猫侍
part19-33

33 猫侍 sage2005/10/12(水) 21:46:05 ID:IRbOZLiF
■人物
・弟斬十兵衛(おとぎりじゅうべえ)
 御神楽党きっての剣客だったが、弟とその妻をその剣に掛けてしまった
 事を悔い、党を離脱。友人を頼って江戸へ向かい、そこに居を構える。
・斬馬弥四郎(ざんまやしろう)
 御神楽党党首。自らに匹敵するほどの剣の腕を持ち、自分のやり方に
 反発する十兵衛を葬るべく、執拗に刺客を送り出す。
・阿蘭陀仁右衛門(おらんだじんえもん)
 十兵衛の幼馴染で蘭学に通じる発明家。いつもキテレツな発明をしては
 爆発している。十兵衛の良き理解者。江戸深川在住。

■用語
・猫又(ねこまた)
 主人公「十兵衛」のように、人語を解し話す事も出来る猫の事。
 人間の俗説とは異なり、ほとんどの猫が生まれて三年ほどで猫又となる。
 二本足で立ち、着物を着、刀を差し、時には眼鏡を掛けた猫又も居るが、
 転化の術により、人間からは普通の猫にしか見えない。
・御神楽府(みかぐらふ)・御神楽党(みかぐらとう)
 人跡の及ばぬ山奥に、猫又たちの首都である御神楽府がある。
 御神楽党は、御神楽府の治安維持の為に帝の勅許を得て設立された
 剣客集団であるが、現在では弥四郎の方針により、強大な権力をもった
 武装集団と成り果て、猫又たちに恐れられている。

■物語
 御神楽党を離脱し、仁右衛門を頼って江戸に入った十兵衛は、
 心形寺裏長屋の物置小屋に居を構えた。
 弟を手に掛けてしまった事を悔いながら江戸での生活を始めた
 十兵衛だったが、そこでの猫又や人間達との交流を通じて、
 次第に心を開き始める。

 仁右衛門のキテレツな実験に付き合ったり、武家の姉弟の仇討ちを
 手伝ったり、頼りない青年太一の修行に付き合ったり、本当は人間に
 知られてはいけない猫又の正体を次々と人間に知られて見たり、
 丁半賭博に興じたり、魚釣りに没頭したり、鼠捕りにいそしんだり、
 人間達の生活をピーピングしたり、居酒屋の女将に色目を使われて
 冷や汗をかいたり……と、まぁとにかく大江戸ライフを満喫しつつ、
 この深川が自分の居場所なのだと、十兵衛は悟る。

 その一方で、十兵衛は常に御神楽党の刺客に狙われていた。
 頼りない駆け出しの剣客・天真。精鋭部隊の火車。女刺客の燕衆。
 弥四郎の近衛部隊である二十八部衆。
 昼となし夜となし襲い掛かる刺客を、十兵衛は斬り捨てていった。
 それは同時に、弥四郎の求心力をも殺いでいった。
 十兵衛の耳に、御神楽党内乱の方が入った頃、弥四郎から十兵衛の
 下に果たし状が届いた。
 御神楽党を離脱して半年。ついに最後の決着をつける時がきた。
 組織が崩壊し、居場所を失った弥四郎。江戸での生活で、自らの
 居場所を見つけた十兵衛。二人の男の最高の奥義を出し尽くした
 果し合いは、十兵衛の勝利で幕を閉じた。

 物言わぬ弥四郎を小船に乗せ、川に流す十兵衛。
 しかし彼もまた、深手を負っていた。
 一足ごとに重くなる体を引きずるように、彼は歩き出した。
 やすらぎの地へ。

 猫侍 完

34 猫侍 sage2005/10/12(水) 22:17:11 ID:IRbOZLiF
以上、猫侍でした。

何と言うか、かなりさっぱりとしたあらすじになってしまいましたが、
説明書によると、このゲームの目的は、大江戸ライフを満喫する
事にあるようで、物語の項の二段落目に当たる部分が、
ゲームのメインとなります。

十兵衛が江戸に入ってからエンディングまでの約半年間、
深川を歩き回って色々なイベントに遭遇するわけですが、
そのイベントのシナリオ総数が180以上とか、膨大な数に
なるので、とても全ては書ききれません。

そんな訳で、上記の一レスで猫侍は一応最後まで書いたと言う
事にして、ここから先は、あくまでおまけとして書きたいと思います。
とりあえず、全イベント制覇を目標にやって行きますが、
途中でフェードアウトしても大目に見てやってください。

ちなみに、エンディングについてなんですが、
エンディングムービーの最後で、十兵衛は虫の息で倒れ伏しています。
それ以上描写が無かったので、十兵衛が無事に深川に戻れたのか、
それとも彼岸へ旅立ってしまったのか定かではありません。
が、かなり彼岸方面に傾いた終わり方でした。

制作サイドに一言文句を言わせて頂ければ、もう少し救いのある
終わり方をして欲しかったです。
一周ではとても見切れないほどシナリオがたくさんあるのに、
あの悲しいラストでは二周目やる気が全くおきませんよ、コンチクショウ。

35 名無しさん@お腹いっぱい。sage 2005/10/13(木) 00:30:02 ID:b7uQ2y9n
猫侍乙。斬り捨てていくのか…想像してたよりハードな話だな。
もっとほのぼのとした話かと思ってた。

37 名無しさん@お腹いっぱい。sage 2005/10/13(木) 01:49:49 ID:D0JwaBQM
>>35
実際に斬るのは数人ですかね。
あとは、鉄砲水に呑まれてアボーン(二十八部衆)だったり、
大八車に轢かれてアボーン(天真)だったり。

普段はほのぼのとした日常生活ですけど、
月一ぐらいで起こる御神楽党イベントは、血なまぐさい感じです。

52 猫侍 sage2005/10/15(土) 20:46:04 ID:l6o/X43b
■用語追加
・通り名
 通常、猫又は苗字を持たないが、世に名の知れた猫又は周囲から「弟斬」「阿蘭陀」
 「斬馬」などの通り名をつけられる場合がある。また、御神楽府の帝から直々に
 名字を賜る場合もあるらしい。
・つる板
 猫又たちの看板の事。猫又にしか読めない記号で書かれている。
・内猫と外猫
 飼い猫として生活している猫又を内猫、それ以外を外猫と呼ぶ。

■物語

『悪名』
御神楽党を離脱し、江戸に向かって旅をする十兵衛は、その日、岩渕宿まで来ていた。
辺りはすっかり暗くなっており、十兵衛は道端のつる板を頼りに宿に向かっていた。
すると、前方で騒ぎが起こった。ならず者二人が、商人風の夫婦を取り囲み、
通行料をせびっていたのだ。ならず者が御神楽党員だと吹かした事が癇に障り、
十兵衛はその二人に灸を据えてやった。
結果的に夫婦を助ける形となり、感謝された十兵衛は、さらに、江戸までの
用心棒を頼まれた。急ぐ旅でもないので、十兵衛は引き受ける事にした。

宿で一泊し、朝早くに出発した三人。道すがら、上州屋良衛門と藤という名のこの夫婦が、
江戸で古着屋を始めると言う話などを聞いていると、昨日のならず者たちが三人の前に
立ち塞がった。彼らは、駆け出し御神楽党員の天真をつれていた。
御神楽党の刺客ならば遠慮は無用。十兵衛は刀を抜いた。
「貴様も聞くか……蕭風(しょうふう)の音を……!」
「蕭風刀……あんた、まさか弟斬十兵衛かっ! 冗談じゃねえ!」
慌てて逃げ出すならず者達。一人置き去りにされた天真も、十兵衛に睨まれると
スゴスゴと退散した。

やれやれと刀を納め、上州屋夫婦を振り返ると、すっかり脅えきっている。
安心させようと近づいた十兵衛だったが、夫妻はこけつまろびつ逃げ出してしまった。
「弟斬……お助けぇっ!」などと叫びながら。

「……悪名が轟いているのは、御神楽党よりも俺の方か……」
自嘲気味に嗤い、十兵衛は江戸に向かった。

『「阿蘭陀」仁右衛門』
江戸に入った十兵衛は、その足で、旧友の仁右衛門の住む淡島屋へ向かった。
店先で再会を果たした後、仁右衛門の部屋となっている土蔵に腰を落ち着ける。
積もる話をしているうちに、十兵衛の異名「弟斬」の話になった。
「……実はな、俺は弟を……又次郎を、斬った」
「む……まさかとは思っていたが……。訳はあったのじゃろうな?」
「うむ」
「そうか……ならばこれ以上は聞くまい」
それでこの話は仕舞いとなった。

53 猫侍 sage2005/10/15(土) 20:47:49 ID:l6o/X43b
『心形寺裏長屋』
重苦しい空気を振り払うように、仁右衛門は十兵衛の住処の話を始めた。
江戸で生活するには、定まった寝床があった方が良い。そう思った仁右衛門が、
十兵衛の到着を前に探していたのだ。
そこは、人間達の住む長屋の一番奥の物置小屋だった。
人間と生活を共にする事など出来んと言う十兵衛だったが、小屋の隣の住民が
出て行ったばかりで、こんな奥の部屋を借りる者はいないと仁右衛門に説得され、
不承不承、ここに住む事になった。
腰を落ち着けてみると、そこは存外快適な寝床だった。広さも申し分なく、隅の藁束が
心地よい眠りを誘う。
十兵衛は旅の疲れもあり、いつしか藁束の上で眠りこけていた。

『闖入者』
十兵衛が目を覚ますと、隣の部屋がなにやら騒々しい。
訝しく思った十兵衛が覗き込むと、人間の親娘が引越しの荷物を運び込んでいた。
たった一晩で人間が越してきた事に腹を立て、十兵衛は仁右衛門に文句を言いに行った。
「しかしな、十兵衛。この江戸で人間と離れて暮らすなぞ、無理じゃぞ。……あぁ、
そんな顔で睨まんでくれ。そうじゃ! 今夜、久しぶりに夜釣りとしゃれ込もう!」
と言う感じで誤魔化されてしまった十兵衛は、嘆息しつつ、長屋へと帰った。

『娘と猫又』
仁右衛門が迎えに来るまで十兵衛が長屋で時間をつぶしていると、隣に越してきた娘の
きさが、物置小屋に入ってきて掃除を始めた。
「おーい、十兵衛! 今夜は絶好の釣り日和じゃぞ!」
その時、間の悪い事に、仁右衛門が大声で人語を喋りながら入ってきた。
猫が喋った事に腰を抜かすきさ。
人間には知られてはいけない猫又の正体をあっさり知られてしまった十兵衛と仁右衛門。
きさに大騒ぎされてはいけないので、仕方が無く、二人は猫又について説明する羽目に。
ようやく落ち着き、事情を飲み込んだきさは、絶対に誰にも言わないと二人に約束した。

夜釣りはまた今度、と言うことになり、仁右衛門が出て行くと、一人残された十兵衛は、
きさに質問攻めにされた。鬱陶しくなって寝たふりをする十兵衛。
そんな彼の背中を見るきさは、何処となし、嬉しそうだった。

54 名無しさん@お腹いっぱい。sage 2005/10/15(土) 21:01:02 ID:l6o/X43b
以上、ゲーム導入部からの半強制イベントの流れでした。


67 猫侍 sage2005/10/18(火) 22:33:20 ID:giyrskWO
■人物
・吾郎左(人間)
 きさの父。いつもぐうたらしている。実は裏の顔がある……らしい。
・源七・梅・竹(人間)
 きさ父娘の隣人。船宿に勤める船頭の源七、その妻の梅、源七の母の竹の三人暮らし。
・半次
 壱之新の手下の一人。

■物語

『縄元』
深川の町を見物していた十兵衛は、行く先々でごろつき風の猫又たちに通せんぼを
食らった。どうやら、「縄元」と呼ばれる、猫又を取り仕切る役目の者の差し金らしい。
縄元への挨拶を促される十兵衛だったが、群れる事を嫌い、拒み続けていた。

そんなある日、彼は永代橋のたもとで、年老いた猫又と出会った。
その老猫又の勧めで八幡宮に詣でた十兵衛は、鐘つき堂で、その老猫又と再会した。
実は、この老猫又こそ、縄元「鐘突き堂」陣五郎その人だった。
陣五郎は、事情を話し始めた。

御神楽党から、十兵衛の手配書が届いている。もし、十兵衛をこのまま自由に泳がせて
いれば、陣五郎の組織の者達が御神楽党に狙われる。しかし、「弟斬」を相手にしようと
思えば、これもかなりの被害が出る事は確実。
そこで、十兵衛を見逃す代わりに、時折手伝いをしてほしいというのだ。
これは取引ですよ、と言いながら、配下の者数十人で包囲している陣五郎。
さすがの十兵衛もその人数では生き残る目は無く、陣五郎の提案を呑まざるを得なかった。

『浄心寺の壱之新』
陣五郎との取引の結果、深川を自由に歩きまわれるようになった十兵衛は、ふと、
浄心寺の門前町へと立ち寄った。そこで、またしてもごろつき風の猫又に迫られる。
いい加減うんざりした十兵衛が刀に手を掛けると、二人は親分格の男を呼んだ。
どっしりした体格の壱之新は、十兵衛を見るなり、手下の二人を殴りつけた。
「馬鹿野郎、相手見てケンカしろぃ! すまなかったな、お侍ぇさんよ」
「……訳を聞かせて貰おう」
「最近、妙な連中がうろついてるもんでな、見回りを強化してたんだ。すまなかった」
壱之新に頭を下げられ、十兵衛は黙ってその場を後にした。

後日、壱之新を尋ねてみようと十兵衛が浄心寺に向かっていると、天真たちの姿を
見かけた。捨ててはおけずに後を追った十兵衛だったが、彼が声を掛ける前に、天真は
壱之新に呼び止められた。天真たちは食い詰めた挙句、恐喝を働いていたらしい。

壱之新に迫られた天真が刀を抜くのを見て、十兵衛は助太刀に入った。
「おっ、こないだの……。手は出さねぇで貰いてぇ。このケンカは俺が買ったんだ」
「その頬傷のヤツは俺が貰う。……腐れ縁でな」
「チッ。だが、殺すんじゃねえぞ。殺したらケンカとは言えんぜ」

あっという間に叩き伏せられる天真たち。彼らは、壱之新の部下によって簀巻きにされ、
江戸湾に投げ込まれた。
天真たちの始末がついた所で、壱之新は十兵衛に尋ねた。
「あいつら、アンタを十兵衛と呼んでたが、まさか、あの「弟斬」かい?」
「……だとしたら、どうする?」
「聞いてるぜ、御神楽党と一人でやりあってるってな。何かあったら力になるぜ」
「御神楽党が怖くはないのか?」
「へっ! 俺の目の黒いうちは、この浄心寺のショバで好き勝手はさせねぇぜ」
昨今見なくなった義侠心に篤い男ぶりに感心しながら、十兵衛はその場を後にした。

続く

68 名無しさん@お腹いっぱい。sage 2005/10/18(火) 22:46:20 ID:LVA9+yvJ
猫侍乙。
…やばい、猫好きと時代劇好きの血が騒いでやりたくなってきた。

70 名無しさん@お腹いっぱい。sage 2005/10/19(水) 11:25:25 ID:i7gda80X
いいな猫侍。しかし

『浄心寺の壱之新』
深川を自由に歩きまわる主人公猫。
喧嘩売られて「フーッ!」「フーッ!」
間に入る親分猫「ニャー!」「・・・・・・ニャア」
頭を下げる親分猫。

いじめっ子猫を発見。「フゥーッ!」

助太刀に入る主人公猫。
協力し合う主人公猫と親分猫「にゃあ」「にゃふん」「フゥゥ・・・・・・!」

器用にいじめっ子猫を簀巻きにする主人公猫「にゃあにゃあ」
江戸湾に投げ込まれるいじめっ子猫。 「ぶみゃー」
仲良くなる親分猫と主人公猫。「にゃっ」「ミウ」「にゃうん」


人間から見るとこんなとこか。和むな。


73 猫侍 sage2005/10/21(金) 02:20:02 ID:fO3ZXZqW
>>68
ど真ん中ストライクですね。どうぞお買いなさい。
でも、本気で買うつもりなら、今のうちから私のレスを
あぼーんしておいた方がよいかと。

>>70
残念ながら、猫又同士で人語を喋ってると、
人間にもそのまま聞こえてしまうようです。

さて、保守代わりに続きを。

74 猫侍 sage2005/10/21(金) 02:21:07 ID:fO3ZXZqW
『きさの秘密』
近頃、毎日のようにきさが出かけ、暗くなるまで帰ってこない。
不思議に思った十兵衛はこの日、きさの後を尾けることにした。
しばらく歩いたきさは、武家屋敷街に程近い割烹「ますみ」に入っていった。
窓から中を覗き込むと、きさが女中として忙しく立ち働いていた。
彼女は、家計を助けるためにここに働きに来ていたのだ。

その気は無かったが、夕方まできさの仕事振りを見続けてしまった十兵衛。
一日無駄にしたと思いながら帰ろうとすると、きさと行き会ってしまった。
吾郎左には秘密にすると約束を交わし、二人は家に帰った。

家に戻ると、きさに吾郎左が尋ねた。
「きさ、最近お前遅くまででかけてるようだが、何をしてるんだ?」
「え? あぁ……えっと、友達の所に遊びに行ってるのよ」
「そうか、もう友達が出来たのか……。……きさ、あまり無理はするなよ」
吾郎左は、きさが働きに出ている事を知っていたのだ。
不器用な父娘だ、と苦笑して、十兵衛は床に就いた。

『ひげ屋』
町外れの川岸にある古びた小屋で、十兵衛は居酒屋を示すつる板を見つけた。
入ってみると、威勢の良い掛け声が飛んできた。声の主は、美人女将のせんと若い娘の
たかだった。この店は、この二人で切り盛りしているのだ。
繁盛している様子の店内に腰を下ろすと、せんが冷酒とつまみを持って来た。
そのまま十兵衛の隣に腰を下ろすせんを訝しがりながらも、十兵衛はつまみに箸をつけた。
「ほう、貝の煮つけか。……うん、悪くない」
店の雰囲気は十兵衛の好みとは違っていたが、料理と酒は旨かった。
「まぁ、しばらくすれば、この雰囲気のあしらい方も覚えるだろう」
また来ようと決めて席を立ち、勘定をしようとすると、たかがその手を押しとどめた。
「ウチは初めてのお客さんからはお代を頂かないんです。その代わりご贔屓に」
調子が狂うな、と思いつつ、十兵衛は店を後にした。

『どんぶりや』
夜、町を歩いていた十兵衛は、屋台を見つけた。つる板には「どんぶりや」とある。
小腹も空いてきた事だし、と腰を下ろした十兵衛は、六平と名乗った親父の出した
蕎麦を啜った。その味は中々で、辺りの静かな雰囲気も、十兵衛の気に入った。
酒を嘗めつつ、仕込をする六平を眺めていた十兵衛は、彼の手に剣術の稽古によって
出来たと思わしきタコを見つける。よくよく六平を観察すると、その身のこなしに
剣客のそれを見た。
さりげなく六平に水を向けてみても、はぐらかす様な答えしか返ってこない。
「まぁ、人それぞれ事情があるものだ……」
そう考えて、十兵衛は店を後にした。

続く

588 猫侍 sage2005/12/12(月) 22:31:53 ID:MbUr+qYm
『医師・源庵』
ある日の夜、十兵衛は仁右衛門に釣り誘われた。
町外れの河原は静かで、人の気配も無く、十兵衛たちはゆったりと釣り糸を垂らした。
しかし、いくら待ってもアタリさえない。痺れを切らした仁右衛門は、気分転換に
酒を買いに出かけてしまった。
一人残された十兵衛は、つまみにとニ、三匹の魚を釣り上げたが、仁右衛門はまだ来ない。
ようやく戻ってきた仁右衛門は、医師をしている源庵という猫又を連れていた。
仁右衛門の蘭学仲間であると言う源庵も交えて釣りを始めた三人だったが、酒を一杯
飲み終わる前に、源庵に使いがきた。けが人が出たというのだ。
十兵衛たちは釣りを切り上げ、源庵に付いて診療所に向かった。
診療所に寝かされた猫又は足を折っており、源庵は仁右衛門を助手に切開手術を始めた。
「ほう、見事な腕前。仁右衛門も珍しく頼もしく見える」
十兵衛が感心しているうちに、治療は終わった。
「ま、二ヶ月で治るじゃろ。代金は働けるようになってからで良い」
「む、ただでここまでしてやるとは……」
「いつただにすると言った? それに、この男は働けるようになれば必ず払いに来る」
「そういう……ものか」
「そういうものじゃよ」

『爆裂仁右衛門』
十兵衛が淡島屋へ遊びに行くと、仁右衛門が薬の調合をしていた。
当然のように爆発する薬。すすだらけになりながら、十兵衛は遊びに来た事を後悔した。

『文豪仁右衛門』
十兵衛が淡島屋へ遊びに行くと、仁右衛門が書き物をしていた。
小説を書いているというので読ませてもらうと、これがまたビックリするほどつまらない。
しかし本当の事を言うのも気の毒なので、適当にお世辞を言う十兵衛。
すると仁右衛門は浮かれて、部屋に山積みになった作品群を次々と十兵衛に勧めて来る。
数刻後、ようやく開放された十兵衛は、ふらふらになりながら遊びに来た事を後悔した。

『仁右衛門、空を飛ぶ』
十兵衛が性懲りも無く淡島屋へ遊びに行くと、仁右衛門が機械を弄っていた。
なんでも、竹とんぼに発想を得て、空を飛ぶ機械を発明したというのだ。
(中略)
当然のように爆発するぜんまい仕掛けの機械。
失敗してしょげ返る仁右衛門を励まして、十兵衛は彼を飲みに誘った。

『柚子』
ある日、十兵衛が家に戻ると、仕事の時間のはずなのにさきが家に居る。
話を聞くと、ますみに幽霊が出るという。棚が揺れたり、物が独りでに落ちたりすると
いうのだ。女将の飼っていた子猫まで居なくなり、神隠しと言う話まで飛び交っている。
その為、客が寄り付かず開店休業の状態になっていると。

そんな馬鹿なと鼻で笑った十兵衛だったが、翌日の夜、きさが幽霊を見たと言って
物置に飛び込んでいると、笑ってもいられなくなった。
きさの話だと、棚が勝手に動き、「たすけてぇ」と言う声が聞こえたという。
取り乱すきさを落ち着けて部屋に帰し、十兵衛はますみの様子を見に行った。

人気の無くなったますみの店内に、確かに微かな声が聞こえる。
声の聞こえる棚の後ろを覗き込むと、そこに子猫又が挟まっていた。
柚子と言うこの子猫又を助け出して話を聞くと、猫又になって日が浅く、二本足で立つ
練習をしていたら、棚から落ちて挟まってしまったという。
十兵衛は柚子に猫又としての心得を教えてやり、ますみを後にした。

後日、様子を見に行くと、柚子は教えの通り、人前では普通の猫として振舞っていた。
ただ、妙になつかれてしまった事が、十兵衛には少し厄介に思えた。

589 猫侍 sage2005/12/12(月) 22:34:30 ID:MbUr+qYm
『うたたこの世は』
近頃、十兵衛は八幡宮の近くにある、古着屋へちょくちょく出かけていた。
そこは、岩渕宿で出会った上州屋夫婦の出した店だった。
しかし何度足を運んでも、上州屋は十兵衛の顔を見るなり店の戸を閉めてしまっていた。

そんな上州屋良衛門の様子が、ここ数日おかしい。店先に佇んでは、地面を見つめて
ため息をついている。
気になって物陰から様子を伺っていた十兵衛は、その日、ようやく原因を突き止めた。
ならず者たちがショバ代をせびりに現れたのだ。

一日ニ朱と言う法外な値を吹っかけるならず者たち。無論、上州屋にはそんな大金を
払えるはずも無く、ならず者たちは藤に手を掛けようとした。
さすがに見かねて十兵衛が助けに入ろうとした時、なぜかあの天真が現れた。
天真がひと睨みすると、ならず者達はスゴスゴと逃げ帰っていった。
上州屋夫妻は涙を流さんばかりに天真に感謝し、彼に住み込みで用心棒を頼んだ。
妙な成り行きに首を捻りながら、十兵衛は上州屋を後にした。

後日十兵衛は、先日のならず者達と天真が並んで釣り糸を垂れている所を見つけた。
草むらに潜んで聞き耳を立てた十兵衛は、事の真相を知る。
全ては、藤を寝取らんとする天真の仕組んだ茶番だったのだ。

そんな天真に灸を据えてやり、十兵衛は上州屋を訪ねてみた。
夫妻は、帰りの遅い天真を心配して店先に出ていた。
お人好し過ぎるな、と苦笑いしながら踵を返した十兵衛の耳に、夫妻の会話が聞こえた。
「それにしても、天真様が来てくれて良かった。ならず者達も来なくなったし」
「それに、あの弟斬に怯える必要もなくなった訳ですしね」
(…………うたたこの世は、か……)
臑に傷を持つ身の辛さを噛みしめつつ、十兵衛はその場を立ち去った。

『仇討ち姉弟』
ある日、州崎弁天を詣でた十兵衛は、微かに撃剣の音を聞いた。
社の裏手の砂浜に出てみると、武家の子女と思われる年若い猫又姉弟が稽古していた。
その鬼気迫る様子に尋常でないものを感じた十兵衛は、二人に声を掛けた。

五十緒と鹿之助というこの姉弟は、父の仇である戸守(とまむり)六右衛門を追って
江戸に来たのだという。七日後に仇討ちを控え、稽古をしている所だった。
十兵衛の風体から腕の立つ剣客と見抜いた五十緒は、十兵衛に指南を頼んだ。しかし、
「無駄な事はやめておけ。相手は通り名を持つほどの男。返り討ちにあうぞ。
 それに……仇討ちとは言え、お前達は人一人を殺そうとしているのだぞ。
 人を殺せば……元には戻れなくなる。俺はそれを知りすぎるほど知っている」
そう言って立ち去る十兵衛の背中に、五十緒は声を上げた。
「私達は絶対に諦めません。その為に二人で頑張って来たのです。必ず仇を討ちます!」

翌日。小雨の降る中、十兵衛は州崎弁天へ立ち寄った。やはり、撃剣の音がする。
暫くその音を参道で聞いていた十兵衛だったが、やがて砂浜へと足を向けた。
「くそっ、また俺は厄介事を背負い込むのか」

こうして、十兵衛と姉弟の厳しい稽古の日々が始まった。
期限と定めた三月の後にどのような結果が待つのかは、十兵衛の指南に掛かっていた。

590 猫侍 sage2005/12/12(月) 22:36:02 ID:MbUr+qYm
『青年太一』
法禅寺は、十兵衛の隠れ家である。小高い丘にあるこの寺からは、江戸が一望でき、
また周囲から切り離された様に静かで、長屋が煩い時などは、十兵衛はここで休む。

この日も、隣の夫婦喧嘩がいつまでたっても収まらないので、十兵衛はここへ来た。
すると、普段は静かな境内に、怒鳴り声がしている。
見ると、頼りなげな小太りの猫又が二人の男に迫られている。
関わりあうのも面倒だと十兵衛が立ち去ろうとした時、小太りの猫又が声を挙げた。
「先生! 来てくれたんですね。お前ら覚悟しろよ、先生は強いんだぞ!」
(こいつ……俺を巻き込むつもりか)
十兵衛を目にした男達は、相手が悪いと思ったのか、悪態をついて去っていった。

「……何の真似だ」
太一と言うその青年は、十兵衛に睨まれても臆することなく、へらへらと笑って言った。
「すみません、巻き込んでしまって。私は三矢道場で門徒をしている者なのですが、
 ウチの道場は先輩方が皆居なくなってしまって、若いものばかりになっているので、
 他の道場の者達から馬鹿にされているのです。先ほどの者達もその手合いでして。
 見たところ貴方様、かなり剣が立つようで……もしよろしければ、ウチの道場で……」
「断る!」

一喝して立ち去った十兵衛だったが、太一は行く先々に現れて十兵衛を説得し続けた。
いい加減うんざりして長屋に戻った十兵衛。しかし、そこにも太一が居た。
これ以上付き纏われるのを嫌った十兵衛は、不承不承、太一の誘いを受ける事になった。

『引き受け候』
その日、十兵衛は縄元に呼び出され、鐘突き堂へ向かった。
到着した十兵衛を座らせ、陣五郎は呼び出した訳を話し始めた。
最近、この界隈に新手の組織が入り込んで、無断で賭場を開いていると言う。
縄元が直接手を下せば大事になるので、その賭場を十兵衛に潰して欲しいというのだ。
陣五郎の頼みでは断る事は出来ず、十兵衛は軍資金を貰って州崎弁天へと向かった。

喜多八と言う親分が取り仕切るその賭場は、堅気衆も居て中々に繁盛していた。
喜多八に面通しを済ませた十兵衛は、暫くは何事も無く賭けをしていたが、
突如として蕭風刀を一閃させた。
真っ二つになったサイコロには、錘が仕込まれていた。それを見て騒然となる客達。
客達の怒号を受け、喜多八たちはほうほうの体で逃げ出していった。

『喜多八、再び』
翌日、十兵衛が縄元に報告しようと鐘突き堂を訪れると、不穏な空気が流れていた。
喜多八に従っていた者たちが、鐘突き堂を取り巻いているのだ。
むき出しの敵意を投げかける彼らを押しのけて、十兵衛は鐘突き堂に入った。
そこでは、陣五郎と喜多八が向かい合っていた。
陣五郎は喜多八を追放する事に決め、それを本人に通達しようとしていた所だった。
「なんとか配下の者だけは、こちらで面倒見てもらえないだろうか」
そう頼み込む喜多八。すると陣五郎は膝を叩き、
「では、こうしましょう。あの賭場は貴方が取り仕切って下さい。ただし、上がりは
 全額納めてもらいます。そうすれば、配下の者達はこちらで面倒見ましょう」
「あ……ありがてえ」
陣五郎に深々と頭を下げ、喜多八は手下達を連れて帰っていった。
「……追放するのではなかったのか?」
「なに、私が決めたことを私が覆しただけの事。それに、私はこれで賭場一つと大勢の
 手下をただで手に入れたのですよ。喜多八はこれからも良く働いてくれるでしょう」
「なるほど……恩を売って自分の手駒とする、と言うわけか……」
油断のならない老人だ。そう思いながら、十兵衛は鐘突き堂を後にした。

続く

435 :猫侍 :2006/11/25(土) 03:57:46ID:sZ9lRbpm0
『墨壷』
ある日、十兵衛が八幡宮の門前市を散策していると、老猫又が金入れをスられる
場面に出くわした。十兵衛がその事を教えてやると、意外にも老猫又は笑顔を見せ、
頭を下げて去っていった。
その笑顔が気になった十兵衛が後を尾けていくと、老猫又はスリを捕まえて金入れを
取り返し、行きがけの駄賃とばかりにその腕を折った。
「腕の一本なら安いものだろう」
そう言って老猫又は去って言った。

後日、門前市で十兵衛は再び老猫又の姿を見かけた。墨壷と呼ばれた彼は、どうやら
飾り職人をしているらしい。
墨壷の先日の言動を思い返した十兵衛は、もしや御神楽党の刺客ではと疑い、
後を尾けようとした。が、姿を見失ったと思った瞬間、十兵衛は後ろを取られていた。

大工町代地にある長屋の屋根裏部屋。そこが墨壷の住処だった。
ひとまず腰を落ち着けた十兵衛は、さりげなく話を向けてみた。
「金入れは取り返せたようだな。かなりの手錬れと見たが」
「その先はよしときやしょう。年寄りと剣客さんって事で、呑めませんかね」
「……では、そういうことにしておこう」
害意のなさそうな老人と半刻ほど酒を酌み交わし、十兵衛は席を辞した。


『「お頭」二人』
ある日、十兵衛が浄前寺門前町へ足を向けると、壱の無頼衆の者と縄元配下の者が
喧嘩をしていた。暫く見物していた十兵衛だったが、周りの屋台に被害が及ぶのを
見て、頭同士で話をつけろと仲裁に入った。
余計な口出しをしたために、壱と陣五郎の話し合いに付き合わされる事になった十兵衛。
陣五郎は、無頼衆の考え無しに御神楽党にも逆らおうとする姿勢が危険だと言い、
壱は、御神楽党に尻尾を振る縄元は猫又の誇りを無くしていると吐き捨てた。
結局二人の話し合いは物別れに終わった。
陣五郎が去った後、壱は立ち去ろうとする十兵衛に声をかけた。
「あんた、本気で御神楽党とやり合うつもりか? 一人じゃ勝ち目がねえぜ」
「お前にはお前の、俺には俺のやり方がある、そういうことだろう」
「……あんたが死ぬ気でいるような気がしてな……」
「…お前は死に急ぐのか?」
「……」
「お互い……長生きは出来そうにないな」
「そうみてえだな」


『燕』
十兵衛が淡島屋へ遊びに行くと、仁右衛門が真剣な面持ちで十兵衛に語りかけた。
燕集(つばくらしゅう)が江戸に入ったと言う。この燕集は、弥四郎が革命を起した時に
暗躍した女だけの精鋭部隊である。

厄介な事になった。そう思いながら淡島屋を後にした十兵衛。
その直後から、彼は常に監視の視線を感じるようになった。
振り返ると、いつも一人の女が彼を見ていた。

燕集が、深川の外れのいわゆる「十万坪」と呼ばれる開拓中の土地から
出入りをしていると知った十兵衛は、そこで待ち伏せをする事にした。
果たせるかな、燕集の女が現れ、十兵衛は刀に手を掛けた。
しかし、十兵衛は自分の甘さを思い知る事になった。燕集の別名は「顔の無い女」。
十兵衛の前には、全く同じ顔をした女が数人立っていた。
「江戸に来て随分お友達が出来たようね。弥四郎様になんと報告しようかしら」
不気味な笑みを浮かべて走り去る燕衆たちを、十兵衛は為す術なく見送るしかなかった。

436 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/11/25(土)04:00:49 ID:sZ9lRbpm0
『番屋の人々』
市中を散策していた十兵衛は、番屋を見つけ、覗いてみた。
そこでは、赤鼻と呼ばれる野卑た十手持ちとその子分の勘太がだらけていた。
二人は他愛も無い話をして時間を潰していたが、同心の田尻が姿を現すや、
いそいそと身支度を整えて見回りに行ってしまった。
その様子を見て田尻が嘆息していると、門次と言う、若く精悍な十手持ちが戻ってきた。
ようやく江戸の治安を守るに相応しい人間が見れた、とその場を後にしつつ、
番屋に集まる人間達の様子を見るのはいい暇つぶしになる、と一人ごちる十兵衛だった。


『吉松救出劇』
ある日、ひげ屋で呑んでいた十兵衛は、他の客の噂話を耳にした。
何でも、川岸の木材置き場でうめき声がするのだと言う。

興味を持った十兵衛が木材置き場に行ってみると、枯れ井戸の中から声がする。
どうやら、十手持ちの吉松と言う人間が、井戸の底に落ちたらしい。
下手に手を貸せばまたしても人間に猫又の正体がばれてしまう。しかし…
(このまま死なれては、俺も寝覚めが悪い)
手近な縄を井戸の底に放ってやった十兵衛。ところが、吉松が急に縄を引っ張って
しまったがために、十兵衛までもが井戸に落ちてしまった。

井戸の底から見上げた十兵衛は、自力で脱出する事を諦めるしかないと悟った。
結局、吉松に猫又の正体をばらし、井戸の外に放り投げてもらって脱出する事に。
無事、井戸の外に出られた十兵衛は、さて、と逡巡した。
猫又の正体を知ったこの男を、助けたものだろうか。
「おぉーい、早く縄をよこしてくれぇ」
深く深くため息をつき、十兵衛は縄を放ってやった。

「お前さんにはでっかい借りができちまったな」
「気にするな。人間に見返りなど求めていない」
「そういうなって。何か困ったことがあったら言ってくれよ」
「吉松、俺のことは……」
「分かってる。俺の胸の裡だけに収めとくよ。お互い助け合っていこうや」
「次も人間のお前を助けるとは限らんぞ」
うへへ、と締まり無く笑って帰りかけた吉松は、ふと振り返り、
「あんたならまた助けると俺は見たぜ。俺の勘だ。じゃあな!」


『吉松一家』
数日後、吉松の様子を伺いに長屋へ向かった十兵衛。
そっと様子だけ伺うつもりが、間の悪い事に、吉松とバッタリ鉢合わせしてしまった。
しかも、吉松の娘のおたまに気に入られて、散々遊び相手にさせられた十兵衛は、
ここに来たことを心の底から後悔しながら家路に就いた。

438 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/11/25(土)09:53:33 ID:J1YpoEPb0
猫侍キテタ━(゚∀゚)━!!
猫侍の人&シムルペの人乙です。

460 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/11/28(火)02:47:29 ID:CBPUY2kV0
『善住さん』
十兵衛が住処としている長屋の前の心形寺には、善住という住職がいる。
いつもは、吾郎左と囲碁など打っているのが、今日は姿が見当たらない。
これはしめたとばかり、十兵衛は日当たりの良い縁側で昼寝をする事に。
ところが、寝入りばなに見知らぬ人間が現れ、彼は目を覚ましてしまう。
腹を立ててその場を後にした十兵衛だったが、最近寺荒らしが流行っていると
小耳に挟み、慌てて心形寺へと取って返した。

普段は閉じられている筈の御堂が開いているのを見て、十兵衛は体を滑り込ませた。
どうやら、善住は簀巻きにされているらしい、と気づいた時、突然寺荒らしの一味が
戸を閉めて奥へ戻っていった。どうやら、閉め忘れたのを思い出したらしい。

何たる不覚。十兵衛は間の悪さと自分の甘さとに腹を立てた。
御堂の出入り口は閂で閉められ、その他の窓と言えば、天井近くの明り取りだけ。
暫く思案した十兵衛は、自分自身を呪いながら善住に人語で話しかけた。

暫くの後、とにもかくにも、と事情も話さず御堂の外にでた二人。
胸を撫で下ろしたのもつかの間、寺荒らしに見つかってしまう。
悪漢「さぁ坊主! ぶった切ってやるから自分の為に念仏でも唱えな!」
善住「そう上手くいくかの? 先は油断したが、今度はそうはいかぬ。でや!」
一瞬のうちに、悪漢は善住によって叩き伏せられてしまった。

善住「さて、わしはこやつ等を番屋へ連れて行く。ええ…と」
十兵衛「十兵衛だ」
善住「そうか。では十兵衛、今度礼はさせてもらうぞ」
カラカラと笑って悪漢を引きずっていく善住を、十兵衛は呆然と見送った。


『市蔵』
きさの用意した汁掛け飯で腹ごしらえを済ませ、さて散歩でも、と十兵衛が
長屋の前を歩いていると、いつもの様に隣からケンカの声が聞こえる。
またやってる、などと笑っていたきさに、隣から飛び出してきた男がぶつかった。

謝って去っていった男が財布を落とした事に気づいたきさは、
源七に預けようと戸を叩いた。ところが、当の源七はその男とケンカしたばかりで
機嫌が悪く、財布を受け取ろうとしない。
しょうがなく、きさは源七の妻の梅から男の家を聞き、届ける事にした。

船頭が多く住む事からその名がついた、蛤町の竿長屋。
乗り気でない十兵衛を伴って、きさはその長屋に市蔵と言う先の男を訪ねた。
きさ「お梅さんが今日の事は気にするなって言ってたけど、何かあったの?」
市蔵「俺ぁ源七親方の下で船頭やってんだけど、今日もヘマこいちまってよ」
きさ「気にしない方がいいわよ。源七さんが怒鳴るのは毎度の事なんだから」
市蔵「はは、年下の娘っ子に励まされるとはね。ありがとよ、元気が出たぜ」

それじゃあ、と言って去ったきさの後姿を見ながら、ひとり呟く市蔵。
「いいなぁ……あれ」
後日、きさにかんざしを渡す市蔵の姿を、十兵衛は見た。

461 :460=猫侍 :2006/11/28(火)02:49:11 ID:CBPUY2kV0
『不肖の弟子』
このところ、十兵衛は気の向いたときに三矢道場で太一たちに指南をしていた。
この日も、ふらりと道場に立ち寄った十兵衛だったが、門弟たちの様子が妙だ。
聞くと、最近怪しい老猫又が道場を覗きに現れるという。その猫又は、
十兵衛の住処を聞いたりなどするらしい。

すわ、御神楽党の刺客か、と緊張する十兵衛だったが、翌日、太一が
その猫又を捕えたと聞いて道場に入るなり、驚いて太一を一喝した。
その老猫又とは、十兵衛の師匠にして、御神楽府の帝より直々に
名字を下賜されたほどの剣豪三代目支倉勘之介だった。
勘之介は、ふと覗いたこの道場の門弟たちの太刀筋に十兵衛の
影響を見出し、その居所を探していたのだ。

弟子の非礼を詫びる十兵衛に笑って返し、勘之介は竹刀を取った。
「どうじゃ、久々に手合わせしてみぬか」
「は!」

互いの剣気が圧し合う中、先に相手を打ったのは十兵衛の剣だった。
「見事。太刀筋に一点の曇りも無い。江戸での暮らしがお前に
 良い影響を与えておるようじゃな。わしも安心したわえ」
「先生……」

これ以上郷里を留守にはできんわ、と言う勘之介を、十兵衛は見送る事にした。
永代橋まで来た時、勘之介がふと立ち止まって言った。
「ニ心斎が生きておるらしい」
それを聞いて十兵衛の顔から血の気が引いた。
ニ心斎とは、殺人剣の使い手で、十兵衛の最初の師でもあった。
「どうやら、彼奴は御神楽党に雇われたようじゃ。お前を追っておる。
 邪剣の使い手とは言え、お前に師匠斬りの汚名を着せたくは無かったで、
 探したのじゃが、見つからなんだ」
「いえ、ニ心斎との決着は、私自身でつけるべきだと思います」
「十兵衛、必ず生き残れよ。これ以上弟子の死に目を見とうないでな」
そう言って、勘之介はゆったりとした足取りで永代橋を渡って行った。


『師匠斬り』
またしても隣の夫婦喧嘩がやかましいので、十兵衛は法禅寺に来た。
すると、いつもの木の幹に、ニ心斎が好んで使った印が刻まれているのを見た。

程なくして、十兵衛の耳に、深川各地で斬殺事件多発の噂が届く。
陣五郎の膝下八幡宮で、壱の浄心寺で、三矢道場で。
(ヤツめ、未だに楽しみの為に人斬りを…)
ニ心斎を止めるべく探し回る十兵衛は、御用石置き場でついに古き師と対峙する。

「ニ心斎…死に場所を選べ。人を殺め続けたその生に俺が幕を引いてやる」
「師匠すら斬る、それでこそ我が弟子よ。貴様の剣、喰らってみとうなったわ」

二人は法禅寺へとやって来た。
「なぜ俺の前に姿を現す。もう用は無いはずだ」
「貴様がどれほど殺人剣を極めたか、この目で確かめとうなったのよ」
牙を剥き、刀を抜く十兵衛。しかし、その太刀筋は全てニ心斎に読まれていた。
「読める。やはり貴様にはわしの教えた殺人剣がしみこんでおるわ」
「……くっ!」
裂帛の一太刀。十兵衛の刀がニ心斎を捉えた。
「…見事。このわしを斬るとは…貴様こそ殺人剣を極める者……
 …免、許…皆伝……よ…」
そう言って、ニ心斎は果てた。

今やただの老いた猫又となったニ心斎の亡骸を見下ろし、十兵衛は呟く。
「いつか、俺も…」

462 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/11/28(火)02:50:06 ID:CBPUY2kV0
『富くじ探し』
一回り、町内を歩き回った十兵衛が長屋へ戻ると、またしても隣が騒がしい。
どうやら、源七が梅の作ったお守り袋を八幡宮あたりで無くしてしまったらしい。
しかも、その中には、十両の当たり富くじが入ってたという。
間抜けな事だと思いながらも、大金の当たりくじとは捨てても置けず、
十兵衛は八幡宮に足を向けた。

ちょうど縄元と行き会い、事の次第を告げた十兵衛は、どうやら"うの"と言う猫又の
娘が拾って行ったと言う事を知る。
その娘を訪ねて幸兵衛長屋へ向かった十兵衛は、暫くして疲労感に襲われた。
「らんらんら~ん、わたしはうのなのね~、てんきのいー日はのーてんき~」
妙な歌を歌ってくるくる踊る能天気娘と根気強く話し続けた十兵衛は、
この娘がお守り袋をどこかに埋めたと言う所まで聞くと、有無を言わさず
首根っこを掴んで通りに連れ出した。

うのの曖昧な記憶を頼りに町中を歩き回った十兵衛は、心形寺にたどり着いた。
指し示された木の根元を掘り返してみると、でんでん太鼓が出てきた。
「これこれ~、どこに埋めたか忘れちゃってずっと探してたのね~」
「…おいうの、俺はお守り袋を探していると言わなかったか?」
「…………あっ」
思わず天を仰ぐ十兵衛。一方、うのは太鼓を鳴らしながら踊っている。
と、その袖口から何やら落ちた。それは、探していたお守り袋だった。
「おい、なぜこれがお前の袖口から出てくる」
「……うの、それを埋めるの忘れちゃってたのね~」

数刻後、長屋で源七は妻の梅と母の竹かにこってりと絞られていた。
原因は、十兵衛がそっと投げ込んでおいたお守り袋だ。
源七の富くじは『鹿の拾四番』。当たりの番号は『虎の拾四番』。
結局、源七の勘違いだったと言う訳だ。
疲労と耳から離れないうのの歌声だけが残った一日を振り返り、
(やはり、猫又が人間の事に首を突っ込むべきではない)
と、痛感した十兵衛だった。

463 :猫侍人:2006/11/28(火)02:57:23 ID:CBPUY2kV0
>>438
you、もう買っちゃいなyo。
私も今は気が向いて立て続けに書いてるけど、
いつまた消えるかも知れないし。

あらすじでは削ってるけど、
善住和尚に猫掴みされる十兵衛とか、
近所の老人に煎餅で餌付けされる十兵衛とか、
イベントシーン以外にも見所たくさんあるよ。

496 :猫侍 :2006/12/02(土) 01:58:07 ID:hmbJSVhO0
『猫と市蔵』
町を散策していた十兵衛は、体の異変に気づいた。妙にけだるく、目眩がする。
ふらつく足取りで自宅に戻ると、倒れこむように横になった。

暫くして目を覚ました十兵衛は、焼け付くような喉の渇きを覚えた。
ちょうどいいところに、自宅に誰かが訪れてきたので、十兵衛は良く確かめもせず、
その者に水を頼んでしまう。
貪るように水を飲み干し、再び眠りについた十兵衛が目を覚ますと、心配そうに
覗き込む市蔵がいた。
先ほど十兵衛が水を頼んだのは、この市蔵だったのだ。
(不覚…)
「そんな顔するなって。別にお前を打ったりはしないよ。そんなことしたら、
 おきさちゃんが悲しむもんな。秘密は守るよ。その代わり、いきなりいなくなったり
 しないでくれよな。お前がいなくなると、おきさちゃんが心配する」
「さっきからきさ、きさと、お前きさの事が好きなのか? 変わった奴だ」
「それだけ言えればもう大丈夫だな。また遊びに来るよ」
そう言って市蔵は帰っていった。

(いくら熱に浮かされていたとは言え不覚だった。しかし、感謝だけはしておこう)
そう、一人考える十兵衛だった。


『日々努力』
炊事洗濯掃除に吾郎左の世話と、家事全般をよくするきさだが、裁縫だけは苦手だ。
この日も、きさは指にいくつも刺し傷を作りながら縫い物に挑戦していた。
「やはり、小さい頃に針で怪我をしたのが尾をひいとるのか」
吾郎左の呟きを聞いた十兵衛は、きさには日ごろ世話になっている事だし、と、
縫い物の指南をしてやることにした。

指を突いては泣き言を言うきさをなだめ、諭し、時には激を飛ばし、
浴衣作りを補助してやる十兵衛。その甲斐あって、一応の形にはなった。
ところが、いざ吾郎左に着せる段になると、袖が通らない。
吾郎左が無理に腕を出そうとすると、浴衣はビリビリと破れてしまった。
失敗した、としょげ返るきさ。しかし吾郎左は、
「あれだけ針を怖がっていたお前が、よくここまで出来たものだ」
と、感慨深げに笑った。

その様子を見ていた十兵衛は、二人の団欒を邪魔すまいと、静かに自宅を後にした。


『善住、屋根に登る』
ある日、十兵衛が心形寺に行くと、善住和尚がしきりに屋根を見上げている。
不思議に思った十兵衛が話しかけても、はぐらかす様にして立ち去ってしまう。
妙な事を…と思いながら自宅へと戻った彼は、何やらコソコソと長屋を
出て行く源七の姿を目にした。源七が心形寺の方へ行くのを見て、
はて、と思った十兵衛は後を尾けてみる事にした。

寺に着いた源七は、茂みからハシゴを取り出すと屋根に掛けて上ろうとした。
ところが、そこを和尚に見つかってしまう。和尚が源七の前にばら撒いたのは、
極彩色で描かれた春画だった。源七は春画を集めては寺の屋根に隠していたのだ。
和尚にこってりと絞られ、しょんぼりして帰っていく源七。
十兵衛は、やれやれとため息をついて夜の町へ散策に出かけた。

497 :猫侍 :2006/12/02(土) 02:01:58 ID:hmbJSVhO0
『売れない講釈師』
ある日十兵衛が塀の上を歩いていると、難しい顔をした総髪の人間を目にした。
総髪とは珍しい、と好奇心を抑えきれなくなった十兵衛は、その男を観察し始めた。
どうやら講釈師らしい伯楽というその男は、初老の男に借金の催促をされていた。
それは伯楽にとっては初耳であるらしく、彼は苦い顔で頷いただけだった。

借金取りの伊蔵が帰ったあと、伯楽の妻ようが入ってきた。
「およう、店賃の工面が出来んのか?」
「いえ、なんとか知り合いに工面して頂きますので……」
「……ともかく、あのような男からは二度と借りるな」
芸人とは言え生活は苦しいらしい、そんな事を思いながら、十兵衛は塀から降りた。


『遺産騒動』
心形寺裏長屋の近所に、木下紅梅という翁が住んでいる。この老人、実に気のいい爺様で、
日和のいい日などには十兵衛と一緒に縁側で日向ぼっこをしていた。
ところが、ここ数日紅梅の様子がおかしい。体を悪くしたようで、昼間から寝ている。

気に掛かった十兵衛がこの日も様子を見に行くと、紅梅の息子と娘が見舞いに来ていた。
しかし、この二人と言うのがまた碌でもないもので、旦那は遊女屋通いで散財、
女房は無駄な買い物をしては金をばら撒くといった調子で、紅梅も毛嫌いをしている。

父親の体のことよりも、遺産の事ばかりに気をとられている二人の様子を見て、
紅梅を気の毒に思った十兵衛は、源庵の下に相談に訪れた。
人間に効くかどうか、と言われながらも薬を受け取り、紅梅宅へ戻る十兵衛。

「お、なんじゃお前、薬を持ってきてくれたのかえ?」
「にゃあにゃあ」
「どれ、せっかくじゃ、頂くかの。肉親より猫に助けられるとはの。ありがとうよ、
 これでいつ死んでも悔いはないわい」
「! 縁起でもない事を言うな!」
「お、お前、今喋って……」
「にゃ…にゃあにゃあ」
「ははは、気のせいか。猫が喋るわけが無い」

数日後、どうやら良くなった様子の紅梅。
この間のことは、夢だと思っているようだった。
紅梅のくれた煎餅を齧りながら、十兵衛は内心胸を撫で下ろしていた。

498 :猫侍 :2006/12/02(土) 02:04:59 ID:hmbJSVhO0
『偽者騒動』
きさの用意した汁掛け飯を食べ終わり、何やらこのごろ内猫風情が板について来て
しまったな、などと思いつつ十兵衛が藁束の上で毛づくろいしていると、
仁右衛門が血相を変えて飛び込んできた。
なんでも、十兵衛が仁右衛門の大事にしていた蘭学書を破り捨ててしまったという。
全く身に覚えの無い言いがかりに十兵衛が目を白黒させていると、仁右衛門は、
絶交じゃ、などといいながら飛び出していってしまった。

慌てて後を追おうとした十兵衛だったが、自宅を出たところで壱之新に襟首をつかまれた。
壱は、十兵衛にいきなり殴られたと言って憤慨していた。
これまた身に覚えの無い事。十兵衛は率直にそう告げるも、壱の怒りは収まらず、
結局捨て台詞を吐いて帰ってしまった。

一体何事だと十兵衛が首を捻りながら町を歩いていると、珍妙な場面に出くわした。
なんと、十兵衛と瓜二つの侍が、十兵衛の名を騙って町人から金を巻き上げていたのだ。
全てこやつの仕業か、と十兵衛が駆けつけるも、偽者の逃げ足だけは本物以上のようで、
姿を見失ってしまった。
このまま捨て置けば名誉に関わると、町中を探し回る十兵衛。八幡宮でようやく
偽者を見つけ、隠れ家まで尾行することに。

頃合を見計らって詰め寄った十兵衛は、周りをならず者に囲まれているのに気づいた。
してやったり、とばかり、偽者はその正体を現した。
「誰あろう、貴様の最大の宿敵、天真様でござるよ!」
あっという間に斬り伏せられる天真の手下たち。

「貴様も聞くか…蕭風の音を」
さっきの威勢はどこへやら、三十六計逃げるにしかず、とばかり走り出した天真だったが、
突然現れた壱之新に襟首をつかまれてしまった。
「十の字の様子がおかしいと後をつけてみりゃあ……覚悟はできてんだろうな、あん?」

「すまん、まさかあの野郎が十の字に化けてやがるとはよ」
「古い付き合いなのに十兵衛を信じてやれなんだとは。今日はおごりじゃ、呑め呑め」
ひげ屋の席に座る十兵衛の杯には、壱と仁右衛門の銚子が途切れることなく運ばれていた。

499 :猫侍 :2006/12/02(土) 02:06:20 ID:hmbJSVhO0
『禅兵衛鬼左衛門』
十兵衛が珍しく自宅で時間を潰していると、墨壷が訪れて来た。
なんでも、刀鍛冶の知り合いに引き合わせたいと言うので、
十兵衛は一も二も無く同道した。

その刀鍛冶が、七代目禅兵衛鬼左衛門と言う名だと知り、十兵衛は驚いた。
十兵衛の腰の刀「蕭風」。これは、五代目禅兵衛の作だった。
蕭風刀を一目見た鬼左衛門は、感慨深げに嘆息した。

鬼左衛門「今の俺にはここまでの物は打てねぇ。修行が足りん」
墨壷「まだ若いということかな」
鬼左衛門「墨壷さんから見たら誰だって若造だぜ」

などと笑いあう二人を見ながら、妙な縁に驚きつつも十兵衛は、
"弟斬"の名を聞いても動揺一つ見せぬ両職人に感服していた。


『夜釣りをしよう』
十兵衛が淡島屋へ遊びに行くと、仁右衛門がしきりに釣竿を磨いている。
この仁右衛門という男、なかなかの凝り性で、道具の手入れにも余念が無い。
聞くと、この竿は十兵衛に渡そうと思って磨いていたらしい。
心づくしを有難く頂いた十兵衛。早速夜釣りをしに行く事に。

先日の釣り場に着くと、仁右衛門と釣り対決をする事に。
僅差で仁右衛門に敗れてしまう十兵衛。仁右衛門が得意になって
やたらとはしゃぎ回るのを見て、今度は一人でこようと思った十兵衛だった。


『見世物小屋の猿一』
永代橋のたもとに見世物小屋が出来た。夕暮れ、きさがそんな事を十兵衛に語った。
珍獣怪魚などには興味は無いが、芸をする猫がいると言うのが気になり、
十兵衛は様子を見に行ってみる事にした。

小屋の中の人の波を辟易しながら縫っていくと、確かに猿の真似をする猫がいた。
もちろん、そのオス猫は猫又であったが、酷くやせていて見るからに憐れだ。
そばに行って話しては見たものの、その猿一という猫又は全てを諦めたかのような
口ぶりで、外に出たくないのかと十兵衛が問うても、俯いて背を向けるだけだった。

一度はその場を去った十兵衛だったが、心にささくれができたようでどうにも
気持ちが悪い。結局、夜になって見世物小屋に忍び込み、猿一を逃がしてやった。

何度も頭を下げる猿一に背を向けて自宅に戻った十兵衛。
やれやれと寝床に入ると、きさが話しかけてきた。
「ねぇ十兵衛、見世物小屋の猫なんだけど……」
「あぁ、何でも逃げ出したらしい。俺が行ったときにはいなかった」
「そう。…………十兵衛、ごくろうさま」
笑顔で十兵衛の頭を撫で、きさは部屋に戻っていった。
(きさのヤツ、初めからそのつもりで……)
やられたな、と苦笑いして目を閉じた十兵衛だった。

500 :猫侍 :2006/12/02(土) 02:07:54 ID:hmbJSVhO0
『いかさま・導入編』
『いかさま・壱之新編』(一続きのイベントの為、併記)
ある日十兵衛が自宅で寝ていると、壱之新が酒を携えて訪れた。
ひとしきり酒を酌み交わして帰ってゆく壱。

いい酒が入ったから今度のみに来てくれ、と誘われたのを受けて、翌日、
十兵衛が浄心寺へ行くと、何やら壱の機嫌が悪い。
話を聞くと、州崎弁天あたりで流れ者がいかさま賭博をやっているという。
賭場潰しに協力してくれと頼まれ、十兵衛が引き受けると、壱はニヤニヤ笑いを浮かべた。
「…何がおかしい」
「へへへ、十の字が来てくれるんなら、面白くならないわけがねぇ!」
「……」

善は急げと、賭場にやって来た二人。小屋の中は堅気の客たちで賑わっている。
賭場の主である喜多八に挨拶を済ませてとりあえず席に着いた十兵衛たち。
暫くは何事も無く掛けに興じていたが、突然、十兵衛が壷振りの腕を掴んだ。
間髪をいれずに壱がサイコロを握りつぶすと、中から鉄の塊が転がり出てきた。
いかさまをやられていたと知った客たちは憤慨し、暴れ始める。
喜多八たちも、客の剣幕にほうほうの体で逃げ出してしまった。

さぁいよいよお楽しみ、とばかり腕まくりした壱を、十兵衛は外に引きずり出した。
「十の字、これからって時に何しやがんでぇ!」
「騒いでいた町人たち、あれは陣五郎配下の者たちだ」
「……縄元の計算通りってわけかい」
「ひとつ貸し、と言うことにしておこう」
「そういう事にしとくか。どれ、白けちまったし、飲みなおしと行くかい」
二人は、肩を並べてひげ屋へ向かった。

//『引き受け候』の別展開


『壱の賭場』
州崎弁天の一件から数日後、壱之新に呼ばれて十兵衛は浄心寺へやって来た。
なんでも、壱が賭場を開いたと言う。
喜多八の件を教訓に、金銭のやり取りを廃して芝居小屋の優待券を
賞品にしたものだった。
とりあえず、と一勝負打ってみる十兵衛。しかし、賽の目が悪く負けこんでしまう。
勝負事は引き際が肝心。十兵衛は壱に手を振って浄心寺を後にした。

501 :猫侍 :2006/12/02(土) 02:09:47 ID:hmbJSVhO0
『追憶』
夜。十兵衛の鼻が異常を感じ取った。血の匂いがしたのだ。
その強さに多量の出血と見た十兵衛が急いでそちらに向かうと、若い侍が、
火車衆という御神楽党の暗殺集団の者に襲われていた。
十兵衛の登場により火車衆は去ったものの、若侍は致命傷を負っていた。
その顔を見て、十兵衛はうろたえた。弟の又次郎と瓜二つだったのだ。
とにもかくにも、と十兵衛は男を源庵の診療所に運んだ。

「又次郎、お前は弥四郎にそそのかされているだけだ!」
「俺は兄者を越えねばならん…」
「よせ又次郎!」
斬りかかる又次郎。その一撃を受け流した蕭風刀は、そのまま又次郎の胴を薙ぎ…。
そこで十兵衛は目を覚ました。

診察室を覗くと、昨夜の男も目を覚ましていた。
練蔵と言うその男は、弥四郎の方針に異を唱えて御神楽党を脱党したが、
裏切り者を許さぬ弥四郎によって命を狙われていたのだという。
どうせこちらも追われる身、と十兵衛は、練蔵の傷が癒え、江戸を
出られるようになるまで自宅で預かる事にした。

火車の動静を探りに、市中を見回る十兵衛。しかし、どうしたことか、その足取りは
ようとして知れず、待てど暮らせど襲ってくる様子も無い。
そうこうしているうちに、練蔵の傷もすっかり良くなり、出歩けるまでになった。
そんなある日、十兵衛が自宅に戻ると、練蔵が荷造りをしている。
明日には江戸を発つという。十兵衛は、一抹の寂しさを覚えた。
「練蔵…もし、お前さえ良ければ、ここに……いや、なんでもない」

その夜、藁束の上で眠る十兵衛は、殺気に目を覚ました。
刀を取って飛び起きた彼は、刀を抜き払った練蔵の姿を見た。
「…ごめんなさい、弥四郎様には逆らえないんです」
泣くように言って斬りかかる練蔵。
「やめろ……やめろ、又次郎っ!」
蕭風刀がくぐもった音を伴って鳴いた。

「…なぜ刀を引いた……」
「俺は何をやっても半端者なんです……御神楽党に入っても…。こんな、闇討ちのような
 事しか……。そんな俺に、あなたも、源庵先生も、良くしてくれた……。もし…黄泉路で
 又次郎さんに会えたら、あなたを欺いた事を、謝って……」
そう言って、練蔵は事切れた。

(俺は……俺は、また…弟を切ってしまったのか? ……又次郎)

502 :猫侍 :2006/12/02(土) 02:11:06 ID:hmbJSVhO0
『炎上』
十兵衛が壱の所へ遊びに行くと、何やら小物の出入りが多い。
壱が言うには、見慣れない流れ者がうろついているのだと言う。
御神楽党絡みでは、と言う壱の言葉に緊張感を漂わせ、十兵衛は市内を見回る事に。

ひげ屋前。行商人風の男が、十兵衛の顔を見るや近寄ってきた。
男は、火車衆の一人、『もらい火』の千七と名乗り、取引を持ちかけた。
十兵衛を見逃す代わりに江戸から出て行ってもらう。
「悪い話ではないと思いますがね。返事は後ほど、御用石置き場で……」
そう言うと、千七は音も無く去っていった。

さてどうしたものか、と思案に暮れながら十兵衛が自宅へ戻ると、
壱之新の子分の半次が血相を変えて飛び込んできた。
「十兵衛さん! ひげ屋が…ひげ屋が、燃えてます!」
(そういう手段に出たか……!)

二人がひげ屋へ駆けつけると、壱がせんとたかを助け出したところだった。
とりあえず無事な様子を確認した十兵衛は、御用石置き場へと急いだ。
「千七、何の真似だ!」
「たかが居酒屋が燃えた程度で……随分と甘いお方だ」
牙を剥いて刀を抜き払う十兵衛。しかし、彼を無数の火の玉が囲んだ。
「見たか、我が火術! 近寄れなければ剣術など役に立つまい!」
不適に笑う千七。しかし、その笑いは一瞬にして凍りついた。
十兵衛の一振りした蕭風刀が、事も無げに火の玉を吹き飛ばしたのだ。
うろたえる千七の腹を、一足飛びに距離を詰めた十兵衛の刀が貫いた。
「甘いのはお前の方だったな」

十兵衛が戻ってみると、ひげ屋は跡形も無く焼け落ちていた。
未だチラチラと火の手を残す残骸を前に立ち尽くす十兵衛に、墨壷が話しかける。
「何しょげてるんですかい。この程度、七日もあれば元通りですよ」
「すまぬ……俺が…」
「付け火の下手人は十兵衛さんが始末した。この一件はそれで仕舞いですよ。
 建物の方はあっしに任せておくんなせぇ」
「頼む……」
墨壷に頭を下げてその場を後にする十兵衛。土手の上から改めて焼け跡を見返し、
(御神楽党は手段を選ばぬつもりか……)
苦い思いを抱いた十兵衛だった。

503 :猫侍 :2006/12/02(土) 02:12:45 ID:hmbJSVhO0
『平和な出来事』
ようやくひげ屋が元通りになったと聞き、十兵衛は早速足を向けた。
店内に入ると、おたかの姿が見えない。まさか…、と思ってせんに尋ねると、
たかは嫁入りするのだと言う。しかも、相手はあの壱之新だ。

そろそろ私も…等と言いつつしなだれかかって来るせんから慌てて逃げ出し、
十兵衛は壱を冷やかしに浄心寺へやって来た。
思った通り、壱はすっかり舞い上がっていた。明日の祝言の準備に慌しく
動き回る小者たちを叱り飛ばす顔も、でれでれとしまりが無い。
やたらとのろける壱から祝言への招待を受け、十兵衛はその場を後にした。

翌日、十兵衛が寺を訪れると、小者が袖を引っ張るようにして宴席へと招いた。
見ると、上座に座る壱之新はコチコチにこわばった顔をしていた。
「やっと来たか十の字、こっちに座れ」
「さっきからあの調子ですよ。十の字はまだか、十の字はまだかって」
小者の言葉に苦笑いしつつ、十兵衛は席に座り、一通り祝いの言葉を述べた。
十兵衛が来て緊張がほぐれたのか、壱は立て板に水がごとくベラベラとよく喋る。
冷やかしに壱が顔を真っ赤にする所をなどを見て、十兵衛は腹の底から笑った。

(俺がこんな目出度い席に出られるとは……。こいつらの為にも、
 御神楽党とは早くケリをつけなければ……)
宴席が落ち着いた頃、席を辞した十兵衛はそう、決意を新たにした。

504 :猫侍 :2006/12/02(土) 02:13:50 ID:hmbJSVhO0
『真実』
ある日、法禅寺へ昼寝に行った十兵衛は、酒瓶を携えた老猫又と出会う。
「お前さんは不思議な目をしている。人を斬ると、きたいに目が変わる。
 お前さん、身内を斬りなすったね」
「……!」
「死に場所を探すのも悪くは無いが、お前さんはまだ若い。短気はいかんぞ」
そう言うと、その猫又は去っていった。

老猫又の正体をあれこれと思案しながら自宅に戻ると、墨壷が待っていた。
なんでも、『寝待』の陣右衛門という盗賊の隠し金を狙って、火車衆が
江戸入りしていると言う。
「旦那、奴らの仕事を見物しませんか」
物好きだな、などと言いながらも、火車の動向が気になった十兵衛は、
明後日に待ち合わせをする約束をした。

墨壷が帰ると、入れ替わりに見覚えのある猫又が入ってきた。
昔まだ十兵衛が又次郎と御神楽府にいた頃、道場で二人を執拗に
狙っていた男で、名を鉄五郎と言った。
「何の用だ。用が無ければ去れ。さもなくば、斬る!」
「仕事が終わったら遊んでやる。いつまでも貴様の後ろにいる俺と思うな。
 貴様も『漁り火』の名くらい聞いたことがあるだろう」
そう言って、『漁り火』の鉄五郎は去っていった。
(奴が火車だったのか……)

明後日の夜。正覚寺に十兵衛と墨壷が潜んでいると、火車衆が、法禅寺で
出会ったあの老猫又を引きずって現れた。
「さあ、金のありかを吐きな」
そう言って鉄五郎が老猫又の腕を切り落とすのを見て、十兵衛は墨壷の
制止も聞かずに飛び出していった。

対峙する二人。
「俺は又次郎のようにはいかんぜ。……冥途の土産に教えてやる。又次郎と
 貴様の斬り合いをお膳立てしたのは、この俺よ」
「何っ! ……貴様が、又次郎を……!」
両者の刀が閃き、血飛沫が舞った。
「……あの世で又次郎に詫びろ」
そう言って、十兵衛は刀の血を払った。

「隠し金は、本当に隠されてしまいましたね」
墨壷の腕の中で、老猫又はすでに事切れていた。
老猫又を静かな所に埋めてやり、二人はその場を後にした。

505 :猫侍 :2006/12/02(土) 02:16:28 ID:hmbJSVhO0
『復讐』
鉄五郎の事件から数日後、またしても墨壷から火車衆の情報が入った。
今度は、十兵衛の命を狙っているらしい。既に、心形寺裏長屋にも
手が回っていると言う。火車の本領は暗殺にある。危険な自宅を避け、
十兵衛は法禅寺で休息をとっていた。

その十兵衛に、仁右衛門から情報がもたらされた。
火車が、毎晩木場に集まって連絡を取り合っていると言う。
罠だ。十兵衛はそう直感した。しかし、とも思った。
「相手の出方を待っていては結果は見えている。あえて罠に嵌ってやろう」
「十兵衛……死ぬなよ」

材木置き場の井戸の近く。やはり火車衆の男が待っていた。現れた火車衆は数人。
「これだけか……」
「火車を名乗れる者は最早これだけ。みな貴様に斬られてしまった」
「貴様らも後を追うがいい」
「貴様を道連れにな!」
十兵衛が、飛び掛ってきた火車の一人を斬ると、突如その者が爆発した。
吹き飛ばされた十兵衛は、火車たちに羽交い絞めにされてしまう。
「火車爆殺陣! 斬らねばば爆死、斬っても無事ではおられまい!」
飛び掛る火車たち。十兵衛は一瞬の隙をつき、井戸に逃げ込んだ。

血と火薬の匂いが入り混じる中を、十兵衛は去っていった。
(これで御神楽党が諦めてくれればいいが……)






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