USS 小説15


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付与魔術を覚えよう15  ... 著 / 優有


ヴォダースカヤに戻るついでに護衛依頼でも探しておこう。
そう決めた彼らだが、急ぐ理由がないため、
のんびりと見慣れない街を散策していた。
途中で冒険者の宿や探索者ギルドがあれば寄れば良いだろうと思いながら、
露天を冷やかしている。
「いやー、朝から食ったなぁ」
「満腹」
宿の朝食を目一杯食べて上機嫌な二人は、
それでも商品よりも食品に目が向いている。
職人の手による物か、装飾品などを扱う店には狐娘が。
書籍や巻物などを扱う店には猫の獣人が、
それぞれ店員と話し込んでいる。
馬の獣人は商品には興味がないのか、
道行く人々に声をかけ、ふらふらとしている。

店が開いて間もない時間だが、
それなりに客たちが集まっている。
店舗と違い露天商の場合は営業時間が定まらない。
今日ある店が明日には別の店になっていることもあるし、
同じ店でも同じ商品があるとは限らない。
大抵の場合は日用品や食料品を扱う店が多く、
売り手もそれらの職人や農家などが多い。
当然、商売が本業ではないため、
売買価格や量などは安定しない。
気分と客で値段を決めているようなものだ。
そして今日の露天商には機嫌の悪い者が多く、
商品も少ないようだった。

「オメェにゃ関係ねぇだろ」
「うるせぇ。帰れ」
「余計なお世話だよ」
どうやら馬の獣人は露天商と客が喧嘩になりそうなところに首を突っ込んでは、
追い払われているようだ。

「なんでこんなに高いんですか?」
通常の3倍以上の値段を言われて、猫の獣人が首を傾げる。
「食い物を買い占めた奴がいたせいで品薄なんだよ」
この街の住人ではない彼らには気付けなかったが、
露天商の数は普段よりも遥かに少ない。
特に食品を扱う店は、普段の半分もない。
そのため、残った食品店に客が集中して物価を引き上げていた。
ただ、中には書籍の値段を便乗して値上げしている、
この商人のような者もいるようだが。

「買い占め? そんなにたくさん?」
状況説明を受けたことで疑問は更に深くなる。
買われたのは相当な量になるだろう。
まるで軍の遠征でもあるような量だ。
「あ、もしかして、ダンジョン探索?」
彼にはこの街から戦争に行くような先は思いつかなかったが、
別の可能性に思い至る。
「あぁ。なんとか言う貴族がダンジョン踏破するんだと。迷惑なもんだよ」

貴族が荒事に関わると、影響は大きくなる。
体面のために事を大きくしたり、顕示欲で金を使ったり、
プライドのために他者を犠牲にすることもある。
つまり、大体ロクなことにならない。

聞くと、やはりヴォダースカヤとこの街を繋ぐ街道付近に、
ダンジョンが見つかったらしい。
その調査を行った結果、冒険者では手に余ると判断されたようだ。

街の外にできるダンジョンは人目につく機会が少ないため、
巨大化していることがある。
比例して魔物の量が増えやすく、危険性は高くなる。
少人数でダンジョンの核を破壊する手段が取れるなら冒険者や探索者に対応が回る。
しかし今回のダンジョンでは無理だと判断されたのだろう。

「では街道が封鎖されているのかね?」
「いや、むしろ素通りになってる。
代わりにその貴族が余計なことをしてるがな」
馬の獣人の問いを露天商が否定する。

街の周辺でダンジョンが発生した場合、
緊急避難のために関所が解放されることがある。
魔物がそこまで来ないことが前提にはなるが、
避難者を足止めして余計な死傷者を増やさないための措置だ。
こうした判断は請け負った貴族に委ねられる。
私兵団などの移動を楽にする意図もあるが、
その際には関所に私兵団が一部駐留するのが基本だ。

「? 昨日は何も無かったですよ?」
「昨日まで食品を買い占めて、今日から踏破に向かってんだと。
今朝に外から帰ってきた奴が貴族の犠牲になったって愚痴ってたよ」
「…悪い予感しかしませんわね。出発を延期いたしません?」
立ち止まって話し込んでいた彼らに、二人を連れて来た狐娘が提案する。

買い食い交渉が恫喝に変わったのを見て連れ戻したためか、若干疲労の色が滲んでいた。
当の二人は抓られた耳を抑え、反省せずに不貞腐れているが。

「いや、最愛の人を待たせているからね。すぐにでも帰ろう」
「待ってないと思いますわよ…?」
「小悪魔さんにはわからないかもしれないが、
彼女の笑顔を見れるなら待っているかどうかなど些細なことなのだよ」
「破綻した理屈は理解しようがありませんわよ」

二人とも同じ人物の笑顔を思う。
だが狐娘には出がけに一服盛ったウェイトレスの、
ニヤリとした笑顔しか思い出せ無かった。

冒険者の宿と探索者ギルドの場所を露天商に確認し、通りを外れる。
裏路地にも数人の露天商がいるが、やる気も品も少なそうだ。
遊ぶ子供や洗濯物を干している主婦などの合間を縫い、
別の通りへと抜ける。
関所のほうが近くにあったため、少しそちらの様子を見ると、
確かに貴族お抱えの私兵団が待機していた。
その様子を見た彼が、
「なんで豚が木の上に?」
と疑問を持ったが口には出さなかった。




今回の付与魔術


【宿題を写させて】
(オート・マニュスクリプト)

素材:白紙の書籍や巻物。転写対象の絵や文章。
効果:白紙の書籍や巻物に絵や文章などを転写する。
詠唱:「もう時間が無いんだ! 頼むから【宿題を写させて】!」
代価:原本のシミや汚れなども転写される。たまに文字化けしたり、
   色調が変化する事がある。施術者の力量が不足していると
   転写位置がズレたり抜けが出る事がある。



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