『主婦』

のんびりとしたこの雰囲気、そしてまったりとしたこの日常・・これを幸せというらしい。騒がしい世間とは対象的な
一日がまた始まる・・


~主婦(仮題)


「あらやだ、白根さん。お買い物?」

「ええ」

いつものスーパーの買い物終わり、いつものようにレジ袋をぶら下げてそのまま自宅へ帰ろうとした時に
これまたご近所の奥さんと視線が会い挨拶をかわす。ここ最近はこういったご近所付き合いが蔑ろにされつつ
ある中で私は何となく大切にする、これでもある程度はマシだと言える方なのかもしれない。

おっと自己紹介が遅れてしまった、私は白根 美由紀(しらね みゆき)。どこにでも居る何ら変哲のない
ごく普通の子持ちの主婦で旧姓は佐竹。趣味は独身時代から培ったカラオケとお酒。更に過去を遡ると・・

「白根さん知ってた? 3丁目の奥さん、お子さんと一緒に旦那さん置いて出てったらしいわよ」

「そうなんですか」

「旦那さんも大変よね~」

オバチャンというものはそのマシンガントークを武器に噂話と言う凶器を振り回して相手をねじ伏せて自分の
ペースに持っていく、この奥さんもその例に漏れない存在だ。敵に回すと恐ろしい物ではあるが味方について
くれればコレほど頼もしい存在はないだろう・・多分。とは言いつつも私的には面白い人物なのでお世話に
なる事が多々あるもので結構有難いものだ。

談笑を続けていくうちにオバチャンの数はチラホラと増えていき、俗に言う井戸端会議にまで発展する。

「世の中何が起きるか解らないわね」

「そうそう、ここのスーパーの特売見た?」

「鶏肉が300gが170円の奴だったね。そういえばさっきまで白根さんが買い物してたけどどうだった?」

「ああ、今夜は昨日のカレーが沢山残ってしまったのでグラタンにしようと思いまして」

今日はグラタンにしようと思ったので足りなくなった調味料と足りなくなった生活用品を買い込みに来ただけ
なので今日の特売は手を出していない、オバチャンたちの表情は残念そうなのが少しばかり可愛らしいところである。

「そういえばあれって5時からじゃないですか? まだ3時前ですから早いと思いますけど・・」

「ハァ~、まだまだ甘いね」

「そうそう、特売の日はいつもより2時間前に戦場に張りこむのが常識だよ!!」

「白根さんはまだ若いけど経験積んだらわかるだろうけどね」

    • この領域を踏み込むには私も修行あるのみなのかもしれない。そのまま芸能人のスキャンダルや
晩御飯のおかずに旦那の操縦方法(?)などを語り合いながらのんびりと時間を進める。


ささやかな談笑を終えてオバチャン達と別れた私はそのまま自宅へ帰り、買いこんだ物を片付ける。
単調なものではあるがこれが結構重要なものでちゃんと考えて片付けなければ後で少し泣きを見る事に
なるのでちょっとばかし頭を使わなければ出来ないものだ、少しばかり粗相なあの人にも教えてあげようかな。

片付けが終わった後、この時期には必需品とも言えるおこたに入ってポットと予めお茶葉を準備しておいた
急須をテーブルの上に置いて湯飲みに暖かい緑茶を淹れてワイドショーを見ながら至福の一時を過ごす。
この場合は昼ドラがお約束だと思いがちなのだが最近の昼ドラは少し子供向けに作られているので
全然物足りない、こればかりは先ほどのオバチャンたちも私と同意見なようだ。

“最近は世代層によって女体化による考え方が・・”

「女体化ね・・」

この世界には昔っから“15、16歳位までに童貞を捨てなければ女体化する”という変な病がある、周りは
原因を掴もうと必死に色々研究を進めているようだけども中々発展はしていない。私もその例に漏れず
女体化してしまい最初は戸惑ったものの状況によって徐々に慣れていき、高校を卒業して2年制の短大を
出た後で極普通に2年間OLをして高校の頃から付き合って就職先も同じだった旦那のプロポーズを
受け入れてなり崩し的に結婚。結婚をして1ヶ月後、旦那が転勤を会社に命じられて旦那と一緒に
今の住居へと引っ越すこととなる。引っ越してきた当初は夫婦共々見知らぬ土地に戸惑いながらも
ご近所さんが優しかったためのんびりと腰を落ち着けられる事が出来たのではあったが、その矢先に
私が妊娠が判明。旦那がこの見知らぬ土地に転勤したのが幸か不幸なのかはよく解らないところでは
あるが、結婚生活2年目には無事に息子が生まれて人並の幸せを手にしている。

その息子は現在、遊び盛りの小学校1年生・・旦那を恨むことと言えばその間に私が30歳になってしまったことだろう。

「ま、考えても仕方ない事だけど・・息子が中学生になるのが先か女体化がなくなるのかが先か、よく解らないところですね」

“女体化が発見されて50年以上・・差別や偏見は弱まりましたが未だにないとは言えません。
それに思春期と言う多感な年頃になってしまえば・・深く思い詰めて悩む人は大勢いるでしょう。

女体化で思い詰めない人は居ないでしょう”

「悪かったわね、今まで女体化で思い詰めてない人生を歩んで」

テレビに突っ込むのは少しばかりの癖になってしまう、考えて見れば今まで私は女体化はすれどそれで
思い詰めた事は一回もない。女体化してしまった時期がたまたま高校の入学前というのもあるけれども
最初は女物の下着とかに人並の抵抗感を示したのだが姉とその女友達に無理矢理履かされて以来は
それが妙に癖になってしまったのかあっけなく慣れてしまって、それから徐々に女の生活に慣れ親しんで
しまったのだ。その事を同じ女体化を経験している親友に語ったのだが“あんたは変”と酒の席で断言されてしまった。

自分では普通だと思うのだけども客観的に見られるとやっぱり私はちょっと変なのか? まぁ、そこまで思い
詰めることもないもので、それ以降は私が女体化で考えた事と言えばそれぐらいだ、というか結婚もして
子持ちになれば女体化について考える暇すらない。



“政府主導による女体化の研究が進んでいますが、それが叶う事を願うばかりです。続いては・・”

「女体化よりも車の税金下げてくれるか色んな保険の簡略化してくれたほうが有難いんだけど」

軽くぼやきながらテレビを切って時間を確認する、時刻は夕方の5時ちょっと・・もうすぐで息子が帰宅する
時間帯だ。おやつ用意しないと色々五月蝿いので私はそのまま立ち上がると戸棚の在庫をチェックする、子供の
おやつがちゃんとある事を確認するとそのまま冷蔵庫から材料と棚から鍋を取り出して晩御飯のグラタンに
使うホワイトソースの準備に取り掛かる、そういえば前にテレビで簡単なホワイトソースを作る裏ワザが
紹介されていたが、どうせ手抜きはそこまで味を出せれないだろう。
“主婦ならば家計と家事に旦那の操縦ぐらいはしっかりとしておけ”と母親に耳タコができるぐらいまで
言わされている、それに料理の方も未だに嫁ぎ先がない3つ上の姉から教わっているので対して支障はない。

それにしても料理やお裁縫など私よりも家事が万能に出来るあの姉は未だに独身なのは何故だろう? 
男をやって10数年の私でも未だに男心だけはわからないものだ。

「さて、これで仕込みはお終い。後は晩御飯に合わせて・・」

“ピンポーン”

「帰ってきたか。全く、自宅のチャイムは鳴らすなとあれほど言ったのに・・」

出来上がったホワイトソースは蓋をして鍋ごと焜炉上に放置して今度は学校から帰ったばかりの息子を
出迎える、悪戯真っ盛りに差しかかる息子のブームは自宅のチャイムを鳴らして宅急便に成りすますこと・・

何に影響を受けたのか良く解らないがこちらも一計案じる事にする。

“奥さん、おとどけものでーす!!”

「あらら、悪いわね」

まだ変声期を迎える前の甲高い声、これで引っかかる人物などまずいないだろう。
最初の内は何度か合わせて引っ掛かった振りをしたのだけどもこれ以上癖になられて他人様に迷惑を
掛けられても困るのでここら辺りで終わらせることにしよう。

「あー、宅配屋さん? 悪いんだけど別の人が先に荷物届けてくれたのよ。中身を確認するとなんとお菓子の詰め合わせ」

“えっ・・お菓子?”

「そうなんですよ、しかもクッキーの詰め合わせ。それに最近は物騒ですもんね、荷物の住所は間違えると
会社に帰らなきゃいけないし・・まぁ、私はその間は貰ったお菓子を食べることだけどそちらもお仕事大変ですよねぇ~」

明らかにドアの外にいる息子はお菓子という言葉に動揺している、さてさて後何分持つことだろうか・・

“・・・い・・”

「どうかしましたか? 宅配屋さんならハッキリと仰ったらどう」

“は・・早く家に入れてー!!!”

「はい、よく言えました」

まだまだ青い息子はすぐに根を上げ、私に軍配が上がるのであった。

無事に家に入れた息子・・もとい白根 卓(しらね たく)。卓はランドセルを放り投げて泥んこのまま、ただいまよりも
真っ先に私にお菓子の行方を聞く。

「お母さん!! お菓子は・・お菓子どこ!!!」

「そんなものあるわけないでしょ、それにね家のチャイムは鳴らすなって言ったよね」

「そ、そんな・・反則だよ・・・」

「大人の世界に反則も糞もないの。覚えて置きなさい」

姉の言葉だけどね・・っと小さな声で呟きながらいつものように息子を出迎える、まぁしかし・・ここまで泥んこに
なるぐらいに遊べるたくましさは確実にあの人の影響だろう。

「おやつは戸棚に置いてあるからそこに放ってあるランドセルを片付けてそのまま手を洗ってから食べてよ」

「へぇ~い」

先ほどとは対照的に力のない返事をしながら卓は自分の部屋に戻っていく、そのまま私は少し冷えてしまった
身体を再び温めるためおこたに入る。再び緑茶を啜りながら晩御飯まで待ったりとくつろぐ。それにしても
おこたというものは人類史上の発明品だと思う、夏になれば物置へとボツシュートされてはしまうのが
勿体無い気もするが夏になれば布団が余計にかさばってしまうのでその時はお役御免となるのだ。

卓はと言うと戸棚からおやつであるポテチを取り出すとそのまま私と同様におこたに入ってテレビを見ながら
ポテチをほうばる、まるで先ほどの悲壮感が嘘のようだ。

「今日は何があったの?」

「いつものように学校が終わったら勇輝たちと遊んだよ。
やっぱり外が寒い分だけおこたのありがたみがよくわかるもんだ!!」

「なんじゃそりゃ。宿題はちゃんとやってるの」

「ポテチ喰ったらここでやる」

「・・自分の部屋でしなさい」

「ケチ」

おこたで宿題なんて卓の年齢では10年早い、私の子供の時を考えて見ればおこたで宿題なんて贅沢の極みだ。
昔、おこたで宿題をしようとしてた私達に母親が叱った気持ちが今になって良く解る。

「あ~あ、俺の部屋におこたつけてくれないかな。・・美人のママ、可愛い息子のお願い聞いてくれない」

「ダメ。・・どうしても欲しいんならテストで10連続で100点取ったら考えてあげる」

「ちぇ・・」

子供部屋におこたなんてつければ光熱費がとんでもない事になる、自分の部屋があるだけでも有難いと
思わないかなこの息子は・・?

「じゃ、今日の晩御飯は何?」

「美人のママお手製のカレーグラタン、美味しいわよ」

「やりぃ!! んじゃ宿題してくる!!!」

卓は一気にポテチを食べ終えると笑顔で自分の部屋に舞い戻る、全く子供と言うのは分かり易いものだ・・



おこたで卓と一緒にまったりした後、あの人が帰ってくる時間がそろそろ近づいてきたのでこっちも晩御飯の
準備に取り掛かる。前日にカレーを多く作りすぎたら味も深くなるし、色々な料理に応用が出来るので家計には
とてもお優しい最強の調味料だと思う。
カレーに先ほど作っておいたホワイトソースと軽くマカロニを茹でてピザ用チーズをグラタン皿に適当に
盛りつけて後はオーブン兼レンジに入れるだけ・・こんなに簡単で味も美味しいお手ごろメニューはいい物だ。

一応花嫁修業の最中に私に料理を教えてくれた姉には本当に感謝したいもので礼として愚痴を聞いて
あげよう。グラタンが出来るのを待ちながら優雅に雑誌を読んでいると自分の部屋でやっているはずの卓が
よそよそしい様子でこちらを伺っている。

もしかして学校で何か会ったのだろうか? ここは素直に聞いてみる事にしよう。

「あ、あの・・」

「ん? どうかしたの」

「・・母さんこれ」

恐る恐る卓が渡してきたのはテストの答案用紙、しかも点数は30点・・お世辞にもいい点数とは言えない。
どうやら卓は私にテストの点数について叱られてしまうのではないかという気持ちなのだろう、事実私も母親に
テストの点数についてはこっぴどく叱られた経験がかなりある。
旦那はどうか知らないけど私にとってテスト後の結果というものは常にヒヤヒヤとさせられたものでどう
やり過ごそうかを少ない頭でやりくりしながら考えたものだ。まぁ、卓は私と違って隠したりせず堂々と見せて
きたのは褒めてあげよう、それに私や旦那はテストの点数なんて余り気にしない人間だ。

「まぁ、こんな点数なんて取らない方がおかしいわ。
100点なんてそんなボンボン出るもんじゃないし、私はテストごときでガミガミ言いやしないわよ」

「本当・・?」

「子供に嘘ついてどうするのよ」

「よっしゃぁぁぁぁ!!!! これで俺の人生もハッピーだぜ!!!!!」

多分卓は私の事が天女のように写っているだろう、しかし調子に乗らしてもいけない。

「調子に乗るな。さっさと宿題やっちゃいなさい」

「イテ・・わかったよ」

軽く卓のでこを小突くとそのまま卓はテストを持ったまま自分の部屋へと向かうのであった。



小一時間後、もう少しで旦那が帰宅する時間に差しかかる。時刻は丁度7時前・・レンジからはカレーと
チーズの匂いが混ざり私の鼻に晩御飯時を知らせる。

「さて、ご飯も出来るし。もうそろそろ・・」

「美由紀ちゃーーん!!! 愛しの旦那様が帰ったぞ」

「・・帰ってきた」

いつまでも変わらないその軽い性格に愛情溢れる仕草、そしてこの家の大黒柱であり私の旦那・・
白根 優治(しらね ゆうじ)のお帰りだ、私はいつものように玄関先で旦那を出迎える。

「お帰り」

「ただいま! う~ん、やっぱり美由紀ちゃんは綺麗だね」

「あなたはいつも幸せそうね」

この人とは高校時代からの付き合い、とにかく明るい性格で私を元気にしてくれる。出会いのきっかけは
なんと言うか・・たまたまのんびりしてた私に話しかけてくれたのが始まりでそこからは色々話していくうちに
男女の付き合いとなり、同じ大学を出てそのまま就職先も一緒になったのだ。そのままお互い普通にOLと
サラリーマンをしているころにこの人からプロポーズを受けて結婚したのだ。

その時は既にお互いの家を行き来もしていてお互いの両親には付き合っていることは報告済みでは
あったので今更結婚してもいいだろうと言う軽い考えからなったものだ。旦那の帰りに自室で宿題をしていた
卓もウキウキ顔で、旦那のほうも同じようにウキウキ顔で卓を出迎える。傍から見れば本当に良く似た
親子だろうと思うだろう、事実家族である私もそう思う。

「お帰り、父ちゃん!! お土産は」

「おおっ、卓よ。帰ってきたぞ!! お土産は・・これだ!!!」

そういって旦那は体一杯卓をハグする、おそらく卓の方は玩具かなんかを期待していたのだろうと思うが
突然の旦那のハグに軽く呆然している状態だ。旦那が卓を解放するが卓の表情はさっきと同じように
まだ呆然としたままである。

「お土産・・」

「何を言っている。父ちゃんのお土産は良かったろ?」

「はいはい。卓、手を洗って台所で待ってなさい」

「うん」

そのまま素直に卓は洗面所へと向かい手を洗う、毎度の事ながら旦那は自分の子供をからかうのが
非常に好きなようだ。まぁ、私も付き合ってた頃は散々からかわれた経験があるので慣れっこなのだが
子供には少し抑えて欲しいものではあるがそれがこの人の良さだ。

「からかうのはいいけど、程々にしてよね。後が大変なんだから」

「わかってるって」

この人は本当に分かってるのだろうか・・? そんな私の疑問もすぐに立ち消えて卓が待っている台所へと
向かう、その卓はというと先ほどの呆然とした表情はなく目の前にあるカレーグラタンに幼さが出すギラギラした
視線を出しながら食い入るように見つめていた。どうやら心配した私がアホだったようだ・・

「ま、まだ食っちゃだめ?」

「お父さんが来るまで待ちなさい」

子供と言うのは現金なものだ、そうこう言っているうちに着替えを済ませた旦那が台所に到着して卓の
お待ちかねである晩御飯が始まる。

「おっ、今日はグラタンか!」

「昨日のカレーが余ったからね。それじゃ・・」

「「「いただきます!!!」」」

開始早々、卓はどこぞやの大食い選手みたいにカレーグラタンに頬張りつく、旦那のほうも卓と同じように
グラタンを食べる。

「う、うめぇ!! やっぱ母さんの料理はうめぇよ!!」

「だろ? 美由紀ちゃんの料理はうまい!!!」

「・・2人とも詰まらせても知らないわよ。言っておくけどお代わりないからね」

「「ウ、ウグッ!!!」」

私がそう言った瞬間に親子はグラタンを喉に詰まらせ慌てて水を一気飲みする、やっぱり親子だ。

「あなたは兎も角として・・卓、行儀が悪いからちゃんとゆっくり味わって食べなさい」

「ひゃい・・」

「なんで俺には言わないの」

「あなたは昔から言ったって聞かないでしょ」

「ううっ・・そりゃないだろ」

そういって私も自分の作ったグラタンを味わう。うん、うまい! さすが私。

楽しい食事も終わって卓に洗い物を手伝わさせて終わらせると待っているのは食後の雑談タイム、旦那の方は
ビールを呑みながらいつもの笑みを更に発展させたご満悦の表情を浮かべる。

「卓~、学校は楽しいか」

「楽しいよ」

「そうかそうか。あっ、そういえば昼頃にお義母さんから電話が掛かってきてな、美香(みか)義姉さんの
お見合い相手紹介してくれってさ」

「姉さんの?」

旦那の言葉に少し驚きながらも私はじっくりと話を伺う、今までにも姉はお見合いをしていたのだが何故か
どれもお気に召さないようで全てご破談。やっぱり母からしてみれば未だに独身の姉が心配なのだろう、それに
女体化を経て結婚している私を見てるとまだ孫の顔が見てみたいのかもしれないが・・

「ああ、会社で手ごろな独身の奴を紹介してくれだってさ」

「姉さんもいい年通り越し掛けてるからね。母さんも心配なんでしょ」

「俺、叔母さんの結婚相手になってもいいよ!!」

「あんたは首を突っ込まないように。で、どうするの?」

大人のお話にしゃしゃり出る卓を抑えながら私は旦那に是非を聞いて見る、やっぱり私として見れば姉は家事は
万能だし嫁に入ってもおかしくはないと思う。旦那はビールを一のみしていつもの口調であっけらかんと答える。

「まぁ、紹介するさ。職場でも女体化は逃れど結婚願望の強い奴は結構居るからな」

「あっ! 女体化と言えば俺の担任の佐藤先生は女体化してたんだぜ」

「えっ、そうなの?」

「うん。今日の道徳で女体化について勉強したんだけどそう言ってた」

卓の担任の先生が女体化をしていたとは少し驚きだ、まぁ今じゃそんなに珍しい事ではないので
どうでも言いが・・家庭訪問の時も少し馬が合ったこともあったがもしかしたらそれも一つの理由なのかもしれない。

「へー、じゃあ卓が女体化したら俺も娘持ちか。それはそれでいいかも」

「するわけないじゃん!! 俺は野球選手になるのが夢なんだし、女になったら野球出来ねぇよ!!!」

「まぁ、プロ野球は男の職業だからな。頑張れ、俺と美由紀ちゃんは応援するぞ!」

そう言いながら旦那はビールを置いて卓の頭を撫でる、女体化云々に着いてはいろいろな偏見があるようだけども
私は考えた事すらないので考えなくてもいいだろう。私も淹れておいた緑茶を啜りながら寒い身体を温める・・
まったりとした時間が静かに流れて穏やかな気持ちになっていた私ではあるが卓がそれをぶち壊す衝撃の事を口走る。

「なぁ、父ちゃんお母さん・・俺、兄弟が欲しい!!」

「「ブッ――!!!」」

卓の衝撃な一言に私は飲んでいた緑茶を盛大に吹き出し、滅多に驚かない旦那も呑んでいたビールを吹き出して
夫婦共々変な醜態を我が子に見せてしまう。

「兄弟って・・兄弟よね?」

「何言ってるんだよお母さん。皆兄弟が居るのに居ないのは俺だけだぜ」

「おおおっ、俺も一人っ子だがそんなに寂しくはない・・ぞ」

「だけど俺・・弟か妹が欲しい!!!」

私達夫婦になんて無理難題を押し付けるかな、この息子は・・もしかして情操教育がない分、納得させるのは
骨を折りそうだ。旦那の方も珍しく口篭って何を切り出そうか悩んでいる、せめて情操教育が必要なお年頃に
なってほしいのだけどそこまで待っていれば私も旦那共々かなり歳取ってしまうだろう。

「あの・・卓君? 私には叔母さんがいるけど楽じゃないわよ。それでも良いの?」

「ああ!! 俺が愛情込めて可愛がる!!!」

「ダメだなこりゃ・・卓よ、まずは風呂に入ってスッパリとあk」

父親として最悪な言葉を言おうとしている旦那の口を両手で慌ててふさぐと話題を必死に転換する。

「フガガガッ!!!」

「おおお、お風呂ね!! 準備してるからお父さんと入りなさい!!!」

「オッケー!!」

まるで脱兎の如く、卓はそのまま脱衣場に向かう。卓が居なくなったのを確認すると私は旦那を解放する。

「気持ちは解るけど、その一言は父親としてはNGよ」

「あ、ああ・・俺も気が動転してたよ。・・卓と風呂入ってくる」

旦那に卓を任せると私は体中から盛大な溜息をつきながらどうするかを必死に考えていた。・・主婦ってやっぱり難しい




―fin―


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最終更新:2008年12月05日 00:57
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