BIOHAZARD 6 (クリス編)

2012年10月よりこのページの直接編集で投稿されたもの
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2013/6/29
東欧のとある街の片隅でクリスは酒をあおり続けていた。
もう一杯だとグラスを突き出し、呆れながらも女性店員は瓶を取りに踵を返す。
隣の席で分厚い肉の切れ端を口に運んだ短髪の若い男がふと笑みを漏らし
「この辺じゃなかなかうまいステーキが食えなくてね。でもここのはアタリだ」
悪酔いそのもののクリスに何故か親しげに話しかけてきたが、当然の如く彼は返事もせず顔を背けた。
やがて店員が戻ってきたがグラスに注いだのは申し訳のようにほんの少しだけ。
「もう十分でしょ」とたしなめられるも彼女から瓶を奪い取り、更に注ごうとするクリス。
すると彼女はクリスからグラスをひったくって中身を彼の顔にぶちまけた。
もう帰ってと吐き捨てられたクリスは「帰る場所なんかないんだよ……」うそぶいてふらふらと歩き出す。
そんなクリスに地元民らしい男が「帰れって言われたろ?」と絡むと
クリスはやおら男の腕をひねり上げ、手にした酒瓶で殴りつけようとしたが、
「ひどい有様ですね。クリス・レッドフィールド」
彼の腕を掴んで止めたのは、さっきの若い男だった。

男はピアーズと名乗った。ピアーズ・ニヴァンス。だがクリスには覚えがない。
そう言うと「これはどうです?知らないって言うんですか?」ピアーズは手にした携帯端末を突きつけた。
画面には燃える街が写っている。バイオテロ。だがクリスはそれも覚えていない。
ただそれを見ると必死に手を伸ばす兵士服の若い男が頭をよぎる。
首を振り、苦しむクリスにピアーズは過去と向かい合うべきだと強く言う。
「誰なんだ、お前は?何が言いたい!?」
「思い出せませんか、俺のこと。じゃあ彼らはどうです」とピアーズは端末を操作し、再びクリスに突きつけた。
画面に並ぶ幾人もの顔を何故かクリスは直視できない。
「見るんだ!みんなあんたに全てを託して死んでいった仲間だ!そうやって目を背けて全部なかったことにする気かよ!」
しかしクリスは彼の手を振り払い、頭を抱えてうずくまってしまう。
「半年間死に物狂いで探し続けた結果がこれかよ……!」
それを睨みながら苦々しげに呻くピアーズ。
半年前起こったとある事件でクリスは重傷を負い、同時に記憶を失ってしまった。
その後彼は病院を抜け出し、行方を絶ってしまっていたのだ。
「BSAA……」さまよっていたクリスの目がピアーズの制服の肩に縫い付けられたエンブレムに吸い寄せられる。
呟きを耳にしたピアーズは「あんたの帰るべきところだ」と頷く。みんなが待ってる、と。
眉を寄せるクリスに背後を振り返って見せるとそこにいた客たちが次々と立ち上がる。全てBSAAの隊員たちだった。
「あんたを迎えに来たんだ、隊長。何が何でも連れて行く」
強い口調で言うピアーズにクリスは無言のままだった。

俺は何から逃げていた?その答えを知らなければ永遠に前へは進めない。
失った記憶を取り戻すため……俺はコイツらの“隊長”をやる。

2013/06/30
『HQよりアルファ。作戦に変更はない。バイオテロを鎮圧しつつ、ポイント“スペードエース”を目指せ』
中国・偉葉(ワイイプ)中空を飛ぶヘリからビル屋上へとBSAA隊員が次々と降下する。
「BSAAが現場に到着しました!アメリカの事件との関連性についてBSAAの見解は!?」
ビルを出た途端にマイクを突きつけてきたリポーターを押しのけて「なんて有様だ……」とクリスは息を漏らした。
道にはガラスの欠片や瓦礫が散らばり、ビルのあちこちから爆発と共に火の手が上がっている。
本部からの指示に従い進んでいく途中で彼らが目にしたのはジュアヴォと呼ばれる新型B・O・Wが民間人を虐殺していく光景だった。
再生能力があり銃器も使いこなすこれらのB・O・Wと半年のブランクがありながらも互角に渡り合うクリスを
「カンは鈍っていないようですね」ピアーズが賞賛するが、
おべんちゃらなら帰ってからにしてくれ、とクリスはそっけない。
だがそんな彼にちょっとした異変が起こる。
喉を掴みあげられ、窮地に陥った仲間を救うため、ピアーズが敵の腕を精密な狙撃で打ち抜いた後のことだ。
両者は床に倒れ、クリスがカバーしようと走り寄るが、途中で彼は立ち止まってしまう。
クリスの目に映っていたのは打ち抜かれた腕を変異させて再度襲ってこようとしている敵ではなく、
こちらに必死に手を伸ばしているBSAA隊員の姿だった。その姿が誰かに重なる。人のよさそうな青年の顔。
咄嗟にピアーズがクリスに飛びつき、化物の一撃を辛くもかわすも、彼はピアーズに肩を叩かれ我に返るまで呆然と過去の幻影を見つめていた。
道を進むごとに戦闘は激しさを増し、負傷者を手当てするためもあって加速度的に隊員の数が減っていく。
『HQよりアルファ。その先にある雑居ビルが目標地点の“スペードエース”だ。ビル内に拉致されている国連職員を急ぎ救出せよ』
そう通信機が告げた時には、ピアーズと二人きりになっていた。
他隊がリリーフに来てくれるよう手配してくれたが、敵のRPGでこちらとの通路が断絶、到着まで時間がかかると言う。
「しばらくはツーマンセルか、しょうがないな」
ぼやきながら何とか敵をさばくも目的地が近いせいか次々と湧いてきて手に負えなくなってくる。
「キリがない……!」あわやと思われたその時
『よお、お二人さん!俺たちを待ってたんだろ!?』ヘリが上空に現れ、滑り降りてきた隊員たちが掃討を開始した。

ビルに辿り着き、作戦を開始する。一階と七階に捕らわれている人質を助け出し、ビルから離脱するのだ。
離脱と同時にビルは爆破される。
まず七階。周囲のジュアヴォを一掃し、すすり泣きの漏れるドアの前で聞き耳を立てる。
蹴破り、突入すると男女の職員を腕に捕らえた蜘蛛型のジュアヴォが飛び出し、逃げ去ってしまった。
カサカサ走るのを追いかけて倒し、何とか二人を救出する。
次は一階へ向かうがエレベーターが降りる途中で停止、天井から出ようとしたところをRPGで攻撃され、ついで敵の猛攻が始まった。
何とかしのいで全滅させたものの思いのほか手間取ったらしい。
階下に降りる間に次々と他隊の脱出報告が入り、残るはクリスたち二人だけ、つまりその脱出と同時に爆撃が開始されることになる。
二階の吹き抜けから様子を伺うと、哀願する声と敵の気配。合図し、同時に飛び降りる。
全員を倒した、と思ったその時、背後に敵が飛び降りてきて、女性職員の首を……
掻ききろうとする寸前、抜き撃ったクリスの銃が最後の一人を撃ち抜いた。

「HQ!アルファ離脱完了!人質も無事!」ピアーズの報告に爆撃の開始が告げられる。
二人、目を見交わし脱出しようとシャッターに向かった瞬間……瓦礫が崩れ落ちてきて退路が塞がれてしまった。
「……マジかよ」思わずと言う風にピアーズが呻いた。
しばし呆然としていると『HQよりアルファ』通信が入った。
三階のベランダから脱出できるらしい。
聞いた途端、二人とも弾かれたように走り出す。
本当に時間がないのだろう、駆ける間にも離脱を急げとせかしてくる。
「仲間の爆撃で殉職なんてゴメンだぜ」またピアーズが呻く。
二階のドアを蹴破った途端、建物が揺れ、天井から建材がなだれ落ちてきた。
「おい始まったぞ、俺たちの存在は無視か?」クリスが叫ぶと
「無視されちゃいませんがね、作戦の進行が第一なんですよ」ピアーズがボヤキとも諦めともつかない言葉を返す。
吹き寄せる熱風から顔を覆いながら三階へ、
往生際の悪い敵が揺れ続ける周囲をものともせず襲ってくるが完全に無視して
手摺の落ちたベランダに駆け寄り、階下へ向かって飛び出した瞬間。
ミサイルがよりにもよって二人の真上に着弾し、思いっきり吹き飛ばされた。
コンクリート塊と一緒に地面に転がり、跳ね起きてなおも走る。
二人がビルの角に飛び込むのと同時にまたもミサイルが着弾し、“スペードエース”は完全に破壊された。
しかししたたかに身を打ちながらも二人はすぐに起き上がる。
これで「任務完了」とは行かない。相手は人間ではない、言わば化物なのだ。残敵がいる可能性も捨てきれない。
油断なく銃を構え、ごうごうと燃える廃墟に近寄った彼らが見たのは……異様な「もの」の群れだった。

泥でこね上げたような、金属で出来た像を中途半端に溶かしたような……奇妙な塊。
不気味に「ヒト」の面影を残すそれらを見つめていたクリスは、不意に苦悶の声を上げながら頭を抱えてくずおれた。
「それ」の一つはこちらに手を伸ばすような形をしている。
「隊長」目を瞠り、ピアーズが呟く。
やがて硬く閉じていたまぶたを開けて、クリスは脳裏に甦った青年の名を囁いた。
「フィン……」

2012/12/24
東欧、イドニア共和国。
力なく担架に横たわったBSAA隊員をピアーズが沈痛な面持ちで見つめている。
「敵から得た情報を持ち帰るため、一人で無茶を……」
歩み寄ってきたクリスにそう説明し、戦死者が運ばれていくのを見送った。
周囲に集まった隊員たちにクリスは語りかける。
BSAAの指名はバイオテロをなくすこと、その為には若い彼らの力こそが第一なのだと。
「俺たちは捨て駒じゃない」
同じく語るピアーズに頷き、彼ら若い隊員が生き残り、同士を増やすよう力づけるクリスの言葉を聞いて、隊員の一人が鼻をすする。
ピアーズにメソメソするなとたしなめられて人のよさそうな若者は慌てて背筋を伸ばした。
「フィン、情報を」ピアーズが促すと彼はペンライト型の情報端末で地面にいくつかの映像を映し出した。
今回の掃討対象である反政府ゲリラが使用しているのは「ジュアヴォ」と呼ばれる新型のB・O・Wで
高い知能や変異能力を持つという。
これらを抑える為三チームに分かれて行動するようクリスは指示し、彼らは作戦を開始した。
各員が慌しく散開する中、クリスは新人のフィンを「俺たちは家族だ。家族を信じろ」と励ます。
立ち去るクリスの背中を見て、フィンが「素晴らしい方だ」と感激した面持ちで呟くが、
ピアーズはやれやれとでも言いたげに首を振り、踵を返す。
フィンは相手の態度を図りかねてただきょとんとするのみだった。

同日、同国、同じ街。それより少し前―――。
反政府ゲリラのアジトの廊下を兵士服を着崩した坊主頭の若者が一人、ぶらぶらと歩いている。
低く口笛を吹きながら左手のリンゴを宙に投げ、キャッチして、崩れかけた壁に背を預け、座り込んだ。
白く凍る口笛のメロディをふと止めて、彼はもう片方の手に持ったもの……スティック上の簡易注射器を眺めると、
傷痕の残る頬に小さく笑みを浮かべ、それを首筋に押し当てた。
同じ施設の別の廊下。短い金髪の女性が部屋の中を窺っている。
幾人もの男たちがさっき若者が持っていたのと同じ注射器を腿や腕に突き刺し……やがてうめき声を上げだした。
女性はまだ幼さの残る顔に緊張の色を見せて壁の陰に身を隠したが、やがて彼らが地面に蹲った隙に戸口を横切り、駆けだした。
ドアが蹴り壊されるのにちらりと目をやったが、頬傷の若者の視線はすぐに注射器へと戻った。
「効いたかい、これ?栄養剤らしいが……俺にはよくわかんねえ」
手の中で弄っていたそれを放り捨てて、立ち上がる。
「ここだけの話……これなら、ギャラ上げてもらうんだったな」
ぼやいた途端、息荒く歩み寄っていた男がナイフを振り抜き、リンゴが真っ二つになった。
「……高くつくぜ」
薄く笑って呟いた頬傷男は半欠けのリンゴを投げ捨てると、
勢い余って壁に刺さっていたナイフを抜き、襲ってきた男
……目玉が飛び出しかけた眼窩から血が湧き出しどう見てもバケモノ面……の腕を掴みとめた。
「お互い金で雇われた身だ。その意味、わかるよな?……仲間でも何でもねえ」
言うが早いか、腕をねじ上げナイフを捨てさせ、膝蹴りを浴びせ、足は折るわ腕も折るわ、
トドメに相手の頭と腕を掴み、回転力で投げ飛ばして壁に叩きつけ、
地に落ちるのさえ許さずに鳩尾に蹴りを食らわせ、最初の宣言どおりバケモノ男をボコボコにのしてしまう。
「その注射、使ったの?」
地面に転がった男から駆け寄ってきた金髪の女性に目を移して
「ああ……興味があんのなら下にいる姉ちゃんに言いな」と返したが、女性は腕時計を見つめて返事もしない。
しゅうという異音に目を落とすと、さっきの男が煙を上げて燃え崩れていく。
「……俺は勧めないけどな」
「やっぱりあなたには抗体が……」確信に満ちた口調の女性に
「そいつはどうも……」と言いかけて「……って何の話だよ?」聞き返すと
「あなたが世界を救うカギなのよ。ジェイク・ミューラー」
壮大な言葉が返ってきて失笑を漏らす。
が何を言う間もなく背後に先ほどの男と同じ幾つもの異様な人影が荒い足音と共に現れて
「何がどうなってんだか……」こぼしながらジェイクは女性が開けたダストシュートの扉の中に飛び込んだ。
駆け寄るバケモノをキッと睨みつけた女性は銃を構えてその足を撃ち、お互いが絡まって転ぶ隙に素早く彼の後に続いた。
その様子を物陰から見ていたもう一つの影がある。
胸元の大きく開いた青い服に身を包んだ女は小さく笑うと漆黒のショートボブを揺らして身を翻した。

背後に落ちてきた女性が水路に尻餅をつくのを見て「……何やってんだ?」とジェイクは眉を寄せた。
「ちょっと転んだだけ」膝を払って立ち上がると懐からパスを出して
「私はシェリー・バーキン。合衆国の……」
名乗りかけるが、逃げるのが先だとジェイクに遮られる。
「来ないのか?」歩き出したジェイクに「……行くわよ」と答えてシェリーは彼の背を追った。

ジェイクが属していた反政府軍にも反政府軍のB・O・W「ジュアヴォ」の為に
この国に現れたBSAAにも干渉されずにこの国から出たいけど……とシェリーは言う。
それはともかくとして水路から出ると外はひどい有様だった。
ジュアヴォが獣のようにBSAAの隊員たちを襲い、BSAAはヘリで無差別爆撃を仕掛けてくる
……と言ってもジェイクの同僚はほとんど皆ジュアヴォになっており、
いまだにジュアヴォになっていない、ごく僅かの例外がジェイクなのだから、
そんなの知らないBSAAが攻撃してくるのは当然で、最善策は一刻も早くここから逃げる事なのだ。
「あなたにケガさせられない……」傭兵に向かって妙なことを言うシェリー。
が、同僚がジュアヴォになってても特に気付かず
普通に接しようとしていたジェイクはこの妙な言葉も同じくスルー。
そんなこんなで取り敢えずは敵のこなそうな小屋を見つけたジェイクは
「最初に条件だけ言っとく」と(一方的な)料金の交渉をしようとする。
「前金で二十万ドル。残りは終わった後。B・O・Wは別料金……」
が「雇いに来た訳じゃない」と言われて疑問顔になる。
目的を問うと「あなたの血……」真剣な顔でまた素っ頓狂なことを言うので鼻で笑って
「献血か?」問い返したが「違うわよ」と続けたシェリーに
彼らジュアヴォは全員新種のウイルス「C-ウイルス」に侵されており、
それはさっき打った薬にも入っていたことを教えられて、一瞬で顔が強張った。
「でもあなたは変異しなかった。抗体があるからよ」彼女を見返し、思わず首筋に手をやる。
確かに体には何の変化もない。

敵はC-ウイルスで大規模なテロを計画していて、
それを防ぐ為にジェイクの持つ抗体によって作り出されるワクチンが必要なのだとシェリーは必死に訴える。
「力を貸して、ジェイク」
それを聞いたジェイクは黙り込み、考え込む様子を見せる……が。
「5000万ドルだ」暫しの後に彼の口から出たのはがめついにも程がある言葉だった。
「何て?」「現金払い。値切りはなし」思わず聞き返したシェリーに更に続けて
「それで俺の血をやる」ジェイクは人差し指を立てて、にやりと笑った。

待ち受けているジュアヴォを倒しつつ崖沿いの道を進む二人。
異様に運動神経のいいジェイクはどうやら他人はそうではないという事がわかってないらしく、
アクロバットな動きが出来ないシェリーが回り道の上にジェイクの手を借りるのを面倒臭がったりするが、
金をもらうまで逃げるつもりはないらしい。
道を更に昇ると、遥か遠くに鉄橋が見えた。厚く垂れ込めた霧に黒煙の筋が混じっている。
更に見ていると一端からもう一端へと砲撃が走り、爆炎が上がった。
「BSAA……苦戦してる」「あの橋を攻めんのは無謀だぜ。切り札の戦車が陣取ってたはずだ」
間もなく全員棺桶の中だと冷めた声で予言するジェイクにそんなことないとシェリーが反論する。
「必ず勝つわ。彼らには信念があるもの」

鉄橋の上では熾烈な戦闘が繰り広げられていた。
動けなくなった負傷兵を救うためクリスとピアーズ達は二手に分かれ、橋を攻略する。
フィンが負傷兵を手当てしている間にクリスが前進して戦車をおびき寄せ、
敵を排して橋全体を見通せる側面についたピアーズがクリスに誘われて突出した戦車の隙から燃料車を狙撃し、沈黙させた。
が、橋の上部の扉を開錠し、先に進もうとしたその時、新たな増援が現れる。
列車砲に加えて落下傘部隊。しかしまだフィンと負傷兵が橋の下部に取り残されている。
自分に構わず先へと叫ぶフィンにクリスはここで待っててやる!引きずってでも連れて来い!と怒鳴り返す。
前にも増して苛烈な防衛戦の果て、負傷兵を運んだフィンが彼らと合流し、列車砲諸共橋を爆破して後方の憂いを絶った。

崖上に陣取った大量のジュアヴォから逃れたジェイクはシェリーと共に水路へと逃げ込んだ。
「で?次はどっちだ?」
流石に少し急いた様子でジェイクがシェリーに向かって肩を竦め、両腕を広げる。
その頃、同じ水路のどこか。反政府ゲリラの男が目の前に迫る鋭い針から逃れようと必死の声を上げていた。
浅い水面に揺れる影が、男をがっちりと拘束した巨大な何かが最早串といっても良い、
機械仕掛けの鋭く長大な「指」を哀れな犠牲者に突き刺す瞬間を映す。
途端、悲痛な絶叫が辺りにわんわんと反響し、ジェイクたちは慌てて周囲を見回した。
と、その背後にジュアヴォたちが現れて一斉に銃を撃ち始める。
「行きましょう、キリがないわ!」促され、「くそっ」上げたジェイクの小さな叫びが水路に響くや否や。
巨大な何かは男を振り捨て、走り出した。
水路の天井が開け、眩さに足を一瞬止めた二人は背後で上がった重なる悲鳴にぎょっとして振り返った。
曲がり角を重い足音がやってくる。
ジュアヴォたちの屍骸が放つ炎を踏んで、姿を現したのは、顔のパーツ全てが潰されたような異相に黒いマスクをした大男だ。
潰れて濁った白い目がジェイクを捕らえると、異様な大男……ウスタナクは同じく異様な機械仕掛けの右手を掲げてゆっくりと歩き出した。
銃弾も空しく右腕に撥ね返されて「逃げるわよ!」悲鳴のようなシェリーの声に
一旦は踵を返して瓦礫を飛び越えたものの……
「くらいやがれ」そこでジェイクは振り返り、
唸るや、水路の中に落ちていたガスボンベに向けて引鉄を引いた。

「危ないじゃない!」咄嗟に身を伏せて爆風を逃れたシェリーが食って掛かるが
ジェイクは取り合わず、なんとも言えない息を漏らしながら水路の奥を指差す。
ジュアヴォの背中を刺し貫いたウスタナクには傷一つない。
こちらに見せ付けるようにそれを掲げ、握り潰すと凄まじい雄叫びを上げた。
「なるほど。逃げるが勝ちだな」ジェイクが呟いて、二人は今度こそ本当に逃げ出した。
が、巨体に似合わずウスタナクの速さは脅威としか言いようがなかった。
車や壁や、進行上の障害物をものともせずに破壊しつつぐんぐんと距離を詰めてくる。
「クソッ!馬鹿力が……!」
毒づきながら走り続けたジェイクとシェリーは水路の端まで来てしまった。
道はここで終わり、眼下はぽっかりと開いた大穴の遥か下に崩れかけた板の足場があるだけ。
勿論止まるわけにはいかない。
「飛ぶぞ!」二人は穴に向かってジャンプした。
ジェイクが足場に着地した半瞬のちにウスタナクが降ってくる。
「ジェイク!」叫びに顔を上げると、シェリーが足場に下がった紐を掴んでもがいていた。
「手間のかかる女だ!」
背後に叩きつけられる鉄塊の右手から逃れて跳躍し、そのままシェリーを捕まえて
前方の建物の小窓に飛び込んだ。
何とか逃れきった……と思ったが儚い希望だったようだ。大男はその後通過しようとした倉庫に再び現れ、襲ってくる。
「ジェイクは渡さない……」
ある意味怖いシェリーの呟きを聞きつつなんとか撃退する。
この期に及んで5000万ドルの件を持ち出すジェイクの金に対する執念が勝利に貢献したのかもしれない。
が、「やったぞ、ざまぁ見やがれ!」というジェイクの叫びも終わらぬうちに、
倉庫自体が老朽化していたこともあり、ウスタナクのダウンに耐え切れず崩れた柱が床を砕いて二人は暗闇へと落ちていった。
「分刻みでハードになっていく……でもあなたが無事で良かった。アメリカに着くまで責任重大だわ」
服飾工場の跡地だろうか。マネキンが大量に転がっている不気味な暗闇の中をライト一本で進みつつ、
溜息をつくシェリーをジェイクは鼻で笑ったが、ふと妙なことを言い出した。
「人生最大のピンチは三年前、南米の戦場だ。気がつけば敵に囲まれてた。
味方は全滅、しかも俺は丸腰。相手はナイフで迫ってきた。撃たないのは弾をケチってたからさ」
「突然、何の話?」
疑問の声をあげるシェリーに構わずジェイクはなおも話し続ける。

(余談だが何故ピンチになったかと言うと、彼を傭兵として育て上げた、
いわば師匠とも言うべき存在のある熟練兵がスパイの正体を現し、隊を裏切ったからで、
この事件によりジェイクは人を信じることが出来なくなっている。
もひとつちなみになんでカネに執着するのかというと、極貧の中自分を育ててくれた
病弱な母の病気を治そうと傭兵になった途端母が死んでしまったから。
だがこんな事をシェリーに話すと言うことは、あるいは……)
「ナイフは痛ぇし、血もいっぱい出る……最悪な死に方だ。
だがな、カネでドンパチやってる傭兵が死に方に贅沢は言えねぇんだ」
「……でも今回ばかりは文句があるってことね」
「あんなワケのわからねぇ状況で殺られて納得いくわけねぇだろ。
あのイカれた巨人はどちら様だ。きちんと説明してくれ」
「人生最大のピンチ」と正直タメ張ってるんじゃないかという現況にイラついているのだろう、
珍しく口数の多いジェイクにシェリーが説明するには、あれはジェイクの為の追手で、
それをC-ウイルスによって作り出し、差し向けたのはバイオテロを目論む組織、「ネオアンブレラ」
抗体を持つジェイクを生死問わず捕らえて研究したいのだという。
「私が守るから心配いらないわ。あなたは世界を救う大切な存在だから」
シェリーは決意に満ちた声で言うが、ジェイクは
「世界を救うのは俺じゃねぇ。カネと引き換えの俺の血だろ」とにべもない。

その後市街地に出た彼らはそこでBSAAの部隊を発見する。
「BSAAにも接触せずにこの国を出たい」と言ったが、こんな状況では手段を選んではいられない。
シェリーは彼らに身分証を掲げ、駆け寄った。
「シェリー・バーキン!合衆国政府のものです!」
それを見て、銃を携えた大柄な男が近づいてくる。
「……ラクーン事件の?」
どうしてそれを、と目を見開いたシェリーにクリスは「クレアから」簡潔に答え「妹が世話になってるな」と僅かに笑みを見せた。
「クリス」その背でピアーズが硬い声を上げた。
「後ろの奴は反政府ゲリラです」
上腕のエンブレムをわざわざ見せ付けるように腕を組んだジェイクを振り返り、慌ててシェリーは
「彼は傭兵です。訳あって合衆国政府が保護しましたが、BSAAの敵ではありません」とりなすが
「カネ次第でバケモノどもと隊列だって組むぜ」
ここまでの道のりでBSAAのヘリに散々な目に遭わされて、いい加減頭に来ているのだろう、彼は余計なことを言い出して「なんだと、テメェ……!」ピアーズが気色ばむ。
じろりとそれを睨み付けたジェイクはふとその脇の男の視線に気づき
「……なんだ?」挑みかかるように問いかけた。が、
「いや、何でもない」クリスはぼそりと答えつつ、しかしその目はジェイクを捉え続けている。

「こちらHQ」と、その時無線が入った。高射砲が邪魔で増援が着陸できないとのこと。
「了解」クリスが行動に移ろうとしたとき、更に通信がこちらへ急接近中の未確認飛行物体をレーダーに捉えた事を告げる。
一同が振り仰ぐと、大型の輸送ヘリが巨人とし形容しようのない
大型のB・O・W……オグロマンを落とし、飛び去っていく。
「話は後だ。隠れていろ」そう言われたものの、シェリーは彼らに協力するために銃を取る。
「いいえ、戦わせて!もう……守られる立場は卒業したの」そして
「やれやれ……傭兵の方がよっぽど楽だったんじゃねぇのか?」
ボヤキながらも結局ジェイクもそれを手伝う羽目になったのだった。

オグロマンはその後もう一体出現し、散々な苦戦を強いられるが何とかこれを倒し、高射砲も破壊する。
「行き先は伝えてある」「ありがとうございます」
握手を交すクリスとシェリーを尻目に、
着陸できるようになった大型ヘリにさっさと乗り込もうと踵を返すジェイクをクリスが呼び止めた。
「どこかであったか?」何か思うところのあるらしい問いかけに、しかし
「アホ面に見分けなんかつくか」憎まれ口を叩いてジェイクは背を向けた。
「テメェ、いい加減に……!」
らしくもなく激高して飛び出しかけたピアーズをクリスが肘で止め、
ジェイクの背中に「引き止めて悪かった」と声を投げ、シェリーに「行ってくれ」と頷く。
押さえたクリスの腕を苛立たしげに振り払ったピアーズは憤懣やるかたないといった表情だ。
あんなことを言ったのに、上昇していくヘリの窓からジェイクは眼下の人物をずっと見つめ続けていた。
「逃がしてよかったんですか?あいつら傭兵にやられた仲間だって大勢いるんですよ!」
ヘリが飛び去るのももどかしくピアーズがクリスに食って掛かる。が
「俺達は戦争しに来た訳じゃない。BSAAの使命を忘れるな」
そう返されると唇を噛んで黙るしかない。
けれどもまだ悔しそうなピアーズに「俺達の敵はバイオテロですよ、ピアーズさん!」
要らぬ追い討ちをかけたフィンを「……言われなくても分かってるよ、新人」
凄い目でにらみつけるとピアースはクリスの背を追って走り出した。目的地の市庁舎はすぐそこだ。

携帯を耳に当てたシェリーが何者か、恐らく上司にジェイクの「取引」を報告しているのを聞きながら
ジェイクはがらんと広いヘリの中をうろうろ歩き回っている。
「5000万ドル」彼女がそう口にするのを聞くと、流石に相手の返事が気になったのか、歩み寄ってきた。
「なんだって?お偉いさんは」
応じるそうよ、とシェリーが答えると、一つ手を叩いて「話が早え」快哉を上げたジェイクは
今更気付いたかのように腕のエンブレムを引っぺがして床にたたきつけた。
それから暫く沈黙が落ちる。
「ところで……さっきの男」
やはり気になっていたのか、ジェイクが尋ねてきた。
「クリスのこと?」「ああ、それ」と名前すら覚えてないんだけどな無関心風に頷いたが
「彼がどうしたの?」と聞き返されると、なんでもないとそっぽを向いてしまった。

再びの沈黙……は長くは続かなかった。
突然ヘリが大きく揺れ、異音が響く。ウスタナクがしつこくも空の上まで追いかけて来たのだ。
乗組員も「ハードな残業になりそうだな」と言いつつ手伝ってくれるが
結局ヘリは落とされ残業代どころか遺族年金が出る有様に。
床を転がってきたパラシュートをジェイクがキャッチ&シェリーを捕まえながら開傘という離れ業で
脱出したものの、爆散したヘリのローターがパラシュートを破り、結果二人は凄まじいスピードで落ちていった。

ちらつく雪の中、目を覚ましたジェイクが右手をふと見ると、掌が真っ赤に濡れている。
慌てて身を起こすと仰向けの胸に抱いていたシェリーが地面に滑り落ちた。
背中に大きな金属片が突き刺さっている。しゃくりあげるように息はしているものの、
どう見ても助かりそうにない……こんな雪山の上では。
「どうすりゃいい……」思わず口元を押さえて呟くと、「抜いて……」震える声で応えがあった。
血が噴出すと止めたがなおも頼んでくるので、ためらいためらいしつつ腕を伸ばして
「知らねぇぞ……」一つ喉を鳴らすと、白いダウンの背中を赤く染めている元凶を
がっしりと掴んで後はただ力任せに引っ張った。
みちみちと嫌な音、更に血が滴る。
抜いた金属片をジェイクは凍った地面に放り捨て、
もがきながら苦鳴を上げるシェリーの背中に目をやって……凝然となった。

白い肌に開いた大きな裂け目が見る見るうちに閉じていく
「どうなってる?なんともないのか?」
彼女の荒い息と苦悶の声がひと段落してようやっと尋ねると、頷くので
「あんたを研究した方がよほど世界のためになるぜ」皮肉めかして言うと
「研究はされたわ。嫌というほど」かすかに笑って返されて、視線を逸らす羽目になった。
それからジェイクは暫く無言のままだったが、落ちていたメモリースティックを目にし、
慌てた様子で拾い上げた携帯端末を操作したシェリーに採取した彼のデータ、
ワクチンを作る為の、彼に取って5000万ドルのデータが消えてしまっていることを知らされ、
彼女と同じく泡を食う事になる。
「わかったよ、探しに行くぞ、スーパーガール」
困り果てた様子のシェリーに溜息をつき、ジェイクは雪中行を開始する。

散らばったデータを探す途中、奇妙なモノを目にした。
油の塊が人の形のまま凍りついたような、異様な像。
ジュアヴォのなれの果て、サナギのようなもの。
シェリーのその言通り、その中から最早人とは程遠い姿のB・O・Wが孵化し、現れる。
「……抗体とやらに心から感謝だぜ」
(C-ウイルスというのはChrysalides=サナギから来ている)

散らばったデータを無事回収し、途中見つけた山小屋に避難することにした。
外は凄まじい吹雪。ジェイクは手持ち無沙汰にジッポライターをチンチンいわせている。
若い男女が夜の山小屋に二人きり。異様に気まずい。
「や、やっぱり助けを呼びにいく、集合地点まで遠くないはず……
(字幕では違うけど音声は明らかにどもっている)」
そうシェリーが口ごもりつつ足早に扉に近寄るのを見て
「まま、待て!(こっちも字ま略」
慌ててジェイクは駆け寄った。戸が開かれた途端吹き付ける凄まじい地吹雪。
何とか扉を閉じて、腕の中のシェリーと目があう。
更に気まずくなってお互い背を向けて離れた。
暫くの後
「生まれつきか?その体……」ぼそりとジェイクが尋ね、
シェリーはこれまでの経緯を語る。
B・O・Wの研究者だった父親のこと。
Gウイルスが彼女の体に入り変異前にワクチンを投与したものの
ウイルスは形を変えて体内に残ったこと。
父親は見る影もなく変貌して死んだと聞くと、ジェイクは軽く打たれたように顔を伏せる。
やなことを思い出させたと詫びる彼にシェリーは首を振った。
おかげで大切なものも手に入れたからと。
レオンとクレア。彼女を救うため命をかけてくれた人たち。かけがえのない友人。
「クレア……さっき会ったBSAAの……」
うなずき、シェリーは言う。
どんなに悪い状況でも決して諦めてはいけない、彼らを見てそう思ったと。
強い力を秘めたシェリーの目を、ジェイクがじっと見つめる。
「――――――」
また暫くの間の後。
ジェイクはふと視線を逸らし……いきなりシェリーを押し倒した。
面食らった表情を浮かべるシェリーに彼は覆いかぶさり……
次の瞬間、銃声が窓ガラスを割って雪風が吹き付けてきた。
「『悪い状況』だ……」
にやりと笑って身を起こすと、ジェイクは窓際に駆け寄った。
「ホントはさみーくせに」
小屋の外には続々集まりつつあるジュアヴォたちを笑って、
手にした銃に弾丸を装填、一転厳しい表情になる。
「篭城戦だ」

戦いの決着は意外な形で訪れた。辺りに凄まじい地鳴りが響き、雪塊が白煙を上げる。
銃声に引き起こされた雪崩が押し寄せてきたのだ。
「でけぇ音たてるからだ!バカ野郎どもが!」
ジェイクは悪態をつきながらシェリーと共にスノーモービルを奪って、
猛スピードで雪の津波から逃げ出した。
「追いつかれたら来年の春まで雪ん中だぜ!」
谷をすり抜け疾走するも、雪崩はそれごと打ち砕き、追ってくる。
崖っぷちでシートを蹴り、地面に転がってなおも走る。
巻き込まれる寸前で、なんとか鉱山の氷窟に逃げ込むことができた。
大丈夫?と聞かれて戦車並に丈夫なんだよ俺は、と軽口で返して先へ進んだが……
そこにはなんとも有難くない先客が待ち構えていた。

「生きてやがった……!不死身かよ、あの野郎!」
反政府ゲリラの一員か、通りがかった不幸な男を
機械の右手で大男が引き裂くのを目にしてジェイクが毒づく。
上空うん百(うん千?)メートルからノンパラシュートで落下したにも拘らず、
(いや、案の定と言うべきか)全く無傷のウスタナクが洞窟の中に待ち受けて、
恐ろしい監視の目を光らせていたのだった。
奴は気味の悪い虫を放ってそれに周囲を見張らせているようだ。
虫をすり抜けたり潰したり、時には資材入れの中に隠れ、
ウスタナクがすぐ目の前で血眼になってこっちを探しているのに
「どこ触ってるのよ……!」
「そっちが押してきてんだろうが。おまえなんか俺のタイプじゃねえ、うぬぼれんな」
「……そこまで言わなくてもいいじゃない」
と仲良くケンカしたりして出口の前までやってくるが、扉には鍵がかかっている。
先刻の犠牲者がカードキーを手にしていたのに気付いて、
ジェイクが爆弾で敵の気をそらしているうちにシェリーが首尾よく鍵を入手したものの、
キーを通した途端「ピピッ」と響く電子音。
慌てて背後を振り向くと、こっちに向かって猛ダッシュを開始したウスタナクの姿が。
寸前で扉に滑り込み、回避したが、分厚い鉄扉はすぐにめしりとひしゃげた。
大急ぎで背後の扉に駆け込み、閉めるとまた扉が歪む。
それを何度も繰り返し、開いた扉の先に天の助けか、
放置してあった掘削機に二人は飛び乗り、キーをまわした。
巨大なドリルと機械の腕の壮絶な押し合いが始まったが、さしもの怪物も
壁を何枚もぶち破った挙句に重機で腹をえぐられては溜まらず、ようやっとだらりとなって沈黙した。

坑道を抜けると、眩さに覆った腕の向こうに夕焼けが広がる。
「あそこが合流地点よ」とシェリーが雪原の果ての小さな集落を指差した。
が、「やっとか」とジェイクが息をついた次の瞬間銃声が弾け、周囲にジュアヴォたちが現れる。
急ぎ応戦するジェイクたちだったが、その時二人の背中に巨大な影が蠢いて……
はっと振り向いたシェリーがウスタナクの腕に吹き飛ばされ、きりきりと宙を舞った。
そちらに目をやったものかは燕返しに殴りつけられ、
地に伏したジェイクは、ぴくりともしないシェリーに
「どうしたんだよ、スーパーガール……」
それでも必死に呼びかける。
その背中を大男に容赦なく踏みつけられて、呻く彼の元に一人の女が歩み寄ってきた。
「よお……栄養剤配ってた姉ちゃんじゃねえか」
苦しい息の下から何とかそれだけ言うと、青い服の女は
赤いショールを閃かせてジェイクの前に腰を落とした。
「あなたが、ウェスカーJr?」
誰だそれ、と尋ねるジェイクに涼やかな笑みを浮かべて彼女は告げた。
アルバート・ウェスカー。世界の破滅を目論んだ素敵な大バカ者。
そしてそれがジェイクの父親なのだと。

「なんだと!?」歯噛みするように聞き返すジェイクをちょいと差して
「あなたはその呪われた血を継ぐもの」
それだけ答えると、女は俯くジェイクの前から立ち上がった。
彼の背中を踏みつけたウスタナクに何事か合図して、踵を返す。
首をねじって見上げるのが精一杯、そこで顔面に大男の足が降ってきて……
ジェイクの意識はそれきり闇に落ちた。

それより暫く前
市庁舎に突入したクリスたちを待ち受けていたのは、奇妙な塑像の群れだった。
まるで必死で逃げ出そうとして、そのまま固められたような……。
「これ……ヒトですか?」薄気味悪そうなフィンに
「生体反応ありだ。まるでサナギだな」ピアーズが返す。
その時、何者かの気配を感じ、クリスはピアーズとフィンを連れ、その後を追う事に。
廊下を進むと曲がり角の向こうに姿を消す青い服……女か?
更にその後を追ったクリスたちは机の置かれた会議場で新しい異形のB・O・Wの誕生に遭遇する。
皮を剥いたゴリラのような怪物、「ナパドゥ」は、あろう事か、先の「サナギ」の背を割って姿を現した。
机を盾に辛くもこれを撃退したものの、
ホールにあった大量のサナギを思い返すと長居は碌な事にならなそうだ。

保健室らしき寝台の置かれた部屋で、床に散らばった大量の注射器を発見する。
ピアーズが拾い上げたそれをクリスに手渡す。
手の中のものに眉を寄せるクリスにその時、
「C-ウイルス……反政府ゲリラはそう呼んでいたわ」
カーテンの陰から声を投げ、一人の女が姿を現した。
胸元の大きく開いた青い服、赤いショール。一斉に銃を構えたクリスたちに両手を上げ
「怖い兵隊さんね」と怯える風でもなく笑いかけた女はエイダ・ウォンと名乗った。
ここの職員で、捕らえられていたのだと言う。
その注射器に込められたウイルスでゲリラ達はジュアヴォを生み出していたらしい。
「保護してもらえないのかしら?」
こちらへ近づきかけたエイダに、クリスらは再び銃口を向けて彼女を牽制する。
「悪いが、これも仕事でね」
容赦の欠片もない口調で言われてやれやれと溜息をついたエイダはふと笑むと
「……ネオアンブレラ」
意外な言葉を口にして、クリスの眼を見開かせた。

ネオアンブレラ。反政府ゲリラに協力していた組織。
ウイルスもそいつらによってもたらされたものかとピアーズが尋ねたが、
「知っている情報はこれで全部」
とエイダは上げた手をひらひら振るのみだ。
「ご協力に感謝する」冷たいくらいの慇懃さでクリスは言って、フィンに彼女の護衛を命じた。
一方で「あの女から目を離すな」ぼそりとピアーズの耳元にささやく。
「了解」とピアーズは小さく頷き、一行は隊へ合流する為踵を返した。

が、エイダに教えられた近道を通ってホールへ戻ったクリスたちが目にしたのは、
ホール中のサナギの孵化、それに伴い引き起こされた大混乱だった。
「これじゃあ外に出られない!」泣きそうな声で叫ぶフィンに
「二階からも出られるわよ?そっちを使った方がよくない?」
奇妙なほど落ち着き払ってエイダが提案する。
「兵隊さんも大変ね」と笑うエイダを連れて脱出を開始したが、
ホールほどではないものの、そこもやはりサナギから孵ったB・O・Wに占められていた。
隣接した倉庫まで命からがら逃げ切った……所でピアーズが何かに気づき、はっと後ろを振り返る。
「あの女がいない!」
「おかしいです、さっきまでここにいたのに!」
おろおろと周りを見回して、フィンが声を上ずらせる。
それに舌打ちしたピアーズは、頭上でがちゃんと響いた異音にクリスと二人、
見上げて咄嗟に背後へ飛んだ。

直後、轟音を立てて鉄格子が落ちる。飛び起きて鉄格子を掴んだところでまた異音。
慌ててフィンが背後の通路に駆け寄ったがその行く手はまたしても落ちた格子により遮られた。
閉じ込められ、混乱した視線をこちらへ向けるフィンの背後に、
「エイダ……!」歯を剥きだしたクリスが銃口を向ける。
次いで向けられた幾つもの銃を意に介した風もなく、
「エスコートありがとう、お礼にいいものあげるわ」
エイダは何かを鉄格子の隙間に投げ入れた。
金属球……と見えたのも束の間、それは途中で殻を脱ぎ捨てて、
中に封じられていた無数の針を射出した。
檻の外にいたクリスとピアーズは咄嗟に身を避け、事なきを得たが、
間近で破裂にあった残りの隊員達は、全員が体のどこかを押さえてもがき苦しみ始めた。

薄い笑みを浮かべてエイダがその場を立ち去っていくが、最早誰もそれに構っている余裕はない。
床に転がり体から煙を、やがては炎を上げだした隊員達も、
取るすべを探して必死に周囲を見回すピアーズにも、
がむしゃらに檻へ体当たりを繰り返すクリスにも。
「ダメだ!フィン!耐えるんだ!」
どろどろとした液体に覆われつつあるフィンにクリスは叫んだが勿論そんなこと出来るわけもない。
「こんな形で……!」
鉄格子の隙間から精一杯伸ばした手は、「隊……長……」同じく伸ばしたフィンの手に届くことは無く、
若い兵士は目の前で泥の塊となって動きを止めた。

がくりと床に崩折れたクリスの隣で、塑像となった同僚を見つめていたピアーズがふと凝然と息を呑む。
眼前のサナギ、その背がばくりと壊れて膜に包まれた何かが早くも出てこようとしている。
「まずい……隊長!」呼びかけるがクリスはただ呆然とそれを見つめている。
化物が「孵化」しきるのと同時に鉄格子があがっていく。
逃げなければと叫ぶピアーズに応えてクリスは銃を構えたが、やはり引き金を引くことはできずに
雄叫びを上げるナパドゥに向かって小さく首を振るだけだ。
そうしている隙にフィンから生まれた化物はクリスに飛び掛り、
腕の一振りでピアーズ諸共吹き飛ばされた。
倒れたクリスを化物が掴み、何度も何度も壁に叩きつけ、放り投げる。
後頭部を床材が砕けるほどに強打して、クリスは気を失った。
「クリス!」
ようやく身を起こしたピアーズが捨て身の特攻で銃を乱射しつつ
クリスの襟首を捕まえて、引きずり懸命に後退していく。
ぼんやりと霞む視界をマズルフラッシュの瞬きが照らし、
その向こうに近づいてくる化物の姿、それがクリスの見た最後の光景だった。

2013/6/30
中国、偉葉(ワイイプ)
「ピアーズ」
防護服を着たBSAA隊員たちが火炎放射器で「サナギ」を焼き払っているのを見つめながら
クリスは部下に呼びかけた。
「はい」
歩み寄ってきたピアーズは
「エイダ・ウォンはどうしている」尋ねられ、
「記憶、戻ったんですか!?」
勢い込んで聞き返したが、無反応のクリスに眉を寄せる。
エイダはどこだ、とクリスが再び低く尋ね、
ピアーズはネオアンブレラを率いていたのが彼女だったことを告げ、
「このテロも……」言いかけるが
「この街にいるのかいないのかどっちだ!」クリスは噛み付くように遮った。
その剣幕にやや面食らったものの
「……テロ発生直後に目撃談多数。います、絶対に……」
彼が確信に満ちた口調で頷くと、クリスは銃を手に立ち上がった。
ここから先は俺が指揮を取る、そう宣言して大股に歩き出した背中を
気遣わしげな目で追って「……了解」ピアーズは小さく呟いた。

同じ日の少し前。そこから少し離れた場所で―――
真っ白な部屋の中、真っ白なベッドの上に上半身裸のジェイクは退屈そうに寝転がっていた。
そこにまるで金庫のような厳重な扉を開き、仮面をつけたジュアヴォの男が数人、やって来る。
手錠をつけられ、部屋を出たところで立ち止まったジェイクを、
“さっさと歩け”濁声の異国語で言いながら仮面のジュアヴォが銃で乱暴に押す。それに
“そろそろ行くか”
同じ言葉でジェイクが応じた。思わず聞き返した相手を肩越しに振り返り、
“オマエらのことも、大体わかったし”
更にそう言ってやると、背中を向けたままひょいと脇に相手の銃を挟み、そのまま乱射する。
前の二人が怯むのを尻目に、腕を捻って銃口で背後の相手を殴りつけ、逆立ちして
カポエラそのまんまに蹴りつけると、倒れた相手に跨って、膝で相手の首をへし折ってしまった。
素早くその腰を探ったジェイクは、立ち直った前の二人が慌てて構えた銃に向けて、
外れた手錠を見せ付けるように落とし、くいくいと差し招いた。

「今日は静かね……」
病院のように殺風景な監禁室の中からシェリーが黒く染まったガラスの向こうを覗いていると、
不意に部屋の中までが真っ暗になった。
ジェイクが脱出に際して、電源を落として行ったせいだった。
それに従い部屋のロックが解除されたことに気付いたシェリーが
辺りを窺いながら扉に近づいたその時、異変に気付いたジュアヴォが部屋に駆け込んでくる。
咄嗟にベッドの下に隠れたシェリーはその背後を急襲、相手の振り回すスタンロッドを奪い取ってこれを倒した。
『被験者二名が脱走した。施設から外へ出すな……』繰り返される警告の放送を聞き、
「ジェイク……生きてるのね!」シェリーは半年振りの再会を胸に期し、行動を開始する。
「無事だな、シェリー!」同じ放送を耳にしたジェイクもシェリーとの合流を目指す。

暫くは貧弱装備の隠密行が続いたが、色々遠まわしに助け合ったりした末に
シェリーが辿り着いた更衣室のダクトからジェイクが降ってくる。
「ジェイク!」
喜色を浮かべてシェリーが呼びかけると、同じく顔を輝かせてジェイクもシェリーを振り返ったが、
彼女を見るなり咳払いをして片手で覆った顔を背けてしまう。
「あっ……」気付いたシェリーも慌てて両手で胸を覆ってロッカーの陰に駆け込んだ。
彼女が纏っていたのは紐であちこちを止めただけの手術着で、
布の隙間から色々気まずいところが見え放題だったからだ。
いつぞやの雪山のような、微妙な空気が流れる中、シェリーはロッカーの中を探って着れる物を探し始めた。
「ここはどこかしら?」「中国だ」「そうだけど……中国のどこ?どうして……」「さあな」
要領を得ない現況確認をしつつ、ジェイクも同じくロッカーを探してふと脇に目をやり……
さっきまでの羞恥は?と言いたくなる大胆さで着衣を脱ぎ捨てたシェリーの
裸の背中を見てしまい、やれやれ?ってな感じでロッカー漁りを再開する。
「ただ、色々実験された」
詳しい事はわからないが、彼の体を使ってC-ウイルスが強化されたらしいと聞き、シェリーは顔色を変える。
「他に何か言ってた?」尋ねられたジェイクは一旦そこで言葉を切り、口を開いた。
「アルバート・ウェスカーって知ってるか?」「……え?」
開いたロッカーの扉の向こうでほんの僅か、戸惑うシェリーに
「知ってたんだな」
小さく言って、身支度を終えたジェイクはブーツを取り出し、ベンチの上で履きながら、
この半年に敵の口から知ったウェスカーの事を語りだした。
どんなウィルスにも抗体があり、最後にはその力を利用しバケモノになって、世界征服を目論んだと。
「俺はてっきり、お袋を捨てた只のチンピラだと思ってたぜ!」
忌々しげに吐き捨てるジェイクにあなたとお父さんは関係ない、とシェリーは言うが
ジェイクはヤツの呪われた血がなきゃ俺はここにいない、それはお前がそう思い込みたいだけだと反論する。
「何で俺がこうなっちまったのかは―――今はわかる気がするけどな」
取り出した銃に弾を装填しながら低くそう言い、
乱暴に音を立ててロッカーの扉をジェイクが閉めると、
女性研究員の私服だろうか、クリーム色のシャツルックに身を包んだシェリーがじっと見ているのに気付く。
「なんだよ……」睨むジェイクを強い目でじっと見つめたまま、シェリーは言った。
「親がひどいから、なんだって言うの……?生きることに信念が持てないのは自分の問題だわ」
そうして彼女は肩で彼を突き飛ばし、大股に部屋を出て行く。
言葉も無いジェイクはしばし押し黙った後、軽くロッカーを殴ってその後を追った。

シェリーの組織、その上層部にコンタクトできる場所を探して進むに連れ、
周囲の様相は研究施設から中華風の豪邸へ変わり、閉じ込められていた場所が全てだった二人は驚く。
(ついでにシェリーも読めない中文を難なく読める意外なインテリぶり
(親譲り?)をジェイクが披露してプレイヤーも(多分)驚く)
道中ジェイクに聞かれてシェリーが話すには、彼女もまた実験動物扱いされていたらしい。
ラクーン事件の直後のように。
そんな会話をしつつ邸内を探索した二人は、管理者用の監視室らしいモニタの並んだ部屋に辿り着く。
実験のデータをさらっているシェリーを背に、棚を漁っていたジェイクは
「……ついてるぜ」携帯電話を発見、データをメモリーカードに移動させていたシェリーに手渡した。
現状を報告し終わったシェリーが言うには、幸運にも彼女の上司もまた、偶然中国に来ているらしい。
「行きましょ。もう用はない」
データを移したカードを手に脱出を開始、したものの
敵は総力戦の上に戦車まで出してこちらを捕らえようとしてくる。
かっぱらったバイクで塀を飛び越え、振り切ると、今度は攻撃ヘリが現れた。
どうあっても逃がすつもりはないらしい。
途中で味方と落ち合う場所は決まった。後はそこまでまっしぐらに行くだけだ。
が、山を抜ける高速を駆け下って街に入ると、そこには異様な光景が広がっていた。
まるで内戦状態のようにあちこちから火の手が上がり、道路には瓦礫が散らばっているのだ。
ともかくも「お尻が痛い……」と泣き言を漏らすシェリーに「ガマンしろ!」と怒鳴りつつ、
ジェイクはクソ狭い路地をキチガイじみたテクニックでタイヤに火花を散らさせ、猛スピードのまま抜けていく。
二階に張られた木材の上を走り、道を塞いだタンクローリーの下を潜り抜け、
わんさか集まってくるジュアヴォの群れ(クリス達が国連職員救出に向かっていた時に、
謎の集結がHQから通信されていた)はシェリーが射撃で蹴散らして、
ヘリによってキャリートレーラーから落とされた車の雪崩をかわし、
トレーラの荷台をジャンプ台代わりにヘリの頭を飛び越え
……たはいいが、そこでバランスを崩した二人は転倒してしまった。

バイクは柱にぶつかり大破、シェリーの手を引き、立ち上がらせた頭上にまだヘリが追ってくる。
「くそったれ……」
毒づいて、ふとヘリの動きがおかしいのに気がついた。
周囲を取り囲んだビル、中層階のぐるりを警戒するようにサーチライトで照らしている。
明かりの中に浮かび上がった集団を指し、
「レッドフィールドとお仲間達も来てるみたいだな」
ジェイクは挑むような笑みを見せたが「ジェイク!」そんな彼らをジュアヴォの集団が取り囲む。
上空にはヘリ、地上にはジュアヴォ。囲まれた以上、全滅させるしかない。
厳しい戦いが幕を開けた。
クリス達の助力に「頼んだ覚えはねぇぞ、余計なお世話だ」と悪態をつくジェイク。
「ブツブツ言わないの!せっかくクリスが……」と窘められて
「クリスクリスってうるせぇな……」なおも文句をたれる。
が、そのクリスたちも苦戦しているようだ。
ヘリの余りのしつこさに途中で業を煮やしたジェイクは「あのヘリぶっ潰すぞ」
と無茶な事を言い出すも、何だかんだでクリスに先を越されてしまった。
墜落し、炎を吹き上げるヘリ。誇る風でもなく淡々とクリスはこちらを見下ろしている。
それをじっと見上げているジェイク。
やがてシェリーが誰にも接触するなと言われているから、と先へ促したが
ジェイクは応えず目線を上にやったまま
「あいつ、俺がウェスカーの息子だって知ってんのか?」そう尋ねた。
「そんなはずはないわ。何故?」聞かれて別に、とジェイクは小さく苦笑した。
「からかったこと根に持ってるだけかもな」

本格的に隊長として復帰したクリスにピアーズは戸惑いを覚えていた。
記憶を取り戻したクリスは、むしろ記憶を取り戻す前よりももっと
彼の知る「本来のクリス」とはかけ離れた人間になってしまっていたのだ。
エイダを追い始めた直後、隊員が未確認の巨大B・O・Wに連れ去られ、
この大蛇に似た化物もまた掃討の対象となったが、それに対するクリスが見せるのは、
明らかに度を越した、執念とも言うべき憎しみだった。

(なのですが途中通りかかった公園でパンダさんの遊具にライドして
キコキコした後ドヤ顔したり、滑り台をサーフィンみたいに滑り降りて遊ぶクリスや、
ピアーズにいたってはスーパーマン滑りをやらかして、更にはのちにプレイヤーキャラとなる
エイダまでもがジャングルジムや滑り台で遊べるし、やらしたのはこっちだけど
「お前ら何やってんの……」ってなることが出来ます。余談だけど)

道中、イドニア以来半年行方不明になっていたシェリーとジェイクに遭遇した時もそうだ。
「ネオアンブレラに追われていたのか……」
二人の上空に姿を現したヘリに対するピアーズの呟きにも反応する様子はない。
彼らの救助の為、即行動を起こすでもなく、ただただ憎憎しげにヘリを睨みつけている。
ピアーズに強く言われて、始めて総員散開を命じたものの
「バケモノどもを排除しろ」
ピアーズの知る彼にはそぐわない言葉がその唇から漏れた。
シェリーたちに通信が通じず、仕方なく誘導を諦めてジュアヴォを全滅させ、
こちらへ狙いを向けてきたヘリを落とした後も彼に付きまとう違和感は収まらない。
地上で睨むようにこちらを見上げていた若者が去っていく。
彼らだけでは危ないと再三保護を提案していたピアーズは
「隊長、行かせちゃダメです!」改めて訴えたが、前進にしか興味ない様子で放っとけ、
とそれを却下していたクリスは自分達の目的はB・O・Wの殲滅だと取り合わない。
「ネオアンブレラに追われてるんですよ、助けないと……」
「目的はB・O・Wの殲滅だ」
なおも食い下がったピアーズを、クリスは冷たく遮った。「何度も言わせるな」
冷静になってくれと必死に諭すピアーズの言葉はクリスの耳には届かず、愚かな悲劇が幕を開ける。
進むにつれ、大蛇「イルジヤ」により隊員が数を減らし、
残された者達はそのつど怒りに狂い、無謀な追跡にのめり込んでいく。
本来ならそれを止める立場のはずのクリスが先頭に立って仇を追い求めているのだから始末に負えない。
何人目かの隊員が大蛇に咥えられて連れ去られ、
それを追ったクリスが単身突っ込んでいった時、ついに耐え切れなくなったピアーズは
「一人で突っ走るなんて何考えてんだ!」と怒鳴りつけたが
「決めるのは俺だ。付いてこられないやつは切り捨てる」
返されたあまりな言葉に耳を疑った。思わず聞き返すも
「黙って俺の指示に従え」
クリスは狂気じみた強行軍を再開し、ピアーズは絶望の息を吐きながらもそれに続く。

姿を見せない殺戮者に苛立ちつつ残された血痕を追ってなおも奥へ進んだ所で
かつてエレベーターの通っていた吹き抜けを通り、下へ逃げるのを発見。
後を追ったが逆に待ち構えていた大蛇により、隊は更に分断されて、
とうとうクリスとピアーズ、マルコの三人だけになってしまう。
(ちなみにマルコの父親がレオン編の教会にいます。どうなったかは、まあ……お察し)

精肉前の豚の屍骸が幾つも吊り下げられた屠殺場に突入したクリスたち。
あちこちに下がった枝肉やら臓物やらに視界を遮られて
見通しが悪い周囲を見回すマルコの肩に、粘り気のある液体が落ち、煙が上がるのを目にして、
「天井だ!」ピアーズが振り仰ぎ、発砲する。
マルコの頭上にいたのは巨大で……透明な、蛇。
ばっくり開いた口の中に並んだ牙がムカデのように蠢くのを目にしたクリスが
横っ飛びにマルコに飛びつくのを皮切りに、死闘が始まる。

やられかけては逃げていく蛇の息の根を止めたのは、むき出しになった電気ケーブルだった。
しかし、黒焦げになった蛇が息絶えるのを目にしたクリスは恐ろしいほどの妄執でなおも先に進もうとする。
態勢を立て直すよう進言するピアーズに、この期に及んでもクリスは応えようとしない。
「隊長!」叫んだピアーズの背後で、その時唐突にうめき声が上がった。
振り返ると、マルコが首を抑え、うめき声を上げている。更にその向こうの窓辺には……
「私を探しているのかしら?」
今しがた針を射出したばかりの銃を構えたエイダの姿が。
「ようこそ中国へ」嘲笑と共にエイダは身を翻し、背中から窓の外へと落ちていく。
「やめろ!」マルコの「サナギ」に無言で銃口を向けたピアーズを慌ててクリスが止める。
「こうなったらもう殺すしかない!」
前に出たピアーズの銃を掴んで下ろさせようとするクリスを
「俺達が仲間としてできることはこいつを……!」諭そうとしかけたが、遅かった。
マルコは怪物として生まれ変わってしまった。
サナギが割れ、中から無数の蜂型B・O・Wが飛び出してくる。
彼らに出来ることは化物になったマルコを葬ってやることだけだった。

「落ち着いてください」
力任せにシャッターに拳を叩きつけたクリスをピアーズが粘り強く説得しようとするが、
ここまでされてなんとも思わないのか、とクリスは食って掛かる。
確かにあの女のせいで何人もの仲間が死んだ。
だがそれに対するクリスの行動は只の恨みで、それに駆られなければ
少なくともここでの犠牲はなかったはず。
そう諭されても「黙れ……」とクリスは聞くまいとする。
「BSAAの使命なんか、もうどうでも良くなってんだろ!?」
黙れと叫ぶクリスに、遂にピアーズは激高した。
「あんたを信じて死んでいった仲間達が哀れでしょうがないよ!」
壁に叩きつけられても彼はなお言い募り、逆にクリスにつかみ掛かった。
「俺達の希望だったクリス・レッドフィールドは、そんなヤツじゃなかったはずだ!」

軍人の家系に生まれ,、物心付いたころからそれ以外に自分の進路を見出さなかったピアーズは、
それゆえに軍の中で戦う理由に行き詰ってしまっていた。
悩みながらただ訓練だけに打ち込んでいたとき、彼はその射撃の腕を買われて
クリスにBSAAへとスカウトされた。
そして彼はクリスが後進を育てる為にBSAA内での自らの地位を捨てた事を知り、
衝撃と共に深い感銘を受ける。
以降副官としてクリスの理念に共鳴してきた彼にとって、
クリスのこの変貌は到底我慢ならないものだったのだ。
「今のその姿……フィンたちに見せられるかよ」
だが。
クリスはピアーズを乱暴に突き飛ばし、エイダを追うことを宣言する。
虚脱した様子でがくりとうな垂れたピアーズだったが……
「HQ、エイダの位置を……」
クリスが通信を始めると「俺も行きますよ」決意に満ちた声が割り込んだ。
振り向くと、「今のあんたは危なっかしすぎる」
もうほとんど睨むようにまっすぐクリスを見ながら言う。
「何をするやらわかったもんじゃない」
それに答えず無言のままクリスは歩き出し、唇を硬く引き結んだピアーズもその背に続いた。

「あんなごついヘリにケツ狙われたんじゃたまんねぇや」
とぶつくさ言うジェイクによると、あのヘリは1500万ドルはすると言う。
「石油王でもバックにいるのかもね」
珍しく砕けたことを言うシェリーに俺の国の映画じゃこういう場合の黒幕はアメリカだ、
とジェイクも冗談めかして言うと、今回ばかりはそのパターンはないと返される。
何故ならバイオテロはアメリカでも起こっているから、というのだ。
世界中が地獄行きになりかねないこの状況を救えるのはあなただけ、と言われたジェイクは
「荷が重すぎて腰が砕けそうだぜ」うんざりと息をつくのだった。

ビルの高所からジャッキーばりに日よけを突き破り落下したシェリーに
「マヌケ」とジェイクは冷たく鼻で笑うだけで、「ひどい、ちょっとは心配してよ」
と脅威の丈夫さを見せたシェリーが抗議したりしつつスラム街を進む二人。
と、突然、高架を走る電車から弾き飛ばされた何かが看板に激突、電飾を砕き散らしながら落ちてくる。
気味の悪い呻きを上げ、むくりと起き上がったそれは、
肥大した筋繊維と骨だけで出来たような怪物「ウピストヴォ」だ。
とりわけ目を引くのは右手に備えたチェーンソー……のような謎の組織。
怪物が地面に骨で出来たその刃を叩きつけると、走った火花が
道路を塞いでいたバスから漏れたガソリンに引火、
周囲が炎で囲まれ逃げられなくなってしまった。
ところで誰がこいつを電車に吹っ飛ばさせたかっていうと、
まあエイダさんとかエイダさんとかエイダさんなのだが、それはまた別のお話。

「近づいちゃダメよ!バラバラにされるわ!」
「言われなくてもあんな物騒なモンに近づくか!」
と怒鳴りあいながら敵も味方も見境なくブッタ切りまくる困った敵に弾丸をぶち込みまくり、やっつける。
激闘の影響か、また看板が落ちてバスが横倒しになり、開けた道を進んでいると、
頭上を二人の行く手に向けてジャンボジェットが飛んでいく。
危ういほどの低空飛行……と思う間もなく凄まじい轟音。
どうやら墜落してしまったようだ。「あれはアメリカの……!」
フェンスを越え、着地すると、そこはコンテナの立ち並ぶ倉庫街だった。
少し離れた向こうに不時着したらしいジャンボ機が見える。そして……

「あれは……」
火の粉が舞う中、辺りを見回していたシェリーが何かを発見し、目を見開いた。
炎に背中を照らされつつ歩みを進める一組の男女、その横顔が判然となるや、
「レオン!」
シェリーは叫んで駆け出した。肩をすくめてジェイクも後を追う。
駆け寄ってきたシェリーに振り返ったレオンは「どうしてここに!?」驚愕に目を見開いた。
「上司の命令で彼を保護したの」
「エージェントになったとは聞いていたが……」
動揺の色濃い声で言い、疑り深げに睨んでいるジェイクに驚き覚めやらぬ視線を移す。
「レオンこそ、どうしてここへ?」
尋ねたシェリーは彼が告げた言葉に愕然とすることになる。
レオンがここまで追ってきたテロの首謀者、大統領補佐官のディレック・C・シモンズ。
しかし彼こそはシェリーの直属の上司、ジェイクの保護を命じた張本人だったからである。
加えて今から彼と会うと聞かされ、レオンの顔色が変わる。
「ヤツはどこにいる?」
厳しい目で低い声を押し出すが、動揺したシェリーは口ごもってしまう。
なんとならばシモンズはラクーン事件で天涯孤独となったシェリーの保護者代わりとなり、
惜しみなく支援と援助をしてくれた。
レオンたちとはまた違うものの、それでもれっきとした恩人なのである。
そんなシェリーに痺れを切らしたレオンが足音高く近づこうとする。
が、彼がシェリーの肩を掴んで説得しようとする前に、ジェイクが二人の間に割って入り、荒っぽくレオンを押し返した。
「ジェイク!」
その腕を慌ててシェリーが掴み、止める。
意図せず睨み合いになってしまった三者の背後で、栗色の髪の女性……へレナが
腰のホルスターに手を伸ばし、静かに銃把を握り締める。

場を収めようと声を上げたシェリーを「接触も禁じられてんだろ?」と引き戻したジェイクの腕を振り払い、
彼はラクーンから救い出してくれた恩人だから別だと睨むシェリー。
「だろうと思ったよ」
じっとこちらを見ているレオンに視線を移し、ジェイクはぼそっと呟く。

その時「危ない!」出し抜けにヘレナが叫んだ。
シェリーの背後、こちらへ向かって飛来するジャンボのジェットエンジン部。
上げかけたレオンの手は間に合わず……シェリーを抱いて横っ飛びに身を投げたのはジェイクだった。
起こった大爆発をよそに、立ち上がったレオンは片方が片方を助け、身を起こす若者二人をじっと見つめている。
「レオン!あれは!?」
背後で上がったヘレナの叫びに振り返ると、その指の指す先に……飛行機の翼の上に陣取ったウスタナク。
「またあいつかよ!?」
苦虫を噛み潰した顔のジェイクに「知り合いか?」尋ねると
「元カノみてぇなモンさ。どうも引き際がわかってねぇんだよな」忌々しげに息をつく。
飛び降りてきたウスタナクに、ほぼ同時に二人、銃口を向け「わかるよ」言うと、ジェイクが微妙な顔をして
「その内慣れるさ」厳しい視線を逸らさないままの言葉に小さな苦笑を返した。

敵はこちらを捕らえる新しい「捕獲腕」を備えておりより一層の苦戦となる。
途中、ウスタナクに吹っ飛ばされたシェリーを胸に抱きかかえ、背中で着地したレオン。
「大丈夫!?」と聞かれて彼はラクーンに比べれば朝飯前さと笑う。
が、そんな彼もあまりにもしぶといウスタナクにジェイクが大げさに言ってるんだと思ってた、とこぼす一面も。
「ケンカ相手の分析にウソはつかねぇ。まあどっちにしても殺るけどな」
言葉通り、ジェイクの、そして全員の弾丸がウスタナクを抉り、次第に疲労させていく。
やがて右腕を失い、地面に膝を付いた大男を……破壊され、折れた鉄塔が押し潰した。
しかしそれは同時に四人を分断してしまう。
「クーチェンのクンルンビル!」呼びかけるレオンにシェリーは叫び返す。
そこがシモンズとの約束の場所だ。
「いいか、俺達が行くまで……」
言いかけたレオンの言葉を鉄塔の爆発が遮る。
気遣わしげに前へ出たシェリーの手を掴み、「お前の英雄さんだろ?無事来るさ」ジェイクが力づける。
頷き、シェリーは先へと向かう事を決意するのだった。

エイダはスラムを抜け、港湾方面に向かっているようだ。
それを追い、クリスたちはビルの裏口から運河に出た。
すっかり険悪になってしまった二人が
「お目付け役は結構だが邪魔だけはするな」
「あんたが暴走してBSAAの領分を越えなけりゃいいだけだ」
と言い争いのように話しながら浮橋を渡ったところ、目の前の川に水上バイクに跨った青服のエイダが。
「エイダに踊らされてることにさっさと気付いてもらいたいね」とさっきピアーズに言われて
「あんな女の思い通りになるほどマヌケじゃない」と言い返したばっかりなのに
「エイダァ!」と一瞬で頭に血を上らせたクリスが駆け寄ろうとするが
「落ちついてくれ隊長!」とピアーズに止められた。
見上げれば、彼我の間を遮るかのごとく、上空にはまたしても装甲ヘリの姿が。
確かに彼の言うとおり、ここではヘリのいい的だ。
歯軋りをして不安定な板の浮橋の上を走り、繋留された漁船の上を通り抜け、
川沿いに建つ中華飯店へ逃げ込み、反撃に転じる。
榴弾砲を浴びせられたヘリは、コントロールを失い、火を噴きながら建物の裏手へ落ちて行く
……やがてどこかへ突っ込んだのだろう、店全体が爆発した。

エイダは運河を南下し、逃走したらしい。
後を追ったクリスたちはとある研究所らしき建物に足を踏み入れた。
ここでC-ウイルスを研究していたのだろうか?
むしろ工場に似た造りの室内に入り、堆く詰まれたコンテナやダンボールの間を探っているとドアの音、
上階の回廊に姿を現したのは……青い服のエイダだ!
問答無用でクリスが発砲する。しかしエイダはフックショットで向かいの回廊へ逃げていく。
その最中も到底当たるとは思えない連射を続けるクリス。
ピアースが厳しい顔でそれを見ていた。
「逃がすか……」歯噛みして追跡するクリスだが……辺りの様子が少しヘンだ。
半透明なモニタの向こうを走っていく気配がする。
「他にも客がいるようだな」
「さっきエイダを撃った誰か……?危険がまた一つ増えたわね」
篭った声。エイダ以外に誰かいるのだろうか。
しかし現れたエイダが罠を仕掛けてきてそれどころではない。
「ここではいろいろな兵器の実験をしているの。ちょうどいい試作品があるわ。遊んでみる?」
その上「もう一組の誰か」の差し金か、色々と手間取らせられる。
「誰かが邪魔してるな。エイダの仲間か……?」
首を捻りつつも先へと進むと、
「止まれエイダ!訊きたいことがある!」
「あら、悪いわね、そんな気分じゃないの」誰かがエイダを追いかけている……?
とにかく懸命に後を追う。
「いたぞ!回り込め!」ピアーズに指示し、挟み撃ちを狙う。
「もう逃がさねぇ!」全力で走るピアーズの元へこちらも駆けに駆けてエイダを追い込み……。

アタッシュを手に走るエイダの足元を牽制の弾丸が抉った。
回廊の角。左手にピアーズ、そして右手に後詰のクリスを見て流石のエイダも固い表情を見せる。
遂に……と思ったその時、脇から放たれた何者かの掌底がクリスの銃を吹っ飛ばした。
お互いの鋭い攻撃がそれぞれ敏捷にかわされ、止められ、
当たっても即座の反撃がお互いを襲い、
クリスがタックルして相手の背中を奪うも固めようとした腕を取られて逆に背を取り返され、
喉を絞められそうになったクリスは咄嗟に相手を投げ飛ばし……
地に転がった相手が素早く反転して銃を抜いて向けるのと、
こちらが振り返りざまに腰から抜いた拳銃を構えるのと、同時だった。
そしてお互いが同時に唖然となる。
「クリス……!」「レオン……」

二人共に荒い息をつきながらクリスが「何故お前がここに……」尋ねるがレオンは答えず
今追いついてきたヘレナがクリスの背中で緊張をみなぎらせて銃を構えるのを、
これまで目まぐるしく位置の入れ替わる闘いに手を出せずにいたピアーズが銃口で牽制する。
自分の背で嫣然と微笑むエイダがこのテロの重要な証人だと言うレオンに
この女はテロの首謀者だと怒鳴り返すクリス。
しかしレオンは首謀者は大統領補佐官のシモンズだと首を振る。
「この女は部下を皆殺しにした!」ほとんど絶叫に近いクリスの訴えを
「俺達は大統領と7万人のアメリカ国民を失った!」
これまで強張った早口ながらも抑えた口調だったレオンが張り上げた声で捻じ伏せる。
その言葉の、あまりの衝撃に思わず目を見開いて息を呑むクリス。しかし

「ネオアンブレラだぞ……」一拍ののち、唸り声がその喉から漏れた。
「俺達にとってこの名が……」けれどもレオンは「……分かってる」静かに頷く。
「どうあってもこの女を信じると言うのか?」
声を軋らせた問いも「……信じる」彼の考えを変えることはできなかった。
それきり二人は動かない。銃を下ろすこともない。沈黙が続き……
焦れたのかピアーズがほんの一瞬だけ視線を逸らす。
ひたと見つめていたエイダから、クリスへと。
視線を戻し、「隊長!」気付いて声を上げた時にはもう遅い。
振り返ったレオン、クリス、その場の全員の目を閃光手榴弾の光が焼いた。

フックショットでジャンプして床に着地したエイダに
「止まれ!」目を眇めたピアーズが叫んだが、勿論止まるわけもない。発砲するもかすりもしない。
「くそっ!」ピアーズはいまだ苦しむクリスにちらと目をやり、駆け出していく。
後に続いたヘレナを慌ててレオンが止めた。
「彼女、殺されるわ!」
立ち止まったもののそう訴えるへレナの背後で唸っていたクリスがやおら銃を取り、息荒く駆け出そうとする。
「クリス!」身を翻し、これも止めたレオンは、「俺達の戦う目的は同じだ。違うか?」と静かに問いかけた。
クリスは一瞬その後ろ、逃げたエイダか追ったピアーズか……を気にする素振りを見せたが
「……ああ」やがて小さく頷いた。
その表情から先ほどまでの憑かれたような怒りが消えている。
共にB・O・Wを憎むものとして長い間を戦い抜き、ほんの一時だったが果たした対面の間に
意志と信念を通じ合わせたレオンの言葉は、クリスの目を覚まさせるに足るものだったのだろう。
エイダはBSAAが追う、シモンズは任せると頼んでその場を去るクリスをレオンが呼び止め、言った。
「お前を信じるぞ」
クリスは無言のまま踵を返し、駆けだした。

「ピアーズ」
エイダの後を追うために奪ったジープに乗り込もうとしている部下にクリスは呼びかけた。
「お前の言うように……俺は目を背けていたのかもしれない。すべての過去から……」
「隊長……」
荷台に上がり、備え付けられている機関銃を握って
「追いつけるか?」尋ねると「追いついてみせますよ」
ニヤリと笑った彼はキーを回し、ジープはタイヤを軋らせて走り出した。

ジェイクたちはクーチェンから目と鼻の先の距離にまで辿り着いていた。
が、急ごうぜ、と駆け出しかけたジェイクの背後でシェリーが立ち止まってしまう。
シモンズのことか、と尋ねられ、頷くシェリー。
「びびんな。会えば分かる」
諭されて頷き、走り出したシェリーだったが……その背後の石橋の上から真っ二つになった看板が降ってきて、
前回「やったか?(字幕では違うけど)」とか余計なフラグを立てたのが悪かったのか、
チェーンソーの怪物が再び姿を現した。
シェリーの腕をジェイクが引き、走り出した二人。
桟橋に止めてある貨物用の船に飛び乗ったが、怪物は追いかけてくる。
乗り込まれる……と思った刹那、弾丸がその頭を貫き、怪物は体液を噴いて崩れ落ちた。
ジェイクではない。シェリーでもない。
「誰がやった……?」顔を見合わせた二人だが、考えている暇はない。恐らく一時の足止めにしかならないだろう。
必死で船を操り逃げるも、案の定、乗り移った建物の屋根の上で追いつかれる。
狭い足場、おまけにジュアヴォまで湧いてきた。結構なピンチだ。しかし……

「気をつけて、ジェイク!狙撃されてる!」
水面を響き渡る銃声にシェリーが叫ぶと
「狙撃されてるんじゃねぇ!“してくれてる”だ!」ジェイクが訂正して怒鳴り返す。
確かにそのとおり、銃弾が彼らを捉えることはなく、着弾が血しぶきを上げるのはジュアヴォやチェーンソーの怪物ばかりだ。
「またBSAAの出しゃばりか?」
初対面の時から気に喰わない狙撃手の顔をジェイクは思い浮かべているようだが
「あの子たちの親にはいろいろとお世話になったし……お礼をするにはいい機会ね」
彼らの遥か高空のビルからそれを見下ろし、ひとりごちながら
ライフルに銃弾を装填する赤いシャツの女性を見たなら、
きっと相当に面食らったことだろう。
「危なっかしいコンビだわ……せいぜい気を抜かないことね」
やがて怪物は運河に沈み、二人は貨物ボートに乗って遂にクンルンビルが見えるところまでやってくる。が
「タイタニック並みのひでぇクルージングだったぜ」
先に船を下りたジェイクが桟橋でシェリーに手を伸ばし、シェリーがそれを取った瞬間
まるでジョーズのようにチェーンソーが水面を割り怪物が飛び掛ってきて、
衝撃で桟橋から離れた船にシェリーが一人取り残されてしまう。
行く手には墜落してなお回り続けるヘリのローター。
チェーンソーかローターか、このままではどちらにせよミンチになってしまう。

けれど二人は知らない。
「かわいそうね、シェリー。いつもバケモノに愛されて……」
そう囁いた女性がフックショットを手に地を蹴り、シェリーに向かって宙に舞った事を。
瞬き一つの間にシェリーは救い出されてジェイクの腕の中に収まり、
ローターに千切られつつある怪物を眼下にして振り子の軌道を描いた何者かは天高くに消えた。

「アルバート・ウェスカーの息子……。“こちら側”に来てしまった以上、平穏な人生なんて望めないわよ」
こちらを睨み上げるジェイクを尻目にフックショットをホルスターへ戻した女性はインカムを指で耳に押し当てた。
「こちらピアーズ・ニヴァンス!エイダ・ウォンが軍港エリアに南下中!軍に警戒を要請してくれ!」
切羽詰った調子の通信を聞き、背後のハイウェイを振り返る。
そこでは赤いスポーツカーと荷台で発砲しまくるジープの熾烈なカーチェイスが繰り広げられていた。
「まるでラクーンの同窓会ね」呆れたように呟くと
「またね」エイダは眼下の二人に笑いかけ、去っていった。

「これ以上あの女の好きにはさせん!」
ジープを駆り、邪魔をしてくるジュアヴォたちを振り払い、
猛スピードで逃げるエイダを追走するクリスたちだったが、その背は一向に近づいてこない。
HQに道路の封鎖を依頼するが都市部の混乱の為それも果たせず、追いつきかけては突き放される、その繰り返しだ。
途中でHQからの通信が入る。
行方不明だった空母が軍港に着岸との事。
ネオアンブレラが占領したに違いない。恐らくエイダが目指している先もそこだろうと思われた。
途中運転を替わったクリスの奮闘で(どんな乗り物でも乗りこなすという初代の設定からか、
クリスがCPUだとマジでエイダに追いつきかねないほど早い。プレイヤーでもうまい人なら追い越すことすら出来るけど)
逃がすまじとジープごと空母に飛び込んだはいいが、車体は横転、
車外に放り出されたクリスはボロボロの車を後に去っていくエイダを見たきり気を失ってしまう。

シモンズとの待ち合わせ場所の前まで来た。
立ち止まったシェリーはもしレオンの言ったことが本当なら自分をおいて逃げてと頼む。
鼻で笑ったジェイクだったが、重ねて懇願するシェリーの真剣な瞳に、やがてわかった、と頷いた。
安堵した表情でドアに向かい、それを開いた彼女が見たのは……銃を構えて相対したレオンたちと
上品そうなスーツ姿の壮年の男……シモンズ、そしてその部下達だった。
「待ってください!」
急ぎ駆け寄ったシェリーにこの場所を教えたのは君か、と不愉快そうに指を突きつけるシモンズ。
このテロに関係しているのは本当か、と問われると、余計なことまで吹き込まれたか、と更にいらだたしげに吐き捨てる。
シモンズがアメリカの為、ひいては世界の安定の為だとうそぶくと、
「それが大統領を殺した理由か……!」レオンが詰め寄り、驚愕するシェリー。
「殺したのは君だろ?」
と、事情を知らなくとも明らかに嘘と分かる大仰な口ぶりのシモンズに、ヘレナが呪詛の言葉を投げる。
「やれ」冷たくシモンズは命じ、部下達が一斉に発砲した。
「やめて!」シェリーが火線上に飛び出し、ジェイクがそれを捕まえて物陰に飛び込むのを見ると
「あの二人は殺すな」シモンズは部下を制し、告げた。「まだ訊くことがある」
シェリーのムチャを叱るレオンを遮り「こっから先、英雄さんならどうする?」ジェイクが尋ねた。
一瞬の思考の後、一つ頷き、レオンは彼らの背後に顎をしゃくった。「あの扉まで走れるか?」
「全員ぶっ殺したっていいぜ」血の気の多いジェイクを諭して
「シェリーを守ってくれ。お前にしかできない」
言い終わる前に、傍らの地面が跳弾を吹き上げる。
二人はどうするの、と問われ、ヘレナが「早く出てきたまえ」と余裕たっぷりに呼びかけるシモンズを
「決着をつける」憎々しげに睨んだ。
そんな二人の前に、シェリーがデータを封じ込めたメモリーカードを差し出す。
シモンズが求める情報、C-ウイルスの脅威から世界を救う方法がこの中にあると言われ、
それを受け取ったレオンはFOSに二人の保護を要請することを約束し、両手に銃を構えた。

「行け!」
同時に四人、飛び出し、二人が張った弾幕の隙に残る二人は扉へと駆け込んだ。
なおも逃げようとしたシェリーとジェイクの前に、敵が飛び降り、行く手を塞ぐ。
「逃げて!」とシェリーが叫ぶもジェイクは「やなこった」と獰猛に笑う。
何にせよ背後にも敵が飛び降りてきてどうしようもない。
それでも「約束したじゃない!」抗議するシェリーに「忘れた」とジェイクはすっとぼけ、彼女の眼を見開かせる。
敵の上げた唸り声に乱戦が始まった。
敵を打ち抜いたシェリーの傍らに敵が飛び降りてきて不意を撃ち、二人がかりで彼女をとらえ、連れ去ろうとする。
「ジェイク!」シェリーの上げた叫びにジェイクが振り返り、銃を撥ね飛ばされるのもものかは、
次々と徒手空拳のまま敵を葬り、それを追おうとするが、
彼もまた、数を頼みにしがみついてくる敵の下にやがて埋もれてしまった。

呻きながら目を覚ましたクリスが見たのは、ピアーズに馬乗りになり、今にもその喉を掻ききろうとしている
ガスマスクのような防具をつけた兵士の姿だった。
咄嗟に仰向けのまま浴びせたクリスの銃撃を助けとしてピアーズが敵を振り払い、
兵士は広大な甲板の向こうへ逃げていく。それを皮切りに狙撃の嵐が彼らを襲う。
今までのザコ敵とは明らかに違う。ネオアンブレラの精鋭とでも言ったところか。
遥か遠くの艦橋、堅牢な扉の向こうに姿を消すエイダを目撃したクリスは、
度重なる敵の妨害を退け、なんとか船内への浸入に成功する。

「聞こえてる?」
と、館内放送だろうか、何者かに語りかける声が耳に入った。
「プレゼントは気に入ってもらえたかしら?あなたが私にくれたもの……そっくりお返しするわ、シモンズ」
眉をひそめる二人の頭上を、エイダの声が流れていく。
どうもこの二人の間には何らかの因縁があるらしい。
それにエイダは、シモンズに一体何をしたのだろう。
しかし考え込む間もなくそれに続く言葉が二人の表情を凍りつかせた。
「始めは不安や恐怖に苛まれるでしょうけど、安心して。あなたはただ人間でなくなるだけよ。全人類と共に……」
世界を築いたシモンズとその「ファミリー」が明日目にするのは、まっさらな世界。
不吉な予言を告げて沈黙した声の主の追跡を、前にも増した緊張をまとい、
再開した二人の前を、その時横切る一つの影、あれは。
「止まれ、エイダ!」クリスの怒声に彼女は身を翻し、隔壁の影に消えた……
しかし、つい先刻目にした彼女と服装が違っていたのは、一体どういうことだろう。
やむを得ず、回り道を繰り返して、悠々と歩み去る赤いシャツの背を追う。
「腹立つぜ……俺達を振り回して遊んでやがる……!」
フックショットで上階に消える彼女にピアーズが歯軋りするが、果たしてそうなのだろうか?
やや小さめの作業甲板に出た所で、遠い夜景を背にたたずんでいるエイダを発見、
また服が青に変わっているが……「エイダ!」クリスは叫び、駆け寄った。

「こりないわね。バケモノになったお仲間はきちんと始末できたの?」
振り返ったエイダの嘲りに唸り、更に距離を詰めようとするクリス。
「挑発に乗っちゃダメだ!隊長!」とピアーズが制止するが
C-ウイルスの実験台になってくれた彼らには感謝している、と更にエイダはクリスを煽り、一声吼えたクリスは引き金を引いた。

だが、それは……エイダ自身を貫くことはなく、その手にした銃を弾き飛ばす。
仲間達を殺され、彼女への殺意にとりつかれていた。
BSAAの使命を忘れるところだった……もし一人だったなら。
そう語る彼の眼は、既に執念から解き放たれていた。再び銃を向け、静かに言う。
「投降しろ、エイダ」
彼女を狙う二つの銃口。けれどエイダは無表情のまま、淡々と宣言した。もう遅い、と。
すでに別の空母が沖で発射準備を進めている。
「ミサイルか……!」それを聞き、緊張を走らせて目を見交わす二人に
「死者達が練り歩く……あのラクーンの光景が蘇るの」手を広げた彼女は更に二人を慄然とさせる一言を放つ。
「でも今度は規模が違うわ……全世界よ」

その時だった。
辺りにヘリのローター音が響き、目を瞠って振り返ったエイダを強いサーチライトが照らす。
手をかざし、ヘリを見上げた彼女の胸を……次の瞬間、狙撃主のライフルが撃ち抜いた。
「あの男……考えることは一緒だったようね」
ヘリはそのまま飛び去った。
あえぎあえぎ、そう言いながら、エイダは血の噴出す胸元を押さえて、
一部始終を呆然と見守るしかなかったクリスとピアーズの前からゆっくりと後ずさっていく。
「だけど……もう誰にも止められない……」
そう呟いた彼女は仰向けに手摺の隙間から身を投げて……
慌てて駆け寄り、身を乗り出した二人の目に、甲板に叩きつけられた体からばしゃりと血が飛び散るのが見えた。

「くそっ!今のヤツらは……!?」
怒声を上げたピアーズは彼女の残したアタッシュに気づき、駆け寄ってその中身を確かめる。
新型の注射器のようだ。隙間が二本分空いている。
一本だけ残された赤いアンプルは分析用に持ち帰ることにして、ピアーズがそれをポケットに収めた。
HQに通信を開き、もう一隻の空母を探すよう頼むが、世界中のバイオテロにより
首都機能が麻痺していて、本土の司令部と連絡が取れないという。
「急いでくれ!このテロすべてが陽動だ!」
「どうします?」叫ぶクリスにピアーズが切羽詰った視線を向けてくる。
敵の目的は全世界をウイルスで攻撃することなのだ。早くしなければ……。
使える機体を探して格納庫へ向かうことにした。
駆け込んだエレベーターでHQからの通信が入る。
エイダの言葉はハッタリではなかった。
外海に、既に発射段階のミサイルを搭載した空母を発見との事。
急ぎ、これを阻止せねばならない。
格納庫を開く為のパスコードを延々甦って追いかけてくるキモイ化物「ラスラパンネ」と戯れつつ
探して発見、しつこく纏わり付いてくるのを溶鉱炉の中に叩き落し、
垂直離着陸戦闘機が鎮座したハンガーデッキへ到着する。
どんな乗り物でも以下略なクリスが操縦席に乗り込んで離陸、真っ暗な空に白い尾を引いて戦闘機は空母を後にした。

「空母は高射砲で武装している。これを破壊し、制圧せよ」
「俺たちだけで空母を制圧?ムチャなオーダーだな」
HQからの通信にボヤいた癖にピアーズは数分後にはそれを達成、
しかし相手がウイルスだけに爆撃して空母ごと沈めるわけにも行かず、
ピアーズが単身艦に乗り込んでミサイル発射を阻止することになる。
洋上にほかの空母はないらしい。たかがミサイル一発で世界中にラクーンを再現とは?
疑問に思うクリスだったが、まずは目の前のミサイルの沈黙が先決だ。
敵は甲板でオグロマンを解き放つムチャ振りをかましてきたが、
戦闘機の機銃でクリスがこれを牽制している間に制御装置の爆破に成功。
ピアーズを拾い、離艦しようとする、が……通信機が危急を告げた。
ミサイルが再起動したというのだ。
「エイダ……まさかここまで想定して……!」
緊急事態にミサイルの爆撃が許可されたものの……ピアーズが甲板に上げた爆炎の中からミサイルが飛び出し、
恐ろしい速度で遠ざかっていく。
「街に……!」
ピアーズが絶望の声を上げたその時、
「こちらFOS。応答願います」女性の声で新たな通信が入った。
「FOS!?」合衆国のエージェントとオペレーターの総括組織が何故今?
戸惑いながらも「BSAA、クリス・レッドフィールドだ」返答をすると、
冷静さと緊張を同居させた声は「当局のレオン・S・ケネディと回線をつなぎます」
「何!?」意外な、だが願ってもいない相手へとクリスを導いた。
回線が切り替わるのももどかしくいまの所在を尋ねられたレオンが、
当惑気味にターチィのはずれだと答え終わるのも待たず、
「逃げろ!」あらん限りの大声でクリスは絶叫した。

摩天楼のビル群のふもと、大荷物をそれぞれ携えて、がやがやとバイオテロからの避難を進める人々、
その頭上で―――ミサイルが破裂し、噴出した膨大な霧が群集を雪崩のように飲み込んでいく。
やがて大混乱が巻き起こった。霧を吸ったものが瞬く間に生きる屍と化して、そうでないものを襲いだしたのだ。
喰われたものもまたゾンビとなり、新たな犠牲者に襲い掛かる。
それはまさにラクーンの再現……否、それ以上の地獄絵図だった。
「レオン!?レオン、無事か!」
「ああ……」
必死で呼びかけ続けるクリスに、ややあって返答があった。
レオンの眼下には逃げ惑う人々をピラニアのように襲う死者の群れ、武装したBSAAの隊員さえも数には勝てず貪り食われていく。
「くそっ!」最悪の事態に思わず拳をキャノピーに叩きつけたクリスに「落ち着いて聞いてくれ」とレオンが言った。
海底油田から救い出して欲しい人物がいる、と。
一人は合衆国エージェント、シェリー・バーキン。
そしてもう一人の要救助者……ジェイク・ミューラー。
彼の素性を聞いたクリスは唖然となる。そう、かつての彼の宿敵、あのアルバート・ウェスカーの息子だというのだ。
「ウェスカー!?」思わず聞き返したクリスに、更にレオンは彼がC-ウイルスの抗体を持っていることを告げる。
ともかくも、事は一刻を争う。クリスは彼の頼みを承諾した。
が……彼にもまたレオンに伝えなければならないことがあった。
しばし、口ごもったものの……「エイダ・ウォンは死んだ」そう告げたクリスの言葉に、インカムがしばし沈黙した。
やがて「わかった」囁くような声が返ってきて、シェリーとジェイクの救助を念押しする。
応えてクリスは操縦桿を目一杯に押し込み、油田へと進路を取った。

2013/7/1
中国外海、海上プラント
戦闘機から飛び降り、素早く周囲を警戒したクリスとピアーズは、エレベーターに乗り込み地下を目指した。
「皮肉なもんですね」
長い長い降下の途中、ピアーズが言う。世界を滅ぼそうとしたアルバート・ウェスカーの息子が、
今世界を救う唯一の希望になっている。

しかもそれを助けに行くのは、父親を殺した男だ。
そうクリスが返すとそれもまた皮肉だと言うピアーズ。
これも運命なのかもしれない、とクリスは呟いた。
軌道エレベーターは海中深くへと潜っていく。
三年前、ウェスカーを倒した時、自分の戦いは一旦終わりを迎えた。
そう語るクリスはジェイクの救出が終わったら銃を置く事をピアーズに告げる。
「ちょっと待ってください!」
慌てるピアーズに、退くにはいいタイミングだとクリスは静かに言い、BSAAのこれからをピアーズに託す。
「俺には、荷が重すぎます……」
ピアーズは顔を背けるが、
「大丈夫さ、お前ならな」力強くクリスは笑い、ピアーズはそんなクリスを見つめ返す。
エレベーターが地階に着いた。
「さて……」傍らの後継者に呼びかけて、二人、銃を構え、開いたドアに突撃する。
「最後の仕事だ!」

ジェイクが目を覚ますと、立ったままの姿勢で拘束台に捕らわれていた。
戒めを解こうとひとしきり身をもがいてみたが、びくともしない。
タメ息をついて器具に預けた背中から「ごめんなさい……」声が聞こえて、はっと首だけで振り返る。
「私がシモンズを信用したばっかりに……」全部自分のせいだと項垂れるシェリーが、背中合わせにそこにいた。
「シモンズに言われたからやってたのか?」
静かに尋ねられ、目を見開くシェリー。
「ワクチン作って世界を救うのは……お前の信念ってヤツじゃねえのか?」
背後のジェイクから目の前に視線を落とし、彼女が固く唇を結んだその時、突然辺りにビープ音が響き始める。
何事かと見回していると突然拘束が外れ、二人とも床に転がり落ちた。

「海の底にこんな……あの女、どんだけカネ持ってたんだよ」
大掛かりな軍事施設っぷりにいつぞやのジェイクのような感想をピアーズが漏らす。
なんにせよここはネオアンブレラの巣だと警戒を促して道を進む。
思いのほか早く拘束されている二人をモニター室で発見することはできたが、
装置を操り開放すると同時に監視に感づかれてしまった。
ジェイクたちがいるのは研究施設層のようだ。急ぎの合流を目指し、クリスたちは部屋を飛び出した。

いっぽう、なんだか分からないが自由を取り戻したジェイクたち。
けれども案の定というか当たり前の話だが丸腰だし、武器を探さなければ。
何とかならないか周囲を探ってみると、蜂の巣型のガラスの向こう、続きの間の机上に無造作に放り出してある武器を発見。
ジェイクの助けで天井の通気口からシェリーが侵入したが、
途中でクリスたちが空母で遭遇した「ラスラパンネ」とばったり出くわし、天井から落下してしまう。
不幸中の幸いだがそこは既に目的の部屋だった。
扉を破壊して、「やるじゃねえか」と感心するジェイクに「見直した?」と銃を手渡し、二人は脱出を開始する。

研究施設層との接続ブロックに出た。厳重な警備の為水中を走る回廊が接続されるまで時間がかかるようだ。
扉の開放を待つ間、出現した大量の敵との乱戦に臨むクリス達に呼びかける声がある。それは……
「ようこそ、侵入者……」「エイダ!?」
「あなた達は国連軍かしら?状況から考えれば、BSAAが一番ありえるかしらね。
でもね……あなたたちに私の計画をとめることはできない……」
録音なのだろうか?クリスたちの驚きも知らぬ顔でエイダの声は語りかけ続ける。
ミサイルにより今もたらされている地獄、それ以上の脅威の存在を。
その名は、「ハオス」。ここはそのハオスが目覚める場所なのだという。
HQとの連絡は途絶していて、ここを出ないとどうしようもない。
「今は二人を助けることが先決だ!」
扉を開くまでの長い間を凌ぎきり、二人は研究施設へ足を踏み入れた。

ラスラパンネに追い回されながらジェイク達は電力供給が停止していたエレベーターに予備バッテリーを繋ぎ、起動。
(ちなみにラスラパンネは作業エレベーターが押しつぶした)
エレベーターを降りると中央に巨大な穴が開いた回廊に出た。
するともう一つ開いた別の入り口から薄暗い中を駆けてくる二つの人影がある。
「クリス!?」
「二人とも無事でよかった」こちらを見て足を止め、頷いたクリスに
「あなたたちだったのね、助けてくれたのは……」喜びの声を上げるシェリーだが、
「さすがは正義の味方だな」ジェイクの憎まれ口は相変わらずで、
二人を、というかジェイクを見た途端に他所を見ていたピアーズがむかっ腹も露に振り向いた。
それも知らぬげに黒々と開いた穴を覗いているジェイクの横顔をしばし眺め、
「……よく見れば父親の面影がある」
投げたクリスの言葉に全員が息を呑む。
「どうやって私たちを……」「ちょっと待て」
慌てて話を逸らそうとしたシェリーを遮り、ジェイクはクリスへと向き直った。
「……知ってんのか」
「ああ……」頷き「俺がやった」返した言葉の意味を図りかねたのも束の間
「俺が殺した」ずばりと言われてジェイクの表情が強張った。
真偽を求めて投げた視線の先でシェリーが顔を背けてその真実を裏付ける。
ジェイクはぎゅっと唇を噛み……出し抜けに銃を抜いてクリスに突きつけた。
それを受け、ピアーズが即座にジェイクへと銃口を向ける。
おまえが、と問われ、頷くクリス。
「クリス……!」「飼い犬には首輪つけとけよ」
発砲の許可を求めでもしているのか、上司へ呼びかけたピアーズをジェイクが顎で示すと、
「これは俺と彼の問題だ」クリスは腕を上げて部下を制し、ためらった挙句、ピアーズは渋々武器を下ろした。
「撃ちたいなら撃て。君にはその権利がある」
そんな彼の前でクリスはずいと歩を進め、更に銃口に近く身を晒しながら言い募る。
「だが一つだけ約束してくれ……必ず生き延びて、世界を救うと」
「テメェが指図してんじゃねえ!」「やめて!」
逆上するジェイクをシェリーが懸命に止め、ピアーズが下げた銃を再び構える。
「……なぜ親父を殺した?」
張り詰めた空気の中、ジェイクが声を震わせた。
それはBSAAとしてか、それとも個人としてか。
尋ねられ、クリスは沈黙の後、低く答えた。
両方だ、と。
聞くなりジェイクは眉を吊り上げて、銃把を硬く握り締めた。
シェリーが懇願し、ピアーズが殺気だって警告する。
クリスはただ静かにジェイクを見つめ……絶叫したジェイクは引き金を引いた。

銃声にびくっと眼を閉じたシェリーが驚きに目を見開く。
頬に走った傷と背後の壁に穿たれた穴に目をやって、クリスは眼前の若者にゆっくりと視線を戻した。
「こんなことやってる場合じゃねぇんだよ……」
銃口はいまだに下げぬまま、しかし唸るようにジェイクが囁き、ピアーズはあっけに取られた顔で銃を下ろした。
と、その時、地響きと共に辺りが崩れだす。
「ジェイク!」「わかってるよ!」
シェリーに促され、怒鳴り返しながらようやっとジェイクが銃を下ろし、全員で天井を見上げた。
崩れかけたそこには、ライトに照らされ、異様に巨大な繭が不気味に吊り下がっている……。

外周に沿ってエレベーターがあるのをシェリーが発見し、それで上に出ることにした。
が、エレベーターを作動させる為の操作盤に近づくと、
モニターに映し出された地球らしき円形に赤い色が広がりだし、警告音が鳴り響く。
“ハオス解放。感染率20%……60%……”
ここに来るエレベーターが止まっていたのも“ハオス”とやらの覚醒の準備の為だったらしい。
ハオス。それは今頭上にあるあの巨大なサナギだ。
自分達がその目覚めを止められなければ、今モニターがシミュレートしているように世界はあのサナギによって滅ぼされてしまう。

エレベーターを起動させ、二手に分かれて乗り込み、外周を上昇していく。
(この最中、組み合わせによって会話が変わる。全3パターン)
「あんな無茶をすることはないでしょう。ウェスカーは死んで当然のヤツだった」
とピアーズが食って掛かるが、クリスはあいつにとってはたった一人の父親だ、知っておく権利があると譲らない。
「まったく……隊長の下にいるとハラハラさせられっぱなしだよ」
やれやれと息をつくピアーズに
「俺のパートナーになった人間はみんなそう言うのさ」クリスは涼しい顔だ。
向こうでは、全部終わったら武器を捨ててクリスと話し合って、とシェリーが懇願している。それに
「これは俺とアイツの問題なんだよ。それにまだ頭ん中がグチャグチャしてんだ。
先のことなんざ、なんにもわかりゃしねぇよ」ジェイクは吐き捨てた。

ジェイクがウェスカーの息子であることと、シェリーたちがここに捕らわれている事を
レオンから聞いたと知り、レオンの無事に安堵するシェリー。
しかしまだ安堵は出来ない。
中国は今やラクーンの再来となっており、その解決のためにシェリーたちをここから脱出させること、
それが自分の最後の仕事だとクリスは語る。
一方「よかったな、隊長を殺さなくて。殺ってりゃ今頃俺がお前の頭を吹っ飛ばしてたぜ」とピアーズ。
「俺が飼い犬ならテメェは狂犬だ。首輪が必要なのはどっちだよ」
それに「ゴチャゴチャうるせぇな、ケンカ売ってんのか」とジェイクが噛み付き
「テメェは気に入らねぇ」「意見があったな。全く同感だ。ここを出たらぶっ飛ばしてやらあ」
と共闘している最中も険悪な二人。
ピアーズ……シェリーと一緒になった時は「危なっかしいな、君の相方は……色々大変だろう」と気遣ってあげたりするのに……。
その後「まあ、ウチの隊長も最近大変すぎだけどな」とボヤくピアーズにシェリーはジェイクを信じていると言う。
他方では、話は終わっちゃいない、まだ聞くことが山のようにあると食い下がるジェイクに、
ここを出たらいくらでも答えてやるとクリスは返す。
「ただし、心の準備をしておけよ」と脅され(?)て、「余計なお世話だ」とジェイクが憤慨する。
「いいか、俺と親父は違う。親父は負けたんだろうが俺はそうはいかねぇからな」
何故か胸を張られて「……覚えておくよ」とクリスは呟く。

最上層についた。出口へ繋がる扉はよりによってハオスのまん前だ。そして……
今まさにそれは最悪の目覚めを迎えようとしていた。
銃を向ける四人の目前でサナギの背を割ってその生物が現われた。
それは言うなら心臓をむき出しにして幾つもの腕を持たせた巨大なクリオネだ。
骸骨に似た顔がこちらを向いて「避けろ!」クリスの叫びで左右に分かれ、
跳んだ足場に次の瞬間、人間の出来損ないのような平べったい手が叩きつけられた。
足場はあっけなく落ちていき、ハオスもまた衝撃で吊り下げていたクレーンが外れ、落ちていく
……ものの、途中で足場を掴み、立ち直った。骸骨のうつろな目はひたとこちらを睨み上げている。

クリスが先に行けと出口に顎をしゃくり、ピアーズも「こいつは専門家の仕事だ」と二人を促す。
腕を取ったジェイクに「待って!」シェリーが抗うが、
「やるべき仕事があるだろ」とジェイクは強く諭し、クリスに視線を転じる。
同じ強い目でクリスが頷き、ジェイクは強引にシェリーを引いて、閉まるシャッターの向こうに駆け込んだ。

「隊長!上へ!」
ピアーズに言われるまでもなく、引っ掛けられただけで落下する足場の上では戦いようもない。
「エイダめ最初からこいつを放つつもりで……」
「ミサイルさえも陽動だったってワケかよ!」
次々と落下する足場を駆け抜け、飛び移り、時には二人で協力して飛び上がり、引き上げ、
穴の中をすり抜けて逃げ続ける。
漸く上層へ抜けるエレベーターまで辿り着いた二人は間一髪でハオスをかわし、上昇ボタンを押し込んだ。

ジェイクの腕を振り払い、二人で倒せる相手じゃないと取り乱してシェリーは叫ぶが、
ジェイクは「戻らねぇぞ……」一言一言、区切るようにして言う。
「殺されるかもしれないのよ!」
「あいつらが選んだことだ!」
怒鳴られて、びくりと目を見開くシェリー。
「テメェの信念かけてやるって言ってんのに、それを邪魔するようなだせぇ真似できるか」
唸ってジェイクが向けた背中に「ジェイク……!」泣きそうな声をかけると、おまえの言ったとおりだ、と彼は息をつく。
「俺は親父とは違う。それを証明するためにもくたばるわけにはいかねえ。
何がなんでもここから出て……おまえが世界を救うんだ」
かつて自分が言ったこと、そして彼に言われたことを聞くうちに、シェリーの瞳は落ち着きを取り戻していた。
「そうね」シェリーは言い、二人は小さく笑みをかわして駆け出した。

細いパイプが幾つも絡んだ通路を抜けると、火柱を上げる油が一面に広がる広大な空間に出た。海底油田の採掘場だ。
油田を渡る太い採油管の上に張り巡らされている足場に飛び降りたシェリーとジェイク。
と、その時……するすると背後の扉が開き、
「おいおい、またかよ」
振り向いたジェイクはもう何度目になるか分からない呻きをもらして銃を構える。
腹に穿たれた醜い穴をはじめとして、全身のあちこちに傷を負ったウスタナクがそこに立っていた。
新しくその右手に備えられた長い鎖のついた鉄球が唸りを上げ、潰れた採油管が赤く煮える油を噴出す。

「上等だ。鬼ごっこはこれが最後だぜ」
そう啖呵を切ったジェイクだったが、狭い足場に広範囲をフォローする獲物相手では分が悪い。
奥へと逃げた二人は溢れる油に侵されていない広場を発見、そこでウスタナクを迎え撃つ。
「はしゃぎすぎだ、くそったれ!」
暴れる足元から湧き出してくる炎にもお構い無しのウスタナクにジェイクが毒づくと
「暴走気味ね……私たちへの殺意だけで動いてるのよ」とシェリー。
彼女の言葉通り、ウスタナクの動きは最早でたらめで精彩を欠いている。
振り回したこぶしをかいくぐったシェリーがウスタナクに背中から取り付いてスタンロッドで喉を締め上げ、
その隙にジェイクが右腕の鉄球を引きちぎった。
だが、暴れだしたウスタナクはシェリーを跳ね飛ばしてジェイクを足場へ放り投げ、二人とも丸腰になってしまう。
一転しての大ピンチ、だが。
「盛り上がってきたぜ……なあ?」後を追って飛び上がってきたウスタナクに
「タイマンで行くかい?」肩を回したジェイクは怯まない。
素手のジェイクはなんとそのまま猛ラッシュでウスタナクを足場の端まで追い詰めて、
トドメに渾身のジャンピング右ストレートで煮えたぎる油の中に叩っ込んでしまった。
油の中でもがくウスタナクに天井からダメ押しと言わんばかりに燃料タンクが降ってくる。
高々と上がった火柱が消えると、もう大男の姿は見えない。
「二度とツラ見せんなよ」
吐き捨てたジェイクはシェリーと共に、崩壊を始めた採掘場を後にした。

「くそったれ!不死身かこいつは!」
「食い止めろ!こんなヤツを外に出すわけには……!」
上層階に移ったあとも、クリスたちの絶望的な戦いは続いていた。
流れ込む海水に足を取られながらも透明な腹にうごめく内臓に弾を叩き込み、巨大な怪物は漸く突っ伏し、動かなくなる。
が、同時に強化ガラスのドームが割れ、海水がどっと押し寄せてきた。
「ピアーズ!」叫んだクリスの隣に、暫くの間を置いて
「問題ありません」大量に水を滴らせながらピアーズがやっとのことで這い上がり、答えた。
エレベータに乗り込み、なおも上階を目指すクリスたちの背後、
なみなみと溢れる海水の中を……不気味な泡が幾つも浮き上がり、弾けている。

やはりハオスは死んでいなかった。
水中に走る回廊に出た二人の上、透明なガラスの向こうを泳ぐ化け物が近づいてくる。
割れたドームのガラス窓から海へと出たのだろう。
ハオスにより加えられた衝撃で回廊の隔壁が次々と閉まっていく。
「冗談じゃねぇ……!こんな所で死ねるかよ!」
唸り、落ちていく壁の向こうへエレベーターを目指して必死の逃走を続ける。
だが、最後の隔壁に滑り込み、息をつく間もないうちに……ハオスがそれをこじ開けて、巨大な腕を振り上げた。
「隊長!」
ピアーズがクリスを突き飛ばし、その腕に捕らえられる。
万力のように締め上げられた彼の右腕からみちみちとイヤな音がする。
地面に転がったクリスが即座に発砲し、腕に弾けた弾丸にハオスはピアーズを放り出した。
だが、吹き飛んだピアーズはシャッターに激突し、落下した際に地面から突き出た建材の破片がその右腕を貫いた。
絶叫するピアーズに駆け寄ろうとするクリス、が、ハオスが巨大な瓦礫を投げつける。
それはクリスの目前を掠め、磔にされてもがくピアーズの腕を更に押しつぶした。
再び響く絶叫、そしてクリスは彼の元に辿り着くことなくハオスに捕らえられてしまった。
巨大な腕を叩いて足掻くがびくともしない。
最早絶体絶命か。
だが、その時、ピアーズが全身の力を込めて身を振りもがいた。
雄叫びを上げ、役を生さなくなった右腕を、自ら体を折って引きちぎる。
べしゃりと倒れた彼の前に、軽い金属音をさせて何かが転がった。
それは、あの赤いシリンジ。空母で死んだエイダから回収した新型注射器だ。
吼える怪物を目の前に、彼はじりじりとそれに向かって這い寄っていく……。

通路を進むと倉庫があり、その先に搬出作業用のトロッコを見つけた。これで脱出できるかもしれない。
乗り込んでレバーを倒したジェイクだったが、その途端、凄まじいスピードでトロッコが疾走し始めた。
転がり落ちそうになるのを床の隙間にしがみついて何とか防ぎ、
「操縦もクソもねぇのか……!」
必死で這い上がるその背後に……異様なスピードで追いすがってくるもう一台のトロッコ。
追いつき、繋がったその背には……
「このクソ野郎!まだこりてねぇのか!」
何というしつこさだろう、全身を炭化させたウスタナクが張り付き、こちらへ乗り移ってこようとしている。
しかし、この猛烈な速度の中では何をする事もできない。
叩きつけてくる腕をかわしながら床の隙間を手がかりにじりじりと登る。
「いい加減空気読めよバケモンが!」
途中で床に固定されていた積荷や鉄管をぶつけ叩き落すもワイヤーでこらえ、
あろうことか執念の大ジャンプで前方に飛び移ってくる。
しかしその際破壊した積荷の箱の中から大量の拳銃が撒き散らされ、その中の一丁が両者の中央の床に引っかかった。
着々と這い寄ってくるウスタナクを目にしながらそれを手に取ったのは……シェリーだった。
しかし凄まじい風圧の為うまく狙いがつけられない。
ふらふらと揺れる腕、けれどそれをがっしりとジェイクが掴んだ。
「ケリをつけようぜ」
二人の放った弾丸は、ウスタナクの胸に露出した「核」を貫いた。
にも拘らず腕を振り上げるウスタナク。
が、それも束の間、やがて赤々と血を吹き上げて、大男はがくりと床の上に突っ伏した。
力尽きた巨体は二人の上を飛び越えて、通路の壁にぶつかりながら背後に迫る炎の中に姿を消した。

荒い息をつくシェリーの横顔を見つめるジェイク。
「お前は……」
低い声にシェリーが目を向けると
「俺を救ってくれた」傷だらけの若者は真剣な瞳で呟いた。
背中で何度目かの爆発が起こり、爆風が通り過ぎる。
身を伏せ、やり過ごした後にまじまじと見返して「ありがとな」
かけられた言葉にシェリーは微笑み、床の格子を掴んだ彼の手に自らのそれをそっと重ねた。
見上げた二人の頭上に、出口の光が近づいてくる……。

「ピアーズ!なんてことを……!」
ハオスの腕から開放されたクリスが呻く。
赤い液体はピアーズに新しい右腕を与えた。
だがそれは異形としか言いようがない巨大なそれで、雷を放つ異能さえも備えていた。
その力でピアーズはクリスを救い、脱皮を繰り返すハオスについにトドメを刺したものの
「気をしっかり持て!大丈夫だ!絶対に助ける!」
「すみません……隊……長……」
肩を抱くクリスを振り仰いだピアーズの侵食は目を覆いたいほどだった。
赤黒い血管を露出させ、異様に輝く右目を歪めながらピアーズはBSAAの未来をとクリスに懇願する。
「あんたさえいれば……」「それ以上言うな!」
途切れがちの声を遮って、お前も一緒だとクリスはピアーズを力づけた。
小さく頷いたピアーズを連れ、クリスは決死の脱出を再開する。
圧壊の可能性を知らせ、施設員の脱出を促すアナウンスが響き渡っている。周囲の建物が更なる崩壊を始めた。
「下がっててください……俺が……ぶっ壊しますよ……」
暴走したC-ウイルスの影響か、通路を塞ぐ異形の塊をピアーズが破壊し、先を急ぐ。
しかしそんな中、ピアーズが床にくずおれ、苦しみだした。変異が更に進行している……。
行ってくださいともがくピアーズに「ダメだ。一緒に行くぞ……!」クリスは断固として首を振る。
苦鳴を上げる肩を支え、開いた扉に脱出ポッドを見つけたクリスは
「見えるか?もうすぐだぞ……!」
なんどもこくこくと頷くピアーズを座らせて、操作盤に指を走らせた。
しかし
「行こう、ピアーズ。ここから出るんだ」差し出された手を取り、数歩歩いたところで不意に彼がそれを振り払った。
信じられないものを見たように相手と自分の手に視線を往復させたクリスをピアーズが力いっぱい突き飛ばす。
慌てて跳ね起き、飛びついた目の前でポッドの扉が無常に閉じる。
「何をしている!開けるんだ!」
厚いガラス窓の向こうのピアーズは、異形の瞳に悲しげな色を浮かべて、こちらを見ていた。
扉を叩き、諦めるなと必死で諭すがピアーズはよろめきながら踵を返し、操作盤へと歩いていく。
「ダメだ……やめるんだ!ピアーズ!」
けれども彼はレバーを押し込み、脱出装置が作動を始めた。
「こいつを開けろ!命令だ!」
最早どうしようもないのに、それでもクリスは懸命に扉を叩き続ける。
「やめてくれ……!」
小さく首を振るクリスをピアーズはじっと見つめ……
次の瞬間、ポッドが猛烈な勢いで発射され、その姿は遠く崩れ去る瓦礫の向こうに消えた。

海中に発射されたポッドの中。
脱力した表情で窓を叩き続けていた腕を下ろすクリス。
どこかで遠い地響きが聞こえた。
窓から逸らし、閉じていた眼をはっと眼下の海中に向ける。
そこにハオスがいた。こちらに腕を伸ばし、恐ろしい速度で追いすがろうとしている。
しかし彼には何もできない。ただ唇を噛んで見守るだけだ。
ハオスがポッドを掴んだ。激しい揺れがポッドを襲い、照明が消える。これまでか……!

その時、彼が後にした脱出口に眩い光が閃いた。
それは海中を瞬く間に駆け、ハオスを捕らえる。
閃光から庇った腕の下に引き戻されていく化物と、それを巻き込み起こった大爆発を見ながら、
クリスの乗ったポッドは真っ暗な海中を浮上していった。

ポッドの扉を開くと、夕焼けの光が目を焼いた。
ふと、掌に視線を落とすとそこに何かが張り付いている。
BSAAのエンブレム。ピアーズのだ……。
握り締め、瞑目する耳にヘリのローター音が届いた。
こちらへ近づいてくるヘリをクリスはじっと見上げる。

大勢の人が談笑している酒場でクリスは一人、席に着いていた。目の前の皿には大振りのステーキ。
しばし、物思いに沈んだ後、切り分けてほおばり、その味に小さく頷く。
ここは以前のあの店だろうか。彼が「アタリだ」と言っていた……。
食べ終えて、コーヒーを口に含む彼の元に、一人の若者が歩み寄ってくる。
軍装の右腕には、BSAAのエンブレム。
「隊長」
かけられた声に顔を上げる。似たような背格好、似たような声。
そう思ったのも一瞬。全くの別人だ……当然ながら。
指令を告げた若い隊員に、「わかった」クリスは手にしていたマグカップを置き、立ち上がる。
「案内してくれ」
隊員を見る目には、もう物思いの色はない。
それでも、「了解!」と背を向けた隊員に続くまで、ほんの少しの間床に視線を落とし……
それから彼は歩き出した。大股に、外の光の中へと。

飛行機の中でパソコンに指を走らせ、シェリーは報告書を書いている。
ジェイク・ウェスカーから採取された血液はネオアンブレラでの実験データとともに
研究機関へと引き渡され、それを境に事態は収束へと向かった。
以降、その影響力を考慮したBSAAの判断により、彼がアルバート・ウェスカーの息子であることは機密扱いとなる。

レポートを書き終えパソコンの電源を落とすとスチュワーデスが紅茶を運んできた。
湯気の立つティーカップを口に運んで一息つくと、傍らの携帯端末がメールの着信を告げた。
表示した画面には“50ドルにまけといてやった”の文字。
笑みを浮かべて、窓の外に目を転じるシェリー。

飛び去る飛行機をしばし眺め、ジェイクは携帯を閉じて腰に戻した。
跨るバイクにキーを差し込みエンジンをかける。
サングラスをかけて口元をゆがめると、(本当にどっかの誰かにそっくりだ)後輪をきしませて向きを変え、アクセルを開いた。
どこまでも続く荒地の中をまっしぐらに駆け、バイクはやがて砂塵の向こうに消えていった。

短縮
東欧の小国イドニアの傭兵、ジェイク・ミューラーは自分の血液が最新ウイルス兵器
「C‐ウイルス」の抗体を備えていることをアメリカのエージェント、シェリー・バーキンに知らされる。
5000万ドルで血を売ることにしたジェイクは途中BSAAのクリス・レッドフィールドと共闘したりしながら
C-ウイルスにより大混乱のイドニアから脱出を図るがこの混乱を引き起こした謎の女
エイダ・ウォンと彼女が放った追手ウスタナクに捕えられてしまう。
一方クリスはその後エイダにはめられ副官的存在のピアース・ニヴァンズ以外の部下を全て失い、
記憶もなくして半年間さまよった挙句東欧の酒場で飲んだくれていたところをピアーズに連れ戻される。

中国でのバイオテロ鎮圧に引っ張り出された彼はその後戦いの中記憶を取り戻すが
エイダへの憎しみに駆られ暴走した結果、またもピアーズ以外の仲間を失ってしまう。
一方同じ街の郊外の研究所に監禁されていたジェイクは捕獲された際に自分の父親が世界の破滅をもくろんだ
アルバート・ウェスカーであることを知り、その事から立ち直れないでいた
親がなんだと諭すシェリーにそれはお前が同じようにひどい親と自分は違うと
思い込みたがっているだけだと反論するジェイク。
だがシェリーに信念が持てないのは自分の問題だと言われて吹っ切れた彼は研究所を脱出する。
がむしゃらにエイダを追う中クリスはレオンに再会、彼女は大統領と大量の米国民を犠牲にした大規模テロの
証人だといわれ、戦う目的は同じはずだと諭されて憎しみから目を覚ます。
引き続きエイダを追ったクリスだがその目の前でテロの首謀者、
大統領補佐官ディレック・シモンズの手の者によりエイダは射殺されてしまう。
しかし彼女は既に世界を破滅させる手段に着手していた。
強奪した空母からウイルスをばらまくミサイルが発射されるのを阻止しようとするも果たせず街はゾンビの巣窟と化す。
ジェイクの素性と彼がウイルスに対抗する抗体をもち、エイダの残存戦力により海底油田に囚われた事を
レオンにより知らされたクリスは彼らの救出に向かうが、そこでエイダが更に強力な生物兵器「ハオス」を
起動させようとしていると知る。ジェイクとシェリーを開放するもハオスが目覚め、
それを引き受けたクリスたちはピンチに陥る。
だがその時ピアーズがエイダから回収していた強化版C-ウイルスを自らに使い、怪物と化してクリスを救う。
一緒に帰ろうとピアーズに訴えるもピアーズはクリスを脱出ポッドに押し込み、
ハオスとともに崩壊する海底油田に姿を消す。
一方、脱出の中宿敵ウスタナクをついに倒したジェイクはシェリーにお前は俺を救ってくれたと礼を言う。

エピローグ
ピアーズに託されたBSAAの未来を背負い、新たな指令に旅立つクリス。
いっぽう飛行機の中で報告書を書くシェリーのもとにジェイクからメールが届く。
「50ドルに負けといてやった」の文に笑みを浮かべるシェリーだった。





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