安価『芋羊かん』

「ただいま~っ、……晶ちゃん、いるかな?」
「あら真琴、思ったより早かったじゃない。歩いてきたの、寒かったでしょう?
電話してくれればすぐに迎えを遣したのに……」

16歳の誕生日に女体化した僕を一目見て大興奮した母さんによって、無理やり全寮制のお嬢様学校に転入させられてもう1年半。
今年も年末は家族と一緒に過ごしてきたのだけれど……もう、会う人会う人『女の子らしくなった』だとか、『前よりもっと綺麗になったね』とか言うもんだから困っちゃったよ。
確かに生粋のお嬢様に囲まれて過ごしてはいるけど、そんなに変わるもんなのかな?
おかげで母さんは調子にのって着物なんか着せてくるわ、弟が赤くなっこっちを見てくるわ……鼻の下伸ばした叔父さん達にお年玉いっぱい貰っちゃったのは内緒♪

「ほら、今温かいお茶を淹れるから、荷物を置いてきてしまいなさい。手洗いも忘れないでね?」

そう言ってキッチンに向かうのは同室の晶ちゃん。突然の転入生だった僕を快く部屋に受け入れてくれた優しい子だ。
文武両道でお茶にお花になんでもござれの彼女と一緒にいると、とても自分が女の子らしくなっただなんて思えない。
今だってテキパキと準備をしているその仕草一つ一つをとっても凄く洗練されてて……うーん、とても敵わないなぁ。
それに、凛とした目つきと黒髪でこの学校の清楚な制服が似合う彼女だけど、その制服の下に豊かな膨らみがあることを僕は知っている。
こちとら初めて買ったブラがまだ現役だってのに、なんか最近また大きくなったみたいだしっ……ううっ、こっちでも敵わないよぅ

「何を下向いて黙り込んでるのよ?」
……なんでもないです、うぅっ

「はい、どうぞ。熱いから気を付けてね?」
「(ふーっ、ふーっ)あっ、いい香り……いつものと違うね」
「実家で飲んでいるものなの、購買で売っているお茶もいいものだけれど、やっぱり慣れ親しんだ味が一番ね。
 こちらに来る前にたくさん持たせて貰ってきたわ。」
「へ~っ、……あっそうだ、僕もお土産持ってきたよ!
 お茶うけになりそうだし、今出しちゃうね?じゃじゃーん」
「っ!?……これは」

地元名物の芋羊かん、厳選された素材と伝統の手作業でつくられた僕もお気に入りの一品……って、うわあああああ!
そういえば町興しの一環とかでパッケージに所謂萌えキャラが採用されてたんだっけ……たしか『魔法少女リリカルお芋』、とか言う
あちゃ~っ、家で包装し直しとくんだったよ!晶ちゃん、こういうの嫌いかも……っ

「ご、ゴメンねっ!中身は普通に美味しいものだからっ!(バリバリッ)」
「やめてっ!……コホンッ、なにもそんなにビリビリ破いてしまうことないじゃない、散らかす必要はないわ。
 それとその箱も、何かに使えるかもしれないからとっておきましょう……」

……?なんで晶ちゃん、こんなに慌ててるんだろう。珍しいもの見ちゃった

「へぇ……なかなか丁寧に作ってあるのね。上品な味わいで、いいと思うわ」
「でしょっ、余計に甘くないのもいいよねっ!お芋の味がそのまま感じられて」
「(お芋ちゃんの味……ゲフン)そうね、とってもお芋が濃厚で……美味しいっ」
「……?甘いもの嫌いなおじいちゃんもこれだけは別でね、お正月はこれとお煎餅とミカンがこたつの上に置いてあって、皆でゴロゴロしながら食べるんだ」
「ふふっ、楽しそう……」
「だけど今年は弟が独り占めしようとしちゃってさっ、怒ったら『姉貴は太るからやめとけよ、もう成長期終わってんだろ?』だって!失礼しちゃうよね、もうっ
 僕だってこれから……きっと、さぁ……(ショボーン)」
「気にしなくたっていいのに……真琴はそのままで充分に魅力的よ?」
「絶賛成長中の人に言われてもなぁ(ジトー)、弟も久々に会ったら大きくなっちゃっててさぁ、『縮んだ?』なんて言われた時には……
あーんっ、思い出したらまた腹がたってきちゃったよ!」
「クスッ、でもなんだかんだ言いつつ仲は良さそうね?」
「うん……っ、そりゃあまあそうだけどさ。」
「話に聞くとお母さんも愉快な方だし……羨ましいな、私の家は年末なんて堅苦しい挨拶ばかりで」
「それじゃあ、さ……来年は、その……」
「そうね、真琴さえ良ければお邪魔しちゃおうかしら……♪」
「あっ、でも僕んち古いし狭いし、なんにもないよ?」
「構わないわよ、真琴と一緒に年が越せて、ご家族……特にご両親に挨拶ができれば、それで」
「え……?晶ちゃん、それって……」
「つまり、そういうことよ……っ!」

(チュッ……)
ソファーの隣に座った晶ちゃんの、端正な顔に浮かべられた笑みがみるみる近づいて、そして唇が触れ合った……

「私たちのこと、ちゃんと認めて頂かないといけないものね。
 これからは年越しもずっと一緒よ……」
「あ、晶ちゃぁん……」
「こらっ、こういう時には何て呼ぶのだったかしら?」
「お、お姉さま……嬉しいっ!」
「ふふっ、いい子ね……」


そう……実は僕たち、付き合っているんだ。
晶ちゃん曰く『スールの間柄』らしいけど、その、キス以上のこともしてるわけだし……恋人同士と思っていいんだよね?
純正女の子の晶ちゃんにリードされっぱなしなのは何か情けないけれど、男としても、最近芽生えてきた女の子の視点から見ても憧れの彼女とこういう関係になれたのは凄く素敵なことだと思っている。


(チュッ……クチュクチュ……ッ)
「お姉さまのキス、とっても甘い味がします……っ」
「おやつの後に言われても、当たり前で何かグッとこないわね……
くすっ……でも安心して?もっともっと甘く、蕩けさせてあげるからっ!」
「あんっ!?お、お姉さまっまだお昼なのに……
 ひとっ、人が来ちゃうかも……ゃうっ、だめぇぇぇえええ」

普段はお淑やかな晶ちゃんだけど、一度こうしてスイッチが入っちゃうと、まるで別人みたいになっちゃうんだ。
『女の子の身体の洗い方を教えてあげる』って、一緒にお風呂に入ったのが最初だったかな……あの時は、すごかったなぁ///
……って思い出してる場合じゃないやっ!わわっ、脱がさないでぇぇええ~っ!!



「それにしても……女らしくなるために女子高に入ったのに、彼女が出来たなんて言ったら皆驚くでしょうね」
「うん……でもきっと分かってくれると思うよ!」
「そうだと良いのだけれど……」
「だいじょぶだって!おじいちゃんは頑固だけど優しいし、母さん……は寧ろ喜んじゃうかもなぁ、晶ちゃん綺麗だから。」
「ふふっ、ありがとう。でも私が心配してるのはそっちじゃなくて、うちの方なの……」
「えっ?でも彼女が出来たのは僕……」
「言ってなかったかしら?私も男だったって……
 もっとも女体化したのは貴女より1年早い15歳の誕生日だったから、中学を卒業してそのままこちらに入学したのだけれど。」
「えっ……えええぇぇぇ~~~っ!?」


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最終更新:2012年01月12日 23:15
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