夢幻狂詩ネクロノミコン

part58-350~355,357~363,365~368,372~375

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350 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/17(水) 22:52:47.08 ID:BewffyltO
ネクロノミコン投下しますー。
ペース遅いのはご容赦を。大魔殻が手に入らないんだよorz


登場人物

ジン・レイカー
主人公の一人。33歳の日系アメリカ人。
年齢以外は前作とほぼ変わってないのでそちらを参照。
相変わらず友達はいないが支持者は多いらしい。
外見年齢が速水とほぼ同じってどういうことなの。

速水隆介
主人公の一人。23歳の日本人。
ビザをごまかしてバイトをし実家に仕送りをする勤労学生。
公式設定で犬だと言われてしまった不憫な子。狼にはなれないそうな。
最初から最後まで殺されたり異形になったり魔器にされたりさらわれたりと不幸の連続。

ジェフリー・ノーツ
奇認会のエージェント。中尉。
軍人風の粗野な外見や気さくな言動に似合わず霊的な才能が高い。
妻子とは異界で死に別れた。

ウェンディ・クイン
奇認会のエージェント。26歳のブロンド美女。
霊的才能はないが、前作の事件での評価によって正式にエージェントになった。
ジンや速水のことを何くれとなく気にかけてくれる。

ノーマン教授
63歳のロマンスグレー。元大学教授。
ジン達の師であり、ゲーム中も様々な形で支援してくれる。
どんな時でもいたって紳士。たとえそれが鉄拳制裁のときで

351 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/17(水) 22:55:38.14 ID:BewffyltO
おや切れてしまった。これだからあうはorz

ノーマン教授

63歳のロマンスグレー。元大学教授。
ジン達の師であり、ゲーム中も様々な形で支援してくれる。
どんな時でもいたって紳士。たとえそれが鉄拳制裁のときでも。

レイモンド・F・バウム
ノーマンの元弟子。36歳のイギリス系白人。
公式設定で残念なイケメン。性格とか服の趣味とか。
こんなのが魔術師のスタンダードってどういうことなの。
ある理由から速水を狙う。

パット
レイモンドの従者。見た目では分からないが中国系。
家事も事務も格闘戦も完璧にこなす優秀なメイド。
常に無表情な彼女だが、感情がないわけではないらしい。
多分この中で一番幸せになった子。

ドロシー
レイモンドの養女。12歳。
明るく利発な、可愛らしい少女。
彼女を引き取ってから、レイモンドも少しはまともになったらしい。
しかし……。

アリス
ジンの妹。17歳の時の姿のまま。
速水が彼女と出会ったことからこの物語は始まった。
父親に似たため金髪碧眼。白いネグリジェ姿で夜を歩いている。
人だった頃の意識も残っている様子。

ジャッジマン
ジンの父。人だった頃の名残はどこにもない。
異界の門を生み出しながら彷徨い続けている。

ニアデス・トーテム
謎の美女。アラブ系。
ノーマンの悪友で、度々彼のもとをたずねる。
今回は傍観者に徹しているため出番はあまりない。


352 :ネクロノミコン:2011/08/17(水) 22:59:01.37 ID:BewffyltO
流れるような金髪の美しい少女が歌っている。
死に際に見るには、なかなか幸せな光景だ。
しかし、青年は、それだけでは満足しなかった。
どうしても彼女に触れたくて、手を伸ばした。

序章 死者の朝

青年は真っ暗な部屋で目覚めた。
どうやら、ここは病院らしい。そして、さっきまで寝ていた部屋は遺体安置所。
よく見ると、服は汚れて破れている。右横腹には大きな赤黒いシミ。ケガはない。頭痛がする。
靴ははいている。足首にプラスチックのタグ。内ポケットには2ドル。それ以外の持ち物はない。
とりあえず誰かいないか、捜してみる。
さまよううちに、何かの記憶がよみがえってくる。土の匂い、腐臭、まとわりつく虫の声。
ふと見ると、そこには人型の何か。群れをなしてにじり寄ってくる。
青年が凍り付いていると、不意に機銃掃射が化け物達をなぎ払う。
青年を助けた軍人風の男とその部下達は、青年を守りながら残りの化け物を一掃する。
どうやら、この化け物達は門を離れて行動しているためかなり弱体化しているらしい。
男達は手早く状況確認と外部との連絡を終え、走るように言ってくる。
「まだ何かあるのか!?」
「火葬さ」


353 :ネクロノミコン:2011/08/17(水) 22:59:48.80 ID:BewffyltO
外は、朝だった。周囲は救急車やパトカー、消防車で囲まれ、遠くヘリのローター音もする。
そして、彼らの背後では今しがた後にしたばかりの病院が燃えていた。
炎に包まれる病院から、少女の声がした。
「さようなら。せめて、人の夢をあなたに。ありがとう」

14時間前。
青年は、配達のバイトであるビルに来ていた。
しかし、様子がおかしい。警備員がおらず、携帯も動かない。人気が全くない。
それでも、彼は仕事をすることにした。誰もいないので、監視カメラに向かって名乗る。
「マーシュバイク便の速水隆介だ。8階のガバリンプレス社に届け物に来た」
階段で8階を目指す速水の背後に、不意に金髪の少女が現れる。
驚いたり見とれてたりする速水に、彼女はこう言った。
「逃げて」
速水は少女を問い詰めるが、少女は「逃げて」としか言わない。
少女から何かヤバいものを感じた速水だったが、「女を泣かせるな」という両親の言葉には逆らえなかった。
速水は裏口から逃げて警察に行こうと、少女の手を取ってしまった。

突然、あたりが真っ暗になる。
走れそうかとたずねると、少女は礼を述べた。
「それと……ごめんなさい」
「え?」
「もう……間に合わない」
背後に質量を持つ闇を感じたが、振り向く間もなく破壊音。
激しい衝撃とまとわりつくような虫の音の中、それでも速水は目を開いた。

354 :ネクロノミコン:2011/08/17(水) 23:02:38.58 ID:BewffyltO
先ほど速水を助けた男が、ウェンディと話をしている。
あるビルに異変が起き、倒壊。34人の遺体が発見され、最寄の病院に収容された。
が、その遺体の一部が食屍鬼となって活動を始めたという。
そのため、この事件が第三種認定されて彼らが出てきたのだ。
そして、彼らが保護した語学留学生・速水隆介も、遺体として収容されていたのだ。
しかし、保護されてからの検査では全く異常がなかったため、誤診だろうと結論づける。
「詩」を聞いているかどうかは確認中とのこと。
そして「魔法使い」の到着が遅れるという報告を聞き、隊長は「あの男の手は借りたくない」と呟く。
ウェンディがとがめると、彼は話題を変えた。
隊長は「魔法使い」を怖れているようだ。

一方、速水はえんえんと検査やらなにやらをされたことでうんざりしていた。
ようやく少しは見知った顔である隊長が来たことで事情の説明を求めるも、隊長にはその権限がないという。
事件のことを話さないという条件で解放してほしいと頼む速水に、電話連絡の許可を出した。
速水が週末の朝に、日本の母に電話していることを調べてあったのだ。
しかし、そんな時に緊急の呼び出しがかかる。
一人になった速水は、虫の声を聞く。

秘匿回線で誰かが会話している。
速水は、ビルで出会った少女について担当医に聞いていたという。
詳細を求めると、録音データがあるという。
「Ms.クイン、データを送ってくれ」
「了解しました、Mr.レイカー」

355 :ネクロノミコン:2011/08/17(水) 23:05:10.26 ID:BewffyltO
隊長は、地下から突如発生した帰依者の報告を受けていた。一階は完全に連絡が途絶えたという。
隊長はウェンディを含む非戦闘員を脱出させ、迎撃に。
一階にいる速水を救うために、隊長は急ぐ。
(帰依者どもの目標は……あの坊やか?)

その頃、速水はロメロの映画の主人公になっていた。
食屍鬼の群れは、うめきながら速水に手を伸ばす。
「なぜおまえだけ」
「よく匂いをかいでみよう」
「よむ見てみよう」
速水の制止など、何の意味もなかった。
「触れてみよう」
「よくわかるように」
「なかみも」
「みせて」
生きたまま引き裂かれる痛みにもだえる速水は、どうしても触れたくて、手を伸ばして、叫んだ。

その叫び声は隊長――ジェフリー中尉率いる特殊部隊にも届いた。
速水のいる部屋の方向から太祖クラスの巨大な気配と濃密な魔素を感じ、警戒を深める。
すると、異形の化け物が食屍鬼をいともたやすくなぎ払っている光景を目撃。
退却を指示するジェフリーの耳に、異形の声(正確には広域の精神感応)がとどいた。
《……電話……母さんに……》
現在の戦力では対処できないと判断したジェフリーの元に、ウェンディから報告が入る。
『以降の処理は、彼が引き継ぎます!』

ぼんやりと歌いたいと思う速水の耳に、不意に誰かの声が届いた。
「……それが貴様の詩か? 速水隆介」
名前を呼ばれたことで正気を取り戻した速水に、術式が送り込まれた。
気が付くと、速水は元の姿に。目の前には、異形の右手を持つ男がいた。
人のまま死にたければ従えという男に、わけが分からない速水が問いかけると男は名乗った。
「ジン・レイカー。魔術師だ」

※第三種認定:天災でも人災でもない事件のこと。要するにオカルト絡み。
※「詩」:現在、術的な詩が刻まれた異界がぽこぽこ出来る「詩篇事件」が発生中。
※秘匿通信:夢魔の天蓋をプレイすると、意味と理由が分かります。


今回はここまで。
やっぱりもうちょい削るかな。
357 :ネクロノミコン:2011/08/20(土) 12:51:16.74 ID:JYbgbh0yO
続きいきますー。
空港やりたくない、でも素材集めで何度も行かないといけないorz

第一章 吠える男

ジンは速水に残酷な現実を突きつける。
速水がビルの倒壊に巻き込まれて既に死亡しており、現在は魔素の循環により保たれていること。
(ちなみにこれは他の帰依者達と全く同じ仕組み)
ジンの施術によって何とか人の姿を保てているが、いずれ化け物となってしまうこと。
その事実を受け入れきれず、速水は混乱する。

一方、ウェンディは速水の処遇についてジンと相談する。
ジンは速水の特殊性について言及し「あれは使える」と言い放つ。
ウェンディがその対応に物言いたげにしていると、緊急コールが鳴り響いた。

ビルの倒壊現場では、再び異界が広がり始めていた。
委員会の到着を待たずに作業を始めていた州軍の捜索チーム4人が呑み込まれたという。
ジンが人命救助をしないということを知っているジェフリーは独断で救助に向かう。
が、部下にさとされ連絡だけはすることに。

ウェンディがすぐに手配したヘリで、ジンと速水は現場に向かう。
ジンに救助と門の定型処理が依頼されるが、ジンは救助にはやる気がなさげ。
「人としての生を取り戻したければ、俺と共に来い」
そう速水に言い放ち、考える時間を2分与えた。

358 :ネクロノミコン:2011/08/20(土) 12:52:22.80 ID:JYbgbh0yO
何とか生存者を異界から逃がすことに成功したものの、ジェフリー達は退路を見失ってしまう。
ジェフリーはかなりの傷を負い、自身の運命を悟りながらも戦い続ける。
しかし押し寄せる帰依者の大群は減る様子がなく、さらに奥には巨大な気配も。
彼らが絶望しかけたその時、ジンが宝鍵で異界に割り入った。
ジンはジェフリーに目をやるも、まずは目の前の敵を一掃。
その強さに隊員達が驚く中、ついにジェフリーが倒れる。
そんな状況でもジンの手を拒むジェフリーに、ジンは「教授」の手を借りることを提案。
門を開いてジェフリー達のために脱出口を作ると、一人帰依者の掃討に向かう。

一方の速水は、「教授」ノーマンに会っていた。
ノーマンは速水に元の体に戻れる可能性があることを告げた。
説明を始めているとウェンディが現れ、二人を隔離用のテントへと案内した。
その中には、異形の姿になろうとしているジェフリーがいた。
瀕死の重傷を負った際に異界の元素――魔素に侵され、帰依者になろうとしているのだ。
助けられないのかと焦る速水に、ジェフリーは静かに首を横に振る。
かつて彼も、同じように魔素に侵された部下を救おうとしたことがあったのだ。
結局、身も心も帰依者に成り果てた彼らは、ジェフリーの代わりにジンに“処理”された。
「俺、お前を助けられたよな?」
速水は何も言えないまま、捻れた腕を握った。

ジェフリーが息を引き取った後、ノーマンは速水に異界について説明する。
はるか昔から、異界の門が世界を蝕み人を異形にしていること。
原因も分からないまま、魔術師達はただ帰依者を討ち門を閉じることを続けていること。
これからどうすればいいのかと問いかける速水に、ノーマンは静かに答えた。
「聞いてみるといい。ジン・レイカーに」

一方、ジンは宝鍵の出力の低下に悩まされていた。
魔力の一部を速水につぎ込んでいることが最大の原因だ。
それでも突っ込もうとするジンの前に、ノーマンの術で速水が転移してきた
何も分からないまま、それでもジンに従うと決めた速水に、初めてジンが笑う。
「速水隆介。貴様は今日から、俺の魔器になれ」
ジンが魔術を展開すると、速水の体が変異を始める。
体の奥底でうずまく言葉達をうまく表現できず、そのもどかしさに、吠えた。
「……お前は『ロア』だ」
ジンの指揮の下、ロアは食屍鬼達を、そしてその中核を薙ぎ払った。

359 :ネクロノミコン:2011/08/20(土) 12:54:19.31 ID:JYbgbh0yO
異界の門の近くで待っていたノーマンは、戦いの終わりを悟った。
その前に、元の姿に戻った速水とジンが戻ってきた。
中核を破壊した際に自己崩壊するように界を書き換えたため、そのうちひっそりとこの異界は消える。
辛辣な評価を下したジンに速水がかみつくも、消耗の激しい速水はうまく反論できない。
そんな速水に、修行をしろとジンは言う。そのための場所を手配するとも。
「……その前に、電話、させてくれ」

※帰依者:平たく言うと化け物。異界に適合してしまった者の成れの果て。
※2分:なぜかというとヘリの出発までの時間が2分だったから。鬼だ。
※宝鍵:ジンの右手。父親に取り込まれそうになったのを無理矢理引き剥がした名残。
※処理:お察し下さい。なお、中尉がジンを怖がるのはこの件が原因らしい。
※ロア:後に判明しますが、この姿では速水はしゃべれません。ジン曰く「鍛えろ」

ジェフリーさん……好きだったのに……(´・ω・`)

360 :ネクロノミコン:2011/08/20(土) 12:55:56.36 ID:JYbgbh0yO
今回はここまで。
ちょっとロアと魔骸を鍛えないとこの先が厳しいもので。

361 :ネクロノミコン:2011/08/21(日) 14:22:11.88 ID:bkaoTdfpO
続きいきますー。

第二章 魔術師という生き方

ノーマンの私設図書館で、ジンとノーマンが「詩篇事件」について相談している。
アリスのことが表ざたになっていないのは、ウェンディがこっそり処理しているかららしい。
頑なにアリス達を化け物として扱うジンに嘆息するノーマン。
速水はアリスの「詩」によってあの姿になったと推測される。
しかし、ジャッジマンの行動には不可解な点は多くまだ何も分かっていない。
激化するだろう戦闘を予測し、ノーマンは魔骸関連施設の使用許可を出した。

一方、速水は一人でノーマンの蔵書を漁って勉強をすることに。
さんざん迷って一冊の本を手に取ったところで、背後から女性の声にとめられる。
「それは……時間の浪費になるかもね」
速水の取った本では、知識はほとんど得られないという。
つい謎の美女に見とれてしまった速水だったが、彼女の言動にちょっと引き気味。
ニアデス・トーテムと名乗った彼女は、結局速水と少し会話をして帰ってしまった。
入れ違いでやってきたジンとノーマンが、速水を図書館の奥へ呼んだ。

特別閲覧室で、先ほど以上に専門的な書物の群れを読むように言われる速水。
(これ以降、インターミッションで用語や説明を確認できます)
素直に勉強を始める速水の元に、ウェンディがやってきた。
速水の依頼通り、仕送りや休学届けの手配をしてきてくれたのだ。
その代わりジンの助手として奇認会に登録され、母親への連絡は控えるように言われる。
そして、慰霊祭に参加したいという希望は、ジンによって却下されていた。
しょげる速水をなぐさめ、健気にジンをフォローするウェンディ。
そこへノーマンが現れ、速水を連れて行く。

362 :ネクロノミコン:2011/08/21(日) 14:23:41.33 ID:bkaoTdfpO
連れて行かれた先は、地下の研究室だった。
ジンが持ち込んだパソコンや筋トレグッズ以外はいかにも魔術師の部屋といった風情だ。
ここでは帰依者の遺骸を素材にして魔器を製作することができるという。
いがみあう二人を制しながら、ノーマンはウェンディに残ってもらえばよかったとため息をついた。
(これ以降、インターミッションで魔器製作が可能になります)
さらに別の場所には、胎児のホルマリン漬けのようなものが。
これらの魔骸胎児に帰依者の遺骸を融合させることで、戦闘用の擬似生命体になるという。
ちなみに、速水に施された制御式は魔骸と同じ原理のものなんだとか。
(これ以降、インターミッションで魔骸融合・魔骸浄化が可能になります)

速水が仮眠をとっている間にも、ジンとノーマンは相談を続ける。
現在の速水には食事も睡眠も必要ないのだが、精神の安定のために無意識に行っているらしい。
そしてジンが調べた限り、速水の体の構造は帰依者よりもむしろ太祖に近しいという。
興味深げにするノーマンに、ジンは「彼」に与えた名を告げた。

翌日、速水が連れてこられたのは倒壊したビルの前だった。
不満をぶちまける速水を完全に無視し、ジンは異界の門を開いた。
中核を失いいずれ消滅する異界だが、まだ帰依者達が残っている。
速水をロアへと変化させ、ジンは彼らを一掃させる。
ジン曰く、こういった死にかけの異界は戦闘訓練や素材集めには最適だという。
また、速水の体に「詩」が刻まれていることを教えてもらう。
そのため「詩篇事件」を解決すれば、元に戻る可能性もあるという。
そして、施された制御式が2ヶ月ほどしかもたないということも告げられる。
落ち込む速水に30分待つと言い残し、ジンは立ち去った。
ほぼ同時に遠くから聞こえてくる鎮魂歌。慰霊祭会場が近いらしい。
速水はジェフリーの冥福を祈り、礼を言った。
(これ以降、インターミッションで異界探索が可能になります)

363 :ネクロノミコン:2011/08/21(日) 14:25:00.99 ID:bkaoTdfpO
図書館で勉強を続ける速水のもとに、ウェンディがやってくる。
報告ついでに様子を見に来たらしい。
速水がジンについて思うところを述べると、彼女は笑って言った。
「あなた方は、似ています」

※もみ消し:アリスの件は奇認会には知られていません。前作参照。
※魔骸:正式名称はアブホースの仔。面倒がって育てていないと、後半や外伝で泣きを見る。
※太祖:凪の星に触れた生き物。太祖が異界を拓き、そこに堕ちたものが帰依者になる。
※似ています:個人的には、ジンも速水もツンデレだと思うんだ。


今回はここまでです。
ウェンディ可愛いよウェンディ。
365 :ネクロノミコン:2011/08/22(月) 19:36:54.69 ID:5DKZvjgwO
ネクロノミコンの続きいきますー。
この辺から敵が辛くなる。


路上に横たわる男達。
人種も何もかも違うが、彼らは「いらないもの」だった。
ゆっくりと死に向かいながら、彼らは故郷の、家族の夢を見る。
そして、彼らを故郷に運んでくれる美しい天使を。

第三章 我が家へと至る星

カンザス州の某国際空港。
そこは、ウェンディによって人っ子一人いない空間にされていた。
どんな情報操作をしたらこんなことができるのか首をかしげる速水。
しかし、ウェンディの手腕によって初期被害は最小限に抑えられたという。

ジンの調査によれば、空港地下に現れた帰依者は「殻人」と呼ばれるもの。
彼らは魔器を使う珍しい帰依者で、物理的には脆いものの魔術攻撃を行ってくる。
はやる速水に勝手に突っ込むなと釘をさすジン。
そこへウェンディからの通信が入る。被害者は今のところ全員無事とのこと。
また、まだ「詩」を聞いた人間はいないそうだ。
報道管制が6時間ほど有効であることを告げ、ノーマンに被害者の再診察を依頼するウェンディ。
二人とも無事に戻ってくるようにウェンディとノーマンに言われたが。
「善処する」
「…善処って…了解、って言ってくれよ」

異界のどこかで、誰かが通信器越しに会話をしている。
素早く対応したウェンディの手腕をほめながらも、目的は他にあるようだ。
会話内容からして、ターゲットは速水。
実にのんびりとした会話ながらも、準備は周到な様子。
「……パット。いつも、ありがとう」

366 :ネクロノミコン:2011/08/22(月) 19:38:15.73 ID:5DKZvjgwO
異界に突入したジンと速水は殻人と、ついでに食屍鬼の歓迎を受ける。
どうやら侵入がバレていた模様。
早速蹴散らすが、殻人達の魔術攻撃のやっかいさに愚痴る速水。
と、そこに「詩」が聞こえてきた。
《我等は現世の芥 螺子釘にも劣る肉と骨の因果》
慌ててジンに知らせようとするが、ジンの姿がどこにもない。
はぐれたかと焦る速水に、ひどいメキシコ訛で話す男の声が聞こえてきた。
「……右」
逃げ遅れた人かと思いその姿を探す速水に、お連れさんたちと一緒に外に出るようにという。
その気配が人間のものではないことに驚愕する速水の後ろに、男が現れる。
「僕らは、ただ、家に、帰りたいだけ、です」

赤いキチン質の顔を認識したところで、銃声が響く。
「……逃げた、か」
ジンの方でも速水を探していたのだ。
帰依者が喋ったことに混乱している速水にジンは淡々とたまにあることだと告げる。
思考や外見などを残す帰依者でも、例外なく精神が歪んでいることも。
それでも必死に男に語られた思いを伝えようとする速水。
しかし、ジンはそれら全てを冷淡に切り捨てていく。

こっそりと異界に侵入しているパット。彼女もまた殻人達に気づかれていた。
殻人達の索敵能力はかなり高いようだ。
ただ、彼女の場合は積極的に動いていないためまだ攻撃されてはいないようだ。
「……パット。いつも、ありがとう」

その頃、ノーマン達は異界の中核について調べていた。
空港の敷地の隅に30人ほどいた路上生活者達。彼らが、異常発生の直前に消えていたのだ。
その中の一人が中核だろうと踏んだノーマン。
しかし、彼は同時に異界の魔素の流れに外部からは気づけない人為的な何かを感じ取っていた。

367 :ネクロノミコン:2011/08/22(月) 19:40:07.71 ID:5DKZvjgwO
速水はジンに、自分が聞いた「詩」について話していた。
世捨て人の自己嘲笑。以前聞いたものとは全く違うが、一節に「原文」が流用されている。
元に戻せないと知りながらも帰依者との戦いを躊躇う速水。一喝するジン。
殻人達を蹴散らしていくうち、ジンは彼らが時間を稼ごうとしていることに気づく。
そして、魔素の流れから、彼らが高位の魔器を製作・起動させるつもりであることにも。
時間がない。ロアの姿を保たせたまま、ジンは最深部へと突入することに。

最深部。
速水に早く帰るように言った殻の男が、詩を歌っている。
どうやら、魔器が完成したらしい。
「さあ、みんな。家に、帰ろう」

ジンが最深部に突入したことをパットが告げると、予測の半分の速さだと感心した答えが。
パットはジンだけではなく、魔骸や速水についても評価する。
そして最悪の場合、遺体の一部でもいいから持って帰るようにという指令が下される。
「パット。いつも、ありがとう」

殻人の威嚇音を嘲笑うジン。殻の男の嘆きにも耳を貸さない。
(身の丈4m、翼全幅6m。体格は通常の殻人の倍)
もう元には戻れない、どこにも行けないと告げるジンに、殻の男は首を横に振る。
家に帰るために空港に来たという殻の男は、大きな筒のようなものを抱えている。
しかし、飛行機は魔素の影響で飛べない。だから、飛ぶ機械を作ったという。
ある帰依者の持つ「亜光速移動用臓器」を模して作られた魔器。
起動させると、小規模な町を根こそぎ吹き飛ばすだけの余剰エネルギーが発生してしまう。
魔素の圧縮臨界点までおよそ5分。それまでに倒さないと――

368 :ネクロノミコン:2011/08/22(月) 19:43:55.76 ID:5DKZvjgwO
取り巻きを無視し、最速で殻の男を討つ。破壊された魔器を見て、男は絶望した。
泣き叫ぶ男に、速水がためらいがちに近づいて手を伸ばした。
しかし、希望を破壊された殻の男に理性はもう残っていなかった。
家に帰りたい一心で羽ばたいた男に引っ掛けられ、速水は通路を引きずられる。
滑走路まで50mほどのところで彼の体は限界を迎え、崩壊し燃えていった。
火の手に巻き込まれそうになる速水だが、立て続けに戦闘したため消耗が激しい。
ロアにもなれない。助けてくれるだろうジンは遠くにいる。
(……たすけてくれ……)
そう願った速水の前に、少女が現れた。
「お迎えにあがりました。リュウスケ・ハヤミ様」
(これ以降、製作可能な魔器・魔骸が追加されます)

※天使:イベントスチルがどう見てもアリスです(ry
※情報操作:表向きは「空港内で危険物が発見された」ということになっている様子。
※殻人:別名ミ=ゴ。ゲーム内では霧を吹き付けてきたり人の脳を切り取ったりはしません。
※魔術攻撃:射程が長い+障害物無視+この時点ではジン以外の魔防が低いので実に厄介。
※お連れさん:この時、右と後ろにそれぞれ一人いると教えてくれています。スルーすんな。


今回はここまで。
ジンを盾にすると他のユニットに経験値が入らない罠。
372 :ネクロノミコン:2011/08/24(水) 19:00:34.83 ID:olEQdo42O
ネクロノミコンの続きいきますー。
ここからは転移能力も出てくるよ! 魔術に比べれば可愛いものだけどね!

第四章 黄色い煉瓦の城

ジンは、ノーマンから転移門の存在を知らされた。彼らが突入する前に施されていたという。
この転移門を使って、何者かが速水を連れ去ったのだ。
これは情報漏洩の可能性を示唆する事件であり、ノーマンはウェンディに伏せるよう指示する。
ノーマンが呪文を唱えると、転移門が可視化する。その向こうに、宝鍵が反応を示した。
「この向こう側で……速水は生きています」

夢の中で、速水は母と電話をしていた。
何を言っているのかは聞き取れないのに、会話はできる。
たわいも無い会話はやがて「詩」にいたる。
歌えないという速水に、声はさらに何かを言う。
「……あんたが、書いた詩……?」
完全な異界の記述、速水と自分が同じものだという声。
速水の誰何に、声は答えた。
「……Alhazred……」

速水が意識を取り戻して最初に感じたのは、薔薇の香りだった。
衣擦れの音と、柔らかなベッドの感触。額に触れる小さな手。どんどん下へ降りていく。
目を開けると、どこかのロイヤルスイートのような品のいい部屋だった。
そして、12歳くらいの白人の少女が、ベルトのバックルに手をかけていた。
あわてて体を動かそうとした瞬間、速水の全身に激痛が走った。
それでもベルトを死守、ベッドの下に転がって退避。カーペットの上で悶絶する。
すると、男の声がした。
「パット。客人の姿が見えないが?」
「只今、床に伏せていらっしゃいます」
「西洋式はお気に召さないということかもしれないね」
現れた金髪の紳士を見て、速水は直感した。この男は「魔法使い」だと。

373 :ネクロノミコン:2011/08/24(水) 19:02:00.63 ID:olEQdo42O
ウェンディが気を利かせて事後処理をしている間に、ノーマンは術者をつきとめていた。
レイモンド・フランクリン・バウム。
魔術の名門バウム家の一人で、ノーマンがかつて破門にした弟子だ。
気まぐれな性格で、恐らく速水の体に興味を持って連れ去ったのだろうということだ。
養子をとってからは落ち着いていたらしいが、また気まぐれが始まったのだろうか。
この手口は、かつて彼がバチカンの地獄館に侵入したのと同じ手口だった。
まだ転移門がレイモンドのラボに繋がっていると見てとった教授は、門を維持することに。
養子のためにもやりすぎるなと言われ、苦々しく吐き捨てるジン。
ノーマンが開いた門の中に、ジンは入っていった。

転移門の向こうは、異界を人工的に再現した空間だった。
中には、空間転移能力を持つ帰依者「空鬼」が飼われていた。他の帰依者の気配もある。
どうやら、退屈だけはせずにすみそうだ。
(ここからジンが速水と合流するまで、戦闘にロアが出ません。異界探索では使えます)
空鬼を蹴散らしながら、異界を観察するジン。実によくできた箱庭らしい。
「だが……あの男の利用価値とは比べ物にならんな」
兄弟子に軽く挨拶をし、ジンはさらに奥へと進む。

紳士は、レイモンドと名乗った。ディレッタントだという。
隣の少女はパット。彼の身の回りの世話をしている。空港で速水を助けたのは彼女だ。
レイモンドは、速水のことを調べたうえでご招待したらしい。
何の材料にするつもりなのかと問う速水に、レイモンドはこう言った。
「……僕の「娘」に、会ってやってくれるかな?」
彼女は、速水と同じらしい。

374 :ネクロノミコン:2011/08/24(水) 19:03:51.22 ID:olEQdo42O
あと1層といったところまで進んだところで、ジンは奇妙な気配を感じた。
そこへ、広域の精神感応。速水かと思ったが、宝鍵の反応は違う。
その隙を狙ってか、魔犬が襲ってくるがこれも撃退。
異界を覆う球状の結界の理由が分かり感心しているところに、再び精神感応。
どうやら、ジンを怖れて異界の外を目指しているらしい。
一瞬速水かと思った理由を理解し、ジンは笑う。どうやら「出来損ない」のようだ。
少しかき回してみることにした。
(これ以降、製作可能な魔器・魔骸が追加されます)

速水は、パットに案内されてバウム邸の地下に来ていた。
地下に張り巡らせた結界について嬉しそうに解説するレイモンドに渋い顔をする速水。
「ここでは魔術の行使や霊視が難しくなります」
パットの実に簡潔な説明に礼を言う速水。なぜか反応するパットに、首を傾げる。
そして、地下にある娘さんの部屋の前に到着。
レイモンド曰く、体は少し歪んでいるが愛らしい面影と心は彼女のままらしい。
少し肌を隠せば、町にだって出られると。
教えられた通りに仕掛けを動かすと、重い鋼の扉がゆっくりと開く。
中は、かつては黄色い煉瓦だったのだろう、セピア色の壁の部屋。
腐敗臭を隠すためか、薔薇の香水が振りまかれている。
床には、無数の溝。散乱する布切れ。よく見ると、パットの衣装に似ている。
壁を照らすと、溝が何かの絵を描いていることに気づいた。顔だ。
しかし――中には誰も、何もいない。
レイモンドにそれを告げると、硬い顔になるレイモンド。
気遣うパットに、きっといつものかくれんぼさと言い研究棟へと急ぐレイモンド。
まずいものを感じ取りながらも、速水はパットに案内されて客間に戻る。
道中パットにレイモンドの娘について聞いてみるも、硬い反応。
壁の顔がパットに似ていることを思い出して告げる速水に、パットは返事をしなかった。

375 :ネクロノミコン:2011/08/24(水) 19:05:41.13 ID:olEQdo42O
一方、レイモンドは転移門が起動していることに気づいた。
どうやら、彼女が「農場」に転移したらしい。
そして、ノーマンが干渉していることにも気づき苦々しく吐き捨てる。
さらに、侵入してきたジンのすぐ近くにドロシーの反応を見つけ、焦るレイモンド。


※レイモンド:実は7年前にジンとも教授のラボで会っている。ジンは完璧に忘れていたがw
※手口:誰かに護符と通信機を持たせて侵入させ、目的達成したらサルベージ。
※魔犬:ティンダロスのわんわん。ゲーム内では素早くないので撃退は楽。
※解説:テクニカルタームだらけの長い説明のあげくに「解らないかね?……解らないだろうな」
※パットの衣装:速水曰く「アキバの人形みたい」。ちなみにレイモンドの趣味。


今回はここまで。
次回以降も残念なイケメンの倒錯ぶりにご期待をw
322ネクロノミコン:2011/08/28(日) 15:19:44 ID:???
携帯からだと切れるので、以降はこっちに書くことにしますー。
切れた分から。

第五章 つぎはぎ娘の幸福

客間でパット相手に会話をする速水。パットは住み込みのメイドらしい。
レイモンドがジンと同門であることを聞いて驚く速水。
そんな速水に、パットが頼みごとをしてきた。体を拭くのは断るといった速水だが、違うという。
「宜しければもう一度、「ありがとう」と言って頂けますか?」
とりあえず言ってみると、パットはなにやら一人ごちている。首を傾げる速水。
と、どこからか声がした。反応するパット。異界が迫ってくるような感覚を覚える。
《れい》《たすけて》《こわいよ》
それは「詩」ではなく、ただの嘆きだった。
そして、彼女が来た。

異界でドロシーを探すレイモンド。その前に、ジンが現れる。
「写本の一部を「歌わせた」な……」
ドロシーがジンと接触したことを察し焦るレイモンドに、威嚇に留めたというジン。
捕獲しようとしたところで転移して逃げたらしい。
制御式を施しているのか問うと、あと数項目というところで力尽き間に合わなかったらしい。
ドロシーの元に向かうジンを止めるレイモンド。
ジンはドロシーを殺すのではなく、弱体化させ凍結させるという。
そして、ドロシーを逃がさないようにするにはレイモンドの力が必要だ。
渋々首を縦に振るレイモンド。
「だが、彼女を……二度と「あれ」と呼ぶな!!」

323ネクロノミコン:2011/08/28(日) 15:20:22 ID:???
彼女は、部屋の扉に体当たりを繰り返す。親しい誰かに助けを求めながら。
《れぇい、こわいよぉっ!》
扉を破る、骨と筋繊維の触手。恐怖に泣きながら、彼女は現れた。
「……ドロシー……お嬢様」
パットにそう呼ばれた「それ」は、辛うじて人の形をしただけの化け物だった。
レイモンドの供述と全然違うことよりも、速水にはどうしても見逃せない点があった。
「なんで声だけが君と同じなんだ……パット!?」
その声に速水の方を見たドロシーは絶叫した。
どうやら、あの男と同じにおいがするらしい。完全に速水を敵視した。
突進してくるドロシーと速水の間に、パットが割り込んだ。何故か驚くドロシー。
パットは速水の横たわる天蓋付きの巨大なベッドの縁をつかみ、一気に窓際へと引いた。
ベッドがあった場所に突っ込むドロシー。反動で転がり落ちる速水。
パットはドロシーに向かってベッドを押し込み、速水の手をつかんで廊下へ逃げ出した。
《まって……ねえ、その、かおは。わたしの、かお、よね?》

ドロシーをそのままに、地下まで逃げた二人。
パットのありえない怪力を魔術かと訊ねる速水に、治療の副作用だと答えるパット。
よく分からないものの、とりあえずドロシーの件が先である。速水は話を戻した。
パットはレイモンドがいる研究棟に向かうことを提案し、引きずったことを謝罪。
「いや、ありがとよ」
速水が軽く礼を言うと、やはり過剰に反応するパット。
なぜかやる気を出した速水は、ふとドロシーの気配を感じた。
《そのかお……その、かおは》
転移能力を持つドロシーからは逃げられない。そう悟ったところで、声がした。
「……ならば戦え。速水」

324ネクロノミコン:2011/08/28(日) 15:20:43 ID:???
ジンが現れたことでうろたえるドロシー。
そこへレイモンドが、長距離転移を封じる術を展開した。嘆くドロシー。
パットにドロシーの動きを止めるよう指示し、レイモンドはパットにトランクを渡す。
その中にはパット専用の魔器「巨人の櫛」が。
驚く速水だったが、ドロシーを殺すわけではないと知り、戦うことに。
ロアへと変貌する速水に、さらにドロシーは錯乱する。
ドロシーが暴れたことで、彼女のエサ――帰依者達も転移してきた。
封印が持つのは、わずか10分。逃がしてしまえば、もう誰にも止められない。

逃げられる前に、何とかドロシーを叩く。
必死にレイモンドに助けを求めるドロシー。レイモンドは、ドロシーの手をとれなかった。
ジンがドロシーに術式を打ち込んでいく。動きの止まっていくドロシー。
ドロシーにあやまりながら、レイモンドが最後の術を施した。
「開放暗証……『黄色い煉瓦の道の果て』」
悲しげにレイモンドの名を呼び、ドロシーはその動きを止めた。

翌日早朝。ノーマンはバウム邸を訪れ、かつての弟子と顔を合わせていた。
ドロシーにネクロノミコンの写本を「歌わせた」理由を詰問するノーマン。
「……階段、だったんですよ」
ドロシーの12歳の誕生日、彼らは螺旋階段を踊りながら上っていた。
そして、ドロシーは足を滑らせた。レイモンドの手は、届かなかった。
彼女は辛うじて一命は取り留めたものの、脳に大きな障害を負ってしまった。
だんだんと言動に異常が出始めたドロシーを、それでもレイモンドは世話し続ける。
治療法を求め、レイモンドは世界中の医療機関を回った。しかし――

325ネクロノミコン:2011/08/28(日) 15:21:09 ID:???
一方、速水は別室でジンから事情を聞いていた。
レイモンドは、ドロシーを復活させるために「詩」を歌わせ凪の星の召喚を行わせたのだ。
「詩」を歌い完全な異界の姿を脳裏に描くことで、凪の星はその生物のもとへ飛来する。
「人と異界を繋げる」魔術の究極の形だ。
しかし、レイモンドの使った写本は不完全なものだった。そのため、ドロシーはああなった。
レイモンドが、ドロシーを太祖にしようとした理由。それは、たった2つの前例にすがったからだ。
かつて凪の星の洗礼を受けながらも、己の心と体を保ったという魔術開祖。
そして「詩」によって人の身と心のまま太祖となった「詩」の作者アルハザード。
レイモンドが速水に目をつけた理由は、速水が後者に酷似しているからだ。
アルハザードの名に、何故か聞き覚えのある速水。
原書が失われて久しい「詩」だが、使いようによっては莫大な力を持つ。
詩篇事件の犯人も、その力を求めている可能性がある。
やけにあれこれ教えてくれたり、自分のことを見捨てなかったジンをいぶかしむ速水。
ジンは淡々とこれらは知るべき情報であり、また速水自身も事件解決の鍵の一つであると答えた。
次に勝手な真似をしたら封印するというジンに、今回ばかりは速水も反発しなかった。
そして、速水はもう一つ気になっていたこと――パットのことについて訊ねる。
「……あれは人形だ」
壁の肖像、ドレス、声、言葉。速水はそれらを繋ぎ合わせた結論にぞっとした。

326ネクロノミコン:2011/08/28(日) 15:21:34 ID:???
何人犠牲にしたのかと問うノーマンに、レイモンドは19人と即答した。
全員ストリートの子で、レイモンド曰く相互の理解の上でのことだという。
似なかった子や、途中で逃げ出した子にも報酬を支払って解放したと。
パットは、通行人に暴行を受けて、ひどい状態だったところでレイモンドと出会った。
強い生への執着ゆえか、整形のために組み込んだ魔素回路をすぐに自分のものとした。
副作用も少なくなかったが、パットはレイモンドの与えた全てを身につけたのだ。
「「あの子」は僕が作ったパッチワークドロシーの中でも最高の出来です」
そう言いきるレイモンドに、ノーマンは沈黙した。
「……レイモンド。眼鏡を外せ」

レイモンドに言われて、貴重品の保護を優先するパット。
ふと、先ほど片付けた2階で師と語り合っているだろうレイモンドのことを思う。
お茶をお持ちしよう。Mr.レイカーとMr.リュウスケにも。
きっと、あの3人からいただけるだろう。「ありがとよ」は新しかった。
それでも、レイモンドの「いつも、ありがとう」には、敵わないのだろう。
(これ以降、製作可能な魔器・魔骸が追加され、新しい魔骸も追加されます)


※ドロシー:本名ドロシー・キンバリー・バウム。彼女のその後については外伝にて。
※黄色い煉瓦:ドロシー関係はところどころオズの魔法使いが意識されています。
※写本:バチカンの地獄館からパクったもの。その頃はこんなことに使うとは思ってもいまい。
※魔術開祖:「姫君」。モンストラバルツにちょっとだけ出てくる。
※副作用:外見年齢の固定化、表情筋の麻痺、筋力の著しい上昇、恐怖心の払拭、生殖能力の破壊など。

327ネクロノミコン:2011/08/28(日) 15:22:52 ID:???
ノースカロライナ州沖、南東約150km。
目視可能だがレーダーに移らない、霧を纏うタンカーが北北西へ毎時約5ノットで航行中。
哨戒ヘリからの通報に、管制塔からは可能な限り距離をとって追跡するように指示が出た。
と、ヘリのパイロットは甲板に長い髪の女の姿を見たような気がした。

第六章 奏でる海

ノーマンの私立図書館の事務室で、ノーマンとニアデスが会話をしていた。
レイモンドを殴った件に関してずれた感想を述べるニアデスに、話を元に戻すノーマン。
ノーマンは、レイモンドが用いた「詩」をニアデスに見せる。
しかしニアデスもノーマンも、「白痴の揺り篭」に至る原書とは程遠いという評価。
ジンの宝鍵を完全開放して父と情報共有させてはと口にしたニアデス。
ノーマンは怒るが、うまく受け流したニアデスに「これだから姫の臣下は」と呆れる。
と、その時ノーマンの携帯が鳴った。ノーマンが携帯を持っていることに驚くニアデス。
電話の相手はウェンディだった。どうやら、ジンや速水の携帯に繋がらなかったらしい。
彼らが地下にいることを告げ用件をうかがうと、ウェンディは一言で答えた。
『「船」が……発見されました』

一方、ジンはレイモンドと共に地下の研究室にいた。
あれこれ見て回るレイモンドを牽制するジン。それを受け流すレイモンド。
おおかたの予想通り仲の悪い二人を、速水とパットは少し離れて見ていた。
腹を割って話せない魔法使い達とは裏腹に、この二人は割と仲がいいようだ。
そこへノーマンがやってきた。
速水のジンの呼び方の変化を指摘しつつも、いがみあう弟子二人に本題を切り出す。

LNGタンカーの、浸水した大型船倉。
彼女がそこにたどり着いた時、彼は既に死の淵にいた。
彼は彼女の父のことを聞き、懐かしいと呟いて巨体をもたげた。
それだけで彼女に大量の水が降り注ぎ、彼の胸骨のいくつかが砕ける。
海に落ちた星の子の血族。17代目の王。
そして、彼の王としての役目は、既に次の王へと受け継がれて久しい。
これは、長い役目を終えた彼が死へと向かうための船旅。
数百の部下を連れ、人のうち捨てた船に乗り込んで。全ては波任せ、運任せ。
知らないうちに涙を流していた彼女を、彼が気遣う。
このまま彼の旅路を共に行ければどんなに幸せだろう。でも、父を裏切ることはできない。
うながす彼に、彼女は言った。
「旧き王よ。我が父に、あなたの御声をお譲り下さい」

328ネクロノミコン:2011/08/28(日) 15:23:15 ID:???
ノースカロライナ州沖、南東約107km。
ジン達は、対魔素加工をほどこした船に乗り込んでタンカーを目指していた。
元は20年ほど前にロシアが放棄した船だったが、現在は「暗き淵の船」となっている。
船にいるのは、千年以上の時の果てに老い、代替わりを終えて朽ちる寸前の太祖。
とはいえ、気まぐれにうろつくこの船は現在までに百名を越す被害を出している。
止めなければならない。

接舷してすぐに船を霧の外へ出し、一行は船の形をした異界を進む。
すぐに、彼らは人型をした魚の群れ――深きものの大群に囲まれる。
群れの中には、ロイガーも混じっているようだ。
一行は彼らを蹴散らしながら進むが、一向に数が減らない。
しかし、ジンが大きな存在の反応を2つ、船底付近にとらえた。
まさか女王もいるのかと思ったが、どうやら同種の反応ではないようだ。
(だが、この感覚……まさか)
なぜか宝鍵の反応が鈍く、うまく判断できない。それでも、ジンは先に進むことにした。

遠く離れたバージニアの港町で、ウェンディがノーマンに状況を報告している。
例の船は、4時間後にこの街に接近するという。
既に爆弾テロという形で住民の避難を進めているウェンディだったが、今回は助太刀があったようだ。
しかし、ノーマンは旧き王がジャッジマンの友人であること、船が進路を変更したことが気に掛かる。

彼女の申し出に、彼は面白いことを思いつくと楽しそうに呟いた。
「では、どのように終わらせてくれるのか?」
彼女が父から聞いたことを伝えると、彼は笑った。

その笑い声は、ジン達のもとへも届いた。
宝鍵の探知能力は低下の一途を辿っている。しかし、魔力放出量は変わらない。
異常があったらすぐに言うようにロアに告げるが、ロアの反応も鈍っていた。
ロアもまた、ジンとよく似た、懐かしい気配を感じていた。
深きものの上位種を見つけたパットの叫びが、ロアを現実に引き戻した。

片っ端から倒していくうちに、帰依者達の気配が引いていった。
旧き王みずからが立つために、その元に集結したのだ。
まるで宝鍵がジンに何かを感じさせないようにしているような、奇妙な感覚。
考え込みながらも、船の速度が上がったというパットやレイモンドの言葉に的確に答える。
ウェンディに針路上の街の避難を進めさせているというジンの言葉に意外そうにするレイモンド。
必要だからと淡々と答え、ジンは皆に足元に気をつけるよう指示して奥へ進む。
それを見ていた速水は、ジンにリーダー、あるいは教師としての才覚を見出した。
そして、ジンが宝鍵を手に入れた由来や、一人で異界を廻り戦う理由について考える。
速水はジン・レイカーのことを何も知らない。聞いてしまえば後悔しそうで、怖いのだ。
ウェンディやノーマン、レイモンドに聞けば教えてくれるのだろうか? 
答えはきっと、まとわりつくような虫の声の中にある。

329ネクロノミコン:2011/08/28(日) 15:27:01 ID:???
「彼ら」が来てから、旧き王の棺は熱狂に包まれていた。
皆が牙や爪の意味を思い出したように打ち鳴らし、饗宴へと向かい、帰ってこなかった。
その力に、彼は「幕引きにふさわしい」と感嘆をもらした。
彼女はふと、「彼ら」について知りたいと思った。「彼ら」に奇妙な親近感を感じている。
しかし、内なる声は彼女に「彼ら」と会ってはいけないと警鐘を鳴らす。
彼女はそれを無視し、闇の中へ走り去る。彼はもう、彼女を見てはいなかった。

船倉で、彼らはついに旧き王の玉座にたどりついた。
ペリシテの古い悪夢。ダゴン。
その巨大な姿に、速水は恐怖するより先に憧れを感じた。

彼女は、闇の中から玉座の戦闘を見ていた。
幕引きを前に笑う王。ひたすらに殺戮と闘争を繰り広げた果ての、おしまいの詩。
泣いていてはいけない。この時のために、ここにいるのだ。

ダゴンとの戦いに勝利し、残っていた深きものどもも下がっていく。
感慨にふけっていると、ジンの宝鍵がジンの制御を離れて動き出す。
まるで、宝鍵がジンの動きを留めているようだ。
動揺する一同の耳に、詩が響く。
いつの間にか、ダゴンの骸の上に誰かが立っていた。かつて速水を助けた少女だ。
速水の呼びかけに、歌っていた彼女が反応を示す。
「……アリスッ!!!」
絶叫したジンが、制御のきかない宝鍵を無理矢理展開した。飛び散る血飛沫。
少女はしばらくジンを黙ってみていたが、やがて恐怖に震え出した。
その背後で、ダゴンの骸が突如爆ぜた。赤黒い臓器が少女の背後に浮かぶ。
異形の臓器を見て、速水はあれが声帯だと直感する。
しかし、ジンはそんなものには構わず、少女に向けて絶界を放つ。
(それをやれば、あんたはもう戻れなくなる)
だめだと、止めろと叫んでも、ジンは止まらない。
速水は絶叫した。


※感想:「ラバン直伝の杖術が少し見たかったかも」。綺麗な顔を殴ったことはいいのか。
※携帯:ノーマンは大の機械嫌い。理由については本人がモンストラバルツで述べている。
※呼び方:バウム邸の件以降「ジン」になる。徹底的にタメグチで通してやると決めた模様。
※助太刀:ノーマンがウェンディに託したシュリュズベリィ博士の書状。
※絶界:ジンの必殺技。ジンとレイモンドは集中コマンドがないので必殺技を使いづらい。

今回はここまで。あと2回くらいで終わるはず。
次はジンとロアが抜ける&敵が超ロングレンジだからマジ辛いんだよね……。
射程6に釣られて楽団の魔骸は作るなよ! 移動1はハンデ以前の問題だぞ!
335ネクロノミコン:2011/08/29(月) 21:07:21 ID:???

バージニア州の州軍施設で、ウェンディはレイモンドとパットに事情聴取をしていた。
ジンが少女へと放った攻撃を、速水は変身せず生身のままで受け止めた。
爆発の中、パットは彼の体がロアとは違う巨大な異形へと変わっていくのを見たという。
その後タンカーは崩壊しだし、レイモンドが開いた門から倒れているジンを連れて逃げたのだ。
タンカーが港に侵入して18時間。街は、すでに異界初期層に近しくなっていた。
予想呪染範囲は650m。既に、「詩」も確認されているという。
レイモンドは、少女がダゴンから摘出した臓器について考えをめぐらせる。
ジンの取り乱しぶりをいぶかしむレイモンドと押し黙るウェンディの元に、詩の報告が届く。

最終章 夢幻狂詩

速水は、夢の中で母親と電話していた。
ジンとアリスの間に飛び込んでから、記憶が混乱しているらしい。
途切れ途切れの声が、すこしずつだが聞こえるようになってきた。
どうやら、自分は怪物になろうとしているらしい。
しかし、老人の声が、元に戻れる可能性はあるといった。
アリスは死んだ速水を甦らせるために直接詩をほどこした。
その折、アリスはかりそめながらも速水を「白痴の揺り篭」へと導き生者の夢を見させた。
しかしかりそめであったため、ささいなことでその夢は醒める。
再び帰依者に襲われたことで、身を守るために「獣」を降ろすという最悪の目覚めをしたのだ。
もう一度それを行えば、あるいは再び人としての夢を見られるだろうと声は言う。
意識がはっきりしてきた速水が、声の主に誰だと尋ねる。
黒い衣の老人は、名前など「白痴の揺り篭」に至った際に捨てて覚えていないと答えた。
彼こそが、原書の詩「ネクロノミコン」の作者。アブドゥル・アルハザード。

自身の血液を魔素に変換してまで絶界を放ったジンに呆れるノーマン。
「……そうまでして、己の妹を討ちたかったか?」
いまだにあれを妹ではないと言い張るジンを、ノーマンは静かに諭す。
宝鍵がアリスを探知しなかったのは、ジン自身がアリスに手を下すことを怖れていたから。
宝鍵はジン自身であり、ジンのために力をふるう。だから、ジンを止めたのだ。
しかし、ジンは己の意地だけでアリスを攻撃した。それはまさしく、自己の否定。
そして宝鍵は裂けて血を流し、ひっそりと閉じた。
それでも、ジンは認めない。
「……もう、家族の夢は見ません」
速水のことは惜しかったと言い、ノーマンは立ち去る。ジンはまだ、納得できていなかった。

夢の中、速水はアルハザードと会話を続ける。
アルハザードは詩人として「次なる段階」の霊感を欲していた。
それは「人では作りえぬ詩」を作ること。そのためにネクロノミコンを作ったのだ。
身もふたもない一言でまとめてしまった速水は、それだけのためにと呆れる。
しかし、10年前にここへ来たジャッジマンも同じだったと彼は述べる。
「向こう側」を見てみたい。それだけのために、妻と娘を楽器として取り込んだのだと。
「お前も彼の詩を聴いただろう? 彼の楽器たる娘の詩を聴いたのだろう?」
ジャッジマンの苗字に反応する速水。すると、歌う少女の声がする。
それにつられるように行ってしまった速水を、アルハザードは引き止めなかった。
「叫び」だけで揺り篭の入り口まで至り、「獣」を降ろした速水に少し感心するアルハザード。
「まあ……どの道、この戯曲の結末は変らんのだがな……」

336ネクロノミコン:2011/08/29(月) 21:07:42 ID:???
奇認会の特殊部隊が歪む街に集う。15分後。彼らは、狂気に至っていた。
ジンはため息をつき、ウェンディに彼らを回収させる。特視を使わせるなと忠告して。
揺れ踊るビルの群れの中、ジン達は転移門を開き再びタンカーへ乗り込む。
レイモンドは、結局ウェンディからレイカー家の事情を聞きだしたらしい。
ジャッジマンの紡いだ、夢幻狂詩。しかし、何かが決定的に足りない。
と、ビルの陰から帰依者達がやってくる。魔王の眠りを司る楽器と成り果てた人々。
ジンが宝鍵を開こうとするも、開かない。
レイモンドはジンを下がらせ、パットや魔骸と共に迎え撃った。

激しい戦いの中、レイモンドはパットに礼を述べる。
しかし、二人だけでは強力な帰依者に立ち向かうのは荷が重い。
後退しようとするレイモンドだが、アリスともう一人の気配を感じたジンは転移門に飛び込む。
宝鍵の使えない今のジンが単独行動するなど、自殺行為だ。
レイモンドとパットは、ジンを止めるために後を追う。

最初に会ったビルの中、速水はアリスと話をしていた。
好奇心だけで動く子供っぽい父親、父を愛した母親、父に憧れその背中を追う兄。
アリスは、優しい両親や大好きな兄といるだけで幸せだった。
そんな思い出は、ザァというノイズのような波になる。「寂しい」という父の声になる。
そうなるとアリスは、ただ父を助けるためだけの生き物になってしまう。
速水に助けられるまで、アリスは速水のことも、ジンのことも忘れてしまっていた。
なぜここにいるのだろうと不思議がる速水に、アリスは答える。
ここは速水とアリスの詩が交わってできた場所であるため、二人の記憶が共有している場所になったのだ。
夢みたいなものだと理解した速水が故郷の高原を思い浮かべると、そこはその通りの場所になった。
優しい風が、葡萄の匂いを運ぶ。母の故郷の風景に、アリスは微笑んだ。
並んで座る二人。髪と肩が近いことに少しドキドキする速水。
髪が長くて大変そうだと言った速水に、アリスは編んでみるかと訊いてきた。
アリスの髪に触れたいと思いながらも、速水は重要なことを尋ねた。
「……君の親父さんは……今、何を望んでるんだ?」
アリスは、父は「さびしい」としか感じていないという。もう、他者を認識できないとも。
寂しいから、少しでも自分の匂いに近いものを作りたい。寂しいから、呼びかける。
「いつものアリス」は父を慰めるために、様々なものを束ねて完全な詩を模索する。
全ての人を「白痴の揺り篭」へと誘う詩を。皆を父の傍らへ。
高原が消えてゆく。ジャッジマンが、近くに来ている。アリスが「いつものアリス」になる。
「いつものアリス」による詩の完成は近いとアリスは言う。引き伸ばせても、半日。
最後に、兄に伝えて欲しいことがあるとアリスが言う。

337ネクロノミコン:2011/08/29(月) 21:08:02 ID:???
タンカーの中では、楽団が魔王のための曲を奏で続けていた。
これ以上進むと転移門が作れないとレイモンドが止めるが、ジンは聞いていない。
船が、また動き出す。どうやら、人の気配を目指して移動しているようだ。
ジンは、ふと声を聞いて足を止めた。
《業》
宝鍵に、再び力が満ちる。楽団達が下がっていく。そこから現れたのは、巨大な黒き獣。
吠えるもの……速水だ。
《……ジン……》
速水に言われるままに、ジンは宝鍵を展開して制御式を打ち込む。
既に制御式に免疫のできている速水には、制御式は効かない。だが、時間稼ぎにはなる。
5分の間に、自分の中の「獣」を駆逐しろとジンは叫んだ。

速水は、自分がロアの姿になっていることに気がついた。
そして、目の前には黒き獣。
これを……倒せば……。

一行の目の前で、黒い獣の姿が歪んでいく。それはやがて、ロアの姿になった。
ジンが呼びかけると、ロアはゆっくりと速水の姿になった。
驚くレイモンドとパットの前で、速水は静かに口を開いた。
「……よう、ジン」
「……おう」

歪む街を眺めながら、ノーマンとニアデスが会話をしている。
各地の詩篇事件発生現場で、門が再活性化しているという。
世界の終わりにノーマンに会いたくてここまで来たというニアデス。
「姫」に目を捧げる誓いがあるのなら、今すぐ叩き起こして来いと無茶を言うノーマン。
彼らも「詩」の完成が近いこと、世界中にそれが流れることを感じ取っているのだ。
凪の星が全天に満ちる。夢魔が天蓋に満ちる。
思わずニアデスの本名を呼んでしまうノーマン。しかし、彼女には何もできない。
ただ、この光景を目にやきつけることだけが彼女にできることだった。
ただ、倒れるかもしれないニアデスを支えることだけが彼にできることだった。

タンカー内部では、速水がアリスから聞いたことをジン達に伝えていた。
ジャッジマンは、ダゴンの声帯と自分の体を融合させ、一つの魔器とした。
そうでもしないと、彼は自分では歌えないのだ。それほどに、弱っている。
しかし、ジャッジマンが歌えば、その「詩」は世界を覆う。
速水は、本当のアリスはそれを止めたいと考えているのだと伝える。
呼びかける速水に、それでも答えず宝鍵を展開しようとするジン。
「煙草、やめたのか?」
その一言で、ジンは動きを止めた。
1日1カートンは吸っていたこと。寝タバコで小火を起こしかけたこと。
それらを語られるうちに、ジンの張り詰めていた鬼気が冷めていく。
ジンが落ち着いたのを見計らって、レイモンドが声をかける。
今の状態では、もう脱出は不可能。最下層の太祖を討ち、界を掌握するしか方法はない。
そして、太祖の端末たるアリスに「詩」を完成させるわけにはいかない。
行動の優先順位を決めるように振られたジンは、一瞬沈黙した。
しかし、すぐに端末帰依者の掃討が先だと答える。
ここに至っても「帰依者」と言い切れるジンに、レイモンドは呆れながらも「そうでなくては」と思った。
そしてここに至るまでパットの名前を覚えていなかったジン。速水も呆れた。
アリスの掃討を、速水とパットに託すジン。速水はいいのかと問いかける。
「既に……終わっていたことだ」
(これ以降、製作可能な魔器・魔骸が追加されます)

338ネクロノミコン:2011/08/29(月) 21:08:51 ID:???
レイモンドが緊急用の転移門を作っている間、ジンは速水から揺り篭の入り口でのことを聞いていた。
魔術の根本は夢みたいなもので、揺り篭は来訪者の夢に従って必要な回路を作ってくれる。
自分の中の「獣」を倒すことも一種の術式となって、自分自身に制御式を施すことになった。
そう理解した速水に、ジンは及第点を与えた。
煙草の件は、アリスから聞いたという。父親の影響だということも。
お前も吸うのかと聞かれ、速水は昔は吸っていたと答えた。今は金銭的な理由でやめていると。
全てを終えた時に吸うために、懐に煙草を入れているというジン。
その時には一本分けてくれと頼む速水に、考えておこうと返した。
そうこうしているうちに、レイモンドは門を作り終えた。
この門は、太祖を倒して魔素濃度が一定以下になると自動的に起動するという。
彼らは、船倉へ向かった。

船倉から甲板を貫くように穿たれた穴から差し込む夕日の下。彼は、そこにいた。
その体は異様な生命力に満ちていたが、速水は彼から胸を締め付けるような脆弱さを感じた。
ジャッジマンは、息子を目の前にしても何の反応も見せなかった。
ただ、壊れた玩具のように、娘の声をオウム返しに歌っているだけだった。
ジンは、静かにその光景を見ていた。そして、速水に問いかけた。
「……戦えるか?」
彼は彼なりに、速水の行く末を案じているらしい。
速水は答えて、ロアとなった。

アリスは、最期まで美しい少女のままだった。
『せめて、人の夢を』
ジンと速水が最後に贈ったのは、同じ言葉だった。
アリスは、その体を儚く崩れさせながら微笑んだ。
「貴方たちには未来の夢を」

制御を失ったタンカーが、港に突っ込んでいく。転移門も起動した。
避難を急ぐようレイモンドとパットが二人に声をかける。
アリスの最期を見届けたロアが一言、きれいだったなと漏らす。
ロアの姿のままでしゃべれるようになったことにジンが驚いた。
と、ジャッジマンが吠えた。彼は、悲しくて泣いていた。
外部と自分を繋ぐ唯一の感覚器であった娘を失い、彼は世界から剥離した。
閉塞感、疎外感、孤独、不安、絶望。
彼は寂しさに耐えられず、ついに自ら世界を拒んだ。
もう、彼は夢を見られない。愛しい家族の夢を。

黙って父の最期を見届けていたジンに、ロアの姿のままの速水が言った。
速水は、宝鍵がジャッジマンの力の一部で動いていることに気がついていた。
ジャッジマンが消えれば、宝鍵が消える。ロアの制御式も崩壊する。
今なら「白痴の揺り篭」を使って制御式を再現できるとジンが言う。
らしくないと速水は笑い、首を横に振った。
今の速水は揺り篭に近すぎて、騒ぐと真ん中で眠っている■■■■■を起こしてしまう。
宝鍵が完全に朽ちる前に、やるべきことがある。
「……速水」
《応よ》

港では、ウェンディが燃え盛るタンカーに突っ込もうとするレイモンドを止めていた。
レイモンドは、ジンと速水が持つ「揺り篭」へ至る道をまだ求めていたのだ。
すると、パットが二人に気づいて声を上げた。

それが、ジンの宝鍵による最後の魔術だった。
速水の完全凍結。容易なものだった。
アリスの遺した言葉を思い出す。復讐のためだけに生きた自分に何が残っているのかと。
この先に何があるのかと問いかけても、彼は答えない。
ジンは速水を背にして座ると、懐から煙草を取り出してくわえた。
懐かしい紫煙の先には、悪夢より過酷な現世が見える。
灰を噛んだような不快感を吐き捨て、ジンは呟いた。
「……不味い……」

※白痴の揺り篭:事象の絶対軸にある夢の坩堝にして棺。ここに至れば何でもできる。
※「獣」:アルハザード曰く「姫」に降りた星の一柱かもしれない、とのこと。
※高原:祖母の家の近くらしい。ちなみに、山梨県とのこと。
※ニアデス:本名はシェーラ。ちなみに今の名前は「死に至る名」という意味。かわいいのか?
※■■■■■:混沌の魔王。普段は揺り篭の中央で楽団の演奏を聞きながら寝ている。

339ネクロノミコン:2011/08/29(月) 21:11:51 ID:???
本編はこれにて終了です。
……ハッピーエンドじゃないのかって? 十分ハッピーですがな。
だって世界滅亡してないよ? 主人公正気で生きてるよ?
そもそもクトゥルフ神話絡んだ話は「ああ、窓に! 窓に!」EDがほとんどですよ。

次でラストです。外伝は残念なイケメンが主人公です。

340ネクロノミコン:2011/08/31(水) 20:18:24 ID:???
外伝いきますー。
残念なイケメンの残念っぷりをとくと堪能あれw
ちゃんと魔骸育ててないと数の暴力で泣きを見ます。後半ステージとか。


外伝 夢幻郷の虜

詩篇事件の終焉から半年後。
パットは、ノーマンからジンと速水のその後について聞いていた。
ジンは宝鍵の切除後、ウェンディと共に速水の実家に今回の件を報告するため日本に渡った。
奇認会顧問の話はまだ保留にしているが、本部は契約続行を薦めてくれているという。
宝鍵はなくとも知識と経験があり、また宝鍵を用いない魔術の習得も彼には難しくない。
最も、今のジンには魔術を使う理由がないのだが。
日本から戻ったら、ジンに折を見て人材育成の話を振るつもりだというノーマン。
そして速水は、奇認会本部によって無期限保管されることになった。場所は明かせないという。
ウェンディは彼の家族に十分な補償を出すことを約束したが、それは問題ではない。
ジンが初めて背中を預けた青年は、もう二度と帰らない。
レイモンドについて訊かれたパットは、彼は地下にいると答えた。
ドロシーが作り出した異界への侵入準備を進めている、と。
頼まれていた魔器や魔骸の生成情報の入ったメモリと伝言をパットに託し、ノーマンは去った。
「ここで止めれば、お前は幸福に至るだろう」

師の伝言を軽く笑い飛ばし、レイモンドはパットと共にドロシーの待つ異界へと向かう。
ジンがドロシーに施した凍結術式は、宝鍵が失われたことで綻んだ。
ドロシーはそこから術式を破壊して、「己の中」――揺り篭の入り口付近へと跳躍した。
そこに自分の内的世界を展開し、外界からの干渉を拒絶している。
レイモンドは、その空間に「夢幻郷」と名をつけた。
彼の目的は、ドロシーを見つけ、「彼女自身が自分を思いだすように」施術すること。
しかし、今のドロシーは自分のことを思い出せない状態である可能性が高い。
そのため、レイモンドの中にある「ドロシーの記憶」を術式として展開するのだ。
ドロシーとほぼ同じ身体を持つパットの情報と共に。
夢幻郷は、侵入者――レイモンド達の記憶を読み取りその情報を武器として使用する。
つまり、彼らの記憶にある帰依者達が現れるということだ。
しかし、パットが背中を護ってくれるなら必ずドロシーを救えるとレイモンドは言う。
「……パット。よろしく、頼む」
(これ以降、製作可能な魔器・魔骸が追加され、新しい魔骸も追加されます)

341ネクロノミコン:2011/08/31(水) 20:18:54 ID:???


/ココカラヨダン
ここから夢幻郷全20ステージを攻略していきます。
(といっても基本的には敵を殲滅するだけ)
序盤でアリスの魔骸を作っておくと非常に楽(素の能力が高くコマンドも多いため)。
というわけで、本編最終戦でリセットしまくって少女結晶をもぎとりましょう。
ココマデヨダン/

夢幻郷の奥でドロシーを見つけたとき、パットの胸に湧き上がった感情。
それは、レイモンドと出会った路地裏に置いてきたはずのものだった。

家に帰りたいと叫ぶドロシー。しかし、その正気はとうに失われていた。
それでも、レイモンドは帰れると信じていた。少し、迷っているだけだと。
パットの諫言も、レイモンドには届かない。
ドロシーと共に二人の家に帰るため、レイモンドは杖を構えた。

倒したドロシーの肉体が、自己修復を始める。レイモンドはパットを近くに呼び寄せた。
パットの思い描く彼女自身の姿が、ドロシーの復活に必要なのだ。
術に必要な魔力を補うため、ジンを真似て血液を魔素に変換するレイモンド。
体がもたないと止めるパットの声も聞かず、レイモンドは呪文を唱え始める。
「私は……」

夢幻郷の奥でドロシーを見つけたとき、パットの胸に湧き上がった感情は。
侮蔑。嫌悪。嫉妬。
あの醜悪な肉塊にギガンテス・コームを叩き込んでやりたい。ぐちゃぐちゃに壊してやりたい。
ドロシーに対する凄まじい破壊衝動が、パットの胸の内で荒れ狂う。
それでも、パットの顔は、人形のように変わらなかった。
それがが地に伏してわけのわからない姿になっても、まだレイモンドはそれをドロシーと呼んだ。
「ドロシーの姿を思い浮かべてくれ」
ああ、それでは、怪物になってしまいますわ。

342ネクロノミコン:2011/08/31(水) 20:22:12 ID:???
自らの血で赤く染まったレイモンドは、パットの腕の中にいた。
既にその目に光はなく、焦点も合っていない。血を吐きながらも、彼は言葉を紡いだ。
「パット……ドロシーは!?」
後ろにいます、とパットは答えた。
「その物言わぬ肉の塊が、私が思い描いたドロシーなのですよ」
パットの描いた夢のとおりに、ドロシーだった肉塊は、やがて空気に溶けて消えるだろう。
その言葉は、レイモンドには届かなかった。彼はただ、ドロシーの名を呼び続けた。

暗闇の中、少女の声がした。
「レイ……酷い格好ね」
それは、ドロシーの声だった。
「……夢を見ていたよ」
レイモンドが、それに答える。
優しい言葉、懐かしい言葉を紡ぐ彼女に、レイモンドも穏やかに答えた。
「いつも、ありがとう。パット」

そして、私は完成した。

一ヵ月後。
ずいぶんと老けたノーマンが、ニアデスと共にバウム邸を訪れていた。
パットは、ノーマンからの養子の話も断り、この屋敷を守り続けているのだ。
土地や株の権利書、有名学校への推薦状、バウム家分家への保護願いなど。
レイモンドは、パットに様々なものを遺していた。
そこへ、パットがお茶を持ってやって来た。ウェンディから贈られたシッキムだ。
ニアデスが、パットのお茶と彼女が作った庭をほめ、自分のところで働かないかと誘う。
それを聞きながら、ふとノーマンは庭に咲いていたスカビオサの花言葉を思い浮かべる。
パットはニアデスの誘いも断り、二人に礼を述べる。
「うむ……いい笑顔だ。パトリシア・D・バウム」


※メモリ:パソコンについてウェンディや速水から習っていたらしい。がんばるね教授。
※少女の声:パットはドロシーのVTRを何度も見、彼女が隠していた日記も読破していた。
※老けた:半年の間で古い友人とその娘、元弟子を失ったのです。お察し下さい。
※スカビオサ:花言葉は「喪失」「不幸な愛」。

これにてネクロノミコンは終了です。
昔配布してた壁紙が今更ながらに欲しい……。





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