クロス探偵物語 第3話


大野珠代(おおのたまよ):エリス女学館の学長。63歳。
木村康陽(きむらやすはる):エリス女学館の教頭。60歳。
鈴木つかさ(すずきつかさ):エリスの生徒だったが、昨年11月に自殺。享年17歳。
高梨まゆな(たかなしまゆな):エリスの二年生。17歳。
星野リサ(ほしのりさ):まゆなの友人。ハーフの帰国子女。17歳。
広川千絵里(ひろかわちえり):まゆなの同級生で友人。17歳。
神城一美(しんじょうかずみ):エリスの事務員。23歳。
酒井はるみ(さかいはるみ):エリスの事務室長。45歳。
松木泰子(まつきやすこ):エリスの保険医。自称「名探偵保健室のお姉さん」。35歳。
山田六郎(やまだろくろう):エリスの体育教師。42歳。
中村完次(なかむらかんじ):エリスの理事長。65歳。
林田謙三(はやしだけんぞう):捜査一課の刑事。剣の父の同僚だった。46歳。

第三話 ゆがんだ名門校

 事務所では友子が昼になっても出社しない剣を待ちわび苛立っていた。
前回の事件から一週間は経っているので疲れているなどという言い訳は通じないという友子だったが、
冴木は探偵を始めたばかりの頃は本当に疲れるものなのだと剣を庇う。
「まるで 自分が被害者の家族になったような気がするからな。
 剣は今 家族を殺されたような気になっとるハズだ」
「へえ・・・そんなもんですか・・・」
「剣の探偵としての素質はズバ抜けたものがあるが、探偵には向いていないのかもしれん・・・」
「どういうことです?」
「剣は優しすぎるんだ。今のままでは 精神的にまいってしまう。・・・剣の父親もそうだった」
「先生、剣ちゃんのお父さんを知っているんですか!?」
「・・・ああ。剣の父親はな 警視庁一の敏腕刑事と言われていたんだ。
 探偵をやっていて「黒須信介」の名を知らぬ者はいないよ」
「亡くなったんですよね 事故で」
「・・・事故なもんか。あれは・・・いや やめとこう」
「途中でやめないでくださいよお。ちゃんと最後まで話してください!」
「ワシが口出しするようなことじゃない・・・。きっといつか剣が真実を突き止めるだろう」
ところで何故こうも剣のことを待ちわびているのか?それは駅前のスーパーで大安売りがあるからだった。
まとめ買いのために剣に荷物持ちをさせようというつもりなのだ。
あきれる冴木だが、友子は赤字であるためそうしなくてはならないのだと憤慨し、
冴木が名目のよくわからない調査費を使いすぎるなどと愚痴り始める。
冴木は藪から出た蛇を避けて自分の部屋に隠れた。

――その頃の公園。
 剣が大川を呼び出し父のことを聞き出そうとしていた。
 墓参りの時に美樹夏子に言われた不自然な点。剣は美樹夏子の言ったことを嘘だとは思っていなかった。
大川に美樹夏子の素性と父の本当の死因を尋ねる。
 美樹夏子は新聞記者だった。そして剣の父を愛していた。
彼女は大学卒業後新聞記者の道に進んだが、完全な男社会だったため相当な苦労をした。
セクハラまがいのことをされたりひどい嫌がらせを受けたりしたが彼女は負けなかった。
そんな彼女を剣の父は励まし続けた。
警視庁きっての敏腕刑事を味方につけた彼女は次々と大きなスクープをものにしていき
あっという間に一流記者の仲間入りをした。
「しかし彼女は過ちを犯した。スクープをものにしようとするあまりタブーに首を突っ込んだんだ・・・。
 それは彼女の手に負えるようなものではなかった。彼女は らちされ殺されかけた。
 それを助けたのが キミのお父さんだ。・・・それからしばらくしてキミのお父さんはなくなった・・・」
剣の父の死については大川にもわからなかった、色々と調べても何の証拠も見つからなかったという。
大川は美樹夏子の触れたタブーとは何かについても教えなかった。
本当のことを知りたがる剣に大川はいつか突き止めるからもう少しだけ待っていてほしいと頼み込んだ。

 大川と別れた剣は帰り道で大荷物を抱えた友子を発見する。
 今声を掛けると荷物持ちをさせられてしまうだろう。
事務所に先回りするべきか?しかし荷物を持ってやらないのもどうだろうか。
 思案していると、この間と同じように少女がちんぴら3人に囲まれていた。
剣は正義感の強い友子がそれを見過ごさないことを読んでいた。
そこに颯爽と駆けつけて事態を収拾しようとしたのだが、
剣が割って入った瞬間、友子の電光石火の早業で男達は打ちのめされた。
 呆気にとられる剣。
「え?」
「あっ 剣ちゃん!今まで どこ行ってたのよ!コレ全部持ちなさいよね! 全部!!
目論みは崩れ荷物を抱えるハメになった。
事務所へ向かって行く二人の後ろでは少女がか細い声をかけようとしていたが二人には届かなかった。

 事務所では友子による長い説教→グチが続いていた。
剣は話をそらそうと先ほど見た友子の技を褒め称える。
友子の実家は合気道の道場をしており北海道では結構名が知れているのだそうだ。
彼女は2段の腕前で男にも負けなかったと胸を張る。
 そこにノックの音がした。
 大野と名乗る老年の女性が男を連れて現れ、冴木に会わせろと要求してきた。
 剣が部屋にいた冴木に大野が来たことを伝えに行く。
「なに!?大野ってハデなバアさんか?」
「そうです」
「い いないって言ってくれ・・・」
「知ってる方なんですね」
「以前 仕事を受けたことがあるんだが・・・おおお おぞましい・・・」
「でも いるって言っちゃいましたよ」
「なんとか 断ってくれ」
「断るったって まだ 話も聞いてないのに・・・。おいしい仕事かもしれませんよ」
「だったら お前にすべて任す。好きなようにやっていい・・・」
「でも・・・」
「とにかくワシはこの件に関しては何も知らん。勝手にやってくれ」
「・・・そうですか。じゃあ 帰ってもらいますね」
 剣は大野に冴木が留守でありしばらく帰ってこれないと伝えた。
「だったら なんで隣の部屋に長いこといたのよ」
「冴木先生の携帯電話に電話していたんです」
「電話なら わざわざ隣の部屋に行かなくてもかけられるでしょう」
「大野さん 私達は探偵なんですよ。他の人がいるところで電話なんか できるわけないじゃないですか」
 一応筋は通っているということで納得はしてくれたようだ。
事件が解決するまで戻ってこれないので代わりにと依頼内容を聞きだすことにした。
 彼女は大野珠代(おおのたまよ)といいエリス女学館という学校の学長だった。
彼女に随伴していたのは教頭の「木村康陽」(きむらやすはる)。
エリスは名門御三家のひとつであり超お嬢様校として有名だった。
 大野が一つの手紙を見せた。

 呪われし
エリスの教師どもよ
 今すぐに
忌まわしき校則を
撤廃せよ
 さもなくば
犠牲者は増え続けるだろう

    さまよう魂


明らかな脅迫状だった。一週間前に届いたそうだ。
剣「犠牲者は増え続けると書いてありますが、実際に犠牲者が出ているのですか?」
教頭「ええ、2名ほど・・・」
大野「教頭!めったなことを言うもんじゃありません。あれは単なる偶然です!」
教頭「し しかし・・・」
剣「お聞かせください」
教頭「立て続けに うちの教師が死んだのです」
剣「殺されたのですか?」
大野「いいえ 病死です。二人とも ガンですの。便乗した誰かのイタズラに決まってますわ」
教頭「しかし 学長。偶然にしては・・・」
剣「どうしました?亡くなった先生について不審に思うことがあるんですね」
教頭「・・・実は、二人目が亡くなったのは 2日前なんです」
剣「2日前といったら、脅迫状が来た後じゃないですか。
  じゃあ 実際 脅迫状に書いてある通り犠牲者が増えたことになりますね」
大野「偶然です。2日前に亡くなった先生は脅迫状が来たときには すでに入院していました。
   犯人は亡くなることを見越して脅迫状を出したんです。手の込んだイタズラです」
剣「イタズラだと思うのなら、どうして ここにいらっしゃったのです?」
大野「生徒たちが 色めき立っているのです」
剣「なるほど この脅迫状は生徒達に見えるところに 貼り出してあったわけですね。
  それを見た生徒たちは 2人目の先生が亡くなったことを知って 大騒ぎしている・・・」」
 何故ここまでわかったのか?それは手紙の実物を見たからだ。
四隅に穴が開いていることから画鋲あたりでどこかに貼り付けていたことが推察できる。
郵送なら封筒も一緒に持ってくるだろうし折り目もついているだろう。
生徒が内容を知っているのなら第一発見者が生徒ということになる。
教師が発見したのなら生徒には教えないだろうからだ。
 そこまで聞いて感心した大野は犯人を捕まえてイタズラだったことを証明してほしいと剣にこの件を任せることにした。
 剣は真相を突き止めることを約束する。
 調書を取り終わると二人は帰っていった。
 剣が依頼を引き受けた理由、それは現場が名門女子高だからという下心からだった。
友子「で、どこなの」
剣「え?」
友子「あそこは幼稚園から大学までの一貫教育よ。どうせ幼稚園か小学校でしょ」
剣「おお そんなああ!!ロリコンの趣味はねえぞお!!!」
そこに大野が帰ったと知ったのか冴木が出てきた。
冴木「大野珠代は高等部の学長だ」
それを聞いて神に感謝までする剣。
剣「でも 先生、なんであんなに 大野さんを恐れるんです?」
冴木「実は・・・」
過去に迫られたことがあったのだという。
彼女の家に強盗が入り宝石が盗まれた。彼女は宝石に保険をかけており、確かに保険金は支払われた。
しかしその上で宝石を取り返そうとしたのだ。もちろん警察には内緒でだ。
宝石は盗品専門のブローカーに売りに出されており、大野はそれを保険金の1/5の値段で買い戻した。
冴木は秘密厳守という探偵の鉄則から彼女の悪事の片棒を担ぐことになってしまったのだった。
宝石は盗まれた3点で5千万円は下らない代物だという。
友子「5千万!!学長ってもうかるのねえ」
冴木「家にも行ったことがあるが、すごい豪邸だったよ」
剣「家に行ったときに 迫られたんですか?」
冴木「ああ 依頼を解決して調書を渡しに行ったときの事じゃ・・・。
   あのババアがピンクのネグリジェで・・・おおお おぞましい・・・」
友子「・・・・・・・・・・たしかに おぞましい・・・。今回の依頼も 私腹を肥やす為のものじゃないの?」
剣「んー、ちょっと違うみたいだなあ」
冴木「今回って、お前 まさか依頼を引き受けたのか!!」
剣「ええ 受けましたよ。先生 オレに任せるって 言ったじゃないですか」
冴木「言ったには 言ったが・・・ああ ワシ 熱が出てきた。今日はうち帰って寝るわ・・・」

友子「で?どういう依頼なの」
 それは不思議な話だった。2ヶ月前に生活指導の細川秀子(ほそかわひでこ)という教師がなくなった。
死因は甲状腺ガン。入院して3週間くらいだったそうだ。
 そしてちょうど1ヶ月前に社会科の三上要(みかみかなめ)という教師が白血病で入院した。
それから先週の火曜日、ちょうど1週間前の朝に生徒達が登校してくると掲示板に脅迫状が貼り付けてあった。
そしてその5日後、おとといの日曜日に入院していた三上が亡くなった。
脅迫状通りに犠牲者が出たから生徒達が呪いだといって怯えているのだという。
 死因が癌なら他殺はまずないだろう。偶然か呪いか。しかし呪いというならそれなりに呪われる理由があるはずだ。
そのことについては歯切れが悪く何か隠していたようだった。

――エリス女学館。
 豪奢な建物は一流ホテルか美術館を思わせた。
 とりあえず下校中の生徒に声をかけてみる。
が、まったく反応がない。まるで剣の存在が見えていないかのように女生徒達は通り過ぎていくばかり。
 そこに1人の女生徒が声をかけてきた。
「こんなとこで ナンパなんかしても 絶対に誰も引っかからないわよ」
「どうして? オレってそんなに 魅力ないかなあ・・・」
 しかし返ってきたのは驚くべき返答だった。学校の規則で外で男と口をきいてはいけないのだという。
老人に道をきかれたら知らないふりを、父親と出会っても帰宅するまで何もしゃべらない。
もし男と一緒に歩けば停学になる。そんな規則が実際に効力をもっているのだという。
 では何故彼女は剣と話をしているのか。停学が怖くないのだという。剣が目的と素性を話すと彼女も名乗った。
エリス女学館高等部2年の高梨まゆな(たかなしまゆな)。
 剣が脅迫状のことを聞くと生徒の誰もが「鈴木つかさ」の呪いだと怖がっており、休む生徒までいるそうだ。
鈴木つかさはまゆなの一年先輩で去年の11月に屋上から飛び降りて自殺した生徒だ。
原因は対外的にノイローゼとされているが、実際は留年を言い渡されたからだ。
彼女は成績優秀な生徒だったが、父親の会社が倒産し自分の学費を稼ごうとアルバイトをした。
しかしアルバイトは校則違反の中でも最も重いものとされており、彼女は留年か自主退学を迫られることとなった。
 脅迫状には書かれていないのに何故鈴木つかさの呪いとなったのか。
それは亡くなった教師が彼女の留年を決めた人間だったからだ。
細川は生活指導、三上は学年主任で校則違反者を処分する権限があった。
教師には理由が理由なだけに処分するのはどうかと言う者もいたのだが、
その2人が強引に留年処分を下してしまった。
 その2人が立て続けに死亡したので鈴木つかさの呪いということになったのだ。
そこにいかにも柄の悪そうな男が声を荒らげて割って入った。男はこの学校の教師だという。
「高梨!またお前か。校則で禁止されているのは知ってるだろ。高梨!! 何とか言ったらどうだ!」
まゆな「あれ? 確か外で男の人と口をきいちゃダメだって校則でしたよね。
    だったら 先生とも口きいちゃダメなんでしょ。
    校則に先生は除くって記述はありませんでしたよね。あっ 口きいちゃった。これで私も 停学かな?」
男「ぐぐぐ・・・」
剣「ぷぷぷっ」
男「おいっ!! お前!!! うちの生徒を そそのかして 一体 どういうつもりだあっ!!!」
剣「やれやれ 名門エリス女学館の教師ともあろう者が 初対面の人間に向かって「お前」はないでしょ。
  あんたこそ口のきき方知らないんじゃないの?」
男「きっ きさまあ!!!」
剣「おやおや 今度は「きさま」ときたもんだ。まったく なげかわしいねえ。
  生徒よりも まずは教師に 厳しーい校則つくんなきゃ」
そこで自分の目的と学長の紹介があるということを伝えると男はしぶしぶ剣を中に入れた。

 まゆなに連れられて学長室へ向かう。
本当に停学になったらどうするつもりなのかと思ったが、彼女は停学にならないのだという。
彼女を含めて学校に多額の寄付をしているものは何をしても咎められないのだ。
「この学校は腐ってるわ。きれいなのはうわべだけ。わたし この学校が大っ嫌い」
だからあれだけ挑発的な態度をとったのだ。
「わたし この学校の 規則をなくしたいの」
「えこひいきされるのが いやだから?」
「それもあるけど・・・あのね、このあいだ わたしの友達がとても素敵な男性に会ったんですって・・・。
 でも その友達は幼稚園からエリス女学館で 男の人と ほとんど話をしたことがなかったの。
 だから その人に声をかけたかったんだけど、どうしても かけられなかった・・・。
 そのコ すっごく すっごく 落ち込んでたわ。こんなのって おかしいでしょ。
 普通の女子高生は 男の子とおしゃべりしたり 恋愛したり 楽しくやってるでしょ。
 高校生活って 楽しいものでしょ。でも この学校はそのすべてが校則違反なのよ!
 そんなのって おかしいわ 不自然よ!」
「なるほどねえ・・・聞きしにまさる迷名校だ」
 彼女は普通の高校でよかったのだが、家が理事長と知り合いだから途中から入ることになったのだという。
まだ聞きたいことがあるからとまゆなに待っていてもらい学長室へ。

 事件の捜査をするためにと学長に自由に動き回るための許可をもらおうとする。
動き回れるフロアは1階のフロアのみ、職員室は出入り禁止、
なるべく生徒達と接触しないようにして登下校や休み時間には生徒の目に付かないようにすることに。
それらを踏まえ、剣は新しい事務員として入館を許可されることになった。
 校則の厳しさが事件を起こすことになったのではないかと問いかけるが一貫して例外を認めないという。
家族を許可すれば男といてもそれを装うだろうし、
そういう理念をもったエリスだから父母も安心して自分の娘を預けるのだと。
そもそもエリスに入ったからにはエリスのやり方に賛同したということであり、嫌ならやめればよい、
厳しいからこそエリスを卒業した娘の評価が高いのだというのが返答だった。
 学長には校則を変える気はまったくなかった。

 正面玄関でまゆなと再会。事務員としてくるので探偵であることを内緒にしてもらう。
学長に校則を変える気はなく、まあ、言い分にも一理あると思わなくもなかったのだが、
まゆなの口からは下着の色まで検査されるというさらに異様な実態が語られる。
 嫌なら転校するのも手だと思うのだが。しかしそれほど単純なことで解決できる話でもなかった。
ほとんどは幼稚舎からエリスにいる人間であり、そんな彼女等が自分の意思で決めたはずもない。
それに簡単に転校できるのなら鈴木つかさは自殺もしなかった。エリスは転校の書類を発行しないのだ。
もし仮に転校を許せば多くの生徒が他の学校に流れエリスの実態が外に知られてしまう。
だから学校はそれを阻止しているのだ。
そんなわけで一度入ったら卒業するまでガマンするしかない。
中等部を卒業後に他の高校を受けようとしても
中学三年生が受験の際に必要な学校発行の書類を発行してもらえないので中学浪人になる。
プライドの高いエリスの生徒がそれには耐えられないだろう。
 根の深さに呻く剣。
 そこに「星野リサ」(ほしのりさ)というまゆなの友人がやってきた。
彼女も高校から入った娘で中学までは海外にいたのだという。
 リサに剣とタメ口であることを訝られるとまゆなは慌てて帰っていった。
 剣の目に彼女はテニス部に見えた。
靴にはクレーのテニスコートの土が付いており、彼女の右手がわずかに左手より長かったからだ。
 彼女にも校則について聞いてみると、やはりおかしいらしい。
「驚いたのなんのって・・・。みんな 頭がおかしいんじゃないかって思ったわよ」
「途中で編入してきたっていうことは、キミんちも 寄付金出してるの?」
「そうよ。だから 多少のことは目をつぶってもらえるの。じゃなきゃ こんな校則 守れっこないわ。
 もっとも、うちの寄付金なんて まゆなのとこにくらべたら微々たるもんだけどね」
まゆなの両親は世界的な音楽家。祖父は有名な推理作家の「高梨呂秋」(たかなしろしゅう)なのだった。

 翌朝出勤すると誰もいなかった。8時までに登校することになっており、朝礼も終わってしまったのだという。
校則でも10時消灯6時起床と決められているそうだ。

 事務室で事務員の神白城和美(しんじょうかずみ)を紹介される。
 彼女に脅迫状のことについて聞くと、発見者は運動部の生徒三人だそうだ。
三人一緒ということは第一発見者が犯人とは考えにくい。すると犯人がその前に貼り付けていたことになる。
 他の人物についても聞いてみることにした。
 ・細川は生活指導の教師で英語を教えていた。45歳独身。服装や髪型に厳しく生徒の下着チェックもしていた。
 ・三上は社会化の教師。学年主任で40歳。妻と子供が1人。
いやみな性格でどんな些細な校則違反も徹底的に追及して厳しい処分をしていたのでとても嫌われていた。
細川と一緒にパーマをあててきた生徒の頭をハサミでざんぎりにしたこともある。
 ・鈴木つかさは心優しい生徒だった。
 脅迫状は生徒達のげた箱の近くの掲示板に貼ってあったそうだ。

 神城にそのげた箱の近くまで連れて行ってもらう。
 掲示板は生徒に見やすいところにあった。犯人は生徒に脅迫状を見せるつもりだったのだと思われる。
 神城には先に戻ってもらい周囲の調査を開始した。しかし程なくして休み時間になり女生徒が集まりだす。
「な、なんだか 遠巻きに 観察されているような・・・」
まゆな「そりゃそうよ。初日から遅刻してくる事務員にみんな興味あるもの」
 学長が新しい事務員が遅刻したと朝礼の時にコメントしてしまったらしい。
 そこに1人の少女がやってきてまゆなに話しかけた。
少女「まゆちゃん、あのね、昨日また会ったの あの人に」
まゆな「あの人って、例の千絵里の王子様?」
少女「そんな・・・王子様だなんて・・・・・・うん」
まゆな「ごちそうさま。で? 今度はちゃんと声かけたの?千絵里のことだからきっとダメだったんでしょう」
少女「・・・・・うん」
まゆな「やっぱり」
「あれ?キミは・・・」」
その少女は二度も公園でちんぴらにからまれていたあの少女だった。
剣に気付いた少女はこちらを見、顔を高潮させていき・・・卒倒した。
 剣が千絵里を担ぎ保健室へ。

 おそらく貧血で倒れたのだろう千絵里をベッドに寝かせるとすぐに彼女は目を覚ました。
改めて再会の挨拶をする。2度ほど会ったことがあると言うとまゆなはすぐに感づいた。
まゆなは千絵里を残して授業に戻っていく。
 剣は彼女にも挨拶がてらにいろいろと聞いてみる。
 彼女は幼稚舎からエリスに通っていて校則には嫌気を感じてはいないという。
学生なら多少の窮屈は仕方がないと思っているようだ。
寄付金も払っていない彼女は一般生徒の代表といっていいだろう。
校則がなくなって一番得をするのは生徒だ。
しかし最初からエリスにいた生徒はここの校則を厳しいとは思ってはいない。
ならば途中からエリスに入ってきた生徒が犯人である可能性が高いと思われる。
 途中からエリスに入ってきた生徒について聞いてみると、高等部だけなら10人程。しかも金持ちの娘ばかりらしい。
つまり寄付をしている彼女等は校則を守らなくても処罰されないだろう。
校則がなくなっても彼女等にたいしたメリットはないことになる。いまいち全体像がわからなくなってきた。
 まゆなのことについて聞くと千絵里はまゆなのことをうれしそうに話した。
勉強もスポーツもでき行動力もあり自分の考えも持っている。まゆなこそが千絵里の理想なのだという。

 そこに保険医が戻ってきた。彼女は「松木泰子」(まつきやすこ)。
自称「名探偵 保健室のお姉さん」。今までも数々の難事件を解決してきたそうだ。
誰かに風貌もフレーズも似ている気がする・・・。
彼女は剣に勝負を挑んできた。その手始めに剣に今まで調べてきた情報を教えてくれることに。
 ・鈴木つかさはとても優しい子で、誰かが具合を悪くすると必ず付き添ってきた。
彼女が自殺した時は誰もが三上と細川を恨んだと思われる。
 ・三上と細川は生徒からだけではなく教師達からも嫌われていた。
 ・三上も細川も去年の健康診断の時は癌の兆候がまったくなかった。
それなのに今年の健康診断ではもう手遅れになっていた。いくらなんでも進行が早すぎた。
 ・2人の病気は健康診断で発覚した。
細川は明らかな甲状腺の異常があったので緊急入院を、
三上は白血球の数が異常に多かったので検査をした結果、白血病が判明した。
 ・診察した医者は学校の裏にある「北村病院」の「北村一夫」(きたむらかずお)で
昔からの理事長の知り合いらしい。
結構な歳で隠居していたが三上と細川は直に診察した。普段は院長の息子が診ている。
 ・北村一夫は普通の医者で人当たりがよく患者に人気がある。
 ・学長には男を買う趣味があり、先日も海外に行って男あさりをしていたらしい。
そして帰ってきたら松木に検査を依頼したそうだ。
 ・そんな金はどこから出ているのだろうか。
しょせんは雇われなのに豪邸に住むわ運転手を雇うわで優雅に暮らしている。
おそらく他の収入源があるのだろう。
 ・理事長は頑固オヤジだが生徒思いでもあり、学校の運営は学長任せで口出しをしない。
 ・三上と細川を恨むものは山ほどいるそうだ。
ただ、体育教師の山田が三上と猛烈に仲が悪くしょっちゅう喧嘩していた。
山田は三上の香典を寿と書かれた結婚式の祝儀袋に入れ持って行ったそうだ。
仲が悪い理由は5年前に教育実習に来ていた女性を取り合ったからで、その女性は三上と結婚した。
 ・山田は自分が体育教師なのを利用して生徒にセクハラまがいのことをするという話だ。暴力も多いという。
そのため山田の授業では欠席する生徒が多く保健室がいっぱになることもあるそうだ。
前の学校では生徒を死亡させたこともあるらしい。
 ・山田が名門エリスに入れた理由だが、学長とできているらしい・・・。
 ・校則は確かに厳しいだろうが、お見合いでは効果があるとのこと。
親は最終的には娘のためになると信じているのだろう。
 ・多くの寄付金をしている生徒の名簿が毎年まわってきており、その生徒には好きにさせるように言われている。
松木が文句をいったら、同じ扱いにしたら誰も寄付なんてしなくなる、
高いお布施でいい戒名をもらって成仏できるのは仏教の世界でも常識だともいったそうだ。
 ・室の高い教育をするには金がかかるというのが学長の口癖らしい。
 とりあえず理事長の電話と住所を教えてもらう。
 松木は脅迫状を出した犯人が何らかのトリックを使ったのかもしれないと考えていた。
同じ目的を持つもの同士、ここは協力をすることにする。
 そこにまゆなとリサがやってきた。千絵里の様子を伺いにきた彼女はここで三人で昼食をとることに決めた。
そして剣に学園の見取り図を渡してくれた。千絵里を運ぶときに剣は遠回りをしていたらしい。
神城に案内された道を戻ったのだが。

 事務室に戻ると酒井という事務員が神城を怒鳴り散らしていた。
神城は脱税になると抵抗を示すが、酒井は口答えするなとごり押しする。
 酒井は剣を発見すると、邪魔だけはするなと念を押して出て行った。
 神城にここの事務員になったわけをきいてみる。
エリスでは舞踏会のような卒業パーティーがあり、
もしかして職員になればそれに出席できるかもと期待していたのだそうだ。
もっとも実際に参加できるのは教師までだったのだが。
 神城にここの警備について聞いてみる。
24時間8人の警備員が常駐し、夕方6時から翌朝の6時まではすべての入口のゲートを閉めて門番が立っている。
昼間も業者などが入館する場合は身元を記入させ帰りもチェックする。
すべての塀に赤外線探知機が取り付けてありテレビカメラもあるという徹底ぶりだ。
 すると脅迫状を出した犯人は早朝か夕方に貼り付けて帰ったことになる。
 第一発見者の3人が最初に登校してきおり門番も間違いないことを証言しており、
前日最後の下校者というのはまゆなとリサだ。
警備員は常に2人一組で行動するので勝手なことはできない。
ここはあの2人にもう一度話を聞いてみる必要がありそうだ。

 テニスコートで2人を発見する。
 前日には掲示板に脅迫状は貼り付けられていなかったことをリサが証言した。
靴を履き替えるタイミングでまゆながリサを呼び、
行ってみると掲示板に「生徒は職員室に来ないように」と書いてあり2人でどういうことか悩んだらしい。
その後校門に向かう途中でまゆなが忘れ物をしたと言って戻っていったそうだ。
何を忘れたのか聞くがまゆなは何でもいいだろうといって教えてはくれなかった。
 そこに千絵里もやってきた。まゆなはもういいだろうと帰っていく。気を利かせたのだろうか。
千絵里はまゆなを「まゆなちゃん」と呼ぶように自分も呼んでほしいといって帰っていく。
リサはそれでも気付かない剣を鈍感呼ばわりすると自分も帰っていった。

 事務室で神城に明日休むことを伝えた。

 学長室で大野に掲示板について聞く。
 脅迫状が貼り付けてあった時、掲示板には他に何も貼り出していなかった。
リサ達が見たような紙はなく、そんなことを決めたこともないらしい。
件の紙を貼った人間がいないか教師達に確かめてもらうように頼んでおく。

 翌朝事務所に出社して友子と事件について話す。
と、野球用具があることに気付いた。冴木が町内会の野球大会に出るために練習しているらしい。
剣は思うところあってグローブとボールを借りた。

 理事長の家に行くも忙しいからといって面会を断られる。
が、中ではそれらしい人物がのんきにも鯉に餌をやっていた。
しかしここまでは予想通りだ。剣は中にボールを投げ入れた。
理事長は剣をボールを投げた者だと見て怒鳴ってきたが剣はしらばっくれた。
グローブを持っているので言い逃れはできない。
剣を嘘つきとなじる理事長だったが、自分こそ嘘をついて自分を追い返したと反撃する。
「あんたみたいな ホラ吹きが理事長やってんじゃ、生徒もさぞかしボンクラばかりだろう」
「きっ・・・きさまあ・・・言わせておけば」
「もっともあんたは寄付金さえ入れば生徒なんかどうでもいいんだろうけどね」
「何のことだ」
「オレが知らないとでも思ってるのかよ。
 あんたが 生徒の親から多額の寄付金を集めて着服していることぐらいお見通しだぜ」
「ワシはそんなことはしとらん!」
「あんたのウソは聞きたくないね。それよりオレと取引しよう。
 オレはあんたが寄付金を着服してることや脱税していることの証拠を持ってる」
「・・・・・・・・・・わかった、話を聞こう、中に入れ」
『カマ掛けてみたけど やっぱりそうだったか。
 どうやら 理事長は学長とツルんで寄付金を着服してるみたいだな・・・』
居間に通された剣がそれなりの時間待っていると重い足音が近づいてきた。
開け放たれた襖の向こうには筋肉質の大男を従えた理事長が。
「この角田は 拳法の達人じゃ。逃げようとは思わんほうがいいぞ」
てっきり口封じに来たのだと思ったのだが、
「警察が来るまでおとなしくしてもらおう」
「え?警察?そんなことしたらあんたがヤバいんじゃないの?」
「この中村完次(なかむらかんじ)、生まれてこの方 人に後ろ指さされるようなことはしたことがないわ」
ウソを言っているようには見えない。
 寄付金を自ら集めるような真似はしていないし、そういった生徒をえこひいきさせたりもしていない、
挙句脅迫状のことも知らないらしい。
 ここは一つ協力を得るべきだと判断しエリスが大変なことになっていると話す。
理事長の方も剣に興味を示し詳しく聞こうとする。
 ―  ― ― ――――
 理事長は学校のことについて口出しをしてこなかった。学校を運営するには確かに経営が欠かせない。
しかし生徒にそんな流れなど見えてほしくない。もし自分が口を出せばそれは経営者としての意見になるだろう。
だから経営に関する部分だけを一手に引き受けてきたのだと。
 理事長はエリスを正しく導くためにと改めて剣に依頼をした。
 北村は理事長の高校の同級生だった。北村への面会の約束を取り付けてもらう。
まゆなは理事長の先輩の孫だそうだ。

 北村医院で理事長に話を聞く。
 ・亡くなった2人の癌の進行の速さは確かに不思議だが、若いこともあるし前例がないわけではない。
 ・細川の甲状腺ガンは珍しい病気である。
 ・三上の白血病も珍しいそうだ。死亡したガン患者の2~3%程だという。
 患者や看護婦にも話を聞いてみたが北村を悪く言う人間はいなかった。

 剣が翌朝学校に出ると救急車が来ていた。
神城の話では登坂ふみこ(とさかふみこ)という国語教師が急に目が見えないといって倒れたのだそうだ。
かなりの高齢でもうすぐ定年だろうとのこと。生徒の評判はよく人気があるそうだ。
 職員室に行ってみようとするが神城に止められる。
職員室に来させないように学長に言われているのだそうだ。
それならばと登坂が運ばれた病院に行ってみることに。

 受付で聞いてみると登坂の目が見えなくなったのは白内障であり失明もしないだろうとのこと。
倒れた原因は体の衰弱だそうだ。
 直接登坂に会いに行ってみると2ヶ月ほど前から視力が急に落ちてきて今朝ほとんど何も見えなくなったそうだ。
 登坂は今の校則を撤廃すべではないかと考えていた。自分のような卒業生も青春を謳歌していたと。
 今の校則は大野が就任してからのものだった。
それまではエリスの卒業生が就任していたのだが、10年前に来た大野は違った。
 大野はエリスを名門校にするために色々な政策を打ち出した。例の厳しい校則もそうだ。
初めは登坂を含め反対する教師も多かったが、大野の独裁的な学校運営が始まってい辛くなり辞めていった。
 大野の目的は校則を厳しくしてエリスの卒業生は品行方正だというイメージを作ることだった。
この試みは成功しマスコミにも取り上げられた。
バブルの影響で多額の寄付金を積んで娘をエリスに入れるのがステイタスとなった。
7年前からは50万円の寄付を生徒に義務付け始め、多い分には構わないとし、ついには額によって差別化し始めた。
もちろん父兄からの反対もあった。
 当時高等部2年生の生徒の父親が猛反対したが、結局その生徒は退学になってしまった。
せおの生徒はひとみという娘で、天然のパーマで茶色い髪をしていた。
彼女の父親が反対し始めた途端校則違反だと言って注意し始めストレートパーマをかけ黒く染めろと命令したのだ。
彼女も頑固でそんな指図は聞かなかったのだが、ある日職員室に呼ばれてバリカンで丸刈りにされてした。
登坂はずっとかばい続けていたのだが、彼女がいない時に複数の教師が押さえつけて刈ってしまったのだという。
 それでも彼女は気丈に通学し続けたのだが、ある日他の生徒の金を盗んでしまい退学になってしまった。
 彼女の父親は大きな会社を経営していたのだが不渡りを出してしまった。
そのことが原因ではないかと思われるようになり、
金に困っているとは思われたくないだろうという父兄のプライドにつけ込んで寄付金を集められるようにした。
ていのいい見せしめが功を奏し以来寄付に反対する父兄はいないという。
 理事長は学校の方針には口出ししない人間だし、
大野はより高度な教育のために父兄が望んで寄付をおこなっていると報告したようだ。
 ひとみという生徒は転校することもできなくて大検を受けたらしい。
 そこに鈴木さやか(すずきさやか)という教育実習生がやってきた。気を利かせ剣は病室を出る。

 学長室に行くと剣の調査が遅いから生徒が登坂のことでまた騒ぎ出したとなじられる。
情報が少なすぎて困っているので剣は大野に明後日の日曜日に校内を自由に動き回れる許可をもらう。
 それと例の貼り紙をした教師はいなかったそうだ。

 保健室で松木に三人がかかった病気について教えてもらう。
どれもいろんな原因があり一番考えられるケースにしてもかなり確率が低いらしい。
人為的におこすには発がん性の物質を摂取させるとかタバコを吸わせるだとかを数年かけるくらいしかないらしい。
重なっておきる可能性はゼロに等しいが偶然と言われればそれまでだ。

 事務室に戻ると神城に言い寄る山田がいた。剣を見た山田はしぶしぶ帰っていく。
 最近よく来るようで段々行動がエスカレートしてきているらしい。
 山田をどうにかしてやろうとするが見つからない。
千絵里に教師の玄関口まで案内してもらうが山田は帰ったあとだった。
 仕方がないので彼女を家の近くまで送って事務所に向かう。

 事務所で友子と話し合う。
何故生徒に好かれている登坂が犠牲になったのだろうか。それには三つ考えられる。
一、ほとんどの生徒はともかく犯人は登坂に恨みがあった。
二、不特定多数を狙っていた。
三、間違えて傷つけてしまった。
 友子が登坂だけを命には別状のない病気で遠ざけその隙に大事を起こそうとしているのではないかと推理した。
 さすがにそれはどうかと思ったが、そこで貼り紙について思い当たることがあった。
あの貼り紙が生徒を危険な場所から遠ざけるためのものだとしたらつじつまが合う。
爆弾か何かを使うのなら生徒のいない瞬間を狙えばいい。それがわからないとすると部外者だろうか。
最終更新:2022年10月13日 14:21