脱出アドベンチャー 旧校舎の少女

脱出アドベンチャー 旧校舎の少女
part67-172~180



172 :脱出アドベンチャー 旧校舎の少女:2014/06/21(土) 15:36:20.54 ID:atpCchLv0
    未解決リストの3DS「脱出アドベンチャー 旧校舎の少女」
    まとめてみたので投下します
    要約が苦手なのでやや長いです



    【登場人物】
    ◆時野若留(ときの・わかる)
    主人公。時計屋の祖父と二人暮らしの高校一年生。分解と読書とオカルトが大好きな眼鏡っ娘。
    時計修理用の工具が収められた、超高性能腕時計「クロノテクト」を常に身に着けている。
    好奇心旺盛な性格で、ひとたび夢中になると周りが見えなくなる。
    入学して以来、校内のあちこちで囁かれる噂「学園七不思議」の謎を追うのに夢中。


    ◆鍛冶野彦道(かじの・ひこみち)
    若留の幼馴染で同級生。商店街のパチンコ屋の息子。
    超常現象の類は全く信じていないが、賭け事に関するジンクスは別腹。10面ダイスをいつも持ち歩いている。
    面倒くさがり屋の不良少年だが、暴走しがちな若留のストッパー役でもある。


    ◆須佐見秀ノ介(すさみ・しゅうのすけ)
    若留と彦道のクラスにやってきた転入生。眼鏡2号。
    落ち着いた雰囲気の少年だが、身体が弱いらしく授業も休みがち。
    若留が追う「学園七不思議」について独自に調べている。


    ◆千波鏡華(ちなみ・きょうか)
    若留のクラスメイト。黒髪ロング美少女。
    控えめな性格で、ちょっと道に迷いやすい迷子体質。
    鈴のついた髪留めを着けている。



    【用語】
    ◆クロノテクト
    若留が身に着けている腕時計。見た目は結構ごつい。
    内部にはルーペ、精密ドライバー、オープナーナイフが四次元ポケットの如く収納されている。


    ◆私立逢魔学園高校(しりつ・おうまがくえんこうこう)
    若留達が通う高校。なんと山の中にある。
    裏山の方へ行くと旧校舎がまだほとんど当時のまま残されている。
    今回の物語はこの旧校舎が舞台。


173 :脱出アドベンチャー 旧校舎の少女:2014/06/21(土) 15:38:13.80 ID:atpCchLv0
    ◆Chapter1・開錠 -The beginning-
    とある春の日の朝。ホームルームが始まる前の早い時間に、時野若留は学園七不思議のひとつ『開かずの間』の調査のた

    めに旧校舎の図書室へ足を運んでいた。
    図書室の奥まで行くと、噂通りドアノブも取っ手も無いドアに辿り着く。
    若留は好奇心のままに扉付近を探索し、ついに鍵を見つけて扉を開ける事に成功する。


    扉の奥は、カビ臭い書庫のような部屋だった。
    埃が積もり、じめっとした空気に思わず顔をしかめる。光源は高窓から差し込む日の光のみで、部屋の奥までは見渡せな

    い。
    辺りを観察している途中、若留は何かに気づいて顔を輝かせる。机の上に、古びたからくり時計が置いてあったのだ。
    オカルトと同様時計も大好きな若留は、嬉々として時計の観察を始めようとする。が、故障しているのか、ゼンマイを巻

    いても動かない。
    今度はこの場で時計を分解し始める若留。
    得意げに腕に巻いている時計「クロノテクト」から次々と工具を出し、あっという間に修理してしまう。
    組み立ててゼンマイを巻くと、からくりが動きだし、小窓がぱかっと開いた。
    中から出てきた物をつまみ出すと、模様が描かれた小さな箱のような物だと分かる。
    これは一体何だろうかと首をひねっていると、若留の耳に突如奇妙な音が聞こえた。
    低く唸るような、呼吸のような奇妙な音。か細い小さな音だったが、あまりの不気味さに思わず身震いする。


    ふと腕時計を見ると、もう8時を回っていた。
    このままではホームルームに間に合わなくなってしまう。急いで部屋から出ようとした若留だったが、先程通った扉はビ

    クともしない。
    閉じ込められてしまったのだ。
    血の気が引き、開かない扉から過去のトラウマが呼び起されそうになったところで、慌てて首を振る。
    「冷静になれ、私!まずは助けを呼んで……」
    しかし、携帯は何故か圏外。本校舎とは距離がある旧校舎、しかも図書室の奥という場所では、大声を出しても助けが来

    る可能性は低い。
    とにかく、今やれるだけの事はやらなければならない。気を取り直して部屋内の探索を始める。


    しばしの探索のあと、なんとか扉を開けることに成功した若留。
    ほっとして図書室から廊下へ出ると、誰かの気配と物音。
    突然の気配に思わず図書室を振り向く。老朽化のためか、棚から本が崩れ落ちているのが見えた。物音はこれだったのだ

    ろうか。
    と、その時廊下側から声をかけられる。
    そこにいたのはクラスメイトの千波鏡華だった。安堵する若留。
    「心臓飛び出るかと思ったよ」
    「それはこっちのセリフだよー」
    「千波も探検しに来てたの?それとも迷子?」
    などと会話しつつ、はっとして時計を見る。8時20分。このままだと遅刻だ。
    予鈴の音をバックに、慌てて旧校舎を飛び出す若留と千波。

    その背中をじっと見つめる人物がいた事に、若留は気づかなかった。


174 :脱出アドベンチャー 旧校舎の少女:2014/06/21(土) 15:40:46.01 ID:atpCchLv0
    メモ帳からコピペしたらチャプター1の改行おかしくなってしまった
    申し訳ない



    ◆Chapter2・怪談 -Upstairs-
    全力疾走の甲斐あって、なんとかホームルームに間に合った若留。
    席につくと、後ろの席から声をかけられる。若留の幼馴染、鍛冶野彦道だ。
    傍から見ればリア充爆発しろとでも言いたくなるようなやり取りの後、チャイムの音が鳴り、ホームルームが始まる。
    担任が出欠を取る中、教室後方の扉が開き、須佐見秀ノ介が入ってきた。
    遅刻してきた生徒に口を開きかけた教師だったが、それが須佐見だと分かると言葉を濁す。
    須佐見は持病の療養のために都会からこちらへ越してきている。
    そのため遅刻や早退の許可を取ってあるのだが、それ以前に理事長の孫という事もあり、教師側も強く出られない。
    そんな事は全く気にせず、須佐見と仲良くしたい若留。反対に彦道は、そんな転校生が気に食わない様子だ。


    ホームルームが終わり、若留は彦道に朝の出来事を話すが、テンションの高い若留に反して彦道は「立入禁止だろ」と呆れる。
    普段は校則も守らない彦道だが、若留に対してはやけにうるさくなるのだ。
    そんな彦道とは対照的に、須佐見はいつも物腰柔らかで優しい。
    『開かずの間』の情報をくれたのも元は須佐見だったのだ。若留はお礼を言い、千波と一緒になって須佐見の情報収集能力を褒める。
    元々、この町には昔から都市伝説等の伝承が異常な程多い。
    学園の理事長の息子とあってか、須佐見は最近越してきたばかりにも関わらず、学園にまつわる怪談や噂を熟知している。
    だからこそ若留は、『開かずの間』で聞いた妙な音について、須佐見に相談する事にした。
    その話に思い当たる事があるのか、須佐見は黒い手帳を取り出し、それは七不思議の一つ『不気味な音』だろうと推察を述べる。
    須佐見が言うには、この学園の七不思議は
    ・聞く者を冥界へ誘う『不気味な音』
    ・図書室の『開かずの間』
    ・存在しないはずの『幻の四階』
    ・気づくと一人増えている『6人の壁画』
    ・永遠に彷徨い続けている『旧校舎の少女』
    この5つを基本に、残り2つは話によってよく入れ替わっているという。
    「もしかしたらその壁画、見たことあるかも。前に迷った時に」と呟く千波。
    『開かずの間』だけでなく、『幻の四階』や『6人の壁画』も実在するかもしれない。千波の言葉に、俄然テンションが上がる若留。
    その時ふいに、若留は今朝手に入れた小さな箱の存在を思い出した。もしかしたら開けられるかもしれない。
    箱に描かれた謎を解くと、からくりでも仕込んであったのか、中から小さなフクロウの形をした駒が出てきた。
    須佐見はそれを見て、家の書斎の本に似た物を見たと言う。若留は駒と箱を須佐見に預け、調べてもらうように頼む。
    須佐見は箱を受け取り、持っていた黒い手帳を閉じる。その時、手帳から一枚の写真が落ちた。
    半分に折れた写真に、中学生くらいの女の子が写っている。
    「須佐見君、これ落としたよ」
    突如、まるで見られたくなかったかのように反射的にそれを奪い返す須佐見。
    よほど大切な人の写真らしい。須佐見もはっとして謝ると、写真を手帳にしっかりと挟んだ。


    放課後、若留は自宅の時計店に帰宅。カウンター横の椅子に座り、しばし店内の時計の音に耳を傾ける。
    両親が事故で亡くなり、祖父に引き取られてから十年。それ以来ずっと若留は時計に囲まれて暮らしている。分解もその頃から大好きだった。
    祖父と学校の事などを話しながら、若留は今日の出来事を思い出す。
    須佐見が教えてくれた七不思議が気になる。旧校舎は三階建だ。『幻の四階』は本当にあるのだろうか。
    それに、あの『開かずの間』に入った時、若留は違和感を感じていた。高窓から差し込むわずかな日光や、空気の感じ。
    だがその日は結局違和感の正体に気づけなかった。


175 :脱出アドベンチャー 旧校舎の少女:2014/06/21(土) 15:42:45.99 ID:atpCchLv0
    その翌日。休日だが、若留は制服を着て再びあの旧校舎を訪れていた。結局気になって、また探索するつもりだった。
    電気のスイッチや蛇口を触ると、何故か電気は通っているし、きれいな水が出るのも確認できた。
    旧校舎は幾度にも渡って継ぎはぎのように改築を繰り返しているらしいが、一階はあまり改築されていないのか老朽化が激しい。
    床を踏み抜かないように慎重に進もうと決意した時、低く唸る音が耳に届く。七不思議のひとつ『不気味な音』だ。
    不快としか言いようのない不協和音に、若留の歩みが遅くなる。
    その時、突然若留の肩に誰かの手が乗せられた。
    驚いた拍子に床を踏み抜いてしまい、足を取られそうになったところで引き寄せられ、なんとか事なきを得る。
    手の主は彦道だった。若留の祖父から、制服で出かけたと聞いて旧校舎だろうと踏んで来てくれたのだ。
    おまけに千波まで着いてきている。
    色々うるさく言われて止められると思ったが、どうやら彦道は若留の探索に協力してくれるらしい。
    若留が、自分の手帳に校舎内の見取り図を描いていき、ひとまず二階を探索してみようと階段へ向かおうとした矢先。
    木の軋むような――明らかに床を踏みしめる小さな音が聞こえる。
    「私達以外にも誰かいる!」
    正体を突き止めようと、若留は咄嗟に階段を駆け上る。人影が見えた。きっと、図書室で感じた人の気配とはあの人だろう。
    階段を駆け上ると、二階に辿り着いた瞬間廊下の先で防火シャッターが下りた。
    追い付いてきた彦道と千波に人影の事を話す若留。正体を確かめるためにも、周囲を探索して防火シャッターを開ける。
    シャッターの向こう側には、廊下を曲がった先に鉄の壁があって進めなくなっている。
    こんなに重い扉が閉じるような音は無かったし、他に道は無い。ここまでは一本道で、教室にも誰もいなかった。
    仕方なく二階の見取り図を書き出す。ここは一階と比べると近代風の造りになっていて、床もしっかりしている。
    人影に関してはひとまず置いておいて、三階へ向かう。


    『幻の四階』の手がかりがないかと三階を捜索する若留だったが、いくら探しても上への階段など見つからない。
    若留と千波が教室をくまなく探索するなか、彦道は手伝うわけでもなくただついてくるだけだ。
    若留は気分を変えるために階段に座り込み、見取り図を見直す。すると突然、彦道が若留を呼んで廊下に連れ出す。
    いぶかしがる若留を後目に、彦道はポケットからパチンコ玉を取り出すと床に置いた。みるみるうちに加速し、廊下の端まで勢いよく転がっていく。
    どうやらこの校舎は一見同じ高さのように見えて、端と端でかなりズレがある構造になっているようだ。
    ということは、上の階も存在しているはずだ。探索を続けていくうちに、ついに若留達は隠し階段を見つけた。
    図書室で感じた光や空気の違和感は、図書室自体が半分地下にあったからだった。
    隠し階段を上ると、七不思議通りの『幻の四階』と呼べるフロアがあった。
    辺りを見渡すと、若留はそこに壁画を見つける。しかし七不思議通りの『6人』ではなく、5人しかいない壁画だった。
    ひとまず壁画は置いておいて、その横にある扉を開ける。
    扉の先はただの屋上だった。いつの間にかすっかり空は赤くなっている。遅くならない内に引き上げようと彦道が提案した時。
    背後で扉の閉まる音がした。慌てて開けようにも、しっかりと鍵まで閉められてしまっている。
    若留達はどうにか中に戻ろうと、屋上を探索する。
    探索の途中、ボイラー室で若留が不用意にスイッチを触ってしまい、壊れたボイラーの騒音が鳴りだす。
    止めるためには暗証番号が必要らしい。慌てる若留や千波とは反対に、彦道は冷静に10面ダイスを取り出し、振った。
    そしてその出目を入力すると――あっさりと機械の騒音は止まる。
    「運も実力のうちってやつだな」と涼しい顔の彦道に、「あんたのサイコロの方がよっぽど非科学的じゃないの」と突っ込む若留。
    その後色々と探索をし、無事に非難口から校舎内に戻る事が出来た。
    先程の場所まで戻ってくると、壁画がいつのまにか5人から6人に増えている。
    はしゃいでいる若留に、扉を閉めた奴がまだいるかもしれないと警告する彦道。
    だが時は既に遅かった。気体の吹き出すような音の後、鼻をつく匂いがする。急な吐き気と息苦しさに襲われ、若留達は倒れてしまう。
    遠くなる意識の中、若留は誰かに見下ろされているのを感じ――そのまま気を失った。


176 :脱出アドベンチャー 旧校舎の少女:2014/06/21(土) 15:46:08.37 ID:atpCchLv0
    ◆Chapter3・記憶 -Reminiscence-
    雨が降り注ぐ中、小さな女の子が泣いていた。両親を呼びながら、膝を抱えて泣き続けている。
    今にも消えてしまいそうな儚ささえ感じる少女の姿に、少年はどうすることもできない。
    ただ、あの子の涙を止めたいがために、傘を投げだし、走り出す。


    気が付くと、彦道は見知らぬ部屋にいた。
    五感が戻ってきて、最初に感じたのは吐き気と異様な寒さ。頭も重く、息をするのもやっとだ。
    それから自分の置かれた状況を確認し、絶句した。右足が結束バンドのような物で縛られ、配管に固定されている。
    拘束具も配管も頑丈で、どんなに動かしても取れそうにない。
    そこで、若留が近くにいない事にようやく気が付いた。一体どれ程の時間気を失っていたのか。若留は無事なのか。
    とにかく何とかしてこの部屋から出なければならない。若留と出会った時の事を思い出して、彦道は逆に冷静さを取り戻す。
    手の届く範囲で部屋内を探索し、時にはダイスと自分の強運に頼りながらも、なんとか拘束を解く事に成功する。


    一方、若留の方も意識を取り戻す。見知らぬ部屋は荒れていて、窓には板が打ちつけられ、外の様子は分からない。
    ガスの影響で体調も悪い。錯乱し、取り乱す若留。
    両親が亡くなって一人ぼっちになった頃と同じくらいの不安感。ガスの後遺症もあってか、再度意識を失う。


    夢の中。真っ暗な闇の中、若留は一人で泣いていた。
    孤独と不安に押しつぶされて泣いていると、そこに光が差し込む。
    誰かに名前を呼ばれる。この声は――


    彦道の声で、若留は目を覚ました。
    合流できた事でやっと若留は冷静さを取り戻し、部屋の探索を始める。
    電子ロックで閉じられている扉を分解し、なんとか部屋を脱出した二人は、別の場所にいたらしい千波とも合流する。
    窓の外を見ると、すっかり日が落ちてしまっていた。
    彦道に指摘され、ここが旧校舎の二階だと気付く若留。見取り図を見ながら位置を確認している若留を後目に、彦道は階段へ向かう。
    どうやらこんな目に会わせた人間に怒りを抱いているようだ。どんどん先に進んでいく。
    隠し階段を上って再び四階へ行くと、例の壁画が再び5人になっていた。
    パズルのように石版をスライドさせ、5人の人物像を6人に見えるように動かすと、壁画が動き出した。
    古い校舎には似つかわしくない機械の仕掛けに、若留は呆気に取られる。
    その扉の向こうから、聞き覚えのある声が聞こえ、若留は固まった。
    呆然とする若留をかばうようにして、彦道が警戒心も顕に彼の名を呼ぶ。
    「やっぱりお前だったんだな――須佐見」
    そこにいたのは、冷たい目をした若留達のクラスメイトだった。


177 :脱出アドベンチャー 旧校舎の少女:2014/06/21(土) 15:47:46.21 ID:atpCchLv0
    ◆Chapter4・真相 -Deep level-
    「なんだ、気づいてたんだ。鍛冶野君も人が悪いな」
    余裕のある笑みで機械扉から出てくる須佐見。対する彦道は冷静だ。
    人影の正体には、意識を失う直前に気づいたのだと言う。須佐見は鬱陶しそうに彦道を睨みつける。
    その様子を見た若留は、あの穏やかなクラスメイトがこんなに冷たい態度を取っている事がまだ信じられずにいた。
    「須佐見君も七不思議の事調べに来たんでしょう?」
    わずかな希望にすがって質問するが、あっけなく否定される。
    『開かずの間』から入手したフクロウの駒は、ここのマスターキーだと言う須佐見。
    これが欲しくて、最初から若留を利用していたのだ。もちろん、持病でこちらに越してきたというのも嘘だった。
    これ以上ついて来られるのも面倒だと、再びあのガスを撒こうとする須佐見。が、彦道は瞬時にその意図を見抜き、須佐見を蹴り飛ばした。更に数回殴る。須佐見自身が「成分もよく分かっていない」らしいガスを撒いて、一歩間違えたら死んでいたかもしれない。
    心の底から須佐見を友人だと思っていた若留にそんな仕打ちをした事を、彦道は怒っているのだ。
    争いの最中、見覚えのある写真が若留の足元に落ちる。
    「それに触るな!」
    怒りを顕にする須佐見。写真に映る少女は、どことなく須佐見と似ている。妹だろうか。
    「もしかして、この子のためにこんな事を?」
    問いかけると、図星だったらしい。須佐見は黙ってしまった。
    大切な人のために何かしたいという思いはよく分かる。だから、こんな事はもうやめよう、と諭す若留。


    幼い頃、大切な人――両親を目の前にして、何も出来なかった過去を思い出す。
    歪んだ車のドアの向こうで、血まみれの両親が若留に逃げるようにと叫んでいる。
    何をしても開かない扉は幼い若留にはどうしようもなくて、助けを呼ぼうと遠くまで走って、その後爆発音を聞いた。
    長い間その過去を引きずっていたが、祖父や彦道に救われて気づいた。
    「誰かを助けるために、誰かを犠牲にするのは間違っている」
    道具のように利用された事実は勿論覆せないが、それでも教室で楽しそうに話していた表情が全部嘘だったなんて認めない、と若留は強い口調で言い切る。
    こんな自分を許すつもりなのかと嘲笑う須佐見に、若留は笑顔を浮かべる。
    「私は須佐見君のした事を許さないよ。須佐見君…ううん、秀ノ介君。これからも、私達は対等な友達だよ。友達だから、本気で怒ってるんだよ」
    若留のまっすぐな言葉に、須佐見は写真の人物と若留を重ね合わせたようだった。


    喧嘩も収まったところで、若留は須佐見の目的を聞き出す。
    乗りかかった船とばかりに、須佐見の目的を手伝うつもりのようだ。理由を聞かれ、「その方が面白そうだから」と笑顔で答える若留に、二人は呆気にとられるしかない。
    かくして、この場にいる全員で壁画の奥の小部屋――エレベーターへと向かうのだった。


    地下に向かうエレベーターの中で、ここに来た目的を話しはじめる須佐見。
    祖父の書斎で見つけたノートに、この町や学園について書き記されていた。
    人口や歴史、言い伝えの数々。伝説を元に、この地で幾度も行われた様々な実験について。
    もしこのノートに書かれている事が事実ならば、大切な人を助けられるかもしれない。
    その話を聞いたあたりで、エレベーターが止まる。扉が開き、異様な物が目に入る。
    大きく書かれた「4」の文字。そして頑丈で重厚な鉄の扉。
    扉の向こうから聞こえてくる、七不思議の『不気味な音』
    扉にはパズルや暗号が3つ仕掛けられている。皆で知恵を寄せ合いながら、暗号を解いていく。
    全ての仕掛けを解き、ようやく扉が開いた。


178 :脱出アドベンチャー 旧校舎の少女:2014/06/21(土) 15:49:05.75 ID:atpCchLv0
    中には怪しげな実験器具や機械類、書類が散乱していて、奥には「繭」と書かれた巨大な卵のような白い機械が鎮座している。
    触れてみると、まだその機械は動いているようでわずかに熱を帯びており、奇妙な音を発している。
    七不思議の『不気味な音』の正体は、この機械が発生源だったらしい。
    須佐見が傍のレバーを動かしてみるが、全く反応はない。これが須佐見の探している物かどうかも良く分からないらしく、ひとまず一行は部屋を探索する事に。
    振り向いて入口の方を見ると、壁の一角に赤い字で「たすけて」といくつも殴り書きされている。
    その足元には随分古びた学生鞄が落ちていた。若留達の学校の鞄だ。
    中には可愛い日記帳が入っている。序盤は入学したばかりの女生徒の前向きな日記になっているが、後半からはこの部屋に迷い込んでしまったという記述になっている。
    最後には「もっとみんなと遊びたかった」「たすけて」と締めくくられている。
    これが七不思議の『旧校舎の少女』の噂の元になった生徒なのだろう。


    落ちている研究レポートは、研究員による日誌のような形で遺されている。
    ・『繭』はあらゆる病を治す可能性のある機械である
    ・初めての動物実験に黒猫を使おうとしたが機械の数値が不安定になり、実験が一時中止となった
    ・実験の被検体は「どこにでもいるし、どこにもいない」存在になって今も彷徨い続けている。
    ・上位次元というものがあるとするならば、その存在を知覚できるかもしれない。
    その後、上層部と連絡がつかなくなり、計画は凍結。
    「第四区画」と呼ばれるこの研究所が封印される事になったようだ。


    探索を進めて、ついに若留達は『繭』を開けて中を覗く。
    しかし中は空っぽ。『不気味な音』も止まり、『繭』は完全に停止していた。
    どうやらこれは須佐見の探していた物では無かったらしい。
    無駄足だったようで、がっかりする一行。そろそろ本格的に帰らなければならない頃合いだろう。
    引き返そうとしたが、扉が完全に閉まっていて、出られなくなってしまっていた。


    何を試してもビクともしない扉を前に、みんな疲労していた。だが、諦めるわけにはいかない。
    若留は少女の日記の存在を思い出し、ページを捲った。
    迷い込んだ女の子は、この部屋のどこにもいない。だったら、きっとどこかから抜け出したのだ。
    よく耳を澄ませると、わずかに聞こえる水の音。そこで若留は思い出す。
    図書室のじめじめした空気。蛇口をひねるときれいな水が出てきた事から、旧校舎の下には地下水が流れていて、この研究所はそこから水を引いているのではないかと推理する。
    もしかしたら地下水路があって、そこから出られるかもしれない。
    再び部屋をくまなく探索し、マンホールを見つける一行。地下水路へと抜け、暗く長い水路をひたすらに歩く。
    出てきた先は、あの『開かずの間』だった。外へと飛び出し、朝日を浴びながら一行は脱力してその場に仰向けになる。
    あの不思議な場所から、生きて脱出できた解放感を噛みしめながら。


179 :脱出アドベンチャー 旧校舎の少女:2014/06/21(土) 15:54:51.98 ID:atpCchLv0
    ◆ED後
    月曜日の放課後。掃除当番の若留は、「おじいちゃんにげんこつもらった」と千波にしょんぼりとしながら報告していた。
    あの事件以来、彦道は須佐見をあだ名で呼び始め、須佐見の方も彦道を呼び捨てにしている。
    少しずつではあるが、若留も含めた三人の関係はいい方向に変化しつつある。
    しかし若留は、七不思議の噂についてどうしても納得できない点があった。
    七不思議のほとんどが説明のつく物であったが、『旧校舎の少女』だけは行方が分からないままだ。
    何故あんな場所に少女は迷い込んだのか。その後脱出できたのか。
    「千波はどう思う?」
    「わかんない。でもきっと、どこかで笑ってるんじゃないかな」
    千波の言葉を受けながら教室の窓から外を眺めていると、廊下から声が聞こえてくる。ゴミ捨てに行っていた男子二人が帰って来たらしい。
    若留は二人に駆け寄り、他愛も無い談笑をしながら帰り支度を始める。


    教室を出る際、少しの間ぼんやりする若留。が、彦道に呼ばれ、すぐに我に返って後を追う。須佐見は若留に尋ねる。
    「他に誰かいたのかい?」
    「ううん、なにか忘れ物ないかと思って」
    教室には若留以外誰もいなかったはずだ。何か本当に忘れたような気がした、と言えば、案外抜けているところがあるからと二人にからかわれる。
    夕焼けの中、あの事件以来互いが大切な友人となった三人は、仲良く並んで帰路についたのだった。



    【まとめ】
    好奇心旺盛で機械の分解が大好きな少女・若留は、転入生の須佐見に聞いた情報を元に学園の七不思議の謎を追いかける
    。
    幼馴染の彦道と共に協力しながら旧校舎を探索するが、旧校舎に隠された研究室が目的だった須佐見に何度か妨害を受ける。
    最終的には須佐見とも和解し、共に地下の研究室を探る。が、須佐見の目的の物では無かったらしく、無駄足に終わる。
    そこで閉じ込められるというアクシデントはあったものの、なんとか無事に脱出して、三人は友情を深めたのだった。


    もう一人女の子がいたって? 最初からこの三人しかいませんでしたよ?
    嘘だと思うならバックログで会話を確認してみるといいよ


180 :脱出アドベンチャー 旧校舎の少女:2014/06/21(土) 15:55:58.65 ID:atpCchLv0
    以上で終わりです
    研究所の謎については今回だけでは全貌は分かりません
    現在シリーズは4つ出ていますが、恐らく次で全て明かされるかな?という感じです


    普通の現代ミステリーかと思いきや、謎の組織や不思議な力が存在していたりして、全体的にだいぶオカルト寄り
    ジュブナイルとか90年代の少女小説っぽい雰囲気が好きならオススメ
 

最終更新:2014年07月01日 21:13