無題 2012 > 10 > 12 ◆suJs > LnFxc

今日は決戦の日。バイトが休みの涼二の家を訪れた。
予めシャワーを浴びて入念に身体を洗い、例の勝負下着を(込み上げる吐き気を堪えながら)身につけ、
この日のために練習した化粧を震える手つきで施し、耳やら爪やらの装飾もフル装備してきた。
ここまでやったならついでだ、とばかりに母さんの香水も拝借しようかと思ったが、
「秋代さんの匂いがする」とかで萎えられたら困るのでやめた。
あとは当たって砕けるのみだというのに。…いや、砕けないに越したことはないのだけど。

さてはて。にも関わらず、だ。

「だああああやられた!またコイツかよ!」

どうしてこうなったと言いたい状況になっていた。
コイツは俺が部屋に入るなり、「ゲームやろうぜ!」と一目散にコントローラーに飛びつきやがったのだ。

女体化してからこの部屋に来るのは初めてだが、以前は取り敢えず涼二のベッドに上がり込んでお互い気が済むまでごろごろするのが慣例だった。
今思えば男が男のベッドに上がり込むのは気持ちの悪いものだが、当時からお互い気にしていなかったのは長い付き合いの賜物か。
まぁ、何にせよ俺の予定に変更はない。

「もーちょい慎重にいこうぜ」
「いつもそう思うんだけどなー。どうも上手くいかねぇんだ」
「お前は突撃しすぎなんだよ…あ、俺もやられた」

自分の決意を意識すればするほど動悸が激しくなっていく。だから悟られないよう、せめて言葉だけはいつも通りを装う。
そこに全力を傾けているので、当然ゲームなんかに集中できるわけがない。
リザルト画面に表示された成績は、本当に酷いものだった。

「お前もさっきからだいぶ調子悪いよな。どうかしたのか?」
「あ…いや、何だろ。今日はダメみたいだな。えっと…ちょっとさ、休憩しようぜ」

手汗まみれになったコントローラーを投げ出し、部屋を見渡す。
相変わらず、いい加減な性格の割にこざっぱりとした部屋。掃除も行き届いており、男だった頃の俺の部屋の散らかり具合とは大違いだ。

部屋の片隅に置かれた棚とその周辺には、コイツのちょっとした趣味であるプラモデルが整然と並んでいる。
車やバイク、戦闘機などが雑多にあるが、比較的多いのはガンプラだ。
筆塗りやエアブラシを使うほど凝っているわけではないにせよ、どれもそこそこ綺麗に作られている。

中でも一際目を引くのは1/144のGP-〇3デンドロビウム。サイズもデカいが、値段もそれなりのヤツだ。
久々に見てもやはりデカい。そしてメガビーム砲が邪魔すぎる。サイドテーブルに鎮座しているのは棚に収まりきらないからだろう。
よくもまぁ、こんな巨大なキットを作ったものだ。その横ある、ただでさえ小さい俺のフィギュアが余計小さく見え…は?

「おい。マジでアレ飾ってんのかよ!」
「ん、アレか。そこらに放置するのが勿体ないくらいのクオリティだからな」
「だからって飾るなよ!?しかも何でわざわざデンドロと対比してんだよ!」
「デンドロのオーキスとドッキングさせようと思ったんだけど、サイズが合わなくてさ」
「させなくていいから!勝手にメカ少女にすんな!」

コイツの感覚はよくわからんが、お人形遊びをするくらいなら本物を愛でてほしいものである。

でも、文化祭の思い出の品か。嫌なこともあったけど、その記憶は闇に葬ろう。
概ね楽しかったと言えるし、何より…この気持ちを認めるきっかけになった大切な日。
あの日があったから俺は今日、この覚悟を胸に秘めて、この場にいるんだ。
そのために、まずは一歩を踏み出さないと。

「やっぱデンドロは、このクローアームが最強にカッコいいと思わんかね」
「それはよくわかんねーけど…と、取り敢えずベッド上がっていいか?」
「あー…いいぞ。いつもそうだったもんな」

微妙な逡巡が何だったのか気になるものの、しかし許可は得た。
いそいそと寄り掛かっていたベッドに上がる。

寝そべってシーツに顔を埋めると、太陽の匂いの中に涼二の匂いが混じっているのがすぐにわかった。
全身から力が抜けて、心の底から癒される。

…ふあ。
何だこの俺ホイホイは。そうか、ここが楽園だったのか。これだけで飯が何倍も食える気分だ。
人の匂いが何億人分あろうとも、大好きなこの匂いだけは、一発で判別する自信がある。

「いくらお前と言えど、女が俺のベッドにいると変な気分だな」
「ムラムラしたりして?」
「するかよ!」

…このまま襲ってくれたら楽なんだけど。この雰囲気ではまだ無理か。とは言え若干凹む。
もう少し、手を出しやすいというか…手を出したくなる雰囲気に持っていきたいところだ。

折角今日は、俺にできる限りの装飾を施してきているのだから、これを利用しない手はない。
これについて、向こうからのリアクションがほしいところだが…どうも今日は涼二も変だ。
そわそわしているというか、落ち着かないような、そんな感じが見受けられる。
自分のベッドだというのに堂々と上がろうとせず、俺から見て足元あたりの縁に、居心地悪そうに腰掛けているだけだ。

「どうかしたか?」
「いや…何かお前、今日はいつもと雰囲気、違くねぇか?」

膝を人差し指でとんとんと叩きながら、横目でちらりと俺を見て言う。
涼二が人差し指で手近なものを叩くのは、落ち着かない時や照れている時の癖。俺と奴の家族くらいしか知らない癖だ。

フル装備の俺を見て少し戸惑っているのだろうか。
しかしタイミングとしては…悪くない。女らしさをアピールするチャンスか。

「今日は自分で化粧してきた。女の嗜みとして、もう俺もこのくらいは出来るぞ」
「パーフェクト西田忍って感じか!」
「脚は元々ついてますけど!?」

そりゃそうだ、とけたけた笑って、ここでようやくベッドに仰向けに寝転んだ。きしり、とベッドのスプリングが鳴く。
心なしか、気まずい緊張の糸のようなものが切れたような。そんな気がした。
屈託なく笑ういつもの笑顔に心底ほっとする。

「何だろうな、ちょっと落ち着かねぇんだよ。こうやって、からかってるぶんには間違いなく忍なんだけど。調子狂うぜ」
「化粧姿くらい、にょたいカフェの時に見たじゃねーか」
「見たけど、ありゃイベントだからな。プライベートは本邦初公開だろ」
「…み、見せるのは本邦どころかお前が宇宙初なんだけど。ま、まぁ…たまたまな。ラッキーだぞ、お前」

お前が特別なんだ。そう言いたいのに、余計な最後の一言が口をついて出てしまう。
素直になれない自分が恨めしい。上から目線な発言に、気を悪くされたら最悪だ。俺の馬鹿っ…!

「…」
「…」
「…」
「あ…いや、別にラッキーとかどうでもいいよな。ただ一言感想なぞ頂けたら…」
「…悪ぃ、ちょっとほうけてた。そうだな、か…可愛いと思うけど」
「まことなりか!?」
「まことなりよ!そして何で昔風なんだよ!」

嬉しさ余って口調がおかしくなってしまう。
しかし少なくとも好印象だ。攻めるなら今しかない。ここは一気に近付いて、もっとよく見てもらえば…!

「…何だ?おもむろに這いつくばって」
「だ、黙ってろ!今からそっちに行くからな!逃げるなよ!」
「はぁ!?どうしたんだ急に!?」
「もっと近くで見ないと正当な評価を下せないと判断したッ!」

自分のいるベッドの枕元から、足元の方にいる涼二を目指して、四つん這いでにじり寄る。
別に好きでこんなアホみたいな体勢をしているわけではない。
…腰が引けて、こうでもしないと進めないから。覚悟を決めたのに、我ながらヘタレ具合に嫌気がさす。

それでも、こうして行動に移せるようになったんだよ。お前のことが大好きだから。

「…どーよ」

混乱と焦りで動けずにいるらしい涼二を、ついにベッドの端まで追い詰めた。
開かれた脚の奥にまで進入したところで、上体を起こして正座する。

すぐそこに大好きな涼二の顔があるのに、その目を見ることができない。
口、鼻と順番に。最後に少しだけ眉間あたりを見て、また口に戻る。それが限界。

「俺、目ぇ悪くないぞ。…さっきも言った通りだ」
「さっき何て言われたか忘れた。最近物忘れが激しくてな」
「…可愛いって言っただろうがよ!ったく、何だっつーんだよ今日は?」
「そっか…そっかそっか。ふふ」

ヤケクソとばかりに言い放たれた言葉でも嬉しかった。
微妙な沈黙が訪れるも、むしろそれすら一周回って心地が好い。どうしたって顔が緩むのが抑えられない。
どんどん気持ちが昂ぶって、今までの自分では到底出来なかったであろうこともできてしまう気がした。
自分が自分じゃないような感覚だ。

「ど、どうした?」
「…ん。何となく」

対面状態から反転して、涼二の胸板に頭を預ける。
後頭部に感じる涼二の心臓の鼓動は、多分いつもより速い。
そういう俺だって、頭は冷静なつもりでいて、心臓は爆速で稼動しているけれど。

「なぁー」
「あー…っと。こうか?」
「流石だな。よくわかってんね」

みなまで言わずとも、頭を撫でてくれる。女になって以来いろんな人にやられるが、やっぱり涼二が一番いい。
一番安心できて、一番ほわほわする。

「マジどうしたわけ?今日は妙に甘えてくるけど」
「何となくだって。…気持ち悪いか?」
「いんや、別に」

この感触を俺だけのものにしたい。その源である涼二が欲しい。コイツに愛されたい。
そんな欲望が渦を巻く。でも、それを決めるのは涼二だ。

俺は卑怯者だから、自分から気持ちを伝えることはしないと決めた。
もしもコイツが俺と付き合ってくれるのなら願ったり叶ったりだが、そう都合よくいく保証はどこにもない。
俺を恋愛対象として見れないのなら、せめてこの身体だけでも求めてほしい。

…そろそろ頃合いか。

「あ、あのさ。涼二」

確かに、少なからず緊張はしている。
だけど、例えこれが純粋無垢な告白じゃないとしても、これまでの想いや行動は全てこの瞬間のためにあった。

「国営のことなんだけど―――」

だから思いの外、この口は流れるように言葉を紡いだ。
そう思った矢先。

「あ、そうだそうだ国営な。言うの忘れてたけど、金貯まったんだよ」
「…!」
「つーわけで、そろそろ行こうと思ってんだ」

出鼻を挫かれた。
コイツのことだから、タイミングを見計らってのことではなく天然なのだろうけど。

わかっていたことだ。国営風俗に行くためにバイトをしていて、金が貯まったら、後は行くだけだって。
けど、いざ涼二の口から発せられると途方もなく虚しくて。
少なくとも今この時点では、俺を相手にする気はないということを意味するから。

それでも、ここで退いたら…典子や小澤を筆頭に、皆に会わす顔がない。
こんな状況は最初から織り込み済みだし、何より、この程度で砕ける覚悟じゃない。
食い下がってやる…!

「こ、国営なんて、行かなくていい…」
「バカ。絶対女になるわけじゃないにせよ、絶対ならないわけでもないんだ。相手のいない俺は、」
「行かなくていいっつってんだよッ!俺の身体…使っていいから…!」

頭の上に置かれていた涼二の手首を、ぎゅっと握り締めて叫ぶ。
そのまま振り返り、唖然とした涼二の目を、先程は見れなかった目を、今度こそ正面から真っ直ぐに射抜く。

「な、はぁ!?」
「どんな格好だってする!顔が好みじゃないなら顔に毛布被せてくれたっていいよ!この体型は…どうしようもないけど…!」
「おい!?」
「…脱ぐから。見て決めてくれ」

予想していなかったであろう展開に絶句する涼二の手を離し、着ていたニットのワンピースを一気に脱ぐ。
勢いに任せてインナーも、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ。あっという間に下着姿だ。
このまま素っ裸になっても構わないが、この瞬間のために買った折角の勝負下着。
この姿をよく見てもらえば、その気になってくれるかも知れない。

「こ、これな。わざわざこのために買ったんだ。お前が気に入ってくれたらいいなと思って…」
「…」
「若い女向けの下着屋に一人で行ってさぁ。恥ずかしかったぜ、実際…。周り、キャピってる女ばっかりだし」

やや大げさなフリルが付いたブラはゴワゴワして邪魔だし、実用性皆無のショーツは紐が解けないように気を使うのが大変だった。
それらが、今こそ本来の役目を果たす。

「ど、どうかな…」

返事がないのは不安だが、涼二は頬を紅潮させてこちらを眺めている。
上半身、下半身。忙しなく動く目線は、この身体に興味を示していることの表れの筈だ。
…いける!この反応なら!

「…触らなきゃ何も始まらないだろ?ほら」
「うぐっ…!」

少し強気になって、ぐいっと気持ち胸を前に突き出し、そこから先の行為を促してみる。
すると何故か呻き声を上げながら、涼二の右手がブラに向かって伸びた。
ゆっくりと少しずつ。時折、躊躇うように手を引いて、また伸ばして。そんな一進一退を繰り返す。
腹を空かせた野生動物が、人間の用意した餌を食うか食うまいか迷う様子…とでも表現すれば良いだろうか。
目は胸元に釘付けで、興味があることに間違いはなさそうだ。
なのに、どこか苦しそうな表情をしていて、何を考えているのかさっぱり読めない。

…まどろっこしいな。ちょっと強引にいくか。

「何やってんだ、ほら早く―――」
「…!!うおおおおおおおおおッ!!!」
「!?」

涼二の右手首を掴んで胸を触らせようと、手繰り寄せた瞬間。
それこそ獣のような咆哮とともに手を振り払われる。
その明らかな拒絶にショックを覚えるより早く、奴の拳はそのまま奴自身の頬を打ち抜いた。

「このバカ女ッ!早く服を着やがれッ!」
「な、な…何で!?据え膳食わぬは男の恥だろ!?」
「黙れ!後ろ向いてるから、さっさと着ろ!」

怒り心頭といった様子で言い放ち、本当に背を向けてしまう。
それきり、気まずい沈黙。あの心地好かった沈黙とは違う。今度のはリアルに居た堪れない。
数十秒前まであんなに近く感じていたのに。今は突如遥か彼方へ行ってしまったように思う。
「玉砕」の二文字が頭をよぎり、目の前が真っ暗になる。

でも、確かに手は出そうとしてたのに?突然我に返ったように拒絶?…コイツの真意が分からない。

「…やっぱり、俺が相手じゃダメってか」
「そうじゃねぇ!一瞬、本気で押し倒してやろうかと思ったよ!ギリギリだった!」
「はぁ?」

押し倒してやろうと思った?つまり、その気にはなったということ?
だったら寸前で止めたのは何なんだ。俺の決死の覚悟を無駄にするつもりか?クソが、何かムカついてきた…!

「押し倒せよ!?俺がいいって言ってんだから!イモ引いてんじゃねぇよインポ野郎ッ!」
「急展開すぎて頭が追いつかねーんだよ!つーかインポじゃねーよギンギンだよ!そういうお前は尻軽すぎんだろ!?」
「処女が尻軽もクソもあるか!?ちゃんと相手を選んでるっつーの!」
「選んだ結果が俺かよ!手近な男なら誰でも良かったんじゃねーのか!?」
「何だと!?」
「何だよ!?」

お互いムキになって罵声を浴びせあう。ほんの数分前までちょっといいムードだったのに、もう目茶苦茶だ。

「はぁ…。取り敢えず落ち着こうぜ」

相変わらず背を向けたままのインポ野郎が休戦を申し入れてきた。

…仕方ない、乗ってやるか。
そのまま体育座りで奴の背中にドカッと寄り掛かってやる。

「お前はまず服着やがれ。寒いだろ」
「…やだし」

俺はまだ諦めていない。
確かに手応えはあったんだ。今までの人生で一番の勇気を振り絞ったのに、そう簡単に諦めてたまるものか。
こうなったらもう恥も外聞もない。旅の恥は掻き捨てだ。旅じゃないけど。

「理解に苦しむぜ…マジ何でこんな馬鹿なことしてんの?」
「馬鹿なことって言うな。俺は、お前なら本気でいいと思ったんだからさ…」
「…何で、いいと思ったんだよ」

そんなの、好きだからに決まってんだろ。
けど、それは言わない。言えない。

「女になってから、お前には世話になりっぱなしだから…その礼のつもりで。俺ならタダだぜ?わざわざ店で高い金払う必要ないし…」

丸暗記した言い訳を、一字一句違えず口にする。こんな逃げ方、人は許さないかも知れない。
けど、俺は卑怯者だから。
好きだと伝えて、今ここで涼二を失うくらいなら、俺は嘘つきな卑怯者でいい。

「礼にしては極端すぎる。だったら、また弁当でも作ってくれりゃあいいじゃねーか」
「で、でも!前に胸揉んだことあっただろ!?その続きと思って、今からでも―――」
「…あのさ。そのことで、お前に謝りたいことがあるんだ」
「…?」

女体化した2日後だったか、確かそのくらいの時期。
購買で飯を買うのを委託することになったからとか、そんな理由だったような気がする。
その前日にコイツが冗談で乳揉ませろ的なメールを送ってきて、それを真に受けた俺はホントに揉ませて。

何だか、凄く懐かしいことのように思えるな。でも、謝るって…何に?

「あの時お前、今夜のオカズに使うくらいはいいって言ったろ」
「あぁ…言ったっけ、そんなこと。そしたらお前、AV女優に脳内変換して云々って」
「………、脳内変換せずに、お前で抜いた。それもあの晩だけじゃねぇ、何回もだ。すまん、忍」
「!?」

暖房の効いた室内とはいえ、今は冬。下着姿では寒い。
そう思っていたのに、身体が一気に熱くなる。
確かにこれが他の男だったら気色悪くて鳥肌モノだが、コイツだけは違う。凄く嬉しい。

対して、涼二の声が震えているのは寒さによるものではなく、何度も俺で抜いたことに罪悪感を感じているから…なのか?
でも、もしかして、もしかするのか?
何回も俺で抜いたのなら、もしかして、俺に気があるとか…?

「…何で、何回もしたんだ?」

先程涼二が俺にこの行動の理由を尋ねた時と同じような口調で、俺も問う。
声に嬉しさは込めない。期待はしない。しちゃいけない。
これは万が一、いや、億が一のための確認なんだ。だってコイツは、俺のことを親友としか見ていないだろうから。

「そりゃあ…アレだ。お前、見た目はさ…可愛いと思うし。他に適役がいなけりゃ、自然とそうなっちまうっつーか…」

…まぁ、やっぱりこうなるわけで。
いいんだ、わかってたから。涼二に好きだと言ってもらえるなんて、思ってない。
―――ほんの少し、本当にほんの少しだけ思ったけど、これはアレだ。誤差の範囲。何ら問題ない。

でも。
胸が、凄く痛いんだよ…。

「…そっか。そーだよな」
「悪かった」
「気にすんな。ツレなんだからさ、そのくらいで怒るかよ」

結局、俺は「親友」という言葉を盾にしているだけ。親友だから、抜かれても怒らない。親友だから、フデオロシの相手になる。
どんな親友だろうな、それは。道徳的におかしくないか?

親友は相手の助けになるべきという立場を逆手にとって、結局は自分の願望を叶えたいだけだ。
我ながら、親友という単語が実に白々しく、薄っぺらなものに感じてしまう。

そうやって自分の気持ちに嘘をつくたび、胸が締め付けられる。苦しくて痛い。

「…ツレだからだろ。ツレで抜くなんてマトモじゃねぇから」
「いや、もういいって」
「何で軽蔑しないんだよ!?軽蔑しないお前もどうかしてると思うぞ!」
「わ、わけのわかんねー逆ギレすんなよな…!そんなこと言われても…!」
「そうだよな、俺たちはツレで…なのに何なんだよ、俺…!くそッ!」

だんっ!と拳を膝に打ち付ける音と振動を背中に受ける。何か、涼二の様子がおかしい。
自分に言い聞かせるように「親友」を強調して、だけど納得できないような、そんな苦悩が痛いほど伝わってくる。

支離滅裂とも言えるコイツの言葉に、何度も何度も諦めて、つい先程にも諦めた希望を、再び抱いてしまう。
だってこれは、コイツのことが好きになって、でもそれを認められなかった頃の、俺そのものだから。

「お前は女になってから、色々危なっかしいから。だから、俺がサポートしてやらなきゃいけないと思ってた」
「…ん」
「でも、…あぁ畜生!わけがわかんねぇけど!最近の俺はお前を助けたいっていうより、守ってやりたいとか思ってて…!」
「うん…」
「けど、それは俺の役目じゃねぇよな!?いつかお前が誰かを好きになって、その誰かもお前を好きになったら、その誰かの役目だろ!?」
「そう…かもな」
「でも俺は、それが何だかすっげーアレでさ…!」

俺にとって典子が、まだ藤本だった頃。
逃げるだけ逃げて、結局典子に辛い告白をさせた時のことがフラッシュバックする。
あの時と違うのは、今この場にいるのは男と女だということ。想いが伝わらなければ、相手を失うということ。

伝われば、この恋が実るということ。

「油断すると、その…お前とヤりてぇとか思っちまったりとか、そういうことも…ある」

普段はとぼけた涼二の、珍しく真剣で―――尻すぼみな弱々しい声。果たしてこの後に続くのは、俺の望む言葉か。
…いや、まだわからない。典子の時と違って、今度こそ俺が勘違いしているだけかもしれない。

だけど、もしも勘違いじゃなかったとしたら。言わせていいのか?コイツに。

「…だから!よくわかんねーけど!もしかしたら…多分。いや、きっと俺は、」
「!」

涼二の言葉は止まらない。
もしも勘違いじゃなかったとしたら。コイツはきっと、相手を失う覚悟を決めて次の言葉を言おうとしていて。
なのに俺は相変わらず他力本願で、親友という関係を盾に、何のリスクも負わずに受け側の立場に甘んじている。

俺の人生、それでいいのかなぁ…。

「お前が、」

「すとおおおおおおおおおおっぷ!ストップストップストーーーップ!!それ以上言うんじゃねえええ!」
「ぶげっ!?」
「いいわけねー!いいわけねーよなぁ!こんなの絶対いいわけねぇーッ!」」

背中合わせの状態から猛然と振り返り、叫びながら涼二の背中にタックルをかます。
そのまましがみ付き、耳元で更に叫ぶ。声のボリュームになんて気を使っている余裕はない。

自惚れ?勘違い?
知るか!玉砕したっていい…わけじゃないけど!だけど言うんだ!

「…あ。そうだよな、いいわけねーよな…。悪ぃ、今のは忘れて、」
「ちげーよ!そっちは忘れねー!絶ッッッ対!忘れてやらねぇからなッ!」
「は、はあ!?」
「今は俺が男気を見せる時なんだよ!こっち向きやがれッ!」

我ながら、とても今から告白をするとは思えないような剣幕で涼二と向かい合う。
そりゃあ、滅茶苦茶怖いし恥ずかしい。涼二の腕をこれでもかと握り締めたって、1ミリたりとも気が紛れない。

「…俺は、これからも、ずっとお前に守ってほしい。弁当なんていくらでも作るし、セックスだって、何回したっていい」

それでも。

「俺は…ずっとお前と一緒がいいよ。…好きになっちまったから。お前を」

人生に一度くらい、告白とやらを、してみるのもいいだろう。

「告ったら今の関係が崩れるかもって考えたら怖くて…だけど今のままじゃ、いつかお前にも恋人ができて疎遠になるだろうって思って…」

怖いけど、伝えなければと思えたから。

「そうなる前に、お前に抱いてほしかった。お前の初めての女になりたかった。…それで今日、こんなことした。ごめんなさい」

逸らしたくなる目を必死で前に向けて、洗いざらい隠していた気持ちを吐き出す。
もう後には引けない。最早なるようにしかならない、出たとこ勝負だ。

「え、あ、忍…?お前…」

涼二は口をあんぐりと開けて、信じられないものを見たような顔を…って、なんて顔をしてやがる。
予想外の展開みたいな、そんな顔だ。…もしや、本当に俺の勘違いだったのか?
コイツが何か別のことを伝えようとしているのを俺が早とちりして、見当違いの告白をかましてしまったのか?

だとしたら、今からどんな展開が待ち受けるのか。
バッドエンドか、それとも…

「…なら、俺から一つ言わせてくれ」

密かに狼狽する俺をよそに言う。今度は真剣な顔で俺を見据えての一言。

「俺と付き合ってくれ」
「………あ。は、はい!ふちゅちゅかものですが!!」

涼二の言葉。
それが告白の言葉で、涼二が俺と同じ気持ちを持っていてくれたことを脳が正しく処理をするのに、ほんの少し時間を要した。

そして処理した内容に未だ実感が湧かぬまま、そしてどうにか絞り出した返事が噛み噛みだったことにも気が回らぬまま。
俺は涼二の胸に飛び込んでいた。

「えーっと、じゃあ…する、のか?付き合っていきなり今日、じゃなくてもいいと思うんだけど」

困惑したように涼二が言う。
当然、今日するに決まってる。女体化が発症するのは誕生日の前後。
一般的に当日が多いとされているが、俺は誕生日より後という最悪のフェイントを食らった。
コイツだって、逆に誕生日よりも前に女体化しないとも限らない。

…コイツが女体化したら、どんな女の子になるか見てみたい気もするけどな。
でも今の俺からしたら、それはバッドエンドだから。

「早いに越したことはないだろ。でも、その前に確認したいんだけど」
「?」
「『俺』って言うの、やめた方がいいかな…?他の言葉遣いとか、振る舞いなんかもさ」

以前から少し気にしていたこと。
彼女を名乗るからには、小澤のように言葉遣いや振る舞いを矯正すべきかもしれない。
なにせ、うちの母親ですら一人称だけは矯正済みなのだから。
俺としてはどちらでも構わないけど。涼二が望むままに。

「んー、そのままでいいんじゃね?だってさ、その方が『忍』感があるだろ」
「『俺』感って何だよ?」
「性別も外見も変わりまくったけど、今ここにいるコイツは間違いなく、俺がよく知る『忍』なんだなーって実感できるっつーかさ」
「…それは。男だった過去も、受け入れてくれるってこと?」
「男の頃のお前を知らなかったら、付き合おうとは思わねぇよ。ずっと一緒にいてお互いのこと何でも知ってるから、
 そんなヤツが女になったってんなら…付き合う相手としては、この上ないだろ」
「…っ!」

男だった過去。その間に培った友情。それがなければ付き合っていないと、涼二は言う。
幼稚園、小学校、中学校、高校。男として一緒に歩んできた道は、「元男」というレッテルは、俺たちにとってはデメリットなんかじゃなかった。
少しだけ、涙が出た。嬉しくて泣くのは初めて、だな…。

「また化粧落ちるぞ」

そう言いながら笑って、涙を指ですくってくれた。
うん、そうだな。これからって時に化粧が落ちたら勿体ない。堪えないと。
でも堪えきれない気持ちだけは、ここではっきり伝えておこう。

「こ、これからも!ずっと一緒にいてもらうからな!当店は返品をお断りしてるからな!」
「何年一緒にいたと思ってんだよ。残りの人生、長くても『たかが』70年とか80年とか、そんなもんだろ?あまりにも余裕すぎてヤバいわ」

大げさなジェスチャーと、いつものふざけたようなツラで言うけれど、不思議とその言葉を信じることができた。
たかが、ね。頼もしいことで。

「さて、…ど、どーするよ?むしろ、どうしたらいいんだ?」
「どーするってお前、童貞ナメんなよ。わかるわけねーだろ」
「なんでドヤ顔なんだよ!」

一息ついて安心すると、ここのところずっと保っていた緊張感がすっかり解けてしまった。
そして、それとはまた別の緊張が込み上げてくる。今度のは「こういう状況」で一般的にするであろう緊張。
つまり、結局いつものヘタレな自分に戻ってしまったわけだ。
どーするもこーするも、先程までは自分から猛アタックしていたくせに、急激に恥ずかしくなってきた。

「つ、つーかさぁ!あんまりこっち見るなよ!スケベか!?お前はスケベ野郎なのか!?」
「だから服着ろよって言いまくったじゃねーか!今更トラ〇ザムばりに真っ赤にやりがって!あと、健全な男は皆スケベですから!」
「それはまぁ…必死だったからであってだなぁ…いざこういう状況になると………」
「…でも、その下着は似合ってるよ。すげー可愛いと思う」
「そ、そーか?あはは…」

褒められるのは超嬉しい。反面、超恥ずかしい。
自分の身体を抱くように隠してみても、大きめな胸はもにゅもにゅと形を変え、無駄に存在感を主張してしまう。
しかし今更服を着るわけにもいかず、無駄とは知りつつもどうにか涼二の視線から逃れようと身体を捩る。

「おおおおー!?いい!そのポーズすっげーいいぞ!」
「はぁ!?」

それが何やらコイツの心の琴線に触れたらしい。

…あぁ、そうか。恥ずかしそうにしてる女にそそられるっていう。その辺は元男だからわかるけども。
いざその対象になると、どうリアクションしていいものかわからん…。

「そうだ、ちょっとリクエストしていいか?」
「やれる範囲でなら…」
「片手で、こうやって目元を隠してみてくれ」
「…?こうか?」

言われた通りに伸ばした指先をぴったり閉じて、手の平は涼二に向ける。そしてそのまま自分の目を覆う。
え?何これ?

「すっげー!デリヘルの写真みてぇだ!リアル風俗じゃねーか!!」

あぁ、そういう感じか。そっかそっか、ふーん………

「ざっけんなあああああああ!!」

ッかぁーーー!!出たよいつものアホっぷり!どうしてコイツはいつもいつも…!
ほんとシリアスな雰囲気を維持できねー野郎だな!!

「だっひゃっひゃ!それっぽい!超それっぽい!」
「俺はお前の彼女ってことでいいんですよねぇ!?お前はそんな俺に何をやらせてるんですかねぇ!?」
「いやー悪ぃ悪ぃ。エロい下着だからさ。つい、な!」

これからという時に、馬鹿みたいなことをしてぎゃあぎゃあ言い合う始末。
取り敢えずアホな彼氏の頭を引っぱたいておく。普通はもっとこう、ムード的なものとか色々あると思うのだけど。
…まぁ、これも俺たちらしいといえば俺たちらしいか。とにかく先に進まねばならない。

「だあーっ!とにかく!あ、アレだ!まずはアレするぞ!」
「アレって何!?」
「う…アレっつったらアレしかないだろっ…」
「わかんねーよ」
「…、ちゅー的なヤツ…」

涼二相手に「キス」と言うのは、スカした感じがして少し恥ずかしかった。
冷静に考えれば「ちゅー」と言うのも普通に恥ずかしいのだが…茹だった脳ではそこまで考えが至らない。

「お、おう…するか」
「う、ん…」
「…」
「…」

あぐらをかいた涼二の脚の上に乗り、両手を腰に回して密着し、顔を上げる。
こんなことすら、初めての「彼女っぽいこと」なので、いちいち新鮮な幸せが込み上げてくる。
先程までの顔とは打って変わって、見上げた涼二は照れくさそうだった。

「…?」

なかなか動きがないなと思ったら、そうか。
こういう時は女が目を閉じなきゃ始まらないんだ。そう思って目を閉じると、後頭部に優しく手が添えられた。
瞼の裏に気配を感じて、直後に唇へ柔らかい感触。涼二の唇。

…あぁ。ホントにキスしちゃってるよ、俺たち。

キスしたことで、本当にコイツの彼女になれたんだと実感できた。
付き合うという言葉も当然嬉しい。けど、それ以上に身体の繋がりで実感するなんて、一部の人には下品だと言われるもしれない。
でも、これはきっと理屈じゃない。身体の繋がりで愛を感じることって絶対にあると、今なら思える。
だから今この瞬間、幸せなんだ。



どちらからともなく、その感触を楽しむべく、力を入れたり緩めたり。啄むような初々しいキス。
快感とは程遠いにせよ、とても心が満たされる。愛して、愛されている実感を得られる。

さて。
心が満たされたとなれば、そろそろ…舌、入れてくれないかな…。

「…」
「…!」

誘うように、こちらから口を少し開いてみる。
向こうから多少強引にでも入れてくれたら嬉しかったが、その気配がないから。更に腰へ回した腕に少し力を入れて、より密着する。
ここまでやって悟ったのか、ぬるりとしたものが舌先に触れた。

アホだけど優しい涼二のこと。俺に嫌がられることを危惧して行動に移せなかったのかもしれない。
そんなところも、大好きだよ。

「んっ……」

前に典子としたキスは切なかった。ある種、決別に近い意味合いがあった。
涼二とのキスは気持ち良くて、あったかくて、幸せで、嬉しくて。ネガティブな要素なんて何一つない。

「…っぷは」
「キスって結構…気持ちいいんだな」
「もうちょっと、しよ…」
「おう」

俺からおねだり。今度は目を開けて見つめ合ったまま、徐々に激しくなるキスを延々繰り返す。
この溶けるような感覚は病み付きになる。もはや時間の経過なんて知ったことではなかった。

30分、1時間…どのくらい経ったかわからない。とにかく無我夢中だった。
キリのよいところ(?)で涼二が口を離し、こう言った。

「口が疲れたな」

無粋なことを言ってくれやがる。
何かもうちょっとムードとか大事にしてほしい気がしなくもないですよ。
まぁ、いいさ。コイツなりに、緊張しがちなこういった場を和ませようとしてるんだろう。

「…っと…なぁ、乳とか…触っていいか?」

目を伏せて、頬を掻きながら申し訳なさそうに言う。いちいちこちらの了承を得るのが好きなヤツだ。
ここまできてダメだなんて言うわけがないのに。
それに…実はもう、こちとらショーツなんて小便でも漏らしたかと思うくらいに濡れまくっていて、色んなところを触ってほしくて仕方ないのだ。
キスだけでこの有様というのは先が思いやられる。

「…ん。触ってほしい」
「お、おう。んじゃ遠慮なく」

遠慮なくという言葉とは裏腹に、以前触った時よりも、おっかなびっくり手を伸ばしてくる。
まずはブラの上から。デザイン重視のこのブラはパットが入っていない。
触った感触も、パット特有の妙な固さに誤魔化されることはないだろう。
既に固くなっている乳首が生地を押し上げているのを、普通に目視できてしまうのは恥ずかしいが。

「相変わらず、程よい弾力が癖になるな」

下から持ち上げるように胸を弄んでいる。嬉しそうで何よりだよ、おっぱい星人め。

そして存外、乳首を触られなくても気持ちがいいことに気が付いた。
何だろう?マッサージ、みたいな感覚…に近いか?
性的な刺激とは違う気もするが、大好きな人が相手だと焦らされているような感覚になってきて、結果的に興奮してしまう。
そして涼二の手は段々と胸の中心へ。すなわち乳首へ。

「すげー勃ってるぞ」
「ぅ…人のこと、言えない…だろっ…!」
「そりゃーそうだろ。お前がエロいのが悪い」

そういうコイツも、ちゃっかりジーンズにテントを張っていた。多分、胸を触る前…キスをしていた時からだと思う。
それだけ興奮してくれているということに、こんな俺が相手でも…と多少の自信が湧いてくる。

「んっ…ブラ…取るか?」
「あ、俺やってみたい」
「じゃあそこ、ホックになってるから。内側に引っ張って、」
「こうか?」
「ん。それで外れるだろ」
「…外れた。すげぇ、ちょっと感動すんね」

背中のホックが外れたので、肩紐をするりと抜く。

…ブラがはらりと落ちる。その瞬間、つい咄嗟に両手でガードしてしまう。
自分でも矛盾しているとは思う。コイツには、この身体を全部見せてもいい。見てほしい。それは本音。
でもやっぱり、恥ずかしいのだ。

「…忍」

囁くような声でそっと俺を抱き寄せ、額にキス。
全くコイツは卑怯なヤツである。だってそんなことをされたら、

「見せてくれるか?」
「………ずるいぞ、お前」
「頼んだだけじゃねーか」

逆らえるわけないだろ。
あえなく、胸を押さえていた手は涼二の手によって優しくどかされた。

「へぇーっ、綺麗だな!超ピンクだな!」
「うううるせーバカ!はしゃぐな!」
「照れるなって。いやー嬉しいねぇ、可愛い上に乳もデカくて綺麗なんてさぁ」
「揉みながら褒めるとか……あぅ!」

こねるような動作に加えて、親指で乳首を軽く潰してくる。
その甘い刺激が…凄く気持ちいい。

「ん、ぁ…っ」
「痛くないか?力加減わかんねぇぞ」
「大丈夫だっ!………ちゅーして…」
「はいよ」

器用なもので、右手を俺の頭に添えてキスしつつ、左手は親指と小指を目一杯広げて、左右の乳首を同時に攻めてくる。
まさか片手で両胸をカバーしてくるとは思わなかった。
…コイツ童貞のくせに、何でこんなテクいことできるわけ?他の女で練習してたらブッ飛ばすからな。

「お、お前…っ!他の女にも…こんなことしてたってオチはないよな?」
「はぁ!?してねーよ!童貞…ってか、もはや童帝と言っても差し支えないレベルだぞ、俺は」
「だって…!…はぁっ…!妙に手慣れてるし…っ…!」
「お前が好きだって気持ちがあるからじゃね」
「な、なら…いいけど…!んんっ…っ…!」

そこから暫く涼二の攻めは続いた。
あちらの興奮の度合いも上がってきたらしく、乳首に吸い付かれたりした。
その際にも一貫してコイツは、俺が嫌がるそぶりがないことを確認してから行動に移す。
刺激に耐えながら、赤ん坊のように胸に吸い付く涼二の頭を撫でてみる。

…何だろう、凄く愛おしい。
元男の自分が、どこまで女になれるかはわからないけど。
そんな俺でもいいと言ってくれて、これからもずっと一緒だと言ってくれるこの男を、ずっと包みこんでいけるような女でありたいと思った。



「…お前それ、ちんこ痛いんじゃね」
「パンパンで痛ぇーよ」

胸を揉まれながら、ふと切り出す。
ジーンズの上からでもよく見える血気盛んな股間。わかるわかる。あれは痛い。
こちらがこれだけやられたい放題なので、少しくらい構わないだろう…と、そっと手を触れてみる。

ぴくり、と動く懐かしい感触。

「あのさー…」
「ん?」
「ふぇ、フェラ…してみたいんだけど」

こちらばかり気持ち良くなっていては申し訳ない。…という気持ちも勿論あるが、どうにもムラムラしてきてしまっている。
生殖行為に特化した女体化者の本能か、涼二のブツを「見たい・触れたい・しゃぶりたい」の三拍子。
そんな欲求が鎌首をもたげてきて、歯止めが効かない。

「マジで?いいのか?」
「お前こそいいのかよ。俺は元男で―――」
「はぁ…そろそろネガティブ思考やめろよ。俺はお前がいいんだって。何度も言わせんな」
「…ありがとな」
「んじゃ、脱ぐぞ」

膝立ちになってベルトを外す。
男というのはそういうものなのか、今となっては知る由もないが、涼二は恥じらうことなくトランクスごと一気に脱いでみせた。

そしてそそり立つ、伝家の宝刀。

「うげっ!お前…結構デカいな!?」
「そうかぁ?お前、暫く見てないからそう見えるんだろ」
「いやいやいや!少なくとも男の頃の俺よりデカい!」

予想外に大きかった。
日本人の平均サイズよりも一回り大きいくらいか。太さも申し分ない。
年齢的に、これからまだ成長する可能性すらあるのが末恐ろしいくらいだ。

「…お見逸れ致しました。いつぞやは『粗末なブツ』などと失礼なことを申し上げました…」
「おう、わかれば宜しい」
「んー…でも、やっぱ懐かしいわ、これ」
「その余裕は元男ならでは、ってヤツ?」
「そーかもな」

勃起した他人のブツを見る機会などなかったわけで、当然多少の戸惑いはある。
それでも、天然女性が初めて見るのに比べたら、いくらか平静を保てているのは間違いない。

…さて、それじゃ。

「あんま上手くできねーかもだけど…頑張るから。歯、当たったらごめんな」
「そういう健気なセリフがたまらんわ」
「そうかよ」

座り直した涼二の股間に顔を埋める。
鼻先を近付けてみると、やはり特有の匂いがあった。

―――しかしその匂いは、女体化者をどうしようもないほど惹きつける。
ここにきて「咥えちゃダメ」などと言われたら発狂するかもしれない。そのくらい、身体が猛烈に求めている。

もう、舐めていいかな?いいよな?だってもう、我慢できない。

「あむ、…ちゅ」
「…うぉっ」

ぱくりと亀頭を口に含み、一舐め。二舐め。
…ツルツル?した舌触りだ。悪くない。そのまま無我夢中、一心不乱に舌で愛撫する。



ぴちゃ、ちゅる、じゅぼ。いやらしい音が響く。その音の発生元は紛れも無く、俺。
跪いて、ともすれば汚いとさえ言われる生殖器を口に入れる行為。
それを金の関係ではなく、頼まれたわけでもなく、俺は「したくてたまらないから」する。

つまり、たった一人の愛する男にだけ許す、心からの奉仕。
それがこの行為の真の意味、だと勝手に思っている。それは文字通り、身も心もコイツに捧げるということでもあって。

…結局何が言いたいのかと言えば、要するに。
そんなことを考えながら、かつてないほど興奮している俺は、やっぱりドMなんだろう、ということです。

暫く亀頭の舌触りを楽しんだ後は、カリ裏を揉むように舐める。多分、ここは気持ちいい。

「く、う…気持ちいいな…」

目論見どおり、反応は上々。
でも、これだけ繰り返すのは面白くないので、変化をつけようと思い立つ。
次は根本までゆっくりと裏筋に舌を這わせて、緩い刺激を与えることにした。

「お前こそ…ホントに初めてか?舌使いハンパないぞ…」
「んっ…愛だろ」
「そうか?まぁ、俺は他の女はどうとか、知らないけど…それにしても、あー。めっちゃ気持ちいい」
「残念だったな。お前に他の女を知る機会なんぞ、一生与える気はないから…んむ」
「なんら問題ねーな。よしよし」

頭を撫でてもらえると、よくできましたと褒めてもらえた気分になる。嬉しい。
気を良くして、限界まで咥え込む。
どうしたって、この小さな口の容量は多くない。故にコイツのブツの大きさはキャパオーバーかも知れない。
これで満足してもらえるかはわからないが…ならばせめてと、戻りのストロークは吸い付くように力を入れてみる。

バキュームフェラ、だっけ。
…あーあ。AVでなんか見たことあるけど、コレやってる時の女の顔ってブッサイクなんだよな…。

「っ!?お前それ、やばっ…!」
「あんまり、顔見るな…すげーブス顔になってると思うから…」
「バカ、全然ブスなんかじゃねーよ。頑張って咥えてくれてる光景見ると、愛されてるなって実感できるしさ。それがいい」
「うー…」

愛を込めているのは事実だし、それを見たいというなら仕方ない。
裏筋を舐めながら涼二を見上げる。気持ち良さげに目を細めていた。

「あ…我慢汁、出てる」
「ちょ、お前そんなもん舐めるなよ…不味いんじゃねーの?」
「うーん…?精神的に美味い」
「おいおい、要するに不味いってことだろ」

正直な味覚で言えば、確かに不味い。でも、俺の口で感じてくれている。女として、コイツの役に立てている。
その証であるこの味は、俺だけのものだ。もう他の誰にも絶対に譲らない、俺だけの涼二の味。だから、この味は一瞬で好きになった。

一生懸命奉仕すればするほど、汁が溢れ出てくるのが嬉しい。
それを自分の体内に取り込めば取り込むほど、こちらの興奮も止まらなくなってくる。
ショーツが吸収しきれなくなった愛液。それが太ももを伝って零れていくのが、わかるくらいに。

「…ぅ…、ひゃっ…!」

気が付いたら、左手が自分の股間に伸びていた。

「あ、あああ!き、きもちいい…っ!!」
「おい急にどうした…ってお前、エロすぎ…」
「だって、我慢…できね…!」

勿論フェラの口と手は緩めない。その片手間でショーツをずらして、秘部をなぞっているだけ。
なのに、フェラをしたことによって高まっていた興奮が、刺激を増す添加剤になっているかのようだった。

涼二への奉仕を疎かにしちゃいけない。その一心で、どうにか自分へ与える快感をコントロールしながら、舌を動かし続ける。

「ぐっ、お前のそんな姿見てたら…ちょっと、もう、イッちまいそうなんだけど…!」
「はぁ、あんっ…!ど、どーする?今、一発ヌいとくか…?お前のなら、飲んでも全然いいし…」
「それも魅力的だけど…また今度してもらうわ。今出しちまうと、何となく勿体ない気がする」
「…そっか、りょーかい」

名残惜しいが、最後に亀頭へ一つキスをして、口を離す。
手前味噌だが、初めてにしては上出来だったと思う。それに俺自身の心も、とても満たされる。正直、ごっくんしたい気持ちもあったけど…。
まぁ、フェラならいつでもしてやれる。ごっくんはその時でもいい。

口の周りの涎をティッシュで拭っていると、暑くなってきた…と言いながら、涼二が部屋着のパーカーとTシャツを脱いだ。つまり全裸だ。
余分な肉は殆どなく、ほんのり筋肉質な身体。改めて見ると、やっぱりコイツはスタイルがいい。一瞬、ぽけーっと見惚れてしまう。

さて、俺も濡れたショーツが気持ち悪い。それを脱…ごうと思って、思い出す。

「これ、ひもパンなんだけど…折角このために買ったからさ、脱がせてほしいかも…」
「おーやるやる!その紐を引っ張ればいいのか?」
「そう、ただの蝶結びだから…簡単に解けると思う」
「はいよ。んじゃ忍、こっち来い」

前に耳かきをしてやった時の逆、今度は涼二が自分の太股をぽんぽんと叩く。
やはり股間にそそり立つ立派なブツに目が行ってしまうが、今の目的はそこではない。
涼二の開いた脚の間に膝立ちになって、肩に手を置く。

「…両方、いっぺんにいくからな」
「ひ、一思いにやってくれ!」
「なんで俺が介錯してるみたいになってんだか…ほれ」
「っ!」

俺のバカな発言に苦笑い。俺もシリアスな雰囲気を維持できない女だった。人のことは言えないものだ。

そして涼二は、言葉通りあっさりと紐を解く。
ショーツが股下へ落ちた瞬間に、微妙な重みが伝わってきた。
普通に着用していたら有り得ない量の水分を含んでいることがわかる。
これで、お互い一糸纏わぬ姿だ。

「お?パイパンじゃないんだな。ちょっと意外」
「!?お前、生えてない方がいいの!?」
「いやいや、適度に生えてた方が興奮するぜ?このくらいが丁度いい」
「…なんかそれはそれで変態っぽいな」

涼二は「じゃあどーしろってんだよ」とまた苦笑して、陰毛を撫でた。
愛液を吸った毛束が涼二の指先に絡みつく。自分の身体のことなのに、不思議と淫猥に見えた。

「めちゃ濡れてんなぁ」
「………このくらい濡れてれば、もう『入る』と思うけど」
「そうなのか?」

流石に向こうも緊張している。
ごくり、と生唾を飲む音が聞こえた。

「じゃあ…するか」
「…おう」

キスをして、見つめ合いながら、ゆっくりと涼二が覆いかぶさってくる。
そして割れ目を指でなぞって、際限なく溢れ出る愛液をひとすくいした。
それだけでも気持ちいいというのに、そこから先、正気を保てる自信がない。

「…あ、そういやゴムねーんだった…」
「いらねぇ。それじゃ女体化防止にならんだろ」

コンドームなどの異物を介すると女体化の防止ができないというのは常識だ。
だから国営風俗も生が基本。プレイ前には外出しをするように注意があるそうだが、童貞相手ではどうしても暴発事故が起きる。
故に、風俗嬢はピルを常飲するのが義務付けられているそうな。

「中に出しちまいそうで怖いな…にょたっ娘って、妊娠しやすいんだろ?」

デキちゃったら責任とってくれる?
なんて、意地悪な質問をしようとしたが、やめた。聞くまでもないからだ。
そしてそんな未来にする気もない。俺たちは今までみたいに、無難に生きていければそれでいい。
学生らしく、普通の恋愛ができればそれでいい。―――俺はいつかコイツの嫁になるんだと、憧れを抱きながら。

「アフターピル持ってるから大丈夫…だけど、一応外出しで頼む」
「ぬぁー!緊張するぜ…!」
「俺も緊張してるから…一緒だ」

閉じていた脚を、開く。

「…いいよ、りょーじ」
「急速にしおらしくなるなよ。やり辛いから」
「うるせーぞバカ!」
「おう、それでいいんだよ」

脚の間に割って入ってきた涼二が、自分の性器を、俺のそれにあてがう。
これで彼我の距離はゼロ。ここから先に進むと、距離はマイナスになるんだろうか。

「えっと…どこだ、ここか?」
「多分、もうちょい下…微妙に窪んでるとこ…あ、そこだ」

なんて、定番のやり取りを交わして。

「痛かったら言えよ?」
「俺が痛がっても、絶対やめるな」
「…、お前がそう言うなら」

最後まで気遣ってくれるコイツの優しさに、感謝しながら。

「いくぞ」
「…っ!」

ぐっと、涼二が腰を押し突き出した。

「ーッッぎゃあああああーーっ!痛ってえええええッ!?」
「怖っ!想像以上の痛がり方だわこれ!?や、やめとくか!?」

めりめりめりっ!と、肉を引き裂かれる痛みを感じる。
少し甘く見ていた。身体が真っ二つになるくらい痛い。
垂れ流しの愛液によって、潤滑は十二分。摩擦による痛みは殆どないはずなのに。

「………。あー、やっぱ思ったより痛くないわー。むしろ全く痛くないわー」
「震え声で言っても説得力は欠片もねーぞ!」
「…ホントはちょっと、痛い。で、でも、やめないでくれ…!」
「素直に言え。そんなに痛がられると、俺も精神的にキツいんだけどな…」
「大丈夫だから…!ひぎっ…!」

耐える。
歯を食いしばって、掴んだ涼二の腕に爪を立てて、ひたすら耐える。耐える。耐える…ッ!


「血ぃ…出てねぇか…!?ぐっ、…!シーツ、汚れちまうから…拭いて…!」
「!?…っと」

涼二が慌ててティッシュを抜き取り、結合部に押し当てる。
それを捨てる際にちらりと見えたが、痛みの割に大量出血という程ではなかった。
次のティッシュを何枚か重ねて尻の下に敷いてもらう。ムードもクソもないが、取り敢えずはこれで良さそうだ。

「もう…全部入ったか…?」
「…いや、まだ半分も」
「ぐぇ、マジかよ…」
「つか、キツくて入んねぇ…お前ほどじゃないだろうけど、こっちも結構痛いぞ…」

いくらコイツのブツがデカくて、俺の身体が小さいとしても、半分程度で奥まで届くわけがない。
涼二の方も、気持ちいいとは正反対の、苦悶の表情を浮かべている。

これは本来、種を存続させるための神聖な儀式。
だから双方に痛みを伴うのは、対価としては当然なのかもしれない。

「止まんなっ…!全部入れろ、全部っ…!」
「でもさぁ…!やっぱお前、辛そうじゃねーか…」
「うるせー!お前の女になるからにはっ!この、くらいのことで…っ!」
「…わかった。もうちょっと我慢してくれ」
「…ん」

キスをして、頭を撫でてくれる。撫でられているというより頭を押さえ込まれている状態に近いが、それでも気力が沸いてくる。

涼二のベッドで、二人とも裸で、痛みを気遣ってもらいながら。
キスをしてもらって、頭を撫でててもらって。
まさに、理想の処女喪失じゃないか。文句を言う理由なんてどこにもない。

「ぎっ…!」
「頑張れ忍、もうちょいだぞ!」
「…はぁ、は…ぐううっ…余裕っ…!」

ぐいぐいと、膣を引き裂きながら入ってくるのがわかる。ぶっちゃけ、痛すぎて吐き気すら催している。
意識も飛びそうになってるわ、脂汗で前髪は張り付いてるわで、醜態を晒しているといって差し支えない。

…それでも、これは幸せな痛みだ。

「ぜ、全部入った…!」
「あ、うぅ…」
「頑張ったな!お疲れさん」

やがて涼二の嬉しそうな顔とともに、一番奥で俺たちは繋がった。
達成感を噛み締めながら、だらりと涼二の腕から手を離す。
すると、俺が力任せに握り締めていたところに赤い血が滲んでいるのが見えた。
少しでも女らしく見えるように、と願って伸ばした爪が見事に食い込んでしまっていたのだ。

「あ…お前も血ぃ出てる。ごめん、痛いだろ?」
「バカ、お前の方が痛いだろうよ。ちっと血が出たくらいじゃ、おあいこにもならねぇ」
「…発言がイケメンすぎて逆に違和感があるぞ」

身体の中に熱くて硬い異物感。されど、嫌悪感など微塵もない。幸せで胸が一杯だ。

今後は、この痛みもなく快感を味わえるという話だ。
それがどんなに素晴らしいことか、今はちょっと想像できないけど。
猿のように…なんていうくらい、ハマってしまうのかもな。

「お、俺ん中…どんな感じ?」
「…ヌルヌルしてて、あったかくて、柔らかいのに締めつけてくるな」
「ふーん…腰、動かしていいぞ?」

コイツはコイツで本当に頑張ってくれた。
痛がって身体を捩る俺を押さえ付けながら、どうにか気を紛らわせるように声を掛けたり抱き締めたり、あれこれ手を尽くしてくれて。
快感を感じる余裕などなかっただろう。

さて、ならばここからが本番だ。コイツに気持ち良くなってもらうまでが、俺の処女喪失だ。今、そう決めた。

「大丈夫か?まだ痛いんだろ。目的は果たせたわけだし、今日はこのまま終わってもいいぞ」

心配は有難いが、こちらはどうやら脳内麻薬が分泌されたようで、早くも痛みが和らいできている。
これも女体化者特有の現象だろうか?まだ少しばかりジンジンと痛むものの、これなら動かれても問題ない。

「ダメだ。折角だから気持ち良くなってほしいし。俺はもう平気だから…いやホントに。無理してるわけじゃなくさ」
「…そうか?なら、お言葉に甘えて」

おずおずと、奥まで入っていたブツを、抜ける直前まで引く。
そして、ゆっくり再挿入。多少通りが良くなった膣は、絶妙な力加減で締め付ける。

奥まで到達したら、また引いては入れての繰り返しだ。
そんな単純な動きなのに、膣内の壁を擦られていくうち、どんどん快感が込み上げてくる。

「あぅ、あぁっ…!」
「くっ、悪ぃ、痛いか?」
「ちが、気持ち…良くて…」
「お、おぉ…俺もだ」

真っ赤な顔で、トレードマークのつり目は垂れ下がり、だらしなく開いた口からは喘ぎ声。もしかしたら涎も垂れているかも知れない。
涼二から見たら今の俺は、きっとそんな状態だけど。

「あぁもう!可愛すぎるぞ、お前!」

俺の頬を撫でながら、そう言ってくれる。
こんなはしたない顔が可愛い筈がないのに、コイツには可愛く見えているんだろうか。
なら、もっとはしたなくなるのも…やぶさかじゃない。

全くこの身体はどうなっているのか、未だに愛液が溢れ出ているらしい。
ピストンを繰り返されるたびに、ぐちゅぐちゅと音が立つ。

最初のうちは「頑張って腰を振る涼二がなんか可愛いな」なんてぼんやりながらに考えていたのだが、今ではそんな余裕もない。
何かがどんどん高まっていくような感覚。それに伴って意識が白んでいく。
どこかに吹っ飛んでしまいそう…なんて、実際そんなわけがないのだが、どうにも不安になって必死にシーツを握り締める。

「はぅ…ああああ…これ、イきそ…イく…!」
「え、あ、マジか」
「~~~~~ッッッ!!」

一瞬、目の前が真っ白になった。
気持ちいい筈なのに、本当に気持ちいいのかもわからないくらい「何がなんだかわからない」状態だった。
深々と奥に突き刺されたままガクガクと身体が痙攣し、頭だけは妙にぼんやり。そんな状態が暫く続く。

ピークを超えた後は徐々に脱力感に見舞われていったが、その余韻がまた気持ち良かった。
涼二に気持ち良くなってもらおうと思っていたのに、俺が先に気持ち良くなってしまって申し訳ない。

しかしこれは…癖になる。毎日でもしたいと思ってしまうのも仕方がない。
性欲に溺れてしまいそうだ。

「お前、イったの?」
「あ…うん。初めてなのにイかされちゃった…はは」
「そりゃ良かった。くぅっ…俺もそろそろイきそうだ」
「あぁ…じゃあ、外で…」

出して、と言いかけたとき。
蕩けた意識の奥底から、何かが急速で湧き上がってきた。

―――涼二の精子が。子種が欲しい。

何を馬鹿な、さっきと考えていることが違う。こんなの、俺の思考じゃない。
僅かに残った理性で出所不明の意識を押さえ込もうとするが、
その理性すらウイルスに感染したかのように、次第に抵抗する気力がなくなってしまう。
まともな意識が、異常な意識に塗り替えられていく。

あぁ…そうか、これって、

「…あ………いやだ…!」
「はぁっ、は…何がだ!?」

本能…?

「…中で…出してほしい…!」
「何言って…っておい、脚離せ!何やってんだ!?」

言われて気が付いた。
いつの間にか涼二の腰に脚を回して、がっちりと固めている。気付いた後も、緩める気になんてならなかった。
全く自然に、精子を逃すまいと力が入る。

「大丈夫だって!ピルあるから…!」

小澤に貰ったアフターピルは、ある。けど、実はもう飲む気なんてない。だって…飲んだら孕めなくなるんだろう?
そんな考えにも、何の疑念も抱かなくなっていた。

「…今のお前、何か怪しいぞ。さっきと雰囲気が…」
「いーじゃん、中で出した方が絶対気持ちいいぞ」
「バカッ!腰を動かすなっての!」
「あはっ…ほらほらー、んっ…このままイっちゃえって…」
「やめろヤバいって!ぐっ…くそ…せい!」
「ひゃわっ!?あーっ!何しやがる!」

こちょこちょこちょ。
脇腹をくすぐられ、力が抜けた一瞬を涼二は見逃さず、腰を引き抜かれてしまった。
挿入前よりも更に膨張したブツから、途方もない量の精液が吐き出される。
俺だって男の頃に、こんな量を出したことはない。…女を相手にしたことはなかったから、本来こういうものなのかも知れないが。

「く…っ………はぁ…っ」

かなりの勢いを伴ったそれは、腹から胸、更に顔面にまで到達した。
鼻先に付着した精液。(俺にとっては)とてもいい匂いがするそれを、指先で絡めとって口へと運ぶ。
中に出してもらえなかったのは残念だが…まぁ、それはまたの機会に。
今日のところはこれを味わうだけに留めておこう。

「ふぅ…危ねぇ…とこだった…」
「りょーじの…味…中に欲しかったのに…」
「おーい、目ぇ覚ませ。美味くねぇだろ、それ」
「だからー…精神的に美味いんだってば」
「ちんちくりんのくせに、妙に妖艶だな…ほら、身体拭いてやるよ」

ティッシュで身体を拭って貰い、夢見心地でごろごろと喉を鳴らすように涼二へ擦り寄る。

大好きな人との初体験。凄く、良かった。
これはゴールじゃない。まだスタート地点に立っただけ。
次にセックスできる日が待ち遠しいな。明日?明後日?何なら俺は、今から第二ラウンドでも構わない。
あー、気持ち良かったぁー…。

「申し訳ありませんでした」

今、俺は土下座している。全裸で。
相手はパンツ一丁であぐらをかいて、腕を組んでいる涼二。

「…ビビったぜマジで。突然中に出せとか、だいしゅきホールドとか、ピルあるから大丈夫とか…お前あん時、絶対ピル飲む気なかっただろ」

ぎくっ。

「図星かよ!やれやれ…目が本気だったからな。誘惑に負けなくて良かったよ」
「だ、だって!急にそんな気分に…二重人格みたいな感じっていうか…!」

先程の行為が終わってから暫くは、いっぱしの女が事後にするかのように涼二に甘えていた。
少しずつ興奮が薄れていくにつれ、それまで抑圧されていた理性が回復して―――とんでもないことをした、と顔面蒼白になって。
そして今に至る。

あの時、急に湧き上がってきた感情。
あれは、やはり子孫を残すことを優先させる女体化者の本能だったに違いない。
賢者タイムとなった今、あの時の自分の言葉や一挙一動が、全く信じられないのだ。
悪霊に乗り移られた気分だ。記憶に残ってしまう分、よりタチが悪い。

もし本当に中に出されていたら、こうして冷静になった今、ピルを飲んだだろうか?
それとも、冷静になっても本能の部分は消えず、飲まなかっただろうか?
…恐ろしくて、試す気にもならない。

「次からは、絶対ゴム着けるからな。…穴、開けたりすんなよ」

呆れ顔で頭をぼりぼり掻いて、ごろりと横になってしまった。
うう、信用されてないのが悲しい。

「お詫びの言葉もございません…」
「まー、今回はもういいって。またしような」
「お、おうっ!次は、もっともっとサービスするから!他の体位とか、試してみたいし…恥ずかしい格好でも、俺は…」
「…ぐー」
「!?」

寝てるし!…ふぁ。俺も少し寝させてもらうかな。
あ、その前に報告のメールを典子に…いや、いつものメンツに一斉送信でいいか。内容は…そうだな。手短に。
今日から、涼二の彼女です。…っと。



…その後、一斉に返ってきた返信にてんやわんやして、寝るどころではなくなってしまうのだった。

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最終更新:2012年12月07日 01:16
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