安価『格差社会』

「あ、あの、麻宮(あさみや)さん……」
「気安く話しかけないで、媚男(びだん)と仲良くしてるなんて思われたくないの」
「ご、ごめんなさい……」

 ある高校の教室で、そんな辛辣なやりとりがなされていた。
 やり取りをしていたのは二人の少女である。片方は黒髪長髪が目を引き、さらにその容姿は軍を抜いている麻宮真奈美(あさみや まなみ)。佇まいもおしとやか、スタイルはいいが下品でなく清楚といった印象だ。しかし綺麗なバラには、というわけか若干の棘も感じさせる。
 もう片方の少女も黒髪だが、こちらはすっきりとしたショートボブでまとまっている。こちらも負けず劣らずの美少女だが、少し気弱なのかおどおどとしている、その割に吉澤と呼んだ少女から離れる時歩く姿にはどことなく大胆さが見られる、ちぐはぐな少女だった。二人とも指定のブレザー、スカートを着ているが、麻宮は蝶ネクタイ、媚男と呼ばれた少女……吉澤 晴(よしざわ はる)は普通のネクタイを締めているという点が唯一違っていた。

 吉澤はそのまますごすごと自分の席に戻り、しゅんと落ち込んだようにうつむいたまま席に座った。
 それを見て、麻宮は一瞬苦い顔をして、すぐに普通どおりの僅かな微笑をたたえた表情へと自分を取り戻して、しかし視線はなかなか戻ってはくれなかった。

「イヤよね、吉澤のヤツ。童貞も捨てれない媚男の癖に真奈美にちょっかいかけて」

 と、麻宮の左斜め後ろの席、窓際の最後列に座る蝶ネクタイの女子生徒が、煩わしそうに前髪をいじりつつそう言った。
 麻宮も、表情に不快とわかるように眉をひそめてそれに言葉を返していく。

「ホント、迷惑だわ、こっちまであんなのと一緒に見られちゃたまらない」
「気をつけなよ? まあ、真奈美なら大丈夫だと思うけど、ああいうのに彼氏盗られちゃった娘いっぱいいるもの」
「サイアクよねー」
「それに、今時無くない? 避けようと思えば避けれるでしょ。変なプライド持っちゃって、キモーイ」
「あ、もしかして、女の子になりたかったとか?」
「それはキモい通り越して変態でしょ、元ホモってことじゃん」

 そんな女子生徒同士の下世話な会話の輪が教室で広がった。ボリュームも徐々に大きくなってくる。
 教室内にいるのが気まずいのか席を立つ数人の少女達は、皆普通のネクタイを締めた女子生徒で、会話に参加しているのは皆蝶ネクタイを締めている女子生徒ばかりだった。
 ちなみに教室に数人しか居ない男子生徒は男子生徒で談笑しているし、女子の会話をあまり気にしていないようだった。



 暗黙の了解だった。
 女子生徒の大半を占める蝶ネクタイを締めている女子生徒。彼女らは“生粋の”女性である。逆に、普通のネクタイを締めている女子生徒、彼女らは“後天的な”女性であった。
 そんな風習ができたのはいつ頃からだろうか、最近ではないが、そんなに昔のことでもなかったはずである。あの大異変以降、いつのまにかできあがっていたものだろう。

「媚男の癖に……ね」

 誰もいない帰り道の路地で、自分のネクタイを指でいじりつつ、麻宮はひとりごちた。



 吉澤晴が男でなくなってしまったその日から、彼にとっての世界は一変した。数日前までの自分なら一目惚れしそうな容姿に、控えめながらもメリハリのあるスタイルを手に入れ、縮んだ身長と合うブレザーに、これだけは馴染みのある前からのネクタイを締めて登校したその日からだ。

 初めは吉澤は、周囲の反応を戸惑いからのものだと思っていた。
 以前の友人は言葉少なに容姿などを褒めて、すぐに離れていく。
 女子のグループには最初から話しかけても不快感を露わにした拒絶にあい、同じく女体化した女子生徒たちにも厄介者扱いされていた。



「親が親なら子も子ね」

 やがて一週間、二週間と時間が過ぎていくうちに、関係改善すらできないまま、気づいたらこうなっていた。
 “媚男”と蔑まれるまでになっていた。
 そのせいでもともと爽やかだった吉澤はすっかり内向的になってしまい、声も弱気、態度も小さく、まるで過去の自分を忘れてしまったかのように“女”という小さな箱に自分を閉じ込めるようになっていた。

 今では、ただただ無気力に登校という作業を消化していく存在だった。ショックから立ち直れず、友達もなく、恋人もなく。
 しかし、ある種吉澤はこうなることを予想していた。
 部屋のベッドに埋もれて、何も考えないようにしていても、その光景は未だに彼女の脳裏にこびりついて離れない。

「誰が好きで女なんかに……っ」

 わずか18年前のことだ。女体化現象の要因として、それまでまことしやかに囁かれていた“童貞であることが条件”という噂が、政府発表によって事実となった。そのことによって、男性を失わないために強行策に出る場合が多々発生した。特に古くから家柄が続く名家や古い家柄を持つ田舎ではその傾向は顕著であった。
 その被害者となった少年たちの一人、それが吉澤晴であった。ただ、女体化していることから分かる通り、吉澤に対するそれは未遂で終わっている。
 ただ、それは彼に致命的なトラウマを植えつけることとなった。
 吉澤は男であったとき、女になりたいなどと思っては居なかった。それどころか、忌避していたといってもいい。

 女体化現象の発生以後、いつしか女体化した男性のことを“媚男”と呼び、蔑むような風潮が、特に生粋の女性達を中心としてこの国に広がっていった。
 もともと、男女平等が叫ばれていた時代だった。しかし平等というには程遠く、見当違いな区別や過剰な厚遇により男女の差より一層浮き彫りにされていたが、それをごまかすように見ないふりをしてきたそんな社会は、現象によって崩壊といっても過言ではない状態に陥った。
 男性でも女性でもない、女体化男性。それは少数といって切り捨てられるような数ではなかったし、しかし今までの社会で受け止めるにはあまりにも受け皿が歪だった。
 そして、社会は狂ったまま、未だ制度の見直しすら中途半端で、現状、最低限の人権が残っているだけマシのような、そんな状況であったからだ。

 そんな状態の“女”なんかに吉澤はなりたくもなかったが、過去のトラウマが邪魔をした。彼は性行為を完遂するだけの能力が欠落していた。

「女……なんかに……」

 グシャグシャの毛布にしがみつくようにして、吉澤はうめくようにそう呟いた。


 数日後の事だった、珍しく遅くまで教室に残ってしまった吉澤は、帰り支度をまとめて今まさに教室を出ようとしていた所だった。

「ま、待ちなさいよ」
「麻宮……さん?」


 吉澤が、つとめて意識しないようにしていた彼女から、予想外にも声がかかった。吉澤は少し顔をこわばらせて、しかしそれでも立ち止まって麻宮の方を向いて返事を紡ぐ。
 夕暮れ、オレンジ色の教室に、居るのは二人だけだった。
 二人きりであってもきっと普段の麻宮は吉澤に話しかけたりしなかっただろう。だが、吉澤を呼び止めた麻宮は普段通りにはとても見えなかった。
 目を泳がせ、必死に言葉を探すように手をカバンにやったり机にやったり、とにかく落ち着かない様子が窺い知れる。

「どうして……」
「え……?」
「どうしてあなたは女になってしまったの?」

 吉澤は、殴られたような衝撃を心に感じた。麻宮が紡いだ言葉は、吉澤が延々と苛まれている言葉に他ならない。

「好きでなったわけじゃない……」

 そう、なんとか言葉を絞り出したが、とてもじゃないが目線を合わせていることが出来なかった。すっと表情を隠すように外に意識を向ける。

「じゃあ、なんで? くだらないプライド? 政府の発表があってからは、男は性別を選ぶ権利が……」
「そんな権利がどこにある!?」

 吉澤は近くにあった机に思い切り手持ちのカバンを叩きつけた。ダンッとカバンが壊れそうな音が教室に響き、麻宮は思わず圧倒されて、黙りこんでしまう。
 数秒、間があった。二人とも沈黙し教室が静寂で満たされる。しかしお互いはお互いの様子を伺うことを止めなかった。
 再び口を開いたのは吉澤だった。

「男が、女になるのは、少なくとも今の社会じゃ間違いなく損失なんだ。わかるだろ……?」
「わかるわ、極端な男女の人口差、増える未婚女性、少子化。毎日毎日ニュースでイヤってほどやってる。でも、それならなおさら!!」
「俺は、第二次性徴を迎えて、すぐに“犯されかけた”」
「っ!!」

 今度こそ、麻宮は息を呑んだ。
 見ると、吉澤は苦しそうに、今にも泣きそうな顔で、しかししっかりと麻宮を見据えている。
 そして見られている麻宮は、ショックを受けているのか、目を逸らしてしまう。しかし追い打ちのように吉澤は続けた。

「わかるか? 10才やそこらの少年が、よくわからないままに、拒否しても、強引に。されるんだ。幸い最後の一線は超えなかったが、心に傷を負ったって不思議じゃない」
「それ……じゃ……吉澤、あなた……」

 何かに気づいたかのように、麻宮ははっと顔を上げ、吉澤のことを見る。そして吉澤は、覚悟を決めたかのようにキッと麻宮を睨んで、言い放った。

「俺は、EDだった」

 その言葉を聞いた瞬間、麻宮の思考は停止した。
 吉澤も、その言葉を最後に逃げるように教室を出ていって、教室には麻宮だけが一人残された。

「そんな、それじゃ……結局……」

 その言葉の続きは紡がれることはなく、麻宮はしばらくそうして佇んでいた。




 放課後の件から二月が経った。夏休みに突入するのにあと半月は必要だが、それでも後半月、そんな頃のことだった。

「なーなー、麻宮、俺と付き合えよ」

 2年生の男子生徒、宮下明夫(みやした あきお)は、麻宮真奈美にそう告白した。
 場所は麻宮真奈美のクラス、1年3組と廊下との境目。
 宮下明夫は二年生男子の中でも断トツの美男子である。バスケ部の副部長、健康的な肉体とさわやかな笑顔を持つ、人気の男子だった。

「……お断りします」

 麻宮は、そう言ってあとは一瞥もくれずに振り向き、また教室に戻ろうとした、さすがに諦め切れないのか宮下は麻宮の肩を掴んで呼び止める。

「待てよ、とりあえず一回デートして、それで決めてくれないか?」
「ごめんなさい、あなたが悪いんじゃないけど、お断りするわ」

 強引に歩き出し、掴まれた肩を振り払い麻宮は教室の奥へと戻っていく。
 さすがに下級生の教室まで追いすがるのは格好悪いと思ったのか、苦虫を噛み潰したような顔をして宮下は踵を返し、自分のクラスに帰ろうと歩き出す。

「あ、す、すみません」

 と、踵を返した彼の正面には吉澤がいた、しかしすぐに上級生に道を譲るように壁際に移動した。
 彼の視線は吉澤の顔、髪の毛、肩、腰、と一瞬で動いて最後に胸元のネクタイにわずかに止まって、すぐにまた廊下の先に目をやって歩き出した。

「いや、こっちこそごめん」
 そう一言を残して、宮下は自分の教室へと帰っていくのだった。



それから数日後、試験も終わりあとは夏休みへ向けて消化試合となった学校で、放課後の校門でのことだ。
 下校する女子生徒達に目をやり、時々手を振られてそれに手を振り返したりしつつ彼は待っていた。
 吉澤は、その日も目立たないように女子生徒と男子生徒との境目のあたり、いつも女体化した男性達が帰る群れに紛れるように校門を抜けようとしていた。

「あ、ちょっとまった。そこのキミ」
「……はい?」

 そんな声で呼び止められ、仕方なく返事を返す。するとそこには吉澤には見覚えのない男子生徒が立っていた。宮下である。

「これからもし予定が空いていたら、ちょっと付き合ってほしいんだが……ダメか?」

 そんな宮下の言葉。それを耳ざとく聞きつけた付近の蝶ネクタイの女子生徒達から、あからさまに視線が降り注いだ。下校中の女子生徒集団が不自然にゆっくりな速度になる。

「その……用事が……」

 吉澤は、女体化してから男と以前のように話すこともできなくなっていた。男から見れば種の保存に負けた負け犬だ。無理もないのかもしれない。自然と声も態度も小さくなる。

「そうか、じゃあいつなら空いてる?」

 ざわ、と周囲がざわめく。吉澤に視線が突き刺さる。

「っ……ごめんなさい」

 言っても無駄と悟ったのか、吉澤はそう断ってまた校門の外へ歩き出そうとして……できなかった。

「悪かった、急すぎたな。俺、二年の宮下。宮下明夫。キミは?」
「一年の、吉澤晴……です」
「じゃあ、さよなら、また暇な時にでも声をかけるから」

 吉澤は、そんな声を背中に受けながら、逃げるように足早に学校を去ったのだった。


 翌日だった。吉澤が教室で昼食をとっている時だった。ビニール袋に包まれたコンビニおにぎりを頬張りながら、無感情に昼休みを消費している、その時だった。

「よっ、ハルちゃん」

 宮下だった。下級生の教室に、昼休みに何食わぬ顔で訪れたのだった。
 さすがに吉澤は戸惑った。しかもハルちゃんなどと呼ばれれば無視を決め込むこともできない。

「なんですか……先輩」

 努めて男の時のような低めの声をだそうとするが。それは叶わず。不機嫌なことはありありと伝わっただろうが、それだけだ。

「いや、昼飯いっしょにどうかなと思って……って、コンビニおにぎりかよ、もう少しなんかないの?」
「これで足りますから」

 教室中の大半の女子の視線が、今この場に注がれていた。宮下が吉澤に話しかけるたびに視線が強まり、吉澤が宮下を鬱陶しそうに返事するとさらに視線が強まる。



「にしても……なぁ、ほら、これでも食えよ」

 と、宮下は自分の食事の菓子パンからチョコロールを吉澤の机に置いた。

「ダイエットしてるんです」
「嘘ばっかり、そんなにかわいいのにダイエットなんかいらないって」
「もうお腹いっぱいです」
「じゃあ、おやつにでも食べてよ」

 二人の間をチョコロールが行ったり来たり、最終的には断り文句が思いつかなくなった吉澤の机に落ち着くことになった。

「で、いつなら予定空いてる? 夏休みならいいかな?」
「それは……お断――」
「あ、俺はバスケの練習があるからあんま空いてないけど、来週の日曜なんてどう?」
「いや、だから断――」
「行き先は、そうだな、とりあえず水族館とか」
「……」

 吉澤の発言を潰すように、いや、実際狙って潰しつつ、宮下は強引にスケジュールを話していく。
 そのうちに吉澤は黙ってしまった。

 と、ちょうど予鈴が鳴って、宮下が引き上げていく。

「もうこんな時間だ、またねーハルちゃん」

 そう言われる吉澤は、しかしすでに疲れきっていた。
 そしてそんな吉澤を、麻宮は黙って見ているのだった。


 翌日の放課後だった、吉澤はまた、宮下に捕まっていた。場所は渡り廊下。他の生徒もまばらにいるが、昇降口ほどではなかった。
 そして、また問答を繰り返しているうちに、すっかり生徒の数も減っていく。

「ね、いいじゃん、デートくらい……」

 吉澤は、そんな宮下の言葉に辟易していた。しかし、逃げるにも逃げれず。困り果てたまま相手が諦めるのを願っていた。
 しかし、そこで麻宮が横合いから二人の間に割って入った。まっすぐに宮下を見て、きっぱりと言い放つ。

「嫌がっているでしょ、いいかげんつきまとうのはやめたら?」
「なんだ、キミは関係無いだろ」
「関係なくても、不快だわ。嫌がっている女の子に無理やり言い寄るだなんて」
「女の子? ああ、そうだな、女の子ね。……媚男じゃなかったのか? 麻宮」
「媚男だろうが性別は女よ、わかったなら放っておいて!」

 吉澤の手をとって、麻宮は歩き出す。それまでの迷いはどこへ消えたのか、胸を張って堂々と歩いてその場を去った。

「ありがとう、麻宮、助けてくれて」
「これくらい……私も彼は嫌いなのよ」

 校門を出た二人は、そこで手を話して、一言ずつ交わし、そして帰宅していった。



 そして、夏が過ぎ。
 夏休みが明けてみれば、教室は一変していた。
 それまで、蝶ネクタイの女子生徒の中心にいた麻宮は、教室の席で一人、ぽつんと座っていた。
 吉澤も変わらず一人だが特に変化はない。しかし麻宮は違った。
 原因は明白だった。
 “媚男”である吉澤をかばったことが、原因だった。
 宮下は、あの日の一件をそれとなく女子生徒達に漏らしていたのだ。今まで散々“媚男”をこき下ろしておいて、突然庇い、女子人気の強い宮下を敵に回してしまった。
 それだけで、孤立するには十分な理由だった。

 吉澤は、すぐに孤立している麻宮に気づいた。しかし、ここで吉澤が励まそうものならば、より孤立が強まるだろうと、あえて何もしないまま、時は過ぎた。


 麻宮は考えていた。孤立した時間を使って、今までの自分について考えていた。
 クラスメイトの女体化男性を“媚男”と蔑み、見下し、生粋の女生徒とだけ友だちになって、天然女性の美少女という自分に驕り、いったい自分は何をしてきたのだろうかと。
 吉澤と話したあの放課後、彼女の言葉で自分は何を思ったのかを。

「私は……間違っていたの?」

 自問する。どうしてあんなにも執拗に“媚男”を、吉澤を下に見て、差別したのかを。

「私は……そうだ私は……」

 と、麻宮はそこで、気づいた。

「私は、まだ、吉澤のことが諦めきれていなかったんだ」

 そう呟くと共に、諦めないといけない、と麻宮は強く思う。もはや女同士だ、いつまでも未練に引きずられている場合ではなかった。
 ケジメを、つけなければならなかった。

 放課後の教室、今度は意図的に話しかけて、示し合わせて吉澤と二人きりになった。吉澤はいかにもバツが悪そうな表情で所在無げにしていた。

「吉澤……」
「なに、麻宮さん」
「私、今まで吉澤にひどい事ばかりしていた、本当に、ごめんなさい」
「今更……謝られても。それに、媚男差別は麻宮さんが始めたことじゃないし」
「それでも、吉澤をよりひどく扱っていたのには、理由があるの」
「理由……?」
「私は……吉澤、あなたのことが好きだったの。男のあなたが」

 麻宮の言葉に、さすがにショックを受けたのか吉澤は言葉を失った。唖然として麻宮を見続ける。
 そんな吉澤に、麻宮はさらに声をかけた。

「きっと、あなたが女性化して、裏切られた気持ちになったのね。私は。だからあんなに辛くあたってしまった。周りまで巻き込んで」
「……」
「本当に、ごめんなさい」

 しっかりと、麻宮は頭を下げた。そのまま、頭を上げずに静止し続ける。
 沈黙は、しかしすぐ、吉澤の声で破られた。

「俺は、これは許すも許さないもない話だと思う」
「……そうね。やっぱり許されることじゃ……」
「違う。俺はもう男じゃない、でも、でもな、女になったつもりもない……」
「それって……」
「どうして、性別は2つでないといけない? 男か女か、それだけでないといけないのか?」
「いや、違うはずだ、俺は女性化男性だが、両方の性を経験した俺は、もはや単なる女でもないんだ」
「じゃぁ……」
「人間は、人間でいいじゃないか。男か女かなんて、染色体一本の違い、誤差の範囲だと、そう思って過ごしていけばいい」
「そんな簡単な問題じゃ……」
「そんな簡単な問題にしないといけないんだ。要は、俺とお前が別に友達になろうが恋人になろうが、それは性別にとらわれる必要のないことなんだよ」
「……吉澤、それで、いいの?」
「ああ、いいよ。あと、宮下先輩から助けてくれたのは、素直に感謝してる。ありがとう」

 お互いにもう一度礼をして、麻宮と吉澤は、そのまま微笑み合った。そして隣に並んで。夕焼けに染まる教室を後にするのだった。


866 名前:ぴぬ ◆zK/vd3Tkac[sage saga] 投稿日:2012/01/12(木) 02:33:58.31 ID:2CNPkVjvo [8/8]
はい、という訳で以上です。
溢れ出るコレジャナイ感……ぁーやっちまったな!
格差社会といえばおっぱい格差社会とかあるだろうという諸兄の想像をガン無視してのこのありさま。

そういうおっぱいおっぱいな話は得意な人に期待しつつ……
あ、作中の創作の差別用語「媚男」は「びだん」と読みます。明記してないことにあたふたしつつここで付記を。

それでは失礼します!


(あーファンタジーで思い出したけど自分勇者モノ放置しすぎだろjk)

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最終更新:2012年01月12日 23:29
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