TOAのティアタンはメロンカワイイ

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「罪人の夜」LukexTear 


 崩れる。
 頭がそう認識した瞬間、崩壊は既に始まっていた。
 軋む。揺れる。砕ける。沈む。
 短く高い断末魔が、あちらこちらで上がっては消えた。
 せめて動けない人間に手を貸そうと試みるが、幾ら手を伸ばしても全てがすり抜けてしまう。
 地獄絵図と言うべきそれが、かつて目にした瞬間と寸分の狂いもなく目前に迫る。
 それでも青年には、再び崩れ行く大地をただ茫然と眺める事しか出来なかった。
 それは過去に青年が侵した最大の過ちであり、決して色褪せる事のない罪だ。
 ──あの地の何もかもが、他でもない自分のこの手で──




「はっ…はぁっ…は…」
 冬場にも関わらず汗だくになった青年は、ベッドの上であらん限りに目を見開いた。
 その体勢のまま辺りを見回し、眼前に広がる光景が現実である事を確かめてから安堵の溜め息を吐く。
「夢、か…」
 だがそれを理解しても、手足の震えは一向に治まらなかった。
 夢を見る事自体は然程珍しくもないが、鮮明に浮かぶ崩壊の瞬間には今だに慣れる事が出来ない。
 あの悪夢を体現した日から、既に数年が経過していると言うのに。
「……はぁ」
「眠れないの?」
 暗がりで響いた声に振り向くと、闇の中に白い肌とネグリジェが浮かび上がっている。
 悪夢と同様に幾年かを経た後でも、その姿は変わらず美しい。
 寧ろより女性的な魅力を増し分、益々美しくなったと言えるだろう。
「悪いティア、起こしちまったな」
「いいの。それよりルーク…またあの夢を?」
 ティアには申し訳ないと思いつつも、それ以上言葉を発する気になれず首だけで肯定した。
 そんな姿を見たティアの顔が、一瞬の内に曇る。
 この瞬間が何より嫌いだった。
 悪夢に苛まれた夜は決まって、何故かそれを見た自分よりティアの方が辛そうな顔をする。
「…ルーク」
「ごめん、ちょっと…止まりそうにない」
 ついには手足に止まらず、顔にまで震えが及んだ。
 上下の歯がぶつかり合ってかちかちと音を立てる。
「はは…情けねえや」
「ルーク、気をしっかり持って」
 ティアがベッドから身を起こすのが分かる。
 礼拝堂を歩く時のそれと同じく、歩み寄る音はひどく静かだ。
 今の姿を見られるのは気が引けたが、しかしルークにそれを押し止めるだけの気丈さはない。
 ──心の奥で、縋るものを求めていたのも有るのだろうが。
「もう大丈夫だから」
 そして小刻みに震える指に、細い指が重ねられる。
 もう一方の手で丸めた背中を撫でさすられると、柔らかな温度に全身が緊張を解くのが分かった。
「空気を深く吸い込んで、ゆっくり吐いて…」
 ティアの指示に従って息を吸い、吐く。
 優しげな声には催眠効果でも有るのだろうか、気がつけば自分から深呼吸を行っていた。
「…っ…はー……はぁー…」
 ようやく取り込めた酸素が、強張る筋肉を少しずつ解していく。
 冷たい夜気に混じったティアの甘い香りが、より安心感を誘った。


「落ち着いた?」
「……大体、な。ありがとう、ティ」
 礼を言おうと顔を上げて、思わずどきりとする。
 至近距離で動く艶やかな薄桃色の唇は、白い肌に相まって夜の闇によく映える。
 純白のネグリジェは肩まで大きく開き、高い位置から見下ろすと形の良い鎖骨が丸見えだった。
 ふと不埒な考えが脳裏を過ぎったが、首を振って必死に否定する。
「ルーク、まだどこか苦しいの?」
「い、いや!そ…そんなんじゃ、なくて」
 美貌と共に、鈍感さの方にまで磨きが掛かったティアはきょとんとしていた。
 少しだけ残念に思うが、ある意味助かったのかも知れない。
 ティアがこの手の事に敏い人間であったなら、こんな時に不謹慎だとさぞや絞られた事だろう。
 苦笑が零れると同時に、どうしようもない罪悪感が圧し掛かった。
「…情けねーの」
「え?」
「俺、お前に格好悪いとこしか見せてねえじゃん」
 思えば、かつての世界を股に掛けた旅でも終始ティアに甘えっ放しだった気がする。
 ティアに言えば「そんな事はない」と返されるのが関の山だろうが、これは事実だ。

「あなたのどこが格好悪いというの?」
 しかし返ってきたのは、予想外の言葉だった。
「いやどこがって…昔も今もお前に甘えっ放しだし、いつまでも昔の事引きずってるしさ」
「だから、それのどこが格好悪いの」
 真顔で言い切られると、こちらの方が切り返しに困る。
 急に黙って俯いたルークに気を遣ったのか、二の句は遠慮がちに継げられた。
「…わたしだって、今までに傷つけた人の顔は忘れられない」
「ティア?」
「呻き声を上げて身悶える人、憎悪の目で睨み据える人。夢に見ることだってある」
「苦しく…ないのか?」
「苦しいわ。でも蓋をするの。そうしないと、自分が生きていけないから」
 ティアの過去が並々ならぬものだと言う事は言葉の端々から垣間見えた。
 いつもより小さく見える背に手を伸ばすが、触れる事は憚られる。
「ティアは強いんだな」
「いいえ。記憶に蓋をして、何も見ない振りをして生きるのは簡単だもの」
 そうして手を宙に彷徨わせていると、透き通った青の瞳と視線がかち合った。
 どこまでも真っ直ぐなそれを、外す事は出来ない。
「でもあなたは違う。あなたはずっと、その罪と正面から向き合い続けてる」
 微笑みは慈悲深い女神のように、優しい。
「…ティア」
「それは格好悪い事なんかじゃない。あなたの頑張りを、あなた自身が否定しては駄目よ」


 窓の外は既に白みを帯び始めていた。
 ルークは何をするでもなくtティアを腕の中に収め、ティアも大人しく背中に両の腕を回している。
 互いに、今はそうするだけで胸が一杯だった。
「なあティア」
「何?」
「譜歌を、詠って貰えないかな」
「譜歌を…?」
 突然の申し出に顔を上げたティアに、ルークはぎこちない笑顔で応える。
「聞きたいんだ、今。どうしても」
 体を抱き締める腕に力を込める。
 すると何かを悟ったらしいティアは、ルークの胸板に顔を寄せてそっと頷いた。
「分かったわ」


「――――♪」
 朝焼けを背に、女神の旋律が静寂を破って響く。
 体中に染み入るかのような声は温かく、綺麗すぎて、自然と目頭が熱くなった。
 思い余ってティアの首筋に顔を埋めると、白い手が頭を撫でる感触が心地良い。

 今なら、今この瞬間だけは全てが許されるような気がした。
 幸せな錯覚に浸りながら、ルークは知らず知らずの内に重くなった目蓋を閉じる。

「お休みなさい。ルーク」


 長い夜を越え、罪人はようやく安らかな眠りについた。





  • つづきが欲しい!! -- 瑠紅 (2006-09-17 15:22:55)
  • ティア好きにはたまらないですね~♪
    -- 茶味 (2008-10-26 20:19:18)
  • 二人の特徴を良く表せていて、アビス味のある話でした。(感動) -- アカツキ (2011-11-19 17:28:23)
  • リッチドールの奈々子です。宜しくお願いします。(*´ω`)☆ http://love.l7i7.com -- 玲子 (2012-10-10 04:09:52)
  • 心が安らぎますな〜 -- 名無しさん (2013-01-28 23:43:07)
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