USS 小説01


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付与魔術を覚えよう01  ... 著 / 優有


牛の神は運命をコイントスで決める。
どこの町でも必ず耳にする言葉だが、誰の言い出した言葉なのかは
誰も知らない。

「生と死はコインの表裏」
投げたコインをスライスして自らの道を選んだと言う剣豪。
「投げられたコインは奪えって事さ」
そう言って眠っていた秘宝を探しに行った盗賊。
「如何なる迷いも実は二択なのです」
と人生の指針を語る高司祭。
「裏を表にするのが最初であり全て」
魔術を極めた者が弟子に語った教え。
伝えられ方は町によって違うが、誰もがこの言葉を知っている。
だが、何故牛の神なのかを知る者はいない。

僧侶とか司祭とかは神に祈ってるのだから、牛の神について知って
るんじゃないか? と思って同じ村の僧侶さんに聞いてみたこともある。
「牛の神様? どこかの土着神でしょうね。神様は獣の混じらない
御姿ですから」
そう言った僧侶さんのウサギ耳はピンと立っていた。

誰も見たことのない神様の姿だけど、獣の耳も尾もないなんて気持
ち悪いと思ってしまう。
でも神様が実在していることは誰もが認めている。もちろん僕も。

神様はこの世界の外から僕たちに宝物を送ってくれる。
でもこの世界には悪い神様がいて、そいつが宝物をダンジョンの奥
に埋めてしまう。
その悪い神様が牛神なんじゃないかと言う人もいる。
でも宝物を埋めるのは牛じゃなくて犬の習慣だから、僕は違うと思
う。
とにかくこの世界には神様がいて、悪い神様もいる。

そのおかげで、この世界にはあちこちにダンジョンが溢れている。
国やギルドが管理しているけれど、ダンジョンの数はなかなか減ら
ないらしい。

そう、ダンジョンは減る。

もちろん増えることも多いけれど、探索者たちの活躍で減ることも
少なくない。
ダンジョンは悪い神様が宝物を隠すために創ったのものだから、宝
物を見つけられると消えるんだ。
ダンジョンが消えると住んでいた魔物達も消えて、獣人は外に出さ
れる。不思議だけど、これも神様の加護らしい。
そして、巨大なダンジョンから宝物を手に入れた探索者は歴史に名
を残している。

そんな大それた野心を持っている訳では無かったのだけど、僕もダ
ンジョンに行ったことがある。
どこの村にも噂であるような、子供が遠くに行かないように語られ
る寝物語のような。
僕は実際にあるとは思って無かったのだけれど。

行くなと言われれば行くし、無いと言われたら探しに行く。
それは子供の特権だと思うんだ。

そんなリーダーの言葉に唆されてダンジョンに来てしまった。今で
は皆が、怯えて泣きじゃくっている。
リーダーは足を挫いて動けないし、連れて来られた二人も腰を抜か
している。
ダンジョンなんか嘘だと思っていたから、魔物なんか居ないと思っ
ていた。

僕は周りの皆が早々に泣きじゃくってしまったので泣くタイミング
が無くなって、現実逃避していたんだ。
コイントスとか牛の神とか、ダンジョンで魔物に追い詰められた僕
たちには何の意味も無い。
牛の神がいてもいなくても、目の前にいる魔物の群れは僕たちには
どうしようもない。
逃げ道はなくて居場所もなくて、皆と魔物の間で呆然としている僕。

コイントスしたら神様が助けてくれるかな?
でも僕はコインを持って無いから、ここで死んじゃうのかな。

緑の肌の魔物が、僕に飛びかかってくる。あの歪んだナイフで刺さ
れたら、きっと凄く痛いんだ。

やだよ。死にたくないよ。
叫んだけど、多分誰にも聞こえなかった。

ダンジョン全体を揺らすような爆発。
魔物だったものが降りかかって、僕は皆の上に吹き飛ばされて。
なにがなんだかわからないまま、泣きじゃくる皆にしがみつかれて。
あぁ、僕は死んじゃうんだな。
そう思ってたんだ。
でもそんな僕を抱え上げて、その人は言ったんだ。

「良い探索者になるよ」
と。
僕の耳をモフモフしながら。


村に帰った僕らは凄く怒られたけれど、物凄く安心した。
正座させられてお説教をされて、皆凄く凹んでいた。
僕らを肴に、探索者の人たちがお酒を飲んでいたけれど、僕は全く
怒る気も反省もしてなかった。
後ろから会話が聞こえていたから。

「この子は魔術師に向いてるね。無意識だろうけど、防御力を上げ
る魔術を使っていたよ」
「この歳で無詠唱で、か?」
「死に直面して才能が開花したのかもね」
「防御力増幅ってことは、【プロレスの美学】か? また珍しい物
を」

褒められているのが嬉しくて、にやけてしまった僕にゲンコツが落
ちた。
もの凄く痛かった。

僕のダンジョン探索はそれが最初。
探索者になることを夢見るようになったのは、やっぱりそれがきっ
かけだと思う。
魔術の勉強は村では出来なかったため、僕は村を出てヴォダースカ
ヤの街へと旅を続けて来た。
そして今やっと。
探索者登録をするためにギルドでギフトチェックをして貰っている。
ここに来るまで、本当に長かったんだよ。省くけど。


希望に満ちた僕の笑顔は、ギルドのお姉さんの笑顔で凍りついた。

「あんた、何の才能も無いわ」

…あ、あれ?



今回の付与魔術


【プロレスの美学】
(ディフェンスアップ)

効果:対象の防御力を一時的に増幅する。
詠唱:「最強の一撃を打ってこい。それに耐えてこそ【プロレスの美学】」
代価:効果が消えてから最初に術者が受けるダメージが防御力を増幅した分増幅。