アークザラッド 精霊の黄昏

アークザラッド 精霊の黄昏


序文:
はるか遠い昔、人々は精霊と共に、平和に暮らしていました。
やがて、人々は繁栄を望み、文明を築きました。
そんな中、邪悪な心を持った人間王(人間の王)が現れ、世界を我が物にしようとしました。
人間王は闇の力と結びつき、闇黒の支配者となり、モンスターを創り出しました。
世界は滅亡の危機に瀕しました。
しかし、精霊の力を授かった勇者たち(七勇者)が、闇黒の支配者を聖柩によって封印し、世界を救ったのです。
その後、永い時を置いて、人間王は復活しようとしました。
けれども、勇者と聖母(アークとククル)が現れ、人間王を再び聖柩の中へ封印しました。
その結果、世界は傷つき、精霊たちは、精霊石にその力を残し、姿を消してしまいました。
代わってこの世に現れたのが、魔族という生き物でした。かつて闇黒の支配者が生み出したモンスターが
進化し、人間のように知能を身に付けたものが魔族です。
やがて、科学の力で栄華を極めた人間は、残り少なかった資源を使い果たしてしまいました。
文明は衰退し、世界は荒廃しました。ところが、精霊石がエネルギー源になる事を発見したのです。
それ以来、人間は精霊石をエネルギーとして使い続けています。
また、魔族にとっても精霊石は魔力の源として必要です。人間と魔族は、精霊石を巡って争い、
やがて互いに憎しみあうようになりました。
 
 
カーグ編 初陣

ラグナス大陸にある、風車がトレードマークの小さな町、ユーベル。
ユーベルの小さい家の前で青い服の男と赤いショルダーアーマーを付けた男が睨み合っている。
青い服の男はカーグ。17歳になる、元ニーデリア王国の王子。
髪を後ろで束ねていて、剥き出しの右上腕に、変わった形のアザがある。
「じゃあ、始めようか、ロイド」
腰の剣を抜きながらカーグが言う。ロイドと呼ばれたショルダーアーマーの男も剣を構える。
ふたりは何合か打ち合ったあと、カーグがロイドの剣を弾き飛ばした。
「カーグ、すごいじゃない」
カーグに話し掛ける赤い服の女の子。
「こら、親が負けて喜ぶ奴があるか。それに、『カーグ様』とお呼びしろと言っているだろう、ポーレット!」
ロイドが女の子を叱った。カーグは首を横に振る
「いいんだ。王制はとっくに廃止されたし、ポーレットは一つ年上なんだから」
「隊長さん、ちょっといいかな」
ロイドはユーベルの防衛隊長だ。町の人呼ばれたので、ロイドは去っていった。
「カーグさえ良ければ、『カーグ様』って呼んでもいいのよ?」
ポーレットはそう言うが、カーグは断った。
「町の人は俺をなにかとちやほやするけど、幼馴染のポーレットにだけは普通に接してほしいんだ」

そこへ町の人がやってきた。町の北にあるスクラップ高地で、老人がモンスターに襲われているとのことだ。
あいにくロイドは不在なので、カーグとポーレットが行く事になった。
「ねえ、ナフィア様に一言言ってから出かけましょう」
ポーレットがそう言うので、カーグは母の姿を探して小さな家に入った。カーグの生家だ。
ナフィアの部屋には誰も居なかった。本棚の方をふと見ると、緑色のドーム型の石が置かれている。
その石はカーグが近づくと突然光りだした。
”私は風の精霊・・・”
カーグの前に風の精霊が現れた。
”永き時を経て、新たなる時が来た。我が声に耳を澄ませ・・・”
風の精霊は消えた。
「精霊って、確か、昔、母さんが読んでくれたおとぎ話(序文参照)に出てきたな・・・でも、まさか・・・」

カーグとポーレットはスクラップ高地にやってきた。
かつての文明の残骸である、廃棄された機械やら飛空挺やらがある所だ。
マントを着て杖をつき、ゴーグルを着けた老人がモンスターに囲まれている。
カーグは腰の剣を抜く。ポーレットは鎖の付いた分銅を構え、モンスターを倒し、老人を助ける。
「こんな廃墟で何を?」
「廃墟ではない。旧文明の遺産だよ。わしは希代の探検家、ザップ様じゃ」
ザップはカーグの上腕を見て言う。
「そのアザは?」
「生まれた時からあるんだ。変わった形してるだろ」
「カーグは、不安だったり、緊張したりすると、そこ触るクセがあるよね」
ポーレットはそう言うが、カーグには自覚が無いようだ。
ザップはもう少しこの辺りを調べてみるというので、カーグたちはユーベルに戻った。

帰ってきてみると、防衛隊員が慌てた様子で走ってきた。
「プラム渓谷に、精霊石の採掘に行った者たちがまだ帰ってきてません。魔族に襲われている可能性があります」
「魔族だって?でも、あいつらは道具が使えて言葉を話す程度だろ?モンスターに毛が生えた程度さ」
そうカーグは言うが、このラグナス大陸では、否、ほとんどの大陸で、魔族と人間は山脈などを境に
別々に暮らしていて、お互いのことはよく解っていないのが現状だ。
ロイドが率いる防衛隊は、ポーレットも連れてプラム渓谷に向けて出発しようとしている。
カーグは自分も行こうとしたが、
「カーグ様はここに残って、ユーベルをお守りください」
そう言ってロイドに止められてしまった。家に帰ってナフィアに会う。
ナフィアは白いゆったりとした服に、頭にはヴェールを被っている。
「母さん、俺もプラム渓谷に行って、魔族を倒すよ」
「カーグ、あなたはここに残るのです。行ってはなりません。怒りや憎しみのままに戦ってはいけません。
感情のまま戦えば、また新たな憎しみを生んで、悲劇を繰り返すことになってしまう。
その行き着く先は、光の無い、闇の世界です」
ナフィアは止めようとしたが、カーグは承服しない。
「ニーデリア王家の人間なら、勇気を持って行動しなさいって、母さんはいつも言ってたじゃないか!」
カーグは家を飛び出した。こっそり町を出ようとするが、ナフィアの差し金か、門番に止められてしまう。
仕方なく町の裏手に来てみると、誰かが叫んでいるのが聞こえる。
「おーい、ここを開けてくれー!」
城址の方から聞こえてくるようだ。王制が廃止されてからは滅多に人が寄り付かない所だ。
閉まっている城門を開けてやると、そこにいたのはザップだった。
ザップは宿屋に行くと言って、町の中に入った。
城址の方から、カオスの森を抜ければ、プラム渓谷に行けることをカーグは思い出した。

城門を通って城址を抜け、カオスの森に入る。
たしかここは最近、サルが住み着いて食べ物を盗むとかいう噂が流れていたな・・・と考えながら進んでいくと、
木の上から本当にサルが落ちてきた!
・・・と思ってよく見ると、人間の男の子だった。
上半身には何も着ておらず、肌はよく日に焼けて黒い。
「オイラはこの森の王様、マルだ」
それが王様という格好かとカーグが笑うと、マルは憤慨したようだ。
「オイラはなあ、実は王子なんだぞ。この王冠がその証拠さ」
マルの首には、確かに王冠がある。大きすぎて頭に着けることが出来ず、ネックレスのようになっているが。
「親戚のじいちゃんにここに連れてこられて、でもじいちゃんは死んじゃって、食べ物を盗んだりしながら暮らしてたんだ」
カーグは、自分も以前は王子だった、と自己紹介し、ふたりは意気投合し、一緒にプラム渓谷に行くことになった。
プラム渓谷には、ドゥラゴ族の群れがいた。
ドゥラゴ族とは、ドラゴンから進化した魔族で、背中に翼が生えている。
そして、傷ついた防衛隊員たち。魔族に囲まれているロイドとポーレット。
カーグとマルの活躍により、ドゥラゴ族を退けることに成功した。
ポーレットはカーグとマルに礼を言ったが、ロイドはお止めしたのに何故来たのか、と叱った。
そして、ガレーネ丘陵で魔族の足跡を見つけたというので、ロイドはポーレットを連れてガレーネ丘陵に行ってしまった。

カーグとマルはロイドを追ってガレーネ丘陵にやってきた。
前方から魔族が二人、歩いてくる。ウーファー族だ。ウーファー族は狼から進化した魔族だ。
カーグとマルは身構えたが、魔族たちはばったりと倒れた。よく見ると傷を負っている。
不審に思って奥へ進むと、大柄なウーファー族とロイドが睨み合っていた。
「魔族をこれ以上ユーベルに近づけるわけにはいかない!」
ロイドは捨て身の攻撃に出た。魔族も全力で応戦した。ロイドは地面に倒れた。
「うぐぐ・・・人間どもめ・・・この恨み、決して・・・」
魔族は逃げていった。
「お父さん!まさか!」
ロイドに駆け寄るポーレット。だがロイドは既に絶命していた。
カーグとマルが駆けつけた。
「俺は絶対に、魔族を許さない。これ以上犠牲を出してたまるか!この国は、俺が守ってみせる!」
カーグは高らかに宣言した。

続く
  
  
ダーク編 覚醒

若いときのナフィアが、腕に赤ん坊を抱えて走っている。
隣には青い鱗に覆われた皮膚に頭に角が生え、背中に翼が着いている・・・ドゥラゴ族の男が走っている。
ナフィアと同じく、赤ん坊を抱えている。
「ウィンドルフ!裏切り者は死あるのみ!」
背後からドゥラゴ族が追ってくる。ウィンドルフと呼ばれた魔族と、ナフィアは走りながら顔を見合わせる。
ふたりの首からはそれぞれ、緑色の石が下がっている。
「ナフィア、私が囮になる。逃げるんだ!」
そのとき、ナフィアの足元の土が崩れた。ナフィアとその手に抱えられた赤ん坊は崖下に落ちていった。
「ウィンドルフ!!」
ナフィアの声が木霊した。

時は流れ、大陸を転々としながら、ウィンドルフの逃亡生活は続いた。
抱えていた赤ん坊は少年に成長していた。ある日、ウィンドルフは突然倒れてしまう。
「私を置いていけ・・・」
「父さん、ここまで来ればもう大丈夫だよ」
「これを・・・」
ウィンドルフは息子に首から下げていた緑の石を渡した。
「精霊がお前を導くだろう。お前が行くべき道へと・・・」
最後にそう言って、ウィンドルフは死んだ。

「ふざけんじゃないよ!このクソガキャ!」
アルド大陸の、魔族のテリトリーの一角。森の中にポツンと建つ不気味な一軒家の地下室から、
女が怒鳴る声と、鞭の音、そして男の悲鳴が聞こえる。
鞭の音と悲鳴が鳴り止んでしばらくしてから、ゆっくりと身を起こす影。
頭には角が生え、背中には翼、とそこまでは父親そっくりだが、
青いうろこに覆われてるのは主に左半身だけ。残りは人間の皮膚のようだ。
左手はドゥラゴ族のような鉤爪がついているが、右手は人間そのもの。
そして右上腕には奇妙な形のアザ。それがダークの姿。
”ダーク、魔族を救え”
ウィンドルフの遺言が思い出されるが、ダークは笑う。
こんな状態で、どうやって魔族を救えと言うのだろう?

ダークは地下室を出て階段を上る。さっきダークを虐待していた女、ギドが待っていた。
彼女はヒキガエルのような姿の魔族で、ダークは心ならずも彼女の厄介になっているというわけだ。
ギドは、ダークに、オルコスの町へ行ってフェニックスの血を買って来いと言いつけた。

オルコスへ行く前に、ダークは教会の遺跡に寄ることにした。
旧文明の人間が作った教会の、壁だけが残った遺跡だ。
壁にはステンドグラスが嵌っていて綺麗だ。その壁の前に、石が積み上げられている。
簡素だが、それがウィンドルフの墓だった。

オルコスに入ると、ダークは住人から奇異の目で迎えられた。
オルコスは、鬼の魔族であるオルコ族の町だ。
ダークは人間とも魔族ともつかない容姿だ。皆から「魔族モドキ」と馬鹿にされた。
「アンタがギドのババアんとこの奴隷かい?」
女のオルコ族がダークに声をかけた。彼女はデルマと言い、オルコ族族長の妹なのだそうだ。
奥へ進むと、族長のデンシモと長老のゴーマが言い争っているのに出くわした。
「あの生き物を上手く育てれば、海を渡り別の大陸へ飛ぶ事も出来るんじゃ!」
ゴーマはそう言うが、デンシモは取り合わない。ゴーマは諦めて家に帰った。
ゴーマにさっきの話を聞いてみることにする。
ハスター沼地にいるスイエンという、白いトカゲのような生き物を上手く育てると、
飛炎という生き物に成長し、それに乗って空が飛べるという。
あまり油を売っては叱られるので、ダークはフェニックスの血を買って町を出ようとするが、
そこでチンピラオルコ族二人に絡まれてしまう。
「覚悟はいいか、魔族モドキ!」
と、チンピラは二人がかりでダークに襲い掛かる。ちなみにオルコ族もダークも、武器は使わず素手で戦う。
ダークはチンピラを返り討ちにした。それを見ていたデルマがまたダークに話し掛ける。
「なかなかやるじゃない。アンタ、アタシのアニキの仲間にならないかい?」
どうやらデンシモは強い仲間を集めているらしい。というのも、
人間たちが魔族のナワバリに入って精霊石を取っているので、追い払いたいとのことだ。
「悪いけど、そういうのに興味ないんだ」
ダークは断った。
「何でだよ、腰抜けの魔族モドキ!」
「オレは魔族モドキじゃない。魔族だ」
ダークはそう言ってオルコスを出て行った。

ギドの家に帰り、フェニックスの血を渡す。
ギドはどこからかスイエンの噂を聞きつけたらしく、スイエンを捕まえて来いとダークに命じた。
ダークはハスター沼地へ行った。後ろからこっそり近づいて、スイエンを捕まえる。
だが、ギドに渡すのは忍びないと思い、隠して育てることにした。

教会の遺跡の、人目に付かないところに巣をつくり、そこにスイエンを置いた。
「ここなら安全だぞ、スイエン」
「変わった奴だな。こんなことだろうと思ったよ」
ダークがビックリして振り返ると、それはデルマだった。
ダークはデルマに詰め寄る。
「誰にも言わないと、約束しろ!」
するとデルマは少し恥ずかしそう言った。
「アタシさ、ずっと前から、空を飛びたいと思ってたんだ。
それを叶えてくれるなら、スイエンのことは内緒にしといてやるよ」
「なんだ、そんなことか」
ダークはデルマをお姫さま抱っこすると、背中の翼で飛び上がった。
「うっひゃー、すげーぜ」
デルマは感激している。しばらく飛び回った後、デルマを降ろした。
「どうだ、満足したか?」
「サイコーだよ、ありがとな」
と、そのとき、教会の遺跡に何者かが侵入してきた。
「こんな所にいたか、裏切り者ウィンドルフの息子!」
それはドゥラゴ族の群れだった。
「奴は、ウィンドルフは、ドゥラゴ族を裏切り、憎き人間を愛し、魔族の掟を破った。
そして、あろうことか、ドゥラゴ族の秘宝、風霊石をも持ち去ったのだ。風霊石を差し出せば、
命だけは助けてやるが・・・どうする?」
「父さんを殺した連中の言うことが聞けるか!」
ダークとデルマは協力して、ドゥラゴ族を撃退した。
「風霊石って?」
「ギドに取られたくないから、父さんの墓に隠してある」
ウィンドルフが首から下げていた石のことだ。さて、そろそろ帰らなければまたギドに叱られる。
「スイエンはどうするんだい?」
「ギドには、見つからなかったって言う」
「じゃあ、ひどい目に遭わされるな。アタシだったら絶対、殺してるね」
「ギドは、オルコスで行き倒れていたオレを育ててくれたんだ・・・」
「バッカじゃねーの?死んだヤツの墓作ってメソメソしたりさ。アンタ、本当に変わってるね」

スイエンは見つからなかったとギドに告げるダーク。カーグがそうするように、
アザを左手で触りながら。
「この魔族モドキの役立たずが!」
また地下室で鞭で打たれるダーク。
”魔族に危機が、破滅の危機が迫っている。このままでは魔族は滅びる。
全ての魔族が傷つき、苦しみ、死に絶えるだろう。ダーク、わが息子よ、お前は魔族と人の子。
お前ならきっと、魔族の宿命から逃れられる。破滅の運命を変えようとする力が必ずある。
ダーク、魔族を救え!お前なら出来る!”
「父さん!・・・夢か。笑わせるじゃないか。オレなら出来る?何が出来るんだよ。オレはギドの奴隷だ。
オレには何の力も無い・・・」
地下室から出て階段を上ったが、ギドは不在らしい。この隙に、スイエンの様子を見に行こうと、玄関を出ると、
デルマが待っていた。一緒に教会の遺跡に行くことにする。

教会の遺跡の、スイエンの巣に行ってみると、なんと、スイエンは卵をいくつも産んでいた。
デルマは美味そうだと舌なめずりをしている。
「しっ、誰か来るよっ!」
物陰に隠れて伺うと、なんと人間たちが遺跡に入ってきた。鎧で武装している。
「ここは、かつてプロディアスと呼ばれていた場所の近くだ。貴重なアイテムがどっさり発掘できるぞ」
代表格はツルギという名前の男だ。
「これが人間・・・。魔族の土地に勝手に侵入して、奪うことしか考えないやつら。こいつらがオレの母の・・・」
ダークとデルマは人間たちを殺した。後には人間たちが使っていた装備が残った。
「どうだい、これ?」
デルマは手の甲に着ける爪を拾った。
「ダークはそれ使いなよ。アンタの手には、人間の武器の方が合ってるよ」
そうデルマは言ったが、ダークは、人間の武器なんか使ってたまるかと言った。
「じゃあ、仲間を増やすんだ。この前みたいに、ドゥラゴ族が襲ってきたら困るだろ?アタシのアニキに掛け合ってみようぜ」

二人はオルコスへ行き、デンシモに協力を要請する。条件付きで協力してやってもいいという。
デンシモを入れた三人で、ゼドラ淵にいる人間を撃退することになった。
三人は何とか人間を撃退したが、人間の組織力にダークは少し不安になる。
「人間が集まれば、より大きな力となる。父さんが言ってた破滅って、このことなのか?」

三人はオルコスへ帰ってきた。すると、チンピラオルコ族がやってきて、
パラム荒野の方から、馬面の魔族が空を飛んでいったと言った。三人はパラム荒野へ向かう。
するとそこには、木に吊るされたギドが。
「ダーク、風霊石を渡せ!さもなくば、ババアを殺す!」
ドゥラゴ族はそう言ったが、もちろんダークは応じない。
ドゥラゴ族が放ったモンスターを倒し、一息ついていると、ダークは上空から不意打ちを受けて、うつぶせに倒れる。
ダークを踏みつけたドゥラゴ族。風霊石を渡さなければ、背中の翼を引きちぎると脅したが、
やはりダークは応じない。ダークの翼は引きちぎられてしまう。
このままではダークは死んでしまうと、デルマは、風霊石は教会の遺跡に隠してあると言ってしまう。
木から下ろされるギド。そして不気味に笑うデンシモ。
「あんたをドゥラゴ族に売ったんだよ、ダーク」
ギドとデンシモはドゥラゴ族と共に去っていった。
しばらくして、ようやく起き上がったダーク。気絶しているデルマを置いて、一人で教会に向かった。

教会の遺跡で、風霊石を探しているドゥラゴ族。だが、まだ見つからないらしい。
ギドもデンシモもそこにいた。
「美味かったぜえ。スイエンも、卵も・・・。いいか、魔族には、仲間なんてねぇんだ。
あるのは力。それが魔族だ。お前みたいな魔族モドキにゃ、死んでも解んねぇだろうがよ!」
そうデンシモは言った。ダークは逆上する。
「これが魔族なのか?父さんが命がけで守ろうとしていた・・・魔族なのか。だったらオレは、魔族を捨てる!」
ダークは、人間が残していった鎧を拾い、身に着けた。そして、右手で剣を拾って構えた。
やはり人間の装備はダークに合っているらしい。ダークは剣を巧みに操り、ドゥラゴ族を、ギドを、そしてデンシモを殺す。
ウィンドルフの墓から、風霊石を取り出すダーク。
「この石のせいで・・・」
そのとき、風霊石が光り、ダークの前に風の精霊が現れた。
”選ばれし者よ、目覚めるのじゃ。暗黒の闇、力を求め、再び世界に破滅の時迫る。
その果て無き絶望の闇に光をもたらすものを求め、我らはこの世に戻った。
選ばれし者よ、己が力を目覚めさせ、世界を滅びから救え”
「フフフ・・・ハハハ・・・手に入れたぞ、精霊の力を!
力だ!魔族を破滅から救うには力しかないんだ!」
そこへ、意識を取り戻したデルマが駆けつけてきた。
「アニキは?」
「オレが殺した」
「・・・・・・」
「オレは力を手に入れる!全ての魔族をまとめ、人間と対抗する力を!オレは、魔族の王になる!」
そんなダークを見て、デルマが言う。
「アンタ、本当にダークかい?」

続く


 
カーグ編 旅立ち

城址に集まっている町の人たち。一段高い所に立っているカーグ。
殉職したロイドの後任に、カーグが防衛隊長として就任した。
就任式が終わった後、ナフィアはカーグに、渡すものがあると言った。
何だろう?と思いながらもナフィアの部屋に入るカーグ。ナフィアは本棚からあの石を取り出した。
「あ、その石・・・」
「これは風霊石というの。私がずっと大切にしてきた、お守りのようなものよ。さあ、受け取って」
カーグは風霊石を受け取った。ドーム型の丸い石。裏側は平らになっているかと思いきや、ぎざぎざになっている。
「これって、割れてるみたいだけど?」
「ええ、そうね。あなたの父親と分かち合った石だから」
「初めてだね。母さんの方から父さんの話をするなんて。どんな人だったの?旅先で会ったんだよね。
病気で死んだって言ったけど、もしかしてこの石の半分は、そのまま父さんが?」
カーグの問いには答えず、ナフィアは話を続ける。
「あの人の思いが込められている石だから、きっとあなたを守ってくれるわ。風霊石のご加護がありますように」
カーグは、これからパトロールに行くという。
「カーグ、魔族だけが脅威とは限らないのよ。とにかく、憎しみの感情で戦ってほしくないの」
ナフィアはそう言ったが、カーグはまたそれか、と思って取り合わず、ナフィアの部屋を出た。
すると、風霊石が光り、カーグの前に精霊が現れた。
”選ばれし者よ、目覚めるのじゃ。暗黒の闇、力を求め、再び世界に破滅の時迫る。
その果て無き絶望の闇に光をもたらすものを求め、我らはこの世に戻った。
選ばれし者よ、己が力を目覚めさせ、世界を滅びから救え”
ダークが聞いたのと同じ言葉だった。
「俺に、世界を救え、だと?」
カーグはは困惑した表情だ。
外に出ると、ポーレットが待っていた。ポーレットはロイドが着けていた赤いショルダーアーマーを身に付けていた。
「これ、お父さんのなの・・・」

カーグは、ポーレットとマルと共に、パトロールに出かけ、ユーベルに帰ってきた。
するとザップが慌てた様子で町に入ってきた。
「さっき、飛空挺が墜落するのを見たぞ。竜骨谷の方角だったな」
カーグたちは竜骨谷に急行する。

竜骨谷はニーデリアの北の外れで、雪が積もっている。
ザップが言ったとおり、飛空挺が不時着している。その側に、人が倒れているのが見える。
それは変わった服を着た女の子だった。
「おい、キミ!しっかりしろ!」
「誰にも渡せない・・・早く行かなきゃ・・・」
揺さぶると、女の子はそう呟いた。
「良かった、生きてる」
女の子は目を覚ました。
「ここは・・・?」
「ニーデリアの外れだよ。ラグナス大陸だ」
「そう・・・まだ・・・」
女の子は立ち上がった。
「大丈夫。ちょっと煙を吸っただけ。私、リリアと言います」
「あなた、どこから来たの?」
「東にある国です。あのビッグアウルに乗って来ました。カテナ共和国にある世界連盟まで行こうとしたんですけど
ディルバルド軍の飛行戦艦に撃たれてしまったんです。それで自動操縦装置が壊れて・・・」
あの飛空挺はビッグアウルという名前らしい。しかし、一人きりで飛空挺に乗って旅するなんて・・・。
特にポーレットは怪しんでいる。
そのとき、ドゥラゴ族の群れが襲い掛かってきた。リリアを庇いながら、ユーベルに向かって逃げる。

カーグたちは南下して、イスロの森まで来た。と、今度は軍服を着込んだディルズバルド軍が追ってきた。
リリアを庇いながら、3人で戦うには辛い。すると、森の奥から男が現れた。
「森が泣いている・・・。森を傷つける気なら、俺が相手になってやる!」
縦にも横にも大きい男だ。髪を短く刈って、軍服を着て、斧を振り回している。
カーグたちは男と協力して、ディルズバルド軍を退けた。
ホッとしていると、リリアが足を怪我していることに気付く。
「怪我人がいるんだ。助けてくれないか」
「向こうに小屋がある。簡単な治療しか出来んぞ。・・・俺はガンツだ」
ガンツは傭兵だったが、突然嫌になって、それ以来この森に住み着いているのだという。
カーグはガンツを、防衛隊に入らないかと誘ったが、ガンツは断った。
リリアの足の治療を終えて、ガンツは南に向かうカーグたちを見送った。

スクラップ高地まで戻ってきたカーグたち。罠にかかり、ディルズバルド軍に囲まれてしまった。
白いコートを着て、メガネをかけた女が現れた。
「はい、リリアを発見しました。・・・はい」
女は耳につけた無線機で何事か話した。
「戦争ごっこならもう十分でしょう?私はディルズバルド帝国軍特務部隊、タチアナ中佐よ」
「何故、リリアを・・・?」
「隊長さん、あまり詮索しない方が身のためよ」
「いくら小国でも、ニーデリアは世界連盟に加盟しているんだ。
それ以上の侵略行為は、連盟国全てと敵対することになるぞ!」
カーグはそう言ったがタチアナは笑った。
「アハハ、もうとっくに敵対してるのよ!」
「何もわかって無いのはお前たちだ!今は人間同士で争っている場合ではない!」
「待って・・・投降します。ただし、カーグたちには手を出さないと約束して」
タチアナがうなずくと、リリアはタチアナに向かって歩いていった。
だが、タチアナはリリアを確保すると、兵士たちに、銃を構えるよう命令した。
「約束が違う!」
リリアは抗議したが無駄だった。絶体絶命。カーグは左手でアザを触った。
「キサマら・・・!うおおおおおーっ!」
怒りに燃えるカーグを中心に、風が渦を巻いた。兵士たちは吹き飛ばされてしまった。
残されたタチアナは、リリアを置いて逃げていった。
何が起こったのか解らずに呆然としているカーグ。
「もしかして、今のは精霊魔法じゃないかしら?はるか昔、精霊の力を借りて魔法を使う人がいたって言い伝えがあるの」
リリアはそう言う。
「今魔法が使えるのは、モンスターと魔族だけ。なのにカーグは・・・」
ポーレットは考え込んでいる。
「まさか、あの精霊の声、『選ばれし者、目覚めよ』ってこのことなのか?」

ユーベルに戻り、ナフィアの家で手当てを受けるリリア。
リリアは自分のことを話し出す。
「ディルズバルド軍は、私が持っているある物を狙っているんです。
ディルズバルド皇帝、ダッカムは、世界征服を企んでいて、それに必要な物なんです。
私はこのことを、カテナにある世界連盟に伝えなきゃならないんです・・・」
それを聞いて、ナフィアは言う。
「カーグ、リリアさんを守って、無事にカテナまで送り届けるのです」

その日の夜。城址の崩れた石垣に座って、リリアが楽器を奏でている。
小型のハープのような形だが、弦がない。リリアが見えない弦を弾くように手を動かしながら演奏する。
カーグがやってきた。リリアは演奏を止めてしまう。
「綺麗な曲だったね」
「この楽器は、オルティナって言うの。死んだお母さんの形見・・・」
そのまま二人は黙ってしまうが、リリアが話し始めた。
「大精霊石って言う石のこと、知ってる?大精霊石は、普通の精霊石よりずっと強い力があって、
その力は、永久になくならないと言われているわ。これは、光霊石っていうの」
リリアは、白い、ナツメ型の石を取り出した。カーグも半分の風霊石を取り出す。
すると、二つの石は共鳴したかのように光り、二人の前に精霊が現れた。
”僕は光の精霊。地・水・火・風・光。五大精霊石がそろうとき、無限の力が生まれる。
邪悪なる闇から僕を守り・・・”
そこまで言って精霊の姿は消えてしまった。
「そういえば、ダッカムはすでに地霊石を持ってるって聞いたわ」
仲良く話している二人を、遠くからポーレットがこっそり見ていた。

翌朝。カテナに行くためには、ビッグアウルを直さなければならない。
だが、ユーベルの人々は飛空挺のことなど解らないだろう。
そういうことに少しは詳しそうなザップに話を聞いてみると、制御パーツを取り替えれば直るのではないか、とのこと。
スクラップ高地に行って、飛空挺の残骸から制御パーツを調達し、カーグたちは竜骨谷に行き、ビッグアウルに乗る。
そこには、ガンツが待っていた。一緒に戦ってくれる気になったのかとカーグは喜んだが、ガンツは否定した。
「パーツをよこせ。素人には無理だ。・・・早合点するな。取り引きをしに来たんだ。
かつて、俺の命を救ってくれた親友がアルド大陸にいることが解ってな、会いに行きたいんだ」
ガンツに制御パーツを渡した。ふと窓の外を見ると、ナフィアが手を振っているのが見えた。
カーグは外に飛び出した。
「母さん!こんな所まで一人で来て・・・」
「カーグ、この先、何が起ころうとも、あなたは私と、あなたの父、ウィンドルフの誇りです。
自分を愛し、世界を愛しなさい。風霊石の導きのままに・・・」
なんだか真剣な様子のナフィアだが、カーグは大げさだと笑った。
「ハハハ、最後の別れみたいな言い方するなよ。リリアを送り届けたらすぐに帰るさ。じゃあ、行ってくる」
ビッグアウルはカテナに向けて離陸した。それを見送るナフィア。
「カーグ、どうか無事で・・・」

ビッグアウルの艇内で、リリアは自分のことを話す。
リリアは、小さな村で家族一緒に暮らしていたが、十二年前に、ダッカムが光霊石を狙って村を襲った。
リリアの一家は光霊石を持って逃げた。各地を転々として、やっと安全な場所が見つかったと思ったころ、
父親が行方不明になった。そして、母親も三年前に死んでしまったとのことだ。
カテナのある、アルド大陸が見えてきたころ、後方にディルズバルドの飛行戦艦が現れた。
ビッグアウルは後方から撃たれ、不時着を余儀なくされる。

不時着した先は鬱蒼とした森の中だ。艇外に投げ出されたカーグたちは身を起こす。
どうやら人間のテリトリーらしいが、オルコ族もうろうろしている。
ガンツが言うには、ここはアシダの森と言って、カテナの北あたりだそうだ。
見回してみるが、リリアがいない。カーグたちはリリアを探すことにした。
と、突然タチアナたちと出会ってしまう。戦闘になるが、カーグたちは苦戦する。
そのとき、カーグたちの前に立ちはだかる男がいた。派手な青い帽子に青い服。そして金メッキの二丁拳銃を装備している。
「ディルズバルドが相手なら、力を貸すぜ!ムーンストーン盗賊団、二連銃のシャムスン参上!
どてっ腹に穴が開くぜ!」
盗賊団の人たちも加勢する。タチアナたちは引き上げていった。
「お前たち、俺たちのアジトに来ないか?ヴィルド湖畔で待ってるぜ」

ヴィルド湖畔に行ってみると、湖には大きい青い船が泊まっていた。
船に乗り込み、シャムスンと話をする。
「リリアの情報が入った。どうやらリリアはアシダの森を抜けて、カテナ共和国に入ったようだ」
ガンツはビッグアウルを修理すると言って、アシダの森に戻った。カーグたちはカテナ共和国に向かう。

カテナは世界一大きな町だ。海に面していて、カモメが飛んでいる。その中でも一番大きな建物が世界連盟だ。
急ぎの用件だと言ったが待たされた。やっと会議場に行ったが、リリアはここには来ていないという。
シャムスンに騙されたのか?

続く


 
ダーク編 野望

デンシモを殺したダークは、オルコスの支配者となっていた。退屈そうに、デンシモが座っていた玉座に座っている。
デルマは地下牢に入れられた。
チンピラ魔族がダークに、強い魔族を見つけました、と報告する。ダークはつれて来いと命じた。
強い魔族が連れてこられた。ラグナス大陸からやってきた、という。ロイドを殺したあの魔族だ。
「我が名はヴォルク!ウーファーの言葉で血族の復讐者を意味する」
ダークは自ら武器を取り、戦って力を試した。ダークほどではないが、確かに強い。
ヴォルクの強さは、人間を憎む心から来ているらしい。ダークは聞いてみた。
「どうしてそんなに人間を憎む?」
「ヤツらはオレの大切な物を全て奪った。我が妻イリーナ、我が子ナザール・・・。人間を決して許しはしない」
ダークは野望達成のために一緒に戦おうと誘った。ヴォルクはダークに従うと言った。
そろそろデルマの頭も冷えた頃だろうと、ダークは地下牢へ行った。
デルマはデンシモとの思い出話を始めた。ダークはそれを遮って言う。
「デルマ、過ぎた事はもういい。魔族を変えていこう。争い事のない、平和な魔族の世界を作ろう。
全ての魔族を救うために・・・」
「ダーク、これからは、アンタに従うよ」

さて、三人揃ったが、もちろん、まだ仲間が必要だ。
アルド大陸から出て、もっと強い奴らを探そう、という話になったところに、報告が入った。
なんでも、アシダの森で何か光るものが落ちたという。
ダークは無意識のうちに腕のアザを触っていた。
「前から気になってたんだけど、そのアザを触るクセ。何かヤバい雰囲気の時は、必ず触ってるからさ」
デルマに指摘されて、ダークはハッとした。
三人はアシダの森へ行ってみることにした。

アシダの森では、人間たちが右往左往しているのが見えた。
「なるほど、人間はリリアというものを探しているらしいな」
タチアナ率いるディルズバルド軍と出くわしてしまった。戦いになるが、タチアナは逃げた。
ヴォルクはタチアナを追いかけて行ってしまった。ダークたちはクロセルの泉へ着いた。
デルマが、手分けしてリリアを探そうと提案したので、ダークは一人で行動する事になった。
「見つかりませんように。精霊よ、お守りください」
そう言って必死で願っているリリアをダークは見つけてしまう。
まともに見る人間の女・・・ダークはリリアにしばし見とれる。
「お前が、もしかして・・・リリアか?」
ダークはリリアに近づこうとするが、リリアは後退りする。
「魔族・・・!こ、来ないで!」
ダークの注意はリリアに向いている。こっそり背後から近づくデルマにも気付かなかった。
隙を突いて、デルマはダークを攻撃する。
「へっ、待ってたんだよ、アタシは。隙を見せるのを」
「デルマ、何故だ・・・」
「確かに、デンシモはどうしようもないヤツだったけど、それでも、アタシにとっては大切なアニキなんだよ!」
ダークは倒れた。デルマは逃げていった。

「どうしよう。一応手当てしといたから、大丈夫だと思うけど・・・」
リリアはおろおろしていたが、そのうち、ダークは目を覚ました。
「よかった、気がついたのね」
怪我の手当てがされているのに気付いて、ダークは尋ねた。
「どうしてこんなことをした」
「どうしてって・・・怪我をしてたから」
リリアの答えを聞いて、ダークはアザを触る。
「信じられん。何故助けた。オレは魔族なんだぞ。お前は、オレが怖くないのか?」
「怖いわ・・・もちろん。でも、見過ごすなんて出来ないわ。それが人間よ」
ダークはまだ困惑しているようだ。
「オレはダーク。お前は?」
「リリア」
「リリア・・・か。変わった響きの名だな」
そのとき、ダークの持っていた風霊石が光りだした。
「風の精霊石を持っているの?」
「ああ、そうだが」
リリアの光霊石も光っていた。あの時と同じように、精霊が姿を現す。
”僕は光の精霊。地・水・火・風・光。五大精霊石がそろうとき、無限の力が生まれる。
邪悪なる闇から僕を守り・・・”
「前にも同じようなことが・・・。あなたは、まさか・・・。風霊石を持つものがまた一人。
これも精霊の導きなの?」
リリアは決心して言った。
「いいわ。あなたについて行きます」

オルコスに戻っていたデルマは、ダークを倒したので族長になると言っているが、町の人は取り合わない。
そうしてるうちに、ダークがリリアとヴォルクを連れて戻ってきた。
「デルマ、そんなにオレを殺したいか?だったら、今度はしくじるな」
そう言っただけで何もしようとしないダークに、デルマは言う。
「何でだよ、何でアタシを殺さないんだよ、ワケ解んないよ。
アンタはアタシの心をかき乱すんだよ。アタシはこれからどうすれば・・・」
「さあな。オレを殺したいなら、オレについてくるんだな」

地下牢に入れられたリリア。ダークは見張りを下がらせて、二人きりで話をする。
「さっきのオルコ族の女の子はどうしたの?」
「殺してない」
「そう。あなたはやっぱり、他の魔族とは違う。やさしい心を持ってる」
「大精霊石について、知っている事を話せ」
「何も知りません。それを知る前に、お母さんは私に石を託して死んでしまいました」
「似てるな。オレも、父さんの死ぬ直前に風霊石を渡された・・・」
「ねえ、ダーク、あなたのお母さんは人間なんじゃない?」
「・・・お前も、オレを魔族モドキだと嘲笑うのか」
「怒らないで聞いて。実は私、ラグナス大陸で、カーグという人に会いました。その人も、あなたと同じ、
風霊石を持っていたんです。あなたの風霊石は半分に割れてない?もしかしたら、あなたはカーグの・・・」
「うるさい、だまれ!お前を殺さなかったのは、そんな戯言を聞くためじゃない。残りの大精霊石はどこにある?」
「地霊石はディルズバルド帝国にあります。他は知りません。・・・馬鹿なこと言わないで!
あなたも精霊の声を聞いたでしょう。世界の破滅が迫っていると。ディルズバルド軍は大精霊石を集めて、
世界征服を企んでいる。だから、お願い、ここから出して!カテナの世界連盟に行かなければならないの!」
「だったら、オレに協力しろ。ディルズバルドなんか倒してやる」
「今はヒトが団結して帝国の野望を止めなければならないのよ」
「フフ・・・ヒトか。なるほどな。お前は当分、ここにいろ」

久々に教会の遺跡へ行ってみる。デンシモが食い尽くしたと思われるスイエンの卵は、奇跡的に一個だけ残っており、
それが孵化してスイエンが産まれていた。ゴーマにスイエンの育て方を聞き、
餌を調達して指示されたとおりに食べさせると、スイエンは昏睡状態になってしまった。
次に目覚めるときに、飛炎になると言うことだ。

地下牢に行ってみると、リリアはオルティナを弾いて歌を歌っていた。聞き入っているオルコ族たち。
それを見てダークは怒鳴る。
「やめろ!ずいぶん楽しそうだな、エエッ!?」
オルコ族たちはクモの子を散らしたように逃げていった。

それからしばらくオルコスを留守にして、帰ってきてみると、オルコ族たちは傷ついて倒れていた。
「ダーク様、人間がやってきてリリアを・・・」
どうやらディルズバルド軍が攻めてきて、リリアを攫っていったらしい。
地下牢にはオルティナが残されていた。ダークは拾って持っていった。
人間たちはパラム荒野の方からやってきたようだというので、行ってみることにした。

パラム荒野には、巨大な飛行戦艦メギストが着陸していた。兵士が卵形の奇妙な機械を設置して、戦艦に帰っていった。
戦艦は離陸した。
機械は花が開くように開いた中は水槽のようになっていて、その中には植物のような魔族が閉じ込められていた。
機械はダーク達に襲い掛かってきたので倒すと、まだ生きていた中の魔族が出てきた。
「わらわはピアンタ族の賢者、カトレアじゃ」
カトレアは身長も低く顔も皺だらけ、声もしゃがれてかなりの年齢のように見える。
賢者と言うだけあって知識も豊富。力は弱いが魔力は強い。
ダークは、利用価値がありそうだと思い、仲間にすることにしたが、デルマは不服そうだった。
カトレアは、ディルズバルド軍につかまり、タチアナに拷問されたのでこんな姿になってしまったという。
ダークは、大精霊石について聞いてみた。すると、アデネード大陸のコレオプト神殿に奇跡の石があるという答え。
早速アデネード大陸に行く事になった。

教会の遺跡に行ってみると、スイエンは飛炎になっていた。飛炎は大きくなり、手の上にダークたちを乗せて
アデネード大陸に向けて飛び立った。

コレオプト神殿は、コレオプト族というアリのような魔族の住むところだ。
大精霊石の噂を聞きつけたのか、ディルズバルド軍もうろうろしている。
奥へ進んでいくと、中央に柩のようなものがある大きな部屋へ出た。兵士が二名ほどうろうろしていた。
突然、柩の蓋が開き、赤い帽子に赤い服の、小さな女の子が姿を現した。
「ふぁ~。もう起きる時間なの?わたしはべべドア」
大したことなさそうに見えるが、カトレアが言うには、べべドアは、いにしえに封印された、最強のモンスターだと言う。
べべドアは、兵士を操って、ダークたちを襲った。それを倒す。
「揺れる色、巡る彩り、いくつもの光。モンスターとは違う。あなた、本当に魔族?」
べべドアがそう言うので、ダークは答えた。
「オレはダーク。魔族の王になる者だ」
「わたし、決めた。あなたのココロ、もっと見たい」
ダークはべべドアを仲間にすることに決めた。

コレオプト神殿の最奥に、奇跡の石を守るコレオプト族の女王が待っていた。
ダークたち五人は女王を倒す。
ダークは奇跡の石を手にした。それは水霊石だった。精霊が現れる。
”精霊の声を聞きし、選ばれし者よ。あたしは水の精霊。争ってはいけないよ。
争いは何も生まない。憎しみは何も解決しない。負の意思、負の感情で世界を満たしてはいけない。
邪悪なる闇から世界を・・・”
だが、その精霊の声をダークは笑い飛ばした。
「フッ、リリアみたいなことを言う。
・・・心安らげば寝首をかかれ、心を和ませれば裏切られる。それが魔族の世界だ。
オレは力しかいらない。争いと憎しみで、魔族を救ってみせる」

続く
 


カーグ編 激闘

カーグたちはリリアを探しに行ったが、見つからず、また世界連盟の会議場に戻ってきた。
ミルマーナ・イピスティア・カテナ・パルキア・ラマダ寺。
それぞれの代表議員が話し合い、合議制によって決定を下す。
だが、決定に至るまでの時間がとても長い。リリアのことをどうするのかと尋ねてみたが、一向に話が進まない。
と、ミルマーナ代表議員の女性に声をかけられたカーグたち。別室に呼ばれた。
ミルマーナ代表議員は、カーグたちの話を代わりに聞いてくれた。
「ダッカムが欲しがっているのは大精霊石なんだ。リリアが持っている光霊石を狙っている」
「・・・ダッカムは、イピスティアに侵攻しようとしているという噂があります。
なんでも、イピスティアのとある火山に、炎のたまごと呼ばれるものがあるそうです。それを狙っているとか」
「火霊石か?」
ミルマーナ代表議員は、カーグたちに、イピスティアに行ってほしいと頼む。
カーグたちは引き受けることにした。まず、サルファスという町でスペンサーという男に会えとのことだ。

世界連盟の建物を出ると、ビッグアウルの修理が終わったらしく、ガンツが待っていた。
ガンツは闘技場の方に付き合ってくれという。命の恩人の消息を知っている人が待っているとのこと。
闘技場で男と会う。
「ツルギという兵士を探している。同じ部隊に所属していたというのは、あんたか?」
「ツルギ?・・・死んだよ。オルコスの近くで、魔族に・・・オルコ族に殺されちまった」
ガンツはショックを受けたがすぐ立ち直り、オルコ族に復讐する決意を固めた。

ビッグアウルに乗ってイピスティア大陸へ。そしてサルファスに入る。
サルファスはディルズバルド軍に占領されていた。店は営業を縮小させられてるし、町の北にあるという
プラントは軍に完全に抑えられている。
どうやら、スペンサーはレジスタンスのリーダーらしい。酒場にある秘密の入り口から地下へ降りると、
そこがレジスタンスのアジトだった。スペンサーは赤い軍服を着た老人だった。
「カーグ、本当にカーグなのか?」
奥からザップが現れた。ザップは、火山を見に来たが、怪しい奴と思われて捕まってしまったのだという。
スペンサーから話を聞く。炎のたまごがあるのは、クイナ火山だろうとのこと。
だが、クイナ火山の中腹には、ディルズバルド軍の要塞が築かれていて、近付けない。
そこで、まずはサルファスを開放し、プラントを取り戻す、とスペンサーは言う。

カーグたちはレジスタンスと協力し、サルファスを開放することに成功する。
否、カーグたちは協力したつもりだったのだが、レジスタンスメンバー数人は不服そうだ。
「余所者がでしゃばって、おいしいところを持っていきやがって・・・」
メンバーはスペンサーの命令を無視し、勝手にクイナ火山の要塞へ行ってしまう。
スペンサーはカーグに、連れ戻してくれ、と頼んだ。
要塞に行く。そこには巨大な二基の大砲があり、その射程に入らずに火山に近づくことは不可能だ。
レジスタンスメンバーは、大砲にやられて怪我をし、動けなくなっているらしい。
カーグたちはひとまず怪我人を救助して、サルファスに戻った。

火山に入るには、やはり大砲をなんとかしなければ。
スペンサーは、ああいうのは下から攻めるのは難しいが、上から攻めれば簡単に落ちると言う。
上から・・・飛空挺、ビッグアウルで?でもビッグアウルには攻撃パーツがない。
ビッグアウルをプラントのドックに入れ、帝国が残していったという、ビーム砲を取り付ける。
カーグに、テレオペというものが渡される。これでビッグアウルをコントロールして、攻撃指示を出すらしい。
再び要塞に向かい、ビッグアウルを操作してビーム砲で大砲を二基とも破壊する。
カーグたちはクイナ火山に入った。

メギストの窓から外を眺めているダッカム。後方にリリアが立っている。
「ダッカム様、火霊石の場所が判明しました」
「あと三つか・・・タチアナに知らせろ」

火山の入り口でザップに会う。もうすぐ火山が噴火しそうなので急げ、と言って去っていった。
クイナ火山はラケルタ族という、トカゲから進化した魔族が住んでいるところだ。
そのせいでディルズバルド軍も容易に奥へ進めないらしい。
カーグたちは奥へと進み、とうとう火霊石が安置されている、火山の火口へとやってきた。
そこでは、タチアナが強そうなラケルタ族に囲まれていた。カーグは助けようと言った。
他の人たちは抗議したが、見捨てる事は出来ないと、カーグたちはタチアナと協力し、ラケルタ族を倒した。
だが、ラケルタ族が居なくなったとたん、タチアナの態度は変わる。
タチアナはカーグに銃を向けた。
「カーグ、おめでたい男ね。ダッカム様の邪魔をする者は倒すのよ」
だがカーグは動じない。
「本気で撃つつもりなのか?あんたは本当に、ダッカムのやっている事が正しいと思っているのか?」
「お前にあのお方の偉大さは解らないわ。あの方は、人間と魔族が対立する世界に、
新たなる秩序を作ろうとされているのよ」
「他所の国を侵略して、恐怖で支配する事が支配か?ダッカムは、世界を混乱させているだけだ」
とうとうタチアナは根負けして銃を下ろす。そして火霊石のところへ行き、掴もうとしたが、
バリアーのようなもので弾かれてしまう。
代わりにカーグが手を伸ばす。
”風の声を聞きし者、我を収めよ”
精霊の声が聞こえた。カーグは火霊石を掴んだ。
「何?あなた・・・一体、何者なの?」
タチアナは驚いている。精霊が姿を現した。
”かつて、万物に精霊はあり、人は精霊と共に生きた。欲望と憎しみに囚われたとき、
精霊無き世は、暗黒の闇に飲まれる。世界に愛と調和を・・・それが最後の希望となる”
「人間同士が争う事を、精霊は望んでないってことさ」
そうカーグは言うが、タチアナは納得できないようだ。

「そこまでだ。よくやったな、タチアナ」
「ダッカム様・・・」
なんとダッカムがやってきた。
「動くな!お前たちの探している娘が、溶岩の中に落ちてもいいのか?」
今にも溶岩に落ちそうなところに、縛られたリリアが立っている。
「リリアの命が惜しければ、火霊石を渡すのだ」
カーグは仕方なく、火霊石をダッカムに投げた。
だがダッカムたちは、リリアを開放せず、そのまま連れ去ろうとする。
リリアを追おうと、溶岩の上に架かる橋を渡ろうとしたが、仕掛けられた爆弾が爆発し、橋は崩れてしまう。
これではリリアを追うどころか、火山を脱出することもできない。もうすぐ火山が噴火しそうなのに・・・。
「待ちな。こっちにもタチアナがいるぜ。殺されたくなければリリアを離せ」
だがダッカムは平然と言った。
「フフフ。それが切り札となるものか。タチアナは、私のためなら喜んで命を捨てるぞ」
ダッカムたちはリリアを連れて行ってしまった。

ダッカムに捨てられた、と呆然と立ち尽くすタチアナ。
何か脱出方法は無いのか、と探すカーグの耳に、何かが聞こえてきた。
シャムスンの青い大きな船が空を飛んできた。
「ハッハーッ!千両役者の登場だぜ」
縄梯子が下ろされた。みんなは梯子を上っていった。だがタチアナはまだそのまま固まっている。
「私に構わないで」
「こんな所で死んでどうする?」
「私は、火霊石を手に入れるための、単なる道具に過ぎなかった・・・」
そう言うタチアナに、カーグは答える。
「一緒に行こう。生きていれば、いくらでもやり直せるさ」
タチアナはうなずいた。火山が噴火する前に、無事に全員脱出した。

メギストに戻ってきたダッカムとリリア。
リリアはダッカムに、光霊石を手に入れれば私には用は無いはずでしょう?と言うが、ダッカムは
「お前には、おまえ自身が知らない使い道があるのだ」
と、謎めいた答えを返した。リリアは牢屋に連れて行かれた。
入れ違いに、杖をついてマントを着ている男が入ってきた。
「火霊石を手に入れたそうで。ですが、風霊石にはてこずっておられるようですね」
そう男に言われたが、ダッカムは不敵に微笑む。
「すでに目処はついた。あの実験にも成功したよ。貴様の方こそ、情報に間違いはないのだな」
「ご心配なく。竜骨谷の物を使えば、必ずやうまく行くでしょう」
「良かろう。次の目的地はニーデリアだ!」

続く
 


ダーク編 愛憎

アデネード大陸のルルムという町に滞在しているダークたち。夜になり、宿屋に泊まる。
ダークがふと目を覚ますと、水霊石がないことに気付く。飛び起きてみんなを起こす。
カトレアの姿が見えない。みんなでカトレアを探すことに。
カトレアは闘技場にいた。何やら呪文を唱えている。手にした水霊石が光りだした。
と、カトレアに何者かが襲い掛かった。背中に翼のある、大柄な魔族だ。顔は一角獣のような感じだった。
そいつに水霊石を奪われてしまった。
「ギャーッ!!」
カトレアの悲鳴に、ダークたちが駆けつけてきた。
「ダークとやら、水霊石は、このドグザ様がありがたく頂いた」
ダークたちはドグザと、ドグザ率いるドゥラゴ族に戦いを挑んで、何とか勝つ。
だがドグザは背中の翼で飛び上がった。
「フフッ、詰めが甘いな。忠告しておこう。仲間を信じるな!」
結局、水霊石は奪われてしまった。

翌朝。
カトレアは、水霊石を少しの間借りるつもりだったとのことで、この件については不問とした。
ダークはカトレアに問い掛ける。
「答えろ。五大精霊石を集めると、何が起こる?」
「ピアンタ族の伝承によれば、五つの石の力を全て使ったものは、
無限の力を得て、最強の魔族になれると言われておるのじゃ」
ダークは少し考えてから言う。
「ドゥラゴ族の本拠地、ラグナス大陸へ向かう」
ラグナス大陸と聞いて、ヴォルクが雄たけびを上げる。
「ラグナス大陸・・・忘れぬ。あの悲しみだけは」

飛炎に乗ってラグナス大陸へ。ドゥラゴ族が住む、ドラゴニアという町に着いた。
歩くダークを呼び止める、老齢のドゥラゴ族。
「お待ちください、その腕のアザ!その面影・・・間違いない、あなたさまは、ウィンドルフさまゆかりの・・・」
「ウィンドルフ・・・父さんを知っているのか?」
ダークがウィンドルフの息子だと名乗ると、ぜひ族長のウィリウォーに会ってくださいという答え。
早速ウィリウォーが居る部屋を訪ねる。一緒に入ろうとする仲間たちを止めて、ダークは一人で入った。
ウィリウォーはダークのアザを見て驚く。
「お前はウィンドルフの・・・」
「ウィンドルフはもう死んだ。お前たちは、オレたちを付け狙い、お前たちに負わされた怪我が元で、父さんは死んだ。
父さんを殺したのはお前たちだ!」
そう言ったダークにウィリウォーは答える。
「あいつなど、殺しても飽き足らぬ。あいつは大きな罪を犯した。ドゥラゴ族族長の務めを怠り、
魔族の掟を破り、人間とつがい、そればかりか、ドゥラゴ族の宝、風霊石を盗んだ。
あいつ一人のために、我がドゥラゴ族は滅亡の危機に陥ったのだ。その裏切り者の息子が何の用だ?」
ダークは、ドグザがドゥラゴ族を率いて大精霊石を奪ったと訴えた。
「ドグザか・・・ハルシーヌ大陸から来たという、得体の知れない魔族。お前を襲った奴らは、
ドグザにそそのかされた馬鹿どもだ」
「では、ドグザとその手下とは関係ないと言うんだな。答えろ、ドグザはどこにいる?」
「言えぬわ。だが、お前がが竜の試練を受けるなら話は別だ」
竜の試練とは、ドゥラゴ族族長になるための試練なのだそうだ。ダークは試練を受けることに決めた。
「良かろう。それでは、竜骨谷の洞窟に眠りし竜を統べる王冠を取って来い」

試練は一人で受けなければならない。竜骨谷に仲間を置いて、ダークは洞窟に入った。
竜の魂の声が聞こえる。
”その腕にあるアザは、確かにウィルの紋章。魔族へ生まれ変わりしドラゴン、
ウィルの子らに刻まれた印。
ウィンディゴの子ウィラード、ウィラードの子ウィリウォー、ウィリウォーの子ウィンドルフに連なる者だな。
汝の力によって、その血を示せ!」
二体の巨大な竜の石造が動き出し、ダークに襲い掛かるが、それを倒す。
そして王冠を手にして、ウィリウォーのところへ戻る。

咳き込みながらうずくまるウィリウォー。その背中には確かにウィルの紋章がある。側近の人が心配している。
「気にするな。いつもの発作だ」
ダークは王冠を見せる。
「良かろう。お前をドゥラゴ族族長として認める」
「ドグザの居場所を教えてもらおう」
「恐らく、雷神岬だ。あそこには、ディルズバルドとかいう人間どもの基地があるそうだ。
ドグザとその手下は、人間と手を組んでいるらしい」
ウィリウォーは突然咳き込む。
「ワシはもう長くはない・・・」
ウィリウォーはダークに、ウィンドルフは息子でダークは孫であること、
ウィンドルフはナフィアという人間の女とつがいになったこと、
実はダークは双子の兄弟で、もう一人はカーグという名前だということ、
カーグはナフィアと一緒に崖から落ちて死んだらしいことを話した。
「ダーク、ワシはお前を誇りに思う。ウィンドルフの息子がここまでの男となり、
ドラゴニアに帰ってくるとは。ワシはもう思い残すことはない」
ウィリウォーの部屋を出て、ダークは考える。
「オレに兄弟がいたなんて。もし生きていれば、オレと同じ境遇、同じ立場。オレと同じ苦痛を分かち合えたものを。
だが、死んでいたなんて。結局オレは、たった一人の魔族モドキか・・・。
ん?待てよ・・・。確か、リリアがカーグとか言う人間の男と会ったと言っていたな。そいつの母はナフィアと・・・。
これは偶然か、それとも・・・」

仲間と共に、雷神岬に向かうダーク。そこには、飛行戦艦メギストが着陸していた。
そしてドグザとドゥラゴ族が立ちふさがったが、倒す。
ダークはドグザを問い詰める。
「水霊石はどうした?」
「ククク。水霊石は我が主、ダッカム様の元にある」
「馬鹿な!人間に従うとは、魔族の誇りを忘れたか!」
「何とでも言うがいい。オレは、目的の為なら手段は選ばぬ」
ドグザは隙を突いてメギストに逃げ込んだ。
そのときディルズバルドの援軍が駆けつけたので、その場は仲間たちに任せ、ダークは一人でメギストに乗り込んだ。

「食事を取ってないようだな」
リリアが入っている牢屋を訪れたダッカム。
「ついに水霊石も手に入れた。残りは風霊石だけだ。それも時間の問題だがな」
リリアは反抗的な態度を取る。
「お前に協力させるためのすばらしい道具だ」
なんと、ナフィアが連れてこられて、一緒に閉じ込められた。

「リリア・・・あいつには借りがあったな」
排気口からリリアの牢屋へ進入するダーク。
ナフィアとリリアが話している声が聞こえる。
「あれがナフィア・・・オレの母親・・・」
突然ダークが現れたのでびっくりする二人。
「忘れ物を届けに来た」
そう言ってダークはオルティナをリリアに渡す。
「ありがとう、ダーク」
「違う!自惚れるな。オレは水霊石を奪いに来ただけだ。これはそのついでだ」
ダークという名前を聞いて、ナフィアは動揺している。
「まさか・・・あなた・・・ダーク!」
だがそれには答えずに、視線を逸らしながらダークは言う。
「今度なくしても、もう届けたりしないからな。いいか、大切なものなら、命に替えても絶対に手放すな!絶対だ」その言葉に含まれた意味を、ナフィアは読み取ったようだ。
「ダーク、やっぱりダークなのね!生きていたのね!」
ナフィアはダークに駆け寄ろうとするが、ダークは拒絶する。
「ダーク、どうして・・・」
「オレには母親などいない!いるのは、父さんを騙した最低な人間の女だ!貴様のせいで父さんは死んだ」
「そんな、違うわ、ダーク。お願い、私の話を聞いて。あなたは誤解しているわ。
私とウィンドルフはお互いに愛し合っていたの・・・」
そのとき、ダークが侵入しているのがバレたのか、警報が鳴り出した。
とりあえず、ダークは二人を連れて逃げることにした。

もうすぐメギストから出るというところで、兵士二名にに道を塞がれてしまった。
ダークは一人で戦って倒した。だが、兵士はまだ生きていた。最後の力を振り絞って、
背中を向けているダークを狙い打とうとする。それに気付いたナフィアは、ダークを庇うように兵士の前に立った。
ナフィアは撃たれてしまった。どうやら、急所は外れているようだ。
「大丈夫よ。心配要らないわ」
「オレを庇ったのか?何故だ、何故こんな事をする!」
「本当に大丈夫だから、ユーベルに戻りましょう」
モンスターを蹴散らしながら、南へとひたすら進み、ユーベルに着いた。
町の門番は、ダークを見て驚く。
「ま、魔族が!」
しかし、ナフィアは言った。
「大丈夫よ。彼は私の息子です」

ナフィアの家に着いた。ナフィアの傷の手当てをするリリア。だが、ヤバイくらいに出血している。
「ダーク、あなたに会えてよかった。リリアさん、ダークとカーグのこと、お願いしますね。
カーグはこの事を何も知らないから」
「はい、必ず」
話すと傷口が開くと言ってリリアは止めたが、ナフィアは話すのを止めない。
「ダーク、あなたには苦労ばかり掛けてしまったわね」
「聞いた風な事を言うな!よく見ろ、これを。魔族でも人間でもないこの体。
これでもオレに会えて良かったか?こんなオレを生んで満足か?」
「どんな姿をしていても、あなたは私の息子・・・。愛しています。あなたの事を、誰よりも。
ダーク、真実の洞窟へ行きなさい。私とウィンドルフが訪れた、思い出の地。
そして、精霊の声を聞くのです。あなたの答えが見つかるでしょう」
ナフィアは苦しそうだ。もう、ダメだろう。
「ふざけるな!オレには言いたい事が腐るほどあるんだ。
お前のせいでオレは、魔族でも人間でもない、どっちつかずの存在になったんだぞ」
「ごめんなさい。ダーク、私はもう・・・さよなら・・・私のダーク・・・」
ナフィアは静かに息を引き取った。ダークはナフィアに縋りつく。
「死ぬな!誰が死んでいいと言った!オレはお前を憎んでいる!だから、死ぬな!
・・・お前は、オレをまた苦しめる気か。またオレを一人ぼっちにするつもりか。答えろ!
何か言え・・・言ってくれよ・・・母さん、起きろ、起きてくれ!母さん!ちきしょう!!」
ダークは泣き崩れた。

続く

 
カーグ編 激情

サルファスの酒場にいるカーグたち。シャムスンたちが帰るというので、見送る。
カーグはシャムスンに聞く。
「一つ聞いてもいいかな?ウィルド湖畔で、どうしてリリアはもうカテナに入ったなんて嘘を俺たちに教えたんだい?」
「ああ、あのことか。まあ、いいじゃないか。過ぎた事は。あの時は、お前たちの正体が解らなかったから、
様子見をしてたのさ。・・・一緒には戦えないが、また会う事もあるだろう。あばよ」
シャムスンたちは去っていった。
次にカーグは、地下のアジトに行った。そこにはタチアナが監禁されている。
見張りを去らせ、二人きりで話をする。
「カーグ、どうしてあの時、私を助けたの?私は全てを失って、死んでもいいと思っていたのに・・・」
「命を落そうとしてる人を助けるのに、理由なんていらない。助けられるあんたを死なせたくなかった。それだけだ」
「お前のやり方は甘い」
「そうかも知れない。仲間にも同じ事を言われたよ。でも、だからと言って、
ダッカムのように平気で仲間を犠牲にするやり方でいいのか?それで何かを成し遂げたところで、
本当にあんたが良いと思う世界になるのか?それじゃあ、魔族と変わらないじゃないか。
俺は、魔族のようにだけはなりたくないんだ」

カーグたち四人がサルファスを出ようとしたところに、スペンサーに連れられて、
収容所送りにされようとしているタチアナが通りかかる。突然、タチアナは走り出してカーグの前に行く。
耳につけた無線機を外して、踏みつけて壊す。
「カーグ、私も一緒に行かせて!今までは、ダッカムの言うままに生きてきたわ。
でも、これからは自分の力で生きたいの。本当は何が正しいのか見極めたいの。
ムシのいい話なのは解ってるわ。でも、このまま全てを諦めて、負け犬にはなりたくないのよ!
お願い、やり直すチャンスを頂戴」
カーグはしばらく考えてから、答えた。
「タチアナ、一緒に戦おう!俺は信じるよ。タチアナは、生き方を変えようとしているんだって。
もしまた裏切られたとしたら、それは俺に人を見る目と人望がないせいだよ」
「カーグ、ありがとう。お前のそのやさしさが、世界を変えられるかもしれない。私の心が変わったように」

カーグはタチアナに、ダッカムが今どこにいるか知らないかと尋ねた。
クイナ火山の要塞に無線装置があるので、それで通信を傍受しようということになった。
要塞に行き、タチアナは無線装置を操作すると、ノイズ交じりの声が聞こえてきた。
「ラグナス大陸・・・人造・・・材料を入手・・・五大精霊石がそろう・・・」
タチアナが言うには、ディルズバルド軍には人工的に大精霊石を作る研究をしているチームがあるという。
とにかく、次の目的地はラグナス大陸だ。
要塞を出ようとしたところへ、ザップがやってきた。
「ここにいたか。探したぞ。大変じゃ、ユーベルの町が魔族に襲われたそうじゃ!」

急いでユーベルに向かったカーグたち。ザップの言う通り、町は惨憺たるありさまだ。
「ひどい、風車が全部壊されてる・・・」
一体何があったのかと、カーグは町の人に聞いてみようとするが、町の人は、カーグを見ると逃げたり、
視線を逸らしたりする。
ナフィアの家に行くと、ポーレットが待っていた。
「ナフィア様を人質に取って、魔族がここに立てこもったそうよ。
それを追ってきたディルズバルド軍が村中を攻撃して、そして、ナフィア様は・・・。
ナフィア様のお墓、城址にあるそうよ」
まさか、と思って城址に行くカーグ。隅の方にみすぼらしい墓がある。
墓碑を見ると、確かにナフィアの名が刻まれている。がっくりと膝をつくカーグ。
「母さん・・・なんでこんなことに・・・。あのとき、竜骨谷で別れたのが最後になるなんて・・・」
しばらくして、カーグはポーレットに尋ねる。
「母さんを殺した魔族ってどんなやつだ?」
「ダークっていう、ドゥラゴ族みたいなやつだって・・・。それが、変な事聞いたの。
よく解んないんだけど、ダークって魔族は、ナフィア様の子供だって、町の人たちが・・・。
ナフィア様がそう言ったって・・・」
「馬鹿なことを言うな!そんなこと、あるわけないだろ!嘘に決まってるじゃないか!
・・・それで、ダークとかいうやつは、どこに消えたんだ?」
「リリアさんを連れて、真実の洞窟へ行ったらしいの」
「リリアだって?ダーク、覚えておくぞ。俺は、絶対に、許さない!」
そのとき、城址に残りの仲間が駆け込んできた。
「カーグ!なんか町の人たちの様子がおかしいんだ」

城址を出ようとするカーグたちのところへ、町の人々が押しかけてきた。
「みんな、どうしたって言うんだ?」
わけが解らずカーグはそう言った。
「よくも抜け抜けとユーベルに戻ってこられたな」
「あいつを追い出せ!」
町の人々は殺気立っている。
「ナフィアは魔族と交わった!人間がもっとも犯してはいけないタブーを犯したんだ!」
「何を言っているんだ!」
「しらばっくれるな。あのダークは、ナフィアの息子じゃないか。ナフィア自身がそう言ったんだぞ!」
「おまえもナフィアの息子だ!ダークと同じ魔族だろうが!」
「違う!カーグも、ナフィア様も、魔族なんかじゃないわ!」
ポーレットも頑張って町の人を落ち着かせようとしている。
「お前ら親子は、我々を騙していたんだ!十七年間も騙され続けていたんだ!」
「お前たちのせいでユーベルはめちゃくちゃにされたんだ!」
「お前なんかどっか行っちゃえ!」
子供に石を投げられた。
「正体を現せ、化け物!」
カーグはアザを触りながら考える。
「俺が化け物?この俺が・・・」
今までの話を思い返してみる。ナフィアの息子だというダーク。ということは、ダークとかいう魔族は自分の兄弟だ。
ということは、父親だというウィンドルフは、魔族だったのか?
自分にも魔族の血が流れているのか?もしかして、自分が魔法を使う事ができるのは、魔族の血のせいか?
自分は魔族かも知れないという恐怖が心に満ちたとき、それは起こった。
カーグの背中に、ドゥラゴ族のような翼が生えた。
「翼が生えたぞ!逃げろ!魔力を使うぞ!」
町の人々は逃げていった。
失意に満ちた目で、ポーレットの方を見たが、
「こ、来ないで!」
と、拒絶された。
「俺は・・・俺は・・・うおおおおーっ!」
カーグは走って逃げた。

スクラップ高地で、背中の翼を剣で切り落としたカーグ。
「俺は、このまま、魔族になってしまうのか?次は角が生えて、体は鱗に覆われて・・・嫌だ。
俺は魔族になんか絶対にならない。俺は、人間だ。
・・・そうだ、魔族を倒し、平和に暮らせる世界を作る人間なんだ。見てろよ。
魔族なんか一匹残らず滅ぼしてやる。ダーク、まずはお前からだ。俺はお前との血の繋がりなんて絶対に認めない。
必ず息の根を止めてみせる。待ってろよ、ダーク!」

続く 


ダーク編 邂逅

ドラゴニアに帰ってきた、ダークを除く四人。リーダーが居ないと困るので、
とりあえずデルマを臨時リーダーにした。
「ダークの奴、どこに消えちまったんだい?」
そういえば、ウィリウォーと話をしてから、考え込むことが増えたな、とデルマは思い立った。
ウィリウォーに話を聞くことにする。
ウィリウォーは、デルマたちに、ダークにしたのと同じ話をする。
ダークがそんなに大変な境遇に生まれたとは、とデルマたちも考え込んでしまう。
そうだ、ナフィアの故郷だというユーベルに行ってみようということで話がまとまった。
表から近づくのは危険なので、ユーベルの裏手のカオスの森に来た。
人間に一番近い姿のべべドアを行かせて、町の様子を探ってきてもらうことになった。
他の三人はカオスの森で待つ。

城址から町の中に入るべべドア。ナフィアの家に行ってみると、ポーレットが待っていた。
「カーグ!帰ってきたのね!」
だがカーグではないと解るとがっかりしたようだった。
次にべべドアは、ナフィアの墓の前でないているマルに出会った。
「私はべべドア。あなたは誰?」
「オイラはマル。カオスの森の王様だよ」
「何をしてるの?」
「何って、悲しむ人がいなかったら、ナフィアさんが可愛そうだろ?
あ、ナフィアっていうのは、カーグのお母さんだ。カーグっていうのは、オイラの初めての友達なんだ。
でも、カーグは魔族だったんだ。オイラ、まだ信じられないんだ。あんなドゥラゴ族みたいな翼が生えて・・・」
「ドゥラゴ族。ダークと同じ」
「何で知ってるんだ?まぁ、町中、その話題でもちきりだからね。ポーレットが言ってたよ。
ナフィアさんを殺したダークって魔族が、リリアを攫って真実の洞窟に行ったって。真実の洞窟の場所が解ればなー」
ダークの行き先が解ったので、べべドアはカオスの森に戻ろうとしたが、
そのとき、ガンツとタチアナがマルのところにやってきた。
「大変だ。カオスの森に魔族がいるという噂を聞いて、ポーレットが一人で行ってしまった。
助けに行かなきゃ」
三人はカオスの森に向かった。

デルマたちが待っているところに、ポーレットがやってきた。
「ついに見つけたわ!お父さんの仇!」
ポーレットはヴォルクを見て言う。
「その声は・・・あのときの、人間の娘か」
そこへマルたち三人と、べべドアがやってきた。
「ポーレット!一人じゃ無茶だよ!」
ガンツはデルマを見て驚く。
「オ、オルコ族ッ!」
タチアナはカトレアに言う。
「お前は、あのときの魔族。まだ生きていたの?」
「何たる言い草!あのときの恨み、晴らしてくれようぞ」
それぞれ、憎い相手と睨み合っている。
「べべドア、こっちに来ちゃだめだよ」
マルはそう言ったが、べべドアは魔族側に行った。魔族の仲間だったのかと、愕然とするマル。
タチアナは、一時、退却しましょうと言ったが、みんなは聞いてなかった。
「まずいわ。みんな冷静じゃない。なんとかしないと」
タチアナは閃光弾を撃ち、その隙に仲間を連れて逃げた。

べべドアはみんなに、ダークは真実の洞窟に行ったと告げた。
「真実の洞窟と言えば、冥府クラーフ島の洞窟じゃ」
博識なカトレアが言った。

 続く


カーグ編 真実

シャムスンの船に乗っているカーグ。窓の外を眺めて、物思いに耽っている。
シャムスンがカーグに声をかけた。
「随分と大人しいな。乗船したときは、真実の洞窟に連れて行けって意気込んでたのによ」
シャムスンは、真実の洞窟がクラーフ島にあるのを知っていた。それで、連れて行ってくれることになった。
「母さんの仇を討つためだ」
「お前の母親・・・ナフィアか。噂に聞いた事があるぞ。ニーデリアにナフィアという女傑あり、ってな。
若い頃は自ら剣を持って戦ったり、勇ましい人だったようだな」
「その頃の母さんの事はよく知らないんだ。俺にとっては、常に勇気を持って行動しなさいって
口うるさく言ってたわりに、いつも俺のことを心配している風の母親だった。
母さんの思いは、自分でも理解しているつもりだった。けど、本当は、何も解っちゃいなかったんだ」
「なんでそう思う?」
「母さんには、誰にも言えない秘密があった。人知れず、苦しみ悩んでいたんだと思う。
・・・あんたにこんな事言うと乗船を断られそうだけど・・・俺には、魔族の血が流れてる」
「・・・・・・」
「俺は、母さんと魔族の父親の間に生まれた子だったんだ。ユーベルの町に戻ったとき、
俺の背中から翼が生えた。これ以上確かな証拠はないよ。フフフ・・・」
カーグは自嘲気味に笑った。
「だからって、誤解しないでくれ。二人の間に愛なんてなかった。きっと、母さんは魔族のせいで
望まない子を宿してしまったんだ」
「さっきからそんな事を考えてたのか」
「俺を降ろそうなんて言わないでくれよ。国を追われて、仲間からも見放されて、もう戻る場所がないんだ」
「一つ、聞きたい。ディルズバルドの野望を阻止するというお前の目的はどうするつもりだ?」
「それは今も変わってない」
「お前が人間だろうが、魔族だろうが、俺には関係ない。お前がディルズバルドを倒そうとする限り、
俺はお前の味方だ」
「ありがとう、シャムスン」

船はクラーフ島に着いた。シャムスンは、こういう辺境には、お宝が眠っているかも知れないなどと言って、
カーグと一緒に行くことになった。
海沿いに南下し、海岸に来た。そこには、二匹のヘモジーが居る。
ヘモジーというのはサルに似たモンスターで、無気力で怠け者だ。
だが、そのヘモジーは言葉を話している。話すと言う事は魔族だ。
ヘモジー族の二人は、この先にヘモジー村があるので行ってみろと言う。

ヘモジー村に着いた。海に面した、のんびりとした雰囲気の村だ。
なんとそこでは、人間と、ヘモジー族が仲良く暮らしているではないか。カーグとシャムスンは驚く。
カーグはヘモジー族に話し掛けてみた。
「どうして人間と暮らしてるんだ!お前だちは魔族だろう」
「そんなこと、考えた事ない」
次に人間に話し掛ける。
「精霊石の取り合いになったりしないのか?」
「精霊石って何?」
「機械を動かすのに必要だろう?」
「ここには機械がない。全部自分たちの力で動かす」
「なるほど。それなら、精霊石もいらないってわけか」
リリアとダークらしい二人を見たという人がいた。二人は長老の丘に向かったという。

長老の丘は、ヘモジー族の長老たちが昼寝をしているところだ。長老たちから情報を集める。
リリアとダークらしい二人は、長老たちは新しい勇者と聖母に似ているという。
千年前に現れた、アークとククルという勇者と聖母。二人は命を賭して世界を救った。
それから長い時が経ち、再び世界を破滅から救いたいと願う二人がこの島に現れた。
二人はウィンドルフとナフィアだ。長老たちは、彼らを新しい勇者と聖母と呼んだ。
二人は深く愛し合っていたらしい。みんなが羨むくらい。
ナフィアとウィンドルフは、ヘモジー族と人間が仲良く暮らしているのを見て、自分たちの未来に希望を持った。
次に、この島の北側にあるという、真実の洞窟に行った。出てきたときに、世界の秘密が解った、と言った。
それから、人間と魔族が争わない世界を作らなきゃならないと誓った。そして、手を取り合って、この島を去った。
ナフィアとウィンドルフが愛し合っていた、と聞いて、カーグは俄かには信じられない様子だ。

シャムスンと一緒に、真実の洞窟に入る。ダークとリリアがモンスターに囲まれているのが見えた。
「オレから離れるな。こんな奴らすぐにぶちのめしてみせる」
ダークは強がっていたが、明らかに不利だ。
「あいつがダークか・・・」
「このままではリリアが危ない!」
シャムスンは飛び出そうとするが、カーグは動かない。
「ダークに手を貸すことになる」
「馬鹿野郎、そんな事言ってる場合か。リリアを助けなければ」
カーグは、リリアを助けるためだと自分に言い聞かせて、モンスターの前に立った。

モンスターを倒した。シャムスンはリリアに駆け寄る。
「あの、どこかでお会いしました・・・?」
リリアはそう言ったが、シャムスンは人違いでしょう、と否定した。
ダークの前にカーグが歩み寄る。
「ダークに間違いないな」
「お前がカーグか」
「覚悟は出来ているな。地獄に落ちるがいい」
カーグは剣を抜いて構える。
「ふざけるな!十七年ぶりに再会した兄弟をいきなり殺そうっていうのか!
・・・聞いたぞ。貴様は人間の世界で何不自由なく育ち、ちやほやされて生きてきたらしいな。
オレと同じ、人間でも魔族でもない、半端者のくせに。人間と変わらない、その姿のおかげで、
蔑まれることも、迫害されることもなかったんだってな。そんな苦労知らずの甘ちゃんが、オレを殺すだって?
笑わせるな!死にたいならかかってこい!」
ダークも剣を抜いた。
「やめて!二人は兄弟なのよ?何故、人間と魔族に別れて戦わなければならないの!」
リリアは止めようとするが、二人は耳を貸さない。
「落ち着いて、カーグ、あなた、誤解してる!ダークはナフィアさんを殺してなんかいない!」
リリアはナフィアが死んだ事情を説明する。
「そんな・・・。母さんが、そいつを助けるために撃たれたなんて」
「カーグ、聞いて!私たちがクラーフ島に来たのも、ナフィアさんの望みだったの。
真実の洞窟で精霊の声を聞きなさい、答えがきっと見つかるって」
カーグはやっと剣を収めた。
「そいつを許したわけじゃない。母さんが、ここで何を思ったかを知るためだ」
「フン、お前の許しなど必要ない。オレは、オレの求める答えが知りたいだけだ」
二人はひとまず和解した。
「それじゃあ、いいのね。ありがとう」

カーグたちは、洞窟の奥に進みながら精霊の言葉を聞く。
人間の歴史、魔族の歴史、精霊の歴史について(序文参照)。
そして一番奥の部屋に入る。カーグたちの前に、精霊が現れた。
”選ばれし者よ、よくここまで来てくれました。私は希望の精霊。この世界から消えた精霊の最後の生き残りです。
・・・今、世界を二分している、人間と魔族の間には、どんな感情がありますか?それは、負の感情です。
人間王は今も復活のときを虎視眈々と狙っています。負の感情は聖柩の封印に綻びを生じさせます。
世界が負の感情で満たされるとき、それは人間王が復活する、世界の滅亡のときです。
しかし、事態はどんどん悪化しています。憎しみ合ってはいけません。
世界を負の感情で満たしてはならないのです。
世界の行く末はあなたたちにかかっているのです”
精霊の姿は消えた。
「世界の滅亡だって?そんなの、伝説の中だけの話だと思ってた」
カーグたちはヘモジー村に帰ってきた。ダークは、好きにさせてもらう、と言ってどこかに行ってしまった。
「あいつ、今まで苦労してきたのか。魔族モドキと呼ばれて。・・・俺は人間モドキというわけか。
・・・ダークは、そんな苦労をしてきたのに、それでも魔族を救おうとしているのか。
ひどい目に合わされてきたのに・・・」
「カーグはどうなの?町の人が嫌い?」
リリアに問われて、カーグは口篭もる。
「俺は・・・いや、人間を憎むことなんてできない。ダークが魔族を救うなんて言うなら、
俺は魔族から人間を守る」
「フフフ。俺に言わせりゃ、お前たちはよく似た兄弟だよ。てめぇの事は二の次で、
わざわざ危険な道を進んでるじゃねえか。二人とも、混乱する世界を何とかしたいと思ってるのは同じ。
向いてる方向が違うだけだ」
シャムスンが笑った。

その夜、カーグは眠れずに身を起こすと、遠くからオルティナの音が聞こえてきた。
桟橋の先でオルティナを弾いているリリア。少し離れたところで、シャムスンが聞いている。
曲が終わり、拍手するシャムスン。
「見事な演奏だったよ。オルティナっていうのは、まともに音を出すのも難しいんだろう?」
それを聞いてリリアは驚く。
「オルティナのこと、知ってるんですか」
「あ、ああ。有名な楽器だからな」
「そうは思いませんけど」
「本当に心をあらわれるような美しい音色だった」
「このオルティナがいいんでしょう。死んだ母が大切にしていたものですから。オルティナも歌も全部母から
教わりました」
「・・・そうか、もう一度聞かせてくれないか。今度は歌ってほしい」
「今日は疲れたので、もう休みます」
去っていくリリア。ショックを受けたようなシャムスン。
カーグはシャムスンに話し掛けた。
「リリアから聞いたよ。父親が姿を消したって。その父親ってのが、シャムスン、あんただろう?」
「・・・リリアには言うな。俺は、どうしてもダッカムが許せなくて、復讐することを誓ったんだ」
「どうしてリリアに父親だって名乗り出ないんだ?」
「復讐のために、妻と娘を捨てるような男が、今さら名乗るなんて出来ない」
「それでも、言うべきだ!生きているうちに、言うべきだ・・・」
「お前は、おふくろさんに何を言いたかったんだ?
「本当のことを何で隠してたんだって、言ってやりたい・・・」
「それはお前のためかもな。子供を守る為の沈黙なら、親はいくらだって出来るんだ。
そしていつか、解ってくれる日が来ると信じているのさ」
「そんな・・・」
「あいつは?お前と同じように悩んでいる奴がもう一人いるんじゃないのか?」

ダークは長老の丘に佇んでいた。カーグの顔を見るなり、ダークは剣を抜く。
「やはり、こうなる運命なんだな」
「解りきったことさ」
二人の剣が何回か打ち合わされた頃、リリアがやってきた。
「何してるの二人とも!お願い、やめて!」
リリアは、今は争っている場合じゃないと二人を説得する。そこへシャムスンがやってきた。
「お前たち、ここにいたか。まずいぞ。ディルズバルド軍が現れた。海岸の方だ」

カーグ・ダーク・シャムスンの三人は海岸でディルズバルド軍を撃退する。だが、それは奴らの罠だった。
本体はヘモジー村の方に攻め入り、村を荒らしていた。
急いで村に戻ってディルズバルド軍を倒す。だが、被害は甚大だ。村に残っていたリリアも再び連れ去られてしまった。
「これが、人間のすることか・・・」
ダークは失望した様子で村を去っていった。カーグはシャムスンに尋ねる。
「シャムスンは何か知らないのか?ダッカムがリリアを手元に置こうとする理由を?」
「一つだけ思い当たる事がある。フィオナはリリアを産むとき、光を見たそうだ」
フィオナというのはリリアの母親だ。そういえば、シャムスンの船の名前はフィオナ号という名だった、とカーグは思い出した。
「そして声を聞いたらしい。産まれてくる子は、精霊の承認を受けた者の生まれ変わりだとな」
「そうだよ、それが、きっと精霊石と何か関係があるんだ」
カーグは少し考えてから、言う。
「俺、ダッカムを追うよ!」
「一人でどうするつもりだ」
「悪いけど、ニーデリアまで連れて行ってくれないか?断られるかも知れないけど、協力するよう頼んでみるよ」

続く


 
ダーク編 進化

「人間と魔族は、やはり相容れぬ存在だ。何故、オレに人間の血など流れているんだ・・・」
クラーフ島の海岸をとぼとぼ歩いているダーク。ふと沖の方を見ると、飛炎が飛んでいるのが見えた。
しばらくして、
「おーい、ダーク!」
デルマたちがやって来た。
「いいかげんにしろよ!アタシたちに何も言わないで、こんなところに来るなんて、心配したんだぞ」
これからどうするか考えるダークたち。大精霊石をダッカムの手から奪って、
最強の魔族に進化するのがいいという結論に達した。
ダークはカトレアに、ディルズバルド本国に攻め入るにはどうすればいいのかと聞いた。
「ハルシーヌ大陸の南に行き、カナラ砂漠を越えれば、ディルズバルド帝国じゃ」

ダークたちはハルシーヌ大陸の南にある、バルバドスという町に行った。
ディルズバルド帝国によって住む所を奪われた魔族たちが暮らしている。
あらゆる種族の魔族に混じって、全身に包帯を巻いたマミーの姿が目に付く。
彼らは昔、ニエンテ族という魔族で、カナラ砂漠に住んでいたが、ディルズバルドに殺され、
その恨みによって死んでも死にきれず、マミーとして生きているということだ。
また、カナラ砂漠は砂嵐がひどく、そのままでは先に進めないので、
ピラミッド遺跡にあるというサリュ族の笛というものが必要とのことだ。

ピラミッド遺跡に行き、サリュ族の笛を入手する。カナラ砂漠に行き、サリュ族の笛を吹くと、砂嵐はおさまった。
そしてカナラ砂漠を越え、ディルズバルド本国に入る。

マリュスの塔という、奇妙な形の塔のところに来た。
と、ドグザが塔の裏手に行くのが見えたので、ダークたちも後をつけた。
塔の裏の地面には巨大な穴があいていて、その中は霧のようなもので満たされていた。
穴の前で警備しているディルズバルド兵がドグザに言う。
「結界が強くて、これ以上近寄れない状態です」
そこにダークたちが現れた。ドグザは身構える。
「進化した我が力、受けてみよ!」
ドグザはそう言った。確かに強くなっていたが、ドグザは倒れた。
「うぐぐ・・・何故だ?大精霊石の力で進化したはずなのに。・・・殺すなら、殺せ!」
だがダークは動かない。
「確かに、お前は強くなった。仲間がいなければ、オレは倒されていただろう。
だが、何故短時間でここまで強くなれた?やはり、大精霊石の力で進化したのか?」
「その通りだ。だが、五大精霊石をすべて集まらねば、完全な進化ではないようだ。
オレは五大精霊石の無限の力を使い、最強の魔族となって、我がニエンテ族を復興する。
それが、ニエンテ族最後の生き残りであるオレの使命だ」
ドグザはそう言って、逃げていった。ニエンテ族は滅んだのでは?とダークは訝った。
「同じだ。あいつが力を求めるのは魔族を救うため。あいつはオレと同じなんだ」
ダークはそう呟くが、デルマは否定する。
「違うね!ダークは魔族全部を救おうとしてるけど、ドグザは自分の事しか考えてねーよ。
それが魔族ってもんだよ」

戦艦メギストに乗り込む。ナフィアが撃たれた場所に通りかかった。
「ここは・・・。母さん・・・」
ダークは立ち止まり、アザを触った。
ダッカムがいるという、実験タワーという所に入る。その光景にダークたちは驚く。
大きな水槽の中に、薬品漬けの魔族たちが浮いている。
「ここは人間に捕らえられた魔族の保存タンクじゃ。実験用のな。わらわも生態実験に使われ、かような姿に・・・」
カトレアが説明した。
そこでは、魔族二体を合成して新しく強い魔族を作ったりする実験をしていた。
また、魔族と人間を合成する、という実験もされていたらしいが、失敗したらしい。
奥へ進むと、カトレアが実験されたという装置が置かれた部屋があった。
「わらわは、ここでタチアナという人間にいたぶられ、地霊石のエネルギーを照射され、
そのせいで、干からびてしまったのじゃ」
カトレアは少し迷っていたが、決心して、実験装置の中に入った。そして、水霊石のエネルギー照射を受ける。
装置から出てきたカトレアは、身長も倍以上伸び、シワひとつない顔になり、若返っていた。
これが本来の姿だという。カトレアが日頃から言っていたように、たしかに美しい。
デルマはカトレアに少し嫉妬しているようだ。

実験タワーの頂上の部屋。高い場所にダッカムがいて、その前に跪いているドグザ。
ドグザはダッカムに、もっと進化したいと訴えた。
「よかろう。ちょうど風霊石も完成したところだ」
ドグザは実験装置に入り、五大精霊石の照射を受ける。そこへダークたちが入ってきた。
「キサマか。ダークとかいう魔族モドキは。いいところに来た。ちょうど、キサマの相手が出来上がるところだ。
さて、どんな姿になることか・・・」
ダッカムはドグザについて話す。ドグザは複数の魔族を合成して出来た産物だということ、
そして、ニエンテ族の生き残りというのは、扱いやすくするための嘘の記憶だということ。
ダッカムは去っていった。実験装置に入っているドグザにはまだ大精霊石の照射が続いている。
ダークたちはエネルギー照射装置を壊す。だが遅かった。
実験装置から出てきたドグザは異形の怪物に成り果てていた。
「ダーク・・・倒す・・・ニエンテ・・・復興・・・」
まだドグザとしての意識があるようだ。ダークの心は痛んだが、異形となったドグザを倒す。
「ダークよ、やはりオレの負けのようだ。結局、ニエンテ族の復興は出来なかった」
アンタはニエンテ族なんかじゃない、と言おうとしたデルマを制して、ダークは言う。
「ドグザ、オレがやる。人間を倒し、魔族を救う!」
「ダーク、さすがだな。オレと違ってキサマは、全ての魔族を背負ってる。やはりオレでは
キサマに勝てるはずはなかった。・・・マリュスの塔に行け。そしてダッカムを止めろ」
「・・・わかった」
「最後に教えてくれ。オレは、ニエンテ族の戦士・・・そうだよな、ダーク?」
「そうだ、そうだとも!お前はニエンテ族の戦士、ドグザだ」
「ありがとう、ダーク」
ドグザは死んだ。

続く


 
カーグ編 相克

表から入るのは気が引けたのか、カオスの森の方からこっそりユーベルに入ったカーグとシャムスン。
「さあ、着いたぜ」
カーグはうつむいている。
「思い出したんだ。俺に翼が生えたときのみんなの表情を。お前に裏切られた、って感じだった」
「自分に自身を持て、カーグ。お前はダークのように、仲間たちを力で従わせていたわけじゃない。
お前の勇気と思いやりが仲間を惹きつけていたんだ。お前自身が仲間を信じることだ」
カーグはシャムスンに、一緒に戦おうと誘ったが、シャムスンは住む世界が違うと言って去っていった。

城址にはマルがいた。
「カーグ、戻ってきてくれたんだね。ああ、よかった。カーグ、あのときはごめんな。
オイラ、突然のことにびっくりしちゃって・・・」
「そんなこと、もういいんだ」
「カーグはカーグだもんな。またオイラを連れて行ってくれよ」
「ああ、俺の方からも頼むよ」
「そうそう、オイラだけじゃなくて、町の人たちも協力してくれると思うよ。ポーレットがみんなを説得したんだ。
カーグとナフィアさんが、この町のためにどれだけ尽くしてくれたかを訴えたんだ。
それでようやく、町の人たちも冷静になって・・・」
「そうだったのか」
カーグは城址の隅へ行く。
ナフィアの墓は立派になっていた。そこにはたくさんの花が供えられている。その前で祈っているポーレット。
「ポーレット、ただいま。戻ったよ」
「カーグ、あの、私・・・」
「何も言わなくていいよ。町の人たちを説得してくれたんだってね。ありがとう。
ポーレットがいてくれて本当によかった」
ポーレットは泣き出してしまった。
「心配かけたね、俺にはやっぱり、ポーレットの力が必要なんだ」
ガンツとタチアナも復帰した。カーグはタチアナに、ディルズバルド本国に行くにはどうすればいいのか尋ねた。
飛空艇で向かうと、対空砲の餌食になってしまうので、陸路を使うしかないとのこと。
ラマダ寺を通って、ラマダ山を越えるルートがいいだろうとのことだ。

ビッグアウルに乗り、ハルシーヌ大陸に飛び、ラマダ寺を訪問する。
ラマダ寺の僧正に、ラマダ山を越えたいと申し出た。
「ラマダ山に入るには、まずラマダの教えを理解して頂かねば・・・」
カーグは、かならずラマダの教えを理解して戻ってくると言ったが、当てはない。
タチアナが、ペイサスに残っている大図書館になにか資料があるかもしれないというので、行ってみることにした。

大図書館の司書に聞いてみると、確かにラマダ教の経典があるらしいが、資料は自分で探せということだ。
本がたくさん置いてあるところに入ろうとするが、マルは、本を読むと頭が痛くなると言うので、
ここで待っていると言い出した。
マルを除く四人で経典を探す。隠し部屋に置いてあった巻物がそれだった。
説明書きを見る。
「大僧正イーガの筆によるものとされている。失われたスメリア文字で書かれているため、現在では判読不能」
とにかく経典を持って図書館を出ようとするが、マルがいない。
マルは館長に捕まっていて、あれこれと質問攻めに合っていた。
館長は、マルの首の王冠を調べているという。
「この王冠は由緒ある物かもしれません。一度、ミルマーナ王国の鑑定所に行かれることをお勧めします。
あの鑑定所では、古代文字の解読などもやっているそうですよ」
経典の解読もしてもらえるかも、とミルマーナに行くことになった。

ミルマーナは、水没した町だった。人々は海の上に家を建てて生活していた。
半分水没した大きな建物、それがミルマーナの王宮だった。その中には、鑑定所の他にいくつもの占い所がある。
鑑定所に経典を持っていくと、スメリア文字の解読はロサナー様の許可がないと出来ない、と断られた。
ロサナーとは、現国王の母だという。ロサナーに会いに行こうとしたが、門番に、
この先は王家の方以外はお通しできません、と断られた。
「王家の人間ならいいんだな?オイラは、ミルマーナ国の王子だ!」
マルがいきなりそう言うので驚く。門番は、マルの首の王冠を見て、
「それは確かに、王家のもの・・・」
そう言って、通してくれた。ロサナーは、マルを見て言う。
「あなたは、ユマルノ王子・・・!生きていらっしゃったのですね!」
王子だと嘯いていたのは実は本当だったのかと驚くカーグたち。
奥のほうから、高そうな服を着た少女がやってきた。
「私のこと、忘れちゃった?お兄ちゃん。いとこのフォウです」
それは現国王のフォウだった。
「話したいことがあるの。私の部屋まで来てくれる?」
フォウはマルを連れて行ってしまった。カーグは、ロサナーにスメリア文字の解読の許可をお願いすると、許可してくれた。
改めて鑑定所で経典を預けると、マルを追った。

フォウの部屋で二人きりで話すマル。
「まず、最初に謝らせてください。ごめんなさい、私たちのことを許して」
だが謝られるような心当たりは無いとマルは言った。
「私、お兄ちゃんに全てを譲るつもりです。それじゃ罪滅ぼしにはならないかもしれないけど」
「ちょっと待ってくれ、考えさせてくれ」
そう言ってマルはフォウの部屋を飛び出していった。
その後でロサナーとカーグたちがフォウの部屋に入ってきた。そこで、ロサナーからマルのことを聞く。
フォウの父とマルの父は仲の良い兄弟だったという。だが、フォウの父の陰謀により、
フォウが国王になることになり、マルは国外へ逃がされたのだという。

カーグたちは鑑定所に行く。さっき、解読が終わった所だという。
経典に書かれていたことは、それほど難しくはなかった。
要約すると、「どんなときでも邪念を捨て、心を無にする」ということらしい。
占い所の隅に佇んでいるマル。カーグはマルに話し掛けた。
「フォウに見つかると厄介だからさ、このまま行っちゃおうぜ」
「国王にならなくていいのか?」
「今はダッカムの野望を阻止する方が優先だろ?
実はオイラ、ミルマーナとは何の関係もないんだよね。この王冠は、貰ったんだよ、昔。本物の王子から」
マルはそんな事を言うが、それはミエミエの嘘だった。けれどもカーグはマルの気持ちを汲んで何も言わなかった。

ラマダ寺に戻り、経典に書いてあったことを僧正に伝える。すると、今度は修行僧たちと勝ち抜き戦をして、
一人でもクリアすることが出来れば、ラマダ山の入山を許可するという。
一回戦は難なく勝った。そして二回戦の開始前に、闘技場の側に置いてある香炉で香が炊かれ、煙が舞い上がる。
煙の中に、カーグはダークの姿を、ポーレットはヴォルクの姿を、ガンツはデルマの姿を、タチアナはカトレアの姿を見た。
動揺するカーグたち四人。
「そこまで!心を乱した四名の者、失格!」
徐々に煙が晴れていく。よく見ると、それはただの修行僧だった。
「マルと言ったか。そなたの心には濁りがない」
僧正は感心した。残ったマル一人だけで五人の修行僧を相手に戦い、そして勝った。
「よくぞ試練を乗り越えた。ラマダ山の入山を許可しよう」

ラマダ山の険しい山道を越える。対空砲が見えてきた。ここからはディルズバルドの領土だ。
対空砲のところに、フィオナ号が墜落しているのを発見する。シャムスンの部下がいたので話を聞いてみると、
シャムスンは一人で行ってしまったとのことだ。

帝都ディルズバルドに入る。タチアナが町の入り口の兵士をうまくごまかし、中に入る。
そこは、いい生活ができる上級市民と、貧しい生活を強いられる下級市民とにきっちり分けられている町だった。
ダッカムはマリュスの塔へ向かったらしいとの情報を手に入れる。

ダッカムを追ってマリュスの塔へ。入り口のところにシャムスンがいた。ひどい怪我だ。
ダッカムが通りかかるのを待ち伏せして、狙い撃ちしようとしたらしい。だが、ダッカムの隣にはリリアがいた。
リリアを犠牲にしてでもダッカムを撃つつもりだったらしい。銃をダッカムに向けて構える。ダッカムは悠然と言った。
「キサマは、シャムスンとかいうコソ泥か。いや、本名はワイズと言ったか。キサマに撃てるのか?
リリアに当たるかも知れんぞ」
シャムスンの心に一瞬の迷いが生じた。そのために、返り討ちにあってしまったという。
「お父さん!お父さんなんでしょ?・・・こんなことなら、あのとき、ちゃんと歌っておけばよかった・・・」
リリアはそう言った。ダッカムとリリア、そして側近たちは塔を上っていったという。
「リリア・・・見えるよ・・・お前と母さんが仲良く歌っているのが・・・」
そう言って、シャムスンは倒れ、動かなくなった。

マリュスの塔の頂上にいるダッカム。小さい台座の上には、五つの精霊石が載っている。
大きい台座の上には、気絶させられているらしい、リリアが寝ている。
「もうすぐだ・・・千年に渡り巨大穴に張られていた結界がもうすぐ破れる。
空中城よ、長き眠りから目覚めるときが来た。さあ、蘇るのだ!」
巨大穴の霧のようなものが消えていく。そして、巨大な四角錐が姿を現した。
空中城はその名の通り、浮かび上がろうとする。だが、小さな台座の人工風霊石が砕け散ったため、動きが止った。
「やはりまがい物ではだめか」
そこに、マントを着て杖をついた謎の男が登場。
「心配ご無用。結界は既に解かれています。大いなる力はあなたのもの。試してごらんなさい」
ダッカムは小さい台座の上に手をかざす。
「役立たずどもに、死のいかずちを!」
四角錐の先からビームが出て、遠くに飛んでいった。
そこへ、カーグたちが来た。
「遅かったな。あれでカテナは跡形もなく消えたぞ」
そう言うダッカム。
「あそこには大勢の人たちがいるのに・・・」
怒りに燃えるカーグたち。ダッカムは剣を抜く。
「さあ、私を止めてみるがいい、出来るならな!」

ダッカム自身も強いが、側近たちはもっと強かった。しかし、カーグたちが勝った。
「お前の、世界征服の野望もこれで終わりだ」
だがダッカムは笑っている。
「私の野望はそんなものではない。魔族を滅ぼすことだ」
驚くカーグ。ダッカムは自分の過去を話す。
昔、ディルズバルドはただの小国で、ダッカムは一領主に過ぎなかったころ、ディルズバルドに魔族が攻めてきた。
ダッカムはディルズバルド代表として、カテナに行き、世界連盟に助けを求めたが、
合議制なので結論を出すのが遅れたという。そして、やっと出た答えが「魔族と和解せよ」だった。
戻ってきてみると、ディルズバルドは壊滅しており、国王は死んでいた。
ダッカムは皇帝となり、世界連盟から脱退した。魔族を滅ぼす為に。
魔族を滅ぼさなければ、またかつてのディルズバルドのような目に合ってしまう、と。
「最後は、自分で幕を引かせてもらう」
ダッカムは端のほうに歩いていった。
「いいか、私に代わってお前がやるんだ。魔族を滅ぼせ・・・」
カーグが止める間もなく、ダッカムは飛び降りた。

続く


 
共通編 決戦

カーグたちが呆然としていると、そこへダークたちがやってきた。
「ダッカムはどこだ」
「死んだよ。魔族を滅ぼす事を俺に託して」
それを聞いてダークは逆上する。
「やはりキサマもダッカムと同じ穴のムジナか」

ダークとカーグは、それぞれ半分の風霊石を取り出し、ぎざぎざの面を合わせて、小さい台座の上に置いた。
勝ったほうが五大精霊石を全て貰う、そういう約束だ。人間たちと魔族たちは睨み合い、一触即発。
そのとき、十人の体はいきなり動かなくなった。
物陰から、杖を突いてマントを着た男・・・ザップが現れた。
「聞け、愚かな人間ども、見よ、出来そこないの魔族ども、我は、人間王!」
ザップはゴーグルを取る。その目は赤く光っていた。
「我こそ、かつて全世界を支配した、王の中の王!長かったぞ、数千年に渡る封印。
五百年前、お前たち人間のおかげで精霊どもはこの世界から消え去った。そうだ、ついに来たのだ。
待ち焦がれていた、精霊の黄昏の時代が!
あとは、五大精霊石の力で完全な復活を果たすのみ!そしてそのとき、世界は終わりを迎えるのだ!」
人間王はダッカムをそそのかして、精霊石を集めさせた。そして、ザップとしてカーグの前に現れ、
カーグとダークが衝突して、争うように仕向けた。
五大精霊石とリリアを奪って、人間王は空中城へ消えた。

動けるようになったカーグたちとダークたちは、それぞれ別々に空中城へと入った。
カーグは、一緒に戦おうとダークを誘うが、ダークは拒否する。
そのとき突然空中城は揺れ、地面から浮かび上がった。振動によって床が崩れ、下の階に落ちる。

気絶していたカーグは目を覚まし、仲間を探したが、
そこにいるのはポーレット・ガンツ・デルマ・ヴォルクというメンバーだった。
協力を拒むデルマたちを何とか説得し、人間と魔族の混成パーティーで進むことになった。
ダークの方は残りのカトレア・べべドア・マル・タチアナというメンバーで進む。
それぞれ合流地点に辿り着くことが出来た。短い協力関係だったが、
人間は魔族のことが、魔族には人間のことが解りかけてきていた。姿は違えど、同じヒトなのだと。
大きな扉の前で、カーグの前にダークが立つ。
「ダーク、俺たちと一緒に戦う気になったか?」
「人間の手は借りん!」
「お前にもあるはずだ、人の心が」
「人の心?そんなもの捨てちまったのさ、オレは。カーグ、考えてみろ。人間と魔族が仲良く暮らせると思うか?
・・・無理なんだ。オレたちは相容れない運命なんだ。お前だって解っているはずだろう」
「お前となら解りあえると思ったんだ。何故なら、俺たちは・・・」
「カーグ・・・」
「解った。もういい。俺が甘かった」
「・・・・・・」
「・・・俺は、人間王が絶対に許せない」
「フッ、お前と初めて意見が合ったな。・・・お前、いい子ぶりやがって、そんなに人間になりたいのか?」
「お前こそ、悪ぶってるように見えるぞ。そんなに魔族になりたいのか?」
二人は笑い合った。二人はみんなに、これからは共闘すると言ったが、反対する者はいなかった。

聖柩の周りに、五つの大精霊石が置かれている。
「さあ、リリアよ、聖柩の封印を解く言葉を唱えるのだ」
人間王が言った。人間王に操られているらしいリリアは、無感動な声で、封印を解く言葉を唱える。
すると、聖柩の蓋は吹き飛んだ。
「闇の精霊よ、我に力を!・・・ついに取り戻したぞ、我が究極の力!」
「そこまでだ、人間王!」
カーグたちが駆けつけてきた。
「愚かな。わざわざ闇に飲み込まれに来たとは。・・・我は、人間王にあらず!闇黒の支配者だ!」
カーグたちは闇に飲み込まれる。
気が付くと、そこは暗くて何もない空間だった。カーグたち十人はそれぞれ、幻覚を見せられる。
カーグにはナフィア。ダークにはウィンドルフ。ポーレットにはロイド。デルマにはデンシモ。マルにはフォウ。
ヴォルクにはイリーナとナザール。ガンツにはツルギ。カトレアには昔のカトレア。タチアナにはダッカム。
そしてべべドアにはべべドア自身。幻覚はカーグたちを誘い、惑わし、戦いを止めさせようとする。
「惑わされないで!」
リリアの声が響いた。
「ここは闇の世界。幻影に惑わされないで。心の闇を振り払い、自分の影と戦うのです。闇に負けないで!」
カーグたちは闇を振り払った。

今度は、異形となった闇黒の支配者が現れた。内部にリリアを取り込んでいる。
「リリア・・・今助ける!」
カーグとダークはリリアを助けようとしたが、闇黒の支配者は言う。
「我を倒せば、この女も死ぬ。善の心を捨て去り我を殺せば、キサマたちは闇と同化する。
フフフ・・・我に殺されるか、心を闇に染めるか・・好きなほうを選べ!」
心を闇に染めてでも、闇黒の支配者を倒す方を選択するカーグたち。
闇黒の支配者に止めを刺すと、リリアの悲鳴が響き渡った。
「心を闇に染めたのか。もはや、この空間からは永久に出られまい」
そういうと、闇黒の支配者はリリアと共に消えた。
「馬鹿な、永久に出られないだと?」
「リリアはどうなった?本当に死んじまったのか?」
失望するカーグたち。そのとき、
”まだ終わっちゃいないさ”
”希望を捨てないかぎりはね”
声が聞こえ、リリアの姿が現れた。
「勇者と聖母の声が聞こえて、私が闇に取り込まれる寸前、助けてくれたの。
そして、教えてくれた。闇黒を倒すには、聖柩の力が必要だ、って」
「でも、聖柩の力は失われてしまったんじゃ・・・?」
だがリリアは言う。
「聖柩の力はまだあるわ。私たちの、心の中に。聖柩の力は精霊の力ではないの。
それは、全てを慈しむ力。全てを守る力。悲しみ、苦しみ、成長してきた、自分自身の可能性。
純粋な想い。未来への希望。それら全てが集まったもの。それが聖柩の力。
みんな、希望を捨てないで!どんな闇の中でも、希望の光はあるわ。
さあ、未来を見つめましょう。私たち全員の、心を合わせて」
一同は全員、それぞれの希望を思い描いた。
「勇者さま、聖母さま、力をお貸しください」
リリアが祈りをささげると、辺りは光に包まれ、闇を打ち破った。

「小癪な。我が闇の世界から抜けてくるとは」
そこにいたのは、巨大な目玉だった。それが、闇黒の支配者の真の姿だった。
闇黒の支配者は、人間と魔族が心を合わせているのを見て、言う。
「随分と仲良くなったものだな。魔族と人間は、根本的に相容れぬ存在。いずれ、争う運命だぞ。
ここで相手を滅ぼしてしまえば、永遠の平和を約束されるのだぞ。
人間と魔族の間に、真の友情は生まれない」
だがカーグは言う。
「相手を滅ぼして手に入れる平和なんか、欲しくない!」
「真の友情じゃなくてもいい。お前を倒す間だけ、信じられればそれでいい。
オレはお前が許せない。その気持ちは、カーグも同じだ!」
ダークはカーグの方をちらりと見る。
「そうだ、同じだ。何故なら、俺たちは・・・」
カーグとダークは声を合わせて言う。
「双子の兄弟だからな!」

力を合わせ巨大な目玉を倒す。
「見事だ。だが、人間や魔族如きでは、我は倒せん。闇黒の支配者は不滅だ!
まずは、お前たちの愛する、この世界から破滅させてやろう!」
いきなりリリアが前に進み出てきた。
「闇黒の支配者!あなたを封印します!」
だが、闇黒の支配者は、聖柩もないのにどうやって封印するのだと嘲笑した。
「ひとつだけ、方法があります。かつて、勇者アークが取った方法。
自らの命を、聖柩の力に変えて、闇黒の支配者を封印する・・・。
これは、精霊に選ばれし者の使命なのです」
”リリア、もう十分です”
リリアの前に希望の精霊が現れた。そして、闇黒の支配者を取り囲むように、
光・火・水・風・土の精霊が現れた。
「むっ、何故精霊が現れる?」
闇黒の支配者は動揺している。
”闇を滅ぼすためです”
「何だと?ヒトと精霊との契約が続く限り、我は不滅なのだ!」
”だから、私たちは決意しました。この世界から旅立ちます。全ての精霊の力と共に”
希望の精霊の言葉に恐怖している闇黒の支配者。
闇黒の支配者の力の源は、闇の精霊だ。だから、闇黒の支配者の力もなくなる。
「や、やめろ、やめてくれー!」
絶叫と共に、闇黒の支配者は消えた。
”さようなら、僕らの愛した全ての生ける者たち・・・”
精霊たちも姿を消した。

クラーフ島の海岸にいる一同。沖には空中城が浮かんでいるのが見える。
空中城は、きれいな火花を散らしながら、海に沈んでいった。
「精霊の力が消えるなんて・・・」
精霊の力が完全に消えたということは、精霊石もその力を失ってしまうことになる。
機械は動かせなるし、魔法も使えなくなる。
「本当にこれでよかったのか?俺たち人間は、何とかなるさ。でも、あいつら、魔族は・・・」
そう呟くカーグに、リリアは答える。
「ヒトが持っている、自分自身の力。努力、希望、可能性。その力さえあれば、
精霊の力なんか必要ないわ。見て、あの顔を」
ダークのほうを指さすリリア。
「フッ、しっかりと、未来を見つめてやがる」

夜。長老の丘に佇んでいるダーク。カーグがやってくる。
「精霊の力がなくなってしまったな。これから、厳しい時代が続くぞ」
ダークはそう言ったが、カーグは笑い飛ばす。
「乗り越えてみせるさ。人間にには、未来と可能性がある」
「それは魔族も同じだ」
「だが、そうならず、ぶつかり合う日が、必ず来る。・・・いつか戦わなければならないな、俺たちは」
「いつか・・・?今なら、邪魔も入らない」
ダークは剣を抜く。カーグも剣を抜いて、構える。
しばらく睨み合った後、カーグは構えを解く。
「本当は、邪魔が入って欲しいんだろ?お前の考えなら解るさ。俺たちは・・・兄弟だからな。
それに、戦うのは今じゃなくたっていい。五年後でも、十年後でも。
いつか戦うときが来たら、そのとき、考えればいいじゃないか。
それだけの時間があれば、みんなが笑い合える、平和な時代が築ける」
「そうね、もしかしたら、時間が解決してくれるかも知れない。それに、解決できなくてもいいじゃない。
完全な平和なんて、私たちには難しすぎるもの」
リリアがやってきた。カーグは笑う。
「ハハハ、邪魔が入ったな」
舌打ちするダーク。
「せいぜい、ボロボロになった人間世界を発展させるんだな!」
「魔族もな。殺し合いばかりしてる場合じゃないぞ」
「それはこっちのセリフだ」
三人は笑い合った。それを遠くから見ていたポーレットとヴォルク。
「まるで子供の喧嘩だな」
「そうね。仲のいい兄弟みたい」
カーグは、ダークに向かって右手を差し出す。ダークも右手を出しかけるが、
引っ込めて左手を出す。鱗に覆われて、鉤爪が付いた方の手だ。
「悪いが、オレ出せるのはこっちの手だ。これでも、握手できるか?」
カーグは躊躇いながらも左手を出し、ダークの左手を掴んだ。
その上にリリアの手が乗せられる。
「ほんのひとときの安らぎでも、偽りの平和でも、戦うよりずっと素晴らしいものが生まれるわ。
そうは思わない?」
 

 

付録:

資料1 以下の文章は、初めて精霊と出会った者が残した言葉と言われている。

はるか遠くかなたで 鳥たちのことばを聞いた
いつかその日が来るだろうと 道はみつかるだろう
千年の果てに

時は全てを見つめ 走り抜けてゆくものだから
せめて 信じて生きていたい
語り継がれる心を

はるか遠くかなたで いにしえのことばを聞いた
それはまるで陽射しのように 精霊は導いて
光降り注ぐ

この大地どこまで続くかわからないけど
いつも 前に向かって進んで行けば
奇跡にたどり着けるはず

風が運んでくれた やさしさ
水が潤してくれた 喜び
火が灯してくれた 希望

歩き出す場所は
今 あなたといる場所

はるか遠くかなたで 星たちのことばを聞いた
いつかその日が来るだろうと 道は見つかるだろう
千年の果てに
 

資料2 クラーフ島に残された石碑に刻まれた言葉。

にんげんたち このしまにきた

ひとりは あかいはちまきのひと
せいれいのちからつかえる
はこをさがしてる

ひとりは まるくてちいさいひと
のっぽなぼうしかぶってる
いろんなおとをならす たのしくなる

ひとりは あかいかみのひと
すぐおこる おさけのむ
おはなあつめる

ひとりは しろくてながいひげのひと
いっぱいしってる
まほうもいっぱいつかえる

ひとりは いつもきたえてるひと
みんなにきびしい
じぶんにいちばんきびしい

ひとりは つぼをもってるひと
もんすたぁのごしゅじんさま
おうさまばんざい ばんざい

ひとりは ふねこぐひと
いつもふねのなかにいる
ごはんくれる なでてくれる

ここにはこなかったけど
おんなのひとのなかまもいるみたい
いつもみんながおもってる
 

最終更新:2008年02月03日 17:50