたいのなら、私の部屋まで来ればいい」


218 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/06/04(土) 01:10:07.22 ID:42ZSJl+n0
言われた通りに、爺さんの部屋を訪ねる。
「私は事件の捜査に巻き込んだ一人の人間の命を奪ってしまった。
君が調べている、金庫破りの男だ」
25年前、<コンドル>の尻尾をつかもうと躍起になっていたフランクは、
情報屋から紹介された名うての金庫破り「グレゴリー」(仮名)を使うことを考えた。
ホテル・ケイプウェストは宝石密売の現場だと目を付けられていた。
グレゴリーをホテルに侵入させ、金庫を破らせ、盗品の宝石を見つけたら外に合図を送る。
その瞬間、待機していた警官が乗り込んでブツを押さえる、そんな計画を立てた。
フランクはグレゴリーと密約を交わし、ついに計画は実行に移された。
「グレゴリーからは、どんな合図が送られてくることになっていたんだ?」
「窓を使った合図だ」
支配人室の窓から、懐中電灯を点滅させて、合図を送るように打ち合わせていたらしい。
だが、合図はうまく行かず、グレゴリーは殺された。
「どうして合図はうまく行かなかったんだ?合図を送ってこなかったのか?」
「奴は合図を送った。でも…」
フランクはこれ以上話せないと言う。

「私がこの話を聞かせるべき相手は決まっている。それは、グレゴリーの家族だけだ」
「もし、俺がグレゴリーの家族をここに連れてきたら、あんたはそいつにはすべてを話すのか?」
「話すとも」
俺はもう一つだけ質問することにした。
「レイバーさん、あんたはグレゴリーとどんな密約を交わしたんだ?」
「仕事の報酬として、金庫破りから足を洗う手助けをすることを約束した。
それから、前渡しで新車のキーをプレゼントした」
俺は急いで自分の部屋に戻って、おふくろから届いたプレゼントの鍵を持ち出した。
そしてフランクに鍵を渡した。
「俺が家族だ。グレゴリーの本名はクリス・ハイド。それは、25年前に殺された、俺の親父の遺品だ」
フランクは驚きを隠せない様子だ。
「グレゴリーは私の顔をじっと見て、一言こう言った。あんたのことを信じていいのか、と。
私はその問いに黙ってうなずいた。なのに、私は…」
自分が約束さえ守っていればグレゴリーは死なずに済んだと、爺さんは後悔の念をあらわにした。

フランクの爺さんは親父の最期を話し始める。
親父は25年前のあの夜、ホテルに侵入して金庫を破り、レッドスターを手に入れ、
支配人室の窓辺に立って合図を送った。
しかし、ホテルの外からは返事の合図は送られて来なかった。
フランクはそこにはいなかったのだ。
フランクはヒュー・スペックから、病院に入院していた奥さんの容態が急変したとの
嘘の伝言を告げられていたのだ。
騙されたとわかって急いで現場に戻ったが、全てが手遅れになっていた。
「ハイド君、許してくれ。25年前、私がスペックと<コンドル>の関係に気づいていれば、
君の父親は死なずに済んだ」
俺はフランクのことを責めようとは思わなかった。
ただ、親父がどんな想いを残して死んでいったのか、それが知りたいと思った。
「年寄りはでしゃばらず、ここで待っていてくれ」
部屋を出ようとした俺を爺さんが呼び止めた。
4階で見つけた唯一の手がかりであるという、半分だけのポストカードを託された。


219 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/06/04(土) 01:10:58.18 ID:42ZSJl+n0
なんとかパトリス夫人の誤解を解かなければ。
「パトリス夫人、俺は<ナイル>とは関係ない。関係あるのはディランだ。
ディランはあなたを監視するために、<ナイル>が送り込んだ男です」
「あなたは何者なの?ねぇ、教えなさい!」
「俺は、25年前、このホテルの支配人室で殺された金庫破りの息子だ。
親父は、<コンドル>の宝石密売事件に巻き込まれて殺された。
<コンドル>のことを教えてくれ」
パトリス夫人は、<コンドル>のことは話したくないと言う。
「それは、あなたの夫のジョージが<コンドル>の首謀者だったからか?」
「そうよ。あの人は指を怪我して、サックスを吹けなくなって変わったわ」
「13年前に、キャシー・マクベインを殺したのは誰だ?」
「ジョージよ。ジョージは私に言ったわ。マイケルの裏切りに対する報復だと」

ジョージとマイケルが考えた密売方法は、ホテルを使った巧妙なものだった。
まず盗んだ宝石は支配人室の金庫に保管しておく。
そして実際の宝石の受け渡しは、隠し部屋にて行われていたらしい。
当時、金庫に保管されていたレッドスターが狙われているとの情報を受け、
マイケルは支配人室を守ることになった。
情報どおりに親父はホテルにやってきて、射殺され、ダウンタウンの駐車場に捨てられた。
その事件の後、マイケルはレッドスターが消えたとジョージに嘘をついた。
実際はマイケルがレッドスターを横取りし、ホテルのどこかに隠したのだった。
ジョージはマイケルを疑ったが何も言わずに、協力関係は続いていた。
13年前に、マイケルが<コンドル>と縁を切ろうとしたので、キャシーは殺された。
「ハイドさん、私がこのアパートで見つけることが出来なかったものを、見つけてくださる?」
それは、いまだ見つからない、宝石の受け渡し場所である隠し部屋のことだ。
俺はうなずいた。

まずウィルの部屋にあったものと、爺さんから渡されたものと、
半分ずつのポストカードを組み合わせると、破れ目がぴったりと合う。
そのポストカードの絵柄は暗号表になった。
暗号表を見て、エレベーターのボタンを決められた通りに押す。
エレベータは突然動き出して止まり、壁にある小さなふたが開いた。
ふたの中にあった鍵穴にコンドルの鍵を差し込むと、隠し部屋への入り口が開いた。
中腰になり隠し部屋に入る。

この隠し部屋は、4階のエレベーターと隣の部屋の間にある、窓のない狭い部屋だ。
宝石の取引が記録された台帳が置かれている。
机の引き出しの中には、ロス市警のバッジと一枚の写真が入っていた。
そこにはジョージと、ヒュー・スペック、そしてマイケルが写っている。
これだけの証拠がそろえば、ヒュー・スペックが<コンドル>と関係していたことがわかるな。
壁に電灯のスイッチを見つけたので点けてみると、
壁に掛かった風景画の灯台の部分から光が射しこんだ。
灯台といえば…屋上だ。


220 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/06/04(土) 01:12:12.09 ID:42ZSJl+n0
宵闇が迫る屋上に出る。灯台のモニュメントに明かりがともっている。
その光は、屋上のレンガ積みの壁に当たっている。
そのレンガの一つはよく見ると他のものより新しい。
手近な石でたたいてレンガを壊すと、中から見たことも無いほどの大きなダイヤモンドが顔を出した。
楕円形…確か、この形はオーバル・カットって言うんだった。
これが、レッドスターか。「レッド」というが、赤くはないんだな。
親父はこのダイヤを握ったまま死んだのか…。
俺は、思わずダイヤを握り締めた。

「灯台の明かりをつけたのは、ハイドさん?」
出し抜けにパトリス夫人が現れて、そう言った。
パトリス夫人は隠し部屋の場所も、行き方も知っていたのだった。
だが、旦那が、ジョージが罪を重ねた場所である、
あの部屋へ足を踏み入れることを嫌っていたのだった。
「ハイドさん、私、あなたに問い詰められて、こう思ったの。
ここまで知られたら、もう隠し切れないって」
「何を隠そうとしたんだ?」
「あの人が犯した罪よ」
このアパートには、ジョージ・パトリスが犯した罪が全て隠されている。
だからパトリス夫人は、アパートを取り壊し、ジョージの罪を清算しようとした。
それを俺が邪魔した格好になってしまったのだ。
パトリス夫人は旦那のことを話した。彼女は旦那を本当に愛していた。
その愛ゆえに、旦那が犯罪に手を染めても、誰にも言わずに隠し通してきた。
「呆れているでしょう?こんな愚かな女の話。だから誰にも話したくなかったの」
「違うだろ?本当は誰かにその話を聞いてもらいたかったんじゃないのか?」
「そうね。きっと私は、ずっと前から誰かにこの話を聞いてもらいたかったんだわ…」
パトリス夫人はその場にしゃがんで泣き出した。
やりきれない思いを抱えて生きている人間は大勢いる。
それは決して消えることはない。
今は、泣けるだけ泣けばいい…。

パトリス夫人が泣き止んだ頃を見計らい、手を差し出してやる。
「私は今日まで、誰の手も借りず一人で立ってきた女なの」
そう言って、手を借りずに立ち上がった。
パトリス夫人は、レッドスターも、隠し部屋で見つけたものも、
全て俺が処分していいと言って、去って行った。

俺は406号室――支配人室に入って、窓辺に立った。
今、こうして親父と同じ歳になって、親父がいた最後の部屋で同じ窓を見ている。
親父がこの窓から最期に何を見たのかは、事件の真相を知った今でも、真実は見えない。
でも、一つだけ分かったことがあった。
親父がこの窓辺に立ったのは、俺とおふくろのためだったんだ…。



221 :ラストウィンドウ 真夜中の約束:2011/06/04(土) 02:15:10.36 ID:42ZSJl+n0
エピローグ 1980年12月27日

翌朝、おふくろから電話がかかってきた。
まだ気持ちの整理がつかないから、
昨日知った親父に関する色々なことは、おふくろに話すことは出来ない。
まあ、急がなくてもいいだろう。他愛の無いことを話して電話を切った。

さて、本格的に引越し先を探さなくてはならないな。
不動産屋に行こうと身支度をして部屋を出る。
フランクの爺さんの部屋を訪ねて、隠し部屋で見つけたものを渡した。
爺さんはこれでヒュースペックを追い詰めることができると、喜んだ。
アパートの玄関から外に出る。ポケットからレッドスターを取り出した。
こいつをキャシー・マクベイン殺害の犯人に届けることは、もう出来ない。
俺はふと目に付いた郵便ポストの中に、レッドスターを放り込んだ。
きっと、博物館かなんかに寄贈されることになるだろう。

THE END


ラストウィンドウ 超ざっくり年表

25年前
 クリスはホテルに保管されていたレッドスターを盗む 
 そのときマイケルはクリスを殺し、レッドスターを奪う
13年前
 ホテルが閉館されることになり、支配人のマイケルは<コンドル>と手を切ろうとする
 その報復として妻のキャシーが<コンドル>の首謀者のジョージに殺される
 復讐としてジョージがマイケルに殺される
12年前
 パトリス夫人が廃業したホテルを買い取りアパートに改装
3年前
 マイケルが病気で死亡
1年前
 (「ウィッシュルーム 天使の記憶」)
1980年現在
 ゲームスタート



最終更新:2011年06月12日 21:34