なんかよくわかんない@Wiki fr02


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「……紅茶を」
「有難う」


見事なまでに執事の身なりをした男が注がれたティーカップとソーサーを置く。
気品ある女性がカップを取り、その香りを、その風味を、余すことなく味わう。


そんな優雅な光景が似合う真昼間にも関わらず、この場所はそれを台無しにする。とにかく乱雑だった。
ティーカップとソーサーが置かれたのは事務業に特化した机。
所狭しと、二列四段の事務机が置かれた部屋。
壁を覆いつくす下駄箱のような書類棚は、書類のサイズに合わせて横の列が連なる度、少しづつ大きさを変えていく。縦の列は同じ大きさだが、細かく分類がなされている。
また、それとは別の一面を覆いつくす三段の書類棚の一段目と二段目には書類を纏めたブ厚い簡易的なファイルのようなものが、三段目には様々な書籍が並べられている。


セントラルイースト。
十字を形成する一つの点にして、大陸の中央地・聖都シークリディス東の監視塔。主に外政を受け持っている。
ここはその雑務室だ。


執事は何時の間にか消えていて、部屋に残っているのは二人だけ。
今日の大露店は、賑わいを見せている。その警備の為に人員の多くが駆り出されるのだが、この少なさは異常だった。
先程の紅茶を飲んでいた気品ある女性と、もう一人。
ロングの金髪を低い場所で後ろに纏め上げている少女。赤に緑のフチで装飾されたローブ。
第一印象は、勤勉。第二印象は、地味である。
何故地味と感じるのかは解らない。が、とにかく地味という表現がしっくり来る。
カリカリと、二つの羽根ペンを走らせる音だけが響く。


「フィア」
「はい?」


名前――正しくは短縮された愛称――を呼ばれ、赤ローブの少女は立てられた書類から顔を上げた。机の上に立てられ、纏められた書類の山から、少しだけ頭が見えるようになった。


「そちらで処理してたラウデ・ウィヌフの動向に関する対応の書類と、伴って配布した関連付けされてるディムラリアの内部動向。またそれとは別件で、境一族の取引候補を纏めたのリストの照合が終わってる頃だと思うから持ってきてください。詳しい見直しはこちらでさせて頂きますので」
「解りました」


応答は敬語口調。席を立つ足音は速い。
それに含まれた響きから、常に尽力しているタイプの人間だということが解る。


「ありがとう」
「いえ、そう言って頂ける程の仕事では」


書類を渡されただけで、労いの言葉をかけられるとは思わなかったのだろう。困惑しながら、嬉しさを感じている。そう思える。
しかし、渡したその場で突っ立っているわけでもない。その言葉は席に戻るまでの猶予に発せられた言葉だ。
そもそも、労いの言葉も彼女に正面を向いて投げかけられた言葉ではなかった。
この場は人間的な感情が介在していながら、酷く機械的で。そのアンバランスさを二人は疑問とも苦痛ともしていないようだった。


また作業が再開される。
カリカリ、カリカリ。
羽根ペンが紙を擦る音。引っかく音。なぞる音。
カリカリカリカリ、刻む音は刻(とき)の音。


僅かな会話を交えながら、共同を交えながら、続いていく。
カリカリ、カリカリ。
どれだけの時間が経ったのかは解らない。
解らないが、まだ日没から十分時間のある時、多くを語らない彼女は口を開いた。


「今日はもう上がってください」
「……? まだ残ってるんじゃありませんか?」


フィアと呼ばれた勤勉な少女は、疑問の口調だ。


「いえ、今日仕上げる分は殆ど終わっていますので。まだ露店も賑わっているでしょう、間に合いますよ」
「でも、私行きませんよ?」
「それについて気を利かせたと思ったならそれは違いますよ」


口調は優しくない。かと言って刺々しくも無い。ただただ、冷静なだけだ。
なのに、その中身はとても優しい。別に彼女は感情を表すのが下手なのではなく、徹底的に冷静なのだと思う。それが普通なのだと思う。
きっとそれ以外を知らない。彼女は機体的な冷たさが、好きなのだ。
ずっと一緒に居て、フィアは何となくその冷たさを好きになっていた。


「それでは失礼します。ありがとうございました」


そう言って席を立ち、雑務室を出て行くフィア。
断っても押し切られるに決まってる。
本当にいいんですか? と聞き返しても返答は不変。
長い付き合いではないが、彼女の気質をフィアは確かに理解していた。
だから断りの言葉もことわりの言葉も入れない。
悪くない二人だった。


気品ある女性は、フィアが出て行ったのを確認しながら羽根ペンを動かし続ける。
カリカリ、カリカリ。カリカリ、カリカリ。
暫く羽根ペンが動き続ける音が響く。響き続ける。
しかし、変化があった。指の動きに変化は無い。
完全に機械的に作業をこなす彼女は、突然名前を呼んだ。


「チャシール」
「はい」


お呼びでしょうか、とは言わない。
名前を呼ばれた時点で既に知っているのだ。自分が今から使用されることを。


「解っていると思いますが、これより行う一連の作業内容を確認します。言ってください」
「102番の書類から上の二枚と二枚挟んで一枚下の書類を改竄しすり替え。108番のアベンフィアー・フィルフトクリューネ、ミソギ・ラフレイオスの探索遠征の書類を処理。但しツーマンセルの〝派遣者〟、並びに〝仮面暗殺者〟との接触は揉み消す。揉み消す部分だけを記入し、その状態で貴方に渡します。003番のビテロスティーダ・ディムファレウス氏からの探りの手紙の返答は内容を幾らか隠蔽して気取られないような返信内容を作成。また、添付して幾つかの証拠になる書類を作成します。それらを大型封筒で封書にし、010番の棚へ一時保管。特配でセントラルウエスト局長室宛てと明記しておく。その後、アルケンス氏との懇意な関係を維持する為、商業ギルド〝アルケンス〟へ今回の大露店に関する個人的な労いの手紙をミシュアル・アルメイディアの名義で作成。便箋に入れ、002番に保管。速達で出すとメモ書きを添える。ラウデ・ウィヌフの〝派遣者〟、ラグイーズ・アディシオン並びにビジェリグス・フィミルティアとの接触・交戦についての侘びの手紙を作成。封をして、006番に保管。なるべく速い配達手段を求める、とメモ書きを添える。ディムラリアのエルセンティヌス図書館へ境一族の〝三色〟に関する資料調査を依頼。006番に保管。また、最上階のキャレイスンとの接触を一度呼びかける。反応が無ければそのまま放置。それらの仕事が終わったら合図として何時ものオレンジペコを淹れます」


返答は一息。
膨大な把握能力は、聞くものを圧倒させる。


「完璧(パーフェクト)。まさか紅茶の種類まで的中とは思っていませんでした」


その圧倒を、当然の如く返す。


「執事ですので」
「執事ですからね。かくあるべし、です」


よく解らない納得だった。
その言葉を皮切りに彼女は作業を再開し、執事は作業を開始した。
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