BIOHAZARD 6 クリス編

BIOHAZARD 6 クリス編:part64-33~35,71~79,190~197


33 :Biohazard 6◆l1l6Ur354A:2012/11/08(木) 22:32:17.95 ID:lKYL3JHR0
【クリス編】 CHAPTER 1

2013年6月29日、東欧某国。
男が、酒に溺れていた。年齢は中年か。隆々とした体躯と体中に残った傷跡。まさに歴戦の勇士の体であった。
そんな男が、明らかに荒れた様子で呑んでいた。暗く、そして危険な空気を漂わせて。
客は誰も近づかない。店の雰囲気も暗くなっていた。店も客も、明らかに迷惑していたが、男はそれでも酒を呑んでいた。
ついには、バーテンの女性に絡み、客の一人と乱闘を始めた。男は荒れに荒れて、落ちるところまで落ちていた。

青年が、男の乱暴を止めた。近寄りがたい雰囲気で呑んでいた男の隣にわざわざ座ってステーキを食べていた青年だ。
彼は【ピアーズ・ニヴァンス】と名乗り、男に【クリス・レッドフィールド】と呼びかける。
ピアーズは、クリスのことを半年間も探し回って、ようやく見つけ出したのだという。

だが、クリスにはピアーズと面識がなかった。いや、思い出せなかった。彼は半年前に記憶喪失に陥っていたのだ。
ピアーズは携帯端末を取り出し、写真を見せた。彼らが半年前に共に戦った任務の写真だった。
ほかにも、たくさんの男たちが彼らのチームだった。ピアーズは端末で仲間たちの写真を表示し、クリスに突きつける。

「事実から目を背けることは許されない、あんたは過去と向かい合うべきだ。
見ろ、見るんだ! みんなあんたにすべてを託して死んでいった仲間だ! そうやって目を背けて、なかったことにする気かよ!」

ピアーズの熱弁もむなしく、クリスはなにも思い出せない。しかし、ひとつだけ、クリスの頭を刺激するものがあった。
ピアーズのジャケットの肩に縫い付けられた、【B.S.A.A.】のエンブレム。
「そうだ。あんたの帰るべきところだ。みんなが待ってる。あんたを迎えに来たんだ、隊長」
ピアーズはそう言った。ほかにも数人の男たちが、クリスの傍に集まってきた。彼らは、クリスを慕う部下たちだった。

(俺は何から逃げていた? その答えを知らなければ、永遠に前に進めない……。)
記憶は相変わらず蘇らない。だがクリスは、この男たちの隊長として、再び戦場に立つことにした。
そこに、自分の失われた記憶が、自分の人生の意味があると信じて……。


翌6月30日。中国、偉葉(ワイイプ)。生物兵器【ジュアヴォ】を用いたテロ事件が発生。B.S.A.A.が鎮圧に向かう。
テロ組織は、国連職員数名を拉致し、とある雑居ビルに監禁しているらしい。その救出が、彼らの任務だ。
クリスは、アルファチームのリーダーとして戦うことになった。その隣には、ピアーズが従っている。
到着したクリスらを真っ先に出迎えたのは、カメラマンとリポーターだった。それらを押しのけて、クリスらは進む。

奇妙な仮面(京劇に使うものだろうか?)を被ったテロリストと遭遇。なんと、頭に銃弾を受けても活動している。
「ジュアヴォと遭遇! イドニア内戦時と同じ特徴を確認した!」
ピアーズがH.Q.(ヘッド・クォーター=本部)に報告するのが聞こえた。
ジュアヴォとは、人間同様の思考能力と武器活用などの応用力があるB.O.W.だ。さらに変異する性質も秘めている。
彼らは人に見えるが、もう人ではない。無抵抗の市民にも容赦がない、恐るべきバイオ兵器へと堕ちてしまった存在だ。

ジュアヴォは武装していた。ロケットランチャーを取り出して、B.S.A.A.のヘリを墜落させる者までいた。
それらと戦うクリス。記憶はまだなくとも、身体で覚えた戦いのカンは鈍っていないらしく、快進撃を続ける。

別チームの一人が、ジュアヴォに首を絞められているのに遭遇。ピアーズは細く息を吐いて、狙いを定めた。
見事、ジュアヴォの肘関節に命中。ピアーズは狙撃を最も得意としており、その腕は天才的である。
するとそのジュアヴォの腕が、急激に変異を始める。これが、ガナードやマジニと決定的に異なる特徴だ。
驚異的な再生能力により、ダメージをきっかけとしてより怪物的でより強力な特徴を備えた個体へと変異を遂げるのだ。

敵の反撃によって、部下の隊員が一人死亡した。その姿を見て、クリスの記憶の断片がフラッシュバックする。
一瞬、それに気をとられたクリスだが、ピアーズに肩を叩かれて我に返った。考えにふける時間はない。
クリスは任務に集中し直し、素早くチームに指示を出す。迷いはなく、内容も的確だ。

目標地点の雑居ビルにたどり着いた。だがチームの消耗が激しい。突入前に、他チームの到着を待つことにする。
ワラワラと湧いてくるジュアヴォたちを殲滅し、無事合流を果たしてビル内に突入した。

H.Q.の指示に従い、7Fへ。下半身全体が変異し、まるでクモかゴキブリのように走り回るジュアヴォが登場、
人質をがっちり抱きかかえてあっちこっちに逃げ回る。人質を傷つけないよう注意しつつ攻撃、救出に成功。

続いては1F。人質周辺の敵を一気になぎ倒し、安全を確保。……したと思った次の瞬間。
人質の背後に突然ジュアヴォが登場、刃物で人質の喉を切り裂こうとしている。
脳内物質による錯覚か、クリスには周辺の風景がスローモーションに見えた。狙いを定め、ジュアヴォを撃ち抜く。

他チームのメンバーからも続々と人質救出の連絡が入る。どうやら全員の救出に成功したようだ。
あとは脱出するだけだ。すべてのメンバーが脱出したら、汚染拡大を防ぐため、このビルは爆撃される。
だがあと一歩で脱出というところでビルが崩れ、クリスとピアーズだけが中に取り残されてしまった。
H.Q.に急いで連絡を取るが、もう爆撃は始まってしまった、とのこと。
「マズいな 仲間の爆撃で殉職なんてゴメンだぜ」
3Fまで戻り、バルコニーから外へ飛び出した。次の瞬間、ミサイルが着弾し、爆発。間一髪だった。

爆発と崩落が収まってから、クリスらは雑居ビルの跡地を確認しに向かった。
残骸の中には、ジュアヴォたちの成れの果てと思われる、黒粘土の人形のような物体がゴロゴロしていた。

その“サナギ”をみて、フラッシュバックと頭痛に襲われるクリス。半年前の記憶が、蘇る……。

71 :Biohazard 6◆l1l6Ur354A:2012/11/16(金) 12:03:10.26 ID:mIDdPHBW0
【クリス編】 CHAPTER 2

半年前、2012年12月24日。東欧、イドニア共和国。
クリスは、B.S.A.A.アルファチーム隊長として、バイオ兵器を用いている反政府ゲリラたちの鎮圧に来ていた。
複雑な内政事情により内戦が絶えないこの国は、まさにテロ組織が隠れ潜むのにぴったりの土地である。

部下の一人が、殉職した。敵の情報を持ち帰ってくるのに無茶をしたらしい。
「B.S.A.A.の使命は、バイオテロを根絶することだ。俺たちは捨て駒じゃない」
「大切なのはおまえたちが生き残り、同志を増やしていくことだ。ここにいるひとりひとりが希望だ」
クリスとピアーズは、部下たちにそう語った。

部下が命を賭けて入手した情報を確認した。反政府ゲリラたちは新型のB.O.W.ジュアヴォを用いているらしい。
ゲリラがそれを開発したわけがないだろうから、その背後に何らかのバイオテロ組織がいることは明白だ。
気を引き締めて任務にかかるよう、クリスは発破をかけた。

落ち着かない様子の部下に、クリスは声をかけた。彼の名は【フィン】。今回が初陣らしい。
「いいかフィン、俺たちは家族だ。家族を信じろ」 クリスは、フィンの肩を叩いて微笑んだ。

移動中、さっそく敵部隊と遭遇。すぐさま市街戦に突入した。
思い思いの服装と武器を手にしたゲリラたちとしばらく戦ううちに、ピアーズがあることに気づいた。
「弾を少しも恐れちゃいない…… 普通じゃないですよ、こいつら!」
クリスも同じことを感じていた。一見普通の人間に見えるが、どこかが違う。これがジュアヴォか。

作戦通りに着実に進んでいくアルファチーム。その道中に、驚異的な巨体のB.O.W.が登場した。
頭は建物の屋根よりさらに高く、その手足は大型トラックがミニカーに見えるほどに大きい。
現地の言葉で「巨人」を意味する【オグロマン】という名のB.O.W.であった。
「規格外もいいところだ! 新種のオンパレードだな!」

巨体にふさわしいタフさで、しとめ切れず逃げられる。そのついでに道を崩されて、遠回りを強いられた。
「あんな新種、報告されてませんよ!」「新しく投入されたんだろう」
ピアーズの疑問に、クリスが答える。どう考えても、ただの反政府ゲリラではない。

さらに進んでいく。が、B.S.A.A.の装甲車が地雷を踏んで走行不能になってしまった。
対戦車地雷まで出てくると、テロというよりもはや戦争だ。戦いはどんどん激しくなっていく。
徒歩で進んでいくが、ルート上で列車が横転している。……そう都合よく? 明らかに、足止めするワナ。
案の定、ジュアヴォたちがワラワラと湧いてくる。工兵フィンに爆破準備させ、他の隊員たちで応戦した。

線路沿いに進んでいくと、鉄橋に到着。ブラヴォーチームの負傷兵が1名、橋に取り残されているのが見えた。
さらに奥には、ぱっと見は旧型だが相当改造されているらしい戦車。さらに奥はバリケードで封鎖されている。
ブラヴォーチームと合流、正面と側面の二手に別れて攻略することにした。
狙撃の名手であるピアーズは側面部隊のほうが向いているだろう。クリスはそちらへピアーズを送った。

フィンが先行、クリスもそれを追う。だが、足を踏み入れたとたん、橋が爆破された。
崩れそうな橋にしがみつき、這い登るクリス。フィンに引き上げてもらって、なんとか命拾いした。

戦車とまともに遣り合っては勝ち目はない。ピアーズになにか有効な目標はないか聞いてみる。
彼はタンクローリーを発見し、狙撃。爆破、炎上。戦車と周辺のジュアヴォは巻き込まれて灰になった。

クリスとピアーズは合流し、橋の上部を確保。しかし敵はさらに増援を送ってくる。
フィンに負傷兵の様子を聞くが、足をやられていて動けないらしい。
「隊長! 私たちにはかまわず、先に行ってください!」
「部下を見捨てて逃げるような真似はしないさ、ここで待っててやる、引きずってでも連れて来い!」

ワラワラとわいてくるジュアヴォを必死に防ぐが、倒しても倒してもキリがない。装甲砲台まで出てきた。
だがフィンも新人ながらなかなか骨がある。負傷者を担いで、クリスらの下へしっかり合流した。
その彼に、橋を爆破するよう指示するクリス。フィンは絶妙なタイミングで爆破し、装甲砲台を下へ落とした。
これで追われる危険は大きく減少した。クリスらはやっと橋から撤収した。

負傷者をブラヴォーチームに任せて、アルファは作戦を継続することに。すると、予期せぬ客と遭遇した。
まだ若い男女の二人連れで、女性のほうが「合衆国エージェント、【シェリー・バーキン】」と名乗った。
「シェリー? ラクーン・シティ事件の? クレアから聞いている。妹が世話になっているな」
クリスは、初対面ながらも縁深い相手との出会いに、顔を綻ばせた。

「クリス、後ろのヤツは反政府ゲリラです」 ピアーズが目ざとく見つけ、クリスに報告した。
シェリーは慌てて、彼は故あって自分が保護した人物で、生粋のゲリラではなく傭兵である、と弁護する。
だが青年、「カネ次第で怪物とだって隊列組むぜ」と不謹慎な冗談を吐き、ピアーズはそれにカチンと来る。

一触即発になったが、喧嘩が始まる前に、ゲリラとの戦闘が始まった。
上空に謎のヘリが登場し、それがぶら下げていたB.O.W.を投下したのだ。超巨大な怪物、オグロマンである。

「安全なところへ下がっていろ!」
「いいえ、戦わせて! もう……守られる立場は卒業したの!」
クリスの心配をよそに、シェリーは協力することを提案。クリスもそれを快く受け入れた。

B.S.A.A.エコーチームが増援に駆けつけているが、敵組織の高射砲が邪魔でヘリが近づくことができない。
B.O.W.の相手をしながら高射砲を破壊する、二面作戦が必要になる。
工兵であるフィンが、高射砲に爆薬を仕掛ける。その間、クリスらは援護に徹した。

オグロマンを撃破するが、2体目が登場。さっき逃がしたヤツだ。
時間が経ったからか、むき出しだった背中の弱点が中に引っ込んでしまい、金属のパーツがちょこんと見えるだけになっている。
ある程度ダメージを与えた後、ビルの屋上から背中へと飛び移り、力任せに引き抜く。ヘリからの爆撃で、怪物は絶命した。

無事エコーと合流できた。クリスはヘリコプター部隊に、シェリーらを本国へ連れて帰るように指示を出した。
歩み去ろうとする青年……【ジェイク・ミューラー】に、クリスが声をかけた。「……どこかで会ったか?」
ジェイクは一瞬ためらってから、減らず口を叩いた。「B.S.A.A.のアホ面どもの見分けなんかつくか」
「テメェ、いい加減に!」ピアーズが激高するが、クリスが止めた。

「逃がしてよかったんですか? あいつら傭兵にやられた仲間だってたくさんいるんですよ!」
アツくなってクリスにつっかかるピアーズ。だがクリスは冷静にそれをなだめた。
「俺たちは戦争に来たんじゃない。B.S.A.A.の使命はバイオテロと戦うことだ。それを忘れるな」


シェリーらと別れ、アルファチームは目標であった庁舎内部へ突入した。
敵の大部隊がいるかと思いきや、誰もいない。代わりに、人型の奇妙なオブジェが立ち並んでいた。
「これ… ヒトですか?」
「生体反応アリだ、まるで“サナギ”だな」
不気味な展開に戸惑いながらも、B.S.A.A.隊員は調査を進める。

部隊を分けて探索を進めるよう指示するクリス。ピアーズとフィンとで、奥を調べることにする。
すると、生存者らしき人影が見えたので、追う。青いドレスに整った黒の短髪という、場違いな格好の女性に見えた。

オフィスらしき部屋に着いた。それを見計らったように、そこにあった“サナギ”が、突如変異を遂げた。
甲殻類のような体表に身を包んだ重量級B.O.W.【】である。非常にタフで、排除するのは骨が折れた。

庁舎奥へと進む。そこには、大量のクスリのアンプルが散らばっていた。
「【C-ウィルス】……反政府ゲリラはそう呼んでいたわ」
アンプルに気をとられた3人の隙を着くように、女性が話し掛けてきた。青いドレス、黒の短髪のアジア人女性。

「【エイダ・ウォン】。ここの職員よ、捕まっていたの。……保護してもらえないのかしら?」
銃を突き付けられた女性は、余裕ある態度を崩さずにそう言った。クリスらは当然、それだけでは疑いは解かない。
女性は薄く笑いを浮かべると、ある情報を口にした。
「【ネオアンブレラ】。反政府組織に協力していた組織がいたの。確かそいつらがそう名乗っていたわ」

エイダと名乗る女性は、テロリスト一味ではないようだが、妙に余裕たっぷりな態度が気になる。
クリスは、女性を保護するようフィンに指示したが、同時に警戒は解かないようにとピアーズに耳打ちをした。

ホールに戻る。エイダの案内で直通の近道を通った。と、ホールにあったサナギがすべて孵っている。
チーム全員と合流してこちらの数も増えているが、それ以上にサナギから出てきたB.O.W.の数が多い。
こいつらを掻き分けて正面から退出するは不可能と判断し、上階へと逃げることにする。

庁舎の中はサナギだらけで、行けども行けどもB.O.W.に遭遇する。だが数は少なくなっており、対処しやすい。
チームは一丸となって出口へと向かった。あと少しで脱出できそうだ。

……そのとき、ピアーズがふとあることに気がついた。慌てて周囲を見渡す。そして叫んだ。
「さっきの女がいない!」

そして、ワナが作動した。前を走っていたクリスとピアーズは運よく逃れたが、他全員が鉄格子に閉じ込められる。
「エスコートしてくれてありがとう。お礼にイイモノあげるわ」
ワナを作動させた張本人であるエイダ・ウォンが、やはり余裕のある勝ち誇った声で言った。そしてあるモノを投げる。
野球のボールほどの大きさで、無数に針が仕込まれた装置。それは、B.S.A.A.メンバーたちの真ん中で炸裂した。
無数の針が隊員たちへと突き刺さる。針には、C-ウィルスが仕込まれていた。

クリスは鉄格子を叩いた。開かないとわかっても、しがみついて必死に叫んだ。
しかしクリスの呼びかけもむなしく、クリスの目の前で、部下たちはC-ウィルスでサナギと化してしまった。

鉄格子が開き、サナギのひとつが羽化する。絶望に呆然とするクリスは、殴り飛ばされ、後頭部を強打してしまった。
クリスの意識は薄れていく。視界は闇に覆われ、音もかすれていく。
だが意識を失う寸前まで、クリスの視界から、変わり果てた部下たちの姿が消えることはなかった……。

76 :Biohazard 6◆l1l6Ur354A:2012/11/16(金) 13:12:07.58 ID:mIDdPHBW0
【クリス編】 CHAPTER 3

……回想は終わり、場面は2013年6月30日のワイイプへと戻る。
B.S.A.A.の火炎放射隊が、雑居ビル残骸で発見されたサナギを丁寧に焼却していた。
その姿を眺めながら、クリスは低く冷たい声でピアーズに質問した。「エイダ・ウォンはどうしている?」と。

「記憶が戻ってるんですか?」 ピアーズは驚き、説明を始めた。「あの女は、ネオアンブレラと関係していて……」
「この街にいるかいないのかどっちだ!?」 遮るように、クリスが怒声を上げた。余計な情報は要らない。
「……目撃情報あり。この街にいます、絶対に」 その気持ちを察して、ピアーズは端的に答えた。

クリスはすぐさま、今後の指揮をすべて自分が執ると宣言。他チームも含めた部隊再編をすばやく指示した。
負傷者の保護やこのビル跡地の処理にあたるチームを作り、残りの活動できる戦力はすべて追跡チームとした。
目標はたたひとつ。部下の仇である憎きテロリスト、エイダ・ウォンの追跡・捕獲である。

早速移動を開始する、と、廃墟の地下から、ヘビ状のB.O.W.がヌルリと登場したのに遭遇した。
どういう仕組みか、いわゆる光学迷彩の原理で、周辺の光景と同化して透明になる能力を持っているらしい。
B.O.W.あるところにテロリストあり。このB.O.W.を追跡すれば、エイダの元に辿り着くであろう。
追跡の最中、部下が食らいつかれ、そのまま連れ去られた。再び部下の命が奪われたことに、ますます激昂するクリス。

公園を抜けて、雑居ビルへ。大都会の裏通りのゴミゴミした集落を超えていく。
すると、街を彷徨っているシェリーとジェイクを発見した。
「あいつら生きていたのか! イドニアから半年、行方がわからなくなっていたんです」
とピアーズが、ここ半年の情勢を知らないクリスに説明した。そこに、重装甲の武装ヘリが登場する。
さらにはジュアヴォたちがワラワラと湧き出し、シェリーらを包囲する輪を作った。
「あいつら、ネオアンブレラに追われていたのか!」 ピアーズが、謎が解けた、という感じで叫んだ。
「よし、怪物どもを大掃除するぞ」 クリスはそう決断し、部隊に攻撃を命じた。

B.S.A.A.アルファチームは彼らを援護し、武装ヘリとジュアヴォに攻撃を仕掛ける。
シェリーらを安全なルートに誘導しようと通信兵が呼びかけるが、通信機器が壊れているのか無視しているのか、
二人からの返事はなく、誘導することは不可能。その場に留まる二人をとにかく守る形での戦闘になった。

今回のジュアヴォは、腰から下が完全に変異し、バッタの足のようになった姿をしていた。
すさまじい跳躍力でビルを飛び越え、高い安定性で武装ヘリの上に着地して銃撃をしてくる。恐ろしい生物兵器だ。
だがB.S.A.A.も歴戦、身体能力で劣っていてもそう負けはしない。ジュアヴォを殲滅、ヘリも撃墜した。
ジェイクと目が合うクリス。だが、お互い言葉を交わすことはなかった。立ち去っていくシェリーとジェイク。

「あの二人を保護しましょう! アイツらだけじゃ危険です!」 ピアーズが提案した。
「……放っておけ 行くぞ」 しかしクリスは冷たく却下。彼の目には、エイダの追跡しか映っていないかのようだ。
人命を何より大事にしていたクリスのものとは考えられない命令だ。驚いたピアーズは、珍しく反対した。
「隊長、行かせちゃダメです! ネオアンブレラに追われてるんですよ!?」
「俺たちの目的はB.O.W.の殲滅だ! 何度も言わせるな! エイダ・ウォンの居場所を突き止める!」
「……隊長、お願いだ、冷静になってくれ……」
ピアーズの願いもむなしく、クリスは聞く耳を持たなかった。

先へ進むアルファチーム。廃墟付近でB.O.W.に連れ去られた部下の死体を見つける。ひどい有様だった。
クリスの頭に、ますます血が昇った。ピアーズの反対も無視して、廃ビルへの強行突入を指示する。
だが、立体的な構造で隠れるところも多い建築物は、ヘビ型B.O.W.にとっては格好の狩場だ。
通風孔から、天井裏から、窓から、突然飛び出してきては、隊員が一人ずつ襲われ、殺されていく。

クリスは完全に逆上している。ヘビの気配を感じ、そちらへ一目散に突っ込んでいった。
チームワークを省みない、明らかな暴走だ。返り討ちに遭いそうになり、ピアーズに救われた。
「ひとりで突っ走るなんて、なに考えてるんだ!?」 ついにピアーズは我慢の限界に達し、クリスに噛み付いた。
「決めるのは俺だ、ついてこれないヤツは切り捨てていくぞ」 だがクリスも、方針を曲げる気はない。
チームに険悪な雰囲気が漂う。そんな中でも、一人また一人と隊員たちは命を散らしていく。

ビル内でB.O.W.と戦闘、弱らせて裏路地へ追いやった。
そこでB.O.W.は、透明化を解除し、表面を硬質化して防御を固める戦術に切り替えてきた。銃弾は通用しない。
クリスらは、ビルの電源を使って電撃を浴びせる作戦を実行し、ついに仕留めることができた。

B.O.W.を仕留めたが、しかしそれは小目標に過ぎない。クリスは、既に二人しかいなくなった部下に告げる。
「エイダがまだだ。あいつを片付けない限り、何も終わりじゃない」

まだ冷静になりきれていないクリスに、ピアーズはなおも慎重策を提案する。だが、その台詞をさえぎるように、
「私を探しているのかしら?」
妖艶な女性の声が響いた。忘れもしないこの声。青のドレス。間違いない、エイダ・ウォンだ。

だが、銃を構える暇もなく、エイダの放ったウィルス弾が、最後の部下、マルコに命中した。
見慣れてしまった、もう見たくなかった、あの変異が起こってしまう。マルコは、怪物になってしまった。
エイダはさっさと逃げてしまった。クリスらは、部下であった怪物と戦わねばならない。

エイダへの怒りをますますたぎらせるクリスだが、半年前のトラウマが蘇り、銃を構えることをためらう。
「こうなったらもう殺すしかない。俺たちが仲間としてコイツにできることは、もう……」
ピアーズが、戦うことを促す。クリスも覚悟を決めて、マルコを、いや、B.O.W.を、射殺した。
B.O.W.の死体から、C4爆弾が転がり落ちた。マルコは工兵で、爆発物担当だったのだ。
その忘れ形見を拾い上げ、クリスはそれを鍵のかかった鉄格子に叩き付けるようにして設置。道を作り、進んだ。

完全に頭に血が上っているクリスを見て、ピアーズは落ち着くように言った。
「おまえはここまでされてなんとも思わないのか!」 クリスはなおも興奮してピアーズにも噛み付く。
しかしピアーズは反論した。今のクリスは、明らかに復讐に取り憑かれ、正気を失っている。
「B.S.A.A.の使命なんかどうでもよくなってるんだろ!? 今のアンタの姿を、フィンたちに見せられるのかよ!」
その指摘にクリスは顔色を変える。しかし、大切な部下を、自分の記憶を、奪ったエイダへの怒りは収まらない。

売り言葉に買い言葉の勢いもあって、気に入らなければ着いてこなければいい、一人でも進む、とクリスは宣言した。
しかしピアーズはあくまで共に行動すると言った。「今のアンタは危なっかしすぎる」と。

H.Q.と情報をやり取りした結果、スラムを抜けて、南の港湾方面へ向かうことにした二人。
道中、ジュアヴォ編隊に襲われつつも、それしきで足止めされるほどヤワではない。突破して進んでいく。
むしろ防御網にぶつかるたびに、目指す標的に近づいているという確信が深まり、足取りは力強くなっていく。

ボートに乗り込むエイダを肉眼で確認。ここで捕らえる、と思ったが、そこに武装ヘリが登場した。
やむなく追跡を中断し、港の高級レストランに逃げ込んで応戦。見事、武装ヘリの撃墜に成功した。

だが、エイダには逃げられた。H.Q.にエイダの逃走先を確認。どうやら近くに研究所があるらしい。そちらへ向かう。
到着すると、ちょうどドアをくぐるエイダを発見した。誰かと話している最中なのか、ドアの中に気をとられている様子だ。
反射的に発砲するクリス。だが命中しなかった。エイダはフックショットですばやく脱出した。
「逃がすか……!」 クリスは低く呟き、すぐさま追跡。

いかにも研究所然としたエリアに踏み込む。案の定、侵入者を阻む仕掛けが満載であった。
「よく来たわね。ここは私のお気に入りの場所…… せっかくだから楽しんでいって?」 エイダが姿を見せ、挑発した。
仕掛けを解除し、追いかける。部屋に閉じ込められて新兵器の実験台にされたりもしたが、突破して追いかけた。
そしてクリスとピアーズで挟み撃ちにし、角に追いやった。ついに、ついに追い詰めた。

しかし、クリスの背後から、何者かが妨害に入ってくる。不意を突かれたものの、クリスはしっかりと応戦した。
乱闘の末、銃を突きつけあう二人。お互いの顔を見つめあい……そして、気づく。
「……クリス?」「……レオンか!」
そう、彼らはDSOの【レオン・S・ケネディ】と、その同僚の【ヘレナ・ハーパー】だった。

「彼女を殺させるわけにはいかない、彼女はテロの重要証人だ」 レオンが言った。
「証人? 彼女はテロの首謀者だ!」 クリスが反論し、「違う、首謀者はシモンズだ!」 またレオンが言い返す。
「俺たちは、部下を皆殺しにされた!」「俺たちは、アメリカ大統領と市民7万人を失った!」 お互い、一歩も譲らない。

「ネオアンブレラだぞ? この名前が俺たちにどういう意味を持つのか……!」
「わかってる!」
「どうあってもこの女を信じるというのか?」
「……信じる」
クリスの問いに、レオンは明確に答えた。

そうこうしている隙に、エイダは閃光手榴弾を投げて、すばやく逃走した。
ピアーズが発砲するが、すべて空振り。またしても、エイダに逃げられてしまった。
追跡を妨害され、少し苛立つクリスだったが、しかし、戦うべき敵、目指す目的は同じだというレオンの説得に折れる。
「……エイダはB.S.A.A.が追う、お前らはシモンズを追ってくれ」
「……クリス、お前を信じるぞ」
レオンは別れ際に、クリスにそう呼びかけた。クリスは、少し曖昧に頷いた。


H.Q.によれば、エイダは軍港に向かったという。そこには、数日前に突然連絡を絶ってどこかに消えた合衆国の空母が、
突如姿を現して停泊しているという。まず間違いなく、ネオアンブレラが奪い、テロに利用しているものに違いない。

真っ赤なスポーツカーでハイウェイを飛ばすエイダ。B.S.A.A.の二人は、それを追うべく銃座つきトラックに飛び乗った。

トラックの銃座を握るクリスは、運転席に座ろうとしたピアーズを呼び止めて、言った。
「……おまえのいうように、俺は目を背けていたのかもしれない、すべての過去から」
自らの過ちを認めたクリスの顔は、いままでの濁った怒りが薄れ、かつての爽やかさを取り戻していた。
クリスがようやく本当の自分を取り戻した姿を見て、ピアーズも彼への信頼を回復させる。
「行けるか、ピアーズ?」「任せてくださいよ、隊長!」

スポーツカーとトラックが、ハイウェイをひたはしる。敵が妨害してくるので、クリスは銃座を乱射して蹴散らした。
H.Q.にハイウェイの封鎖を要請するが、人員が割ける状態ではないとのこと。となれば、自力で追いつくしかない。

エイダの乗ったスーパーカーが乗り込むのと同時に、空母は離岸してしまった。
しかし二人はトラックを全力で走らせてジャンプさせ、無理やり空母の甲板へと乗り込んだ。
トラックから投げ出された二人は甲板上を転がる。事故同然だが、なんとか空母に乗り込むことに成功した。

190 :Biohazard 6◆l1l6Ur354A:2012/12/07(金) 04:54:43.44 ID:ByUqFtM40
【クリス編】 CHAPTER 4

無理やりな着艦の痛みにうめく暇もなく、二人は立ち上がって銃を構えた。すぐに警備のジュアヴォが押し寄せてくる。
今までの中国の街中で出会ったジュアヴォは、本格的な武器こそ持っていたが、服装はラフだし戦術も雑だった。
一方こちらはネオアンブレラの精鋭のようで、完全武装し、狙撃兵など複数の役割に分かれて統制の取れた攻撃をしてくる。

エイダが船橋へと入っていくのが見えた。それを追おうとする二人だが、階段を外され、隔壁が下ろされてしまった。
「やってくれたな…… どうしますか?」「作戦に変更なしだ、エイダを追う」 ピアーズの質問に、クリスは力強く答えた。
ジュアヴォたちに邪魔されながらも、甲板上を走り回って進路を開いていく二人。
空母に搭載されていたミサイルを操作し、隔壁にブチ込んで壊した。階段はレバー操作で元に戻した。

赤いジャケットと革のパンツ姿のエイダが、ワイヤーフックを駆使して華麗に進んでいく。二人はそれを追い続ける。
しかしエイダは、その気になればたやすく振り切れるのに、あえて姿を見せて誘導しているかのようだ。
ピアーズはそれを、エイダがこちらを振り回して挑発しているものと受け取って、腹立ち紛れに悪態をついた。
そうこうしていると、聞き覚えのある声が電話で話しているのが聞こえた。……ついにエイダに追いついた。

「あなたがわたしにくれたもの そっくりお返しするわシモンズ。あなたは人間でなくなるだけよ。……全人類と共にね。
今日までの世界を築いたのはあなたとあなたのファミリーよ。でも明日、目にするのは……まっさらな世界よ」
黒い短髪。青いドレス。エイダは通話相手を嘲笑い、通話を打ち切る。そして二人の追跡者に気づくと、また逃走した。

艦橋の頂上に辿り着いた。ここからではもう、空でも飛ばなければ逃げ道はない。ようやく、追い詰めた。
「懲りないわねぇ。バケモノになった部下たちは、きちんと始末できたの?」 しかしエイダは二人を嘲笑う。
「挑発に乗っちゃダメだ、隊長!」 ピアーズが叫ぶ。だがそれは余計な心配だった。クリスはもう、自分を取り戻している。
クリスの構えた銃が火を噴いた。だが、撃ち抜いたのは体ではなく、彼女が持っていたウィルス針を発射する銃。
「B.S.A.A.には使命がある。……一人なら、忘れていたところだ」 クリスは語った。エイダへと、自分へと、ピアーズへと。
そして、エイダへ告げる。「投降しろ」と。怒りもある。憎しみもある。しかし復讐に心を曇らせることは、もうない。

「……もう遅いわ、沖にむかった別の空母が、もう発射準備を始めている」 しかしエイダは余裕を崩さず言った。。
なにを、は、エイダは言わなかった。しかしクリスにはすぐ予想がついた。
さきほど、この空母でも見かけたもの。そして、3年前、ウェスカーが世界中へのウィルス撒布に使おうとしたもの。
「……ミサイルか!」
「あのラクーンの光景が蘇るの。でも今回は規模が違うわ……全世界でよ」 エイダの口元が、邪悪に歪んだ。

そのとき突然、ヘリコプターが現れた。驚く二人。だがエイダもまた驚いて振り返っている。
ヘリから身を乗り出していた黒服の男が、彼女の胸に弾丸を撃ち込んだ。そしてそのまま飛び去っていく。
「……あの男……考えることは一緒だったようね…… でももう、誰にも止められない……!」
致命傷を負い、血を吐きながら、それでもエイダは勝利を確信した笑みを浮かべる。そしてそのまま、船橋から落下した。
慌てて駆け寄り、下を覗き込むクリスとピアーズ。甲板には、ぴくりとも動かない体と、飛び散った血の跡が見えた。

あまりにもあっけなく、エイダは死んだ。理解しきれない謎を残して。
しかし、感慨に浸ったり、疑問に惑ったりしている余裕はなかった。テロは今なお進行中なのだ。

ピアーズはエイダが置いていったトランクをすばやくチェックした。
「新型の注射器のようです。二本ぶん開いてる……!」 1本はマルコに使ったものだろうが、あともう1本は?
「調べてる時間はない」 クリスは短く言った。怪物と遭遇したら、そのときに対処するしかない。
そして残った1本の押収を命じた。本部に持ち帰れば、分析用のサンプルになる。

「至急、所在不明の船舶を確認してくれ!」 クリスはH.Q.に強く要請した。
「首都機能が完全にマヒして、向こうの司令部と連絡が取れない、少し時間をくれ」 とH.Q.は答えた。
合衆国ではつい昨日、大統領がテロによって死亡。その空白を補うはずの補佐官も、私用で行方知れずになっている。
そんな状況で機敏に対応しろというのも無茶かもしれないが、しかしそんな悠長なことを言っていられる状況ではない。、

「急いでくれ! このテロすべてが陽動だ! ヤツらの目的は……全世界だ!」
それだけ伝えて、通信を切るクリス。そして二人は空母の格納庫へと向かった。おそらく、戦闘機があるはずだ。

格納庫へ向かう扉を開くには、3つのパスコードがいる。いつもの面倒な足止めに苛立ったが、集めなければ先へ進めない。
千切れても破片のまま動き回る不死身のB.O.W.【ラスラバンネ】に邪魔されつつも、パスコードを揃えて戦闘機を強奪した。

H.Q.からの連絡で、所属不明の空母があるとわかった。甲板に怪しげなミサイルがあることも確認された。
「エイダは世界中でラクーンを再現すると言っていた…… なのに、用意したのはミサイル1発?」
疑問に思ったクリスが再確認するが、しかし可能性のある船舶はそれしか見つからなかったという。
なんとなくイヤな予感を覚えつつも、ミサイルを止めるべく、二人を乗せた戦闘機は空を駆けていく。

空母は巡洋艦数隻に守られている。戦闘機だけですべてを撃沈するのは、とても可能とは思えない神業である。
だが、元空軍のエースだったクリスと天才狙撃手ピアーズの腕と、B.S.A.A.の強い信念があれば、不可能も可能になる。

巡洋艦と高射砲をすべて破壊し、着艦。ピアーズが甲板に飛び降りて、ミサイルへと走った。クリスは機銃で援護した。
すると、甲板にあった巨大なコンテナが壊れて、中身がこぼれ出た。それは超巨大B.O.W.、オグロマンだった。
「エイダめ、まさかここまで想定して!?」
クリスが機銃で応戦している隙に、ピアーズがミサイルの発射装置を解除した。カウントダウンが止まった。
あとは急いで脱出だ。クリスは甲板のクレーン近くへと機体を寄せて、ピアーズを無事回収した。

……しかし、その瞬間を狙ったかのように、ミサイルが再起動した。またしても騙された。もう解除は間に合わない。
こうなったらミサイルを破壊するしかない。海や空へとウィルスは拡散してしまうだろうが、街中で炸裂するよりはマシだ。
空母に向けて戦闘機の誘導ミサイルを撃ち込む。……しかし、破壊は失敗。ミサイルは真っ直ぐに陸地へ飛んでいく。

ちょうどそのとき、【FOS】という組織のオペレーターから連絡が入り、DSOのレオンが通信を求めていると言われた。
「レオン、今どこにいる!?」 繋がるや否や、レオンの用件を聞く余裕もなく、クリスは慌てて尋ねた。
「ターチィの街のはずれだが、どうした?」「レオン、急いでそこから逃げろ!!」

だが、遅かった。空母を離れたミサイルは、ターチィ上空へと真っ直ぐに向かい、そこで爆発したのである。
紫色のガスが飛び散り、街中に広がる。……そう、C-ウィルスだ。ターチィの街は、瞬時に地獄へと化した。
その惨状を、レオンの口を通じて聞かされるクリスたち。怒りと責任感とで、街へ向かおうと操縦桿を傾けた。

しかし、その様子を察したレオンに制止された。クリスらに、もっと大切な任務を頼みたい、という。
ネオアンブレラの拠点である海底油田へと拉致された、世界を救う鍵を握る二人を救い出してもらいたい、と。

「一人はシェリー・バーキン。もう一人は、ジェイク・ミューラー。……あのアルバート・ウェスカーの息子だ」
レオンが、衝撃の事実を告げた。クリスは驚き、叫ぶ。
「レオン……。エイダ・ウォンは死んだ」
クリスが、自分の目で見た衝撃の事実を告げ返した。レオンは驚き、言葉を詰まらせた。

情報交換を終えて、通信を切った。
目指すは、海底油田。そこがきっと、最後の戦いの場所となるだろう。

193 :Biohazard 6◆l1l6Ur354A:2012/12/07(金) 06:02:31.32 ID:ByUqFtM40
【クリス編】 CHAPTER 5

夜は更けていく。時刻は夜半を回り、暦上では7月1日となった。
クリスとピアーズは戦闘機を操り、海底油田に繋がる海上プラントへと侵入した。
警備は下部に集中しているらしく、上部から下部へと繋がるエレベーターまではあっさりと到達できた。

「皮肉なもんですね」と、エレベーターの中でピアーズは言った。
ジェイクの父親、アルバート・ウェスカーは、バイオテロによって世界を破滅させる陰謀を巡らせた男だ。
しかしその息子は、バイオテロから世界を救う鍵になりえる男として、陰謀に巻き込まれている。
そして、そのジェイクを救い出そうとしているのが、ウェスカーを殺した張本人であるクリス。
それは確かに、皮肉にも思えた。だがクリスは「運命なのかもしれない」と言い換えた。

「……ウェスカーを倒したとき、俺の戦いはいったん終わりを迎えた」
クリスはそう続けた。発端である【洋館事件】以来、12年に渡る因縁は、ウェスカーの死によって終わった。
本当は、クリスが銃を撃ち続けねばならない理由など、もうなくなっているのかもしれない。
「ジェイクの救出が終わったら、俺は銃を置く。これからのことはお前に託す。大丈夫さ、お前ならな」
クリスは、ピアーズにそう伝えた。部下は、頼れる相棒に成長した。ピアーズになら、後を任せられる。
「さて……最後の仕事だ!」

侵入してさっそく、セキュリティルームに到着した。すばやくコンソール操作するクリス。
シェリーとジェイクが監禁されている部屋を発見したので、そのロックを解除しようとする。
が、やはり一筋縄ではいかないようで、警報が鳴ってしまった。解除できたかどうかはわからない。
なんにせよ、直接監禁場所へ行かねばなるまい。研究施設層へ向かう二人。

ピアーズと別行動をとったり合流したり、ジュアヴォと交戦しながら下へ下へと進む。
海底油田は複数ブロックに別れた構造であり、目指す研究施設層へは通路接続の操作が必要らしい。
それには各ブロックごとの気圧の調整など、全自動とはいえ複雑な手順が必要で、その間待たされる。
そして案の定、確実に足止めできるポイントとして、ネオアンブレラはそこに防衛線を用意していた。

「ようこそ侵入者…… あなた方は国連軍かしら? 状況から考えればB.S.A.A.が一番ありえるかしらね」
続々と集まってくる警備部隊と戦っている最中、エイダの音声が響いた。生前に録音したものだろう。
「ミサイルと共に産声を上げるこの世の地獄、その地獄にさらなる破滅をもたらす存在“ハオス”。
ここはハオスが目覚め、解き放たれる場所。ハオスの目覚めとともに私の望んだ世界は幕を開けるのよ」
エイダの音声は狂気的な野望を滔々と語った。エイダの真の狙いは、ここに眠るB.O.W.の解放らしい。
世界各地でのウィルス撒布テロも、あのミサイルすらも、この「ハオス」とやらのための囮に過ぎない。

未知の驚異的B.O.W.の情報をH.Q.に連絡したいが、深い海の底まではさすがの通信衛星も届かない。
クリスとピアーズは二人でこの状況をなんとかするしかない。
研究施設層との接続が完了、防衛部隊と戦っていてもキリがないので、振り切って奥へ進んだ。

すると、既に監禁部屋を脱出していたシェリーらと遭遇。意外とあっさりと合流できた。
「あなたたちが助けてくれたの?」「さすが正義の味方だな」
シェリーが生真面目に二人に礼を言うのに対して、ジェイクは相変わらず斜に構えた台詞を吐いた。

「……よく見れば父親の面影がある」 そのジェイクに対して、クリスはそう言った。
「親父を知っているのか?」「ああ。……俺が殺した」 それを聞き、ジェイクはクリスに銃を向ける。
「撃ちたいなら撃て。君にはその権利がある」 クリスはそれに対して抵抗も見せず、そう言った。
「なぜ親父を殺した? B.S.A.A.としてか? あんた個人として?」 ジェイクが質問した。
「……両方だ」 少しだけ考えて、クリスは正直に答えた。

ジェイクは、クリスに向けた銃を発砲。だが弾丸は、クリスの頬をかすめて、後ろの壁に穴を開けた。
「……こんなことやってる場合じゃねぇんだよ」 ジェイクはそう言った。
「言っとくが、話が終わったわけじゃねぇぞ? お前にはまだ訊くことがヤマのようにあんだよ」
その憎まれ口が、彼なりの精一杯の答えだった。

脱出を目指し、四人で行動することに。ここは、サイロ状(巨大な円筒形)の構造になっており、
そのド真ん中には超巨大なサナギがぶら下がっていた。おそらくは、これが例の【ハオス】だろう。

エレベーターを発見し、上部へと進む。ジュアヴォたちに妨害されるが、四人で共闘し撃退した。
だが問題は、機械が作動し、「ハオス開放」のプロセスが始まってしまっていること。
このサナギが目覚めれば、おそらくは……世界の終わり、であろう。
エレベーターで昇りつつ、サナギに攻撃する四人。だが針でつつくようなもので、効果は見えない。

ついに、サナギが羽化した。中から出てきたのは、ドクロ状の頭部を持ち、全身が透き通った軟体の怪物。
何本か触手を持っており、人型というよりは、クラゲやイカをベースにしたかのように見える。

その巨大な手が、四人を見つけて攻撃してくる。その一撃は足場を簡単に粉砕した。
「お前たちは先に行け! これは専門家の仕事だ」 と、クリスらはジェイクらに逃げるよう促す。
反発して戦おうとするシェリーだが、ジェイクはその手を強引に引いた。
「他にやることがあんだろ!?」というジェイク。そう、彼らの仕事は、生還して世界を救うことだ。

ジェイクらを逃がすための囮となって、クリスとピアーズはハオスをひきつけて走る。
足場はどんどん壊されていくが、なんとか逃げ切って最上部に辿りつき、エレベーターに乗った。
だが、あらゆる障害物をあっさり破壊して突き進んでくる相手から逃げられるわけもなく、追いつかれた。

結局、正面から戦うことになった。手持ちの武器を駆使して攻撃を加える。多少は怯ませることができた。
だが、ハオスが大暴れしたせいで、研究施設層はいたるところから浸水している。脱出せねばならない。
中央層へと、通路を走って戻る。だがまた活動開始したハオスが、通路を壊しながら追いかけてくる。
閉まっていく隔壁に、スライディングで滑り込む。最後の隔壁は、クリスが間に合うまでピアーズが体で押さえた。

なんとか中央棟へ戻れた、と思ったのもつかの間。ハオスが巨大な触手を一振りした。
直撃を受けたピアーズは吹き飛ばされ、壁に衝突。……運悪く、壁の一部が右肩を貫通してしまう。
さらに巨大機械を投げつけるハオス。ピアーズは避けられない。右腕が完全に挟み潰された。
クリスも一撃を受けて昏倒する。ハオスはそれを掴みあげて、締め上げる。握り潰すつもりか。

激痛と出血に朦朧としつつも、ピアーズはあることに気がついた。
……空母でエイダから回収した、特別製のC-ウィルスの注射器が、懐から落ちて転がっている。

他に、手はない。 ピアーズは、右腕を根元から引きちぎった。這って進み、注射器を拾って……
それを、右肩へと打ち込んだ。
失った右腕が、瞬時に再生された。……ジュアヴォのような、変異した触手状の腕が。
特別製のウィルスの力か、その腕には、電撃のようなビームを放つ能力が備わっているようだ。

クリスの手持ちの銃火器と、ピアーズの右腕の能力とで、ハオスと戦うことになった。
ある種のクラゲは、死亡するとサナギ状になり、また誕生する、不老不死の性質を持つものがいるという。
ハオスもそれに似た性質を持っているのか、いくらかダメージを与えるとサナギ状に変化してしまい、
そこから再誕したときには以前のダメージがまったくなくなっているという、不死身に近い性質があった。

だが、絶対の不死身などありえない。サナギ状のときに攻撃すれば、不完全な状態で復活させられる。
そのときに短時間だが弱点となる臓器が見えるので、ナイフを突き刺してやれば、ダメージになる。

長い戦いの末、ついにハオスが沈黙した。ドロドロと溶けて、黒く濁ったカスになった。

ピアーズに肩を貸すクリス。ピアーズの変異は、まだ右腕だけで済んでいるようだ。若干混濁しているが、意識もある。
クリスはピアーズを励ました。ジェイクの体のウィルス抗体から治療法が見つかれば、助かるはずだ。
それまで、ウィルスに体を乗っ取られないように耐えればいい。そういって、二人で脱出を目指す。

二人は、脱出ポッドのある部屋に辿り着いた。クリスは機械を操作する。ポッドのひとつが開いた。
ピアーズに肩を貸し、ポッドの中に入れようとしたとき…… 不意に、ピアーズがクリスを突き飛ばした。
ポッドの中に転がるクリス。ピアーズは、ポッドに乗らずに外からその扉を閉めた。

「ピアーズ! 何をしている! 開けるんだ! 二人でここを出るんだ! だめだピアーズ! 諦めるんじゃない!」
クリスはそう叫んだ。だが、ピアーズにはわかっていた。ウィルスの侵食は進んでいる。自分はもう助からない。
いや、本当はクリスも気がついていた。既にピアーズの変異は、肩や首を超えて顔の半分まで進んでいたことに。

ポッドが射出された。クリスを乗せて、海の中を進んでいく。ピアーズの姿が、海底油田が、遠くなっていく。

……ポッドを追いかけるように、油田から巨大な青白いモノが飛び出してきた。……ハオスだ。
だが、特大の電撃が、ハオスを襲った。ピアーズの最期の攻撃だった。彼は最後まで、B.S.A.A.として戦い抜いたのだ。
その直後に、沈んでいくハオスを巻き込んで、海底油田は大爆発を起こした。


……ポッドが、海に浮かんでいる。東の空は赤く染まっていた。絶望の夜の終わりを告げる朝明けである。
クリスはそれを眺めると、自分の右手に視線を移した。
そこには、B.S.A.A.のワッペン。ピアーズに突き飛ばされたときに、彼の制服の肩から偶然むしりとったものだ。
ほんの2日前には記憶を失って呑んだくれていた自分が復帰できたのも、ピアーズのこのワッペンを見たおかげだ。
恩人であり、大切な相棒である男は、もういない。形見のワッペンを、クリスはぐっと握りしめた。

……遠くから、迎えのヘリの羽音が聞こえた。

197 :Biohazard 6◆l1l6Ur354A:2012/12/07(金) 06:09:56.77 ID:ByUqFtM40
【クリス編】 Ending

日時不明。少し陰鬱な印象を与える曇り空。

東欧の酒場にて、クリスはステーキを食べていた。
そこは、かつて記憶を失った彼が酒に溺れていた酒場だ。そして、ピアーズと再会し、己の道を取り戻した場所。
そのときピアーズはこれと同じステーキを食べていて、なかなかうまいと言っていた。

「隊長、指令です」
クリスを呼ぶ声がした。クリスの部下のひとりだ。
その顔は、ピアーズではない。フィンでも、マルコでもない。他の部下たちでもない。彼らはもう死んだのだ。
だが、彼らの残した希望は、決して死なない。決して死なせはしない。クリスが、B.S.A.A.が戦い続ける限り。

「……わかった。案内してくれ」
クリスは席を立ち、堂々とした足取りで歩み去った。

戦士はまた、戦いに赴く。
その背中に、仲間たちから継いだ遺志を背負って。
最終更新:2013年05月17日 13:52