中野 椿・・華の中学3年生、傍から見れば普通の女子中学生であるが彼女の場合はちょっと違う。
生まれた頃から実兄である翔によって起こされる様々な厄介ごとの火消しを常に背負わされると言う悲しき宿命を持った少女、皮肉にも彼女のその非凡な才能は趣味である音楽よりもそういった方面で発揮されるという悲しい現実が起きている。
それはそんな彼女のお話・・
因果断絶
◆Zsc8I5zA3U
朝、椿はいつも通りに起床をして顔を洗い自室で髪のセットをするのだが・・ここでいつものように翔が無断で部屋に入っていってスプレーやワックスを無断拝借する。
「おっ、ちょっとワックスとスプレー借りるぞ」
「お兄ちゃん! ・・こないだ貸したブラシそろそろ返してよ」
「えっ・・わかったよ」
翔は渋々ブラシを椿に返すのだがこれはまだ良い方で下手をすれば自分の所有物にしてしまうのも結構あるのだ、油断をしてしまえば自分の所有物がなくなってしまう。
「あれこれ言わないけど、チャンと返してよね」
「わかったわかった」
信用ならない返事を残したまま翔は部屋を後にする、世間体はかなり良いのに実体はこうなのだから呆れてしまう。
そのまま椿は髪のセットを終えると台所へ行きテレビを見ながら用意されてた朝食を食べる、ちなみに中野家のチャンネル権はフリーダムなのでいつものようにお気に入りの番組を見ながら流行を欠かさずチェックするのは歳相応と言うべきであろう、ちなみに父親は仕事での出張で県外にいるのでこの場にはいない。
「そういえば明日は翔の学校の授業参観ね。お父さんに話すの忘れちゃったし・・」
(ゲッ・・)
授業参観・・何気に母が呟いたその言葉に椿は思わずゾッとしてしまう、去年の授業参観は翔があの手この手で両親の参加を食い止めて無理矢理椿を参加させていたのでかなり気が折れたのはよく覚えている。
「去年は町内の旅行とかち合ったから今年は流石に行かなきゃまずいわよね」
「そ、そうね。お母さんもたまには・・」
「・・母さん、その日はパートだろ? 親父だって戻ってこないし仕事は優先した方が良いと思うぜ」
即座に翔は母親の参加を阻止しようとする、それに今回は運が良いことに父親は出張なので思うように事を運ぶ事が出来るのだ。
「そうだったわね、母さん忘れっぽくって・・でも先生方に挨拶しなくて大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。家庭の事情だから仕方ないさ」
「わかったわ、あまりいけなくてゴメンね」
こうして母親の参観日参加を阻止した翔は一安心すると味噌汁を啜るが椿の方はこれからの事を考えると余り食欲もよろしくない、そのまま2人は食事を終えると準備を済ませると母親がいつものように見送りにやってくる。
「それじゃ気をつけてね」
「「行ってきます」」
そのままカバンを持った2人は道中が一緒なのでしばらくは2人で登校する、傍から見れば仲睦まじい兄妹に見えるのだが実際のところはそこそこと言ったところ。一時は壊滅的なぐらい冷え切っていたのだが何とかここまで持ってこれたのは奇跡といったとこである。
「それじゃ、いつも通りに・・」
「絶対に嫌。どんな手にも屈しないわ」
「・・以前にお前の補習をやってやったよな? それに課題のレポートの作成も俺がやったな」
(うっ・・)
事実が事実なので椿は言い返せない、特に提出期限がヤバイものは殆ど翔にしてもらっていたので不自由なく学園生活を送っている。しかしここで屈してしまえば今までと同じように翔の言いなりになってしまうので椿は出来る限りの抵抗を試みるがこの兄に勝てる程のスペックを残念ながら椿は有してはいない。
「後は去年の夏休みや冬休みの宿題もやってやったし・・勉強だって教えてやってるしな」
「あ、あれは・・!!」
「それに夏期講習だって避けられている成績を保ててたのは誰のお陰だ?」
「わ・・わかった」
遂に降伏してしまった椿は自分の情けなさに溜息が出る、そのまま翔は明日の授業参観のための手はずを整えさせる。
「とりあえず中学には高熱で休みって言っておけ、高校には正直に言っておいた方が通るからな」
「・・」
「そう睨むなよ、参観日が終わったらなんか奢ってやるから」
「じゃ、お小遣いと服買って」
「へいへい」
こうして買収までした翔は意気揚々としながら更に練密な計画を脳内で組み立ててる、椿は気乗りはしないものの折れてしまった身なので何ら反論は出来ない。バス停にさしかかると椿はバス通学なのでここで翔とはお別れ、このまま暫くは翔とは別れておきたいのは言うまでもないだろう。
「そんじゃ、俺は行くから明日は頼んだぞ。それとなんかあったら言えよ」
「うっさい!! さっさと行ってよ!!!」
そのまま強引に翔を追い払った椿は丁度良く目当てのバスがつくとそのまま乗り込んでゆっくりと休養する、時間的に朝の通勤ラッシュなのだが電車と比べれば遥かにマシなので結構ゆったりと出来る。バスの中にはぞろぞろと同じ中学の人間が集まると知り合いにはいつものように挨拶をしながら他愛のない話題で普通に楽しみながら学校へと向かって行く、誰にも干渉されないこの時間こそが椿にとっての唯一の楽しみでもあるのだ。
「ねぇ、椿のお兄さんってこの学校の卒業生よね」
「そうそう、頭が良くて結構カッコイイって先輩から聞いたことあるわ」
(中身は全然違うわよ・・)
どうやら翔は学校の中でもかなり世間体が良かったのが窺える、それが椿にとってはどうも悲しくなってしまうのだが彼女達の夢を壊すのは少し忍びない・・ここは黙っておいたほうがいいだろう。
「そういえば合唱コンクールで椿はピアノだけど練習しなくて大丈夫なの?」
「うん、大体は楽譜見ればわかるし音程の微調整程度なら2回ぐらい弾けばいいからね」
こうみえても椿は音楽に関してはそれなりの英才教育を受けておりコンクールに何度か入賞した実績がある、その才能を見込んだ周囲はその将来に期待したのだが本人は周囲との決定的な実力差に愕然としてしまって情熱を失い音楽をやめてしまった。腕は衰えてはいないものの今は趣味程度で楽しんでいる、それに好きな事で自分を追い詰めていきたくない。
「勿体無い話と言えば勿体無いわね」
「でも本人が楽しめばいいんじゃないの。それよりも中野先輩についてだけどさ」
(何も知らないって本当に幸せね)
そのまま椿はバスに揺られながらささやかな談笑を楽しんでいた。
教室
「おっす、祈美・・また徹夜?」
「お、おお・・積みゲーを消化したら朝がきたでござる」
彼女は同級生の木村 祈美、辰哉の妹で椿の友人でもある。どうやら顔色が優れないとこを見るとまた徹夜でゲームをして睡眠をとっていないようだ、見た目は普通の女の子なのに趣味はいささか個性的ではあるものの何だかんだ言っても一番気の置ける友人には違いないのでいつものように話を振る。
「寝るな~、学校は始まってるぞ」
「ううっ・・椿、宿題見せて」
「はいはい、わかったわよ」
いつものように祈美は椿に宿題を写させて貰いながら眠りかけの身体を何とか目覚めさせる。ちなみに昨日は殆どがプリントだったので余り時間が取られないのは幸いといったところだろうか?
「そういえば私ちょっと明日は学校休むから周りに話し合わせて」
「ちょwwwwwwwwいきなり学校休む宣言とかwwwwwwwwwwwwwwww」
「声が大きい!! ・・ちょっと不本意で授業参観に行く破目になったの」
そのまま椿は宿題を写している祈美にこれまでの経緯を説明する、流石の祈美も思わす同情はしてしまう。
「ま、その宿題も全部お兄ちゃんが片手間にやってたからね。全て正解なのは保障する」
「同情はするよ。・・でも高校に行けるなんてテラウラママシスwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「宿題見せてあげないわよ」
「ちょwwwwwwwwゴメンゴメン。でもうちの兄貴も通ってるから感想はよろしくね」
「ま、一応名門だからね。期待しないで待ってて・・」
そのまま椿の溜息と共に時間は過ぎて行く・・
お昼休み・音楽室
いつものように2人は購買部でパンを購入すると決まって音楽室で昼食を取るのが恒例となっている。
「さて、今日は・・組曲で頼むよ、動画見せて上げたんだから出来るでしょ?」
「組曲って前に見せてもらったあのメドレー? 大体は覚えているから出来ない事はないけど・・ちょっとリズムがまとまらないかもよ」
「出来るならおkwwwwwwwwww」
「はいはい」
そのまま昼食を食べ終えた椿は音楽室のグランドピアノの鍵盤を撫でるように音を出してくと本日の調律を確かめてそのまま祈美のリクエストに応えて曲を弾き始める。
趣味レベルにまで落ち着かせても腕が鈍るのを良しとしない椿にしてみればこうやってピアノを弾き続けるのは良いストレス解消にもなるし、腕を維持することもできる・・ただ、少々曲目が偏っているのはご愛嬌というやつだろう。
「・・どうだった? 個人的には今ひとつだったけど」
「いや~、さすが椿だよ。絶対音感の持ち主はやっぱり違うね」
どうも今回の曲は椿にしてみれば常人では判らない微妙な音感のズレが気に入らなかったようだ、個人的にもこういったメドレーはどうも苦手なほうだ。
「そんじゃ次は・・」
「待った、ちょっと調整するために別の曲弾くわ」
そのまま椿は自分の感覚を調整するために得意の曲を弾きなおす、音楽室からは何とも言えないピアノ独自の美しい音が響き渡る。
「・・よし、そんじゃ次は何?」
「FFにちなんで・・片翼の天使。やっぱり空耳は外せないwwwwwwww」
「はいはい」
そのまま椿は祈美のリクエストに応えながら時間の許す限り曲を弾きつづける、音楽だけは翔以上の知識と経験を持つ椿は音楽の授業でも一際目立っており音楽の教師からも吹奏楽部への誘いを度々受けているのだが未だに固辞し続けている。
すでに音楽への情熱が冷めている椿にしてみれば将来は副業で慎ましやかにピアノの講師をしていたほうが自分に合っているような気がしてならない、真剣に取り組んでいても周囲に埋もれてしまって表立って才能を発揮する機会などないだろう。
(・・ま、私にとって音楽は自分を癒すためのものであってプロなんて似合わないしね)
「いや~、身近にアニソン弾いてくれる人がいると幸せだwwwwwwww」
「おっと・・時間的にも次で最後だけど何になさいますかお客様?」
「んじゃね、アンインストールで!!」
「祈美の趣味に馴染んでいる自分が恐ろしいわ・・」
今日も音楽室ではピアノの音が響く・・
翌日、母親はそそくさと朝食の準備を終えるとパートのために家を空ける。
「それじゃ、お母さんは出かけるけど・・帰りは夜の7時ぐらいになると思うから」
「ああ、ちゃんと頑張ってこいよ」
「2人とも夕食には戻るからね・・って椿はどこか元気ないわね?」
「へっ? だ、大丈夫よ、行ってらっしゃい」
そのまま母親を見送ると椿は携帯を取り出して風邪を装いながら学校に連絡をする、携帯で連絡を取るのは万が一に連絡をされても即座に対応をしやすいからだ。
念のために翔にも傍にいてもらいながら椿は迫真のこもった手馴れた演技で高熱を装う。
「ゴホッ、せ・・先生。急に熱が出て・・」
“おいおい、大丈夫か? 熱は何度だ”
「さ・・さんじゅうく・・ゴホッ、ゴホ!!」
恐らく電話口からは風邪を患っているかのような感じで聞こえているだろう、更に駄目押しに椿は静かに翔に電話を譲る。
「あっ、先生。お久しぶりです!!」
“な、中野か!! 妹は大丈夫なのか?”
「ええ・・1日薬飲んで寝ていれば治りますけど傍から見れば結構しんどそうですし、俺も無理するなって止めたんですけど・・本人がどうしてもって言うから電話させたんですけどね」
(はぁ・・これがあの兄の実態だと知ればどう思うでしょうね)
いつものように饒舌でややオーバーに平然と嘘を語り出す翔に椿は決して口には出さないが思わず呆れてしまう、それに卒業しても翔は椿の学校においては優秀なOBには変わりないので未だに教師からの信頼も厚い。
特に今の椿の担任の教師はかつて翔の担任でもあったので椿が築き上げてきた彼の表向きな実績や人柄を熟知している。
今回も椿の演技と翔の信頼で今回はどうにか乗り切れそうである。
“そうか、お前が言うんだから本当なんだろう。妹にはしっかり休んで置けと伝えてやれ”
「すみません。自分からよく伝えておきますので・・はい、それでは失礼します」
そのまま電話を切ると翔は椿に携帯を返すと今度は授業参観のプリントを手渡す。
「これが今日の日程だ、保護者の話し合いについては親が仕事で外せないからっていえば参加しなくても終わったらまとまったプリントをくれる」
「・・だったら、私が行く必要がないじゃないの」
「お前バカか。こういった事をやっておけば親の信頼も上がるし、母さんだってそういった話題を振られた時にちゃんと話すことはできるだろ」
もっともらしい言い分に椿は感心するどころか理解を通り越して呆然としてしまう、もはや翔の行動は椿の理解の外にあるようだ。
「先生と母さんの間は俺が話しておく、お前は普通に俺の授業を見ていればいいんだ。今日はバイトが休みだから帰りになんか買ってやるよ」
「ねぇ、偏頭痛がしてくるんだけど・・」
「根性で治せ。学校の場所はわかるな、時間通りにちゃんと来いよ・・んじゃ、行ってくる」
(子供が産まれたら絶対に今までのこと暴露してやるわ!!!)
まさに自分勝手そのままの理屈を椿に残しながら翔は学校へと向かって行く、残された椿は偏頭痛と戦いながら時間を潰していくのであった。
数時間後・・周囲を気にしながら椿は翔が通っている白羽根学園に到着する、本来なら自分は高熱で休んでいるので知り合いや学校関係者の目を気にしながら慎重にここまでたどり着いた。
「あの、特進クラスの中野ですけど・・両親がどうしても仕事の都合で来られないようなので代わりに来たんですけど」
「ああ、話は聞いています。それでは教室に向かってください、今回の保護者の話し合いが終わったらこの受付にプリントを置いておきますのでご自由にお持ち帰りください」
「・・どうも」
受付を済ませて教室に向かう椿は周囲の保護者を見回して見ると明らかに浮いている自分に恥ずかしさを覚えてしまう、去年に来たとはいえこの恥ずかしさにはどうしても慣れないし慣れたくもない。そそくさと教室に向かう中で椿はとある人物と出会う。
「つ、椿じゃねぇか!! 何でこんなとこにいるんだよ・・」
「聖さん・・」
最初に出会ったのは聖なのだが椿は今にも泣き出しそうな思いで聖に駆け寄る。
「うわああああ・・聖さぁぁぁん―――」
「ど、どうしたんだよ・・いつもの椿らしくねぇぞ。よしよし・・またあいつがなんかしでかしたんだな」
聖にしてみれば何でここに椿がいるのかが疑問に思うのだが、すぐに事態を察知して椿を慰める。
「全く、あの野郎!! いい歳こいて妹を泣かせやがって!!!!」
「だ、だっで・・」
「安心しろ、終わったらきっちり俺がぶちのめすから・・だから泣きやめよ。なっ?」
「うん・・ありがとう」
どうにかして落ち着きを取り戻した椿はここで聖に会えた事に感謝する、去年はたまたま聖とは出会えなかったのでこうして聖といられるとつい安心してしまったのか感情が抑えきれなかったようだ。
「そういえば聖さんは授業参観だけど親は来てるの?」
「んなもん来るわけねぇだろ。あんなもの知らせるほうがおかしい」
これまた常識破りな理論ではあるが身内を巻き添えにする翔よりかは充分マシといえよう。それに改めて学園をみて見るとその広大さや生徒の多さには納得させられる、椿が入学する時は既に聖も卒業しているのが残念なところだ。
「ま、いい機会だし充分に見学するのもいいと思うぜ」
「そうね・・白羽根学園は有名だからいい機会かも。ありがとう、聖さん」
「さて、そろそろ授業が始まるから俺は教室に戻るわ。んじゃな」
そのまま聖は教室に戻ると椿は記憶を頼りに翔のいる教室へテクテクと歩いていくのだが、ここでまた椿はとある人物と出会う。
「おや・・見かけない顔だな」
「あなたは?」
「ああ、これは失礼した。俺はこの白羽根学園3年の宗像 巌だ」
「私は中野 椿です、兄のいる特進クラスへ行くところなんですよ」
この椿の物言いにとてつもない疑問を覚える宗像であったが、授業が近いので疑問はとりあえず後回しにしておくと時間が押しているので少し申し訳なさそうな表情で進み始める。
「よくわからんが、俺も特進クラスの所属でな。・・っと、無駄話している暇はないな。急いでいるのでこれで失礼させてもらうよ」
「あ、はい。呼び止めてすみませんでした」
そのまま宗像は少し小走りで彼方へと消えて行った、そして椿も教室へと急ぐ・・
特進クラス
椿はそのまま目立たぬように保護者の中を掻き分けて位置を確保すると授業参観を開始する、妹が兄の参観をすると行った奇妙な光景がひっそりと行われていた。
(英語の授業って先生も生徒も日本語喋らないの・・?)
今回行われているのは英語の授業、先生はおろか回答している生徒も全て英語で受け答えしているので椿にしてみれば何を言っているのか訳がわからない。
これが特進クラスと一般のクラスの授業の違いなのだがこれを椿が理解するのは多分一生ないだろう、それによく見ると兄である翔や先ほどであった宗像の姿が見受けられる。
(あ、あの人・・お兄ちゃんと一緒のクラスだったんだ。去年はよく見ていなかったから気がつかなかったけど)
「OK。・・さて保護者の皆様、今回はお忙しい中をご足労頂き有難うございました。英語の授業は教師と生徒は基本的に英語で受け答えしますのでごゆっくりとご参観下さい」
(・・ここの人間は私と頭の出来が違うわ。ちょっと外に出よう)
そのまま椿は再び目立たぬようにゆっくりと特進クラスを後にする、この授業を聞いていたら自分の頭は混乱すること間違いないし精神衛生上よろしくないので深呼吸しながら学校内を散策する。
「高校ってこんな感じなのね・・ってあのクラスは聖さん?」
たまたま椿が目に付いたのは聖のクラスの教室、しかも机にかじりつきながら教科書をじっと見つめている。先ほどはああ言っていたもののやはり授業参観となると流石の聖もやる気が違うようだ、そんな姿に感心していたその矢先・・聖の頭がこっくりこっくりと傾いている、よく目を凝らして見るとどうやら授業参観中に堂々と居眠りをしていたようだ。
「授業参観中に居眠りするなんて凄い根性・・」
(え・・あの娘って何者?? 中学生の学校見学なんて聞いてなかったし・・)
そんな聖の姿に夢中になっている椿に視線を送るちびっ子が1人いた、この授業参観を見守る者として授業の様子と教師の監視を並行して行っていた霞である。ちょうど霞は監視ルートに沿って歩いていたら教室を食い入るように見つめる椿に目についてしまったわけ、中学生の学校見学にしては時期が早すぎるし残念ながらそういった話は聞いてはいない。
(授業参観に居眠りなんて大それた真似は聖さんじゃないと出来ないわね)
「え~・・えっと、どこの生徒さん?」
「あっ、すみませ――・・しょ、小学生っ??」
椿は振りかえるとそこには小学生低学年としか思えない少女の姿・・もとい、白羽根学園校長である霞の姿に唖然とするしかなかった。
思わぬ出会いに2人は暫く唖然とするしかなかったのだが、ここでは椿の方が冷静さを取り戻すのが早く、霞を学校に迷い込んだ小学生と勘違いした椿は年長者としてこの奇妙な事態を収拾する。
「君はどこの小学校かな? お姉さんと一緒に――」
「・・この学校の校長です」
「えっ、校長? お姉さんをからからうんじゃ・・って、この学校の校長先生!?」
驚愕の発言に椿は目の前が真っ暗となって抑えられてた偏頭痛が再び悪化する。この現実が夢ではないのは皮肉にも痛みでよくわかるのだが、椿の今までの短い人生でこれほどまでに驚愕したのはこれが最初で最後だろう。しかし霞に限ってはこのような椿の反応などほぼ毎日のように見慣れた光景であり、むしろ初見で自分に驚かなかった人間の方が少ない・・ある人物に限っては初対面にも拘らず、自分を問答無用で近くの小学校に連れて行ったほどだ。
霞は椿を落ち着かせるために顔写真入りの名刺を差し出すと改めて自分の自己紹介を行う。
「当、白羽根学園 校長の藤野 霞です。・・ま、こんな成りだから驚かないほうが無理ないわね」
「本物の・・校長先生?」
名刺と本物の霞の姿を見比べると椿はようやく自分の失態を恥じる。
「も・・申し訳ありませんでした!! まさか校長先生だとは思わなくて・・」
「気にしなくていいのよ、こんなことは慣れっこだから・・ところであなたは?」
「あっ、私は中野 椿です。今回は特進クラスの中野の代理で来させていただきました、両親が仕事で来れないので・・」
椿は事態がややこしくならないように慎重に言葉を選びながらこれまでの経緯を説明する、冷静になって考えればこのような事が両親にばれたら翔はもとより片棒を担いだ椿まで説教の一つでは済まされない。幸いにも去年はあそこまで大事にはならなかったのだが今回も同じように切り抜けられる保証などは一切ない、現に今回は接触してしまった人物が多すぎる。
「あ~、リストに書いてあった。中野君のご両親もまめなのかよく分からないわね」
「は、はぁ・・」
正直言って椿は早くこの場から離れたかったのだが、下手な行動をしてしまえば自分の名誉に関わる事なのでなるべくは出来るだけ自然にかつ穏便に済ませておきたい。
「椿ちゃんだっけ、中学生なの?」
「え、ええ・・中三です」
「それじゃ良い機会だから一緒に校内を見学しましょうか。仕事もしなきゃいけないし」
椿とすれば非常に有難い申し出ではあるのだが、あまり自分の姿を大っぴらにするのは遠慮しておきたいところ。何せ自分の存在は本来ここにいてはいけないのだから・・
「(ま、まずい・・けど断る術が思いつかない)仕事って・・なんですか?」
「授業参観だからね、校長として全てのクラスの様子をチェックしないといけないの」
これも立派な校長の仕事、授業参観をきっちりと様子を見ておけばPTAとの話し合いにも役に立つ場合が多いし各教師それぞれが普段どのような授業をしているのかもよくわかるのだ。
「でもお仕事の邪魔になったらまずいんじゃ・・」
「大丈夫よ。それじゃ行きましょうか~」
(ど、どうなるの・・私?)
思いもよらない展開の連続にすでに頭の中が混乱している椿であった。
数分後
「あっ、悪いんだけど私これからPTAとの話し合いがあるからこれで失礼するわ。椿ちゃんも入学する時はよろしくね」
「は、はい・・お忙しい中ありがとうございました」
授業が終わって霞はPTAとの話し合いがあるので申し訳なさそうにしながら椿の元を去る、残された椿はようやく安堵しながら自分を落ち着かせると改めて翔の通っている学校が偉大だと思い知らされた。
「校長先生があんなのだったら・・慣れるのには相当時間が掛かりそうね」
そのまま椿は近くの自販機で飲み物を購入して飲みながらこの無駄に広い校内を散策する、こんだけ広いのなら校内にコンビニぐらいは欲しいものだ。霞と一緒にある程度は見学は出来たもののまだ見学をしきれていなかったところが多かったので、こうして校内を適度に散策してる。
あくまでも椿の目当ては参観日終了時に配布されるプリントなので参観終了までには結構時間があるのだ。
「はぁ・・早く終わらないかな」
「・・おや? 君は先ほどの」
「あ、あなたは・・宗像さんでしたっけ?」
突然、椿の前に現れたのは宗像・・どうやら授業が終わって応援団室に向かっていた途中のようだ。再び再会を果たした両者であるが、ようやく宗像は後回しにしていた疑問をぶつけようとするのだが憂いげな椿の表情に宗像は何となく察すると仏の如く柔らかい口調で語りかける。
「覚えてもらって光栄だ。特進クラスはどうだったかな?」
「え、えっと・・」
「おっと、君の緊張を解そうとしたんだが逆効果だったようだ。すまない」
「い、いえ・・」
宗像は少し頭を捻らせるながら今の椿の心情を察そうとする、彼が見る限りこの少女はどうも何かしらの事態で不本意にこの場にいるのは明白だ。
ならばと今度は少し他愛のない話題で椿の心を開かせることにする。
「(ふむ・・少し時間が掛かりそうだな)椿君だったな、何かあったのか?」
「だ、大丈夫です。ちょっと訳有りの事情がありまして・・」
「そうか」
あえて宗像は言葉を区切らせるとそのまま椿の様子をじっと窺いながら今度は話題を別の方向に持って行く。
「そういえば椿君の苗字は中野だったな。もしや・・」
「はい、中野 翔の妹です。・・兄がいつもお世話になっております」
「なるほど道理で特進クラスに向かっていたわけだ。いや、あの兄と・・」
ここで流石に宗像は椿の表情を見ると会話を中断させる、どうやら椿の前では翔の話題はまずいようだ。宗像は更に別の話題を考えようと模索していたのだが今度は逆に宗像に気を遣った椿が止まっていた会話の流れを再会させる。
「いいんですよ、この学校でもちゃんとやっているようですしね・・」
「・・ふむ、どうやら何かありそうだな。話してみてくれないか、俺で良かったら力になるぞ」
宗像の申し出に椿は少し困惑してしまうが、見たところ彼は兄と比べたら人格が出来ているようだし・・それに宗像の人柄は信頼しても大丈夫だと椿は思う。
そのまま椿はゆっくりと宗像に全ての経緯を語り出す、話を聞きながら宗像は椿の話に耳を傾けながら今回の事態を把握するが話している椿としてみれば顔色一つ変えずに冷静さを保っている宗像に椿は思わず動揺を隠せない。
「あの? ・・驚かないんですか」
「まぁ、中野だからな。知恵が回る奴だと思えば・・呆れてものが言えん」
「あんなのでも兄なんで・・」
「椿君の事情はわかった。その様子だと今までにも苦労をしているようだな」
始めて今までの苦労を労われた椿は思わず感激してしまうが、何とかその感情をぐっと堪える。さすがの宗像も身内の問題に口挟みたくはないがこればかりは少々翔に灸をすえてやらないとこのままでは椿があまりにも悲惨すぎる。
「後のことは安心してくれていい、君の気持ちに免じてこの件は俺の胸の中に留めておくよ。・・さて、時間はまだあるんだしよかったら一緒に各部活を見学でもしていかないか?」
「えっ? でも宗像さんも忙しいんじゃ・・」
「何、俺も暇を持て余していたところだ」
実のところ宗像にしてみればサボるのに都合の良い理由がでもある、それにちょうど椿の年代だと高校の進路にも関わってくるので多少の参考にもなるだろう。
「じゃ、お言葉に甘えてお願いします」
「流石に全部の部活は無理だから文化系と体育系の部活があるんだが、どちらがご希望かな?」
「それじゃ・・文化系の部活でお願いします」
「よし、それでは行こうか」
宗像の案内の元、椿は学校内にある様々なクラブの活動振りを目の当たりにする。どの部活も自分の中学とは比べ物にならないほどの情熱とレベルの高さには椿もしばしば圧倒されてしまう、宗像もそんな椿の様子を見ながら様々な解説を挟みながら教室中を歩き回る。
「どうかな?」
「どの部活もレベルが高いです。さすが白羽根高校・・」
「ハハハ、喜んでもらって何よりだ。・・そしてここがコンピュータ室、普段の授業でも使っているが今の時間はPC研の連中がここで様々なソフトを作っている。中には企業や大学に売り出して収支を上げているソフトも製作されて社会に貢献している」
椿の中学では祈美が度々コンピュータ室に忍びこんではエロゲーをする日常だったのだが、この高校では本格的な活動がされている。自分の生半可な知識では到底理解することなど不可能であろう、そのままコンピューター室を見渡すと椿は真剣にパソコンと向き会っている制服姿の他の部員に混じっている中でジャージ姿が特徴的なある人物に目がついてしまう。
「あ、あの・・PC研の先生ってジャージ着ているんですか?」
「ん? そんな筈はないんだが・・」
改めて宗像はコンピュータ室をよく目を凝らして見てみると本来この場にはいないある人物を見つけ出す。その人物は片時もマウスを離さずに他の部員よりも必死で画面に食いついており、そして勝利の雄叫びを上げる。
「よし!! 群島マップの天帝で文化勝利達成だ!!!! いや~、群島マップだと世界一周ボーナスはでかいな。さすがに天帝ばっかりやってたら温く感じるし、次は少し遺産を縛ってやってみるか」
「・・骨皮先生、何してるんですか?」
(えっ・・先生なの?)
「うわっ!! ・・って、宗像か」
他の部員が必死にプログラムを組み立てている中でゲームをしていたのは他ならぬ靖男であった、しかもコンピューター室に数限りがあるPCを占領してゲームをプレイしており、机には他にもゲームが積んでいるのだからその根性はある意味素晴らしいとも言える。
「卓球部はどうしたんですか? それに今はPC研が使っている筈ですが・・」
「うるせぇ!!! あの校長に取り上げられたゲームを奪回してやることは一つだ、卓球部の連中なら自主練してるから問題ない!!!」
靖男のあまりにもの言い分にさすがの宗像も思わず溜息が出てしまう、なるべくなら椿にも見せたくはない光景ではあるが靖男は他ならぬ教師であるので余計に始末が悪いといえよう。
「それよりも宗像、その女の子は誰だ? それに心なしか中野とよく似ている気が・・」
「えっ? わ、私は・・」
「彼女は学校見学の子です。それに校長先生がこの光景を見ればなんと言うか・・ま、これ以上ここにいるわけにもいかないんでここで失礼します」
宗像の囁きに思わずたじろいでしまう靖男であるが、折角霞から奪回したゲームをそう簡単には譲らない・・が、宗像は気配を察知するとそのまま椿を手引きして強引にコンピュータ室を後にする。
(え? 宗像さん・・いいの?)
(この場は然るべき人物に任せて置けば安心だ。もう既にいる)
2人の代わりに靖男の前にはある人物が既に接近しているのだが、哀れ靖男はその人物に全く気がついていない。
「まぁいい・・邪魔者もいなくなった事だし、折角あのロリっ娘校長から回収した・・」
「・・私がどうしたって、骨皮先生♪」
「だからこの楽しみを!!! ・・て、あれ?」
靖男の目の前に立っていたのは霞、どうやらPTAとの話し合いも終わって戻っていた矢先にこの光景が目に付いたようだ。
「こ、校長先生。何でこんな所にいるんですか・・」
「骨皮先生。・・今から始末書書いてきなさい!!!!」
「ノオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ・・・」
こうしてゲームまで取り上げられた上、始末書を追加された靖男の目は死んでいたという。
そんな光景がコンピュータ室で繰り広げられた時、宗像と椿は他の部活が活動している教室へと向かっていた。
「あの・・宗像さん?」
「・・先ほどの光景は忘れてくれ、恥を上乗せしたくはない」
宗像もさっきの靖男については溜息しか出ない、椿もそんな宗像の心情を察してかさっきの光景を忘れる事にする。それに全ての部活の活動を見終えて時間も丁度よく頃合を迎えているので時間つぶしにはよかったといえよう。
「さて、多少のハプニングもさて置いて・・椿君には文化系の部活の活動を見ていただいたのだが、どうだったかな?」
「どれも凄かったです。これで学校の皆にも自慢できますよ」
「喜んでもらえてなによりだ。・・ん? あれは」
次に宗像が目に付いたのは聖の制裁から逃げ続けている翔、更によく見ると騒ぎを聞きつけたと思われる応援団の団員の屍が築き上げられている。
「待ちやがれぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「なっ・・何でお前が追いかけてくるんだ!!!」
「うるせぇぇぇ!!! 椿の分までてめぇをぶちのめす!!!!」
宣言通りに聖は翔を執着に追い掛け回して周りの応援団員を蹴散らすのだが、ここで聖を鎮圧するために藤堂までもが出陣する。
「相良ァァァァァァ!!!!」
「チッ、てめぇは出てくんな!!!!! そしてお前は椿のためにここでくたばれぇぇぇぇぇ!!!!!」
「や、やめろおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!」
とんでもない騒動を宗像は少し遠目で見つめるのだが、椿にしてみれば自分が原因であるので即座に止めに入ろうとする。
「せ、聖さん!!! どうしよう・・早く止めないと!!!」
「うむ、少し大騒動になったな」
そんな2人を他所に騒動は激化を重ねて更に熾烈を極める、逃げ惑う翔にその後を追う聖に狙いを定める藤堂といった光景が学園中で繰り広げられる中で宗像は椿と共に現場に急行する。2人は逃げ惑う翔の進路を阻むように立ちはだかると追いかけていた聖と藤堂に挟み撃ちにされる格好となり、翔は遠吠えとも取れる悲痛な悲鳴を上げる。
「ちょっちょ!!! 椿、なんで宗像と一緒に!!!」
「お兄ちゃん、情けなくて涙も出ないわ」
「中野、俺達は今のところお前の敵ではない。・・返答次第ではこの状況を諌めてやろう」
「何言ってやがる!! 宗像、今はお前の話を聞いている暇は・・」
迷っている翔の背後を今度は聖と藤堂が追い詰める。
「さぁって・・覚悟して貰うぜ」
「相良!! 覚悟して貰うのはお前だ!!!」
「うるせぇ!! 俺達の間に入ってくるんじゃねぇッ!!!」
このままでは三つ巴になってしまう事を怖れた宗像は優先順位をそくざに導き出すとまずはいきり立っている藤堂を諌める。
「待て、藤堂」
「止めるな宗像!! 俺は応援団として・・」
「落ち着いて俺の話を聞け。今から事情を話してやる」
宗像はそのまま藤堂に事情を話すのだが、その間にも翔は聖に追い詰められてしまう格好となる。本来なら椿は状況を見守っても良いのだが、さすがにここまでの騒動をなってしまった今は不本意ながらも聖を止めるしかない。
「聖さん! ちょっと待って・・」
「止めるな椿!! 俺はお前に代わってこの野郎に鉄槌を食らわす!!!」
「や、やめろおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ・・」
「待ちたまえ!!!」
聖の拳が振り上げられようとした時、宗像は静かにではあるが威厳のある声で聖を静止させる。思わぬ宗像の横槍に聖は思わずたじろいでしまって振り上げていた拳をそのまま収める。
「てめぇまで俺に口出しするつもりか!!!」
「落ち着きたまえ相良君。俺は君の気持ちを踏み躙ろうとしているわけではない、むしろ椿君を想うその気持ちに敬意を表しているぐらいだ」
「何が言いてぇんだ!!!」
「宗像さん・・?」
宗像はそのまま静かに一呼吸置くと聖と椿にとある提案をする。
「相良君、椿君。この阿呆の始末は俺につけさせてくれないか? ここで拳で解決させても時期に中野が同じ事を起こすのは目に見えている、それよりももっと効率的な手段があるのだが・・」
「・・別に俺は構わねぇけどよ。椿はどうだ?」
「私も聖さんとは同意見だけど・・宗像さん、このバカをどうするつもりなの?」
(何だか知らねぇけど・・この隙に逃げさせて貰うぜ!!)
聖と藤堂の動きが止まった事を良いことに翔は無謀にもその場から逃げ出そうとするのだが、それを見逃すほど宗像は甘くはない。
「逃げるな中野。別に俺はお前を痛めつけようとしているのではない、むしろささやかな休養を送らせてやる」
「な、何を・・」
「っとその前に・・相良君に椿君、最後の確認なんだが中野の始末は一任させてもらってよろしいかな?」
「俺じゃなくて椿に聞きな・・俺は椿の判断に任せる」
ここですかさず宗像は聖と椿にこの件を譲らせるために2人に最後の確認をとっておく、聖は椿が承認してくれればそれで良いので自ずと選択は椿に迫られることになるが・・椿の回答は既に決まっている。
「わかったわ。・・宗像さん、お任せいたします」
「おい椿!! お前は俺をこんな得体の知れん奴等に売り渡すきか!!!」
「・・お兄ちゃんよりも宗像さんの方が信頼できるわ。それとお小遣い頂戴」
「お、おいおい・・そりゃねぇだろ」
椿は翔から6枚の諭吉を受け取り、そのまま失意の果てにがっくりと身体を落とす翔を尻目に宗像は藤堂に先ほど話しておいたことを実行させる。
「了解した。さて藤堂、今回の騒動の顛末のおおよその経緯はさっき話した通りなんだが・・手はず通りこの外道をお前の道場に送り込んでも構わんな?」
「ああ、母には俺が話を通しておく。・・中野、お前にはこれから一週間は応援団名物の特別メニューを受けてもらう」
「待て待て待て!!! 話が見えないぞ・・応援団の特別メニューって」
「安心しろ、中野。快適なのは俺が保障する」
「貴様が妹に対して行った非道が招いた結果だ。大人しく来てもらおうか・・」
今度は迫り来る藤堂と宗像から逃げ出そうとする翔だがここで宗像が止めの一言を放つ。
「もしお前が受け入れないのならば学校中にお前が椿君に対して行った非道の数々を生徒会を通して全てぶちまける。今までの信頼を保ちたければ大人しくすることを推奨するぞ」
「うっ・・わかったよ。それよりも藤堂、一体何をしようってんだ?」
「何、宗像でも逃げ出すほどの快適な生活を送ってもらうだけさ・・」
そのまま翔の身柄は藤堂と宗像に移され、椿と聖は配布されたプリントを受け取ると受け取ったお金を元手に何処へと消え去っていった。
宗像の手によって藤堂家へと身柄を移された翔は1日が長く感じてしまうほどの過酷な生活を1週間過ごす羽目となった、そして1週間経って藤堂家から解放された翔は目が虚ろになり中4日ほどの記憶が抜け落ちて顔が窶れきり、数日間は生気すら失っていたという・・
人間、因果応報と自業自得という言葉があるのだが・・翔はそれを同時に身体に刻み込まれる事となり以後椿への非道はぱったりと消えたという。
fin
最終更新:2011年12月08日 05:01