愚鈍と愚者のバラッド 前

   これは過去のお話・・





         愚鈍と愚者のバラッド






                       ◆Zsc8I5zA3U   





相良 聖・・白羽根学園が誇る超問題児であり、中学時代はその豪腕とも言える腕力で並み居る不良たちを恐怖のどん底に叩き落したその振る舞いから教師陣の中では要注意人物に指定されている。聖が1年の頃に担任をした人物はそのあまりの問題児振りに多大なストレスを溜め込んでしまって内臓を傷めて長期入院したほどである、そんな教師を一人病院送りにしたほどの聖であるが女体化してからあらゆる人物と交友を取るようになってからは精神的にもゆとりが出来たようで少しずつではあるが問題も減っている。
それは現在の担任である靖男にとっても嬉しい限りなのであるが、肝心の学業はてんで疎かにしているので頭の痛い問題である。

「何だよ! 補習ぐらい見逃してくれてもいいだろうがポンコツ教師!!」
「お前な、中野と一緒の大学に行きたかったら素直に授業でろ」

時刻は丁度放課後、とある教室で靖男は聖に補習を受けさせている。最初は聖の激しい抵抗にあったものの留年や単位の話を切り出して渋々であるがあの聖を補習をさせることに成功しているのだが・・自身の授業でだけではなくほかの教科の補習もさせている。

「あのなぁ、俺だって鬼じゃない。だけどなお前が進路希望に中野と同じ大学を書いたろ、あれにはみんな驚いてたぞ」
「てめぇも他の先公と同じように俺を馬鹿にしてんのか!!」
「いいや。・・別に俺はいいと思うぜ、夢を持つのは多いに結構だ」
靖男とて聖の進路が実現するとは到底思ってはいないが、将来の夢を持つのはいいことだと思う。何せ自分は聖の年頃の時は現実に叩きのめされて前すら向いていなかったのだ、しかし夢を持つのはいいことなのだが実現するには本人の頑張りが非常に重要となってくるのだ。

「しかしてめぇは前の先公とは違うな。てっきり俺なんて放っておくのかと思ってたしよ」
「悪いがそんな後味が悪い趣味は持ってないんだ。さっさと遅くならんうちに終わらせてしまえ」

この2人は入学式であった時からこんな調子である、靖男も聖については教師を病院送りにしたほどなのでそれ相応の覚悟を望んでいたのだが・・いざ聖と話してみると普段の評価とは違う人物に違うことに気付いていく、要は一般的な不良と呼ばれる人物と同じように周囲の大人たちがたらい回しにした結果だと結論付けた靖男は担任になってからと言うものの普段の一般生徒と同じ感覚で接している。聖が入学する前にそこそこの札付きの生徒を無事に卒業させた実績があるのでそういった手合いに離れている靖男である、現にこの白羽根学園に潜んでいる不良と呼ばれる生徒にもいつものような感じで接しているので一目置かれているのだ。
それに聖が唯一懐いている教員といえば自分の同僚である礼子ぐらいしか思い浮かばない、しかし聖と接し続けてある程度は会話はするようになったものの自分を教員としてみているかといったらかなり疑問符がつく、流石に担任なのだからポンコツ教師呼ばわりは正直ショックであるが普段の態度が普段の態度なので仕方ないところである。

「さっさと終わらせて先生にゲームをさせる時間を与えろ」
「いい大人の癖にゲームなんて恥ずかしくねぇのか?」
「少年の心を忘れてしまった大人はロクな大人にならないんだ。幾つになっても好奇心は重要だぞ」
「だからてめぇはポンコツ教師なんだよ」

そのまま聖は渋々文句をたれつつもきちんと課せられた補習を片付けていくが慣れない勉強なのでついイライラいしてしまう。
「ったく、あいつは手伝ってくれねぇしよ。俺の担任なら手伝え」
「悪いが他の先生方の恨みは買いたくはない。・・お前もいずれ悲しい習性がわかるときが来るもんだ」
「んなもん知るか!! おい、この問題はどうやって解くんだよ」
「どれどれ・・悪い、先生の時代はこんな単語なかったんだ。わかんなかったら飛ばしてしまえ俺が上手いこと言ってやるから」
「だからてめぇはポンコツ教師なんだよ!!!」

靖男にしてみれば自分の授業以外の教科など眼中にすらないのでそのまま聖に続行させる、それにあくまでも補習なので飛ばしても問題はないあの聖が補習に出席していたことだけでも大金星なのである。靖男はゲーム片手に聖の補習の監督をしながら時間はただただ流れる、最初は各部活の活発な声が聞こえていたのだが時間が経つに連れてそれらもめっきりと減ってしまっており時間の経過を嫌でも認識させられるものだ。

「ふー、ようやく終わった・・終わったぞ、ポンコツ教師!」
「ヤバイ、アメリカが逆進行を仕掛けてきたやったか! ここはドイツと連合を組んでソ連で牽制してと・・ウゲッ!!」
「何ゲームしてるんだ!! 終わったって言ったのが聞こえねぇのかっ!?」

そのまま聖は自分をそっちのけでゲームに夢中な靖男を蹴り飛ばす、ようやく靖男が時間を見ると時刻は既に7時過ぎ・・日は既に落ちて夜特有の暗さを醸し出している。

「痛たたた・・ちょっとは担任を労れ!!」
「ゲームばかりしているてめぇにだけは言われたくねぇ!!」
「全く、どうやら終わったみたいだな。お疲れさん、もう帰っていいぞ」

そのまま靖男は提出されたプリントの束を持って帰って教室から去ろうとするが、時間は既に7時過ぎなのでお昼を過ぎてから何も食べていないのでおなかが減って仕方がない。それに関しては聖も同様だし何よりも時間帯もかなり遅い、いくら聖が強大な戦闘力を持っていようが1人で返したら危険だし聖の身に何か起きれば担任である靖男にも何かしらの責任を負わされることになるだろう。

「・・しゃあない、今日はもう遅いから俺が家まで送ってやる。それに腹も減ったろ?」
「てめぇ・・何か下心があるのか?」
「悪いが俺は大学生からしか興味ないんでね、お前みたいなガキんちょに・・ウゲッ!!」
「一言多いんだよ!! ・・ま、奢ってくれるなら全力で乗っかるぜ」
「お前な・・まぁいい、すぐ終わらせるからちょっと待ってろ」

靖男はそのまま聖に殴られたわき腹を押さえながら事後処理をするために職員室へと向かっていく、一応靖男の目的は聖の補習なのでそれが終われば後は事後処理をするだけである。そのままサクット事後処理を終わらせた靖男は律儀にも校門で待っていた聖を拾って行きつけの居酒屋へと連れて行く、見た目はタダのしがない個人経営の店であるが実はこの居酒屋の店主と靖男が同級生なのである程度の融通が利くので問題はない、いつものように店主は靖男を出迎える。

「らっしゃ・・お前、ついに自分の生徒に手を出してしまったのか。何も言うな、俺はお前の味方だ」
「あのな、自分から職を捨てるような真似をするのは馬鹿だけだ」

軽い冗談を交わしながら靖男は聖と共に席に座る、実のとこと教師と生徒同士の恋愛についてはまことしやかにであるが流れていたものの、現在は法改正に法ってそれらの行為が発覚した場合は問答無用で懲戒免職処分となるのでかなり厳しいものとなっている、それにこんなことを言われたら聖も黙っているはずがない。

「ふざけたことを抜かすな!!! 誰がこんなポンコツ教師と付き合うかッ!!! さもないと・・」
「わかったから落ち着け! とりあえずいつものとコーラな、後は適当に料理を見繕ってくれ」
「教師も大変そうだな・・」

そのまま店主は黙って聖のコーラと靖男に芋焼酎を差し出す、そのまま靖男は聖と軽く乾杯を交わす。

「お疲れさん」
「あ、ああ・・って何でてめぇは酒頼んでるんだ!! 俺にもよこせ!!!」
「お前には5年早い!! それに仕事が終わってから酒を飲むのは大人の特権ですぅ~、未成年のお前は隠れてこそこそと飲むのがお似合いだ!!!」
「教師にあるまじき発言だな。・・ま、それは置いておいてお嬢ちゃんもお酒は二十歳からな」

そのままふてくされている聖を尻目に靖男は酒をかっくらい、店主は料理を作り始める。この店は店主の親の代から続いておりなんやかんやありながらも親が引退してこの店主が引き継いでいる形となっている、それに料理も上手ければ値段も相当安いのでチェーン店にも引けを取らないほどの繁盛を見せ付けている、そのまま聖は出てきた料理を食べてみるがこれがかなり美味い。

「うめぇ!! 特にこの唐揚げが最高だぜ」
「そいつは裏メニューって奴だ。お嬢ちゃんが可愛いからサービスしたんだよ。んでお前はいつものようにつまみと酒を置いておくぞ」

そのまま食べ進める聖を他所に店主は酒を飲み続ける靖男に適当なつまみを見繕ってそのまま焼酎を瓶ごと置いていく、そのまま靖男はつまみを食べながらいつものように聖に話しかける。
「どうだ? 店がボロイ以外は結構いいだろ」
「ああっ! てめぇもただのポンコツ教師じゃねぇんだな」
「ポンコツ教師は余計だ。ま、お前が来るには酒が飲めるようになってからだな」
そのまま靖男は芋焼酎を飲み干すとそのまま新しい酒を次ぎながら箸を進めていく、しかし店主も靖男とは長い付き合いではあるが自分の生徒を店に連れてくるのは以外にも初めてであるのでちょっとばかり聖に話して見る。

「お嬢ちゃん、学校でもこいつはこんな感じかい?」
「そうだぜ。授業もクラスごとではバラバラで皆苦労してるようだしな、だからこいつは見た目や性格もポンコツなんだよ」
「アハハハッ!! 違いねぇ、こいつは昔からマイペースだったから俺もよく苦労させられたよ。それに教師になったときは本当に驚いたもんだ」
「ケッ、勝手に言ってろ」
「・・でもな、こいつのいいところは人を決して見捨てないんだ。お嬢ちゃんもそのうちわかるよ、ほい牡蠣フライ上がり」
「本当かよ? ま、俺とすれば料理が美味かったらいいんだけどな」

聖は店主の言っていることに懐疑しながらも目の前にある牡蠣フライを食べながらその味に舌鼓を打つ、聖にとって靖男など一教員に過ぎないのだが思えばここまで自分に構ってくれる教師は礼子以外では始めてで今まではその性格や振る舞いからか教師などてんで信頼していなかったのだから。

「相良~、んでお前は結局中野と結婚するパターンなのか?」

「なっ――・・何言ってやがる!!!!」
思わぬ靖男の発言に聖はコーラを噴出してしまう、現在翔とは様々なしがらみがあったものの今では恋人同士と言う間柄に収まっているのだが、靖男にしてみれば礼子ほどではないもののそれなりに関心を示している。

「てめぇな、あいつは俺なしじゃ生きていけれない超が付くぐらいの馬鹿なんだ。俺から離れらるわけねぇだろ!!! これ以上からかったら・・ぶっ殺す」
「わかったわかった!! 全く、とんでもない奴の担任になったもんだ・・」
芋焼酎を飲みながら靖男は聖の扱いに少しばかり手を焼いてしまう、しかし悪い人間ではないのは靖男もよくわかっているのだが少しばかり冗談が過ぎたようだ。
「・・ま、お前もそろそろ落ち着いたらどうだ? いつまでもヤンキー根性は通じないぞ」
「てめぇもあいつみたいなこと言うつもりかッ!! 俺は好きでやっていく、気に食わねぇ野郎どもをブッ倒して何が悪いんだ!!!」

「別に俺はお前の生き方に口は出すつもりはない、ただこれから卒業するに当たって問題を起こすのは良くないと言うことだ。このままだったら卒業を取り消される可能性もあるし下手をすれば退学だって出て来るんだぞ?」
一応靖男も聖についてはある程度心配はしている。たしかに彼女から起こされる問題は大小様々であるが一応学生ではあってもこのまであれば最悪退学に関わることも出てくるだろう、これに関しては靖男のみならず礼子も同様なようであるが本人次第と言ったところである。

「ま、俺が言いたいのはな・・子供は卒業してから作r」

「うるせぇ!!!!!」

そのまま聖は靖男を蹴り飛ばすと大人しく料理に手をつけ始める、この光景に店主は苦笑しながらもある出来事で死んでいた表情でいた昔とは違って充実している靖男に思わず笑ってしまう。

「お嬢ちゃんも店を壊さないでくれよ。骨皮も少し酔いすぎだ、もう遅い時間だからさっさとお嬢ちゃんを送ってやれ」

「へいよ・・そろそろお前の家まで行くぞ」
「まだいいじゃねぇか!! それに食い足りねぇんだよ!!!」
「ハハハ、また着てくれれば好きなだけ食べさせてやるし綺麗なお嬢ちゃんに免じて安くしておくよ」
「本当か!! 嘘ついたらポンコツ教師諸共ぶっ殺すから覚悟しろよ!!!!」
「さっさとお前の家まで行くぞ」
そのまま会計を済ませた靖男は聖を引き連れて店を後にした。



道中

薄暗い夜空に薄らと灯る蛍光灯を背景に2人は聖の家まで歩き続けていた、威風堂々と歩く聖とほろ酔いで若干ではあるが千鳥足になりつつある靖男の光景はなかなかシュールなものである。

「あのなぁ、別に送ってもらわなくても俺はもうガキじゃねぇんだから1人でも充分だ」
「お前に何かあったら担任の俺に責任が来るだろ、先生を路頭に迷わせる真似をさせるな」
「俺が言うのもなんだが、てめぇは今までの先公と違って変な野郎だ」

ここまで来ると聖も溜息しか出ないが、靖男は今までの教師とは違って自分を見下したりはしないし、ちゃんと“対等”に接してくれている。聖の中で教師は煩わしいものであったので今までどおり話し掛けられても無視してきていたし、彼らも問題児である聖には放置しており何も言ってこなかったのだが・・靖男は違った。何度も何度も自分に話しかけてきていくら追い返しても諦めてこなかったのだ、そんな日々が何度も続いたがいつの間にか自然にこうやってちゃんと会話をする関係に至っている。

「しかし、何でこう俺のような奴にまで気を掛けるんだよ?」
「そりゃ、お前の担任になった以上はそれなりのことをするのが俺の仕事だからな。お前が大人しくやってくれないと俺の査定に関わる」
「食わねぇ野郎だが・・てめぇの事なんて知ったこっちゃねぇ!!」
「先生もこれで飯食ってるんだ。少しは大人しくしろ」
「うるせぇ!! 俺は指図されるのが大ッ嫌いなんだよ!!」
今までは常に唯我独尊で我道をひたすらに突き進む聖は大概の助言などは切り捨てていたのだが、ここ最近は精神的にも落ち着いてきたようで最近は協調性というものが生まれてきている。口ではああいっているものの最近はそういった部分も少しながら影を潜めている部分もあるのだが・・未だに不安定な部分は歪めないので靖男としては恐ろしいところでもある。

「まだ俺はてめぇを認めちゃいねぇからな! そこを勘違いすんなよ!!」
「わかったわかった、とりあえずさっさとお前の家まで案内しろ・・」

酒の気持ち悪さを抑えつつも靖男は聖の自宅へと歩いていく、こんな調子で会話をし続けてしまえば酔いが冷めるどころか逆に気持ち悪さ全快で嘔吐してしまいそうである。そんなこんなで聖を先頭に歩き続けること数分後・・ようやく2人は聖の家へとたどり着く。

「ここが俺ん家だ。多分この時間だったら皆寝ているだろうがな」
「んじゃ、ここでお別れだ。明日も学校でな」
一応聖の家族には靖男が遅くなる旨を連絡しているので大丈夫なのだが、酒も飲んでいるのでここで別れたほうが賢明だろう。生徒を引き連れて居酒屋に言っていたことがばれてしまえば校長である霞からはいつも以上に叱られてしまうので下手な行動は起こさないほうがいい。そのまま聖を送り届けたのを確認した靖男はそのまま立ち去ろうとするのだが、聖もこのままでは一応納得がいかないのか最後に一声掛ける。
「おいポンコツ教師!! ・・今日はありがとよ」
「! ・・ま、ちゃんと勉強しろよ」

「余計なお世話だ!!」

聖の怒鳴り声と共に靖男はそそくさと消えていくのであった。



翌日



昨日の酒が体中に充満している靖男はいつものように学校へと出勤する、しかも二日酔いのおまけつきなのでそこから来る頭痛との死闘を繰り広げながら霞から発せられる恒例の朝礼をいつものように聞き流す。
(痛たたた・・二日酔いとは俺も歳だな)

「・・というわけなのでここ最近は不審者の情報が目立ちますので各先生方は注意して望んでください。学校としても対策として教員による地域の定期的なパトロールを実施する予定なので各学年の学年主任の先生方はローテーションを決めて私のほうに報告をお願いします☆」
「校長、地域については?」

すかさず質問したのは学年主任候補の鈴木、教員生活がそこそこの年数の彼女は生徒からも慕われ仕事に関しても穴がなく生徒会の顧問なので周囲の評価も非常に高く、時期学年主任の座が度々囁かれているのだ。それに教員が定期的にパトロールとしても人数的に考えて回れる範囲はここは是非聞いておきたいものである。
「回ってもらう地域については現在私のほうから理事長と協議しておりますので草案がまとまり次第、職員会議で話しますのでお願いします。・・骨皮先生、特に彼方のクラスが一番危険よ。わ・か・っ・て・る・?」

「へぇ? 不審者なんて相良で充分に撃退できるでしょ?」
「そんなことさせないためにも私達が動くんでしょ!!! ・・とりあえず、この件は職員会議に持ち込みますのでお願いします、私からは以上です」
「あまり大きい声を出さんで下さい・・」

2日酔いの靖男にしてみればいつもの霞の怒声も頭にかなり響くのでかなりの苦痛である、そのまま霞は朝礼を終わらせると各自教師はいつものように職員室から散っていく、靖男もその例に漏れずにそそくさと準備を終えて逃げるように教室へと向かおうとするが、当然霞が見逃すはずがない。

「骨皮先・・うわっ、お酒臭い。もしかして2日酔いなの?」

「・・まぁ、情けない話ですが」
「とりあえずお酒の臭いだけは極力消して頂戴。一応教師なんだからしっかりしてね」

霞はそのまま今回のパトロールについて理事長と話し合うために理事長室へと向かっていく、しかし酒の臭いをプンプンさせている教師がいたら生徒兎も角として保護者や来客者にばれてしまえば洒落にすらならないのでそこらへんを考えると靖男も思う節があったのか薬を調達するために礼子の元を訪れるが、先ほどのやり取りを聞いていた礼子はあまりの酒臭さに思わず顔をしからめてしまう。

「春日先生、2日酔いに効く薬ないですか? ついでに臭いも消せれたら最高なんですけど・・ってどうしたんだ?」
「それだけお酒の臭いが半端なかったし、朝礼の時なんて嫌でも鼻についたわよ」
「悪い悪い、昨日少し飲みすぎてな。お陰で2日酔いで頭も痛いわ気分も悪いわで朝から散々だよ」

「わかったから・・はい、私も使っている薬だから保障するわよ」

そのまま礼子はいつも自分が使っている薬を靖男に手渡す。この薬も例に漏れずに泰助の伝で手に入れているものであるが、即効性は勿論のこと臭いに関してもかなり消せるので市販されている物に比べても全然違う。
「それで彼女はどうなの?」
「んあ、相良のことか? ここ最近は大人しくしているようだけどそろそろ何かやらかしそうな気がするんだよな」

この2人は意外なことに同僚なので比較的に仲は良い方である、靖男が聖の担任になってから礼子との話題にはほぼ必ず聖のことが出る。礼子も何だかんだ言っても聖の事はかなり気に掛けているので担任である靖男にこうして度々聖のことを聞いているのだ。それに礼子の目からしても何ら偏見を持たずに普通に聖と接しているだけでも凄いことだと思うし、それだけ靖男のことを聖が認めている証なのだと思う。

「ま、俺からしてみればそんじょそこらのガキと変わらないと思うけどな。他の教師は必要以上に相良を恐れすぎている」
「そうね、だから彼女も今まで人を信頼できなかったと思うわ」
「あいつの本質はタダのお馬鹿で・・って、時間がマズイ!! んじゃ、またな」

そのまま靖男は脱兎の如くダッシュで職員室から去るが誰も注意をしなかったのはご愛嬌という奴だろう。



同時刻


陰謀というのはふとした瞬間から渦巻くものであり、場所はとある高校での不良生徒同士の会話から始まる。
「チクショウ! 相良の野郎め、女になっても調子に乗りやがって・・」
「でも仕方ないだろ。奴の強さは中学時代から折り紙付きだし、なんてたってあの中野とも互角の強さだぜ?」

どうやら彼らも聖にやられた人間の一部のようで復讐心に燃えてお約束の展開を繰り広げようとしている彼らであったが中々その方法が思い浮かばない。また再び正面から聖とぶつかり合えばものの3秒で秒殺されるのは間違いないので何かしらのアイディアを思考はしているものの全く思い浮かばずに意気消沈としてしまっている。

「何か奴には弱点はないのか・・」

「んなもんあったら苦労するか!!」

「あの相良に弱点なんてあるわけが・・・そうか、一つだけあったぞ!! 奴には最近連れがいたんだ、そいつ等を拉致れば・・」
「なるほど流石の相良も手を出せないと言うわけか」

「確か奴は白羽根あったよな。あそこには連れがいるから聞いてみるぜ」

そのまま3人は邪な陰謀を企てながら打倒相良 聖に向けて着々と作戦会議を打ち立てる、散々聖に叩きのめされた彼らにしてみればこの待望のリベンジマッチを制したらそのちっぽけな復讐心は満足できるだろう。

「あの相良を叩きのめせれるだけでも壮快だぜ!!」
「女体化してからも手が出しづらかったから考えるだけで唸ってくるぜ」
「にしてもあの孤独一辺倒だった相良に連れがいるとは驚きだぜ」

彼らの良く知る相良 聖とは常に一匹狼で単独で数々の不良集団を叩き潰し今やその存在は同世代の人間にとったら生きる伝説と化しつつある、それ故にあらゆる手段を用いて攻略しようとする輩もいたのだが全て聖に叩き潰されているので彼らが成功すれば一役その名も挙がってくる。そんな聖が女体化したことも驚きではあるが、連れがいることがもっと衝撃的であるのだ。

「んじゃ、俺は連れに連絡を取って相良の情報を集める。お前らは準備を頼むぜ」
「任せとけ」
「待ってろよ・・相良 聖!!」

陰謀は野望へと変わり、それが復讐心を煽って彼らを駆り立てる・・今まさに陰謀の影が聖の周囲に渦巻こうとしていた。



教室


「というわけで当時の農民達は貧困に喘いでいたわけだ」

時間は進み、聖たちのクラスでは靖男の授業が絶賛開催中なわけであるが彼の授業は主にその日の気分で進めていくので他のクラスとは授業内容が統一すらされていない。現在靖男は2年生の一般クラスの授業を受け持っているのでクラスごとに秘密裏で連絡役を1人制定して他のクラスの連絡しあいながら授業内容を調整しつつノートに記載しながらクラスに配布していくという仕組みがとられている。このノートの存在は通称骨皮ノートと呼ばれるものでごく一部を除いて受験を控えている彼らにしてみればかなり貴重な代物である。
そんな経緯を当の靖男は勿論知るはずがなく、いつものような匙加減で自分のペースを貫きながら授業を進める。

「ま、だけど農家の人たちがいるお陰で俺達はたらふく飯を食えているわけだ。中々侮れないんだなこれが」
「先生、そんな小話はいいから授業進めてほしいお・・」
「内藤! こういった何気ない小話を挟むのも会話を面白くするコツだぞ、覚えておけ。
んで仕方なしに江戸時代に話は戻るが教科書58ページを開け、3代将軍の家光は様々な政治政策をしたことで有名で後の江戸幕府の基礎を固めるようになった。ツン、この時代に起こった主な出来事を言ってみろ」
指されたツンは慌てず騒がずいつものように的確に教科書片手に的確に答えを述べる。

「この時代で有名なのは幕府のキリシタン政策に反発して薩摩で起こった天草四郎が中心と行われた大規模なキリシタン一揆です。犠牲者はかなり多く、沈静化するのにかなりの年月を必要としたようですが・・」
「よし! 確かに天草一揆も大事なポイントだが、先生にとってこの時代で大きな出来事と言えば大奥創設だ。何せ家光の乳母であった春日の局があの陰謀渦巻く女の戦場を創設したんだからな、先生も将軍になりたいと何度思ったことか・・」
「てめぇのしょうもない願望なんてどうでもいいんだよ!!! んなもんは授業と関係ないだろ!!!」
聖がこの場にいる全員の人間の主張を一気に代弁するのだが、こんなもので靖男がそう簡単に負けるはずもなく己の主張を更に続ける。
「シャラップ!! いいか、よく考えてみろ。あの昼ドラのようなドロドロとした現場を生身で体験することが出来るんだぞ? しかもハーレムだから1度で2度美味しいと言う特典つきだ、だけど先生はそこらへんのジャンルが未だによくわからないからエロゲを隠れてプレイしているドクオにしてみれば長年の夢だろう」

「お・・おいおい!! 最近エロゲはご無沙汰だけど二次元と三次元の区別はつけてるぞ!!! 先生だって隠れてcivやってるじゃねぇか!!!」

猛烈に靖男に突っ込むドクオであるがパソコン室で隠れてエロゲをプレイしているという話は事実なので否定しようにも言い返せれない。それに靖男とはcivプレイヤー同士でもあるので非情に仲は良い方である。

「はいはい、そんなのは聞こえませーん。せめて先生に勝ってからほざくことだ。・・さて話を戻して大奥とは最近SAORIが主演のドラマでもお分かりだと思うがぶっちゃけると将軍専用の愛人集団だ、当然子供が生まれれば世継ぎの候補となる」
「先生、教科書にはちょこっとしたか載ってないお」
「内藤、先生はちゃんと教育者としてみんなに教養を深めてもらいたいと思って授業しているんだ。決して先生が個人的にやりたいわけじゃないからな、勘違いするなよ」
(本音がダダ漏れだお・・)

そのまま靖男は本来の内容とは完全に脱線しながら話を進めていく、確かに歴史の授業の内容ではあるものの教師も授業に関しては生徒の進学も懸かっているし、教育委員会からの査定の対象にもなるので的確に進めているのだが・・こと靖男に関しては霞から何度も注意されているのにも拘らずクラスによってバラバラである。

「さて、先ほど言ったように大奥が出来たことによって子沢山にはなったものの世継ぎ問題が起こるようになる。個人的には桂昌院の時代が心惹かれるんだが・・って、相良聞いてるか?」
「zzz・・」

そのまま聖を指した靖男であるが当の本人はすやすやと寝息を立てながら居眠りをしている。それに今日の天気は絶好の温かさであり居眠りには最適とも言えるし、その美しい顔とあわせたら絶好の絵になることは間違いはないのだが・・相手が相手なので無闇に起こそうとする輩は命をドブに捨てるのと同意義であろう、その場にいるクラスメイトは当然として普段の教師もスルーするところなのだが靖男は美少女の皮を被った眠れる獅子と対峙してどう行動するのか・・全員の密かな注目を浴びながら靖男は聖と対峙する。

(おいおい、骨皮先生は命知らずなのか!!)

(あの相良が気持ち良さそうに寝ているのにそれを叩き起こしたら・・確実に死ぬお)

(惜しい先生を亡くしたわね・・)
内藤とドクオはこれから起こるであろう靖男の悲劇を見守る覚悟を決め、ツンにいたっては既に拝んでいる始末である。



「おい、相良~。その寝顔が可愛いのは認めるが起きないと・・グフッ!!」
「うっせぇ!!! ・・zzz」
即座に聖は靖男の鳩尾に強烈な蹴りを放つが再び眠りの世界へと入ってしまう、普段ならここで引き下がる靖男であるが鳩尾から広がる痛みを抑えつつも更に聖に挑もうとするが先ほど蹴りを見舞われた怒りもあってか、持っていた教科書を硬く丸めるとあろうことか聖の脳天目掛けて一気に叩きつける。
「起きろボケッ!! 10秒以内に起きないと欠席扱いにするぞ!!」
「・・・だあああああ!!!! うっせぇんだよ、ポンコツ教師ッ!!!! 人が気持ちよく寝ている時間を邪魔しやがって!!!!」
「うるせぇ、馬鹿!! 人の仕事中に寝るな、ただえさえ少ない先生の給料を減らす気か!!!」
「んなもん知るか!!」
様々な言葉の応酬を繰り広げる聖と靖男であるが傍から見れば子供染みた争いなのが笑えてしまうが当の本人は真剣そのものなので誰も口を挟まない。
「大体お前は毎回毎回当然のように遅刻しやがって・・少しは教頭から小言を言われる俺の身にもなってみろ!!」
「てめぇだって重要な仕事は葛西先生に投げっぱなしだろうがッ!!! 俺は知ってんだぞ!!!」
「うっ――・・」

事実が事実なので靖男は少し窮してしまう、それを見逃すほど聖は甘くないのでここぞとばかりに畳み掛ける。
「それに授業なんて出てりゃそれでいいんだよ!! てめぇみたいなポンコツ野郎が教師になっただけでも奇跡に近いものだ!!!!」
「ちょ、ちょっと!! それ以上は言いすぎよ!!!」
流石にこれ以上は拙いと思ったのか、慌ててツンは制止しようとするが完全に火がついてしまった聖は止まらない。
「止めるなツン!! 俺はこのポンコツ教師を・・」

「全く、ガキ相手に俺も舐められたもんだ。・・とりあえず相良、お前は補習だ。放課後楽しみに待っておけ、参加しないと単位はやらないからな」
「てんめぇ・・人の弱みに付け込みやがって汚ねぇぞ!!!」
「残念ながら俺は教師だ、留年したくなかったら素直に参加しろ。んじゃ、今日の授業はこれで終わりだ。先生はちょっと忙しいので退散する」

そのまま靖男はそそくさと教室から立ち去る、礼子からもらった薬で2日酔いや臭いはある程度は緩和されているものの気分の悪さは完全には消えていないので正直かなり辛かったのだ。聖と言い争いをしたときも内心はいつ戻しそうで怖かったぐらいである、要は生徒達の前ではやせ我慢をしていたのだ。

(ウップ! 流石に薬じゃこんなものか・・危うくリバースするところだったぜ。今日は部活休もう)

既に顧問でありながら部活を休もうとしている靖男である、といっても彼が受け持っている卓球部にしてみればそれがデフォルトになりつつあるのであまり問題ではないのだ。それに最近は陸上部の活躍が目覚しいのだがその顧問の靖男はとある事情であまりいけ好かないのだが、それが判明するのはもっと後になってからの話である。

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最終更新:2012年06月24日 19:43
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