USS 小説13


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

付与魔術を覚えよう13  ... 著 / 優有


依頼を達成した彼らは、報酬を分けるために酒場で
同じテーブルについて食事をしていた。
晩飯には少し早めだが、すでに飲み始めている客もいる。
バーカウンターのような店ではなく、大衆居酒屋だ。
客層も冒険者よりも地元の住人が多いように見える。

「あー、疲れた」
酒をのみ、こぼしたのは鹿の獣人だ。
狐娘から回復魔術を受けて体力は回復したのだが、
疲労感までは回復していない。
猪を埋葬し革鎧を修復。街まで歩き積荷を降ろしたのだから、
多少なり皆に疲れの色が見える。

「いやぁ、労働の後の一杯は実に美味いっ!」
一番動き回っていたはずの者は全く疲れた様子もないが。

食事を済ませ酒を飲みながら、今日はもうこの街で宿を取ろうかと考え始めた頃、
テーブルに硬貨の入った袋が置かれた。
「さて、そろそろ報酬の分配をいたしましょうか」
皆がひと心地ついたのを確認し、狐娘が預かった袋から報酬を取り出す。

この店を選んだのは冒険者が少なく、金を見られてもトラブルが起きにくいためだ。
タチの悪い冒険者の場合、金を見たら奪うか盗むかを考え、実行する際は躊躇がない。
一般人にもそうした考えを持つ者もいるが、冒険者相手に行動に移す者は稀だ。

今回、商人から直接受け取った報酬は25st。
個人の依頼であることを考えれば、高額な部類に入る。
五人で頭割すれば、2日分には足りないが1日分の宿代と食事なら余裕。そのくらいの報酬だ。
実際には依頼が冒険者の宿に出された時に、前金が預けられている。
それも含めると2日暮らすだけの金額に足りる。
そんな金額が目の前にあるため、彼らは割とのんびりと過ごしていた。

「私が15st、猫の方とお姉様が残りを折半ですわね」
迷いなく半分以上を自分の懐に入れようとする。異をとなえたのは鹿の獣人だ。
「バカかテメェは? どういう計算すりゃ、そうなるんだよ?」
「バッ…貴方の治療費を差し引いたのです。それくらい覚えておいてくださいません?」
バカ呼ばわりされたことが不快だったらしく、睨むように返す。
「ふざけんな、アニキの報酬は関係ねぇだろが」
「貴方の分だけでは不足ですのよ? 馬の方が支払うのが筋でしょう」
「ん? 呼んだかね?」

いつからか隣の客と話し込んでいた彼も、自分が話題に上がったことに気づいて戻ってきた。
「アニキ、このクソ小悪魔、ろくでもねぇぞ」
「…鹿の方のおつむが弱くて…なんですの、それ?」
悪態に返そうとしたが、突っ込まずにいられなかったのだろう。
隣の客と話していたのには気づいていたが、貰ったらしき奇妙な物に意識が向く。

何故か彼の手には、引きちぎられたようなカーペットの切れ端があった。

「またか、アニキ?」
「また?」
パーティがテーブルに揃ったことで、1人食事を楽しんでいた白熊娘も会話に混ざる。
「腰みのの時もそうだが、アニキは何故か物を貰って飯を奢られることがよくあるんだよ」
「…そんなバカなこと、あるわけが」

彼女にしてみれば、赤の他人に無償で施しを行うなど、常識外の出来事だ。
少なくとも彼女自身には与える側の思考が全く考えつかない。
食事前には一般人がいたはずだが、食事の間に入れ替わっていたらしく、
一目で同業者とわかる者たちが軽く会釈をしてきた。
下心や企みが無いかと疑いの眼差しを向け、狐娘は彼らの反応を伺う。

彼らにしてみれば、ダンジョン踏破の報酬が支払われたことで懐が潤ったのが奢る理由だから、
特に後ろめたいことは無い。
何度捨てても戻ってくるアイテムを処分出来るお礼も兼ねているため、
若干気まずそうでもあるが。

「そうせざるを得ない理由があるのだよ、小悪魔さん。常宿以外でも、
初対面でも讃えずにはいられない。そう! それは私がカリスゥマだから!」
「殴る」
興が乗ってきたのか、声が大きくなりテーブルに上がろうとした彼を白熊娘の一言が凍らせる。

同じことをしていて、頭が吹き飛んだと思う程の目にあったのは昨日のことだ。
流石の彼も忘れてはいなかったようで、おとなしく椅子に座りなおす。

「は…ははっ、食事の場で騒ぐのはよく無いなっ。仲良くしようじゃないかっ」
顔は青いし足も震えているが、それでも親しげに白熊娘の肩を叩き、笑顔を向ける。

あまり必要以上に関わっても、ろくな目に合わないと察したのだろう。
隣の冒険者たちが少し距離を開けているが。

「はぁ…もういいですわ。交渉ありきで考えたのが、そもそもの間違いでしたわね」
「あ? 交渉? まだなんか企んでんのかテメェ?」
腰を浮かせた鹿の獣人を白熊娘が睨みつけ、睨み合いになる。
「この五人で正式にパーティを組むのなら、治療費は無かったことにいたしましょう」
「よし、わかった」
「え」
「即答かよアニキ!?」
だが予想外の方向に飛んだ話があっさり完結させられてしまい、
睨み合いもうやむやになった。
戸惑っている白熊娘や、真意を探ろうとする鹿の獣人の様子を全く気に止めず、
あっさり承諾を返して皆のグラスに酒を注ぐ。
「パーティ結成を祝して乾杯といこう。
ほら、君も本を読んでないで乾杯しようではないか」

ここまで周りで騒いでいるのに、参加しなかった猫の獣人へとグラスを渡す。
「え? あ、でも…僕は役に立ちませんし」

今回の依頼に対して、彼はなんの役にも立っていない。
馬車に付与魔術は使わせて貰えず、積荷を持ち上げるには腕力が無かった。
襲撃中はただ立ち尽くし、猪を埋葬する手伝いも出来ていない。

僕に出来たのは、足手まといにならなかったことだけ。

彼自身はそう思っていたが、
「アネキがいなきゃ俺は鎧ダメにしてたぜ?」
「もう少し、ご自身の価値をご理解なさいな」
「少女よ、お互いが出来ることを頑張るのがパーティなのだよ。遠慮はいらないさっ」
「よしよし」
彼らにとって、そんなことは問題ではないらしい。
「うゅゅゅわわぁぁめてぇぇぇ」
白熊娘に撫でられ、頭が振り回されて変な声が出る。
女性扱いと撫でるのをやめて欲しいと思いながらも、彼はどこか嬉しそうだった。




今回の付与魔術


【いいからちょっと黙ろうか】
(サイレンス・オブ・キエティスム)

素材:楽器など音を立てる用途の物。
効果:施術者を中心に一定範囲で音が発生しなくなる。
   施術素材を移動すると効果が消える。
詠唱:「どいつもこいつもグダグダと。【いいからちょっと黙ろうか】」
代価:効果終了後に最初に発生した音は数倍の音量となり周辺に響きわたる。