街 (Part3? > 4:市川文靖編、細井美子編、篠田正志編)

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42街 市川文靖編sage04/04/1915:49ID:Xyc6uzyX
市川 文靖「シュレディンガーの手」グッドエンド
― 一日目(10月11日水曜) ―

相変わらず、眠りは短く、浅く、不安定で、苦しかった。
多くの夢が、おそろしいスピードで、しかも緩やかに、流れては、消えていった・・・。

信号が変ったが、鬱々とした気分で動くことはできない。
意識が混濁し、麻痺している。機械的に歩き出した。
仕事場へと戻り、睡眠を取り戻さなければと思った。
いつもの睡眠薬を買い、帰る途中だった。
男と肩が触れ、薬ビンを落とした。拾おうとしていると、
「チョットマテ、コラ。ソッチハアイサツナシカ」ノイズが伝わってきた。
肩に手が乗せられたが、市川は払いのける。
男に突き飛ばされ、意識を失った。

童話の世界だ。暗く深く淀んでおり、おどろおどろしい世界だ。
夢の中の市川は、年老いた靴屋だ。
眠りにおちると、小人達が仕事を手伝う。
だが、彼等の作る靴は、いびつで無意味だが、作業は早かった。
どんどんと奇形の靴ばかり作り、積みあがっていく。
次第に遠ざかり、仕事場を奇形の靴が埋め尽くす。
睡魔と闘いながら、何とか彼等を止めようと奥へ奥へと進んで行くが、ついに眠り込んでしまう。
気付くと彼等は奇声を上げながら市川へ襲い掛かるところだった。
振り上げた右手が靴へと縫い上げられていることを知る。
叫び声を上げようとするが、口も靴紐によって縫い付けられている。
逃げようにも、両足や膝が床やソファに糸で固定され、穴かがりまでされているのだ。
のたうつ市川に彼等は近づく。
真っ黒な五人の小人は目だけがらんらんと輝いている。
山をなした奇形の靴は、全て市川の死体へと変じる。
突然全ての死体の目が開いた。腐臭が鼻をつく。
市川は狂乱し、泣き喚きながら縫い付けられた唇をひきちぎった・・・。

ホテルに戻った市川は、睡眠薬を飲み、再び小人の支配を逃れる為、眠りについた。

43街 市川文靖編sage04/04/1915:49ID:Xyc6uzyX
何かが叫んでいる。
それは電話の音だった。
だが、取る前に切れた。
机の上には、二本の原稿。徹夜で仕上げようとしたが、行き詰まり、脳を休める為、睡眠薬で眠ったのだ。
どちらの原稿もも未完成だ。
一つはテレビ局から依頼された男女の物語。「プロットA」
一つはがこの狂気じみた日常で自分を失わないために書き記した作品、「咆哮(さけび)」である。
どちらも気に入らず、Aを破いて捨て、咆哮は捨てたが拾い上げたものだ。
だが、眠っている間に完成された真新しい原稿ができていた。
原稿を読むが、市川の知らない作品として出来上がっていた。
これは2年前からの現象だ。
文学新人賞を一度取ったきりの売れない作家だったが、ある朝目覚めると、知らない作品が出来上がっていた。
それ以来、テレビ局から依頼が来たが、市川は断った。
しかし、翌朝机の上には要望にこたえた原稿ができていた。
ヒットしたドラマはほとんど市川が手がけている。だが低俗極まりない。
局から依頼が来る。断るが、翌朝市川の知らない原稿ができている。結局それを持っていかれる。
この話は業界で有名になり、どう断ろうと、プロデューサは翌日には取りに来る。
断るのはギャラの為だと言うので、原稿料は高額になったが、作家の名は伏せていた。
もう一度原稿に目を通す。確かに面白い作品だ。低俗ないじめと陳腐な愛が書かれている。
局に送らない「咆哮」すら直されている。
市川は、初めて殺意を覚えた。
「咆哮」を屑篭へ捨て、局に頼まれていた原稿をファックスで送り、ぼんやりと考えた。
「靴屋は夢をみたのだろうか?」
靴が出来上がればいい。そんな程度だったのだろうか?
市川は考えを改めた。
ファックスに吸い込まれていく原稿を見て、取り戻したい衝動にかられる。
今までの作品も全て破り捨てて、真の市川を評価してもらいたい。
考えがまとまらぬまま、送信が終わってしまった。

市川は、どうすることもできないまま座っているだけだ。
「私」はどこにいて、「誰」なんだろう。
私の「靴屋」はどこにいるのだろう。
不安が膨れ上がるだけだ。
そのとき電話が鳴った。
ファックスを受け取ったプロデューサーだ。傑作だという。
読み終えたらもう一度連絡するというので、その場は電話を切った。

もう一度かかってきた電話。
プロデューサーの木嵐だ。さすが「中島哲雄先生」と嫌いなペンネームを呼ぶ。
低脳な局の人間。だが憎めない。ディレクターと代わるといい、電話を代わった。
カバ沢という男だ。擬音でしか喋らない。テンションは高い。
再び木嵐と代わり、褒め称えられるが、それは自分が書いたのではないと言いかけた言葉を飲み込む。
何か重要なことを忘れていると思い、室内を見渡すと、ない。
昨夜の原稿が、「咆哮」がないのだ。屑篭にもない。フロッピーにも残っていなかった。
木嵐にファックスで届いていないか訊いたが、来ていないと言う。
適当に相槌を打ち、電話を切る。
原稿はどこへ消えたのか。
明確な答えを恐れていたが、今日ははっきりしようと探し始める。
部屋中探したが見つからない。
リフレッシュしようとバスルームへ入ったとき、焦げ臭い臭いがした。
洗面台の蛇口の下に、燃やした痕があった。
便器の中に燃え残りが流されずにこびりついていた。
それは「咆哮」の残骸だった。
今はっきりと「敵」を感じた。その証拠がこれだ。
ドアはロックされ、内錠までかかっている。窓も施錠され、破られた形跡もない。
市川しかいない室内。眠っている市川は、目覚めているときの市川とは別人ではないのか?
必ず犯人を挙げてやる。強く心に決めた。

44街 市川文靖編sage04/04/1915:51ID:Xyc6uzyX
シャワーを浴び、部屋へ戻ると電話が鳴った。
市川と何年もの付き合いがある末永晶子だった。
場所と時間を決め、落ち合うことにした。

一筋入った喫茶店で、晶子は紫煙を弄び、待っていた。
市川は彼女の前に座った。
痩せて、ひどく具合の悪そうな市川を見て、彼女は何かあったのかと問う。
市川は怖いくらいに何もないと答えた。
しかし、晶子は「バカ騒ぎのドラマなんて早く辞めて、本当に書きたいものだけを書くのじゃなかったの?」
指摘はぐさりと刺さった。なんでもないならいいと立ち上がり、歩き出す晶子。
ふと市川へ振り返り、「くだらないけど面白いわよ、アレ(ドラマ)」
晶子は、低俗なドラマの原稿を書いているということが腹立たしかったのだ。

木嵐の携帯電話へ連絡へ入れ、プロットAについて話したいから会おうと話した。
30分後、カフェで落ち合った。
市川は原稿の手直しをさせてくれと言った。
絶句する木枯らしに言った。
「市川文靖の代表作にしたいんだ。本物を書いてみたい」
本気で言ってるなら協力すると言う木嵐。
彼は文学青年で、今のテレビに批判を持っていた。市川のデビュー作が好きだったのだ。
それからの作品は駄作だと続ける。その言葉に市川は感動した。
やりましょうと言ってくれたが、条件があった。
「この作品だけは本名でやってください」というのだ。
「中島哲雄」ではなく、「市川文靖」の代表作として、書いてくれと言う。
市川は力強く木嵐の手を握り、礼を述べた。
外部には内緒で進め、スペシャル枠を確保し、純文学でもここまで視聴率が取れることを証明しよう。
木嵐は続ける。駄作のドラマではなく、良作で人の心を打つ時代を作ろうと。
市川の中に、熱いものが流れた。

ホテルへ戻ると、掃除が済まされていた。
部屋の窓を開け、新しい空気を取り入れ、真っさらの状態で仕事に向かう気持ちになった。
市川の中から溢れる言葉をワープロに叩き込んだ。
内容もいい。ふとキーボードに涙がこぼれた。
文学賞をもらったときは、いつも泣きながら書いていた。
そのころの血が戻ってきたのだ。

45街 市川文靖編sage04/04/1915:52ID:Xyc6uzyX
― 2日目(10月12日木曜) ―

煙草がきれたので、気分転換もかねて外の自動販売機まで買いに来た。
そのとき、大きな荷物を持った女が市川とぶつかり、荷物をぶちまける。
市川を見上げた女は、「中島先生」と言った。彼女もテレビ屋だ。
足元にころがった宝石を拾い上げ、女に渡すと傷がついていないか確かめた。
「やっぱりこれ、ウマさんの。どうもありがとうございました。」
女は訳の分からないことを言い、走り去った。

ホテルに戻り、仕事を続けている。
眠気が市川を襲う。カーテンを開け、冷気を室内へいれ、コーヒーを入れた。
ここまできて、またアイツに邪魔されたくない。そう思った。
今までの原稿をハードディスクへ記録し、ロックをかける。
プリントアウトした原稿を校正し、再び書き始める。
もう少しだ。ファックスで送るのではなく、市川の手で局プロ(局のプロデューサー)
の自宅へ届けようと決意した。

あと一枚だ。申し分のない大傑作が生まれようとしていた。
だが、市川は油断した。まどろみつつある。
遠くからかすかな正体不明のさざめきが忍び込んでくる。
まどろむ快感に溶け込まれていった・・・。

どこかで子供達が騒いでいる。リスかネズミか?
ぼんやりと堕ちていく眠りの中でそれを耳元で聞いた。
寒気がする。嫌な予感がして目を開けた。
笑い声はファックスの方から聞こえた気がした。
だが窓もないその方向から聞こえるはずはない。
ゆっくりと顔を上げる。笑い声は止んでいた。
あたりを見渡すが、何もなかった。疲れているだけだと思い直した。
自分の左手が痺れている。その上に突っ伏して寝ていたようだ。
その手はまるで他人のように感じた。
苦笑しながら、その手を机の上に投げ出した。
だが、そこにあったのは、空っぽのシャツの袖。手首から先のない手だ。
唖然と見つめた。
どこからか嘲りの笑い声が響いた。さっきよりも近く、はっきりと。
夢だと思い、目を閉じようとするが、左腕を見つめたまま大きく見開いたままだ。
かさかさと這い回る音。笑い声。
市川は心臓が飛び上がった。
笑い声は様々な人の声に聞こえる。冷や汗が吹き出た。
声は部屋中を渦巻く。
何かが市川に触れ、嫌悪感が走る。
目を閉じようとしたが、できない。腕の切断面を見た。漆黒の闇があった。
何かを思い出そうとするが、思いは途切れ、闇に包まれた。

46街 市川文靖編sage04/04/1915:53ID:Xyc6uzyX
床の上で目を覚まし、伸びをして天井を見上げる。
今度こそ夢ではない。
外の空気を入れようと窓を開けるが、明け方にあけたことを思い出す。
誰かが閉めたことになる。正体が分からぬまま不安になった。
床に散らばった原稿を拾い上げるが、どれも白紙で、まだ出来上がった原稿を
プリントアウトしていなかったことに気付く。
パソコンのシステムを立ち上げ、ロックした原稿を開く為、パスワードを入力した。
だが、既に原稿は消えていた。
市川が突っ伏して眠っている間に、何かが周りで動き回っていたことを思い出す。
あれが夢でなかったとしたら・・・。
途中でプリントアウトしたことを思い出し、慌てて白紙に飛びついたが、
やはり白紙はだった。途中までのプリントアウトを探すが、どこにもなかった。
市川は座り込んだ。
窓枠にカラスが止まり、鳴いている。
腹立たしくなり、テーブルの上の蜜柑を投げた。だが当たらなかった。
蜜柑。蜜柑なんて何故あったのだ?

局プロの木嵐に連絡をとり、カフェで落ち合った。
ありのままを話した。
「代表作となるはずの作品が出来た。だが、手違いで消してしまった」と。
木嵐は、「書いたものならすぐ思い出せるでしょう」と、にやりと笑った。
筆の荒れた作家のいいわけかとひやりとしたと、釘を刺してくる。
満足してもらえる作品を必ず書くと真剣に約束し、別れた。
帰りにビッグカメラで「三脚」「赤外線カメラ」とそれら一式を購入した。

ホテルへ戻ると電話が鳴った。
取ると「総監、海塚だ」と名乗る。今若者が来ているなどと話した相手。
それは市川の父の声だった。向こうから勝手に電話を切った。
市川は父を嫌っていた。母は父を憎んで死んだ。
外は雨が降り、ぼんやりと窓の外を眺めた・・・。

買ってきた赤外線カメラをセットした。
自分の姿が映るようセットした。
何かが動けばシャッターが切れるようになっている。テストした。成功だ。
冷蔵庫を開け、冷えたビールを取り出し、グラスへ注ぐ。
ソファーに寝転び、空になったグラスを弄ぶ。
不安が襲い、グラスを壁に叩きつけて割った。
「けものは恐怖を読む。そして獲物を襲う」新作につけられたタイトルだ。
「内なる私」と「私」は別なのか。恐怖に駆られる。
散らばったガラスのかけらを踏み、足を切った。
ソファーを蹴りつけ、気を静めるため、バスルームへ向かった。
電話のベルが鳴る。無視をして熱いシャワーにかかるが、ふいに気になり、留守電を聞いた。
相手は晶子だった。スペインに行くことになったと言う。
改めてシャワーを浴び、全てのもやもやを洗い流した。
バスルームから戻ると、また電話が鳴った。晶子かと思い、電話に出る。
「ふみやすか?」警視総監である父からだ。聞きたくない声だと思い、適当に切る。
だがまたすぐにかかってきた。またすぐにきった。
また電話が鳴る。「タナカです!クッテヤセール4千年ドリームパック・・・」と言い出す。
間違い電話だった。

モニターに向かい、落ち着いた気持ちでキーを打つ。
昨夜の傑作はまだ市川の記憶の中に残っている。「犯人=敵」は記憶までは消せない。
傑作が再生されようとしている。

「ああ、昨夜より良い作品が生まれようとしている。」

47街 市川文靖編sage04/04/1915:54ID:Xyc6uzyX
― 3日目(10月13日金曜) ―

エンドマークを打った。
外は明るく、スズメが鳴いていた。昨日より良い出来だと満足した。
原稿をハードディスクへ保存し、フロッピーにもコピーし、プリントアウトして、
システムのパスワードも変えた。
これは相当高い評価を得るはずだ。間違いなく「市川文靖」の代表作。
赤外線シャッターの具合を測りながらバーボンを開け、祝杯をあげた。
プリンターは完成した原稿を吐き出す。
今度こそと思ったそのとき、世界は消えた。油断したのだ。

闇の中に居た。そこで何かを聞いた。ひらめくスパークを幾度か感じた。
深い闇の中に意識が沈んだ。

夢は見なかった。
電話のベルで目が覚めた。留守番電話に切り替わり、メッセージが録音される。
相手はあのカバ沢だ。
ファックスを見た。最高の出来だ《B・O・D・Y》はと言う。
意識を取り戻し、さっきの言葉を思い浮かべる。
「ファックス」に「B・O・D・Y」覚えがない。
市川は飛び起き、窓を開け、空気を入れ替えた。街はすっかり目覚めていた。
嫌な予感は確信へと変り、変更したパスワードを入力して確認をした。
ハードディスクの中は空だった。フロッピーも同様。
プリントアウトしたはずの用紙も白紙だ。
新しいパスワード「B・O・D・Y」をなぜカバ沢は知っていたのだろうか。
なぜこの言葉をパスワードにしたのだろうか?
ファイルの中に、「BODY」という名の見知らぬファイルがあった。
どういうことだと白紙の原稿を机に叩きつけたとき、赤外線カメラが作動した。
37枚撮りのフィルムが既に27枚も撮られている。

写真屋へ持ち込み、現像することにした。
自分の前に一人女の子が「なかしまてつお」と言う名前でフィルムを渡していた。
同名だと思いながらも、市川は実名を避け、「中島哲雄」と言う名で渡した。
バイトらしい女子店員は
「2時ジャストのお渡しとなります。ピー」最後のピーはなんだろう?

カバ沢へ連絡を入れ、会う約束をして電話を切った。

店で落ち合うと、そこには他のロケ班メンバーも居た。
話は食事の後となり、バカ騒ぎをするロケ班と共に食事をする。
済むと、話を切り出そうと市川は口を開くが、そのとき、デューク浜地が来る。
一緒に居るのは香月ミカレだ。お上手を言う二人。
だが、市川は二人が嫌いだった。自分さえ良く見えれば、後は知らないという人種だからだ。
支払いはデュークがするということになり、二人とカバ沢は立ち去ろうとした。
慌ててカバ沢を呼び戻す。デュークとミカレは先に出て行った。
市川は切り出した。「B・O・D・Yとはなんだ?」と。あきれるカバ沢。
だが、ファックスした原稿をコピーして封筒に詰められているそれを、市川へ渡した
局プロにではなく、直接カバ沢へ届いたらしい。
どういうことだと思い、原稿を読んだ。
表紙には署名が「市川文靖」となっている。タイトルは「BODY」
原稿を持ち、手直しをすると言い、出て行く。カバ沢が市川を止めようとするが聞かなかった。
店を出た途端、タクシーが急停車した。
出てきたのは木嵐だ。「いったいコレはどういうことです!」という。
彼もこの原稿を持っていた。とにかくタクシーへ乗ろうと、二人で乗り込んだ。

48街 市川文靖編sage04/04/1915:56ID:Xyc6uzyX
「ちゃんと説明してください」と木嵐は怒っている。「中島哲雄」は局内でも、
「視聴率を稼ぐ俗悪」の代名詞として評価が高い中、異色作をやろうと決まった矢先だと続けた。
市川は、うっかりミスだった。クリックし間違え、書き損じを送ったと謝罪した。
木嵐の怒りは少し収まり、これからは気をつけてくださいと言われる。
カバ沢は、自分に送られてきた原稿を見て、市川とはこれほど仲が良いと見せ付けるために、
局長へコピーを渡していたのだ。この食事会も局長から聞いたと木嵐は言う。
気をつけないとカバ沢は取り返しのつかない大チョンボをされると警告する。
市川はわかっていた。自分も何故なのか知りたい程だった。
もし、今回みたいなことがまたあったら、今度は手を引きます。そう木嵐は告げた。
彼はこの作品に賭けている。
そして、木嵐はタクシーを降りた。
「出来るまで何日でも待ちますから、本物を書いてください」と言い残して。
しばらくタクシーを走らせ、市川も降りた。

ハチ公前で待つ人々を見ているうちに晶子が気になった。
電話をかけたが居ないようだ。文学賞受賞時のテレホンカードを手に、思った。
「栄光にしがみついているのか、野心と情熱を欲しているのか」と。

写真屋で、さっきのバイト女子店員から写真を受け取り、店を後にした。
人気の少ないところで中を確認したが、どうやら取り違えたらしい。
同名の者が居たからだろう。
塀の向こうからサングラスに黒いコートを着た男がこっちを見ていた。
何か用かと尋ねる市川。「写真を渡せ」という。恐怖を覚えた。
電話番号を聞くが答えない。渡せないと答えると、写真をひったくろうとする男。
そのとき、背後から女の子が「ドロボー」と叫んだ。男は逃げた。
女の子は、写真は私のだという。男のことを尋ねたが、知らないという。
互いの電話番号を確認し、写真を交換した。
少女は丁寧にお辞儀すると、あっという間に走り去った。
改めて中を確認すると、写真は一枚も入っていない。
ネガを見ると、全て感光していた。
市川が眠っている間に、写真を撮られていることを知った犯人は、フィルムを抜き、
感光させた上で、再びカメラへ納めたのだ。やられた・・・
急激な疲労感に襲われた。
帰りにハンズで重く頑丈で、大きなハンマーを購入した。

ホテルへ帰ると、ファックスを破壊した。何度もハンマーを振り下ろし、完全に破壊した。
今度はパソコンの前に立つ。だがパソコンは破壊しなかった。
唐突に睡魔に襲われた。意識は深い光の世界へ引きずり込まれた。
くすくすと言う笑いと、カサカサと言う紙の音が気になった。
市川しか居ないはずの部屋で、パソコンのキーを叩く音がする。誰が使っているのか?

49街 市川文靖編sage04/04/1915:57ID:Xyc6uzyX
雷だ。その音で目が覚めた。
机の上には原稿が乗っている。タイトルは「BODY」。署名は市川の名だ。
奴は正面切って反撃してきたのだ。宣戦布告だ。
その原稿を破り捨て、ゴミ箱の中で火をつけて、窓から投げ捨てた。
バスルームへ駆け込み、水を浴びる。
市川は、自分の中に寄生する「もう一つの人格」を意識し始めた。
全身を掻きむしったとき、声は聞こえた。
「だが、寄生しているのはどっちだ?」叫び声をあげた。
また声は聞こえた。
「どちらが 本当のお前だ?お前は《殻》にすぎない」
鏡の中に脅えきった市川の顔があった。一瞬見覚えのない他人の顔に見えた。
長い時間過ぎたが、まだ鏡の前にいる。自問自答を繰り返す。
「これがお前か?」「本当にお前か?」
「本当にお前か?それとも・・・」鏡の中の市川はニヤリと笑った。
拳で鏡を割り、バスルームを飛び出した。

気が付くと、ベッドの上でバーボンを飲んでいた。
「自分」と「奴」の区別がつきにくくなっていた。肉体は「殻」なのだろうか。
一人考えにふけっていた。だが一人でいると気が狂いそうになる。
また晶子のことを思い出していた。電話をかけたが出なかった。
日本からいなくなる晶子。
頭の中でふいにひょうきんな声がした。
《いいインディアンは死んだインディアン!!》
よくわからなかった。

気を取り直してキーボードに向かうが、書く気にはなれない。
傑作は書けるが、睡魔と共に消滅してしまう。恐怖があった。
「言い訳ではない!」正体の見えない敵に向かって叫んだ。
気が付くと、またバーボンに手をかけていた。
二杯三杯と胃へ流し込み、息を吐く。
急速に酔いが回り、擬似快楽と共に、社会との接点が遠ざかった。

気が付くと、市川はバーに居た。かなり酔っていた。
この店は晶子とよく来た店であり、父に教えられた店である。
酔っているのは殻なのか自分なのか。よくわからなかった。

次に気付くとトイレの中に居た。個室のドアは開け放たれ、
便器を椅子代わりに眠ったらしい。
夢は見なかった。《ヤツら》はここでは襲わなかった。
それが心地よく、眠りに着いた。
「BODY」後は自分でも何を言っているのかわからなかった。

50街 市川文靖編sage04/04/1915:58ID:Xyc6uzyX
― 4日目(10月14日土曜) ―

気が付くと、市川はカウンターで眠っていた。
店員に起こされ、目が覚めた。「もう店を閉めたい」というので、
財布から金を出し、カウンターへ置いた。
左手にコースターが握られていた。放すとそこには赤のボールペンで文字が書かれていた。
「BODY」と。店員になにかやっていたかと問うと、うなされていたと答えた。
領収書をもらい、店を出た。

「BODY」の筆跡は市川に似ていた。
ボールペンも普段赤を使っている。
ペンを探すと、左のポケットにあった。右利きの市川は普段左のポケットを使わない。
「BODY」は《ヤツ》からのメッセージだ。
市川は段々と理解した。
《BODY》《肉体》《殻》・・・
街は朝になろうとしていた。負けるものかと創作意欲をかきたてた。
ヤツらの時間は終わった。市川は市川の作品を書き上げなければ。そう思った。

ホテルへと帰ると、カメラを三脚ごと引き倒し、憂さ晴らしをした。
カメラを抽斗へと仕舞い込み、鍵をかけた。実はこのとき、ひそかにあるものを、
机の隅に積み上げた本の間へ隠した。
部屋の窓を開け、空気を換える。
シャワーを浴び、熱い風呂に入って酒を抜き、水風呂に入り、頭を目覚めさせた。
パソコンのスイッチを入れ、ディスプレイを見た。
一瞬市川の知らない文章が既に書かれている幻覚がフラッシュしたが、ディスプレイは
ただ青白い肌をさらしていた。
文章を書き始めた。今日こそ傑作が出来る。
そのとき、市川は「いいインディアンは死んだインディアン!」と言い、
思考を読まれないよう、支離滅裂なことを考え、部屋中で踊った。
よろけた振りをしてリモコンのスイッチを入れる。
さっき隠しておいたものは8ミリビデオカメラだった。
市川のデスクへ向け、隠し撮りしている。
《ヤツら》に意表をついたはずだ。

再び執筆を始めた。
睡魔が襲った。プロとしての意識と誇りがそれを許さなかった。
できた。傑作ができた。完成したと思った。
そのとき、意識が途切れた。
闇の中に引きずられていった。

それは夢の世界だとはっきりと分かった。
城があり、丘があり、小川があり、森があり・・・。
小人が突然笑った。小人達の笑い声は、市川の手の辺りから聞こえた。
仰向けで居眠る市川。放り出された左手。
そのとき信じられないことが起こった。
左手の指一本一本が、ケラケラと笑い声を上げ、ぴょんぴょんと跳ね、
小人に変じていく。5人の小人はそれぞれが奇異な個性を持っていた。
次々とディスプレイの中に入っていく。
掃除でもするかのように、今書き上げた原稿の活字を消していく。
「やめてくれ!」眠っている市川にはどうすることも出来ない。
またヤツらに蹂躙されている。
「やめろオオオ・・・・・・!」
市川は叫んで目を覚まし、慌てて左手を見るが、何の変哲もない。
オートパワーオフ機能で停止していた電源を入れ、ディスプレイを見る。
大傑作は跡形もなく消えうせていた。
ビデオカメラに証拠を押さえているはずだと、ビデオを見るが、
眠り込んだ時間には、ノイズのみが映っていた。
市川はベッドの上に大の字になり、長い時間を過ごした。

51街 市川文靖編sage04/04/1915:59ID:Xyc6uzyX
電話で目が覚めた。取ると晶子だった。
スペインへ旅立つ前に会う約束をし、電話を切った。
直後、また電話がなる。
「もしもし、佐久間君か。私だ」
間違い電話だった。

約束の時間には早かったが、街へと出た。
晶子と、とうとう二人で行かなかった代々木公園へと向かった。
芝生の上で大の字になる。太陽は10月にしては異常なほどまぶしい。
左手をかざした。
「左手・・・」
市川は起き上がり、左手にケジメをつけておかねばと思った。
コンビニで「作業用手袋」と「麻ヒモ」を買い、その場で左手に手袋をはめ、
店員に手伝ってもらい、手袋の上から麻ヒモをぐるぐる巻にした。

晶子のアトリエへ向かう前に、あたりを散策した。
オカヤマビル内にある「シルベール」という喫茶店。
ここは晶子と別れ話をしたところだ。踵を返し、ファンシーショップへ向かった。
手ぶらで行くのも気が引け、黒の櫛を購入した。

彼女の晶子のアトリエへ着くと、彼女は彫刻を創造していた。
市川に気付いた晶子は「もうそんな時間?」と驚いていた。
さっき買った櫛を晶子へ渡す。忙しいから後で開けるとそっけない。
だが、市川にはそのそっけない態度が安心した。
晶子は市川の左手が気になったが、後で聞くことにした。
約束の時間はまだ来ていない。約束どおりの時間と場所で落ち合うことにし、
市川はアトリエを後にした。

晶子と市川はレストランで落ち合った。
昔よく来たレストランだ。
店で一番高いワインを頼み、乾杯した。
市川は胃へと食べ物を押し込む。晶子は呆れて見ていた。
その手袋、何とかならない?というが、市川は「動くオブジェさ」と気にも留めない。
酔ってるの?と問う晶子。酔っているが酔っていないと答える市川。
青い顔をして晶子は言った。「それ、ゴースト(幽霊)の話?」と。

52街 市川文靖編sage04/04/1916:00ID:Xyc6uzyX
場所を変え、昨日一人出来たバーにいた。
バーボンロック2つ。そういう晶子は、昔となにも変らない。
昔ばかり懐かしむ市川。死ぬのかな?と口にする。
時間は流れていく。
晶子はゴーストの話を訊く。
市川は左手がクーデターを起こしていると話す。だが目で見ていないものを信じない晶子。
見たという市川に、夢で見たんでしょ?と平然と切り捨てた。
もっと楽しい話をしようと晶子は言った。

市川のバーボンは6杯目だった。
ケタケタと笑っている。磨きこんだダイヤを5人の小人が泥に換えるんだと。
ダイヤより泥の方が金になると。
晶子は市川が疲れているのだといった。その程度が違うだけで、誰にでも良くある話だという。
5人の小人が誰の左手ででも暴れているのかと可笑しくなった。
市川の左手が痛くなった。
晶子はうっ血しているんだと、固く結ばれて紐を苦労しながらも外した。
左手は膨れ上がり、紫色になっていた。
晶子は「ばかね・・・」と呟き優しくさすった。

沈黙が流れる。黙って飲んだ。
「ばかよ」吐息と共に晶子は呟いた。
「自由時間は終わりだ。もう独房に戻ってもらおう」と、市川は手袋をはめた。
縛ってくれと頼むが、晶子は嫌だという。
真の芸術家は、常に死に物狂いで戦っているものだと言われ、市川も戦っている!と言った。
だが、バカにしたように晶子は、気を引いているだけが戦いかと言った。
全て真実を言っているんだと告げるが、晶子は信じてくれず、疲れているだけだと言った。
疲れてないなら、晶子の話を訊くはずだと。
市川の中の何かが切れた。
「疲れてる!?ハハ、そうだ疲れてるだけだよ!疲れてるから、苦労して書き上げた原稿を
丸めて捨てるし、疲れてるから一晩で百枚近くも知らないうちに原稿を書くんだ、そうだろう!?」
スペインへ行くだけが立派な芸術家で、手を縛っているホン屋は病気なのかよ!と。
ごめんと低く、くぐもった声で晶子が言った。
彼女に言いたいことはこんなことじゃなかった。
「ばかやろう。俺は手袋の端をキツく縛って欲しかっただけだ」声に力は入らない。
涙がこぼれ、市川は立ち上がった。
足がもつれ、椅子を倒すが、晶子も見ずに店を後にした。

53街 市川文靖編sage04/04/1916:02ID:Xyc6uzyX
― 5日目(10月15日日曜) ―

警官の声で目が覚めた。東北訛りがある。
路上で眠ってしまったようだ。気をつけて帰れと言われ、階段に座らされた。
晶子と別れた後の記憶がない。
左の尻のポケットを探ると、赤のボールペンが出てきた。
上着の内ポケットに入れていたものだ。
市川の右手の袖がめくれていた。そこには何か書かれていた。
「BODY」
左手以外に書きようのないその場所に書かれていた。
二度目のメッセージだ。
今度こそ市川は理解した。
《ヤツら》は市川のことを《BODY(胴体)》もしくは《BODY(死体)》と呼んでいるのだ。
市川に寄生する《ヤツら》にとって、《BODY》はエサでしかないのだ。
ホームレスの男に「縛ってくれ」と頼むが、頼みは聞いてくれない。
その横に座る学生風の男に、千円札を渡し、アルバイトだと言って、縛ってもらった。
もうこれでヤツらも悪さは出来ないだろう。

ホテルへ戻ったとき、ルームキーを失くしていることに気付いた。
嫌な予感がする。
13階の自分の部屋を見ると、明りがついていた。
出るときには消していたはずの明りだ。目を凝らしてもう一度見た。
明りが揺れた。誰か居る。
そのとき、頭の中で奇妙なほど鮮明で恐ろしい映像が展開された。
(あれは私だ。)
ドアを開けようとノブを引くが、誰かが中から掴んでいる。
やがて市川が力で勝ち、ドアを開ける。
そこには市川が居た。一枚のドアをはさんで対峙した。
彼は歪んだ笑いをし、口からインクがこぼれたように黒く顔が歪む。
そして彼は「BODY」と言った。

市川はまだホテルの外に居た。動けずにいた。
あの部屋へ戻らねばならない。
フロントに頼み、キーをあけてもらって、部屋へ入った。
明りのついたその部屋には、市川ではなく、晶子が居た。
飛び込んできた市川に驚いた様子だ。
安堵感とともにやってきた急激な脱力感。市川はその場へへたり込んだ。
大丈夫?と言われ、なんとか大丈夫と答えられた。
晶子は、市川が忘れていった手帳を届けに来ていた。別れ方も気になっていたようだ。
長く重苦しい沈黙が流れた。
帰るわよという晶子。
なんとか声に出して市川は言った。
「膝枕してくれ」と。
ばかねと呟き、膝を叩く晶子。
甘えるように膝に頭を置き、眠いと呟いた。

54街 市川文靖編sage04/04/1916:03ID:Xyc6uzyX
廊下に立っていた。暗く長い廊下だった。
何かを手繰り寄せていることに気付いた。
彼方にぼんやりと光っているものを引き寄せているようだ。
手繰り寄せるものは急速に早まり、光はどんどん速度を上げて近づく。
風音は、悲鳴に変り、手繰り寄せていたものは、彼方まで伸びた、
血まみれの左手だったことに気付く。
突然、強烈な金属音が頭に響いた。
「その音を止めろおおおおおおおおおおおおお!!」

突然床に叩きつけられ、目が覚めた。
身を起こすと、晶子がすごい形相で睨んでいた。殺す気なの?と言われ、なんのことかわからなかった。
晶子の首を絞めていたというのだ。携帯電話が鳴ったから助かったと言う。
どんな風に締めていたのかと訊くと、左手で締めていた仕種をした晶子。
あれほどキツく縛ったはずが、何故自由になっていたのだろうと疑問に思う市川。
「もういい。帰ってくれ」と晶子に言った。
わかった。最後にご挨拶だけさせてと言った晶子から、ビンタがとんだ。
晶子は去っていった。

市川は昼間でぼんやりとした。
1時になり、ようやく動く気になった。
ある決意が固まったからだった。
そのとき電話が鳴った。テレビ太陽の木嵐だ。
トラブったというのだ。あのカバ沢が、局長に汚い手を使って全てをチクってうまく取り入ったのだ。
局長は、<陳腐・安易・俗悪>がそろって当たるというのが信念だ。今更純文学など当たらないと、
木嵐は降ろされたという。この計画はもう実行できない。
とにかく会ってくれといわれるので、30分後に落ち合うことにした。

木嵐は、20分遅れで来た。
席に着くなりテーブルに手を着き、額をすりつけ、申し訳ありませんと真剣に謝罪した。
そして、内容を話した。
市川の担当者はカバ沢になったという。ヘッドハンティングで、製作会社のカバ沢が、局プロになるというのだ。
「テレビの良心作の火を消さないでください。」と言った木嵐の目から涙が流れた。
必ず何年経ってでも、復帰して、自分の思うテレビにしてみせると宣言し、木嵐は去っていった。
女好きで、酒好きで、調子者で、主体性のない局プロと思っていた木嵐の真の姿は、市川を叩きのめした。
市川の中の《私》が許せなかった。決意を新たにし、ハンズの工具売り場へと向かった。

店員が一人やってきた。ハンマーを買ったときの店員だ。
切れ味の良さそうなチェーンソーが陳列されていた。
隣の売り場で、ジャングルの木を切る時に使う「マチェット」という刃物を買った。
悪夢の終わりにふさわしい買い物だった。

55街 市川文靖編sage04/04/1916:05ID:Xyc6uzyX
ホテルに戻ると、留守番電話のメッセージがあった。
カバ沢からだった。
テレビ太陽に移籍すると言う内容だ。夕方までにサササーッのサーッであげてくれという。
メッセージが終わると、バーボンを一気に空け、決意を固めた。
ハンズの包みから、刃物を取り出す。
送ってやろうじゃないか!と刃物を振り上げたそのとき、意識が突然切れた。
負けるもんか!あんなヤツらに負けるもんか!精神力を振り絞り、意識がぼんやりと戻った。
目の前を何かが走っていた。
今度こそこの目で見てやる!と市川は死力を尽くし、目を開けた。
敵に気付かれないよう、細心の注意を払って。
醜い顔をした、狡猾な5人の小人だ。夢ではない。現実だ。
市川は左手を見た。
キツく縛った紐が解けていた。手袋が外れていた。
そして、左手は、手首から先が完全に消えていた。
切断面はきれいなものだった。
小人達は遊んでいた。麻ヒモで綱引きをしたり、鬼ごっこをしたりと。
だが、まだ市川が見ていることを知らない。
ヤツらの思い通りにはさせない。そう思ったときだ。
「ぶわッくしょん」
思いっきりくしゃみをしてしまった。<ヤツら>に気付かれ、動き始める。
ヤツらは走り、5人そろって狙いを定めると、腕の切断面へダイブした。
肉の塊へと変り、それが小人の個性を残したまま五本の指へと変じた。
指たちは器用に手袋をかぶり、ヒモを結びつけたのだ。
今度こそ勝った!気持ちが高ぶり、マチェットを振り上げた。
だが、市川はそこで凍りついた。
作家としての良心を守る為には、左手を殺さなければならない。
だが、自分も死ぬかもしれない。《私》を守る為《私》を殺さねばならない。
呪縛と怨念を断ち切るため、マチェットを手首に叩きつけた。
左手と共に、意識も飛んだ。

56街 市川文靖編sage04/04/1916:06ID:Xyc6uzyX
意識がゆっくりと戻った。
切断された左手を見た。あたりを見渡すと、奇妙に歪んでいる室内が見えた。
血の海から<左手>を拾い、部屋を出た。

コンビニで宅配を頼んだ。
カバ沢宛にだ。中身はどのようなものでしょうと問うバイト店員に
「手首だ。左手の」と答える。
金切り声をあげ、青ざめた表情をする彼等を後に、店を出た。
何か、重くて固いものに体を突き飛ばされ、倒れた体を起こすと、再び歩き出した。
突然・・・。

気が付けば、歩道に横たわっていた。
ざわめきが押し寄せ、遠ざかってゆく。
悔恨と呪詛に満ちた過去が脳裏に一斉に押し寄せた。
「全身血だらけだ」「まだ生きてるわよ、この人」「救急車!救急車!」
雑踏のくらい影が市川の周囲を包み、好奇心に満ちた目だけが互いに何かを伝え合っている。

市川は道路に倒れたままで、手首のない、麻痺した左手を高く掲げる。
「俺はもう自由だ!」高らかに宣言する。
腕は小刻みに震えている。
全身の震えも激しくなった。
開放感?安堵感?高揚?幸福?恍惚?平静?

私はこのまま死ぬのだろうか・・・

突然夜空に花火が打ちあがった。
市川の右手が、キーを叩くように動く。

いや、私は生きていくのだ・・・・。


「シュレディンガーの手」完

57街 市川文靖編sage04/04/1916:09ID:Xyc6uzyX
市川編終わりです。
市川役を、ダンカンがやってたんだが、
ダンカンを見ると、バラエティに出てても怖いよ。

余談だが、前回の牛・馬編で出てきたADサギ山は、
売れる前の窪塚洋介なんだよな。

85街 細井美子編sage04/04/2017:29ID:LyjFK+4i
細井 美子「やせるおもい」グッドエンド
― 一日目(10月11日水曜) ―

渋谷の交差点。
細井美子(ほそいよしこ)は、彼氏の高田洋一とデートである。
映画に行こうとしているが、上映時間はまだ先なので、喫茶店に行くことにした。
美子には、気になるケーキが二つあった。洋一に両方頼めば?と言われ、二つとも頼んだ。
美子はとても幸せそうに食べる。
食べ終わっても、洋一の分はまだ手がつけられていなかったので、美子は、それも食べてしまう。
目が寄る程幸せだったが、洋一は美子が食べる姿に気持ちが悪くなりトイレへ行った。
待っている間に、追加でさらにケーキを注文した。店のケーキ全てを注文した。
食べる。幸せを感じながら食べる。食べることが生きがいなのだ。
戻ってきた洋一は、美子に告げた。「お前の体重はいくつだ?」と。
美子はサバを読み、「57キロくらい?」というが、洋一は見抜いている。
60キロ以上だ。「自分の体と名前は、皮肉だと思わないのか」と。
細く美しい子。名前と正反対の容姿。トドかカバ。コレがぴったりだと言い切る。
付き合い始めたころは、もう少し細かった。だが、今となっては見る影もない。
我慢の限界だと言う。そして告げた。
「次の日曜日までに17キロ減らさないと別れる」
日曜日の6時、またここで逢おう。そういい残し、店から出て行ってしまった。
美子はショックだった。
高校時代からつきあっている、洋一。彼にそこまで言われるのが。
洋一と別れるのなんて嫌だ。絶対、ヤセてやる!と心に誓った。

ふらふらと街を歩いていると、ヒッピー風な男とぶつかるが、彼の方が突き飛ばされる。
微動だにしなかった美子は、重ねてショックを受けていると、アルバイト先の後輩であり親友の
「秋山薫」と会い、これからバイトだったのを忘れていた美子は、薫と一緒にバイト先へと向かった。

タワーレコードでバイトしている美子は、まだショックから立ち直れず、
レジでの計算を散々間違える。薫が「いつもの美子さんらしくない」と心配される。
早めにバイトをきりあげ、街で見かけたエステサロンの広告を頼りに、オカヤマビルへと向かった。

雑居ビル内にあった「エステ・デ・エリザベス」に来ると、竹内ミドリという女性が美子を迎えた。
理想体重を計算すると、美子は体重は20キロほど減らさねばならない。
彼女には5日間しかない。短期集中コースを勧められるが、美子の支払える値段ではなかった。
仕方なく、60分体験コースのを頼んだ。新陳代謝を高め、脂肪を燃やすというものらしい。
一式体験した後、体重は、体験前が63.9キロだった体重が、62.5キロになった。
「水は200mlマデならゆっくり飲んで良い」と言われ、支払いを済ませて店を後にした。

酒屋で2リットルの烏龍茶を購入。(美子は2リットル=200mlと思っている。大きな間違い)一気に飲み干す。
空腹にも耐えられず、トンカツ屋でたらふく食べてしまう。
自宅に帰って、体重計に乗ってみると、64.5キロになっていた。2キロの増加だ。
きっと体重計が古い為、計測が間違ったんだと思い、百貨店で新しい物を購入しようと出かけた。

百貨店で物色中、デジタル体重計に乗ってみる。だが変っていない。
もう一度乗りなおしたそのとき、コートを着た若い男がメモリを覗いていた。
バクハ装置!と叫び、男は突然美子の足を掴み、「66.6!ゾロメだ!と」言って去ってしまった。
66.6キロのはずがないと測りなおすが、やはり体重は64.5キロのままだった。

自宅に帰り、エステの嘘つき!体重計の嘘つき!とソファーを殴っていると電話がかかってきた。
陰気な声が「どたばたうるさい!」と言ってきた。したの住人だった。パソコンは振動に弱いと
怒ったように電話を切った。
本気で痩せなきゃ。自分に言い聞かせ、決意を新たにする美子だった。

86街 細井美子編sage04/04/2017:30ID:LyjFK+4i
― 2日目(10月12日木曜) ―

肉だ。美子はむさぼりついている。だが、一枚の肉に洋一の顔があった。
「俺はお前に食われるのはイヤだ!」

夢だった。夢の中で洋一の肉を食べていたのだ。
気持ち悪くなり、胃の中のものを全て吐き出してしまった。水も我慢した。
体重計に乗ると、63.2キロ。1キロ減っていた。

ジョギングに出て、走った。お腹にラップを巻いて、その上にジャージを着て。
帰宅してまた体重計に乗る。62.5キロ。エステ後と同じだ。喜ぶが、お腹は空いている。
冷蔵庫を開けてみる。そこは誘惑の宝庫だ。誘惑に負けてプリンを一つだけ食べる。
だが、今朝の夢を思い出し、気持ち悪くなって吐き出してしまった。
空腹に耐えながらバイトへ向かった。途中、薫が呼び止めるので一緒にバイト先へ向かった。

バイト中、雑誌の整理陳列をしていると、女性誌中にあるダイエットの記事が気になる。
はっと気付くと、雑誌を散らしながら歩いていたのだ。そんな姿を薫は心底心配した。
気分が悪いなら休んだ方が良いと言われたとき、空腹で倒れてしまった。

お昼のランチ時間。薫に連れられ、美子はカフェでランチを注文してしまった。
倒れるほどの空腹だが、誘惑に負けるわけにはいかないと、料理に手をつけなかった。
薫が食事を終えたとき、いつもは真っ先に食べ始める美子が今日は食べないところを見て、
ダイエットしてるのかと薫が問う。だがダイエット中なことは隠しておいた。

バイトに戻ると、顔色が悪い美子を心配して、薫がいたわってくれた。
美子はおつりを間違い、レジの内箱を落とす。薫はそれでもいたわってくれた。
病院へ行ってと言う薫。美子は空腹なだけだが、優しさに従って病院に行く為街へ出た。
空腹と薫の優しさに、涙がこぼれ、空を見上げると、雲がドーナツに見え、誘惑に負けた。
ドーナツ屋へ入り注文し、店員がドーナツを準備しているとき、洋一に似た高校生を見つけた。
だが彼は全くの別人。誘惑を断ち切り、店を出た。
喉が渇き、空腹も耐えがたい。悲しくなったとき、空から水滴が落ちてくる。雨だ。
涙が流れた。雨の雫で喉を潤した。嬉しくなって、洋一に電話するが、つながらなかった。
バイトへと戻ると、薫が心配してくれていた。顔色が良くなった美子に安心した。

バイトが終わり、薫と帰宅する途中、以前約束していたイタリア料理屋へ行こうと誘う薫。
だが、誘惑に負けず、美子は断った。その足でデパートへ向かった。
来ているのはやはり体重計のあるフロアだ。今日も同じ体重計に乗る。63.1キロだ。
体重は変っていない。帰宅することにした。
自宅の体重でも全く同じ数値。美子はショックを受けているそのとき、玄関チャイムが鳴った。
そこに居たのは、ドリーム通商のセールスマンの男だった。
男は食べながら痩せられるダイエット商品があるという。美子はそれに飛びついた。
契約書にサインし、男に渡す。すると、男は電話で会社に連絡した。
「タナカです!クッテヤセール4千年ドリームパック・・・」
だがそれは間違った先につながる。何とか会社に連絡でき、後ほど届けると言うことになった。

商品が届くと、早速中を開けた。中にはふ菓子みたいなものや、りんごなどが入っていた。
全て食べ終えて、中を覗くと、一枚の紙切れが入っていた。
「一日一品が適当です」と書かれていた。一箱一日分と思っていた美子。
慌てて体重計に乗ると、65.1キロになっていた。
これでは洋一に会えないと地団太を踏み、どたばたと転げまわっていると、電話が鳴った。
下の住人からだ。イノシシでも出たかと。電話を切ると、イノシシとは酷いと暴れた。
また電話がかかってくる。下の住人だ。クマかカバでも出たかと言われ電話が切れる。

・・・・・・でもヤセなくっちゃ・・・・・
決意を新たにする美子だった。

87街 細井美子編sage04/04/2017:31ID:LyjFK+4i
― 3日目(10月13日金曜) ―

自分がビア樽になり、洋一に蹴られる夢を見た。
起き上がり体重計に乗った。64.5キロ。減っていなかった。涙が溢れた。
今朝もジョギングをする。途中、代々木公園で、老人と出会った。
彼は気孔と、様々な痩せるツボを教えてくれたが、結局美子には下痢になっただけだった。
そのままバイトへ向かう。途中で薫に会い、一緒にバイトへ向かった。
バイト先の給湯室で、薫は美子の体調を心配し、本当のことを言ってください!と告げた。
美子は自分がダイエットしていて、食事をしていないことを言った。
こうしないと、洋一と別れないといけないということを。
薫は痩せている。それがうらやましくて今まで黙っていたのだ。
薫も美子に協力すると言ってくれ、親友でしょと笑ってくれた。美子は嬉しかった。

フロアに戻って、本の整理を始めた。
そんなとき、先日出会ったヒッピー風の男が言い寄ってくる。一目ぼれしたという。
彼の言葉は少しおかしい。バカにされていると思った美子は、怒って行ってしまう。
それを見たヒッピー風の男も、悲しくなり、店から出て行った。
休憩室で泣いていた美子を、薫が慰めてくれるが、また痩せることの決意を新たにした。

美子はバイトを切り上げ、次の写真屋のバイトへ向かう。
少女が「中島哲雄」と言う名前で依頼してきた。でも美子は機械的に仕事をこなす。
「中島哲雄様ですね2時ジャストのお渡しになります。ピー」
次の男も同じ名だ。次々と来る客に、次々と機械的にこなす。
ピー。バーコードの読み取り音をまねして言っているだけなのだが。
なんとかバイトも終え、店を出ると、薫と会った。
ダイエットの手伝いをして!と強引に薫と共にデパートへ。
体重を量ると63.3キロ。薫は折れ線グラフを作ると励みになると言ってくれるので、
文具売り場で文房具を購入する。
帰り道、空腹で倒れそうになっている美子を心配し、少しは食べた方がと言われるが、
誘惑に負けないよう、薫と別れてダッシュで自宅へと帰った。

絶対に痩せてやる。心に決め、折れ線グラフを作る。まだまだ目標には程遠い。
食べ物が入っている冷蔵庫や引き出しに、洋一の写真を貼り、封印した。
玄関チャイムが鳴った。あのセールスマンだ。商品の具合を聞きにきたのだ。
だが、美子は怒って締め出した。
風呂に入り、熱い湯を継ぎ足し、汗をかいた。途中でい眠ってしまった。
目覚めると、既に湯は水になっていた。冷えた体を拭き、体重を量った。
63.5キロ。増えていた。風呂に入って汗をかいたのにと床に転がりまわった。
また電話が鳴った。下の階の住人だ。言い争った後、電話が切れた。
ベッドへと移動した美子。寒い。お腹すいた。このままじゃ死んでしまう。
ガタガタ震えながら、布団にもぐりこんだ。

88街 細井美子編sage04/04/2017:33ID:LyjFK+4i
― 4日目(10月14日土曜) ―

朝目覚めてから体重を量るが、変りはない。空腹で胃が痛む。
胃薬を探すが、見つかるのはお菓子だけだった。
街へ出る美子。そこでまた薫と出会った。胃薬持っていないかと聞くが、薫は持っていない。
美子の空腹を見ていられないと二人で喫茶店へと入った。薫はどこかへ電話していた。
戻った薫。テーブルにはランチセットが届いていた。
無理なダイエットをしてもリバウンドすると忠告する薫。
明日までには痩せないといけない美子。怒ったように店を出た。
美子を追って薫が来た。本気で無理なダイエットをしないでと忠告する。
だが、薫の容姿が綺麗なため、嫌味だ思った美子は、写真屋のバイトへ行ってしまった。

バイト中、またヒッピー風の男が来る。現像に来たのだ。適当にあしらって、追い払った。
さっさとバイトを切り上げ、歩いていると、洋一と薫が話しているところを目撃する。
洋一と薫が突然抱き合った。ショックでよろめく美子。
景色がゆれた。地面まで揺れているようだ。美子はその場を逃げ出し、走った。
街中の人々がよろめいた。みんな驚いている。
バカにされたと思った美子はそのまま自宅へと走り帰った。
しょげていると、電話が鳴った。薫だった。洋一を盗った泥棒と言い、電話を切る。
怒る気力も残っていない。三度目の電話で、電話線を引き抜いた。
床にへたり込む。意識が薄れ、夢を見る。洋一と楽しく過ごしている夢だ。
ここで負けるわけにはいかない。決意を固め、ランニングを始めた。

途中、喉が渇き、我慢ができずに池へ飛び込んだ。すると、ワニが居て、尻を噛まれた。
今の美子には、ワニも美味しそうに見え、噛り付いた。ワニは逃げ、一人立ち尽くしていた。
池から上がり、ベンチに座っていると、キャベツ教の信者と名乗る女が来る。
訳の分からないことを言われ、腹が立ち、彼女の手に持つキャベツを取り上げ、かぶりつく。
そのとき突然後ろから殴られ、気絶した。女性が殴ったようだ。
気が付くと、ベンチの上だった。頭に大きなコブができ、自宅へ戻って薬をつけた。

公園通りを歩いていると、学生服を着た大男「大山種五郎」がナンパしてくる。
彼の横に立つと、彼の大きさと比較されて自分は細く見えた。気を良くする。
一緒に食事をしようと言うので、誘惑に負けて店へ向かった。
メニューを見ると、やはり誘惑に負け、全ての料理を持ってきてと注文してしまう。
それを一気に食べつくしていく美子。大山との会話はかみ合わない。
散々薫のことや洋一のグチをこぼし、憂さ晴らしをしながら全ての料理を食べつくす。

店を出た。話していると、二人は撃たれた。
赤いジープ乗った、アヤシイ男達が、銃を構えて撃っていた。が、それは空気銃だった。
気が付くと、ジープの方では撃った男達が、長身の男に殴られ、弓で撃たれていた。
殺されて食べられる!そう思った美子は、大山を残しその場から逃げた。
途中宇宙人にさらわれそうになるが、脂肪値異常と、放り出され、なんとか自宅へ帰った。

現在の体重は60.4キロ。目標値は遠い。怒りに任せどたばた暴れた。
虫の知らせで電話がかかって来る気がして電話線を繋ぐと、電話が鳴った。
取ると、下の住人だった。デブと言い残し、電話を切った。
また怒りに任せて暴れる。また電話がかかってきた。留守電にメッセージが入る。
下の住人からだった。美子はまた怒りが残った。

89街 細井美子編sage04/04/2017:34ID:LyjFK+4i
― 5日目(10月15日日曜) ―

美子は夢を見る。自分が痩せて、ウェディングドレスを着ている。
だが、洋一は薫に盗られるというものだ。飛び起きた。勢いでベッドの底が抜けた。
玄関チャイムが鳴り、出ると、薫だった。
心配して来たのだが、美子には薫が馬鹿にしに来たのだと思った。
どうせ私の気持ちなんて分からないでしょと言う美子に、
薫は自分も小学生のとき太っていていじめられたから、痩せたのだと言った。
だから無理はして欲しくないのだと。だが洋一を盗られた事を怒って、薫を追い出す。
まだ親友だよね?と扉越しに話す薫に、知らない!と答えた美子。
悲しくなり、薫はお大事にとだけ告げ、帰っていった・・・。

体重計に乗った。60.0キロ。あと13キロだ。
服を重ね着し、ストーブを点け、蒸し風呂のような部屋にした。
大量の汗をかき、タオルで拭いてはバケツに絞る。
一時間が経った。あと12.5キロ。二時間が経った。あと12.4キロ・・・。
四時間が経った。喉が乾き水を飲もうとしたが、自分で封印していたのだ。
機械になればのどの渇きも忘れる!そう思い、ただひたすら機械的に作業をこなす。
汗を拭き、体重を量り、グラフに書き込む。
次第に暴れ始める。床に、壁に、机に、体重計に様々なところに頭を打ち付ける。
そのとき電話が鳴った。洋一かと思い、電話に出ると、下の住人だった。
「俺の留守中に二度と暴れるな」という。美子はキレた。
「どうせあんた、オタクなんでしょ!この鬼!悪魔!人殺し!」と。
だが下の住人は苦笑し、人殺しじゃない。爆弾犯でもない。シャチテの悪魔だと言った。
馬鹿にして!と電話を切り、またダイエットに励んだ。

7時間が経過した、体重は47キロを指していた。
ついにやったと、服を着替えて街へと出た。
ヒッピー風の男とまた出会った。なんという醜さ!と肩を落としている。
変な奴だと思った。だがマサカと思い、ショーウィンドーに自分の姿を映す。
その姿は痩せてなどいなかった。唇は紫に、目は血走っていた。
ヒッピー風の男に散々醜いといわれ、耐えられずその場を去った美子。

部屋へ帰り体重計に乗ると、確かに体重は47キロ。
記憶を手繰った。・・・そうだ。体重計にも頭を打ちつけ、狂わせてしまったのだった。
ショックのあまり笑い出す。もうどうにでもなれとヤケになった。
そのとき、玄関チャイムが鳴った。あのセールスマンだった。
怒りをぶつけた。彼は新商品があるという。契約書にサインし、今すぐ持ってくるように言った。

90街 細井美子編sage04/04/2017:35ID:LyjFK+4i
5日前に来た喫茶店に美子は来ていた。洋一も遅れて来た。
美子はヤセていた。
洋一は沈黙した。美子は薫との事を問いただした。
あれはちょうどそのとき地震があったのだ。よろけた薫を支えただけだという。
新聞にも地震のことが載っていた。
あのとき、薫に洋一は怒られたという。5日で17キロ痩せるなんて殺す気かと。
洋一の本心は、太っているのがイヤだったわけではない。
太りすぎて早くに死んだ自分の母。美子が母と同じになって欲しくなかったからだった。
嬉しくて美子は泣いた。美子は、本当は痩せていない。痩身用ギプスをしているだけだ。
黙って洋一はプレゼントを美子に渡した。中身は痩身用クリームだった。
今日は二人にとって記念日だったのだ。これからは少しずつ痩せてくれと洋一は言った。

2時間後、すっかり元通りになった美子と洋一は、腕を組んで歩いていた。
そして夜空に大きな花火があがった。

「ようちゃん、ドーナツとシュークリームといちごパイ食べに行こっ!」
洋一を引きずって行く美子。
「おい、待て・・・この裏切り者ぉぉぉぉぉ・・・!」

洋一の叫び声は、渋谷の街いっぱいに響いた。


「やせるおもい」完

76街 篠田正志編sage04/05/0611:52ID:HMiK/V0f
篠田 正志「七曜会」グッドエンド
― 一日目(10月11日水曜) ―

篠田正志は金曜日だった。

正志はいたって普通の21歳の大学生。
就職を控えてはいるが、父親のコネで大手企業に内定が決まっているため、それも問題ない。
渋谷の交差点。正志は「日曜日」と名乗る謎の美女と出会う。
連れて行かれた先の喫茶店で、日曜日は正志に一枚の写真を見せる。
それは、強引に参加させられた「学生デモ」の写真だった。
正志は知らなかったが、過去正志の父も同じく学生運動をしていた。
2世代に渡って過激派だったとなれば、内定の取り消しも確実だろうと脅される。
過去、同じような状態になった、人は、自殺をしたとまで言われる。
写真をばら撒かれたくなければ、この写真と引き換えに300万円用意しろと脅迫され、
当然支払うことができない正志に、日曜日は新たに選択肢を提示した。
「破滅か、支払うか、もしくは・・・」

金 曜 日 に な る の よ

理解ができないでいる正志。
謎の組織、「七曜会」のメンバーになれば、今まで暗号でしかなかった金曜日を、
コードネーム「金曜日」として使用することになる。
散々迷った挙句、正志は金曜日となった。・・・が、1万円の支払いはあった。
金曜日になる=日曜日の忠実な下僕。
日曜日の命令は絶対であり、逆らうことは許されない。という条件着き。
最初の命令は、「津川佳代子」という社長夫人を、渡すネタをもとに脅してこいというのである。
平凡な大学生とはうってかわった展開に圧倒されつつも、正志は安定した未来を死守するため、命令を飲んだ。

MISSION 1 「津川佳代子 脅迫」
ターゲット「津川佳代子」の脅迫ネタは、彼女の不倫。
社長夫人という立場を利用して夫の部下をつまみぐいしているらしい。
佳代子に近づき、脅迫をかける。佳代子は動揺し、値段を正志に聞いた。
正志は人差し指を立てるが、佳代子は1億もしくは1千万と理解する。
しかし、正志の指している金額は一万円。
自分の脅迫のネタが、たったの一万円という事に腹を立てた佳代子。
ネガを渡してくれない限り、支払いは絶対しないと返された上、
さっきまでの脅迫の会話をテープレコーダーで録音されており、困惑する正志。
そのとき、日曜日は通りすがりでぶつかったふりをして、テープを正志に渡した。
テープの中身を聞いた佳代子は、顔色を変え、一万円を投げつけるように正志へ支払った。

77街 篠田正志編sage04/05/0611:54ID:HMiK/V0f
なんとか成功した。
日曜日と移動中、正志はさっきのテープの中身に一体何が入っていたのか気になり、日曜日へ聞いた。
すると、盗聴器を持ち出し、こんな手もあると言う。テープのコピーを聞かせるため、
邪魔されないように、ゲームセンターへと移動した。
そこで、テープのコピーを聞く正志。それは佳代子が不倫相手へ自分の夫を殺して欲しいという内容で、
殺した後は、不倫相手が会社を乗っ取り、自分達のものにしようと言っていた。
殺人は立証できないが、脅迫には十分の内容だという日曜日。
そして、正志へ佳代子から奪った巻き上げた一万円を報酬だと言い、渡した。
取れるだけ取れば良いと言う正志に、この一万円が数億円になると言い放つ日曜日。
驚く正志に、七曜会とはそれだけの力があると言い、「七曜会、渋谷支部」へと案内した。

案内された『七曜会』渋谷支部は、宮益坂の古びた雑居ビル「オカヤマビル」の7階。
そこで正志は脅迫同然で「誓い」をたてさせられる。

 我は誓う、七曜会の会員として、
 七つの巡礼を行い、七つの位階を極め、
 七つの生贄を捧げる。
 ここは混沌の大地。
 七つの道が走り、七つの川が流れる七つの丘。
 七つの柱の神殿はここにそびえたり。
 我等は七つの法に従い、七つの法に生き、七つの法に殉ず。

「 チ ン チ コ ー ル ! 」
(「チンチコール」は、挨拶みたいなもんだと思っていただければ理解しやすいかと。)
暗闇の中のろうそくに照らされた数人が、唱和すると、隣の部屋へと移された。

ついに『七曜会』正式メンバーとなってしまう。
メンバはそれぞれ曜日の名前を持っており、全部で7人。
月曜日は、詩人でハムレットヒッピー
火曜日は、ガラの悪い岩石男
水曜日は、セーラー服の女子高生
木曜日は、入れ歯手品の老紳士
金曜日は、正志
土曜日は、オカマのハンサム
日曜日は、ミステリアスな美女

日曜日が、他メンバーにミッション1を成功したことを告げると、正志は「津川」という名前を出してしまう。
個人を特定する名称を出すことは、ルール違反だと、言う水曜日。
処分をするべきだと決まり、執行官は水曜日となった。
そして、水曜日は正志に強烈なビンタをした・・・。
解散ということになり、正志を残して皆その場から出て行った。
正志一人になったと思ったが、水曜日が残っており、処分を受けた者は処分者に従うルールを教え、
ホイッスルを吹き鳴らし、「教官のしるし」と教育的指導をする。
セーラー服の女子高生である水曜日。どうしても正志の考えはみだらな方へと向いてしまう。
すると、水曜日はホイッスルを吹き、イエローカードを出した。
レッドカードは「めくるめくお仕置き」で、イエローカードは「めくるめく奉仕」だ。

めくるめく奉仕。それはトイレ掃除だった・・・。
それが終わると、水曜日に連れられ緑山学院高校の前までやってきた。
ターゲットを見つけた。冴えないメガネの男「青井則生」だ。
そのとき、水曜日は大きく笛を吹いた。正志が水曜日に体を押し付けたからだ。
セクハラは厳禁。これもルールの一つであった。レッドカードを渡され、処分は後ほどと言われる。
指令カードと資料の入った封筒を水曜日から受け取り、監視の目は常にあるこを告げられた。

78街 篠田正志編sage04/05/0611:55ID:HMiK/V0f
MISSION 2 「青井則生 脅迫」
正志は、ファンであるかのように話し出し、手紙で呼び出した本人だと言い、喫茶店へと移動した。
青井は正志が編集社の人間だと思い込んでいる。
青井は作品の取材を名目に、人の秘密を探しているのだ。それが脅迫のネタだった。
一枚の写真を取り出し、青井に見せ、校内をスパイしてその人が困る相手へチクっていると脅す。
チクリメモまで見せるが、校内での嫌われ者である青井にとっては、それが知られたところで、
状況は変らないと強気だったが、正志が「チクる理由は、友達が欲しいからだ」と言うと、
動揺する青井。喫茶店内にあった雑誌「月刊ドエロH2」に連載されている青井の漫画内にも、
そのエピソードが登場人物を通して描かれていた。だが、青井は漫画のなかの事だと動揺しない。
そのとき、青井が弱みを握っている相手である「飛沢陽平」が店に入ってきた。
もうダメだと思った青井。テーブルに突っ伏し、すっかりおとなしくなった。
正志の脅迫は大詰めだ。日曜日からの指令書を読み、3つの選択肢を言った。
「破滅か、300万払うか、1万円払って水曜日になるか」
だが、水曜日は現在セーラー服の女子高生だ。正志は彼女のことが好きになっていた。
最後の指令はごまかした。「一万円払って、水曜日に残りの299万円を支払うか」と。
青井は一万円を支払い、トイレへと駆け込んだ。
正志が後を追ってトイレへ行くと、既に青井はトイレの窓から逃げていた。
突然後ろから笛が鳴った。水曜日だ。サボったと言う水曜日に、もう会えなくなるのがイヤだと言う正志。
日曜日にはこのことを報告するとだけ言い、正志は青井と同じ経路である窓から外へ出された。

教官交代。水曜日から、ゴツイ男である火曜日が正志に付き、次のターゲットの指示をして移動した。

79街 篠田正志編sage04/05/0611:56ID:HMiK/V0f
MISSION 3 「川添研一 脅迫」
渋谷区役所勤務の川添だ。彼は万引きがクセだった。それが今回の脅迫内容。
正志は一枚の写真を取り出した。レコード店で万引きしている写真だ。
そして1億円支払えと要求する。支払えないという川添は、すっかり開き直り、警察に言うと言い出した。
写真は好きにしてくれと言う川添。正志は噴水へとその写真を投げ捨てた。
川添は精一杯虚勢を張って、その場を去っていった…。

後ろから火曜日がハリセンで正志を殴る。だが、正志は作戦だと言った。
写真が気になって、川添は必ずこの場へ戻り、写真を取り戻すだろうと。しばらく待つことにした。
15分後、川添は噴水へと戻ってきた。火曜日は川添に逃げられたと思っていたようで、
日曜日にばれることを恐れていた。火曜日も日曜日には頭が上がらないようだ。
正志は川添の元へと行き、声をかけると、飛び上がるほど驚く川添。
噴水の中の写真をびりびりと破り、食べてしまった。が、写真の焼き増しは正志が持っていた。
コンビニでも万引きしていることを知っていた正志は、7時にコンビニで新しい写真の発表があると告げ、その場を去った。

まだ7時まで時間があると、パチンコ屋へ行った。
あっという間に負けた。隣の台の男は余裕を見せ、皮肉に笑う。負けたくないと思い、もう一度賭ける。
だが、結局当たりのないまま終わった。隣の男もあたりはなかった。
二人の目が合い、小さく照れ笑いを浮かべ、無言のままパチンコ台を後にした。

コンビニへ行くと、川添の姿があった。正志を見つけた川添えは、写真はどこだと聞いてくる。
写真は「月刊ドエロH2」の表紙に糊で貼られていた。なんとか引っぺがした。
正志は店の名前は言っていない。ただ、万引きをしたコンビニと言っただけだ。
川添は自ら、このコンビニで万引きしたと認めたようなものだった。まだ川添は認めようとしない。
正志は大声で言った。「昇進はナシ、よくて左遷、悪ければクビの話ですよ!」と。
さらに追い討ちをかけるように写真はいたるところに貼られていた。必死で剥がしていく川添。
そこへ正志は提案した。「1万円にまけましょう」と。すると川添は、即座に支払った。
ふらふらと外へ出る川添に、言い忘れたと言って、正志が来る。
一万円支払って、火曜日になるの「火曜日になる」を言い忘れたと告げた。
逃げ出す川添を、火曜日が後を追った。

後ろから日曜日に声をかけられた。すっかり脅迫に目覚めてしまった正志。
彼女に連れられ、フランス料理店に入った。
生まれて初めてのフルコースと高いワインを食し、正志はほろ酔い気分になる。
そして質問した。「七曜会の目的はなんだ」と。
しかし、日曜日は「全て終わってから。あと4人」とはぐらかされた。

自宅に帰った正志はベッドの上で寝転び、眠れないでいた。
レッドカードを見つめ、水曜日のことを思う。
正志はレッドカードを抱きしめて眠った。

80街 篠田正志編sage04/05/0611:57ID:HMiK/V0f
― 2日目(10月12日木曜) ―

代々木公園で、木曜日と待ち合わせをし、新たなターゲットの情報を得る。
老人のたわごととも取れる話に付き合いながら、ターゲットが居る美容院へ。

MISSION 4 「内藤 淳 脅迫」
美容院のチーフである内藤は、麻薬に手を染めている。取引現場の写真が脅迫内容。
店内で話をするので、不自然にならないよう、髪を切りながら話を進める。
2000万用意しろと値段をふっかけるが、当然用意できるものではない。
大声で麻薬に関する知識を言って他店員に注目させるなどの手法をとった。
だが、ハサミを持つ内藤の手は、正志の喉下へ持って来て、逆に脅迫するが、
他の店員が怪しむ行動になるので、結局は正志の脅迫が勝つ。
2000万円は用意できないなら1万円にまけておくと、脅迫用写真と1万円を交換した。
店の外に正志が出ると、内藤も後を追いかけてくるので、七曜会に入ることを進めて立ち去った。

交差点で日曜日と会い、内藤からもらった1万円を渡す。
七曜会の目的を聞くが、上手くかわされ、ハチ公前へ行けと指示される。
ハチ公前で、月曜日であるヒッピー風の男と会い、次のターゲットの指示をされる。

MISSION 5 「保科星子 脅迫」
喫茶店で昼食を取りながら、星子待つ。現れたのは、ブランドに身を包んだ女だった。
彼女は今銀行員として働いているが、夜にはステージで一枚一枚脱ぎながらステージで踊っている。
それが今回の脅迫内容。謎のマスク美女が踊っている写真5枚が脅迫アイテム。
写真一枚1000万円。5枚で500万と適当に値段をつける正志。それくらいならステージで稼いでいるだろうと言うが、
彼女はそのお金を全て、買い物に使ったと言う。確かに高そうなブランドを身に着けているわけだが。
結局正志は1万円にまけておくと言う。突然の変わりように星子は疑うが、一万円の支払いに応じる。
今は持ち合わせがないので、支払いは銀行の窓口ですると告げると、店から出て行った。

正志は約束の時間までまだ時間があったので、またパチンコ店へと向かった。
するとまた、昨日のパチンコ男と出会い、第二ラウンド開始。しかし正志は2個差で負けた。

銀行窓口で星子と話す。さっきの姿からは想像できないほどの清潔感と勤勉さが見えた。
用意した1万円は、星子の名前で新規口座に入っていた。暗証番号とカードと通帳を受け取り、ATMへ。
だが、結局暗証番号はニセモノで、けたたましい警告音が鳴り、警備員に捕まる。
星子が対応に出てきて、一部始終が監視カメラで撮られている上に、カードや写真には
正志の指紋があることを告げられピンチになるが、結局は1万円を支払ってくれた。
私と組まない?と言われ、さっきの喫茶店で6時半にもう一度会う約束をした。

スクランブル交差点で、土曜日と会い、次のターゲットの情報を得る。
二人でターゲットの居る場所へと向かい、土曜日はそのまま去っていった。

81街 篠田正志編sage04/05/0611:58ID:HMiK/V0f
MISSION 6 「海塚正治郎 脅迫」
海塚は、元代議士であり、家は大豪邸だった。その家に一人で住んでいるため、勝手に上がることにした。
いつも居るという部屋に行くと、布団があり、誰かが寝ている気配があったので脅迫を始めた。
脅迫の内容は、40年間の代議士生活中に、収賄容疑が18回あったが、ことごとく回避した。
だが、実際は80億円相当の金塊をどこかに隠しているのではないかということだ。
布団から出てこない海塚に、起きてくださいとかけ布団を引っぺがすが、中で寝ていたのはワニだった。
野良ワニは、そのままどこかへ行ってしまうと、庭に海塚が居た。
彼は車椅子に乗り、一人でそこに居た。閣下をゆすりに来ましたという正志だが、海塚はバカにするだけ。
空を見上げ、雲を動物の形にできるなどと言われながら、ただひたすら海塚老に付き合う正志。
商談(脅迫)に入ろうとすると、警察を呼ぶぞと電話をかけはじめる。
「総監、海塚だ」と名乗り、警視総監と話している様子だ。(実際は市川に電話しているのだが。)
海塚に付き合う!と慌てて正志が言うと、海塚はとっとと電話を切った。
が、しばらくすると空は曇り、雨が降り出した。
布団のある部屋へと戻り、脅迫内容を話すと、金塊があるならここに出してみろと言う。
すると正志は敷き布団を引っぺがす。そこには敷き詰められた金塊があった。
口止め料として500万円を要求する正志。応じなければこのことを公表すると言ったそのとき、
突然海塚はボケた振る舞いを見せた。正志を自分の息子のように話し始めたのだった。
フミヒロ、父さんが悪かったと、涙を流しながら言うその姿に、正志は可哀想に思えてきた。
息子3兄弟の文弘、文靖、文丈さらには自分の半生について語り始める。思わず父さんと答えた正志。
海塚はまだボケたままだったが、散歩に出る事になった。
途中、東北訛りの警官に出くわすと、焦った正志は1万円に値段を下げる。すると海塚はすんなり支払った。
1万円を受け取った正志は帰ろうとすると、海塚に止められ、さっきまでボケていたのは演技だったと自白する。
だが、実際に息子の姿と重なって見えた正志に、本当に涙が溢れたという。常に独りでいるのが寂しかったのだ。
訪問料として、次も1万円を渡すから、またゆすりに来てくれと言う海塚に、正志は七曜会に入ることを進めた。

星子との約束までまだ時間があったので、パチンコで時間を潰し、喫茶店へと向かったが、
星子は既に帰った後で、店員が封筒を預かっていた。中にはストリップショーのチケットが入っていた。
正志はその招待を受けることにした。

舞台には星子が居た。ショーが始まり、途中までは見ていたが、そのまま見ていられず、
外へと飛び出していった。しばらく外の空気で頭を冷やしていると、星子が出てくる。
会話しながら昨夜日曜日と共に行った店へと二人で入っていった。
星子の身の上話をした後、七曜会の話をする。
何故1万円なのか、1万円は一度きりなのか。ノルマは何人なのか、その後どうなるのか。
ネガはいつもらえるのか。七曜会の目的は何か。
正体の分からない組織に何故従うのかと訊く星子。だが正志は上手くかわした。
好きなコができたんだと悟る星子。図星だった。星子は一緒に組もうと言い出す。
七曜会のやっていることは、結局ネズミ講だ。オリジナリティはユスリ写真を売りつけるところだけ。
上手くすれば、七曜会ごと乗っ取って、二人で美味しいところだけもらえる。
だが正志は組むとは言っていないと立ち上がったそのとき、水曜日が店に入ってきた。
水曜日は「ピンクカード一枚」と言い、立ち去ってしまった。
後を追うように正志も店を出たが、もうどこにも水曜日は居なかった。が、日曜日がそこに居た。
残すターゲットはあと一人で、付き添う教官は水曜日だと言う。
今日そのターゲットを終わらせてしまう!と宣言する正志だったが、ターゲットの名前と職を見て、
明日にすることにし、日曜日と別れた。
渡されたメモには、こう書かれていた。

氏名:白峰忠道
職業:暴力団経営
肩書:関東白峰組組長

正志はショックを受けた・・・。

82街 篠田正志編sage04/05/0611:59ID:HMiK/V0f
― 3日目(10月13日金曜) ―

ハチ公前。教官である水曜日を待った。彼女に恋する正志は時間が長く感じる。
やってきた水曜日は、指令書などの入った封筒を渡すと、がんばってねと立ち去ってしまった。
一緒に乗り込むのだと思い込んでいた正志は悲しくなったが、コレが終われば!と意気込んだ。

MISSION 7 「白峰忠道 脅迫」
指令の場所は百貨店の地下駐車場。そこに行くと突然黒ずくめの男たちに奥へと促された。
そこには黒塗りのベンツがあった。スモークガラスが降りると、そこには白峰が居た。
乗れと言われるが抵抗すると、男達に取り押さえられる。大声を出すと、警官が飛んできた。
正志は上手くその場を切り抜ける。白峰が車から降りて、もう帰れと逆に脅される。
だが、正志は引かず、脅迫の内容である、外国の麻薬カルテルとの取引について話をはじめる。
しかし、結局はボコボコにされ、正志は気を失った・・・。

気が付くと公園のベンチで寝ていた。あたりには酒瓶が転がっている。
立ち上がると、目の前に長身で筋肉質な軍隊から抜け出したような、妙な男が立っていた。
また白峰の手先かと思った瞬間、殴られてまた気絶した。
夢の中ではベテランのユスリ屋になっていた。
目覚めると、すっかり日が落ちていた。

電話ボックスに入り、日曜日に報告をしていると、白峰組の手先と思われる数人の男が見張っていた。
とにかく新しいゆすりのネタをくれと催促し、電話が切れてもまだ話している風を装った。
そのとき、キャベツ教の女性が正志に近づき、電話ボックスが爆発すると言われ、離れた。
すると、誰かが何かを電話ボックスに投げ入れた直後、爆竹のような破裂音がした。
正志の後ろから日曜日の声がした。明日午前10時に喫茶店で待てという内容だ。
ヤクザたちはもう居なかった。正志はその場を走り去った。

雨が降り出し、やるせない気持ちで壁に怒りをぶつけると、目の前にはあのパチンコ男が居た。
第三ラウンド開始だ。並んでパチンコを始める。今日の正志はすぐにフィーバーが来た。
だが、パチンコ男は大当たりになった瞬間、玉がなくなった。
正志は一握りの玉を、パチンコ男に分けてやる。
男の隣の女性もちょうど大当たり直後に玉が切れたらしく、彼が彼女に正志がしたことと同じ事をした。
二人は見合い、今日は良いことをした気分になり、どちらが勝ちでもいいように思った。

83街 篠田正志編sage04/05/0612:00ID:HMiK/V0f
― 4日目(10月14日土曜) ―

昨夜約束した喫茶店で、日曜日と待ち合わせし、昨日の正志の様子を映したビデオテープと
新しいユスリの資料を受け取り、組事務所へ向かった。
組員達に乱暴な迎えられ方をされるが、組長に取り次いでもらうことになり、応接室で待った。
すると美少年風の組員が入室して、お土産を先にもらって来いと言われたと、ビデオテープのみを奪われた。
本当に見せたい資料は見せる間もなく、立ち去ってしまった。
しばらく待つと、大男の組員に襟首をつかまれ、地下駐車場へと連れて行かれた。
そこでは白峰がゴルフの練習をしていた。散々脅しつけられた後、正志を殺して海に沈めるという話が出る。
正志は必死で、ブツはまだある!と叫ぶと、白峰にビルの屋上へと連れて行かれた。

ビルの屋上で、ブツ(脅しの資料)を大松と呼ばれた大男が取り上げ、白峰に渡した。
白峰は、もし自分が蒼くなるほどの内容なら助けてやると言い、大松に合図する。
すると、大松は正志をビルの上から中吊りにした。ブツを確かめる白峰。
白峰は血の気が引いていく。そして大松に命じた。正志は空を飛んだ・・・。

地面が揺れる。地震だ!と目覚めると、そこには七曜会のメンバーが居た。
正志はビルの屋上で気を失っていて、七曜会の事務所に運んでこられたのだという。
助かった。ノルマである7人は全て終了した・・・が、白峰から1万円を受け取り損ねていた。
もう組には行きたくない!と駄々をこねていると、水曜日がやってきて、栄養剤といって飲み物をもらった。
一気に飲み干すと、力が湧き、七曜会を後にした。

白峰組へ来ると、大松が取次ぎ、事務所で1時間ほど待たされた。
遅いと思い扉を開けようとするが、鍵がかかっていた。閉じ込められたと思っていると、
美少年風の組員が入室してきた。殺される!と思う正志。だが、美少年風の組員は、1万円札を懐から出し、
正志へと渡し、出て行った。これから殺されるんだと思ったが、外へ出ても何もなかった。
逃げよう!と走り出したそのとき、ベンツが飛び出してきた。白峰だ。
正志を乗せ、そのまま走りだした。

小一時間ほど走り続け、運転席側との間に仕切り板を降ろし、後部座席を密室にしてから白峰は言った。
白峰の娘である「るい子」は、実の娘ではなく、兄弟の契りを結んだ男の娘なのだという。
当時まだ組員だった白峰は、当時の組長の命令で兄弟を殺しに行くことになった。
男の潜伏先へ行くと、男は娘のために殺さないでくれと言ったが、白峰は、娘は自分が育てると言い、殺したのだ。
当時まだ男はるい子の出生届を出していなかったため、戸籍は白峰の戸籍にできた。
白峰自身、子供が作れない体だったため、欲しかったができないで居た。出生届を出した後自首したのだという。
白峰を蒼くしたブツとは、このことだったのだ。
正志は、決して口外しないと約束し、七曜会の入会を勧め、白峰と別れた。
走り去る車を見送っていると、後ろから日曜日が声をかけてきた。
白峰の1万円を日曜日に渡し明日七曜会の事務所に来るよう言われ、別れた。

軽い足取りでパチンコ屋へと向かうが、今日はまだあのパチンコ男は来ていなかった。
30分で3万円と懐を暖かくするほど儲けて、景気付けにと酒場へと入っていった。
バーボンを頼み、飲んでいると、騒いでいる男女(美子たち)がいた。
しばらくすると、あのパチンコ男がやってきて、二人で飲み比べが始まった。
結局パチンコ男は酔いつぶれ、先に店から出て行ってしまう。支払いは正志がする羽目になった。
パチンコで稼いだ3万円全てここで使い果たすことになった。

84街 篠田正志編sage04/05/0612:01ID:HMiK/V0f
― 5日目(10月15日日曜) ―

足取りも軽く、七曜会の事務所へと向かう正志。
事務所内に入ると、一枚の紙がテーブルの上にあった。マイクを通した声で日曜日が昇格式だという。
紙には「本日をもって、日曜日に昇格することを認む」と書かれていた。
金曜日の職務を終えたので、日曜日に昇格なのだという。
部屋が突然暗くなり、ろうそくが何本も燈る。入会式のような儀式がまた行われた。
銀杯に満たされた液体を飲まされ、意識を失った。

気付くと公園で寝ている正志。
隣には日曜日が居た。全てのノルマが終わり、約束通り七曜会の目的を訊いた。
七曜会は夢を売っているという。それは巨万の富を得ることが可能だからだというのだ。
ユスリで得た金の流れを説明される。7人に脅迫し、7万円を得る中から、初日に一万円を本人へ報酬として渡す。
残り6万円中3万円は、七曜会本部へ渡る。
残り3万円はそれぞれ1万円ずつ3代前の親、4代前の親、5代前の親へと渡る。
自分が7人の子を今回作ったが、その子らがまた子を作り、3代先の子ができたとき自分に報酬が入ってくる仕組み。
3代目で「7×7×7=343万円」
4代目で「7×7×7×7=2401万円」
5代目で「7×7×7×7×7=16807万円」結局一億儲かることになる。
ここで疑問に思うことがあった。日本の人口よりも多くなるということだ。
だが、初代が数代後の子になっても不思議はないと言われ、納得した正志に日曜日は言った。
新日曜日は、7つのネタを探せという。要するに、ユスリの資料集めだ。

FINAL MISSION「七つのネタを探せ」
軽い足取りでネタを探そうと走っているが、そんなネタなんてどこにあるんだと悩み立ち尽くす正志。
ハチ公前まで来ると、土曜日と出会った。彼はネタを探す方法として、身内の秘密を売ればいいと教えてくれる。
正志は何かを思いついたように、立ち去った。
考えながら歩いていると、教会の前まで来た。結婚式が行われるようだが、参列者の表情は硬い。
中をのぞいてみると、そこには白峰が居た。今度はなんだ!と凄まれたが、若い女と大柄な男が
教会に入ってくると、白峰の表情が一転した。女は白峰の娘「るい子」だ。
手下達と白峰が話すと、その場から白峰一行は立ち去った。正志も教会を後にした。
偶然あのパチンコ男と出会い、お互い大変だなと苦笑する。
正志は考えながら歩いている。
ここは混沌の大地。
七つの道が走り、七つの川が流れる七つの丘。七つの柱の神殿はここにそびえたり・・・。
何のことなんだろうと考える。
電柱に書かれた地名「桜丘」を見て、もしやと思いついた。

喫茶店へと足を運ぶ正志。そこには日曜日が居た。
日曜日は誰を売ることにしたの?と訊くが、正志は誰も売らないと答える。
疑問を日曜日にぶつけると、日曜日は事務所で説明すると一緒に行くことにした。

いつも事務所は7階なのだが、今日は8階で止まった。日曜日の私室だ。
日曜日は具体的な、七曜会の説明をはじめた。
七曜会には階級が7つある。
選ばれし七つの曜日→聖なる七色の虹→七つの教会→
七つの王国→黙示録の騎士→星々の王子→七人の大天使と昇進していく。
よく考えられているが穴だらけだと断言する正志。動揺する日曜日(今は紫に昇進したのだが)。
正志は言った。七つの曜日で今までは進められてきた。だが、このシステムは矛盾が生じる。
曜日達は、格上の者に支配されるべきなのに、日曜日という同格が支配している。
新たに入会したはずの、正志が脅迫した7人についても、いつ入会して誰が支配するのかと。
日曜日は話を逸らそうと、七曜会の場所はどこだと訊く。正志は七曜会のある場所はここだと
日曜日の額を指差した。正志は問いただす為、聖書を取り出し日曜日に突きつけた。
 ここは混沌の大地。
 七つの道が走り、七つの川が流れる七つの丘。
 七つの柱の神殿はここにそびえたり。
それはここ、渋谷のことだった。七つの道は主要道路。七つの川は鉄道の線。
七つの丘は、鉄道の路線で区切られた区画。七つの柱は7人一組の人間だったのだ。

85街 篠田正志編sage04/05/0612:02ID:HMiK/V0f
日曜日は認め、動機について話し始める。
七曜会は復讐のために作ったのだ。世界中の人を日曜日が手に入れるために作ったのだ。
正志は、七曜会は失敗だというが、まだ始まったばかりで、これから支配がはじまるのだという。
人を支配する為の7つの柱である、金、情報、組織、規律と妄想、暴力と宗教。
暴力は白峰組を手中に入れることで成り立ち、宗教はキャベツ教を発足したのだ。
それらを語り終え、日曜日は正志に手を組もうと誘うが、絶対にイヤだと拒否する正志。
すると、日曜日は正志の頬を平手打ちし、だったらどうしてここへ来たのかと問う。
正志は水曜日ともう一度会いたいと答えた。日曜日はナイフを正志に突きつける。
さよならと言って、正志はその場から立ち去った。

外へ出て、水曜日の事を考えた。ポケットにはレッドカードが入っていた。
今となっては思い出でしかないと思っていると、水曜日の笛が聞こえた。
目の前に本物の水曜日が居た。とっても会いたかったと言う正志。
レッドカードを正志から受け取ると、水曜日は「OKよ。チンチコーレ」とにっこり笑ってくれた。
手続きは完了と言いながら、何かの合図らしい笛を鳴らすと、どこからともなく男達が現れ、
正志を連れ去っていった。驚く正志だったが、なすすべがないまま、Y字の柱に逆さに貼り付けられた。

刑は執行された。

空には大きな花火が打ち上げられていた・・・。


「七曜会」完

87名無しさん@お腹いっぱい。sage04/05/06 14:36ID:atUmlomN
乙っす。これは殺られたってことなんかなぁ。

88街の人sage04/05/0615:17ID:HMiK/V0f
>87
説明不足だったようで。スマソ
ただ単に、Y字の柱にくくりつけられてるだけの
情けない姿をさらしてるだけなんで、死んではいないです。


>>Prat4(飛沢陽平編、高峰隆士編、青井則生編、高峰厚士編)
最終更新:2009年03月05日 19:15