339 : かまいたちの夜輪廻彩声 ◆l1l6Ur354A 2017/03/15(水) 21:08:07.42 ID:8bpq2F6i0
リクエストなしで新作ネタ垂れ流すのもどうかなと思って専スレで詳細希望してた人誘導させてもらいました。
というわけで「かまいたちの夜輪廻彩声(PSVita移植版)」の追加シナリオ「辺獄の真理編」投下。
物語の導入はオリジナルの「かまいたちの夜」のページも見てもらうとして、追加シナリオは

  • 2周目以降、スキー場から「シュプール」に到着後の選択肢で、追加で現れる「疲れたので今日はもう寝ることにした」という選択肢を択ぶ

という条件で見ることができる。ちなみに選択肢はあるが、物語への影響は一切ないので実質的に一本道。

340 : かまいたちの夜輪廻彩声 ◆l1l6Ur354A 2017/03/15(水) 21:10:41.85 ID:8bpq2F6i0
朝、『透』は「シュプール」の客室でぼんやりと目覚めた。
起こしに来た真理の声で起き上がった『透』は、自分が記憶を失っていることに気付く。
記憶を失くしたことを言い出せず、真理に連れられ1階の食堂へと降りた『透』は、
建物や窓の外の様子などからここが雪深い場所の宿泊施設であること、自分がガールフレンドの真理と一緒にスキーに来たことを察するが、記憶は戻らない。
アルバイトらしい俊夫とみどり、宿泊客の女性3人組と香山夫婦、オーナー夫妻と挨拶を交わした『透』は、
真理からドリンクバーの飲み物を取ってくるように頼まれる。
何やら大げさな励ましの言葉をかけてくる周囲の人々の様子にプレッシャーを感じつつ、真理の好きそうな飲み物を選んで席に戻った『透』だが、
彼が運んできた飲み物を見た真理は恐ろしいほど冷たい顔になり、呟いた。
「この人は、透じゃない」
席を立った真理は、「叔父さん、よろしく」とだけ告げてその場を去っていく。
その後を追おうとした『透』の腕を、痛ましげな表情をしたオーナーと俊夫が掴んだ。
そのまま俊夫とオーナー、そして香山に引きずられるように地下室へと連行された『透』は、
そこで異様な血の海と壁に繋がれた手枷足枷、不気味な魔法陣のような模様を目撃する。
オーナーと香山に押さえつけられ、手枷と足枷を嵌められた『透』の頭に、俊夫が手にしたチェーンソーが振り下ろされた……

真理に連れられ1階の食堂へと降りた『透』は、真理からドリンクバーの飲み物を取ってくるように頼まれる。
何やら祈るような、大げさな励ましの言葉をかけてくる周囲の人々の様子にプレッシャーを感じつつ、真理の好きそうな飲み物を選んで席に戻った『透』だが、
彼が運んできた飲み物を見た真理は恐ろしいほど冷たい顔になり、呟いた。
「この人は、透じゃない」
席を立った真理は、「叔父さん、よろしく」とだけ告げてその場を去ろうとする。
後を追おうとする『透』に、真理は「叔父さんの手伝いをして」と頼み、『透』はオーナーと俊夫に促され地下室への階段を下っていく。
やがて響いてきた悲鳴に、食堂に残された者たちは悲痛な表情で耳を塞ぐ…

341 : かまいたちの夜輪廻彩声 ◆l1l6Ur354A 2017/03/15(水) 21:29:35.04 ID:8bpq2F6i0
真理に連れられ1階の食堂へと降りた『透』は、真理からドリンクバーの飲み物を取ってくるように頼まれる。
しかし、記憶のないこの状況に対する不安が苛立ちへと変わった『透』は感情を爆発させ、「そもそも俺は本当に『透』なのか」と口走る。
次の瞬間、後頭部に衝撃を受け、『透』の意識は途切れた。


床に崩れ落ちた『透』の後ろに、血塗れの金槌を手にした俊夫が立っている。
女性たちが悲鳴を上げる中、「掃除が大変じゃない」と不満そうに口にする真理に、俊夫は「こうしてやる方が慈悲だろう」と言い返す。
『透』の身体を担いで地下室への扉に向かった俊夫だが、「どうしてそんなに冷酷になれるの」と食って掛かるみどりと「帰りたい」と泣き始めた可奈子の様子に、
「俺が好きでやってると思うか!?」と声を荒げる。
今日子はそんな俊夫を制止し、「あなたが一番傷付いているのに、辛い役ばかりでごめんね」と告げ、みどりも俊夫を責めないようにと宥める。
俊夫たちの嗚咽が響く食堂の様子を見て、小林は「今回は私がやるから休んでいなさい」と俊夫に告げ、『透』を地下室へと引き摺って行った。


真理に連れられ1階の食堂へと降りた『透』は、真理からドリンクバーの飲み物を取ってくるように頼まれる。
飲み物を前に悩んでいる『透』の後ろで、可奈子と啓子は「今度こそ…」と祈り、亜希は「あんな変なの、思い付くわけない」と諦めたように呟くのだった。
そして、真理は飲み物を手に戻ってきた『透』に宣告する。
「この人は、透じゃない」
俊夫が手にした金槌が、『透』の頭に振り下ろされた。

342 : かまいたちの夜輪廻彩声 ◆l1l6Ur354A 2017/03/15(水) 21:31:21.22 ID:8bpq2F6i0
真理に連れられ1階の食堂へと降りた『透』は、真理からドリンクバーの飲み物を取ってくるように頼まれる。
真理の好きそうな飲み物を選んで席に戻った『透』だが、彼が運んできた飲み物を見た真理は「この人も透じゃない」と呟き、泣き出した。
背後に気配を感じて振り返った『透』の眉間に、俊夫が手にした金槌が振り下ろされた。


朝、食堂の清掃をしていた小林は、「ここで派手にやられるとテーブルクロスに染みができちゃうよ」と力ない笑みを零す。
「気丈に振る舞ってくれてありがとう」と感謝の言葉をかける今日子に、小林は目元を赤くして「真理ちゃんがあんな風になったのは私のせいだ」と呟いた。
そこへ、いつの間にかやってきた俊夫とみどりも加わった。
このまま真理に付き合っていたら自分たちの頭がどうにかなってしまうとぼやく俊夫に、
みどりは「私だって、俊夫さんだけがいなくなったら同じことをしたかもしれない。あなたもそうでしょう?」と問い掛け、今日子は「あの子の気持ちも分かるのよ」と言う。
その言葉に俊夫は複雑な表情を浮かべながらも、「こんなことがいつまで続くんだ。心だって死ぬんだぜ!?」と嘆く。

そこへ、香山夫妻とOL三人組がやってきて、地下室に籠っている真理以外の全員が食堂に集まった。
香山は春子から切り出された話として、彼女を騙すようなことになっても構わないから、透と過ごしたいという彼女の願いが次こそ叶うようにしようと切り出す。

先に香山から話を聞かされていたOL三人組は、「どうせ全員の協力がなければ真理の願いは叶わないのだから、万が一嘘がバレてもこれ以上事態が悪化することはない」としてその計画に乗ると告げる。前

悩んだ末に小林たちが賛成の意を示した直後、地下室から「透が来た」と真理が上がってきた。
幾度期待を裏切られても、「今度こそ本物の透かもしれない」とはしゃぐその瞳は、恋する乙女のままだった……。

343 : かまいたちの夜輪廻彩声 ◆l1l6Ur354A 2017/03/15(水) 21:53:28.20 ID:8bpq2F6i0
朝、「透」は「シュプール」の客室で誰かに肩を揺すられて目覚めた。
ベッドの傍らには、真理以外の「シュプール」の人々が勢揃いしている。
目覚めていきなり見覚えのない人々に囲まれていたことや、記憶が辿れないことに驚く「透」に、
「シュプール」の人々は簡単な自己紹介を行い、事情を説明し始めた。

ここが信州の山奥にある「シュプール」というペンションで、
自分たちはオーナー夫妻とアルバイトの従業員、宿泊客たちであること。
「透」がスキー中に事故に遭い、しばらく意識を失っていたこと。
少し前におぼろげに意識を取り戻し、その際に全ての記憶が抜け落ちていることが判明したことで、
一緒にスキー旅行にやってきたガールフレンドの真理が精神的ショックで塞ぎ込んでいること。
戸惑う「透」に、「シュプール」の人々は「記憶を失う前の透のことについて教えるので、
真理のショックを和らげるためにも、記憶が戻りかけているフリをして欲しい」と持ちかけた。
一緒に泊りがけの旅行に来るほど親密な女性を哀しませていることが心苦しくなった「透」は、
その申し出を受け入れ、記憶が戻ったフリをすることに決める。

「シュプール」の人々がこっそり各自の持ち場に戻った後、
起こしに来た真理に対して今起きたように装った「透」は彼女の名前を呼んで見せ、
涙を零す真理にうっすらと記憶が戻っていることを告げた。

344 : かまいたちの夜輪廻彩声 ◆l1l6Ur354A 2017/03/15(水) 22:07:12.77 ID:8bpq2F6i0
1階の食堂へと降りた『透』は、真理のためにドリンクバーの飲み物を取ってくると申し出る。
一瞬不安そうな表情を見せた真理に、透はカップに入れた飲み物を差し出し、一言尋ねた。

「なんの紅茶か当ててみて」

カップの中身は、ドリンクバーに用意された3種類の紅茶を混ぜたもの。
真理に当てるのが困難な銘柄当てを持ち掛けてからかうという、透の悪戯心の産物だ。
真理は、再び涙を零しながら、幸せそうな笑みを浮かべた。

345 : かまいたちの夜輪廻彩声 ◆l1l6Ur354A 2017/03/15(水) 22:09:47.31 ID:8bpq2F6i0
朝食の後、「透」は真理とスキー場に出かけることになる。
もちろん、ボロを出さないためにOL3人組や香山夫妻も一緒だ。
真理と一緒に香山の車に乗せてもらってスキー場にやってきた「透」は、
啓子と一緒に雪だるまになりながら新雪を楽しんだ。
二人きりでないことを残念がっていた真理も、
可奈子と一緒に思う存分上級者コースを滑れて楽しい時間を過ごせたようだ。

帰りの車の中、疲れたのか眠ってしまった真理の姿を横目に、
「透」は前に座る香山夫妻に疑問をぶつけてみた。
「僕たちは、いつから『シュプール』にいるんですか?」
「僕は事故に遭ってから、どれくらい眠っていたんですか?」
大学生の旅行ならばせいぜい数泊だろうが、真理の言動には、
まるで数年ぶりに愛する人と再会できたような重みがあった。
けれど、もしそんな重度の昏睡に陥る程の事故だったなら、とっくに病院に運ばれているはずだ。

香山夫妻の曖昧な返答に違和感を覚えたままの「透」だったが、
肩にもたれかかってきた真理の横顔を見て、
彼女と過ごした今日の時間に嘘はないと思い直す。

そういえば、こんな時に見える彼女のうなじが好きだったっけ……

ふとそう思った「透」はそこに何か違う違和感を感じるが、
「シュプール」に到着したことでその違和感を一旦頭の隅に押しやった。

346 : かまいたちの夜輪廻彩声 ◆l1l6Ur354A 2017/03/15(水) 22:14:20.88 ID:8bpq2F6i0
真理と仲睦まじい様子で「シュプール」の中に入っていく「透」の背中を見ながら、
香山と春子は苦い表情を見せた。
「記憶が戻るのも時間の問題やな」
「……多分、もう戻ってる。全てを話して協力してもらうべきだわ」
「理解できるわけ、あらへん」
「理解できなくても納得してもらわないと。彼だって、もう逃れることなんてできないんだから」

348 : ゲーム好き名無しさん 2017/03/15(水) 22:41:24.40 ID:pppyfesB0

これ竜ちゃんがシナリオやったんだっけか

352 : かまいたちの夜輪廻彩声 ◆l1l6Ur354A 2017/03/16(木) 13:53:57.25 ID:/Y5te/NG0
「シュプール」に戻った「透」は、夕食まで仮眠を取ると言って部屋に戻った真理と別れ、
談話室にやってきた。
暖炉の前で寛ぎながら、考えを纏める。
やがて、談話室には真理以外の全員が集まった。彼らも、潮時を察したようだった。
「透」は、小林に静かに問い掛けた。
「僕の役目は、いつまでなんですか」
その言葉に、全員が誤魔化しが通じないことを確信した様子だった。
「記憶が戻ったの?」という可奈子の問いに、透は頷く。
「帰りの車の中で、ぼんやりと……車の中で肩を寄せ合っていて気付いたんです。
僕の彼女は、長い髪が苦手で伸ばしてくれませんでしたから」

何度か髪を伸ばすよう頼んでみたこともあったが、
「透」は肩を寄せ合った際にちらりと見える彼女のうなじも好きだった。
そのことを思い出して、気付いたのだ。
長い髪を下ろしている真理では、うなじを見ることはできない。

それを聞いた俊夫は、苦々しい表情で「恋人のこと、忘れるわけないもんな」と呟いた。
「これ以上透君と呼び続けるのも申し訳ないわ。あなたの本当の名前はなんと言うの?」
おずおずとそう切り出した今日子に、「透」は答えた。

「僕の名前も、『透』……国立『透』です。
実は僕の彼女の名前も、『真理』なんです。西川『真理』」

それを聞いて全員が驚き、そしてやがて納得した様子になった。
今までの『透』たちは、大抵名前に対する違和感から本来の記憶が蘇り、
真理の望む行動から外れていった。
だが、彼の場合は違う。
「透」と呼ばれることも、ガールフレンドを「真理」と呼ぶことも、
彼にとっては自然なことだったのだ。

353 : かまいたちの夜輪廻彩声 ◆l1l6Ur354A 2017/03/16(木) 13:56:19.99 ID:/Y5te/NG0
「真理ちゃんには、本当の記憶が戻ったことを伝えたのかい」という小林の問いに、
「透」は首を横に振った。
「言わない方が、いいのでしょう?」
「ああ、それが賢明だ。君が今日一日を台無しにするようなことをしたら……
俺はまた、君を殺さなきゃいけなかった」
俊夫の口から零れた言葉は、「透」の頭の中に浮かんだ想像……
推理とも呼べない突拍子もない考えを、裏付けるものだった。
「透」はその想像が合っているかを確かめるために、自分の考えを口にした。

透という名前だった真理のボーイフレンドが、事故で亡くなっていること。
悲しむ真理に透との再会という奇跡を与えるために、
「シュプール」の人々が似た男性を攫って記憶喪失にさせ、透に仕立て上げていること。
透として不適格な行動を取った男性が、始末されていること。

人を能動的に記憶喪失にさせる未知の手段Xなんてものが実在するかは分からないし、
彼らの行動はあまりに非現実的に思えたが、
彼らの反応を見れば、大きく外れていないことは確信できた。

「どうしても分からないのが、皆さんがどうしてそこまでして
真理の願いを叶えようとしているのかでした。
そこで、一つ仮説を立ててみたんです。
真理が、何らかの手段で皆さんの生殺与奪の権利を握っているからだ、と。
ただの大学生の真理が、どんな形で皆さんの生殺与奪の権利を握っているのかは
全く想像が付きませんが……」
語れば語るほど、荒唐無稽な想像だった。
仮に全員が何かの弱みを握られているとしても、
既に「真理の理想から外れた『透』の始末」という狂行に手を染めている彼らならば、
一致団結して真理を殺すという手段を考えてもおかしくないからからだ。ただ……
「確かなのは、皆さんが真理の今日を幸せに過ごすことに執心していることです。
……真理が今日一日に満足すれば、皆さんは真理に従わねばならない何かから
解放されるのではないですか?」
俊夫は「今日一日を台無しにしたら」と言った。
つまり、「透」に対して明日以降も身代わりの役目を求めるというつもりはないのだ。

「だから、真理の恋人の役割を全うする代わりに、僕を解放すると約束してください。
用済みになったからと消されたのでは堪らない。
皆さんの目的が何かからの解放なら、僕も同じ立場だと言いたいんです」

354 : かまいたちの夜輪廻彩声 ◆l1l6Ur354A 2017/03/16(木) 13:58:16.22 ID:/Y5te/NG0
透のその言葉に、小林たちは小さな声で相談を始めた。
「彼には、全てを知る権利があるわ」
「無理や、わしらかて理解するのにどんだけかかったと思うんや」
「彼なら賢いから大丈夫よ」
俊夫が、渋い表情で「透」に言葉を投げる。
「話す前に言っとくが、どうせ信じられやしない」
「それは、僕が決めます。……話してもらえますか」
「私から話そう。君の想像……いや、推理は驚くほどに当たっているよ。
ただ、前提になる一番大切な部分が、逆なんだ。
……透君は、生きているんだよ。奇跡的にね」

小林の言葉に、「透」は首を傾げる。
真理の透に対する執着の強さと、透の身代わりを作るという恐ろしい行動に出たところから見て、
てっきり死別したものだと思っていたからだ。
小林の言葉の意味を理解しかねている「透」と、
どう説明していいものか考えあぐねている様子の小林を見て、俊夫が進み出た。
「オーナー、実際に見せた方が早いでしょう」
ポケットから取り出した折り畳みナイフを開いた俊夫は、
少しの間ためらう様子を見せた後、その刃を自らの喉元に突き刺した。
突然の行動に唖然とする「透」の前で、首から血を噴き出し床に膝をついた俊夫は……
信じられないことに、やがて呻きながらも立ち上がった。
次の瞬間、「透」は更に信じられない光景を目にする。
俊夫の服を真っ赤に染め、壁にまで飛び散ったはずの血が、ゆっくりと消えていく。
床に落ちたナイフを拾い上げる俊夫の首元を見ると、傷一つない状態に戻っていた。
「……僕は……一体何を見たんですか」
震える声で問う「透」に、みどりが静かに告げた。
「私たちはね、もう死んでるの。だから、これ以上は死ねないのよ」

358 : かまいたちの夜輪廻彩声 ◆l1l6Ur354A 2017/03/17(金) 00:09:08.20 ID:gghpHUGb0
「ボイラーの調子が悪いのは分かっていたが、
冬は乗り切れると思っていたんだ」と懺悔の言葉を漏らす小林に、
他の面々はとっくに諦めはついたと慰めの言葉を掛ける。
「透」は、そのやり取りを茫然と見ていた。

「……透君だけが死んだのではなくて、皆さんが死んで、
透君だけが生き残ったということですか……?
じゃあ……僕も」
「死んだばかりの人間は、みんな記憶を失っているわ。
時間が経つと共に、生前の記憶を思い出すの」
春子のその言葉に、現実を受け入れ切れない透は引きつった笑みを零すしかない。
しかし、その直後脳裏に浮かんだ光景があった。

雪が降る真冬の夜道、早く寒さから逃れたいと逸る思いでバイクを走らせる自分。
曲がり角を曲がった途端目を眩ませた対向車のライト、バランスを崩した車体。
アスファルトに背中を削られ、空中に投げ出される感覚……

「思い出したのか」と問う小林に、「透」は弱々しく頷いた。
できることならば認めたくはないが、きっと自分はあのバイク事故で命を落としたのだ。

359 : かまいたちの夜輪廻彩声 ◆l1l6Ur354A 2017/03/17(金) 00:09:52.11 ID:gghpHUGb0
「透」が「それじゃあここはあの世なんですか」と尋ねると、
小林は「あの世でもこの世でもない場所だ」と答えた。
「……三途の川の中州、と言えばいいのかな」
「シュプール」で命を落とした全員が、生前の記憶を取り戻して己の死を自覚したとき、
彼らはこの先に待つ安らかな世界に到達するために現世への未練を絶たねばならないことや、
この「シュプール」がそのために用意されたことをおぼろげに悟ったという。
それは、神の啓示を受けた、とも言えるかもしれない。

「じゃあ、あのスキー場や、そこで見かけたスキー客はなんなんですか?」

そう質問してみると、今日子が「生前の記憶を寄せ集めた幻のようなもの」だと教えてくれた。
移動が可能なのは「シュプール」からあのゲレンデの付近までが精一杯で、
それ以上進めば途端に世界は希薄になり「シュプール」に戻されてしまうのだという。

そういったことを確かめては諦め、あるいは対話によって心を整理し、
あるいは小林の作った料理を思う存分食べ、
彼らは長い時間をかけてそれぞれの未練を断っていった。
香山曰く、ほぼ同時刻に同じ事故、同じ場所で命を落としたせいか、
「シュプール」で亡くなった人々は同じ集団として扱われ、
全員が現世への未練を絶てなければ成仏できない状態になっているらしい。
ところが、一人だけどうしても未練を断ち切れず、
こうして現世との「境界」に留まり続けているのだと……。
それを聞いて、「透」は「シュプール」で起きていることの全容を把握した。

恋人同士であろう俊夫とみどり、親友同士のOL三人組、二組の夫婦……
一人だけ、大切な人と引き裂かれた真理。
全ては、たった一人未練を絶ち切れずにもがく真理のためだったのだ。

360 : かまいたちの夜輪廻彩声 ◆l1l6Ur354A 2017/03/17(金) 00:10:43.66 ID:gghpHUGb0
「あの子、結構罪な子だったんだよね」
「透君は、はしゃいでた。脈なしかもしれないと思ってた憧れの彼女が、
泊りがけの旅行に誘ってくれたから」
「なのに別室で泊まるなんて、おかしな二人だと思ったけどね」
OL三人組は、真理と透の曖昧すぎる関係への感想を口々に漏らした。


容姿に恵まれていた真理だが、そのせいで周囲の男性からは高嶺の花だと敬遠され、
男女交際の機会に恵まれないことに寂しさを感じていた。
だからこそ、平凡でなんの取り柄もないという負い目を感じることもなく、
「自分は真理には不釣り合いだ」などとは考えもせず、
真っ直ぐ好意をぶつけてくる透の鈍感さが、真理には心地よかったのだ。
だが、恋愛に不慣れで不器用な真理は透の好意に素直に応えることができず、
結局は彼の愛を一方的に享受するばかりだった。
透を「シュプール」への旅行に誘ってみたものの、
急に素直になれるわけもない真理は透と別々の部屋に泊まり……
そして、その選択が悲劇を招いた。

透と死に別れて初めて、真理は自分の態度が一方的に彼の愛を
搾取するものだったことを自覚し、心底悔い、強烈な未練を抱いた。
小林たちはなんとか彼女に前を向かせようと努めたが、
真理はそれが「シュプール」の全ての人間の成仏を妨害してしまうと知りつつも、
「透の好意に素直に応え、感謝を伝えたい」という未練を捨てられなかったのだ。
そして、その余りに深い嘆きが邪悪な力を……
「悪魔」としか呼びようのない存在を、「シュプール」に呼び寄せた。





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