BIOHAZARD 6 ジェイク編

BIOHAZARD 6 ジェイク編 :part64-369~377


369 :Biohazard 6◆l1l6Ur354A:2013/01/19(土) 12:06:07.02 ID:sTdhb+xk0
【ジェイク編】 CHAPTER 1

時は2012年12月24日。場所は東欧、イドニア共和国。
寂れた村の、薄汚い建物に、その男はいた。短く刈った坊主頭、頬に走る刃疵。動作は気だるげだが、油断なく構えている。
彼の名は【ジェイク・ミューラー】。金で雇われて命を懸ける、いわゆる傭兵である。

彼はこともなげに、首筋に“ある薬”を打ち込んだ。周辺を見渡すと、他の男たちが、同じように薬を打ち込んでいる。
「これ、効いたかい? 栄養剤らしいが…… 俺にはわかんねえ」
冗談めかして、誰に聞かせるでもなく呟くジェイク。彼自身には何の変化も見られなかった。
……しかし、彼以外の男たちは、皆、急速な変異を遂げてしまう。顔は醜く腫上がり、突如血に餓えたように他人を襲う。

傭兵の一人が、ジェイクに襲い掛かってきた。それをこともなげに捌き、殴り、蹴り、投げ、壁に叩きつけるジェイク。
「俺たちは金で雇われた身だ。意味わかるな? ……仲間でもなんでもねぇってことだ」
容赦なく、とどめの横蹴り。傭兵は力尽き、崩れ落ちる。その死体は、何かの化学変化か、みるみる消し炭へと変わった。

「あなた、薬を打ったのね?」
突如現れた謎の女性……金髪の、まだ若い女だ……が、ジェイクに話し掛けてきた。
「薬に興味があるのか? なら、下で配ってる姉ちゃんに聞きな」
ジェイクは答える。女性は、その返事の内容にではなく、ジェイクがまだ人間的な返事ができることに驚いていた。
「……やはり、あなたには抗体が……!」

女性が話を進めようとするが、その暇はなかった。薬によって怪物と化した傭兵たちが襲い掛かってきたのだ。
女性はジェイクに、ダストシュートを使って脱出するよう促す。状況が把握できないまま、ジェイクはとりあえずそれに従う。

下水へと抜けた。女性は、合衆国エージェント【シェリー・バーキン】と名乗ったが、ジェイクは特に興味を抱かなかった。
紛争地帯の貧しい家庭に生まれ、絶望に晒されて育った彼には、所属意識どころか、信念も希望もないのだ。
信じられるのは、自分の力と、金だけ。依頼さえあれば誰とでも組むし、誰とでも戦う。この女は依頼主、それだけで十分だ。

協力して寂れた村を抜け、脱出を目指す。
道中、B.S.A.A.の部隊と遭遇するが、発砲された。ジェイクは現在、反政府ゲリラに雇われた身で、その服装をしている。
B.S.A.A.とはもともと友好関係とは言えないし、ましていまや彼以外全員怪物化している。撃たれるのも無理はない。

370 :Biohazard 6◆l1l6Ur354A:2013/01/19(土) 12:06:48.43 ID:sTdhb+xk0
ある程度進んで休めるところに着いたので、そこで小休止ついでに話を進めることにした。
「20万ドルだ。それとB.O.W.は別料金、1体につき1000ドル」
さっそく契約条件を切り出すジェイク。しかしシェリーは「雇いに来たんじゃない」とそれを否定した。
「欲しいのは、あなたの『血』。それが世界を救う鍵になる」

彼女は語る。ゲリラたちが変異した化け物は【ジュアヴォ】と呼ばれているバイオ兵器である。
新型ウィルス【C-ウィルス】によって生み出されるもので、近々C-ウィルスを用いたバイオテロが計画されているらしい。
テロを防ぐには、ワクチンが必要だ。ワクチン開発には、ウィルス抗体が必要だ。そしてそれは、ジェイクの血の中にある。

話を聞いたジェイクは、微笑を浮かべた。世界を救う英雄になる栄光も重圧も、彼には関係なかった。
「……5000万ドルだ。値引きは一切なし。それで俺の血を売ってやる」

協力して先へ進む二人。岩肌にへばりつくように作られた、今にも崩れそうな建造物を抜ける。
道中、道が大きく崩れ落ちている。ジェイクは手ごろな鉄の棒を見つけると、体操競技のようにしてたやすく飛び越えた。
「どうした、早く来いよ」「……そんなアクロバットはできないわ。別の道を探してみる」

いまいち呼吸が合わない二人だが、そんなこんなで共に進んでいくうちに、川のそばに出た。
向こうに見える鉄橋の上では、B.S.A.A.とゲリラとがやりあっているようだ。
「橋を攻めんのは無謀だぜ、切り札の戦車があったはずだ。B.S.A.A.の連中はもうすぐ棺オケだな」
「そんなことない、必ず勝つわ……。彼らには強い信念があるもの」
ジェイクは冷笑したが、シェリーは彼らを弁護した。とはいえ、どちらが正しいのか、見届けている時間はない。

B.S.A.A.のヘリに見つかり銃撃を食らったり、ゲリラのベースキャンプに入ってしまいひたすら逃げ回ったり……。
散々な目に遭いながらも、ようやく市街地へと近づいてきた。とりあえず、戦場の最前線からは離れられただろう。

しかし、一息つく暇もなく、新手のB.O.W.が登場。ツギハギの肉体を、さらに金属パーツで補強したような巨体の怪物だ。
【ウスタナク】、通称【捕縛者】である。右腕はアタッチメントになっており、状況で武器を付け替えて襲ってくる。
現在は捕縛用のクローを装備しており、ジェイクを掴んだら背中にある拘束機にくくりつけ、そのまま拉致するつもりのようだ。

「逃げるわよ!」シェリーが叫ぶ。 「くらいやがれ!」無視してジェイクはガスボンベを銃撃した。
しかし、ひるんだ様子もなく、巨体の怪物は再び歩みを進めてくる。
「……なるほど、逃げるが勝ちだな」 二人はひたすらに逃走した。

371 :Biohazard 6◆l1l6Ur354A:2013/01/19(土) 12:08:16.39 ID:sTdhb+xk0
高山地帯の下水溝の出口は、住宅地の上部だった。民家の屋根に転がり落ちるジェイクとシェリー。
狭い窓を選んで飛び込んだことで、なんとか巨体の怪物の追跡を断ち切ることができた。

「何モンだ、あいつは?」「追っ手よ。あなたを捕まえるための」
ジェイクの問いに、シェリーが簡潔に答える。それ以上議論している暇はなかった。歩みを止めるのは危険だ。

ひたすらに進み、廃工場へと辿り着いた。が、見つかったようだ。懸垂下降で兵隊が降りてくる。
さらには、ウスタナクまで追いついてきた。進路のドアはロックされており、解除している余裕はない。迎え撃った。
激しい戦闘の末、ウスタナクにダメージを与えることに成功。しかし、老朽化していた廃工場の床が抜け、二人も落下してしまった。

廃工場の地下は静かで、少し落ち着いて話ができそうな状況だった。
「カネでドンパチやってる傭兵が死に方にゼイタクは言えねぇが、こんなワケのわからねぇ状況で殺られちゃ納得いくわけねぇ。
あのイカれた巨人はどちら様だ、きちんと説明してくれ」
ジェイクの要求に、シェリーは応じて答える。
「ジュアヴォと同じ、C-ウィルスで作ったバイオ兵器。バイオテロ組織“ネオアンブレラ”の追っ手よ。
研究のために、抗体を持つあなたが欲しいのよ。生け捕りが無理なら死体でも……」
話の大きさに唖然とするジェイク。シェリーは彼を励ますように、必ず守ると繰り返した。ジェイクは世界を救う存在なのだから。
「世界を救うのは俺じゃねぇ、『俺の血』だろ? カネと引き換えのな」
しかし、ジェイクはその言葉を冷たく返すのだった。

先へ進むと、B.S.A.A.の部隊と遭遇した。シェリーがI.D.を示すと、隊長らしき男が彼女を知っているようだった。
「シェリー? ラクーン・シティ事件の? 妹から聞いている。アルファチーム・リーダー、【クリス・レッドフィールド】だ」
隊長は二人を快く歓迎する。が、その傍らにいる若い隊員が、ジェイクの服装が反政府ゲリラのものだと気づき、反発する。
シェリーは事情があって保護したと説明するが、ジェイクは彼女の気苦労などどこ吹く風で、ケンカなら買う態度を崩さなかった。

だが、ケンカが始まるより先に、敵組織の攻撃のほうが早かった。ヘリコプターで、異常にデカイB.O.W.が運ばれてきた。
数階建ての建物よりもなお大きいその怪物は、現地の言語で「巨人」を意味する、【オグロマン】という名を持っている。

「安全なところへ下がっていろ!」
「いいえ、戦わせて! もう……守られる立場は卒業したの!」
クリスの心配をよそに、シェリーは協力することを提案。クリスもそれを快く受け入れた。

B.S.A.A.エコーチームが増援に駆けつけているらしいが、敵組織の高射砲が邪魔でヘリが近づくことができない。
B.O.W.の相手をしながら高射砲を破壊する、二面作戦が必要になる。
「クリス! あの大きいのは私たちに任せて!」「『私たち』って俺もかよ? メンドクセぇな…」
シェリーの提案に、ジェイクは軽く舌打ちする。が、結局は生き延びるには協力して戦うしかないのも事実だった。

372 :Biohazard 6◆l1l6Ur354A:2013/01/19(土) 12:10:59.87 ID:sTdhb+xk0
1体を撃破するが、2体目が登場した。こちらは先ほどの個体と違い、背中の弱点が露出していない。
ある程度ダメージを与えた後、ビルの屋上から背中へと飛び移り、力任せに弱点を開く。ヘリからの爆撃で、怪物は絶命した。

クリスがB.S.A.A.の輸送ヘリを手配してくれた。それで国外へ脱出できる。……うまくいけばだが。
歩み去ろうとするジェイクに、クリスが声をかけた。「……どこかで会ったか?」
ジェイクは一瞬ためらってから、いつもの減らず口を叩いた。「B.S.A.A.のアホ面どもの見分けなんかつくか」
若い隊員が激高するが、クリスが止めた。


ヘリ機内。シェリーは本部と条件の交渉をしている。ジェイクの要求額は法外だが、金銭で話がつくなら早いと踏んだか、
合衆国は取引に応じるそうだ。「話が早えや」と無邪気に喜ぶジェイク。しかし突如顔を曇らせ、シェリーに質問する。
「ところで、さっきの男…」「クリス?」「ああそれ。あの男… …いや、なんでもない」
口ごもるジェイク。シェリーは詮索しようかどうか迷うが、その答えを決める前に、飛行機は振動に襲われた。

ウスタナクだ。やはりそうやすやすと脱出させてはくれないらしい。
なんとか攻撃を繰り返すが、振り落としきれず、ヘリは機関部がやられて墜落。二人はもう1機のヘリに飛び移った。
そこに、敵組織の戦闘ヘリが登場。ウスタナクはそれの脚部に掴まっている。
右腕のパーツは、ジェイク捕獲用の爪状から戦闘用のガトリングガンに変更されていた。
「…最悪の展開だぜ」

戦闘用ヘリ3機の編成で、ウスタナクはヘリからヘリへと飛び移りながら攻撃してくる。
機銃で狙うが、ヤツの耐久力は尋常ではない。ヘリを狙ったほうがよさそうだ。

ヘリを撃墜したが、同時に体当たりも食らってしまい、こちらのヘリも墜落を免れない状態に陥った。
しかもウスタナクはしつこくへばりついてくる。「いい加減落ちやがれ!」 ジェイクの銃撃で、ようやく敵は転落した。

だが、ジェイクとシェリーももう限界だ。転落する。だが、その一瞬前に、転がり落ちてきたパラシュートをキャッチできた。
ジェイクがすばやく装着し、シェリーは必死でしがみつく。パラシュートが、開いた。
しかし、ヘリのローターがパラシュートの布を半分引き裂いてしまう。二人は雪山の中へと落ちていった……。

373 :Biohazard 6◆l1l6Ur354A:2013/01/19(土) 13:45:03.80 ID:sTdhb+xk0
【ジェイク編】 CHAPTER 2

ジェイクは意識を取り戻した。掌を見ると、赤い血がべっとりとついていた。
しかしジェイク自身に痛みはない。……ふと気づく。胸に圧し掛かるもう一人の重みに。
血は、シェリーのものだった。その背中には、ヘリの破片が深々と刺さっている。

「……どうすりゃいい……?」「……抜いて」
考えるジェイクに、シェリーは苦しそうに言った。正気を疑う目で、ジェイクはシェリーを見返す。
モノが刺さった傷は、抜いたら出血が激しくなる。これは常識だ。このサイズの傷では、間違いなく死ぬ。
それでも、シェリーには錯乱などの兆候は見られない。正気で言っているのだ。ジェイクはそれを信じて、破片を抜いた。
すると、シェリーの背中にざっくりと開いた傷口は、みるみるうちに消えた。衣服の破れ目以外、痕跡は見当たらない。

「……マジかよ。俺の血より、アンタを研究したほうが世界の役に立つんじゃねぇか?」
「……研究はされたわ。嫌というほど」
ジェイクの、驚きからこぼれた不謹慎な軽口に、シェリーは暗い顔をして答えた。

シェリーは、落とした端末を拾い上げて操作した。……そしてすぐに異常に気づいた。ジェイクのデータがない。
墜落のショックでチップが散乱してしまったらしい。幸い、落下した位置は発信機のおかげで把握できている。
吹雪の雪山だが、捜索に支障はない。偶然山小屋も発見した。早く捜索を終えて、あそこで休息をとろう。

雪山を捜索中、まるで彫刻の作りかけのような、人型のおぞましい“なにか”を発見した。
「ジュアヴォの成れの果て、“サナギ”みたいなものよ。そして最後は……怪物に生まれ変わる」
シェリーのその言葉に答えるように、サナギの背中が開き、おぞましいクリーチャーが飛び出してきた。
「……抗体とやらに心から感謝だぜ」 ジェイクは、珍しく皮肉抜きで呟いた。

メモリーを拾い集めて、山小屋に入った。外の吹雪は強くなる一方で、止むまでは行動の起こしようがなかった。
沈黙の重さにいたたまれなさそうなシェリーを察して、ジェイクは彼女の身体の秘密について、話題を振った。
彼女はまだ幼い頃の過酷な体験を語った。14年前……1998年にラクーン・シティで起こった、あの惨劇のことを。
彼女にとって、それは家族を失った思い出だが、しかし同時に、かけがえのない友人と出会った思い出でもあった。
「命懸けで守ってくれたレオンとクレアを見て思ったわ。どんなに悪い状況でも、決してあきらめてはいけないんだって」

……感傷的なムードは、突然の銃声で打ち破られた。マシンガンやスノーモービルで備えたジュアヴォの集団に包囲されている。
「……悪い状況だ。篭城戦だぜ」

374 :Biohazard 6◆l1l6Ur354A:2013/01/19(土) 13:47:03.36 ID:sTdhb+xk0
爆弾、銃撃、スタンロッド。猛攻を受けるが、凄腕の傭兵であるジェイクは難なくそれらを撃破する。

が、敵はクリーチャーだけではなかった。爆発音のせいで、雪崩が発生したのだ。スノーモービルを奪って、急いで逃げ出す。
「雪崩にまで追われるなんてな! 神サマにも見捨てられたか!?」
「心配しないで! 私だけは絶対に見捨てないから!」
モービルで一気に突っ走り、最後はモービルでジャンプし、それを踏み台にもう一段ジャンプ。走って走って、洞窟へ入った。

運よく、雪崩は洞窟の入り口で止まった。氷解や岩石が詰まってくれて、かつ洞窟が崩れないでくれた。本当に幸運だった。
洞窟の出口を探して少し進むと、すぐに明らかに人工の扉が見えた。なにかの施設の一部らしい。これなら出られそうだ。

……しかし、ドアを開けた先には…… ウスタナク。まだ生きていたようだ。だが、何かを待っているようにじっと動かない。
周辺には、なにやら青い光を放つ虫のような生物。そこにジュアヴォが近づいて虫の光に触れたら、捕縛者は一気に動き出した。
ジュアヴォを掴み、握り潰し、放り投げる。……どうやら、虫状のお供クリーチャーを用いて敵を探索する機能もあるらしい。

虫の光に触れないようにしながら、そっと先に進んでいく二人。
ようやく抜け切った……と思いきや、凍結した床を踏んだとたん、音に反応したウスタナクに見つかってしまう。
「ちくしょうめ、走れ!」 結局は全力疾走だ。狭い隙間にスライディングで滑り込み、一時的に逃げ切ることに成功。

しかし、外に出るためにはカードキーが必要だ。さきほど哀れにも被害に遭ったジュアヴォの死体がカードキーを握っている。
虫の視界に入らないように、また凍結した床を踏んで音を立てないように、慎重に二手に分かれた二人。
ジェイクがリモコン爆弾でウスタナクの気を逸らしている隙に、シェリーがジュアヴォの死体からカードキーを回収、再合流。

ドアのカードキー認識音に反応し、突っ込んでくるウスタナク。二人はすばやくドアを閉める、が、巨人の馬鹿力は抑えられない。
次々と重厚なロックがかかったドアを開けては先に進む二人。次々とドアをぶち破っては追いかけてくるウスタナク。
このままではいずれ追いつかれる……そう思ったとき、二人はあるものは発見した。それは……岩石掘削用の重機。
早速乗り込み、起動する。さすがの不死身の巨人も、大型重機のパワーには勝てず、巨大ドリルに貫かれた。

ようやく洞窟を抜け出した二人。シェリーの味方との合流地点はもうすぐだ。敵の待ち伏せがあったが、慌てず応戦する二人。
だが背後から、まだ生きていたウスタナクが襲い掛かる。殴られてシェリーは吹っ飛び、ジェイクは叩き付けられた。

動けないジェイクに、謎の女が近づいてきた。短髪のアジア女性で、雪山だというのに露出が多い青のドレス姿だ。
「……よお、誰かと思えば、栄養剤配ってた姉ちゃんか」
「あなたがウェスカーJr?」
ジェイクの呼びかけを無視して、謎の女……【エイダ・ウォン】は勝手に話を進めた。
「アルバート・ウェスカー。世界の破滅を目論んだ、素敵な大馬鹿者。あなたのお父さんよ」
エイダは、謎解きのパズルピースを残すように、それだけを言い残した。そして合図を出して、そのまま引き上げていく。
それに答えるように、ウスタナクは大きな足を振り上げて、そして、ジェイクの上へと……。

375 :Biohazard 6◆l1l6Ur354A:2013/01/20(日) 19:25:16.46 ID:BMLs5R5+0
【ジェイク編】 CHAPTER 3

……それから半年。ジェイクらは、謎の組織に監禁されていた。白い床、白い壁、白い扉。白一色の奇妙な施設であった。

2013年6月30日。今日も今日とて、スーツ姿で京劇の仮面をつけたジュアヴォたちが、ジェイクを移送すべく扉を開ける。
半年の間、何度も繰り返された光景。だが、今日はいつもとは違う日となった。
「……そろそろいいか。オマエらのことも大体分かったし」
ジェイクは流暢な中国語でそう呟き、手錠をつけられたまま戦える格闘技「カポエラ」の要領で、ジュアヴォに襲い掛かる。

彼の生い立ちから考えて、中国語やカポエラを正式に学んだことがあるとは思えない。
中国語に関しては、施設に閉じ込められている間に構成員たちが交わす会話を聞きかじっただけでマスターしてしまったのだろう。
カポエラについても、おそらく真似しただけか、あるいは存在も知らずに適当にやったらそれっぽくなっただけなのかもしれない。
いずれにせよ、彼の知能と身体能力が驚異的であることを示しているといえる。

呆気にとられるジュアヴォたちをよそに、倒した見張りから手錠の鍵と端末を奪ったジェイクは、ジュアヴォたちを挑発した。
そのまま全員を素手で殴り倒すと、電源装置の鍵を奪い取り、監禁施設の電源を落とす。そして、脱走を開始した。

別の場所で同じく監禁されていたシェリーも、停電に乗じて脱走を始めていた。
敵の館内放送でそれを知ったジェイクは、道中で発見したマシンガンつきの監視カメラの操作装置を使い、シェリーの援護をした。
シェリーが、監禁施設エリアを抜けるドアのロックを解除した。ジェイクもカメラでそのコードを盗み見て、ドアを開ける。

そして二人は合流する。シェリーを発見し、思わず顔に喜色を浮かべるジェイクだが、ふとあることに気づいて慌てて目を背けた。
ジェイクの反応を見て、自分が薄手の白衣1枚しか着ていないことを思い出し、シェリーも慌てて見られないように隠れた。
ラブコメばりの気まずい雰囲気だったが、ちょうどそこはロッカールームだったので、二人とも衣服を整えることにした。
偶然だろうか、半年前に奪われた装備もあった。有難く回収し、身につけることにする。

手持ち無沙汰に、雑談をした。今わかっていることは、ここは中国のどこかにある、ネオアンブレラの施設であることだけだ。
ジェイクが盗み聞いたところによれば、連中は、彼の体の抗体を用いてC-ウィルスを強化する研究をしているらしい。

376 :Biohazard 6◆l1l6Ur354A:2013/01/20(日) 19:25:50.34 ID:BMLs5R5+0
事の重大さに驚きつつ、他に何か聞いたことはないか、と尋ねるシェリー。その言葉に、ジェイクは表情を曇らせながら答えた。
「……アルバート・ウェスカーって知ってるか?」
シェリーは誤魔化そうとするが、下手な演技は簡単に見破られた。 ジェイクは「……知ってたんだな」と不機嫌に呟く。

アルバート・ウェスカー。旧アンブレラの「ウェスカー計画」で造られた、人工の天才。
知的・身体的素質の両面において超人的であるだけでなく、さらにはあらゆるウィルスに対する抗体と適合力を持ち合わせている。
3年前、バイオテロにて世界を滅ぼす一歩手前まで行ったものの、凶悪ウィルス「ウロボロス」によって怪物と化して死亡したという。

「俺はてっきり、おふくろを捨てたただのチンピラだと思ってたぜ!」 ジェイクは叫んだ。
彼は怒っていた。いままで知らなかった自分の父親の秘密に。シェリーが、それを知っていながら隠していたことに。
欲しくて貰ったわけではない「呪われた血」に。望みもしないのに戦いに巻き込まれ、こうして拉致されたことに。
そして…… 父親に捨てられ、生きていくことに希望も信念もないまま傭兵になるしかなかった、自分自身の境遇に。

ジェイクのその言い分を聞いて、シェリーは複雑な心境に至った。二人の境遇は、あまりにも似ていた。
彼女の父親はアンブレラの幹部研究員で、あのラクーン・シティ事件を引き起こし、自らにウィルスを投与して怪物となった。
そして彼女はその父親に襲われて感染、「呪われた血」を持つ身となった。望まない生活を続けてきたことも、同じだ。
だが彼女は幸運にも、レオンとクレアに出会った。その経験が、彼女に強い希望と信念とを与えていた。
だから彼女は、政府からの長い研究にも耐えたし、その後はエージェントとなって自分の力で道を切り開くことを選んだ。

シェリーには、戦う力を持ちながら、自分で道を選んで切り開いていくことをしないジェイクが、身勝手に思えた。
だから、少し苛立ちをこめて、言った。「あなたと父親は関係ない。信念が持てないのは、自分の問題だわ」と。

衣服と装備を整え終わった二人は、脱出を再開する。例のごとく、研究所エリアを抜けると、まるで趣が異なる建物となった。
いかにも中国風なゴテゴテとした飾りに溢れた豪邸である。その規模に驚きつつも、二人は足を止めずに進み続ける。

警備隊のジュアヴォとときおり交戦しつつ進んでいくと、ロビーのような場所に出た。大きな扉は、おそらく玄関であろう。
そのドアを抜ければ外に出られるだろうが、この状態で外に出ても二人は孤立無援である。
「上層部の指示を仰がないと、外へ出ても行き場がないわ」
「その通りだな。どこかで連絡取り合うのが先か」
二人は脱出よりも、通信設備の探索を優先することにした。

377 :Biohazard 6◆l1l6Ur354A:2013/01/20(日) 19:26:21.11 ID:BMLs5R5+0
ロビーにおいてあるデカくて福福しい銅像に、硬貨の投入口と、なにか注意書きがあるのが見えた。
どうやら、職員のIDメダルを投入する仕掛けらしい。道中倒したジュアヴォから奪ったものがあったので、入れてみる。
すると、仏像が稼動して、閉じていた道が開いた。 「……なるほどな、だいたいわかったぜ」

邸内を走り回ってメダルを集め、再びロビーに戻ってきた二人。仏像にメダルを入れると、通信室のドアが開いた。
そこはこの施設のデータ管理室もかねているらしく、半年間の実験データもそろっていた。運良く、通信端末も見つけた。
ジェイクおよびシェリーに対する様々な実験のデータを回収しつつ、上司に連絡を取るシェリー。
「今、中国にいるって。助かったわ。行きましょ、もう用はないわ」 シェリーが言い、ジェイクも同意した。

さきほどは後回しにした玄関を、今度こそ遠慮なく通ろうと、近づいた、そのとき。
轟音を立てて、戦車が突っ込んできた。戦車といい、豪邸を贅沢に破壊する行為といい、資金には困っていないようだ。
遠慮なく主砲をぶっぱなしてくる戦車。当然太刀打ちできないので、施設の奥へと逆戻りするしかない二人。

ひたすら奥まで逃げたところで、人工庭園に出た。ジュアヴォの待ち伏せに遭い、さらに戦車も追いついてきた。
なんとか逃げる方法はないかと、ジェイクは自慢のアクロバットで、普通は届かない離れたビルへと飛び移る。

そこには真っ赤なスポーツカーと、真っ赤なスーパーバイクがあった。ジェイクは迷わずバイクを選び、エンジンをふかす。
シェリーの元へと向かい、後ろに乗せると、ここでもまた天才的な運転技術を披露して、戦車を振り切って脱出した。

二人を乗せて、バイクは走る。目指すは、シェリーの上司との合流、そして国外脱出だ。

最終更新:2013年05月17日 14:05