SIMPLE2000シリーズ Vol.70 THE 鑑識官
>>66-60~86・93~96


60 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 09:05:29.63 ID:pPj9z6f80
SIMPLE2000シリーズ THE鑑識官
 

登場人物
【江波識子】……主人公。半官半民の捜査機関『南東京市科学研究所』の新人鑑識官。
【江波査之介】……識子の先祖の霊。十手に宿っており識子にだけ姿が見え話をすることができる。
【鑑太】……数百年生きているであろう江波家の猫。神通力を使い、人語を話すことができる。
【寒川怜】……女刑事。識子と度々同じ事件を担当する。
【江波徹子】……識子の叔母で南東京市警察署長。『THE推理』が初出。江波家は江戸時代の同心から続く警察一家。
【落葉巡査】……いつも現場で識子に状況を教えてくれる人。瓜二つのいとこ(やはり巡査)がいる。
※南東京市科学研究所の各課担当者
【岩原所長】……コワモテの怖いオジサマ。失敗してゲームオーバーになると大目玉をくらう。
【シモーヌ】……指紋課の担当。混血児。所の専任であるため識子とはリアルで接触する。
【古畑博士】……法医課の担当。死体大好きな変態博士だがたまに辛辣。
【芦茂博士】……科学課の担当。識子を毎回口説こうとして華麗にスルーされる。
【物部博士】……物理課の担当。無愛想でいつも仏頂面。歴史好き。
【植木虫助】……生物課の担当。昆虫大好きで昆虫の話になると舌が止まらない。
【車早太郎】……交通課の担当。自動車メーカーの方が専任であるためすぐ自動車の営業をはじめる。
【かんこ】……情報課の担当で疑似人格インターフェイス。所の受付などもやっている。


※<>で区切っているのは調査パートです。


【File01・『猫と十手と私』】
『キコエマスカ?……ワタシノコエガキコエマスカ……』
「にゃおお~ん」
変な夢と息苦しさに目覚めると、いつの間にか布団の上に乗っていた見知らぬ猫が跳び去っていった。
ここは東京の下町にある私の親戚の江波家本家が代々住む木造家屋。一昨日はお祖父様のお通夜でその後片付けが終
わった後、私はそのまま二階に泊めてもらっていたのだ。
「こ、こらっ!…………きゃあっ!」
寝惚けていると突然階下が騒がしくなり、続いて何かがぶつかる音と人の倒れる気配がした。急いで階下に降りると、
そこには昨夜から残っていた徹子叔母様と倒れている月島おばさん(手伝いに来てくれていた近所の縁戚)の姿があった。
「私は台所で炊事をしていたのよ。月島さんは茶の間で掃除。そうしたら『こらっ』って声が……何かがぶつかる気
配がして急いで見に行ったら、倒れていたの。でもおかしいわね。他人の気配はなかったし、襖も閉まっていたのよ。
今日は科研に挨拶に行く日でしょ?そろそろ用意しなさい。私は連絡済だから部下が来たら交代するわ」
ちなみに私は職場が近いこともあって、今日からこの家に住むことが決まっていた。


「ん?新人の鑑識捜査官か。江波警視正の姪だそうだな。まあ、今日は各課の担当者に挨拶して帰れ」
でもコワモテの所長と各課の担当者に挨拶して帰ろうとしたあと、なぜか所長から呼び戻しを受けた。
「さっそく仕事だ。新人研修だと思ってくれ、江波警視正からの御指名だからな。今朝7時頃、大京区2丁目の民
家で事件が起こった。50代の女性が殴られ香典がなくなった……知っているか?」
「はい。今朝立ち会いましたが、香典がなくなったのは知りませんでした」
「本来、捜査官の親類縁者に関する依頼は受けない。だがこれは個人からの依頼だ。現場に詳しい君がやるんだ」



61 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 09:06:25.19 ID:pPj9z6f80
「みぎゃー!」
家に帰るなり、今朝の猫が現れ威嚇してきた。続いて現れた月島おばさんは、包帯を巻いたままだった。
「それはあなたの猫よ。この猫はね、あたしが子供の頃からずううっとこの家にいるのよ」
「おばさん、今朝のことを……」
「それがネェ……今朝のことは何も覚えてないのよ」
「ああ!おめぇ!入院してなきゃだめだって!すいませんねぇ、識子ちゃん。ウチのやつ、疑われてないかい?」
おばさんを心配して駆け付けた月島おじさんに聞いても、警察が抱く狂言の疑いを覆すような手がかりは得られなかった。


<自宅の茶の間で穴の開いた寿司ネタ・不明な繊維・小さな足跡を入手>
「これは猫科の動物の毛だね」
「小さいし4つの違う足跡があるから、小動物の足跡ではないかしら」
猫が寿司をくすねていたことは判ったけど、侵入したはずの泥棒と香典の行方はわからないまま。
そこで泥棒の侵入経路を諮るために家の見取り図を見ていると、構造にある矛盾が浮かび上がってきた。
「あれ?仏間と茶の間は同じ間取りなのに、仏間は八畳で茶の間は六畳なの?茶の間の大きさが変だわ」
不自然な茶の間をもう一度調べてみると、なんと回転扉になっていた掛け軸の裏に隠し部屋があり香典はそこにあった。
しかしそこに置かれていた不思議な十手も手に取ってみると、今朝から度々聞こえていた耳鳴りと共にいきなり人影が現れた。
「ついに見つけてくれましたね……怖がらなくてもいいのです。拙者はあなたの先祖なのですから。江波査之介と申します」
「きゃあああああーっおばけー!こんなオバケ屋敷出ていってやる!」


私は命からがら(?)外に逃げて、冷静に考えを整理することにした。
「足跡から判断して、『何か』に驚いた猫がマグロを取り落として逃げ出したのね。そうだ、さっきのオバケは知ってるかな?」
「知りません……拙者は……あなたとしか同調できませんから」
「ひーっ!知らないなら出てこないでよぉ」
「すいません。どういうわけかあなたとは相性がいいようですね。あなたの見聞きしたことは拙者にも伝わってしま
うのです。だいたい、この準密室に猫と犯人はどうやって出入りしたのでしょう?」
「隠し部屋をもう少しよく調べて見なきゃならないようね」
<隠し部屋で香典箱の指紋・回転扉上部の血痕と皮膚痕を発見>
箱には関係者の指紋しか発見できなかったけど、部屋が掃除されていたにも拘わらず入り口の回転扉上部には血痕と皮膚痕が見つかった。
「回転扉に付着していた(皮膚の)位置が被害者の傷の位置と一致したよ」
「隠し部屋を知っていたことから江波家の構造に詳しい人間が犯行に及んだことが推定される。近所の人も家族同様
に出入りしていたみたいだから候補者が多すぎるわね。しかも香典は隠し部屋にあった……どういうことかしら?」
「そういうときは、深呼吸をすると落ち着きますよ」
「すー、はあ……なんでここに出てくるのよ」
「あなたが十手を持ってきたからです。コレは拙者の依代なので……あ、他の人には見えないですよ」


事件があった時のことを、私は自分でもう一度思い出してみた。
「『こらっ』という声は……目下のもの……子供かなにかを叱る時のものではないでしょうか」
さらに考えてみれば、隠し部屋は掃除してあったのに香典の箱は指紋だらけ。証拠を消すならどちらも綺麗にしておくはず。
「では、音について考えてみましょう。おそらく、おばさんが怪我をしたときの音ではないでしょうか?」
「おばさんは、床の間に足を向けてうつ伏せに倒れていた。扉の付近には、怪我の痕跡が必ず残っているはずだわ!」
「識子ちゃん、おまたせ。血痕は被害者のものだよ」
待たれていた芦茂博士の鑑識報告によって全ての証拠が揃い、事件の全体像が見えてきた。
「月島おばさんは掃除をしていた……仏間を掃除している時に、不用心だからと香典を隠し部屋に入れ……さらに隠
し部屋を掃除していて猫がマグロを食べているのに気付き、部屋から飛び出そうとして扉の上部で頭を打って気絶した……」
こうして、事件は無事解決した。



62 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 09:30:09.41 ID:pPj9z6f80
その後も私は、実は何かと都合がいいために『オバケ屋敷』にあの幽霊と猫と一緒に住んだままだった。
「査之介は、どういう怨念があって成仏できないの?」
「怨念なんてありません……拙者が八丁堀同心の時、解決できなかった事件がありまして。今回使った便利なカラク
リ道具。あれが当時あれば、解決できたのに。それが心残りです」
「ふうん……今までずっと、あの十手の中にいたの?」
「いえ……よく覚えていませんが、何回か意識が戻って一族の事件の解決を手伝った記憶が……夢かもしれませんけど」
「そこでうるさく鳴いてる猫、どうやって襖から部屋に入ったのかしら?まあ、どうでもいいことなんだけど」
「どうでもいいことじゃねえぜ!早くメシを作るのにゃー!」
「あれ?オマエは鑑太か?それとも鑑太の子孫かな」
「ん?たしかにオレは鑑太だけど、おめえはいってえ誰だ?」
「査之介だよ……宝永の大地震、覚えてるか?」
「しらにゃいな。識子、ごはんに味噌汁かけてニボシの2、3匹のっけてくれや」
「ひー!オバケにネコマタ……こんな家、出ていってやる!」
【File01・終】



63 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 09:54:00.58 ID:pPj9z6f80
【File02・『死合』】
朝四時に電話で叩き起こされたのは、初出勤の日のことだった。
「仕事だ。すぐに来い。おまえ、ついてるぞ。最初から[殺し]が担当とはな。現場の地図を送るから、早く行け。
まだ詳細はわからんが、部屋中真っ赤だそうだ。警察ともうまくやってくれよ」
現場である紡績工場の跡地までは自転車で30分。急いで支度を済ませると、査之介が姿を現した。
「拙者も連れていってください!何かお役に立てると思います」
私は十手を持って(査之介を連れて)現場に向かった。


しかしせっかく急いで向かった現場のプレハブ小屋には、先に警察が到着していて結局待たされてしまった。
「よろしく。南東京署の寒川よ。でも、初動調査には間に合わなかったわね。ガイ者は10分ほど前に救急車で運ばれたわ」
「……死亡していたんですか?」
「さあね。でも、血塗れで瞳孔も開いていたわ。もう少し、ここで待っているのよ」
「匂いは最初の数刻で失われてしまいます。血の匂いの他に、何か別の匂いはありませんか?」
「そう言われてみれば、何の匂いだろう。かすかに漂うこの匂い……」
考えているうちに、寒川刑事が捜査を終えて引き継ぎに戻ってきた。
「ガイ者の身元はまだ不明だけど、多分ここの関係者ね。身長が2m近くあったし。発見者は新聞配達で、早朝四時
くらい。昨夜22時に練習生が引き揚げた後誰も目撃者はいないわ。それでは……現場は保全してちょうだいね」
寒川刑事らは、保安要員一人を残して帰っていった。
「お役目ご苦労様、落葉一郎でアリマス。科研の方なら、ご自由にお調べになって結構でアリマス」


<プレハブ小屋で壁の血痕・壁の血痕の人型の空白・床の血痕・床の血痕を空ける巨大な手形(掌紋)・現場を立ち去ったと思われる独特の足跡・足跡から見つかった奇妙な植物繊維・ゴングの指紋・野球道具を発見>
しかし私がそれらを押収して帰ろうとした時、突如暴漢が現れ落葉巡査を一撃で気絶させた。
その暴漢が続いて私に襲いかかってきたその時。
「カナシバリの術にゃ~!」
「う……動きが止まった?怪しい技を使うのね~。この男は何者かしら?」
勝手に付いてきた鑑太の神通力に動きを止められた暴漢は、やがて来た救急車によって被害者と同じ病院に運ばれていった。


持ち帰ったゴングの指紋とマットの掌紋は過去のデータには無かったけど、血液の方はA型B型二人分の血液が確認された。
「江波くん。今朝未明に蘇生したあの大男、身元がわかったよ。力王丸だ」
力王丸とは現在はプロレスに転向した大人気レスラーで、以前は『猛牛部屋』に所属していた力士だったという。
「少し思い出しましたよ。あの足紋の擦ったような跡……あれはあの職業独特の……」
「江波さん。おまたせ。あのサンプル、稲科の植物だ。一般に『ワラ』と呼ばれている稲を乾燥させたものだ」
「力王丸は猛牛部屋の力士出身……そして現場に残っていたスリ足と草履。猛牛部屋をあたってみるわよ」


向かった猛牛部屋で、猛牛親方に力王丸について聞いてみた。
「…………ええと……そのう……アレは暴れ者ですが、一本気な男で恨みを買うような奴では……」
「相撲を辞める時に、ゴタゴタのようなものはあったのですか?」
「いいえ、弟弟子や後援者たちの惜しむ声はありましたが、気持ちよくこの部屋を出たはずです」
結局猛牛部屋では親方が口籠もって重要なことを聞けず、警察病院の方に行くことにした。



64 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 10:01:16.96 ID:pPj9z6f80
警察病院への路上で、寒川刑事に遭った。
「怨恨殺人の未遂の線で進めているわ。被害者は死にかけていた上に、満身創痍で1ヶ月の入院よ」
まだ言い返すことはできなかったけど、私は怨恨殺人の線には納得せずに寒川刑事と別れた。
しかし警察病院に入って勝手に面会してみても、現場で襲ってきた男は沈黙したまま。
「……識子どの、この草履を見てください。この文様は?さっきの猛牛部屋で見ませんでしたっけ?」
私はもう一度猛牛部屋に行き、親方に今度は暴漢のことを聞いてみた。
「朝恐竜の付き人の畳盛ですね……さっきも警察の方に聞かれました。力王丸とは面識もないと思います」
「では……力王丸さんと朝恐竜関さんとの関係は?」
朝恐竜は猛牛部屋の人気力士で、何を隠そう私も大ファン。しかし暴れん坊として世間を騒がせているためか、私が
警察ではないと知るまで親方の口は重かった。
「彼等は好敵手でした。力王丸が2年先輩でしたが、相撲の才能では朝恐竜が上でした。体重も上でしたし、何より
重心が低い相撲型の体型でした。力王丸は筋骨型で、いくら食べても限界がありました。力王丸も出世していました
が朝恐竜はついに力王丸を抜き……そして力王丸は引退したのです。でも、それでどちらかが恨むというようなことは……」
ほどなく朝恐竜関もやって来たけど、やたらピリピリしている朝恐竜関と私は感激を押し殺しつつ話した。
「ケガをなさっているようですが」
「稽古だよ稽古!これくらいの傷は普通だろっ!」


<警察病院で力王丸のパンツとブーツ・畳盛の掌紋を入手>
しかし現場の大きな掌紋は二人のそれとは一致せず、立ち去った足紋も血の付いていない畳盛さんの草履ではなかった。
一方、資料として届いた新聞に朝恐竜関と力王丸さんの壮絶な十両優勝戦(朝恐竜関の勝利)のことが書いてあった。
「当時力王丸は十両筆頭、朝恐竜は新十両でしたが……その申し稽古はどちらかが気絶するまで続くんです」
「仲が悪かったのは本当ですか?」
「うーん、いいえ。よく一緒に遊びに行っていました」
「仲が良かったのに気絶するまで真剣勝負を?どういうことなんでしょうか?」
「『死に生くことをいわずして、ひたすらに力較べせむ』、当麻蹴速が野見宿禰に語った言葉です」
「どちらが力や技がで優っているのか命なんか考えずに闘おう、という意味です」
査之介は説明してくれたけど、このときの私にはまだ親方の言葉の意味はわからなかった。
<大部屋で野球ボール・朝恐竜の手形・干してあったまわしと浴衣を入手>


ラボでこれまでの証拠をもう一度調べてみると、ゴングの指紋と畳盛さんの指紋が一致。さらにマットの掌紋と朝恐
竜関の手形も一致したため、二人が現場にいたことが明確な事実となった。
しかしそれに加えて畳盛さんの浴衣から力王丸さんの血液反応が出たところで、一つ疑問が持ち上がった。
「ここに立っていた付き人畳盛は、ゴングを鳴らす役だったのかもしれないですね……」
「でもね、ゴングを鳴らす槌は近くになかったの。何でゴングを叩いたのかな」



65 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 10:15:42.74 ID:pPj9z6f80
警察病院に再度足を運び畳盛さんに聞いてみたけど、相変わらず押し黙ったまま。
仕方なく今度は力王丸さんの部屋に行ってみると、力王丸さんは意識を取り戻したらしく面会を許してもらえた。
「俺は……何も言いたくない。俺が被害届を出さなければそもそも事件にならないだろ?」
「そういうわけにはいきません。民事ならともかく、これは刑事事件になっています」
そこに猛牛親方と朝恐竜関がやってきて、力王丸さんが私と話しているのを見るとやがて二人は事情を話してくれた。
「……その生き死にはよそにして、ただひたすら力較べせむ」
「あれは試合だったのですよ。何の遺恨もありません。当麻蹴速と野見宿禰の試合のあと蹴速は死んでしまうのですが、
我々は……蹴速はそれで満足だったと思うのですよ。自分の力、習い覚えた技を出し切れる相手がいたことは幸せなことなのです」
「親方の言う通りです。俺たちは、双方承知の上で正々堂々と闘った。結果として、皆さんに迷惑をかけてしまいま
した…………ファンにも申し訳なく思っています。このケリは、近日中にきっと決着をつけます」
「明日、警察に出向いて全てをお話しします。ファンにもお詫びしなければ」
しかしそうして万事丸く収まろうとしているところに、いきなりやって来た寒川刑事が割り込んできた。
「朝恐竜関、殺人未遂容疑で任意同行願えますか?」
「待ってください、寒川刑事。聞き取り調査では……」
「じゃあ、合意の上での闘いであったことを証明して。今日の日没まででどうかしら?物証と推理を示して見せて」
私は事件の成り行きを説明したけど寒川刑事は信用せず、私は今日中にその証明を約束させられてしまった。


「朝恐竜関が殺人未遂に問われてる……ってことは、力王丸さん達がこの決闘を始めたことが証明できれば」
もう一度それぞれの物証をよく見てみると、ゴングには槌とは思えない縄目の付いた跡が見つかった。
続いて大部屋にあったボールを調べてみると、それには力王丸さんの掌紋がベッタリと見つかった。
「朝恐竜関が深夜の道場を訪れる。二人は恒例の力較べをしようと睨み合う。力王丸が畳盛に怒鳴る。『ゴングを鳴らせ!』。
しかし、不馴れな畳盛は戸惑って鐘を鳴らせない……そこで、力王丸が落ちていたボールを掴んでゴングに投げつけた」
こうして結論に至った私と査之介が寒川刑事に語って聞かせると、意外なことに彼女はあっさりそれを信じた。
「もともと力王丸が訴える気が無い以上、殺人未遂で起訴するのはムリっぽかったのよ。我々は、私闘を認めるわけ
にはいかない立場よ。朝恐竜関と力王丸さんにもそのへんを……責任をわかってもらいたかっただけ」


こうして事件は無事解決。朝恐竜関と力王丸さんはファンに全ての顛末を話し、以降は年に一度プロレスでの直接対
決(相撲協会公認)をする慣わしとなった。
【File02・終】



66 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 10:29:56.35 ID:pPj9z6f80
【File03・『上手な死体』】
派手に遅刻したある朝、小言を覚悟して呼ばれた所長室には既に来客がいた。
「紹介しておこう。東京地検の剣崎さんだ。剣崎さんは警察・科研を監督する立場にある方だ」
「君はたしか今年から配属された江波くんだったね?今後ともよろしく」
挨拶を簡単に済ませて剣崎さんが出ていくと、所長から任務を言い渡された。
「多魔蘭湖で男性の死体が見つかった。地元警察は釣り人が過ってボートから転落しスクリューに巻き込まれた事故
と判断したが、遺族が反発して司法解剖を求める異議申し立てを起こした。とりあえず地元警察にかわって科研が解
剖とそれに伴う調査にあたることになった。解剖は古畑博士が担当する。おまえは調査担当だ」
私が早速調査に向かおうとすると、シモーヌさんが声をかけてきた。
「何年か前、話題になったのよ。多魔蘭湖の多魔ちゃん。多摩川のタマちゃんとは似ても似つかぬ代物よ」


「昨日の午前6時、朝釣りをしていた観光客が無人ボートを発見して近くの水面に浮いている死体を見つけたのでア
リマス。死体は左足大腿部を切断してましたが、その大腿部は見つかっていないのでアリマス。被害者の名前は田山
直哉さん。現場に止まっている車が被害者の自動車だと思います」
<発見現場で船のスクリュー・船の釣竿・自動車・車内にあった固形物・車内の砂・>
現場のボートには釣竿と空のボックス、車の中には奇妙な砂とワックスのような塗布物があり私は一通り写真を撮っ
た後それらを持ち帰った。
帰り際に貸しボート事務所の管理人さんに話を聞くと、借りに来た被害者の話を聞かせてくれた。
「土曜日の午後5時ごろだったかな。話し方に特徴があったからよく覚えとる。語尾にスッスとつく男じゃった」
しかし次いで死体の話も聞くと、管理人さんは何やら意味深なことを話した。
「上手なんだよなあ。ボートから落ちて死んだのに、ボートにほとんど揺れた形跡がないんだよな」
その後は多魔ちゃんの証拠だという胡散臭い写真を受け取って、私達は現場を後にした。


ラボに帰ると、古畑博士の司法解剖結果が届いていた。
「大きな力がかかって大腿部が切断されている。これが原因で大量の血を失った。次はこれだ。両手首に紐で締めつ
けたような斑が残っているな。死体は痣を生じるような着衣やアクセサリーを身につけていなかった」
「腕から先の皮膚の色が違うんですが?」
「ただの日焼けだよ。次は解剖について話そう」
「あのー、ちょっと聞きにくいことなんですが……足の切断なんですが、ボートのスクリュー以外が原因ということ
はないでしょうか?多魔ちゃんとか……」
「多魔ちゃんだって?それはおもしろいな。そうなると、多魔ちゃんはよほど大きな生物だ」
古畑博士はそう言ったけど、物部博士は異常を感じ取っていたようだった。
「このスクリューで足を切断?どうも切断面が気にかかるんだよ。まだ具体的にナニとは言えないが」


「胃の内容物は小麦粉、魚肉、わさび、海苔といったところだな。死亡したのは食後1時間といったところだね」
「多魔蘭湖周辺の砂ではないね。これは工場で砂に似せて人工的に造られたものさ。竿はキス釣り用の竿だね」
「これを見てよ。ワタリガニの幼生だよ。もちろん海洋性生物だ。見つかった蛆は平均して2ミリ程度。つまり孵化
直後、最短で12時間といったところだ。ただ、蛆は水死していたよ」
他の証拠品の情報も一緒にまとめてみると、多魔蘭湖での溺死事故はさらに疑わしさを増してきた。
「被害者は本当に多魔蘭湖で死亡したかが疑わしいわ。まずこの釣竿は海釣り用で、バス釣りのメッカの多魔蘭湖で
使うのはおかしいわ。死体からも海洋性のプランクトンが十二指腸から見つかった」
「被害者のハヤ駕籠(車)も。舟を借りた場所から徒歩で一時間もかかるところにわざわざ移動はさせないでしょう」
「つまり、被害者は湖で死んだのではなく海で亡くなった。そして、なにか事情があって多魔蘭湖へと運ばれてきた」
「調べていた人工砂だけど、納入先は今年の夏オープンを目指し急ピッチで建設が進むホテルニュー大嵐だ。本来、
海水浴に適さない岩だらけの海岸に人工砂浜ビーチを作っている」
「田山氏の情報の続報です。金曜日午後10時半、大嵐海岸近くのコンビニで買い物をしているのが確認されました」
私達は本当の現場はそこだと当たりをつけ、コンビニとホテルニュー大嵐のある大嵐海岸へと向かった。



67 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 10:30:49.70 ID:pPj9z6f80
「今野安雄っス。店長からこれを渡すようにと預かってます」
渡されたのは田山氏のレシートで、そこには金曜日午後10時38分にパスタとチョコと水を買った記録があった。
「これは当店だけでしか買えない大嵐おおわらいパスタっス。賞味期限は土曜日の午後1時っス。週末に万引きがあ
って監視カメラの映像をチェックしていたら、多魔蘭湖で事故死した男性とそっくりな人が映っていたので警察に電
話をしたっス。これがそのビデオです。あの大きな建物は建設中のホテルっス。となりの空き地は駐車場っス」
一通り話を聞いてからついでに多魔蘭湖に行き、管理人の孫からあの写真がウソであるというしょうもない話を聞いてから帰路についた。


帰って防犯カメラの映像を確認するとたしかにそこにはコンビニに入る田山氏が映っていたけど、不思議なことに車
が停まっていたのは向かいのホテルニュー大嵐の駐車場だった。
「体にわいた蛆の成長から、田山氏の死体は最低でも12時間は陸に放置されていたはずよ。ともかく、金曜午後10
時半から日曜午前6時までの31時間半の田山氏の足取りは依然として不明なの……どうして田山氏はコンビニでは
なく、向かいの駐車場に車を停めたのか……ホテルニュー大嵐、あそこにはゼッタイにナニかがあるはずよ」
私達はホテルニュー大嵐に向かった。


私が鑑識官であることを知ると、ホテルニュー大嵐のオーナー金尾為三氏とチーフ弱夫木氏はなぜか動揺していた。
「日中は業者が出入りしてますが、夜は私と弱夫木が泊まりこんでいます。金曜日は深夜まで業者と打ち合わせをし
ていましたよ。寝たのは午前1時です。土曜日に業者がやってきたのは午前9時ですね。それからずっと仕事です
よ。業者が帰った時間ですか?午後5時をまわってたかな。それから午後9時都内の自宅につきまして、すぐに寝
ましたよ。午前6時ですか。自宅で寝てましたよ」
「自分は弱夫木聡といいまスス。金曜日は社長と一緒に業者と打ち合わせをしてたッスス。寝たのは午前2時ッスス。
午前6時に起きて周囲を掃く掃除ッスス。社長が起きてからは一緒に仕事ッスス」
しかし土曜午後のアリバイを聞くと、弱夫木氏はさらにあからさまな動揺を見せた。
「じ、自分は急にた、体調が悪くなって実家に帰らせてもらったッスス。時刻は午後3時くらいだったと記憶してお
りまッスス。自宅は大嵐海岸から車ですぐのとこにあります。そ、その日はすぐに寝たッスス。日曜午前6時ですか。
自宅で寝てましたッス。多魔蘭湖であがった死体?そそそんなの知らないッスよ」
聞き取りを終えて駐車場を調べた私達が目にしたのは、駐車場と人工ビーチを隔てるフェンスに開いた大穴だった。
「フェンスに穴が開いてるわ!ここからビーチに抜けられそうね」
<ホテル駐車場で路面の砂・路面のタイヤ跡・ビーチの奇妙なゴミを発見>
さらに破れたフェンスには、何やら繊維のようなものが引っ掛かっていた。


「間違いなく田山氏の車のタイヤ跡ですね」
「識子ちゃん、例のヤツ(固形物)とうとうわかったよ。サーフィンで使うワックスだよ。繊維は人造繊維だね。被
害者が着ていた上着の成分も同じだったよ」
「被害者の車から採取された砂と同一の化学組成だ。大嵐海岸に建設中のホテルに納入された砂だったな。こっちは
サーフボードの残骸だ。それも真ん中からバッサリ破壊されている」
「サーフィン関連の証拠が次々に見つかっているそうだな。それで気が付いたんだが、手首の写真のことで思い当た
ることがあったよ。サーファーが着用するウェットスーツなんだけどね、かなり手首を締め付けるんだ。あれを着用して死亡するとこのような痣が手足首に残る可能性があるね。過度の日焼けもサーファーだったら説明できる」
古畑博士の言葉で、ついに事件の全体像が見えてきた。
「田山氏は自動車をホテルの駐車場にとめていた。そして、フェンスの穴を通り抜けてビーチへ侵入した。つまり田
山氏は、ここでサーフィンをやっていたのよ」
「それでは、いよいよ被害者の死因について推理する番です」
「このふたつ(死体の足とサーフボード)の切断面には共通する部分が多いわ。もしかして、サメ!?そういえば、
年に数件サーファーがサメに襲われる事故が発生しているわ。観光客がサメに襲われて一番困るのはホテルニュー大
嵐よ。そこで事故の隠蔽工作を行うことにしたのよ。淡水湖である多魔蘭湖へ死体を運んだのね。ボート乗り場に現
れた田山氏の正体はホテル従業員の弱夫木だわ」


こうして事件は解決。ちなみに鑑太はあのゲテモノパスタを気に入ったらしい。
【File03・終】



68 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 11:04:32.97 ID:pPj9z6f80
【File04・ルージュの脅迫状】
ある日の夕方ラボにて仕事をしていると、鑑太がバラエティ番組に熱中してしまっていた。
「『クレームがくる弁護士相談室 今夜は朝まで訴えてやる!』今夜最初の相談者はストーカー被害ですけども」
「ストーカーってぇ、お手紙を沢山くれる人ですかぁ?私にもいますよぉ。私はぁ、私の故郷のぉ、ポロリ星からの
お手紙だと思ったんですけどぉ。でも、ちがくてぇ。なんかぁ、ストーカーさんという人からぁ送られてきたらしいですぅ」
変な自称異星人アイドルが出てくると査之介までが夢中になってテレビを消さず、結局徹夜(本当に朝まで番組は続
いた)して眠い目をこすりながら所長の呼び出しに応じるハメになった。
「門田房の助というという富豪を知っているか?現在、門田氏はタレントのマネージメント業にのめり込んでいる。
最近、その所属タレントがストーカーに狙われているらしいのだ。今のところ大した実害は無いが、事が大きくなる
前にというのが依頼人の希望でな」


「ワシはよく知らんのじゃ。テレビで知ったばかりなんよ。仕事は全部高畑に任せとるからな。高畑か?ワシの右腕
や。仕事はできるし、人望も厚い。最高のマネージャーやね。さっそく、呼んでくるからちょっと待っててちょうよ」
どんな人が出てくるかと思っていたら、入れ替わりにやってきた高畑氏は意外にも好青年風の男性だった。
「社長はお気に入りのワインが無くなったのでパリに買い出しへ行きました。二ヶ月は帰ってこないでしょう。実は
最近、事務所に脅迫状が届くようになりました。被害者は夏川ナナ。ウチで売り出し中のアイドルです」
もらった写真に写っていたのは、まさしく昨夜の自称異星人アイドルだった。
「これがその脅迫状です。それからこんなものがずっと届くように」
『ナナちゃんは僕のものだ、ナナちゃんを食べてしまいたい。ナナちゃんは……(以下略)』
脅迫状は大量の封書と電子メールで、送り主は『ナナちゃんを世界一愛している・ナナの愛ひとりじめ』となっていた。
「ナナは素直でいい子ですよ。ただ、逆恨みを買うこともたまにはあります……僕の調べでは芸能界でナナに恨みを
持つ人物は二人います。砂田純二、河豚田公子の両名です。砂田はジゴロタレントでナナも誘われたらしいのですが、
軽く受け流したようです。その後の砂田は荒れていました。これは余談ですが、彼にはカツラ疑惑がかかっています。
河豚田は、前までウチの事務所に所属していたんです。それが事務所の方針でマネージメントを少数に絞り込むと
いうことになって、当時泣かず飛ばずのアイドルだった彼女をクビにしたわけです」
「その後にアイドルを捨ててブレイクしたわけですよね。結果的にはクビにされてよかったのでは?」
「でも当の本人はそう思ってないようです。ウチの事務所に恨みを持っていて、ナナは無視を決め込まれています」
<事務所で砂田が贈った花束・河豚田のサイン入りCDを入手>
「もういいようですね。僕は『クレームがくる弁護士相談室』の収録でウメテレビに行きます」


しかしラボに帰って物証を調べてみても、せいぜい容疑者二人の指紋が採取できた程度。メールの発信元も公衆端末
で所在は不明、脅迫状の筆跡も該当データなしだった。
「本人から直接聞いてみればいいじゃねえか」
「依頼内容を伏せれば、なんとか聞き出せるかもしれませんよ。それに高畑さんを頼れば容疑者たちにも話が聞けるかも」
「……確かにそうかもね。よし、じゃあウメテレビに行ってみますか」


「アポあんの?ないならダメに決まってるでしょ。あんたみたいな怪しい奴」
「入れてあげてくれないか。僕の知人なんだ。彼女を入れてあげていいだろ」
「たっ、高畑さんじゃないですか。もう、それならそうと……さぁ、どうぞお入りください」
不遜な守衛に阻まれているところに中から高畑さんがやってくると、なんとか無事に入ることができた。
「まぁ、うまい具合いにごまかしてくれればいいでしょう。ちょうど収録が終わったところなのでレギュラー陣が控
え室に戻ってます。砂田さん、河豚田さんもいますよ」



69 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 11:14:28.25 ID:pPj9z6f80
「砂田さんはナナさんに軽くあしらわれて激怒したって聞いたのですが」
「まぁ確かにあの時は頭に来たけど、冷静に考えてみたらたいしたことじゃないよね」
「ナナさんの挨拶を無視したって聞いていたんですが」
「挨拶を無視したって思われたのはあの子が『昨日ポロリ星に里帰りしてたんですよぉ』とか、言ってくるのよ。バ
カは相手にできなかったの。確かにクビにされた時は悔しかったわよ。でもね……今は感謝してるの」
「今回の脅迫状について何か思い当たることはありませんか?」
「私はぁ、ポロリ星のお友達からのお手紙だと思ったんですよぉ。そういえばぁ、カバンに入ってるぅ、口紅が無く
なっているんですよぉ。とってもぉ、お気に入りのぉ、どデカ口紅なんですけどぉ」
しかし容疑者は別段怒っている様子はなく、何より夏川ナナ本人の言葉が突飛すぎて大した話は聞けなかった。


帰ってきたものの大した成果も上がらずラボでうなだれていた私の耳に、急報が飛び込んできた。
「ウメテレビの控え室で男性の死体を発見。至急、現場に向かってお前の担当との関係を調べろ」
「被害者は砂田純二。人当たりはよく、恨みをかう性格ではなかったそうでアリマス。索条のものによる絞殺で遺体
はうつ伏せで発見されました。凶器はまだ未発見でアリマス。容疑者は控え室のあるフロアを利用できて犯行時刻の
辺りに現場付近にいた人物(ナナ・河豚田・高畑・不遜な守衛)に絞られるでアリマス。中でも夏川ナナと河豚田公
子の両名は控え室前の廊下でうろうろしていたことを目撃されておりマス」
現場に急行し落葉巡査から説明を受けて砂田氏の控え室に入ると、そこの鏡には口紅で例の脅迫文が書かれていた。
『ナナちゃんを困らせた恨み、ナナちゃんの怒り……(以下略)ナナの愛ひとりじめ』
脅迫状の事件とこの殺人が無関係でないと確信した私は、死体の手元に落ちていた毛髪を採って一旦ラボへと帰った。


「脅迫状の文字と極似。しかし一致はせず。この文字はハネの部分が特徴的」
「被害者の検視が終わったよ。死亡推定時刻は午後4時から4時半の間と推測される」
「それから博士、被害者の手に握られていた毛髪の依頼をしたいのですが……」
「これは人毛じゃないぞ、人工毛髪だ。まあ、かつらや植毛の類だろう」
古畑博士には砂田氏の毛髪も鑑定してもらい、その間にさっきは会えなかった河豚田さんと夏川ナナに話を聞くことにした。
「私はただ、砂田さんの部屋から呻き声がしたから様子を伺いに廊下に出ただけ。何かトレーニングをしてるときの
声だと思ってすぐに引き返したわよ。そんなに疑うなら、私の鞄の中に怪しいものがあるか見てみなさいよ」
しかし、渋りながらも口紅とネックレスと貸してくれた河豚田さんに比べ夏川ナナは相変わらず手に負えなかった。
「ナナさん、鞄の中身を見せて頂けませんか?」
「えーっ、いやですぅ。高畑さん、この人がいじめるの」
「ナナが怯えているじゃないか。かわいそうに。ナナは砂田さんの死とは無関係だ!出ていけ!」
なぜか高畑さんの激しい怒りを買い、かろうじて査之介にねだられて書いてもらったサインのみを持ち帰った。


「これは凶器ではないな。被害者の首の索痕と一致しなかった。それから砂田氏の髪は、普通の地毛だったが……?」
口紅とサインも鏡の文字とは一致せず途方に暮れていると、またも緊急の連絡が入ってきた。
「ウメテレビの守衛、守田衛介が自宅アパートで変死しているもよう。現場に急行してください」


「守田衛介29歳。広島県出身で現在一人暮らし。首を吊ったことによる窒息死です。自殺の線で堅いみたいですよ」
<守田の部屋でナナサイン入り等身大ポスター・大きな口紅・パソコンデスクの下にあった失禁の跡・床に落ちてい
たソースの容器とストッキングにも付いた異物・守田直筆のメモ帳・梁に括られた縄・その真下の横倒しの椅子を発見>
さらに調べてみると、起動したままのパソコンには遺書らしき文章も写っていた。
『ナナさんに脅迫状を送ったのも、砂田さんを殺したのも僕です。死んでお詫びします。『ナナの愛ひとりじめ』こと守田衛介』
それを裏付けるような夏川ナナのグッズも部屋に大量にあり、守田氏が夏川ナナの大ファンだったこともわかった。



70 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 11:22:05.80 ID:pPj9z6f80
「このソースは本当の地域限定品です。ネット販売も通信販売もしておらず、こちらでは入手不可能です」
「ストッキングに付着していたのはソースに間違いないよ。口紅と鏡の文字の紅も成分が一致したよ」
ポスターのサインと直筆メモの筆跡を調べてもらっている間に、遺体の検視結果が出ていた。
「死亡推定時刻は午後5時から5時半の間だろう。索条による絞死で使用した縄は砂田を殺害したものと同一のものだ。
しかし、もう一つ死後にできた索痕が見つかってな」
さらに物部博士も疑問を呈していた横倒しの椅子の写真を見てもらうと、古畑博士もまた同じ疑問を感じていた。
「自殺を図った場合、椅子は倒れない。もし倒れても前か後ろだ」
さらにパソコンデスクの下にあった失禁の跡から、守田氏がパソコンデスクの前で死んだことが明白となった
「識子さ~ん、筆跡鑑定の結果が出ました。メモ帳とポスターの直筆サイン。二つの物証の筆跡は、一致しませんでした」
「それじゃあ、過去の筆跡のデータと照合してみてくれる?」
「守田さんのメモ帳と封書の脅迫状は、筆跡が一致しました」
「ナナさんのポスターのサインとナナさん直筆サインは筆跡が一致しませんでした」
「守田さんのメモ帳と、口紅で書かれた鏡の文字は筆跡が一致しませんでした」
「ナナさんのポスターのサインと、口紅で書かれた鏡の文字は筆跡が一致しました。それでは、人工毛髪の購入者リ
ストの調査を続行いたします」
筆跡鑑定が全て終わったところで、いよいよ全ての物証が揃った。
「ナナさんに最初の脅迫状を送った『ナナの愛ひとりじめ』と名乗るストーカーは守田さん。封書の脅迫状と自筆の
メモ帳の筆跡が一致したからね」
「それでは識子どの、やはり砂田さんを殺害したのは守田さんなのでしょうか?」
「いいえ、違うと思うわ。守田さんの文字と鏡の文字は筆跡が一致しなかった。でも、鏡の文字の筆跡とナナさんの
ポスターのサインとは筆跡が一致した」
「ということは、ナナさんが犯人?」
「ナナさん直筆サインとポスターのサインは一致しなかった。ポスターのサインを書いたのは本人じゃないってこと。
ナナさんのサインを真似しても誰にも怪しまれず、ナナさんの大ファンであった守田さんにサインを本物だと錯覚さ
せる事が可能な人物。ウメテレビの控え室で砂田さんを殺害し、その全ての罪を守田さんに被せ自殺に偽装して
守田さんを殺害した人物。この犯行が可能な人物は一人しかいないわ。そう、この連続殺人の真犯人は高畑よ」


「……ということで高畑さん、あなたが犯人ですね」
「そこまで言うなら、証拠はあるんだろうな」
「ええ、ありますよ。靴を脱いでみてください。あなたの靴下には広島限定ソースが付着しているはずです。地域限
定品で、こちらでは入手不可能なんですよ。そのソースが守田さんの家にはあったんです」
高畑は明らかに動揺しながらもまだ開き直っていたけど、かんこさんからの連絡が決定的な証拠となった。
「砂田さんが握っていた人工毛髪の購入者リストにあなたの名前があったそうですよ、高畑さん」
「そんな……僕は……ナナと……ナナの……ために……」
動機は、すべてナナのため。
恋をしてはならない相手を愛してしまったためだった。


「落ち着いて聞いてください。先ほど高畑さんが殺人容疑で緊急逮捕されました」
「でもぉマネージャーなんてぇ代わりはぁ、いくらでもいるからぁ大丈夫ですよぉ」
「確かに彼のやったことは憎むべきことです。でも、そんな言い方……」
「うるさいわね。私には関係ないわ。誰が誰を殺そうが私は私の道を行くだけ!私も忙しいの。終わったらさっさと帰って」


その後、動揺かあるいは敏腕マネージャーを失ったせいか夏川ナナはちょくちょくボロを出すようになったようだ。
【File04・終】



71 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 12:11:42.92 ID:pPj9z6f80
【File05・霧の館】
所長からの呼び出しに応じると、そこには珍しく寒川刑事がいた。
「今回の仕事は警察と合同調査だ。昨夜、霧沼樹海の麓の警察に大学生の二人組がこの写真を持って現れた。廃虚の
洋館を見つけたようだが、これはそこで撮ったものらしい。白骨死体が写っているそうだ。二人の仕事は洋館の場所
まで行き死体が本物であるかどうかを確認し遺体の収容手続きをすすめる。事件性があれば引き続き調査だ」
渡されたのはピンぼけ写真一枚。これだけでは信憑性に乏しく警察は単独で動けないらしい。
「発見現場は霧沼樹海。富士山の黄泉ヶ原樹海と並び自殺の名所といわれる場所だ。昼夜を問わず深い霧に覆われ磁
石や携帯電話も役にたたない。当然ヘリも容易には近づけない。自動車で行けるところまで行って、あとは徒歩だ。
現場に到着したら遺体の搬送用ヘリを誘導するんだ。説明は以上だ」
「大学生が白骨死体を見つけたのは霧沼樹海にある廃虚です。麓の集落に残る噂ですが、戦前に反政府分子が山に入
ったきり戻らなかったことがありました。彼らは樹海内に活動拠点をつくる目的で入山したと思われます」
カメラの予備バッテリー等を準備し、私たちは霧沼樹海へと向かった。


「車が乗り捨てられてるけど、ここから先は本格的な山道になるわ」
寒川刑事の言う通り車が一台乗り捨てられその先は過酷な山道になっていたけど、ともあれ私達は件の廃虚に到着した。
「銃撃戦や放火の痕跡もあるわね……私は通信機で現在位置を報せてヘリの出動を要請するわ。奥が写真を撮った地下室よ」
<廃虚の地下室で4つのナップザック・固体に塗れた頭蓋骨・紋様の描かれたカーペット・壁の血文字『ココハジゴ
クダ ドウシテコンナコトニナッテシマッタノカ』を発見>
怪しい地下室に入ると、写真は本物だったらしく4体もの白骨死体が見つかった。一方で奇妙なことに、死体の一つ
の体内になぜかこの地下室の鍵があった。
「これを使えば部屋は内側から鍵をかけられるわね。でも逆に、これさえあれば確実にドアは開く。それなのに、な
ぜ4名はこの部屋に留まったのかしら……?」


捜査を終えて地上に戻ると、寒川刑事は連絡を終えていた。
「搬送ヘリは視界が悪すぎて着陸できないから今日は飛ばない。明日の朝、天候の回復を待って迎えに来るわ」
結局夜営をすることになったけど、私は白骨死体がすぐ近くにある状況で眠ることができなかった。
そんな折、異音がしたナップザックを開けてみると中から鑑太の姿が。
「ふあ~、よく寝たにゃあ。ジャマなものはオレがポイポイ捨てておいてやったから」
「も~、科研の備品をなくしたことが所長にバレたらクビなんだから。今から探しにいくわよ!」
鑑太は忍び込むために予備のバッテリーを捨ててしまっていて、私はわざわざそれを探しに車の乗り捨ててあった車
道終点まで下山しなければならなかった。
「ん?あの車を見てください。廃虚で見たのと同じ印がありますが」
「なんかボロボロね……何年も放置されているみたい」
<乗り捨ててあった車から紋様の描かれた雑誌・車内の指紋を発見>
廃虚に戻った頃には既に朝になっていて、また寒川刑事と歩いて(ヘリは死体の搬送で満杯)下山する羽目になった。



72 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 12:12:15.53 ID:pPj9z6f80
「江波くん。さっそく例のホネ見せてもらった。男性1名と女性3名だ。男性の推定年齢は60歳。これは後で他の
課に分析を依頼するといい。女性はいずれも20代だ。とくに骨折などの痕は見られないね」
「抗癌剤に含まれる物質が検出されてるよ。この量だったら、かなりの期間服用していたみたいだ。鍵の黒ずみ
は酸化銅皮膜だ。大気中ではちょっとここまで黒ずむことはあまりないね」
一方で一つだけあった頭蓋骨は4体よりかなり古く、蝋が塗ってあり蝋燭として使われていたことが窺えた。
「4名分の指紋がハッキリ採れてたわ。警察が保管する指紋ファイルに1名分の指紋が登録されていたわ。『根住耕
平』。18年前、詐欺罪で起訴され実刑判決を受け服役してるわ」
「『ザ・真空管ワールド』。健康サークル『真空管協会』の機関誌として発行されていました。季刊誌として17号まで出て2年前廃刊になっています。この雑誌は4月1日に書店に並んだ15号です。真空管協会のマークのようです。
カーペットの紋様と放置車の雑誌は一致し、これであの放置車と白骨死体の関連は確実になった。
「着替え、雨具、非常食、財布などが入っているな。現金もカードもそのままだ。1名がドナーカードを持っていた。
『ナガハマキョウコ』23歳。ん?ナップザックの表面に何か付着しているな。これは植物のようだ」
「これは『くっつき虫』だな。正式にはイノコヅチ。花期は8~9月だ。これは種子だから、もう少し後かな」
「失踪人の名簿の中にありました。長浜京子さんは南東京市に住所がありますね~」
ほとんどの証拠の分析は終わり、いよいよ白骨死体の身元がわかってきた。


「洋館で死んでいた人たちですが、真空管協会に所属していた人たちだと思われます」
「イノコヅチの種が衣服などに付着して運ばれるのは9~10月。通常空気中で人体が白骨化するのに1~3年かかる。
車内から見つかった雑誌が書店に並んだのが2年前の4月。 つまり事件が起こったのは2年前の秋よ」
「普通に考えますと、4人は瞑想の行き着く果てに自ら餓死という運命を選んだことになりますが」
「ドナーカードが見つかったし、壁の血文字を見れば自殺じゃないわ。少なくとも全員の合意によるものではないわね」
「それは解せませんな?部屋の中に鍵がありましたね。つまり内側から外へ出られるのですよ?」
どうにも鍵のことに説明がつけられず推理に詰まった私たちは、とりあえず長浜京子さんの自宅へ聞き込みに向かった。


長浜さんの自宅で、京子さんの母・節子さんから話を聞くことができた。
「はい、2年前の9月15日です。朝、ハイキングに行くと言って出かけました。2泊して帰ると言っていました。
山梨の方と聞いていましたが。自殺は絶対にありません。自分から命を投げ出すような子じゃなかったですから。
付き合いはあまりなかったようです。携帯電話も失踪する1年ほど前に解約してましたし。ただ全く人付き合いがな
いわけでもなくて、月に1度ほど週末に精神世界についての研究サークルだと言ってどこかへ出かけていました。私
も京子の行方の参考になればと部屋を調べてみたんですが、何も見つけられませんでした」
「お時間をとらせてしまって、ホントに申し訳ありませんでした。それでは、私は……」
「あの、ちょっと待ってください。このぬいぐるみなんですが、あの子が一番大事にしていたものなんです」
手渡されたのは、首元に見覚えのあるブローチが付いた手作りの熊のぬいぐるみだった。


「これは、すでに名前が出ている健康増進サークルの会員バッチです。団体名は真空管協会で代表は中橋龍尊(58)。
独自の瞑想法によって精神の平安を目指すサークルです。中橋のワンマン団体で、趣味で若い女性ばかりを会員にし
ていました。最高の瞑想は代表中橋の直接指導の下でしか効果は発揮しないとされ、そのために代表にとって極めて
都合のいい団体運営へと歪められていたようです。中橋の本名は『根住耕平』で15年前都内で協会設立。2年前、
突然の代表の失踪により団体は瓦解。その数年前より代表はしばしば身体の不調を訴えており、そのことと失踪にな
んらかの関係があるのではと疑われています。瓦解直前の活動会員数は100から200名程度と推測されます」
「かんこさん、代表以外で今現在行方不明の会員をリストアップして」
「浅川翔子、北海道出身で失踪当時24歳。小宮芳子、大阪府出身で失踪当時22歳。長浜京子、東京都出身で失踪当
時23歳。以上の3名です」
「例の放置車の所有者が判りました。氏名は浅川翔子です。2年前から行方不明で北海道の家族から失踪届が出ております」
これで完全に全ての証拠が出揃い、真相を推理し所長に報告した。



73 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 12:13:31.04 ID:pPj9z6f80
「中橋代表の骨から抗癌剤の成分が見つかっていたわ。中橋は病苦から自ら命を絶つことを決心したの。
でも一人で死ぬのではなく、気に入った会員を巻き添えにして無理心中するつもりだったのよ。中橋は会員に気づかれないように鍵を飲み下した。
鍵の不自然な酸化は胃液のせいよ。やがて全員が窒息死し、そして長い年月をかけ死体は朽ち果て鍵は再び姿を現したの」
「なぜ中橋は樹海内のこの廃虚を知ってたんだ?それと蝋燭代わりに使われた頭蓋骨は一体誰のものなんだ?」
「あの洋館ですが、戦前に政治結社のシンパであった大富豪が建てた別荘のようです。
政治結社は当時の政府から大弾圧を受けていたようで、隠れ家として建てられました。
所有者の氏名は根住耕三郎。根住耕平はその子孫にあたる人物で、一つ多い頭蓋骨は根住耕三郎本人です。
隠れ家が憲兵隊の襲撃を受けた時、建物は破壊されたようね」
推理を報告書にまとめてもいくつかの謎を所長に尋ねられ、現れた寒川刑事の説明に助けられる形になってしまった。


「完璧だと思ったんだけどなあ。あーあ、捜査官の道は厳しいな~!」
「どうした、江波くん。顔色がすぐれないようだけど。キミは射撃を除けば完璧だったね。頑張れよ、期待してるからね」
「ハイ、剣崎検事。がんばりまーす!さあて、仕事仕事っと。ルンルンルン……」
「ムチャクチャ現金なヤツだにゃ」
「識子どの、わかりやすすぎます……」
【File05・終】



74 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 12:40:22.89 ID:pPj9z6f80
【File06・虫の知らせ】
家で暑さにだらけていたところ、出し抜けに所長から電話がかかってきた。
「休日なのにかわいそうだが、これは出動命令だ。現地報告を見ておけ」
「今朝、伊逗の甘木山で農薬散布のヘリコプターが人間が倒れているのを発見。場所は山の中腹あたりの滅多に人の
行かない箇所。現地の警察が調査中。科研に出動要請あり」
「科研には寄らなくていい。現場に直行してくれ。倒れていた男性は昆虫採集が目的だったらしいで虫の話になるか
もしれないが……捜査の途中では植木君に電話で相談するなよ。帰ってきてからにしろ。今日中に戻ってこい」
「識子、オレもリュックに入って寝て行くから」
足手まといと思ったけど、神通力で体が涼しくなる鑑太も連れて私たちは伊逗の甘木山へと向かった。


山に着くなり狩りを始めた鑑太を放っておいて、現地の警察に属する落葉巡査のいとこに報告を聞いた。
「発見の報告から一時間後、署員が現場に到着して男性の死体を発見したのです。現場は蜜柑畑や雑木林です。
被害者の足元に虫籠が落ちていましたので署に保管してありますが、写真は撮ってあります。被害者の名は虫奈良大介。
愛媛県在住で旅行中でした。死体は現在検視中です。この暑いのに長袖長ズボンでした」
「よーし、腕捲りしてやるぞぉ。今日はかなり暑いしね」
<発見現場で木に付着していた血痕と皮膚・後ずさりする被害者の足跡を発見>
かすかに硫黄のような臭いのする現場を離れ被害者がいたと思われる近くの広場に移ると、そこになんと植木博士が現れた。
「所長の虫籠の写真を見せられて意見を聞かれてね。多分アオスジアゲハですと答えたら、所長はそそくさと帰ろう
とした。それで僕に隠そうとしているのは虫の事件にちがいないとピーンときて、有休とってきちゃったよ。死んだ
虫奈良君は我々虫屋の世界ではちょっとは名の知られた収集家でね。被害者は多分、一人だよ」
「どうしてですか?」
「自分だけが知っている採集の穴場を知られたくない。それに珍しい虫を共同で捕まえた場合、所有権の喧嘩になる」
<広場で被害者とは別の足跡・コップを使った地虫の補虫罠・補虫罠のバターに付いた指紋を発見>
「被害者の宿泊先もわかりました。同宿の仲間が二人います」


被害者と同宿の友人はやせ形の羽田さんと太った桑田さん。それに旅館の女将にも話を聞くことにした。
「俺は蝶の専門家でね。単独で蝶谷を捜してたから、宿を出てからは虫奈良君とは会ってないよ」
「この虫籠の蝶はあなたのものですか?」
「い、いや、知らないね。普通種のアオスジアゲハでしょ?そ、そんなもん全然、興味ないよ」
明らかに動揺していたけど、とりあえず指紋と足形をもらって次の桑田さんに話を聞いた。
「ボク、甲虫マニアです。特に好きなのはオサムシですけど。虫奈良くんとは朝に会ったきりです」
桑田さんの方はなぜか体をムズムズさせていたのが気になったけど、ともかく彼からも指紋と足形をもらった。
「三人ともお得意さんでして。数年前から、この時期になると昆虫採集とかで三人でお泊まりくださるのです。仲が
悪いということは無かったと思いますが……今朝も、朝早くからお出掛けになりました。別々だったと思います」
一通りの話を聞けたため、姿を現さない鑑太はどのみち明日も来るのだからと山に置いて帰ることにした。


「致命傷と思われる頭部の強打に伴う擦過傷と樹皮の写真は、矛盾がないと言えるね。あとは資料を見てくれ」
『死因は頭部の強打によるショック死。皮膚の水膨れはなんらかの刺激物と思われるが、直接の死因とは関係ない。
シャツには小さな染みがあった。ポケットから黒い粉の付いた脱脂綿と油性の黒の染料が見つかった」
「このシャツの染みは、硫黄酸化物だね。毒物だけど、普通は殺人には使わないね」
「補虫罠の指紋は虫奈良さんのものね。でも判定不能の指紋も2、3付いてたわ。他の人間がいたとしたら、どこかにバターで指紋を付けてるかも。足紋は皆同じね。でも明らかに体重差のある2種があったわ」
これで現場に桑田さんがいたことはほぼ明らかになったけど、未だ証拠は足りず明日の捜査を恃むことになった。



75 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 12:42:01.17 ID:pPj9z6f80
翌日再び伊逗に赴いたけど、私も拾った鑑太も異様に体が痒く桑田さんのように体をムズムズさせる羽目になった。
「現場に原因があったのかな?」
現場近くの広場に再び赴くと、補虫罠に何やら虫がかかっていた。
「それがミイデラゴミムシ。通称ヘッピリ虫だよ。この辺にはたくさんいるようだね。触っちゃいけないよ」
植木博士はまた有休を取ってきたらしく、現場にいきなり現れたると痒みの原因を教えてくれた。
「伊逗ツツガムシだ。これに咬まれるととても痒い。草原の昆虫採集には、長袖長ズボン軍手長靴が鉄則なのさ。お
っ、これは泰山木。この辺では珍しいな。泰山木はミカドアゲハの幼虫の食樹として知られていて……」
一人で喋る植木博士を伴い、私たちは再び宿へと聴取に向かった。


「今日は大漁だったよ」
「あ、ほんとだ、いいカタのが採れましたね。でも、数が多すぎますね。少しは加減しなきゃ……」
「ほっといてくれよ。絶滅危惧種じゃないだろ。保護活動なら……俺だっていろいろやってるよ」
羽田さんは今日も採集に行ってきたようだったけど、桑田さんは違うようだった。
「今日は熱が出てずっと寝ていたよ……なんだか凄く痒いし。例えば、このふくらはぎ……」
「昨日採集された虫をお預かりしてもよいですか?」
「うひょ~!これは、伊逗オサムシ!確か1996年以降に採集の記録がない、幻の……これは放してあげなければ」
「な、なんですか。法律に触れるわけじゃないでしょ。僕のものですからね」
植木博士と違い二人には加減がないらしく、彼らは険悪になってしまっていた。
「お二人とも、この宿には明日まで宿泊の予定です。甘木署では現場の足場が悪いことから、転んで頭を打ったとい
う見方が固まりつつあります。このまま何もなければ、お帰りになると思いますが……」
「……明日までに真相を明らかにしてみせますよ。被害者の虫籠と2匹の蝶も、資料としていただきたいのですが」
「あれ?これは……」
帰り際、植木博士は預かった蝶を見て怪訝な顔をしていた。


「(桑田のふくらはぎは)伊逗ツツガムシの咬傷だね。それほど危険ではないが、発熱することもある」
「オサムシからバターによる指紋が出たわ。被害者の虫奈良さんのものね」
「虫籠の蝶はミカドアゲハのつがいだね。黒い染料で修正してあるので一見、アオスジアゲハに見える」
これで決定的な証拠が揃い、いよいよ明日は真実を明かす時となった。



76 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 12:43:04.14 ID:pPj9z6f80
「羽田さん、桑田さん。お二人とも隠していることがありますね。死んだ虫奈良さんと誰かが一緒にいたのは、明ら
かに体重の違う同じメーカーの長靴を履いた足跡からも明らかです」
「そりゃ、桑田だなぁ。俺は痩せてるもんな」
「そ、それなら羽田だって重い荷物を持ってれば……」
「現場にはツツガムシが生息していました。あなたも現場にいたのです」
「ツツガムシなんて、別の場所にもいるかもしれないじゃないですか」
「あの日、虫奈良さんと別々に行動していたと仰ってましたよね?あなたの採集したオサムシに、なぜ虫奈良さんの指紋が?」
「……うう、事故だったんですよ。たまたま、同じ草地に虫奈良君も罠を仕掛けていて。僕が仕掛けた罠にあの伊逗
オサムシがかかっていたんですが、後から来た虫奈良君が僕が盗んだんだろうって奪い合いになったんです。その時
ミイデラを投げつけたら、虫奈良君は跳び下がって頭をぶつけて倒れて……怖くなって逃げ帰ったんだ」
「おそらく……過失致死になるでしょう」
「あーあー、あさましいねえ」
「羽田さん、あなたのしたことも感心できませんね。希少種ミカドアゲハに細工して普通種アオスジアゲハに見せか
けるとは。虫奈良さんと共謀してミカドアゲハを放蝶していたのでしょう?」
「何回か伊逗に来るうち、幼虫の食樹である泰山木の存在を知ったからなのね」
「この温暖化が続けば、遅かれ早かれ伊逗もミカドの生息範囲になったさ。泰山木だって、人間が持ち込んであちこち植えたから広がったんだ。蝶の神様だって同じ意見らしいぜ。今日も珍種が大漁さ」
羽田さんが持っていた蝶は、みな絶滅危惧種の希少な蝶ばかり。しかしその時、大風が吹いたかと思うと死んでいた
はずの蝶が一斉に飛び逃げ去ってしまった。
「ど、どうしたんだ?ちゃんと蝶の胸を圧して全部圧死させたはずだ……!」
「へへへっ!つむじ風の術!これでちったあ反省するだろって」


こうして事件は解決したけど、植木博士は東京に帰って来ず伊逗でサボッて所長を怒らせていた。
【File06・終】



77 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 13:20:03.72 ID:pPj9z6f80
【File07・凶走のカーテンコール】
休日に『湯島桜木公園』の『不喋池』をぶらついていると、既にお約束となっている呼び出しがあった。
「今月に入って轢き逃げ事件が2件も発生している。被害者はいずれも若い女性だ。しかも昨夜になってまた若い女
性が轢き逃げされた。被害者は意識不明のまま入院中だ。今回、交通課の事故調査員(車さん)と組んでもらう。お
前はこれまでの事件概要を把握し3度目の犯行現場を調査するんだ」
「事件現場は国道Q号線のあたりだときいております。事件後に検問が行われてて、昨夜は渋滞がすごかったです
ね。そうそう、事件の資料なんですがご覧になりますよね」
『事件1:被害者は森下早苗(19)・新郷女子短期大学1年・事故日は3日午後10時20分・現場は国道R号線泰矢町4丁目』
『事件2:被害者は仁科麻里(20)・欧段大学文学部2年・事故日は11日午後10時10分・現場は国道P号線番場町1丁目』
どちらも自転車での帰宅途中に背後から車に接触され軽傷を負ったという事件で、犯行に使用された車も盗難車であり容疑者の特定が困難となっていた。さらにどちらの現場からもブレーキ痕や擦過痕は発見されていないという。
「問題の盗難車ですが、南東京市警察署へ行けば調査することが可能ですよ」
私たちはとりあえず、南東京市警察署へと向かった。


『発見された盗難車は警察が念入りに調査したが、指紋や毛髪などの遺留品は発見できず。どちらの車もミッドシッ
プという型で、方向転換がききやすく速度も高いが車内が狭い。被害者の塗膜片とバンパーに付いている塗膜片は一
致しさらに現場から発見された塗膜片と車の塗料も一致』
ちなみに盗難車の所有者は、車内の狭さに拘らず二人とも結構な大柄だった。
「車は乗り捨てられるまで、犯人が運転してたはずよね……きっと運転席は犯人のサイズに合わせてあったはずだわ」
推測通りシートの位置はどちらの車もかなり前に固定され、シートをずらしてみると赤い毛髪を発見。早速所に持ち
帰ろうとしたところ、帰り際に寒川刑事と鉢合わせした。
「次の被害者が出ないよう、私が駆り出されたってわけ。この事件は早期解決が重要よ。何かわかったらすぐ教えて」


「この毛髪の持ち主は20代男性だ。血液型はBだった。一旦脱色した上で赤く染められていて、染められてからの
びた部分が約5ミリだ。人間の髪が延びるのは1日約0.3~0.4ミリだ」
「車の持ち主とは別人の髪の毛ね!盗難車が発見されたのが2週間前だから、毛を染めたのは約1ヶ月前ね」
「このヘアカラーは輸入品でね。国内にわずかしかない製品だよ。美容院にしかないと思うよ。あと、厚生省が認可
してない物質が含まれていたって判明してね。すでに輸入が禁止された代物なんだ」
購入した美容院と顧客の情報をかんこさんに照会してもらったところ、全てに一致する人物が一人いた。
『氏名:引田勇(21)・欧段大学文学部3年・身長161cm・血液型:B型』
この男は2番目の被害者と同じ大学に通っている(後で自供した事実によると、最初の事件では暗がりでよく似た女
性を間違えてはねてしまったという)こともあり、情報を警察に送ってしばらくすると寒川刑事から連絡が入った。
「捜査官が訪れるやいなや、逃走したと連絡が入ったばかりよ。緊急手配したから、捕まるのも時間の問題ね」
「ところで、3度目の犯行現場を念のために調査したいのですが」
「そうね、新たな証拠も期待できそうだし私が案内するわ。場所は国道Q号線美坂町2丁目路上よ」


3度目の犯行現場へと到着すると、そこにはすでに寒川刑事がいた。
「被害者は羽田美衣子、19歳で穂同共立女子大一年生よ。病院に運ばれて手術を受けたけど、今も意識は戻ってな
い状態ね。昨夜ミュージカルと観たあと友人たちと別れ、自転車で帰宅する途中に衝突された。発見者は現場から走
り去る車を見たと証言してるわ。被害者の遺留品ならあるけど、犯人のものと思われる遺留品は発見されてないわ。
Q号線の主要ルートで昨夜から検問が開始されてるけど、現在に至っても怪しい車は発見されてないわ」
<犯行現場で肌色の塗膜片・自転車の塗膜片・自転車とは違う色の塗膜片・血痕・自動車の擦過痕を入手>



78 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 13:20:47.02 ID:pPj9z6f80
「被害者をはねた車の落とした塗膜片ですね。車種が特定できるはずです。お預かりした物証はこれから分析していきます。」
車さんは諸々の物証を分析してくれたけど、なぜか肌色の塗膜片だけは判らず他の部署に廻してほしいと言われてしまった。
そこでその塗膜片の鑑定を芦茂博士に依頼して待っていると、寒川刑事から連絡が入ってきた。
「たった今、第三の事件に使用された盗難車が発見されたわ。今から来られるかしら?それと、あれから引田を緊急
逮捕したわ。今取り調べの最中だけどいずれの犯行も全面否認しているようね。自供させるには決定的な物証が必要よ」
私たちは、急いで盗難車が発見された湯島桜木公園の入り口へと急いだ。


<盗難車の発見現場で盗難車の写真・付着した塗膜片・事件現場のそれと酷似している運転席にあった肌色の塗膜片を発見>
一通りの調査を終えたところで、寒川刑事に盗難車の持ち主についての報告が入っていた。
「東条晃一って……あの元『白虎隊』の?」
「そう。10年前に芸能界デビューして以来、白虎隊のリーダーとしてTVのバラエティで大活躍!現在公演中のミ
ュージカル劇『ビビータ』では主役としてカムバック!さっそく彼に事情聴取しないと……じゃ、失礼するわ!」
寒川刑事は明らかにハイテンションなノリで行ってしまった。


「間違いありません。割り出した車種はこの写真のものですよ」
付着していた塗膜片の鑑定結果から見ても、この盗難車が第三の事件に使われたことは明白だった。さらに芦茂博士に依頼していた肌色の塗膜片と、今回盗難車の運転席から発見した肌色の塗膜片も同じ物質であるという。
「いろんなことが判ってきましたよ。ついでに事故の様子を再現しながら説明します。被害者が自転車で交差点を横
断しようとしたとき、右側から車が走ってきました。問題はこの瞬間、運転者はブレーキをかけたのかという点です」
「きっと、擦過痕はブレーキをかけたときについたものです」
「そのとおりです。しかし、もう手遅れでした。このブレーキ痕から見て車は一旦停止してますが、血の痕が地面に
微かですがこすれた状態になっています。運転者は一時的に車を降り、被害者を抱き起こした可能性が高いですね」
意外な事実が明らかになると、捜査の展開も別の方向に進み出した。
「第三の事件は独立した別の事件よ!最初から被害者にぶつけてそのまま立ち去っていた犯人が、この犯行に限って
ブレーキを踏むなんて不自然よ。そうなると、第三の犯行の盗難車が気になるわ」
私たちは東条晃一に話を聞くため、彼の泊まる帝都ホテルへと向かった。


「ブラボ~ォォォォォォッ、ラブ!」
帝都ホテルのロビーには、歌を歌いながらローラーシューズで滑走する異様にハイテンションな人がいた。
「もしかして……東条晃一さんですか?いきなりなんで、こんなとこで滑って歌ったりするんですか?」
「若い頃のテンションを落とさないためさ。今上演されてる舞台でも、ローラーアクションを見せるためローラーシ
ューズをつけていつも滑ってるのさ。こんなふうにね」
「ところで……私が話を訊きたいのは、車が盗まれた状況なんです」
「愛車を劇場の駐車場に停め、楽屋入りしたのが午後4時さ。それから公演を終えてホテルに戻ろうとすると……僕
のマチルダ(愛車)がどこにもいないんだ。盗まれたのに気づいたのが午後10時頃だったな。仕方なくタクシーを
拾い、ホテルに到着したのが……たしか午後10時40分だ。それからホテル近辺の酒場でスタッフの打ち上げに顔
出して、朝まで飲んでたよ。そういうわけで盗難届出すのが遅れたのさ」
「そういえば、さっき同じようなことを女性の刑事にも訊かれたな。彼女、白虎隊のこととても詳しかったな。おっと、そろそろ時間だ。打ち合わせにいかなくちゃ。最後に何か訊いておくことないかい?」
最後に東条氏の部屋番号を訊き、捜査の許可をもらってから別れた。
<東条の部屋の洗面所で肌色の粉末を入手>



79 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 13:21:51.19 ID:pPj9z6f80
「これは……今までの塗膜片と完全に一致するよ!メーキャップだね、舞台やテレビの。おしろい、ドーランの類いだね」
ここでこれまでの証拠を整理しようとしていた矢先、寒川刑事から連絡が入ってきた。
「発見してくれた毛髪のおかげでやっと引田が自供し始めたわ。でも第一第二の事件しかやってないと主張してる」
「今回の犯行は別の人物による犯行の可能性が高いものと思われます。美坂町2丁目路上ではブレーキ痕が発見され
ましたが、第一・第二の事件現場からは発見されていません。ミュージカル役者の東条晃一が有力容疑者です」
「あなた、本気で言ってるの?あなたがそう考える根拠は一体何なの?」
「これらの粉末は事件現場より採取されたものです。さらに先ほど帝都ホテルの洗面台より同じ粉末が発見されたば
かりです。その部屋に宿泊していたのは東条晃一でした。あの粉末の正体はメイク関連のものです。おそらく東条は
劇場からホテルへ戻る途中、事故を起こしてしまった。慌てて急ブレーキをかけても間に合わなかったんです。」そ
れから車を停めた東条は、被害者の生死を確認する際に痕跡を残してしまったんです」
しかしこれが結論だと思った推理も、寒川刑事に矛盾を指摘されたしまった。
「被害者をはねた後、現場から離れた場所で犯人は車を乗り捨ててるわ。事件が発生したのが大体午後10時15分
頃。それから25分後に東条はホテルで目撃されているのよ。盗難車の発見現場に車を乗り捨ててからタクシーを拾
ったとしても……10時30分頃開始した検問のせいでホテル前の国道は渋滞になってたのよ。
どうやっても午後10時40分にホテルに戻るのは不可能なのよ!いったいトッキーはどうやってホテルに戻ったの?」
「それは……湯島桜木公園をおそらく通ったんだと思います」
湯島桜木公園は、盗難車の発見現場とホテルが道路で挟んで向かい合う位置にあった。
「ここには確か……防犯用監視カメラが設置されてたはずだわ。あの日も30分感覚で撮影していたと思うから、す
ぐ画像を送ってもらいましょう」
すぐに送られてきた画像には、公園の中央にある不喋池のほとりを走る人影が写っていた。しかし……
「もしこれが東条だとしても……問題はまだあるわ!盗難車を乗り捨てた地点からホテルの手前へ向かうのが最短
距離なのよ。でも問題の写真の人影は迂回路で写ってるじゃないの。なぜ、こんな遠回りしなきゃいけないのかしら?
それに全力疾走したとしても残り10分でホテルに着くのはどちらのコースも不可能なの。ちなみにホテル周辺の調
査でバイク・自転車の類は一切発見されてないのよ」
たしかに人影が写っているのは、不喋池を取り囲むD字型の環状路のうち発見現場とホテルを結ぶ砂利道の直線路と
は逆の曲線路の方だった。
「東条を容疑者にしたかったら、今言った点に納得いく説明をしてもらわないとね」
「あきらめるのは、まだ早いです。公園とやらに行ってみましょう。きっと手がかりがあるはずです」


<不喋池の環状路で小さな擦過痕と塗膜片を入手>
「確かにタイヤの痕なんですがかなり小さいものですね。自転車よりもかなり小さいものです」
「ウレタンの原材料で、用途が幅広いから厄介だよ。例えばローラー・建築資材・運動用具……」
これで東条晃一が何を使って近道を走ったのかが判ってきた。
「公園で発見した物証で、どうやってホテルに戻ったのかハッキリわかったわ。そう、いつも東条が履いていたロー
ラーシューズよ。車を乗り捨てたあと、ローラーシューズで滑走し公園を通過した瞬間この写真が撮られたんだわ」
「被害者のバッグと衣服の分析結果が出たよ。被害者の着衣からドーランの粉末が発見されたよ」
今度こそ証拠が固まったところで、寒川刑事から連絡が入ってきた。
「あなたの主張してる容疑者、明日から海外へ向かうそうよ。急いでホテルにいらっしゃい」



80 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 13:23:28.26 ID:pPj9z6f80
ホテルのロビーには、すでに寒川刑事と東条晃一が話していた。
「早くすませてよ。僕、今夜で楽日だしね」
「あなたのドーランが被害者の服から採取されてます。そして、これは事件当日10時30分に撮影されたものです。
この影は、あなたですね?愛車を乗り捨てたあと、ローラーシューズで滑走しホテルに戻ったんでしょう?」
「……ああ、その通りさ。僕は今までプロとしてここまでやってきた。
事故のことがばれると確実に芝居に穴が空く……プロとしてそうするわけにはいかなかったんだ……そうだ、君たち!罪は償うからさ。できれば猶予を……」
「残念だけどそれはできません。私たちもプロなんです」
「…………わかった。……確かにプロだもんな。君たちも……」


こうして事件は解決。瀕死の被害者は鑑太が知り合いの『天神』に頼んだために回復に向かっているそうだ。
【File07・終】



81 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 14:24:57.31 ID:pPj9z6f80
【File08・江戸の闇】
「ご苦労だったな。しばらく休暇を取っていいぞ。何だったら科研で自由研究をしてもいい。論文を書けば昇級できるぞ」
久しぶりの長い休暇をもらった私は、査之介と鑑太の要望で東京見物に行き江戸懐古館へと向かった。


「識子どの、大江戸捕物展をやってますよ。ああ!あれは!拙者が書いた調書とその証拠品です。拙者の最後の事件でした。しかも未解決なのです」
「それは、心残りかもね」
「……お願いがあるのですが。なんとかして、この展示品を借り出せないでしょうか?」
「昨日、所長の言ってた自由研究ってえことにすればいいんじゃねェか?」
「いい考えですね!今世の鑑識技術を使えば、真相が明らかになるかも……一生のお願いでござる」
「仕方がないわね……所長に話してみるかな」
期待に反して所長は快諾し、休暇を潰しての未解決事件の捜査が始まってしまった。


「懐古館長の藻尻です。資料の貸し出しですか?面白い企画ですね。是非協力させてください」
<懐古館から査之介の調書・捜介の指紋・密書・血塗れの木枕・布切れを入手>
「かいつまんで事件を説明しましょう。当時、将軍が次々と死にまして次期将軍を誰にするかで激烈な暗躍闘争があったのです。
拙者の従兄弟・江波捜介は幕府の隠密として梅平家の密偵の捜査を行っていました。梅平家の依頼で、捜介は家臣として潜入中でした。
梅平家にはもう一人、忍田影丸という先輩がいたそうです。梅平家の大名屋敷に、情報を漏洩している曲者がいる……その人物の特定が目的でした。
宝永4年の11月24日に敷地内のできたばかりの土蔵で密談が行われていたのですが、密談の最中に外で『曲者待て!』と声がして……
何者かが逃げる気配ともう一人が追い掛ける気配がしたそうです。その後、10町も離れた場所で侍同士の斬り合いがあり二人が死にました。
その一人が……捜介でした。相打ちになった相手は別の隠密・影丸らしいのです。二人とも死んでしまったので、どちらが密談を聴いていたのかわかりません……
拙者は捜介の潔白を証明するために奔走したのですが、翌日持病の労咳が悪化して拙者も死んでしまったらしいのです」
やがて調書を見てみると、そこに付録して捜介の指紋と密書とある借金の借受け書が見つかった。


「この木枕に残された血は、瀕死の捜介のものなのです。もう一人の忍田影丸は虫の息でしたが、幕臣が引き
取っていったそうです。影丸は幕府の隠密でしたから」
「この黒い付着物は……B型の血液だね」
「不鮮明だけど、たしかに耳紋が付いているわ。でも、何か黒い粉末状のものがたくさん付いてるの」
「元素分析をしてみたよ。主な成分は、珪素……石質だってことだ。火山灰だな」


「これは、捜介と闘った侍が裾を刀で切られて残していったものです」
「ん?青灰色の布かと思ったら、細かい模様がびっしりと……」
「それは江戸小紋かもしれません」
「この破れ方は刀によるものではなく、袖を強く引っ張られたことによって破り取られたものだね。でもこれ
は上物らしいな。この細かい模様は梅の文様だね。梅平家にしか許されなかったものだ」


『梅平ハ美戸ト組ミテ記州様ヲ推ス者也』
「美戸は梅平と同じ将軍家の血縁の親藩、美戸藩だ。記州様は記州藩の君主……後の徳川良宗だね」
墨で書かれた密書の端には、書き手の曲者がつけてしまった指紋がついていた。
「密書の指紋とこの借受け書の指紋は明らかに別人のものね。でも、同じ人物の右の親指と左の親指の可能性が残っているわ」
「良い資料を手にいれたな。ご先祖の調書を論文のために自由研究か。それは良い功徳になるな。志半ばで倒れられたご先祖も、これで成仏なされるのではないかな」
「成仏?成仏しちゃうんですか?」
「い、いや物の例えだ。既に極楽往生なさっているに違いない。ところで、お墓参りは行ったのか?
同心与力の家柄ならば、矢中墓地に必ずあるはずだ。この調書は私が現代語に翻訳しておこう」
一通りの鑑定を終えた私たちは、とりあえず矢中墓地にあるという捜介さんのお墓へと行ってみることにした。



82 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 14:25:46.36 ID:pPj9z6f80
しかしいくら探しても江波捜介のお墓は無く、仕方なく住職に聞いてみると意外な答えが返ってきた。
「記録では、亡くなられてから数年後に柳田家の墓に埋葬されたようです。当時の後側用人柳田吉保の後遺言だったとか」
「梅平家も将軍家の血筋です。捜介は柳田吉保の密偵だったのかもしれません」
「査之介さんとやら、何が心残りなのかは知りませんが……全て忘れて成仏なさるのが一番ですぞ」
住職には、査之介の言葉が聞こえていたようだった。


所に帰ると、物部博士が翻訳を終わらせていた調書には梅平家上屋敷と書かれていた。
「大石川庭園ですね。郷土史料館もありますよ」
「もしかすると当時の土蔵が残っていて、証拠も残っているかも……」
<大石川庭園の土蔵で壁の耳紋を発見>
「土蔵の密談の日に、猫がくわえてきたのだとか」
「あ、それオレだ!捜介が追跡中に曲者の耳を切り落としたのを見て、後で梅平屋敷に戻ると思って届けたんだったっけ……」
「干からびてしまってもう我々にはわかりませんが、この耳と壁の耳紋は同じだったと言われています」
大石川庭園史料館の館長から耳のミイラを借りると、私たちは一旦所に戻った。


「さすがにこんなになっていては正確な鑑定はできないわ。強いて言えば、白い粒子が両方にいくつもついていたわね」
「耳からは、持ち主がO型だということしかわからなかった。この白い粒子も、石質だということしかわから
ない。少なくとも漆喰じゃない。安山岩という火成岩質だし、成分的にはこのあいだの黒い粒子と似ているね」
そこで二つの粒子を大石川庭園史料館の館長に見せてみると、当時のある大事件について話してくれた。
「これはもしかすると……火山灰かもしれません。壁耳事件の日に富士山が噴火したのです。江戸の大学者・
新井百石の日記『おりたく紫の記』に詳しい記録があります。それによると最初は白い灰が、そのあと黒い灰
が降ったとあります。原本のコピーがありますからお貸ししましょう。当時の火山灰のサンプルもあります」


「25日になって、今回の灰が富士山の噴火のためであるとやっと伝わったらしい。黒灰、と書いてあるから途中で灰の色が変わったのは確かなようだね。新井百石は有名な大学者だし、日記は正確だと言われているよ」
借りたサンプルの火山灰も、これまでに入手した粒子と完全に一致。いよいよ真実は明らかになった。
「土蔵の耳紋と耳のミイラはほぼ同じもの……それに、ミイラからは白い火山灰が発見されたわ。そうなると、
黒い火山灰は捜介さんが犯人でないことを証明しているわ。捜介さんが曲者を発見して追跡を始めた時、既に
火山灰は白から黒に変わっていたのね。最初は白い火山灰、後では黒い火山灰が降っていたから捜介さんは立ち聞きしていなかった……スパイは耳を落としていった影丸だったのよ」
捜介さんがなぜ柳田家の墓に埋葬されたのかは、査之介が語ってくれた。
「隠密は老中を通じて密かに下命されるのですが、当然その上には吉保殿がおられたのでしょう。捜介に汚名
が着せられても、立場上かばってやることはできなかった……しかし自分が死ぬ時に何も言わず自分の墓に入
れてやることで、少なくとも江波家や同心仲間には理解されたはずです」
事件を解決して家に帰った私たちは、捜介さんの無念を偲んだ。


「当時お主を間者扱いした人たちの疑念は、今晴らすことができたが……あのときに何もできなかった拙者を許してくれ……」
「アリガトウ……査之介、迎エニキタヨ……イッショニイコウ……」
「うん……そうだな。いろいろ、心残りもなくなったし……それじゃあ、識子どの。拙者はこの機会に成仏いたします。さようなら……」
「さ、さようなら……(査之介がいっちゃう……査之介が薄くなっていく……いかないで!)」
「がってんおまかせだぜ!」
「な、何をするんですか!ああ、捜介が逝ってしまった」
「ハア?おまいらが逝きたくない、逝かないで、と……思っていたのが聞こえたからつかまえたんだぜ?」
「あーあ。拙者は識子どのが心配で成仏しそこねたわけですか」
「なによ!あたしはもう一人前なんだから!さっさと成仏しちゃえば良かったのよ!」
「どうですかねえ。識子どのがもう少ししっかりなさたら、次の機会にはそうしますよ」
(コイツが居た方が面白いから、またそんときはつかまえてやるぜ)


こうして、先祖のオバケとの生活はまだまだ続くことになった。
【File08・終】



83 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 14:45:35.70 ID:pPj9z6f80
【File09・歪んだ正義(前編)】
深夜1時。
恒例となっていた緊急呼び出しも、寒川刑事と剣崎検事まで加わったその日は異様だった。
「これから話す内容は極秘事項だ。1時間前、知事公邸に電話があった」


『私が知事の赤島だが、君は……?』
『名前……そうだな。ジャッカルとでも言っておこうか。そんなことはいい。用件だけ言う。今わたしの手元
には人質がいる。名前はタドコロヤスコ。このままじゃ明け方には死ぬな』
『何を言ってるんだ?要求はなんだ?』
『要求?それは考えてなかったな。じゃあ、都庁前広場でホンダラ節でも歌ってもらおうか』
『こんなときに冗談はやめたまえ……』
『けっこう本気だったんだがな。まあ、せいぜい頑張ってみてくれ。すべてが終わったらまた連絡する』


「以上が電話の内容だ。今回は知事のたっての希望で地検・警察・科研の精鋭スタッフで対処することになった」
詳しい事件の内容は、所長秘書プログラムが教えてくれた。
「昨夜午後11時30分ごろ、田所泰子さん(21)が火野市郊外の駅から自宅に向かって500mの地点で何者か
に連れ去られました。被害者の所持していた携帯電話が最後に電波を発した場所は、火野森林公園駅の付近で
す。それから知事公邸に電話がかかってくるまで20分。そこが誘拐現場でしょう」
電話の録音テープの分析を物部博士にまかせ、まずは現場の検証から始めることになった。


「地面が濡れていますが、昨夜は台風が通過したため短い時間でしたが激しい雨が降ったのでアリマス」
<誘拐現場で車の乾き跡・泥の上の複数の靴跡・煙草の吸殻を入手>
「これは国産煙草のハイランプだね。愛好者のうちの94%が男性という銘柄だよ。吸口からは唾液が検出され
たけど、残念ながら警察の情報ファイルにはなかったな」
「これは雨が降っていたときに自動車を停めていたせいで、濡れなかった場所のようですね。この大きさから
推測すると、ハッチバック車でしょうか」
「靴のサイズから男性女性1名ずつ。とくに男性はかなり大きなサイズで歩幅もあるわ。走っていたようね。
女性の足跡には途中で真横に向いた所があるわね。これは走りながら、後ろを振り返ったということよ。男性
の靴跡は珍しいわ。市販のシューズじゃないようね。メーカーに問い合わせてみる」
これでとりあえず、誘拐事件の流れは理解することができた。
「犯人は雨の中で車を停めて、煙草を吸いながら誘拐する人物を物色していた。そこに田所さんが通りがかった。
車の横を通りすぎたところを犯人は捕まえようとした。彼女は空地へと逃げたけど捕まり、車に押し込まれた」


その時、ちょうどシモーヌさんから問い合わせの答えが返ってきた。
「5年前スポーツ洋品メーカーのA社が、プロ野球チーム西新宿ボブキャッツの選手に提供したスニーカーの
フットプリントと一致したわ。サイズは30cm。さすがにこのサイズだとチームでも数名だったはずね」
「該当する人物は山元明(30)。元西新宿ボブキャッツ投手。東京都火野市すずめ台在住。4年前に選手を引退
して最近はラジオのパーソナリティなど芸能活動を行っている。今わかっているのはこれだけです」
「わかったよ。電話の音声データだけど元プロ野球選手の山元明で確定だ。ただ、ひとつ気になることがある。
知事と犯人の声の間に何かを叩いているような音がするんだよな」
未だ気になることはあったけど、とりあえず被疑者を所長に報告し警察の行動結果を待つことにした。



84 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 14:46:13.48 ID:pPj9z6f80
午前5時。
山元宅に突入した寒川刑事たちからの連絡は、明らかに不穏だった。
「ん?何か音がする……エンジンの音……車庫かしら?踏み込むわよ……ごほっ、ごほっ!」
慌てて自分達も現場に行ってみると、すでに寒川刑事たちの作業は終わっていた。
「遺体はさっき運び出されたわ。被害者は車のマフラーから伸ばされたチューブをくわえさせられ死亡していたわ」
<山元宅のガレージで埃まみれの自動車・車内の土・車内の毛髪・車内の吸殻・棚のスニーカーを発見>
所に帰ると、すでに司法解剖が終わっており結果を聞くこともできた。
『死因は一酸化炭素による中毒死。死亡時刻は午前3時頃。胃からまだ溶けきっていない睡眠薬が見つかった」
「この車種なら、アスファルトに残った乾いた場所の大きさと一致します」
「誘拐現場で採取した吸殻と同じ種類だ。唾液のDNAも同一だったよ」
「誘拐現場に残された足跡はこのシューズで間違いないわ。付着している土が犯行に使われた車にも残っているはずね」
「シューズの土にも車の土にも、誘拐現場の土は見つからないな」
「あれ?この中に被害者の毛髪は一本も見当たらないぞ」


午前9時。
錯綜する情報に混乱しているところに、山元明が拘束されたという報せが入ってきた、
「わたしはやっていない、と煙草を持つ手を震わせて弁明している様子です。ちなみに煙草の銘柄は外国煙草
のマルパソです。2週間前からこれを吸っているそうです。昨日午前12時に自宅を出て午後1時火野市小学校
グラウンドの少年野球のコーチを行う。午後4時に練習を終了し午後5時にPTAと居酒屋で親睦会。そこに捜
査員が現れるまで飲み続けていたと主張」
しかし、まだ私には納得がいかなかった。
「一応アリバイはあるわ。それに殺害現場の車庫に停めてあった車は埃をかぶっていたわ。実際にこの車が犯
行に使われていたなら、当日降った雨が埃を洗い流したはずよ。吸殻も、本人がここ最近吸っている銘柄とは
違う。山元氏のスニーカーに付着していた土も、車内からは見つからなかったわ」
「犯人からかかってきた電話の声は間違いなく山元氏本人でした。この事実はどうです?」
「犯人からの電話の録音をもう一度聴いてみて。パソコンのキーボードよ。つまり犯人は山元氏のラジオ番組
などで録音した音声をパソコンに読み込み、音声読み上げソフトを使って電話をしてきたのよ」
そのことを剣崎検事に報告すると、私たちは一旦の帰宅を命じられた。


午後10時。
仮眠から起きるとちょうど剣崎検事から呼び出しがかかってきて、私はまたも急いで所長室に向かった。
「午後9時、また女性が誘拐された。犯人から第一報が知事に届いたのは午後10時だ。今回も音声がある」
『この前の事件に関しては心から同情するよ。今宵もとっておきのネタを提供しよう。また女性をひとり手に
入れた。名前はタニグチアケミ。今回はお金をいただこう。現金で1億だ。アンタの一存で動かせる機密費は
それぐらいはあるだろ。民間人の女に現金入りのバッグを持たせ午後11時、水森公園噴水前で持たせろ』
『人質は無事なんだろうな』
『夜明けまではな……』


「身代金を運ぶ役目、私にやらせてください」
「むざむざ死にに行くようなものよ。私が行きます!」
「きみは民間人ではない。それに犯人は警察の情報に通じているかもしれん……江波くん、やってもらえるか?」
大役を志願した私はラボで準備を整えるとともに、博士たちから激励の言葉を受けた。
「水森公園について説明します。敷地面積は約60ha。東エリアは博物館・うんどうひろば、西エリアはどうぶ
つエリアなどがあります。犯人の指定場所はどうぶつエリアの南にある『ちゅうおうひろば』の噴水の前です」
「これがアタッシュケースだ。本物の一億円が入っている。私が中身を確認して閉めたから、間違いはないは
ずだ。噴水の前で相手からなんらかの接触があるまでは、そのまま待ってもらいたい。緊急事態の際には、通
信機を使って話してくれ。公園の外に待機している特殊部隊がすぐに駆け付ける」
検事からアタッシュケースを受け取り、私(とこっそり査之介と鑑太)はいよいよ公園へと出発した。



85 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 14:46:45.48 ID:pPj9z6f80
午後11時。
噴水の前に着くと、いきなりそこの公衆電話が鳴り出した。
「……ちゃんと、ひとりで来たか?」
「ええ……人質は無事なの?」
しかし犯人はその質問に答えないどころか、なぜか無言のまま電話を切ってしまった。
「そこから犯人は見えるか?おまえの行動を監視しているはずだ。不穏な動きはするな」
「識子どの、これは好機かもしれません。電話の音を耳を澄ませて聞けば、場所が推測できるかもしれません」
「所長。いまの電話のやりとりですが、環境音だけ増幅してこちらに送ってもらえませんか」
送られてきた音には、二つの特徴的な音があった。
『キョケ、キョケ、キョケ、キョケ……トゥクトゥクトゥクトゥク……』
「キョケ、キョケ、といっているのは鳥が驚いた声かもしれません」
「トゥクトゥクといっているのはバイクの音だわ。鳥の鳴き声は犯人の電話口と私のところで届く時間に差が生じたの」
「ニワトリ小屋は江波くんのいる場所のすぐそばだ。となると、犯人がいる場所までは340m」
公園の地図から居場所を推測すると、噴水から340mでかつそれを監視できそうな見晴台だとわかった。
その時また公衆電話が鳴り出し、私は応対とアタッシュケースを鑑太にまかせ犯人の元へ急いだ。
「とうとう捕まえたわ」
「捕まえられるかな?いくぞ……」
フルフェイスで顔を隠した犯人が警棒を出してきたその時、突如背後の噴水で爆発が起こった。
「鑑太は大丈夫でしょうか?」
「だいじょーぶじゃにゃーい!にゃにゃにゃー!!」
黒こげで走ってきた鑑太が犯人を気絶させ、何が起こったのか訳のわからないうちに犯人の逮捕は成功した。


午前1時前。
私は博士たちから歓迎を受けてから、寒川刑事も待つ所長室に赴いた。
「それにしても、待ち合わせ場所に爆弾を仕掛けるなんてどこまでも卑劣なヤツね」
「犯人は南東京市警察署に連行された。早速だが、まだ人質は救出されていない。犯人の自宅の捜索へ向かっ
てくれ。現場から採取したアタッシュケースの残骸は、お前に渡しておくからな」
「犯人は桐谷達彦(26)。アメリカ・マサチューセッツ州在住。現在は留学の休暇で帰国中で、港南区のマンシ
ョンに住んでます。父は与党の大物国会議員桐谷茂です」
アタッシュケースの残骸の鑑定を物部さんに任せ、私たちは犯人のマンションへと向かった。


<犯人のマンションから左利き向けに置かれたパソコン・ノート・釣り欄に赤丸が入ったスポーツ新聞・ピッ
キング用具・ふやけたガムテープ・車内の指紋・タイヤに付着した異物を入手>
「被疑者の車内から採取した指紋の中に被害者2名の指紋が見つかったわ。ピッキング用具にも被疑者の指紋
が付いていたわ。新聞の釣り欄には親指の指紋がベッタリついていたわ。赤いペンで21:48・5:15と書かれているわ」
「被疑者は犯行の数日前から当日にかけて、南東京市湾岸の地図に何度もアクセスしてますね」
「ガムテープの濡れた部分は海水だ。タイヤに付いていたのは馬糞だよ」
証拠は集まり、二つの誘拐事件の真相は明らかになった。
「ピッキング用具を使って桐谷は山元氏の家に侵入して、吸殻とスニーカーを持ち出して故意に現場に残したのよ」
その時、突然に警察署長の江波のおばさまから連絡が入ってきた。
「署に来て取調べを手伝ってもらいたいのよ。桐谷があなたを指名したの」



86 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/09(月) 15:22:33.47 ID:pPj9z6f80
午前2時。
「何を訊いても完全黙秘。被害者の所在は依然として掴めない状況なのよ」
「動機なんてあるわけないだろ。だってやってないんだから」
「じゃあ、山元氏をターゲットに選んだ理由もわからないというわけですか」
「子供の頃、野球選手にサインをねだって拒絶されたことはあるかね?あれはかなり傷つくぞ」
「それが山元氏を事件に巻き込んだ動機なんですか?」
「さあな。俺は犯人じゃないからなあ」
「お父さんは国会議員ですね。あなたはお父さんを含めいろいろな人に迷惑をかけたと思いませんか?」
「迷惑だって?それがなんだっていうんだ!」
「あなたが爆弾を仕掛けたんでしょ?」
「違うったら、違う!どうせ信じてくれないだろうが」
終始不遜な態度で事件のことを直接は喋らなかったけど、爆弾のことを聞いた時だけは態度が僅かに違っていた。
しかし夜明けまでは間がなく被害者の捜索を優先して所に帰ろうとした時、桐谷は呟いた。
「ちょっと待てよ……ヒントをやろう。俺は釣りはしない」


午前4時半。
私たちはなんとか今ある証拠を使って、被害者の居場所を割り出すことにした。
「被害者は桐谷が何度もチェックしていた地図の場所にいる。釣りをしないということは、スポーツ新聞の釣
り欄で干満情報を見ていたに違いないわ。あの数字は今日の満潮時刻よ。人質は海岸のどこかに縛られているのよ」
「でも、一口に海岸といっても広いですよ」
「タイヤに馬糞がつく可能性があるのは競馬場よ。ここを通り抜けて行ける埠頭は第二埠頭よ!」
間一髪、被害者の救出は間に合った。


二日後。
休みをもらった明け方に所長室に出勤すると、そこでは剣崎検事らが一斉に暗い顔をしていた。
「桐谷が保釈された。桐谷の父親は大物国会議員だ。そちら方面から検察上層部に圧力がかかったんだろう。
今は選挙期間中だし、与党の支持率後退を狙った謀略だと抗議したんだろうな」
「選挙期間中は政治的な逮捕を控える傾向はある。実際桐谷は君以外には完全黙秘を続け、立件できるだけの
証拠は得られてなかった」
「ヤツはすでに拘置所を出て父親が手配した都内のホテルに移ったわ」
怒り心頭の私が抗議していると、所長へ電話がかかってきていた。
「桐谷が自殺したそうだ」


【File09・終】

 


93 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/16(月) 12:41:57.63 ID:fBAKlW9j0
【File10・歪んだ正義(後編)】
「桐谷が自殺したそうだ」
「じゃあ、さっそく現場へ……」
「今回はいい。警視庁の別の部署が担当するそうだ。江波もラボに戻れ」
「司法解剖は古畑さんが担当するんですか?」
「それはないと聞いている。今回の事件には科研のメンバーは一切関わらないようだ」
今日は有休を取れと言われて帰ったけど私たちはこんな結末に納得できるはずもなく、私たちは現場の帝都ホテルへと向かった。


1304号室の現場保全には、いつも通り落葉巡査があたっていた。
「落葉巡査。お願いがあります。私にも現場を見せてください」
「それはダメでアリマス。この事件の鑑識は警察の科捜研が担当しているでアリマス」
「だったら、話だけでもお願いします」
「……しょうがないでアリマス。午前11時、フロント係が部屋に電話をしたが返事がなかったそうでアリマス。高
鳥サブマネージャーがマスターキーを使って鍵を開けると、バスルームで自殺死体を発見したでアリマス」
それ以上の話すら教えてくれなかったけど、食い下がってなんとか許しを得ることができた。
「ただし5分間だけでアリマス。まもなく鑑識班が昼食から戻ってきますから。現場からは何も持ち出さないでください」
<桐谷の部屋で脱ぎ散らかした服の写真・血塗れのバスタブと落ちていたカミソリの写真・桐谷の遺言録音を入手>
そこにあったノートパソコンに起ち上がっていた音声ソフトを動かしてみると、桐谷の遺言が流れてきた。
『今、すごく反省しています。亡くなった田所泰子さん。被害にあわれた谷口明美さん。爆弾で殺そうとした江波識子さん。
そして関係者の親族のみなさま。つらい思いをさせてすみません。私、桐谷達彦は死んでお詫びします。それでは、みなさん、さようなら』
次にロビーで第一発見者である高鳥サブマネージャーを見つけて話を聞いてみると、高鳥氏は私を科捜研の一員だ
と勘違いしたらしくすんなりと話を聞くことができた。
「午前11時すぎでございました。フロント係から1304号室のお客様のことで部屋に何度電話してもお返事がない
と連絡を受けました。部屋係とマスターキーを使って、室内を確認いたしました。そうしましたら、バスタブでお客
様が血を流しぐったりされていたのでございます。すぐに救急と警察に連絡しました。お医者様はお客様を診てすで
に死亡しているとおっしゃいました。お客様は服を脱いでバスタブに入り動脈を切って自殺を遂げていました。遺体
は警察病院に運ばれました」


私たちは所に戻り、証拠の鑑定とともに古畑博士になんとか検視結果を教えてもらえるように頼んでみた。
「警察病院の監察医は僕の教え子だったな。しょうがないな。電話で聞いとくよ」
「声が妙に暗い感じなんだが、100%同一人物に間違いない。データは資料室に送っといたから」
「これは死体の拡大写真だ。死因はこの傷からの失血だろう。左腕にカミソリによる切り傷が1本だけ見える。躊躇
い傷はない。死亡推定時刻は今日の午前9時から10時の間だ」
「胃の内容物から大量の催眠剤が見つかったよ」
証拠が集まってくるにつれ、桐谷の自殺にはますます疑問が持ち上がってきた。
「この写真を見る限り、桐谷の腕に躊躇い傷はないわ。それから、カミソリを持ったのは右腕となるわね。桐谷は左
利きだったはずよ。脱ぎ散らかした服は自殺の特徴である身の周りを整理することと矛盾するわ」
「それに、自殺すると発見者や警察に己の裸が見られることがわかっているわけです」
「これは恥ずかしいことよね。録音遺書にも人名の中で引っ掛かるものがあるのよね。『きりや』を『きりたに』と
読んでるの。つまり誰かに読まされていることを伝えたかった……」
さらに犯人の目星をつけるために過去に同様の事件がなかったかどうか調べてもらうと、警察の機密情報から一件の
類似事件データ『幼稚園児死傷事件』が見つかった。
「被告人A(22)は合法ドラッグで酩酊状態のまま車を運転。自動車は道路を横断中の幼稚園児の列に突っ込み、
死傷者9名の大惨事となった。Aは責任能力を問えないと判断され立件は断念された。保釈の2日後、自宅浴室で
自殺しているAが見つかった。遺書はパソコンに音声データで残されていた」
『今、とても反省しています。亡くなった桜井みかちゃん、田島裕子ちゃん、川田元気くん、そして、すずらん幼稚
園のみなさま。つらい思いをさせてごめんなさい。私、◯◯は死んでお詫びします。ご迷惑をおかけしました』
同様の事件の存在に他殺の確信を持ったけど犯人の目星まではつかず、私たちは思いきって所長に直談判することにした。



94 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/16(月) 12:47:15.43 ID:fBAKlW9j0
その直前、剣崎検事からいきなり電話がかかってきた。
「もしもし、江波くんか?ちょっと君の様子が気になったんでね。今晩帝都ホテルで人と会うんだが、よかったらそ
の前に一緒に夕食でもどうかね?」
断って所長室に行ってみても、所長はやはり首を縦には振らなかった。
「地検は立件しない方針を固めた。それより、どういう了見で勝手に現場のホテルへ行った?ともかく桐谷の事件は
もう終わった。おまえの他殺説は絶対誰にも話すな。話は終わりだ。家に帰れ」


家に帰って項垂れていると、唐突に落葉巡査から電話があった。
「ちょっとお話があるのでアリマス。電話では話せないのでアリマス。昭和名画座に来ていただけませんか?」
慌ただしく電話を切った巡査になんの疑問も抱かず映画館に行っても当の巡査の姿はなく、そこで暇潰しに映画を見
ていると真後ろから話しかける声がした。
「振り返らないで。そのままの姿勢で聞いてほしいのでアリマス。法律には様々な抜け道があります。知っての通り、
それが結果的に悪をのさばらせる温床になっています。誰かがそれを糾さなくてはいけない。それが、我々『火刑法
廷』の役目なのでアリマス。我々は熱に浮かされたような無秩序な集団ではないのでアリマス。アナタは心がまっす
ぐな人です。我々の仲間に加わる資格は充分です。やり甲斐は保証します。どうでアリマスか?」
「ひとつ聞いていいですか?アナタが桐谷を殺したんですか?……そんなわけないですよね?」
「社会改革という大きな目的のために小さな死は仕方がないのです!そのことは、わかってください」
「いいえ、わかりません!たしかに、私も桐谷が保釈された時はやりきれなかったわ。でも自分が罰を下すのは違う
と思う。落葉巡査の方こそ、過ちに気づいて!それじゃ、私はこれで!」
「待ってください!あなたは自分の置かれた立場が全然わかっていない!あなたは知りすぎている。それに、あなたは選ぶ側じゃない。
これが本当にラストチャンスかもしれないんでアリマス!止まるんでアリマス。ここから出ていっちゃいけない!」
映画館を出ると、見ていたらしい査之介が話しかけてきた。
「拙者の時代にもいましたよ。法では裁けない極悪人を闇で裁こうとする私刑集団は。拙者も識子どのと同じ意見です……あぶない!」
突然の銃声に驚いて、私は見知らぬ街を無我夢中に逃げた。


家に帰れず行くあてもなく、なぜかおばさまや剣崎検事にも電話が繋がらない。
そこで仕方なく、寒川刑事を頼ることにした。
「あの、唐突なんですが今晩そちらに泊めていただけないでしょうか?」
「まあ、いいわ。あまり遅くならないうちに来てよ」
寒川刑事のマンションで見たニュースでは、すでにさっきのことが報道されていた。
「本日午後7時ごろ、城西区名画座通で発生した警官射殺事件の続報です。亡くなったのは、南東京市警察署の落葉
一郎巡査です。後頭部に銃弾を受け即死でした。警察では犯行時刻行動を共にしていた知人の行方を追っています」
「落葉巡査と行動を共にしていた知人ってアナタよね、江波さん……?」
「寒川さん、話を聞いてください。その後は、寒川さんの好きなようにしてくださってかまいません」
私が今までのことを話すと、意外にも彼女はそのまま信じてくれた。
「あなたの話、信じるわ。で、これからどうするつもりなの?冷静になってこれまであったことを振り返ってみたら」
考えに考えた末、私は結論を出した。
「寒川さん。科研本部へ行ってきます。今動かないと、真実は永遠に闇に葬られる……そんな気がするんです」
「わかったわ。死なないでね。これでも、アナタと組むのけっこう気に入ってるんだから」



95 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/16(月) 12:51:55.31 ID:fBAKlW9j0
とりあえずそのままの格好というわけにはいかないので、科研には出前に変装して入りシモーヌさんに協力を求めた。
「私になりすまして情報にアクセスしたいというわけね?いいわよ。そういえば、アタッシュケースの残骸が届いてるけど」
「時間になったら爆発する仕掛けだ。より焦げていたのは鞄の内側だよ。これはどういうことだかわかるかね?」
「ということは、アタッシュケースを最後に閉じた人物が私や桐谷を殺そうとしたってこと……?」
「巡査の司法解剖を行ったのは全く面識のない人物だ。解剖後、すぐに出国しているな。どうもエライ人物が圧力を
かけてハワイ在住の名誉教授を担ぎ出した形跡がある。すでに捏造データにすり替えられている可能性もあるな」
それでもなんとか証拠を探すために、今度は所長室を探ってみることにした。
「所長は帰ったけど、あの部屋には手強いやつが一匹いるでしょ?一か八かだけど、私に任せて」
所長秘書インターフェースの対応をシモーヌさんに任せ、私たちはなんとか所長室に潜入した。


所長室にはなぜか落葉巡査の司法解剖報告書があり、ダイヤル式の小函からは事件に使われたと思われる拳銃が見つかった。
『背後から銃弾を一発撃ち込まれ、即死状態であった。弾は旋条痕が識別できないほど変形。拳銃は現場にあった落
葉一郎巡査の所持品と確認。銃弾は2発発射されていた。また拳銃からは江波識子の指紋が検出されている。彼女は
同日夕刻より行動を共にしていた。死亡推定時刻は狙撃時刻とほぼ同時の午後7時と推測される。事件の瞬間を目撃
した人物は現時点では現れていない』
しかしそれらを見ているところで、部屋に戻ってきた所長に見つかってしまった。
「所長、どうしてアナタの部屋に落葉巡査殺しの証拠品が揃っているんですか!?所長が火刑法廷の黒幕なんですか?」
「軽々しくその名前は口にするな。あまりにも危険だ。今回おまえが巻き込まれたようにな」
「そろそろ全てを話してもいい頃なんじゃないの」
同時に現れたのは、なんと江波おばさまだった。
「岩原所長とは、1年前から極秘である事件を追っているのよ」
「1年前可菜川県内で起こった幼稚園児死傷事件のことは知っているだろう。あの犯人が保釈後に不可解な自殺を遂
げたことに関心をもち調べ始めた。だが調査をはじめてまもなく、事件の背後には恐ろしい組織が介在していること
を知った。敵はわれわれ捜査当局の内側にいる」
「そう。それもかなり上層部に。私たちは慎重な上にも慎重を重ね、捜査を進めてきたの」
「ということは、私がそれを全部ぶち壊したと?」
「一部はな。でも悪いことばかりじゃない。今回の件で敵も証拠を残した。おかげで、組織の全容はあらかた掴むこ
とができた。黒幕は剣崎検事だ。アタッシュケースに爆弾を仕掛けたのは最後にアタッシュケースを閉めた剣崎だ」
「待ってください!そうなると、爆弾は桐谷を殺害するためではなく最初から私を……?」
「この際だから、一つ謝っておきたいことがある。警察の内部情報に接続する時に若い女性になりすました」
「つまり、ずっと前から事件の情報を閲覧していた人物が剣崎検事の前に現れウロチョロしはじめたと?」
しかし、剣崎検事をいかにして逮捕するかは難題だった。
「まずおまえへの疑いをなんとか払拭したいな」
「でも、私には巡査を殺す動機はないし硝煙反応だって出ないはずです!」
「奴らはそれくらい捏造する。私は江波警視正と今後について話があるから、おまえはラボに戻って証拠を調べておけ」


「検視は大体終わったよ。さきほど所長からゴーサインが出て急遽、葬儀場に駆け付けたよ。もし銃を発射していたなら
掌から火薬残渣が見つかるはずだが、残念ながら検出されなかったな。頭部の銃創には火薬輪があったよ。死亡6時間以内に
食事はとっていなかったが、胃の中から未消化の植物の葉っぱが見つかった。胃に入って1時間程度のようだな。ただ気になるのは、再解剖のことを検察は把握してなかったようだな」
「これは蝿取り草の葉っぱだよ。それにしても、普通食べないよ」
未だ決定的な証拠に欠く私たちは、所長室に戻って思いきって所長に進言した。
「所長、剣崎検事の自宅を強制捜査できないでしょうか?」
「強制捜査ってアナタ、相手は検事なのよ!?」
「いや、悪くないかもしれない……どのみち、ここから先は一か八かの賭けの連続だ!」
私と江波おばさまは、常世区にある剣崎検事のマンションへと向かった。



96 :ゲーム好き名無しさん:2013/09/16(月) 12:57:18.41 ID:fBAKlW9j0
「昭和名画座通警官射殺事件に関して、証拠隠滅のおそれがあるため強制捜査を行わせていただきます」
「これだけのことをして何も証拠を見つけられなかったら、タダではすまさんぞ」
「江波、私は奥のリビングを調べる。オマエは玄関のあたりだが、その前に検事から話を聞いておけ」
現役の検事への尋問はかなり緊張したけど、なんとか心を落ち着け問いかけた。
「今晩の行動を教えていただけますか?」
「午後7時半、帝都ホテルに着いて警察本部長と会食だ……」
「7時半以前のことが知りたいんです!つまりアリバイはないということなのですね?」
「そ、そうだ……」
「あなたは落葉巡査をご存知ですか?」
「会ったこともないし面識もないね」
「あなたは銃を撃ったことがありますか?」
「あるわけないだろ!いい加減にしないか!」
<検事のマンションで葉っぱのちぎれた観葉植物・一枚だけ洗っていた洗濯物を入手>
「終わったようだな。江波くん。キミのこれからの人生は後悔の連続になるだろう」
「その言葉、そっくりアナタにお返しします」
しかしその場で決定的な証拠を見つけることはできず、私たちは肩を落として科研に帰った。
「江波、もう我々は後戻りできないところまで来た。立件可能な証拠が見つかれば我々の勝ちだ。ダメなら我々は終わる」


「えっ、これどこで手に入れたの?これだよ、さっき巡査の胃から見つかった植物の葉は!蝿取り草だよ」
「ダメだ。もし火薬残渣があったとしてもこの分析器の精度では無理だ。サマー9ならなんとかなるかもしれないな」
あとは、その大型放射光施設からの報せが希望だった。
「緊急メールが届きました。送信元は国立放射線研究所からです」
『結果[火薬残渣アリ]』
私たちはそれらの証拠を持って、既に剣崎検事が連行されている南東京警察署に向かった。


「あなたの部屋にあった蝿取り草の葉っぱの一部が落葉巡査の胃から発見されました。落葉巡査は嚼まずに飲み込ん
だので、ちょうど大きさも一致しています。落葉巡査は自分の死の可能性も予感していたから、あなたの部屋にいた
ことがわかるサインとして蝿取り草を咄嗟に口にいれたのです」
「そんな物証で公判を維持できると思っているのか?」
「これがあなたが犯罪に関与した動かぬ証拠です!検事の衣類から火薬残渣が検出されました。剣崎さん、アナタは
銃も撃ったことがない落葉巡査も知らないと言いましたね」
「さすが江波くん。感服した。そうだよ、君の指摘どおり私が落葉を処分した。我々は秘密結社だ。君に正体を明か
し勧誘も拒否された。処刑する、これ以上の理由があるというのかね?私はね、最初から君を殺すべきだと主張して
いたんだよ。ただ、落葉がチャンスを与えてほしいと懇願したのだ。自業自得だよ」
「剣崎検事、アナタには組織のことをすべて話していただきますよ」
「それはどうだろう……私の仲間がそんなことを許すかな?」
「危い!伏せて!」
その時一発の銃声が轟き、剣崎検事は倒れた。


ライフルの銃弾が取調室の小さな窓から侵入し検事の頭部を貫通。即死だった。
結局剣崎検事は事件について多くを語らぬままこの世を去り、書類の上では事件は終結した。でも本当に終わったのだろうか。
剣崎検事は今際の科白で『私の仲間』と言った。言葉通りの意味なら、組織は生き延びている……
火刑法廷はふたたび歴史の闇へと沈んでいったが、いつの日か恐怖と共に我々の前に姿を現すことだろう……
その時こそ、私は逃がさない。


それから私はあいもかわらず科研の一員として、信じられないような激務に耐えているのです。
これはこれでやり甲斐を感じていたりする今日このごろなのであります。
【File10・終】






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