タイムツイスト 歴史のかたすみで…

part32-254~271


254 :タイムツイスト 歴史のかたすみで・・・:2007/08/21(火) 01:11:25 ID:qYgON5Qg0
I.未来はすべて白紙だっていうことさ~1995年9月25日、現在

全てはその日から始まった。

朝、オレはテレビを見ていた。
”孤独の天才と呼ばれる、物理学者のシモン博士は、昨夜、タイムトラベルに関する、
きわめて興味深い、次のようなコメントを発表しました――”
タイムトラベルか。物語の中に出てくるばっかりで、実現した試しがないんだよなぁ。
そんなことより、アレだ。オレがリモコンを操作すると、チャンネルは占いサービスに変わる。
あ、そうそう、このテレビは双方向通信ってヤツだから、こっちから何か入力することも出来るんだ。
というわけで、オレの血液型と誕生日をリモコンで入力すると・・・。
”今日の運勢です。今日の日は、あなたにとって、忘れられない一日になりそうです。
冷静な判断力と強い意志が、あなたを導きます。郊外の博物館で、出会いのチャンスあり。
素敵な女性が、あなたの腕の中へ飛び込んでくるでしょう。ここで決める、とどめのセリフ!
その言葉は・・・”
そこで、テレビの映像が乱れた。
’マラドゥル バラオ ガラドゥーラ、繰り返し、繰り返し、唱えよ!’
変わってるな、おまじないか何かか?とにかく、善は急げだ!
オレはお気に入りのボーダーシャツに着替える。
”大変失礼いたしました、その言葉とは、『君が微笑むと太陽が――』”
付けっ放しの占いサービスがまだ何か言っている。どこかで見たことがある。確か、古い映画の名言だったな。
っと、遅れてしまう。オレは外へ飛び出した。

もうすぐ21世紀。でも、人々はそれほど新しい時代を歓迎しているわけじゃない。
相変わらず、世界のあちこちでは争いが絶えないし、環境破壊や食糧不足は
ますます深刻になっている。地球の未来は、誰が見たって不安だらけだ。
そんなわけで、迷える現代人は占いに救いを求め始めた。
暗い世相を乗り切るには、水先案内人が必要というわけだ。これが、不思議と当たるから、面白い。

着いたぞ、悪魔博物館。一度、来たいと思ってたんだ。
入ろうとしたが、オレはドアに看板が掛かっていることに気付いた。
”本日休館日 御用の方は、教会までお越しください”
近所の教会へ足を運び、中に入った。神父さんが説教中だった。
「そのとき、悪魔の前に立ちはだかった勇敢な若者が、我が身をなげうって、
神の子の命を救ったのです。若者は、優しく微笑み、こう言いました。
『全てが終わった。これで何もかも、元のままだ』と・・・」
説教が終わったようなので、神父さんに、博物館のことを尋ねると、
隣の家に神父さんの父親が住んでいるので、そちらで鍵を受け取れとのことだ。

隣の家の表札を見ると、「久我(くが)」となっていた。インターホンを押すと、罵声が飛んで来た。
「帰れ!この家に住んで、もう40年になるんだ、今さら出て行けるか!」
どうやら、地上げ屋と勘違いされたらしい。
「僕は地上げ屋じゃないですよ。あのー、博物館の鍵を・・・」
そう言うと、態度が変わった。
「実は、博物館に飾ってない特別なものがあるんです。どうぞ、中へお入りください」
久我さんの家にお邪魔する。久我さんは、サングラスをかけている老人だ。どうやら、目が不自由らしい。
オレは居間に通された。
「この絵は、私が描いた、悪魔の肖像画です。世界中を旅して、伝え聞いた悪魔の特徴を、
忠実に再現しました。完成間近で目を患ったので、展示は出来ませんでしたが・・・」
な、なんだこりゃ、オレじゃないか。そこに掲げられている絵には、オレが描かれていた。
オレが今着ている、ボーダーシャツを、絵の中のオレも着ていた。
だが、一つだけ違うところがある。絵の中のオレはヘンなベルトを腰に巻いている。
巨大なアナログの腕時計のようなベルトだ。はっきり言って、ダサいな。
しかし、なんでオレが?そんな疑問をよそに、久我さんは話を進める。
悪魔の絵とオレは似ているけど、目の不自由な久我さんは、それに気が付いていないのだ。
「戦争中の不思議な体験が、私の人生を変えました。私は、悪魔に関するあらゆる文献を買いあさり、
そしてここに、博物館を建てたのです」
久我さんの話は長くなりそうだ。
「あのー、博物館の鍵を・・・」
オレは、久我さんから博物館の鍵を借りた。

255 :タイムツイスト 歴史のかたすみで・・・:2007/08/21(火) 01:12:13 ID:qYgON5Qg0

博物館の扉を開け、中に入る。展示品を見ていくことにする。
”ジプシーの守り札
17世紀後半、放浪の民が、旅の災難から身を守った、星型のメダル”
メダルには、首からかけるためなのか、鎖がついている。
”戒めの鈴
古代エジプトのファラオが、魔除けに使ったという言い伝えの鈴。
澄んだ音色が、悪魔の鼓膜を引き裂いた”
鈴というけど、釣鐘形のハンドベルみたいな感じだ。
”悪魔の手
19世紀のアメリカで、悪魔を崇拝する秘密結社のシンボルとなった、ブロンズの像”
何かを掴もうとしているような、手の形の置物だ。
”サバトの箱
中世ヨーロッパで、魔女狩りに使われた箱。
悪魔と交わした魂の契約書を納めたと言われている”
古びた、木の箱だ。蓋が開いているが、今は何も入っていない。
”魔封じの壺
数千年の昔、神の子が、壮絶な戦いの末、
悪を閉じ込め、封印したとされる、伝説の壺"
普通の、涙形の小さい壺のように見える。

一通り見終わったとき、何か物音がしたので振り返ると、
ポニーテールのかわいい女の子が立っている!
ここまで当たる占いって怖いな。オレは早速、彼女にアタックすることにした。
「福耳ですね」
初対面でいきなりこんな事言うのもなんだが。
「おかしな人!」
笑った・・・!成功だ。
「いやぁ、あはは」
まず、名前から聞いてみるか。
「えーと、キミの名前は?」
彼女が名前を言おうとしたとき、地震が起こった。
彼女はオレの方へ倒れこんできたので受け止める。彼女はオレの腕を掴んで離さない。
えーっと、ここでとどめのセリフだな。
「’マラドゥル バラオ ガラドゥーラ’、’マラドゥル バラオ ガラドゥーラ’・・・」
オレはおまじないの言葉を繰り返し唱えた。すると、地震が収まった。
’ぐううううう・・・’
展示室の奥の方から、動物の鳴き声のような音が聞こえてきた。
彼女をその場で待たせて、オレは展示室の奥のほうへ行った。
見回してみると、魔封じの壺が入ったガラスケースが割れていて、壺が外に出ている。
そして壺の中から、何か出てきたかと思うと、それはみるみる大きくなった。
青い皮膚に尖った角、コウモリのような翼、長い爪。オレはそいつに聞いてみることにした。
「もしかして、お前は悪魔か?」
’そうだ、悪魔だよ。辛抱強く、テレパシーを送りつづけた甲斐があったな’
まさか、そんな・・・。つまり、あのおまじないは、悪魔を呼び出す呪文だったってことか。
’お前の体をもらうぞ!’
全身を打ったような衝撃が走ったかと思うと、オレの目の前には、ボーダーシャツを着た男が立っていた。
そして、オレには、角やら翼やらが生えている!入れ替わってしまった。
オレの体を奪った悪魔は、彼女を蹴散らすと、博物館を出て行った。
オレは、気絶している彼女に駆け寄った。彼女は目を覚ましたが、
悪魔の姿を見て、彼女は再び気絶した。とりあえずそのままにしておく。


256 :タイムツイスト 歴史のかたすみで・・・:2007/08/21(火) 01:12:54 ID:qYgON5Qg0
博物館を出て、オレの体を、悪魔を探し歩く。
教会に行ってみたら、説教を聞いていた人は逃げるし、神父さんに攻撃された。
やっぱり、この姿じゃどこ行ってもダメか・・・ん?もしかして、久我さんのところなら・・・。
久我さんの家にお邪魔する。
「あのー」
「ああ、その声はさっきの人ですね」
とりあえず、良かった。事情を説明する。
「ここに、誰か、来ませんでした?」
「ああ、たった今、着ましたよ。しかし、騒がしい男でしたな。シモン博士のことを、
いろいろ聞かれてましてな。
そうそう、私とシモン博士は古い知り合いで、シモン博士は今、近くの別荘に来ているんですよ」

久我さんから教えられた別荘に行くが、その別荘は燃えていた。
そして、今朝テレビで見た、シモン博士がいた。博士は、オレの姿を見て、驚く。
「ば、化け物!」
「違うんです、聞いてください。僕はさっき、悪魔に体を無理矢理交換させられたんです。
信じてください!」
オレが必死で訴えると、シモン博士は、なんとか解ってくれたらしい。
「たった今、若い男が飛び込んできて、私の発明したタイムベルトを奪っていった・・・」
「タイムベルトって?」
「ベルト型のタイムマシンだ。やっと完成したというのに・・・。
早く、ヤツを追いかけろ。でないと、どこかへタイムワープしてしまうぞ!」

オレは、悪魔が付けたと思われる足跡を辿って、森の奥へ来た。
そこに、悪魔がいた。久我さんの家で見たのと同じ姿、ボーダーシャツにダサいベルトの、悪魔が。
「オレの体を返せ!」
’そうはいかん。わしは、これから長い旅に出るのでな’
「どこへ行くつもりだ」
’ちょっとしたビジネスだ’
「なんだよ、それ・・・」
’世界中の悪魔信者たちが、わしを呼んでいる。救世主の登場を待ち望んでいるのだ。
わしは、その期待に答えねばならん。時を駆け巡ってな。では、さらばだ’
悪魔は、腰に巻いたベルトのバックルを開け、操作すると、何かに吸い込まれるように消えた。
そしてオレも、何かに吸い込まれていく・・・。



257 :タイムツイスト 歴史のかたすみで・・・:2007/08/21(火) 01:14:51 ID:qYgON5Qg0
II.真実と油は必ず浮かんでくる ~1428年10月 フランス

*金糸で十字架を縫い取った服を着た男が、ドアの鍵を開け、秘密の部屋に入りました。
*その部屋の床には、大きく魔法陣が描かれています。
*そのとき、タイムワープした悪魔が、魔法陣の中央に現れました。
*ボーダーシャツを着て、タイムベルトを腰に巻いた、若い男の姿の悪魔が。

「お願いだ、俺たち貧乏人に、力を貸してくれ、神様ってばよー!」
遠くから誰かの声が聞こえる。オレはその方向に引っ張られていくのを感じる。突然、目の前がパッと明るくなる。
そこは小さな部屋だ。床にガラスの破片が散らばり、簡素な家具が置いてある。
壁には小さい十字架と、ロウソクが掲げられ、若い男が熱心に祈りを捧げていた。
「何で悪魔が・・・」
若い男は、悪魔の姿のオレを見ると、驚いて、気を失って倒れてしまった。
ふと、焦げ臭さを感じて辺りを見回すと、悪魔の体に火が点いている!
あのロウソクの火が燃え移ったのだろう。消し止める間もなく、火は全身に燃え移っていき、
最後に、悪魔の体は無くなってしまった。
だが、オレは死んでなかった。なんか、フワフワして現実感がないけど、まだ生きてる。
オレは倒れている男を見た。すると、オレの意識は男の方へ吸い込まれていき、
男の体とオレの意識は完全に同化した。これは、憑依ってやつだな。
オレの中に、この男の名前や、この男が持っている知識が流れ込んでくる。
┌─データ─────────────────────────
│場所・・・フランスの城下町
│名前・・・ピエール
│職業・・・ガラス職人
└─────────────────────────────
とりあえず、この男の体をしばらく貸してもらうことにしよう。

オレ(ピエール)は外へ出た。ピエールのいた部屋と同じような部屋が、
長屋のように繋がった建物が、通りの両側にある。ピエールのような、職人たちの部屋だ。
四つ角のところに立っている看板を読む。
”肢体のどこかに、傷を持つ女を知っていたら、直ちに教会へ報告すること。
事実を隠したものは、厳罰に処す。 フランス王国教会”
中世ヨーロッパ・・・魔女狩りか。
オレ(ピエール)は、親しい友人の、錠前屋のチノを訪ねるが、チノはため息ばかりついていて元気が無い。
隣に住んでいる仕立て屋が言うには、チノはジャンヌという娘に一目惚れしたとのこと。

裁判所がある広場には、人だかりが出来ていた。ルゴーという老人が、裁判所の前の役人に、何か懇願している。
「お願いですじゃ。孫娘のジャンヌは、16歳になったばかりじゃ。
あの子が魔女のはずは無い!たすけてくれ」
だが役人は取り合わない。
なるほど、チノが元気が無いのはそういうわけか。オレ(ピエール)は、チノのためにも一肌脱ぐことにした。

オレ(ピエール)が何とかワインを調達してくると、老人や野次馬はいなくなっていた。
ワインを役人に勧めると、役人は口を滑らせた。
「ここだけの話だがな、司教は、気に入った娘を、地下室で拷問しているらしいんだ」
まさか、ジャンヌが拷問されているとか?オレ(ピエール)はピエールの部屋に戻った。早くなんとかしないと・・・。
このピエールの体では、行けるところは限られているが、意識だけの存在に戻れば、
誰にも見咎められずに、裁判所の中に入っていけるのではないだろうか?
でも、どうやって戻る?ピエールにもう一度気を失ってもらえばいいのかなぁ。
まだ持っていたワインのボトルに目が行く。オレ(ピエール)はワインを一気にあおった。

ピエールは酔いつぶれて倒れる。オレの意識はピエールから離れた。上手くいったぞ。
オレは裁判所の中に入った。そこには、牢屋があり、
魔女の疑いがかけられている女性たちが閉じ込められていたが、ジャンヌらしき人物はいない。
オレは地下室へ潜入した。そこには、金糸で十字架を縫い取った服を着た男がいた。
身なりからして、あの男が司教か。そして、ジャンヌらしき娘が、逆さに吊るされていた。
ジャンヌの下には、水槽がある。はぁ。そういう拷問なのね。
「わしの崇拝する悪魔が、こう仰ったのだ、’ジャンヌ・ダルクを殺せ。やつを生かしておくと、あとあと面倒なことになる’とな」
悪魔の仕業だったのか。ああ、でも、この意識だけの存在では、何も出来ない。
ジャンヌを助けることも。オレはすごすごと退散した。

258 :タイムツイスト 歴史のかたすみで・・・:2007/08/21(火) 01:15:46 ID:qYgON5Qg0

それからしばらくして・・・。
”酒屋ルゴーの孫娘、ジャンヌ・ダルクを、魔女と認め、教会の名により死刑に処す”
役人がおふれを読み上げる。
今はピエールも気を失ってないので、憑依できない。時間が無いのに・・・。
オレは、チノの様子を見に行く。ピエールとチノ、それにルゴーは、居酒屋で自棄酒を飲んでいた。
「ば、ばか言ってんじゃねぇ。そんな事できるわけないだろう!」
チノが叫んだ。ピエールはそうとう出来上がっていて、チノに絡む。
「情けない野郎らなー。てめー、それでも男か?」
「ああ、可愛そうなジャンヌ・・・」
ルゴーは勝手に悲嘆に暮れていた。
「ちきしょー。俺たちゃ、娘っ子ひとり助けられねーのかよ!」
ピエールはチノを殴った。チノは気絶する。チャンスだ!
オレはチノに憑依した。
┌─データ─────────────────────────
│名前・・・チノ
│職業・・・錠前屋
└─────────────────────────────
オレ(チノ)は居酒屋を出て、仕立て屋に入る。
仕立て屋はチノの顔を見ると慌てた。仕立て屋はチノに借金があるらしい。
借金のカタに、修道服を貰った。
オレ(チノ)は次に、チノの家に行く。道具箱の中に、鍵開けの道具が入っているので、それを持ち出す。

修道服を着て、すっぽりとフードを被り、顔を隠して、オレ(チノ)は裁判所に入る。
地下室で、まだ逆さ吊りになっているジャンヌを助け起こした。
ジャンヌに、逃げるように指示する。
オレ(チノ)は、さらに奥に繋がる、秘密の通路を発見した。
通路の奥に、鍵がかかった扉があるが、鍵開けの道具で開けて、中に入る。
その部屋の床には、魔法陣が描かれ、その中心には、箱が置いてある。
博物館の展示室にあった、サバトの箱だ。確か、中に契約書が・・・入ってたぞ。
”闇の支配者、悪魔よ、我は汝に額づく者。汝は我が正義の神。
悪徳と、嘲笑と、あらゆる罪悪に全てを捧げることを、ここに固く誓わん。 司教”
これは、動かぬ証拠だ。契約書を懐に入れ、来た道を戻る。

牢屋の前では、高そうな身なりの男が、役人と話をしている。
「家内が魔女だなんて、何を根拠にそんなことを・・・。だいたい、司教はどうしたのだ!
魔女狩りなんぞに現を抜かして、教会の仕事も疎かになっているそうじゃないか」
「はい。近頃では、司教こそが悪魔の手先ではないかという噂も・・・」
「何か証拠があれば・・・」
この高そうな身なりの男は男爵様だ。オレ(チノ)は、契約書を男爵様に渡した。

男爵様とオレ(チノ)は裁判所を出る。広場では、ジャンヌが十字架にかけられ、
火あぶりの用意が整っていた。地下室から逃げる途中で、捕まってしまったらしい。
「待て待て!その娘は、魔女なんかない!悪魔の手先は、司教の方だ」
男爵様はそう言ったが、司教はまだしらばっくれている。
「た、たわけたことを」
「黙れ。お前が悪魔と交わしたこの契約書が、動かぬ証拠だ!」
男爵様が契約書を突きつけると、野次馬やルゴー、そして役人たちが司教に襲い掛かり、司教は拘束された。
ジャンヌは十字架から下ろされたが、気絶しているようだ。
「しっかりしろ、ジャンヌ」
オレ(チノ)がジャンヌに声をかけると、ジャンヌは気がついたようだ。
「今、わたし、磔になりながら、神のお告げを聞きました。
”純白の鎧を身に着け、祖国のために戦え。お前の走り抜けた後に、必ずや、新たな道が出来る”と」

ジャンヌ・ダルク。神の子と称えられ、フランスの救世主になった美しき娘か・・・。
ん、この感じは何だ?
オレの意識はチノから引き剥がされ、どんどん昇っていった。



259 :タイムツイスト 歴史のかたすみで・・・:2007/08/21(火) 01:17:33 ID:qYgON5Qg0
III.犬に吠えられているのが泥棒とは限らない ~1944年7月 ドイツ

目を開くと、見知らぬ所に立っていた。ここは、どこだ?
静かな夜だ。空に月が出ている。そして、目の前には鉄条網がある・・・。
オレは、どうやら軍服を着ているらしい。
たくさんあるポケットの一つに、ペンチが入っている。
これはやっぱり、こうするよな?オレは、目の前の鉄条網をペンチで切った。
すると、サイレンが鳴り響く。
「止まれ、止まらんと打つぞ!」
「脱走兵、1名発見!!また貴様か、クーガー。罰として、2週間の独房入りだ」

オレは独房に入れられた。
どうやらオレは、第2次世界大戦中のドイツにタイムワープしてしまったらしい。
┌─データ─────────────────────────
│場所・・・ドイツ南部 捕虜収容所
│名前・・・クーガー
│職業・・・アメリカ空軍 中尉
└─────────────────────────────
「聞こえるか、クーガー」
隣の房から声がするので、オレ(クーガー)は返事をした。
「いいか、独房から出たらすぐに脱走するんだ。段取りは、こっちがつけてやるから安心しろ。
お前が集めた情報があれば、ヒトラーに止めが刺せる。独房を出るまで、体を鍛えておけよ」
オレ(クーガー)は声の通りに、体を鍛えることにした。腕立て伏せでもしよう。

*一方、そのころ。
*鉤十字が掲げられた部屋に、ボーダーシャツを着た悪魔がいます。
*そして、その前には、背の低い男・・・ヒトラーがいます。
*「偉大なりし、暗黒の神よ、火と油と尖った杭の掟にかけて、
*わが生涯の全てを捧げることを、ここに誓わん」
*ヒトラーがそう言うと、悪魔は満足そうにうなずきました。
*’これで契約は完了だ。魂と引き換えに、わしの魔力を分けてやろう。
*そして、わしも、契約をするたびに、失われた魔力が蘇る・・・。
*全てを取り戻したそのときこそ、奴に復讐できる!’
*悪魔は高笑いをしました。奴とは、誰なのでしょう?

二週間が経ち、オレ(クーガー)は独房から、大部屋へ連れて行かれた。
大部屋には、他に三人のアメリカ兵がいた。
アメリカ兵たちは、早速オレ(クーガー)を逃がす手順を話し合った。
夜になったら、秘密の抜け穴から外に出る。その後、普通の服に着替えて、公園に向かう。
そこで「レベッカ」という逃亡組織の指示を仰ぐ。合言葉は、「くたばれ、ヒトラー」。
至る所でゲシュタポが目を光らせているから、気をつけること。

夜になった。着替えを持って、そろそろ行こうかというとき、フランキーというアメリカ兵がオレ(クーガー)を呼び止めた。
フランキーは、長い鎖がついた星型のメダルを首から外し、オレ(クーガー)の首にかけた。
「戦争へ行く前の晩、婆ちゃんから貰った、ジプシーの守り札だ。
これさえあれば問題ナシだぜ。グッドラック」
これは、博物館に展示されてたやつだな。
オレ(クーガー)は、ストーブを横に退かし、そこにある穴に飛び込んだ。
匍匐全身で進んでいく。二週間鍛えた甲斐あって、楽々だ。

外に出て、着替えて、公園に行く。確かに、ゲシュタポみたいな奴がうろうろしてるな。
あの綺麗なご婦人なんか、そうだろう。オレ(クーガー)は、彼女を慎重にやり過ごす。
やがて、ベンチに座っている、眼鏡をかけて真面目そうな若い男を見つけた。
彼こそ、レベッカの人だろう。オレ(クーガー)は合言葉を言った。
「良かった。取り残されたかと思いましたよ。私は、夕べ、収容所を脱走した、物理学者のシモンと言います」
もしかして、あの、タイムベルトを作った、シモン博士?そう言われてみれば、面影があるような。
「今、ドイツとアメリカが競って完成を急いでいる秘密兵器があるのです。
ナチスは、私を監禁し、秘密兵器の開発を強制させました。
しかし、私はもう、人殺しの手助けなどしたくない!」
シモンは熱く語った。秘密兵器とは、やっぱり、核だろうな。

260 :タイムツイスト 歴史のかたすみで・・・:2007/08/21(火) 01:19:18 ID:qYgON5Qg0
オレ(クーガー)とシモンは、レベッカからの暗号を解き、指定された小屋の前に来た。
ここに、レベッカの人が来る予定だ。待っている間、ヒマなので、なんとなく、首から下がったの守り札を触る。
「おや?それは何ですか?」
オレ(クーガー)は守り札のことをシモンに説明した。
「ここに、何か書いてありますね」
ほんとだ。よく見ると、何か書いてあるが、メダルが錆びていて読めない。
「そこまでよ!手を上げなさい!」
ふり向くと、公園でやり過ごした、ゲシュタポの女が、こちらに銃を向けている。
オレ(クーガー)とシモンは、言われた通りに両手を上げた。
向こうから、オープントップの軍用車に乗った男がやってきた。男は、女に言う。
「ご苦労、あとは私が引き受ける。ハイル・ヒトラー!」
女は去っていった。オレ(クーガー)とシモンは、男の車に乗せられた。

両側は森。誰もいない山道を、男が運転する車は走っていく。
やがて夜になり、空には月が出ている。どこへ連れて行かれるのだろうと不安になった頃、
男は口を開く。
「くたばれ、ヒトラー!」
オレ(クーガー)とシモンは驚いた。
「私はシュミットだ。よくここまで来れたな。もう安心しろ」
シュミットは、ゲシュタポとレベッカの2重スパイだったのだ。
「この道を行けば、スイスへ着く。そしたら、アメリカ大使館に飛び込んで・・・」
’馬鹿め、我輩の手から逃れられると思ったか!’
突然、声がしたかと思うと、オレ(クーガー)とシモンとシュミットの体は車から投げ出され、
宙に浮いた。目の前に、巨大なヒトラーが現れた。
’我輩の目は誤魔化されんぞ、シュミット大佐。裏切り者の末路が、どんなに哀れなものか思い知らせてやる!’
シモンとシュミットは抵抗を試みているようだが、無駄だ。何も出来ない。
このままでは、ヒトラーになぶり殺しにされてしまうだろう。
こんなときこそ、守り札だ。オレ(クーガー)は、星型のメダルをヒトラーに突き出した。
すると、メダルは光を放ち、ヒトラーの目を射抜いた。
よし、いい感じだ。あれ?メダルの錆びが取れて、文字が読めるようになってる!
オレ(クーガー)は読もうとしたが、ヒトラーの一撃を喰らい、クーガーは気絶した。
オレの意識はクーガーから離れた。何でこんな時に・・・!
クーガーの方を見る。クーガーは意識を取り戻した。こうして見ると、どこかで見たような顔だな。
そうだ、あの、目が不自由な久我さんだ。日本に帰化して、久我になったのか。と、そんな場合じゃない。
”メダルだ、メダルの文字を読むんだ、クーガー!!”
その声が届いたのかどうかは知らないが、クーガーはメダルの文字を読み上げた。
「放浪の民に正しき道を示したまえ!道中の災難から、我を守りたまえ!
我は、神の下僕にして、その慈悲と恵みを称える者なり!」
ヒトラーは苦しみだし、そして、消えた。

クーガーとシモンとシュミットは目を覚ます。辺りには、三人以外誰も居ない。
「あのヒトラーは幻覚か?」
「いや、確かに・・・」
彼らは首を捻っている。オレは言ってやった。
”悪魔の仕業だよ。オレの体を奪った悪魔のね・・・”
「ん?今何か言ったか?」
「しかし、あれは、凄まじい体験だった。人生が変わりそうだよ」
クーガーはため息をついた。彼は、このことがきっかけで、悪魔博物館を・・・。

*「お願いだ、我輩も連れて行ってくれ!」
*ヒトラーは悪魔に、何か頼み込んでいます。
*’そうはいかん。貴様は、まだまだここで悪事を繰り返す義務がある。
*契約が切れる、来年まで・・・’
*「来年?」
*’1945年4月30日。それが貴様の命日だ。よく覚えておけ。それでは、いつか、地獄で・・・’
*悪魔は、腰に巻いたタイムベルトを操作して、どこかの時空へ飛んでいきました。

こうしてまたオレは、時空を越えていく。今度は、どこへ飛ばされるのか・・・。



261 :タイムツイスト 歴史のかたすみで・・・:2007/08/21(火) 02:47:16 ID:qYgON5Qg0
IV.他人の不幸に流す涙ほど乾きやすいものはない ~紀元前4世紀頃 ギリシャ アテネ

*女神アテナの像の前に、悪魔がいます。
*’忌まわしき女神像め。あまりの醜さに、反吐が出るわ!’
*悪魔が女神像に一撃を加えると、女神像の首が落ち、転がりました。
*女神像の首は、悲しそうな顔をしています。

オレは起き上がり、自分の体を見る。この体つきは、結構年食ってるな。
周りには、オリーブの木がたくさん植わっている。
少年がオレを呼んだ。
「こんな所にいらっしゃったんですか。患者さんがお待ちです。早く来てください。
ニクラス先生!」
┌─データ─────────────────────────
│場所・・・古代ギリシャ アテネ
│名前・・・ニクラス
│職業・・・医者
└─────────────────────────────
オレ(ニクラス)は、助手の少年、ダリオに診療所に連れて行かれた。

火傷を負って苦しんでいる男が、寝台に寝ている。
頭の中に、ニクラスが持っている医術の知識が浮かんでくる。
オレ(ニクラス)は、男の患部に油を塗り、包帯を巻く。
なんつーか、この時代の医術ってのは、おばあちゃんの知恵袋みたいなのだな。
これならオレにだって出来そうだ。
男に、治療代として、銀貨を貰った。
ダリオが、ここは任せて診察に行ってくださいと言うので、出かけることにする。

オレ(ニクラス)は、怪我や病気で苦しんでいる人々を、次々と助けていく。
ドクダミ、アマチャヅル、オオバコ・・・症状に応じて薬草を使い分ける。
治療代に貰った銀貨も、合計3枚になった。
道をぶらぶら歩いていると、向こうから男がやってきた。
「ちょっとお尋ねしますが、10才くらいの、品の良さそうな男の子を見ませんでした?
然るところのお坊っちゃまなんですが、ちょっと目を離した隙に・・・ああ、大変だ!」
オレ(ニクラス)が見てないと言うと、男は焦った様子で去っていった。

丘の上のパルテノン神殿に行ってみることにした。長い階段を上って、神殿に着くと、
アテナ像の前で、神官が倒れている。口に耳を当てる。呼吸が止まっている。
こういう場合は人工呼吸だ。気道を確保し、鼻をつまんで・・・。
って、コレって、キス!?だけど、この体はニクラスんだし、気にしない。
なんせ、人命がかかってるんだし。
オレ(ニクラス)が、神官の口から息を吹き込むと、神官は意識を取り戻した。
「助かりました。ありがとうございます。しかし、罰当たりなことをする人がいるもんですな」
神官は、首の落ちたアテナ像を見た。

アテネの外れの、オリーブ畑にやってきた。
そこには、鎧をキッチリ着て、槍を持った、スパルタの兵士がいた。
兵士の足を見ると、怪我をしていて、患部が爛れている。
治療をしてやろうとすると、兵士は初めは断っていたが、やがて首を縦に振った。
オレ(ニクラス)は、爛れた患部に薬草をすり潰したものを塗った。
「お礼と言ってはなんだが、これを受け取ってくれ」
兵士は、懐から小さな、釣鐘形の鈴を取り出した。博物館に展示してあったヤツだ。
「これは、エジプトのファラオが、魔除けに使ったという言い伝えの、戒めの鈴だ」
オレ(ニクラス)は、兵士から鈴を受け取った。


262 :タイムツイスト 歴史のかたすみで・・・:2007/08/21(火) 02:48:39 ID:qYgON5Qg0
ぶらぶらと広場までやってくると、商人が露店を開いていた。
そして、さっき会った、男の子を探しているという男にまた会った。
「私は、坊っちゃまの家庭教師を務める、アリストテレスと申します」
やっと出たよ、歴史上の人物。アリストテレスは話を続ける。
「坊っちゃまは、それっぽい服装をしてるから、すぐに解るはずです。
金の刺繍が入った、ペルシャ模様の帯をしているし・・・。
ああ、坊っちゃまにもしものことがあったら、どうしよう・・・」
まだ坊っちゃまは見つかってないようだ。
「旦那、掘り出しモンがありますよ。銀貨3枚でどうです?」
商人が大声で言う。丁度持ち合わせもあることだし、金を払って、品物を受け取る。
あっ、こ、これは、金の刺繍が入った、ペルシャ模様の帯!
それを見ると、アリストテレスは商人につかみかかった。
「貴様ぁ、坊っちゃまをどこへやった!答えろ!」
「た、助けて下せぇ!あたしが見たときにはもう、事切れてたんですよ!
岬の岩陰に倒れてたんだ、嘘じゃねぇ!」

アリストテレスとオレ(ニクラス)は、急いで岬に向かった。
商人が言った通り、少年が倒れていた。
「坊っちゃま、しっかりしてください!」
オレ(ニクラス)は、少年の心臓に耳を当てる・・・やっぱり、死んでいる。
”その子を、死なせてはいけません。その子は、神の命(めい)を受けた、特別な子供なのです。
あなたの力で、助けてあげてください”
遠くから、優しげな、女性の声がしたかと思うと、オレの意識は、二クラスから離れていた。
あれ?どうしてだ?二クラスが気絶したわけでもないのに。

声は神殿の方から聞こえてきたような気がする。オレは、パルテノン神殿のアテナ像の前に行った。
”あの子を、助けてあげてください”
やはり、声はアテナの声だった。
”でも、どうやって?”
”神々の助言を借りて、黄泉の国に行きなさい”
オレは、アテネの街の至る所に設置されている、神々の石像に話を聞いて周る。
商売の神ヘルメス、月の女神アルテミス、海の守り神ポセイドン。
意識だけの存在になると、人から見えないだけじゃなくて、こんな効果もあるんだ。
ついに、黄泉の国の守り神ハデスの像を見つけた。
”黄泉の国に行きたいんだけど・・・”
”まぁいい。特別に許可しよう”
ハデスがそう言うと、足元の地面が無くなるような感じがして、オレは落ちていった。


263 :タイムツイスト 歴史のかたすみで・・・:2007/08/21(火) 02:49:25 ID:qYgON5Qg0
気が付くと、そこは、黄泉の国の門だ。神話通りに、三つ首の獣、ケルベロスが番をしている。
”子供を助けたいなら、我輩の問いに答えてみろ”
ケルベロスは、オレに問題を出す。オレの目の前に、5人の男たちの幻が現れた。
ヒントを頼りに、誰が誰だか当てろ、という問題だ。所謂、ロジックパズルとかいうヤツ。
オレがそれに正解すると、ケルベロスは言う。
”望みどおり、子供は返してやる”

オレは黄泉の国の門をくぐった。そこは、長い通路のようだった。
途中に、あの少年(の魂)を発見する。良かった。これでどうにか・・・。
オレは、少年の手を取り、戻ろうとした。
’待て!’
ホッとしたのも束の間、通路の奥から、ボーダーシャツの悪魔が登場。
’このクソガキがつまらぬ抵抗をするから、こんなところまで来るハメになったのだ。
もう一度チャンスをやる。魂の契約を受けろ!そうすれば、この世は、わしとお前のものだ!
さあ、こっちへ来い’
悪魔は少年を誘惑しにかかった。オレも負けずに言う。
”そっちへ行っちゃダメだ!こっちだ”
’邪魔をするな!貴様、こんな所まで着いて来おって!’
”好きで来たわけじゃないぞ!オレの体を返せ!”
オレは悪魔に飛びかかろうとしたが、悪魔に金縛りにされてしまう。
’この体はわしのものだ。もう諦めろ’
”んなこと言ったって・・・”
’さあ、こっちへ来い。でないと、何度でも貴様を殺しに行くぞ’
悪魔は再び、少年を誘惑、いや、脅迫する。少年は、悪魔に近づいていく。
’よしよし、それでいいのだ’
しかし、そのとき、悪魔は、頭を抱えてうめきだした。
鈴の音が、高らかに鳴り響いている。

*ニクラスが、戒めの鈴を鳴らしています。
*「王子、聞こえてますか、この鈴の音(ね)が。王子、返事をして下さい」
*アリストテレスは、少年に呼びかけます。え?王子なんです?
*「この方は、マケドニアの王子、アレクサンドロス様なんです」
*出ました、歴史上の人物。

悪魔が苦しんでいる隙に、オレは少年を連れて、逃げた。

少年は息を吹き返した。
「生き返ったぞ!ばんざーい!」
アリストテレスは喜んでいる。
「信じられん、神の奇跡だ」
ニクラスは、目を白黒させている。
こんなに喜んでもらえて、オレも頑張った甲斐があったというものだ。
ん?
そんな微笑ましい光景を眺めながら、オレの意識は、何かに吸い込まれていく。



264 :タイムツイスト 歴史のかたすみで・・・:2007/08/21(火) 02:50:06 ID:qYgON5Qg0
V.時はすべての悲しみを和らげる ~1864年9月 アメリカ合衆国 アトランタ

*「俺たちは、開放されたんだ!自由、万歳!リンカーン、万歳!」
*第16代大統領 エイブラハム・リンカーンが、群集に向かって、演説しています。
*有名な、ゲティスバーグ演説です。
*「人民の、人民による、人民のための政治を、この国から葬り去ってはならない!
*アメリカは、自由と平等の国なのです!」

「しっかりしなさい、ジョージ!大丈夫?」
オレは目を覚ました。ひどく体がだるい。喉がカラカラだ。
目の前に、太った黒人の女性がいる。
「どうした?ベル」
三つ揃えをキッチリ着た、白人のオッサンが近づいてきた。
「マイヤー様、ジョージが・・・」
マイヤーと呼ばれたオッサンはオレを覗き込む。
「軽い日射病だな。少し寝れば治る」
マイヤーはそう言った。オレは、ベルと呼ばれた女性に抱きかかえられた。
えっ?そういえば、この体、ずいぶん小さい。まだガキなのか。この女性、ベルは、母親だな。
┌─データ─────────────────────────
│場所・・・アトランタ マイヤー農場
│名前・・・ジョージ
│職業・・・農場の少年。元奴隷
└─────────────────────────────
まだ農場で働いてはいるが、もう奴隷じゃない。ちゃんとお給料も貰ってるし。

オレ(ジョージ)は、ベルに、農場の片隅にある、粗末な小屋に連れて行かれ、ベッドに寝かされた。
「しばらく寝ていなさい。お前はもう、奴隷じゃないんだ。そんなに働かなくてもいいんだよ。
まぁ、仲間たちが次々と出て行って、残ったのはあたし達とトムじいさんだけだから、
忙しいのも無理ないよね」
ベルは、ベッドのそばのタンスを開けて、ゴソゴソやっている。
見てみると、タンスの中には、所々泥で汚れている、100ドル札が、何枚か入っていた。
「あたし達もそろそろ潮時さ。お金も貯まったし、もうここを出よう。
マイヤー様は、南部の人間にしては、珍しく話がわかるお人だ。きっと許してくださるよ」
ベルは、お金を元通り、タンスにしまった。

次の日、ベルとオレ(ジョージ)は、マイヤーへ、農場を出たいと申し出た。
「弱ったな、お前たちがいなくなると、この農場が・・・」
困っているマイヤーに、ベルは言う。
「お願いでございます。自由に生きるのが、あたし達の夢だったんです!」
「そうか、寂しくなるけど、仕方ないな。残りの仕事を片付けたら、出て行ってもいいぞ」
マイヤーは、ついに折れた。
それから、ベルとオレ(ジョージ)は、残りの仕事を終わらせるために、必死で働いた。
まず、マイヤーが早口で喋るのを正確に記憶してその通り実行する(所謂記憶ゲーム)。
それから、屋敷の台所のベルを手伝う。大中小の瓶があって、それらを駆使して、
決められた容量を計るという、よくあるゲームをクリアする。
その後は、ニワトリ小屋のトムじいさんの手伝いだ。
トムじいさんは、所謂つるかめ算が解けなくて困っているので、代わりに考えてやる。

「やったよ、ジョージ。これで仕事は全部終わったんだ。これで、自由になれる。
この南部から、ついに抜け出せるんだよ!」
ベルは喜んでいる。
「よく頑張ったな。出発は明日にしなさい」
マイヤーがそう言うので、オレ(ジョージ)とベルは、小屋へ帰った。
「今日一日も、無事で過ごせましたことを、深く感謝いたします、アーメン」
お祈りを済ませ、オレ(ジョージ)とベルは、眠りに就いた。
しかし、まだ一日は終わっていなかった。


265 :タイムツイスト 歴史のかたすみで・・・:2007/08/21(火) 02:50:49 ID:qYgON5Qg0
「起きろよ、ジョージ」
何だ、こんな夜中に・・・。眠い目を擦りながら起きると、そこには見慣れぬ男がいた。
目のところに穴があいている白頭巾をすっぽりと被り、片手にたいまつを掲げた男だ。
白頭巾、と聞くと、アメリカの某秘密結社のことが思い起こされるけど、
今の時代にはまだ無かったはず・・・でも、まぁ、似たようなモンだろう。
「だ、誰だ!」
オレ(ジョージ)がそう言うと、白頭巾の男は答えた。
「教えにきてやったのさ。冷たい現実ってヤツをな」
男は小屋に火をつけた。
「何が奴隷解放だ。貴様等などに、でかいツラされてたまるか!」
オレ(ジョージ)は小屋から逃げ出した。焼死は免れたものの、白頭巾の男たちに捕まってしまった。

オレ(ジョージ)は、縄でぐるぐる巻きにされ、木に吊るされた。
「見せしめだ、鞭をくれてやる」
白頭巾の男はオレ(ジョージ)を鞭で打った。
「お願いでございます。このままでは、息子が死んでしまいます」
ベルが男に必死で頼み込んでいる。そんなベルを男は無視した。
「いいか、ジョージ。お前は、生まれながらの奴隷だ。リンカーンがなんと言おうと、
俺たちがいるかぎり、貴様等の好きにはさせん。よーく覚えておけ!」
白頭巾の男はさらに、オレ(ジョージ)を鞭で打つ。
ジョージは気絶してしまい、オレの意識はジョージから離れる。
「ボス!小屋の中からこんなものが」
もう一人の白頭巾の男が、燃え盛る小屋の方からやって来て、言う。
「ほほう、100ドル札じゃないか」
ボスと呼ばれた男は、100ドル札をポケットにしまった。
「そ、そのお金は!」
ベルは、男に取りすがったが、足蹴にされてしまった。
「南部から出て行こうと思うな。一生を俺たちのために捧げるんだ、解ったな」
白頭巾の男たちは、馬に乗って去っていった。

オレはベルを見た。気絶しているけど、怪我は大したことなさそうだ。
┌─データ─────────────────────────
│名前・・・ベル
│職業・・・農場の女。ジョージの母
└─────────────────────────────
うっ、とうとう女性に憑依するときが来たか。なんかヘンな感じ。
っと、それよりも、太ってて起き上がるのも、歩くのも大変だぞ、こりゃ。
地面を見ると、馬のひづめの跡が続いている。オレ(ベル)はその跡を辿っていった。
すると、洞穴があった。中から、明かりが漏れている。
オレ(ベル)は、見つからないように注意しながら、中を覗いた。
白頭巾の男たちが、祭壇に向かって祈りを捧げている。
祭壇の上には、何かを掴もうとする形の、手のブロンズ像が置いてある。
確か、展示品の・・・ということは、こいつらは悪魔崇拝者?
先ほど、ボスと呼ばれていた男が、話し出す。
「魂の契約を交わした我々に、もはや恐れるものなどない。
悪魔の理想とする、暗黒の歴史を、我々自身の手で作り上げていくのだ!」

次の朝。オレ(ベル)は、マイヤーに、事件のことを説明した。
だが、洞穴をで見たことは言わなかった。
「ひどい奴等がいるもんだ。まぁ、気を落とすな、ベル。
また金が貯まるまで、ここで働けばいい」
マイヤーは、大事な客人を連れてくるから、と言って、馬車に乗って出かけていった。
オレ(ベル)と、ジョージは、農場の日課をこなす。
「リンカーンがいる限り、おれ達の未来はまだまだ捨てたもんじゃない。
だって、彼は神様の子どもなんだからね」
ジョージはまだ希望を捨てていない。
ニワトリ小屋に行くと、トムじいさんが、商人と取引していた。
トムじいさんは、商人に、泥で汚れた100ドル札を出した。
「そのお札は・・・?」
「これは、今朝、マイヤー様から貰っただよ」

266 :タイムツイスト 歴史のかたすみで・・・:2007/08/21(火) 02:52:25 ID:qYgON5Qg0

日が暮れる頃、マイヤーが上機嫌で戻ってきた。
「素晴らしいお客様がお見えだよ」
客が馬車から降りる。頬髯と顎鬚を生やした、やせっぽちな男。見覚えがあるぞ。
「エイブラハム・リンカーン大統領だ!」
やっぱり。

マイヤーとリンカーンは、大広間のソファに座って談笑している。
オレ(ベル)は給仕係だ。マイヤーは、昨夜の事件の話をする。
「そうですか、そんなひどい目に・・・」
「南部にはまだまだ、根強い差別意識が残っているようでして」
「あなたみたいな方ばかりなら、戦争は起きませんでしたよ、マイヤーさん」
リンカーンはマイヤーをいい人だと思っているらしい。
「今日はもう、仕事はいいから、2階の客室で休みなさい」

オレ(ベル)とジョージは、2階の客室に行った。
ジョージは、こんな豪華な部屋で寝たことがないと、はしゃいでいる。
オレは考える。やっぱり、マイヤーは怪しい。つーか、白頭巾だろ?なんとか証拠を掴みたい。
2階にはマイヤーの書斎もある。オレ(ベル)は、こっそり忍び込んだ。
机の引出しを物色すると、黒光りした革の鞭と、白い頭巾が入っていた。

1階の大広間では、まだマイヤーとリンカーンが話しているようだ。
オレ(ベル)は、大広間が見下ろせるところに移動した。二人が話している内容が聞こえてくる。
「で、大事な話というのは?」
「私を、あなたの特別参謀に任命していだだきたいのです」
「・・・残念ですが、引き受けかねます。どうやら、時間の無駄でしたな。失礼します」
リンカーンが断って帰ろうとしたとき、マイヤーは指笛を鳴らした。
すると、白頭巾の男たちが現れて、リンカーンに銃を突きつけた。
「お帰りはまだ早いですよ、閣下」
オレ(ベル)は急いで客室へ戻ったが、ジョージは白頭巾に銃を突きつけられていた。
「か、かあさん・・・」
オレ(ベル)にも銃が突きつけられた。
「ベル!ジョージ!降りて来い!面白いところに連れて行ってやる」
マイヤーの冷たい声が響いた。

いつの間にか、激しい雨が降り始めていた。
「大統領閣下、あなたをこんな場所にお連れした事を遺憾に思います。
ここは、言うことを聞かない奴隷どもの墓場です。
この雨なら、あと一時間もすれば、島は水に沈んでしまうでしょう」
オレ(ベル)とジョージとリンカーンは、湖の中の小さな島に立っていた。
その他に、この島にはコヨーテが3匹いる。
向こう岸にいるマイヤーは、水面に浮かぶボートを蹴って、こちらによこした。
「大統領閣下、最後のチャンスです。奴隷たちのことなどほっといて、自分だけボートに乗りなさい」
だがやはり、リンカーンは固辞した。
「では、屋敷でお待ちしております。気をつけて」
マイヤーは帰っていった。つまりこれは、川渡り問題だ。
ボートは二人しか乗れない。人間が一人は乗らないと、ボートが漕げない。
コヨーテの数より、人間の数が少ないと、コヨーテは人間に襲い掛かる。
人間を渡すのはもちろんだが、かわいそうなので、コヨーテも渡してあげることにする。
と、こんな条件だ。ヒマな人は、最短で何ステップで解けるか考えてくれ。
ともかく、オレ(ベル)とジョージとリンカーンは、島から脱出することに成功し、屋敷に帰った。

大広間でくつろいでいたマイヤーは、3人揃ってやってきたので、驚いている。
「今度は、私があなたをお連れしましょう。少々、狭くて暗いところですが・・・」
リンカーンがそう言うと、マイヤーは観念した。
そのとき、オレの意識はベルから離されて、吸い込まれていく。
今度はどこへ行く気だ、悪魔め!こうなりゃ、地獄の果てまでついていってやるぞ!



267 :タイムツイスト 歴史のかたすみで・・・:2007/08/21(火) 04:27:49 ID:qYgON5Qg0
VI.疑問はあらゆる知恵の鍵になる ~紀元前4年頃 イスラエル

「なあ、カシム!昼寝してないで起きてくれよ、カシム!」
誰かに体を揺すぶられる。オレは目を覚まして、立ち上がろうとする・・・が、
アレ?何だ、この感じ・・・。
┌─データ─────────────────────────
│場所・・・イスラエル ナザレ
│名前・・・カシム
│職業・・・ロバ
└─────────────────────────────
うわっ、今度は動物かよ。オレ(カシム)を起こした男が、話し掛けてくる。
「なあ、カシム、俺の悩みを聞いてくれ。
実は、許婚のマリアが、その・・・子どもを、身篭ったらしいんだ。
でもな、神様に誓ってもいいが、俺は彼女の手すら握ったことはないんだ!
マリアは、天使が夢の中に現れて、神の子を身篭ったというお告げを聞いたそうだ。
でも、そんなことあると思うか?」
ということは、もしかして・・・。マリアって、あの、イエスの母マリア?
そして、この男は、ナザレのヨセフか。すごい時代に飛ばされたな。オレはロバだけど。

ここは、白い漆喰を塗った家々が立ち並ぶ田舎町、ナザレだ。
ロバの生活も悪くない。干し草は、思ったよりおいしいし。うーん、適応力ってスゴイな。
そんなこんなで数日が過ぎた。マリアとヨセフの関係はギクシャクしたままだ。
井戸端で、町の長老が嘆いている。
「ああ、あんなに惹かれあっていたのに。わしには、あの二人をどうすることも出来ん。
ちょっとしたきっかけがあれば、仲良くなれるはずなんだが・・・」
ここは一つ、史実通りに事が運ぶように、きっかけってヤツを作ってやりますか。。
大工の仕事場にいるヨセフの様子を見に行く。ヨセフは、半ば自棄になって、木材に鉋をかけていた。
そして、隣の家で石臼を挽いているマリア。なんだか元気が無い。
また仕事場に行くと、ヨセフはいなかった。見回すと、女物の首飾りが置かれている。
きっと、マリアに渡しそびれたんだろう。オレ(カシム)は首飾りを口に咥え、マリアの元へ持っていった。
マリアは、ヨセフからの物だと察したようだ。
首飾りを受け取ると、代わりに、男物の銀の腕輪を咥えさせた。

ヨセフは、ナザレの町を見下ろす丘の上に座り、嘆き悲しんでいた。
オレ(カシム)は、ヨセフに腕輪を差し出した。
「その腕輪・・・。そうか、マリアが俺に会うのが恥ずかしくて、お前に持ってこさせたんだな。
でもなぁ。天使のお告げなんて信じられないよなぁ」
これで上手くいくと思ったのに、ダメだったか。
そのときだった。空からアイツが降りてきたのだ。オレの体を乗っ取った悪魔が・・・。
「あなたは?」
ヨセフは恐る恐る聞く。
’私は、神の声を伝える、天使である’
悪魔はそんなことを言った。オレは、騙されるな!と叫びたかったが、
オレの声は、カシムの嘶きにしかならない。ヨセフは、悪魔のことを天使だと信じているようだ。
’ヨセフよ、マリアは、神の子を身篭ったのだ。心配しないで、マリアと結婚するがよい。
そして、その子にデーモンと名付けよ。わかったな?’
悪魔はとんでもないことを言ったが、’デーモン’は英語だからか、その意味にヨセフは気付かない。
「わかりました、天使様」
そう言うヨセフに満足したように、悪魔は去っていった。


268 :タイムツイスト 歴史のかたすみで・・・:2007/08/21(火) 04:29:11 ID:qYgON5Qg0
思いがけない手助けがあって、二人は、めでたく結ばれた。
そして、数ヶ月経ったある日のこと、オレは、やっぱりロバだった。
ヨセフの元に、役人がやってきた。
「ヨセフというのは、お前か?ローマ皇帝、アウグストゥス様からの命により、戸籍調査を行なう。
お前の生まれた土地は?」
「ベツレヘムですが」
「ならば、すぐにベツレヘムに行って、登録を行なうのだ」

オレ(カシム)は、身重のマリアを背に乗せ、ヨセフに手綱を引かれながら、ベツレヘムへと向かった。
「大丈夫か、マリア」
「ええ、なんとか。それより、カシムが辛そうよ」
「なーに、こいつは水でも飲ませればすぐ元気になるって」
ロバの気も知らないで、ヨセフはそんなことを言う。
それからしばらくして、オレ(カシム)はとうとう、疲れて、地面にへたりこんでしまった。
「そろそろ町が見えてくるはずなんだが、道に迷ったみたいだ」
ヨセフが言う。なんだって?!オレ(カシム)は、鼻を利かせて、遊牧民のテントを見つけた。
遊牧民たちが連れているラクダと少し話をする。
テントの中には、3人の男がいた。ヨセフとマリアは、ベツレヘムまでの道順を尋ねる。
だが、3人はそれぞれバラバラなことを言う。
ラクダが言うには、一人は正直な男、一人は嘘つきな男、もう一人は正直か嘘つきか解らない男だそうだ。
これは所謂ロジックパズルとかいうやつだ。ラクダの言葉が解らないヨセフとマリアに代わって、
オレは問題を解いた。ヨセフとマリアを連れて、求めた答えの通りに進むと、ベツレヘムに着いた。

*一方、その頃。
*夜空の星に導かれて、ベツレヘムを目指す3人の旅人がいました。
*「あそこだ、急ごう」

「部屋はもういっぱいだよ」
「そこを何とか。赤ん坊が産まれそうなんです」
宿屋の前で、主人にヨセフが頼み込んでいる。
「しょうがないなあ。馬小屋でよかったら貸してあげるよ」
「ありがとうございます」
いよいよ、今夜か。

静かな馬小屋の中。干し草の上にマリアが横たわっている。陣痛が始まったようで、苦しそうだ。
ヨセフが横に付き添っている。
オレ(カシム)は、おいしい干し草を腹いっぱい食べて、眠くなってしまった。
ヨセフとマリアの様子を見ながら、オレ(カシム)は眠りに就いた。


269 :タイムツイスト 歴史のかたすみで・・・:2007/08/21(火) 04:32:30 ID:qYgON5Qg0
「やったぞ、男の子だ」
ヨセフが叫んだのを聞いて、オレ(カシム)は目を覚ました。赤ん坊は、マリアの腕の中で、すやすやと眠っていた。
「天使のお告げどおり、デーモンと名付けよう」
ん?誰か来るぞ。馬小屋に、三人の男が入ってきた。
「あ、あなた方は?」
「東の国より参りました、占星術師にございます。神の子を一目、拝みに、星に導かれて、参りました」
三人は、それぞれカスパル、バルタザール、メルキオールと名乗った。うん、あの三賢者だな。
「これは、捧げ物にござります。どうか、お受け取りいただきますよう・・・」
三賢者は捧げ物を、マリアの前に差し出した。
いろいろな物の中に、涙形の小さな壺が混じっている。展示されてたヤツだ。
「ありがとうございます。デーモンも喜んでいますよ」
ヨセフがそう言うと、賢者たちは慄く。
「デーモン?何ですかな、その不吉な名前は・・・」
さすがは後に賢者と呼ばれるだけのことはある。’デーモン’が英語でも、不吉だと解るようだ。
「え、いや、でも、天使様が・・・」
’不吉なものか!最も相応しい名だ’
で、出たぞ、ボーダーシャツの悪魔。
「天使様!」
’玉のような嬰児(みどりご)に、神も喜んでおられる。さっそく、洗礼を授けよう。さあ、デーモンをこちらへ・・・’
悪魔がそう言うが、赤ん坊を抱いたマリアは動かない。ヨセフが急かす。
「ど、どうした、マリア?早く天使様に・・・」
「渡しません!あなたは天使じゃない。その目を見れば、解ります」
さすがは、後に聖母と呼ばれるだけのことはある。マリアは、悪魔であることを看破した。
’かわいそうな奴等だ。大人しく騙されていれば、死ななくて済んだものを・・・・’
「なぜ、この子を狙うんです?」
’聞きたいか。ならば、教えてやる。わしとその赤ん坊との因縁を’
悪魔は語りだした。
’あのとき、と言っても、今から数えれば、30年後のことだ・・・。
わしは、修行を積んでいた、コイツの前に現れ、誘惑を試みた。
だが、返り討ちにあい、わしは、壺の中に封じ込められてしまった。
長い間の屈辱を耐えて、わしは蘇り、そして、過去へ戻ってきた。あのときの復讐を果たしに・・・’
「そうはいかないぞ、悪魔よ!我々は、お前の来ることを予知していた。救い主の命を狙う、邪悪なる者の存在を・・・」
賢者たちは言った。
「再び、闇の中へ舞い戻るが良い!この魔封じの壺へ!」
賢者たちが、床に置いた壺に手を伸ばしたとき・・・。
’動くな!’
突然、炎が立ち昇り、壺を包んだ。
’わしの魔力に敵うものなどない。頼りの救い主とやらは、まだ赤ん坊なのだからな’
オレ(カシム)は悪魔を見た。悪魔は、オレ(カシム)には気が付いていないようだ。
よーし!オレ(カシム)は悪魔に跳びかかり、尻に思いっきり噛み付いた。
’ぎゃっ!’
悪魔の集中が解け、壺を包んでいた火が消えた。
’邪魔をするな!’
オレ(カシム)は悪魔の一撃を受け、ふっ飛ばされた。カシムは気絶し、オレの意識はカシムから離れる。
「悪魔よ、退け!」
賢者たちが言うと、悪魔はオレの体から引き剥がされ、壺に吸い込まれていった。オレの体は地面に倒れた。
「ど、どうなったんだ?」
ヨセフは慌てふためいている。
「大丈夫です。あれは抜け殻です。悪魔は、この中ですよ」
賢者たちは、魔封じの壺を指して言う。
「とにかく、ここを出ましょう」
賢者たちとヨセフと、赤ん坊を抱いたマリアは、馬小屋を出て行った。

オレは、地面に倒れている、自分の体を見た。自分の体をこんなにじっくり見るなんて、初めてだ。
オレの意識は、オレの体に戻った。痛む尻に手をやりながら起き上がる。
腰には、タイムベルトとやらが巻かれている。バックルを開けると、中がコントロールパネルになっている。
スクリーンと、タッチセンサーのキーがある。ああ、やっと戻れるんだ・・・。オレは、震える指で、慎重にキーを押していった。
1995年9月25日、悪魔が出る前の、あの博物館へ。



270 :タイムツイスト 歴史のかたすみで・・・:2007/08/21(火) 04:34:58 ID:qYgON5Qg0
VII.宇宙の力は地球を動かし、木を育てる。その力は君にもあると・・・

オレは起き上がった。そこには、博物館はおろか、建物というものが見当たらない。
地平線まで続く、荒涼とした風景。一面に白い粉みたいなのが積もっている。
足元の白い粉を退かすと、マンホールを発見したので、開けて中に入る。

マンホールの中は、小さな部屋だった。一体の人骨と、一枚の絵があった。
人骨の側にノートが落ちているので、読む。
”もう水も食料も無くなった。外へ出る気力も無い。いつか、誰かが私を発見してくれることを信じて、この文を残す。
30年以上も続いた、第二次世界大戦は、核爆弾のキャッチボールでついにピリオドを打った。
我々人類は、悪魔の誘惑を撥ね退けることが出来なかったのだ。
だが、残された人類よ、諦めるな。そのうちに、救世主が現れる。神の子が悪魔を葬る時が、必ずやってくる”
何てことだ。表に降り積もってるのは死の灰で、ここは地下シェルターか。どうしてこんなことに・・・。
壁に掲げられてる絵を見る。題名は、「悪魔の肖像」
伸び放題の髪とヒゲの痩せた男が、白い服を着て、茨の冠を頭に頂いている。
これは、イエスじゃないか!ってことは、あのとき悪魔は、壺に封じられたんじゃなくて、赤ん坊の中に入ったのか。

オレはタイムベルトを操作し、急いであの馬小屋へと戻った。
オレは地面に寝ていた。痛む尻に手をやりながら、起き上がる。これは、悪魔がオレの体から出て行った直後だな。
「とにかく、ここを出ましょう」
賢者の一人が言い、マリアとヨセフは馬小屋から出て行こうとした。
「待て!オレは悪魔じゃない。壺の中にもいない。悪魔は、その赤ん坊だ!!」
オレに見抜かれ、悪魔は本性を表した。
’邪魔をするな、小僧!この体は、わしがもらった。神の子と悪魔の美しい融合が、今完成したのだ’
赤ん坊の姿の悪魔が喋りだしたので、一同は驚いている。
オレは魔封じの壺をとり、悪魔に向けた。
「くたばれ!悪魔」
だが、オレの力が足りないのか、悪魔には効いてないようだ。
’ケケケ。そう簡単にはいかんぞ’
「うるさい、黙れ!お前なんか、ちっとも怖くない!
お前のやれることは、ぜいぜい幻を見せることくらいじゃないか!」
’フン、貴様に何がわかる!’
「わかるさ!お前や、お前の手先がやったことは、みんなこの目で見てきたんだ」
’何でも知っているというなら、わしの質問に答えてみろ’
オレは、悪魔が出してくる問題に全問正解した。

’くそう、お遊びはもう終わりだ、死ねぇ!’
悪魔は全力でオレに襲い掛かってきた。オレも、もうダメか?と思ったそのとき、
頭の中で、さっき読んだ言葉が、繰り返し再生される。
”神の子が悪魔を葬る時が、必ずやってくる”
そうだ、諦めてはいけない。
「力をくれ、神の子よ!神から授かった、お前の力で、悪魔を追い出してくれ。
神の子よ!目を覚まして戦え!救い主、イエス・キリストよ!!」
オレは必死で、赤ん坊の中のイエスに向かって呼びかけた。
すると、悪魔は苦しみだした。今がチャンスだ!オレは再び、魔封じの壺を手にとり、こう言った。
「悪魔よ、退け!」
今度こそ、悪魔は壺の中に入った。
「全てが終わった。これで何もかも元のままだ・・・」
オレはそう呟くと、気を失ってしまった。

マリアとヨセフが、赤ん坊を胸に抱き、カシムを連れて、ナザレに帰る日が来た。
「ありがとうございました。これでデーモンの命も・・・」
ヨセフがそう言うので、オレは慌てて否定する。
「デーモンじゃないよ。イエスだよ」
「あ、そうでした」
マリアたちが道を歩いていく。オレは、彼らの姿が地平線に消えるまで、そこに立っていた。
大事に育ててくれよ。オレたちの未来が賭かっているんだからな。
オレはもう一度、1995年9月25日に戻る。



271 :タイムツイスト 歴史のかたすみで・・・:2007/08/21(火) 04:35:43 ID:qYgON5Qg0
VIII.君が微笑むと太陽が昇ってくるようだ

冷たい床の感触を感じる。目を開くと、ポニーテールの彼女の顔が見えた。
オレは起き上がった。
「良かった。わたし、死んでるのかと・・・」
ここは悪魔博物館の展示室だ。そうか、元に戻ってきたんだな。
「ああ、キミか。久しぶりだなぁ」
「あの、どこかでお会いしました?」
「あ、そうか、そうだよね。いやぁ、あはは」
「ぷっ。おかしな人!」
オレと彼女は笑った。そのとき、地震が発生した。
「わたしに任せて!'マラドゥル バラオ ガラドゥーラ’・・・」
彼女は呪文を唱え始めた。
きっと、オレが過去に行っていろいろやったから、現在も少し変わってしまったのだ。
今度は彼女が、悪魔のテレパシーによって、呪文を唱えるよう、誘導されたにちがいない。
過ちを繰り返させるものか。オレはとっさに、手を伸ばし、彼女の口を押さえる。
驚く彼女。まぁ当然だな。初対面でこんな馴れ馴れしい・・・。
さあ、ここはバッチリ決めなければ。家を出る直前、占いサービスが、本当のとどめのセリフを言っていた。
モノの本で読んだことがあるはずだ。思い出せ!
「・・・君が微笑むと、太陽が昇ってくるようだ」
地震は収まっていた。オレは手を離した。
展示されている魔封じの壺の方を見てみたが、悪魔が出てくる気配はない。
彼女は、にっこり微笑んだ。やった、成功だ。まず、名前から聞いてみるか。
「えーと、キミの名前は?」

The End

*えー、ここで残念なお知らせがあります。
*ラストを改変していました。ごめんなさい。
*本当のラストは、彼女が呪文を唱えてしまい、壺から悪魔が復活して、
*主人公が「ぎゃー」と叫んで終了です。
*それではあんまりなので脚色してしまいました。
*筆者より。





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