TOAのティアタンはメロンカワイイ SS > スレ7 > 727〜730

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ナム孤島——
 ホド消滅の影響で生まれ故郷を失い
 ホド消滅を詠んだ預言と
 預言に縛られまともな政治をしてこなかったキムラスカ・マルクト両国を憎み
 何物にも支配されないようにと、漆黒の翼が作った街である。
 戦災孤児や親を失った人間を囲うようになり、今では総勢400人余の大所帯。
 街には音機関と譜業と譜術が溢れ帰り
 しかしその用途は享楽のみを追求していて、他の街にはない、どこか間の抜けた雰囲気が漂う。
  
 ルーク一向は偶然この街に辿り着き、その異質な様相に初めは圧倒されたが
 漆黒の翼に事情を聞いてからは彼らと彼らの街に対し好意的な印象を抱いた。
  
「うっわー、あれ見てよ、すっごいよー☆」
「アニスさん、向こうもすごいですの、行ってみるですの♪」
  
「? どうしたのガイ、そんなにそわそわして」
「どうせ音機関の装置に惹かれてるんだろ?」
「あら、何を遠慮していますの? 見に行けばよろしいのに」
「……そうか? なら失礼して。イヤッホーー!!!!!!」
  
「ああなると、ガイもアニスとミュウ並みだよな……」
「まあ、いいじゃないですか。たまには息抜きも必要ですしね」
 ジェイドが言う。
「この街を見学するのも悪くはないと思いますよ。
 ……ああ、そうそう。この間に、ナタリアには少し付き合ってもらいたいことがあるのですが」
「? なんですの?」
「あなたのランバルディア弓術と第七音素を組み合わせて
 より戦闘を優位に進めることはできないかと。その訓練とでもいいましょうか」
「まあ! 大佐には何かいい戦術が浮かんだのですか?」
 ジェイドの眼鏡が怪しく光った……ような気がした。
「そんなところです。……ああ、お二人は結構ですので、どうぞ楽しんで来て下さい。それでは」
「ではルーク、ティア。行ってまいりますわ」
「あ、ああ」
  
 図らずも解散となり、その場に取り残されるルークとティア。
 ルークは屋敷での軟禁生活が長かったせいか
 初めて訪れる街の楽しみ方というものを知らなかったし、
 それは周囲に何もない魔界で生まれ育ったティアも同様だった。
 自由行動となるとどうしたらいいのかわからなくなる二人は、いつもこのように取り残された。
  
「……楽しんで、って言われてもなあ……」
「そうね……何をしたらいいのかしら」
 ナム孤島には遊具がいくつもあるし、住人も個性的だから
 辺りを適当に回るだけでもそれなりに楽しめるはずなのだが、どうにもその結論に辿り着かない。
「とりあえず、座るか」
「……そうね」  


 通路の縁に並んで腰掛ける二人。
 何をするでもなくぼうっとしていると、ねこにんが目の前を通り過ぎた。
 着ぐるみの子供にティアの視線が奪われる。
「……可愛い」
「そうかぁ?」
「可愛いじゃない。アニスが着ると似合うと思うわ……」
 うっとりした目で何かを想像するティア。
 ティアは可愛らしい物や動物の類が好きだが、
 一般的な感覚ではおよそ可愛いとは言い難い対象であっても、
 彼女にとってはこの上ないほど可愛らしく見えることがあるらしい。
 ルークはこういったティアの感性についていけない。
  
「……ティアって、変な奴だよな」
「えっ?」
 可愛いものだらけの幸せな妄想から現実に引き戻される。
「兵士とか言って普段はすげー冷静なのに、時々こういうところがあるだろ」
「……こういうところって?」
「だから、可愛いとか言い出したり」
「そ、そんなこと言わないわよ!」
 明らかに言った後だが、指摘されると条件反射で否定してしまうティア。
「……今言ったばっかじゃんか」
「そ、そうね……」
「やっぱり変わってるよ」
「……変、かしら」
「うーん。いや、変っていうか、意外な感じだな。
 最初はなんつーか、女っぽいところなんかないと思ってた」
  
 第一印象は無愛想で冷血。人を殺すのも厭わない戦争屋といったところ。
 以来ほとんどの時間を共に過ごし、隣で見守ってもらいながら
 ルークはルークなりにティアを理解したし、やがて惹かれるようになった。
  
 一方のティアも、ルークの第一印象はわがままで世間知らずな子供。決して良くなかった。
 巻き込んでしまったことは申し訳ないと思ったが、横柄な態度に辟易しつつあったのも確かだ。
 アクゼリュスの件で印象は更に悪くなり、一度は見捨てようか、とも思った。
 それでも懸命に変わろうとするルークを隣で見守るうち、特別な男性として意識するようになる。
 もっとも、ティアはルークに厳しいことや冷たいことを何度も言ってしまっていたから、
 彼が自分のことを女として、まして特別な女性として見ているとは思いもしなかったのだが。
  
「わ、私……女っぽい?」
「あ、お、女っぽいとは言ってねーよ! ほんのちょっとだけ女みてーだと思っただけだっつーの」
 こういうところで素直になれず、つい悪態をついてしまうのがルークの性格だ。
「……悪かったわね。女っぽくなくて」
 ティアもティアで、ルークの一言に軽くショックを受けつつ、言い返す。
 女として見られるはずがないことは承知しているつもりだが、
 気になる男性に女として見られないのではやはり面白くない。
「べ、別に悪いなんて言ってないだろ」
「どうかしら。私にはそう聞こえたわ」
「…………ふん」
「…………ふぅ」
  
 沈黙が訪れる。
 普段はここでガイやアニスに茶化され、結果的に何となく落ち着くのだが、
 二人きりの今は取っ掛かりが見つからない。  


「……あのさ」
 気まずくなって、何とか突破口を開こうとルークが切り出す。
「何?」
「腹減らないか」
「そうかしら。私は別に」
「……うん。俺も別に」
「…………」
「…………」
 しかし続かない。これでは駄目だと考えるルーク。何か話題を……。
  
「……ふふ。変なの」
 次に口を開いたのはティアだった。
「な、何がだよ」
「だって、お腹が空かないかって聞いておいて、自分はそうでもないなんて。
 私が何か食べたいって言ってたら、あなたどうするつもりだったの?」
 苦し紛れなのだから、考えていたわけがない。
「……どうしたんだろうな、わかんね」
「あなたも変よ」
「そうかな」
「買い物の仕方も知らない人なんて初めて見たもの」
「……結構しつこいな、お前」
「ふふ、ごめんなさい」
 どうやら重い空気は脱したようだ。自然に顔が綻ぶ。
  
「あー……なんか落ち着く」
「?」
「俺、ティアがいると安心するよ」
「……それはこっちの台詞。あなた、見ていないと心配なんだもの」
「わ、悪かったな!」
「ふふっ」
 ひとつ伸びをしてから、ルークが続ける。
「ああ、もうこれから先、ティアがいない毎日なんて考えられねーな……」
「私もだわ。あなたを見ているのが当たり前になったから……」
 
 ティアが言い終えたところで、二人は気付く。
 もしかして、自分たちは今とんでもないことを言ってしまったのではないか?
 自分たちはあくまで目的を共にする仲間であって、目的が果たされればその関係も終わるはず。
 それが、互いが側にいない未来は想像できない、ということは。
「………!」
「………!?」
 顔を真っ赤にして俯く二人。互いの顔をチラと見て、さらに赤面。
「あ……いやその、違うっつーか……」
「そ、そうよ。違う、というか……」
 言い訳を探す二人。しかし互いの言葉が気になっていて、どうにも切り出せない。
  
 やがて、何かを決心したような表情で、ルークがティアと向き合う。
「……あのさ、ティア。俺……」
「え、ええ」
「その……今でもティアが隣にいてくれることが、ありがたいって思う」
「そ、それは……あなたを見てるって約束したから」
「そうじゃなくて! なんつーか……その……これからも……」
 心臓の鼓動が早くなる。頬が更に熱を帯びる。喉が渇く。声が出ない。
 口ごもるルーク。ティアにも伝染する。鈍い彼女でもこの状況には何かを感じ取ったようだ。
「……え、あの……」
 
「俺、ティアのことがさ……」  


「ご、ご、ご、ご主人様ああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
  
 ここしかないというタイミングでミュウが飛び込んできた。
「おわっ! な、何だよ」
「ワニが! ワニに食べられそうになったですの! 怖いですのぉ!」
 ミュウが来た方向に目をやると、ワニらしき物体が奇妙な音を立てながら口を動かしている。
「みゅうぅぅ……ボクはおいしくないですのぉ……助けてくださいですのぉ…」
 二人が作り上げたそれっぽい空気は、この小さくて多大にやかましい聖獣に完膚なきまで破壊され、
 ルークは、心の底から熱く、どこか懐かしい感情が湧き上がって来るのを感じた。
「……このブタザル……!」
「ご、ご主人様!? みゅううぅぅぅぅぅ…………」
 ヒット数を稼ぐために○+↓を数千回と繰り返し鍛え上げられたルークの脚が一閃。
 派手に蹴っ飛ばされた聖獣は凄まじいスピードで視界から消えていった。
「ミ、ミュウ!? ルーク! 何をするのよ! 最低だわ!」
 ティアが慌ててその後を追う。
「はあ…………」
 その場には、深いため息をしてがっくりと肩を落とすルークだけが残った。