主婦 2011 > 12 > 05

結婚して早数年・・新鮮だったその生活は月日が流れると味気ないものだ。気がつけば子供も成長を重ね続けて今では小学生、時の流れと言うのは実感しても案外わからないものである。

“なんとP90氏が人間国宝に登録された模様です”

「へー、私が生まれる前から活躍してるもんね。というか最近は雨ばかりで憂鬱だわ、早く晴れてくれないかな・・」

いつものようにワイドショーを見ながら卓と旦那がいないこの時間を有意義に寛ぐ、既にやることはとうに済ませているのでこうやってのんびりと出来るのは主婦の特権というもの、それに眼鏡のお陰でテレビもよく見える。

“誠におめでたいニュースばかりですね。次のニュースです、 今日の昼過ぎ地検特捜部は人気小説家◆Zsc8I5zA3U氏の版権会社の家宅捜索に入った模様です。現場の伊藤さん~”

“はい、こちら現場の伊藤です。地検特捜部はかねてより脱税の疑いがあった◆Zsc8I5zA3U氏の版権会社に家宅捜索に入りました、先日行われた◆nMPO.NEQr6氏との裁判にも影響が出そうです。推定される脱税金額はおよそ4億5千万円にも及び発覚すれば作家の中でも例を見ない巨額の脱税事件になりそうです”

「ドラマ化や印税で儲けてたのよね~」

“地検は版権会社社長と◆Zsc8I5zA3U氏を重要参考人として事情聴取を行っており、野党の資金源に流れている疑いもあって近く国会への参考人招致も・・”

たかだか作家の騒動がここまで大きくなってくると考えものだろう、そんな世間の騒動など露知らず私は適当にテレビのチャンネルを変えて再放送されているドラマを見ながらいつものように過ごす。

「そうそう、この2人が以前に抱いていた恋愛が友情へと変わっていくのよね。卓が小さい頃よく見てたから覚えてるわ」

今放送されているのは◆suJs/LnFxc氏が原作のドラマで卓が赤ん坊の頃にやっておりよく当時は育児の傍らでよく見ていたものだ。思えばあの時は始めての育児わからない事だらけだったのだが周囲や旦那の協力もあってか無事に乗り切れている。

「あの時が懐かしいな」

「ただいま母さん。何見てるの?」

「再放送のドラマよ。あんたが赤ん坊の頃に放送されていたから懐かしくってね・・って、帰ったならとっとと宿題しなさいよ」

「わかってるって」

本当にやってくれるのかどうか・・母親としてはかなり心配である。幸いにも我が息子は私たちと同じようにお受験とかにも関係はなくごく平凡を全うしているようだが、これから成長して女体化する年代に差し掛かったら果たしてどうなることやら・・ドラマのように女体化したら様々なドラマが繰り広げられるのだと思う、女体化したものの全く苦労していなかった私のように過ごすのは無理があるのかもしれない。

「ねぇ、卓・・あんた将来は女体化してしまったらどうする?」

「するわけないじゃん。あんなのはドラマの世界だけだよ、母さんだって苦労してないんだろ?」

「まぁ・・時期が時期だったし、おばさんが色々やってくれたからね。溶け込むのは割りと早かったほうかな・・」

思えば自分が女体化したときは苦労なんて微塵もなかったのはよく覚えている、私にとってこの子の育児のほうがよっぽど苦労したぐらいだ。

「そういえばさ、コゲ丸さんって母さんが出た大学の先輩なんでしょ?」

「みたいね。でも作家として有名になったのは大学卒業してからよ、それに全然違う学部だったし接点なんて一つもないわ」

「学部って何?」

「それは将来大学に通うんだったらわかるわよ」

考えてみればもし卓が大学へ通う場合、男を維持するのならば学費は自分で払わせよう。女になった場合は・・姉に何とかしてもらおうかな?





そんな下らないことを話しているとそろそろ晩御飯の時間なので予め準備しておいた食材でおかずを作りにかかる、そろそろ旦那の給料日が近いのでこういうときこそ主婦としての腕が試される。

「冷蔵庫の残りを考えても今月も余裕で乗り切れそうね・・ってソースがないじゃないの!! そういえば前に切らしてたんだっけ」

困ったことにこの料理にはあのソースが絶対に欠かせないので買って来ないと非常に拙い、他のソースでは絶対に代用が利かないのだ。

「う~ん・・卓をお使いに行かせたら絶対に余計なもの買ってくるわね。仕方ない、買ってくるか」

幸いにもガスはまだ使わなくても大丈夫なので卓に留守番を任せておくと、そのまま近くのスーパーへと急いで向かう。世の中には無愛想だがスーパースキルを持っている家政婦がいるようだが、そんな人物と四六時中顔を突き合わせてたら気が重そうだ。そんなことを考えているうちにスーパーに入っていくと目当てのソースを見つけ出す、しかも運が良いことに普段と比べて安くなっているのでかなりお得だ。

「安くて助かったわ。さてお会計に・・ってあれは?」

そのままお会計に向かおうとした私の目に付いたのはイライラオーラを発しているあのロリっ娘、確かご近所さんの・・

「に、西田さん・・?」

「あんっ? ・・って、葉山さん!」

「アハハハ・・お元気そうで何より」

この方はご近所さんの西田さん、見た目は完璧なロリっ娘であるがこう見えても年頃の子供を育てている超ベテラン先輩主婦だ。人を外見では判断はしてはいけないと言う言葉を見事に体現している、傍から見れば失礼にもどこかの親子としか見られないものの中身は立派な大人なので後輩の私はいつものように教えを請う。

「どうしたんですか? そんなに買い込んで・・」

「いや、安くなっているうちに買っておかないと・・そっちもお買い物?」

「まぁ、そんな感じです」

と言いつつも西田さんの奥さんもキッチリと特売品をキープしているのはさすがと言うべきであろう、私よりも主婦歴の長いのでこういったことはちょっとばかり参考になってしまう。

「そういえば・・西田さんの息子さんって高校生でしたっけ?」

「良い具合に女体化で悩んでいるよ。こっちとしては見てて面白いぐらいだけど・・白根さんも将来はどうなるかしらね~」

「アハハ・・ま、私は子供に任せますよ。女体化なんておちおち気にしても仕方ないですし」

どうやら西田さんの息子は順調に年相応の悩みを抱えながら育ってきているようだ、そういえば以前に西田さん親子とは買い物がてらに会ったことはあるが息子さんのほうはとても立派な高校生らしい体格をした人物だったのをよく覚えている。
そんな他愛のない話をしていたのだがどうも西田さんの様子がおかしい、さっきから発せられているイライラオーラがかなり強まってくるのを感じてしまう。





「あ、あの・・西田さん?」

「えっ!! そ、その・・ごめん、白根さんちょっとの間だけこれ持ってて!!!」

「ちょ・・ちょっと!!」

そのまま西田さんはスーパー外へと向かっていった、そういえば前に息子さんと一緒に出会ったときにも息子さんに荷物を持たせたら自分はさっさと外に出てしまっていた、息子さんに詳細を聞こうとしても頑なに口を閉ざしたままだし・・一体なにをしているのだろうか?

「ご、ごめんね。持ってくれてありがとう」

「い、いえ・・どうぞ」

気のせいか西田さんからはタバコのにおいがプンプンしているのだが、ここは今後のご近所付き合いも考えたら余計な詮索はあまりしないほうが良いだろう。

「はぁ~、子供って手が掛かるから大変ですよ」

「まぁまぁ、小学生だからそのうちに落ち着くでしょ」

「さすが経験者・・」

それから大先輩の西田さんから経験に基づいた実戦的な育児方式を伝授してもらう、さすがに私は武道派ではないので西田さんのように上手いことはできないので参考程度に留めておこう。

「ま、頑張ってみます・・」

「そうそう、何事も経験が大事だから・・ゲッ! もうすぐに帰ってくる時間だ・・それじゃまた!!」

そのまま西田さんは立ち去ってしまう、相変わらず不思議な人である。





無事にソースを買い終えた私はそのまま帰宅して滞っていた晩御飯の準備を再開させる、やはりこのソースがなければこの料理は完成したとはいえないだろう。

「ふぅ、これで完成っと・・卓、ご飯できたよ」

「へ~い」

そういえば私は母親としてこの息子に何か教えておかなければいけないのだろうか、将来は卓も西田さんの息子のように女体化で思い悩む年頃になったとき果たして同させれば良いのだろう。旦那みたいにあっさりと捨て去っていくのかはわからないが、もし女体化してしまったのならば母親として何かしらなの教えを授けておかなければならないのかな?

「ねぇ、将来女体化したらどうする?」

「するわけないじゃん! ・・そうだな、してしまったらアイドルにでもなる」

子供らしい意見ではあるがアイドルになるのならレッスン費用などを考えても先行投資はかなり覚悟しておかなければならない、卓には悪いけどうちの家計ではどうするとこも出来ないので他の選択肢を提示することにしよう。

「お母さんはアイドルよりもナースのほうが良いと思うよ? ドジっ子ナースだって一人前になるんだし・・」

「・・なんか地味そう。母さんだって女体化したときは将来は考えてたの?」

「う~ん、あまり考えてなかったな」

正直、私は将来についてはあまり考えたことはない・・高校に入学して旦那と付き合うようになってからは大学を進学した後は普通にOLをしてその後はごく普通に結婚する程度としか考えていなかったので思い返してみたら自分の危機感がなさに苦笑してしまう、もし旦那と結婚で着ていなかったことを考えると末恐ろしい。2人でいつものようにご飯を食べながら色々な話題に興じる、息子もそんな私と一緒にいるせいかアニメよりもドラマが好きという小学生らしからぬ趣向を持ち合わせてしまっている。

「母さんは夢がないね。もしかして子供の頃からなかったんじゃないの~」

「失礼な、昔は漫画家になりたいとは思ってたわよ」

「ふーん・・それよりも今日は何で女体化の話題なんだよ」

「えっとね、ご近所さんの息子さんが女体化になりそうな年頃なんだって・・だから卓が女体化したらどうなんだろうって思ったの」

「俺が女体化するわけないじゃん! 将来は野球選手になるの、女になったらプロになれないじゃん」

たしか前はサッカー選手になりたいと言っていたはずだが・・ま、子供なので将来の夢はコロコロ変わってしまうのは致し方ないだろう。にしてもこの息子の将来の恋人は果たして男か女か・・親としては楽しみな反面、寂しさがないといえば嘘になる。どこぞのドラマみたいに姑いびりを趣味としたりはしないけど旦那がある日リストラされて奥さんが広告会社へと働きに出る光景があった場合は少しだけ考えてしまう。

「将来の恋人は果たして誰になるのかな?」

「そりゃ、母さんよりも可愛くて性格が良くて俺が大好きな料理を毎日作ってくれる人に決まってるだろ!!」

よし明日からの晩御飯は卓の大嫌いな人参とタマネギのフルコースで決まりだ。





晩御飯を片付けると卓を風呂に入れ終えてビールを飲みながらドラマを見ながらささやかな晩酌を楽しむ、いつもなら旦那も一緒なのだが今日は生憎出張らしいので今回はお休み。

「あ~、展開が気になる! 葉月はどうなったの~!!」

「また来週ね、明日は学校でしょ。お子様はそろそろ寝ないとダメよ」

すでに時間は夜の10時過ぎなのでそろそろ寝かせておかないと学校に間に合わなくなる、まだまだ小学校低学年は夜更かしをするのは早すぎる時期でもあるので教育的に考えてもここはさっさと寝かしつけたほうが得策だ。

「御託は良いからさっさと寝なさい」

「ええ~! だったら前に借りた目指せ甲子園の映画見ようぜ!!」

「それはまた明日、ちゃんと付き合ってあげるからね」

旦那と息子の仲も良好ではあるのだが、映画鑑賞に関しては何故か私とじゃないと嫌なようで旦那が誘ってもからっきしなので旦那が本気で落ち込んでいたのが不憫に思ってしまったぐらいだ。

「いいじゃん! 母さんだって今日は父ちゃんのビール飲んでいるくせに」

「そ、そんなわけないでしょ!!」

自分の息子に図星を突かれるとは・・母親としてなんとも情けない限りである、一体どこで旦那のビールを飲んでいるとわかったのだろうか?

「と、兎に角!! 今日はもうお終い、続きは明日ね」

「ひでぇ・・美由紀ちゃんが俺のささやかな楽しみを」

「お父さんの真似しても無駄なものは無駄。さっさと寝ましょうね」

「い~や~だ~・・」

「よいこは早く寝る!!」

そのまま強制的に卓を部屋に戻して寝かしつけるとようやく一息つける、思えば母もこうして駄々をこねていた私と姉を嗜めていたのだろう。当時は鬱々しく思っていたのだが、今の立場になると母親というのもは本当に偉大なものだとつくづく思う。
しかし、今日は旦那が家にいないのでこれ以上起きていても何ら面白みはないし、明日の朝も通常通りなのでここで眠っておくことにする。時間を無駄にせず要領よくやりくりするの主婦と言うもの・・ここは明日に備えて一眠りしよう、旦那もいないことなので今夜はぐっすりと眠れそうだ。





翌朝、すっかり身体に染み付いた習慣のお陰でいつもどおりの時間に起きて朝食の準備を済ませると片手間に息子をたたき起こしてゴミを捨てる。そんな変哲も何もない普段のサイクルに飽き飽きしながらも楽しげにしている自分に内心苦笑してしまう、

「さて、今日の晩御飯何にしようかな・・給料日だからたまには奮発するか」

今日は旦那の給料日なのでちょっとだけ贅沢をするのも悪くはない、思えばここ暫くは家族旅行も行っていないのでいつものように慎ましやかに生活を送れば旅行費用は容易に捻出できるだろう。

「旅行も悪くはないけどね・・って、あれは孔明さん? 孔明さん~!」

「ああ、白根さん」

この人はご近所に住む孔明さん、どこかの4人の美少女と同棲などしてはいないのでご安心して欲しい。この人の職業は漫画家であるのだがどうも売り上げは著しいようだ、主に執筆しているのはリリカルシリーズとなるものだが・・どこかで見たことあるような設定に作品そのものが日の目に出るのは怪しいところである。

「チクショウ! ◆Zsc8I5zA3Uが先にリリカルシリーズを出しやがって!! あれは俺のアイディアなのに・・」

「ま、まぁまぁ・・頑張れば良いじゃないですか」

「はい・・取り乱してすんません」

そのまま落ち着きを取り戻した孔明さん、本業ではない私が言うのもおかしい話だが女体化が一般的になっているのだからいっそのこと女体化から離れても良いと思う。





「私が言うのもなんですけど無理に女体化にしなくても普通通りの話も受けると思いますよ。最近はあんまりそういったのは少ないし・・」

「なるほど・・そうか!! ありがとう、白根さん!! 良いアイディアが思いつきそうだ、御礼にこれを」

「こ、これって・・某テーマパークのクーポン!!」

「ええ、前に雑誌の編集者の伝で貰ったんですけど・・興味ないし3人分だから白根さんにお譲りします」

手渡されたのは知らぬものはいない某有名なテーマパークのクーポン・・よく見てみると今年から4年間は入場料やアトラクションがタダで利用できるお得なクーポンだ。個人的にはとても嬉しいのだが一応礼儀もあるのでとりあえずは遠慮しておく、それでも譲ってくれるとは思うのだが・・

「わ、悪いですよ。こんな高価なもの頂くなんて・・」

「いえいえ、受け取ってください。それでは・・さぁって作品が俺を待っている!!!」

そのまま孔明さんはルンルン気分で去っていく、こうして私は無事にもらい物であるがクーポンをゲットできたわけである。

「さってと、貰うもの貰ったし次の旅行はこのテーマパークで決まりね・・ってこれ、子供用じゃないのよ!!!」

このクーポン、虫眼鏡でしか見えないような細かさの字で年齢制限が書いてあるのに目がつく。年齢制限にはこのクーポンの無料特典が適応されるのは中学生のみ・・卓は問題なく適応されるのだが大人である私と旦那は当然ながら対象外である。こんな対象年齢が設けられているのだから孔明さんが譲ってくれるのも素直に窺えてしまう・・やはりもらい物には期待をするのは間違っていると私は確信する。


がっくりと項垂れながら私はいつものようにこう呟く、主婦ってやっぱり難しい・・



fin


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2011年12月08日 06:58
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。