先日、俺は女体化した。制服や私服などは母さんに手伝ってもらい揃えたが、まだ買ってないものがあるのについ先程気がついた。
それは水着だ。
夏休みに海やプールに行くだろうし、そのための水着を買うために俺はスポーツショップに行く事にしたんだが……
「おい水瀬、このビキニとかどうだ?絶対似合うぞ。着てくれ、いや着ろ!」
「いーや、女体化したオレから言わせてもらうと水瀬にはハイレグが似合うはずだ。ハイレグ水瀬ちゃん……うへへ。」
なんでこいつらと会ってしまったのか…………
最初に発言し、俺にビキニを勧めてきた馬鹿が田島、俺にハイレグを勧めた女体化済みの変態バカが沖浦だ。
ちなみに二人とも俺と同じクラス。なんやかんやで付き合いは長く、友人や親友というよりは悪友と言うほうが正しいだろう。
こいつらと会ったのは本当に偶然だった。おれが水着を買おうと水着コーナーに行ったらちょうど二人がいた。ただそれだけだった。で、面白そうだから俺の水着を探そうという話になり、今一緒に行動している。
「るっせーな。だいたいお前ら自分の水着はどうしたんだよ。」
少しイライラする。人が女体化して大変だというのにのんきなもんだ。
「「もう買った。オレらがさっき見てたのは水瀬にプレゼントしようと思ってたやつ。」」
声を揃えて二人が返事をした。ああ、そう………………
とにかくさっさと水着を買って帰りたいが、種類が多すぎる。男の時はトランクスタイプのを選べばそれで終わりだったが女性用となると種類が多すぎて何を選べばいいのかわからない。俺は結構な時間その場に立ち尽くしていた。
「もしかしてなに買えばいいのかわかんねーの?」
図星で何も言えない。
まさか定期テストの順位が下から50位の田島に見抜かれるなんて。
「だからオレらが選んでやるっていったのに。ほら、さっきはふざけてわるかったよ。水瀬も女体化したてで色々不安だよな。」
「そうそう。困った時はもっと俺らを頼ったってれいいんだぞ?長い付き合いなんだしな。」
「沖浦……田島…………」
少しだけ涙腺が緩む。
女体化してから忙しくて今まで気がつかなかったが俺はたしかに不安でイライラしていた。今までとまったくちがう身体、今まで親しかった人とどうやって接すればいいのか、不安の種なんてたくさんある。もしかしたら二人は俺を不安にさせまいと最初はふざけたのではないかとさえ思えてきた。
「…………ありがとな。気遣ってくれて。じゃあ、頼むよ。なんか沖浦のオススメとかないのか?」
そこからは順調だった。沖浦が適当にいくつか水着を選んで、田島がたまに茶化す。
「じゃあ俺これにするわ。」
結局、俺は白のタンクトップとジーパンが短くなったようなセットの水着を買った。沖浦曰く、俺にはこんなのが似合うらしい。
だが、よくよく考えるとこれがこの二人のバカの計画に気がつく最後のチャンスだったんだろう。俺はこの水着を買うと決めた時のバカ共のニヤケ顔の意味に気がつくことができなかった。
俺は『白』という色の特徴を完全に忘れていた。それに気がつくのは一ヶ月後の海水浴の日、しかも帰る直前になる。
「じゃあ俺これにするわ。」
よっしゃああああ!!!計画成功きたああああ!!!!
今思えば、なかなか大変な計画だった…………!
水瀬が女体化したと聞き、オレと田島は水着を買いに走った。すべては水着を恥ずかしい格好をさせるために…………!
ちなみ女体化したとはいえ女に対する興味は失っていない。どちらかというとバイになった。
当初は水瀬に内緒でかなり大胆なものを買ってプレゼントして無理やり着せるつもりだった。
だが、ここで水瀬を発見したのでオレたちは計画を変更した。
水瀬が女体化して不安になっているところをうまく言いくるめて、できればビキニやハイレグ、無理ならサポーターなしでは透ける白い水着を買わせることにした。
オレも女体化経験者なので女体化して不安な気持ちはよくわかる。
水瀬を騙すようで悪い気もするが、すべてはエロのためだ。許せ。
それにこっそり透け防止のサポーター、もしくは別の水着を買って海やプールに行く当日にそれをもっていき、水瀬が透けていることに気がついた瞬間にそれを渡せば問題はあんまりないはずだ。多分。
「うん、じゃあさっさとそれを買って来い。これで貸し一つな。」
「おう。……ところで何でお前らニヤけてるんだ?ぶっちゃけキモいぞ。まあいいや、買ってくるからそこでまっててくれ。」
どうやらニヤけていたらしい。だが気にならない。これから起こる出来事を想像すればキモいと言れるくらいなんだというのだ。
レジの方へ向かい小さくなる水瀬の背中を見送り、田島と目を合わせ、ハイタッチをする。
「よっしゃあ!ナイス沖浦ぁ!」
「お前もな!これであとは待つだけだ!!」
「いやー、もう待ちきれねえわ!考えてみろよ!女体化して一ヶ月ちょいの元男が恥じらいを憶えつつも慣れない水着を着て何か周囲の視線を感じると思ったら水着が透けててあんなところやそんなところとかがスケスケだぜ!?もう想像するだけでたまんねえよ!」
喜びを噛みしめるオレと田島。
だが、オレらはまだ気がついていない。
水瀬はバカではない。だが、にぶい。鈍感というか、天然なのかもしれない。
他人の目を気にせず、水着が透けていることに気がつくのが帰る直前だなんてオレら二人は夢にも思っていなかった。
<おわり続きとか多分ないです>
最終更新:2014年04月19日 14:48